《Princess☆Strike!》日文游戏原案
この日は日曜日だった。

週に1度必ず訪れる、学生にとって天国のようなウィークエンド。

いつもより遅めに目覚めて、起きた時に休みであることの幸せを噛み締め。

平日昼間のバラエティ番組をまとめた増刊号を観て。

ネットして、ゲームして、昼寝して、とても怠惰な時間を過ごしたその後。

夜には週末が終わってしまったことを嘆き、明日からの登校を憂う――

そんなごく普通の日曜日になる。

――はずだった。

この日曜日だけは――何故か、バカでかいオープンカーの後部座席に載る俺の姿があった。

似合いもしない豪奢な服を着こんだ俺は、沿道に並ぶ人たちに不恰好に手を振る。

女性,「アタル様ーッ!」

見覚えのない女性の黄色い声が俺の名を呼ぶ。

皆は国旗を片手に、そんな不恰好の俺を口々に祝福してくれていた。

柴田,「ほら、アタル様、声をかけられていますよ。手を振って返してはいかがですか?」

アタル,「う、うん……は、はは……」

声の聞こえた方に向かって、とりあえず手を振ってみるけど、ひきつった笑いしか浮かばねぇ。

こんなひきつった顔が『アタル様スマイル』とか呼ばれちゃうのか? 明日の新聞の一面を飾るのか? この俺が?

そんな馬鹿な……悪い夢なら、今すぐ覚めてくれていいんだぞ?

ほんの数時間前までは、ごくごく平々凡々な一般市民だった。

男性,「新王誕生バンザーイ! 国枝アタル王、バンザーイ!」

でも、今は王様。

俺こと国枝アタルは――

このニッポンの王様に、なってしまったのだ――

ゆっくりと目を開け、広がったのは光景は、見慣れたいつもの自分の部屋の天井。自分の部屋。

――よもやこの天井を見るのが、今日で最後になるだとは、この時は予想もしていなかったのだが――

時計を見ると、7時ちょっと前。

日曜日だってのに……何の予感だか知らないが。ずいぶん早く目が覚めちゃったな。

別に朝の戦隊モノやら変身ヒーローやらプリティな魔法少女やらを観る習慣はない。

……寝直すとするかな。今日は命の洗濯日、花の日曜日。

いつもは俺を起こしに来る親も、世話焼き幼なじみも、今日ばかりは定休日だ。

俺はもう一度、布団をかぶり直す。

……ん?

……ずいぶん遠くの空が騒がしい。

かぶった布団の防音機能なんて役に立たないレベルの騒音公害だ。

花火か? お知らせの空砲だろうか。どこかの学校が運動会でもやるんだろうか。

――にしては、騒がしすぎる。

近隣住民からの苦情がいくのも、そう遠い話じゃないだろう。

確かに運動会をやってもおかしくない時期ではあるけれど、回覧板や街のポスターにそんなお知らせはなかったはず。

しいて今、盛り上がっている話といえば、新国王の抽選くらいだ。

いいから、俺をおとなしく寝かせてくれよ。

――しかし、そのささやかな、実に小市民的な願いは叶うことなく。

続いて俺の睡眠を妨害したのは、ドアチャイムの音だった。

秒間16連打も越えんばかりだ。

ピンポンダッシュにしちゃ、随分とアグレッシブな攻撃。

こんな早朝から誰だ。宗教の勧誘か。選挙の投票のお願いか。はたまたゲーム名人か。

今、親はいないし、宗教には微塵の興味もないし、俺にはまだ選挙権もないから、そんな勧誘は無駄だ!

まぁ、仮にゲーム名人だったら、サインでもねだろう。

???,「おじゃましまーす!」

階段を駆け登ってくる音。最近の勧誘はアグレッシブだな、無許可で人の家にあがりこんでくるか。

#textbox Khi0290,name
???,「アタルくん、アタルくーんっ!大変、大変だよ、起きて、起きてっ!」

アタル,「起きてるよ、おはよう、ヒヨ」

ヒヨ,「あ、あれっ? おはよう……アタルくん……早かったんだね」

顔を覗かせた少女は、宗教の勧誘などではなく、俺の幼なじみだった。

幼い頃からの愛称はヒヨ。本名、西御門ひよこ(にしみかど・ひよこ)。

もちろん、闖入者が彼女であることはわかっていた。彼女じゃなければ、もっと慌てていた。

『はじめての国家権力への通報』のお世話になっていたに違いない。

アタル,「まぁな。これだけうるさければ、目も覚めるって」

アタル,「んで、俺の幼なじみ様は、こんな早朝から何の用で?」

合鍵を持ってるからって、男の家に踏み込んでくるのはあまり感心しないぞ。ものすごく今更なんだけど。

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ひよこ,「あっ! そ、そうそう、そうだよ!アタルくん、戦争! 戦争だよ! 今すぐ逃げなきゃ!防空壕だよ! 地下シェルターだよぉ!」

アタル,「戦争……? いや、ヒヨ、俺はお前が何を言ってるのか……」

ひよこ,「いいから、これ、被って、ね! 音を立てないように、目立たないようにするんだよっ」

慌てふためいているヒヨが、俺に手渡したのは。

アタル,「なにこれ、座布団……?」

真ん中でパカッと開閉して、その間に頭を差し込んで、かぶって使用する……ああ、これなんていったっけ。

……そう、防災頭巾。

ああ、小学生の時は、こんなの使ってたっけなぁ……小学校卒業ぶりに目にした。

アタル,「ヒヨ、家にこんなの残してたのか。もしかして、ヒヨの家だけ、戦時中で時間が止まってるのか?」

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ひよこ,「備えあれば嬉しいなっ♪ だよ!ねっ、アタルくん、早く逃げよ!」

アタル,「うん、面倒だから、間違ってることは突っ込まないぞ」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「早くそれ被って、避難場所に、えっと、こういう時って近くの学校でいいんだよね!? 公園!? どっちが近いかな!?」

どうやらこの辺りで一度、錯乱気味のヒヨを止めた方が良さそうだ。

アタル,「はいしどうどう、そろそろ落ち着いとけ、ヒヨ。一体どうしたんだよ」

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ひよこ,「どうしたも、こうしたもないよっ。向こうの方でスッゴいことになってるんだよっ」

アタル,「向こうの方で、スゴい?」

ヒヨは隣の家を指差す。

アタル,「……ヒヨの家がどうかしたのか?火事があったり、倒壊した様には見えないが」

指をさした隣の家は、この血相を変えている幼なじみの家、西御門家だ。

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ひよこ,「私の家じゃないよぉ。もっと向こうの……うーん、ここからじゃ見えないけどっ、けどっ」

家を何度も何度も指差す。

家を越えた、もっともっと向こうの方が凄いことになってるんだよっ! と伝えたいのだろう。

とりあえず、一生懸命さだけは伝わってきた。

#textbox Khi0280,name
ひよこ,「すごいんだってば! 空でね、飛行機と飛行機がね! こう、ぼかーんぼかーんって――」

アタル,「おおっ!?」

ヒヨの声と身振り手振りに合わせて、一際大きな音が鳴り響いた。

確かに今の音は、近い。

花火などではない、爆発だ。

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「ねっ、ねっ!?」

アタル,「お、おぅ……確かに、ただごとじゃないみたいだな」

…………

……

???,「姫様、目標地点を発見いたしました。これより降下いたします」

???,「OK、エリ、やっちゃってちょうだいっ!」

エリ,「了解! 降下作戦、開始いたします!」

…………

……

???,「セーラさーん、お家に照準を合わせましたよー。さ、行っきますよーっ!」

セーラ,「ああ、ついにお目にかかれるんですね……私の愛しの人……アサリさん、お願いしま~す!」

アサリ,「発射ー!」

…………

……

何ひとつとして現状が把握できないまま、俺が布団から重い腰をあげようとしたその瞬間だった。

???,「あぁあぁああぁぁぁいっ!」

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ひよこ,「んゅ? アタルくん何か言った?」

アタル,「いや、何も言ってないぞ」

???,「きゃぁぁああぁぁぁんっ!」

アタル,「……んんっ? 女の声だな?ヒヨは何も言ってないよな?」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「言ってないよ。でも、確かに女の人の声だね?」

聞こえてきたのは……上の方から……。

上?

ひよこと俺が天井を見上げたのと――

???,「「ふらあぁあぁぁあぁぁいっ!」」

ズッドオォオォォンッ!

とてつもない破壊音が聞こえたのは、どっちが早かっただろうか!

アタル,「どぅわぁあぁぁぁっ!?」

#textbox khi0290,name
ひよこ,「ひゃあぁっ!?」

天井から鳴り響いた轟音とともに、視界は白い煙に彩られる。

視界はゼロ。一寸先は白き闇。

その白い視界の中で、空から一条の光が神々しく差し込んでいる。

アタル,「ゴッ、ゴホッ!? な、なんだぁ……っ!」

一体、何が起きた。

この唐突な事態に、俺の情報処理能力は理解できていない。

もしかして、ミサイルがウチの屋根に着弾して、俺の部屋の屋根が吹っ飛んだのか!?

ウチの親、ローンとかまだ残ってんじゃないの?こういう緊急事態に保険とか適用できんの?

――徐々に白く煙った視界が晴れてゆく。

アタル,「……ん?」

白一色だった世界から浮かび上がってくるのは、ヒヨではない、何者かのシルエット。

アタル,「ひぃっ……!?」

突然現れたその未知の姿に恐怖し、逃げようとしたものの、かけ布団を跳ね除けることができない。

その闖入者によって、上から押さえつけられているらしい。

もしや、このニッポンを制圧しようとしている敵の軍隊!?

そうか、さっきまでのヒヨの話を信じるなら、ミサイルや戦闘機が迫っていたんだ。

ニッポンに王不在の隙をついて、ニッポンの敵対国が攻めこんできた……とか、考えられなくない!

――とまぁ、この間、数秒。

???,「けほっ、けほっ……ちょっとやりすぎちゃったかしら」

???,「もう……いささか乱暴すぎではありませんか?」

聞こえてきたのは、予想に激しく反した鈴の鳴るような女の子の声だった。

アタル,「へ……?」

???,「アサリさーん、この煙、なんとかなりませんか~?」

#textbox kas0120,name
アサリ,「はーい、お任せくださいませー」

アタル,「うおっ!?」

部屋の中だというのに、一陣の風が吹き抜ける。

視界がクリアになり――

结束
俺の目の前には、2人の女の子がいた。

まったく見覚えのない女の子。片方はツインテ、片方は……ボイン(死語)。

ご覧の通りの、ニッポン人離れした容姿、髪の色……確実に外国人だ。

ツインテ,「おはよう、アタル。お目覚めはいかが?」

ボイン,「お初にお目にかかります、アタル様♪」

そして、彼女たちはまたもや俺の予想外に、極めて流暢なニッポン語で、俺の名前を口にした。

アタル,「……ふー、あー、ゆー?」

それに対して俺は、ひらがな発音の英語で彼女たちに問う。

ツインテ,「あれ? アタルは知らないの?」

アタル,「……何をですか?」

明らかに自分より年下であろう女の子に呼び捨てにされ、見下されている。

にも関わらず、それがあたかも当然というような彼女の振る舞い。

そして、何故かそれを許容してしまっており、敬語で話している俺。

ボイン,「というわけですので、いきなりですけど、アタル様――」

ツインテ,「あ、こら抜け駆けするなっ!アタルっ! あたしと――」

ツイ&ボイ,「「結婚してっ!!」」

アタル,「……え?」

え!?

#textbox khi0240,name
ひよこ,「えぇえええぇぇぇぇぇっ!!!?」

そんなわけで、今朝、俺は。恐らくは人類有史以来、初めての。

『自室の天井をぶち抜いた2人の女の子から、出会い頭にプロポーズを受けた男子』

――となったのでありました。

…………

……

――これは俺が人類史上の偉業?を成し遂げる前日の話。

――明日、ニッポンの新しい王様が決まる。

今日、学園中に溢れている会話は、明日の新ニッポン国王誕生の話で持ち切りだった。

男子学生,「あー、もし、俺が王様になったらどうしよっかな!今から、何を命令するか考えておかないとな!」

男子学生,「バーカ、なれるわけねーだろ。ニッポンの全国民の中から1人、1億分の1だぜ?宝くじより確率低いんじゃねーの?」

女子学生,「でも、0じゃないでしょ?当たる人は絶対にいるんだから」

前後賞合わせて数億円の宝くじが当たったら何に使うか。なんでも願いを叶えてくれる龍玉を集めたら何を願うか。

そんな夢物語と同レベルの、取らぬ狸がヘソで茶を沸かしそうな話が教室中に溢れている。

……それって、ぶんぶく茶釜じゃない?

一介の、ごくごく平民の出の学生であっても、一国の王様になれる可能性がある。

太平洋に浮かぶ島国ニッポンは、そういう国だ。

ある一定の条件さえ満たしていれば、老若男女等しく、王様になれる権利が与えられる。

そして、その王様を決める方法は――

担任,「抽選です」

明日に発表を控えた王様システムを説明する先生は、黒板をピシッと教鞭で叩きつつ、そう言いきった。

担任,「地球の衛星軌道上を、ひとつの人工衛星が漂っています。それこそがニッポンの王を決めるためだけにたゆたっている抽選衛星『あたりめ』」

担任,「その『あたりめ』が全国民の中から、たったひとりを選出します」

つい先日、前ニッポン国王が没した。その即位期間は44年間。

つまり、俺たちが生まれて初めての王様抽選が行われるのだ。クラス中のテンションが上がってるのも無理はない。

授業中も、みんなテンションアゲ↑アゲ↑↑で、誰も授業内容なんて聞いちゃいなかった。

授業している先生も、皆を注意するわけでもなく、なんだか浮き足だっているように見えた。

先生だって、当選する確率は同じだからな。ニッポンに住んでおり、ニッポン国籍である以上、先生にだってチャンスがある。
身も蓋もないことをいえば運任せの、およそ1億分の1のギャンブル。

賭け金は一切なし。ここ、ニッポンに生まれた者が、王様抽選に参加するためのチケットを公平に持ち合わせている。

――表向き、はね。

その抽選には仕組まれた何かがあるんじゃないか?なんて邪推する者もいる。

一介の一般人である俺は、その抽選に裏があるかどうかなんて知らないけれど。

男子学生,「お前だって、まったく期待してないわけじゃないだろ?」

男子学生,「おいおい、1億分の1って、どれだけの確率かわかってんのかよ」

男子学生,「ったく、夢がねぇなぁ。もし俺が当選しても、オマエのこと、家来として雇ってやんねぇからな?」

男子学生,「家来になんてしてくれなくていいぜ。ただし、俺に一生遊んで暮らせるだけの金をよこせ!」

男子学生,「オマエは本当に夢がねぇな!」

――王になると、一生遊んで暮らせる、とか。

――既に誰が王になるかは決まっている、とか。

――王になった暁には、異国の姫と結婚する、とか。

先生が説明した以上の噂話の数々。一体どこの誰が、どこから仕入れてきた知識なのかはわからない。

学園の中を事実と噂がゴチャ混ぜになって飛び交い、どれが本当なのかもわからない。

もっとも、王の座に興味のない俺には、どれが本当であって、どれが嘘であっても、どうでもいいことだった。

俺が王になるなんてこと、億が一どころか、絶対あり得るはずがないんだから。

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「アタルくんは王様になれたら、どうする?」

前の席に座る幼なじみのヒヨは、いつも通りの悩みとか難しいことは何も考えてなさそうなニッコニコの笑顔を浮かべて、俺に尋ねる。

アタル,「なんにも考えてないな……ってか、ムリムリ。王様になんて、絶対なれないって」

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ひよこ,「そんなことないと思うよ? だって、確率はみんな一緒じゃない」

男子学生,「いやいや、アタルじゃムリムリ」

男子学生,「……だな、全っ然クジ運ないしな」

アタル,「言われなくたって、そんなことは自分が一番わかってんだよ……」

――そうなのだ。

クラスメイトに改めて言われるまでもなく、俺にはクジ運がない。からっきしない。致命的とすら言ってもいい。

何か病気なんじゃないの?呪いでもかけられてるんじゃないの?

どうしてそれほどまでにクジ運がないのか、クラスメイトにすら馬鹿にされる、そんな深刻なレベルなのだ。

男子学生,「なんでオマエは、そんなにも運がないのかねぇ……」

アタル,「そんなことに理由があるんなら、俺が知りたいわ」

男子学生,「じゃ、いつものやってみっか……よっと」

そう言って、クラスメイトの友人は、財布から取り出した10円玉を指の上に乗せると。

ピンッ、と、親指で弾きあげ、どちらかの手で取った。

手馴れた素早い動作のせいで、どちらの手に握られたのかはわからない。

男子学生,「ほら、アタル、どっちだ?」

そして、友人は拳を握った両手を突き出す。

右手か、左手か、どちらかの手に10円玉が入っている。

アタル,「んーと……」

右拳が、どことなく膨らんでいる気がする。

いや、実はそれはフェイクで、左拳が本命……?

ひよこ,「わかんないなら、悩んだって仕方ないよー。いつも通りに、直感直感っ」

その直感が、未だかつて『一度も当たったことがない』から悩んでいるのだ。

右だ!
左だ!
アタル,「右だ!」

#textbox Khi0130,name
ひよこ,「うーん……私は左かなー」

俺は右拳を指差し、ヒヨは左拳を指差す。

アタル,「うーんと、右……と思わせて、実は左!」

#textbox Khi0150,name
ひよこ,「私は右かなー」

俺は左拳を指差し、ヒヨは右拳を指差す。

かくして、開かれた両拳の中には――

男子学生,「――残念」

俺の指さした拳には何もなく。

男子学生,「――で、西御門さんは当たり」

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「わーい♪ これで30回連続当たりっ」

そして、もう片方の手には、真新しい赤銅色の10円玉が、俺を嘲笑うように輝いていた。

見事なまでにハズレだった。そして、ヒヨはいつも通り、見事な大当たりだった。

アタル,「くっそ……」

男子学生,「これでめでたく、今日もハズレ、と。これで30連敗だっけか?」

アタル,「……かな。めでたくはないっつの」

男子学生,「すげぇな……イカサマなしだろ? ある意味、ここまでハズすってのも才能なんじゃねーかな?」

アタル,「こんな才能はいらねぇ……」

『当たらない』才能が、一体何の役に立つっていうんだ。

ちなみに常に俺の逆を選んでいるヒヨは常勝の30連勝だ。

真に驚くべきはヒヨに対してだと思うのだが……まぁ、常にハズレを引き続ける俺の逆を選べば、誰でも当たるよな。

男子学生,「もう1回、やってみるか?」

アタル,「い、いや、いい。やめてくれ。今日は絶対に当たる気がしない」

男子学生,「今日って。当たってないのは、いつものことだろ」

アタル,「……いや、まぁ、そうなんだけどさ……」

あまりにも的を射すぎていて、反論できなかった。

男子学生,「でも、1/2の確率を30回も外すって……2・4・8・16・32・64・128・256……えっと、この確率って何分の1になるんだ?」

男子学生,「何百万分の1とかだろ? なんか、逆の意味でその運がもったいないよな」

アタル,「……もったいないってなんだよ。俺は運の無駄遣いはしない男なんだ」

別にコストや金銭や生命がかかっているわけでもない。暇つぶしでやっているだけの行為に、もったいないも何もないだろう。

男子学生,「ははは、じゃ、その無駄遣いせずに貯めまくった運は、一体どこで使うんだよ」

アタル,「……さぁ?」

男子学生,「貯めてばっかじゃ、身体に悪いぜ? 貯めて貯めて、タンクが限界になったところで気持ちよく出す! 男ならさ!」

不運は、自分の意志でやってるわけじゃない。銀行じゃあるまいし、自分で運を引きだしたり、預けたりできるわけじゃない。
『どの人間も生まれながらに所持している運気は定量だ』

何かの本でそんな話を聞いたことがあるけど、そんなの絶対に嘘だ。

それなら、この30連続の2択ハズシ――だけじゃない、今まで引いてきた全てのハズレクジ分の運気なんて、それこそ――

――王様でも当たらない限り、挽回できないだろ?

男子学生,「ま、若い俺は、毎晩小出しにしてるけどな!」

アタル,「あのなぁ……真昼間からさりげなく下品なんだよ、その喩え」

男子学生,「ひっひっひ♪」

白い歯を魅せつけるように光らせ、にやにやと笑うクラスメイトども。

その会話は周りの女子にも聞こえていたらしく、『男子ってばイヤねー』みたいな非難の目を向けられる。

……ちょっと待て、俺は無関係だっつの。

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「……下品だったの? 今の?」

無垢というか、なんというか。ヒヨはその下品ぶりが伝わらずに首を傾げていた。

男子学生,「あー、いいのいいの。西御門さんはわからなくていいの」

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ひよこ,「そ、そうなの? うーん、ちょっと気になるけど」

男子学生,「そうそう、ピュアなままの君でいて」

そんなヒヨの反応に、男連中はほっこりとした笑みを浮かべていた。どうやら満足したらしかった。

チャイムが鳴り響き、この話はこれにて中断となった。

しかし、放課後まで、学園中から新国王決定の話題が尽きることはなかった。

…………

……

放課後、ヒヨと並んでの帰り道も、話は新しい王様に関することだった。

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ひよこ,「王様になれると楽しそうだよね」

アタル,「楽しいかなぁ……?」

将来への不安なんかはあっても、現状に不満はない。

王様になった自分の姿がまったく想像ができないのは、自分の致命的なまでのクジ運のなさが成せる業だろうか。

王様の生活……どんなんだろう。

広くてキンキラキンな王宮に住んで、毎日のように美味しいものを食べて、美女をはべらして。

大好きな甘いオムレツをいつでも食べるような――

うーん……どうしても、どこかの絵本で見た程度の貧困な発想しかできない。

あ、別に俺は甘いオムレツが好きなわけではないので、あしからず。

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「そうでもない?」

アタル,「ほら、宝くじだって、当たると突然、聞いたこともない親族が増えるっていうだろ?」

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ひよこ,「あ、うん、そういう話あるよねー……うーん……変なトラブルに巻き込まれるのは嫌だよねー。そう言われると、私も、当たってもちょっと困っちゃうかも……」

アタル,「ヒヨは現状に何か不満があるのか?」

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「ううん、私も別に不満なんてないよ」

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「こうやって、アタルくんとお話ししながら、一緒に下校してるのが、私にとっての幸せ、だもん」

アタル,「小学生の頃からずっとなのに、別に今更、どうこう思うことでもないだろ」

そう、小学生の頃からずっとだ。俺はヒヨと同じ学園に進み、同じクラスになり、同じように登下校をしている。

過去最大6クラスあったにも関わらず、10年間、俺と同じクラスになり続けたその確率こそ、昼間のコインの話ではないが、何分の1なのやら。
クラス分けの際、先生もその辺を考慮してくれたのかもしれない。恐るべきは腐れ縁ということか。

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「でも、覚えてないかな? アタルくん、昔、王様になりたいって言ってたんだよ?」

アタル,「俺が? 王様に?」

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「うんうん、ちっちゃい時に。もう10年くらい前かなー」

アタル,「そんなこと言ってたっけ……」

ふと頭上を見上げて、思い返してみる。

王様に……ねぇ。

アタル,「いや、全然覚えてないな……」

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「言ってたよー。『王様になるんだー、なるんだー』って。あの頃のアタルくん、かわいかったなー♪」

アタル,「あの頃って、ヒヨは同い年だろうが。それに、男に対してかわいいってのは褒め言葉じゃないからな?」

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「そう? かわいい男の人がいてもいいと思うけどー」

アタル,「最近はそういう需要もあるみたいだけどさ」

女の子と見紛うほどのかわいい男の子、すなわち男の娘の存在を理解してないヒヨに、そんな話をふるのはともかくだ。

――『王様になりたい』。

自分がそんなことを願っていたことなんてすっかり忘れていたが、子供なら誰でも憧れる夢のひとつだろう。

幼少の頃、絵本のひとつも読んでいれば、なんでも思い通りになる王様になってみたいと思うだろう。

パイロットになりたいだとか、お菓子屋さんになりたいだとか、電車の運転手になりたいだとか。

実際にその職に就くための具体的な方法も知らないのに、漠然と呟く他愛もない夢だ。

まぁ、この国の場合は、その王様になる具体的な方法ってのが、抽選なんだけど。

誰でもなれる可能性がある。

このシステムが用いられるようになって、早200年以上。

こんな一見いいかげんにも思えるシステムだというのに、今までに選ばれた王様のせいで、国が転覆するような事態にはなったことがない。

目立った暴君はなく、世界をどうこうしてやろうという独裁者もなく、大した悪評は聞こえてこない。

王の選別は完全抽選とうたっているものの、『抽選衛星あたりめ』には、王となるべき最良の人間を感知する何かがあるんではないのか。

――なんて、オカルトめいたことが囁かれていたりもするが、真偽は謎だ。

一般庶民には、衛星軌道上にある『あたりめ』の中を確認しにいく術なんてないのだから。

そして、隣り合って歩いていた俺とヒヨは、同じように隣り合っている我が家の前へと到着した。

アタル,「ヒヨ、じゃな」

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「うん、また明日ね」

アタル,「……明日は休みだぞ。おまえは休日まで俺を起こしに来るつもりか」

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「あ、そっか……でも、起こしに行くよー」

アタル,「別に来なくていいって。休みの日まで顔を合わせることもないだろ」

#textbox Khi0180,name
ひよこ,「ダメだよー。アタルくんの顔は毎日見ておかないと心配なの」

アタル,「なんだぃ、そりゃ」

#textbox Khi01A0,name
ひよこ,「だって、アタルくん、目を離したら何するかわからないんだもん」

アタル,「子供の頃じゃないんだからさ……」

そりゃー、子供の頃は多少やんちゃもしたもんだけどさ。

夜な夜な家を抜け出しては、近くの原っぱやら裏山などに探検に行ったりもしてたさ。

その原っぱも今ではすっかり開発されて、小綺麗な緑地公園になってたりもするけど。

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「ふふ、私から見たら、アタルくんなんてお子様なんだよー」

アタル,「同学年だろうがっ! お姉さん面するなっつの。背だって俺より低いくせに」

ぽむぽむとヒヨの頭を優しく叩く。アンテナのように二股に分かれた髪が、ぴょいんぴょいんと踊るように跳ねた。

#textbox Khi0170,name
ひよこ,「むー、昔は私の方が高かったもんー」

俺の攻撃から自分の頭をガードするように両手で抑える。

俺より低いからって嘆くほどのことじゃない。ヒヨの身長は、女の子としてはごく普通だろう。

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「王様が決まるのは明後日だっけ。楽しみだねー」

アタル,「別にそうでもないんだけど……ま、誰がなっても一緒だよ」

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「まったく一緒でもないよ。クラスの友達が王様になってたら、ちょっと面白いよね」

アタル,「……だな。知ってる奴が王様になってたら、飯でも奢ってもらおっか」

ひよこ,「あは、美味しい物食べさせてくれると嬉しいねー」

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「でも、私はアタルくんが王様になったら、一番面白そうだなー、って思ってるんだけどなー?」

アタル,「おいおい……ムリムリ、絶対当たるわけないって。それじゃ、ヒヨ、今日も1日、お疲れさん」

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「それじゃ、また明日ね。あ、夜にご飯届けに行くかもしれないけど。それじゃ、ばいばーい♪」

アタル,「ああ、またな」

手を振るひよこと別れ、俺も家に入った。

その後、ヒヨは夜ご飯に作りすぎたおかずとやらを持ってきてくれたりもしたんだが――
…………

……

アタル,「なんでこんなことになってんだぁーッ!?」

現実逃避とも思しき、先日の回想から帰ってきたらば。

目の前には、戦車があった。

ツインテ,「アタルはそこで見てなさいっ。あたしが勝って、アタルを手にいれるわ」

何を言ってるかわからないと思うが、俺も何が起きてるのかさっぱりわからねぇ。

ボイン,「まぁ……このような戦いでしかアタル様を勝ち取ることができないだなんて……悲しいです~……」

俺の目の前では、ついさっきまで対岸の火事のように思っていた戦争が始まっていた。

#textbox khi0240,name
ひよこ,「戦車をこんな近くで見るなんて初めてだよー……」

俺もそれは初めてだが、そんなことに感激してる場合じゃない。

どうやら、俺を巡っての争いらしい。

一体、何が、どうなっている!?

この子たちは、なんでそこまで俺を!?プロポーズしてきたり、一体なんなの!?

『やめて! 私のために争わないで!』

一生に一度くらい言ってみたいセリフかもしれないが、いざとなると、そんなことを言うのも忘れてしまう。

昨日まで平和だった自分の身の回りが、一転して戦場になっているだなんて、予期できるはずがない。

これは夢だ。

未だ布団の中で、惰眠を貪っている俺が見ている夢だ。

ほら、その証拠に――

むに。

#textbox khi0240,name
ひよこ,「んいいいい!? いはい、いはいぉっ!ほっぺ引っ張んないでよっ!」

アタル,「ほら、俺は痛くない。これは夢だ」

#textbox khi0280,name
ひよこ,「私のほっぺ引っ張ってたら、アタルくんは痛くないに決まってるよぉ、アタルくんのおばかぁ!」

でゅくし。

アタル,「ぃう゛ぁんっ!?」

ヒヨご自慢のチョップが俺の額に刺さった。

ちょっとだけ痛かった。

アタル,「はっ……俺は何を……これは夢じゃなかったのか……」

仮に『必殺! ピヨピヨチョップ』と名づけておこう。

#textbox khi0230,name
ひよこ,「もうっ、びっくりしてるのもわかるけど、しっかりしてよー」

アタル,「お、おう、すまん、しっかりする!」

……

…………

ボイン,「私はもっと穏便に解決したいのですけど~……ふぅ。このような戦いで、アタル様の気を引けるわけでもないでしょうに……」

#textbox kas0120,name
アサリ,「あはー、噂には聞いてましたけど、イスリアのお姫様は血気盛んですねー」

#textbox kas0110,name
アサリ,「でも、売られちゃったケンカは買わないわけにはいきませんよー。聞き分けのない子には、おしおきをしないとですよー」

ボイン,「そうですわね~……アサリさん、準備はできましたか?」

#textbox kas0180,name
アサリ,「はいー、反撃の準備は整いましたよー。最初に手を出した方が負けるのはお約束ですからねー」

…………

……

#textbox ker0110,name
エリ,「姫様、準備整いました」

ツインテ,「さっすがは『疾風のエリス』ね」

#textbox ker0160,name
エリス,「お褒めの言葉、ありがたく頂戴いたします」

ツインテ,「戦いは先を取ったものが勝利するのよっ!ブリッツ! 先制あるのみぃっ!」

…………

……

キュラキュラキュラとキャタピラが派手な音を鳴らし、女の子の乗った戦車が前進を始める。

戦車に踏みしめられている地面は戦車の重さに耐え切れず、生々しい傷跡を残されていた。

アタル,「お、おーい、ふたりとも、やめっ、やめろ!」

こんな市街地のド真ん中で、何をしでかすつもりだ!まさか本気で、あの主砲をぶっ放すつもりじゃないだろうな!

ツインテ,「アタルー、ちょっと待っててねー。すぐにやっつけて終わらせるからー」

女の子は俺の言葉をどう解釈したのやら、手を振って応える。もちろん、戦車の前進は止まらない。

そんな彼女の左手に握られている、あの小さな筒状の物体は何だ。

俺が映画や漫画で見た限りだと、アレは起爆したり発射したりするためのスイッチじゃないかと思うんだが!

そもそも、あの女の子たちは、なんで俺の名前を知ってるんだ?

突然舞い込んできた数々の謎に混乱するよりも何よりも。

アタル,「まずはアレを止めなくちゃ!」

それが最優先事項だ。

つっても……どうすりゃ止められるんだ。

超能力者でもバケモノでもない俺は、戦車や砲弾を生身で受け止められるようなスーパーパワーは持ち合わせてない。

何の権利や力も持たないごくごく一般人の俺に、彼女たちを止める方法なんて、ありはしないじゃないか。

それでも、俺は。

アタル,「ふたりとも止まれっ! 誰かふたりを止めてくれ!」

呼びかけずにはいられなかった。叫ばずにはいられなかった。

#textbox ksi0180,name
???,「ニッポン国内における、おふたりの戦争行動を禁止するということでよろしいですか?」

アタル,「ああ、そうしてくれ!」

#textbox ksi0180,name
???,「それは王のご命令ということでよろしいですか?」

アタル,「ああ……」

#textbox ksi0180,name
???,「かしこまりました、アタル王」

……え? 誰?

振り返ったそこには、見ず知らずの男。

アタル,「……あ、あの、あんた、は?」

柴田,「申し遅れました。私、ニッポン国政府国王直轄科の役員として、国王直属の執事を申し付けられました、柴田晴清(しばた・はるきよ)と申します」

柴田,「お気軽に、柴田と及び付けください」

ニコッと笑みを浮かべ、柴田と名乗ったその優男は、どこからともなくメガホンを取り出し。

#textbox Ksi0160,name
柴田,「イスリア国王女、ミルフィ・ポム・デリング様――」

ツインテールの偉そうな女の子に声をかけ。

柴田,「クアドラント国王女、セーラ・パトロエル・クアドラント様――」

続けざまに、ナイスバディの女の子にも声をかける。

#textbox Ksi0120,name
柴田,「ニッポン国王による絶対厳命です。ニッポン国内での交戦をただちにお止めください」

柴田,「速やかに停戦を受け入れてもらえぬようでしたら、ニッポン国王に対する反逆とみなし――」

#textbox Ksi0130,name
柴田,「我が国の全軍をもって、それを殲滅せしめることをこの場で警告させていただきます。繰り返し、申し上げます」

アタル,「ちょ、ちょっと! 殲滅とか、俺はそこまでは――」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「落ち着いてください、アタル王。ちょっとしたブラフですので」

アタル,「っぷ」

柴田といったその執事は、清潔な白い手袋に包まれたその指を俺の唇に押し当ててきた。

男にやられて、あまり楽しい仕草じゃなかった。

柴田,「お二方ともどうされました? 速やかに撤退しないと、アタル王との婚約権も破棄させていただきますよ?」

ミルフィ,「ぐ……っ!」

セーラ,「ま、まぁ~……それは困ってしまいます……」

コンヤクケンという聞き慣れない言葉に、女の子たちは明らかに狼狽の反応を示す。

アタル,「……コン、ヤク、ケン?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「読んで字の如く、婚約する権利ですよ」

読むべき字が想像できなかったから聞いたんだけどね?

アタル,「コンヤク? って、えーと、あの……結婚するとかしないとかってアレ?」

柴田,「ええ、その通りです」

……コンヤクは婚約であるらしい。婚約権。

アタル,「で……誰と?」

柴田,「あちらにおわせる姫君たちと」

彼は上に返した手のひらで、向こうにいる2人の少女を指し示し。

アタル,「誰が?」

柴田,「アタル王、あなたが、です」

そして、同じように、その手で俺を指し示す。

アタル,「ああ、俺が――」

ここで、一拍。

アタル,「こ、婚約ぅッッ!!!!?」

ひよこ,「こんにゃくぅうぅぅぅっ!!?」

蒟蒻芋から作られるヘルシー食品の話はしていない。

#textbox Ksi0150,name
柴田,「そんなに驚かれることですか?」

アタル,「お、驚くよっ! 驚かないわけがないだろっ!」

出会い頭に彼女たちが言った『結婚して』という言葉。

そして、さっきから彼が俺を呼ぶ時、おしまいにつく、馴染みがありながら、現実離れした敬称。

アタル,「もしかして……」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「もしかして、ようやく気づかれましたか?」

柴田,「ニッポン国第6代目国王就任、おめでとうございます。国枝アタル様」

アタル,「え――」

アタル,「えぇええええぇええぇぇぇぇぇッ!」

俺の叫びは、果たしてどこまで届いただろうか。ニッポン中に響き渡ったのではないだろうか。

衛星軌道上の抽選衛星『あたりめ』まで、届いたのではなかろうか。

…………

……

ミルフィ,「何してるのかしら、あそこ」

エリス,「さぁ……何か驚かれているようですが、それはともかく、ミルフィ様、今すぐ軍を撤退させないと不利になってしまいます」

ミルフィ,「う……そうね、振り上げた拳を下ろすのはちょっと格好悪いけど、背に腹は代えられないわ」

ミルフィ,「…………むぅ」

エリス,「……? どうかされましたか、ミルフィ様」

ミルフィ,「……エリ、高くて降りられないから、ちょっと手伝ってよ」

エリス,「キュン……ッ!ミ、ミルフィ様、なんて愛らしい……!」

エリス,「は、はい、では、ミルフィ様、お手を……!」

ミルフィ,「は、離さないでよ! ちゃんと握っておいてね」

エリス,「ああ、ミルフィ様のお手……小さくて、艶やかで……」

ミルフィ,「あの……エリス?」

エリス,「え、ええ、もちろんですとも! 離すものですか!」

ミルフィ,「そ、そう? それならいいんだけど――あッ」

エリス,「あっ」

…………

……

ツインテールの女の子が握っていた筒状のモノが、彼女の手から滑り落ちた。

え、アレって――

筒が落ちてゆく様が、まるでスローモーションのように感じられた。

アタル,「あ」

落下し、戦車の外装に当たり、跳ね返り、地面に落ち――

カチッ

ズッドォオォォォォン!!

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「ひゃわぁっ!」

ミルフィ,「わきゃあっ!?」

エリス,「ミルフィ様っ!?」

セーラ,「ふわぁっ!?」

アサリ,「あーあ、やっちゃいましたねー」

2つの砲塔から放たれた、2発の砲弾は。

正面にいた敵戦車とは、まるであさっての方向へ。

というか――

アタル,「そっち、俺の家ぇぇぇッ!!」

ゴッ

――着弾。

ッパァアァァァンッ!!

――炸裂。

バラバラバラ

――木っ端微塵。

その間は3秒にも満たない時間だったにも関わらず。

その光景はまるでスローモーションのように、俺の網膜に焼き付いた。

よもや、木っ端微塵なんて言葉を、我が家で体現することになるとは、思ってもいなかった。

その場にあったはずの我が家は、見事に吹き飛んだ。

ああ……。

ミルフィ,「……えへ♪」

放心するというのは、こういうことなんだ……。

自分の意志とは別に、俺は膝からガクリと崩れ落ちた。

頭が真っ白になった。

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「アタルくんっ!? 大丈夫っ、アタルくーんっ!?」

ヒヨの声だけが、ただなんとなく、頭の中に響いてた。

…………

……

柴田,「さて、困りましたねぇ。とりあえず、お連れしてしまいましょうか」

ひよこ,「あの……柴田さんは、一体……それに、アタルくんをどうするつもりなんですか?」

柴田,「あなたには関係のないことですよ、ご心配なく――」

柴田,「……おや?」

ひよこ,「……? どうかしたんですか?」

柴田,「……もしかして、この娘から……」

ひよこ,「……?」

柴田,「いえ、コチラの話です……ふむ」

柴田,「――西御門ひよこさん、アタル王が気になるようでしたら、あなたも同乗されてはいかがですか? 悪いようには致しませんよ」

ひよこ,「えっ、は、はい、お願いします!」

ひよこ,「あれぇ……私、自己紹介したかな……?」

…………

……

ブロロロロ……

……

…………

アタル,「……はっ?」

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「あ、アタルくん、気がついた?」

家が粉微塵に吹き飛んだ衝撃から、ようやく我に返った俺が目の当たりにしたのは、一軒の屋敷である。

アタル,「ここ……何かで見たことあるような……?」

#textbox Khi0240,name
ひよこ,「す、すごいね……」

俺の隣には、口をあんぐりと開けたヒヨもいる。

多分、俺も彼女と同じような顔をしているに違いない。

いかんいかん、口は閉じよう。アホに見られる。

しかし、俺の頭は思考停止したままだった。

王様? 俺が? そんな、まさか、ありえない。

柴田,「さ、アタル王。こちらです」

アタル,「え……あの……はい……」

ただ、流されるまま。

導かれるまま、俺はこの屋敷の中へと進んでゆく。

…………

……

実家の数倍は幅のある廊下を歩く。

土足でいいのか。畳文化のニッポン人には信じられん。

しかも、足元はふかふかだ。雲の上を歩いたら、こんな風な感じなのかな、なんて思う。

…………

……

案内された先は、また大きな部屋だった。

柴田,「改めて、自己紹介をさせていただきましょう。私はニッポン国政府所属の執事、柴田と申します」

アタル,「えーと……政府の方が、俺たちに何の用ですか?」

柴田,「おや、この状況でも、まだ理解できていない……いえ、まぁ、仕方のないことなのでしょうね。では、説明させていただきます、アタル王」

柴田,「おめでとうございます、国枝アタル様」

柴田,「あなた様はニッポン国民1億2487万8561人の中から、厳正なる抽選の結果、めでたく第6代ニッポン国王に当選なさいました」

アタル,「お、俺が……!?」

ひよこ,「アタルくんが?」

柴田,「おや、どうかされたんですか? ニッポンの国民ならば、誰にも等しくあり得るチャンスだったのですから」

アタル,「そ、そんなわけないですよ! 俺、昔っからずっとアンラッキーで、そんな天文学みたいな数字の確率に当たるなんて……」

アタル,「50%の確率にだって、ろくに当たったことないんですよ? そんな1億分の1に当たるとか……」

柴田,「ふーむ……」

柴田,「あくまで確率であって、当たる時は当たる、ハズれる時はハズれる、ただそれだけのことなのですが」

柴田,「ですが、このようには考えられませんか。アタル様はこの抽選に当選するため、今まで『当たり』を貯め続けてきた、と」

アタル,「そんな馬鹿な……」

柴田,「『50%にはずれ続ける』というのは、『50%に当たり続ける』というのと同じ確率です」

柴田,「『運は誰もが等しい量を所持している』という話もありますからね」

柴田,「アタル様は意図的にハズレを引き続け、そして、今、このタイミングで貯めてきた『当たり』を引いた」

柴田,「今までに王になられた方は、そのようなことも不思議ではないくらい、どこか不思議な『何か』を持つ方々ばかりでした」

柴田,「皆さん、ただの運だけで王になったわけではない。1億分の1という確率を引くというのは、ただの偶然だけで為せる業ではないのです」

柴田,「その『何か』を持たない人物は、仮に1億回抽選を行ったところで王にはなれないし、なれる方はなれてしまう……そういうものなのですよ」

アタル,「そういうものですか」

そう言われてしまっては、如何とも返し難い。

柴田,「そんなアタル様へ、プレゼントがございます」

アタル,「プレゼント?」

そういって彼は、俺にひとつの箱を手渡す。

中に入っていたのは――

アタル,「……ケータイ?」

金に輝く携帯電話。決して趣味がいいとはいえない。

柴田,「これが王の証であるケータイ電話『CROWN』です」

アタル,「くらうん……」

『王冠』の名を冠したケータイ電話を手にする。

見かけよりもズシリと重く感じたのは、このケータイの材質のせいだろうか。もしくは、課せられた責が重さを感じさせているのか。

どんどん軽量・小型化の進んでいる現代に見事な反発だ。

柴田,「様々な用途に利用できますが、アタル様以外には使用できません。その使い方に関しては、おいおい」

柴田,「GPSや、ネット、アプリ、プリペイドなど、一般のケータイ電話ができることは全て搭載されています。電話番号も今までのアタル様の番号へと書き換え済みです」

アタル,「ちょ、ちょっと待ってよ!?俺は王様になるのがもう決まったことみたいに――」

柴田,「当然、決まったことですよ」

アタル,「いやいやいや! 俺はそんな器じゃないって!」

一介の学生でしかない俺が、王様になるだとか!

できることなら、王の座を辞退しようとさえ思った。

柴田,「ふーむ……それは困りましたね」

柴田,「このニッポンに住んでいらしてる以上、拒否する権利はありません」

アタル,「え」

柴田,「とはいえ、大丈夫ですよ、最初は皆さん、アタル様と同じような顔をしていますけど、いざなってしまえば、大変楽しまれているそうですから」

アタル,「それは……経験談?」

柴田,「いえ、まさか。人づてに聞いた話です。私、そんな歳を召しているいるように見えますか?」

アタル,「いや……いってても、20代後半くらいだと思うけど……」

柴田,「年齢に関しては、ノーコメントとさせていただきますが」

柴田,「なお、即位を拒否なされた場合、アタル様は今後、幽閉生活を送ることになります」

アタル,「ゆ、幽閉……?」

柴田,「古風な言い方をすれば、島流し、というやつですかね。さほど不自由はしませんが、様々な制限をかけられることとなります」

アタル,「島流しっすか……なんでそんな……」

あまり楽しい響きではなかった。

柴田,「法で定められているから、としか申し上げられませんね」

実質、拒否権なんかないみたいなものじゃないか。

そんな俺と柴田さんとのやり取りを、ヒヨは延々ポカンと口を開けたまま、聞いていた。

ちょっとアホの子っぽかった。

アタル,「まぁ、いいや。わかった、わかりましたよ。それで、今いるここはどこ?」

柴田,「王にふさわしい場所へとご案内いたしました。これからはこの王宮が、アタル様の家となります」

アタル,「これが……家!?」

柴田,「はい、代々、王が使用している邸宅です。建物だけでなく、ここ一帯周辺全ての敷地――」

柴田,「だいたいドーム球場3つ分ほどありますが、その全てが王の座についている限り、アタル様のものです」

アタル,「ここが……家……!」

いや、圧倒されるよりも先に、まだ確認しなきゃいけないことは山ほどある。

アタル,「――ちょ、ちょっ、勝手に進められても……父さんと母さんは俺が国王になったことは知ってるのか?」

単身赴任中だった親父のもとに、母親は向かっている。

ここ数ヶ月、我が家は両親が不在。だからこそ、ヒヨがウチの合鍵を持ってたりするわけだが。

不在の間に、家が吹っ飛ばされただなんて聞いたら――

柴田,「もちろんです。海外にある別邸にご案内しまして、今はそちらで過ごしていらっしゃいます」

アタル,「ホッ……そうだったのか……なんだよ、父さんも母さんも、俺に連絡のひとつくらい寄こしてくれてもいいだろうに」

柴田,「もちろん、ご両親ともアタル王に連絡を取りたがっていましたよ。ですが、情報規制というものがありましてね。その点はご容赦ください」

そっか、両親が健在ならば、安心した。

ちょっとばかし頭が悪い両親だと思うが、アレでも俺を産み、育ててくれた親だからな。

――俺の両親が結婚してから数年、ようやくできた俺。

夜の夫婦生活もそれなりに頑張っていたにも関わらず、なかなか当たらなかったらしく。

何年もかけてようやく命中したため、男として生まれた俺に『アタル』って名前をつけたらしい。

小学生の時に『自分の名前の由来を調べてくる』という宿題を出され、父親からそんな話を聞かされた。

当時の俺はもちろん、その深い意味がわからないまま、作文をしたため、クラスメイトたちの前で読み上げた。

その時、クラスメイトたちは俺の名前の持つ深い意味はわからなかったようだが、新任の先生が顔を真っ赤にしていた理由が、ほんの数年前になってようやく理解できた。

今じゃ立派な黒歴史だ。

馬鹿正直に息子の宿題に、その逸話を教えたウチの両親はバカなのか。もうちょっとそれっぽい話を捏造したってよかっただろ!

……俺の名前の逸話は、どうでもいい。

そんなバカでも親は親。何にしても無事なら一安心だ。

そんな両親の代わり、俺の身の回りの世話を見てくれていたのが、隣の家に住む、幼なじみのヒヨなわけだが。

……ヒヨの家の隣にあった俺の家は、つい今さっき、無慈悲な砲弾によって消し飛んだんだけど。

ミルフィ,「はぁ……結構遠いのねー。でも、まあまあな家じゃない」

そんな呟きと共に、このリビングへと入ってたのは、俺の家を戦車砲で吹き飛ばしてくれたツインテールの少女。

エリス,「そうですね、ミルフィ様の第三邸宅に匹敵するほどだと思われます」

そして、彼女の傍に仕える眼帯をした軍人風の女性が恭しく現れる。

その悪びれた様子のない彼女たちの後に続いて。

セーラ,「わ~、素敵なお住まいですね~♪」

間延びした口調の、セクシャルなドレスを身に纏う少女。

アサリ,「大変ご立派ですよねー。羨ましいですー」

そして、その後ろに続く、長い黒髪とセーラー服、ネコミミ&ネコシッポの…………なにあれ?

柴田,「アタル王?」

アタル,「あ、えーと……なんでしたっけ」

柴田,「つまり、今後、アタル王にはこの屋敷――王宮で生活していただくことになります」

柴田,「何も不自由はありません、いえ、させませんので、ご安心ください」

柴田,「あ、それと、先程ミルフィ様が、アタル王の実家を倒壊させた件についてですが」

ミルフィ,「ぎくっ?」

柴田,「倒壊する前に、アタル王のプライベートなモノは全て運び出してあります。何ひとつとして傷はついてませんので、ご安心ください」

ミルフィ,「ほっ……な、なーんだ、そうだったのね。良かったじゃない、アタルっ」

ポンポンと俺の背を叩くツインテールの少女。

その態度は妙に俺の神経を逆撫した。

アタル,「いいわけあるかぁっ!!?」

ミルフィ,「ひゃっ!? だ、だって、別にアタルの物はなんともなかったんでしょ? それだったら、問題ないじゃない!」

アタル,「いろいろ大問題だよっ!思い出やら何やらが一瞬で消し飛んだよ!」

アタル,「だいたい、オマエ、誰だぁッ!」

ミルフィ,「オマエって何よっ! あたしはあたし!」

ミルフィ,「イスリア王国第一王女、ミルフィ・ポム・デリングよ!」

アタル,「イス……リア……? ミルフィ……?」

イスリア王国。聞き覚えのある名前だ。

ミルフィ,「って、何よ、その顔……。柴田。まだあたしたちの説明してないの?」

柴田,「失礼しました。自己紹介はご本人様の口から、お任せしようと思っておりまして」

ミルフィ,「あ、そう。じゃあ、改めて、もう1回」

ミルフィ,「あたしはミルフィ。ミルフィ・ポム・デリング!気軽に『ミルフィ様♪』って、ステディな仲っぽく呼んでくれていいわよ」

アタル,「ステディな仲は、そう呼ばないよな!?」

セーラ,「あ~、ミルフィさん、ずるいです~。私も自己紹介させてくださ~い」

奥に控えていたもうひとりの女性が、たふんたふんと豊かな胸元を揺らしながら駆けてくる。

セーラ,「初めまして、アタル様。クアドラント王国第一王女、セーラ・パトロエル・クアドラントと申します」

こっちのちまっこい女の子がミルフィ……さん。こっちのボリュームと露出の多めなのが、セーラさん。

アタル,「えーと……国枝アタルです。よろしく……」

一体、何をよろしくするんだか。

柴田,「さて、アタル王には、おふたりの姫のどちらかを后に選んでいただきます」

アタル,「ふぅん……キサキ……」

キサキってなんだっけ、と思いつつ、柴田さんの言葉を反芻して。

『きさき』が『后』という言葉に変換され。

アタル,「き、后っ!? って、そ、それって!?」

事の重大さに気づいた。

ひよこ,「そ、それって、アタルくんのお嫁さんってこと!?」

柴田,「平たく言うと、そういうことになりますね」

柴田,「アタル様の王としての初仕事は、婚約者を決定することです」

アタル,「そ、そんなことが、最初の仕事なの!?」

柴田,「そんなこと、とは、随分と甘く見られたものです。諸外国との友好関係を強固なものにする……ニッポン国王としての大切なお仕事です」

アタル,「……俺の意志はどうなるの?」

柴田,「アタル王は焦がれている方がいらっしゃるのですか?もしくは、将来を決めた恋人がいらっしゃるとか」

アタル,「いや、特定の誰かいるってわけじゃないけど……」

ひよこ,「不特定の誰かがいるの?」

アタル,「いない! 特定も不特定もいないよ!」

柴田,「ですよね。『あたりめ』がアタル王を選択した以上、そのような不具合があるはずがありません」

柴田,「といったわけで、王にはこちらにおわすミルフィ様か、セーラ様のおふたりのどちらかを后として選んでいただきます」

ミルフィ,「えへっ」

セーラ,「うふふっ」

柴田,「もちろん、今すぐとは申し上げません。后を決めるまでの1ヶ月間、王はこの王宮でひとつ屋根の下、姫様たちと同じ時間を過ごしていただきます」

アタル,「えぇえぇっ!? こ、この子、あ、いや、お姫様たちと、暮らすんですか!?」

セーラ,「まぁ、姫様だなんて、畏まらなくて結構ですよ?アタル様は、ニッポンの王様なんですから~」

柴田,「もちろん、1ヶ月になる前に決めていただいても構いません。むしろ、早ければ早いほどいいですね。今すぐ、第一印象で決定していただいても結構ですが」

アタル,「いや、さすがにそれは……」

結婚って、一生の問題だろ……?

ましてや、国のことを左右するっていうのに、そんなお手軽スナック感覚で選べるもんか。コンビニでお菓子を選ぶのとはワケが違うんだぞ。
柴田,「それと――アタル王、あなたは今やこのニッポンのトップたる王なのです。もっと威厳ある態度をとってくださいね」

ミルフィ,「そうよ、アタル。もっとしゃんとしてよね! あたしの夫となる以上、そんな頼りないようじゃ困るの!」

アタル,「そ、そうは言うけど、俺でいいの!?2人と俺は初対面だよ!?」

ミルフィ,「あたしの野望のためには、あんたと結婚しなきゃいけないの」

アタル,「……は?」

エリス,「――ミルフィ様」

ミルフィ,「……あ、い、いえいえ、なんでもありませんのよ。アタル様、お慕い申し上げオリマース、ヲホホホホホ」

セーラ,「実は私は初対面ではないんですよ~?」

アタル,「え? 会ったことある?」

セーラ,「数日前より、ニッポン政府より送られてきたアタル様の動画やお写真を拝見しておりました」

アタル,「それって、ずいぶん一方的な……っつーか、会った内に入るの? それ、ねぇっ? しかも、動画っ!? 写真っ!? いつの間にそんなの撮られてたの!?」

ツッコミどころが満載過ぎて、ツッコミが追いつかない!

柴田,「実を申し上げますと、王ご自身に連絡が行ったのは今朝ですが、アタル王が王になることが決定していたのは数日前でして」

アタル,「え……そうだったの……?」

柴田,「その際、后候補には事前に連絡が行っておりまして、密かに日常を撮影していた素材を、全て后候補の方に送らせていただいております」

アタル,「盗撮っていうよね、それ!?肖像権の侵害とかじゃないの、それっ!」

柴田,「いえ、ご両親から許可をいただき、写真の提供をしてもらってますし」

アタル,「いつの間にッ!?」

柴田,「多少の侵害行為も、国の一大行事の前では些細なことですよ、ハハハ」

アタル,「笑ってなんでも済まされると思うなよ!?」

アタル,「つーか、セーラさん!? 動画とか写真なんて会った内に入らないでしょッ!? 実物を見て、ガッカリしたでしょ? 俺なんてこんなんですよ?」

セーラ,「そんなことありません!アタル様……私は貴方に一目惚れしてしまいました~」

セーラ,「ずっと恋焦がれていた貴方にお会いしたことで、私の心の炎は今まで以上に燃え盛り……ああ……今にも燃え尽きてしまいそうです~」

アタル,「え、あの、ちょっと、その、ちか、近いっ!」

熱い吐息を漏らし、潤んだ瞳で俺を見つめながら、セーラさんは寄り添ってくる。

豊かな胸元の谷間が! 肌色のグランドキャニオンが!

ミルフィ,「あっ、こら、ずるいっ! スキンシップで、好感度上げるんじゃないのっ!」

エリス,「む……世界各国の姫君の中でも屈指の美貌を持つセーラ様が、ミルフィ様の相手とは……」

エリス,「極めて幼児体型のミルフィ様には到底勝ち目など……だがしかし、ミルフィ様はそれだからこそ持ち帰って抱きしめたいほど可愛らしいわけですが! ハァハァ……」

ミルフィ,「ん? エリ? なんか言った?」

エリス,「いえ、何も申しておりません、ミルフィ様」

ミルフィ,「そう? それならいいけど」

アタル,「えーと……それで後ろの人は? 軍人さん?」

明らかにカタギではないその格好。腰に指しているサーベルとピストルがあまりにも印象的だ。

エリス,「ご挨拶が遅れました、アタル王。自分はイスリア王国所属王族護衛特務科エリス・ラスコヴァン中尉です」

エリス,「幼少の頃より、ミルフィ様のお付きをしております。アタル王、以後、お見知りおきを」

アタル,「ああ、なるほど、付き人」

お姫様ともなれば、そういう人の1人や2人いてもおかしくない。

エリス,「愛しいミルフィ様のためなら、陸を駆け、空を飛び、海を泳ぎ、命すらをも投げ出す所存です」

別にそんなことまでは聞いてなかった。

しかも、しれっと空を飛ぶとか行った。この人は飛行形態に変形できるんだろうか。

ミルフィ,「ってわけで、あたしたちははるばるイスリアから来たんだから、よろしくしなさい」

アタル,「え……あ、はぁ……よろしくお願いします」

セーラ,「まぁ、ミルフィさんばかりズルいです~。私も自己紹介させてくださいな」

セーラ,「私はクアドラント王国の第一王女、セーラ・パトロエル・クアドラントと申します。よろしくお願いします、アタル様」

アタル,「あ、その……はじめまして」

セーラ,「はい♪ お気軽に、セーラとお呼びくださいませ」

セーラ,「では、私のお付きを……アサリさん?」

アサリ,「えー、アサリも紹介しますかー」

セーラ,「もちろんです。さ、どうぞ」

アサリ,「アサリはセーラ様にお仕えしてるアサリですよー。お気軽に『アサリ様ー』と呼んでいただいて結構ですよー」

アタル,「はい、わかりました。アサリ……あれ? 様?」

アサリ,「はい、アサリ様ですー。『絶対神』でも『唯一神』でも結構ですよー」

ニコニコと笑顔を絶やさぬまま、復唱するアサリ様。

あ、いやいや、冗談だよな?

アタル,「アサリさん?」

アサリ,「~♪」

アタル,「あの……アサリ、さん?」

アサリ,「んー、あのツボはとてもいい物ですねー」

アタル,「……アサリ様」

アサリ,「はいー、なんでしょー、アタルさんー」

様式美であり、形式美だった。

アタル,「あ、いえ、なんでもないっす。呼んでみただけっす」

まさか、今後も本当に様付けで呼ばないと返事しないとか……ないよな?

アタル,「それで、2人はなんで俺の家に特攻してきたのさ?」

ミルフィ,「上空からパラシュートで降下してきたのよ。ちょっと高かったけど、いい眺めだったわよー」

エリス,「ミルフィ様のサポートは、自分が務めさせていただきました」

セーラ,「あら、私もですよ~? 急いで飛行機に乗りまして――どういう流れでしたっけ、アサリさん」

アサリ,「飛行機に乗ってー、ニッポン駐留艦隊に合流してー、艦砲射撃でここまで飛ばしてもらったですよー」

アタル,「射撃!? 人間大砲!?」

アサリ,「もちろん、セーラ様の着地の安全は、このアサリが全力でフォローしたですよー」

アタル,「どうやって!?」

アサリ,「それは、こう、ちょちょいと上手く?」

どうちょちょいとやれば、艦砲射撃からうまく着地できるのかがさっぱりわからん。

否、今、聞きたいのは具体的な方法ではなく。

アタル,「……どうしてふたりはそんなに慌ててやってきたのかなーってことなんだけど……」

ずいっ!

ミルフィ,「あたしは一番が好きなの。競争相手に負けるわけにはいかないじゃない?」

ずいずいっ!

セーラ,「私は一刻も早く、アタル様にお会いしたかったからに他なりません」

ふたりはじわりじわりと、俺の方に距離を詰めてくる。

ミルフィ,「アタル、あたしを選ばないの? ここまでして来たんだから、よもやあたしとの結婚が嫌なんていわないよね?」

セーラ,「もう、ミルフィさん、ダメですよ、そんな言い方をなさっては。アタル様、お会いできたのも何かの縁。私と契りを結んでいただければと思います~」

アタル,「ち、契りって、ちょっと待……し、柴田さん!?どうにかならないの、これ!?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「申し訳ありませんが、ミルフィ様、セーラ様。アタル王が困惑されておりますので、少々お静かに」

ひよこ,「そ、そうですよっ。アタルくん、困ってるじゃないですかっ」

アサリ,「ところで、さっきから気になっているんですけどー、そちらの女の子は誰ですー?」

ひよこ,「え、わ、私? あの、私はアタルくんの幼なじみで」

ミルフィ,「つまり、関係のない部外者なのよね? なんでここにいるの?」

ひよこ,「え、あ、そのー……な、なんでかな? 柴田さん」

柴田,「極めて私の独断なのですが、アタル王の身の回りの世話は、西御門様にお願いしようと思いまして」

セーラ,「つまり、アタル様のメイドさん、ということでしょうか~?」

柴田,「端的にいうと、そうですね。そういうことなります」

アタル,「はぁっ!? いや、俺、そんなこと一言――」

ネミにミミズだ!

ん? ――違う、寝耳に水だ!

しかし、柴田さんは俺が叫ぶよりも早く、俺の唇に白い手袋に包まれた人差し指を当てる。

柴田,「アタル王、先程、申しましたよね?」

パチリとウインク。自分に男色のケはない。アイコンタクトを送られても、ゾッとするだけである。

とはいえ、ここで知らない、彼女は無関係だのなんだの言ったら、場が混乱するだけか。

アタル,「う、うん……まぁ……そういうわけなんだ……けど」

よもや『ドキッ!? 幼なじみはメイドさん!?』なんて展開になるとは思いもしなかった。

アタル,「そういうわけなんで、ヒヨ、みんなに自己紹介を……」

どういうわけなんだか。

ひよこ,「え? えっと、アタルくんの幼なじみで、その……メイドさん?の、西御門ひよこです。よろしくお願いします」

そして、この状況を納得したのか、ヒヨは深々と姫様たちに頭を下げる。

納得したのか。順応してるのか。物分りがよすぎるというのも心配になるぞ、ヒヨ。

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ひよこ,「えーっと、私、今までずっとアタルくんのお世話をしてたから、いろいろお役に立てると思います」

ミルフィ,「ふぅん、じゃ、あたしたちとアタルを巡って勝負する、ってわけじゃないのね?」

ひよこ,「えっ!? う、うん、私はその、お姫様たちとは身分が違いますし!」

ひよこ,「それに、そのっ、アタルくんのお嫁さんになるとか、そんな、別に、私は、その、ただの、幼なじみだし……ね? アタルくんっ」

アタル,「え、うん、まぁ……そうだな」

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ひよこ,「あははー……そういうわけなんでー……」

ミルフィ,「――そう、それなら別にいいわ。まぁ、相手が何人いたとしても、あたしが一番魅力的なのはいうまでもないと思うけどねー」

エリス,「その根拠に乏しいのに、あまりにも絶対的な自信……さすがです、ミルフィ様」

ミルフィ,「ん? エリ、何か言った?」

エリス,「いえ、何も申しておりません」

ミルフィ,「ま、そういうことなら、よろしくね。えーと、ひよこ、だっけ?」

ひよこ,「うん」

ミルフィ,「なら、ぴよぴよって呼ばせてもらうわね」

ひよこ,「ぴよぴよ?」

ミルフィ,「ひよこってニッポン語で、鶏の雛のことでしょ?メイドの雛のぴよぴよにはお似合いだと思うけど」

アタル,「……え……? それだったら『ひよこ』のままでいいんじゃ――」

エリス,「さすがはミルフィ様。素晴らしきネーミングセンスをお持ちで」

俺の言いかけた言葉は、お供の人の賛辞にかき消されてしまった。

ひよこ,「ぴよぴよ……」

アタル,「ヒヨ、気に入らなかったら、怒ってもいいんだぞ?」

ひよこ,「わ、そう呼ばれるのは初めてかもっ。すっごくかわいい! ありがとう、ミルフィさんっ」

あ、それでいいんだ……本人、喜んじゃうんだ。

ミルフィ,「そう? そこまで喜ばれるとは思わなかったけど、気に入ってもらえたならOKね」

セーラ,「私もすごくかわいいと思いますよ~♪」

セーラ,「何かとご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いしますね、ひよこさん」

セーラさんはごく普通に『ひよこさん』と呼ぶ。

ひよこ,「は、はい、こちらこそっ」

女の子同士、ヒヨは2人の姫様と片手ずつ握手。

ひよこ,「良かったね、アタルくん。こんな綺麗なお姫様たちと仲良くなれるなんて、羨ましいなぁ」

アタル,「何いってんだ、ヒヨだって仲良さそうじゃないか。大体、俺は――」

こんな方法で、自分の生涯の伴侶を決めるとか――

おかしいよなぁ……?おかしいと思ってる俺は、間違ってないよなぁ……?

……

…………

柴田,「――ふむ」

ん?

柴田,「――では、お互いの自己紹介も済んだようですので、皆様のお部屋にご案内しますね」

ミルフィ,「よろしくお願いするわ」

柴田さんに案内され、俺たちは王宮内を巡る。

見慣れないこの風景は、ちょっとした探検気分だ。

RPGで、王様への謁見を許された勇者の気分って、こんな感じなのかもしれない。

もっとも、今の俺こそがニッポンの王様らしいけど……まったく実感沸かないなぁ。

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柴田,「こちらがアタル王の私室となります」

アタル,「っ……!」

招待された部屋に入った瞬間、俺は声をなくした。

元居た部屋の何倍の広さだろう。確実に、元居た家のリビングよりも広い。

……これって、逆に落ち着かない、かも。

アタル,「へぇ……」

実感に乏しいながらも、部屋の片隅を見ると、そこには見覚えのある物が積まれていた。

アタル,「あ、これって」

柴田,「はい、ご実家が倒壊する前に、アタル王の部屋から持ち出したものです。おそらく、何一つぬかりなく揃っている物と思われますが」

自分の部屋にあった机、タンス、本棚、本棚に詰められていた蔵書の数々、壁にかかっていたポスターやタペストリーまで。

アタル,「へぇ……ありが」

お礼を言いかけたところで、言葉が止まる。

確かにこの山の中には、実家の部屋にあったものが全てありそうだった。

だけど、何ひとつ、とまで言われてしまうと。

思春期男子の部屋には必ず、確実にひとつやふたつ、ともすれば10や20置かれているものがあるわけで。

それを誰かに見られたと思うと、すっごい恥ずかしいんですが! 俺の性癖がバレてるんじゃないのか!

なんて思っていると、積んである書物の山の中に、確実にベッドの下に隠していたはずの本が見受けられた。

マズい! こんな物が彼女たちの目に触れたりしようものなら……!

セーラ,「まぁ、これがアタル様のお部屋ですのね♪どれどれ~……」

アタル,「セ、セーラさんっ! だめ!これ以上は近づいちゃ駄目!」

セーラ,「あら……ごめんなさい~……」

しょぼんとセーラさんは肩を落とす。

怒鳴りつけて悪いことをしてしまったかと思う。

アサリ,「そーですよー、セーラ様ー。あそこには男性の聖域、漲る欲望の塊があるのですよー」

アタル,「ちょっ!?」

アサリ,「女性は踏み入ることの許されない不可侵領域……そっとしておいてあげましょー」

セーラ,「はぁ……よくわからないですけど、そういうことでしたら……」

アタル,「……わからなくて結構です……」

こんな(露出は激しいけど)貞淑そうなお姫様に、エロ本なんて見せられるものかよ!

アタル,「し、柴田さん、セーラさんとミルフィさんを部屋に案内してあげて! 俺は自分の部屋を整頓するから! ね!」

柴田,「かしこまりました。では、ミルフィ様、セーラ様、行きましょう」

柴田,「では、アタル王、ご案内が終わるまでに片付けておいてくださいませ、ふふ」

アタル,「はーい……」

確実に何かを察してくれている柴田さんは、姫様やお付きの人たちを引き連れ、新たな俺の部屋を後にした。

…………

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ひよこ,「あ、もしもし、お母さん? うん、私、私。うん、全然大丈夫だったよー、ごめんねー」

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ひよこ,「うん、うん、そうそう……あははっ、もう、やだなぁ。そういうわけじゃないけど……そう、そうそう、うん、そういうわけで、私、アタルくんのメイドさんにね」

ひよこ,「そうそう、あのメイドさん。うん、うん……あ、本当? ありがとー。うん、そういうわけだから、今晩はお屋敷にお泊りするけど、うん、うんっ」

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ひよこ,「はい。はーい、ちゃんと戸締りしてねー。それじゃ、また電話するねー、はい、はーいっ」

…………

さて。

この荷物たち、そして、本をどうしたもんかな。

整頓するいい機会ではあるけれど。

その手の本とかDVDは、どこか目立たないところに隠すとして……。

この部屋だと……うーん、逆に広すぎて、隠し辛いな。

思い切って捨ててしまうのがいいんだろうけど……。

『プリンセスパラダイス』の4月号と、『メイド倶楽部』の5月号は、どっちも神号で捨てるには惜しいんだよなぁ……。
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ひよこ,「アタルくん、お手伝いしよっか?」

アタル,「ああ……うーん……」

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ひよこ,「あれ? あの……アタルくん?私は何すればいいかなー」

アタル,「そうだな、何……って、いたーっ!?」

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ひよこ,「わっ!? なにっ!? 私いたよっ!?」

アタル,「ヒ、ヒヨ、柴田さんについていったんじゃなかったのかよ!?」

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「え、だって、お姫様たちだけって言ってたから、私はアタルくんを手伝おうかなーって思って」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「それに私、アタルくんのメイドさんなんでしょ?」

アタル,「いや、メイドになるっていうのはあの場限りの嘘だろ。本気にするなよっ?」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「えっ、そうだったんだ。私、てっきり本気だと思ってたよ」

アタル,「本気にするのかよ!? 嫌だろ、メイドなんて!」

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ひよこ,「そうかな? メイドさんって面白そうじゃない?」

アタル,「……面白そうかなぁ?」

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「だって、かわいいお洋服を着て『おかえりなさいませ、御主人様ーっ』ってやるんだよね?」

アタル,「その知識にはわりと偏りがあるような気がしなくもないけど……」

それは明らかに、巷のメイド喫茶だな。

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「それに私、家事好きだもん。あははっ、今までとあんまり変わらないかもね」

言われてみれば、そうかもしれない。

確かに今までも、なんだかんだで、ヒヨに面倒をみてもらっちゃっている。

ヒヨのお母さんに『ひよこは、アタルくんのメイドさんみたいだねー』と、言われたこともあったっけな。

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ひよこ,「それにお母さんにも『私、アタルくんのメイドさんになるねー』って電話しちゃったし」

アタル,「はぁ!? いつの間に!?」

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ひよこ,「つい今さっきだよ? お母さんも『頑張りなさいねー』って言ってくれたよ」

アタル,「親あってこの子ありだな! 許可すんなよ!」

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「あ、それとアタルくんの新しいお家にお泊りするって、お母さんに言っちゃったけど……」

アタル,「ちょっと待て!?それ凄まじい語弊を産んでないかっ!?」

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ひよこ,「そうかな? お母さん、『頑張りなさいねー』って言ってくれたけど」

アタル,「そっちも『頑張りなさいねー』なんだ!?ヒヨのお母さん、それしか言わないBOTか何か!?」

いや、もしかして前と後ろの『頑張りなさいねー』は意味が違うんじゃないか!?

後の『頑張りなさい』には性的な意味が含まれているような! い、いやいや、まさか愛娘を、そんな元気よく送り出すなんて――

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ひよこ,「あっ、『家族計画はちゃんとしなさいね♪』って、言われたから、とりあえず返事しちゃったんだけど、どういう意味かなぁ? アタルくん、わかる?」

アタル,「寛容すぎんだろーーーッッッ!!!」

そんな貞操観念の危うい幼なじみメイドとともに、俺は新たな自分の部屋を片付け始めるのであった。

だが、その前に。

アタル,「あー、ごめん、5分だけ、外に出ててくれないか?」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「ぅん? よくわかんないけど、わかったよ」

……もちろん、ピュアなヒヨには刺激が強すぎる代物を隠蔽するためである。

…………

……

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ひよこ,「ふぅっ、片付いたねーっ、こんな綺麗な部屋、羨ましいなー」

アタル,「いや、どうだろ……広すぎて、逆に落ち着かなそうだ……」

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「そうかなー……うーん、そうかもね。確かに1人じゃ広すぎるかも……」

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ひよこ,「それなら、私も一緒にこの部屋に住もうかなっ」

アタル,「ぅえっ!?」

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ひよこ,「だって、アタルくん、この部屋、広すぎるんじゃないの?」

アタル,「い、いや、まぁ、確かに広いけど!」

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ひよこ,「私の荷物、そんなにないから、きっと邪魔にならないと思うよー」

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「それにベッドもあんなに大きいんだもん。ふたりだって寝れるよー」

ヒヨは無邪気に笑う。

女の子たちと一つ屋根の下で暮らし始めるだけで困惑してるってのに、さらにヒヨと同室だなんて問題ありだろ。ありありだろ。問題しかないだろ。

しかも、親御さん公認で煽ってるし……当の本人は、そんなこと、思ってもいないんだろうけどさ。

……俺はこんな早くから、人生の転換期を迎えたくはない。

だいたい、ヒヨは単なる幼なじみだ。

ミルフィ,「うん、なかなかいい部屋だったじゃない」

エリス,「さようでございますね」

エリス,「嗚呼、今晩から、自分はミルフィ様と同じ部屋で寝泊り……!」

ミルフィ,「ん? エリ、何か言った?」

エリス,「いえ、何も申しておりません」

セーラ,「まぁ、アタル様のお部屋、綺麗になりましたね~」

アサリ,「ですねー、爪の研ぎ甲斐がありますー」

アタル,「いやいや、研がないでください…………爪?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「ご満足いただけて、嬉しい限りです。では、今後、皆様はそれぞれの部屋で生活していただき――」

アタル,「あ、それなんですけど、柴田さん。ヒヨの部屋ってどうなってるんですか?」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「ひよこさんの部屋ですか?」

アタル,「まさか、俺と同じ部屋ってことはないですよね……?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「はは、いえいえ、まさか。ひよこさんはご自宅から通っていただくことになります」

ひよこ,「えっ……」

柴田,「もちろん、自宅までの送迎はさせていただきますよ。ご安心ください」

ひよこ,「あ……そうなんですか……ありがとうございます」

礼を告げつつも、ヒヨは肩を落としていた。

アタル,「あ、あの、柴田さん、その件なんですけど……」

柴田,「はい、何か?」

アタル,「ヒヨの部屋を手配してやってくれませんか」

ひよこ,「アタルくん……」

アタル,「い、いや、別にヒヨのためじゃないんですけど! えっと、離れてたら、いざ用がある時に困るじゃないですか」

柴田,「ふむ……それもそうですね。王のご命令とあらば、致し方ありません。空室はたくさんありますし、ひよこさんの部屋もご用意いたしましょう」

柴田,「では、空室を……ひよこさん、こちらへ」

ひよこ,「はーい。ありがとう、アタルくんっ」

アタル,「だから、別にヒヨのためじゃないって。メイドとして頑張って働いてもらうためだからな」

ひよこ,「うんうん、私、頑張るよっ」

足取り軽く、スキップでヒヨは柴田さんについていった。

ちなみに、スキップはちょっと調子外れで、うまくできていなかった。

家庭的なんだけど、リズム感は乏しいんだよな、ヒヨ。

ミルフィ,「ちょっと、ちょっと! アタル、どういうことよっ!ぴよぴよになんでそんな特別待遇してるわけっ!?」

アタル,「えっ? いや、別に特別待遇とかそんなつもりはないんだけど……」

メイドって普通、屋敷で暮らしている印象があったし。

これだけ広い家なんだ、ヒヨのひとりやふたり、増えたところでどうということはなかっただろうし。

それに……。

あんな嬉しそうに話していたヒヨが、いきなり落ち込むところを見ちゃうとな。

セーラ,「あっ、アタル様はもしかして~……ひよこさんのことがお好きなのですか?」

アタル,「なっ!? そ、そんなわけないじゃないですかっ!」

ミルフィ,「そうよね、明らかに、ぴよぴよだけ特別」

アタル,「ミルフィさんまで何を言い出すかな!俺とヒヨはただの幼なじみだって」

ただ長く一緒にいるから情が移っているだけであって、そ、そう、ペットとかと同じような感覚で――

ミルフィ,「まずは、それよ、それっ!」

アタル,「どれよ、どれっ!?」

ミルフィ,「他人行儀、禁止っ!」

ミルフィ,「あたしたちに敬意を払うのはいいけどね。でも、あなたは一国の主になった。王、王様なの」

アタル,「いや、だって、姫様ってのは、俺にとって、雲の上の存在だったわけで! いきなり頭を切り替えろって言われても無理ですよ!」

生まれてこの方、平民も平民、中のやや下くらいだった人間が、いきなり全身からセレブオーラ噴き出しているような人たちを目の前に、タメ口で話せと!?

セーラ,「そうです、そうです~。ひよこさんにだけ親しすぎて、妬いちゃいますよ~」

アタル,「え、いや、ちょっと……で、でも、お付きの方としては、そんな無礼、許しませんよね?」

エリス,「ミルフィ様が望むのであれば、自分は一向に構わないですが? もちろん、一従者でしかない自分は、アタル王には敬意を払わせていただきます」

ぐ……!

アサリ,「アサリ的にも、セーラ様をどう呼ぼうとも別に構いませんよー」

アサリ,「第一、アサリはセーラ様の従順なシモベというわけではないですからねー」

アタル,「……そうなんですか?」

アサリ,「はいー。いわゆる雇われの身なのですよー。まー、とはいえー」

アサリ,「セーラ様に危害を加える者には、一切の情けもかけませんし、容赦もしませんけどねー♪ お仕事なのでー」

スッと、室内の温度が氷点下まで下がった気がした。

アサリ,「なーんてー、なーんちてー、あはー♪」

アタル,「はっ……!」

ピコピコッと、アサリさんの耳と尻尾が動くと、冷え切った氷点下の部屋は、急速に常温へと戻る。

……なんだ、今の。

今まで生きてて初めて感じたけど、すごく攻撃的な空気っていうか……一瞬で肺の中にあった空気を空っぽにさせられたような感覚。

今のもしかして、殺意、っていうんだろうか。

エリス,「………………」

エリスさんが凄まじい形相で、アサリさんを睨んでいた。

アサリ,「あらあらー、やめてくださいよー。そんな目で見たりしたらー、アサリ――」

アサリ,「――エリスさんを敵と認識しちゃうかもですよー?」

エリス,「……ふんっ……敵だとしたらどうするつもりだ……?」

従者の2人の間で、決して目には見えない火花が散った。

ミルフィ,「ちょ、ちょっ! エリ、何してんのっ!セーラ、あんたも止めさせなさいよっ!」

セーラ,「は、はい~! ア、アサリさん、ケンカしちゃダメですよ~」

アサリ,「あはー、そうですねー、無益な殺生をしてもどうにもなりませんよねー」

エリス,「ほぅ……オマエにこの自分を殺せるとでも?」

アサリ,「そーですねー、ヤッてみないとわかりませんよねー」

ミルフィ,「エリ! やめなさい!」

エリス,「はっ……失礼しました、ミルフィ様」

セーラ,「アサリさんっ! やめてくださいっ!」

アサリ,「はーい、やっぱりお上には逆らえないですねー」

2人の間を走っていた火花が霧散する。

アタル,「ふぅぅ……」

たちこめていたピリピリとした空気が穏やかになり、俺は大きく息をついた。

とりあえず、アサリさんとエリスさん、ともに逆鱗に触れると、大変危険なことになりそうだということはよくわかった。

そうだよな……一国の姫様の付き人、護衛なんだもんな。

生半可な能力じゃ、護衛なんてできやしないってわけだ。

そんな2人が俺の傍にいてくれてるっていうのは、心強いのかな?

俺のことを守ってくれるわけではないだろうけど。

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柴田,「では、とりあえず、みなさんのお部屋が決定したことですし、次はこの屋敷の施設をご案内いたしましょう」

柴田,「これからの皆さんの生活の場となるわけですから、覚えてくださいね。多少広いですが、過ごしている内に覚えると思います」

そして、俺たちはこの広さが多少どころではないことを思い知る。

……

…………

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柴田,「コチラが入ってきたエントランスになります。まぁ、入ってきた場所ですから、覚えておいでとは思いますが」

アタル,「まぁ、さすがに……そうですね」

さっきいた俺の部屋から、ちょっと廊下を歩いただけ。

これくらいならば、さすがに迷わない。

ひよこ,「はい、大丈夫ですっ」

ヒヨは力強く頷く。

女性は方向音痴な人が多い、というのを何かで呼んだ覚えがあるのだが、どうやらヒヨはその心配は全くないらしい。

ミルフィ,「うむっ、全然平気だな」

セーラ,「まぁ、皆さんすごいですね~……私はもう頭の中がごちゃごちゃになってます……アタル様は大丈夫ですか~?」

アタル,「えっ!? え、ええ! 大丈夫ですよ!まだ、なんとか……多分」

セーラ,「まぁ、心強いです~。迷ってしまいそうな時はアタル様にお願いすれば大丈夫ですね~」

アタル,「あ、あー……そう、です、ね?」

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柴田,「では、こちらを通りまして――」

……

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柴田,「コチラが食堂になります」

アタル,「はぁ~……」

こらまた映画やドラマでしか見たことのない、長ーいテーブルが置いてある。

だいたい、こういうテーブルの上には豪華な食事が立ち並ぶんだよな。

そんなことを思い浮かべていたら、思い出したように、腹が鳴った。

アタル,「……すみません」

柴田,「はは、もうお昼ですからね。仕方もありません」

ひよこ,「そうだよねー、私もお腹空いちゃったよ」

セーラ,「うふふっ、恥ずかしながら、私も」

ミルフィ,「何よもう、ここには腹ペコキャラしかいないのかしら。まったく嘆かわしいわね。あたしみたいに高貴な身分ともなれば――」

ふんぞり返っていたミルフィさんの腹部で、腹の虫が一声鳴いた。

ミルフィ,「……あ、あー、そのー、い、今のはね!なんでもないのー!」

ミルフィ,「う、うん、あたしはそれほどでもないんだけどー、ね、エリ、エリもお腹すいたわよね?」

エリス,「はぁぁ……ミルフィ様……本当にお可愛くていらっしゃる……!」

エリス,「ええ、自分はお腹ぺっこぺこですとも!」

ミルフィ,「そう、そうよねー。こんな時間だもん、仕方ないわよねー」

ミルフィ,「柴田、エリの――そうそう、エリのためによ?早いところ、ランチを準備してくれるかしら?」

アサリ,「アサリもおなかぺっこぺこですよー。早く、ニッポンのご飯にありつきたいですよー」

まったく隠そうともしないのは、アサリさん。

セーラ,「あら、アサリさんは、船内で朝食を召し上がってませんでしたか~?」

アサリ,「アサリは燃費が悪いのですよー。すぐにお腹がすいてしまうのですよー」

柴田,「了解しました。今、厨房では食事の支度をしております」

柴田,「申し訳ありません、姫様方がご来日ということで、腕によりをかけたお料理をご用意しているのですが」

柴田,「如何せん、初来日にふさわしい料理となると時間がかかってしまいまして」

柴田,「一通りご案内が済んだ頃には、支度が整うと思いますので、それまで今しばらくお待ちくださいませ」

ミルフィ,「そう、そうなのねー。じゃ、早いところ、案内して頂戴。お腹すいて倒れたら困るでしょ? その、エリが」

早く案内したところで、料理のできあがる時間は変わらないと思うんだけどな。

……そこからが長かった。

リビング。

各自の部屋。

浴場。

他にも厨房、トイレ(6ヶ所)の場所だとか、客間だとか、書斎・資料室だとか、何やら何やらまぁ、その他もろもろ。
ショッピングモールじゃないから、個々の場所に向かうための案内板が出ているわけでもない。

アタル,「ひ、広い……」

とにかく、だだっ広い屋敷だった。ちょっとした巨大迷路だ。

アタル,「これはさすがに覚えるのが大変だな……まぁ、おいおい覚えるだろうけど……」

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ひよこ,「え、そうかな?」

しれっと、ヒヨは言い切る。

アタル,「……ヒヨ、今までの場所、全部覚えてるのか?」

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「うん、これくらいなら、なんとか、ね」

セーラ,「では、ひよこさん、あそこの角を曲がって、突き当たりには何があります?」

ちなみに俺は覚えてない。

ひよこ,「えーっと、あそこを曲がったら……お風呂場じゃないかな?」

アタル,「セーラさん、合ってます?」

セーラ,「いえ、私も覚えてないんですけど~」

アタル,「おいおい」

アサリ,「では、アサリがひとっ走り確認してきましょー」

アサリさんは足音もなく、廊下を駆け出す。

一瞬でトップスピード。

その軽やかさは容姿通りの猫の走りを彷彿とさせた。

間もなくして、アサリさんは角を曲がって、戻ってくる。

アサリ,「おー、ひよこさん、お見事でしたー。確かにこの先はお風呂場でしたよー」

ひよこ,「えへへ、昔から土地勘には自信があるんです」

ヒヨの脳にはGPSでも搭載されてんのか。

女の子って地図が読めなかったり、男とは脳の構造がちょっと違うとか何とか、本か何かで読んだ気がする。

ま、場所の把握がしっかりしているならば、ここで働くメイドとしては、心強いことこの上ない。

ミルフィ,「ふぅ、ふぅ……歩き疲れちゃったわよぉ……まったく……あたしをこんなに歩き回らせるなんて、いい度胸してるじゃない……」

エリス,「ミルフィ様、肩を貸しましょうか」

ミルフィ,「そ、そうね、それじゃ、ちょっと……って、エリ、なんでしゃがむの?」

エリス,「え? 肩をお貸ししようと思いましたので、肩車の準備をしただけですが」

ミルフィ,「そこまでしなくていいわよっ! 大丈夫っ、歩くっ」

…………

……

屋敷の一通りの案内が済んだ頃には、すっかり昼飯時だった。

ミルフィ,「お腹が空いたんだけど、ご飯はどうなってるの?厨房で何か作ってたみたいだけど」

アサリ,「あ゛ー、アサリ、おなかぺこぺこですよー。これ以上空腹になったら、見境なくなんでも食べちゃいますよー」

厨房の前を通った時、芳しい香りが漂ってきて、腹ペコ中枢が刺激されまくったのだ。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「大変お待たせしました、準備ができたようです」

台車に載せられ、料理が運ばれてくる。

様々な香辛料が入り交じった芳しい匂いが食堂に広がる。

メイドさんやコックが運んできた料理を、柴田さんが手際よく片っ端から並べてゆく。

大ぶりのエビカニホタテがどっさりとのった海鮮サラダ。

てんこ盛りの、ベーコンとパセリ混じりのマッシュポテト、スクランブルエッグと温野菜。

ローストビーフと生ハムがドンッと肉の塊ごと現れ。

ふかふかと湯気を立てる、焼きたてのデニッシュ、ロールパン、クロワッサン。

野菜たっぷりのミネストローネスープ。

目の前に昼飯とは思えない豪華な料理がズラリと並んだ。

ひよこ,「うわぁ……♪」

アサリ,「わー、すごいですねー」

女性陣の口から、感嘆の声が漏れる。

アタル,「こんなに食いきれるのか……?」

柴田,「さ、どうぞお召し上がりください。お取り分けの際は遠慮なく私にお申し付けください」

セーラ,「一品一品出されるのではないのですね~?」

柴田,「ええ、皆さんの交友関係を深めようと思いまして。フルコースをお出しするよりも、皆さんでお取り分けした方が、親密な感じがしませんか?」

柴田さんはローストビーフをナイフで切りながら、切り分けた1枚1枚を手際よく皿に盛ってゆく。

ローストビーフの表面数mmは、綺麗な焼き色がついていて、肉汁溢れる断面は赤みの強いピンク色。

その厚みは、ローストビーフとは思えないほど分厚い。

今までに俺が食べたローストビーフって、向こう側が透けるんじゃないかってくらいに薄かったぞ?

そして、その上から褐色のソースをかけ、至高の一皿が完成する。

……ごくり。

見てるだけで喉が鳴り、俺の食欲は最高潮の有頂天となる。

昨日の夜から、何も食べてないんだもんな。全身が、早くカロリーをよこせと疼いていた。

アタル,「それじゃ、いただきまー――」

#textbox Khi0280,name
ひよこ,「ダメだよ、アタルくん。いただきますは、みんな揃ってから」

アタル,「むぅ……」

目の前に肉をぶらさげられながらも、ヒヨにお預けを食らう。

柴田さんが切り分けるのをもどかしく思いながら、フォークとナイフを片手にじっと待機。

そして、ようやく全員の目の前に揃って。

アタル,「いただきます!」

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「いっただきまーす」

ミルフィ,「いただきます」

セーラ,「いただきます~」

エリス,「いただきます」

アサリ,「いただきますー」

それぞれがそれぞれ、食事に感謝して、目の前の料理へ食いついた。

セーラ,「まぁ~、美味しいですね」

ミルフィ,「……うん、なかなかじゃない。ニッポンの料理も捨てたもんじゃないわね」

この料理のラインナップだと、ニッポンの良さはどこにもないけどな。

とはいえ、美味しいことに違いはない。味付けもニッポン人好みにできているのだろう。

ひよこ,「あれっ、柴田さんは食べないんですか?」

柴田,「皆様のお食事が終わった後、私はゆっくりと」

アタル,「そうなの? 柴田さんも一緒に食べればいいのに。1人だと、せっかくの料理も味気ないでしょ」

柴田,「いえ、一介の使用人が主と席をともにするのは、マナーに反しますからね。私は皆様の食事が終わった後でゆつくり致しますので、お気になさらず」

ひよこ,「えっ、えっ、それじゃ、私も一緒に食べちゃ駄目かな?」

柴田,「アタル王が許可されているのでしたら、全然構いませんよ。私は自分への矜持としていますので」

ひよこ,「うーん……アタルくん、一緒に食べてもいい?」

アタル,「……今更、何言ってんだ。そのままここで食べてればいいだろ?」

俺はローストビーフを口に運びながら一言。

ひよこ,「あは、ありがと。アタルくん。うんっ、美味しいねー」

もぐっもぐっと嬉しそうに口を動かしつつ、パンを食む。

今更、そんな他人行儀になられても困ってしまう。

エリス,「ミルフィ様、口の横にソースがついております」

ミルフィ,「え、ホント? 取って取って」

セーラ,「美味しいですね、アサリさん」

アサリ,「ですねー。この生ハムなんて、本当に絶品ですよー。そのまま齧りたいくらいですー」

姫様方も、ご満足いただけているらしい。

#textbox Ksi0160,name
柴田,「お食事の最中ですが、アタル王。今後のご予定ついてですが」

アタル,「んむ?」

口の中にエビを詰め込んだまま、柴田さんの方を振り返る。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「お食事の後、午後からはアタル王のタイカンシキがあります」

アタル,「むぐむぐ……タイカンシキ?」

とっさにその単語が、脳内変換できなかった。

今日は起きてから聞き慣れない言葉ばかりで、俺の脳内変換キーは誤変換を起こしまくっている。

柴田,「はい。アタル王が、正式に王となるための儀式です。アタル王に王冠を授けることで、正式に王となるのです」

アタル,「……ああ、なるほど、戴冠式か……」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「また、この戴冠式で各国の首脳と顔合わせとなります。戴冠式の光景は全世界に中継されますので、晴れて、全世界デビューですよ」

アタル,「各国首脳……えっと……つまり、お偉いさんが?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「ええ、アタル様に会うため、既に来日されています。何名かは既に王宮に招待されていますよ」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「先程、王宮内をご案内していた間も何名かすれ違いましたが、お気づきになりませんでしたか?」

アタル,「うぇえぇ……」

俺たちが案内を受けている間に、世界の要人がここに来てたっていうのか。

部屋の配置や王宮の構造を覚えるのに一生懸命で、人の方にまで気が回っていなかった。

でも。

彼女たちだって、世界の要人なんだよな。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「本来、姫様方も、戴冠式に合わせていらっしゃるはずだったのですけどね」

アタル,「……え? そうだったの?」

ミルフィ,「え? ええ、まぁ、そうね」

セーラ,「本当はそうだったのですけど……アタル様に一瞬でも早くお会いしたかったので……」

ミルフィ,「そ、そうそう! あたしもそうだったの!」

彼女の取ってつけたようなフォローはなんだろう。

アタル,「お姫様方がそうまでして俺に会いに来てくれるなんて恐縮です」

アタル,「でも、それがなければ、俺の家が木っ端微塵に吹き飛ぶこともなかったんだよなぁ?」

ミルフィ,「ぎくっ? い、いいじゃない、別にっ。アタルの家にあったものは全部無事だったんでしょ? 何もなくなってないんでしょ?」

アタル,「開き直るなぁッ! 家が吹っ飛んだ瞬間の俺の絶望感たるや、どれほどの物だったかわかるかッ!?」

ミルフィ,「わからないわよ! だって、全部無事だったんでしょ? 今はこんないい家に住んでるでしょ! 結果オーライにも程があるじゃない!」

アタル,「今までの思い出が全部消し飛んだんだぞ!?目に見えないいろんなモノがなくなったんだぞ!?ニッポン人のわびさびがわからないんだな!」

ミルフィ,「ワサビもショウガもわからないわよ!だって、ニッポン人じゃないもんっ!」

エリス,「ドウドウ。姫様、落ち着いてくださいませ。アタル王の好感度が、目に見えて、下がっていますよ」

ミルフィ,「んぐっ……!」

ミルフィ,「えっと、アタル……怒った……? えへ」

アタル,「そう感じたなら、言うことがあるだろ」

ミルフィ,「……え? エ、エリ、あたし、何を言えばいいの?」

エリス,「アタル王は謝罪を要求していると思われます」

ミルフィ,「え、謝らないといけないの!?あたし、悪いことしてないわよ」

アタル,「人の家を吹き飛ばして、悪びれる様子もなしかい」

ミルフィ,「だ、だって、アレは偶然触っちゃって、当たっちゃっただけなんだから! あたしは悪くないのっ」

ミルフィ,「自分が悪くもないのにぺこぺこ頭下げるのは、ニッポンだけの文化よ! もういい! ごちそうさま!」

ミルフィはガタッと椅子を跳ね飛ばす勢いで立ち上がり、食堂を後にする。

エリス,「失礼」

それに続いて、付き人のエリスさんも後にした。

テーブルの上に残されたのは、ミルフィの食べかけ料理。

アサリ,「あーららー、もったいないですねー。残すともったいないので、アサリが食べちゃいましょー」

アタル,「なんだよ、ありゃ」

たかだか一言、ごめんっていうだけじゃないか。

柴田,「異文化交流ですよ」

柴田,「ニッポンは謝罪の文化がありますが、必ずしもそうでない国もあります。むしろ、ニッポンのように謝罪に満ち溢れている国の方が少ないですからね」

柴田,「ミルフィ様にとっては、ただ一言謝ることが、苦痛であり、羞恥なのでしょう」

アタル,「といってもなぁ……」

あいにく、ミルフィの国の文化は知らないが、郷に入りては、郷に従ってほしいものだ。

……あれ? いつの間にか、ミルフィって呼び捨てにしてるな?

ま、いいか。いくら姫だとはいえ、あんなワガママ娘に敬意を払ってやる必要なんてあるもんか。

セーラ,「ご自分が悪いとわかっているからこそ、謝れないんじゃないでしょうか。ふふっ、意地っ張りなミルフィさんも、可愛いですよね」

セーラ,「あ、ライバルのことをあまり褒めちゃ駄目ですよね~……うふふっ、これも美味しいです~」

セーラさんは、もくもくとご飯を口に運ぶ。

うん、物腰柔らかな彼女に対しては、未だ『~さん』付けなのだ。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「ま、何はともあれ。各国の要人がいらっしゃるくらい、ニッポンが世界に及ぼす影響力は大きいと言うことです」

否が応にも、しかめっ面になる。

アタル,「……さすがに、国際問題になりかねないことは避けておこうかな」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「はは、それが懸命ですね。戴冠式の際には私が差し出す王冠を被っていただければ、それだけで結構ですので」

アタル,「それだけって言われても、失敗したら大事だよな……」

手を滑らせて落としてしまったりだとか。

落ちた王冠が誰かに当たって、あまつさえ怪我させて、国際問題に発展したりだとか。

予期できない些細な事故が、世界に対して大きな波紋を生む可能性がある。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「あまり不安がらずとも大丈夫ですよ。仮にどのような失敗をしてしまったとしても、我々が国をあげて、全力でフォローしますので、お気になさらず」

そう言われても、だ。

数時間までごく普通、ごく一般的、平々凡々な生活を送っていた俺が、そんな立場を与えられたと言われても、納得できるはずもなく。

ここまでの状況に追い込まれても、夢の中のような、雲の上のような、未知で不安な話でしかない。

アタル,「とりあえず、王様って、何をすればいいんです?」

柴田,「何かをしてもいいですし、特に何もしなくても結構です」

アタル,「……めちゃくちゃ曖昧だ……」

柴田,「アタル王は国の象徴であればよろしいのですよ」

アタル,「象徴ねぇ……」

それも曖昧だ。

柴田,「それでは、お食事が終わりましたら、お着替えを。ひよこさん、お手伝いをお願いいたします」

ひよこ,「あ、はーい」

アタル,「お、おい!? ヒヨ、平然と返事してるけど、着替えを手伝うってなんだよ?」

ひよこ,「え――そ、そっか、そうだよねっ、あの、柴田さん。着替えのお手伝いってどんなことするんですか?」

柴田,「どうということはありません。マントや礼服は重いですからね。支えていただくような感じで」

ひよこ,「あ、あー……はい、そのくらいなら……」

……ヒヨは一体どこまでを想像していたんだろうか。

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「はーい、アタルくーん、パンツですよー」

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「はい、足上げてー。ぬぎぬぎしましょうねー♪」

……どんなプレイだ……。

…………

……

たっぷり1時間ほどかけて、大変豪華なブランチタイムは終了した。

アタル,「ふぅ……食った食った……もう食べられないや」

たくさんの料理を詰め込みすぎて、ぱんぱんに膨れ上がった腹をさする。

#textbox Khi0280,name
ひよこ,「アタルくん、お行儀悪いよー。食べ終わったら、ごちそうさま、でしょ?」

アタル,「ごちそうさまでした」

両手を合わせて、一礼。

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「はい、ごちそうさまでした」

ヒヨもそれに倣うように一礼。

セーラ,「ふぅ、私ももうお腹いっぱいです~……ごちそうさまでした」

アサリ,「アサリはまだごちそうさましませんよー。まだ残ってるじゃないですかー。もったいないですよー」

テーブルの上のまだ残っている料理を、アサリさんがぱくぱくと片付けている。

1口目からから一切、ペースを落とすことがない。アサリさんのあの小さな体のどこに消えているんだろ?

#textbox Ksi0110,name
柴田,「皆様がどのくらい食べるかわからなかったので多めに用意したのですが、このくらいでちょうど良かったようですね」

アサリさんがあんなに食べる人だとは予想できなかった。

早々に席を立ってしまったミルフィとエリスさんはあまり口にしてないだろうに。

……まぁ、いいか。アレに関しては、自業自得だ。うん。

そんなわけで、おいしい料理に舌鼓を打ち続ける、楽しいお食事タイムを終えたわけだが。

食べ過ぎて出っ張ったお腹を見て、一抹の不安が過ぎる。

王様って毎日、こんな豪勢な物、食べてるの?

こんな豪勢な食事をしていたら、あっという間にメタボ体型の完成じゃなかろうか……。

……ああ、そうか。

童話に出てくる王様が皆、割腹のいい理由がわかった気がした。

…………

……

自室に戻った俺は、柴田さんとヒヨの助けを受け、王様の礼服へと、お色直しさせられた。

――わけだが。

ひよこ,「わぁっ、アタルくんかっこいい! 王様みたいだよ!……って、王様なんだよね」

柴田,「よくお似合いです」

アタル,「そ、そうか……なぁ……?」

王様のテンプレートのような赤いビロードのマント。

キラキラと銀糸の輝くスーツ。

全身を映す大鏡で自分の姿を見て……ため息が漏れる。

まかり間違っても、俺に似合っているとは思えないんだけどなぁ。

『服を着ている』というよりは、『服に着られている』というべきか。

ハンガーには勝ってるかもしれないが、マネキンとはどっこいどっこいじゃなかろうか。

服と俺、どっちが本体だかわかったもんじゃない。

馬子にも衣装、ってやつなんだろうか。

このまま逃げ出したい気分だけど、さすがに、そういうわけにはいかないよなぁ……。

俺がこうやって着替えている間も、ヘリコプターだったり、ジェットだったり、外からは様々な爆音が聞こえてくる。

世界各国の要人が、今、ここに一同に介しているのだ。

喉が乾くのも当然なわけで。緊張するのも当然なわけで。

アタル,「ちょ、ご、ごめ、トイレ行ってくる」

ひよこ,「アタルくん、さっきからトイレ3回目だよー?」

アタル,「おかげさまで、トイレの場所はもうすっかり覚えたよ」

…………

……

アタル,「うー、漏れる漏れる」

3度目のトイレに向かうその道中。

#textbox Kmi0250,name
ミルフィ,「あ、アタル……」

アタル,「……お」

たまたま廊下にいたミルフィと向き合い。

そして、すれ違った。

別にかける言葉もないし、トイレに向かうため、急いでいたからだ。

――さっきの気まずさから、とかそういうわけじゃない。

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「アタル」

すれ違ったにもかかわらず、後ろから声をかけられる。

アタル,「な、なんだ?」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「お偉いさんの前で、無様な姿は晒さないようにね。それと――」

#textbox Kmi02A0,name
ミルフィ,「――その服、似合ってるわよ」

アタル,「お、おう? あり……がと」

それだけ言って、去ってゆく。

俺なんかより、ずっと落ち着き払っていた。

当事者じゃないとはいえ、一応は一国の姫、ということなのかな。

…………

……

用を済ませ、俺は自室に戻る。

柴田,「アタル王、全ての用意は整いました。あとはアタル王の指示ひとつで、始まります」

アタル,「う、うむ」

ひよこ,「頑張ってね、アタルくんっ」

…………

……

再度廊下を出て、自分の部屋からホールへと繋がる道。

過剰に心臓を高鳴らせながら、俺は戴冠式のおこなわれるエントランスホールへと向かう。

#textbox Ksi0110,name
柴田さんがエントランスへと続く扉を開ける。

そこには大勢の人がいて、皆は盛大な拍手で俺を出迎えてくれた。

ミルフィ、セーラさん、そして、お付きの2人もその中に入り交じっている。

あとは面識のない人ばかり――でも、テレビやら新聞やらどこかで見たことある顔がチラホラ。

#textbox Kba0110,name
……うわ、なんだあの人。あの人もどこかの王様なのか?

そんなロイヤルオーラを全身から放っている人たちがいる中を、ただまっすぐに突き進む俺。

……何様だよ、なぁ。

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「ほらほら、王様。あんまりきょろきょろしちゃ駄目ですよっ。もっとしっかり胸張らないと」

俺の後ろにいるヒヨが小声で囁く。何様も何も、王様だった。

アタル,「そう言われてもさ……」

こんな中に放り込まれても、物怖じしていないヒヨに感心する。

そして、俺は全員の注目の視線を背中に浴びながら、階段を登り、そし、マントを翻して、振り返る。

上段から見下ろすこの光景に、幾許かの興奮を覚える。

そうか、俺は――

――この国の王様になっちゃうんだ。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「アタル王、これを」

恭しく跪く柴田さんの両手の布の上に置かれている王冠。

卒業式に、卒業証書を授与される時のように。いや、その時と比べ物にならないほど、手を震わせつつ。

俺は王冠を両手で受け取り、それを自らの頭へと載せた。

俺のために作られたかのようなぴったりサイズ。

#textbox kba0110,name
王様?,「おお……」

#textbox khi0290,name
ひよこ,「わぁ……」

ホールは割れんばかりの拍手の洪水に包まれ、俺に向けて、フラッシュの雨が浴びせられる。

こうして、今、ここに。

新たなるニッポンの国王が誕生したのであった。

…………

……

続いて、各国首脳たちとの面談がおこなわれる。

俺を取り囲むのは、どこかで見た偉そうな人たちだ。

柴田さんがひとりづつ案内し、俺の前へと連れてくる。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「アタル王もご存知と思いますが、コチラは合衆国大統領です」

アタル,「は、はばないすでー。ないすとぅーみーちゅー」

差し出された手を、握り返しつつ、ジャパニーズイングリッシュ全開かつ、不器用な笑顔で話しかける。

でかい手だった。コキャッと握り潰されてしまいそうだった。

しかし、初めてのネイティブ英会話が、他国の大統領ってこんな奴、俺以外にいるのか? ハードル高すぎるだろ。

柴田,「ニッポン語で結構ですよ、アタル王。通訳はお任せください」

柴田,「ぺらぺらぺーら、ぺらぺらーら」

大統領,「Oh、ぺらぺらぺーららぺらぺらりんこー!」

一応、何年か英語を勉強してるはずなんだけどな。単語すら、まともに聞き取れなかった。

多分、『リンコはぺらぺらの紙のようです』って話をしてるんだと思う。ウソ、それはない。

#textbox Ksi0140,name
柴田,「HAHAHAHA!」

大統領,「HAHAHAHA!」

アタル,「ハ、ハハハ……」

何を言ってるのかさっぱりわからないので、俺は不器用な愛想笑いを浮かべるしかできなかった。

とまぁ、こんな調子で、ひとりひとりと握手をして、挨拶を交わして。

もちろん、全員知ってる顔というわけではなかった。

ニッポンよりも遥かに小国であったり、国のトップではなかったり。(といってもナントカ大臣級である)

それぞれの国からやってきた代表と握手を交わす度に、フラッシュが光る。

この光景が、それぞれの国の新聞やらテレビで報道されちゃうんだろうか。考えただけでもゾッとするので、思考を停止して、この場を乗り切ることにした。

そんな数多の権力者がいる中、一際目立つ男がいた。

筋骨隆々かつ精悍な巨躯。一目見た瞬間、格闘家かと思った。

その近寄り難い、ガタイのいい男にセーラさんは、何の警戒心もなく近づき、そして、笑いあう。

知り合いか?

どう見ても『美女と野獣』って取り合わせだけど。

セーラ,「お父様~」

バルガ,「おお、愛娘セーラよ」

アタル,「おとっ……!?」

お父様? 今、お父様って言った!?うえぇえぇぇっ!?

セーラさんに、この男の遺伝子が通ってるのか!?

そ、そうか、お母さんがよっぽどの美人なんだろうな。良かったな、お母さん似で!

柴田,「アタル王、セーラ姫様のお父上、クアドラント王国国王、バルガ様です」

バルガ,「お初にお目にかかる、アタル王」

アタル,「は、はじめまして……」

目の前にいられるだけで、凄まじい威圧感。

多少見上げてる程度の身長のはずなのに、まるで前人未到の大山を目の前にしているかのように思える。

差し伸べられたバルガ王の手を握り返す。

アタル,「ぐ……!」

今までに握った誰の手よりも大きく、重く、力強い気がした。

クアドラントはそんなに有名な国じゃない。正直、セーラさんに出会うまで、記憶の隅にすらなかったくらいだ。

国力でいったら、あちらの合衆国やそちらの共和国の方が遥かに強いはずなのに、個人では、このバルガ王が明らかに格上だった。

少なくとも、駆け出しも駆け出し、ひよっこ王様の俺なんかでは到底太刀打ちできない。

バルガ,「我が娘を頼むぞ、アタル王」

アタル,「あ、は、はぁい……」

俺の口から空気漏れしたようなヘタレた声が漏れた。

バルガ,「親バカだと罵られるかもしれんが、セーラは我が娘ながら、器量もよく美しい。何ゆえ、未だに嫁の貰い手がおらぬのか不思議に思っていたものよ」

アタル,「未だにって……セーラ姫はまだお若いではないですか」

バルガ,「我が国は早婚でしてな。セーラの年ならば結婚していて当然なのだよ」

バルガ,「しかし、ニッポンも昔は早婚だと伺っておるがな。群雄割拠の時代は、年端もいかぬ子供同士でも結ばれたと聞く」

一体いつの話をしているのかと思ったら、戦国時代か。

あの頃は、14歳で元服して、すぐに政略結婚させられて……っていうのが、普通の時代だったみたいだしな。

今のニッポンは法律で、男子は18歳以上、女子は16歳以上って定められているんだし。

※注:この作品に出ているキャラクターたちは、全員18歳以上です。

セーラ,「お、お父様……」

バルガ,「セーラの下の妹は全て嫁いだというのに、このセーラだけは未だ身持ちが固くて困る」

セーラ,「お父様、そ、その、私は、妹たちの旦那様のような素敵な方とまだお会いできていないだけです~」

バルガ,「ふむ、で、どうだ。アタル王はオマエのお眼鏡にかなったのか?」

セーラ,「そういう言い方をなさらないでください……あの……」

バルガ,「どうした、セーラ? 言わねば伝わらぬぞ?」

セーラ,「はい……思い描いていた通りの素敵な方です……」

セーラさんは頬を赤く染め、顔を背ける。

バルガ,「ほう、セーラはアタル王のことが気に入ったようだ。よろしくしてやってくれ」

セーラ,「も、もう、お父様ったら……ポッ」

アタル,「……光栄です……」

綺麗な女の子に気に入られるのは、嬉しいんだけど。

それがお父さん公認で。

しかも、そのお父さんは、こんな筋骨隆々。

仮に彼女と結婚するようなことになったら、俺は彼をお義父さんって呼ぶことになるのかと思うと、手放しで喜べない、とても複雑な気分。

バルガ,「今晩にでも、セーラを気に入ることになるであろう。セーラのことを可愛がってやってくれたまえよ」

マントを翻し、バルガ王は俺の前から引く。

セーラ,「も、もう、お父様ったら……」

……今晩?

バルガ王が去った後も、ぞろぞろとお偉いさんたちはやってくる。

アタル,「ぐ、ぐーてんもるげん?」

その後も柴田さんの通訳に頼りながら、各国お偉いさんたちとの面会は終え――

戴冠式は無事に終了したのである。

…………

……

アタル,「ふぅうぅぃぃ……」

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「お疲れ様、アタルくん」

テレビの中でしか見たことないような人たちと顔を合わせまくった……。

王様に当選するって、本当にド偉いことだよなぁ。

生きた心地のしない式を終え、俺は燃え尽きていた。

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「そういえば、ミルフィさんのご両親はいらっしゃらないんですか?」

ミルフィ,「あたしのお父様はお忙しいからね」

ミルフィは一瞬だけ、寂しい笑みを浮かべた。

その笑みと言葉に、何かが引っかかった。

ミルフィ,「だから、イスリアの代表はあたしが務めるわ」

ミルフィ,「イスリア王国、第一王女、ミルフィ・ポム・デリング。よろしくね、アタル」

アタル,「……ああ、うん……」

差し伸べられた手を握り返しはするものの、やはり彼女に対して、あまりいい感情は持てず、どうしてもぶっきらぼうな返事になってしまった。
柴田,「では、アタル王、続いてはパレードになります。国民への、新王のお披露目ですよ」

アタル,「ちょっと待って! 俺は見世物になるつもりなんて」

どこぞのテーマパークの、エレなんとかパレードか?

ひよこ,「もう手遅れだよー。写真だっていっぱい撮られてたじゃない。さ、さ、王様、王様、早く行きましょうー」

ヒヨにも背中を押され、俺は外へと連れていかれ――

…………

……

晴れ渡った空のもと、高級車はゆっくりゆっくりと。

大量の警護のバイクや車に囲まれつつ進む。

パン! パン! と祝福の花火が鳴り、紙吹雪が舞う。

国民,「アタル王、バンザーイ!」

国民,「バンザーイ!」

国民,「バンザーイ!」

国民,「バンザーイ!」

俺の王様就任を祝う万歳三唱が響き渡る。

アタル,「はぁ……」

柴田,「どうしました、アタル王。毅然としていただかなくては困りますね」

溜息のひとつも、つきたくなるわ。身分不相応にも程がある。

呪詛はなんとか吐き出さずに堪え、もう一度溜息を漏らす。

――そんな落ち込んでいる俺が、周囲の細かな機微に気づくはずもなく。

ましてやそれがプロの仕業ともなれば――

パン! パン! と、頭上で鳴り響く花火の音に入り交じり。

俺の耳の横を何かが走り抜けていった。

アタル,「ん――?」

感じたのは強風のような、衝撃波のような。

虫か何かか? と思うよりも早く、次の瞬間。

俺の載る車のフロントガラスに、まるで雪の結晶のようなヒビが入った。

そのサイズは直径5cm程度。

アタル,「……んなっ!?」

そのヒビを入れた物体は威力を殺したフロントガラスから落ち、柴田さんの手に握られる。

柴田,「超強化防弾ガラスですから、どのような物であっても、このガラスを貫通することはできませんよ」

柴田さんの手袋に握られていたのは、ひとつの小さな円筒形の鉄塊――銃弾だ。

今、それが飛んできた!? 俺の後ろから!?

空を切り裂く音が聞こえるほどの、俺の至近距離を通過して!?

柴田,「ですが、後ろからの狙撃となると、さすがに無駄になってしまいますね」

アタル,「し、柴田さんっ!? こっ、こ、これって!?」

柴田,「その昔――某合衆国大統領がパレードの最中、同じような事件に遭遇していますよね」

柴田,「すなわち、アタル王の暗殺です」

アタル,「あっ、あんさっ――!」

柴田,「お静かに、アタル王。幸い、沿道の国民は現状にまだ気づいていません」

柴田,「下手な情報流布はパニックを招きます。このままお静かに」

柴田さんはこんなことが生じても、前を向いたまま。おそらくはその表情も笑顔だ。

確かに、沿道の人たちは何も変わらず俺に対して、祝福してくれている。

アタル,「銃声も何も聞こえなかったぞ」

柴田,「サイレンサーをつけているのでしょう。それに加え、花火と音を合わせて撃ってきたので目立たなかったのだと思われます」

柴田,「しかし、危なかったですね。アタル王に命中していたら、今頃、大事でしたよ」

アタル,「オオゴトって――」

現状でも十分大事じゃないのかよ?

当然、この柴田さんの手に握られている弾丸が、俺の頭に命中していたら。

今頃、俺の頭はスイカ割り時のスイカのように、はじけ飛んでいたに違いない。

アタル,「や、やだっ! こんな人殺しがいるところになんていられるか! 俺は――」

降りようとしたものの、座っている椅子にはロックがかかっていて、立ち上がることさえ許されない。

#textbox ker0110,name
エリス,「アタル王、落ち着かれますよう」

#textbox kas0130,name
アサリ,「狙撃場所は特定しましたー。少々お待ちくださいー」

俺の載る車とすれ違いざまにエリスさんとアサリさんは呟き、そして、一点を見つめて、駆け出した。

#textbox kas0180,name
アサリ,「よいー……しょっとー!」

アサリさんはレンガ塀に足をかけると、次の一跳躍で隣のビルの屋根へと乗り、その次の一跳躍で更に次のビルへと飛び乗る。

女性客,「おおおっ!? 何、今の猫っ!?」

その目にも止まらぬ身軽さに、沿道の国民たちも目を奪われていた。

まさに猫のような動き。何者だ、あの人。少なくとも、俺と同じ人類ではないな。

柴田,「エリス様とアサリ様は、スナイパーの捕縛に向かわれたようですね」

アタル,「あのふたりが?」

柴田,「もちろん我がニッポンの自警団も向かっていますが、それよりも一早く、おふたりが捕らえてしまうでしょう」

柴田,「いやはや、ミルフィ様とセーラ様は、素晴らしい付き人を連れておいでです」

――それから以後。

更なる暗殺者の脅威に怯える俺を他所に、それ以上の襲撃が起こることはなく、無事にパレードは終了。

この様子は、ニッポン中の全テレビ局の生報道に使われた。

――また。

間もなくして、エリス&アサリ両名の手により、暗殺者の捕縛に成功したと報告が入った。

…………

……

アタル,「ふぇぇぇ……」

重苦しいマントやら礼服やら、全てを脱ぎ捨て、身軽になった俺は、ソファにだらしなく倒れこんだ。

……疲れた。

身体的にはもちろん、それ以上に精神的がヤラれた。

王様って楽そうに見えて、あんな風に命を狙われたりするのか?

昔からよく聞く話ではあるけど、現代でもこんなことがあるのかよ。

なんていうんだっけ、こういうの。

カルネアデスの板?オッカムの剃刀?違う、違うな。
ダモクレスの剣だ。

細かいことは忘れたけど、ギリシャ神話か何かで、玉座の上には細い糸で剣がぶら下がっていて、王様はいつでも危ない目にあってるんだよとかなんとかかんとか。

……勘弁してください。

ダモクレスと違って、俺はやりたくて、玉座に座ったわけじゃないんですよ……。

伏せっていると、ノックの音が聞こえた。

ヒヨか、柴田さんか、と思ったが。

#textbox ker0110,name
エリス,「アタル王、失礼いたします」

聞こえてきたのは、エリスさんの声だ。

アタル,「どうぞ」

さすがにだらしないままでいるわけにもいかない。身体を起こし、来客を出迎える。

#textbox Ker0110,name
エリス,「お疲れ様でした、アタル王」

眼帯の軍人さんは、俺に対し、恭しく頭を下げた。

アタル,「エリスさんこそ、お疲れ様でした。それと、ありがとうございます」

#textbox Ker0120,name
エリス,「いえ、ねぎらいには及びません。当然のことをしたまでです」

#textbox Ker0130,name
エリス,「――それで、アタル王の命を狙った狙撃手ですが」

エリス,「この筋では大変有名な、今までに数々の要人暗殺を手がけてきた国際指名手配の殺し屋でした」

アタル,「ん、げッ!? 殺し屋!?本当にそんな職業が実在するの!?」

#textbox Ker0160,name
エリス,「ええ。どうやらアタル王を亡き者にしようと、何者からか依頼されていたようです」

アタル,「俺を亡き者……?」

#textbox Ker0110,name
エリス,「なお、現在はアサリさんが、尋問しています。それでも依頼者が誰なのか、なかなか口を割らないのは、さすがにプロだといえましょう」

アタル,「尋……問……ですか……」

殺し殺されなバイオレンスな世界が、すぐ目の前にあった。

#textbox Ker0120,name
エリス,「しかしながら、世界的なスナイパーであるあの男も、ヤキがまわったものです」

エリス,「国際指名手配の殺し屋は一度狙ったターゲットは絶対に外さないことで知られていたのですが……アタル王の暗殺は失敗したようですね」

アタル,「そ、そんなに凄い奴だったの……!?」

エリスさんはコクリと頷く。

エリス,「国際指名手配は伊達ではないということです。ですが、外してしまったがために、我々に場所を補足され、捕縛に至った……アタル王、お手柄です」

アタル,「いや、俺は何もしてませんよ……」

相手が勝手に外してくれただけ。俺が『当たらなかった』だけだ。

アタル,「それにしても、なんで俺が狙われたんでしょう」

#textbox Ker0110,name
エリス,「人間誰しも、やっかみというものがあるのですよ」

エリス,「アタル王が王になったことに対し、少なからず、面白く思っていない者がいるということです」

アタル,「……やっかみで命を狙われちゃたまらないな……」

エリス,「おそらくはアタル王本人に恨みがある、というわけではないでしょうね」

エリス,「アタル王ではない誰でも――ニッポンの王になった者だったら、誰でもターゲットになりえた。ただそれだけです」

#textbox Ker0160,name
エリス,「イスリアやクアドラントと協定を結ばれると困る勢力の――例えば、隣国の差金かもしれませんね。想定できる敵は、数えきれないほどいます」

アタル,「どこの誰から命を狙われているかわからないのか」

まさに、ダモクレスの剣だ。

#textbox Ker0110,name
エリス,「ですが、ご安心ください。自分は全力でアタル王をお守りします。姫様の未来の旦那様に、早々に亡くなられてもらっては困りますからね」

それは非常に心強かった。

アサリ,「そーそー、ご安心くださいー。アサリも全力でお守りしますよー」

ひょこっと、アサリさんがドアから顔を覗かせる。

アタル,「アサリさん、あの犯人は引き渡したんですか?」

アサリ,「はいー、国際警察の方へー」

アサリ,「ふぅー、あいつ、口堅かったですねー。結局、最後まで口を割りませんでしたよー」

ぱたぱたと水に濡れた手を叩きながら、アサリさんはつぶやく。

手を洗ってきた、ということは、手が汚れるような何かをしていたわけで。

そして、彼女はついさっきまで、尋問をしていたわけで。

…………。

あ、うん……あんまり深いことは考えない方がいい。

柴田,「ですが、今回の件は、いいアピールになりましたね」

ひょこっと、アサリさんの後ろから柴田さんが現れる。

アタル,「アピール?」

柴田,「マスコミに国際指名手配犯がアタル王の暗殺に失敗した、と情報を流させていただきました」

アタル,「なんでそんなことを!? パニックを防ぐんじゃなかったの?」

柴田,「パレードが終わった後でしたら、もう構いません」

柴田,「そして、マスコミへの売り文句はこうです。『新しい王様は幸運の女神に好かれている』」

アタル,「幸運の女神……ねぇ」

柴田,「象徴たる王にはアイドル性が必要です。国民に広まれば、支持率も上がるというものです」

柴田,「使えるものはいかなるチャンスであっても、親であっても使え、ということですよ」

偶然当たらなかっただけというこの事態も、支持率アップに変える、と。

商魂?逞しいというかなんというか。

しかし、今日は偶然避けれたが、もしも命中していたら、俺の頭に大穴が空いていたわけで。

風通しを感じる間もなく死んじゃってたわけで。超怖い。まったくもって笑えない。

股間のボールがキュッと縮んだ。縮み上がるのは今日、何度目だろう。

俺、こんなことが続いたら、ボールがなくなって女の子になっちゃうよ? 女王になっちゃうよ?

柴田,「――それでは、私は本日は、これで」

アサリ,「あれー、柴田さん、帰っちゃうんですかー」

柴田,「ええ。アタル王にはひよこさんという心強いメイドもいらっしゃることですし、今日のお勤めはここまでということで」

アタル,「そっか、お疲れ様でした」

柴田,「おや、アタル王、もしかして、私がいないとお寂しいのですか?」

アタル,「流し目を送るな! そういう意味じゃねぇよ!」

柴田,「ふふ、左様ですか。では、今後の政府からの通達は、ひよこさんを経由させていただきます」

アタル,「え、ヒヨを?」

柴田,「ええ、王に一番近い身として、ひよこさんにお伝えするのがいいと思いまして。こう見えても、私、忙しい身なのですよ」

アタル,「……なるほど。柴田さんも頑張ってください」

俺も大概だとは思うけど、ヒヨも大変な仕事を押し付けられちまったもんだなぁ。

俺にとっても、ヒヨにとっても、今日という日が、一生忘れられない日になったのは間違いない。

柴田,「ありがとうございます。それでは、また明日」

会釈して、柴田さんは退室する。

エリス,「…………」

アサリ,「…………」

アタル,「どうかしましたか?」

アサリ,「いえー、なんでもなーいですよー」

エリス,「自分の取り越し苦労でしょう」

アタル,「?」

ふたりが何を言っているのか、よくわからなかった。

アタル,「ふぁ……疲れたから、俺、昼寝していいかな?夕飯の時間になったら、起こしてよ」

昼寝というには、ちょっとばかり遅い時間だけど。

エリス,「了解しました、アタル王」

アサリ,「では、ひよこさんに伝えておきますねー」

アタル,「うん、お願いします」

ふたりが俺の部屋から退出したのを見届けて――

ふと、窓の外を見た。

窓から見える景色は、既に赤く染まっている。

そんな外の景色が、あまりにも今までと違うもので。

……そして、ここから見える庭の全てが、全部、自分の家の敷地だっていうんだからなぁ。

未だに現実感に乏しい。

これから昼寝して、目が覚めたら、今日の出来事の全ては夢だったんじゃないかと思いさえする。

俺は布団に横になり、眼を閉じる。

その次の瞬間。ドッと津波のように、眠気と肉体的&精神的疲労が押し寄せてきて――

俺の意識はその津波によって、一瞬で遠い彼方へと流されてしまった。

…………

……

……

…………

十数年に1度の流星群の夜。数多の流れ星が降りしきる夜。

僕とあの子と一緒に星を拾いに行ったんだ。

光が落ちた裏山へ。

光の消えていったあの場所へ。

アタル,「……なんだろう、これ……」

光を追った僕が見つけたのは、ぼんやりと青く光る、小さな輪っか。

それを拾い上げて、僕はそのドーナツのように空いた穴を通して、空を見る。

小さな穴を通して見える空。星。月。

#textbox khi0a10,name
ひよこ,「わっ、アタルくん、本当にお星さま、拾ったんだね!」

アタル,「これが――お星さま?」

その時の僕は、知るはずもなかった。

拾い上げたその光の輪は。

宇宙にたゆたう星のカケラ――

…………

……

#textbox khi0310,name
ひよこ,「アタルくーん、アタルくーん、起きてー起きてよー」

アタル,「ん……?」

ヒヨの声が、真っ暗な意識の中に響き渡る。

あれ……? ついさっきもヒヨの声を聞いた気がするんだけどな……?

俺は目を覚ます。

アタル,「うおっ!」

目を開いて、視界に入ってきた見覚えのない天井に驚く。

自分の体を包んでいるふわっふわの布団に驚く。

#textbox Khi0310,name
自分を起こしに来た幼なじみの姿を見て驚く。

アタル,「どうしたんだ、ヒヨ。そんな服着て……なんかのコスプレ?」

深夜アニメにこんなキャラいたかなー……なんて、ぼんやりと思って。

自分の置かれている境遇を思い返した。

アタル,「あ。あー、あー……そうか……そうだっけ……」

王様に……なったんだっけ。

寝る前に夢であって欲しいと願っていたが、やっぱり夢じゃなかった。

すごく理不尽な、頭を抱えたくなる現実だった。

実際、今は頭を抱えているわけだけども。

……夢。

アタル,「あ、そーいや、なんか夢見たな……」

眠りの浅い仮眠だったから、夢を見るのも当たり前。

ひよこ,「どんな夢だったの?」

アタル,「どんな夢だったっけ……」

夢の内容は朧気だ。

ただ、ひとつ確実なのは。

アタル,「……ヒヨが出てきたような気がするんだけどなー……」

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「ほ、ほんとっ!? それで? どんな夢だったの?」

そうそう、そんな感じのヒヨの声を夢の中でも聞いた。

それは間違いないはずなんだけど。

アタル,「え、えーっと……なんだっけ……それ以上は何も覚えてないなぁ……」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「えーっ!? そこが大事なのにー。ねーねー、ちゃんと思い出してよぉっ」

ヒヨは俺の襟元を掴んで、前後に揺する。

アタル,「ぐわっ、わっぷ! 別に俺の身体を振っても、思い出したりしねーよ!」

むしろ、耳やら鼻やら、脳に近い穴から記憶が零れ落ちてしまう。

なんだか凄く長い夢だったような気がする……。

10年くらい見続けたような……。

もちろんそんなわけはなく、時計を見ると、俺が寝ていたのはほんの1時間程度だった。

しかし、睡眠時間は全然足りてなくて。

アタル,「んふぁあぁぁぁ……むにゅ」

大きなあくびが漏れた。

アタル,「今日は風呂入ったら、とっとと寝よう……明日は普通に学園も――」

――学園? そうだ。

アタル,「な、なぁ、ヒヨ。明日、普通に学園に行くんだよな?」

俺が王様になったとしても。

一応は学生であり、学生の本分が勉学である以上、境遇が変わったからといって、学園を休んでいいのだろうか。

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「うん、私はそのつもりだけど……あ、こほん。それについて、私が柴田さんから言付かってます」

胸を張ったヒヨはメイド服の懐から1枚の紙を取り出した。

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「『明日以降の鷹羽学園へのご通学は、アタル王のご判断にお任せいたします』――だって」

アタル,「どういうこと?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「んー……つまり、行っても行かなくてもいいってことじゃないかな?」

アタル,「行かなくても、って……行かないと困ったことにならないか? 授業だって途中だし」

そういや、週明けまでにやらなきゃいけない宿題が出されていた気もする。

今日のこの騒動のおかげで、すっかり忘れてた。

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「将来を考えると……王様なら勉強しなくてもいいんじゃないかな?」

アタル,「……それもそうか……」

学園で勉強する大きな理由は、成績を良くして、この先の進学、しいては就職を有利にするためであって。

既にこの国の王様になってしまった身としては、就職を考える必要もない。

今日をもって、『王様』という職業に終身就職が決定したのだから。

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「あ、でも、柴田さんは『学園に行かないなら、帝王学を学ばせるため、家庭教師をつけます』って言ってたよ」

学園に今まで通りに行くにしても行かないにしても、勉強はしなければならないらしい。人生は渋かった。

アタル,「……だったら、学園に行く方が、気が楽だな……」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「あはは、私もそう思うよー」

帝王学を教える家庭教師、という人物がどんな人なのか想像できないが、和気藹々って感じには行かなそうだし。

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「王様になっても、変わらずアタルくんと学園に通えるなら嬉しいな」

アタル,「…………変わらず、か」

『変わらず』に、済むのだろうか。

ニッポンの王様になった俺を見た時の、クラスメイトや学園全体の反応が、俺はまだ想像できていない。

…………

……

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「遅いわよ、アタルー! あたしたちを待たせるなんて、いい度胸じゃないのっ」

既に食卓には、みんなが揃っていた。遅刻は俺ひとりだ。

アタル,「悪い悪い、ごめんごめん」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「なによ、その謝り方ー。誠意が全ッ然感じられないわね」

アタル,「むッ……俺の家を吹っ飛ばしてくれたオマエが、それをいうか」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「むぅ……だから、アレはわざとじゃないって言ってるじゃない」

アタル,「だから! わざとじゃないからって、許されることと許されないことがあってだな――」

ひよこ,「いただきまーす!」

アタル,「もごっ!?」

ヒヨの勢いのある『いただきます』の挨拶とともに、俺の開いていた口に、美味しい何かが突っ込まれた。

ひよこ,「はいはい、アタルくん。今はご飯の時間だよ。ケンカは後にしよ?ホントはあんまりケンカしてほしくないけどね」

アタル,「ん……ん、もぐ……」

ヒヨに口に放り込まれたモノは実に美味しかった。いきなり突っ込まれたので、何かわからなかったけど。

確かにせっかくの楽しいお食事タイム。美味しい物をピリピリしながら食べるのはよろしくない。

アタル,「むぐむぐ……いただきます」

一足お先にいただいてしまった俺も、『いただきます』のご挨拶。

アサリ,「はー、やっと食べられますー。アサリにお預けさせるなんて、アタルさんは本当にドSですねー」

ここの中でも屈指にドSっぽい人が、そんなことをおっしゃられていた。

セーラ,「あ~、ひよこさん、ずるいです~。私もアタル様に『あーん』したいです~」

ひよこ,「えっ……」

何を言われたのか気づいてなさそうなヒヨだったが。

ひよこ,「ち、違うよっ!? 今のは『あーん』とか『おーん』とか、そんなのじゃないよっ!」

アタル,「『おーん』ってのが何をしているのかわからんが、そうだぞ、セーラさん! 別にこんなの大したことじゃなくてっ!」

セーラ,「アタル様のお口に入れたフォークをそのまま使ってますし~、間接キスまでしちゃうなんて……ぷぅ」

ひよこ,「えっ、あ、あぅ……べ、別にそんなつもりじゃなかったもん」

セーラ,「もうもうっ、ずるいから、私にもさせてくださ~い。はい、アタル様、あ~ん♪」

アタル,「ちょっ、セーラさん、セーラさんっ!?アサリさん、主人が暴走中ですよ! 止めて!」

アサリ,「わー、このお魚のフライ美味しいですねー。なんてお魚なんでしょうねー、もーぐもーぐ」

アタル,「オィィ!? 使用人、こっち見ろ!」

アサリさんは自分の仕える人が暴走気味だというのに、我関せずと、卓上の料理に片っ端から手をつけていた。

フリーダムすぎる。

ミルフィ,「ふふんっ、アタルはぴよぴよの尻に敷かれていモゴッ」

エリス,「ミルフィ様もです。食事前はお静かになられますよう」

ミルフィ,「ん、んむ、もごもご……静かにする」

エリス,「アタル王と諍いを起こすのは得策ではありません。また、ひよこさんとアタル王の距離を近づけるような発言は、くれぐれも慎みますよう」

ミルフィ,「え? ぴよぴよはあたしたちとの間には入ってこないじゃない。今回の婚約戦争は、あたしとセーラの間であって――」

エリス,「――それでもです」

ミルフィ,「んにゅ……わ、わかった。ところで、今食べたのはなんだったの?すっごく美味しかったんだけど」

エリス,「白身魚のフリッターだと思いますが……もうひとつ、召し上がられますか?」

ミルフィ,「うんうん、食べる食べる」

――そんなドタバタした王宮での2回目の食事だった。

もちろん、この日の食事もとても豪勢で、ボリュームがあって、とても美味しかった。

美味しかったんだけどさ。

昼飯に引き続き、メタボ街道を一直線に突き進んでいるのは、日の目をみるよりも確実だった。

…………

……

アタル,「ぐぇーふ……もう食えん……」

俺はまたもやリミット限界近くまで、胃に料理を詰め込んでしまった。

反省の色? それって何色?

美味しいだけに、ついつい食べ過ぎてしまう。

『残すのはもったいないダメ絶対』と思ってしまう小市民の貧乏性はたった1日じゃ治るものではないのだ。

もっとも、どんなリッチになっても、平気で食べ物残せるような人間にはなりたくないものだ。

米1粒、野菜1つにしたって、農家の人の気持ちがめいっぱい詰まっているんだぞ、うん。

満腹の腹をさすりつつ、自室のベッドで横になり、天井を見上げつつ、ひとりごちる。

前の家より、倍くらい高い天井。

思わず、天井に向かって手を――まるで夜空に向かって、星を掴むように――伸ばしてみる。

もちろん、夜空の星より近い天井であっても、寝転がったままでは届くはずがない。

今日1日、あれだけのイベントが行われてなお、俺には実感がなかった。

王様……なぁ。

王様だからといって、何か強いられているわけでもなく。

お偉い様方との挨拶やらパレードやらは面食らったけど、今のところ、それ以外は美味しい物を食べて、寝てるだけの生活。

自堕落極まれり。

しかも、将来まで保証され、かわいい異国の姫様たちから求婚までされた。

勝ち組以外の何物でもないはずなんだけど、なんかこう……しっくりと来ない。

何が足りない? 満たされていない?

――実感か。

童話のように、一晩寝て、目覚めたら、全部夢でした、みたいな結末を恐れている……だけだな、多分。

きっと、時間がおいおい解決してくれるのだろう。

膨れに膨れたお腹をさする。

しばらくは何もする気がしない。

でも、風呂に入らないで、このまま寝るわけにも行かない。

今日は随分と汗をかいたしな。

……ま、その大部分は冷や汗なんだけども。

#textbox kse0410,name
セーラ,「アタル様~? いらっしゃいますか~?」

俺を呼ぶちょっと間延びしたこの声は、セーラさんだ。

アタル,「はーい、どーぞー」

食べ物の分だけ重くなった身体をベッドから起こし、声をかける。

女性を招き入れるのに礼を欠くとは思うけど、正直、ドアまで向かうのが、遠すぎて嫌になるほどの距離だ。

#textbox kse0420,name
セーラ,「失礼いたしま~す」

#textbox Kse0410,name
ガチャとドアを開けて、現れたセーラさんは、お供もつけず、ひとりで。

アタル,「ぶっ!?」

そして、肌の露出多めな、大変破廉恥な姿だった。

ベースはさっきまで着ていたドレスと対して変わらない。

あのドレスのパーツをいくつか外したら、このレオタードのような格好になるらしい。

そんな露出の激しい格好で、俺の座るベッドへと近寄ってくる。

歩くたびに、豊かな胸がたゆんたゆんと揺れる。

アタル,「あ、あの、セーラ、さん? ど、どういった、御用でしょう?」

思わず、チラチラと胸元などに目が行ってしまい、目のやり場に困ってしまう。

#textbox Kse0480,name
セーラ,「これからお風呂に入ろうと思うんですが、アタル様も一緒にいかがですか~?」

アタル,「……は?」

思わず聞き返した。耳を疑った。

自分の聴覚を信じられなかったのは、今日何度目だろう。

アタル,「おふっ、お風呂!?」

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「ニッポンの入浴マナーもよくわからないですし、アタル様に手取り足取り教えていただけたら……と♪」

アタル,「い、いや、ちょ、まっ、セーラさんと俺は今日知り合ったばかりだし! そういうことはもっとお互いをわかり合ってから!」

#textbox Kse0490,name
セーラ,「お互いの身体を見せ合うからこそ、わかり合えることもあると思うんですよ~」

いや、それは確かに、まったく知らなかった相手の一面をいろいろと知ってしまうとは思うけど!

#textbox Kse0480,name
セーラ,「ほら、ニッポンには裸の突き合いという言葉があるそうじゃないですか♪」

アタル,「多分、セーラさんのその『つきあい』は字が違う!」

お相撲さんなら土俵真ん中での突っ張り合いだろうけど、年頃の男女だと性的な意味にしかならない!

#textbox Kse0480,name
セーラ,「私に何か遠慮なさっているのでしたら、別に構わないのですよ? 私はこの身も心も、アタル様に捧げるため、ここにやってきたのですから」

セーラさんの足が前へ前へと進み、俺の座るベッドへと、一歩、また一歩近づいてくる。

#textbox Kse0490,name
セーラ,「アタル様が望むのでしたら、私はなんでもして差し上げますのよ?」

アタル,「な、なんでも……!?」

#textbox Kse0480,name
セーラ,「はい、なんでも……です♪」

セーラさんとの距離は、手を伸ばせば届くほどに。

なんでも、って、つまり、その、なんでも……だよな。

多感な思春期の青少年が『なんでも命令していい』っていわれたら、第一に思いついちゃうようなこともだよな?

い、いやいやいや、そんな、まさか。

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「アタル様が何もしてくれないのでしたら、私がしてほしいことをしちゃいますよ~?」

そして、また一歩、歩み寄ってくる。

アタル,「ちょ、ちょっと待ってってば――そ、そうだ、お風呂!お風呂に入るんじゃなかったの!?」

#textbox Kse0490,name
セーラ,「はい、アタル様とご一緒に」

アタル,「入らない! 一緒に入らないよ!?」

#textbox Kse0450,name
セーラ,「ダメですか……しょんぼりです。私、そんなに魅力無いでしょうか……」

アタル,「いや、これは魅力とかそういう話ではなくってね……セーラさんはとても魅力的だと思いますよ」

#textbox Kse0420,name
セーラ,「まぁ、本当ですか!?アタル様にそう言っていただけると嬉しいですっ」

アタル,「うわっぷ!?」

静止する間もなく、セーラさんは俺に抱きついてきた。

受け止める準備も整っていなかった俺は、彼女に抱きつかれるというよりはのしかかられて。

そのまま、ベッドに上向きに倒れこんだ。

セーラさんに押し倒された、という方が正しい。

#textbox Kse04D0,name
セーラ,「アタル様……」

俺の胸元に顔を埋めるセーラさんが小さく呟く。

アタル,「セ、セーラ、さん……っ!」

彼女の身体の柔らかさが伝わってくる。

ほのかに自分よりも高い体温が、甘い匂いが――い、いかん、彼女に近寄られていると、理性が――

ミルフィ,「ねぇ、アタル、いる――」

そこに現れたのは救世主か、はたまた、破壊の申し子か。

ミルフィ,「って、セーラもいるの!?ちょ、ちょおっ、あなたたち何してるのよぉ!?」

セーラ,「あっ、ミルフィさんに見つかっちゃいました~」

アタル,「ミ、ミルフィっ!? えっと、あの、これは!」

セーラ,「アタル様に、一緒にお風呂に入ろうとお誘いしてたんですが、断られてしまいまして~」

ミルフィ,「一緒にお風呂ッ!? しかも、断られたからって、アタルを押し倒したっていうのぉ!?」

セーラ,「いえ、これは、そのー、流れというかー……つい♪」

ミルフィ,「『つい♪』じゃないってのー! そんな抜け駆け、なしに決まってるでしょっ、ほら、離れなさいっ」

セーラ,「あら、離れる必要があるのでしょうか?」

ミルフィ,「えっ……だ、だって、その、あたしに見られて恥ずかしくないわけ?」

セーラ,「私は見られていても平気ですよ。私とアタル様が初めて愛しあうところを拝見されますか?」

ミルフィ,「はっ……!? ちょ、ちょっ、セーラ、あなた何言ってるのよ」

セーラ,「もっとも、アタル様が拒まれるのでしたら、今回のところは諦めますけれども」

アタル,「ご……ごめん、セーラさん、どいてくれるかな?」

セーラ,「はい、かしこまりました♪」

セーラさんは頷いて、俺の上から降りる。

その表情は特に残念そうでもなく、さも当然といった様子だった。

俺がそう言うのをわかっていたんだろう。

セーラ,「では、改めて。お先にお風呂をいただいてしまいますね」

ぺこりと小さく会釈して、俺とミルフィの前から去ろうとして――

セーラ,「あ、そうです、ミルフィさん」

途中で足を止める。

ミルフィ,「な、なによ」

セーラ,「私はこんな抜け駆けも、全然ありだと思うんです」

ミルフィ,「なっ……!」

セーラ,「私とミルフィさんは、アタル様を巡る競争相手。私はアタル様のこと、本気ですからね♪ それでは」

そう言い残して、セーラさんは振り返ることなく、俺の部屋から出て行く。

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「むぅ……」

ミルフィは眉を潜め、ギリギリと歯を鳴らしていた。

そんな今にも噛み付いてきそうなミルフィには声をかけ辛かったけれども。

アタル,「えーっと……ところで、ミルフィは何の用だ?」

わざわざ部屋に押しかけてきた以上、何か用があったのだろう。

#textbox Kmi0250,name
ミルフィ,「え、あっ……その……」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「ふんっ、アタルがセーラとイチャついていたから忘れちゃったわよ、バーカ」

アタル,「……あ、そう……」

憎まれ口を残して、ミルフィはセーラに続くように退室した。

本当に忘れたとも思えないけど、一体何の用だったんだか。

再び静かになった俺の部屋。

セーラさんが風呂からあがるまで、もうしばらくゆっくりしてるか……。

#textbox Khi0310,name
――と思ったら、ヒヨがひょっこりと顔を覗かせた。

アタル,「ヒヨ? 何か用か?」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「アタルくん? さっき、ミルフィさんが出てきたけど……なんかあったの?」

アタル,「いや、別に?」

セーラさんとミルフィの間で一悶着あったが、それをわざわざ伝えることもないだろう。

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「そっか、それならいいんだー。てっきり、アタルくんがミルフィさんにえっちなことしちゃったのかと思ったよ~……」

アタル,「するかぁっ!?」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「うそうそ、冗談だよ。ミルフィさん、そんな顔じゃなかったし」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「私はアタルくんがそんなことする人じゃないってわかってるもん」

アタル,「う……ま、まぁ、な」

むしろ、セーラさんには襲われ、流されかかってしまっただけに、それに関しては強く否定できなかったりもするんだが。

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「え、もしかして、本当にしちゃったの……?」

その躊躇いの機微を、ヒヨは感じ取っていた。

アタル,「してないって!」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「そうだよね。ホッ、良かったよー」

アタル,「で、ヒヨは今、何してるんだ?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「お片づけしてるよ。ウチから運んできてもらった荷物を整頓してるの」

アタル,「結構大変そうだな。俺も手伝おうか?」

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「え、い、いいよっ。アタルくんは王様なんだから、そんなことしなくていいのっ」

アタル,「別に遠慮しなくても、いいんだぞ? ヒヨまで王様だからって畏まられると、ちょっとショックだな」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「あ、そ、その……ごめんね。そういうつもりで言ったんじゃないけど、アタルくんに見られると、困る物もあるし……」

アタル,「俺に見られて困る物? 俺への悪口を書いたノートでもあるのか?」

ヒヨの性格からして、そんなことを書き残したりしてるとも思えないけど。

#textbox Khi0340,name
ひよこ,「ち、違うっ、そんなのあるわけないよっ」

じゃ……他に何が?

首を傾げていると。

#textbox Khi0380,name
ひよこ,「もうっ、アタルくんのニブチンっ!下着とかだよぉっ!」

アタル,「あぁ」

ポンと手を打つ。ようやく得心がいった。

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「いくらアタルくんにだって、パンツを見せちゃうのは恥ずかしいよ……」

ヒヨのパンツ、かぁ。

幼い頃から何度か見てきたから、今更、実感も沸かないっていうか。欲情の対象にはなりえないけど。

ヒヨにとっては、羞恥の対象になるのか。

アタル,「別に今、はいているパンツを見せろっていってるわけじゃあるまいに……」

ひよこ,「ちょっぷ!」

アタル,「まぬえるッ!?」

照れ隠しなのかなんなのか、ヒヨのチョップが俺の脳天に命中。

ちょっとだけ痛かった。

ひよこ,「もーっ! 何言っちゃってるのかなぁっ!? アタルくんがそんなえっちなこと言うなんて思わなかったよ!」

アタル,「だから、見せろって言ってるわけじゃないだろが……」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「どっ、どうしてもっていうなら、お風呂入った後で、ちゃんと綺麗なのはいてからじゃないと……」

アタル,「ちょっと待て! 人の話を聞け!おまえ、どうかしてるぞ!だから、そんな要求してないだろうがッ!」

#textbox Khi0340,name
ひよこ,「え……? あ……そう……だっけ?」

殴られ損である。

そんなに痛くなかったし、顔を真っ赤にして取り乱しているヒヨの仕草が面白かったのでチャラにするとしよう。

かれこれ長い付き合いだが、こんな狼狽えた表情を見たのは久しぶり――ひょっとしたら初めてな気がする。

アタル,「落ち着いたか? 落ち着いたら、片付けの続きをやってしまいなさい」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「はーい。お片づけが終わったら、今度は遊びにくるね」

アタル,「別に構わないけど……明日は普通に学園があるんだからな。あんまり遊んでもいられないぞ?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「あっ、そうだね。なんだか旅行に来てるみたいだから、ちょっと忘れちゃってたよ」

どうやらヒヨもまだまだ、今の環境には適応しきれていないらしかった。

アタル,「それに風呂入ったら寝るつもりだったし……今晩はこれ以上は、だな」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「うん、そうだね。ちょっと残念だけど……あ、そうだ、アタルくん」

アタル,「なんだ?」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「……私って、その、メイドさんなんだよね? アタルくんがお風呂に入る時、お世話しないとダメかなぁ?」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「お着替えを準備したりとか、お背中流しますよー……とか……私、アタルくんのメイドさんらしいこと何もしてないんだけど、こんなでいいのかなぁ」

アタル,「三助じゃないんだから、そこまでしなくていいって……ヒヨはそんなことしたいのかよ?」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「ちょっと恥ずかしいけど……アタルくんがどうしてもっていうなら、するよ。私、がんばるよっ。だって、私はアタルくんのメイドさんなんだもんっ」

アタル,「頑張りが空回りになって申し訳ないけど、そこまでしなくていいからな。風呂くらい、1人でゆっくり入らせてくれよ、な?」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「うん、わかった。それじゃ、また後でね」

ヒヨは俺の部屋を後にし、今度こそ本当にひとりだけ。

特に王としての公務があるわけでもなく。

俺は再びベッドに転がり、やりかけの携帯ゲーム機に電源を入れた。

…………

……

巨大なモンスターが断末魔の雄叫びをあげて倒れ伏す。

その表皮を剥ぎ取り、剥ぎ取り……よし、ミッションクリア。

キリのいいところで、俺はゲームの電源を落とし、ベッドから立ち上がる。

そろそろセーラさんが風呂からあがる頃だろう。

俺も風呂に入る準備をしておかないと……えーっと、着替え、着替え……っと。

タンスの引き出しを開け、下着や寝間着を取り出していると、部屋のドアがコンコンと音を鳴らした。

アタル,「どーぞー?」

#textbox Kse0410,name
セーラ,「アタル様、お風呂あがりました~」

ドアを開け、顔を覗かせたのは、風呂上りのセーラさんだった。

まだしっとりと濡れた髪が色っぽい。

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「どうかなさいましたか?」

アタル,「……あ、いえいえ、わかりました。わざわざありがとうございます」

思わずセーラさんに見入ってしまっていた。

#textbox Kse0410,name
セーラ,「アタル様、よろしかったら、お背中でもお流しいたしましょうか?」

アタル,「は!?」

#textbox Kse0420,name
セーラ,「それとも、お部屋でさっきの続き……しましょうか?」

アタル,「お! お風呂、入ってきまーす!」

詰め寄ってきたセーラさんの横をすり抜け、俺は浴場を目指した。

#textbox Kse0490,name
セーラ,「うふふっ、アタル様、かわいい♪」

…………

……

……で、風呂場って、どこだったっけか。

…………

……

ちょっとだけ道に迷いながらも浴場に到着した俺は、脱衣所で服を一気に脱ぎ捨て、浴室へと入った。

アタル,「うっわ……マジで広いな……!」

思わず、独り言も漏れるほどの広さだ。

浴槽で泳げるなんてのは、もはや当たり前。水を張って凍らせたら、アイススケートだってできるんじゃないか?

こんな広い風呂を独り占めできるなんて。

……やっぱり旅行気分なんだよな。途方もないスケールのせいで、未だに実感が沸かない。

手早く身体を流した俺は風呂の中に飛び込んだ。

アタル,「っぷぁあぁぁ……っ!」

体が拒まない程良い湯温。

じゃばじゃばと顔を流す。

風呂は命の洗濯だぁぁ……。

はぁ……極楽、極楽……。

顔を半分、湯船の中に沈めて、ぶくぶくぶく。

今日の疲れが、お湯の中に溶けこんでゆく。

自分が思っていた以上に疲れていたらしく、むしろ、今の俺の体を構成している組織のほとんどが『疲れ』でできていたらしく。

お湯の中に身体の全部が溶けてしまいそうな気がした。

アタル,「んー…………」

湯船の中にいると、立ち上る湯気のように、いろんな思考が浮かんでは消える。

頭の中がいっぱいいっぱいすぎて、思いついたことを書き留める間もなく、片っ端から霧散していくのだが。

ひとつ、脳内で留まった俺の思考。

俺が入る直前にセーラさんが、このお湯に浸かっていたんだよな……?

くんくん。

鼻を鳴らして、我に返る。

……バカじゃないの、俺。俺、バカじゃないの。変態なの。残り香なんてするわけないだろう。

さっき、セーラさんにのしかかられ、迫られたことを思い出してしまう。

セーラさんみたいな人にあんな至近距離まで迫られて、よくぞ耐え切った、俺の理性。褒めて遣わす。

でも、あそこで、もしセーラさんに手を出してたら……。

いろいろと終わっていたんだろうなぁ……。

彼女が嫌いかといわれれば、そんなことはない。

多少、強引なところがあるみたいだけど、それはあの美貌とスタイルでいくらでも帳消しにできる。

少なくとも、ミルフィに比べたら、よっぽど好意的だし、好感触だ。

そんなわけで、一方のミルフィ。

人の家を吹き飛ばしておきながら、未だに謝罪のひとつもなしだし、むしろ、逆ギレする始末。

そりゃ育ってきた環境が違うし、生まれながらのワガママ放題で育ってきたお姫様には、謝罪の文化ってのがないんだろうけどさ。

だからといって、それを笑顔で許せるかといったら、それは別の話。

俺だって人間、相手がどこの国のお偉いさんだろうが、ムカつく時はムカつく。

ムカつきも限界を超えれば口に出すし、きっと顔にも出ていただろう。

思い出したら、ムカムカしてきたな。

狭量だと笑わば笑え。でも、俺は時効なんかで許してやらないぞ。本人が直々に謝りに来るまで、俺はずっとこのことは――

こん、こん。

風呂のドアが音を鳴らした。

アタル,「だ、誰だっ!?」

さっきの流れからすると、もしかして、セーラさん……!?

さすがに俺が入った後に、中に入られてきては拒めない。

いや、とっとと風呂から出ればいいだけなんだけど。

張り詰めていた緊張感を風呂に浸かって失ってしまった俺には、彼女の魅力に打ち勝てるだけの精神力が残されていない……!

いや、メイドさんはお背中をどうとかこうとか言っていたヒヨという可能性もある。

どちらにしても、俺は――

#textbox kmi0420a,name
ミルフィ,「ア、アタル……? いる、わよね……?」

アタル,「え、その声は……ミ、ミルフィ……!?」

返ってきた声は俺の予想を潜り抜けて、一番ありえないミルフィのものだった。

彼女の性格からすれば、いきなり風呂に踏み込んできたりはしないだろう。安心だ。

俺は警戒を解く。しかし、何の用だろう。

アタル,「用があるなら、後にしてくれー。今、風呂に入ってるし」

#textbox kmi0420a,name
ミルフィ,「い、今じゃないと……ダメ……なの……」

風呂場の窓越しに映る彼女のシルエット。

そのシルエットは……スレンダーだった。

ひらひらした服を着ているようには思えない。

もしかして(その1)、ドアの向こうに立っている彼女は……裸?

もしかして(その2)、彼女は風呂に入ってこようとしている……!?

#textbox kmi04A0a,name
ミルフィ,「開ける……わよ……っ」

アタル,「あ、開けるって、ちょっ、ちょっと待て……!」

ガラッ

音を立てて、ドアが開いた瞬間、思わず後ろを振り返ってしまう。

ミルフィが? なんで、風呂に? 俺と一緒に?

アタル,「おっ、おい! ミルフィ! なんで、風呂に……俺が入ってるってわかってるだろ……!」

声が上擦る。

アタル,「どうしても今すぐ風呂に入りたくて我慢できなかったなら、俺が今すぐあがるから、ミルフィはちょっと目を背けてて――」

#textbox kmi0480a,name
ミルフィ,「いいの。アタルはそのまま……」

落ち着け落ち着け。沈まれ沈まれ。

続いて、体を流すシャワーの音が聞こえる。

ぴちゃぴちゃと水たまりを踏み鳴らす足音が聞こえる。

#textbox kmi0420a,name
ミルフィ,「アタル……こっち見てもいいわよ」

アタル,「い、いや、見るとかじゃなくって、早く出て行けって」

#textbox kmi04A0a,name
ミルフィ,「いいの……あたしの方を見て……」

おそるおそる、警戒心や期待や含みながら、俺はミルフィの方を振り返る。

いいんだな? いいんだな?

振り返って、目を開けた瞬間に、殴られるとか撃たれるとかは勘弁だぞ?

決死の覚悟でゆっくりと目を開けたそこにいたミルフィは。

#textbox KMI0410a,name
ミルフィ,「ね? 見られても平気なのよ」

全身を包むようにバスタオルを巻いていた。

#textbox KMI0490a,name
ミルフィ,「すぐに目を背けるなんて、紳士なのね……ふふっ」

アタル,「そりゃ、どうも……」

しかしながら、バスタオルを巻いているといっても、水でぴったりと張り付いたバスタオルは体のラインをしっかりと浮かび上がらせている。

全裸バスタオルって、本人が思っているより、刺激的な姿だぞ?

わずかな胸の膨らみや、腰からお尻にかけてのラインとかが露。

胸の膨らみの先端がちょっと盛り上がっているのだって、アレってつまり、その、未成熟なさくらんぼだよな?

#textbox KMI04A0a,name
ミルフィ,「う……見てもいいとは言ったけど、そんなにじろじろ見ないで……恥ずかしい……」

どーせーっちゅーねん……。

女の子と一緒に風呂に入るとなれば、緊張するし、どこに視線を送ればいいかわからない、でも、男だから見たい。

さっきのセーラさんもそうだったが、今回も生殺しだ。

#textbox KMI0410a,name
ミルフィ,「アタル、あたしも入るね」

ちゃぷっ、と、ミルフィの足が湯船に浸かり、肩まで体を沈める。

そして、俺の方にじりじりと近づいてくる。

#textbox KMI04A0a,name
ミルフィ,「ん……やっぱり、あんまりこっち見ないで」

アタル,「見ろって言ったり、見るなって言ったり忙しい奴だな」

#textbox KMI0420a,name
ミルフィ,「いいから……恥ずかしいでしょ……」

俺の頭を両手で掴むと、グリッと首を捻る。

アタル,「ぉごっ! わかった、わかったから、無理やり捻るな」

その仕草にふと、首を振ってる扇風機を、無理やり自分の方だけに向けたりしてたな、なんてことを思い出した。
…………

……

アタル,「それで、俺に何の用だ?」

#textbox KMI04A0a,name
ミルフィ,「あ、あの、ね……」

俺とミルフィは背中合わせで浴槽に浸かっていた。

何もこんな広い風呂で、こんな近くにいなくてもいいだろうに。

ミルフィの身体を包んでいるバスタオルが俺の背中に触れる。

俺の口調は落ち着いているようで、内心はバクバクだ。

ミルフィ,「今日のこと、謝ろうと思って……」

アタル,「……へ?」

彼女の口から出た言葉は、あまりにも予想外だった。

#textbox KMI0440a,name
ミルフィ,「その、あたし、アタルの家、壊しちゃったでしょ?だから、ごめんなさい……」

アタル,「え、あ、ああ……」

さっきはあんなに自分は悪くないって言ってたくせに、どういう風の吹き回しだ。

なんだか今までと様子がおかしい。こっちの調子まで狂ってしまう。

ミルフィ,「ごめんなさい……」

素直に謝られてしまうと、何も言えなくなってしまう。

ついさっきまで燃え盛っていた怒りの火が、風呂のお湯で一気に鎮火されてしまった。

ったく、ずるいよなぁ……そんな声で、そんな風に言われたら『ダメだ! 許さない!』だなんて言えるわけないじゃないか。

――彼女の声には力がある。

あからさまなワガママを言っていても、どこか許容してしまう何かがある。謝られたら、許さなくてはいけないような、そんな気分にさせられる。

それが王族のカリスマ性というものなのだろうか。

#textbox KMI0420a,name
ミルフィ,「あの……アタル……ダメ? 許してくれない?許してもらうのに、あたしは何をすればいいかな……?」

アタル,「い、いや、わかった。何もしなくていい。反省したならいいんだ、うん」

#textbox KMI0480a,name
ミルフィ,「ホント……? ほっ、良かった……」

アタル,「物は無事だったし、こんな家ももらえたわけだし……とりあえず、結果オーライってことにしておくよ」

#textbox KMI0410a,name
ミルフィ,「ありがと、アタル」

顔は見せてくれないけれど、ミルフィのホッとした表情が容易に想像できた。

アタル,「それにしても、別に風呂にまで入ってきて、謝らなくても良かったんじゃないのか」

#textbox KMI0420a,name
ミルフィ,「エリから『一緒にお風呂に入るのが、ニッポンでの仲直りの方法です』って聞いたんだけど……違うの?」

アタル,「ん……間違ってる……とは言わない」

裸の突き……否、付き合い。一緒に風呂に入ることで、親交が深まるとはいうけど。

それって同性の場合であって、男女だとちょっと……別の方向に行ってしまうというか……主にエロス方面。

#textbox KMI0410a,name
ミルフィ,「そっか。やっぱエリのいうことは正しかったのね、ふふっ」

だからといって、嬉しそうに笑ってるミルフィを否定する気にもなれず。

アタル,「ミルフィもちゃんと謝れるんだな。偉いぞ」

代わりに褒めてあげた。

#textbox KMI0470a,name
ミルフィ,「あ、あんまり子供扱いしないでよ……あたしはもう結婚できるくらいオトナなんだから、謝るくらい……」

――にしても、さっきからミルフィの雰囲気がおかしい。

どこかといわれれば……口調にトゲがない。

謝りに来たからか? 一緒に風呂に入ってるからか?

やけにおとなしく、朝から昼までの態度と比べてみたら、猫をダース単位でかぶっているように思える。

かぶって――あ、さすがにお風呂に入る時までは、王冠はかぶってないんだな。そりゃ、当たり前か。

こんな風に女の子とお風呂に入る経験なんて、ずっと昔――幼少の頃のヒヨ以来だった。

ちょっと緊張するけど、心地良いこの時間をいつまでも楽しみたいとも思った。

しかし、人間として、当然、入浴の限界が訪れるわけで。

アタル,「……ぅぐ……?」

頭と視界がグラッと揺らめいた。

温かいお湯の中にいるのに、体が冷たくなるような――つまり、血の気が引くのを実感する。

いかん、くらくらしているのはミルフィと一緒に風呂に入っているせいかと思っていたけど、これは……。

ミルフィより前から風呂に浸かって、長々と考え事をしていた俺が、ミルフィより先にのぼせてしまうのは至極当然。

……うぷっ。ヤバい、意識が、遠のきそうだ。

アタル,「ご、ごめん、ミルフィ……俺、もう、我慢が……」

もう、あがらせてくれ……。

ミルフィを押しのけて、ドアに向かおうとする。

#textbox KMI0420a,name
ミルフィ,「え、えっ……アタル、それってどういう……あっ!?や、やだっ、あたし、そんなつもりじゃなくて、まだその心の準備とか……ッ!」

何を勘違いしているんだか知らないが、ミルフィは俺を湯船から出すまいと、ぐいぐいと肩を押してくる。

アタル,「ちょっ、おまっ……! やめ……!出る、出ちゃう……!」

大変汚くて申し訳ないのだが、夕飯が。吐瀉物が。

#textbox KMI0450a,name
ミルフィ,「で、出るって!? ダメ、ダメ、アタルっ!それだけで出ちゃうのっ!?」

だから、何を言ってるんだ、こいつはっ!いいから、早く俺を湯船から出させてくれ!

俺が無理矢理にでも出ようとすると、それを食い止めようとするミルフィの力が増す。

いつもならミルフィ程度の力くらい容易に弾き返せるはずなのに、グロッキー状態の今ではそれもままならない。

だ、駄目、だ……っ!

もう知ったことか!

俺は一気に湯船を飛び出そうと、ミルフィの体を押しのけ――ようとした。

――これは、様々な運命が重なった結果である――

1)俺、ミルフィを押しのけようと手を伸ばした。

2)ミルフィ、立ち上がろうとした。

2)ミルフィの体に巻いているバスタオルに、俺の指が引っかかった。

#textbox KMI0450a,name
ミルフィ,「ひにゃっ……!?」

3)タオルが外れた。

#textbox KMI0050a,name
4)すっぽんぽん わーい

申し訳程度な丘陵、草木のない土手。

刻が止まった。

衝撃的な光景に、血流が狂い、酔いも覚めた。

ミルフィ,「…………」

アタル,「えーっと、その……」

アタル,「……がんばれ?(発育的な意味で)」

#textbox KMI0020a,name
ミルフィ,「き――きっ――」

アタル,「……キリン?」

#textbox KMI0030a,name
ミルフィ,「きゃああぁあぁあぁぁぁっ!!??」

ミルフィの高らかで耳をつんざくような、鼓膜を直接刺激する超音波のような悲鳴が風呂場に反響する。

エリス,「いかがなされました、ミルフィ様――」

――エリスさんは本当に優秀な付き人である。

主の悲鳴に対して、一瞬の躊躇を伴うことなく、他国の王が入っている風呂場へと駆け込んでこれるのだから――

エリス,「ア、アタル王ッ!?」

アタル,「エ、エリスさ――」

エリス,「死ねぇえぇぇぇっ!」

いつの間にかエリスさんの手にしていた2丁の銃が、立て続けにミルフィの悲鳴にも負けない発砲音を鳴らす。

アタル,「わっ、わっ、ぅわぁっ!?」

エリス,「ハッ!? ついカッとなって!」

オマエは自制心の効かない昨今の若者か!

そんなツッコミを入れる間もなく、じたばたと弾を避けた俺だったが。

アタル,「アッ――」

突然の新たな侵入者に気を取られた俺は、足元に置ちていた石鹸に気づかず。

つるっ。

アタル,「おっとー……!」

全裸のまま、世界がひっくり返り。

アタル,「――ぺどろっ!?」

背中に痛みが走ったと思った次の瞬間、そのまま意識が、ブラックアウトする。

へー……石鹸って踏んづけると本当に転ぶんだー……。

…………

……

アタル,「いてて……」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「ちょっと背中を打っただけだよ。アタルくんならこんなの一晩寝れば治っちゃうよ」

アサリ,「そうですねー、命には別状ないと思いますよー」

エリス,「大変申し訳ない……アタル王が負傷した全責任は、自分が負わせていただきます」

エリスさんは俺に対し、深々と頭を下げた。

アタル,「いや、本当、もういいって……」

エリス,「いえ、そういうわけには参りません。姫様が慰み物になる瞬間を目撃してしまったとはいえ、よもや一国の王に対して、銃口を向けてしまうなど……!」

アタル,「ちょっと待て!凄まじい誤解が、未だに解けていない!」

エリス,「全ての過ちは、自分の命をもって償います」

エリスさんは取り出した銃を口に咥える。

アタル,「ちょっ! ちょーッ!」

ひよこ,「ダメ! ダメだよ、エリスさんっ!いのちをだいじに!」

物騒なエリスさんを、俺とヒヨで止める。

目の前で自害する瞬間なんて見たくねぇ!

エリス,「もとより命に始まり、存在の全てを姫様に捧げた身!自分がどうなろうと構いはしません!ですが、なにとぞ、なにとぞ、姫様をお幸せにして――」

アタル,「……だーかーらー! 俺のことはもういいんだ!大した怪我じゃなかったし!」

アタル,「それに慰み物とか……女性がそんなこと言わないでくれるか。だいたい俺はミルフィに何も――」

#textbox Kmi0370,name
端っこで座っているミルフィが俺にジト目を向けてきた。

アタル,「――してはいないんだし」

――してはいない。実際に手出しはしていないぞ。ちょっと裸を見てしまったというだけで。俺の裸も観られてしまっただけで。
#textbox Kmi0320,name
ミルフィ,「むぅぅ……」

俺の思惑がミルフィに伝わってしまっているのか、ミルフィは照れているようなー、怒っているようなー、なんとも言い難い表情を浮かべていた。
しかしながら、彼女のそのパジャマは何事だろうか。着ぐるみなのか。イスリア王族の正装はそれなのか。

ツッコんでいいのか迷うところだ。これも異文化交流?

エリス,「つまり、アタル王、自分にはお咎めなし、ということでよろしいのでしょうか?」

アタル,「パレードの時にお世話になってるし、それで帳消しってことでいいかな」

命を助けてくれた人に、あやうく射殺されるところだったというのは、微塵も笑えないジョークだが。

エリス,「寛大な恩赦――感謝致します」

そんな一悶着があり。

アタル,「それじゃ、もう夜も更けてきたし、今日はこれで解散」

俺の鶴の一声。

ひよこ,「はーい、おやすみ、アタルくん」

セーラ,「おやすみなさいませ、アタル様」

アサリ,「おやすみですよー」

エリス,「いい眠りを、アタル王。さ、姫様もご挨拶を」

ミルフィ,「うん……おやすみ……アタル」

ミルフィ,「あたしの裸を見た男は、アタルが初めてなんだから……」

アタル,「ん?」

ミルフィ,「あたしの裸を思い出して、変なことしたら……許さないんだからね」

アタル,「変なことって――」

何事かと思い、一拍置いたが。

アタル,「――わざわざそんなこと言うな……」

それが何のことを言っているのか察し、頭を抱えた。

確かにミルフィの裸体は未だに目に焼き付いているけど、それでどうこうしようとは思わねぇよ。

なにはともあれ、全員を部屋から追い出して、部屋に鍵をかける。

これでようやく、あまりにも長かった1日が終わりを告げようとしていた。

朝イチから、空から女の子が降ってきて。

ニッポンの王様就任を告げられて。

王冠を被らされたりして。

いろんな国のお偉いさんに挨拶して。

パレードなんかやっちゃったりして。

姫様たちと一悶着あって。

……長いよ、長すぎだよ。俺が今まで生きてきた人生の中で、間違いなくトップクラスの、濃縮果汁還元300%な濃密な1日だったよ。

明日は普通に通学。

もちろん学園中にだって俺が王になったという話は知れ渡っているだろう。

寝て起きて目が覚めたら、やっぱりこれは何かの間違いでしたとかなっていることを、ちょっとだけ祈りながら。

俺は柔らかな布団に、身を横たえたのであった。

おやすみっ!

意識は間もなくして、深い眠りの中へと落ち込んだ。

………………

…………

……

???,「さー、ドアが開きましたよー」

???,「ありがとうございます~……それでは♪」

???,「はーい、がんばってきてくださいねー」

暗がりの中、微かに聞こえてくる小さな声と音。

アタル,「んん……?」

くすぐったい。

何か柔らかなものが絡み付いているような感触。

その感触は足元から始まり、ふくらはぎ、膝と次第に緩やかに俺の足を這い登ってくる。

アタル,「ひぅ……ッ!」

耐えかねて、思わず声が漏れた。

……え? な、なんだ!? 俺の足元に何がいる!?

今、自分に起きている異変を理解し、目覚めた俺は布団を剥がす。

この柔らかさ、嗅いだ覚えのある甘やかな匂い。

俺は、この感触を、知っている!

俺の足元に誰が潜んでいるのか、目で見るよりも先に理解した。

セーラ,「ア・タ・ル・さ・ま」

案の定、セーラ姫様だった。

アタル,「セッ、セーラさっ……んむぐっ!?」

セーラさんの白魚のような指が、俺の口を塞ぐ。

いや、口どころか、指の1本が俺の口内に侵入してきて、俺の舌の動きを阻害した。

……セーラさんって、指まで甘い。

セーラ,「ひゃんっ……アタル様、あまりペロペロしないでくださいませ……♪」

アタル,「んむぇっ? ご、ごめんらはい……」

無意識の内に、舌が動いてしまっていたらしい。

セーラさんは俺の唾液の絡んだ指を口内から取り出し、唇に当てる。

静かにして、のポーズ。

セーラ,「お静かに、アタル様。王宮が広いとはいえ、あまり大きな声を出すと、他の方に気づかれてしまいますわ~」

アタル,「セ、セーラさん……? あの、なんで俺のベッドに?」

セーラ,「アタル様と添い遂げようと思いまして。ニッポンの言葉でいうと、夜這い、というんですよね」

アタル,「はぁ、ヨバイ……」

寝起きで判断力が低下している俺は、ヨバイという言葉の意味が把握できておらず。

アラブ首長国連邦のひとつだったかな?ははは、それはドバイやー。

ひとりボケツッコミを済ませた後。

アタル,「ちょ、ま、まっ!」

事の重大さに気づいて、もがいて、俺は布団から逃げ出そうとした。

だが、セーラさんの足が俺の足をしっかりとロックしている。力を込めようにも寝起きで全力を揮えない。

なにより、相手は女性だ。なまじ力を入れて、怪我をさせるわけにもいかない。進退かなわず。
セーラ,「ね、アタルさまぁ……」

甘い囁きが、俺の耳を刺激する。

アタル,「こ、こんなことしてっ! お父さんが泣くぞっ!」

抵抗できるのは、口だけだ。

彼女の心に訴えてみる。

セーラ,「あら~、お父様も夜這いは認めておりますよ~?」

アタル,「そ、そんなバカなッ!?」

あのいかつい王様が、んなことを認可してるっていうのか……!?

昼にお会いしたセーラさんの父上こと、バルガ王の顔が浮かぶ。

そして、彼とのやり取りが脳裏に浮かぶ。そういや、あの時――

バルガ,「今晩にでも、セーラを気に入ることになるであろう。セーラのことを可愛がってやってくれたまえよ」

不可解だった言葉を口にしていた。

今晩……可愛がる……アレって、こういう意味だったのか!?

セーラ,「クアドラントでは、気に入った殿方に対し、夜這いをするというのはごく普通なことなのですよ」

セーラ,「今のニッポンとは多少文化が違うようですが、そこは異文化交流ということで~……」

アタル,「異文化交流って言葉を使っておけば、なんでも許されるって思うなよ!?」

ふわりと漂ってくるセーラさんの香りは、時間が経つごとにその妖艶さを増してくる。

ヤバイ……このままだと、本当にセーラさんと交わっちゃう……。

セーラ,「私、こういったことは未経験ですけれど……アタル様のためでしたら、どんなことでもして差し上げたい……」

アタル,「えっ、未経験……なの?」

セーラ,「と、当然ですっ。私、誰とでも体を重ねるような、ふしだらな女じゃありません……私の体は一生、好きな人だけに捧げると決めています」

セーラ,「あっ、ですが、アタル様に経験がおありでも、私は気にしませんので、ご安心くださいませ」

アタル,「お、俺だってその、未経験ですよ……こんなこと……」

セーラ,「まぁ、そうだったんですか~? 私、アタル様のような素敵な方でしたら、てっきり経験済みだとばかり……」

段々と抵抗する力が失われてゆく。彼女の吐息に、そんな不可思議な力があるとしか思えない。

セーラ,「アタル様、私の初めての人になってくれませんか?」

言葉を交わす度に、頭がぼんやりとし、貞操観念が失われてゆく。

セーラ,「初めて同士なのでしたら、本当に嬉しいです」

……まぁ、セーラさんがそういうなら……別にいいかな……。

セーラ,「さ、力を抜いてください、アタル様……不束者ではありますけど、私に身を任せてくださいませ……」

セーラさんの指が俺の体を伝う。

触れられた場所全てが性感帯になってしまったかのように、俺の体にぞくぞくと甘い痺れが走る。

アタル,「く……ッ」

もともと気持ちいいことが嫌いなわけじゃない。

思春期を迎えた青少年、もちろん、そういった行為にだって興味はある。

興味がないなら、エロ本を隠し持ったりしないさ。

そのお相手がこんなに綺麗でプロポーション抜群のセーラさんなら、別に拒むこともないじゃないか。

セーラ,「ゆっくり……愛を深め合いましょう……」

彼女のその言葉がトドメ。それで俺の理性は堕ちた。

もう……どうにでも……なっちゃえ……。

――抵抗する力を解き、セーラさんのされるがままになろうとしたその時。

#textbox khi0410,name
ひよこ,「んー……ドア開いてる?アタルくーん? まだ起きてるのー?」

ヒヨの言葉は、まるで金縛りを解く一喝だった。

アタル,「ま、まずいっ! セーラさん! 布団の中に隠れてっ!」

#textbox Kse04A0,name
セーラ,「あんっ! やっ、無理やりしないでくだ――むきゅっ」

パジャマ姿のヒヨが入ってくるよりもわずかに早く、俺はセーラさんを自分の布団の内側に隠蔽する。

3人が川の字に寝れるサイズの特大ベッドだ。セーラさんのひとりやふたり隠すことだって難しくない。

もっとも、隠されている当人に、『隠れている』という意識があるならば――だが。

アタル,「ヒ、ヒヨっ! まだ起きてたのか!?」

#textbox Khi0480,name
ひよこ,「あー、やっぱ起きてたんだー。ダメだよー、明日は学園に行くんだから、あんまり夜更かししてちゃ」

アタル,「い、いやほら、枕が変わったらなかなか寝付けなくて……っていうか、そういうヒヨだって、こんな時間まで起きてるじゃないか」

#textbox Khi0460,name
ひよこ,「あはは、お風呂が広くて気持ちよくてねー。ついついうとうとしちゃって、お風呂の中で寝ちゃってたよー」

#textbox Khi0420,name
ひよこ,「夢の中でなんか息苦しいなーって思ったんだけど、目が覚めてよかったよー」

アタル,「危ないな……ずっと前もそんな話してた気がするけど、風呂で寝るのは禁止。絶対に禁止だか――ぃうっ!?」

#textbox Khi0410,name
ひよこ,「アタルくん、ど、どうしたの? 変な声……」

アタル,「い、いえ、どうもしません!どうもしませんことよ!」

思わず跳ねてしまった語尾を隠すように、俺は口元を布団で覆う。

布団の中に隠れている人が本気で隠れているつもりなら、こんなことはしてこない。

人の下腹部をまさぐったり――なんて。

自分以外の誰にも――他人に触らせたことのないデリケートゾーン。

セーラさんの指が布団の下で、もぞもぞと蠢いている。

やられている当人である俺も、何をされているかわからない。

故に、ただならぬ快感がさざ波のように俺の体を襲う。

なるほど、目隠しプレイってこういう快感なのか!うわー、これは新しい何かに目覚めちゃいそう、って、感心している場合じゃないっての!
今、ヒヨと話しながらも布団の中では、俺のバーニングスティックはのっぴきならないことになってるわけでして!

話しながらこんなことをされてることが、目の前のヒヨにバレたらどうなるのか!

……想像ができない。

今はただバレぬよう、この場を乗り切るのみ!

#textbox Khi0450,name
俺の様子がおかしいことに気づいたのか、ヒヨは訝しげな視線を俺に向ける。

ひよこ,「んー……?」

アタル,「ど、どうした?」

#textbox Khi0430,name
ひよこ,「なんかお布団の下の方が膨らんでいるみたいだけど……なんかおかしいよね?」

アタル,「そ、そうか? ふつーだぞ、ふつー」

#textbox Khi0470,name
ひよこ,「うーん、フツーじゃないと思うよ?足を曲げてても、こんな方向まで……」

アタル,「わーっ、わーっ! ダメ、めくっちゃらめぇえぇぇっ!」

#textbox Khi0440,name
ひよこ,「わっ、いきなり大きい声でびっくりしたよー……なんで? どうしたの?」

アタル,「え、えーっと、その、布団の下、俺全裸なんだ!」

#textbox Khi0490,name
ひよこ,「えっ、ええーっ! そ、そんな裸で寝るなんてダメだよっ、汚いよっ?」

手をかけようとするヒヨを制止させるには、今の言葉はなかなか効果的だったらしい。

アタル,「な、なんだ、長い付き合いなのに、知らなかったのか?俺は今までだって、寝る時は全裸派だったんだぞ?」

#textbox Khi0470,name
ひよこ,「ウソ!? あれ、そ、そうだっけ? 何度も起こしに行ってるけど、アタルくんが裸のところなんて見たことないような……」

アタル,「それはたまたまだ。ヒヨが来るのを見越して、パジャマを着てたんだ」

#textbox Khi0450,name
ひよこ,「ううぅ……すっごくウソっぽい……」

アタル,「ウソだと思うなら、めくってみてもいいぞ?」

アタル,「ただし、めくったら最後、ヒヨは男の神秘を目撃するけどな! オマエにその度胸があるのなら、めくってみるがいい!」

#textbox Khi0430,name
ひよこ,「自信満々すぎるよぉっ!? うぅ……なんか、もぞもぞ動いているみたいだけど……?」

アタル,「それが神秘だ。男には意志とは別に、勝手に動いちゃう部分があるんだ! ヒヨだって、子供じゃないんだから、それくらいわかるだろ?」

#textbox Khi0440,name
ひよこ,「そ、そうなんだ……男の子って不思議なんだね……」

ポッとヒヨは顔を赤く染める。

アタル,「そうなんだ、不思議な物体だから、これ以上近づくと――ぁふぅ!」

#textbox Khi0490,name
ひよこ,「だ、大丈夫……なの?」

アタル,「あ、ああ……大丈夫だ……俺のことなら心配はいらない……荒ぶるコイツを収めるのに、ヒヨがいちゃダメなんだ……!」

#textbox Khi0470,name
ひよこ,「え、そうなの? 私、邪魔しちゃってるの?」

アタル,「ああ、ヒヨがいると荒ぶるコイツを制御できなくなっちまう……! 俺が抑えている内に早く寝るんだ! な!」

#textbox Khi0430,name
ひよこ,「う、うん。それじゃ、おやすみ……あの……本当に大丈夫なんだよね?」

アタル,「バッチリだ。それじゃ、おやすみ」

俺はサムズアップのサインで、ヒヨを送り出す。

俺の部屋のドアが閉じて。

アタル,「っぷはぁッ!」

ただならぬ緊張感から開放された。

セーラ,「うふふっ、いつもはお休みになる時は裸なんですか~?」

アタル,「あんなの口からでまかせに決まってるでしょう!っていうか、何するんですか!」

セーラ,「何って……可愛いアタル様のを見ていたら、弄りたくなっちゃいまして~♪」

『可愛い俺の』って……可愛いのか、コレ。俺の股間の一本槍。

可愛いとは思えないんだけどな?荒々しいというか、野蛮というか、邪悪というか。

セーラさんは俺のトランクスの上から、その邪悪の太幹に沿って、ツツツと指を滑らせる。

激しく責め立てるわけではなく、極めてじれったい指の動き。

アタル,「お、おふぅ……も、もうやめてください……っ!」

セーラ,「ダメ……なんですか?」

アタル,「だから、ダメだって言ってるじゃないですか……!ったく……バレなかったからいいものの……」

セーラ,「別にバレても私は構わなかったのですけど……アタル様の意向は大切にしたいと思います」

アタル,「だったら、いじらないでくださいよ……!」

セーラ,「我慢できなくて、ついイタズラしてしまいました……ごめんなさい」

アタル,「ぐ……!」

ニコッと優しく微笑まれては、それ以上何も言えなくなってしまう。

その間もセーラさんの手は、俺の下腹部どころか、股間に添えられっぱなしなんだ。

セーラ,「もう一度聞きますけど、今日はダメ、なんですね?」

俺は歯を食いしばって、目から血涙が溢れるんじゃなかろうかと思いながらも。

アタル,「……はい……!」

セーラさんの誘惑を拒んだ。拒みきった。

俺は……やったんだ……。

セーラ,「ニッポンには『据膳食わぬは男の恥』という言葉があると伺いましたけど~……それでもです?」

アタル,「それでもですっ! こういうことは結婚することが決まってから!」

セーラ,「まぁ~、では、婚約したら契りを交わしてくださるんですね?」

アタル,「あ。え、えっと……まぁ……そう……ですね?」

アタル,「そんなにしてみたいんですか? その……契り」

セーラ,「はい……妹たちが、好きな人と結ばれるのは、天国に昇るような気持ちだと散々自慢するものですから……」

妹たちとそんな話するんだー……随分とオープンな家庭だなー……。

あの父親があれば、子もこうなるということなのか。

セーラ,「アタル様と契りを交わす時は、きっと天に召されてしまいそうなほどの心地なのでしょうね……」

俺の昇天棒は、どれだけの破壊力を秘めているんですか。過剰な期待を寄せられても困るんですが。

#textbox Kse04D0,name
セーラ,「それでは、今晩はこれにて。アタル様と婚約できるように頑張ります。皆さんに負けないようにしないと」

アタル,「……皆さん?」

ミルフィ――だけの言い回しではない。一体、誰のことだ。

#textbox Kse0480,name
セーラ,「ですから、今はこれだけで我慢させてもらいますね」

悩んでいるその隙を突かれた。

いつの間にか、超至近距離に迫っていたセーラさんの顔。

#textbox Kse0490,name
セーラ,「ちゅっ♪」

頬に唇を寄せられ、軽くキスされた。

アタル,「う、うわっ!?」

#textbox Kse0420,name
セーラ,「ふふっ♪ ほっぺにチュ、いただいちゃいました」

セーラ,「それでは、今晩はこの辺で。また明日、ということで」

トンッと身軽にベッドから降りる。

アタル,「あの……セーラさんは……」

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「はい?」

アタル,「セーラさんはどうして、俺のことがそんなに好きなんです?」

#textbox Kse04D0,name
セーラ,「人を好きになるのに、大層な理由が必要でしょうか?」

アタル,「え……」

#textbox Kse0480,name
セーラ,「一言でいえば、一目惚れ、です。アタル様のお姿を初めて拝見した時から、恋に堕ちてしまいました」

アタル,「ありがと……」

まっすぐに告げてくる彼女に気恥ずかしくなりつつも。

アタル,「……俺はそういう経験がないからわからないけど、一目惚れでそこまで好きになれるもんなのかな?」

そこだけはどうしても疑問だった。

彼女の『好き』は、あまりにも思いつめている気がする。

俺こそが確実に将来を共にする運命の人であると、核心しているかのように思えた。

#textbox Kse0490,name
セーラ,「――そういうことも、あるかもしれないですよ~?」

アタル,「……そっか」

その言葉に若干の含みと意図を感じつつも、この場は納得することにした。

#textbox Kse0410,name
セーラ,「それでは、おやすみなさいませ、アタル様」

アタル,「――うん、おやすみ」

小さく頭を下げ、セーラさんは退室した。

部屋に静寂が訪れ、俺は再度布団にくるまる。

――のだが。

アタル,「ぐぅぅ……」

体の一部分――セーラさんに触れられた箇所が、ひどく熱く疼きっぱなしだった。

……どうすんだよ、コレ。

格好つけ過ぎちゃったかなぁ……。

逃した魚は、あまりにも大きい。

その後、なんとかかんとかどうにかこうにか。

具体的な方法は割愛させていただくが、体をクールダウンさせた俺は今度こそ眠りについたのである。

――もう安眠を邪魔されませんように。

……

…………

アサリ,「いかがでしたかー、セーラさんー。一発キメてきましたかー?」

セーラ,「ま、まぁ……その言い方はちょっと下品ですよ、アサリさん~」

アサリ,「そうですかー? では、えーっと……セックスできましたかー?」

セーラ,「そ、それは、直接的すぎます、もうっ……失敗しちゃいました」

アサリ,「ですかー。お戻りになられるのが早すぎたので、失敗したか、もしくはアタルさんはすっごい早漏のどちらかだと思いましたがー、残念でしたねー」

セーラ,「アタル様はそんなに早くないですっ」

アサリ,「そうですかねー? 見たところ女性経験もなさそうでしたし、セーラさんのテクニックでしたら、即昇天だと思いますよー」

アサリ,「ま、それはともかくー、セーラさん、どうされますかー?」

セーラ,「どうするも何も、私はますますアタル様を好きになってしまいました……この想いは、本物です……」

アサリ,「あはー、でしたら、明日以降も頑張ってくださいねー。アタルさんを落とした暁には、アサリへの成功報酬もお忘れなくー」

セーラ,「ええ、もちろんです。アサリさんにはいっぱいお世話になってますから~。恩義を返さないようでは、クアドラントの名折れですよ~」

アサリ,「あはー、そう言っていただければー。では、おやすみなさいませー」

#textbox Kse0480,name
セーラ,「おやすみなさい、アサリさん」

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「アサリさんが寝ている姿を見たことないのですけど、いつもどこで寝ていらっしゃるのでしょう~……?」

…………

……

――こうして、生涯で一番長い激動の1日は、ようやく、今度こそ本当に幕をおろした。

これから先、どんな日々が待ち受けているのか。想像もできないけれど。

――せめて、今だけは、夢の中くらいは、

不条理で破天荒な現実を忘れさせてくれ。

チュン チュン

外から聞こえてくる小鳥たちのさえずり。

窓から差し込んでくる柔らかく暖かな陽光。

アタル,「ぅんん……」

ふっかふかの過剰なくらいに柔らかな羽毛布団は、寝返りを打つ俺の体を優しく受け止めてくれる。

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ひよこ,「アタルくーん、起きてー。早く起きてー」

そんな俺を呼ぶのは、散々聞き慣れた幼なじみの間延び気味の声。

アタル,「うーん……あと5分……」

#textbox Khi0380,name
ひよこ,「もー、王様だからって、遅刻はよくないと思うよー」

……おう……さま。

ヒヨに言われ、俺は目を覚ます。

今までより快適な環境での起床だというのに、俺の心はどこか、沈んでいた。

目を開ければ、そこにはふわふわのロングスカートを身にまとったヒヨの姿。

アタル,「……ヒヨはなんでそんな格好してんだっけ?」

確認。

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「なんでって……昨日からここで暮らす事になったでしょ?私はアタルくんのメイドさんだよ」

にぱっ♪と、にこやかな太陽の如し、晴れやかな笑顔。

アタル,「そうだよな……そうなっちゃったんだよな……」

頭を抱える。

そう、やっぱりどうしても、夢じゃないんだ。

起きたら夢だと思いたい現実だった。

決して羨ましい環境などではない。

まるっと一国を、俺の決してたくましいとはいえない肩に載せられた重圧は凄まじいヘビーウェイトだ。

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「わ、すごいクマだねー……寝れなかったの?」

アタル,「ああ、うん、まぁ……」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「そっか、昨日、枕が変わってなかなか眠れないって言ってたもんね」

アタル,「うん……そういうことにしておいて」

王様の重圧もだが、ずっとセーラさんのことを思い出してしまい、なかなか寝付けなかったのだ。

頬に触れた彼女の唇の感触を今でも思い出せる。

彼女に襲われかかったのも夢じゃなかった。

アタル,「そういや……入口、鍵かけてなかったっけか?」

昨晩、セーラさんが出て行った後、内側からちゃんと鍵をかけたはずだ。

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「うん、かかってたけど、私、お屋敷の鍵渡されてるもん。ほらっ、メイドさんの特権だよ。えっへん」

懐から鍵を取り出し、見せつける。

ジャラッとリングに通された鍵は、端から端まで数十個。

その内、一番右端の鍵には金の装飾が施されていた。

それが俺も持っている、俺の部屋の鍵だった。

――まぁ、あまりゆっくりしてていい時間じゃない。

家の場所が変わってしまった今、学園への通学にどれだけかかるかわからない。

俺は布団を押し除け、ベッドから降りようとする。

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「ひゃ、ひゃあっ!?まだ私、ここにいるんだよっ!?」

ヒヨは慌てて目を閉じ、手で顔を覆う。

アタル,「? 何慌ててるんだ、おまえ」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「な、何って、あ、あれ……はいてる?」

アタル,「はいて……? ああ」

昨晩の『全裸なう』の妄言を本気で信じていたのか。

アタル,「ヒヨが出て行った後で、はいたんだよ。ヒヨが起こしに来ることもあろうと思ってな!」

俺はしれっと言ってのけた。

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「そ、そうだったんだ……もう驚かさないでよー……」

アタル,「――とか言いつつ、指の隙間から見てたな?ヒヨは何か期待してたんじゃないのか?」

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「きっ、期待なんてしてないよッ!アタルくんのえっちぃっ!」

べちす!

アタル,「あッばす!?」

ヒヨのチョップが俺の額の正中線を捕らえるように炸裂した。

ひよこ,「もぅ、んもぅ、んもぅっ!早く着替えて、みんなのところに来るんだよっ!」

アタル,「お、おぅぅ……イテテ……」

ヒヨのチョップの当たった額をさすりながら、俺はバカでかいクローゼットの中から、服を取り出す。

自宅のタンスに入っていた普段着に加え、アイドルが着る舞台衣装のようなマントやら、モッコモコした毛のくっついた服が入っていた。

……さすがにこれは普段着にはできんよな……。

そんな服にはまったく興味も示さず、手も伸ばさず、極めて普通な、学園指定の制服に着替えたのだった。

…………

……

アタル,「お……みんな、おはよ」

廊下ですれ違う使用人さんに挨拶されつつも、俺が食堂に顔を出すと、そこには既にフルキャストが勢ぞろいしていた。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「おはようございます、アタル王」

昨晩帰った柴田さんも、いつの間にやらご出勤。

食卓の上には、俺を待ちかねていたかのように湯気を立てる料理が並んでいた。

柴田,「本日はロシア風の朝食とさせていただきました」

ひよこ,「あ、そうなんですねー。このホットケーキみたいなのはなんですか?」

柴田,「スィルニキといいまして、カッテージチーズをたっぷり使ったパンケーキです。そちらのジャムと合わせてお召し上がりください」

アタル,「こっちのクレープみたいなのは?」

柴田,「ブリヌイといいます。王のおっしゃられる通り、ロシア風のクレープですね」

アタル,「ブリヌイ……へぇ……」

初めて聞く名前だった。当然、口にしたこともない。

柴田,「真ん中にトッピングがありますので、お好きな物をお申し付けください」

スモークサーモンやイクラ(親子だ)、マッシュポテト、クリームチーズ、色とりどりの野菜。

また、クリーム、ジャム、フルーツ。

クレープと同じく、主食にするもよし、デザートにするもよし、ってことか。

セーラ,「そこの瓶はなんでしょう?」

セーラさんが指さしたのは、サーモンと寄り添って置かれている黒っぽい粒の入った瓶だ。

柴田,「はい、朝食はロシアで取り揃えたということで、最高級のベルーガキャビアをご用意させていただきました」

アタル,「ベルーガ……キャビア?キャビアって、あのキャビア!?」

ひよこ,「すごーいっ! 私、キャビアなんて食べたことないよ。どんな味なのかなっ?」

アタル,「俺だってないぞ。世界三大珍味のひとつ、だっけ?三大珍味なんて、どれも食ったことないよ」

三大珍味――キャビア、フォアグラ、トリュフだっけ。

トリュフっぽい物なんて、いつぞやのバレンタインデーにヒヨがくれたトリュフチョコレートを口にしたくらいだ。

美味しかったけどね、トリュフチョコ。

柴田,「おや、そうでしたか。では、夕飯には世界三大珍味を取り揃えたフルコースをご用意しておきましょう」

そんなことを言いつつ、柴田さんはロシアクレープ(ブリなんとか。名前忘れた)に、チーズやらサーモンを見事な手際で挟みこんでゆく。

アタル,「えっ!? い、いいよ! だってお高いんでしょう?」

柴田,「はは、王が思っているほどではありませんよ。では、夕飯を楽しみにしててください」

ほぅ。未だ食べたことのない物が並ぶ夕飯がちょっと楽しみになった。

そして、最後にクレープの上にパラパラとキャビアを散らして完成。

柴田,「王、どうぞ。ひよこさんも、こちらを」

アタル,「あ、ども」

ひよこ,「わーい、ありがとうございます♪」

目の前に差し出されたキャビアを載せたクレープ。

その上に載るキャビアだけをフォークですくって、口に運ぶ。

初めてのキャビアの味は――

アタル,「魚卵だな」

ひよこ,「そうだねー。イクラみたいだけど、おいしーよ?」

アタル,「うん、美味しい。美味しい」

生まれて初めて食べたキャビアは、正直にいってしまうとよくわからない味だった。

口の中でぷちぷちと弾ける感触はイクラよりも心地良くて、すごくなめらか。

思っていたよりも生臭くないし、美味しいけど……世界が激変するほどの味ではない……かな?

自分が家庭料理慣れした貧乏舌な上に、期待が大きく上回ってしまったせいで、感激が薄いだけなのかもしれない。

だって、スプーン1匙で数千円するとか聞いたら、食べてる気なんてしないでしょ?

……未だに庶民気質が抜けきっていない。まだまだ昨日の今日だ、無理もなかろて。

ミルフィ,「エリ、あたしはクリームチーズがいいな。あ、サーモンもたっぷりお願いね」

エリス,「かしこまりました、姫様」

柴田さんに負けず劣らずな手際で、自らの主のためにクレープを拵えるエリスさん。

作ってるエリスさん自身はほとんど口にしていないように思える。あの姫様の面倒を見るのは、なかなかに大変そうだった。

エリスさんは大変そうな素振りなんて、ちっとも見せないけれど。

ミルフィ,「……アタル? 何か用?」

アタル,「あ、いやいや、別に……美味いよな」

ミルフィ,「そうね、なかなかじゃない?」

そう言いつつも、満面の笑みのミルフィ。

なんだかんだで感情を殺すのが下手なタイプだった。

しかし、朝っぱらからキャビアを食べる優雅な食卓……。

すげぇなぁ、王様……。

現実離れした現実につい呆けてしまったが、視線を感じ、顔をあげる。

#textbox Kse03B0,name
セーラ,「アタル様? どうかなさいました?」

アタル,「い、いえ! なんにも!」

#textbox Kse0390,name
セーラ,「うふふっ、おかしなアタル様」

……おかしなのはあなたですよ、セーラさん。

昨晩、あれだけのことをしておきながら、あなたはなんでそんなに平然としていられるんですか。

もちろん、そんなことを口に出せるわけもなく、むぐむぐと無言でクレープを口の中に詰め込んだ。

ひよこ,「あれ、アタルくん、どうしたの?なんか顔赤いよー?」

アタル,「な、なんでもないっ! あ、あー、そうだ、もうこんなゆっくりしてる時間じゃないんじゃないかな! そろそろ登校しないとヤバい時間じゃないのかな!」

と、饒舌にまくし立ててみた。

ひよこ,「あ……そうだね、いつもならそろそろ出ないといけない時間だね」

柴田,「確かにそろそろ出た方がよろしい時間ですね。いつでも出られるよう、外に車を待たせております」

アタル,「え、車で通学するの!? い、いいよ、そこまでしなくても。目立っちゃうじゃないか」

柴田,「ですが、アタル王。徒歩ですと、王宮の正門を出る頃には、始業時間となってしまいますよ?」

アタル,「ぐ……確かに」

この王宮の敷地は広大すぎる。

柴田,「ちなみにここから鷹羽学園までは、およそ10km。徒歩で向かわれるのでしたら、2時間ほど前には出ていなければなりません」

ひよこ,「10kmもあるの? わぁ……それじゃ歩いていくだけでへとへとになっちゃいますね……」

柴田,「さて、王。お車を使われないのでしたら、就任の翌日から大遅刻をなされますか?」

柴田,「それとも、本日付けで学園をお辞めになられて、家庭教師による帝王学を学ばれますか?」

アタル,「わかったわかった、車で行くよ」

柴田,「そう言っていただければ、準備している車も無駄にならずに済みます」

食事を終えた俺、そして、メイド服から学園指定の制服へと着替えたヒヨは、ともに用意された車へと向かう。

アタル,「――というわけで、俺とヒヨは学園に行ってくるから、ミルフィとセーラさんは、家でおとなしくしててくださいね」

ミルフィ,「えー、アタルがいないんじゃ、暇じゃないー」

アタル,「別に俺がいなくたって、やれることはなんだってあるだろ。エリスさん、ミルフィのこと、見張っておいてくださいね」

エリス,「かしこまりました。いつでもどこでもいかなる状況においても、自分は姫様をストーkいえ、見張っておりますので、ご心配には及びません」

言いかけた単語に、すさまじい犯罪臭を感じ取ったのは俺の気のせいだと思いたい。

セーラ,「愛する旦那の帰りを待つのも、妻の務めですわ。行ってらっしゃいませ、旦那様♪」

アサリ,「おみやげ、お願いしますねー」

アタル,「学園にそんなもんないよッ!」

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「あははっ、それじゃ、行ってきますねー」

賑やかに見送られつつ、俺とヒヨは手を振りつつ、王宮を後にし、車へと乗り込んだ。

…………

……

ミルフィ,「行っちゃったわね」

セーラ,「行ってしまわれましたね」

ミルフィ,「さて、と――あたしたちも行くわよ。セーラ、あなたもそのつもりなんでしょ?」

セーラ,「――あら、ミルフィさんもでしたか~。アサリさん、準備のほどは~?」

アサリ,「もちろん、転入手続き、全て完了してますよー。こちら、学生手帳とその他教材ですー」

エリス,「姫様、こちらが鷹羽学園の制服になります」

ミルフィ,「エリ、ありがと。さ、ちゃっちゃと着替えて、向かうわよ! 転校生だからって、遅刻するわけには行かないからねっ!」

エリス,「それにしても、先程の話では、セーラ様は編入の素振りをお見せになられてませんでしたので少々驚きました」

セーラ,「うふふっ、サプライズです~♪愛する方の驚く顔を見たいじゃないですか♪」

ミルフィ,「ま、考えることはどっちも一緒ってことよね。準備できたら、ヘリで向かうわよ。ふふっ、アタルの驚く顔が見物ね♪」

…………

……

昨日、家から王宮へと連れてこられた時と同じ、スモークガラスの張られた車体の長い車に揺られての登校である。

揺られて、というが、揺れなんてほとんど感じない。

シートはふっかふかのソファ。目の前には飲み物まで置かれている至れり尽くせりぶり。

#textbox ksi0110,name
柴田,「乗り心地はいかがですか?」

アタル,「あ、うん……最高……」

これで不満なんて出るものか。こんな登校シーンがあっていいのか。

#textbox khi0160,name
ひよこ,「すごいよー、アタルくん。ふっかふかだよ、ふっかふかー」

ぽふぽふと、もっこもこのソファを叩くヒヨのテンションは上がりっぱなしだった。

さて、一路学園を目指しているわけだが。

ちょっとシミュレーション。学園についた俺は、一体どういう顔をすればいいんだろうか?

王様の威厳を保って、偉そうに?

逆にみんなの怒りを買わないよう、卑屈に?

あまり目立たないように、こそこそと?

それとも――

#textbox khi0110,name
ひよこ,「アタルくん、どうしたの? なんか変な顔してるけど」

アタル,「そうか?」

#textbox khi0120,name
ひよこ,「うん、眉毛がキリッ!ってなったり、へニョンってなったり。百面相だね。ふふっ」

思わず自分の眉毛に触ってみる。

眉間にシワが寄っていた。

#textbox khi0160,name
ひよこ,「アタルくん、昨日からころころ顔が変わって、ちょっと面白いなー。今までそんなアタルくん、見たことなかったな」

アタル,「そりゃあ……こんなことになってるからだよ。まさか王様になるだなんて思ってなかったからさ」

#textbox khi0130,name
ひよこ,「うーん……アタルくん、考えすぎじゃないのかなぁ?」

アタル,「……考えすぎか?」

#textbox khi0160,name
ひよこ,「うんうん、考えすぎ、考えすぎ。もっとお気楽極楽にしてればいいんだよ?」

アタル,「そう言われてもなぁ……」

#textbox khi0110,name
ひよこ,「私もいきなりアタルくんのメイドさんになっちゃったけど、別に気にしてないよ? むしろ、楽しんでる。すっごく楽しいよ、アタルくんのメイドさん」

アタル,「おまえは考えてなさすぎなんだ。もうちょっとこの異常な状況をだな」

#textbox khi0150,name
ひよこ,「考えすぎてもしょうがないよー。アタルくんが王様になっちゃったのは、本当のことなんだし、ひっくり返すことはできないんだし」

#textbox khi0110,name
ひよこ,「だったら、大事なのは今をどうやって楽しむか、じゃないかな?」

アタル,「……んむぅ」

一理ある。

#textbox khi0170,name
ひよこ,「考えすぎちゃって、アタルくんがアタルくんじゃなくなっちゃうのは……私は嬉しくないな」

アタル,「それはよくわからないな……俺はどうなったって俺だろ」

#textbox khi0110,name
ひよこ,「そうなんだけどね……あ、もうすぐだね」

言われて窓の外を見ると、そこは見慣れた景色。学園に程近い通学路だ。

アタル,「あ、柴田さん、ここまででいいです。あとは歩きますんで」

#textbox ksi0150,name
柴田,「そうですか? 校門前までお連れする予定でしたが」

アタル,「こんな車で校門前に乗り付けたりしたら、目立つじゃないですか。歩きますよ」

#textbox ksi0110,name
柴田,「いえいえ、アタル王。あなたはとっくに注目の的になっていることを自覚なさってください」

#textbox ksi0110,name
柴田,「昨日のパレードはニッポン国内だけでなく、世界の主要都市に中継されています。世界であなたを知る人が億単位でいるのですよ?」

アタル,「……億? マジで?」

#textbox ksi0110,name
柴田,「はは、今更冗談を言っても始まりませんよ」

#textbox ksi0110,name
柴田,「『どうしても』というのでしたら、ここで降りていただいても構いませんけれども。昨日のように、生命を狙われる可能性もありますが」

昨日のような、殺し屋による凶弾。

昨日は当たらなかったから助かったものの、あんな幸運は何度も訪れてくれないだろう。

アタル,「……校門の前までお願いします」

#textbox ksi0110,name
柴田,「懸命な判断です」

――それからほんの数分後。

#textbox ksi0110,name
柴田,「――アタル王、ひよこさん、着きましたよ」

アタル,「え、もう?」

ブレーキをかけたことも気づかないくらいソフトに、車は校門前に停車していた。

ドアが自動で開き――

俺は学園に到着した。

柴田,「さ、アタル王」

いつの間に運転席から降りていたのか、柴田さんはドアの横に立ち、恭しく一礼。

アタル,「うん」

ざわ… ざわ…

俺が車から降りると、登校中の学生たちが稀有なものを見るような視線をぶつけてくる。

当然か、1人しかいないこの国の王。稀有そのものだよな。

俺に視線が集中しているのがわかる。

緊張していて、その無数の視線の意味を測り知ることはできないけれど。

昨日のパレードもだけど、人に注目されるのは慣れてないんだよ。

ひよこ,「アタルくん、シワ寄ってるよ。ふつー、ふつー。普通にしてないとだよ」

アタル,「むぅ……そうだな、普通にしてないとな」

……肩の力を落として。

周りを見てみる。

なんだかキラキラした瞳の女学生と目が合った。下級生だろうか。見覚えや面識はない。

昨日のパレードの時を思い出し、俺はなんとなく手を振ってみた。

女子学生,「きゃーっ♪」

真っ黄色な声で叫ばれた。何事だ。

ひよこ,「モテモテだね、アタルくん♪」

アタル,「え、いや……モテ? てるの?」

ひよこ,「昨日までアタルくんのことを知らなかった人にとって、アタルくんは国で一番偉い王様でしょ?」

ひよこ,「そういう人は王様ってすごいって、思っちゃうんじゃないかな? 憧れちゃうんじゃないかな?」

アタル,「そういうものかな?」

ひよこ,「そういうものだと思うよー。女の子にとって、白馬の王子様っていつの時代も憧れだもん」

アタル,「王子じゃなくて王様なんだけどさ……」

アタル,「憧れるのって……ヒヨもか?」

ひよこ,「うん、もちろんだよー♪」

そう言って、笑う。

柴田,「それでは、アタル王、お帰りの際にはお迎えにあがりますので、ご連絡をいただけますよう」

アタル,「うん、ありがとう」

俺とヒヨは皆に注目されつつも、昇降口から校舎へとあがる。

――その直後。

校舎の上を1機のヘリコプターが通過した。

…………

……

ざわ…      ざわ……    ざわ…          ざわ…

俺が廊下を歩いているだけで、校門前にいた時よりも大きなざわめきが起きる。

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「アタルくん、人気者だねー」

アタル,「物珍しさだろ」

王様になってから登校初日。いずれみんなも慣れるだろう。

自分の学園に、この国の王様が通っていることくらい、ごく普通に慣れて――

――本当にみんなは慣れてくれるんだろうか。

通い慣れたはずの自分の教室のドアの前に立ち。

俺はおそるおそるドアに手をかけ、開けた。

クラスメイトたちの視線が一斉に俺を向く。

う……!?

#textbox Khi0130,name
ひよこ,「ほらほら、アタルくん。普通に普通に。いつも通り」

アタル,「ああ、そうだな……」

アタル,「お、おはよう!」

挨拶をしたその瞬間だった。

男子学生,「国王が来たぞーっ!」

クラスメイトの1人が声を上げた瞬間。

アタル,「えっ、えぇっ!?」

クラスメイトたちが津波のように、俺の元へと押し寄せてきた。

女子学生,「王様おめでとーーっ!」

男子学生,「まさかアタルが王様になっちゃうなんてな!」

アタル,「え、あ、ありが――」

女子学生,「ねぇねぇねぇねぇ、王様ってどんな感じ!?王宮ってすごいの!?」

男子学生,「今度、遊びに行ってもいいか? テレビでやってたけど、やっぱりデカいんだろ!?」

アタル,「あ、まぁ――」

男子学生,「昨日の戴冠式見たぜ! すごかったな!」

女子学生,「あっ、あたし、沿道に並んだよ!手振ってたんだけど、気付かなかった?」

アタル,「え、そうなの? ごめ――」

男子学生,「マジ羨ましいよな! もう一生勝ち組じゃねーか!」

女子学生,「あっ、それって、国枝くんと結婚したら、チョー玉の輿ってことだよね? すごくない? すごくない!?」

女子学生,「あたしたち一般庶民じゃムリムリ。だって、お姫様にプロポーズされてるんでしょ?」

男子学生,「なぁにぃ!? お姫様、お・ひ・め・さ・まだと!?」

息をつく暇も与えてくれない怒涛の質問ラッシュ!今ので何連コンボだ!?

アタル,「ちょ、ちょっ! 落ち着け、みんな落ち着け!」

ぴたっ!

俺の制する声で、皆の質問の濁流は止まる。

アタル,「えーっと……みんな、そんな感じなの?」

女子学生,「そんな感じって……どんな感じ?」

アタル,「いや、てっきり、遠巻きに見られたりだとか……やたらかしこまられたりだとか、ハブられたりだとか……そんなのを想像してたんだけど……」

クラスメイトたちは顔を見合わせる。

そして。

男子学生,「ぶっは!(笑)んなわけないじゃん!だって、アタルだぜ?」

男子学生,「そうそう、今更、お前に何の遠慮するんだって話だよ」

男子学生,「たった一晩で超絶勝ち組になったのは、正直にいえば、妬ましいけどな! チクショウ、その幸せの一部でいいから、俺たちに分けろ!」

アタル,「え、え……」

俺の肩に腕を回してくる。

王様になったところで、こんなもんなのか……?

男子学生,「そりゃ、アタルが王様になったってのは驚いたけどさ。いざここに来てみれば、全然普通じゃん?」

男子学生,「そうそう、お前が変わってさえいなきゃ、いきなり態度を代えたりしないって」

アタル,「あ、あー……そ、そういうもんなの……?」

俺が王冠被って、マントを翻したりしてたら、その限りではなかった、ってことか……?

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「ね? 普通にしてれば大丈夫なんだよ」

アタル,「あ、ああ……」

昨日から散々悩んでいたのは、俺の取り越し苦労だったらしい。

もっとも、俺がいいクラスメイトに恵まれていたのは間違いないことだと思うのだが。

…………

始業ベルが鳴り響いても、学生たちの俺――というか王様への興味はなかなか収まらず、質問責めは続いた。

担任,「おーい、ベル鳴ってるぞ、早く席に着けぇー」

入口から担任が入ってきて、質問会はこれにて解散となった。

俺の席は教室の一番後ろ。

その俺の前にはヒヨがいる。

今まで通り、王になる前から何も変わらない場所だ。

チラッチラッと担任は俺の方を見る。

王様である俺のことが、さすがに気になるのだろう。

担任,「あー、こほん、今日は2人の転校生を紹介しまぁす」

女子学生,「どうしたの、先生? なんか変だよー?」

確かにいつもノリが違う。

いつもジャージ姿で『ヒゲゴリ』の愛称で学生たちに親しまれている、何をするにしても豪快な数学教師とは思えないほどの繊細さ。

幾分緊張しているように見える。

王様の俺がここにいるからか? 俺のせいだろうか?

――しかし、それは自惚れだったらしい。

こんな妙な時期に、王である俺のクラスへ、2人の転校生が同時にやってくるのだから。

それが誰なのか、俺はすぐに察するべきだった。

担任,「――では、入ってきてください」

???,「はーい♪」

???,「はーい♪」

ひよこ,「あれっ、この声って――」

アタル,「うぇ……!?」

廊下から聞こえてきた声は聞き覚えのあるもので。

教室のドアから中に入ってきたその姿も、当然、とてつもなく見覚えのあるものだった。

担任,「――というわけで、今日から同じクラスになることになりました。えっと……自己紹介をお願いします……」

鷹羽学園の制服に身を包んだ、ミルフィとセーラの両お姫様である。

ふたりのお姫様オーラの前に、萎縮して縮こまっているヒゲゴリは、まるで借りてきた猫だ。ヒゲネコだ。猫的な可愛いさなんて微塵もないけれど。

セーラ,「クアドラント国王女、セーラです」

まずはセーラさんから自己紹介。

ミルフィ,「あたしは、ミルフィ。ミルフィ・ポム・デリング」

男子学生,「いぇやっふぅー!!」

男子学生,「お姫様キターッ!」

クラスメイト――特に男子のテンションはダダ上がり。

俺が王様になったことなんて既に忘れているかのようでさえあった。

アタル,「ミ、ミルフィ!? セーラさんッ!?なんでここに!」

ミルフィ,「あ、やっほ、アタルー」

セーラ,「あっ、アタル様~♪ 来ちゃいました♪」

疑問に思うまでもない。国の権力を使えば、学園の1つや2つに転校してくるくらいわけないだろう。

家でおとなしくしててくれ、といって、おとなしくしてくれるようなキャラじゃないのは、昨日の時点でわかっていた。

もちろん、姫様が単身で乗り込んできたとも思えない。お付きの2人は――

#textbox ker0110,name
エリス,「チラリ」

ふたりが入ってきたドアの外から、中を覗き込んでいるエリスさんがいる。

セーラさんのお付きのはずのアサリさんの姿はないが、彼女が神出鬼没なのは、今に始まったことでもなし。

気がついたら、俺の後ろにいたりとか――

なんとなく、後ろを振り返ると。

#textbox Kas0110,name
アサリ,「あ、アタルさん、どーもー」

アタル,「ドゥワァ!?」

本当にいたぁッ!?

背後に人の気配をまったく感じなかったぞ!

別に俺は熟練の戦士でもなんでもないけど、背後に人がいれば何かを感じるものじゃないか。

それを微塵も感じず、顔を合わせるその瞬間まで、周りの誰もが気づいておらず、存在が希薄だった。

#textbox Kas0120,name
アサリ,「やですねー、お化けを見たみたいに驚かないでくださいよー、あははー」

顔を合わせた今となっては存在をしっかり認識できてるけれど、さっきの気配殺しっぷりはなんだったんだ。

担任,「それでは、おふたりともみんなに何か一言言っていただけますか?」

セーラ,「立場は一国の姫ではありますが、学園にいる間は、皆さんと同じ一学生です。皆さん、仲良くしてくださいね」

男子たち,「「おおおおおおおっ!」」

セーラさんの微笑みに、クラス中の野郎どもが湧いた。

無理もない、昨日の俺ならば、周りの奴らと同様、今の笑みだけで骨抜きにされていたことだろう。

ミルフィ,「ふぅん……いきなり男の心をがっちり掴むなんて、さすがはセーラね」

担任,「では、ミルフィさん」

ミルフィ,「はーい、あたしは学園に入学した手始めに――」

皆の注目を集める中、黒板の前に立つツインテの少女は。

ミルフィ,「学園をあたし好みに改造させていただきます♪」

アタル,「は?」

突然、わけのわからんことを言い出した。

セーラ,「え?」

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「ふぇ?」

ミルフィが高らかに上げた指を、パチンと鳴らしたその瞬間。

ジャキッ!

窓の外に、廊下に、一体どこから沸いたのか、銃を構えたイスリア軍の兵士がズラリと並んだ。

クラス中,「「おおおおおおおっ!?」」

セーラさんの時と文字面だけだと同じだが、意味合いはまったく違った悲鳴が湧いた。

アタル,「な、何やってんだ、ミルフィ!?」

ミルフィ,「ほら、ニッポンのアニメとか漫画だと、転校生がみんなの人気者になるか爪弾きにされるか、ふたつにひとつじゃない? だから、前者になるため、人心掌握を――」

アタル,「人心掌握っつーか、これは恐怖政治だよな!?」

ミルフィ,「そうかしら? それに学園が変形して地球防衛の拠点になるのって定番じゃない? だから、手始めに学園を占拠して、改造するのもまとめてやっちゃおうかなーって」

アタル,「ちょ、ちょっと待てぇ! 了承できるか、そんなこと」

この校舎が変形して、巨大ロボットが飛び出したりするのか。俺たちが地球を護るのか。一体どこの誰の脅威から護るんだ。

むしろ、今、ミルフィ自身が最大の脅威じゃねぇか。

ミルフィ,「あは、安心して、アタル。合体ロボットの搭乗者の1人にはちゃんと選んであげるからね」

アタル,「誰も頼んでねぇよ!?」

セーラ,「もうっ! そんな勝手なことをしてはダメですよ、ミルフィさん! 皆さん、困っているじゃないですか」

ミルフィ,「む、セーラ、そうやってあんたはあたしが人気者になるのを邪魔するつもりねっ!」

セーラ,「そんなつもりはありませんっ! 私はアタル様しか見ていませんし、なによりこの学園をアタル様との愛欲の園にするんですからっ!」

アタル,「……そっちもちょっと待て。今なんつった」

セーラ,「――お願いします、アサリさん!」

アサリ,「はーい、セーラさんのご命令とあらばー」

俺の後ろに立っていたアサリさんが動いた。

#textbox Kas0120a,name
俺の背後――教室の一番後ろに立っていたというのに、一跳躍で黒板の前へと躍り出る。

そして、黒セーラーに包んだ真っ黒な彼女の手に握られているのは。

真っ黒で巨大な、彼女の背丈以上の、鎌。

アタル,「どこに持ってたんだ、そんなのーッ!?」

#textbox Kas0150a,name
アサリ,「アタルさん、恥ずかしいこと言わせないでくださいー。女の子には秘密のポケットがあるんですよー、ポッ」

アタル,「秘密のポケットに、そんなデカいのが入るわけねーだろがぁっ!」

#textbox Kas0120a,name
アサリ,「まー、そこは企業秘密なんですがー、ミルフィさーん、ちょーっと静かに、おとなしくしててくださいねー。ヘタに動くと、殺しちゃうかもですよー」

#textbox Kmi0190,name
ミルフィ,「ふぅん……エリ」

ミルフィが名を呼んだ瞬間、銃声が響き渡り、その一瞬の後、激しい金属音が鳴り響いた。

エリス,「――させんよ」

音のした方を向けば、エリスさんの握っている銃の銃口がアサリさんに向けられていた。

アサリ,「危ないじゃないですかー……威嚇もなしに、いきなり頭を狙うなんてー……アサリじゃなかったら死んでますよー?」

エリス,「――当然だ。殺すつもりで撃ったからな」

アサリ,「あはー、残念でしたー。アサリを倒すつもりでしたら、あと100万発ほど足りなかったですねー」

エリス,「なるほど、確かに1発では足りないと見える。貴君を倒すのに100万とんで1発が必要ならば、あと100万発、用意してみせようか」

エリスさんのもう片手にも銃が握られる。

アサリ,「はぁ……やれやれですよー。エリスさん、邪魔しないでくださいー」

エリス,「他ならぬ姫様のご命令だ。姫様の邪魔をする以上、自分は貴君を排除する」

アサリ,「あらー、アサリはあなた如きに遅れをとったりはしませんよー?」

エリス,「ほぅ?」

アサリ,「あはー?」

ふたりして、静かに微笑み合う。

――それが開戦の合図だった。

ドンッ!

ふたりは弾けるように、床を蹴る。

凄まじい震脚に、教室が揺れたかのような錯覚を覚えた。

エリスさんの2丁拳銃から鳴り響く銃声。

そのエリスさんの放った銃弾を、アサリさんが鎌で弾くことで鳴る金属音。

鎌がエリスさんを捉え損ねて空を切り裂き、そして、ふたりが駆ける度に風が巻き起こり、空気が悲鳴をあげる。

3つの立て続けに重なりあう戦いの旋律が、俺たちを巻き込む。

エリスさんの流れ弾、アサリさんの弾いた跳弾、ふたりの踏みしめた足は、壁にいくつもの傷跡を残してゆく。

エリス,「ほぅ、思っていたよりやる」

アサリ,「あはー、こっちのセリフ、取らないでくださいよー」

エリス,「少しだけ――」

アサリ,「――見直しましたよー」

ミルフィ,「セーラ、この場はお互いの付き人のどっちが強いかで決めるってのでどう?」

セーラ,「そうですね~。私は戦うことなんてできませんし~」

ミルフィ,「それじゃ、決定ね。エリっ、絶対負けるんじゃないわよ」

セーラ,「アサリさ~ん、頑張ってくださいね」

エリス,「ハッ、元より承知しております」

アサリ,「達成報酬は、クロマグロ1匹で結構ですよー」

物理法則を無視したハイスピードな交戦。なんとか目で追いかけていても、突然視界から消えたり、突然現れたり。

人間って鍛えあげると、こんなスピードで動けるように鳴るのか? 外国の人ってすげぇな!

女子学生,「な、なにこれっ、なんかのアトラクション?」

突然、何が始まったのかわかってないクラスメイトたちはあっけに取られていた。

当然、俺も何が始まっちゃっているのか、さっぱりわからない。

男子学生,「よ、よくわかんねーけど……軍人のおねーちゃん、カッケーぞ! やれやれーッ!」

男子学生,「せっかくだから、俺は猫耳セーラーを応援するぜっ!」

何かの出し物だと思ったクラスメイトたちは、無責任にも応援を始めた。

そして、その空気は、あっという間にクラス中に蔓延。

遺憾の意を表明するばかりで、争い事とはとんと無縁な我がニッポン国だ。

平和ボケしっぱなしなクラスメイトたちは、目の前でおこなわれているこの光景を『戦い』だとは認識できず――エンターテイメントだと思っている。

そのことがわかっているのは、戦っている本人たち、けしかけている姫様たち、それに、俺と――

ひよこ,「ど、どど、どうしよっ。なんか大変な事になってるよっ」

俺の方を見て、わたわたしてるヒヨくらい。

ミルフィ,「そうよ、そこよっ! あー、惜しいっ!」

セーラ,「アサリさん、右です左です!」

姫様たちは自分の付き人の応援に忙しいし。

頼れる執事の柴田さんもこの場にはいない。

この非常事態を止められるのは、俺しかいないのか。

国王の俺が、止めなきゃダメなのか。

アタル,「や、やめ……ッ!」

#textbox Khi0190,name
ひよこ,「アタルくん?」

震える声を絞り出し、荒れ狂う暴風のように立ち回る2人の間に歩み入るべく、俺は立ち上がる。

このまま続けてたら、絶対に怪我人が出る。

戦いに割り込もうにも、2人のスピードには追いつけるわけがない。それでもっ!

2人が交差する中へと駆け込み、通せんぼをするように両手を左右に広げて。

アタル,「エリス! アサリ! やめろぉっ!」

腹の底から、叫んだ刹那。

アタル,「――ッひ!!?」

こめかみに突きつけられていたのは、エリスさんの拳銃。

首筋に突きつけられていたのは、アサリさんの漆黒の鎌。

ゾゾゾゾと血の気が、音を立てて引いた。

エリス,「戦いの最中に飛び込んでくるとは。危ないですよ、アタル王」

アサリ,「そうですよー。危うく、アタルさんの首と胴体がサヨナラしちゃうところでしたよー?」

俺の命運を左右する瞬間でありながら、キョトンと何食わぬ顔で呟く2人。

アタル,「こ、国内での交戦はっ、禁止したっ!」

エリス,「ハッ……そうでしたね。失礼いたしました」

アサリ,「あれー、そーでしたっけー。ごめんなさいー」

こめかみに当たっていた銃が、エリスさんのガンホルダーに収められる。

首筋に当たっていた鎌は一瞬で消えた。

本当、その鎌の収納システムはどうなってんだ。

アタル,「ミルフィとセーラさんもだ! けしかけたりするんじゃない!」

ミルフィ,「……ごめん……」

セーラ,「すみません……」

教室には交戦の傷跡が残されている。

担任,「え、えーと、国枝くん……?つ、つまり、今のはどういうわけなんだね?」

アタル,「――え、えーっと、今のはですね……!」

今起きていたこと全てをなかった事にするには――どうする? どうすればいい?

えーっと、えーーーっと……!

アタル,「お、俺の王様就任&お姫様転校記念のサプライズイベントでした! ど、どう? すごかったでしょ!?」

アタル,「――ってことで、どうでしょう……?」

――なんて、ごまかしてみる。

教室中がシン……と静まり返った。

さすがに……誤魔化し切れないか……?

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「ホッ、なぁんだー。もうアタルくんってば、なんにも教えてくれないんだもん。びっくりしちゃったよー」

助け舟を出してくれたのは、ヒヨだった。

助かった……さすがは空気を読める幼なじみだ……。

……もしかしたら、本気でそう思っているのかもしれないけど。

男子学生,「えっ、な、なんだ、そうだった、のか……」

女子学生,「そうだよねー、あんなこと、普通の人にできるわけないし」

エリス,「ふふ、そんなことはない。我が国の諜報きかnムグッ!」

アタル,「そ、そうそう、そうだよ! むりむりだよねー!はは、はははは!」

余計なことを言いかけたエリスさんの口を慌てて閉めて、無理やり笑い飛ばして締めることにした。

男子学生,「だよなー、ははは」

そんなでも納得してしまう、平和ボケニッポン人の民族性、恐るべし。

…………

……

――なお、この後、教室の修繕のため、本日、我がクラスはこれにて学級閉鎖となった。

文字通りに、教室が閉鎖されたのである。

…………

……

アタル,「いいかげんにしろーッ!」

青空に俺の怒号が響き渡った。

セーラ,「ひゃんっ……!」

ミルフィ,「な、なによぉッ!そんな怒鳴らなくてもいいじゃない!」

アタル,「どこからツッコめばいいものやらって感じだけど!まずはなんで編入してきてるんだよ!家でおとなしくしてろって言っただろ!」

ミルフィ,「ふふん、あたしが家でおとなしくしてるだけの器なわけがないじゃない!」

胸を張って威張るツインテ王女。

アタル,「どういう開き直りだ、それ……ねぇ、付き人、両名? 見張っててって言いましたよね?」

エリス,「ええ、自分は確かに見張るように厳命されました。故に、今、ミルフィ様を見守っております」

見守ってるだけじゃ意味ないんだよ……!

止めてくれなくちゃ意味ないんだよ……!

アサリ,「アサリもニッポンの学園には興味ありましたからねー。一度来てみたかったんですよー」

もはや見守るということすら放棄している、コッチのネコミミ黒セーラーはどうでもいい。

さっきの戦いを見てしまった以上、この2人に対してあまり強く言うのも躊躇われた。

下手をすれば命がなくなる。

セーラ,「でも、アタル様と同じ場所で生活させてくださってもよろしいではないですか~?」

ミルフィ,「そうよ、だいたいちゃんと入学の手続きを踏んで、ここに通ってるのよ。それを責められる謂れはないわよね」

アタル,「百歩ゆずって、同じ場所で生活するのはともかく、俺の生活をおびやかすのはやめてくれませんかねぇ!」

ひよこ,「そ、そうですよっ! さっきのはさすがにやりすぎだと思いますよっ。あんなのずるいよっ」

この場に同席しているヒヨが抗議。ずるいという言い分はよくわからない。

アタル,「正式な手続きを踏んでるのなら、学園に通うのは別にいいけどさ……」

アタル,「ただし、俺への必要以上の接近はダメだからな!」

昨晩みたいなハプニングの数々を、学園内で巻き起こしてくれそうだから困るのだ。

ひよこ,「そう、禁止! ダメ絶対!」

アタル,「……ヒヨ、随分、押してくるな?」

ひよこ,「え、だって、ほら、えっと、ク、クラスのみんなの気が散っちゃうでしょ? みんなの授業の邪魔をしちゃダメだよ、うん、ダメダメ」

アタル,「うん、その通り。俺だけじゃなくて、クラスメイトにも迷惑をかけちゃダメ」

セーラ,「え~……アタル様、イケズです……それでは学園をアタル様と私の愛欲の園に変えることができないではないですか……」

アタル,「あんたは学園に何を期待してるんだ!?」

セーラ,「……え、言わないとダメですか……?」

アタル,「やっぱり言わないで結構です!」

アタル,「それに、ミルフィもだ! さっきの学園改造ってのはなんだよ! 巨大ロボットなんざ、ニッポンにありゃしねぇよ!」

ミルフィ,「え……? またまた、アタルってば何言ってるのよ」

アタル,「……ん? おまえこそ、何を言ってるんだ?」

ミルフィ,「だって、ニッポンに巨大ロボットがいないとか言い出すから。いるに決まってるじゃない」

ミルフィ,「隠したって無駄なのよ。衛星から確認だってしたんだから」

ひよこ,「えっ? あの、ミルフィさん?」

アタル,「え、えーと……?」

ミルフィ,「……あ、そっか、トップシークレットだもんね。知らないフリしてても、あたしはわかってるんだから」

えっへん! と、自信満々に胸を張るミルフィ。ミルフィの謎のお電波発言に困惑する俺とヒヨ。

俺たちの困惑がわかっていない様子のセーラさんとアサリさん。

その中、訳知り顔なのは、エリスさんだけだ。

エリス,「アタル王、ひよこさん、ご無礼」

アタル,「え、わ、わっ?」

ひよこ,「わ、わわわわっ?」

エリスさんに肩を組まれ、屋上の片隅にまで引っ張られるように連れていかれる。

そして、俺とヒヨはフェンスを正面に、ヘッドロックを食らわせられたまま、話し始めた。

ひよこ,「あの……エリスさん?」

エリス,「今の話ですが――ミルフィ様は巨大ロボットの存在を心底信じておられます」

アタル,「巨大ロボットって……あの……ロボットアニメとか戦隊モノに出てくるヤツ? 合体したり、変形したり」

エリス,「はい、その巨大ロボットです」

アタル,「……ちょっと待て。常識的に考えれば、あんな物は実在しないってわかるでしょう? フィクションだけの話ですよ」

エリス,「ですが、ニッポンは実際に等身大の巨大ロボットを製造した――」

ひよこ,「え、そうなの? ニッポンってすごいんだね……」

アタル,「いや、そんな話、聞いたことも――あ」

そういや、ニッポンでは等身大の巨大ロボットを作っていた。そして、展示していた。

もちろん、実際にはアニメのように動きなどしない、コクピットもない、ただ立たせているだけの銅像のような代物だが。

期間限定で、全長20m近いロボットが、海に向かって立っていたことがあったのだ。

あいにくその実物を見には行ってないが、テレビでニュースになっていたのは知っている。

ひよこ,「えーっと、つまり、それを見て、ミルフィさんは本気になっちゃったってこと……?」

エリス,「ええ、あれ以来、ミルフィ様はいずれニッポンと技術協力をし合い、巨大ロボットを自国の主戦力にするのだと主張し続けているのです」

アタル,「いやいや、ちょっと待ってよ。エリスさんはそんなモノないって知ってるじゃん! なんで教えてあげなかったのさ!」

エリス,「……無邪気な姫様が、あまりにも可愛らしかったもので……教えるタイミングを失ってしまい……」

アタル,「オィィ!? あんた、実はアホか? アホなんだな?」

エリス,「自分の口から『実はロボットなんていないんですよ』だなんて申し上げたら、自分が姫様に嫌われてしまうかもしれないじゃないですか!」

彼女の目はマジだった。つくづく残念な人だった。

アタル,「知ったことか! とっとと嫌われでもなんでもしろ!……ぅげっ!?」

エリスさんは俺の首を締める力をわずかに強め――そして、急に声を低めた。

エリス,「姫様が――我がイスリアが本気になればニッポンなど、数日で武力制圧できる」

エリス,「我がイスリアの軍事力は、ニッポンのおよそ4倍だ」

アタル,「なん……だと……?」

エリス,「それを行わないのは、姫様がニッポンに数多の巨大ロボットが潜んでいると思っておいでのためだ」

エリス,「巨大ロボット1体で敵軍隊を壊滅させるのは、ロボット物のお約束のようだからな」

ひよこ,「そういうものなの……?私はあまり見ないから知らないけど……」

アタル,「……確かに、ロボット1体に、大量の戦闘機や戦車が蹂躙される光景はよく見るな」

戦闘機の機関銃や戦車の砲弾があたっても無傷な上、戦闘機をグシャッと片手で握り潰したり、戦車を踏み潰して、ペシャンコにするもんな。
エリス,「試しに姫様にバラしてでもみるがいい。巨大ロボットが存在しないことを知った姫様は、恥ずかしさのあまり、一昼夜の内にニッポンを火の海にしてみせるだろう」

アタル,「……ゴクリ」

ひよこ,「ひぇぇ……」

……

…………

ミルフィ,「し、知ってたもん! そのくらい、常識だもん! こ、このあたしが現実とフィクションをごちゃまぜにしてるとでも思ってたの!? あーもー、いいから滅べーっ!」

…………

……

アタル,「ぞっ……!」

その時のミルフィがなんとなく想像できた。そして、寒気が走った。

ひとりの姫の羞恥の隠蔽のために――しかも、『アニメと現実の区別ができてなかった』という理由で滅ぼされる国、ニッポン。
理不尽にも程がある。俺の代で、そんなピリオドの打たれ方は嫌すぎる。

エリス,「――そういうわけです、アタル王。くれぐれもこの件はご内密に。姫様に打ち明けるのは、機を見ていただきたく思います」

アタル,「あ、ああ……わかった……」

……

…………

アサリ,「わー、それでそれで?ダイザンガーはどうなりましたかー?」

ミルフィ,「それで、ダイザンガーは、はるばるアルデバランからやってきた宇宙怪物たちをね……あっ、エリ、話は終わったの?」

うっかり姫様・ミルフィは、どうやらセーラさんとアサリさん相手に、名作ロボットアニメの熱弁を奮っていたらしい。

ダイザンガーというのは、なんとなく名前を聞いたことがある。俺が生まれるよりもずっと前、今のようなCGも使われていない時代のロボットアニメだ。

内容に関してはタイトルすらうろ覚えの俺よりも、ミルフィに聞いた方がいいだろう。

エリス,「ええ、アタル王を少々問い詰めてみたのですが、在処を教えてくれませんでした。さすがは国のトップシークレット、といったところですね」

パチリと、エリスさんは俺に目配せを送る。

アタル,「あ、あぁ、もちろんだとも!いくら姫相手でも、そう簡単には教えられないな!」

ミルフィ,「むぅ……そっかぁ……それなら、アタル! あたしがあなたと結婚して、家庭を持てば、その時にはちゃんと教えてくれるわよね?」

アタル,「えっ? えーと、その時には……まぁ……」

ミルフィ,「よーっし、そうとわかればセーラには、何がなんでも絶対負けないんだからね!」

セーラ,「私も負けるつもりはありませんよ~」

2人の間で、バチバチと火花が散る。

どうやら俺を巡ってのバトルに、更なる燃料が投下されてしまったらしい。

…………

……

アタル,「はぁ~……!」

安息の場は自分の部屋だけだった。

本日の夕飯は、朝言っていた通りに世界の三大珍味を使った、フレンチのフルコースディナーだった。

料理はとても美味しかった。初めてフォアグラとトリュフを食べ、たった1日で三大珍味を制覇した。

しかしながら、テーブルマナーがわからず、フォークとナイフの使い方もあやふやで、事細かに指導されながらのお食事で。

アタル,「この水は何?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「フィンガーボウルといいまして、汚れた際に指を洗うためのものです。くれぐれも飲んだりしませんよう」

アタル,「えーっと……この10本くらい並んでるナイフとフォークはどこから使えばいいの?」

柴田,「メニューに合わせて、外側から順に並んでおります。外側からお取りください」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「ふむ……このような初歩の初歩のマナーもご存知ないようでしたら、やはり学園生活とは別に、必要最低限の帝王学は叩き込まねばならないようですね」

アタル,「うぇぇ!? ちょっと! 話が違うんですけど!」

ミルフィ,「諦めなさい、アタル。あなたが恥をかかないために必要なものよ、はむっ」

さすがお姫様というべきか、ミルフィは無駄のない動きでフォアグラのテリーヌを切り分けては口に運んでいた。

ミルフィ,「アタル1人だけが恥をかくならともかく、アタルの恥はそのままニッポンの恥になりかねないの」

ミルフィ,「しいては将来、后になるあたしたちにも影響しちゃうんだから、それは勘弁してよ?」

そう言ってミルフィは、ビシッ! と、フォークの尖端を俺の方へと突きつけた。

アタル,「ぐぬぬ……」

確かに一理ある、というか、正論そのものではあるが。

フォークで人を指し示すのは、マナー違反ではないのだろうか。

…………

と、まぁ。

食事中に指導され、食事が終わった後も『王として最低限覚えるべき事柄』を、柴田さんにみっちり叩き込まれ。

すっかり疲弊したわけである。

ニッポンの歴史に始まり、歴代の王様のこととか、ニッポンの法律だとか。

一度に叩き込まれても、頭に入りきらない。しかも、毎日、テストをするだとか言い出した。

……楽じゃないなぁ、王様。

ベッドに突っ伏していると、そのまま眠りに落ちてしまいそうだった。

寝る前に、風呂には入っておかないとな。

のそりと緩慢な動作で身体を起こし、俺は風呂場へと向かう。

すれ違う使用人たちに挨拶されながらも、頭の中では柴田さんに叩き込まれた年号やら法律やらがグルグルと渦巻いていた。

脱衣所で、一気に服を脱ぎ捨てる。

よし、浴槽に飛び込んで、嫌なことは全部忘れてやる。

でもテストがあるから、忘れちゃいけないことは、忘れないようにしないとな――

ひよこ,「ふぇ」

アタル,「ほぇ」

スキル:ラッキースケベが発動したその直後。

ひよこ,「きゃあぁあぁぁぁぁっ!」

アタル,「ぁんどるッ!」

ヒヨのチョップを脳天に喰らい、直前に見たヒヨの裸体と、せっかく覚えようとしていた俺の学習記憶が飛んだ。

…………

……

ひよこ,「もうもうもうもうッ! なんで私が入ってるところに入ってくるのーっ! 入浴中って書いてあったよねっ? 私の脱いだ服も置いてあったよねっ!?」

アタル,「考え事をしていて気付かなかった……面目ない……」

ヒヨの前で正座をさせられている俺。

#textbox Khi0380,name
ひよこ,「もうもう、アタルくんじゃなかったら今頃、お巡りさんだよ。逮捕だよ」

アタル,「はい、すみません」

メイドにこっぴどく叱られる王様というオモシロ絵面が、ここにあった。

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「……王様は大変だと思うし、疲れてるのはわかるけど……もっと気をつけなきゃ、ね?」

アタル,「はい、気をつけます」

土下座までする王様の姿。こんな低姿勢な王様、どんな絵本でも見たことないわ。

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「アタルくん、そこまでしなくていいよ。もういいよ。メイドさんに謝る王様なんて聞いたことないよ」

アタル,「奇遇だな、俺も聞いたことがない」

逆に、メイドに土下座する王の第一人者になれたのではなかろうか。

金輪際、歴史上に出てくることもないと思うが。出てきたとしても、隠蔽されると思う。

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「お互いに恥ずかしい思いはしたし……今日のことは忘れよ、ね」

アタル,「恥ずかしい思い……?」

#textbox Khi0340,name
ひよこ,「わ、私の……その……裸……見えた、でしょ?」

アタル,「え、あ、ちょっとだけ見えたような……いや、でも! 殴られたショックで消えた! 全部忘れた!」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「そう? それならいいんだけど……今は誰も入ってないと思うから、お風呂入ってくればいいと思うよ」

アタル,「あ、うん。本当にごめんな、ヒヨ」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「ううん、もう気にしないでいいからね」

そんなお叱りを受けた後、俺は改めてお風呂へと向かった。

……

…………

ひよこ,「うわわわわわ、すごいモノ見ちゃったよぉっ!アタルくんの、子供の時と違うよぉ……!」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「そうだよね、あんなのがアソコにあったら……昨日の夜みたいになっちゃうよね……男の人も大変なんだなぁ……」

…………

……

アタル,「ぷふぅい……」

風呂から上がってさっぱりした俺は速やかに寝支度。

明日、また学園に行くんだろうか。行けるんだろうか。

そして、彼女たちもまた行くのだろうか。

いろんな不安を覚えながらも、俺は布団に横になる……

その前に!

ぱぱらぱっぱぱ~ん!

アタル,「つっかえ棒~!」

説明しよう! これはつっかえ棒である! 説明終わり!

この文明の利器をどのように用いるかというと!

ドアにこうやって、斜めに引っ掛けて……と。

完成である!

部屋にはもちろん鍵がついているが、どうやらセーラさんには通用しないみたいだからな。

もっと原始的かつ物理的な力に頼ってみた。

自分でもドアを開けてみようとしたものの、ドアノブは動かない。

鍵を開けても、ドアノブが動かないならば入ってこれまい。これなら安心だ。

それでは、おやすみなさい。

…………

……

#textbox kse0420,name
セーラ,「一度拒まれても諦めたりはしないのです~。うふふっ、アタル様~」

ガチャ、ガチャ

#textbox kse0450,name
セーラ,「あ、あら~? 鍵が開いたのに、ドアが開かないです~」

#textbox kse0460,name
セーラ,「むぅ……アタル様ってば……今晩は諦めるとしましょう……残念です~……」

どうやら、無事に撃退に成功したらしい。

これで今晩からは枕を高くして眠れるというものである。

ふう、やれやれ。おやすみなさいっ。

#textbox khi0310,name
ひよこ,「アタルくーん!?アタルくん、起ーきーて、起きてよー」

アタル,「んむにゃ……?」

けたたましく、自室のドアを叩く音が聞こえてくる。

エリス,「随分と騒がしいですね、どうなされましたか」

ひよこ,「アタルくんを起こしに来んですけど、ドアが開かないんですよー。おかしいなぁ、中で何か引っかかってるのかなぁ」

エリス,「なるほど――離れてください、ひよこさん」

そんなやり取りが聞こえてきたと同時。

アタル,「おおおぉっ!? 何事っ!?」

ドアが爆発した。

もうもうと煙をあげる半壊したドアを勢いよく蹴破り、ゴロゴロと身を低く転がるようにしながら、俺の部屋に侵入する1人の軍人。

俺の目の前にやってきた彼女は、銃を突きつけてくる!

#textbox Ker0170,name
エリス,「フリーズ!」

アタル,「ホワッツ!?」

突きつけられた俺は両手をあげて、聞き返した。

#textbox Ker0160,name
エリス,「っと――失礼しました、アタル王。あまりにも以前のミッションと酷似していたもので、思わず銃を抜いてしまいました……ご容赦を」

アタル,「へ、へぇ……!」

#textbox Ker0110,name
エリス,「お目覚めになられましたか?」

アタル,「お、おかげさまで」

バッチリ目が覚めました。

……

…………

本日の通学は、4人揃って。

制服に身を包んだ俺、ヒヨ、そして、セーラさん、ミルフィを載せた長~い車は、一路、学園を目指す。

アタル,「言っておきますが、ふたりとも。くれぐれも昨日みたいな騒ぎは起こさないでくださいね!」

#textbox kse0120,name
セーラ,「は~い、アタル様がそうおっしゃられるのでしたら、私は我慢いたします~」

#textbox kmi0170,name
ミルフィ,「む、何よ、セーラ。その言い方だと、あたしが何か騒ぎを起こしそうじゃない」

……昨日の騒ぎは明らかにミルフィが発端だと思うんだけどな。

昨日だけじゃないな、基本的にいつもそうじゃないか?

出会い頭、戦車を持ち出して向き合ったのも、発端はミルフィ。

しかし、そのミルフィを煽って、かき乱してくれちゃったのがセーラさん。

2人が合わさると、その被害は相乗効果でヤバくなる。

……うまく操作しないと、取り返しの付かないことになるかも――

……手遅れかな。

…………

……

車は校門の前に辿り着く。

昇降口に向かう学生たちの視線は、車から降りる俺たちに一点集中だ。

あんまり目立ちたくないんだけどなぁ。

俺の希望なんて他所に、羨望の眼差しを向けられる。

ミルフィ,「おはよう、皆様」

セーラ,「おはようございます~」

微笑んで、手を振ったりするもんだから、学生たちは男女問わず、みんなコロリ。

これが真のロイヤルスマイルか。取ってつけたような俺のとはまったくの別物だ。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「それでは、アタル王。またお昼に」

アタル,「お昼? ……わかった、よろしくね」

お昼に何か用があるのだろうか。

俺を先頭に、後ろには姫様とメイドを引き連れ、俺は教室へと向かう。

まるで勇者様ご一行の4人パーティだ。下手なRPGのパーティよりももよっぽどロイヤルな編成だった。

アタル,「ところで、お付きのセーラさんとエリスさんは?」

姫様だけを歩かせて危険ではないのだろうか。

一緒の車に乗っていなかったし。

ミルフィ,「いるわよ?」

セーラ,「アサリさんですか~? 多分、その辺りにいらっしゃると思いますけど~」

ひよこ,「えっ、どこどこ?」

ヒヨ同様、俺も周囲を見回すものの、軍人姿とネコミミ姿という、あれだけ目立つはずの2人の姿はない。

アタル,「いないけどなぁ……」

ミルフィ,「そう見えるだけよ。有事の際には、ちゃんと出てくるわ」

アタル,「出てくるって……」

ふと、俺の視界に入ったのは、俺たちに向けて、ケータイを構えた学生の姿。

男子学生,「おいおい、勝手に撮っちゃマズくね?」

男子学生,「だって、お姫様だぜ? こんなチャンス、滅多に――」

エリス,「チャンスだと――思ったか?」

男子学生,「ヒィッ!?」

一体どこから現れたのか、ケータイを向けた学生に対し、銃を突きつけているエリスさんの姿がそこにあった。

アサリ,「そーですよー。しょーぞーけんの侵害というヤツですねー」

同様に、いつの間にか鎌を首に突きつけているアサリさんの姿もまた。

エリス,「その撮影ボタンを押すことは、自分の引き金を引かせることに等しいと知れ」

男子学生,「はっ、はいぃ!」

速やかにケータイをしまい、腰を抜かす学生くん。

――瞬く間に、この噂は広まり、無断で彼女たちを撮影する奴はいなくなったわけだが――

アサリ,「はー、まったくー。常識を知らない方は困ってしまいますねー」

……そこは大鎌を持ってるあんたにツッコんでいいところだよな? ツッコミ待ちだよな?

ケータイを向けただけで生命の危機に晒された彼には、ちょっとだけ同情した。

今後、彼のトラウマにならないといいが。

ミルフィ,「ね? 頼りになるのよ」

エリス,「護衛任務に着いている自分が、姫様から目を離すことはありません。ありえません」

エリス,「こんな愛らしい姫様から、目を離せる時間なんて1分、1秒とてあるはずがないでしょう……ハァハァ」

ミルフィ,「ん? エリ、なんか言った?」

エリス,「いえ、何も申しておりませんよ?」

ミルフィ,「そう? ならいいけど」

アタル,「でも、出る時は俺たちを見送ったのに……なんで先に着いてるのさ。車には乗ってなかったよね?」

エリス,「自分は姫様たちの出発後、後ろから追いかけておりましたよ」

アサリ,「アサリは、皆さんと同じ車に載ってましたよー。走るのは疲れちゃいますからねー」

アタル,「え……一体どこに? 載って……ん?『載』って?」

アサリ,「はいー、載ってましたー。上に」

アタル,「上……って、屋根?」

アサリ,「はいー。風を感じられるので気持ちイイですよー。走るよりも楽チンですしねー。今度、アタルさんもいかがですかー?」

アタル,「……いや、いいです、遠慮しておきます」

朝っぱらから、そんなアメリカのアクション映画のような真似できるものか。

この人の周辺の物理法則はどうなっているのだ。

…………

……

アタル,「おはよう……おぉ……」

昨日の激闘で傷ついたはずの教室は、すっかり元通りに修繕されていた。

むしろ、元より綺麗になっているのではないだろうか。

なお、この修繕は、あの時に押し寄せたイスリアの兵士たちによるものとかなんとか。

男子学生,「アタル王、ご機嫌麗しゅう」

アタル,「王はやめろ。学園の中くらいは一学生でいさせてくれ」

と、主張はするものの。

クラスにおける姫様方の席は、当然というか、お約束というか。

ミルフィ,「アタル、隣、よろしくね」

右にミルフィ。

セーラ,「アタル様、よろしくお願いします」

左にセーラさん。

ひよこ,「アタルくん、お姫様に挟まれてる~って、浮かれちゃダメだよー?」

そして、前にはヒヨという身内布陣ができあがっていた。

頭が痛かった。

そして、頭以上に周囲の男子たちの視線が痛かった。激痛だ。針のむしろだ。

男子学生,「憎い憎い憎い憎い」

数多の負のオーラが伝わってくる。

男子学生,「ギリギリギリギリ」

永久歯が粉々になるんじゃない? と、心配したくなるほどの歯ぎしりが聴こえてくる。

俺が王様になったことは祝福してくれたというのに、姫様独占禁止法への抵触は、男子たちの逆鱗に触れてしまっているらしい。

俺が王様になったことなんかより、姫様独占の方が遥かに妬みの対象らしかった。

ミルフィ,「あ、アタルー、ごめん、今日、教科書忘れちゃったのよね、見せてくれる?」

右隣に座るミルフィはガチン!と俺の机と自分の机をドッキングさせた。

近づく距離。

周辺の負のオーラが高まる。

響き渡る歯ぎしりの大合唱。

アタル,「見せてあげるなんて言ってないだろ! ないならば、エリスさんに頼れば、教科書の1冊や2冊なんて――」

セーラ,「あっ、ミルフィさん、ずるいです~。アタル様、私も教科書、忘れてしまいました~。見せてくださいませ♪」

ガチン!と左側も机と机がドッキング!

三机合体デスキング!

『デスク』+『キング』で机の王様と称するつもりが、死神の王様みたいになってしまった。デスキング怖ぇ!

それはともかく。

アタル,「忘れたって嘘でしょ!? セーラさん、今さっき、教科書取り出そうとしてましたよね!?」

セーラ,「してませんよ~。はい、アタル様、もっと私の方に身体を寄せてくださいませ」

ぐいっと俺の腕を引っ張る。

アタル,「寄せるのは教科書であって、俺の身体じゃないんじゃないかな!?」

ミルフィ,「セ、セーラ、ちょっとアタルに身体くっつけすぎじゃないのっ!? そのでっかいバスケットボールみたいなの、なんとかしなさいよ!」

セーラ,「なんとかしろと言われましても~……ね、アタル様、私、この胸をどうすればよろしいでしょうか~?」

アタル,「ど、どうもしないでいいです。どうもしないでいいですから、今は俺に密着させないでください!」

ミルフィ,「そ、そうよ、アタルが迷惑してんでしょ!ほら、アタル、あたしの方を向きなさい!身体を……こっちに……!」

アタル,「痛い痛い痛い! 腕を引っ張るな!俺の関節はそっち側には曲がらねぇ!」

セーラ,「もう、ミルフィさんだって、アタル様にご迷惑をおかけしてるじゃないですかぁ! えいっ!」

アタル,「ギブギブギブ! セーラさん! セーラさん!キマってるから! 挟まれてちょっと気持ちいいけど、俺の手首がありえない方に曲がろうとしてるから!」

ミルフィ,「んんんんんぃいぃぃぃーッ!」

セーラ,「むむむむむむむぅぅぅーッ!」

大岡裁きのように、俺を綱に見立てての引っ張り合い。

アタル,「いでででででででででででででッ!」

そして、決着は――

クラス中,「「「いいかげんにしろーッ!」」」

クラスのみんなの気持ちがひとつになることで、引き分けとなったのである。

…………

……

休み時間。

ようやく、昨日はできなかった姫様へのお目通りが適うと知り、俺たちのクラスは黒山の人だかりとなっていた。

男子学生,「はじめまして、姫様!」

男子学生,「私はこの学園の会長をしている――」

男子学生,「俺は野球部の部長でエースで4番をやっている――」

学園の有名人が、こぞって姫様の元へとやってくる。

当然、俺ですら知っていた有名人だが、その知名度はあくまで学園内、良くてもこの学区内での話。

『姫』という地位の人間にとって、その程度の知名度は、蚊の目玉ほどの価値もない。

セーラ,「まあまあ、そうなんですか~」

うんうんと頷いて聞いているセーラさんは物珍しさ、といった感じではあるが。

ミルフィ,「ふーん、あっそー、そーなんだ。すごいねー、へー」

ミルフィなんて、興味がない様子を隠そうともしない。

それでも、周りの人たちはなんとか姫様の興味を惹こうと躍起になる。

その様は、滑稽ですらあった。

男子学生,「ご用命の際には、なんなりとこき使ってください!」

男子学生,「いえいえ、僕でしたらお気軽に踏んでいただいても!」

男子学生,「罵ってください!」

男子学生,「『この豚野郎』って言ってください!」

明らかに滑稽だった。

ミルフィ,「アタルぅ……あんたの学園の学生って、みんなこんなんなの?」

さすがのミルフィも辟易といった顔。

アタル,「い、いつもはこんなんじゃないんだけどなー……みんなテンションがおかしくなってんだよ、きっと」

そうであってください。

――そういや、ヒヨはどこに行った?

……

…………

女子学生,「いいの、ひよこ? あのお姫様たちに、国枝くん取られちゃうよ?」

#textbox Khi0130,name
ひよこ,「い、いいも何も、私はただの幼なじみだもん。アタルくんが誰と結婚することになっても、私とは別に関係ないもん」

女子学生,「はぁ……嘘下手すぎだよ、ひよこ」

#textbox Khi0170,name
ひよこ,「う、嘘なんてついてないってばぁ」

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「ホント、アタルくん、あんな綺麗なお嫁さんがもらえるんだからホント、幸せモノだよね。いいなぁ、羨ましいなぁー」

#textbox Khi01A0,name
ひよこ,「王様のアタルくんと私とじゃ、身分が違いすぎるもん」

女子学生,「ひよこ……あんたってば、いじらしいなぁウリウリ」

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「そんなことないってば……もうっ、あははっ、くすぐったいよぉ」

…………

……

午前の授業終了のチャイムが鳴り響く。

アタル,「さーて、飯、飯……」

さて、今日の昼飯は何にしよう。購買でパンでも買ってくるか。あぁ、カツサンドなんていいな。
そんなことを思っていると、後ろのドアが音もなく開いた。

そのドアから現れたのは――

#textbox Ksi0110,name
柴田,「失礼いたします」

執事・柴田さんの姿だった。

そういえば、またお昼に、なんて言ってたっけ。

女子学生,「きゃっ、あれ、誰?」

唐突に現れたメガネ執事の姿に、クラス中の女子の瞳の中がハートになった。なんとも古典的な表現だった。

女子学生,「パレードで、運転してた人じゃない?」

女子学生,「えっ、うそ、リアル執事? チョーカッコよくない?」

柴田,「恐縮です」

柴田さんがぺこりと頭を下げると。

女子連中,「きゃーっ!」

女子連中は黄色い声をあげ、卒倒しそうになっていた。

多くの女の子は『弱点:メガネをかけた執事』。これ豆知識。

アタル,「……柴田さん? なんでしょうか?」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「昼食のお時間ですので、準備をさせていただこうかと思いまして。もちろん、学園に許可は取っておりますので、ご心配なく」

アタル,「へぇ、昼食の準備……」

柴田さんはあっという間に俺、ヒヨ、ミルフィ、セーラさんの机を真四角に並べると、懐から純白のテーブルクロスを取り出し、机の上へとかける。

一瞬で食卓の完成だ。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「本日のお昼はサンドイッチをご用意――」

アタル,「って、ちょ、ストップ! ストーップ!サンドイッチはいいですけど!ちょうど食べたかったからOKなんですけど!」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「何かお気に召さなかったでしょうか?」

アタル,「なんでこんなに大袈裟なことしちゃってんの!?」

教室に入ってきた柴田さんの後に続いて、冗談みたいに高いコック帽を被ったシェフが入ってきて。

更には様々な機材やらが教室の中へと運ばれてくる。

#textbox Ksi0150,name
柴田,「……? こうしないと昼食の準備ができないではないですか?」

アタル,「システムキッチンを全部運びこむような真似はしなくてもいいんじゃないですかねぇ!?」

運び込まれている様々な機材の数が、問題なのだ。

様々な調理器具や食材が次々と教室の後部に集められてゆく。

あたかも、モデルハウス。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「お昼休みが終わる頃には、全て撤去いたしますのでご心配なく」

アタル,「目立ちすぎるから、やめてくれって言ってるんだっ!」

柴田,「さようでございますか……しかし、本日の準備が整っていた分は廃棄ということになりますが、よろしいでしょうか?」

アタル,「むぅ……わかったよ、今日は食べる。でも、明日はもっと普通でいいからさ」

準備されてしまった以上、食べないわけには行かない。捨てるのはしのびない。作ってくれた農家の皆様に申し訳ない。
クラスメイトに大注目されての、昼食会である。

柴田,「アタル王は何を召し上がられますか?」

アタル,「……カツサンド」

カツサンドスイッチの入っていた俺は、柴田さんにカツサンドを要求。

間もなくして、俺の目の前にはカツサンドが置かれた。

揚げたての絶品トンカツに、ふわっふわの焼きたてパン。

特製ソースとキャベツを挟み込んだそのカツサンドは、そりゃもう購買のカツサンドとは比べものにならないくらいに美味しかった。

なんでも豚肉は1枚ごとに別の種類の、イベリコだとかアグーだとか薩摩黒豚だとかを用意してくれてるらしくて。

素人の舌でも、こっちとこっちはなんか違うなーってのがわかる。

真昼間から、こんな贅沢三昧。

ひよこ,「ふわぁ……美味っしい……こんなに美味しいの食べたことないよぉ……カツサンドって、こんな美味しくなっちゃうものなの……?」

ミルフィ,「たっぷりの油で揚げているのに全然しつこくない……このソースとのバランスは絶品ね。シェフ、いい仕事してるわね。褒めてあげるわ」

セーラ,「サクサクしてて、お肉の美味しさがじゅわ~っと広がって……美味しいですね~……」

ウチのメイドと姫様たちも、料理漫画並の大絶賛です。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「たくさんご用意しておりますので、級友の皆様もどうぞ」

男子学生,「マジでっ!?」

女子学生,「そんな美味しそうなの、もちろんいただきますーっ!」

クラスメイトたちに振舞えば、当然、みんな食いつくわけで。

アタル,「はぁ……」

クラスどころか学園中に注目されながらの昼食は落ち着けるはずもなかった。

食事ってのは、こう……もっと静かで……落ち着いてなきゃダメなんじゃないかなー……。

アタル,「柴田さん、明日はこんなんじゃなくていいから……」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「そうですか。明日はもう少し規模を小さくして――」

アタル,「規模の問題じゃなくて、弁当にしてもらえないかな?」

…………

……

美味しいカツサンドに心を溶かされたクラスメイトたちは、幸せそうに午後の授業を受けたわけだけども。

そんな騒動がありながらも、1日が終了したのである。

…………

……

ミルフィ,「さ、アタル、帰りましょ」

セーラ,「あ~、アタル様、私も一緒に帰ります~」

下校時、他の学生たちに一緒に帰ろうと誘われながらも、振り切る姫様方。

2人は席の位置と同じように、俺の左右にくっついてくる。

男子学生,「ギリギリギリギリ」

男子学生,「憎い憎い憎い憎い」

俺に降り注ぐ羨望と嫉妬の視線は、イタくてアツイ。

#textbox Khi0170,name
ひよこ,「あ、あの……」

アタル,「ヒヨも帰るだろ? 早く来いよ」

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「う、うんっ」

『一緒に帰る』といっても、歩くのは校門までだ。

校門前には既に迎えの車が到着していて。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「どうぞ、お乗りください」

俺たちは帰路に着く。

…………

……

セーラ,「ただいまです~」

ひよこ,「はー、車で帰るのってラクチンだねー♪」

ミルフィ,「まー、確かにね。楽だけど、なんか物足りない気がするのよね」

アタル,「物足りない?」

ミルフィ,「そそ。アニメとかでよく見るけど、帰り道って寄り道するものなんじゃないの?」

セーラ,「寄り道、ですか~?」

アタル,「必ずするってものじゃないけど……そうだな。歩いて帰る時は、寄り道も醍醐味だな」

ひよこ,「だよね。商店街に寄って、喫茶店に入ったりとか……一応、制服姿での寄り道は校則で禁止されてるけどね」

ミルフィ,「あえて、その校則を破るところが楽しそうよね」

アタル,「車の迎えが来ている以上、寄り道も難しいだろうけどな」

ミルフィ,「そんなこともないでしょ。うん、アタル、明日の帰りは寄り道するわよ」

アタル,「別に帰りに寄り道しなくても、今から出かければ……」

ミルフィ,「バッカねぇ、それじゃ意味ないの。学園の帰りに立ち寄るから価値があるんでしょ」

アタル,「……うん、確かにそれは一理あり」

ミルフィ,「そういうわけだから、アタル。明日の寄り道コースを考えておくよーに」

寄り道コースを前もって綿密に計画しておくというのは、寄り道の定義から外れるような気がしなくもなかった。

…………

……

アタル,「うーん……」

夕食の前に、浴槽にどっぷり浸かりながら考え事。

今日は自分にしては珍しく長湯だった。

幸か不幸か、今日は誰の乱入もなく、ラッキースケベはなしだ。

それ故に、ゆっくり考えることができた。

#textbox khi0310,name
ひよこ,「アタルくーん、まだ入ってるのー?」

ドアの向こうから、ヒヨの呼び声が聞こえた。

アタル,「あぁ、うん、ごめん」

#textbox khi03A0,name
ひよこ,「良かった、あんまり長いからお風呂の中でのぼせてないか、心配しちゃったよー」

のぼせることに関しては、前科があるからな。

#textbox khi0360,name
ひよこ,「もうじきご飯できるからねー。アタルくんがあがったら、みんなでご飯だよー」

アタル,「わかった。もう少ししたら出るよ」

最後にもう1回、湯舟で顔を洗って。

アタル,「うん――よし」

ひとつ、決心を固めて、俺は風呂からあがった。

…………

……

アタル,「俺、王様になろうと思うんだ」

連日の通り、豪華なメニューの並ぶ夕食時、俺は皆の前でそう宣言した。

ひよこ,「え……?」

ミルフィ,「はぁ?」

セーラ,「え……あの~、おっしゃっている意味がよくわかりませんけど、アタル様はもう王様になられていますよ~?」

エスニックなチキンの突き刺さったフォークを手にしたまま、同席している皆は呆け顔。

揃いも揃って『いきなりどうしたのかしら? 頭がアレしちゃったのかしら?』とでも言いたげな顔だ。

アタル,「王冠を渡された時から、ずっと考えていたんだ。俺が王様になんて、なってもいいのかなって」

アタル,「いっそのことやめちゃおうって考えもしたし、なんかこう……ここ数日、ずっとあやふやなままで、流されるままだったんだけど」

アタル,「自分の意思で、ちゃんとこの国の王様になるって、皆の前で言っておこうと思ってさ。それだけだよ」

セーラ,「アタル様……」

アタル,「だから、柴田さん。改めて、この国のこととか教えてもらえるかな」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「はい、かしこまりました。アタル王には良き王であられますことを」

ひよこ,「アタルくん、偉いなー」

アタル,「偉いことをしてるつもりはないけどさ……もう決まってることだし……いや、むしろ、決まってたことを、認めていなかっただけだよ」

アタル,「もう少し真面目に、王としての自覚を持とうと思う」

アタル,「それで……もう少し、真面目に皆のことも考えようと思うんだ」

セーラ,「ということは、私と契りを結んでもらえるということですね~♪ では、早速今晩にでも――」

アタル,「ちょ、まっ! そんなことは何ひとつ言ってない!食事中に脱ごうとしないで!」

ミルフィ,「いきなり盛ってんじゃないの、セーラ!」

アサリ,「ふむー、何があったか知りませんけど、前向きに検討していただけたのは、とてもいいことですねー」

エリス,「だな。願わくば、姫様を選んでいただきたいものだ」

アサリ,「そうなるとアサリは困ってしまいますねー。アサリ的にはセーラさんを選んでいただきたいものですがー、まー、そこはアタルさんの好み次第でしょうからー」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「…………」

そんなノリのまま、騒がしくディナータイムは終わりを迎えた。

…………

……

アタル,「げふぅ……」

またもや、今晩もお腹いっぱいである。

肉と油と炭水化物てんこもりのメタボ生活から逃れるにはどうしたらいいものか。

ちなみに『食べない』とかいう選択肢はない。

目の前に美味しい食べ物をチラつかされたら、食べ盛りの俺に『食べない』なんて選択肢があるはずがない。

なにはともあれ、運動かな。

せっかくの広い敷地を活かして、中庭をランニングするとかがいいか……ん?

あそこにいるのは……ヒヨか?

こんな夜に外で何してるんだ。俺と同じように肥満防止のため、ランニングを検討……って感じではない。

パジャマ姿でボーッと立ったまま、空を見上げていた。

ひよこ,「………………」

アタル,「おーい、ヒヨー」

ひよこ,「………………」

どうやら声は届いてないらしい。

まぁ、この王宮内なら夜に出歩いても、治安に問題はないだろうけど。

何が見えてるんだろう。

空に何かあるんだろうか。

外に出ない
外に出る
def_sel 外に出ない
def_sel 外に出る
ひよこ必須フラグ=1
ヒヨの見ている何かが気になり、俺も外へ出た。

夜ともなれば、それなりに肌寒い。

アタル,「ヒヨ? 何見てんだ?」

背後から呼びかけても答えない。振り返りもしない。

ヒヨは一点に空を見上げていた。

ヒヨの見ている方向には、瞬くの星の数々。

月を見ているわけでもない。

しいていえば、ちょっと明るめの星がある気がしなくもないが、その星も無数にある内のひとつだ。

アタル,「おーい、どうした、ヒヨ」

俺はひらひらと目の前で手を振り、声をかける。

ひよこ,「ふぁぁっ!?」

アタル,「ふぁっ!? な、なんだ、いきなり声あげんなよ!」

ひよこ,「ア、アタルくん? び、びっくりしたーっ!いつからそこにいたのっ?」

アタル,「いつからって……ずっと呼びかけてたじゃないか」

ひよこ,「え、ホント? 全然気づかなかった……ごめんね、ちょっと……いろいろ考え事してたから」

アタル,「考え事……外で、パジャマ姿でか?」

ひよこ,「え、外……あ、ホントだ!私、いつの間に外に出ちゃったんだろっ!」

アタル,「おいおい、大丈夫か……なんだか元気もなさそうだし」

ひよこ,「そ、そんなことないよっ。私はいつでも元気だよっ。ていっ!」

アタル,「イテッ! 何すんだっ!?」

脳天炸裂ピヨピヨチョップ(弱)。

加減してくれたらしく、実のところ、声に出すほど痛くはなかった。

#textbox Khi0450,name
ひよこ,「モテモテなアタルくんが羨ましいからチョップしたの!もー、いきなりお姫様に結婚を申し込まれるなんてありえないよー、ずるいなー」

アタル,「まったく……不相応なモテモテっぷりだよ……」

こんな唐突かつ理不尽なモテ期の到来なんて、人類起源から考えても、数える程度の人数しかいないだろう。

#textbox Khi0430,name
ひよこ,「あーあ、私も素敵な人、見つけないとダメかなー?」

アタル,「はは、ヒヨに見つけられるのかー?」

#textbox Khi0470,name
ひよこ,「ん……無理……だと思うよ」

ヒヨの声が、一気に落ち込んだ。

冷やかしたこっちが罪悪感に捕らわれてしまいそうなほどのテンションの急降下だった。

アタル,「な、なんだよ、そこで本気で声のトーンを落とすな」

#textbox Khi04A0,name
ひよこ,「だって……」

アタル,「大丈夫、大丈夫だって。ヒヨ、かわいいんだし」

#textbox Khi0440,name
ひよこ,「えっ!? い、今、なんて言ったの!?」

上擦った声とともに、ヒヨのテンションが急上昇した。

アタル,「え!? ど、どうした!?」

#textbox Khi0490,name
ひよこ,「今のアタルくんの言葉! 聞き逃しちゃったよ!」

アタル,「それ、聞き逃した反応じゃないよな!?っ……改めて、言えって言われると照れるな……」

アタル,「まー、その、なんだ……ヒヨはかわいいって言ったんだけど……」

#textbox Khi0440,name
ひよこ,「わ、私って、かわいいの? アタルくん、私のこと、かわいいって思ってくれてたの!?」

アタル,「昔からの付き合いだから、こういうこと言うのも照れるんだけどさ……」

アタル,「贔屓目を含めなくても、ヒヨはかわいい方だと思うぞ。そうだな……ウチのクラスの中じゃ5本の指には入るんじゃないかな」

#textbox Khi0420,name
ひよこ,「え、えへへ、そ、そっかぁ、私、かわいいのかぁ」

アタル,「……自分であまりかわいいかわいい連呼するなよ。ナルシストっぽくなる」

#textbox Khi0410,name
ひよこ,「そんなことないよー。今まで、自分のことがかわいいなんて思ったことなかったもん。初めて言われたもん」

#textbox Khi0420,name
ひよこ,「えへへ、アタルくんが初めて『かわいい』って言ってくれたから、今日はかわいい記念日だぁ」

どこぞの川柳みたいなことを言い出した。

ひよこ,「えへへへへ~、そっかぁ、アタルくんには私が可愛く見えてたんだ~、えへへへへ~」

アタル,「……なんか今はかわいいを通り越してキモいんだが」

#textbox Khi0480,name
ひよこ,「ひどいっ!? キモいはやめてよっ!」

アタル,「じゃ、足し算で、カワキモでどうだ?」

#textbox Khi0430,name
ひよこ,「後ろの意味の方が強いんだよっ。どうせ合わせるなら、キモカワの方が……うーん……それでも褒められてる気はしないけど……」

アタル,「……カワキモって、カワハギの肝のことかな。アンキモみたいな」

#textbox Khi0450,name
ひよこ,「いきなり何の話!? 脱線してるよぉっ!?」

アタル,「何をっ。カワハギの肝は魚の肝の中で一番美味しいんだって、グルメ漫画で言ってたぞ」

実際に食べたことはないけれど。今度、柴田さんに相談してみよう。

#textbox Khi0480,name
ひよこ,「脱線どころか、別の路線に乗り換えちゃってるよっ!山手線からユーロスターだよっ!」

アタル,「それは大胆な乗り換えだ。是非、開通してほしいな」

ちなみにユーロスターは、パリとロンドンをつなぐ国際鉄道である。そんな海外路線、ヒヨはよく知ってたな。

アタル,「ま、なんだ、ヒヨはもっと自信を持てってことだよ。姫様たち相手でも、もっと物怖じしないでさ」

アタル,「すごく引いている感じがしたけど、もっと前に前に。王様である俺の、直属メイドなんだからさ」

アタル,「ま、ほんのちょっと前までビビりまくってた俺なんかに言われたくないだろうけどさ、ははっ」

#textbox Khi0460,name
ひよこ,「うんっ、もう少し前に、ね。頑張ってみるよっ」

#textbox Khi0470,name
ひよこ,「あの……アタルくん」

アタル,「ん?」

#textbox Khi0430,name
ひよこ,「私……かわいいかな?」

アタル,「え? いや、だから、さっき言ったじゃないか。ヒヨは――」

#textbox Khi0410,name
ひよこ,「ミルフィさん、セーラさんより……かわいい?」

アタル,「……人の好みはそれぞれといいますか……」

#textbox Khi0430,name
ひよこ,「アタルくんは、どう思うの?」

アタル,「……そ、それは――」

#textbox Khi0410,name
ひよこ,「かわいくないなら、かわいくないでいいんだよ?でも、アタルくんが――」

そんな真剣な目で見つめられたりしたら――

アタル,「だ……」

#textbox Khi0430,name
ひよこ,「……だ?」

アタル,「脱兎ぉッ!」

俺はメタリックなスライムも裸足で逃げ出すスピードで、逃げ出した!

#textbox Khi0490,name
ひよこ,「ず、ずるーいっ!逃げないでよ、ごまかさないでよーっ!もう、アタルくぅんっ!」

…………

……

――星の瞬きに紛れ、仲睦まじい2人の様子を、屋根から見下ろしている輝く目があった。

#textbox Kas0160,name
アサリ,「はぁー、まったくお似合いのおふたりですねー」

#textbox Kas0110,name
アサリ,「アタルさんに声をかけられるまで、ひよこさんが何をしていたかはよくわかりませんでしたがー」

アサリ,「ふーん……ひよこさんはこの10年間、アタルさんと同じクラスなんですねー」

#textbox Kas0150,name
アサリ,「ふむふむー、小学4年生の時は、4クラス。小学5年生の時は、3クラス……中学1年生の時は6クラスあったそうですけどー」

#textbox Kas0110,name
アサリ,「さて、10年間連続で同じクラスになる確率というのはどれほどのものでしょうねー」

アサリ,「アタルさんの『当たらない』悪運によるものなのか、それともー?」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「まー、考えても仕方がなさそうなので、今日はここまでにしておきましょうかー。ではー、おやすみなさーい」

ヒヨに倣い、俺も空を見上げてみる。

星が流れているわけでもなく、でかい月が出ているわけでもなく、変哲もない星空だった。

何やってるんだろうか、ヒヨの奴。大宇宙の意志でも感じ取ってるんだろうか。

いやいや、ヒヨはちょっとだけ抜けてはいるけど、そんなお電波な娘じゃないぞ。

――ま、いいや。別にヒヨが何してようが、俺が口出しすることもない。

見た限り、アブないことや、イケないことをしてるわけじゃなさそうだし、ヒヨの好きにさせておこう。

窓を閉め、部屋に戻るや否や、唐突にランニングに励む気は失せた。

……うん、お腹いっぱいの時に走ると、横腹が痛くなったりするしね! ダイエットは明日ということで!

おやすみなさい。

そんな本日の教訓。

『ダイエットを明日に引き伸ばした者が、ダイエットに成功した試しがない』

……

…………

アタル,「へー、これがお星さまかぁ」

ひよこ,「いいな、いいなっ。お星さまをもってるとね。ねがいごとが叶うんだよ」

アタル,「ねがいごとが叶うのって、ながれぼしじゃなかったっけ?」

ひよこ,「えっ、こ、このお星さまもながれぼしも、どっちもお星さまだもん。だから、だいじょうぶだよっ」

アタル,「ホントかなぁ……」

ひよこ,「ホント、ホントだよっ。ねっ、ねっ、アタルくん、ねがいごとはないの?」

アタル,「僕のねがいごと――」

ひよこ,「うん、欲しいものとか、なりたいものとかないの?」

その時の僕は、こう願った。

その日、知ったばかりの、この国のシステムを。

アタル,「おうさまになってみたいな!」

…………

……

ひよこ,「おはよっ、アタルくんっ」

アタル,「ん、んむぅ……おはよ……」

メイドさんに起こされ、朝が始まる。

ちなみに、昨朝、吹き飛ばされた俺の部屋のドアは、昨日の帰宅時点ですっかり元通りになっていた。

寸分違わぬ色、材質。見事な再現だ。まるでコピー&ペーストしたかのようだった。

アタル,「あ、あれ……?」

ヒヨの顔を見て、ふと首を傾げる。

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「ん? どうしたの? 寝違えた?」

アタル,「いや、首は大丈夫だけど……なんか夢を見た気がするんだ……」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「うんうん、寝てたんだもん。夢くらい見るよね」

アタル,「またヒヨが出てきてたような……」

#textbox Khi0340,name
ひよこ,「どんな夢だったのッ!?」

自分が登場したと知るや否や、食いつきが違った。

案外、この子は現金だ。

アタル,「……どんなだったかな。ヒヨが出てきて――」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「うんうんっ!」

アタル,「――忘れた」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「あらら。前もそんなこと言ってたよね」

アタル,「そうだったな……」

前に言っていた夢の続き――だったような。そんな気がする。

続き物なのか。連載夢なのか。

打ち切りを食らわない限りは続くのだろうか。国枝アタル先生の次回作にご期待ください。

[ひよこ必須フラグ=1]{
#textbox Khi0360,name
ひよこ,「夢のお話は思い出した時でいいよ。早く早くっ、起きないと遅刻だよっ」

遅刻というわけに危機感はなく、時計を見れば、そんなに慌てる時間でもなく。

アタル,「今朝のヒヨは、なんだか上機嫌だな」

#textbox Khi0340,name
ひよこ,「えっ、そうかな? そんなことないよぉ」

ブンブンと左右に手を振るものの、その表情は笑顔で、全身から機嫌の良さがにじみ出ている。

それはオーラか何かだ。体臭ではないはずだ。

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「えへへへへ~」

その笑みには、昨晩、見覚えがある。

昨日の夜の出来事が影響しているのだとすれば、それはいいことなんだろうけど。

思い返すと、恥ずかしい。

『かわいい』だとか、なんであんなこと言っちゃったんだろうなぁ……。

夜の暗闇は、恥ずかしさを覆い隠すフィルターのような効果があるのだ。

修学旅行の夜、寝る前に、好きな子談義をしてしまうようなアレだ。

アサリ,「ふたりして、顔赤くして何してるんですかー?早くご飯にしましょうよー」

アタル,「おっ、おうっ!?」

第三者の介入で、俺は飛び起きた。

…………

……

アタル,「っふぅ……!」

やたら俺の方に視線を感じた3時限目の休み時間に突入。

男子学生,「アタル王、お疲れのところ、失礼します!」

終了のチャイムが鳴り響くと同時、クラスメイトが俺の席にやってきた。

アタル,「……なんだよ、超かしこまってからに。教室で王って呼ぶのは、やめてくれって言ったろ」

男子学生,「ならば、フランクに行こう。アタル! 俺たち男子一同は、姫様たちの私設ファンクラブを作ることに決定した」

ころりとフランクな態度になったクラスメイトは、そう力説する。

アタル,「ファン……クラブ?」

男子学生,「うむ、ファンクラブだ!」

男子学生,「姫……プリンセス……王女……どれもこれもいい響きじゃないか……!」

アタル,「どれも同じ意味だけどな」

男子学生,「世に生きる全男の憧れであるお姫様! そんな存在が目の前にある以上、見逃すことなどできない、それが我がクラス男子一同の総意だ!」

言い切った彼は、俺の目の前に、ズラッと名前の並んだ紙を突きつけてきた。

アタル,「ファンクラブ設立嘆願書……?」

クラスの大多数の男子、また、幾人かは女子の名前が列記された署名。

なるほど、さっきの授業中、手紙を回したり、こっちをチラチラ見たりしていたのは、それだったのか。

男子学生,「我が国の王、アタルよ! 姫様のファンクラブ設立の許可をもらえないだろうか!」

土下座せんばかりの勢いで、彼は俺に詰め寄ってくる。

アタル,「え……俺は別に構わないけどさ……。むしろ、必要なのは姫様本人の了承じゃないか?」

男子学生,「いや、まずはアタルに話を通すのが道理だと思ったからな。だが、それを聞けば 安心だ。姫様!」

セーラ,「はい? なんでしょう~?」

ミルフィ,「ん、なになに、あたしたちの話?」

男子学生,「セーラ姫様、私めは貴女様のファンクラブを作りたいのですが、よろしいでしょうか!」

セーラ,「はぁ~……ファンクラブ……とはなんでしょう?」

アサリ,「そうですねー。セーラ様の私設応援団体といったところでしょうかー。狂信者のようなものですよー」

アサリ,「きっと有事の際には、凶弾からセーラ様の御身を守ってくれたりしますよー。アサリ的には全面的に許可しますー」

アタル,「肉の壁じゃねぇか……」

付き人の要求はハードどころか、エキスパートモードでありながらも、許可そのものはゆるゆるであった。

セーラ,「そうですか~、では、許可します♪」

姫様本人の言葉をもって、セーラ様ファンクラブの設立が許可がおりて。

男子学生,「おおーっ! ありがとうございます! セーラ様信者を盛り上げて行きたく思う所存でございます!」

今、この瞬間が、セーラ姫公認ファンクラブ結成の瞬間であった。

男子学生,「では、俺はミルフィちゃんファンクラブを作りたいのですが、いかがでしょう――ガッ!?」

エリス,「貴様……姫様に対する口の訊き方に気をつけろ。この引き金を引かれたくなければな」

男子学生,「んーっ! んむーっ!」

口の中に銃口を詰め込まれたクラスメイト、涙目。

ミルフィ,「いいのいいの、エリ。学園ではあたしはただの一学生。うんうん、あたしのファンになりたいっていうのはいい心がけね。褒めてあげるわ」

男子学生,「ふぁ、ふぁりはほう、ごらいまふぅ……!」

ミルフィ,「ふふ、泣いて喜ぶほどなのね。あたしのファンクラブを作ること、許可するわ。せいぜい盛り上げなさいっ」

男子学生,「ほ、本当ですか、ミルフィ様!」

エリス,「姫様のお優しさに感謝するんだぞ。大衆の支持を得ることの重要性とその把握。大変ご立派です、姫様」

ミルフィ,「いや、まぁ、それほどでもあるけどね。でも、ね。知ってると思うけど……」

セーラ,「私やミルフィさんは、アタル様のお嫁さん候補なんですよ~。将来を誓い合う仲なんですよ~」

ミルフィ,「そそ、それでもいいわけ?ニッポンのアニメだとそういうのなんていうんだっけ、NTRだっけ?」

アタル,「寝とるのとはちょっと違うと思うんだが……」

なんで、そんな余計なことを知っちゃってるのかなぁ。

男子学生,「ぐっ……それをいわれると弱いのですが……元より我ら庶民は姫様に憧れるだけの身……!」

男子学生,「お慕いの心をこうやって伝えることができるだけでも幸せでございます……!」

男子学生,「姫様たちの幸せのため、我ら一同、身を粉にできればと……!」

なんという立派な奉公ぶりかつ自己犠牲、忠誠心だろうか。

確かに彼女たちが凶弾に狙われたとしても、彼らならば身を呈して守ってくれることだろう。

ミルフィ,「そこまでわかってるんなら、あたしからは何も言うことはないわねー」

エリス,「――だが、ちょっと待て」

男子学生,「は、はい、何か!?」

エリス,「姫様のファンクラブ会員のNo.1は、自分へとよこすように! いいな!」

男子学生,「りょ、了解したであります、サー!」

ガシッと力強く彼の肩を掴んだエリスさんの瞳はマジだった。

『真剣』というか『溺愛』とか書いて『マジ』だった。

…………

……

昼休み突入のチャイムが鳴り響く。

しかし、昨日とは異なり、今日の昼食時に柴田さんの乱入はなかった。

男子学生,「アタルー、今日の昼はまたなんかすげーのが来るんじゃないのか?」

アタル,「残念だったな、あんな大騒ぎは昨日限りだ」

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「今日はお弁当があるんだよね?」

アタル,「ああ、重箱がな……」

金箔が貼られた漆塗りの豪華七段お重。

なんだよ、七段って。雛壇か。

男子学生,「なんだー、今日の昼はどんなのが食えるのか楽しみだったのによー」

アタル,「他力本願はやめとけ」

俺たちの食事は見世物でも、ボランティアでもないのだ。

…………

……

そんなわけで、我らロイヤル組は屋上へと移動した。

みっしりと中身の詰まったその弁当のあまりの重量に、俺の腕力では持ち運ぶことはできず。

アサリ,「アサリにお任せくださいー」

車を降りる時にアサリさんにお任せしたのだった。

任されたアサリさんがひょいっと片手で持ち上げたのは、決して見かけより軽かったからではなく。

アサリさんの細腕から繰り出される腕力が常人のそれとは並外れているからだろう。

小枝みたいな細腕なのに、あの身の丈ほどもあるでかい鎌をブンブン振り回していたくらいだからな。

腕相撲なんてやったら、あっさり負けるんだろうな。ものすごくカッコ悪い絵面が想像できます。

アサリ,「どうしたんですかー、アタルさんー。アサリの顔をジッと見たりしてー」

アタル,「え、いや、アサリさんは力持ちだなーと思って。すごいですよね」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「あ、なーんだー、そんなことでしたかー。てっきりアサリに目を潰して欲しいのかと思いましたよー」

アタル,「失明の危機ッ!?」

#textbox Kas0180,name
アサリ,「お望みでしたら、アサリと力比べでもしますかー?」

アタル,「い、いえ、いいです! 結構です! 僕の負けでいいです!」

屋上に到着し、レジャーシートを敷き、お重を広げる。

アタル,「わぁお……」

こらまた豪華な中身だった。

1段目は具の量と酢飯が等分量なチラシ寿司。

真昼間から伊勢海老やらズワイ蟹やら、高級甲殻類を拝むことになるとは。

2段目は卵焼きやら煮物やらのオカズ三昧。

3・4段目は装いを換えての、中華三昧。

……別に即席麺がみっちり詰まっているわけではない。そんな弁当は嫌だ。

5・6段目はまた更にまったくの別物の洋食。

締めの7段目は、フルーツフェスタ。パイナップルやマンゴーやら南国フルーツが色とりどり。

各々の段が全て最適な温度になっているのは、一体どういう仕組なのか。

スチームで温める弁当の例もあるから温かいのはともかく、フルーツが冷え冷えなのは謎すぎる。

兎にも角にも、和洋折衷。一段一段もずっしり詰まっていて、重箱の重さも納得だった。

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「それじゃ、取り分けますねー。嫌いな物はないですかー?」

メイドであるヒヨが率先して、取り皿に料理を取り分ける。

アサリ,「あー、アサリはタマネギは避けてほしいですねー。イカもあまり良くないんですよー」

ひよこ,「はーい、タマネギとイカ抜きですね」

アタル,「ちょっと待て、お付きの人。アサリさんはセーラさんのために働くべきじゃないのか。なんでヒヨにやらせてるんだよ」

アサリ,「硬いことは言いっこなしですよー。セーラさんの面倒を見ていたら、食べそびれてしまうではないですかー」

アタル,「とか言ってますけど、いいんですか……セーラさん」

セーラ,「ええ、お気になさらず~。はむっ、まぁ、このイカのマリネ、とても美味しいです~」

アサリ,「セーラさん、アサリがイカを食べられないのに、褒めないでくださいー。気になるじゃないですかー」

……本当にゆるい主従関係だなぁ。

#textbox Kmi0110,name
ミルフィ,「あ、そうそう、アタル。今日の帰りの寄り道コースは考えてあるの?」

アタル,「寄り道……?」

言われてようやく思い出す。

アタル,「――あ、悪い、全然考えてなかった」

すっかり記憶から抜け落ちていた。

#textbox Kmi0170,name
ミルフィ,「何よ、それ! 昨日、約束したじゃない! このあたしの約束をすっぽかすだなんて、アタルの脳みそには穴でも空いてるの?」

アタル,「失敬な! ちゃんと詰まってるよ!」

#textbox Kmi0120,name
ミルフィ,「――だったら、放課後までにちゃんとプランを練っておきなさいよ。しっかり詰まってるんなら、2、3時間もあればなんとかできるでしょ?」

アタル,「ぐ……!」

#textbox Kmi0110,name
ミルフィ,「――あ、穴といえば、アタル。今日、クラスの子に、あたしの名前がドーナツみたいだっていわれたんだけど、どういうこと?」

アタル,「……ドーナツ?」

エリス,「ええ、自分も聞きましたが、理解できませんでした」

エリス,「姫様がドーナツのように甘く、大変可愛らしいという意味ならば理解できるのですが……」

アタル,「……俺にはドーナツの可愛らしさというのがよくわからないんだが……」

嫌いじゃないけれど、油と砂糖の塊だぞ? むしろ、食べ過ぎたら、女の子から可愛さを奪う代物だと思うんだが。

セーラ,「あら~、ドーナツって可愛いじゃありませんか~。丸くって、穴が空いているところとか、とても愛らしいと思います~」

どの辺が? 穴が空いてて丸いのは可愛いのか?

アタル,「その基準だと、タイヤも5円玉もかわいいことになっちゃうんだが……」

ひよこ,「うーん、タイヤはあんまり可愛くないね……」

セーラ,「そうでしょうか~? みんなを運ぶために頑張っているタイヤさんは健気で大変可愛いと思いますけど~」

ミルフィ,「ごめん、セーラ。その感性はあたしもよくわかんないわ」

どうも、彼女たちのいう可愛さの基準がわからないのは、俺が男だからだろうか。

女の子にはなんでもいいから『可愛い』って言っておけばとりあえずは話が成立する。

そんな言葉を誰かから聞いた気がする。

だからといって、『君の胸はかわいいね』とキメ顔で言っても、セクハラにしかならないので注意が必要とも。

ひよこ,「ドーナツ、ドーナツ……えーっと、ミルフィさんの名前って、ミルフィ・ポム・デリングでしたよね」

ミルフィ,「そうよ?」

アタル,「――あ、なるほどな。確かにドーナツみたいだ」

ひよこ,「うん、ドーナツみたい、あはっ」

ミルフィ,「え? え? どういうこと?」

ひよこ,「ミルフィさんみたいな名前のドーナツがあるんですよ。ふわふわもちもちしてて、とても美味しいんです」

ミルフィ,「ふぅん……? ふわふわでもちもち……。その食感はどんな感じなのかよくわかんないけど」

アタル,「百聞は一見――いや、一食にしかず、だな。ちょうどいいし、帰りに寄ってみるか。商店街にミセドあったよな?」

ミセド――ミセス・ドーナッツの略である。

アメリカのお母さんが作るホームメイドなドーナツが売りの、ニッポン屈指の全国チェーンのドーナツ屋さんだ。

アメリカンを売りにしているせいで、味はかなり甘い。好きな人は好きなのかもしれないが、格別甘党ではない俺としては1、2つ食べれば満足だったりする。

でも、たまーに食べたくなる。それが不思議さ、ミセド。

ひよこ,「あ、これってちょうどいい寄り道だねっ。私も久しぶりにドーナツ食べたいな」

ミルフィ,「ドーナツ屋さん? ああ……そういえば、アニメでドーナツ大好きな子が、ドーナツ屋に足しげく通ってるシーンもあったわね……」

セーラ,「そうなんですか~。ニッポンにはいろんなお店があるんですね~」

ミルフィ,「あたしの名前を使ってるくらいなんだから、さぞや美味しいんでしょうね?」

ひよこ,「そのお店もミルフィさんの名前を参考にしたわけじゃないと思うけど……」

セーラ,「偶然の一致って怖いですね~」

アタル,「……どちらかといえば、ミルフィの方が後出しだと思うんだが……」

メタな発言はここまでにしよう。

どうやらこれにて幸いなことに、午後の授業中、寄り道ルートを一生懸命検索する必要はなくなったようである。

…………

……

とまぁ、俺たちがこんな話をしている間にも、学園内では両姫様のファンクラブ活動が活発になっており。

放課後を迎える頃には、学園に在籍する男子の半数ほどがどちらかの姫様のファンクラブ会員となっていたという。

さすがは、真のカリスマ性だった。

…………

……

ミルフィ,「ここが噂のドーナツ屋ねっ!」

アタル,「別に噂というほどではないのだが……」

そんなわけで、俺たちロイヤルご一行は、商店街にあるミセドへとやってきた。

どこにでもあるチェーン店だ。俺たちの住むこの街に、あと2軒ある。

テレビCMだって、毎日やっている。ミルフィのいう噂は今の俺の半径1mだけで大流行の超局所的なモノだ。

セーラ,「まぁ~、可愛いお店です~」

可愛いかなぁ……? ごく普通だよなぁ。

やっぱり俺にはその可愛さがわからなかった。

ミルフィ,「さ、行くわよ!」

威風堂々。肩で風を切るように(ない)胸を張って、自動ドアの中へと入ってゆく。

女性店員,「いらっしゃいませー!」

そして、ミルフィは店員へ開口一番。

#textbox kmi0110,name
ミルフィ,「全種類10個ずつもらうわっ」

アタル,「おぃぃ!? 誰がそんなに食うんだよ!?」

女性店員,「えっ!? ……お持ち帰りでよろしいですよね?」

#textbox kmi0190,name
ミルフィ,「もちろん、食べていくわ!」

店員のお姉さんは、口をドーナツのように丸くしていた。

…………

……

山のようにドーナツを積み上げ、客の視線を独り占めしている我らが集団。

尋常ではないドーナツの量だけでも目を引くというのに、それを食べようとしているのは、明らかにニッポン人ではない顔立ちのお嬢様方だ。

俺たちと同じように寄り道している学生もいる。

さすがに俺たちが誰だか気づかれているらしく、ヒソヒソと噂されていた。

『国王が、異国の姫を率いて、数百個に及ぶドーナツを購入し、店内で食べていった』

さっきの話の通り、明日には噂のドーナツ屋になりそうだった。

アタル,「こんなに買って、食べきれるのかよ……」

#textbox kmi0130,name
ミルフィ,「食べきれるのか、じゃないわ、食べきるの」

#textbox kmi0160,name
ミルフィ,「だいたいここには6人もいるのよ? 余裕でしょ?」

アタル,「……その余裕の根拠はどこだ? ミルフィの脳内で、どんな演算処理が行われているんだ?」

無茶を言ってくれる。

俺は食べれても、2、3個。無理して詰め込んでも、5個が関の山だ。

30種類のドーナツを10個ずつ、計300個。俺換算だと、60人いないと食べきれないんだが。

#textbox khi0130,name
ひよこ,「うーん……私は頑張っても10個くらいかなぁ……」

アタル,「10個!? ヒヨ、そんなに食わないだろ!?」

#textbox khi0120,name
ひよこ,「ドーナツなら、10個くらいはなんとかなるよー。甘いモノは別腹だよー」

女の子の胃はどうなっている?『かわいい』に続いて、女の子七不思議のひとつだな。

#textbox kmi0110,name
ミルフィ,「いいから、早く食べましょうよ。で、あたしの名前と似てるドーナツってどれのこと?」

#textbox ker0120,name
エリス,「コチラだったと思われます。ささ、姫様、どうぞ」

紙で手持ちの部分を包み、主へと差し出す。

#textbox kmi0190,name
ミルフィ,「ありがと、エリ」

#textbox kas0110,name
アサリ,「見たところ、毒物が盛られたりはしてなさそうですねー。安心して召し上がれますよー」

毒味役ならぬ、毒見役のアサリさん。つーか、見ただけでわかるの?

#textbox kmi0160,name
ミルフィ,「それじゃ、いただくわね」

俺たちは手に取ることなく、ミルフィがドーナツを口に運ぶのを見守っていた。

ドキドキ。

果たして、ミルフィと同じ名を持つこのドーナツは、ミルフィのお気に召すであろうか。

気に入らなくて、『このドーナツを作ったのは誰だ! パティシエを呼べ!』とか言い出さないだろうか。

そんなことで呼び出されても、バイト君は困ってしまうだろうな。

ミルフィ,「はむっ……」

ドーナツが、ミルフィの口に咥えられる。

そして、一口かじる。

ミルフィ,「んむッ!?」

ミルフィが目を剥いた。

ミルフィ,「…………」

ミルフィはドーナツを咥えたまま、停止スイッチを押してしまったかのように。

#textbox ker0150,name
エリス,「どうされました、姫様。もしや何か毒物でも盛られて……!」

ミルフィ,「な、なに、なによこれ……ッ! ちょっ――」

口を抑え、ミルフィは硬直する。

#textbox ker0150,name
エリス,「姫様……?」

ミルフィ,「超~~美味しい~~ッ……!」

ミルフィが吠えた。

ミルフィ,「この甘さ……! それ以上にこの食感……!今までに味わったことがないわ……!」

そして、瞬く間に1個を口に入れてしまう。

ミルフィ,「ぱく、ぱく……あたしの専属パティシエだって、こんなのは作ったことないわよ……! むぐ、どうしたら、こんな完成された味になるの……むぐむぐ……!」

そして、またひとつ、またひとつ。

シンプルなシュガーグレーズ、チョコ味、抹茶味、クリームの入ってる物、入ってない物、片っ端から手につけては口の中に入れてゆく。

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セーラ,「そんなに美味しいんですか……?」

ミルフィ,「むぐむぐ……いいから、あなたも食べなさいっ」

#textbox kse01B0,name
セーラ,「では、お言葉に甘えて、いただきます~……ぱくっ」

#textbox kse0190,name
セーラ,「……まぁ~……美味しいですね~!」

セーラさんがパァッと後光でも差しそうな笑みを放った。

#textbox ker0110,name
エリス,「自分もひとつ失礼を……むぐ……む……これは……!」

#textbox kas0110,name
アサリ,「そんな美味しいそうなの、アサリも食べますよー。いただきますー……もぐ……んー!」

ぱくぱくぱくと4人の異邦人たちは、テーブルの上に盛られたドーナツを片っ端から手につけてゆく。

てんこ盛りのドーナツの前にお姫様や従者といった身分は関係なく、今の彼女たちは4人の女の子だった。

俺も1個拝借。

ぱく。

甘い。けど、まぁ、美味しい。子供の頃から慣れ親しんだミセドの味だ。

アタル,「そんな大騒ぎするほどの物かなぁ……?」

#textbox khi0110,name
ひよこ,「美味しいと思うよ? 私は大好きだけどな」

アタル,「もちろん不味いわけじゃないけどさ……」

#textbox kse0190,name
セーラ,「私も大変美味しいと思いますよ~」

#textbox kse01B0,name
セーラ,「とはいえ、ミルフィさんほど感激しているわけではないですけれど。余程ミルフィさんの舌にぴったり合ったんでしょうね~」

#textbox kse0190,name
セーラ,「ニッポンの食べ物のクオリティは大変高いですよ~。ニッポンに来てからというもの、多種多様な食文化には大変驚いてます~」

アタル,「そういうものですかね……」

#textbox kse0120,name
セーラ,「食に限ったことだけではありません。独自の文化を持ちつつも、他の文化をも取り込んでしまうニッポンは本当に凄いと思います~」

#textbox kse0180,name
セーラ,「だからこそ、我がクアドラントや、ミルフィさんのイスリアを始めとした諸国は、ニッポンをとても気にかけているのですよ~」

アタル,「なるほどなぁ……」

ニッポンに生まれ育った身としては、その凄さが実感できないのだが。

ニッポンに生まれただけで十二分に幸せだ、という話も聞く。ニッポン人は未来に生きてる、ともいうからなぁ。

たかだかドーナツの話から、なんだか高尚な話になってる気がしなくもないけど。

そんなことを思っている間にも、ドーナツの山は消費されていくが、如何せん注文した数が数。標高が幾分か下がりはしたものの、まだまだ山は山。

エベレスト(世界第1位)がK2(世界第2位)になったところで高いままだ。

――どうでもいい話だけど、世界一やニッポン一の存在は有名だけど、2番目ってあまり知られてないよね。

ニッポンで一番高い山が富士山なのは常識だけど、2番目に高い山が北岳っていうのはあまり知られてない。

金メダルを取った選手は世界的に有名になっても、銀・銅メダル止まりでは、雲泥の差。

一番でなければ知名度・認知度は下がる。一番でなければ、印象に残らない。

それは何事においても同じで、殊更、恋愛においては――

アタル,「……ああ」

――俺は1人だけを選ばなきゃいけない。

#textbox kmi0110,name
ミルフィ,「ん? どうしたの、アタル? 食べないの?」

アタル,「あ、ああ、食べる。食べるよ」

#textbox kmi0160,name
ミルフィ,「遠慮しなくていいのよ。足りなくなったら追加してもいいんだからっ」

アタル,「足りなくなるわけないだろがッ!?」

……とまぁ、周りからいろんな思惑を孕んだ奇異の目で見られつつも、俺たちは延々ドーナツを食べ続け。

アタル,「ぅろぇっぷ……!」

今までに体験したことのない胸焼けに襲われたのであった。

…………

……

アタル,「っぷ……」

帰宅して、数時間が経過した。

が、ドーナツの食べ過ぎで、とてもじゃないが夕飯が食べられるような腹具合とテンションではなかった。

油モノ&甘いモノすぎて、胸焼けがする。

唾液がシロップになったかのようだ。今の俺を雑巾のように絞ったら、砂糖と油が滲みでてくるに違いない。

制服姿で、ベッドに突っ伏したまま、動きたくなかった。

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「アタル、夕飯の時間よ?」

アタル,「ごめん……今日はいらない……!」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「なによ、あのくらいのドーナツでダウンだなんて、情けないわねぇ」

アタル,「あのくらいって……」

注文したドーナツが全て、6人の胃の中に消えたんだぞ。

一番の働きをしたのは『小さな大食漢』アサリさんだったのは明白なのだが、彼女とタメを張っていたのはヒヨだったりする。

張本人であるミルフィにしても、セーラさんにしても、明らかに俺よりも食べていたにも関わらず、これから夕飯を食う余力があるというのだから。

やはり女の子と男では、甘い物耐性が別物なのだ。

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「美味しかったわね。さすがはあたしの名前を使ってるだけはあるわっ♪」

アタル,「お気に召したのなら何よりだ……」

ミルフィは大層ドーナツが気に入った様子だった。

…………

……

胃薬を飲み、すぐさま就寝したものの、どうにも寝付けなかった。

胃がムカムカする。しばらく油モノは口にしないぞ。

そんな決心を固めていると、ドアをノックする音が鳴り響いた。

アタル,「はーい……」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「アタルくーん?」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「おなかいっぱいで食べたくないかもだけど、お台所借りて、おかゆ、作ってきたよ」

ヒヨの持つシルバーのトレイの上に載せられているのは、土鍋に入ったお粥と、ポットに入った烏龍茶。

アタル,「お粥かー……」

ネギと溶きタマゴだけのシンプルなお粥だ。油分0。これくらいなら、今の俺の胃にも優しいに違いない。

せっかくヒヨが俺のために作ってくれたんだしな。

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「さすがにアレは食べすぎたよねぇ。私もいっぱいいっぱいだったよー」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「あんなにたくさんのドーナツを見るのは初めてだったから、ちょっと楽しかったけどね」

その場のテンションに負けて、俺もちょっと頑張ってしまった。後悔。

これくらいなら食べられるだろう、と、ヒヨの作ったお粥をレンゲですくって、口に運ぶ。

アタル,「ん……」

絶妙な塩梅だった。

味付けはシンプルで、塩だけだと思う。でも、この塩も普通のモノではないのかもしれない。

アタル,「っはぁ……美味しい……」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「ホント? 良かった♪」

食道から胃にかけてわだかまっていた油分が、お粥と濃い目に入れた烏龍茶で流され、胃の中のムカムカが消し飛んだ気がする。

1口1口と口に運ぶうち、気がつけば、土鍋に入っていたお粥を全部食べきっていた。

アタル,「ごちそうさま、美味しかったよ」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「ふふっ、お粗末さまでした」

アタル,「そういや、ヒヨの作る料理を食べたの、久しぶりな気がする……」

#textbox Khi0340,name
ひよこ,「やだな、お料理って言っても、単なるお粥だよ。そんな大層な物じゃないよ。褒めてもらったら恥ずかしいくらいだよ」

ブンブンと手を振って、慌てて否定する。

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「ここにいると、あんなに美味しくて手がかかっているご馳走が毎日出てくるんだもん。私の出番なんてないよー」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「毎日毎日ご馳走過ぎて、私、ちょっと太っちゃったかもだよ……えへへ」

アタル,「んー……確かにここのご馳走は美味しいんだけど、毎日食べてたら、なんだか飽きてきちゃってさ……」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「わ、アタルくん、贅沢だ」

美人は三日で飽きる的理論なのかな。ちょっと違う気もするけど。

毎日ご馳走三昧で幸せな人だっているんだろうし。

世界各国の料理を毎食毎食出してくれる。

味の種類は千差万別だし、今までかぶるような料理もなかったんだけど。

どれもこれも高級すぎて、俺の体が次第に拒否反応を示し始めている気がする。

シンプルなおかゆがこんなにも美味しく感じられてしまう俺の舌には、過ぎた代物なのだ。

アタル,「ヒヨの作るご飯なら毎日食べても飽きなかったんだけどなー……」

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「え……?」

アタル,「安心できるっていうか……家庭の味?まぁ、俺の舌は上流階級じゃないからさ」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「あ、あのー……アタルくんさえ良かったら、明日の朝ごはんは私が作ろっか?」

アタル,「そうだな、久しぶりに頼むよ」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「変なの、久しぶりって言っても、まだ1週間も経ってないんだよ?」

アタル,「え、そうだったっけか?」

指折り、日にちを数えてみる。

アタル,「……本当だ」

毎日が濃密過ぎて、何日が経過したのかわからなくなっていた。

そっか……王になってから、まだ1週間も経っていないのか……。

それにしては、日々の生活には馴染んできた気がする。姫様たちがいるのも、段々普通に感じられてきた。

俺って、案外順応性高いのかな?

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「それなら、明日の朝はアタルくんのために頑張っちゃおうっかな」

アタル,「本当? おっ、なんだかすごく楽しみになってきたぞ」

前の家に住んでいた時は、こんな風に思わなかったのに。

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「それじゃ、早く寝ようかなっ。アタルくんはまだ起きてる?」

アタル,「いや、もうじき寝るよ」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「そっか。それじゃ、おやすみなさいませ、ご主人様♪また明日ね」

いたずらめいた笑みを浮かべて、ヒヨは部屋を出て行った。

子供の頃は、豪華な食事を食べに行くと聞かされていたら、前日からわくわくしていたもんだけど、今じゃ、ヒヨの作る料理にわくわくするとは。

何はともあれ。

アタル,「ふぁぁ……」

大きなあくびが漏れる。

まるで、ヒヨの作ってくれたお粥に、睡眠薬でも入っていたのかと思うほどの睡魔に襲われ。

お腹もすっきりと満たされた俺は、今日のところはこのまま寝ることにしたのである。

アタル,「おっ……?」

朝風呂に向かう俺の鼻腔を刺激する匂いが、厨房から漂ってきていた。

ひよこ,「ふんふふ~ん♪」

顔を覗かせた厨房にはヒヨがいて、厨房には慣れ親しんだダシの匂いが立ち込めていた。

味噌汁と……何の匂いだろう。

アタル,「おはよ、ヒヨ。朝からノリノリだな」

鼻歌混じりでフライパンを振り回すヒヨに声をかける。

ひよこ,「あ、おはよ、アタルくんっ。今日は早いんだね」

アタル,「昨日は早めに寝たから。風呂入りそびれたから、朝風呂でも入ろうと思ったんだけど」

アタル,「いい匂いがしてきたから、ついふらふらっと、ね」

ひよこ,「あははっ、アタルくんは食いしん坊さんだね」

アタル,「ヒヨに言われるのは心外だなぁ……」

ひよこ,「むー、私、そんなに食いしん坊さんじゃないもん」

アタル,「今日のメニューはなんだ?」

ひよこ,「本当に普通のご飯だよ? ご飯と、お味噌汁と、お魚。塩鮭とアジの開き、アタルくんはどっちがいい?」

アタル,「それはなかなかの難問だな。どっちも捨て難い……」

ひよこ,「そっか、どっちも食べたいなら、私と半分こしよ」

アタル,「それだ」

ひよこ,「他には、冷奴と、納豆とー……」

アタル,「あとはそのキンピラか」

ひよこ,「うん、蓮根のキンピラ。アタルくん、前に好きだって言ってたよね」

アタル,「よく覚えてたな」

ひよこ,「えへへー、アタルくんの好みは大体覚えてるよ。もうちょっと炒めたら完成だけど、アタルくん、ちょっと味見してみて?」

アタル,「おぅ、喜んで」

ヒヨが菜ばしで蓮根を摘む。

ひよこ,「ふーっ、ふーっ……ちょっと熱いかもしれないから、気をつけてね。あーん」

アタル,「あー……んっ、むぐ、むぐ……ん、美味いっ!」

ひよこ,「甘すぎない? 辛すぎない? 大丈夫かな?」

アタル,「大丈夫だ、問題ない」

ひよこ,「そっか、良かった」

なんて庶民的な会話だろうか。だだっ広い厨房に似つかわしくない。

ひよこ,「それじゃ、お風呂入ってきちゃって。アタルくんがお風呂からあがる頃にはできあがってると思うよー」

アタル,「おぅ、了解。楽しみにしてるぞ」

厨房を後にし、俺は浴場へと向かった。

…………

ミルフィ,「な、ななっ、なぁっ……! いい匂いがしたから、つい立ち寄っちゃったけど、な、なによ、あのラブラブっぷりはっ!」

セーラ,「羨ましいです~。私もアタル様に、ふ~ふ~あ~ん♪ ってして差し上げたいです~」

ミルフィ,「くっ……ぴよぴよ、侮れないわね……!」

…………

……

アタル,「んまいっ!」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「も、もう、アタルくんってば、大袈裟だよぉ」

ヒヨの作った味噌汁を1口すすり、俺は素直な感想を漏らしてしまった。

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「セーラさん、ミルフィさん、どうですか?お口に合いますか……?」

セーラ,「ふぅ……これがニッポンのミソスープなんですね~」

アサリ,「お魚の風味が利いてますねー。ご飯にかけたくなりますよー」

いわゆる、ねこまんまである。

ミルフィ,「そういえば、話にはよく聞くけど、味噌汁って飲むの初めてね。うん、見かけは泥水みたいだけど、まあまあ美味しいじゃない」

アタル,「気持ちはわからなくもないが、泥水いうな」

ずず、と、また1口。

昔から口にしている、安心する家庭の味だ。

柴田,「味噌汁をお飲みになられたいのでしたら、言っていただければお作りしたのですが……」

アタル,「んー、そうなんだけどさ。ヒヨの作る味噌汁を飲みたかったんだよね」

ひよこ,「あ、ありがと……」

柴田,「シェフの中には和食に精通した者もおります。誰が作るかでそんなに違うものでしょうか」

アタル,「いや、もしかしたら、ヒヨの作る味噌汁より美味しいかもしれないけどさ。ここんとこ、余所行きの味ばかりだったから」

アタル,「毎日でも安心して飲めるヒヨの味噌汁が欲しかったんだよね」

ひよこ,「えっ! えぇっ! そ、それってどういう意味ッ!?」

アタル,「ん? 言葉通りの意味だけど?」

ずずず……と、すする。

セーラ,「あの、それって~……ニッポンではプロポーズの言葉ではありませんでしたか?」

ぶふっ!

味噌風味の霧が舞った。

アタル,「げほっ! げほっ! な、何を――」

ミルフィ,「そういえば、そんなプロポーズのシーン、観たことあるわね。『君の作る味噌汁が毎日飲みたい』とかなんとかって……」

ひよこ,「プ、プロポーズぅっ! ち、違うよっ!そ、そういう意味で言ったわけじゃないよねっ!?アタルくん、全然違うよねっ!?」

アタル,「もももももちろんだともさ!」

ひよこ,「そそそそうだよねぇっ! ももももう、やだな、やだなミルフィさんったらっ!」

ひよこ,「だいたい、アタルくんと結婚するのは私じゃなくて、ミルフィさんかセーラさんじゃないですかっ!」

ミルフィ,「ん、まぁ……そう、ね」

セーラ,「そうですわね~」

ひよこ,「……そ……そうですよぉ……私はアタルくんのお嫁さんになれっこないんですから……そんな風にからかわないでください。ねっ」

ミルフィ,「悪かったわね、ぴよぴよ。味噌汁も美味しいけど、この、キンピラーだっけ? これも甘くて美味しいわよ」

アタル,「語尾を伸ばすと宇宙怪獣みたいな名前になるな……」

円盤怪獣キンピラー、みたいな。

アサリ,「お魚の焼き具合も、絶妙で美味しいですねー」

エリス,「しかし、この納豆というのは信じ難い食品ですね……腐らせた豆を食するなど……」

ミルフィ,「外人が納豆を嫌がるのは、アニメの定番よね」

パッと見、和気藹々とした朝食のシーン。

#textbox Khi0370,name
だが、皆が舌鼓を打ち、絶賛してくれていても、ヒヨの笑みがどこか寂しそうに見えたのは俺の気のせいだろうか。

…………

……

登校した俺たちを出迎えてくれたのは、ずらっと整列した学生たちだった。

男子学生,「おはようございます、ミルフィ様」

先陣を切ってミルフィに挨拶をしたのは、昨日、俺の元にファンクラブ申請をしに来たクラスメイトだ。

――となると、ここに並んでいる面々はファンクラブの会員か?

ミルフィ,「あら、なかなか悪くない光景ね♪」

エリス,「姫様の可愛らしさをもってすれば、この程度の人数が集まるなど当然であり、造作もないことでしょう」

ミルフィ,「んふふ♪ そうねぇ、そうよねー」

男子学生,「エリス様、エリス様、コチラが約束の品になります」

エリス,「ふむ、すまない」

ミルフィ,「ん? エリ、今、何をもらったの?」

エリス,「なんでもございません」

ミルフィ,「そう? 別にいいけど」

エリスさんがカードのような物を手渡されていたのを、俺は見逃さなかった。

ミルフィファンクラブの会員証だった。

そういや、会員ナンバー1番を自分によこせとか言ってたっけか。

まったく、このお付きは自分の仕える姫様が好きすぎる。

…………

……

#textbox Kas0120,name
アサリ,「いやはやー。姫様たちのファンクラブの人気は凄いですねー」

昼休みになり、ようやく屋上へと逃げてこれた俺たちである。

ミルフィのファンは統率の取れた部隊のようであった。

一方、セーラさんのファンは、気がつけばどこにでもいるまるで隠密のような潜みっぷり。

姫様本人を表すというより、互いの付き人が増えたかのようなファン性質である。

ミルフィ,「ファンクラブの活性化は、いわば前哨戦よ。どっちがより魅力ある姫であるかの証明よね」

セーラ,「あら、そういうことでしたら負けるわけにはいかないですわね~♪」

ミルフィ,「アタルはそれも婚約者選びの参考にするといいんじゃないかしら」

アタル,「う~ん……そうだなぁ……」

それはあまり関係ない気がする。

俺の好きな人を選ぶのに、周りの風評に振り回されるのは、なんか違うだろう。

みんながこの人が好きだと言ったから、自分もこの人が好きだというのか。

色恋は流行り廃りじゃない。

エリス,「現時点で姫様のファンは、77名のようです」

アサリ,「セーラさんのファンは、76名だそうですよー。実にいい勝負ですねー」

ミルフィ,「ふふーんっ、1人とはいえ、あたしのファンの方が多いってことね」

アサリ,「いえいえー、同点ですよー」

ミルフィ,「? なんで?」

チラリとエリスさんの方に視線を送ると、バツが悪そうな顔をした。内輪で水増ししているのだからな。

セーラ,「まぁまぁ、その話は後にして、今はご飯にしましょう」

アサリ,「ですねー。別に後々の展開に大きく関わる話でもなさそうですしー」

アタル,「……何、そのメタな未来視」

……関わってこないんだ、この話。

そして、アサリさんの手によって運ばれていた重箱が、ドン! と、皆の中心に置かれる。またもや豪華7段積み。

2段ずつ各国の料理+デザート段と、昨日と同じような編成でありながら、1つとして昨日と同じ料理は入っていない。

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「わー、今日も美味しそうだねー♪アタルくん、何食べる?」

アタル,「端から適当に見繕ってくれ」

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「はーい、メイドの気まぐれコースですね」

俺のオーダーに応えて、ヒヨが片っ端から少しずつ盛ってくれた皿を受け取る。

アタル,「それじゃ、いただきます」

みんな,「「「いただきまーす!」」」

みんなで仲良くご挨拶。『いただきます』の挨拶って、ニッポンならではの風習だけど、随分と板についてきた。

ぱく ぱく

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「はぅぅん、このお肉美味しい~。口の中でトロ~ッて溶けちゃうよぉ」

うん、やっぱり美味しい。

美味しいんだけどな。

でも、やっぱり朝食べた、ヒヨの手料理の方が、俺の口に合ってる気がする。

舌が肥えてしまうのが怖いのかもしれない。

漫画やアニメでもよくいるけど、美食を追及した権力者って、大抵ろくな目にあってないじゃん? 軒並、悪役じゃん?

暴君にはなりたくないからな。

美味しいと思えるはずの物が美味しく感じられなくなっちゃうのって、なんだかすごくもったいない気がする。

毎日食べるなら、余所行きの味ではなく、家庭料理なんだなぁ。

ミルフィ,「アタル、小難しい顔して、どうかしたの?」

アタル,「あー、いや、別に。美味いよな、この肉!」

アサリ,「それはお魚ですよー? マグロですー」

アタル,「……え、そうなの?」

アサリ,「はい、マグロのほっぺの部分ですねー。1匹からちょっとしか取れない貴重な部分ですよー」

ぷにぷにと自分の柔らかそうなほっぺを突きつつ、アサリさんが解説する。

やっぱり、肉と魚の区別もつかない俺には、この料理たちは豪華すぎるし、もったいなさすぎた。

…………

……

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「ふぅ、おなかいっぱいだよー」

皆が腹をさすっている中、エリスさんの視線がキッと鋭くなった。

エリス,「――お食事が終わった直後で恐縮ですが、失礼します」

ミルフィ,「どうしたの、エリ」

この校舎の向かいの別棟に視線を向けたその瞬間。

パン!

鋭い眼光をしていたエリスさんの手にしていた銃が火を噴いた。

???,「んひぃいぃぃぃっ!!?」

それと同時、聞こえてきた悲鳴。

アタル,「な、何をっ!?」

エリスさんが発砲したそこには、腰を抜かした男子学生がいた。

エリス,「ご心配なく、ゴム弾での威嚇射撃ですから」

ゴムだろうがなんだろうが、当たったら痛いもんは痛いだろ。

アサリ,「あー、気づきましたかー。別に危害を加えるような感じでもなかったので、アサリは放置してたんですがー、もぐもぐ」

口から魚の尻尾をはみ出させつつ、チラリ、と、別棟の方に視線を向けたアサリさん。

アサリ,「あの人、連れてきましょうかー?」

アタル,「そうだね。俺たちに何か用がありそうなら、連れてきてほしいかな」

アサリ,「はいー、了解しましたー」

アサリさんは屋上のフェンスの方を向き。

――駆け出す。

アタル,「え、ちょっ、どこへ!?」

#textbox kas0140,name
アサリ,「ほっぷ――」

一歩目。コンクリの床を踏みしめ。

#textbox kas0180,name
アサリ,「すてっぷ――」

二歩目。身軽にフェンスの上に飛び乗り。

#textbox kas0120,name
アサリ,「じゃーんぷっ!」

三歩目。フェンスの上から、向こうの校舎に向かって。

跳んだ。

アタル,「ええぇええええぇぇぇぇぇッッ!?」

#textbox Khi0140,name
ひよこ,「ええぇええええぇぇぇぇぇッッ!?」

ふわーっと跳び上がったアサリさんは、空中でくるんくるんと回転して――

#textbox kas0120,name
アサリ,「しゅたっ。10.00ですねー」

遥か向こうの別棟の屋上へと、軽やかに着地した。、

その跳躍距離、ざっと100m。

たったこれだけの助走距離で向こうまで飛んだのか。

世界新とかそんなレベルじゃない。人間じゃない。

アタル,「……なに、今の」

腰を抜かして動けないレベルで驚いている俺。

それは向こうの校舎にいる学生も同じらしく、アサリさんに何やら話しかけられている模様。

銃弾で脅されるわ、ネコミミ奇人の変態跳躍力を目の当たりにするわ、彼にとって随分と災難な昼休みである。

ミルフィ,「へー、すごいわねー。セーラ、あんな人、どこから連れてきたのよ」

一方、ミルフィは口では驚きを表しているものの、存外に平然としている。

当然、彼女の雇い主であるセーラさんは涼しい顔だ。

セーラ,「初めてお会いしたのはどこだったでしょうか~……確か、お父様が連れてきたのだと思いますけど~」

アタル,「バルガ王が?」

セーラ,「はい、なんでも拳でわかり合えたとかなんとか~……」

ミルフィ,「熱血少年漫画のテンプレートねぇ……理由はいらない、ってことなのかしら」

そんなことを話している間にも、アサリさんの方では会話が成立したらしい。

男子学生の手を取り、お姫様抱っこをして――

……お姫様抱っこ?

そして、さっきと同様、こっちに向かって、駆けてきた。

アサリさんよりも明らかに体躯の大きな男子1人を、その細い腕に抱えて。

ほっぷ。すてっぷ。

じゃんぷ。

男子学生,「ぅぅうぅぅどぅわああぁああぁぁぁぁっ!」

――着地。

物理法則をどうやって無視しているのか知らないが、衝撃をまったく感じさせない軽やかさで、再度屋上にひらりと着地した。

#textbox Kas0120,name
アサリ,「たっだいまですよー」

涼しげな笑顔で、アサリさんは言ってのける。

アタル,「お帰りなさいませ……」

男子学生,「あばあばばばばばばば……」

#textbox Kas0160,name
アサリ,「ふぅ……あなた、重いですねー。ちょっとダイエットした方がいいですよー」

アサリさんの細腕に抱かれていた男子は、白目を剥き、口から蟹のように泡を吐いていた。同情。

今更、思い出したけど。

彼女とセーラさん、俺の家まで艦砲射撃で飛んできた――とか言ってたっけか。

あの時はどんな世迷言かと思っていたけど……なるほど、彼女のこの身体能力なら納得……していいんだろうか。

#textbox Kas0180,name
アサリ,「さてー、これから楽しい尋問のはじまりですよー」

アサリさんはニィッと口を吊り上げ、笑みを浮かべた。

アタル,「うわっ……!?」

背中にゾワッと、虫が這いずるような悪寒を覚えた。

ようやく人間の心を取り戻した彼は、我々の前に正座待機。

彼の周囲にちょっとアンモニア臭が漂ってる気がしたのは、多分、彼がチビッたせいなんだと思う。

野郎のおもらしとか、誰得だ。どの層狙いだ。

エリス,「なかなかの気配の殺し方だったが、まだまだだな。そのレベルでは戦場では生き残れない」

男子学生,「あ、あ、あのー……ボ、ボクはどうなるんすか……」

頭にペイズリー柄のバンダナを巻いた、小太りの学生。どうやら俺たちより1年先輩らしい。

エリス,「どうなるかは全て貴様の返答次第だ。事と次第によっては、その命はここで散ると思え」

カメコ,「んひぃいぃっ!?」

そんな彼が首から下げているのは、バズーカ砲と見間違うような超望遠レンズのついたカメラだ。

ちなみに、そのカメラのレンズには一発の銃弾が突き刺さっていた。もちろん、もう使い物にはならないであろう。

アタル,「そ、その弾って、エリスさんが撃ったやつ?」

エリス,「そうです。狙いが少々外れてしまいましたが」

ガラスを貫通するとか、ゴム弾も何も関係ないじゃねぇか。当たり所悪けりゃ普通に死ぬじゃねぇか。

にしても、だ。この学生は、暗殺者とかそんな物騒な輩じゃない。

学内で何度か見かけたことがある。ちょっとした有名人だったはずだ。

どちらかといえば、あまり良くない意味で。

アタル,「先輩、写真部の方ですよね?」

写真部,「そ、そうすよ。こんなカメラ持ってんだから、当たり前じゃないすか……」

こんな立派な機材を持っているんだから、当然といえば当然なんだが、彼は写真部所属。

少ない部費を補うため、学園中の美少女の隠し撮りを有料で引き受け、まぁ、ぶっちゃければ、盗撮写真で稼いでいるとかいう話を聞いたことがある。

以前、クラスメイトの男子が、意中の女子の隠し撮り写真を撮ってもらったとかいう話を聞かされたっけな。

エリス,「――なるほど、つまり、こそこそと隠れて、向こうから自分たちの食事風景を撮影していたということか」

アサリ,「男らしくないですねー。みみっちいですねー。腐ってもげてしまえばいいのに、ですよー」

アタル,「どこの部位の話してんの!?」

下腹部の辺りが、きゅんっ☆て痛くなりました。

ミルフィ,「いわゆるカメコって奴ね?」

カメコ,「カ、カメコっていわないでくれすよ。ボクは――」

パン!

カメコ,「ッひぃいいぃぃっ!?」

エリス,「姫様の言葉に反論するとはいい度胸だ、カメコ」

正座している彼の、右ももと左ももの隙間を、エリスさんの放った銃弾が駆け抜けた。

銃弾はコンクリに突き刺さっていた。本気でゴム弾も何も関係なかった。

さらに強まるアンモニア臭。だから誰得だよ。食事が終わった後で良かったよ。

カメコ,「カ、カメコでいいれすぅ……」

ミルフィ,「そう? じゃ、カメコ。ちゃんと話を通してくれれば、撮影くらい許可したのよ?」

セーラ,「そうですよ~。隠れてこそこそしてちゃダメです~」

セーラ,「いえ、秘めてこそ燃え上がるモノがあるのもわかりますけど……人目を忍んでの逢瀬……野外で隠れてひっそり、しっぽり……きゃっ♪」

アタル,「あのセーラさん……大丈夫?」

そのピンク色の脳ミソは。

エリス,「大方、ファンクラブの方に依頼されてのモノではないでしょうか?」

アタル,「あぁ、なるほど。ファンクラブっていうと、ブロマイドは定番商品だしね」

CDの中に、ランダムで混入されていたりね。全種類コンプしたり、握手する権利をゲットしたりね。

うんうん、と頷くカメコ先輩。別に黙秘権を行使したりするつもりはないらしい。

ミルフィ,「あ、そうなの? だったらなおさらだわ。あたしを撮りたかったのなら、今から撮らせてあげる。綺麗にお願いね♪」

立ち上がったミルフィはクイッとしなを作る。

セーラ,「まぁ、でしたら、私も撮っていただかないと不公平になってしまいますわね~」

ミルフィ,「こんなサービス、滅多にしないんだから、感謝しなさいよ?」

どこかの銀河の歌姫みたいなセリフを漏らしつつ、セクシーポーズ(少なくとも本人は多分そう思っている)をキメるミルフィ。

カメコ,「あ、いや……そうじゃなくて……」

お茶を濁す口調のカメコ先輩は、立ち上がろうともカメラを構えようともしない。

まぁ、立ち上がろうにも、下半身がびたびたで立ち上がれないのかもしれないが。汚い。

カメラもレンズに銃弾が突き刺さってるんだっけ。それは不憫。

エリス,「む? 何か様子がおかしいな。カメラを確認させてもらおうか」

エリスさんが素早い手つきで、彼の下げていたカメラを奪い取った。

カメコ,「わぁぁ、やーめーろーよー! みーるーなーよー!」

レンズをぶち抜いてくれた人に、大事なカメラを手渡したくない気持ちはよくわかる。

エリス,「アタル王、お願いします」

アタル,「ん、確認させてもらいます」

カメラの電源を入れて、撮影履歴を見る。

みんなで和気藹々と食事をしているショット。おかずを口に運んでいるショット。

ほとんど変わらない構図の写真が、10枚単位で収められていた。

この短時間で一体何枚撮影していたんだろうか。

これだけ撮影されていたのに、全然気づかなかったな。

あれだけの遠距離から撮るなんて、まさにスナイパーのような仕事だ。

アタル,「……あれ?」

中のデータを見ていて、ふと違和感を覚えた。

全部、みんなが写っている昼食シーンなわけだけど。

そのセンターはヒヨに合わさっている。

アタル,「……これも。これもだ」

メインで写っているのはヒヨだらけだった。

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「どうしたの、アタルくん。え、これって私……?」

さっき、とろけるお肉を食べて溶けそうな顔をしているショットも見事に残されていた。

#textbox Khi0140,name
ひよこ,「きゃーっ、きゃーっ!さっき、私、こんな顔してたのーっ!恥ずかしいよぉ、消して、消してっ!」

カメコ,「ちょ、ちょっ、待っ! それはベストショットなんすよ!消さないでくれすよ!」

ミルフィやセーラさんのショットもないわけではないが、枚数は圧倒的にヒヨが占めていた。

さらに撮影データを確認していると、出てくる出てくるヒヨの写真。

登校時、休み時間、昼休み、体育の時間、授業中、下校時、中には私服姿まである。いつの間に。

この時間の多くは、俺も隣にいたはずだけど、まったく気づかなかった。綺麗に俺の姿はフレームアウトしている。

日付を確認すると、姫様が来る前からであったり、古いのは半年以上前だったりする。

ミルフィ,「でも、なんでぴよぴよの写真ばかり……?」

ひよこ,「そ、そうだよぉ。私の写真なんて撮ってもしょうがないでしょ?」

カメコ,「え? 知らなかったんすか……? 姫様の前は、西御門さんの写真を撮ってくれっていう依頼がすごく多くて」

カメコ,「ま、まぁ、ボクも撮ってる内に西御門さんのファンになっちゃったんすけど……へへ」

そういって彼は、懐から何かを取り出した。

アタル,「カード……? って、ヒヨのファンクラブ会員……?」

ミルフィ,「会員ナンバーは28番……随分、リアルな数字ね」

カメコ,「今のファンクラブ会員は50人くらいすね」

会員カードに貼られているヒヨの姿では、ヒヨが制服姿でアイドル風のキメポーズをとっていた。

アタル,「こんなポーズ、いつしたんだ……」

ひよこ,「覚えてないけど……クラスの友達とかとしたことはあるかも……でも、その子、女の子だよ?」

もしかして、そのクラスの友達もグルだったりするんじゃなかろうか。

カメコ,「WGPには女の子のファンもいるすよ」

セーラ,「だぶりゅーじーぴーですか?」

カメコ,「ウエストゲートピヨコの略す。西御門さんのファンクラブの名前すわ」

西・門・ひよこで、ウエストゲートピヨコ、ね。

この場所が池袋だったら、危うくカラーギャング同士の抗争に巻き込まれるところだったな。

ひよこ,「え、えっ、これって、つまり、学園にいる人たちが私の写真を持ってるってこと?」

カメコ,「ま、まぁ、そういうことすね」

ひよこ,「ふえぇぇぇ……どうしよ、どうしよー!」

ミルフィ,「ふぅ……まったく気づいてなかったぴよぴよもアレだけど」

アタル,「なんていうか……コイツもアレだな」

アサリ,「ストーカーすれすれですねー」

エリス,「ドン引きですね」

アタル,「ま、ヒヨが知らなかったってことは非公式だよな……ヒヨ、どうする。判断は任せるよ」

#textbox Khi0140,name
ひよこ,「ふぇえぇ、ふぇぇ――」

……いかん、ヒヨの頭の上に渦巻状の何かが見える。混乱アイコンが出っ放しだ。

#textbox Khi0170,name
ひよこ,「恥ずかしいよぉおぉっ!」

それは照れ隠しだったのか、混乱の産物だったのか。

ヒヨの必殺!ぴよぴよチョップが、ヒヨのデータ満載のデジカメへと振り下ろされた!

ドグシャバキ ボンッ!(爆発)

カメコ,「ぎゃーっ!?」

超長距離レンズに引き続き、カメコ先輩のカメラは正式にお亡くなりになられた。合掌。

この後、彼の様々な盗撮事件が明るみになり、在籍部員1名であった写真部は無期活動禁止――実質、廃部へと追い込まれたのであるが――
――それはまぁ、些細な余談である。

…………

……

[ひよこ必須フラグ=1]{
#textbox Ksi0160,name
柴田,「おや、アタル王、おひとりとは珍しい」

アタル,「そんなことないと思うけど……」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「以前がどうだったかは存じませんが、ここにいらしてからは常にアタル王の周りには、必ず誰かがいらっしゃいましたよ」

アタル,「……確かにそうかもね」

アタル,「なんでも、女の子同士の秘密の話があるんだってさ」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「では、負けじと我々も、男同士の秘密の話でも致しますか」

アタル,「いやいやいや! 別に柴田さんと話すことはないよ」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「さようでございますか。残念です」

どこまで本気なんだ、この人は。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「アタル王としては、ひよこさんのことはどう思われているのでしょう?」

アタル,「どう、って……幼なじみだけど……」

柴田,「それ以上の感情はないということで、よろしいですか」

アタル,「……う……」

柴田,「その迷いが、何よりの答えですよ」

アタル,「風呂、入ってくるよ」

柴田,「ごゆっくりどうぞ」

俺は逃げるように、柴田さんのもとから離れた。

自分の感情と意志がわからなかった。

…………

……

ミルフィ,「はーい、今日のでわかったことー。学園の人気No.1を狙うには」

セーラ,「お互いを超えればいい……というわけではなかったんですのね……」

ひよこ,「そそそそんなことないよぉ!私なんて全然つまらない女の子なのにぃ!」

ひよこ,「う、うーん、私のファンは50人?って言ってたよ? ミルフィさんとセーラさんはもっとたくさんいるじゃないですか」

ミルフィ,「人数の問題じゃないのよ。ぴよぴよ、今日からは正式に、あなたもあたしのライバルとして認めるわ」

ひよこ,「えっ、えええ……私、関係ないってばぁ……」

セーラ,「ひよこさん、正直におっしゃってください」

ミルフィ,「あんた、アタルのこと、好きなんでしょ?あたしたちに取られたくないんでしょ?」

ひよこ,「う……」

セーラ,「ひよこさんのアタル様への思いは、日々、端々から感じてます。今更、隠されても無駄ですよ~」

ひよこ,「うぅ……う、うん……」

ひよこ,「好き……アタルくんのこと、ずっと好きだよ……」

ミルフィ,「それを聞きたかったのよ」

ミルフィ,「少なくとも、ぴよぴよを超えなきゃ、アタルはモノにできないってことよね」

セーラ,「負けませんよ、ひよこさん」

ミルフィ,「正直に教えてくれたことに感謝するわ、ぴよぴよ。だから、ひとつだけ、あたしも正直に教えるわ」

ミルフィ,「アタルは必ずしも、あたしたちのどちらかと結婚しなきゃいけないわけじゃない」

ひよこ,「え……!?」

ミルフィ,「あたしがちょろっと考え付くだけでも、抜け道はいろいろあるのよねー……ま、さすがにそこまでは教えてあげないけど」

ひよこ,「どうしてそんな大事なこと、教えてくれたんですか……?」

セーラ,「障害はあればあるだけ、愛は燃え上がるんです~。負けませんよ、ひよこさん」

ひよこ,「わ、私だって負けないですっ」

ミルフィ,「握手はなしよ。あたしたちはアタルを巡るライバル」

ミルフィ,「いい勝負しましょ」

……

…………

アタル,「ぼくはおうさまになりたいけど――」

アタル,「――ひよこちゃんは何になりたいの?」

ひよこ,「わたし、しょうらい、アタルくんのおよめさんになる!わたし、アタルくんとけっこんするのっ!」

それは毎日のように、交わしていた約束。

アタル,「それなら、お星さまはひよこちゃんにあげるね」

ひよこ,「いいの? アタルくん、おうさまになれなくなっちゃうよ?」

アタル,「だって、ひよこちゃんはいつも、ぼくといっしょにいるでしょ?」

アタル,「いつもいっしょなんだから、お星さまは、ひよこちゃんの願いも、ぼくのお願いも叶えてくれるよ」

ひよこ,「うん、たいせつにするっ! わたし、アタルくんがおうさまになれるように、おねがいするからね!」

それは――

今では忘れ去られてしまった――想い出と夢うつつの中へと消えてしまった遠い約束。

…………

……

アタル,「んっ……!」

……何か夢を見た気がする。

寝ていたんだから、夢のひとつやふたつ見るに決まっているんだけど。

でも、今の夢は――またもや前に見た夢の続きだったような気がする。

連載も3、4回になれば、10週打ち切りかどうか決まる時期だろう。

どうだ、国枝アタルさんの脳内編集者様的には、この話は続くのか。

はたまた『そして10年後――』に飛んでの打ち切りか。読者アンケートはどうなってるんだ

……わかるわけがなかった。

そんな脳内編集会議はともかく、今日は週末。学園は休みだった。

夢のせいで思わず起きてしまったけど、今日はもっとゆっくりしてても良かったんだよな。

今一度、布団をかぶろうとしたが、目覚めてしまったら、なかなか寝付けない。

……とりあえず起きるか。また眠くなったら、二度寝でも昼寝でもするとしよう。

窓から庭を見ると、なにやら大きな白い布が揺れ動いている。

無数のベッドシーツだ。

そして、それを干しているのは、我が屋敷のメイドさんだった。

朝っぱらから精が出ることで。

ちょっと冷やかしにでも行きますかね。

俺は寝間着から私服に着替え、裏庭へと出た。

ひよこ,「お日様をいっぱい吸うんだよー」

広げたベッドシーツは風にたなびく。

アタル,「精が出ますな、メイドさん」

ひよこ,「あっ、おはようございます、アタルくん。お休みなのに、早起きなんだねー」

アタル,「なんとなく目が覚めちゃってね」

アタル,「にしても、このベッドシーツって、寝泊りしてる使用人全員分? 洗濯なら別にヒヨがやらなくても、他の人に任せればいいのに」

ひよこ,「ううん、このくらいは私がしないと。一応、王様専属のメイドさんなんだよ?」

ひよこ,「王様専属だからって、軽く見られないようにしたいし、もちろんアタルくんのためになることはしたいからね」

てきぱきとシーツに続いて、洗濯物を干してゆく。

なるほど、その洗濯物は、昨日の俺が着ていたモノだ。

アタル,「だからって、俺のパンツを、ヒヨが洗わなくてもいいと思うけどさ……」

ひよこ,「えっ、アタルくんのパ……ひゃあっ!」

アタル,「おっとぉ!」

俺のパンツに驚いたヒヨは思わず手放してしまった。

地面に落ちる直前、手を伸ばし、慌てて掴む。

アタル,「ふぅー……セーフ! 気をつけろよー」

危うく洗い直さずに済んだ。

ひよこ,「ア、アタルくんが変なこと意識させるからだよー……」

アタル,「パンツったってはいてなきゃ、ただの布だろ。Tシャツなんかと変わらないだろ?」

パンツだけど、恥ずかしくないもん! だ。

ひよこ,「か、変わるよぉっ。別物だよっ。それじゃ、アタルくんは私のパンツを見ても、なんとも思わない?」

アタル,「……はぁ?」

ひよこ,「……あ……! い、今のなしっ!なんでもない、なんでもないのっ!」

……なんで勝手に自爆してるんだろうなぁ。

ひよこ,「むぅ……アタルくんのえっち……」

アタル,「ちょっと待て……今の会話の中で、俺が非難されるようなエロ要素があったか……?」

ひよこ,「アタルくんが悪いんだもん」

ひどい言いがかりであった。

全部1人でやるのは大変そうだったので、俺も残りの洗濯物を干すのを手伝う。

幸いというかなんと言うか、その残りの洗濯物の中には、俺の下着もヒヨの下着も、ましてや姫様たちの下着もなかった。

それらは別の場所で、別々に洗っているのかもしれない。

……エリスさんが、ミルフィの下着姿を洗っているシーンが容易に想像できたが。

過度の想像は犯罪方面にしかいかなそうなので、程ほどにしておいた。

ヒント:パンツ・マスク・くんかくんか

ひよこ,「ありがと、アタルくん。おかげですぐに終わったよ」

アタル,「いやいや、どういたしまして」

アタル,「あー、さっきの質問だけどさ」

ひよこ,「さっきの質問?」

アタル,「きっとヒヨのお子様パンツじゃ、別になんとも思わないだろうなー。クマとかウサギとかバックプリントしてあるヤツだろ?」

ひよこ,「ふにゃっ……!? も、もう、お子様パンツじゃないもんっ! クマさんパンツじゃないもんっ! 今はいてるのはピンクの――」

アタル,「……へぇ、ピンク」

ヒヨの顔が瞬時に沸騰したかのように赤くなる。

ひよこ,「ちょっぷ!」

アタル,「きゅろすッ!?」

ひよこ,「もう、アタルくんのバカバカバカーっ!」

ちょっぷだけでは飽き足らず、洗濯カゴを振り回しながら追っかけてくるヒヨから逃げつつ、俺は王宮の中へと舞い戻る。

そんな休日の朝の一幕でありましたとさ。

……

…………

ヒヨに洗濯カゴでポカポカと殴られた後(捕まりました)、ソーセージとマッシュポテトをメインとしたジャーマニー的な朝食を終えて。

王になってから、初めての休日を迎える。

休みだからといって、特にやることを考えてはいなかったし、別段やることもなかった。

しいていえば、勉強の予習復習くらいだけど、それは考えないことにする。

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「アタルくん、何かお仕事はあるかな?」

アタル,「いや、特に何も考えてない」

柴田さんに声をかければ、勉強会のひとつもしてくれるだろうが、せっかくの休みをそれで潰すのもな。

こんな晴れの日なら、外出のひとつもしたいところだ。

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「暇だったら、お散歩しない?」

アタル,「散歩?」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「うん、お散歩。お洗濯してる時、この王宮ってどれくらい広いのかなーって思ったから」

アタル,「どのくらいだろうなー……」

ちらりと窓の外を見る。視界に広がる中庭。

広がった一番奥は、果たしてどこまで続いているのか。

最端は当然高いフェンスだろうが、自分の住んでいる場所がどれだけ広いのかは、確かに少し興味があった。

腹ごなしに、出歩いてみるのもいいか。部屋でごろごろしているよりは、ずっとマシだ。

#textbox Khi0360,name
アタル,「じゃ、行こっか」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「はーい、メイドが王様をご案内いたしまーす」

アタル,「よろしく、メイドさん」

俺はヒヨとともに、部屋の外へ出た。

…………

……

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「アタル、あたしとDVDでも――あれ?」

セーラ,「アタル様~、どこかお出かけでも――あら?」

ミルフィ,「アタルはどこに行ったのかしら? セーラ知ってる?」

セーラ,「いえ、私も探しているのですけれど……アタル様~? アタル様~? どこですか~?」

…………

……

俺とヒヨは王宮の敷地内を探索することにした。

まずは中庭に出る。

どこまでもまっすぐに続く道。端まで歩いて、何mくらいあるんだろうか。

アタル,「前に柴田さんがドーム球場いくつ分とかって言ってたよな……」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「といっても、ドーム球場1個分がどのくらいかわからないけどね」

アタル,「……それもそうだな。とりあえず、歩いてみるか」

見事に晴れ渡った青空や、綺麗に刈り揃えられた芝生を眺めつつ、俺とヒヨは並んで歩く。

お互い、無言。

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「ふふっ」

アタル,「どうした?」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「アタルくんとこうして歩いてるのが、不思議だなぁって思ったの」

アタル,「……そうか? 登下校してる時と似たようなもんだと思うけど」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「ううん、全然違うよー」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「アタルくんは王様、私はメイドさん」

ヒヨは俺と自分自身を交互に指差す。

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「ほら、全然違う」

アタル,「そうかなぁ……」

王様になって1週間が経過するが、王様として重責を負わされているわけでもない。

食生活が豪華になったくらいで、普通に学園にも通っているから、生活サイクルが激変したわけではないのだ。

ヒヨとの関係も別に遠ざかった気がしない。

むしろ、一つ屋根の下に住み、3食をともにしてる分、以前よりも距離が近づいたくらいだと思うのだが。

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「王様、楽しい?」

アタル,「まぁ……ぼちぼちかな」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「あはは、ぼちぼちなんだー。昔は王様になりたがってたのにね」

アタル,「そうだっけ……?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「そうだよー、覚えてないかな?」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「私は覚えているよー」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「でも、無理もないかな。ふたりとも小さかったもんね。もう10年くらい前だったかなー」

10年前……小学生の頃か。

当時の記憶はおぼろげだ。いつもヒヨといた記憶はあるが、事細かに何をしたかなんてのは覚えちゃいない。

アタル,「記憶力いいんだな」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「記憶力っていうか……ずっと持ってるからね。そう簡単には忘れないよ」

アタル,「持ってる?」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「それも忘れちゃってるんだー……むぅ、ちょっと残念だなー……ちょっと待ってね」

もぞもぞと胸元に手を入れる。

#textbox Khi0340,name
ひよこ,「ひゃっ!? あんまり見ないでよぉっ」

アタル,「いや、待ってって言ったからさ!」

取り出されたのは、小さな巾着袋だ。

アタル,「その袋は……?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「アタルくんからの初めてのプレゼントを入れてるんだ。本当に覚えてない?」

アタル,「え、えーっと……!」

なんだ、喉のここまで出掛かっている気がする。

つい最近、見たじゃないか。

見続けてきたじゃないか。

アタル,「『お星さま』……!?」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「そうっ、思い出した?」

見ていた夢が繋がった。

そうだ。あの夢は、10年前の記憶。

俺がヒヨとともに探検をした時、空から落ちてきた流れ星を拾ったんだ。

大気圏でも燃え尽きることなく、地上へと辿り着いた星のカケラ。

ただ、それは星というには、あまりに無骨な金属の輪。

今思えば、危険な代物だったのかもしれないのに、まったく子供の好奇心というのは、無知ゆえに恐れを知らない。

思い出せば芋づる式だ。

その時に交わした言葉、行動、時間帯。

全てが克明に引っ張り出されてくる。

アタル,「そうか……そうだったよな。俺はあの日、ヒヨと一緒に星の落ちた場所を見に行こうって、探検に行って――」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「そうそうっ、嬉しいな。思い出してくれたんだねっ」

淡く光る『お星さま』をヒヨに手渡し、それは今、ヒヨの持つ袋の中に入っている。

アタル,「そんなの大事に持ってたのか……」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「そんなのって言っちゃダメだよ」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「『お星さま』は本当に凄いんだよ。お願い事だって、いっぱい叶えてくれたんだからっ」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「アタルくんとずっと同じクラスになれたのだって、『お星さま』のおかげなんだよ」

――言われてみれば、確かに。

ヒヨと腐れ縁のこの10年間、いくらクラスが変わっても、通う学園が変わっても、俺はヒヨと同じクラスになり続けた。

そんなささやかなヒヨの願いを叶えてくれたのが、『お星さま』の力だとしたら?

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「アタルくんが王様になれたのだって、『お星さま』のおかげかもしれないんだよ?」

アタル,「いやいや、そんなバカな――」

でも、確かに幼い頃の俺は『お星さま』に願っていた。

おうさまになりたいな! ――と。

『お星さま』には確率を操る力があるとでもいうのか?

――まさか、そんな馬鹿げた超能力があるはずがない。

でも、そうでもなければ、こんな1億分の1の抽選に当たるような説明がつけられない気もするけれど。

超能力の存在と、超確率の当選。果たして、どちらが信じられるだろう?

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「でもね、私にとっては『お星さま』に凄い力があっても、凄い力なんかなくっても、どっちでもいいんだ」

アタル,「え……そうなのか?」

人知れないスーパーパワーを秘めているのだとしたら、いろんなことに使えちゃうじゃないか。

いいこと、悪いこと。ヒーローにも、ヒールにもなれる。

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「だって、アタルくんが、私にくれた初めてのプレゼントなんだもん。凄い力があってもなくっても、大事にするに決まってるよ」

アタル,「あ……」

そんな風に微笑まれてしまっては、何も言い返せなくなる。

プレゼントしたことを忘れていた身としては、罪悪感すら覚えてしまった。

子供の頃の俺は、一体何を思ってヒヨに『お星さま』を渡したのか。

さすがにそこまで思い出すことはできなかった。

……

…………

アタル,「また『ろ』かよ……『ろ』……『ろ』……ロウソク!」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「『く』……黒! はい、アタルくん、また『ろ』だよ」

アタル,「くそっ、怒涛の『ろ』責めだ……!」

王宮の周りを歩きながら、俺とヒヨはしりとりをしていた。

幼い頃から、何の道具もいらず、通学中でもお手軽に、口頭だけでできるしりとり遊びは何度もしてきた。

さて、『ろ』だ。ヒヨに反撃する手立てを見つけなくては、俺は延々『ろー、ろー、ろーっ!?』と叫ぶ羽目になる。

アタル,「えーっと、えーっと……そうだ、ろくろ!焼き物を作る時に、くるくる回るアレな!」

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「えーっ、反撃されちゃったよー!『ろ』……『ろ』……うーん、うーん、ろ、廊下!」

昔はひとつの文字で縛り続けて、相手のボキャブラリーを枯渇させるなんて、姑息な真似は知らなかったけどな。

アタル,「『か』……うん……甘露っていうのはどうだ?」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「また『ろ』ーっ!?」

アタル,「『ろ』で先に仕掛けてきたのはヒヨだろう。ハッハッハ、策士策に溺れるというヤツだな!」

こんな子供すら知ってる単純な言葉遊びも、大人になれば賢しさを覚えて変わってしまう。

長い年月は、人を変える。長い年月で、人は変わる。

それがいいことなのか、悪いことなのかはわからないけど。

俺とヒヨの関係は、この先――

ミルフィ,「『ろ』……そうねぇ、そろそろおやつに、美味しいロールケーキなんて食べたいところよね」

ひよこ,「あー、言おうと思ったのにー……って、あれ?」

アタル,「へ?」

正面から突然声をかけられる。

ミルフィ,「もう、こんなところにいた!」

セーラ,「探しましたよ、アタル様~」

俺たちの進路を塞ぐように、ミルフィとセーラさんが立ちはだかっていた。

セーラ,「うふふふ、ここを通りたかったら、私たちを倒してください~」

ひよこ,「えっ、えっ、そういう遊び……なの?」

ミルフィ,「ノリで言ってるだけよ、ノリ。ったく、ぴよぴよってば、休みの日にアタルを独り占めしようだなんて、いい度胸してるじゃない」

ひよこ,「そ、そういうつもりじゃなかったけどっ」

セーラ,「アタル様、ひよこさんとばかり遊んでたなんてずるいです~。私とも遊びましょう」

ミルフィ,「あたしとも遊びなさいよぉっ。昨日、『劇場版不規則戦士ランダム(全3巻)』観るって約束したでしょ?」

アタル,「いつしたよ、そんな約束ッ!? しかも、それって全部見ると8時間くらいあるんじゃなかったっけ!?」

ミルフィ,「1日は24時間あるんだもの。ぴよぴよも含めたら、1人8時間ずつ相手すれば、ちょうど24時間じゃない」

アタル,「そこには俺の睡眠時間は一切考慮されてないな!?」

セーラ,「まぁ~、それは素晴らしい計算ですね~。それでは、私は夜の8時間を頂戴いたします。……アタル様、寝かせませんからね♪」

アタル,「単語の上に『夜の』がつくと、途端にエロくなる法則!」

ひよこ,「ひゃあっ!? セーラさん、エッチぃよぅっ!」

ミルフィ,「ちょっ、ちょっと待ち! やっぱり今のなし! そう、みんなでランダムを観ればいいんだわ! 8時間、あたし直々に名言を演じながらの解説つきよっ!」

うわぁ……なんだその拷問のような1/3日。

ひよこ,「わぁ、それは楽しそうだねっ」

セーラ,「では、残念ですが、アタル様との熱い一夜はまた別の機会ということで♪」

アタル,「そんな機会、ありませんからね!?」

ミルフィ,「んじゃ、みんな、あたしの部屋に集合ねっ。観るわよー、超観るわよー!」

――そして、俺たちはミルフィの部屋へと移動となった。

……

…………

[ひよこ必須フラグ=1]{
柴田,「…………ふむ」

アサリ,「おやおやー、柴田さん、覗きとはあまりいい趣味ではないですねー」

柴田,「ハハ、そういうアサリさんも、無言で人の背後に回るとは人が悪い」

柴田,「覗きではありません。護衛及び監視ですよ。アタル王に危害を加える者がいないかどうかの、ね」

アサリ,「おやー、そうでしたかー。アサリにはアタル王よりも、ひよこさんの方が気になっているように見えましたがー」

柴田,「…………ほぅ? それは気のせい、ですよ」

アサリ,「アサリの猫の目をみくびってもらっては困りますー」

アサリ,「なるほどー、柴田さんはメイド萌えなんですねー。執事とメイドの恋愛というのも悪くないですねー」

アサリ,「柴田さんがひよこさんを堕としてくれると、お付きの身としては、いろいろと助かるのですがー」

柴田,「ははは、ひよこさんの心が私に向くことなど、万に一つもありませんよ」

アサリ,「ですよねー。わかってますよー」

柴田,「どこまで、おわかりに?」

アサリ,「さー、どこまででしょー。どこまでもわかってるかもしれないですしー? 何もわかってないかもですよー。猫は気まぐれな生き物なのですよー」

アサリ,「それで、柴田さんは行かれないのですかー?」

柴田,「どちらにでしょう?」

アサリ,「もちろん、ミルフィさんのお部屋ですよー。アニメの鑑賞会、楽しそうですよねー。ではー」

柴田,「…………」

…………

……

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「そう、ここで満を持して登場なのっ!ちょっと、アタル、ちゃんと観てるの?」

アタル,「あ、あー……観てる、観てるけど……なぁ、さすがにそろそろ休憩にしないか……?」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「何言ってんの! ここからが一番面白いところなんじゃない! 名シーン目白押しよ? 瞬きしてる暇だってないのよ?」

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「キタワーッ! コロニー大・爆・発!ね、信じられる? これCGじゃないのよ?手書きなのよ?」

アタル,「お、おい、エリスさん、ちょっと姫様を説得して止めて――」

エリス,「はぁぁ……熱弁を奮っている時の姫様、本当に愛らしい……!」

そうだよなー……ダメだよなー……この人が止められるわけないよなー……。

最初は面白いと思って観ていたんだけど、さすがに5時間を越えると、疲れてきた。

セーラ,「ZZZ……」

ひよこ,「ZZZ……」

いつの間にやら2人は肩を寄せ合って寝ているし、アサリさんはいないし。

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「はぁぁ……もう名シーンすぎだわ……アニメ史に残る、最高の名シーンよ……!」

アタル,「終わった……やっと……」

既に何回観てるのか知らないが、感激のあまり、涙を流すミルフィ。

結局、ラストシーンの、爆発する基地からの脱出シーンまで全部見せられた。

アタル,「いやぁ……やっと終わったな! 良かった!」

今の俺は、開放感で胸がいっぱいです。

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「どう? 面白かったでしょ? ホント、ニッポンって、つくづく凄い国だって思うわ」

むふー、と、鼻息を鳴らし、興奮冷めやらぬ様子だ。

うん、ニッポンのアニメや漫画が素晴らしいのは認める。こんな世界にだって誇れる素晴らしい物を、つまらない理由で規制なんてしてほしくない。

いざそんなことがあろうものなら、王としての力を行使したいくらいだ。

でも、今は……今だけは……達成感というよりは徒労感というか……。

できることならもっとゆっくり、1日1本くらいのペースで見たかったもんだ……。

それでも、まぁ。

アタル,「……ああ、面白かったよ」

ミルフィにはそう応えた。

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「良かった!」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「じゃ、来週の休みは、続編のランダムβを観ましょ! 劇場版だなんて、ケチ臭いこと言わず、テレビシリーズ全50話一挙上映ね!」

アタル,「それはさすがに勘弁してください!」

ワガママ姫様に即座に土下座する王の姿がここにあった。

とまぁ、貴重な初めての休日は、アニメ上映三昧で終了したのでありましたとさ。

アタル,「ZZZ……」

ミルフィ,「よしよし、アタルはまだ寝てるわね」

#textbox Kmi0240,name
ミルフィ,「ここんとこ、ぴよぴよばかりちょっと目立ちすぎだから、いいかげん、あたしも挽回しておかないとね」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「『男のハートを射止めるのは、まず胃袋から!』だっけ。あたしの料理でアタルを落としてみせるわ!」

アサリ,「そうそう、内臓まで届いたダメージは、なかなか治りませんからねー。じくじくと生命を削る致命傷ですよー」

ミルフィ,「それって、そんな殺傷力の高い言葉だっけ?――って、アサリ、なんでここにいるのっ!」

アサリ,「みんな考えることは一緒なんですねー。ミルフィさんも頑張ってくださいなー」

ミルフィ,「え、み、みんな? あたし『も』……?」

#textbox kmi0230,name
ミルフィ,「――って、なんで、あんたたちが厨房にいるのよーっ!」

ひよこ,「えっ? だって、私はいつもご飯作ってるし……」

#textbox kse0320,name
セーラ,「私もアタル様のためにご飯を作ろうと思いまして~。クアドラントの郷土料理を振る舞いたいと思います~」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「ぐぬぬ……あ、あたしだって、負けないんだからー!」

…………

……

俺、ヒヨ、ミルフィ、セーラさんを車に乗せての、いつも通りの登校風景。

アサリさんとエリスさんは……まぁ、どこかにいるんだと思う。並走してたり、兵装してたりするんだと思う。

#textbox kmi0110,name
ミルフィ,「アタル、今日のお昼ごはん、楽しみにしてなさいよね」

アタル,「お、おう? なんかあるのか?」

#textbox kse0190,name
セーラ,「うふふっ、ナイショです。だから、お楽しみなんですよ~」

#textbox khi0120,name
ひよこ,「そうそう、お楽しみお楽しみ」

アタル,「……?」

3人は同じような笑みを浮かべていた。

…………

……

そして、件のお昼タイム。

三段の重箱弁当を運んでくるお三方。

アタル,「あれ? いつもは7段くらいなかったっけ。少ないんだな?」

これが今日のお楽しみなのか?

そして、この場に、いつも弁当を楽しみにしているアサリさんの姿がない。

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「えへへ、実は今日はなんと!」

ミルフィ,「あたしたちが!」

セーラ,「一段ずつ作ったんですよ~!」

アタル,「え、3人の手作り弁当?」

ヒヨは何も珍しくないけど、ミルフィとセーラさんの手作りってのは初めてだ。

……初めての手作り弁当……。

その好意はすごく嬉しいはずなのに、あまりいい予感がしないのは俺だけか?

ミルフィ,「さ、アタル、好きなところから開けていいわ!どの段を誰が作ったのか、当ててみなさいっ!」

むふーっ、と、鼻息荒くしながらミルフィが開封を要求した。

アタル,「お、おぅ」

好きなところから、と言われてもな。無難に、一番上の段のフタをオープン。

ミルフィ,「ちぇっ」

ミルフィが舌打ちした。つまり、一番上はミルフィじゃなかったってことか。

1匹の大きめな魚と、野菜が綺麗に詰め込まれている。

アタル,「これは……セーラさん?」

セーラ,「まぁ、すぐにわかってしまいますか~?」

アタル,「なんとなくね」

ヒヨの作る料理じゃない。少なくとも今まで見たことがない。どことなくニッポンではない雰囲気が漂っている。

ミルフィは舌打ちしてたし、消去法で考えると、セーラさんだ。

そうでなくても、一番上を開けた時からセーラさんのハラハラとドキドキの入り混じっていた表情を見れば、一目瞭然だった。

アタル,「この魚は? あまり見たことない気がするんだけど」

セーラ,「クアドラント近海だけに生息する魚で、ポスワミといいます。今日のために取り寄せたんですよ~」

アタル,「ポスワミ……うん、聞いたことない」

ネットで検索しても、そうそう引っかからなそうな名前だ。

ゴーゴルで検索しても、『ポスワミ に一致する情報は見つかりませんでした』とか出るに違いない。
セーラ,「ニッポンのようにお刺身ではなく、火を通して食べるのが一般的なんですよ~。焼いてもいいんですけど、今日は煮付けにさせていただきました~」

煮付けでまるっと1匹入っている。

セーラ,「しっかり煮ると骨まで柔らかくなって、全部食べられるんですよ~。はい、アタル様、あ~ん♪」

アタル,「え、い、いいよ。1人で食べられるから」

セーラ,「ダメです~。私の作った料理を、私の『あ~ん』で食べていただきたいんです~」

アタル,「いや、ほら、ヒヨとミルフィの目もあるし……」

セーラ,「順番ですよ。ひよこさんとミルフィさんのを開けた時は、ひよこさんとミルフィさんが『あ~ん』をしますから、お相子なんです」

セーラ,「あ、毒見をしていないのが心配でしたら、私が先に食べますね……ぱくっ♪ ん、上出来です」

アタル,「そういう問題じゃないんだけど……」

セーラさんは箸を自分の口の中に入れる。

どうやら味には問題がないらしい。が。

セーラ,「というわけで、アタル様、改めてどうぞ」

今、セーラさんが口に入れたばかりの同じ箸を、俺に勧めてくる。

ひよこ,「ひゃあぁっ!?」

ミルフィ,「ちょ、セーラ!」

なんて露骨な間接キスだ。

セーラ,「大丈夫ですよ~、唾液から感染するような病気は持っておりません。アタル様のため、綺麗な身体でいますから」

セーラ,「はい、アタル様。あ~ん♪」

アタル,「あ、あ~ん……」

俺は観念して、ヒヨやミルフィに見られつつ、セーラさんの『あ~ん』を受けた。

アタル,「もぐ……ん、美味しい」

見た目は若干グロテスクなポスワミだけど、味は思いの他、淡白でありながら、じんわりと旨味が染み出してくる。

ついている味は、辛くて甘くて酸っぱい。

こう表現すると微妙に思うかもしれないけど、ギリギリで調和が取れている感じで。

ニッポンの料理でいうなら、南蛮漬けとか、つけ麺のスープとか、そんな感じ。

セーラ,「美味しいですか? 良かったです~♪では、アタル様、こちらのお野菜も――」

ひよこ,「セーラさん、順番、順番ですよ」

セーラ,「そうでしたね~。では、アタル様、次のを開けてくださいませ」

順番からすれば、2段目だな。

かぱっ。

目に入ったのは、おにぎり、ダシ巻き卵、ソーセージ、ほうれん草のおひたし、ヒジキの煮物、一口コロッケ。

アタル,「……ああ、何もいわれなくても、わかるな。コレはヒヨだろ」

ひよこ,「えへへ、当たり」

見覚えのある料理だらけ。弁当の基本を踏まえたような編成だ。

ひよこ,「セーラさんとミルフィさんはちょっと変わった物を作ってたみたいだから、私はオーソドックスなのをね」

ミルフィ,「ちょ、あたしは別に変わった物なんて作ってないわよっ!?」

ひよこ,「えっ、そ、そうだったの!? お砂糖をいっぱい使ってたから、すごい変化球で来るのかなーって……」

ミルフィ,「今からネタバレしないでー!インパクトがなくなっちゃうでしょー」

ひよこ,「あっ、ご、ごめんなさいー!」

……イ、インパクト?今から先行き不安になりそうな言葉を聞いてしまった。

待ち受けるナニカはあとに回しておいて、今はひとまず、ヒヨのお弁当実食。

ヒヨは卵焼きを積まんで、俺の口へと運ぶ。

ひよこ,「はい、アタルくん、あーん♪」

アタル,「あーん……もぐもぐ、うん、美味しい」

感想がいい辛いのだが、美味しい。ダシが利いていて、普通に美味しい。

もはや慣れ親しんでいるだけにインパクトはまったくないけど、毎日食べる手料理なんてそんなんでいいのだ。

そして、問題の。

残されしパンドラの箱。最後の3段目。

っつーか、残っているミルフィしかありえないわけだが。

ミルフィ,「やっぱり一番下だと一番最後になっちゃうわよね。ちぇーっ」

セーラ,「ミルフィさんがじゃんけんで負けたからです。恨みっこはなしですよ~」

ミルフィ,「まぁ、いいわ。あたしのインパクトは、最初でも最後でも変わらないんだからっ!」

アタル,「料理にインパクトはいらないんだけどな!」

普通でいいんだ、普通で。

2段目をどけた瞬間に、甘ったる~い匂いが漂ってきたんだけどさぁ。

アタル,「うぉふ」

どう見てもオチ要因。まさに三段オチってことか。

その3段目にはみっちりとドーナツが詰まっていた。

ミルフィ,「味の再現に苦労したのよー! まぁ、さすがにお店の味にはちょっと及ばないとは思うけど、なかなかの出来だと思うわ!」

むふん、と、ない胸を張る。

ミルフィ,「はい、アタル。あーん♪」

アタル,「あ、あーん……」

さすがに前2人の『あーん』を受けた後だ。ミルフィのだけ、受けないわけには行くまい。

後ろではエリスさんも目を光らせてるしな!

エリス,『姫様の弁当だけ、食べないわけではないだろうな!』

そんな心の声が、視線を通じて、俺に届いてきた。

エリス,「できれば自分が食べたいくらいなのに……ハアハア」

そんな声も聞こえてきた気がする。っていうか聞こえた。食べたいのなら是非、差し上げたい。

ミルフィの差し出したドーナツが口に入り、一口だけ噛み千切る。

あれ……? 案外普通だ……?

1口目のさっくりもっちりとした感触は、うん、確かに、お店に近――

アタル,「んごぁっ!」

ミルフィ,「ど、どうしたの、アタル!?」

アタル,「あ、あまっ、甘ーーーーいっ!」

ミルフィ,「なんだ、ドーナツなんだもの。当然じゃない。そんな顔するから、どうしたのかと思っちゃった」

歯が浮く! 浮く! 口と喉が甘さで焼ける!

食後に歯を磨かなきゃ虫歯必至の糖分だ!ミュータンス菌、大感激!

ひよこ,「ア、アタルくん、大丈夫?お茶淹れる? コーヒーがいい?」

ぶんぶんと無言でヘッドバンギングばりに激しく頷きつつ、俺はコーヒーを指差した。

口を開いた瞬間、浮いた歯が飛び上がりそうで、口を開けられなかった。

ミルフィ,「……え? そんなに甘い?」

アタル,「ごくごくごくぷはぁぁっ! 歯の浮く力で、大気圏突破できるかと思った! NASAもビックリの新動力!」

我ながら、よくわからない比喩だった。あまりの甘さによる混乱だと思っていただきたい。

ミルフィ,「ぱく、もぐもぐ……うーん……そこまで?」

ミルフィは俺が飛び上がるほど甘いドーナツを、顔色1つ変えることなく頬張る。

アタル,「いやいやいやいや! 甘い物耐性高すぎだろ!『パッシブスキル:砂糖ガード+』でも付いてんの!?」

一面に広がる、さとうきび畑を想像してください。ざわわざわわって感じです。

そこにあるさとうきび全部を煮詰めて出来上がったのが、この1個のドーナツです。それぐらいです。

ひよこ,「……そんなに? なんだか逆に興味出ちゃうな」

セーラ,「ですね~」

ミルフィ,「お店の味に勝つには、やっぱり甘さを追求しないといけないと思ったのよね!」

アタル,「うん……甘さに関しては、お店に圧倒的勝利だと思うけど……」

味って、甘ければいいってもんじゃないだろうに……。

明らかに俺の心境は、顔に表れていたのだろう。

ミルフィ,「……美味しくなかった……? アタルに喜んでもらえると思って、一生懸命作ったんだけどな……」

アタル,「え、えーっと……」

胸の前で手を組み、俺の顔を見上げる。

今まで気づかなかったが、その組まれている手には無数の絆創膏が張られていた。

ドーナツを揚げる時に火傷したのだろうか。努力の跡が垣間見えた。

アタル,「う、うん、その気持ちはすごく嬉しいよ。ありがとう――」

チャキッ。

背後から無機質な音が聞こえてきた。ゴリッと堅い物が、頭に押し付けられたのを感じた。

#textbox ker0130,name
エリス,「アタル王、よもや姫様がお作りになられた物を、残したりはしないだろうな?」

エリス,「この零距離なら、さすがのアタル王でも交わせはしまい……姫様を泣かすおつもりであれば、自分はニッポン全てを敵にすら回そう」

アタル,「――嬉しいから、た、食べるヨー!」

1個のドーナツに対し、5杯のブラックコーヒーが進む。

水分だけでお腹が膨れる。

アタル,「え、えーっと、みんなは食べないのかな?」

セーラ,「そのお弁当は、みんながアタル様のためにお作りしたものですから~……」

ひよこ,「ちゃんと食べてもらえるか心配だったから、なんだか緊張しちゃってて……今、あまりお腹空いてないんだ。あ、でも、どうしても無理そうならちょっとお手伝いするよ」

アタル,「さ、さよですかー……」

俺のために頑張ってくれたのは嬉しいけど、お重3つ分とか食えるわけないだろが。

ミルフィ,「あたしも食べられないっていうなら、手伝うわよ。はい、アタル、あーん♪」

アタル,「え、いや、食べるのを手伝うってのはそういう意味じゃなくて……あ、あーん……」

セーラ,「まぁ、そんなお手伝いでしたら、私もやります~。はい、アタル様、あ~ん♪」

ひよこ,「そういうつもりで言ったんじゃないのにー。ア、アタルくん、こっちのご飯も美味しいよー?」

アタル,「わ、わかったから! 俺の口はひとつしかないんだから1人ずつでお願いします!」

――と、まぁ。

なんやらかんやらで、頑張って全部食べきった俺のことを誰か褒めてくれてもいいよ?

ひよこ,「アタルくん、どれが一番美味しかったかな?」

どれとは酷な質問をする!

続けざまにいろんなモノを放り込まれて、味覚破壊されまくって、後半は誰のを口に入れたのかわかってねぇよ!

アタル,「え、えーと、ヒヨのはいつもの味だから安心できた」

ひよこ,「えへへー♪」

アタル,「セーラさんのはニッポンとはちょっと違った味付けだったから、新鮮でした」

セーラ,「ありがとうございます~。そう言っていただければ♪」

アタル,「ミルフィのは……おいしかったよ(オチ的な意味で)」

ミルフィ,「それ、絶対褒めてないわよね!?」

アタル,「ソ、ソンナコトナイヨ! オイシカッタヨ!ほら、昼休み終わっちゃう!」

直後、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。

俺は重いお腹を抱えながら、屋上から離脱した。

ミルフィ,「あっ、こら、待ちなさいよ、アタルッ!」

……

…………

極度の胸焼けを抑えながら、午後の授業に挑む羽目となったわけだが。

まぁ、逃げ出したところで、教室じゃ隣の席なわけで。

#textbox Kmi0170,name
ミルフィ,「ぐぬぬぬ」

午後の授業の間、ミルフィの熱視線を感じていたわけだ。

アタル,「ぅっぷ……」

さすがに3段分の弁当は多すぎた。

王様になってから以後、辞書から『空腹』って言葉が消えた気がするんだよな、俺。

しかも、毎日のように、胸焼けしてる気がするんだよな。学習能力ないのかな。バカなのかな。

…………

……

机の上でへばっている内に下校時間を迎えた。

#textbox Kmi0110,name
ミルフィ,「あれ、アタル、今日はドーナツ屋に寄らな――」

アタル,「勘弁」

息をもつかせぬ即答であったといふ。

…………

……

帰ってからも胃もたれっぱなしだった俺は、速やかに寝床に着いた。

胃薬をもらったおかげで、それなりに腹もこなれた。

今、何時だろ?

時計を確認。

深夜も深夜。日が変わる寸前だった。

中途半端な時間に目覚めちゃったなぁ。

キィ……

俺の部屋のドアが開く。

#textbox Kse0410,name
セーラ,「お邪魔いたします~」

そこに見えたシルエット、かすかに聞こえた入室の挨拶。セーラさんに他ならない。

忘れかけた頃の、セーラさんの夜這いである。

鍵はかけていたつもりだったけどな……いや、今更、鍵を壊される程度では驚くには値しないか。

足音を殺し、ゆっくりと近づいてくる。

アタル,「何の御用です、お姫様?」

そんな彼女に声をかける。

#textbox Kse04A0,name
セーラ,「あ、あら……アタル様、起きていらしたのですね~?」

アタル,「ええ、つい今さっき」

#textbox Kse0450,name
セーラ,「ま、まぁ~……えっと、どうしましょう~……」

アタル,「お帰りくださいませ」

#textbox Kse0470,name
セーラ,「あ、あの……アタル様、恥を忍んでお伺いします……」

アタル,「何か?」

#textbox Kse0450,name
セーラ,「アタル様はいつになったら、私を抱いてくださるのですか……?」

アタル,「え……? 前に言ったように、正式に婚約を――」

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「結ばれるはずなんですよ……?」

アタル,「結ばれるはず……? それってどういう意味?」

なんだろう、セーラさんの言葉には微妙な違和感を覚えた。

『はず』――どこか確信めいた言葉だ。

#textbox Kse04A0,name
セーラ,「あ! いえ、その~……な、なんでもないんです~!」

パタパタと潜ませていたはずの足音を鳴らし、セーラさんは逃げ出て行った。

なんだ……?

引っかかりつつも、俺は再び襲いかかってきた睡魔の誘惑にあっさりと屈して、眠りに落ちた。

#textbox Kse03A0,name
セーラ,「アタル様! アタル様ぁ!」

まだ日も昇りきってない早朝、俺はセーラさんの呼び声で飛び起きた。

もう条件反射に近い。

アタル,「セ、セーラさんっ!? 朝っぱらからですか!?」

深夜にセーラさんを追い返してから、数時間。まったくこの人は諦めないな、懲りないな!

#textbox Kse03D0,name
セーラ,「えっ、私としては、アタル様さえ望むのでしたら、朝からでもなんら構わないのですけど……ポッ」

#textbox Kse03A0,name
セーラ,「――はっ、い、いえ、今はそんなことを言ってる場合ではないのです~」

#textbox Kse0330,name
セーラ,「ここにお父様が来てしまいます!」

アタル,「どこに、お父様が来るって……?」

お父様って……セーラさんのお父さん?あのパワフルオヤジ、バルガ王?

アタル,「そんな連絡があったの?誰からもそんな話は聞いてないけど……」

#textbox Kse0380,name
セーラ,「いえ、連絡があったわけではないのですが……お父様が来ることが視えたんです」

アタル,「みえ……? よくわからないけど、それっていつの話になるのかな? 来日されるっていうなら、おもてなしの準備を――」

#textbox Kse0310,name
セーラ,「今すぐです!」

アタル,「へ――」

#textbox kba0210,name
バルガ,「どぅうぅえいりゃあぁあぁっ!」

ガシャパリーン!

アタル,「へぇえぇぇっ!?」

気合の入った声と共に、俺の背後から、部屋のガラスが粉砕される音が聞こえた。

バルガ,「フゥ……さすが王の部屋を守るガラス、なかなかの強度であったな」

アタル,「な、な、なッ……!」

俺の部屋の窓ガラスをぶち破り。

バルガ王、緊急来日!

バルガ,「お目覚めはいかがかな、アタル王」

アタル,「……ええ、クアドラントのお二方のおかげさまで」

最悪であった。起きたばっかだというのに、夢に見そうであった。

…………

……

アタル,「……それでバルガ王、本日はどういったご要件でございましょう?」

正装に着替え、俺は眠い目を擦りつつ、しぶしぶとバルガ王を招き入れた。

朝っぱらからのスーパーインパクトのおかげで、目はすっかり覚めたが、機嫌はあまりよろしくない。

俺の正面にはバルガ王とセーラさんが横並びに座り、その後ろにはボディガードであるアサリさん。

そして、俺の後ろには柴田さん、エリスさんが控えていた。

一国の王同士の会談。

ある程度の人払いはしつつも、腕の立つ護衛は必要であろうとエリスさんが名乗り出てくれたのである。

ちなみに、深夜アニメに没頭していたミルフィ姫様はまだご就寝中。

また、同席を希望したヒヨだったが、彼女には家事を申し付けて、お断りした。

#textbox Kba0210,name
バルガ,「なぁに、ここに来る用件など、ひとつしかない」

バルガ,「アタル王、我が娘との婚姻は考えて頂けましたかな?」

まぁ……その話になるよな。

アタル,「その件に関しては、まだお答えできません。検討中、とだけしか……」

#textbox Kba0270,name
バルガ,「ふむ……」

バルガ王は小さく頷く。

心を落ち着けるべく、柴田さんの入れてくれたコーヒーを口に含む。

うん、ブラックコーヒーの苦味が、起き抜けの身体に心地い――

#textbox Kba0250,name
バルガ,「して、アタル王。我が娘の床具合はいかがであったか?」

アタル,「ぶっふぅうぅぅっ!!?」

俺の口から吹き出た鮮やかな霧が、綺麗な虹を作った。

セーラ,「おっ、お、お父様っ!?」

バルガ,「む? どうかしたか?」

アタル,「げほっ、げほっ! どうかしたかも何も!」

朝っぱらから、自分の娘の床具合がどうだったかとか、実の父親が聞いてくるかな、普通!

エリス,「こ、こほん!」

さすがにバルガ王の言葉には、エリスさんですら面食らったらしい。

バルガ,「セーラはお気に召さなかったですかな?なるほど、でしたら、結婚を決めあぐねているのも……」

アタル,「おっ、お気に召さなかったも何も、俺はまだセーラさんとヤッちゃいません!」

思わず声を荒げてしまう。付け焼刃な外交顔は、あっさりと剥がれてしまうのだ。

エリス,「こ、こほんっ!」

後ろのエリスさんから咳払いが入った。

ヤるだのなんだのという言葉は、王としてふさわしくなかった。うん、反省。

アタル,「し、失礼……えーと、その、まだ、セーラさんとは肉体的な関係はなく……そのー、なんだ……」

バルガ,「なんと! セーラ、お前は何をしておるのだ!」

セーラさんは父親の叱咤にビクッと身体を震わせる。

アタル,「いえ、バルガ王、セーラさんは何も悪くありません。私がセーラさんの申し出を断っているだけで」

バルガ,「我が娘に魅力が足りてないということですかな?」

アタル,「いえ、決して。セーラさんは大変魅力的な女性です」

バルガ,「ならば、断る理由が解せぬな……もしや、アタル王は不能ではあるまいな」

アタル,「この若さでそんなわけないでしょ!?」

セーラ,「そうです! アタル様のおちんちんは大変立派です!」

エリス,「ぶっ!?」

アサリ,「あはー」

柴田,「くっくっく……」

さすがの柴田さんたちも堪えきれずに笑い出した。

アタル,「余計なこと言うなぁッッ!?」

バルガ,「――ならば理由を説明願いたい。我が娘の何が不満か?親の贔屓目でなくとも、我が娘は大変美しく思う」

バルガ,「イスリアの娘と比べても、その差は歴然だと思うが?」

チラ、と、バルガ王はエリスさんの方に視線を送る。

エリス,「貴様、ミルフィ様を愚弄するか!?」

柴田,「エリス様、お静かに」

アタル,「女性のどこに魅力を感じるかは、人それぞれです」

アタル,「ミルフィ姫、セーラ姫、それぞれ魅力に溢れている。私なんかには勿体無い素晴らしい女性です」

アタル,「それ故に、安易な気持ちで穢してしまいたくはない……といえば、ご納得いただけますでしょうか?」

バルガ,「ふむ……ニッポンとクアドラントの民族性の違い……というべきか」

バルガ,「我がクアドラント国民ならば、魅力溢れる人間には手当たり次第、印を残したくなるものであるがな」

それはあんたの下半身が節操なしなんじゃないか?と、思いもしたが、胸に秘めるとして。

バルガ,「何はともあれ、まだ誰をアタル王の后に娶るか、決めることはできない……ということだな?」

アタル,「ええ」

バルガ,「そうか……よい返事を期待している」

バルガ王は右手を差し出してくる。

友好の握手を求めるのならば、それを拒む理由もない。

俺は同じように、右手を差し出し、バルガ王の隆々とした手を握り返す。

アタル,「ぐっ……!?」

握手を返すと同時、その手を強く、過剰すぎるほどの力で握られた。

アタル,「バルガ王、ちょっと力が……痛……!」

力の加減がわかっていないだけなのかと思った。

バルガ,「いかがなされたかな、アタル王」

違う。口元に浮かんだ笑みは、自分の手がどれほどの圧力を与えているか把握している。

向こうにしちゃ、さほど力を込めているわけではないのだろうが、俺の指の骨が軋み、悲鳴をあげるほどだ。

アタル,「ぅぎ、ぎぎ……どういうつもりですか、バルガ王」

エリス,「……どうしました、アタル王」

異変にいち早く、気づいたのはエリスさんだ。

いや、気づいていても、気づいた素振りをしていない人は他にもいたかもしれない。

セーラ,「お父様、何を!?」

バルガ,「我を納得させられる理由を提示できぬというのならば……多少、強引な手段に訴えることも視野に入れるべきかと……そう思いましてな」

アタル,「ち、力ずくでどうにかなると思ったら、大間違いだぞ」

握り返すものの、俺の年齢に対して、実に平均男子レベルの握力ではどうにもならない。

リンゴなんて指先だけで潰せると思えるバルガ王の手。彼の手の内で、俺の手はダメージを受け続けている。

柴田,「バルガ王、それ以上アタル王に危害を加えようというのならば、ニッポンを敵に回すことになるがよろしいか?」

バルガ,「ニッポンにケンカを売るつもりはない。我の極めて個人的なケンカだよ」

バルガ,「我はこう見えて親バカでね。かわいい愛娘が蔑ろにされていては、怒りも湧こうというものだ」

アタル,「ぐ、ぎぎ……!」

握り返し、抵抗しようとするものの、その絶大な握力に抗えるはずもない。

握り潰されないようにするので、まさに手一杯だ。

柴田,「一国の王に危害を加えておいて、そんな詭弁が通用するとお思いか?」

バルガ,「通用せぬのなら、ニッポンと一戦を交えるまでよ。このバルガ、愛娘のために戦争を巻き起こすことすら厭わぬ」

セーラ,「お父様、何を!? やめて……もう、やめてください」

セーラさんは俺の手を握るバルガ王の手に、自分の手を重ね、剥がそうとする。

だが、セーラさんの細腕で揺らぐバルガ王ではない。

アタル,「なんつー無茶を……! 娘のことで、全然関係ない人たちも巻き込むつもりかよ……!」

自分の国の兵士を、そして、ニッポンの国民を。

バルガ,「無関係の国民を巻き込みたくないのならば、難しい話ではない。ただ一言『セーラと結婚する』といえばいいだけではないか」

セーラ,「えっ……!」

アタル,「だから、それは……!」

バルガ,「この場限りの口約束でも、虚言でも構わん。とりあえずこの場だけ、我を退かせれば、後はどうとでもなろう。機転の利かぬ男よな」

アタル,「待てよ……セーラさんの見てる前で、それを言えっていうのかよ……」

アタル,「バカ言うんじゃねぇぞ……そんなこと、死んでも言えるわけねぇだろ……!」

セーラ,「ア、アタル様……アタル様はそんなに私のことがお嫌いなのですが……!?」

アタル,「ごめん、セーラさんのことが好きなのか、嫌いなのかもまだわからないよ。あやふやなままなんだ」

アタル,「だから――俺の気持ちが固まってないのに……ぬか喜びさせることなんてできないんだ……!」

アタル,「こんな馬鹿な俺を好きだって言ってくれてる子を、嘘ついて落ち込ませたり、悲しませたり、泣かせたり……」

アタル,「そんなことはしたくねぇんだよッ!」

セーラ,「アタル様……!」

バルガ,「ほう?」

アタル,「――嘘でもいいからとか、よくそんなことが言えるな!あんた、本当にセーラさんのこと……娘のこと、愛してんのかよ!」

本能が命じた。ためらいはなかった。

無意識の内に、ふりかぶった俺の左腕が、バルガ王の胸板を殴りつけていた。

ゴン! と、鉄板を殴ったような、硬い感触が手に伝う。

バルガ,「なかなか吼えられるではないか」

バルガ王には避ける意志がなかった。空いている手で受け止められすらしなかった。

俺の拳如き、避けるまでもないってことか。

アタル,「……いってぇ……ッ!」

鉄板をおもいっきり殴ったのであれば、自分の手がどうなるのかは察していただきたい。

握られた右手に引き続き、殴りつけた左手までも。俺の両手はボロボロだ。

バルガ,「ふむ……」

俺の両手はいい加減傷めつけ飽きたのか、バルガ王の手が解かれる。

アタル,「いたたた……」

セーラ,「アタル様、大丈夫ですか!?お父様! アタル様に謝ってください!」

セーラさんの手が、俺の手を優しく包んでくれる。

バルガ,「申し訳ない、アタル王。つい力が入ってしまいましてな」

柴田,「バルガ王、その程度の言葉で許されるとお思いか。我が国と一戦交える覚悟での行動であると――」

アタル,「――それ以上はいい、柴田さん」

柴田,「アタル王」

アタル,「はっきりしない俺への罰だと思って、受け止める。こんなことで無関係な国民を巻き込みたくはない」

アタル,「――だけど、改めて言わせてください、バルガ王」

アタル,「俺がこの場で頷くだけならば簡単です。嘘をつくことだって、できなくはありません」

アタル,「ですが、自分の娘の本当の幸せを望むのならば、このような力任せである必要はないでしょう」

セーラ,「お帰りください、お父様!」

セーラさんは力強く、父を拒絶する。

バルガ,「セーラ……こやつと結婚したいのではなかったのか?」

セーラ,「無理強いして契る結婚に価値はありません。私がアタル様からいただきたいのは真実の愛です」

セーラ,「アタル様がその気になっていただけるその時まで、私はいつまでも待ちます」

バルガ,「仮に、その真実の愛が、お前に向けられることがなくともか?」

セーラ,「……はい。人の心は、力で左右していいものではありません。それがアタル様の選択であれば、私はそれに従うまでです」

バルガ,「ふむ……わかった。愛娘がそこまで言うのならば、今回は帰らせてもらおうか」

立ち上がり、バルガ王は窓へと向かう。

アタル,「バルガ王? そちらは――」

バルガ,「アタル王。次に会う時は答えを待っている!」

ガシャーン!

バルガ王はガラス窓を突き破り、帰っていった。

アタル,「なんで、普通に出入口から出たり入ったりが出来ないんだ、あの人は……!」

なにはともあれ、嵐は去った。

つーか。

アタル,「バルガ王はこれだけのために来日したのか……!?」

セーラ,「ええ、これだけだと思います」

……もしかして、暇なんだろうか、クアドラント国王。

いや、愛娘であるセーラさんを愛しているが故なのかもしれないけれど。

彼のやり方は、決して正しいとは思えないのだ。

…………

……

#textbox Kse0350,name
セーラ,「お父様が……申し訳ありませんでした……」

俺は負傷した手を、自分の部屋でセーラさんに手当をしてもらっていた。

アタル,「セーラさんが謝ることじゃないよ。気にしないで」

#textbox Kse03D0,name
セーラ,「いつもはいいお父様なのですけど、融通が効かなくて、なんでも力任せになってしまわれるんです……」

クリーム色の軟膏を手にすり込まれる。

ぬるぬるとしたその感触は、なかなか気持ちいい。

万能執事・柴田さんの診断によれば、骨には異常なし。関節が多少痛むだろうけど、一時的なもの、とのこと。

柴田,「包帯を巻いて固定し、湿布を。一日安静にしていれば、明日には治っていることでしょう」

アサリ,「あー、アサリ、いいお薬を持ってますよー。これがあれば、関節の痛みなんて、すぐに吹っ飛びますよー」

というわけで、今塗られてる軟膏は、アサリさんからもらった得体の知れないブツである。

熱を持っていた指先が、すごくスースーする。いかにも効いてる! という感じがする。

#textbox Kse03A0,name
セーラ,「あとは、包帯を巻いて……ですね~。はい、アタル様、おとなしくしててくださいね~」

アタル,「はい……あまりキツくしないでくださいね」

#textbox Kse0390,name
セーラ,「はい、優しくします♪」

と、俺の部屋で、セーラさんとふたりきりでおこなわれている手当だが。

ひよこ,「あ、アタルくんのお世話なら、お付きメイドさんの私に任せてっ」

ミルフィ,「ぴよぴよ、セーラをかばっての負傷なんだから、ここはセーラに譲ってあげなさい」

ひよこ,「う、確かにそうだね……セーラさんにお任せします」

#textbox Kse0320,name
セーラ,「はい、確かに任されました」

姫様+1に気を回されたりした。

#textbox Kse0310,name
セーラ,「くるくるくる~……ちょきん♪はい、こんな感じでいかがですか、アタル様」

アタル,「ん……ああ、あまりキツくなくていい感じ。こんな感じで左手もお願いします」

#textbox Kse0390,name
セーラ,「は~い。くるくるくる~……」

俺の指が先端から徐々に白い包帯に包まれてゆく。

が、半分を過ぎた辺りで、ピタリと止まった。

#textbox Kse0380,name
セーラ,「…………」

アタル,「どうしました? 手が止まってますけど」

#textbox Kse0350,name
セーラ,「いえ……アタル様にこんな怪我をさせてしまったことは大変申し訳無く思ってまして……」

アタル,「いや、だから、セーラさんが気に病むことはないって」

#textbox Kse0310,name
セーラ,「――申し訳なく思う以上に、アタル様が私たちのことを真剣に考えてくださっているのが、とても嬉しかったんです」

アタル,「え……あ、そう……?」

#textbox Kse0390,name
セーラ,「はい、真剣に考えてくださってなければ、あんなことは言えませんよ。とても素敵でした」

アタル,「そりゃどうも……」

熱くなってしまったせいで、一国の王が、他国の王に対して、あるまじき発言をしてしまった気がする。

……勢いでなんて言っちゃったんだっけ?ちょっと気恥ずかしいんですけども。

#textbox Kse03D0,name
セーラ,「ありがとうございます、アタル様。今日の一件で、私はもっとアタル様のことを好きになってしまいました」

よく覚えてはいないが、セーラさんの好感度が上がってしまうようなセリフだったらしい。

#textbox Kse0390,name
セーラ,「その寵愛を私だけに向けていただけるよう、もっともっと頑張りますね……はい、終わりました~」

チョキンと包帯の端を切って結んで固定して、手当完了。

アタル,「はは、手袋してるみたい」

ぐっ、ぐっ、と、指に力を入れ、動かしてみる。

親指以外の4本が固定されている。手の先だけが動くだけで、細かな動きはできそうにない。

セーラさんの包帯巻き技術は確かなようで、多少動かした程度では緩むようなこともなかった。

#textbox Kse03B0,name
セーラ,「あんまり動かしてはダメですよ~?すぐ治るものも治らなくなってしまいます~」

アタル,「はーい……今日一日、ゲームや読書は禁止かな」

幸いにも今日は休日。ゆっくり寝てればいいか。

#textbox Kse0320,name
セーラ,「では、今日一日、私がアタル様の手になります~」

アタル,「……え?」

#textbox Kse0310,name
セーラ,「このようになってしまったのも、全てお父様のせいですから……アタル様、何か不便なことがありましたら、なんでも私にお申し付け下さいませ♪」

アタル,「……なんでも?」

#textbox Kse0390,name
セーラ,「ええ、なんでもです~。シモのお世話もお任せ下さいませ……♪」

アタル,「い、いや、それは自分で何とかするから!ズボン脱ぐくらいならできるから!」

#textbox Kse0350,name
セーラ,「まぁ、そうですか~? ……残念です」

……残念なのかよ……。

……

…………

ってなわけで……。

…………

……

#textbox Kse0390,name
セーラ,「はい、アタル様、あーん♪」

アタル,「あ、あーん……」

バルガ王撤退後、ようやく訪れたブランチタイム。

ひよこ,「…………むぅ」

ミルフィ,「…………むぅぅ」

#textbox Kse0390,name
セーラさんは俺の横につき、まるで親鳥のように俺に食事を与えていた。

本日のブランチは、ヒヨのお手製の和食メニュー。

この手では箸は使えないから、やむを得ずセーラさんに頼ることになったわけだが。

ひよこ,「じぃぃぃ……」

ミルフィ,「じぃぃぃぃぃ……」

女性陣からの視線が痛い……痛々しい……。

アサリ,「あはー、セーラさんとアタルさん、ラブラブですねー♪」

セーラ,「まぁ♪ そんなつもりじゃないんですよ。私のせいで怪我してしまったのですから、私がお世話をしませんと……はい、アタル様、あ~ん♪」

アタル,「あ、あーん……あの、そこのふたり、あんまり見ないでくれるかな……?」

ひよこ,「別にいいんじゃないかなっ? アタルくん、セーラさんみたいな綺麗な人にあーんしてもらって、嬉しそうだなー。楽しそうだなー」

アタル,「そ、そんなことは別に……ないぞ?」

ひたすら気恥ずかしい中に、ほんの少しだけ、楽しんでいる自分がいるのは確かに否定できない。

ひよこ,「ふーんだっ」

ぷいっと顔を背ける。

ヒヨはいったい何を拗ねてやがるんだ。バルガ王が来た時、除け者にされてたのを怒ってるのか?

ミルフィ,「ふん……だらしないわよ、アタル。その下がった目尻を釣り上げる努力くらいしなさい」

また、バルガ王が来た時、爆睡していたミルフィもまた不機嫌風味。

アタル,「別に目尻なんて……!」

……下がっているかもしれないなぁ。

#textbox Kse0310,name
セーラ,「アタル様、どれか食べたい物はありますか~?遠慮なく、お申し付け下さいませ~」

アタル,「え、えーと……それじゃ、里芋の煮っ転がし……」

ヒヨの作った里芋の煮っ転がしを指名。

#textbox Kse0350,name
セーラ,「はーい、これですね。わ、箸だとつるつる滑って、掴みにくいです~」

ミルフィ,「セーラ、無理して箸を使わなくてもいいんじゃないの?スプーンとかフォークだってあるのよ?」

セーラ,「いえいえ、やはりここはニッポンですから~。その国の文化を尊ばなければなりません」

セーラ,「は、早くしないと、滑って、落ちてしまいそう……はい、アタル様、あ~……きゃっ!」

つるんとセーラさんの箸から滑り落ちた里芋は、俺の口には入らずに。

ぽよんっ。

セーラさんの服の隙間から、見事に胸の谷間へと軟着陸したのであった。

セーラ,「ひゃんっ、ぬるぬるしてます~」

ひよこ,「うわぁ……すごい……」

ミルフィ,「ぐっ……何よ、あのグランドキャニオンは……!」

セーラ,「あの、アタル様……私の胸に落ちてしまいましたけど……召し上がられます~? こういうのって、ニッポンですと、ニョタイモリというんですよね~?」

アタル,「食べませんっ! 食べないけど、食べ物は粗末にしないでくださいっ!」

セーラ,「別に遊んでいたわけではないんですよ? これは不慮の事故なんです~。はい、アタル様~?」

胸を寄せて上げて薦めてくるが、人前で食べられるわけがないだろ! い、いや、人前じゃなくても、そんなの食べられるわけないじゃないですか? ですよ!?

ひよこ,「セ、セーラさんだけに任せておくわけにもいかないかなっ! ほら、私、アタルくんのメイドさんだからっ」

ひよこ,「はい、アタルくん、お芋だよ。あ、あーんして?」

アタル,「ヒヨまで何、対抗してんだ!?」

ひよこ,「だって、セーラさんばっかりずるいもんっ!私だってアタルくんにあーんってしたいんだもんっ!」

そんなことで癇癪を起こされても、なぁ。

ひよこ,「はい、お芋、お芋だよ!」

ここまで目の前に突きつけられては、食べないわけにも行くまい。

アタル,「じゃあ……あ、あーん……」

ぱく。

ひよこ,「今日のお芋は格別美味しくできたと思うんだけど、どうかなっ? どうかなっ!?」

アタル,「あー、うん、うまい、うまいよ」

口の中で、とろり、ほっくり。ダシもしっかりしみてて美味しいんだけど。ね?

ミルフィ,「……なんか、すごい疎外感なんだけど……アタル、まさかあたしの『あーん』は受けられないなんて言わないでしょうねー?」

アタル,「げっ!? わ、わかった、受ける! 受けるけど、ちょっと待って! そんなアッツアツの餡かけを、冷ましもしないで近づけてくるなっ! アッツ! 超あっちぃ!」

ミルフィ,「この熱があたしの愛の温度だと思って、食べるのっ! 食べなさいよっ!」

アタル,「無茶いうなー! 手どころか舌まで使い物にならなくなるだろうがーッ!」

ミルフィ,「手と舌を使うつもりだったの……!アタルってば変態なんだからっ!」

アタル,「ちょっと待って!?いやらしいことを言ったつもりはねぇですよ!?」

ひよこ,「ダメっ、ダメだよ、アタルくんっ!私たち、エッチなことはまだ早いんだからぁっ!」

アタル,「へろでっ!?」

今なんでチョップされたの!?ちょっと理不尽じゃない!?

セーラ,「あれ~……お芋さん、どこ行っちゃっ……ひゃんっ! や、ぬるぬるしたのが、こんなとこ……くすぐったいです~っ! アタル様、口で取っていただけませんか~?」

エリス,「……なんだ、このカオスは」

アサリ,「賑やかで楽しいお食事タイムですねー♪ もぐもぐ」

アタル,「そこの付き人たち! 自分の主を止めろーッ!」

…………

……

ぷぇぇぇぇ……。

……自分の体を使っていたわけではないのに、疲れるお食事会だった。

バルガ王のせいで早起きを強いられ、昼飯も食べ終えて、ほどよく眠くなった今は、ちょうどいいお昼寝タイムだ。

ベッドに横になろうとしたところで、部屋のドアをノックする音。

アタル,「どーぞ?」

#textbox Kse0380,name
セーラ,「失礼します……アタル様、眠そうですね~?」

アタル,「ええ、朝早かったんで、ちょうど今から昼寝しようかと思ってまして」

#textbox Kse0390,name
セーラ,「お昼寝……いいですね~。私も眠くなってきたところですし、一緒に寝ましょうか~?」

アタル,「いりません! 大丈夫です! おひとりでどうぞ!」

#textbox Kse03B0,name
セーラ,「そうですか~? 今でしたら、膝枕のサービスもつけちゃいますけど~……」

膝枕……? 膝枕……だと……!

セーラさんのあのお胸を見上げての膝枕。

それはなんと魅力的な提案だろう。

だが、だが、しかし。

アタル,「いり、ません……ッ!ひとりで寝れます、から……ッ!」

バルガ王の前で偉そうな啖呵を切ってしまった手前、揺らぎかけた心を必死に食い止めて。

俺はセーラさんを追い返し、俺はベッドに横になった。

アタル,「はぁ~……」

惜しい思いを感じながらも、息を長く吐き出すのとともに、意識はすぐに落ちた。

……

…………

エリス,「ふむ……」

アサリ,「おやー、神妙な顔つきで悩まれているようですが、どうかされましたか、エリスさんー」

エリス,「アサリか……いや、別に何でもない」

アサリ,「その顔で何でもないはないでしょー。いろいろ考えているのがありありですよー」

エリス,「では、聞こうか。バルガ王は腕は立つのか?」

アサリ,「そーですねー、毎日1000回の腕立て伏せをかかさないって言ってましたよー」

エリス,「……腕が立つとはそう意味では……いや、それだけできる人間ならば、腕が立つというべきか」

アサリ,「その甲斐あってか、今では戦車の砲弾をも素手で跳ね返せるそうですー」

エリス,「……なるほど。人外級であることは把握した」

エリス,「あのバルガ王は、あのアタル王を傷めつけた。そして、アタル王の攻撃を喰らってみせた」

アサリ,「? それがどうかしましたかー?」

エリス,「自分が幾度発砲しても当てることができなかった相手にダメージを与えた。百発百中のスナイパーの狙撃すら、かわしてみせた」

アサリ,「うーん、アタルさんは近接戦に弱い……いえ、そんなことないですねー。アタルさんは、アサリの鎌も避けたことあるぐらいですからー」

アサリ,「ズブの素人に避けられたー、って、アサリなりにアレは衝撃だったんですよー。ショッキング事件簿でしたよー」

エリス,「そう、近接だけではない。そこで自分はひとつの仮説を立てた」

エリス,「アタル王の『当たらない』という力は、自分自身から踏み込んだ場合には発揮できない」

アサリ,「王様と握手した時ですかー。王様の差し出した手にまんまと自分から握りましたからねー、なるほどー」

エリス,「そして、アタル王の拳がバルガ王に命中した。アタル王の『当たらない』という力も、相手に避けるという意志がなければ命中する」

アサリ,「確かに、バルガ王様は避けようという意志がなかったみたいですしねー。なるほどー、なかなか面白いですー」

エリス,「すなわち、アタル王に当てるためには、互いの意志が大きく関係している――」

エリス,「姫様たちが放っている恋の矢が、まるで『当たらない』のも、アタル王自身に『当たろう』という意志がないためではないかと思うのだ」

アサリ,「あはー」

エリス,「ん……? なんだ、その笑みは」

アサリ,「あははー、恋の矢ですかー。エリスさんは意外と乙女チックな言い回しをするんですねー」

エリス,「う……! い、今のは、ただの喩えで!」

アサリ,「ですけどー、エリスさんの喩えを借りれば、恋の矢は互いの射ち合いではないですかねー」

アサリ,「当てようと思わないと当たらないものですしー。当たろうとしていないと当たらないものではないでしょうかー」

エリス,「そうか……ごく普通なのか……?」

アサリ,「でも、気になるんですがー、ひよこさんのチョップは、アタルさんにちゃんと当たってるんですよねー」

エリス,「……言われてみると、そうだな。不可思議だ」

アサリ,「ホント不思議ですよねー」

…………

……

夕飯は『あーん』の必要がないよう、今の手でもスプーンを使って食べられるカレーライスだった。

包帯の隙間と隙間に、スプーンを挿し込んで固定。

アサリ,「わー、ひよこさんのカレー、美味しいですねー」

ミルフィ,「そうね、辛すぎないし、食べやすいわ」

エリス,「軍用レーションのカレーとはまったくの別物だな」

セーラ,「これがニッポンのカレーなんですね~」

アタル,「ニッポンっていうか、ヒヨのカレーだよな。カレーって、同じような材料使ってるのに、不思議とどの家庭でも味が違うんだよなー」

ヒヨ特製カレーは、本格! インド! ガラムマサラ! といったものではなく、安心できる家庭の味だ。

市販のカレールーに、豚肉、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ。他に入る具はその都度違うけど、今日はブロッコリーとコーン。

幼い頃からカレーを作りすぎたヒヨが、おすそ分けと持ってくるのを、月に1回くらいのペースでいただいている。

正直、母親が作るカレーよりも、ヒヨのカレーの方が俺の舌に合うくらいだった。

特に昼飯は食った気がしなかったから、食が進む。

アタル,「おかわり、もらえる?」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「はーい♪ たっぷり食べてねっ」

アタル,「いやいや、だからって、こんなに盛られましても!マシマシを頼んだつもりはないんですけど!」

カレー皿の上にてんこ盛り。Mt.カレー。

俺は大食いチャンピオンじゃない。これを食べきったら、賞品でも出るのか。

アサリ,「アサリもおかわりですよー。アタルさんと同じくらいお願いしますよー」

アサリさんの細い身体の一体どこに、それだけの体積が収納されるのかが相変わらず謎だった。

その謎が判明されることは……多分、ないだろう。

……

…………

めいっぱいカレーの詰め込まれた腹を抱え、風呂に入る。

必要以上に手を使わず、また、ひと眠りしたおかげで、手の具合はかなり回復した。

自ら服を脱ぐくらいはできる。

包帯を巻いたままの手は、上からゴム手袋でコーティング。

ただし、指は使えないので、全身を念入りにっていうのは無理か。

今日は軽く身体を流す程度にして、ゆっくり湯船に浸かればいいかな。

お湯で身体と頭を流し、いざ浴槽へ――

#textbox Kse0510,name
セーラ,「アタル様~?」

間延びした声とともに風呂場入口が開き、セーラさんが顔を覗かせた。

格好は既にバスタオル。中に入ってくる気満々だ。

アタル,「どぅあ!? セ、セーラさん、なんですっ!?」

#textbox Kse0520,name
セーラ,「手が不自由でしょうから、三助をと思いまして。お背中、お流ししましょうか~?」

三助――昔の銭湯にいたという、身体を流してくれる人のことだ。セーラさん、よくそんな職業知ってるな。

しかし、セーラさんがやったら、それは三助じゃねぇ。どう考えても、オトナのお風呂屋さんだ。

アタル,「いや、その、やめ、やめましょう」

セーラさんの半裸体だけで、既に俺の股間はヒートアップ気味だった。

#textbox Kse05B0,name
セーラ,「遠慮なさらないでいいんですよ~? 王たるもの、いつも身体を綺麗にしてないと威厳が保てませんでしょう?」

アタル,「そ、そうかな?」

#textbox Kse0580,name
セーラ,「第一、怪我をさせてしまったのは私のせいなのですし……責任を取らせてくださいませ」

じりじりと交代する俺、ずんずんと近寄ってくるセーラさん。一言一言ごとに、俺との距離は詰まる。

生半可な説得じゃ退いてくれそうもなかった。

ま、身体を洗うだけ。洗うだけなんだから。ここはオトナのお風呂屋さんじゃないんだから。

アタル,「わ、わかりました。それじゃ、お願いしようかな」

自分自身をそう納得させて、俺は覚悟を決めて、セーラさんに告げた。

#textbox Kse0590,name
セーラ,「はいっ、お任せくださいませ」

アタル,「でも、背中だけ。背中だけでいいですからね?」

#textbox Kse05D0,name
セーラ,「…………」

#textbox Kse0590,name
セーラ,「はいっ♪」

アタル,「……今の間は何です!?」

嫌な予感しかしなかった。

俺の後ろにセーラさんが腰掛けて。

セーラ,「それでは、お背中、お流しいたします~」

ザバッと背中にお湯がかけられた。

本来自分でやるべきことを他人にしてもらうというのは気持ちがいい。

床屋で髪を切ってもらったり、洗ってもらうのは、自分でやったんじゃ味わえない快感だ。

セーラさんの手が握るウォッシュタオルが肌に当てられる。

自分とは違う力加減は新鮮だ。

こし、こし。

くすぐったい。

セーラ,「このくらいの強さでよろしいですか?」

アタル,「ん……くすぐったいくらい……もう少し強くていいよ」

セーラ,「もう少し……ですか~。では、このくらいで?」

ごし、ごし。

アタル,「あ、うん、そのくらいでいいかな。気持ちいいよ」

それでも、自分が洗うよりも全然弱い力加減だけれど。

セーラ,「ふふっ、それならこのくらいで……」

背中が満遍なく、セーラさんの手で洗われてゆく。

後ろには全裸にバスタオル1枚のセーラさんがいるんだよな。

なんで、俺、こんなこと許可しちゃったんだか。

まったく、我ながらよく堪えてるよ。自分の自制心を褒めてあげたい。

一通り背中は洗い終わっただろう。

アタル,「セーラさん、ありがとうございます。背中はもう終わりましたから――」

セーラ,「いえ、まだです~。まだ垢は落ちきっていないと思いますよ~……」

アタル,「え――」

セーラさんの声が艶を帯びたように感じたのと、背後でパサリと何かが落ちた音を聞いたのは同時。

むにっ。

セーラ,「きっとこの方が、もっと垢が落ちると思いまして……」

背中に押し当てられた、やっ、柔らかな感触はぁっ!?

アタル,「あああああのあの! セーラさんっ!?バスタオル、巻いてますよね!?」

セーラ,「タオルは邪魔なので、取ってしまいました……」

アタル,「はぁっ!? い、いえ、ちょ、ちょっと!」

セーラ,「お風呂に入る時、バスタオルなんてつけないですよね~?邪魔に……なってしまいますものね……?」

アタル,「い、いや、ま、そうなんですけども……ッ!」

セーラ,「邪魔なモノがない方が、アタル様をより近くに感じられますから……」

背中に満遍なく塗られていたボディソープが、セーラさんの胸によって、さらに塗り広げられる。

な、なんだ、この柔らかな物体はぁッ!

セーラさんに寝込みを襲われ、足や腹部に胸の柔らかさを感じたことはあったけれど。

ボディソープのおかげで、摩擦係数が下がっているのもあり、柔らかさと滑らかさが同時に伝わってきて、どう表現すればいいのかもうわからない。

プリン? マシュマロ? そんな食べ物など柔らかさを遥かに超越した何かだ。

セーラ,「どうですか……ん……気持ち、イイですか?」

耳元で囁かれるセーラさんの甘い声。

石鹸の香りと入り混じったセーラさんの甘い香り。

アタル,「き、気持ちイイです、けどっ……」

ま、まただ。セーラさんの香りで、理性が溶かされそうになる……!

セーラ,「ふぅ……私もアタル様の身体に触れているだけで、気持よくなってしまいます……」

背中でセーラさんの胸が上下する。

当たっている柔らかな胸とは別の硬い感触は、セーラさんの胸の頂点にある突起。

その突起が、俺の背中で擦れる度、硬さを増していくのがわかった。

セーラ,「はぁ……あぁ……アタル、様っ……どう、ですか……?」

セーラさんの腕が俺の首に回される。

胸を俺の肩甲骨の辺りに押し付け、身体を上下に揺らし擦りつける。

セーラさんの熱い吐息が、俺の耳やうなじに吹きかかる。

アタル,「気持ちいいけど、セ、セーラさん、これ以上は……!」

セーラさんの熱い吐息に、隠していた股間が隠しきれないサイズに膨張し始めた。

膨れ上がった股間は刺激を与えてくれとおねだりを始める。

待て! 待て! 1人になったら可愛がってやるから、今だけは我慢するんだ!

セーラ,「ん、はぁっ……我慢しなくて、いいんですよ……?」

アタル,「んぇっ!?」

心を見透かされたような言葉に、俺の心臓が飛び跳ねる。

セーラ,「猛ってしまったのでしたら、私が責任を取りますから……アタル様は男の人ですものね……」

セーラ,「常々、あんな可愛らしい女性に囲まれているのに、我慢なされているアタル様は本当に我慢強いですのね……」

アタル,「我慢なんてしてません! ニッポンじゃ普通ですよ!」

セーラ,「そうなのですか……? クアドラントとの違いなのでしょうか……?」

そもそも、これは今、あなたに密着されているから起きてしまった生理現象なのですがっ!

セーラ,「アタル様の情欲……鎮めて差し上げます……皆さんにはナイショ……ですよ?」

後ろから回されてきたセーラさんの細指が、俺の股間の肉茎に触れる。

アタル,「や、やめっ……!」

心は抵抗しようとしたものの、体はその抵抗を拒む。

セーラさんの与えてくれる心地良さに委ねられたい、と、体の意志が全てを凌駕した。

セーラ,「まぁ……アタル様のココ……前よりもずっと大きくなってませんか~……?」

セーラ,「前は衣服の上からでしたし、暗かったからよくわからなかったですけど……」

アタル,「実際に触られたら……誰だってこうなります……!」

セーラ,「アタル様のってこんなに凄いのですね……はぁ……これがホンモノの男性器……なんですね……」

セーラ,「こんなにも逞しくて……熱くて……ずっと触っていたら、火傷してしまいそう……」

生で見られた。生で触られた。

羞恥と共に込み上げてくるのは快感であり、それに付随する射精感だ。

セーラ,「でも、すっごく可愛いです~……愛してあげたくなってしまいます……」

アタル,「ぅあ……ッ!」

泡にまみれたセーラさんの指が柔らかく前後する。

その甘い刺激は、俺の股間を根元から先端までを伝う。

体は更に密着する。俺の股間を覗き込んでくるセーラさんのおっぱいが肩に乗り、首を挟み込んでくる。

おっぱいに挟まれて窒息とか、それはちょっと嬉しい死に方かもしれない。

セーラ,「あら、アタル様……先っちょからぬるぬるしたお汁が出てきましたよ~」

アタル,「そりゃ、そうです、よ……!」

乳を押し当てられ、手コキされてりゃ、そりゃ無意識に先走り汁だって出るってものだ。

先走り汁と石鹸が入り混じり、セーラさんの指の動きは更に加速する。

アタル,「っく……! セ、セーラ、さんっ……!」

セーラ,「もっと擦ったら、もっと出てきちゃいますか……?」

アタル,「はい……って、ダメ、ダメですっ……!」

口ではなんとか拒もうとするものの、意識が全て股間の快感に持っていかれる。

頭を支配するのは、快感の一心。射精の二文字。

このまま、セーラさんの指で達してしまいたい。

遠慮なくこのままセーラさんの手の中に情欲の全てを解き放ってしまえたら、どれだけ気持ちいいだろう。どれだけ楽だろう。

セーラ,「アタル様のおちんちん、ぴくぴくしてます……血液が流れて、もっと固くなるのを感じますよ……ここも愛しいアタル様の一部なんですよね……」

アタル,「ま、待っ……セーラさん、これ以上されたら、出ちゃ……! 出ちゃうってば……!」

セーラ,「垢以外のモノも出してくださって構いませんよ……『それ』を私に出してくださっても構いませんし……」

アタル,「いや、ホント、ちょ、待っ……」

初めての自分以外の人間に与えられる性的な刺激は、あまりにも敏感で、鮮烈だった。

アタル,「――ッぁ!」

ぞわっと下腹部をこみ上げてきた衝動は、もう止めることができない。

セーラ,「あら……? 何かが昇ってきて……きゃっ!?」

尿道口を乱暴にこじ開け、噴き出したのは、尿ではない白濁した濃厚な液体。

アタル,「ッくぁ……ッ! は、はぁっ……はっ……!」

セーラさんの手が往復する度、ソープの泡と入り混じった白濁液がボトボトと滴り、大理石のタイルを浸す。

初めての、自分以外の手で導かれた絶頂。

アタル,「セ、セーラ、さん……出ちゃったじゃ、ないですか……ッ」

セーラ,「うふふっ……アタル様、可愛いっ……!」

ぎゅっと背後から強く抱きしめられ、また胸が強く押し当てられる。

セーラ,「アタル様ぁ……私、アタル様が欲しくなってしまいました……今、ここで愛して……いただけますか……?」

石鹸と精液の入り混じった匂いと、湯気と吐息と火照った体の熱が俺の意識をグズグズに溶かす。

――このまましちゃっても、いいか――

だが、そんな虚ろな意識を。

ミルフィ,「セーラァアァアアァァっ!」

たったひとつの一喝が吹き飛ばした。

ドパァンッ!と勢いよく開かれた風呂場のドア。

そこにいたのは鬼のような形相をしたミルフィだった。

セーラ,「あ、あら~……ミルフィさん、ごきげんよう~……」

ミルフィ,「ごきげんようじゃないわよっ! 全裸でアタルを襲うとか、抜け駆けにも程があるでしょおっ!?」

セーラ,「いえ、これはその……手が不自由なアタル様のお背中を流そうとしていたのですが……つい私とアタル様がそういった雰囲気になってしまっただけで……♪」

まさにオトナのお風呂屋さんのような言い訳だった。

ミルフィ,「アタルもアタルっ! ハッキリしてない癖に、流されてんじゃないのッ!」

ミルフィ,「まさか2人で、ヤッちゃったりしてないわよね……!」

アタル,「し、してないっ! してるわけないだろっ!」

本番までは! 出すモノは出しちゃいましたけど!

セーラ,「そ、そうですよ~。ちょっと生まれたままの姿で、肌を触れ合わせただけで……♪」

ミルフィ,「いいから、とっとと出なさいよぉっ!」

セーラ,「は、はぁいっ」

顔を真っ赤にしたミルフィの絶叫に気圧されて、セーラさんは泡も流しきらないままに、外へと出て行った。

射精してしまった痕跡は、泡と共に流してしまい。

ただのスキンシップということで、この場はなんとか逃れることができたらしかった。

――が。

…………

……

股間の辺りにわだかまる感触と気だるさ。

女性に導かれての、初めての射精。

どうしてくれんだ、あんな快感を覚えちゃったら、もう自分で処理なんてできなくなっちゃうだろうが。

一度めいっぱい吐き出したにも関わらず、俺の股間はセーラさんの胸や手の感触を思い出し、いきり立ってしまう。

アタル,「……はぁ……」

空しいけど、もう一度、自分で……。

コン コン

アタル,「はいっ!?」

せがれいじりに励もうとしていた俺は、ノックの音で我に返る。

#textbox kse0410,name
セーラ,「あの……セーラです……」

今、想像していたセーラさんの声が聞こえてきて、俺の胸は激しく鳴り響いた。

アタル,「ああ、はい、セーラさん」

その高鳴りをなんとか包み隠そうと、俺はぶっきらぼうに応じる。

#textbox kse0450,name
セーラ,「先ほどは申し訳ありませんでした~……あの……お話、聞いていただけませんか?」

ついさっきあんなことがあったのに、また顔合わせるってのか。

気まずいなぁ……。

股間はまだいきり立ったままである。落ち着け、落ち着けよ。

アタル,「えっと……明日じゃダメですか?」

#textbox kse0460,name
セーラ,「できれば、今すぐ……いえ……ご迷惑……ですよね」

彼女の声に涙が入り混じった。

女性の涙に勝てる男なんて、いるはずないだろ!

アタル,「あ、だ、大丈夫ですっ! 今すぐ、話を!」

俺は慌ててドアを開ける。

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「あ……」

そこにはやはり瞳に涙を浮かべているセーラさんの姿があった。

アタル,「入ってください。お話、伺いますよ」

ガチャとドアが閉まるや否や、セーラさんはその場に膝をつけてしゃがみこんだ。

アタル,「セーラさん、何を……?」

#textbox Kse0450,name
セーラ,「先ほどは本当に申し訳ありませんでした」

深々と三つ指をついて、セーラさんは頭を下げた。

アタル,「やややめてください、頭上げてくださいよ」

俺の静止する超えも聞かず、彼女は土下座をしたまま、たっぷり5秒。

#textbox Kse0460,name
セーラ,「不器用な私は、アタル様への誠意の伝え方がわからないんです……ただ謝るしかできないんです……」

#textbox Kse0450,name
セーラ,「本当に最初は、お背中を流すだけのつもりだったんです……あのようなことをするつもりはなかったんです……」

顔を上げたセーラさんは、ぽろぽろと涙を零しながら、言葉を漏らす。

#textbox Kse0460,name
セーラ,「アタル様が私に振り向いてくれるまで待つ等と……お父様にあのような偉そうなことを言っていながら……」

セーラ,「アタル様と肌を触れ合わせていたら、押さえがきかなくなってしまって……アタル様を辱めるような真似を……」

アタル,「え、いや、辱めるって別に……」

正直にいえば、気持ちよかったし……確かに恥ずかしいところは見せてしまったけれど、恥をかかされただなんて思っちゃいない。

ああ、もしかして、セーラさんは俺が怒って、顔を合わせないと思っていたのか。

スイッチが入っちゃうと猪突猛進になっちゃうところは、やっぱり親子、バルガ王譲りなんだろうな。

#textbox Kse0450,name
セーラ,「本当に申し訳ありませんでした……アタル様のお好きなように処分してくださって構いません……」

アタル,「いやいやいや、だから、頭を下げないでくださいっ!」

俺は今一度、頭を下げようとするセーラさんを止めた。

#textbox Kse04D0,name
セーラ,「出て行けと言われるのでしたら、今すぐにでも、荷物をまとめます……アタル様の前から、姿を消します……」

アタル,「ああああ、もうっ! 勘違いしないでください。俺は別に怒ってるわけじゃないんですよっ!」

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「本当……ですか? ですが、先ほど……」

アタル,「ああ……ちょっと顔を合わせづらかっただけですよ……その、一番無防備なところを見られちゃったわけじゃないですか。それが恥ずかしくて……はは……」

#textbox Kse0470,name
セーラ,「ま、まぁ……そうだったんですか……そ、そうですよね……私、アタル様の一番可愛いところを見てしまったんですね……」

アタル,「はは……」

可愛いところ……ね。

確かに射精の最中は、男がどんな女性よりもか弱くなってしまう時だ。

#textbox Kse0410,name
セーラ,「アタル様、あの……私にあのようなことをされるのは、お嫌……でしたか?」

アタル,「そんなことあるわけないじゃないですか……本当に嫌だったら、もっと早く拒んでいますよ」

アタル,「セーラさんみたいな綺麗な人に誘われて、嫌がる男なんているはずないんですから……」

#textbox Kse0440,name
セーラ,「ま、まぁ~……そうだったんですか……」

アタル,「ミルフィやヒヨにはナイショですけど……しー」

#textbox Kse0420,name
セーラ,「はい……ふたりだけのナイショですね……? しー」

2人して、唇に人差し指を宛がい、ナイショのポーズ。

#textbox Kse0480,name
セーラ,「でしたら、まだ私はアタル様のことを好きでいても……よろしいのですね?」

アタル,「……う、うん」

俺は彼女の言葉に、僅かな罪悪感を感じながら、小さく頷いて返した。

#textbox Kse0490,name
セーラ,「それを聞いて安心しました。アタル様、私――セーラはいつでも貴方様をお慕い申し上げております」

アタル,「ありがとう」

自然と礼の言葉が、口をついた。

好意を伝えてくれる言葉は、シンプルに嬉しい。

#textbox Kse0410,name
セーラ,「話というのはこれだけです。それでは、アタル様――」

アタル,「あ、ちょっと待って、セーラさん。ひとつ気にかかっていることがあったんだ」

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「何でしょう?」

アタル,「今朝、俺を起こす時に、バルガ王が来るのが、『視えた』って言ってたよね」

#textbox Kse0440,name
セーラ,「あ、あれは……」

アタル,「俺の方には何の連絡もなかったし、セーラさんにも知らされていたわけじゃなかった……でも、セーラさんにはそれがわかっていた……」

アタル,「どういうことか説明できない……かな?」

#textbox Kse0470,name
セーラ,「それに関しては、またいずれ……」

アタル,「ん。わかった」

下手に食いついて、彼女を困らせる必要もない。

#textbox Kse04D0,name
セーラ,「これこそ怒らないでいただきたいのですが……私がアタル様に一目惚れしたのは間違いないことなのです」

アタル,「……うん」

#textbox Kse0480,name
セーラ,「それと同時に『視えた』ことが、私がアタル様を愛した理由でもあるんです」

アタル,「え……?」

#textbox Kse0450,name
セーラ,「このようなことを話しても、信じてもらえるとは思えませんから……アタル様に信じてもらえるようになった時に全てをお話しますね」

アタル,「んー……よくわからないけど、話してもらえる時を楽しみにしてるよ」

#textbox Kse0410,name
セーラ,「それでは、アタル様、おやすみなさいませ」

アタル,「うん、おやすみ。今日は1日、ありがとう」

セーラさんは最後にもう一度――今度は小さく、傾げる程度に頭を下げて、俺の部屋から出て行った。

アタル,「ふぅ……」

一息。

去り際のセーラさんの顔が印象的だった。

純粋な好意をぶつけられて、嫌な気持ちになるはずもない。

だが、それ故に――彼女の好意に応えられない可能性があるのが、心苦しくて。

胸がチクリと、痛んだ。

アタル,「それにしても、この前のバルガ王には参ったな……」

とある日常の昼食時間(ランチタイム)。俺の口から、思い出したようにポロリと漏れた。

早朝堂々の、窓をぶち破ってのバルガ王襲撃は、軽く夢に見るインパクトだった。

いや、むしろ、あの晩、本当に夢に見て、うなされたんだ。

彼に掴まれ、全身の骨という骨が……あ、もういいや。思い出すと、ご飯がまずくなる。

セーラ,「お父様がご迷惑をかけてしまいまして……本当に申し訳ございませんでした~」

ひよこ,「それだけセーラさんのことを心配してるってことなんだろうけど……あはは、すごかったよね。筋肉もムッキムキだしね」

アタル,「……この流れで筋肉は関係ないな」

アタル,「でもまぁ、確かに、行き過ぎちゃいるけど、セーラさんの身を案じて、なんだろうし。基本的にはいいお父さん……だよね」

セーラ,「はい。長女の私だけではなく、妹たちにも等しく愛情を注いでくれる素晴らしい父ですよ~」

アサリ,「すごくお強いですしー、お金も権力もあるー。王たる者はあのようにあるべきなんでしょうねー」

アタル,「なんだろう……さりげなく俺を非難しているように、聞こえなくもないんですけど?」

アサリ,「あはー、そう聞こえるということは、アタルさんがそう自覚しているということではないですかー?」

アタル,「ぐ……!」

痛いところを突かれた。

アサリ,「なんでしたら、アサリが特訓して鍛えて差し上げましょうかー? アサリは少々スパルタですんで、加減を間違ってしまうかもですけどー」

アタル,「謹んで、ご遠慮します」

アサリさんの特訓とやらがどんなものかは知らないが。

現代っ子&もやしんボーイの俺がついていけるようなものではなさそうなのは重々承知。多分死ぬ。

あの王様のような腕力がないのは、パッと見ただけでわかるだろう。

クアドラントよりも国力のあるニッポンの王である以上、バルガ王に匹敵するだけのお金も権力もあるにはあるのだろうけど、その行使の仕方がわからない。

王様Lv.1の俺がこの先、王にふさわしくなるには、一体どうすりゃいいものやら。

ひよこ,「アタルくん、別に落ち込まなくていいんだよ?」

アタル,「え、いや、別に落ち込んでなんて……」

伊達に長年付き添っているわけじゃないヒヨには、バレバレだったらしい。

ひよこ,「アタルくんはアタルくんらしい王様でいいんだから。他の人と比較なんてしなくていいんだよー」

ひよこ,「私の仕えている王様は、今でも充分素敵だよ♪」

アタル,「あ、ありがとう」

その気遣いには素直に感謝だ。

褒め殺しだ。そう言われちゃったら、なんとしてでも頑張らないといけないなぁ。

セーラ,「むぅ、ひよこさん、ズルいです~」

ぷぅと頬を膨らませて、セーラさんが抗議してくる。

ひよこ,「えっ、何が?」

セーラ,「アタル様を昔からご存知なのはズルいんです~。はぁ……私もアタル様の家のお隣に生まれたかったです~……」

……この姫様は無理難題をおっしゃる。

俺の家の隣に生まれてたら、ニッポン国民じゃん。クアドラントのお姫様にはなれなかったじゃん。

一方、イスリアのお姫様はやけに静かだった。

会話に参加してこないから、いないものと思われていたかもしれないが、ちゃんと片隅でモクモクと、エリスさんの取ってくれた弁当をつついている。

いつも自己主張激しいミルフィにあるまじき姿だった。

ひよこ,「あ、そういえば、ミルフィさんのご両親ってどんな方なのかな?」

ミルフィ,「……む」

ヒヨのその発言は悪気も皮肉も含まない、ごく普通に浮かんだ疑問だっただろう。

ミルフィはヒヨをじろりと一瞥。

セーラ,「そういえば、ミルフィさんのご両親の話を聞いたことないですよね」

そして、セーラさんも一瞥。

アサリ,「…………んー」

アサリさんは口を噤む。

ミルフィ,「――ごちそうさま、お先に。エリ、行くわよ」

エリス,「はっ」

ひよこ,「ふぇ、ミルフィさん、まだこんなに残ってるのに……」

ミルフィ,「もうお腹いっぱいよ。あとはみんなで楽しく召し上がって」

後ろ手にひらひらと手を振り、顔を見せぬまま、ミルフィとそのお付きは屋上を後にした。

ひよこ,「もしかして、悪いこと聞いちゃったかな……?」

セーラ,「ご両親と不仲なんでしょうか……」

アタル,「誰でも話したくないことはあるだろうし、これ以上無理に聞く必要もないかな」

ひよこ,「そうだね……あとで謝っておいた方がいいかも」

セーラ,「必要以上にほじくり返さない方がいいこともありますよ~。藪をつついて大蛇が出てきてしまうこともあるでしょうし~」

アサリ,「あはー、こんなに美味しいのにもったいないですねー」

訳知り顔なアサリさんはひょいぱくひょいぱくとミルフィとエリスさんが手の付けなかった弁当を片付けていった。

…………

……

その放課後。

アタル,「よし、帰――あれ? ミルフィは!?」

放課後の挨拶が終了し、気がつけば、ミルフィの姿が神かくしにでもあったかのように消えていた。

ひよこ,「あれぇ? 帰っちゃったのかな?」

セーラ,「先に帰られたのでしょうか~?」

アサリ,「そーですねー。つい今しがた、教室を出て行くところを見届けましたので、多分、帰られたんだと思いますよー」

アタル,「帰ったって……ひとりで?」

アサリ,「もちろんエリスさんがついてましたけどもー。なんでですかねー、お昼の話がそんなに堪えたんでしょうかー」

ひよこ,「え……や、やっぱり、私、謝った方が良かったかな?」

アタル,「理由がわからない以上は、どうした方が良かったなんてわからないだろ」

アサリ,「別に気にしなくてもいいんじゃないですかねー。どうせ帰る場所はひとつしかないんですし、頼れる付き人もいるんですしー」

アタル,「アサリさんの言う通りだな。ってわけだから、ヒヨとセーラさんたちは先に家に帰りなよ」

セーラ,「あら、アタル様はどうなさるおつもりですか~?」

アタル,「ミルフィを追ってみるよ」

ひよこ,「どこに行ったか、あてはあるの?」

アタル,「まー、相手がミルフィだからな。それなりの目星はある」

ひよこ,「それなら私も付いて――」

言いかけたヒヨの肩を、セーラさんの手が抑えた。

セーラ,「ひよこさん、ストップです」

ひよこ,「え?」

セーラ,「先に帰れ、というのが、アタル様のご命令です~。メイドがご主人様のご命令に背いちゃうのは、あんまり関心しませんね~」

ひよこ,「え、でも……」

アタル,「心配しなくても、ひとりで大丈夫だよ。それじゃ、行ってくる」

ひよこ,「う、うん、行ってらっしゃい。早く帰ってきてね。あんまり遅くなるなら、連絡してね」

アタル,「了解」

俺はひとり、教室を後にする。

…………

ひよこ,「あの……セーラさんは気にならないんですか?」

セーラ,「愛する人を信じるのも、愛する者としての勤めです♪さ、ひよこさん、帰りましょ~」

ひよこ,「は、はい……」

アサリ,「セーラさんたちはお気をつけてお帰りくださいませー」

セーラ,「あら、アサリさんはどうされるんですか~?」

アサリ,「ちょっと買い食いしてから帰りたい気分になってしまったものですからー。では、お気をつけてー」

しゅたっ。

ひよこ,「あの……アサリさんって、セーラさんのお付きの護衛……ですよね?」

セーラ,「はい~、すっごく頼りになりますよ~」

ひよこ,「うーん……? セーラさんがいいんなら、いいんですけど……」

…………

……

学園を後にして、一路まっすぐ商店街へ。

そして、俺の予想した場所に、彼女とそのお付きはいた。

アタル,「やっぱりココだったか」

ミルフィ,「わ――アタル、なんでここにいるのよ」

場所は、ドーナツ屋の真正面。ちょうど手土産のドーナツを持ったミルフィに遭遇したのだ。

アタル,「何でも何も……ミルフィが下校時に寄る場所なんて、ここくらいしかないと思ったからさ」

ミルフィ,「こ、ここだけじゃないわよ。他にだって、いろんな場所が……」

キョロキョロと周りを見回して。

ミルフィ,「……あるわよ?」

なさそうだった。

アタル,「疑問形で言われても困るけど、その他の場所に行かれてたらアウトだったな、はは」

ミルフィ,「で、あたしのスウィートタイムを邪魔しに来てまで、何の用かしら」

アタル,「別に邪魔をしに来たつもりはないけど、迎えもなしにどうやって帰るつもりなんだ?」

ミルフィ,「歩いて帰るわよ。頑張って歩けない距離でもないでしょ?」

エリス,「姫様がお疲れになられたら、自分がおんぶでもだっこでもして、お運びいたしますので、ご心配なく」

ミルフィ,「子供じゃないんだから、おんぶとだっこは勘弁して……ま、そういうわけだから、アタルは先に帰っちゃっていいわよ。夕飯くらいには帰れるだろうから」

アタル,「帰っていいって言われても――何、拗ねてるんだよ」

ミルフィ,「拗ね……? べ、別に拗ねてなんかないわよっ!」

アタル,「そうやって、声を強めたら、肯定しているみたいに聞こえるぞ?」

ミルフィ,「ち、違う違う違う! 拗ねてなんかないってばぁっ!」

エリス,「はぁぁ……バレバレなのに意地を張る姫様ってば、なんて愛らしい…………おや?」

叫ぶミルフィの横にいつの間にやら女の子がいた。

ミルフィ,「あなた、誰?」

女の子,「ドーナツ、美味しそー」

ミルフィ,「ええ、美味しいわね。食べたいなら、買えばいいんじゃない?」

女の子,「食べたいけど、お金ないの」

アタル,「お金がないなら、お母さんにお願いすればいいんじゃないかな?」

女の子,「うん、ママにおねがいするー!ママー、ドーナツ……」

しかし、女の子が伸ばした手は、誰にも届かず。

女の子,「……あれ? ママー、ママー?」

女の子はキョロキョロと周囲を見回し――どうやら周りに自分の母親がいないことに気づいたらしい。

女の子,「ママー!? ママぁっ!」

女の子の血相が変わり、声色が変わり、瞳が変わる。

泣き出してしまう一歩手前だった。

ミルフィ,「なるほど、母様とはぐれてちゃったのね。エリ、彼女の母様を探してあげましょ」

ポンとミルフィは女の子の頭に手を置き、そんな提案をした。

女の子,「……ふぇ?」

アタル,「……え?」

予想外の発言に、俺と女の子の発言がかぶった。

エリス,「かしこまりました。失礼、お名前を確認させていただきます」

エリスさんは手際よく、女の子の下げるポシェットから身分を確認できるものを探し出す。

ポシェットを開けたすぐそこには、マジックで、決してうまくはない文字で大きく名前が書かれていた。

『こんどうまなか 4さい』

おそらくは女の子の直筆だろう。

しかしながら、名前の後ろに『4さい』と書いてしまったら、来年、このポシェットはどうするつもりなんだろうかと思わなくもない。

エリス,「――了解しました。では、すぐさま解決させていただきます」

俺がどうでもいい思考を巡らせている内に、エリスさんは商店街の中に姿を消した。

果たして、敏腕エリスさんの迷子のお母さん探索方法とは――?

ミルフィ,「じゃ、お母さんが来るまで、ドーナツでも食べる?」

まなか,「……いいの? まなか、お金ないよ?」

ミルフィ,「泣くのを我慢したまなかちゃんに、お姉ちゃんからのプレゼント」

まだ涙目な女の子――まなかちゃんにその言葉は有効だったらしい。

ぐしぐしと袖口で涙をぬぐい。

まなか,「えへっ!」

と、強がるようなほほえみ。

ミルフィ,「うん、偉い偉い。はい、ご褒美」

ミルフィはドーナツの袋から、ひとつを取り出して、彼女に手渡す。

小さい◯が連結したような、ミルフィの名前にも酷似したあのドーナツだ。

まなか,「わぁ……いただきまーす。ぱく」

女の子は早速、渡されたドーナツにかみつく。

小さい女の子の口では、◯の内のひとつを口に入れるのが限界らしい。

それでも、まなかちゃんはむぐむぐと一生懸命口を動かしては、また一口、一口とドーナツの円周を小さくさせていった。

ミルフィ,「おいしい?」

まなか,「うんっ! すごくおいしい!」

ミルフィ,「それなら良かった」

そう呟くミルフィの姿は、お姉さん然としていて、いつもよりもずっと大人びて見えた。

一国を代表する姫として、この程度の振る舞いは当然なんだろうか。

アタル,「ん?」

商店街に設置されているスピーカーが音を鳴らす。

アナウンス,「迷子のご案内を申し上げます。コンドウマナカちゃんとおっしゃる4歳の女の子が、ミセスドーナツの前でお待ちです。繰り返し、迷子のご案内を――」

続いて、スピーカーから迷子案内が流れてきた。

アタル,「超普通ーーーッ!!?」

エリスさん、もしかして迷子センターに向かったのか?

正攻法も正攻法すぎて、盛大にずっこけた。

ミルフィ,「何よ、アタル、どんな方法を考えていたわけ?」

アタル,「いや、エリスさんならではの、スーパーな方法があるかと思ったんだけども……」

ミルフィ,「ばーか、そんな方法あるわけないでしょ?エリは普通の人間よ」

『普通』という点には異論を唱えさせてもらう。普通の人間は、いきなり人に銃口を向けたり発砲したりしない。

…………

……

それから、ほんの数分後。

迷子の女の子・まなかちゃんと、そのお母さんは、ドーナツ屋の前で無事に合流することができた。

まなか,「あっ、ママーっ!」

お母さん,「まなか! 良かった……ずっと探していたんです。本当にありがとうございました」

#textbox Kmi0160,name
ミルフィ,「まなかちゃん、良かったわね。もうお母さんから離れたりするんじゃないわよ?」

まなか,「うんっ、ありがとう、お姉ちゃんっ! ママー、お姉ちゃんがね、まなかにドーナツくれたんだよ」

お母さん,「まぁ……すみません、お題はおいくらに……」

#textbox Kmi0110,name
ミルフィ,「いえ、結構ですわ、お母様。私に払うくらいでしたら、そのお金でもうひとつ、まなかちゃんにドーナツを買って差し上げてくださいな」

#textbox Kmi0160,name
ミルフィ,「まなかちゃん、ドーナツ大好きだもんねー♪」

まなか,「ねー♪」

お母さん,「まぁ……本当にありがとうございます……それじゃ、まなか、ドーナツ買って帰ろっか」

まなか,「うんっ!」

そんな親子のやり取りを見届けて、親子は手を繋ぎ、片手にはドーナツの詰め合わせの箱を持ち、帰路についた。

#textbox Kmi0140,name
ミルフィ,「ふぅ……」

エリス,「ただいま戻りました」

そして、俺達の背後からタイミングを見計らったかのようにエリスさんが現れる。

ミルフィ,「お帰り、エリ。ご苦労様」

エリス,「いえ、姫様のご命令とあらば、苦労とは感じません。朝飯前のミッションでした」

ふと思った。

アタル,「エリスさん、迷子センターなんてよく知ってたね?俺だって知らないのに」

スピーカーを利用した以上、迷子センターに問い合わせたはずだ。

エリス,「は? 迷子センターとは?」

アタル,「……え? だって、さっきの放送……」

――待てよ?

迷子センターって、普通、迷子本人をつれていく場所だよな?

しかし、さっきの放送はここ、ドーナツ屋の前で女の子が待っていると放送した。

そんな迷子放送、どう考えてもおかしい。

アタル,「あの……つかぬことをお伺いしますが……さっきの放送って、どこから流れてたの?」

エリス,「そこのビルの隙間から流しましたが? 存外、人に見つかりにくい場所が少なく、難儀致しました」

アタル,「は……?」

エリス,「具体的な方法をお教えしますと、商店街各所にあるスピーカーの電波を探知し、小型マイクでの放送をおこないました」

エリスさんが指さしたのは、胸についているボタン。

アタル,「それって、つまり、電波ジャックってこと?」

エリス,「そうですね」

あっさり肯定した。見事だった。全然普通の方法じゃなかった。

エリス,「このボタンは有事の際に使用できる小型マイクになっています。そして、コチラのボタンが電波探知用」

アタル,「え……じゃ、さっきの放送の声は?」

エリス,「むろん、自分です。軍人として、声色を弄るくらいは基本スキルです」

エリス,「あー♪ あー♪ あー♪ あー♪ あー♪」

アタル,「ひぇ……すごいですね。エリスさんのこと、見直しましたよ……」

エリス,「――コホン、軍人ならば、当然の技能です。声で悟られたりしないよう、この程度のことはできなくては」

胸を張ることもなく、驕ることもなく、さも当然といわんばかり。

エリス,「他のボタンにも様々な機能がありますが、これ以上は極秘事項です」

エリス,「ですが、投獄された際に脱獄を試みれるくらいの機能があるとだけ、お伝えしておきましょう」

そんな直径数センチのボタンにどれだけ機能が搭載されてるんだよ……。

なるほど、ニッポンよりも遥かに上の軍事力を持つだけはある。

エリス,「ですが、褒めていただいたお礼にひとつだけお教えしますと――」

エリス,「一番上のボタンが、先程のように電波ジャックに用いることができます。回すことで周波数を変換することができるのです」

アタル,「へぇ……便利そうだね」

やってることは犯罪だけども。

エリス,「ええ、大変便利ですよ。テレビやエアコンのリモコンをなくした際にも代用できます」

アタル,「ぶっ!?」

予想外の利用法に、思わず噴き出してしまった。

ミルフィ,「そうそう、エリってすぐに私物をなくすのよ……それさえなければ、他はパーフェクトだと思うんだけど」

エリス,「……申し訳ありません。決まったところに置いているつもりなのですが、気がつくと紛失しておりまして……」

ミルフィ,「いいのよ、それくらいの欠点があった方が人間らしいじゃない。本当に大事な物さえなくさなければ、別に構わないわよ」

アタル,「へぇ……しっかりしてそうだったから意外だなぁ」

エリス,「自分にとって、私物など二の次なのだ。自分には姫様さえいらっしゃってくれればそれでいい」

ミルフィ,「その忠義、ありがたく受け取っておくわ」

エリス,「はっ、ありがたき幸せ……!」

そう言って頭を下げるエリスさんが、ちょっとだけ身近に感じられた気がした――けども。

エリスさんの発言には忠義以上のもっと別の感情が含まれている気がしてならなかった。

…………

……

アタル,「――にしても、ミルフィが迷子探しを手伝ってやるなんてなぁ」

ミルフィ,「何よ、そんなにおかしい?」

アタル,「あー、いや、ミルフィってあまり子供が好きそうなイメージがなかったっていうか……」

わがまま放題のミルフィだ。

同じようにわがままな子供とは相性が悪いんではないかと勝手に思っていたけど、どうやらその認識は改める必要があったらしい。

ミルフィ,「別におかしくなんてないわ。あたしは誰にでも優しいの。国の上に立つ身としては、そのくらい当然じゃない?」

エリス,「さすがは姫様です」

エリスさんは拍手しつつ、満足そうに頷く。

口にドーナツを咥えつつ、帰路に着く姫様。

買い食いはあまり美しくはないが。

どうやら、おみやげに買ったのかと思ったドーナツは、帰り道に食べる専用だったらしい。

エリス,「どうぞ、姫様」

ミルフィ,「ありがと、エリ」

1個なくなるごとに、後ろに控えるエリスさんからドーナツを受けとり、それを口に詰め込む。

歩いた分のカロリーをその都度補充しているかのようだが、その摂取量は明らかにオーバーしている。

学園から王宮まで2時間歩いたところで、消費できるカロリーなんてよくてドーナツ2個分ってところだろう。

さて。

アタル,「ところでさ、ミルフィ」

ここからが本題だ。

ミルフィ,「あに?」

口の中をドーナツでいっぱいにしながら、呟く。

アタル,「ミルフィはなんで、ひとりで先に帰ったりしたんだ?」

ミルフィ,「――別に。深い理由なんてないわよ。たまにはひとりで帰りたくなる時だってあるのモフモフ」

さっきまでよりピッチ早くドーナツを口に詰め込んでいるのは、必要以上にモノを語りたくないという意志の表れだろうか。

アタル,「ヒヨやセーラさんも心配してたぞ?」

ミルフィ,「あ、そ」

アタル,「素っ気ないな……」

ミルフィ,「だって、ぴよぴよやセーラがどう思おうが、あたしには全然関係ないもの。あたしが何しようが、あたしの勝手じゃない?」

アタル,「心配してくれてるんだから、その言い方はなくないか」

ミルフィ,「別に頼んでないし……あのね、アタル」

ミルフィはキッと視線を俺に向けてくる。ただし、口にはドーナツを加えたままだが。

ミルフィ,「セーラやひよことは、アタルを巡ってのライバルなのよ?だいたい、そんなあたしたちが、仲良しこよししてるのがおかしいのよねモフモフ」

ミルフィ,「どーなの、アタル。その辺、自覚してるわけ?」

ビシッ! と、油と砂糖にまみれた指を、俺に突きつけてくる。

アタル,「まぁ……そうですね?」

俺に決定的に足りてないのは、その辺の自覚だ。

誰が一番だとか、誰を最終的に娶るだとか、そんなことは微塵も考えちゃいない。

だいたい、この年で結婚だのなんだのってのが、おかしいんだ。

セーラさんはお国柄、早く結婚しろって、迫ってきてるわけだけど。

ああ、この前のバルガ王乱入は本当にビックリしたな。まさか、父親までもがあんな本気で――

……ん?

ミルフィの機嫌が明らかにおかしくなった前後の会話を思い返してみる。

アタル,「ミルフィ、もしかして、機嫌を損ねた理由って」

ミルフィ,「だから、別にあたしは機嫌なんて損ねて――」

アタル,「親の話を持ち出されたから……か?」

屋上でのランチタイム――両親の話がどうとか、ヒヨが話を振った時じゃなかったか?

ミルフィ,「………………んぐっ」

ドーナツを口に咥えたまま、視線を逸らしたミルフィの動きが止まる。

ミルフィ,「お、親は別に……関係ないじゃない」

その態度は、図星としか思えなかった。

あー……もしかして、ホームシックか?

そうだよな、遠い外国から、エリスさんとたった2人だけでここまで来ているんだ。

性格こそ剛毅だけど、ミルフィはれっきとした女の子だ。

親や故郷が恋しくなっても、なんにも不思議じゃない。

だから、さっきの女の子が親とはぐれたのを聞いて、放っておけなくなった……とか、そんなとこだろうか。

さて、これ以上、踏み込んで聞いていいものやら。

うーん……。

3人、皆、無言。

エリス,「アタル王もいかがです?」

そこで沈黙を破ってくれたのは、エリスさんだった。

アタル,「いただきます」

せっかくだから、と、手渡されたドーナツを受け取る。

さっきから美味しそうに食べるのを見ていたし、ドーナツ屋の前にいた時から甘い匂いもしてたしで、ずっと気になっていた。

自分のドーナツが勝手に渡されたにも関わらず、ミルフィは何も言わない。

ぱく、と一口。

当然のように、甘かった。

グレーズのたっぷりかかった、カロリーの塊のようなオールドファッション。

ミルフィ,「……美味しい?」

アタル,「……ん? うん、美味しいよ」

ミルフィ,「そ。それなら良かったわ。マズイなんて言ったら、ひっぱたいてるとこだけど」

また無言。しかし、ドーナツを食べる手は止まらず。

渡された1個、完食。

エリス,「アタル王、もうひとついかがですか?」

アタル,「いや……もういい……」

1個だけで口の中が甘ったるくなった。

飲み物なしに、これだけ食い続けるのは正直つらい。

しかし、もくもくと食い続けているミルフィは大したものというかなんというか。

……絶え間なく、エリスさんはミルフィにドーナツを手渡しているが、袋の中にはいくつ入っているのだろうか。袋の中にドーナツ職人が潜んでいるのだろうか。

そんなわきゃーない。

屋敷までの道のりはまだまだ遠い。

初めての徒歩での帰宅だが、勝手知りたる土地。だいたいの方角はわかる。

屋敷に着く頃には、日も暮れてしまうだろう。

事実、学園を出た後から、薄暗さが増していて、すぐ隣にいるはずのミルフィの顔も見え辛くなってきた。

いわゆる、たそがれ時という時間だ。

歩道橋に差し掛かり、階段を登る。

歩道橋の上から見えた夕日は沈みかけていた。

まもなく、夜が訪れる。

ミルフィ,「あー……ちょっと止まって」

歩道橋のド真ん中。ミルフィは足を止めて、沈む夕日を見つめる。

ミルフィ,「んー……」

アタル,「どうした? 元気ないな。いつものミルフィらしくもないぞ?」

ミルフィ,「そんなことない。あたしはいつも通り――」

俺は、ミルフィを慰めてやろうと思ったんだろう。

無意識に頭を撫でようと伸ばした俺の手が、ミルフィの王冠に触れたその瞬間。

ミルフィ,「……! 触らないでっ!」

音を立てて、ミルフィの手が俺の手を弾いた。

アタル,「つっ……?」

ミルフィ,「この王冠には、触らないで……!」

アタル,「……ご、ごめん。別に悪意があったわけじゃないんだ」

ミルフィ,「悪意があったなら、エリが撃ってるわよ」

エリスさんの方を向くと、片手はドーナツの袋をしっかり抱えつつも、残った片手はホルスターに手をかけていた。

……怖いなぁ。

アタル,「その王冠は、やっぱり大事なモノなの?」

ミルフィ,「まぁ、ね――」

夕日を見つめたまま、何かを言いかけた瞬間。

歩道橋の下をトラックが通過した。

ミルフィ,「きゃっ!?」

その騒音と揺れのせいか、ミルフィは体勢を崩し、柵に体をぶつける。

アタル,「ミルフィ!?」

エリス,「姫様っ!」

咄嗟に俺とエリスさんはミルフィに手を伸ばし、肩を受け止める。

ミルフィ,「だ、大丈夫よ。まったく、ふたりとも大袈裟なんだから。あんたたちはなんともないわけ?」

アタル,「あのくらいの揺れじゃ、どうってことはないな。ま、ミルフィは小柄だからな」

エリス,「そうです、姫様はそんなに愛らしい――ハッ!?」

何かに気づいたエリスさんは――

エリス,「――ふっ!」

一切の躊躇なく、歩道橋から飛び降りた。

アタル,「エリスさん、何をっ!?」

ミルフィ,「エリ!? 何して――あっ!?」

ミルフィは自分の頭に手をやる。

ミルフィ,「お、王冠がない……!?」

アタル,「えっ……あ、本当だ!」

アタル,「もしかして、さっき、柵に当たった衝撃で……!?」

ミルフィ,「う、嘘、その程度のことで取れるはずなんて……!」

歩道橋を上り、戻ってきたエリスさんは神妙な顔つきだ。

エリス,「申し訳ありません、姫様。王冠が落ちたのを確認したため、咄嗟に飛び降りてしまいましたが……どうやら走り去ったトラックの荷台に載ってしまった様子……」

エリスさんの手は、王冠を手にしてはいなかった。

一瞬の出来事だった。

いつの間に落ちたのか、まるでわからなかった。

ミルフィ,「ど、どうしよう……! 王冠……あの王冠がないと、あたし……!」

王冠を失ったミルフィは、いつもはあまり見ない表情で――いや、一度だけ。

いつだったか、俺の入る風呂の中に押しかけてきた時の彼女もこんな顔をしていなかっただろうか。

あの時との共通点は――王冠がないこと。

アタル,「ミルフィ、落ち着け。エリスさん、そのトラックのナンバープレートは確認していない?」

エリス,「申し訳ありません、咄嗟のことでしたので……」

アタル,「……そっか」

追うべきトラックは、とっくに視界から消えていた。

何色のトラックだったろうか?大きさは? どこの企業の?

何ひとつ覚えていない。情報はない。

でも――

ここで、国王の力を用いるならば?

俺は国王の携帯『CROWN』を手にする。

アタル,「――もしもし、アタルですが」

#textbox ksi0160,name
柴田,「おや、アタル王、何故、そんなところにおいでですか?どうやらお近くにはミルフィ様とエリス様もいらっしゃるようですが」

CROWNに搭載されているGPSで場所は把握されているのだろう。そして、周りにいるミルフィとエリスさんもキャッチされている。

アタル,「帰り道だよ。ところで、柴田さん、今さっき、歩道橋の下を通っていったトラックの行き先なんてわかる?」

#textbox ksi0110,name
柴田,「トラックですか? 3分ほどいただければ、発見できるかと思います。少々お待ちを」

アタル,「了解。お願いします」

――そして、電話してから、きっかり3分後。

#textbox ksi0110,name
柴田,「アタル王、トラックを発見いたしました。ミナカミ水産、港湾地区の企業のようです。色は青、ナンバーは――」

アタル,「そっか、ありがとう。ちょっとそこに向かってみるよ」

#textbox ksi0110,name
柴田,「お迎えにあがりましょうか?」

アタル,「――そうだね、お願いするよ」

ここからそのトラックの向かった港湾地区まで、走っていくにはあまりに遠すぎる。

柴田さんに迎えを要請し、俺は電話を切った。

…………

……

柴田さんの使いでやってきた車に乗り込み、俺たちは港湾地区へと到着し――

アタル,「えっと、ナンバーは……あっ、あのトラックか」

そして、あっさりと件のトラックを発見した。

運転手,「なんだい、あんたたち……あれ? そっらの兄ちゃん、どこかで見た顔……」

#textbox Ker0110,name
エリス,「こちらはニッポン国王、国枝アタル様だ。少々積荷を検めさせてもらう」

運転手,「ど、どぅええぇぇっ!? お、王様っ!?こ、これはとんだ失礼を!」

アタル,「いやいや、そんな、かしこまらないでください。チェックもすぐに終わりますんで」

俺達は荷台に乗っかり、調べる。

ミルフィ,「アタル……あった?」

アタル,「いや……見当たらないな……」

ミルフィの頭サイズだからそんなに大きくないとはいえ、特徴的な代物だ。見落としているとは思えない。

エリス,「――となると、ここまで移動する間に落としてしまったのかもしれませんね」

ミルフィ,「そ、そんなぁ……! ふぇっ……ふぇぇ……」

今にも涙腺が決壊してしまいそうなミルフィ。

運転手,「むぅ……申しわけない……」

アタル,「コチラの不手際です。気になさらないでください。ミルフィ、エリスさん、とりあえず王宮に戻ろう」

エリス,「了解しました」

ミルフィ,「やだ……やだよぉ……まだ探す……探すのぉ……」

アタル,「ミルフィ、落ち着け。もうじき夜になる。そうしたら、見つけられないだろ」

ミルフィ,「だって、あたしの……あたしの王冠……!お母様からもらった大事な宝物なのにぃ……っ!ふぇ、ふぇぇ……ふぇえぇぇぇんっ!」

ついにミルフィの涙腺が決壊した。

女の子の涙は苦手だ。得意な男なんて、いないだろうけどさ。

アタル,「……やれやれ。泣く子とお姫様には勝てないな」

エリス,「ふふ、同感です、アタル王」

俺は再度、CROWNを手に取る。

#textbox ksi0110,name
柴田,「――はい、なんでしょう、アタル王」

アタル,「柴田さん、さっきの歩道橋からここまでの道を全面交通規制して。加えて、捜索人員の手配と、道路全面のライトアップ」

#textbox ksi0110,name
柴田,「――了解しました。人員はいかほどご用意致しましょう?」

アタル,「多ければ多いほどいい。人海戦術でね」

エリス,「――ならば、我が軍を派遣しよう。数百人ほどでよければ、すぐにでも集めることができる」

#textbox ksi0110,name
柴田,「エリス様、ありがとうございます。となれば、大した無理難題でもありませんね。王の絶対命令を行使するほどではありません」

アタル,「そう言ってもらえれば助かるよ。それじゃ、よろしく」

アタル,「――というわけで、捜索開始」

エリス,「感謝します、アタル王。それにしても、このように人を操ることができたとは。少々驚きました」

アタル,「……え、そうかな?」

言われてみれば確かに、こんな風に人を使う発想は今までできなかった気がする。

王としての振る舞いが板についてきたと言われるのは、果たして喜んでいいのだろうか。

アタル,「ミルフィ、君は車で待ってて。王冠は絶対俺が探し出してみせる」

ミルフィ,「ぐしゅ……あたしも……探すよぅ……」

泣きはらして目を赤くしたミルフィが立ち上がる。

アタル,「ミルフィは女の子だし、イスリアからあずかっている要人なんだから。おとなしくしてるの、いいね?」

年端もいかない子供を諭すような説得。

ミルフィ,「……うん……」

素直にコクリと頷いたミルフィは車に乗り込む。

いつもの毅然としたミルフィならともかく、今のミルフィ(弱)だと逆に足手まといになりそうだからな。

たかだか王冠の有無で随分と性格が変わってしまうものだ。

――にしても、彼女の王冠が、母親からもらったものだというのは初耳だった。

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エリス,「では、アタル王、自分はあちらの方を捜索に――」

アタル,「あ、待って、エリスさん」

エリス,「何か?」

アタル,「王冠に触ると怒ったり、性格が変わる理由って、お母さんからもらったっていうことに関係しているのかな?」

隣を歩くエリスさんに問う。

#textbox Ker0160,name
エリス,「やはりそう思われますか」

アタル,「あれだけ露骨なら、さすがにね」

#textbox Ker0110,name
エリス,「さて、どこから話したものでしょうか……探しながら、自分の知る限りのことを、話させていただきましょう」

#textbox Ker0110,name
エリス,「ミルフィ様にとって、あの王冠は何物にも代え難い大切な宝なのです」

アタル,「うん、それはなんとなくわかる」

エリス,「姫様の王冠は、母君から受け継いだ無二の物でして」

アタル,「受け継いだ……お母さんは引退したってこと?」

#textbox Ker0140,name
エリス,「亡くなられたのですよ」

アタル,「……え……?」

#textbox Ker0160,name
エリス,「ミルフィ様がまだ物心ついて間もなく……幼い頃に流行り病で亡くなられている」

アタル,「……病気か……それならしょうがないな……」

エリス,「本当に突然のことで……ありとあらゆる医療技術の粋を尽くしたが、病の進行は止められなかったのだ」

言葉を失う。

アタル,「……そっか……」

そう呟き返す以外に、言葉が思いつかなかった。

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エリス,「王妃様は今際の際まで、大変気丈な方でいらっしゃいました。そんな王妃様の姿に我ら国民たちは励まされ続けてきた」

エリス,「当時のイスリアは王妃様のお力がとても大きかった。故に崩御なされた際に、イスリアを包んだ悲しみはただごとではなかった」

エリス,「混乱の内政……その隙を突いた近隣諸国の侵攻……王妃様が亡くなられて以後、姫様の父であるイスリア国王は悲しむ間もなく、大変ご多忙になられまして」

エリス,「姫様は国王にお会いすることもできず、王妃様を失った悲しみから自分の部屋に篭りきり、日々を過ごしてきた。その間の遊び相手は自分とテレビだけでした」

エリス,「また、部屋に篭っているその間、一番関心があったのがニッポンのアニメ――特にロボット物だったわけですが」

アタル,「――なるほど、それで俺なんかよりもニッポンのアニメに詳しいのか」

エリス,「姫様の心の傷は、時間と、ニッポンのアニメと、王妃様が残してくれた王冠が癒してくれた」

エリス,「あの王冠は王家の証である以上に、王妃様から姫様への唯一のプレゼントであり、姫様の家族との絆なのです」

エリス,「あの王冠を被ることで、亡き王妃様の思いが宿るのでしょう。強く、凛々しく、美しかった王妃様をなぞらえるかのように」

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エリス,「もっとも、威厳ある態度だけが先行してしまい、空回りなのが実情ではありますがね」

アタル,「はは……確かにね」

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エリス,「そんな姫様だからこそ、とってもとってもかわいらしいのですが……!」

アタル,「……今、なんと?」

#textbox Ker0160,name
エリス,「いえ、何も申しておりません」

アタル,「……そう? まー、だから、王冠を被っていない時は、反動であんな弱気になってしまうってことかな」

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エリス,「そういうことでしょう。学術や理論では説明できない力が、あの王冠にはあるのですよ」

エリス,「姫様は愛情に飢えていらっしゃる。しかし、哀しいかな、それは到底、自分のような一付き人では補い切れません」

エリス,「ああ見えて、姫様は寂しがり屋なのですよ」

わかってる。わかってるさ。

エリス,「アタル王、姫様に対し、家族のように接してはいただけませんか」

アタル,「家族……?」

エリス,「はい、分け隔てなく親身に接して頂ければ、と」

#textbox Ker0160,name
エリス,「同情を買うつもりはありませんが、姫様の気持ちを少しだけ汲んでくれると助かります」

アタル,「俺はミルフィの家族にはなれないよ。血が繋がっているわけじゃないし」

#textbox Ker0140,name
エリス,「そうですか」

アタル,「でも――友人だとは思ってる」

アタル,「家族みたい程とはいえないかもしれないけど、分け隔てなく、親身に付き合ってるつもりだよ。それじゃ、ダメかな」

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エリス,「…………」

アタル,「エリスさん?」

#textbox Ker0120,name
エリス,「いえ――ならば、それで結構です。姫様に代わって、礼を言わせていただきます」

アタル,「別にお礼を言われるようなことをしてるつもりはないけどね」

エリス,「謙虚なのですね、あなたは」

アタル,「そうかな? イスリアではどうか知らないけど、ニッポンじゃ普通のことだと思うよ」

#textbox Ker0180,name
エリス,「いえ、本当に――ご立派です」

エリスさんの口元が、わずかに緩んだ。

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エリス,「――さて、姫様の話はここまでです。本日の件、自分が話したということは、くれぐれもご内密に」

アタル,「了解です」

エリス,「では、アタル王、自分は改めて港の方を探してくるとします」

アタル,「お願いします。自分はこの辺をもうしばらく探しますよ」

…………

……

エリス,「アタル王……彼ならば――」

エリス,「聞こえるか、こちら、エリス・ラスコヴァン中尉。全イスリア兵に通達する――」

……

…………

沈みかけだった日は完全に海の彼方へと消えてしまい、辺りはすっかり暗くなっている。

だが、空を旋回するイスリア軍のヘリが、自分たちの足元を照らしてくれているおかげで、明るいままの捜索が続けられた。
ヘリのサーチライトに照らされている自分の姿は、まるで追っかけられている怪盗のような気分。

アニメの怪盗3世OPにそんな感じのシーンがあった気がする。全身黒づくめのタイツを着てればバッチリだな。

徒歩で自分が調べられた場所なんて、ほんの1、2km程度。

時間もある程度経過している。すでに誰かに持ち去られていたりしたらお手上げだ。

捜索開始から、およそ1時間が経過。車で待機しているミルフィも心配。

アタル,「……1回戻るか」

時間的には、キリのいいタイミングだ。

だいたい俺のヤマは『当たらない』んだ。

俺がやみくもに探したところで、見つかるはずが――

港に差しかかるその直前、視界の片隅にキラッと輝く何かが映りこんだ。

アタル,「えっ……!?」

ライトに照らされたその輝きに目を奪われる。

…………

……

アタル,「ミルフィー! あったぞー!」

王冠を落とさないよう、傷つけないように。

両手で包みこんで、俺はミルフィの待つ車へと向かう。

そこには既にエリスさんの姿もあった。

エリス,「どうしました、アタル王。もしかして、王冠を発見しましたか?」

アタル,「あ、ああ、あったぞ! なんで見落としていたのか、わからないようなところに転がってた!大した傷もついてないし、無事だぞ!」

ミルフィ,「ア、アタルぅ……!」

そう、王冠はあの場所に無造作に転がっていた。

何故、誰もが見つけられなかったのかわからないような場所に、ごく普通に、まるで『俺に見つけてもらいたがっていた』かのように。

エリス,「お手柄です、アタル王……お疲れ様でした。さ、アタル王から、姫様に手渡してあげてくださいませ」

アタル,「ああ、はい、ミルフィ。もう落としたりしないよう、気をつけるんだぞ?」

ミルフィ,「うんっ!」

俺は王冠をミルフィの頭へとかぶせた。

ミルフィ,「――やっぱりこれがないと落ち着かないわね」

王冠を被るや否や、口調と態度は、すっかりいつも通りのミルフィだ。自己暗示って凄い。

ミルフィ,「はぁ……恥ずかしいところ見せちゃったわね……」

どうやら性格が変わっていたからといって、記憶までが消えるわけではないらしい。

頬を染め、視線をそらして、照れ隠し。

ミルフィ,「アタル、このことはぴよぴよやセーラには絶対内緒よ?内緒だからね!? いいわね!?」

アタル,「ああ、約束する」

ミルフィ,「……ん、それならよし」

ミルフィ,「あたしのために、ありがと、エリ。それに……アタルもね」

エリス,「姫様……!」

アタル,「ミルフィ……」

ミルフィ,「こっ、こんなこと、滅多に言わないのよ!?今日だけはサービスよ、サービス!」

アタル,「それはそれは光栄でございます」

俺は恭しく、目の前のお姫様に頭を下げた。

…………

……

無事解決した俺たちは車に乗りこみ、王宮へ戻った。

アタル,「ただいま……うわっ!?」

ひよこ,「もーっ! アタルくん、帰ってくるの遅いよーっ!」

アタル,「あ、ごめん」

そういや、『遅くなるなら、連絡ちょうだい』って言われてたっけ。

セーラ,「アタル様、私はもう心配で、心配で……!」

帰ってきた瞬間、出迎えてくれたヒヨとセーラさんに怒鳴られたりしたのである。

……

…………

1日の汗と老廃物を全て流し尽くした風呂上がり。

快適なお風呂タイムを誰にも邪魔されることなく過ごし、鼻歌交じりに部屋に戻ろうとした俺は。

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「アタル」

部屋のドアノブを握ったところで、ミルフィに呼び止められた。

アタル,「ん? ミルフィ、風呂なら今、空いたぞ?入ってくればいいんじゃないか。今日は疲れたろ」

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ミルフィ,「そ、そうじゃないんだけど……あ、ううん、お風呂には入るし、確かに疲れたんだけど……えっと……」

アタル,「どうした、随分と歯切れが悪いな。今は王冠だって被ってるのに」

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ミルフィ,「あ……その王冠のことなんだけど、えっと、あの……」

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ミルフィ,「アタルなら、あたしの王冠に……触っても、いいから、ね……?」

まるでそれは、愛の告白をしたかのように。

ミルフィの顔は真っ赤に染まっていた。

アタル,「え、夕方はあんなに怒られたのに? いいのか?」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「うん、まぁ、もうあれだけ触られちゃったし……」

ミルフィの元に持って行く時に、ベタベタ触っちゃってたし、俺の手からミルフィに戴冠したくらいだ。確かに今更といえば今更。

アタル,「ああ……ごめん、あんまり綺麗な手じゃなかったな」

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ミルフィ,「ち、違うの、そういうつもりで言ったわけじゃなくて。その……えっと……」

アタル,「……?」

どうも要領を得ない。

#textbox Kmi02A0,name
ミルフィ,「……アタルだけ、特別……あたしの伴侶になるかもしれないんだし……それって、つまり、家族ってことだし……」

アタル,「ん? よく聞こえないんだけど?」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「こんなこと何回も言えるわけないでしょっ!察しなさいよッ!」

アタル,「えっ、何を!? なんで俺、怒られてるの!?」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「もう……ほら、アタル……ん……」

ミルフィはズイッと俺に向けて頭を差し出す。

えっと、これは……撫でろってことなのかな?

おそるおそるミルフィの頭へと手を伸ばす。

ふわっと柔らかいミルフィの髪。

ミルフィ,「ん……ぁ……んっ……」

ニッポン人とは髪質がまるで違うのだろうか。その感触は、まるでシルクのようで。

俺が髪を撫でているのではなく、俺の指がミルフィの髪に撫でられているような錯覚にさえ陥る。

ミルフィ,「ちょっ、ア、アタル……髪じゃなくて、王冠に触ってもいいって意味だったのに……」

アタル,「あ、そうだったの……?」

ミルフィ,「別にどっちでもいいわよ……アタルに撫でられるの、ちょっと気持ちよかったし……」

アタル,「え?」

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「お、おやすみ、アタル! また明日!」

アタル,「お、おぅ? おやすみ……」

ぱたぱたと足音を鳴らし、ミルフィは風呂場へと向かう。

ほんの少しだけ、ミルフィと仲良くなれたような気がする1日だったわけだけれども。

――同様に、いろんな違和感の残った1日だった。

ベッドに転がり、天井を見上げて、そんなことを思う。

違和感はもちろん、王冠の紛失とその捜索について。

紛失から発見までの流れに、釈然としないものを感じる。

俺が王冠を見つけた場所を、エリスさんは間違いなく探していたはずだ。

俺ですら簡単に見つけられた、無造作に落ちている王冠に、鋭敏な感覚を持ったエリスさんが気づかないことなんてあるのか……?

まぁ……リモコンをなくしたりするような人らしいし、エリスさんも、人間ってことなのか……?

まぁ、いいや、もう済んだことだ。あの捜索は存外に疲れた。

風呂上がりの身体は一刻も早い睡眠を求めていた。

明日も早いことだし――おやすみ。

…………

……

アサリ,「こんばんわですよー、エリスさーん。お散歩ですかー?」

エリス,「……アサリ」

アサリ,「今日はお疲れ様でしたー。どうやらアタルさんは気づかれてないようですが、随分と大変な一芝居でしたねー」

エリス,「そのようだな」

アサリ,「そもそも王冠はミルフィさんの頭上から落ちておらず、歩道橋でエリスさん自身が奪い、隠し持った――」

アサリ,「遠目からでしたけど、見事な手際でしたよー。アレにはアタルさんやミルフィさんでは気づかないでしょうねー」

エリス,「世辞はいらない。どういうつもりだ。今日の一連の出来事は、自分が仕組んだものだということを、アタル王に報告するつもりか?」

アサリ,「いえいえー、そんな無粋な真似はしませんよー」

アサリ,「ただ、アサリが見ていたことをお伝えしたかっただけですー。鈍感な婚約者に苦労してる仲じゃないですかー」

エリス,「自分は貴君と馴れ合うつもりはないのだがな」

アサリ,「あはー、アサリは誰とも馴れ合ってるつもりはありませんがー」

エリス,「食えないヤツだ……」

アサリ,「ニッポンじゃ猫を食べる風習はないみたいですからねー」

アサリ,「ですが、本当にあの王冠が他の誰かに拾われていたら、どうするつもりだったんですかー?何でもイレギュラーは起こるものでしょー」

エリス,「姫様の王冠には発信機を取りつけてある。いざ紛失したとしても、すぐに発見できる」

アサリ,「なるほどー、ぬかりなし、ですねー。まさに茶番だったわけですー」

エリス,「機を見て、誰にでも見つけられるような場所に置いたつもりだったのだがな……存外に時間がかかってしまった」

アサリ,「あー、アレはじれったかったですねー。思わずアタルさんに教えてあげたくなっちゃいましたよー」

アサリ,「見つけるまでにアレだけ時間がかかっちゃったのは、アタルさんの鈍さ――『当たらなさ』故といったところなんでしょうねー」

エリス,「……あの鈍さならば、アタル王は気づいていないのだろうな……」

アサリ,「アタルさんは気づいてないんでしょねー」

エリス,「血の繋がらない者同士が家族になる方法がある――」

アサリ,「――それが、散々話してる『結婚』なんですけどねー」

エリス,「自分はミルフィ様がアタル王と結ばれるためには、いかなる手段も問わない」

アサリ,「アサリもセーラさんをアタルさんとくっつけるよう頑張りますよー。お仕事ですからねー」

エリス,「貴君も主のため、もう少し頑張ってはどうなのだ?」

アサリ,「アサリはあなたのように、お姫様に病的に惚れ込んでいるわけではないのですよー。あくまでお仕事なのですよ」

エリス,「ビジネス」

アサリ,「ええ、ビジネスですー。割り切った関係、ですねー」

アサリ,「まー、そういうことですのでー。エリスさん、おやすみなさいませー」

エリス,「……おやすみだ――消えたか」

エリス,「まったく、食えないヤツだよ、アリサ・アーサリー。それにしても――」

エリス,「はぁぁ……久しぶりの王冠をつけてない姫様……やっぱり可愛かったぁ……♪」

…………

……

なお、今回の捜索経費は、後ほど全額イスリア国の軍事予算から支払われたのは、別に言うまでもない余談である。

担任,「――というわけで、来週からは期末テストだ。帰ってからも勉強に励むようにな」

ブーブーと、クラス中から不平不満のブーイングが巻き起こる。

雨が降ろうが槍が降ろうが、年5回必ずおこなわれる、学園で最も嫌われるイベント、定期テストが迫っていた。

ひよこ,「そっかー、もうそんな時期なんだね」

ミルフィ,「あたしたちもテスト受けるのー?」

アタル,「この学園の学生なんだから、当然だろ?」

ミルフィ,「えー、面倒……別にやらなくてもいいじゃない」

アタル,「通っている以上は、学園のルールに従わないとな」

ミルフィ,「ぷぅ」

ミルフィは頬を膨らませて、机に突っ伏す。

男子学生,「なぁ、アタル、今回のテスト、どの辺が出ると思う?とりあえず、歴史!」

アタル,「……またそれかよ。歴史なら……そうだな、この辺、P.67~75あたりじゃないのか?」

男子学生,「よーっし、みんな朗報だ!歴史の67~75ページの間は『出ない』!」

男子学生,「マジで? ラッキー、俺、平安時代って苦手なんだよ」

#textbox Kse01B0,name
セーラ,「……えっ? どういうことですか?今、アタル様は『出る』場所を言ったんですよね?」

アタル,「……俺のヤマは『当たらない』んだ」

テスト前恒例『国枝アタルのテスト予報』。

俺の予期した場所は出ない。命中確率0%。

気象予報士だけにはなれないと思った。

冗談ではなく、それが現実に起こっているから笑えず、クラスメイトはそのおかげで助かっているようだが、俺には何のメリットもない。
そして、一方。

女子学生,「続きまして、ひよこのテスト予報!国語はどこが出ると思う?」

#textbox Khi0130,name
ひよこ,「国語……うーん……今回の範囲だと『シーソー』かな。なんとなく、なんとなくそう思うだけだよ?」

女子学生,「ひよこ予報『シーソー』入りましたー。さんきゅ!」

『西御門ひよこのテスト予報』の的中率は100%を誇る。

この2つが組み合わされば、攻撃力2倍。

これを熟知しているクラスメイト情報により、前回の中間テスト、ウチのクラスの平均点は、同学年内でトップであった。
当然といえば当然ながら、情けないことに、予報士である俺はあまり成績が芳しくなく、クラス平均を下げていたりする。
勉強した場所が片っ端からハズれるのだから、おかげさまで、俺は毎度毎度、試験範囲を端から端まで満遍なく勉強する羽目になるのである。

これでは効率もあまりよろしくない。

#textbox Kmi0110,name
ミルフィ,「つまり――アタルはあんまり成績よくないわけね?」

アタル,「お恥ずかしながら」

#textbox Kmi0120,name
ミルフィ,「一国の王が劣等生じゃ困るわよね。それにあたしの夫が愚王と誹られるのもちょっと勘弁だわ」

物語だとバカな王様ってのもよくいるけどな。

……でも、そういう王様って大抵、大臣に全実権を握られたりしていて、形だけの傀儡だったりする。

自分がそうでありたくはないな。

#textbox Kmi0190,name
ミルフィ,「了解! 今回はあたしがアタルにみっちり勉強教えてあげるわ!」

アタル,「……ミルフィが?」

#textbox Kmi0170,name
ミルフィ,「何よ、その不満そうな顔」

アタル,「え、いや、さっき、テストなんて面倒だって言ってたじゃないか?」

#textbox Kmi0110,name
ミルフィ,「そりゃ面倒よ? 勉強なんてしないで、日がな1日、アニメ見て過ごしてたいもの」

すげぇ発言、入りましたー。なに、この子、ニートなの? ニート姫なの?

あ、でも、昔、お母さんを亡くした後は、まさにそんな感じだったんだっけか……?

#textbox Kmi0190,name
ミルフィ,「見ての通り、あたしは頭脳明晰なんだから。任せなさい!」

見ての通り、ねぇ。

ひよこ,「ミルフィさん、それならみんなで勉強会しない?」

セーラ,「まぁ、それはいい考えです~。私はテストに自信がありませんので、教えていただければ助かります~」

ミルフィ,「え~……? なんで敵に塩を送らないといけないのよ……」

ミルフィは露骨に嫌そうな顔をする。

アタル,「まぁ、そういうなよ。俺1人に教えるんなら、みんなに教えてもあんまり変わらないだろ。みんなでやった方が効率も良くなるんじゃないか?」

ミルフィ,「確かに1人でも人数が増えても、あたしの苦労はあまり変わらないけど……効率はどうかしらね?」

ひよこ,「とにかく、決まり決まりだねっ。みんなで勉強会っ!」

セーラ,「うふふっ、楽しそうです~♪」

ミルフィ,「ちょ、別に遊ぶわけじゃないのよ?ったく……真面目にやる気あるのかしら?」

アタル,「はは……ハッ!?」

凄まじい怨念のようなモノを背に感じ、振り返る。

男子学生,「姫様たちと、夜の勉強会だと……!」

男子学生,「くそっ……! 俺は今ほど呪いで人を殺せたらと思ったことはない……!」

黒いオーラがそこら中で立ち上っているのが見えたが。

嫉妬の炎で妬かれるのも、そろそろ慣れっこです。

…………

……

そんなわけで、俺の部屋に集まっての勉強会である。

#textbox Kmi0210,name
教鞭を取るのはミルフィ。

自信満々だけど、ミルフィに任せていいんだろうか。

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「ぴよぴよ?今回のテスト範囲の予想箇所を教えてくれる?」

ひよこ,「えー……うーん、数学はこの辺りかなぁ……化学はこの化学式とかが怪しいかなぁって思うけど……勘だよ?」

ミルフィ,「勘でOKよ。みんなが言ってたぴよぴよの並外れた勘、利用しない手はないわ」

アタル,「そうなのか……俺はむしろ、こっちの方が……」

ミルフィ,「アタルは余計なこと言わないっ! あんたが何か言うたびに、覚えることが増えちゃうんだから!」

アタル,「……ひどい」

セーラ,「よしよ~し、アタル様、泣かないでくださいね~」

セーラさんの手に慰められる。

ミルフィ,「国語、数学、理科、社会、英語……そうね、数学と英語はあたしに任せて。国語はニッポン人のぴよぴよ、あんたに任せるわ」

ひよこ,「え、私でいいの?」

ミルフィ,「付け焼刃のあたしより、ぴよぴよの方が適任でしょ」

ミルフィ,「英語はあたしの母国語だしね。残りの理科と社会は、彼女たちに任せるわ」

アタル,「彼女たち?」

アサリ,「どもー、理科の特別講師、アサリですよー」

エリス,「社会は自分がお教えします」

ひよこ,「アサリさんとエリスさんが?」

アサリ,「おやー、ひよこさんはご不満ですかー?」

ひよこ,「いえ、不満っていうわけではないですけど……大丈夫なのかなーって」

アサリ,「ふふー、アサリも見くびられたものですねー。アサリは理科のエキスパートなのですよー」

アサリ,「生物の肉体構造を知らないと、このお仕事は勤まらないのですよー。生物・化学は毒物の宝庫ですしねー。何mgで人体に影響――」

アタル,「……わかった、もういい。アサリさんが理科に詳しいことはよくわかりました。で、エリスさんは?」

エリス,「歴史と政治は自分にお任せください。人類の歴史は、戦争と政治が紡いでいます。自分以上の適任はいないでしょう」

あ、それはなんか納得。

エリス,「化学も多少は心得ております。爆発物の調合――」

アタル,「それはいいです!それじゃ、今日から1週間お願いします」

エリス,「了解しました」

アサリ,「確かに任されましたよー」

…………

……

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「多項式の除法って、要は単なる割り算よ。式自体は、小学校の時に習ってるでしょ?」

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「当てはめて、上から順番に詰めていくだけ。ほら、ここに2Xを入れれば、頭のは消えるじゃない?」

アタル,「あ……これで頭のXの2乗が消えて、残りが3X-4……ここに3を入れて、余りが7か。解けた!」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「そうそう、よくできました。乗数が3になっても4になっても、おんなじよ。ポカミスさえしなければ解けるわ」

セーラ,「まぁ……ミルフィさん、頭いいんですね~」

ミルフィ,「このくらい常識だってば、常識。毎日、授業受けてるんでしょ?」

アタル,「受けてるけどさ……テストは面倒とか言ってたわりに、ほぼ完璧じゃないのか?」

ミルフィ,「面倒よ? でも、できるのと面倒なのは別物なの」

ミルフィ,「でも、こんな初歩からつまずいてるのね。ちょっと先が思いやられそうだわ。もっとビシビシ行くから覚悟しなさいよっ!」

セーラ,「お、お手柔らかにお願いします~」

ミルフィ,「とりあえず、セーラは胸に回ってる栄養を、脳に回しなさいよ。ちょっとくらい縮んでもいいでしょ?」

セーラ,「まぁっ、ひどいです~!ミルフィさんには負けませんからねっ!」

ミルフィ,「ふふーん、悔しかったら、あたしを負かしてみせなさい♪」

アタル,「おいおいこらこら、ふたりとも……」

セーラ,「ミルフィさんに絶対負けないお勉強もあるのですけど、残念ながら、学園の科目にはないみたいですから~……」

ミルフィ,「……? あたしに絶対負けない科目? なにそれ」

セーラ,「保健体育の実技でしたら、手取り足取りマンツーマンでお教えできるのですけど……ね、アタル様~♪」

アタル,「あぁ、なるほどね……って、ぅえぇえぇっ!?」

ミルフィ,「ちょおっ!? そんなハレンチなテスト、あるわけないでしょ!」

…………

……

またある日は、エリス先生の社会授業。

#textbox Ker0110,name
エリス,「ニッポン王国に王政がしかれるようになり早200年。その間にも、各国の間で様々な戦争が生じたわけですが」

エリスさんの戦争――否、歴史講義。

#textbox Ker0160,name
エリス,「ニッポンの軍略には異を唱えたいですね。電撃作戦を仕掛けるにしても、もっと別の方法があったはずなのです」

#textbox Ker0110,name
エリス,「だいたいあの程度の戦力で、大国に挑もうというのが愚かしいとしか言えません。あのような決着を待たずして、敗北は見えていたというのに――」

アタル,「あの……そこはテストに出るんですかね……?」

講義の間、使用された武器やら戦略やら自分ならこうしたやら、テストにはまるで必要のない情報も加わりつつ。

…………

また別の日は、アサリ先生の理科授業。

#textbox Kas0120,name
アサリ,「はい、この時に発生するのがCO、いうまでもなく、一酸化炭素ですねー。酸素が不十分な環境での燃焼、つまり、不完全燃焼の際に発生しますー」

#textbox Kas0180,name
アサリ,「一酸化炭素は無味・無臭なのに、大変強い毒性があるんですよー。気をつけてくださいねー」

アサリ,「一酸化炭素と血液中のヘモグロビンはとても仲良しで、その結びつきは酸素の200~300倍と言われていますー」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「だから、ちょっとの量でも一酸化炭素を身体に吸い込むと、酸素を運ぶ量が減って、酸素欠乏状態になって、ひどいと死んじゃうんですねー。怖いですねー」

アタル,「……なんか活き活きしてませんか、アサリさん」

#textbox Kas0180,name
アサリ,「寒い時期、皆さんはくれぐれも暖房の消し忘れには気をつけてくださいねー。アサリ先生との約束ですよー」

ミルフィ,「寒い時期って……こっちは、これから夏よ?」

ひよこ,「アサリ先生、誰と喋っているんですか?」

アサリさんの毒物――否、化学式講義。

他にも具体的な調合方法や使用する際、何に混ぜれば気づかれにくいか等、今後活用することはないと思われる知識も叩き込まれた。

そんな必要以上の雑談を交えているからこそ、印象深くなり、楽しんで覚えられている節もある。

#textbox Ker0110,name
エリス,「――では、一旦休憩を入れましょうか」

セーラ,「ふぅ~、やっと一息入れられます~」

ひよこ,「それじゃ、私は紅茶を入れてきますねー」

ミルフィ,「待ってました! それじゃ、あたしも買ってきたドーナツを出すわ!」

アタル,「……それって……手作りじゃないんだよね?」

ミルフィ,「違うわよ。買ってきたって言ったでしょ?またそんなに、あたしの手作りドーナツ食べたいの?」

アタル,「いえいえいえ、また今度の機会で!」

ミルフィ,「そ? それじゃ、また今度作ってあげるから、楽しみにしてて」

アタル,「ワ、ワァイ、ウレシイナァー?」

#textbox Ker0110,name
エリス,「それにしても――こういっては失礼ですが、アタル王は存外、物覚えがよろしくて助かります」

アタル,「エリスさんやミルフィの教え方がうまいからですよ。ありがとうございます」

#textbox Ker0160,name
エリス,「自分は姫様の命令に従っているまでですよ。礼には及びません」

#textbox Ker0110,name
エリス,「むしろ、自分の方からアタル王にお礼を申し上げたい」

アタル,「俺に?」

#textbox Ker0120,name
エリス,「ええ、ここに来てからの姫様は大変明るくなられました」

アタル,「明るくっていうか……どうにも振り回されてばっかりな感じだけどね」

#textbox Ker0180,name
エリス,「アタル王にはお気づきになれないと思いますが、イスリアにいた時とは見違えるようですよ。さらに可愛くなられて……自分はもう……!」

出会った時との違いがわからない。彼女の細かい機微がわかるのは、エリスさんならではなんだろう。

アタル,「っと……ちょっとトイレ行ってくる」

#textbox Ker0110,name
エリス,「いってらっしゃいませ。ごゆっくり」

…………

…………

アタル,「ふぅ、さっぱりさっぱり……お?」

用を足して戻る最中、廊下で柴田さんとすれ違った。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「お疲れ様です、アタル王。勉学に励まれているようで何よりです」

アタル,「はは、ミルフィやみんなに助けられてばかりだけどね」

柴田,「ところでアタル王、このような場合でも、王の権力を行使することができますよ」

アタル,「こんな場合?」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「例えば、テストをなくすなんてこともできるわけです」

アタル,「あー……なるほどね……でも、それは……ずるいだろ。公私混同だ」

アタル,「みんなが頑張ってるのに、こんなところで権力を使って、逃げるわけには行かないよ。テストくらい、ちゃんと受けるさ」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「言ってみただけ、ですよ。その心がけ、ご立派です」

言い残して、柴田さんは立ち去る。

さて、明日の本番に向けて、ラストスパートだ!

…………

……

そして、翌日――テスト当日を迎える。

よし、解ける。解ける!

ここはミルフィに教えてもらった問題。そこはアサリさんが具体例を交えて、懇切丁寧に教えてくれた問題。
どこぞの赤ペン先生に教わった学生の如く、俺の答案はスラスラと埋まっていった。

テスト終了のチャイムが鳴り響き。

アタル,「……っふぅー! 終わった!」

これにて、全テスト終了!

セーラ,「アタル様、お疲れ様です」

ミルフィ,「どんな感じ? 勉強の成果は出たかしら」

アタル,「今までで一番手ごたえを感じたかな。ミルフィたちのおかげだよ、ありがとう」

ミルフィ,「ま、このあたしが見てあげてるんだもの。いい結果が出て、当然よね」

…………

……

後日、テスト返却がおこなわれて。

俺のテストに赤点はないどころか、今までで屈指の良い結果を叩き出せた。

で、後日、結果発表がなされたのだが。

ひよこ,「えへへー……なんかすっごい得点取れちゃった」

アタル,「……すげぇ、100点って実在するんだな」

ヤマが命中しまくったあげく、学力を身に付けたヒヨは鬼に金棒。見事、学年トップ3へと食い込んだのである。

そんなトップ3の面々の名前の中に――

アタル,「……あれ? ミルフィの名前が上位にないな?」

あれだけ頭脳明晰と自画自賛していたのに。いや、教えてくれてる時の様子からすれば、学年トップクラスに食い込んでいておかしくないはずだったのに。

ミルフィ,「社会のテストの解答欄、ひとつずれてたのよ……」

アタル,「……あ~……」

なんとも言い難い、息を漏らす俺。

そんな時、ミルフィにかけてあげる言葉を、俺は持ち合わせていなかったのであった。

…………

……

#textbox Ksi0110,name
柴田,「テストお疲れ様でした、アタル王」

目の前にコーヒーが置かれる。

アタル,「ありがとう、柴田さん」

ズズッと1口すする。苦味と香ばしさが心地いい。

柴田,「ご提案がございます、アタル王」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「テスト完了記念としまして、些細なご褒美ではありますが、アタル王にプレゼントを用意しておきました」

アタル,「プレゼント?」

ピッと目の前に突き出された柴田さんの指に挟まれているのは。

アタル,「……これはチケット?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「ええ、遊園地のチケットでございます。人数は無制限、何名でも連れて行くことができます」

柴田,「テスト後の振り替え休日、せっかくですから、仕事も学業も忘れ、ハメをはずされてはいかがかと思いまして」

遊園地なんて何年足を運んでないだろう。昔、ヒヨや家族と行ったっきりじゃなかったかな。

アタル,「そうだね。それじゃ、お言葉に甘えて、みんなで行ってくるかな」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「『みんな』もよろしいですが、アタル王、もうじき期日の1ヵ月となります」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「特定の『誰か』をお連れするのをお薦め致しますよ」

アタル,「……そうだね」

そう、婚約者決定までの期限は間近に迫っていたのだ。

…………

……

女の子を選択して下さい。
[ひよこ必須フラグ=1]{
[ひよこ必須フラグ=0]{
def_selmes 女の子を選択して下さい。
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ひよこ,「わぁい、着いたねっ」

家族連れ、カップル、友達同士。一般客もごった返す遊園地。

そんな只中に、俺とヒヨはいた。

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「アタルくんが遊園地に誘ってくれるとは思わなかったよー」

アタル,「ま、たまにはな」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「でも、王様なのに大丈夫なの? 誰かに見つかっちゃわない? 柴田さんには何か言われなかったの?」

アタル,「大丈夫だろ。木を隠すには森の中ってな。逆にこんなところに、王様がお付きも護衛も連れずにいるなんて思わないって」

アタル,「なんたって、俺には偉そうな王様オーラなんてちっとも出てないからな!」

帽子をかぶったり、多少の変装をしているとはいえ、実際、さっきからすれ違う人たちが、俺に気づいた様子はない。

街中で芸能人にすれ違ったって、案外気づかないものだ。

だいたい、遊園地なんて場所じゃ、みんな自分が楽しむのに一生懸命で、周りの人なんて見ちゃいないからな。

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「もう、偉そうに言うことじゃないよー、あはは」

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「それにアタルくんは忘れてるのかな? 私はアタルくんのお付きのメイドさんだよ?」

アタル,「今日はそういうのはなし。今日の俺とヒヨは、王様とメイドじゃない。ただの鷹羽学園に通う2人の学生だ」

アタル,「だから、遊園地を貸切になんてしないで、ごく普通に、一般人として遊びに来たんだからさ」

アタル,「ま、それも最後、なんだけどな」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「え……最後……?」

アタル,「あ、いや、気にしないでいいんだ」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「……?」

アタル,「よし、まずは何から乗るか!」

#textbox Khi0250,name
ひよこ,「うーん……まずはジェットコースターからかなっ」

アタル,「うぉ……最初からトバすなぁ……始めはもっと軽いものでもいいだろうに……」

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「だって、一番人気なんだよっ。どのくらい並ぶのかわからないし、ここに来たからには乗っておかなくちゃだし……」

アタル,「……よし、覚悟は決めた! 行こう!」

さすがに定番で、メインで、人気のアトラクション、ジェットコースター。

アタル,「いきなり1時間待ちかー……ま、そんなもんだよな」

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「うんうん、そんなもんそんなもん。でも、1時間なんてお話してたら、あっという間だよー」

アタル,「だな」

そう、俺とヒヨの間には、今まで蓄積してきた長い年月がある。

ひよこ,「遊園地、小さい頃に家族で来たことあったよねー」

アタル,「ああ、そうだったな。あの時はお互いの家族と一緒だったっけ」

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「うんうん、あの時、アタルくんが迷子になっちゃって、大変だったんだよねー」

アタル,「え、そうだったっけ?」

#textbox Khi0280,name
ひよこ,「そうだよー、もう、アタルくんはなんでも忘れちゃうんだから。忘れんぼさんだ」

コツンとおでこにチョップ。

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「ここのジェットコースターに並んだ時、アタルくんがトイレに行きたいーっていうから抜け出したんだよ」

アタル,「え、あ、あー……思い出した!やめ、そこまででいい!」

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「えへへー、ダメだよー、ぜーんぶ思い出させちゃうんだから」

#textbox Khi02A0,name
ひよこ,「せっかく順番が来たのに、アタルくんってば全然戻ってこなくて、迷子放送もしてもらったのに、全然見つからなくて」

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「やーっと見つけたと思ったら、ゲームコーナーのドライブゲームの椅子で寝ちゃってるんだもん」

アタル,「あ、ははー……面目ない。あの時、起こしてくれたのは、ヒヨだったよな」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「うん、なんとなーく、アタルくんがそこにいるかなーって思ったら、いたんだよね。不思議なんだけど」

アタル,「今思えば、あの頃から勘が良かったんだな」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「……でも、アタルくんを見つけた後は、ふたりして迷子になっちゃったんだけどね」

アタル,「あ、そうだそうだ。係員のお姉さんのところに、泣いてるヒヨの手引っ張っていった覚えがあるぞ」

#textbox Khi0240,name
ひよこ,「わー! わー! なんでそういうところは簡単に思い出しちゃうのかなぁっ!」

アタル,「まだケータイも持たせてもらってない頃だったもんな」

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「そうだよね、随分、前のことだよね」

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「ふふっ、アタルくんとこうしてゆっくりお話するのって久しぶりだから、なんだか嬉しいな」

アタル,「だな。最近は必ず誰かが傍にいたし……裏庭で散歩しながら、話した時くらいか」

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「だね。あの時も最後はミルフィさんとセーラさん――むぐっ……え、えーと、2人に会っちゃったしね」

国家クラスの重要人物の名を出すのははばかれたためか、ヒヨは咄嗟に口を閉じた。

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「でも、今日のデー……」

アタル,「デー?」

#textbox Khi0240,name
ひよこ,「じゃ、じゃなくて! 違くて! えっとえっと、お、おデーかけは、本当に2人に内緒で大丈夫だったのかな?」

アタル,「大丈夫だ、問題ない」

……

…………

アタル,「――柴田さんから遊園地のチケットをもらったんだけどさ。行かないか?」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「遊園地……? わぁ、楽しそうだねっ」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「でも、なんでこっそり教えてくれるの? さっきご飯食べてる時にいえば良かったのに」

アタル,「ミルフィとセーラさんには秘密なんだ」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「秘密……?」

アタル,「2人には内緒。俺とヒヨだけだ」

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「え……そ、そうなんだ……」

アタル,「今度の土曜日、ここからみんなに気づかれずに出る方法はちゃんと手配する」

アタル,「出る時や準備をする時は、絶対にミルフィやセーラさん……いや、勘の鋭いエリスさんやアサリさんに悟られないようにな」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「う、うん……気をつける」

アタル,「それで口頭で伝えるのは今日だけだ。いつどこで聞かれるかわからないからな。あとは全部、自分の部屋に誰もいないことを確認して、メールで連絡し合う。OK?」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「う、うん……えへへ、スパイみたい。なんだかドキドキするね」

アタル,「他の誰かに気づかれた時点で、このミッションは失敗だからな。気をつけるんだぞ?」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「はい、かしこまりました、王様っ♪」

…………

……

このことを伝えた後から、ヒヨの行動がやや浮き足立って見えたような気がしなくもなかったが……まぁ、大丈夫だったのだろう。

実際、今、こうして、俺とヒヨは柴田さんの手引きで無事に遊園地へと辿り着いているのだから。

アタル,「ヒヨに大事な話があるからさ。ふたりっきりが良かったんだ」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「え、えっ、大事な話……?」

アタル,「ああ、まだここじゃ言えないんだけど……」

#textbox Khi0250,name
ひよこ,「そうなんだ……?なんだろう、気になるなぁ……」

アタル,「後で必ず言うよ……あ、次、俺たちの番だな。いやー、久しぶりだから、ドキドキするなぁ」

#textbox Khi0240,name
ひよこ,「そ、そうだね、私も今からドキドキだよー」

#textbox Khi0250,name
ひよこ,「これってデート……だよね。アタルくんとふたりっきりなんだもんね……♪」

…………

……

セーラ,「アタル様~? どこにいらっしゃるのでしょう……」

ミルフィ,「アタルー? おかしいわね……部屋にもいないわ」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「ハッ!? もしかして、ふたりでどこかに……!?」

エリス,「そう考えるのが、妥当かと思われますね」

……

ミルフィ,「――あっ、柴田。アタルとぴよぴよが見当たらないんだけど、どこに行ったか知らない?」

柴田,「いえ、存じませんね。仮に知っていたとしても、お教えできません」

ミルフィ,「? なによ、それ……まぁ、いいわ。わかった。あたしたち、2人を探しに行くから」

柴田,「申し訳ありませんが、今の時間は、皆様を王宮外に出すことはできません。必要なモノがありましたら、コチラで用意いたします」

ミルフィ,「それは……もしかして、アタルの命令なのかしら?」

柴田,「その問いにはお答えできかねます」

ミルフィ,「ふぅん?『沈黙は肯定』ってね。黙ってればなんでも通ると思ったら大間違いよ?」

セーラ,「頼りのアサリさんも、またたび酒で潰れちゃってます~……」

アサリ,「ふにゃ~ん……ゴロゴロゴロ……もう飲めないですよー……♪」

エリス,「真昼間から酒に溺れるとは……護衛の風上にもおけませんね」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「ったく……どういうつもりよ、アタル。帰ってきたら、絶対にしばいてやるんだから!」

…………

……

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「あはははっ、楽しかったねー!」

アタル,「はぁ、はぁっ……! ヒ、ヒヨ、よく平気だったな!」

さっきの昔話のジェットコースターに並んだのに、途中で逃げ出したのは、ジェットコースターが怖かったからだ。

あんな人知を超えたスピードの乗り物に、身体むき出しで風を受けて乗るだなんて、考えられん。

ひよこ,「えー、なんで? 気持ち良かったよー」

アタル,「ほら、毎年、そこかしこで事故があったりするじゃん。絶対安全なんかじゃないじゃん」

そんな余計なことを考えてしまうから、余計に怖さが増すんだろうけど。

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「そんなこと言ったら、車とか船の方がもっと危険だと思うけどなぁ」

#textbox Khi0250,name
ひよこ,「交通事故なんて毎日起きてるんだし、船なんて海に投げ出されちゃったりしたら大変だよー」

アタル,「ぬぅ、それを言われると弱いな」

アタル,「――じゃ、次はあっちのボートに行ってみるか。きっと楽しいぞぉ!」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「えー! 今の話からボートに乗るなんて、アタルくん、イジワルだぁ!」

…………

……

さすがは休日の遊園地、2つ3つ乗ったら、すっかりお昼時だ。

俺たちは園内のレストランへ入る。

昼飯時だっただけに多少待たされたが、程なくして席へと案内されて。

トマトソースと魚介たっぷりスパゲッティ(大盛)を、ひとつだけ注文した。

たまたまヒヨの希望と俺の希望がかぶったので、取り分ければいいか、という判断。無駄に頼んで、金をドブに捨てる必要はない。

ひよこ,「わー、めいっぱいだねー!」

アタル,「ちょっと多すぎたな……なんだよ、これ、チャレンジメニューか……?」

ウェイトレスさんが『当店の大盛りはガチで大盛りですけど大丈夫ですかー?』とは言っていたが、よもやこれほどの量とは。

ひよこ,「でも、大丈夫だよ! 食べ盛りの2人なら、きっとこのくらい制覇できるよっ!」

ひよこ,「いっただきまーす♪」

満面の笑みを浮かべて、スパゲッティを巻き取る。

俺もまたくるくるっと山の下の方からスパゲッティを巻き取り、口へと運ぶ。

うん、芯が微妙に残ったアルデンテ。いい茹で加減だ。

魚介の旨味もじっくり出ていて、遊園地のレストランだからたかが知れてるかと思ったけど、うん、これはかなり美味しいな。

……なんだ、俺、美食家気取りか? ちょっと前までは、食べれれば味なんてそこまで気にしなかったけど、ここ1ヵ月で無駄に舌が肥えたか。

ひよこ,「わぁ、美味しーい♪」

味に関しては、ヒヨも俺と同意見らしい。

まぁ、ヒヨの料理を食って育ってきた俺だ。味覚が似通うのも当然かもしれない。

俺よりも早いペースで、スパッゲティを食べていくヒヨ。

アタル,「なんかこう……山が徐々に崩れていくのは、棒倒しゲームみたいだな?」

ひよこ,「あ、砂場でやったことあるよねー」

アタル,「一番上に、ニッポンの国旗でも刺さっていたら、まさにそんな感じだな」

ひよこ,「そうだねー。でも、食べ物で遊んじゃダメ。感謝しながら食べないといけないんだよー」

ひよこ,「あー、美味しいなー♪ 美味しいなー♪」

ニコニコ笑いながら、スパゲッティの山を切り崩していくヒヨが、俺の目に妙に可愛く写った。

だが、可愛いからこそ、いぢめたくなってしまう。

アタル,「炭水化物の取りすぎは太るんだぞー?」

ひよこ,「う……そうだけど、でもでも、パスタの炭水化物はあんまり太らないんだよ! ごはんに比べたら、ヘルシーなんだからっ!」

アタル,「いや、だからといって、この量は……ヒヨがぷよぷよになっちゃったら、さぞやいいフォアグラが取れるんだろうなぁ……」

ひよこ,「う゛~、言わないでよー……メイドさん始めてから、絶対に太ったんだからー……」

ひよこ,「それにフォアグラはガチョウのレバーだよ。ヒヨコからは取れないよー」

アタル,「で、太ったの?」

ひよこ,「女の子に体重のことを聞くのは、デリカシーに欠けると思うよっ!」

アタル,「で?」

ひよこ,「うぅー、アタルくん、イジワルだぁ……そのー……怖くて、1ヶ月くらい体重計に乗ってないー……」

アタル,「あー……それはまずいな。太ってるフラグだな」

ひよこ,「うぅ……やっぱりそう思う?」

アタル,「服がキツくなったとかは?」

ひよこ,「うーん……ウエストはそうでもないけど……胸の周りがちょっとキツくなったかもー……」

アタル,「なんだ、栄養が胸に回ってるんだったら、いい傾向じゃないか」

ひよこ,「胸ばかり成長しても困っちゃうんだよぉ……ブラのカップが合わなくなっちゃうし……今のもちょっとキツい気がするし、新しいの買わなくちゃダメかなぁ……」

くいくい、と、服の上からブラのポジションを直す。

アタル,「ぶっ!?」

その仕草に思わず、飲んでたアイスティーを噴きそうになる。

アタル,「あのな……クラスの友達と話してる感覚で、俺にそういう話をするな……」

ひよこ,「ん……あぁっ!? ち、違うの! 違うの!い、今のなし! 聞かなかったことにしてっ!?」

アタル,「ごめんなー、俺の脳にはデリート機能がないもんでさ」

アタル,「そっか……ヒヨの胸は絶賛成長中か……」

それは今後が楽しみだ。いずれはセーラさんに匹敵するボディになってくれるかと思うと、胸が高鳴る。

さすがにアレは無理かな。ニッポンじゃ規格外かな。

ひよこ,「昔のことは忘れちゃうのに、なんでこういうことは覚えちゃうのー! 忘れてっ、忘れてーっ!」

アタル,「なんでかといわれれば……それは俺が男だからに他ならないな」

ひよこ,「あー、あー! このスパゲッティ美味しいなー!ねっ、ねっ、アタルくんはもっと食べないの?」

ヒヨは誤魔化すように、まくし立てるように言う。

アタル,「ん? まだ食べるけど」

ひよこ,「はい、あーん♪」

アタル,「もぐがっ!?」

それ以上の追求に対する口封じのためか、スパゲッティを無理矢理ねじ込まれた。

そんなやり取りをしていたせいか、辺りの目が俺たちの方に向いている気がする。

ひそひそ、と、俺たちを見て囁く声が聞こえた気がした。

もしかして、王様だとバレてるんだろうか。

お客さん,「あら? もしかして、あの人たち……?」

お客さん,「そんなわけないだろ。こんなところにいるわけないって」

やっぱり案外気づかれないらしかった。

自分のオーラのなさは嘆くべきなのかなぁ。

…………

……

アタル,「ふぅ、食った、食ったー……」

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「美味しかったねー……幸せ幸せ」

アタル,「しかし、よく食ったな……あの後にデザートまでとは……」

ちなみにスパゲッティをたいらげた後、ヒヨは食後のデザートにアイスクリームを追加した。

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「女の子はデザートは別腹なのっ。アイスクリームだったら、いくらでも食べられるよー」

アタル,「いくらでも食べられるはいいけど、溶けたアイスがついてる」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「えっ、どこ? どこ?」

アタル,「右のほっぺの……あー、いいや、取ってやるよ」

ヒヨのぷにぷにしたほっぺについたアイスを人差し指でぬぐう。

#textbox Khi0240,name
ひよこ,「ひゃうんっ!?」

アタル,「なんて声出してるんだ。ぺろ」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「舐めたよっ!?」

アタル,「え? ハンカチなかったし、まぁ、いいかなって……」

#textbox Khi0280,name
ひよこ,「もう、デートの時は、ハンカチくらい持ってこなきゃダメだよー。はい、手出して。拭いてあげる」

アタル,「……え」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「あっ……! な、なんでもないのっ!今日のはおでかけ、ただのおでかけなんだもんねっ」

アタル,「う、うん……」

デートだと肯定するのが気恥ずかしくて、言葉尻をごまかしてしまう。

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「と、ところでアタルくん、さっき言ってた大事な話はまだしてくれないのかな?」

アタル,「えっ、あ、ああ……まだここだと人目がありすぎるから……どこか別の場所でな?」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「人目があるといえないんだ……」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「……あっ……!?」

#textbox Khi0250,name
ひよこ,「もしかして、それって、すごく言いにくいこと……?」

アタル,「え……ま、まぁ、そうだな……」

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「もしかして……ここにいない人たちも関係してること……?」

アタル,「……ああ、うん、確かに関係はしてる……」

#textbox Khi02A0,name
ひよこ,「そっか……そうなんだ……」

ヒヨの顔が急に落ち込んだ。

アタル,「ん……? どうした? もしかして、泣いてるのか?」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「な、泣いてなんかないよっ!?全然、泣いてなんか……!」

アタル,「いや、だって、その涙……」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「さ、さっき食べたスパゲッティの中に、唐辛子の塊があってね、すっごく辛かったの! もう、せっかく我慢してたのに、なんで言っちゃうかなぁ」

アタル,「今更!? なんで!?」

#textbox Khi0280,name
ひよこ,「歯の奥にひっかかってたの! 辛かったの!」

アタル,「そ、そっか、それなら仕方ないな。それにしても、ヒヨのほっぺって……」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「……え?」

アタル,「ぷにっぷにだったな……やっぱり、ちょっとダイエット考えた方がいいんじゃないか?」

#textbox Khi0280,name
ひよこ,「もー、アタルくんのイジワルーっ!」

…………

……

そんな風に誤魔化してはみたものの。

#textbox Khi0270,name
その後、ヒヨの様子はやはりどこかおかしかった。

飯を食う前に比べ、明らかにテンションが落ちている。

無言になる時間も増え、首も下を向きがちだったが。

アタル,「なぁ、ヒヨ、大丈夫か?具合悪いのか? 食べ過ぎたか?」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「う、ううん、平気、平気だよっ! さ、次は……あ、私、アタルくんとゴーカートで勝負したいなっ」

アタル,「お、おう?」

なんだか、無理に取り繕っている感じがした。

…………

……

アタル,「ふぅー……遊んだ遊んだ……」

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「あはは、お疲れ様でしたー。私もちょっと疲れちゃったかなー」

家族連れは帰ってゆく。人が次第にまばらになってゆく。

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「こんな風に遊んだの、久しぶりだったねー」

アタル,「だな、ここんとこ、ずっと王宮の中だったり、必ず他の人がいたし」

ひよこ,「アタルくんとこんなに長い時間ふたりっきりだったのも、久しぶりだった。すっごく楽しかった。いい思い出になったよ」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「帰る前に……最後に、わがまま言ってもいいかな?」

アタル,「ああ、俺にできることならなんでも」

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「観覧車、一緒に乗らない?」

確かに、締めくくりには最高のシチュエーションだ。

何グループかの順番待ちの後、俺たちは観覧車へと乗り込んだ。

観覧車は止まることなく、ゆっくりと動き続けている。

2人だけの15分間の密室。ちょうどいい機会だ。

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「ここだったら、私たちの他、誰もいないよ」

アタル,「ああ、うん……ごめんな。今の今まで引き伸ばしちゃったけど……今日はヒヨに大事な話があったんだ」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「うん……だから、私だけを呼び出したんだよね」

#textbox Khi0250,name
ひよこ,「うん、アタルくん。もう覚悟はできてる……」

……覚悟? 何の覚悟だ?

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「アタルくんが私に言いたいことって……お別れ……だよね?」

アタル,「……は?」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「ミルフィさんかセーラさんと付き合うから、私とはもうお別れだから……最後に私を呼び出して……思い出を作ってくれたんだよね……?」

ギュッと、ヒヨの手は力強く握り締められていた。何かを我慢するように。何かにすがるように。

アタル,「お、おい、ヒヨ、俺にはおまえが何を言ってるのかさっぱり……」

#textbox Khi02A0,name
ひよこ,「最後にいい思い出ができたよ。ありがとう、アタルくん」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「私、アタルくんのこと、ずっと……」

アタル,「ちょ、ちょっと待てぇ! ヒヨ、おまえ、何、勘違いしてるんだ? ひとりで突っ走ってるんだ?」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「……え?」

アタル,「……あ、あー……それでか!それで昼飯食べた後から、なんか落ち込んでたのか!」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「えっ、えっ……? あ、あの、アタルくん、話が全然見えないんだけど……」

アタル,「おまえの暴走で、俺の方が話が見えてなかったよ、まったく……」

#textbox Khi0240,name
ひよこ,「えっ、えっ……アタルくんとお別れって話じゃないの……?」

アタル,「あー……うん、とりあえず、俺に喋らせてくれ」

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「う、うん……黙ってる……」

俺はヒヨの両肩を、両手でしっかりと押さえつけて。

アタル,「俺は、ヒヨが、好きだ」

はっきりとそう告げた。

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「はぇ……?」

アタル,「だから、俺と付き合ってくれ」

ひよこ,「…………」

ヒヨがフリーズした。

ゴウンゴウンと観覧車が動く音だけが、ゴンドラの中に響いていた。

そして、ヒヨの脳が再起動するまで数秒。

#textbox Khi0240,name
ひよこ,「ふえええぇええええええぇぇぇぇぇっ!!!?」

絶叫とともに、ヒヨ再起動。

ひよこ,「え、あ、あの、アタ、アタルくん? え、あ、あの、そのっ……ふぇっ、え、えぇっ……! えぇぇ!?」

両手を目まぐるしく、わたわたと振り回す。

アタル,「いや、その、落ち着け、ヒヨ。な?」

こくこくこくこくと縦に何度も何度も頭を振る。

うん、それは落ち着けてないからな?

俺の心臓はバクバクだったはずなんだけれど、自分以上にテンパってる人を見ていたら、なんだか落ち着いた。

アタル,「テンパった時は深呼吸だ。吸って」

#textbox Khi02A0,name
ひよこ,「すぅぅぅぅぅっ」

アタル,「吐いて」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「はぁぁぁぁぁっ」

アタル,「また吸って」

#textbox Khi02A0,name
ひよこ,「すぅぅぅぅぅっ」

アタル,「もう1回吸って」

ひよこ,「すぅぅぅぅぅっ!」

アタル,「好きだ」

#textbox Khi0240,name
ひよこ,「んひゃあぁああぁぁっ!」

落ち着かせるはずだったのに、また錯乱させてしまった。

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「お別れすると思ってたから……その、気が動転しちゃって……あの……あぁぁ、もう、何を言っていいのか、わかんなくなっちゃったよぉ……」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「あのっ、あの……アタルくん……本当なの……?私のことが好きって……付き合ってくれる、って……」

アタル,「恥ずかしいから、あんまり何度も言わせないでくれ」

アタル,「俺は、ヒヨのことが好きなんだ……その……ずっと、俺の側にいてくれてたヒヨのことが」

アタル,「だから、その……俺と付き合ってください」

改めて言い直すと、これ以上ないくらい恥ずかしすぎる言葉だった。

でも、これで、胸につかえていた物が、まとめてポロリと落ちたのを、実感した。

アタル,「ふぅ……やっと言えたよ」

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「それは、だって、アタルくんが……アタルくんには……お姫様たちがいて……」

ひよこ,「アタルくんはお姫様たちと結婚しないと――」

アタル,「1ヶ月考え続けたけどさ……やっぱり好きじゃない人とは付き合えないよ。付き合う人は、俺自身で選ぶ」

アタル,「それが最初から俺に与えられている権利だからね」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「アタルくん……」

アタル,「だから、何度でも言うよ。俺と付き合ってくれ、ヒヨ」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「私、お姫様でもなんでもないんだよ?普通の女の子なんだよ……?」

アタル,「ずっと一緒にいた。見てきたんだ。他の誰よりも、それはよく知ってるよ」

#textbox Khi02A0,name
ひよこ,「私、アタルくんに何もしてあげられないんだよ?」

アタル,「それは大きな間違いだな」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「え……?」

アタル,「ヒヨは俺のことを幸せにしてくれるじゃないか」

ひよこ,「え……」

アタル,「ヒヨがご飯を作ってくれれば、俺は幸せになれる」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「……アタルくんは……食いしん坊さんだ……」

アタル,「ヒヨが傍にいてくれれば、俺は幸せになれる」

#textbox Khi02A0,name
ひよこ,「……私……だって……」

アタル,「ヒヨの笑顔を見てるだけでも、俺は幸せになれる」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「……私……だって……!」

アタル,「ヒヨは、俺だけのお姫様だよ」

自分で言ったセリフに思わず赤面してしまった。

顔がカーッと熱くなるのを実感した。

#textbox Khi0240,name
ひよこ,「うわ、うわっ……アタルくん、今の言葉、すっごく恥ずかしいよぉ……」

アタル,「そ、そう言うなよ……今、俺もすっげぇ恥ずかしいこと言ったとか思ってるんだから……」

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「でも、嬉しい……すっごく嬉しいよ……!」

ひよこ,「アタルくん。私もずっとずっと、好きだったよ」

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「だから、これからも、ずっとずっと、好きです、アタルくん」

ひよこ,「私のことも、幸せにしてください」

アタル,「ああ、もちろん」

俺は力強く頷き、ヒヨを抱きしめた。

ひよこ,「ん……っ」

アタル,「ん……」

キスを交わしたのは自然な流れだった。

どちらから声をかけるともなく、自然と顔を寄せ合い、気がついたら唇が触れ合っていた。

互いの意思が、完全にシンクロしていた。

ひよこ,「ん、ちゅっ……ちゅ……ぷはぁ……」

初めてのヒヨの唇の感触。

マシュマロのように、柔らかくて。

プリンのように、震えていて。

ココアのように、温かい。

今までに経験してきたどんなことよりも甘くて、溶けてしまいそうで、気持ちのいい時間だった。

そんなデザートのようなキスから離れてしまうのも、どちらともなく。

ひよこ,「ふぁ……キスしちゃったね」

アタル,「……しちゃったな」

俺とヒヨは見つめあい、微笑みあう。

トン、と、ヒヨは俺の肩に頭を預ける。

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「はぁ……私、今、すっごく幸せ……幸せだよ……」

#textbox Khi02A0,name
ひよこ,「幸せすぎて、涙が出ちゃった……ぐす……」

アタル,「俺もすっごい幸せ……もっと早く、こうしてれば良かったな……」

あと1ヶ月、いや、もっと早く。

俺はヒヨと好き合うことも、できていたんじゃないだろうか。

いや、お姫様たちとの出会いがなければ、気づけなかったことはたくさんある。

ひとつ屋根の下で暮らし、ヒヨが近くにいる生活があったから、今、こうなった。

これは、きっと必然だ。

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「あ、あの……アタルくん……」

アタル,「どうした……?」

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「もう1回……キス……してもいい?」

アタル,「奇遇だな。俺ももう1回したいって思ってた」

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「えへ、そうだったんだ。私たちって、お似合いなのかもね」

どこまでも、俺とヒヨの気持ちはシンクロしていた。

…………

……

アタル,「おっと……ヒヨ、降りる時、足元に気をつけて」

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「うん、大丈夫……ありがと、アタルくん」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「アタルくんとお付き合いできるなら、すごく嬉しいんだけど……大丈夫かな?」

アタル,「……どうだろうな。問題はいろいろ山積みだけど……」

姫様たちを説得できるか。柴田さんを説得できるか。

そして、俺はこのまま、王様でいられるのか。

王様の権利を放棄した場合は島流し、だなんて言ってた気がする。

決して楽しい響きじゃないけれど、でも、そこにヒヨも連れていけるならば、それはそれで悪くないかもな。

アタル,「でも、誰になんて言われようとも、俺はヒヨを手に入れるためには誰とでも戦うつもりだよ」

#textbox Khi0220,name
ひよこ,「……ありがと。私も応援するからね。私はどんなことがあっても、アタルくんの味方だから」

俺はヒヨとともに、手を繋いで、観覧車から降りる。

アタル,「……あれ?」

観覧車を降りて、遊園地の中を見渡すと、あれだけいたはずの客が人っ子ひとりいなくなっていた。

まるで貸切だ。

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「お客さん、いないね? みんな帰っちゃったのかな……?閉園時間になっちゃったのかな?」

アタル,「いや、まさか……」

閉園まではもう少し時間があるはず。さっきまで観覧車にも人が並んでいたはずだ。

誰もいないと思っていた広場に、この遊戯場に似つかわしくない、燕尾服に身を包んだ男が1人。

そこには柴田さんがいた。

柴田,「お疲れ様です、アタル王」

アタル,「し、柴田さんっ……!」

ひよこ,「み、見ちゃいまし……た?」

柴田,「ええ、申し訳ありません。大変仲睦まじいところを」

いつも通り、この人はタイミングがいいというか悪いと言うか……。

アタル,「柴田さん……もしかして、人がいなくなったのは、柴田さんのせい……?」

柴田,「ええ、察しがよろしいようで何よりです。少々、人払いをさせていただきました」

柴田,「そして、私もわりと察しがいい方でして。アタル王。私が申し上げたいことはわかりますね?」

俺がヒヨとともに2人きりで遊園地に向かったこと。そして、今こうして手を繋ぎ、仲睦まじくしている。

それだけあれば、察するには充分だろう。

アタル,「俺は、ミルフィでもセーラさんでもなく……ヒヨと添い遂げる」

柴田,「困りましたね……他国の王女ではなく自国の、しかも、ごく一般市民である彼女とお付き合いするとなると……」

柴田,「御無礼を承知で進言させていただきますが、ひよこさんを選ぶことの意味を深く考えた上でのことですか、アタル王」

アタル,「もちろん。何と言われようとも、俺はヒヨのことが好きなんだ」

アタル,「ダメだといわれても――俺は残った『絶対命令』を、ヒヨとの結婚に行使する」

それは王である俺に許された最終兵器。

強い意志を視線と言葉に乗せて、俺ははっきりと柴田さんに告げた。

柴田,「――なるほど、王の決心は硬いようですね。では、姫様たちには私からお伝えしておきましょうか?」

アタル,「……え?」

ひよこ,「……え? いいの……?」

思いの他、柴田さんはあっさりと折れた。

もう少し、やり合うモノかと思っていただけに、ちょっと拍子抜けだった。

柴田,「王の口から伝えるのも、お辛いでしょう?女性を泣かすのは、王の趣味ではないと思いますし」

拍子抜けしてしまった反動で、柴田さんと戦う気が消え失せる。

出されたのは魅力的な提案ではあった。

アタル,「え……あ……い、いや、できればそこは俺の口から伝えさせて欲しいんだけど……」

柴田,「男として、王としてのメンツを守るアタル王の態度には感服いたしますが、姫様方はともかく、アタル王にあのお付きの方々を止められるとは思えません」

柴田,「逆上したお付きの方々が、アタル王に対して、暴力を振るわないとも限りません。その時、アタル王は抗う術をお持ちにならないでしょう?」

アタル,「……う」

……確かに、エリスさんやアサリさんの戦闘力に、どう足掻いても一般人の俺が勝てるはずがない。

バルガ王に痛い目に合わされたように、自分の『当たらない』能力は、大して万能なスキルじゃないからな。

ひよこ,「うーん……確かに柴田さんに任せた方がいいかも……」

アタル,「ヒヨ?」

ひよこ,「アタルくんに危ない目にあってほしくないし……柴田さんがそうしてくれるっていうなら、お願いしてもいいんじゃないかな……?」

確かに柴田さんのは魅力的な提案だ。

アタル,「……うん、そうだな。柴田さん、お願いします」

柴田,「いえいえ、王の身のお世話をするのが、執事としての勤めですから」

アタル,「助かります。理解ある献身的な執事がいて、俺は幸せ者ですよ」

俺はにこやかに微笑む柴田さんに、礼を告げるとともに伝言を任せた。

――これが後に、大きな事件に繋がるとも知らずに――

柴田,「ひよこさん、姫でないあなたへの風当たりは強いものとなるでしょうが、頑張ってください」

柴田,「今後も、王への献身的なサポートに期待していますよ」

ひよこ,「は、はいっ、ありがとうございます」

柴田さんの手がヒヨの肩に触れた。

アタル,「む……!」

その時に抱いた感情は、自分の彼女に触れられた嫉妬。

そこに強く自分の意識が裂かれてしまったため、俺はその時の微細な違和感に気づけなかった。

柴田,「それでは、姫様たちにお伝えしておかねばなりませんので、アタル王、私はお先に失礼します」

柴田,「後ほど、別の使いをよこしますので、もうしばらくご遊戯をお楽しみくださいませ」

アタル,「……ああ」

返しがぶっきらぼうになってしまったのも、嫉妬ゆえだ。

アタル,「……さて、どうしよっか、ヒヨ。もうちょっと遊んでいこっか?」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「柴田さんに任せて、本当に良かったのかな……」

アタル,「え……?」

ヒヨが不審そうに、眉をひそめる。

アタル,「でも、柴田さんのことには一理あったし……ヒヨも一応、賛成したろ?」

#textbox Khi0250,name
ひよこ,「うん、そうなんだけど……」

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「やっぱり私がお姫様たちの立場だったら、アタルくんの口から聞きたかったかもしれないかな、って……」

アタル,「あ……」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「エリスさんやアサリさんは、そんなことしないって、1ヶ月一緒に暮らしてたからわかってるのに……」

アタル,「……それもそうだよな」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「なんだか柴田さんは、私たちを王宮に帰らせたくないみたいな感じがしたんだけど……私の気のせいかな」

――ヒヨの『気のせい』は危険だ。

ヒヨの気のせいは『当たり』を引く。

確かに言われてみれば、別に後からの使いを寄越さなくても、俺たちも柴田さんの車に一緒に乗って帰っても良かったはずだ。

柴田さんのさっきの発言、行動には、いろいろと引っかかる点が目立つ。

だからといって、この遊園地から歩いて帰るには、俺たちの王宮は遠すぎる。

ヘリでも呼ぶか、と、CROWNを手にした矢先だった。

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「……あれっ……?」

ヒヨが血相を変えて、自分の体をパンパンと叩く。

アタル,「どうした?」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「ないの……」

アタル,「ない? 何か落としたのか?」

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「巾着袋……! アタルくんからもらったリングを入れてた袋……」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「さっきまで持ってたはずなのに……あれ……あれ?」

アタル,「どこで落としたか、見当は?ジェットコースターとか?」

#textbox Khi02A0,name
ひよこ,「う、ううん、アタルくんと観覧車に乗ってた時は絶対にあったの。アタルくんと話している時、私、ちゃんと握ってたもん!」

そういえば、観覧車の中で、ヒヨは自分の手を力強く握っていた。あの時は、手の内にあったってことか。

アタル,「っていうことは……その後――?」

観覧車から降りて、たった今までの間に、紛失した?

そうなると、疑わしいのは。

アタル,「柴田さんか――?」

ヒヨの肩に、彼らしからぬ不自然さで触れたあの一瞬。

俺の視線をそっちに引き付けておいて、本命は別のところにあったってことか。

でも、柴田さんがヒヨのリングのことを何故知っている?

そもそも、あんな物を盗ってどうする?

#textbox Khi0280,name
ひよこ,「私、この辺を探してみる!アタルくんは先に帰ってて!」

手にしているCROWNで電話。

女性,「何か御用でしょうか、アタル様」

アタル,「柴田さんじゃない……? え、えっと……捜索の手配をしてほしいんだけど、できるか?」

女性,「――申し訳ありません。今現在、そのご命令はお引き受けすることができません」

アタル,「え……? えっと、それじゃ、俺たち、早く家に帰りたいんだ。至急、乗り物をここに手配できる?」

女性,「ただいま、向かわせております。今しばらくお待ちください」

アタル,「――わかった。ありがとう」

苛立たしげに、俺は通話を切る。

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「どうだったの?」

アタル,「今、迎えが来てるってさ……到着まで、俺も手伝うよ」

#textbox Khi02A0,name
ひよこ,「うん、ありがと……」

…………

……

俺たちの乗っていた観覧車の中や、ここまでの道のり、落し物に届いていないか探したが、結局、ヒヨの巾着は見つけられなかった。

#textbox Khi02A0,name
ひよこ,「どうしよ……どうしよう……ごめん、ごめんね、アタルくん。アタルくんからのプレゼントだったのに……!」

アタル,「中に入ってたのは、輪っかだよね?代わりに、今度何か別のをプレゼントするよ」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「最初のプレゼントの代わりになる物なんてないよ」

アタル,「っ、そっか……軽率だったね。ごめん」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「あっ、謝らないでよ。アタルくんは悪くないんだもん」

アタル,「それにしても、迎え遅いな……」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「そうだよね、いつもだったらもっと早く着くはずなのに」

それから、およそ10数分後。ようやく迎えの車は到着した。

アタル,「随分、時間かかったね」

女性執事,「大変申し訳ありません。道が渋滞していたもので」

車に乗り込んでいたのは、柴田さんではなく、あまり面識のない女性執事だった。

俺とヒヨは、彼女の運転する車へと乗り込む。

帰り道に対向車線を見たが、別段渋滞はしていなかったように思えた。

…………

……

俺たちはようやく王宮へと戻った。

アタル,「随分遅くなっちゃったな」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「早くミルフィさんとセーラさんに説明しよ……あっ!」

噂をすれば、なんとやら。

まさにこのタイミングに入れ違いで、2人とそのお付きが、王宮の外へと出ていこうとしていた。

4人はそれぞれ大きな荷物を抱えていた。

ミルフィ,「アタル……ッ!」

セーラ,「アタル様……ッ!」

アタル,「あっ、ミルフィ、セーラさん! 話したいことが」

そう言いかけた俺よりも早く、ミルフィが叫び、俺の服を掴んだ。

アタル,「ぐ……ッ!? ミルフィ、何を……!?」

遠慮や容赦のない、力任せな、怒りに任せた行為だった。

ミルフィ,「アタルッッ! あんたと話すことなんて、もう何ひとつないわっ!」

ミルフィ,「ただ、あたしに恥をかかせたことだけは、覚えておきなさいよっ! 絶対に後悔させてやるんだからッ……!」

ギリギリと首を絞める力が強まる。

アタル,「え……えっ?」

エリス,「貴様が一国の王でなければ、今頃、蜂の巣にしていたところだ……姫様を愚弄した罪……卑怯な振る舞い……恥を知れ」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「えっ、えっ!?」

セーラ,「アタル様、そうならそうと言ってくだされば良かったのに……どうせなら、その言葉……アタル様の口から直接お聞きしたかったです……」

呆然とする俺に、セーラさんが追い討ちをかける。

アサリ,「…………」

セーラ,「では、失礼します」

小さく一礼をして、4人は俺の前から去ろうとする。

アタル,「ちょ、ちょっと待って!みんな、何か勘違いをしてないか!?」

ミルフィ,「勘違い? 今日、あんたはあたしたちに隠れて、ぴよ――ひよことデートしてたんでしょ?」

ミルフィ,「そして、あんたはひよこを選んだ」

アタル,「う……!」

ミルフィ,「そう、間違ってないのよね?だったら、あたしたちの勘違いとは思えないわね」

セーラ,「さようなら、アタル様。できることなら……もっと素敵なお別れをしたかったです……」

ミルフィ,「行くわよ、エリ。セーラも……もう二度と会うことはないでしょうけどね」

セーラ,「そうですね……さようなら、ミルフィさん」

そう言い残して、俺に捨て台詞を残して去ってゆく。

ミルフィたちを迎えに来たヘリが去ってゆく。

セーラさんはお供を連れたまま、徒歩で王宮の門を潜る。

#textbox Kas0120,name
アサリ,「…………あはー」

アサリさんはヒラヒラと俺たちに、別れを告げるように手を振っていた。

ヒヨを選んだこと=彼女たちとの別れはわかっていた。

こんな別れ方を望んでいたわけじゃない。

いや……こんな別れ方もありうると想定するべきだった。

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「アタルくん……」

アタル,「これが俺の選択だったんだからな。仕方ないさ」

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「でもでも! 何かおかしいよ!」

#textbox Khi02A0,name
ひよこ,「私が悪いんだから、私が責められるはずなのに!なんでアタルくんが悪者にさせられちゃうの!?」

アタル,「だって、彼女たちを選ばなかった俺が――」

#textbox Khi0280,name
ひよこ,「アタルくんは悪くない! 悪くないもん!」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「そ、そうだっ、柴田さんがお姫様たちに何て言ったのか、ちゃんと聞き正そうよ!」

アタル,「あ、ああっ、そうだ、そうだな」

王宮へと入り、俺たちは柴田さんを探す。

アタル,「柴田さんを見なかった?」

女性,「いえ……先ほど、アタル様たちの元へ向かわれてからは存じませんが……ご一緒ではなかったのですか?」

――結局。

王宮中を駆けずり回り、使用人の誰に聞いても、柴田さんの行方はわからず、そして、柴田さんが姫様たちに何を伝えたのかはわからずじまいだった。

今日のところは、詰み、か。

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「アタルくん、アタルくん、アタルくぅん!?」

ヒヨが血相を変えて、俺の部屋へと飛び込んでくる。

アタル,「今度はなんだっ!?」

#textbox Khi0280,name
ひよこ,「あった、あったよーっ!?」

ヒヨの手に握られているのは、なくしたと思っていたはずの巾着袋。

中には、ちゃんと例のリングも入っていた。

アタル,「どこにあったんだ?」

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「私の部屋の、机の上っ」

アタル,「……忘れていったんじゃないのか?」

#textbox Khi0280,name
ひよこ,「そんなはずないよっ! 私は遊園地にいる時、ちゃんと持ってたよっ!」

柴田さんの失踪と関係がある?

あの時、盗った柴田さんが、今までの間に、何かをしていた……?

ヒヨの持っているリングと何が関係あるっていうんだ。

…………

……

突然、人が少なくなり、王宮は途端に静かになった。

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「静かになっちゃったね……」

アタル,「だな……」

なまじ広いだけに、静けさが増した気がする。

使用人たちがいるとはいえ、ヒヨとふたりっきり。

俺は消沈しているヒヨの肩を抱き寄せた。

アタル,「ヒヨ、ずっと待たせてごめんな」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「えへ……本当にずっとずっと、こうなる日を待ってたんだよ」

人が少ないのは、恋人になったばかりの俺たちには、ある意味、喜ばしいことなのかもしれないけど。

ソファーに腰掛けたまま、俺は呆然と中空を見上げていた。

これからどうすればいいんだろう。

この1ヶ月と同じように、王として、国の象徴として、それでいて、一学生として。

贅沢な日々を過ごしていれば、それはそれでいいのかもしれない。

その横に常にヒヨがいてくれるなら、それは充分に幸せなのかもしれない。

それでも、何かが強く引っかかっていて。

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「うんっ!」

パンッ! と、ヒヨは自分の頬を叩く。

アタル,「ヒヨ?」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「今日はいっぱい遊んだから、いっぱい汗かいちゃったよねっ! 嫌なことはお風呂に入って忘れちゃおっ!」

アタル,「そうだな、落ち込んでてもなんにもならないよな」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「そうそうっ! 元気が一番っ!」

アタル,「よし、ヒヨ、一緒に入るか! 昔みたいに!」

ひよこ,「ちょーっぷ!!?」

アタル,「かぱっく!」

ひよこ,「いいい一緒になんて入らないよぉっ!?恥ずかしいよ、無理だよ、アタルくんのえっちぃ!」

脳天にピヨピヨチョップが炸裂した。

彼女なりにムードを変えようと一生懸命だったのだろう。

そんな彼女の気持ちは、すごく嬉しかった。

…………

#textbox Ksi0180,name
柴田,「いいですね、とてもいいですね。すべては予定通りに進んでいます」

柴田,「――ふふ、西御門さんを彼のメイドにしたてあげたのは正解でしたね」

#textbox Ksi0140,name
柴田,「私がこの国を手に入れるまで、あとわずかです」

…………

……

陽が落ちて、窓の外では小さな星々が瞬いていた。

俺はそれを眺めやって、ぼぅっと時間を過ごす。

寝ようとはしたんだけど、どうしても寝付けなかった。

だから俺はベッドから抜け出して、こうして部屋の窓際から星を眺めている。

センチメンタルな行動なんて、自分には似合わないなぁとは思うんだけど。

……いや、仮にも王様なんだ。感傷に浸る姿も、それなりに様にならなきゃダメなのかもな。

アタル,「―――ん?」

そんな意味のないことを、つらつらと考えていた時のことだった。

俺の部屋の扉が、控えめにノックされる。

アタル,「何だ? ヒヨか?」

#textbox khi0420,name
ひよこ,「うん。アタルくん……入ってもいい、かな?」

アタル,「あぁ、いいぞ」

#textbox khi0420,name
ひよこ,「んっ、ありがと。じゃあ……お邪魔します」

かちゃりと扉が開き、枕を抱え持ったヒヨが姿を現した。

薄暗い部屋の中、デフォルメされたヒヨコ柄のパジャマを着込んだヒヨ。

可愛らしい中にも、かすかな色気があるように思うのは、恋人の……彼氏の欲目かな?

アタル,「ど、どうしたんだ? 眠れないのか?」

ヒヨがいつもとは少し違って見えたせいか、俺の声はわずかに上ずっていた。

ひよこ,「う、うん。ちょっと、寝付けなくて」

ヒヨも、どこか恥ずかしげだ。長い付き合いだからか、枕で顔の半分以上が隠れていても、俺にはそれがわかった。

ひよこ,「そう言うアタルくんも、まだ起きてたんだね? おやすみは、もう言ったのに」

アタル,「まぁ、な。何か今日は色々とあったから、寝付けなくて」

ひよこ,「私もそんな感じ、かな? アタルくんの言ってくれたことを思い出したら、顔が……ちょっと熱くなって……そして切なくなって」

ひよこ,「何だか、一人でお布団に入っていられなくなって。だから、こうして……恥ずかしいけど、来ちゃったの」

ひよこ,「でも、いいよね? お付き合いするんだから、一緒に寝ても変じゃないよね?」

アタル,「あ、あぁ。変じゃないな、うん」

ひよこ,「ふふっ。アタルくんも、照れてる?」

アタル,「そりゃ、な。告白したその日の夜に、ヒヨがこうして来るなんて……思ってもなかったし」

ひよこ,「そうなの?」

アタル,「いや、俺も男だしな? さっきはちょっとえっちなことを期待して、ヒヨを風呂に誘ったんだけど……でも、答えはチョップだったし」

ひよこ,「うぅ~、あれはアタルくんが悪いんだよ? やっぱり、ムードって大事だもん」

ひよこ,「私だって、アタルくんに肌を見せるのなら……ちゃ、ちゃんと綺麗にしてからじゃないと」

ヒヨはそう言うと、わずかに身動ぎをした。

つまり、肌を見せるための準備はもう、万端と言うことなのだろうか?

ひよこ,「い、今から……一緒に並んで寝るなんて、ちょっと昔を思い出しちゃうね」

ひよこ,「ううん。昔と今は、ちょっと違うけど。アタルくんも私も、大きくなっちゃったから……」

ひよこ,「傍に立つと、アタルくんの大きさがよくわかるよ。2人とも、昔はあんなに小さかったのに、今はもう……ふふっ」

―――俺の心臓が、どきりと高鳴った気がした。

ヒヨは恥ずかしげに微笑んだだけ。

ただそれだけだと言うのに、セーラさんに夜這いをかけられた時よりも、ずっと……。

ひよこ,「ねぇ……アタルくんは、いなくならないよね?」

アタル,「……うん? いなくなるって、どう言うことだ?」

ひよこ,「私ね、さっきまでベッドに入って……遊園地のことを思い出してたの。ちょっと恥ずかしくて、でも温かな……私の大切な思い出」

ひよこ,「でも、すぐにミルフィさんやセーラさんのことも、考えたの。怒って出て行っちゃったことも、思い出したの」

あの2人が不機嫌そうに出て行ったのは、俺たちが遊園地から帰って来てすぐだったからな。

つられて思い出しても、仕方のないことだろうと思う。

ひよこ,「もう、ここにはミルフィさんもセーラさんも……いないんだよね」

アタル,「あぁ、そうだな」

ひよこ,「ちょっと……寂しいね。あんなお別れは、したくなかったのに……」

騒がしい毎日。それがなくなってしまった。そう思うと、俺もやっぱり寂しい気分になる。

実際、俺もさっきまで星を眺めて、ヒヨと同じように感傷に浸っていたんだから。

それでも、ヒヨを選んだこと……ヒヨと一緒に歩いて行こうって、そう決めたことに後悔はない。絶対にない。

ひよこ,「昨日までは、あんなに仲良く出来ていたのに……」

アタル,「こんな言い方はしたくないけど、でも……仕方ないと言うか、当然なんだと思う」

アタル,「俺は、ヒヨを選んだ。俺は、ヒヨがいいんだ。ヒヨに、決めたんだ。誰かに強制されたわけでもなく、自分で」

アタル,「そうである以上、あの2人とは結婚出来ない。家族にはなれない。夫婦にはなれない」

アタル,「でも、仲のいい友達のままでいて欲しいって言うのは……きっと、すごく都合のいいことなんだと思う」

アタル,「俺やヒヨが今までみたいに仲良くやっていきたいって思っても、2人がそれを嫌がるのなら、もう……」

ひよこ,「うん。そう……だよね。出て行かないでって止めることなんて、出来ないよね」

ミルフィ,「セーラやひよことは、アタルを巡ってのライバルなのよ?だいたい、そんなあたしたちが、仲良しこよししてるのがおかしいのよねモフモフ」

俺はふと、いつかに聞いたミルフィの言葉を思い出す。

仲がいいのがおかしい、か。確かにその通りで……やはりこの状況が、当然の結末なんだろう。

アタル,「それでも、俺は構わない。寂しくはあるけど、でも……ヒヨが傍にいてくれれば、それで」

そう呟いて、俺はヒヨへと歩み寄った。

そして2人の身体の隙間がゼロになるように、ぎゅうっとヒヨを抱きしめる。

ヒヨが持っていた枕は、ぽすんと俺たちの足元へと落ちていった。

#textbox Khi0470,name
ひよこ,「……ねぇ、アタルくん?」

アタル,「うん?」

#textbox Khi0430,name
ひよこ,「アタルくんは、いなくならないでね? ミルフィさんやセーラさんみたいに、急に私の前から……いなくならないでね?」

アタル,「いなくなるわけないだろ?」

#textbox Khi0410,name
ひよこ,「本当? ずっとずっと、一緒にいてくれる?」

#textbox Khi04A0,name
ひよこ,「私、怖くなったの。もし、アタルくんまで、急にいなくなっちゃったら、どうしようって……そう考えたら、怖くて……」

アタル,「大丈夫だって。俺はずっと、ヒヨと一緒だ。今までみたいに、これからも」

#textbox Khi0410,name
ひよこ,「うん……ねぇ、アタルくん。もっともっと、ぎゅっとして?」

アタル,「これ以上ぎゅうっとしたら、ヒヨが壊れちゃうだろ?」

#textbox Khi0430,name
ひよこ,「平気だもん。今は、アタルくんを感じていたいの……ダメ?」

アタル,「そんな言い方をされたら、抱きしめるだけじゃ済まなくなるぞ?」

#textbox Khi0420,name
ひよこ,「ふふっ、いいよ? アタルくんになら、私……私の全部をあげても、いいんだよ?」

ヒヨはそう言うとそっと目を閉じて、その小さな唇を俺に捧げてくる。

俺はヒヨの身体を抱きしめなおして、その唇を奪った。

ただ触れるだけじゃない。強く押し当てて、さらには舌先でヒヨの唇をなぞる。

#textbox Khi04A0,name
ひよこ,「んっ、ふぅ、んちゅっ、あっ……」

ヒヨは驚いたようだが、やがてゆっくりと唇を開き、俺の舌を迎えてくれる。

くちゅくちゅと、俺たちは舌と唾液を絡ませ合う。

#textbox Khi0470,name
ひよこ,「んはぁ、はぁ、あうぅ……アタルくんと、とけて1つになっちゃいそう」

アタル,「今のキスは、ただの挨拶。まだまだ本番じゃないんだぞ?」

#textbox Khi0460,name
ひよこ,「うん。もっともっと……私たちは、1つに…………」

アタル,「ヒヨ……本当に……いいんだな?」

#textbox Khi0420,name
ひよこ,「うん。いいよ、アタルくん。きて……?」

すると、ヒヨは優しげな笑みを浮かべて、こくりと頷いてくれた。

もう、これ以上の言葉も前置きも……何も必要はない。

そう感じた俺は静かにヒヨに向けて頷き返すのだった。

とふっ、と、ヒヨは、俺のベッドの上にその身を無造作に預けた。

半裸になった肩紐は簡単にずれてしまい、ブラもしていなかったため、胸がふるんと揺れながら露出した。

中途半端に脱いだパジャマ姿はかえって扇情的。

まな板の上の鯉ならぬ、ベッドの上のひよこだ。

……そんなに上手いこと言ったとは思ってないからな?

ひよこ,「は、恥ずかしいな……」

俺の目を怯える小動物のように見上げながら、震える声を漏らす。

ゴクリ……

思わず生唾を飲み込んでしまう。

大きなベッドの上に横たわり、俺に成長してから初めて見せるその裸体。

今までずっと一緒にいた少女の、今までに見たことのなかった服の内側。

ヒヨのおっぱいって、こんな風になっていたのか。

薄暗い部屋の中でもわかるほど、白い肌、白い双丘。

そして、その丘の頂点を彩るように、淡く色づいているピンク色の乳輪。その中央にあるのは少しだけ盛り上がっている乳首。

アタル,「胸、隠さないんだな……?」

ひよこ,「ホントは隠したいよ……恥ずかしいもん……でも、私、こういうことよくわからないから……その……」

手はブルブルと激しく震えている。胸を隠そうと腕を動かすことすらままならないらしい。

アタル,「落ち着くんだ、ヒヨ。別に今から、ヒヨを取って食おうってわけじゃない」

アタル,「ヒヨにそう震えられると、俺もどうしたらいいのかわからないし……俺だって、初めてなんだぞ……?」

ひよこ,「そっか、初めて同士なんだよね……えへ……なんか嬉しいな……」

アタル,「別に焦ることはないんだ。ゆっくり……しよ」

俺はヒヨの顔へ、自分の顔を寄せる。

ヒヨはゆっくり目を閉じ、俺のキスを待つ。

ゆっくりと触れ合う、唇の粘膜。

何度かわしても、ヒヨとのキスは気持ちいい。

今日の観覧車の中が初めてだったというのに、もうこれで何度目だろう。

ひよこ,「ぅん……ん……っ、はぅ、ん……っ!ん、んっ、ぅん……ん、んんぅっ……!」

寝転がるヒヨの頭に手を回し、指に髪を搦めて、より深く唇同士を密着させる。

ヒヨの後頭部に添えた手をゆっくり動かし、撫でながら、甘いキスを続ける。

でも、甘いだけじゃ物足りなくなる。途端に、もっと深いキスがしたくなる。

ひよこ,「……んっ!? ア、アラル……ぅむっ!?んっ、ふぁ……や、ぅ、ぁめっ……ぅむぅんっ」

ヒヨの身体がビクッと震えた。俺の舌が、唇を割って侵入してきたのに気付いたからだろう。

強張っている唇の、わずかに開いている歯の隙間に、舌をぬるりとねじこませる。

何を言われても、今更止められない。

俺は舌を限界まで伸ばし、ヒヨの口の中への侵入に成功する。

舌を軽く舐め回して。

続いて、歯の裏や、舌の裏側、頬の内側を巡らせ、ヒヨの口の中を堪能する。

アタル,「ぷは……ヒヨも舌、動かしてよ」

ひよこ,「む、無理ぃ……そんなキスされたら……力抜けちゃう……頭、白くなっちゃったよぉ……もう……アタルくんはエッチだなぁ……」

アタル,「知らなかった? 男は好きな女の子を目の前にしてたら、際限なくエロくなっちゃうんだ」

アタル,「だから、これから、俺はヒヨのことをもっといじめちゃうと思うけど……いい?」

ひよこ,「う……そんな言い方、ずるい……そんな風にいわれたら、ダメなんて絶対いえないよぉ……」

アタル,「ダメっていうつもりだったの?」

ひよこ,「ううん……そんなわけない。アタルくん、わかってて言ってるよね?」

アタル,「まぁね」

ひよこ,「あは、アタルくんの好きなようにしていいけど……あんまり痛くはしないでほしいな……優しく……してね?」

アタル,「最大限、努力しますよ、お姫様」

ひよこ,「ふふっ、私、お姫様じゃないのになぁ……」

ヒヨは弱々しく微笑む。身体は小刻みに震えているのは、恐怖ではなく、過度の緊張のせいだろう。

まず首筋に手を添えた。

首筋は汗でしっとりとしていた。

ぴくんっ、と、ヒヨの身体が強く跳ねる。

首筋から、少し下に伝って、鎖骨へ。

鎖骨をなぞるように、ゆっくりと指を這わせる。

ひよこ,「ん……あはっ……くすぐったいな……んっ……」

そして、次に差し掛かるのは、ふたつの胸の膨らみだ。

果たして、本当にここに触れていいものか、躊躇ってしまう。

やっぱり女の子だけの特別の場所だしなぁ……。

そんな躊躇いが顔に出ていたのだろう。

ひよこ,「おっぱい、触りたいの……?」

ヒヨに心配そうに問われる。

アタル,「そ、そりゃ、もちろんだ! 男はいつでも女の子のおっぱいに触りたい生き物なんだ」

ひよこ,「そーなんだ……あはっ、なんだかかわいい♪」

アタル,「……む、なんだかバカにされた気がする」

ひよこ,「バ、バカになんてしてないよぉ! 褒めたのにぃ」

アタル,「女の子はかわいいといえば、許されると思っている節があるなぁ……よもやヒヨも同類だったとは……」

ひよこ,「えっ、えっ、怒っちゃった? ごめんね……」

アタル,「いや、冗談、冗談。いつもの調子で話してたら、ちょっとは緊張が解けるかなって思ってさ」

ひよこ,「もう……驚かさないでよぉ……私の体……触っていいのは、アタルくんだけなんだよ? アタルくんだけ特別に……好きなように触っていいんだってば……」

アタル,「それじゃ、遠慮なく……」

包み込むように、両手でそれぞれ触れると、ふよっ、と、胸の中に指が沈みこんだ。

ヒヨから、鼻にかかった甘い息が漏れる。

アタル,「痛くない?」

ひよこ,「ん……大丈夫……優しいから……ちょっとくすぐったいぐらいだよ……」

もう少し、強くしても大丈夫ってことかな。

ちょっとだけ力を強めて、ぽよぽよと揉んでみる。

手の内側で、ふるふると弾む柔肉。

手のひらに当たる乳首の感触はちょっとしたアクセント。

アタル,「気持ちいいの?」

ひよこ,「よく、わかんない……くすぐったいみたいな……ん……多分、気持ちいいんだと、思うけど……なんか、ッ、ヘンな、感じ……」

まだヒヨの体は、未開発で快感を知らないのだろう。

未知のその感覚に、まだ躊躇っている、ってところかな。

ひよこ,「ん……でも、この感じ……嫌じゃないよ……? 体が勝手に、ぴくぴくしちゃう……これって気持ちいい、のかな……?」

アタル,「そっか、それなら良かった」

もうしばらくの間、俺はぽよぽよと胸を弾ませ続ける。

今までに触れたことのない物体を、思う存分弄り続けられている。それだけでも十二分に楽しい。

アタル,「昔はこんなに大きくなかったのになぁ」

胸を弄びながら、ボソッと一言。

その昔――小学生の頃までは、ヒヨと一緒に風呂に入ったこともあった。

その頃はお互いにまだまだ幼かった。第二次性徴だって来ていなかった。

つるつるぺったんつるぺったんで、ヒヨのおっぱいは母親と違うなんて思っていたものだけど。

いやはや、今ではすっかり見違えたもんだ。

ひよこ,「はっ……はぁ、はぁぁ……おっぱい、ばかり……アタルくん……んくッ!? っんふぅッ……!」

その硬くなった乳首を指先で摘む。

アタル,「敏感みたいだね?」

口を近づけ、先端をパクッと乳輪ごと咥える。

ひよこ,「ひゃあんっ!? やっ、ん、そんなッ、舐める、なんてっ、やだ、アタルくん、エッチだよぉっ!」

いきなりの攻撃にヒヨの体が、びくんっ!と跳ねた。

ヒヨの乳首を舌の先端でコロコロと転がす。まるでグミキャンディーのような食感だ。

1回始めたら、もう止まらない。俺は舌で執拗に責め、転がす。

アタル,「ヒヨのおっぱい、美味しい……気持ち、いい?」

ひよこ,「ん、ぁ、はぁっ……んぁ、やっ、いいよぉっ……!」

アタル,「そっか、いいんだ」

ヒヨは慌てて口を塞ぐ。

ひよこ,「えっ、あ、ち、違うの……い、今の、その……ウソ……ウソだよ?」

アタル,「ふぅん?」

俺はそのまま、ぺちゃぺちゃと意図的に音を鳴らして、乳首を転がし続ける。

鼻から、わずかに開いた口の隙間から漏れ聞こえる吐息がものすごくエロチック。

片方だけじゃかわいそうだ。

空いている手で、もう片方の乳首を摘み、転がすように刺激する。

くりくり、と、転がす度、断続的に甘い吐息が漏れ、その熱い吐息が額に吹きかかる。

アタル,「これでも気持ちよくないの?」

ひよこ,「くぅっ……んっ! ぁ、ふぅんっ! んぁ、っふ……ぅん、きっ、気持ち、いい……気持ちいいよぅ……アタルくんの舌……」

耳元に届く、ヒヨのその溶けるような声が、俺の脳を、そして、股間を直撃した。

やっと言わせてやった! という充足感に包まれる。

ひよこ,「うぅ……ずるい……私ばっかり、えっちみたい……」

アタル,「ん……そうだね、ヒヨがこんなにえっちな声を出してくれるとは思わなかった」

ひよこ,「ん、もう……ばかぁっ……恥ずか、しいっ……そういうアタルくんだって……そこ……そんなに大きくしてるし……こすりつけられてて……気になっちゃうよ……」

アタル,「そこ……? あ、ああ……」

無意識の内にヒヨの体にくっついていたらしい俺のモノ。

そして、無意識の内に、ヒヨの足にこすり付けていた。

どうりで俺もなんだか気持ちよくなっていたわけだ。

アタル,「気になるなら、触ってみる……? ヒヨが触ってくれたら、俺も嬉しいな」

ひよこ,「え……? そうなんだ……うん……触らせて……?」

熱に浮かされたようにふらふらとしながら、ヒヨは身体を起こす。

ひよこ,「私ばかりいっぱい触られて、気持ちよくされちゃったから……私もアタルくんにお返ししないと……ね」

そのお返しを拒むつもりなんて、何ひとつない。

ひよこ,「う、わぁ……あんまり目の前で見ると、恥ずかしいかも……すごいね……男の子のここって、こんなのが生えてるんだ……」

俺はベッドの上に仁王立ちになり、ヒヨは立ち膝。

王とメイドという互いの立場なら、なんだか正しい気がしなくもない。

ちょっと背徳的な感じが、俺の興奮を後押しする。

ひよこ,「アタルくんは恥ずかしくないの……?」

マジマジと、息が当たるほどの距離で見られる。

アタル,「恥ずかしいか恥ずかしくないかで言ったら……そりゃちょっとは……恥ずかしいけどさ」

ひよこ,「あは……やっぱ、アタルくんでもそうなんだね……」

ヒヨの両の拳を繋げてもなお余るほどの、自分でも驚くほどのサイズまでいきり立っていた。

アタル,「ヒヨの体に触ってたから、こんなになっちゃったんだ」

ひよこ,「ん……私を見て、興奮してくれた……ってこと?」

アタル,「……ああ」

ひよこ,「ふふっ……なんだか、嬉しいな。そっか、アタルくん、私のこと、女の子だと思ってくれてたんだぁ……」

アタル,「当たり前だろ……」

これ以上ないくらい、今のヒヨは女の子だ。愛しくてしょうがない俺の恋人だ。

ひよこ,「……昔は、その……ココ……こんなに大きくなかったよね?」

アタル,「昔のこと、覚えてるの?」

ひよこ,「そりゃ……お、覚えてるよぉ……だって、私にはついてないのが、こんなところにあるんだし……うーん……昔はもっとふにょふにょしてたと思うんだけどな……」

アタル,「ふにょふにょって……あ、そうか、思い出した。昔、ヒヨとお風呂に入った時、触られたことあるぞ」

ひよこ,「あはは……思い出しちゃった? あの時はちっちゃくて……おちんちんっておしっこするだけだと思ってたんだよね……授業で習った時は、驚いちゃった……」

アタル,「おちん……!」

突然、ヒヨの口から出た男性器ワードに、俺のおちんちんがいきり立った。

ひよこ,「あっ!? え、あ、あぅ! ……言っちゃったぁ……」

思わず口走ってしまった卑語に、ヒヨは顔を赤らめる。

当然、名前を知らないわけがないよな。

もっとも、今の俺の暴力的なコレは、幼少の頃のおちんちんなんて可愛い代物ではなく、ペニスやチンポって呼び方が相応しい気がする。

だって、今からコイツが――

アタル,「このおちんちんが、ヒヨの中に入るんだぞ?」

ひよこ,「あ……そっか……そうなんだよね……うぅ~……本当に入るのかなぁ……私のアソコ、こんなに大きくないと思うんだけど……」

アタル,「……そうなの?」

ひよこ,「え、あ、あぅ、うん、たぶん……計ったことないけど……」

アタル,「……そろそろ気づけよ、ヒヨ。今、わりとすごいこと口走ってるぞ?」

ひよこ,「えっ……? わっ、あ、はは、そうだね……えっと、ど、どうしよ……コレ、触ればいいかな?」

ぴと、と、改めて、ヒヨの手が、俺のモノに触れる。

アタル,「くぁ……っ!?」

他人に触れられた快感が、股間から脳天まで電流のように駆け巡る。

表面に太く浮き出た血管に、猛スピードで血が流れたのがわかった。

ひよこ,「わっ、わ……すごい、ぴくんってして、ぞわぞわってした……気持ち、いいんだ……?」

アタル,「うん、すごく……」

ひよこ,「アタルくん、どうして欲しい? どうすれば、アタルくんのこと、もっと気持ちよくしてあげられるのかな……?ごめんね、ホントに全然わからなくて……」

そのウブさは、純粋な証だ。謝る必要なんて何もない。

アタル,「それじゃ、ヒヨに男の仕組みを1から教えようかな……えっと、今、おちんちんを握ってる手で擦ってみて」

ひよこ,「こするんだね……? んーと……こう、かな?」

アタル,「くぁ……!?」

ヒヨの指が前後――というよりは、急な角度がついているため上下に近い――した瞬間、カリの裏側の一番敏感な部分を捉え、腰に電流が走った。

ひよこ,「わっ、わ……! き、気持ち、よかったの……かな?」

アタル,「う、うん……すごく……」

快感を証明するように、鈴口からはとろとろと透明な液体が溢れ、その液体は俺のちんちんを握り締めているヒヨの手にまで垂れる。

ひよこ,「わっ、なんかぬるぬるしたのが出てきたよぉ……えっと、これが、せーえき……なのかな……?」

アタル,「違う、違う……それはいわゆる……我慢汁だな」

ひよこ,「我慢、汁……? アタルくん、我慢しないで気持ちよくなっちゃっていいのに……」

アタル,「……別に我慢してるわけじゃないんだ。気持ちよくなると、自然に溢れてくるだけで……」

むしろ、好き放題、ヒヨにお願いしているくらいだ。

アタル,「ヒヨがもっと気持ちよくしてくれたら、その、なんだ、最後には精液も出るから……」

ひよこ,「う、うーん……そうなんだ……男の人って難しい……このぬるぬるは別に変じゃないんだね?」

アタル,「うん、普通普通。ヒヨがもっとたくさん擦ってくれたら、俺もどんどん気持ちよくなるから、できれば手を止めないでほしいな」

ひよこ,「うん、わかった。それじゃ、アタルくんのこと、もっともっと気持ちよくしてみせるからねっ」

随分と緊張もほぐれてきたらしく、ムンッとヒヨは眉を吊り上げて、決意を新たにした。

先走った汁がヒヨの手に絡むと、手の動きは滑らかになる。

その気持ちよさはローションを塗られたかのように格段に増す。

そして、その先走りが乾くよりも早く、与えられた快感でまた新たな先走りが溢れるものだから、留まるところを知らない。俺が達するまで続けられる無限機関だ。

ひよこ,「んっ、はぁ……すごい……おちんちんって……こんなに、熱いものなんだね……体温は変わらないはずなのにね……なんでこんなに熱いんだろ……不思議……」

アタル,「ヒヨが気持ちよくしてくれるからだよ……血がいっぱい巡るから……ずっと、熱いままで……うぁ……!」

ひよこ,「なんだかカメさんの頭みたいだし……ふふっ、最初はちょっと怖かったけど、だんだん可愛く思えてきちゃった。なでなで~」

亀頭の尖端を、ヒヨの手のひらが撫で回す。

今度は手のひらに先走り汁がまぶされ、そのまぶされた汁がまた快感を呼び起こす。

しかし、快感が高まるにつれ、最初の加減では、物足りなくなってくる。

アタル,「ヒヨ、少し、強く動かしてもらえると嬉しいな……」

ひよこ,「強く……んっ、しょ、このくらい……? わっ……我慢汁がもっと出たぁ……!」

アタル,「ぁ、はっ……もうちょっと強くしても大丈夫だぞ?」

ひよこ,「ぇ、ホント? 結構強くしてるつもりなんだけど、痛く、ないの?」

アタル,「もうちょっとだけだぞ……? 本気出されると痛くなっちゃうからな?」

ひよこ,「うん……それじゃ、んっ……んしょっ……こ、このくらいかな? 痛かったら、ごめんね……?」

望んだ通りに、ほんのちょっとだけ、ヒヨの指の動きが早まる。

アタル,「ぅあぁッ! ぁ、はっ、ヤ、ヤバ……すごく、気持ちいい……ッ!」

あまりの快感に、手持ち無沙汰な手が泳ぐ。

ひよこ,「そ、そうなの……? こんなに強くても平気なんだ……はぁっ……アタルくんのおちんちん……すっごく、熱くて……太くて……ぬるぬるしてて、えっちだよ……」

近くで呟くものだから、ヒヨの吐息が吹きかかる。

アタル,「ふぁっ……あ、あぁぁ……ヒヨ……好きだ……」

ヒヨの与えてくれる快感に、頭が呆けてゆく。

セーラさんにされちゃった時よりも、圧倒的に気持ちいいのは、やはり相手がヒヨだから、だろうか。

ひよこ,「ん、私も、好き……アタルくんじゃなきゃ、こんなことしてあげないんだもん……好きなアタルくんのおちんちんだから……かわいいって思えるんだろうなぁ……」

アタル,「ヒヨ……」

その愛しさは快感へと置換され、その快感こそが俺の絶頂への引き金だった。

アタル,「ぅあっ、ヒヨ……ごめ、もう、出ちゃい、そ……ッ!」

ヒヨの手のひらが、俺の敏感な部分を的確に摩擦する。

ひよこ,「ふぁ、ん、っ、んっ……アタルくんのおちんちん、すごいよぉ……はっ、はぁ、ぴくぴくってして、熱いのが流れてて……」

しゅっしゅっと、ヒヨの手はリズミカルに、ひたすらに、俺のモノを扱き続ける。

ゾワッと股下からスタートした快感の津波が、背筋を駆け抜け、脳や視覚に直接訴えかけてくる。

チカチカと眩く、白く。絶頂はもう間近だ。

アタル,「あ……っ、ご、ごめんっ、ヒヨっ……!これ以上、扱かれたら……ほん、とにッ……!」

もう堪えられない。口から溢れる言葉も片言だ。

ひよこ,「ん……はっ、ぁ、はっ……は、あっ……はぁ……はっ、はっ……ごくっ……ん……んんっ……」

俺の声が届いていないかのように、長い髪を振り乱し、豊かな胸を揺らしながら、俺の股間に刺激を与え続けてくれる。

ひよこ,「はっ、ぁ、はっ、はっ……すごい……なんだか、膨れてきてて……ぁ、おちんちん……すごいよぉ……」

ぞわっ……と、下腹部に熱い塊がこみ上げてくる。

ひよこ,「や……はぁぅ、はっ、はぁぁ、はぁっ、はぁ……はっ、あ、あぁ、ふぁ……はっ、はっ……」

俺が絶頂に達してしまうまで、あと数秒。

絶頂がこうも間近に見えてしまったら、俺の頭は絶頂に至りたい一心に支配される。

――俺の精液で真っ白に穢されたヒヨの姿を見たい。

目の前で、俺のをしごいてくれているヒヨに、全て浴びせかけたいという黒い意志が見え隠れする。

ひよこ,「どう? アタルくん 気持ちいい、気持ちいい?」

アタル,「うん……うん……ッ!」

多くの言葉を語ることもできず、俺はただ頷く。

射精を求め、腹筋が強張る。度を越えた快感に足がガクガクと震える。

元より射精の飛距離だの量だのといった加減はできるもんじゃない。

――出したい。出したい。出したいっ!

ひよこ,「ふぅ……ん、ん、ふぅ、ぁ……はっ、んはぁ……あ、あれっ? なんか、きゅってしたよ……?」

性欲のダムが決壊し、ポンプが一斉に子種を送り出す。

ひよこ,「あ、あれっ? えっ? おちんちん、あれっ? 根元から何かこみ上げて、きて――」

アタル,「ぅ、くぅっ……出るッ!」

ただ、絶頂の激流に身を流した。

ひよこ,「えっ、出るって――ひゃっ!? ひゃあぁっ!?」

尿道を駆け抜けた精液が、鈴口を押し広げ、俺の肉砲が火を噴いた。

自分でも想像していた以上に勢いよく噴き出た白濁の初弾は、ヒヨの顔面へと着弾。

ひよこ,「んぴゃっ!? ぁ、アタ、うぁ、あ、わっ……ひゃぁんっ! ふぁあぁぁっ!」

一度始まってしまった射精を止めることなんてできやしない。

初めての射精に取り乱すヒヨの顔へ、髪へと、とめどなく二弾、三弾目が降り注ぐ。

俺の子種で穢されてゆくヒヨの姿を、まるで他人事のように見つめてしまっていた。

アタル,「く、ぁ……ッ!」

ヒヨの顔にねっとりと貼りついた精液は、簡単には垂れ落ちないほど濃厚で、液体よりも固体に近い。

アタル,「ご、ごめん……気持ちよくて、止まらなかった……」

ひよこ,「あっ、ん……はぁ……ぁ、ふぅ……ん、ふぁぁ……ふはぁ……すごい……匂い……これが精液の……ん……ぺろっ」

ヒヨは自分の唇の横についた精液をぺろりと舐める。

アタル,「ちょ、ちょっ……!」

ひよこ,「ん、むぅ……もごもご……あまり美味しくはないね」

アタル,「そりゃそうだ……まずかったら、ぺっしなさい。ぺっ」

ひよこ,「ん、でも、大丈夫。アタルくんのだもん」

ニコッと微笑まれては、お手上げだ。

ったく……こんなひどい化粧をされてんのに、さっきよりも可愛く見えちゃうとか何事だよ。

ひよこ,「どうだった、アタルくん、私、上手にできたかな?」

上目づかいで、俺の顔を笑顔で見上げる。

アタル,「ああ……こんなに出ちゃったんだから、当たり前だろ……?」

俺の射精史上、最大の量であり、最大の快感だった。

ひよこ,「んー、もっと出るかな? あれ? 止まっちゃった? もう出ないのかな?」

ヒヨの手が、射精した後だというのに、さらに変わらぬ強さで扱き続け、責め立ててくる。

アタル,「ちょ、ヒヨ、もう、やめ……っ! タップ、タップ!蛇口じゃないんだから、出っ放しになるわけじゃ……!」

俺はヒヨの頭をぽふぽふと叩いて、降参を表明。

射精直後の敏感すぎる亀頭に、射精直前と同じ刺激は強すぎる。

ひよこ,「あ、そういうものなんだ……はぁ、いっぱい出たねぇ……ここに、こんなにいっぱい入ってたんだ……男の子って本当に不思議だよぉ……」

ふにふに、と、いたわるように、股下にぶら下がる玉を弄繰り回す。

アタル,「あの……出た後は優しくしてあげてね?」

ひよこ,「はぁい。ふふっ、アタルくんって、やっぱりかわいいなぁ♪」

白濁塗れの顔でニコーッと屈託のない笑みを浮かべる。それはまさに俺だけのプリンセススマイル。

アタル,「……いやいや、お姫様の可愛さには負けますよ」

ひよこ,「ありがとっ♪」

なるほど、惚れ直す瞬間って、こういうものか。

……

…………

顔を汚していた白濁を拭い取り。

ついでに、体に中途半端に身に付けていたパジャマをも剥ぎ取ってしまい。

ヒヨは生まれたままの姿を俺の元に晒す。

ひよこ,「は、恥ずかしいぃ~……」

アタル,「散々、俺の一番恥ずかしい場所を見たし弄くっただろ?これで、おあいこ、おあいこ」

ひよこ,「お、おあいこじゃないよぅ……女の子には恥ずかしい場所がいっぱいあるんだもん~~ッ!」

少しは遠ざかったと思っていた緊張感が一気にぶり返してきたらしい。

ヒヨの体は強張っているが、それ以上に俺の股間が強張っていた。

初めて見るヒヨの一番大事な秘部。ピンク色のスリット。

そこを目の当たりにしてしまっては、今更ブレーキなんて利かせられるはずもない。

アタル,「本当に……してもいい?」

ひよこ,「う、うん……でも、その……優しく、してね?」

アタル,「ああ……」

そんなお約束セリフに、ツキュンッと、ハートの矢で射抜かれた気がした。また惚れ直してしまった。

これより、前人未到のヒヨの中に侵入する。

1回達して間もないというのに、俺の下半身は堅さを増した。

右手をヒヨの股間に添えて、左手を自分の股間に添えて。

ヒヨのスリットを割り広げて、俺のモノを宛が――

ひよこ,「やっ……そこ、じゃないよぉ……」

アタル,「あ、あれ……? えっと……」

――おうとして、失敗した。

如何せん初めてのこと、ヒヨの性器の位置が掴めない。

興奮し切った俺の股間は垂直に近い角度がついてしまっており、どこか違う場所に当たってしまう。

ひよこ,「も、もっと、下だよ? そこだと、あのっ、お豆のとこに当たっちゃう……から……」

アタル,「えっと、こ、この辺かな……?」

ヒヨの体の上で慌ててる俺はなんとも情けない。

ヒヨの中から染み出てる愛液と俺の先端から溢れ出る我慢汁だけが交じり合っていて、肝心の場所が交差しない。

左手を操り、斜角を調整。

ひよこ,「ん、あ、そこ……かな……?」

……あ……?

右の指で触れている部分に、自分のモノが触れた。

ヒヨの窪みに、俺の先端が触れたのがわかった。

でも、本当にこんな狭い穴に、俺のモノが入るのか?

自分のモノが特大サイズとはうぬぼれちゃいない。おそらく、標準程度だと思うんだけど。

しかし、あまりにもヒヨのココと、俺のモノのサイズは違いすぎる。

例えるならば、ちくわの穴に、アメリカンドッグを詰め込むことができるだろうか? っていう話だ。

それはヒヨもわかっているらしく、息を呑む音が聞こえた。

アタル,「本当にいいんだな? 一度入れちゃったら、止められる自信はないぞ……?」

ひよこ,「もう……大丈夫だよ……っ。ここまでしてるんだから、覚悟、できてるから……っ!」

ひよこ,「あっ、でも……約束、して……アタルくん。絶対、最後まで……して」

アタル,「最後まで……?」

ひよこ,「私の中に入れて、初体験の最後まで……アタルくんが、その……もう1回、しゃせーしちゃうまで……」

アタル,「ヒヨ……」

ひよこ,「……私、アタルくんのこと、大好きだから……そこまでしてあげたい……だって、せっくすって……そういうことなんだもんね?」

アタル,「まぁ……そうだけど……」

ダメだ。ヒヨにまっすぐに見つめられて、そんなことを言われたら、理性がドンドン崩れてく。

そんなことを真剣に言われたら、やるしかなくなるじゃないか。

アタル,「それじゃ、入れるよ……?」

窪みに肉槍の尖端を押し当て、腰に力を入れる。

ひよこ,「んくぅっ……!」

しかし、硬く閉じている窪みに、無理矢理押し込もうとしても、なかなか入っていきそうにない。

無様に腰を前後させるものの、なかなか広がってくれない穴にゴツゴツと当たるだけ。

ひよこ,「んっ、ア、アタルくん……それ痛い……」

アタル,「ご、ごめん……」

この方法じゃ、ダメか。

それなら、と、俺は窪みに尖端を押し当てたままで、腰をくねらす。

アタル,「……ん?」

入口にカリの部分が引っ掛かり、俺の腰が少しだけ進んだ。

ひよこ,「……うぅうぅうぅぅっっ!?」

狭いヒヨの膣口に、尖端がほんのちょっとだけ飲み込まれた。

これは小さな進展。だけど、俺たちにとって大きな進歩だ。

木材に釘を打ち込む時のように、尖端が入り、取っ掛かりさえできてしまえば。

後は打ち付けて、奥に進むだけ。

ひよこ,「あ……あ、ぁ、あっ……! ん、んぃぃぃっ……ぁ、あっ、いッ……たぁっ……!」

自分では意識していないのだろうが、ヒヨの腰がずりずりと逃げようとする。

せっかく入りそうだったのに、抜いてたまるものか!

アタル,「ごめんっ……!」

俺はヒヨの腰と太ももを軽く持ち上げて。

無理矢理自分の方へと引き寄せた。まさにカナヅチで打ち付けるかのようにだ。

ひよこ,「ぁう、っぐぅうぅぅぅぅッ!」

俺を受け入れたヒヨの体が、びくびくと跳ねる。

きっと、今、ヒヨの全身を駆け巡っているのは快感ではなく痛みだ。

一気に引き寄せ、ヒヨの中を奥の奥まで貫いて。

そして、俺の尖端がヒヨの一番奥をノックした。

涙を浮かべるヒヨの顔を見てしまったら、心に宿るのは達成感よりも罪悪感だ。

アタル,「っはぁ……はぁ……奥まで、届いたぞ……ごめんっ、ごめん、ヒヨ……」

ひよこ,「っは……はぁっ、はぁ……あやま、らな、くてっ……いいよぉっ……! だって、わた、私、が……してって……!」

息も絶え絶えに、ヒヨは言葉を漏らす。

あまりに断続的で、それが痛みによるものだというのは、容易に想像できた。

ふと結合部を見やると、ヒヨの純潔の膜を貫いた証が滴っていた。

それは乙女だった証の赤色。女の子から女への変貌。

アタル,「しばらくこのまま止めておくから……ヒヨはゆっくり深呼吸……な?」

ひよこ,「うん……はぁ……はぁっ、はぁっ、はぁ~……」

熱く長く息をつく。

ひよこ,「はぁ……ホントに全部……入ってるんだね……おなかの奥の方まで……アタルくんのを感じるよ……」

アタル,「これ現実なんだよな……俺も、なんだか信じられないよ……」

いつも一番近くにいた女の子と、これ以上ない一番近くへと近づいた。

近いどころか、互いの体が交わりあってるんだもんな。零距離どころか、マイナス距離だ。

ひよこ,「アタルくんと結ばれちゃったぁ……夢だったんだよ……好きな人同士がこういうことをするって知った時から、私、アタルくんと、ずっと……ふぇ、ふぇぇぇ……っ!」

ヒヨの堰が切れる。

ぽろぽろと瞳から大粒の涙が流れては、頬を伝い、ベッドのシーツへと染み込んでゆく。

アタル,「……ありがと、ヒヨ」

俺のために涙を流してくれている女の子と繋がったまま、俺は彼女をギュッと抱きしめた。

ひよこ,「嬉しいよぉ……ずっとずっと……アタルくんとこうしたかったよぉ……!」

俺の耳元で『ずっと、ずっと』と、今までの想いを告げる。

胸が締め付けられそうなほどのヒヨの想いが、聴覚から、触覚から、いや、五感全てから伝わってくる。

他の誰でもない、彼女を選んで本当に良かった、と。

――今、純粋にそう思えた。

ヒヨの涙が止まるまで、俺は彼女を抱きとめていた。

ひよこ,「ん、ぐす……ごめんね……少しすっきりしたよ……泣くつもりなんてなかったのに……困らせちゃったよね……」

未だ涙をめいっぱい溜め込んだまま、ヒヨは微笑む。

そんな彼女に言うべき言葉は、ほんのひとつでいい。

アタル,「好きだ、ヒヨ」

ひよこ,「私も……好きだよ。大好き、アタルくん……ちゅっ」

俺はヒヨとキスを交わす。

ひよこ,「っはむぅ、ん、んっ……あむ……んっ、ん、ちゅっ……ちゅるっ……んぁ、んむぅんっ……ん、んんっ、んぷぅ」

互いの舌を絡め合い、互いの濃厚な唾液を交換し合う。

アタル,「ご、ごめんっ」

媚薬のように甘いヒヨの唾液のせいか、無意識に腰が動いてしまった。

眉をしかめたヒヨだが、じっと俺の方を向き直る。

ひよこ,「ね、アタルくん……ホントは、動きたいんでしょ?」

アタル,「え……」

ひよこ,「さっき、手でしてあげたみたいに激しくしないと、気持ちよくなれないんだよね……?」

アタル,「え、いや、まぁ……でも、こうやって、ヒヨの中に入ってるだけでも、充分気持ちいいけど……」

ひよこ,「……もっと、気持ちよくなりたくないの?」

アタル,「それは……まぁ……なり、たい……」

その問いに、俺は縦に首を振る。

ひよこ,「それなら、いいよ……私、アタルくんの好きにしていいって言ったもん……最後までやめないで、とも言ったし……それに……ね」

アタル,「……それに?」

ひよこ,「アタルくんとキスしてたら、ちょっとだけ楽になったから……多分、今なら、我慢できなくないと思う……」

アタル,「それじゃ、言葉に甘えて動くけど……我慢できなくなったら言うんだぞ?」

ヒヨが大きく頷くと同時、俺は腰をゆっくりと動かし始めた。

まずは、子宮口のキスしていたペニスを入口近くまで、ゆっくりと引き抜く。

ひよこ,「あ……ぁ、ふぁ……ん……んぐぅ……ッ!」

手は強くベッドシーツを掴み、口からは痛みに耐えるような息が漏れる。

痛みを堪えているのは歴然だった。

でも、中途半端に永らえて、苦しめ続けるよりは、一気に終わらせちゃった方がいいんじゃないだろうか。

抜ける直前まで引いた腰を、またずぶずぶと奥まで突き入れてゆく。

ひよこ,「っ、ぃん、んひぃいっ……! んんんんーッ!」

たった、これだけ。たったこれだけの一往復にも関わらずだ。

入れているだけでもどかしかった快感は、一気に射精を感じさせる痛烈な刺激へと変化した。

一度、本気で動き始めてしまったら、ヒヨに何を言われても止まれそうもない。

アタル,「……本当に、大丈夫なのか?」

理性を失ってしまう前に、俺は再度ヒヨに確認をとる。

ひよこ,「ちょっとだけ、痛いけど、大丈夫っ、大丈夫だよっ。我慢、できる、からっ。最初より全然平気になったから」

ひよこ,「いいんだよ、アタルくん。いっぱい動いて。私で、いっぱい気持ちよくなって。いっぱい……愛して」

パキン、と。

俺の動きを制御していた理性が、壊れる音が聞こえた。

ずるっ、ずっ、ずりゅっ。

さっきとは比較にならないほどのスピードで、腰を前後させる。

律動と共に、結合部は粘性を含んだ音を鳴らす。

俺の我慢汁、ヒヨの愛液、そして、汗と純血。

互いの体液は、俺の滑りをよくする潤滑油だ。

ひよこ,「ふっ、あぁっ……ん、く、うぅんっ……!んんんっ! くっ……うっ……んくうぅッ……激し、いっ、ふぁっ、壊れちゃうぅ……ッ!」

しかし、腰を前後させる度、ヒヨは表情を変える。

破瓜の痛みが柔らいでいるような様子はない。

愛液と血液でぬめり、俺の腰の勢いは俺の意思とは無関係に早く荒くなってゆく。

露出したヒヨの胸がぷるんぷるんと激しく上下に揺れる。

薄闇の中で乳首が弧を描き、残像さえ見えた。

手では胸の感触を味わいたくて、指で乳房の先端をこねまわしながらも、さらに腰の動きは加速。

ひよこ,「ふっ、あ……あぁあんっ! アタル、くぅんっ、おっぱい、強、すぎ、そんなに掴んじゃ……!」

痛みに眉を潜め、汗を垂れ流し、髪を体に張り付かせているヒヨを見下ろしながらも、下腹部ではじわりじわりと絶頂のメーターが高まってくる。

アタル,「ヒ、ヒヨっ……もう、すぐ、もうすぐ、イクから……!」

ひよこ,「はっ、あぁっ、あっ、ぁ、はぁっ、あぁっ! イク、の? アタルくん、またしゃせー、するのっ!?」

ヒヨの膣内の心地よさを味わい続けたかったが、絶頂は程近い。

いや、ヒヨをこれ以上、苦しませずに済むのだから、終わりが見えたのは好都合だ。

アタル,「あぁっ、ヒヨ、俺、もう出る……ッ!」

ひよこ,「んっ、ふぁ、はぁっ! いい、よっ……! アタルくん……いいから、全部、このまま、出して……ッ!」

アタル,「え……こ、このままって……!?」

ひよこ,「平気だからっ……抜かないで、大丈夫だからっ……! このまま、膣中に欲しいのっ、アタルくんの、せーえきっ、全部っ、全部、膣中に出して……ッ!」

アタル,「いいの……!?」

初めてなのに、生で中出し……!?男を狂わせるのに、あまりにも甘美すぎる誘いだ。

ひよこ,「うんっ、平気っ……! だって、せっくすしてるんだもん……っ、私、大丈夫、だからっ……中でいっぱい、アタルくんを感じたいの……アタルくんが欲しいの……!」

耳に届くヒヨの声もまた甘美で、俺の心と体が落ちるには充分すぎた。

トドメとばかりに、彼女の望みを叶えんがために。

ひよこ,「あっ、はっ、ふぁっ、あっ、アタル、くぅんっ、アタルくんっ、あっ、あ、はぁあぁっ!」

俺は高まりつつある射精衝動を、ただ、ただ、乱暴にヒヨへとぶつける。

ひよこ,「あぅ、んっ! 私の、膣中で……ビクビクって、震えて、大きく、なってっ……あ、あっ、はぁ、はぁっ!」

頭が真っ白になる。セックスの快感以外の感覚を認識できなくなる。

アタル,「出る、出すぞ、全部、ヒヨの膣中にっ!」

ひよこ,「きてっ、あ、あっ、ぁあっ、はっ、あっ、ふぁ、んぁっ、はぁっ、んぁ、んあぁぁっ!」

下腹部で白い花火が炸裂するかのようなイメージを覚えた次の瞬間。

ひよこ,「んぅっ! んうぅんぅっ!」;

全身に打ち上げ花火が放たれたような衝撃が走る。

それと同時、俺の肉茎からは白濁の花火が打ち上がり、一気にヒヨの膣内へと解き放たれた。

肉銃からの精の一斉掃射は、一直線に子宮へと辿り着く。

アタル,「ヒヨ……ヒヨっ……!」

弾力あるヒヨの腰を両腕で押さえつけ、互いの性器の結合部には隙間を空けない。

ペニスは脈打つ度、容赦なく、全ての精をヒヨの中へと吐き出す。

ひよこ,「んあぁあぁっ……なかっ、なかぁっ……私のなかで、すごい、びくびくって、跳ねてっ、いっぱい、出てるぅっ……」

アタル,「ん、ぐ……うぅっ……!」

ひよこ,「はぁっ、ふぁっ……んっ、ま、まだ、出るの……?」

アタル,「まだ、っていうか……ヒヨの中が離してくれないんだよ……!」

ヒヨの内側が俺のモノに熱く吸い付き、絡んでくる。

ようやく全てを吐き出し、ヒヨの中から開放されるまではそれからもういくらかの時間を必要とした。

アタル,「あっ、はぁ、はっ……き、気持ち、よかった……」

ヒヨの中で果てた感覚は極上だった。

ひよこ,「うん、アタルくん、すっごく気持ちよさそうな顔してた……私の中、そんなに気持ちよかったんだ……?」

アタル,「ああ……癖になるくらいだった……ごめんな……ヒヨは痛いばかりで、あんまり気持ちよくなれなかったろ?」

ひよこ,「うん、痛かったけど……アタルくんとぴったりだったから、幸せだったよ。だから、全然へっちゃら。それに……最後の方は、ちょっと慣れてきたかも……」;

アタル,「ん?」

ひよこ,「なんでもない、なんでもないよ」

アタル,「次はヒヨのこと、もっと気持ちよくしてあげられるように頑張るからさ……ありがとな」

ひよこ,「お礼なんていわなくていいのに……ん……ちゅっ……アタルくん、だぁい好きっ……♪」

アタル,「俺も好きだ、ヒヨ、ん……」

裸のまま重なり合い、ヒヨと顔を合わせキスを交わした。

何度聞いても、ヒヨの愛の言葉は耳に心地よかった。

静かな夜。俺とヒヨ以外には、誰もいない夜。

俺たちは誰にも邪魔されることなく、添い遂げることが出来た。

そして今、俺たちは快感の余韻を楽しみながら、お互いの瞳を見詰め合っていた。

ひよこ,「んふふ~~、アタルくん?」

アタル,「うん?」

ひよこ,「何でもないよ~。えへへ、ただ呼んでみたかっただけ」

アタル,「そっか。じゃあ、ヒヨ?」

ひよこ,「何? アタルくん?」

アタル,「ははっ、俺もただ呼んでみただけだ」

ひよこ,「もぅ~、アタルくんってば真似っ子さんなの?」

俺とヒヨは他愛のないお喋りを続ける。

頬をつつき合ったり、髪をすき合ったり、時折、顔を寄せ合ってキスをしたり……。

間違いなく、幸せな一時だった。俺とヒヨは笑い合って、頷き合って……また、そっとキスをし合って。

ひよこ,「アタルくん。私ね、お姫様でも何でもないけど……でも、アタルくんへの想いだけは、世界できっと一番だよ?」

ひよこ,「だから私……頑張るね? アタルくんと一緒にいられるように。アタルくんの一番近く……すぐ隣に立っていても、変じゃないように」

アタル,「なら、俺も頑張るよ。ちゃんとした王様として、振舞えるようにさ」

アタル,「ヒヨ、前に言ってたもんな。女の子は白馬の王子様に憧れるってさ」

アタル,「ヒヨにもっと好きになってもらえるように、俺も頑張る。うん、今そう決めた」

ひよこ,「アタルくん……うん。頑張って行こうね。2人で一緒に、どこまでも……ずっと、ずっと」

ひよこ,「……大好きだよ、アタルくん。だい、だいだい、だぁ~い好き。えへへ……」

アタル,「俺もだよ、ヒヨ。大好きだ」

ひよこ,「両想い、だね。大好き同士だね」

アタル,「あぁ」

ひよこ,「ふふっ。幸せだよぉ~……はぅ~」

ヒヨは気の抜けた可愛らしい声を漏らす。俺はそんなヒヨの頭を、そっと撫でてやる。

ひよこ,「あぅ……んっ、気持ち、いいよぉ……」

ひよこ,「もっと、アタルくんとお喋りしていたいのに……んぅ、眠く、なっちゃう」

アタル,「眠っていいよ、ヒヨ。眠るまで、俺がこうして頭を撫でててやるからさ」

ひよこ,「んぅぅ~、でもぉ……はぅぅ」

アタル,「初めてで、疲れてるだろ? 無理しないで、俺に甘えていいんだぞ?」

ひよこ,「うん……ありがと、アタルくん……んっ、おやすみ、なさい……」

アタル,「あぁ、おやすみ、ヒヨ」

ひよこ,「すぅ~、すぅ~……んっ、すぅ、ふぅ……」

ヒヨはかなり疲れていたらしく、すぐに眠りに就いたみたいだった。

日中は遊園地でデートをして、そして夜は……初体験。うん、疲れきって当然のハードスケジュール。

特に男以上に、女の子の初体験は、精神も体力も使い果たすほどの一大イベントだ。

俺は静かな寝息を立てるヒヨを、起こさないように、心地よく眠れるように、そっと撫で続ける。

ひよこ,「……んた、る……ぅん」

アタル,「んっ?」

ひよこ,「んぅぅ~……アタル、くん……大好きだよぉ……」

夢に俺を見てくれているのか。ヒヨは小さな声で、俺の名前を呼んでくれた。

アタル,「俺もだよ、ヒヨ」

ひよこ,「んぅ~~~……」

俺はそれからしばらくの間、ヒヨの健やかな寝顔を見守り続けたのだった。

朝の訪れを感じた俺は、ゆっくりと目蓋を持ち上げようとした。

しかし、どうにも身体がけだるくて、力が入らない。あぁ、このままもう一度、夢の世界に旅立ってしまいたい。

ふとそんなことを思った瞬間、俺の耳にヒヨの軽やかな声がすっと入り込んできた。

#textbox Khi0420,name
ひよこ,「アタルくん、朝だよ? さぁ、起きて起きて~?」

アタル,「んっ……あぁ、おはよう、ヒヨ」

あれだけ重たく感じた目蓋も、ヒヨの声で途端に軽くなった。

もし今、ヒヨの声の代わりに目覚まし時計が鳴っていたら、俺はきっとここまで素直に起きはしなかったはずだ。

我が事ながら、現金なモンだなぁと思う。

#textbox Khi0460,name
ひよこ,「うん、おはよ、アタルくん! 今日もいいお天気だよ?」

いつのもメイド服ではなく、パジャマ姿のヒヨが俺のすぐ目の前でにこやかに笑う。

アタル,「……」

寝起きの俺は、ぼ~っとヒヨの笑顔に見惚れたのだった。

#textbox Khi0410,name
ひよこ,「どうしたの、アタルくん?」

アタル,「いや……何かこう、幸せだなぁって」

#textbox Khi0420,name
ひよこ,「えへへ~、実は私もだよ? 起きてすぐアタルくんの顔を見て、何だかほわほわぁ~ってしちゃったもん」

#textbox Khi0410,name
ひよこ,「お布団から抜け出してパジャマを着るの、すっごく気合が必要だったんだよ? 少しでも気を抜くと、へにゃぁ~ってなっちゃって」

そう言えば、ヒヨは寝る前、いつの間にやらパジャマを着ていたな。

#textbox Khi0420,name
ひよこ,「でもでも、いつまでもパジャマを着ないわけにもいかないから、頑張っちゃったよ~」

裸どころか、恥ずかしい部分を全部見せてるのに、今更、何を恥ずかしがることがあるのかと。

その辺の感覚は女の子特有だよな。俺は男だし、もう全部見られた後だから、ヒヨの目の前で着替えても全然恥ずかしくはない。

俺は胸中で、ちょっと想像してみる。ヒヨにじっくり見つめられながらに着替えをする自分。

……訂正。やっぱり男でも少し気恥ずかしいかもしれない。どうやら、そんなドM体質じゃなかったらしい。

ちなみに布団の中にいる俺は、未だに全裸なぅ。

#textbox Khi0460,name
ひよこ,「アタルくんの寝顔を前もって見たことなかったら、本当に危なかったかも。うん。へにゃ~の危機だったよぉ」

アタル,「……すればよかったのに。今日だけ特別ってことでさ」

#textbox Khi0470,name
ひよこ,「ううん、ダメだよ。そんなこと言っちゃったら、もうずっと毎朝、へにゃ~ってなっちゃいそうだもん」

#textbox Khi0430,name
ひよこ,「だって、昨日の夜だけ……じゃないでしょ?これからはずっと一緒なんだから……」

アタル,「それは、そうだな。でも、毎朝起きてすぐはヒヨとへにゃへにゃするのが日課って言うのも……いいかも?」

#textbox Khi0440,name
ひよこ,「あぅっ、あ、アタルくんが私を誘惑するぅ。ころっと落ちちゃいそう……」

アタル,「ははっ、さぁ来い、ヒヨ。布団の中はまだあったかいぞぉ?」

俺は少しだけ布団をめくって、ヒヨを誘う。

ヒヨの視線は俺と、俺のすぐ隣の開いたスペースを忙しなく行きかう。

待てと指示されて、エサとご主人様をキョロキョロ見やる小さなワンコみたいだった。

#textbox Khi0430,name
ひよこ,「あうぅぅ~。ダメだって、わかってるのに。もう起きる時間だから、アタルくんを布団から出さなきゃいけないのに……」

#textbox Khi0450,name
ひよこ,「うぅ、あたたかベッドの魔力に抗えない自分がいるよぉ。ど、どうすれば……」

アタル,「迷っているうちに布団の暖かさがなくなってくぞ?」

#textbox Khi0480,name
ひよこ,「はうっ! と、飛び込むなら、今しか!? で、でもでも!」

ヒヨが迷いに迷って、身をくねらせ始めた―――その時だった!

#textbox kas0110,name
アサリ,「王様ー? アサリですよー? 入っちゃっていいですかー?」

俺の部屋の扉の向こう側から、アサリさんの間延びした声が!

#textbox Khi0440,name
ひよこ,「ひゃぁっ!?」

アタル,「のぉっ!?」

それに驚かされた俺……は、まだいいとして……問題はヒヨだ。

驚いた拍子に足を滑らして、ヒヨは俺の元に倒れこんで来たのだ!

ドアのすぐ向こうにあのアサリさんがいると言うのに、俺とヒヨはベッドの中でくんずほぐれつ。

ヒヨのパジャマは少しだけ乱れて、そして俺は全裸!まさにこれ、言い訳不可能な状態だ!

あっ、いやまぁ、誤解でも何でもなく、俺とヒヨは一夜をともにしたわけだけど……それはともかく!

アタル,「ちょ、ひ、ヒヨ、は、離れないと!」

#textbox Khi0470,name
ひよこ,「ご、ごめんなさぁい、びっくりして―――」

#textbox Khi0440,name
ひよこ,「―――って、アタルくんも早く服を着なきゃ!アサリさんに見られちゃうよぉ!」

アタル,「と言うか、ヒヨが今ここにいるのを見られるのもまずいんじゃ? いや、起こしに来たと言うことでセーフか?」

#textbox Khi0490,name
ひよこ,「あっ、じゃあ、私はベッドの中で丸まって、何とかいないように誤魔化しちゃうよ!」

アタル,「バレる! それは確実に一目瞭然だ!ヒヨじゃあるまいし、騙されるか!ましてや相手は、あのアサリさんだぞ?」

ひよこ,「むぅぅ~~、私じゃあるまいしって言うのは、ひどいよぉ! アサリさんがすごいのは、私にもわかるけど」

アサリ,「本当にひどいのはアサリを延々と部屋の外で待たせちゃうお2人じゃないかなー、とまぁ、そう思う今日この頃ですよー」

ひよこ,「あっ、すみません……って、アサリさん!?」

気がつくと、俺たちのすぐ傍……ベッドの脇にアサリさんが立っていた。

アタル,「い、いつの間に入って来たんですか?扉が開く音なんて、しなかったのに」

本当に、底知れない人だ。

アサリさんならこの国の各地に存在する忍びの奥義をすべて習得していたとしても、全然不思議じゃないと思う。

アサリ,「いえいえー? アサリはごく普通に入ってきちゃいましたよー? お喋りで気づかなかっただけ、でわー?」

アサリさんは驚く俺たちを軽くスルーして、いつものマイペースな口調で話し始める。

今朝も変わらず、アサリさんはフリーダムだった。

アサリ,「まぁ、そんなことよりも今は言うべきことが2つほどあるのですよー。まずはー」

アサリ,「おはよーございます。よい朝ですねー?」

アタル,「あ、は、はい。何はともあれ……おはようございます」

アサリ,「次に、これは絶対に言わねばならないのですよー。ふふー、昨日はお楽しみでしたねー?」

アタル,「……な、何のことやら?」

アサリ,「えー? そこでとぼけちゃうんですかー? まー、楽しんだかどうかは胸の奥。他人に聞かせることじゃないよーってことですねー」

アサリ,「って言うかー、聞かなくてもさっきのやり取りと、今のお顔を見るだけでわかっちゃいますけどー」

ひよこ,「……はうぅ。た、楽しかったし、幸せでした……」

にこやかに話すアサリさんに釣られてか、ヒヨはそう呟いてほっぺを赤くするのだった。

アサリ,「ですよねー。うんうん、仲良きこと、よきかなよきかなーですよー」

アサリ,「いやー、でもでも、アタルさんとひよこさんがねー。うふふのふー、ですー」

アタル,「アサリさん、昨日……どこにいたんですか?」

実はこっそりと俺とヒヨの初体験を見守っていた、とか言い出さないだろうな?

そんなことはあり得ないって断言出来ないのが、アサリさんと言う存在なんだと思う。

アサリ,「昨夜のアサリは傷心のセーラさんと一緒に、ちょっと色々なところを回っていましたよー?」

アサリ,「だからまぁ、アタルさんたちのウレシハズカシ初体験を覗き見るなんて、とてもとてもー」

そう言ってアサリさんは首を左右に振るけれど……俺はいまいち信じきれなかった。

アサリ,「さて、そろそろ本題に入りますよー?今も言った通り、セーラさんは傷心も傷心。ぶろーくんはーとなのですよー?」

アサリ,「もう国に帰るんだーって、昨日はさめざめと泣いての帰り仕度でしたー。面倒この上なかったですー」

アサリ,「ここの私室だけがセーラさん領域じゃなくて、他にもバックアップ用の拠点があるわけですしー。そこも撤収しなきゃでもう、てんやわんやですよー」

アサリ,「でー、アタルさんはその辺りについていかがお考えでしょーかー?」

ヒヨと結ばれて、俺はハッピーエンドを迎えられたと……そう思った。そう、錯覚した。

今ついさっき、アサリさんが訪ねて来るその瞬間までは。

でも、まだ何も終わっていない。俺に求婚してきたあのお姫様たちは今、傷つき帰ろうとしている。

まだ、何も終わっちゃいない。俺は2人に、自分の口から思いを告げていない。そしてお別れの挨拶すらもしていないんだ。

昨夜、俺はヒヨと話していて、こう思った。これが当然の結末で、仕方のないことだと。

でも、きっと『仕方がない』の一言で終わらせちゃ、駄目なんだ。

駄目だからこそ、今ここにアサリさんは姿を現したんだと思う。

アタル,「……セーラさんには、悪いことをしたと思ってる。いやもちろん、ミルフィにも……でも」

俺はアサリさんの問いかけに対して、答えを返す。

今の俺の本音を、ただただ真摯に。

アタル,「でも、やっぱり俺が好きなのはヒヨで……セーラさんたちと一緒になることは出来ない」

アタル,「セーラさんも、ミルフィも、俺にはもったいないくらいにいい人だと思う」

アタル,「本当なら、俺が頭を下げる側だったと思う。結婚してくださいって拝み倒して、それでも報われないような……そんなお姫様たちだと思う」

アタル,「でも、それでも俺はヒヨを選びました。ヒヨが、ヒヨこそが俺の一番大切な女の子なんです。この想いは、変わりません」

ひよこ,「……アタルくん」

すぐ真横で俺の言葉を聞き届けたヒヨは、ちょっと熱っぽく吐息を漏らす。

ヒヨは今の俺の言葉にドキッとしたのかもしれないが、俺も今のヒヨの吐息にドキッとさせられたぞ?

アサリ,「朝っぱらからの熱烈告白第2弾に、ひよこさんもドッキドキですねー」

アサリ,「さて? お二人の仲が好いことはもう重々にわかってますよー? それで具体的に今後どうしますー?」

アタル,「昨日は何も言えなかったけど、やっぱり俺が真正面から、2人に今言った内容を告げなきゃいけないと思ってます」

アタル,「2人とも、やっぱりまだ怒ってるかも知れないけど……俺は土下座をしてでも会ってもらって、話を聞いてもらわなきゃ」

アタル,「それがきっと俺がつけなきゃならない、けじめだと思うから」

アサリ,「ふーむふむー? ご立派な心意気ですねー。これがニッポン男子のオノコ魂でしょうかー?」

アサリ,「でもでもー、残念ながら会うことは土下座しても不可能ですよー? 特にミルフィさんなんて開戦準備しちゃうくらいのド怒りモードですしー」

アタル,「そ、そんなに怒ってるんですか?」

アサリ,「セーラさんも、もちろん帰国と平行して戦闘準備中ですよー? ミルフィさんにつられちゃいましたかねー? いわゆる失恋同盟ー?」

ひよこ,「あ、あの、開戦って、せ、戦争になっちゃうんですか?ミルフィさんの国と、私たちの国が?」

ヒヨは信じられないとでも言う風に、呆然と呟く。気持ちは俺も同じだった。

2人が怒っていたのは、確かだ。キッと射抜くような目で睨まれたことも覚えている。

エリスさんなんか、敵意を通り越して殺意を零していたようにも思う。

でも、それはあくまで俺に対してのみ……じゃなかったのか?

まさかこの国全体を目の敵にするほどの憎しみだったなんて……。

アサリ,「と言うか、そもそもにしてー、ちょっとした疑問点があるんですよねー?不可解ここに極まりなのですよねー?」

アサリ,「アタルさん。昨日、何故あのような伝言を柴田さんに託しちゃったんですかー?」

アサリ,「いえ、あるいはこう聞くべきでしょーか? アタルさんは本当に、柴田さんにあんな伝言を託したんですかー?」

アタル,「それは……どういう、ことですか?」

アサリ,「アサリは昨日、アタルさんと最後に会ったその時、変だなーと違和感を覚えましたー」

アサリ,「だって、あの伝言が真実なら、あの時のアタルさんはセーラさんたちにこう言うはずなんですよー」

アサリ,「『まだ敷地内にいたのか、このクソビッチが~。とっとと消え去れ、臭いんだよメス豚が~』とか?」

アタル,「…………は、はい?」

ひよこ,「あ、アサリさん! アタルくんはそんなこと、言いません! すっごくケンカしてても、絶対言わないもん!」

アサリ,「ですよねー。アタルさんの頭に収まっている辞書にはなさそうなボキャブラリーですよねー」

アサリ,「でも、昨日……セーラさんやミルフィさんに告げられた伝言は、そんな感じだったんですよー?」

アサリ,「何だかもう、ドS全開と言うかー? いえ、むしろ鬼畜王が全力で言葉責めって言うかー?」

アタル,「お、俺はそんな伝言、頼んでない……一言も、そんなこと……何で? どうして柴田さんは、そんな……」

アサリ,「やっぱりアタルさんに心当たりは欠片もなし、となるとー、柴田さんがクサいですねー?」

柴田さんは、一体何を考えてそんなことを言ったのだろう?

ヒヨは俺がそんなことを言うはずがないって言ってくれたけど、それなら柴田さんだってそうだ。

いつも穏やかな笑みを浮かべて、そつなく俺のフォローをしてくれて、礼儀正しくて……。

政府から派遣された、超エリート。アサリさんが言ったような言葉は、まず口にしないであろう人。

そのはずなのに……何で、なんだ?

アタル,「いや、どうして柴田さんがそんなことを言ったのかより、今の問題は……2人がそれを信じたことか」

アサリ,「お姫様ー、メスブタ言われー、開戦すー……ですしねー」

場を和ますためか、あるいはただ単に言いたかっただけか。アサリさんは何とも微妙な句を詠むのだった。

ひよこ,「……2人とも、どうしてそんな言葉、信じちゃうの? アタルくんがそんなこと言うはず、ないのに……」

アサリ,「まったくですねー? まぁ、ミルフィさんは直情的な方ですしー、エリスさんはミルフィさんの怒りに瞬時に即発されちゃう方ですしー」

アサリ,「セーラさんは愛していた者に裏切られたという気持ちが強いみたいで、ぺっこり凹んでましたねー」

アサリ,「アタルさんがそんなことを言わないって思えるのは、冷静に物事を見られる人と、その人を本気で愛している人でしょうねー」

アサリ,「この場で言えばアサリか、もしくはひよこさんかですねー。うんうん、ひよこさんの愛は強し、ですよー」

アサリ,「残念ながらセーラさんの愛はまだまだーってとこですねー。ひよこさんより3段くらいは下でしょーかー? もしくは数歩遅れー?」

アサリ,「まぁ、セーラさんも恋に恋焦がれていたところがありますからねー。仕方がないと言えば、それまでですけどー」

アタル,「……結構、辛辣なんですね」

アサリ,「あははー、何を今さら。アサリは好きなよーに動いて、好きなことを喋っちゃいますよー?」

アサリ,「だってアサリはセーラ様の直属ってわけじゃないですしー? 忠誠を誓っているわけでもないですからねー」

アタル,「……そう言えば、そうでしたね」

アサリ,「さてさて? これからどーしましょーかー? セーラさんとミルフィさんは帰国して開戦準備に取り掛かろうとしててー」

アサリ,「で、事の発端になった柴田さんの姿は見えず……うーん、これはかなり切羽詰っちゃってますねー」

アタル,「そう言えば柴田さんは? いつもならもう来てるはずなのに」

ひよこ,「私もアタルくんも、ずっと部屋から出て行ってないのに、何も言って来ないなんて変だよね?」

アタル,「今日に限って遅刻? もしくは休み?あの柴田さんが、何の連絡もなしに……?」

困った時の王の証頼み。俺は『CROWN』を手に取り、柴田さんへの連絡を取ろうとした。

柴田さんはすぐに電話に出てくれて、事情を説明してくれた。

昨日の発言には実は深い深い意味があって……。

当然のように、すでにアフターフォローも完璧で……。

ミルフィもセーラさんも今はすっかり落ち着いて、開戦準備の中止命令を発令しているのだと……。

――――――そう、うまく話は運んでくれなかった。

アタル,「…………駄目だ。繋がらない。いつもなら、すぐに出てくれるのに」

アサリ,「んー? ますますクサいですねー? まぁ、柴田さんについては置いておいてー、アサリはセーラさんのところに戻りますー」

アサリ,「で、ここに連れて来ちゃいますからー、あとはアタルさんが好きなようにお話しちゃってくださいねー」

アサリ,「誤解をちゃんと解けば、開戦準備は取り下げてもらえるはずですからー。これで1つ懸念事項が消えますねー?」

アタル,「ありがとうございます、アサリさん」

アサリ,「いえいえ、お礼なんて結構ですよー? アサリは今までのご飯とお宿のご恩を忘れないのですよー。何故なら、義理堅い女ですからねー」

アサリ,「んっ! 今ならまだ出国前に捕まえることが出来るでしょー。さて、行きますよ~? 一肌脱ぎ脱ぎですねー」

ひよこ,「あの、アサリさんの足が速いことは、知っていますけど……間に合いますか?」

アサリ,「だーいじょぶですよー。アサリを誰だと思っていますー?間に合います、間に合わせますよー。ご心配なっくー」

アサリ,「ごめんで済んだら戦争なんて起きないって言いますけどー、今回のはきっとごめんで停まる戦争ですしー? 絶対、連れてきますから~!」

言うが早いか、アサリさんはまるで猫のように……いや、チーター以上と思える加速力で、俺たちの前から立ち去った。

まさに疾風のごとく! と言う感じだった。

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ひよこ,「はわぁ~……本当に早いね、アサリさん」

アタル,「あぁ。あのアサリさんが絶対って言い切ったんだ。セーラさんは必ず、ここに来る」

アタル,「昨日の今日で会うのは、ちょっと気が重いけど……でも俺、ちゃんとけじめをつけるよ」

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ひよこ,「……アタルくん……んっ、はぅ……」

俺は不安げな表情を浮かべているヒヨを、頭を撫でることで落ち着かせた。

いや、逆かな? 俺はヒヨの頭を撫でることで、何とか落ち着こうとしたのかも知れない。

戦争。それだけは絶対に回避しなければならない。

2人が俺にビンタしたいって言うのならば、それは甘んじて受けようと思う。

でも、戦争は……侵攻を甘んじて受け止めることなんて、出来ない。

アタル,「ミルフィの方にも俺の話を聞いてもらえるよう、色々と手を打ってみないとな」

アタル,「性格的に、俺からの連絡なんて全部遮断しそうだけど……諦めるわけには行かない」

アタル,「あと、柴田さんにも会わないと。どう言うつもりか、しっかり事情も説明してもらいたいし」

アタル,「政府の方で何か立て込んでるのかも知れないし……あっ、政府側にもアポを取って……後は……」

俺はこれからやるべきことを頭の中で組み立てていく。今は時間が惜しい。

俺の真面目な思考は、腹の虫の音によって中断させられた。

……シリアスな雰囲気が、台無しだった。

我ながら締まらないなぁ。戦争の危機が迫ってるって言うのに。

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ひよこ,「ふふっ、まずは朝ご飯を食べなきゃだね」

アタル,「そんな暢気なことは言ってられないだろ? 一刻も早く動かないと。ヒヨもミルフィの性格は知ってるだろ?」

アタル,「アイツは攻めるとなったら、本気で攻めてくるぞ?こうと思い込んだら、最後まで突っ走るタイプだし」

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ひよこ,「うん。だからこそ……ちゃんとご飯を食べて、元気を出さないと! ほら、昔から腹が減っては戦は出来ないって言うでしょ?」

アタル,「いやいやいや、戦をするつもりはないんだってば」

#textbox Khi0420,name
ひよこ,「いいから、ご飯ご飯。さっ、食堂に行こう?」

アタル,「いや、ヒヨ? 事態は結構ヤバんだぞ?」

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ひよこ,「わかってるよ。でも、私はアタルくんの恋人だから……だから、アタルくんが無茶しようとしたら、止めるの」

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ひよこ,「アタルくん。焦っても、きっといい結果には結びつかないよ? だから、落ち着こう?」

アタル,「……そう、だな。うん。ありがと、ヒヨ」

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ひよこ,「ううん。アタルくんのパートナーだもん。当然のことなんだよ」

ヒヨはそう言い、俺に手を伸ばす。

俺はその手を取って、立ち上がる。さぁ、食堂に行こう!そして腹ごしらえをしたら、本格的に動こう!

そう決意して、背筋をピンと伸ばした。

すると、部屋の空気がやけに肌寒く感じられた。

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ひよこ,「……あ、あはは。アタルくんはまず、お着替えからだったね」

アタル,「そう言えば、まだ全裸だったな、俺」

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ひよこ,「昨日の夜と違って、その……い、今はあんまり元気、ないんだね? 何だか可愛い感じかも」

アタル,「ごめん。お願いだからちょっとあっちを向いててくれ」

ほっぺを赤くしてじぃ~っとこちらを見やってくるヒヨに、俺は情けない声を投げかけるのだった。

本当に締まらないなぁ。とほほ……。

………………。

…………。

セーラ,「なんなんですかなんなんですかなんなんですか?」

アサリ,「ジャンプしますから、ちょーっとだけ揺れちゃいますよー」

セーラ,「なんなんですかなんなんですかなんなんですかなんなんですかなんなんですかなんなんですか?」

アサリ,「だからー、事情は後で話しますから、今は大人しくしててくださいねー」

アサリ,「ほいっとー。野を越え山を越えー、ショートカットでコンビナートを越えてー」

セーラ,「なんなんですかなんなんですかなんなんですかなんなんですかなんなんですかなんなんですか?」

アサリ,「やっぱり下の道を走るより、煙突から煙突にジャンプする方が早いですねー。ほいっとー」

セーラ,「なんなんですかなんなんですかなんなんですかなんなんですかなんなんですかなんなんですか?」

アサリ,「んー、急ぎ過ぎたでしょーかー? いつの間にかセーラさんがリピートモードで固定化されちゃいましたー」

アサリ,「でもー、休憩を取る余裕はないのでー、このまま突っ切りますねー?お昼はアタルさんたちと取りたいですしー」

………………。

…………。

アサリ,「はふぅー。うん、もう少しで着きますよー」

セーラ,「はぁはぁはぁ、な、何なの、ですか? 本当に、何なのですか? きゅ、急に、こんな……はぁはぁ」

セーラ,「また、ここに私を連れ戻して……私に、どうしろと言うのですか? 今さらどんな顔で、アタル様に会えと……」

アサリ,「普通に会えばいいのですよー。アタルさんは別にセーラさんのことを何とも思ってないのですからー」

セーラ,「何とも!? あんな言葉を、私に告げるように命じておいて、ですか? そんな、そんなことって……」

アサリ,「いえいえ、そーではなくてですねー? はぁ~、どーして『アタルさんがあんな伝言を託すはずがない』と思えないのでしょーか?」

アサリ,「セーラさんの中のアタルさんは、そこまで極悪非道なわけですかー? アサリの知るアタルさんは、メス豚とか言わない人なんですけどー」

アサリ,「アタルくんがそんなこと言うはずがないよーって、そう信じたひよこさんの一人勝ちー。うん、順当だったのかもー」

セーラ,「……アサリさん、それは……どう言うことですか?もしかして、あの伝言は……」

アサリ,「まぁ、詳しくはアタルさんご本人からお聞きくださいませー、と言うことで、行きますよー?」

セーラ,「…………わかり、ました」

セーラ,「……アタル様……」

………………。

…………。

アサリさんがセーラさんを連れて俺たちの元に舞い戻ったのは、昼過ぎのことだった。

がちゃりとドアが開き、朗らかなアサリさんと……そして物憂げな表情のセーラさんが入室してくる。

アサリ,「出発直前だったから助かりましたよー。さすがに飛行機に乗られては、さすがのアサリでも困ってしまうところでしたー」

アサリ,「まさか撃墜してセーラさんを確保するわけにも行きませんしねー。騒ぎになっちゃいますしー」

やろうと思えば出来るんですか?そうツッコむだけの余裕は、今の俺にはなかった。

#textbox Kse0350,name
眼前まで歩み寄ってきたセーラさんから、俺は視線を動かせなかったから。

一晩顔を合わせていないだけなのに、ひどく久しぶりな対面のようにも思えた。

俺が見慣れていない、落ち込んだ表情をセーラさんが浮かべているからだろうか?

セーラ,「アタル様……」

アタル,「セーラさん……」

俺は口の中の唾を飲み込み、小さく息を吐く。そして、セーラさんに話しかけようとした。

アタル,「セーラさん、ごめん。俺―――」

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セーラ,「私の身体には、価値なんてない」

しかし、セーラさんは俺よりも早くに言葉を紡ぎ始めていた。

俺は口を閉じ直して、セーラさんの言葉に耳を傾ける。

だが、セーラさんの語った内容は……端的に言ってひどかった。ひどいとしか、言いようがなかった。

#textbox Kse0350,name
セーラ,「アタル様は私を好いていない。一欠けらすら、思慕を持ち合わせはしない」

セーラ,「私が枝垂れかかることで、アタル様がどれだけの忍耐を必要としたことか」

セーラ,「私のこの胸の……き、汚く醜い肉塊を押し付けられることに、内心どれほどの恐怖と憤怒を覚えたことか」

#textbox Kse0360,name
セーラ,「私は、にっ……肉便器……以下。よ、汚れた便器を洗う、肉の雑巾にすら満たない、役立たず。無価値な存在……」

セーラ,「あ、アタル様には相応しくない、塵芥。社交辞令の世辞を本気に取る、道化。そう、私は柴田さんから伝えられました」

アタル,「お、俺はそんなこと! 一言も頼んじゃいない!」

本当に、柴田さんは何を考えてセーラさんにそんなことを告げたんだろう? 

俺には柴田さんの考えがまったくわからなかった。

アサリさんからセーラさんはひどいことを言われていたと聞いていたけれど、まさかここまでひどいなんて!

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セーラ,「そのよう、ですね。そのお顔を見れば……今の言葉が嘘ではないと、わかります」

#textbox Kse03D0,name
セーラ,「いえ、もっと早くに気づくべきでした。昨日、アタル様は私に……侮蔑の視線など、投げかけてはおられなかったのですから」

#textbox Kse0350,name
セーラ,「なのに私は、戸惑うアタル様に捨て台詞を吐いて、一人涙して、ここを去って……ふふっ、道化との言葉は、これでは否定出来ません」

アタル,「そんなこと! そんなこと、ありません。俺が、悪かったんです」

アタル,「自分で言うべきことを人任せにした、俺が……」

アタル,「俺が最初からきちんと自分の口で伝えていれば……そもそも、こんなことにはならなかったんだ」

後悔しても始まらない。それはわかっているけれど、でも、思ってしまう。

柴田さんに『私から伝えましょう』と申し出られた時のことを。

あの時、俺は首を左右に振るだけの心の強さを持つべきだったんだ、と。

セーラ,「……アタル様。その心の中にある想いを、私にお聞かせください。アタル様の口から、アタル様の言葉で……」

アタル,「俺は……」

セーラ,「……はい」

アタル,「俺は、俺はヒヨを……西御門ひよこを、最愛の人と選びました」

アタル,「俺が好きなのは、ヒヨなんです。この想いに間違いは、ありません。だから……セーラさんとは、お付き合いできません」

#textbox Kse03D0,name
セーラ,「……そう、ですか」

アタル,「セーラさんのことは、好きです。大切だとも、思います。でもそれは……友達として、です」

#textbox Kse0380,name
セーラ,「……お友達。その言葉を頂けて、嬉しく思います。悲しくもあり、切なくもあり、悔しくもありますけれど」

セーラ,「今まで一緒に笑って過ごして来た時間は、嘘ではなくて。アタル様の微笑みも、照れたお顔も……演技ではなかったのですよね?」

柴田さんにひどいことを言われたからだろう。セーラさんは声に少しの恐怖を漂わせながら、俺にそう問いかけてくる。
#textbox Kse03D0,name
セーラ,「アタル様。あの日の出会いから、私たちは多くの時間を共有してきました。ともに食事をし、授業を受け、語らい、笑い合い……」

#textbox Kse0380,name
セーラ,「私と過ごしたあの時間は、楽しい思い出で……愛情は育めなかったけれど……友情は、生まれたのですね?」

アタル,「ええ。俺は、そう思っています」

#textbox Kse0370,name
セーラ,「そう、ですか。あぁ……とても、不思議な気分です。色々な想いと、これまでのことが胸の中で渦巻いて……」

#textbox Kse0350,name
セーラ,「心は今、軽いような……重いような……今朝起きたその時よりは、確実に好い気分ではあります、けれど。けれど……」

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セーラ,「私の今の、このひどく複雑な思いへの責任を……アタル様には取って頂きたく思います」

セーラさんはキッと俺を睨み、そして手を大きく振り上げた。

アタル,「……わかりました。どうぞ、セーラさん」

俺はゆっくりと頷いて、一歩前に出る。

俺は昨日、この手を受けておくべきだったんだ。

そうすれば、開戦だとか何だとか話がややこしくならずにすんだんだ。

あぁ、そうだ。きっとこれが……俺のつけるべきけじめだ。

俺はセーラさんのすぐ目の前で、目を閉じる。そしてその手が振り下ろされるのを待った。

#textbox khi0390,name
ひよこ,「―――待って!」

だが、そんなヒヨの声とともに、俺の身体にちょっとした衝撃が走った。

驚いて目を開いてみると―――――

ヒヨが俺のことを押しのけて、セーラさんの前に立っていた。

そしてその両手は、まるで、俺のことをかばうかのように大きく広げられていた。

アタル,「ひ、ヒヨ!? な、何やってるんだ!これは俺とセーラさんの問題だぞ!」

アタル,「いや……俺のけじめ。俺が受け止めなきゃらならないことなんだ」

ひよこ,「違うもん! アタルくんが取らなくちゃいけないけじめなんて、もうないんだもん」

ひよこ,「あるとすれば、柴田さんに伝言を頼んだことを、謝るべきだとは思う……けど、これは違うもん」

ひよこ,「セーラさんの手は……この手は、アタルくんじゃなくて、私が受け止めなきゃならないけじめなの!」

ひよこ,「セーラさん。アタルくんは、悪くありません。セーラさんの中にある今の思いは、私にぶつけてください」

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セーラ,「いいのですか? 私は、今だけは……絶対に手加減はいたしません」

ひよこ,「構いません。思いっきり、やってください。私は、ちゃんと受け止めます」

ひよこ,「セーラさんの手を受けるべきは、アタルくんじゃないんです。絶対に……私なんです」

ひよこ,「セーラさんはさっき、悲しみと切なさと悔しさがあるって、言っていました」

ひよこ,「でもそれは、アタルくんの選んだ相手がミルフィさんなら……きっと感じなかったはずなんです」

ひよこ,「いえ、きっと感じますけど……でも、ちゃんと納得が出来たはずなんです」

ひよこ,「だって2人は、アタルくんのお嫁さんになろうとしてるライバル同士だったから」

#textbox kse0350,name
セーラ,「…………」

ヒヨの必死な語りに、俺もセーラさんも気圧されてしまう。

俺とセーラさんは前後からヒヨに視線を注ぎ続ける。

ひよこ,「もし、アタルくんがミルフィさんを選んで、一緒に生きていくんだって宣言したら……セーラさんはきっと頷きます」

ひよこ,「もしかすると泣いちゃうかも知れないけど、でも、最後にはきっと笑うと思うんです。アタルくんに手を上げようなんて、思わないはずです」

ひよこ,「なのに今、セーラさんが手を上げたのは……アタルくんが選んだ相手が、私だったから」

ひよこ,「私は、ずるいんです。セーラさんとミルフィさんは、出会った時からお嫁さんになりたいって、ちゃんと言ってました」

ひよこ,「でも私は……幼馴染だとしか、言いませんでした」

ヒヨのその言葉で、初対面のあの日の会話が俺の頭に浮かび上がる。

ミルフィ,「ふぅん、じゃ、別にあたしたちとアタルを巡って勝負するってわけじゃないのね?」

ひよこ,「えっ!? う、うん、私はその、お姫様たちとは身分が違いますし!」

ひよこ,「それに、そのっ、アタルくんのお嫁さんになるとか、そんな、別に、私は、その、ただの、幼なじみだし……ね? アタルくんっ」

確かに、ヒヨは自己紹介の時にそう言っていた。そして、俺もヒヨの言葉に頷いたんだ。

お嫁さんになる気なんてない。そう言って、ヒヨはセーラさんとミルフィの手を握った。

ヒヨ自身は……あれが嘘を吐きながらの握手だったと、そう思っているのだろう。

だから、きっとこんなにも必死になっているんだ。

ひよこ,「私はお嫁さん候補じゃない。なのに、私はメイドさんとして、ずっとアタルくんの傍にいて……」

ひよこ,「私は、ずるかったんだと思います。スタートラインに、私だけ並ばなかったんです。だからセーラさんも納得が行かないんだと、そう思います」

ひよこ,「だから……けじめをつけなきゃ行けないのは、私なんです」

アタル,「ヒヨ……」

#textbox kse03D0,name
セーラ,「そう、ですか。えぇ……ひよこさんの想いはわかりました。そしてその想いに、私も納得が行きました」

#textbox kse0380,name
セーラ,「では、手加減無しで行きますよ?」

ひよこ,「……はいっ!」

#textbox kse0380,name
セーラ,「では―――」

セーラさんはその手を振りかぶり直し、そして勢いよく振り下ろした!

セーラ,「―――えい♪」

ひよこ,「…………え? セーラ、さん?」

しかし、ヒヨの頭に当たる前で急停止。

その手をほふんとヒヨの頭に乗せて、優しく撫で始めた。

セーラ,「ふふっ。私が本当にひよこさんを叩くはず、ないじゃないですか」

ひよこ,「で、でも、今、私の話に納得したって……」

セーラ,「私が納得したのは、ひよこさんの想い……その人柄そのものです」

セーラ,「こんなに純粋で健気なひよこさんだから、アタル様も好きになったのですねと、そう納得したのです」

セーラ,「悲しさも切なさも、そして悔しさもあります。でも、それはひよこさんがずるをしたから湧き上がったものではありません」

セーラ,「そもそも私はひよこさんがずるをしただなんて、そんなことは思っていませんよ?」

セーラ,「ずるだ何だと言い出したら、私なんてどれだけアタル様に色仕掛けをしたことか……」

セーラ,「それに今だって、本当はキスを狙っていたんですよ?」

ひよこ,「え? えぇっ!?」

セーラ,「手を振り上げたら、アタル様が目を閉じますでしょう?その隙に、唇にチュッと……」

セーラ,「最後に思い出としてキスを奪うくらいは、お茶目で済むのではないかなと思いまして。ふふっ」

セーラ,「こんな私です。だからひよこさんが負い目を感じることなんて、ないんです。堂々と、アタル様に寄り添ってくださいね」

セーラ,「もしも距離が開いて、誰かが入り込めそうな隙間があったら、その時は私が……ふふっ?」

ひよこ,「な、ないです! 私とアタルくんの間に隙間なんて、ありません!」

ヒヨはそう言うと、振り返って俺の身体に抱きついた。

ちょっとそのほっぺが赤いのは、セーラさんの流し目に色気を感じたからか。

セーラ,「……あぁ、やはりアタル様とひよこさんは、いつも一緒におられるのが似合いますわ。どうか、末永くお幸せに」

セーラさんはそう言い、すごく綺麗な笑顔を浮かべてくれたのだった。

セーラ,「すべては絆の深さ、ですね。私の魅力は、その絆に勝てるものではなかった」

セーラ,「私の予知夢がはずれてしまうなんて……アタル様の『当たらなさ』はさすがですね、ふふっ」

よ、予知夢……? セーラさんにそんな力が?

いや、今は問題視するのはそこじゃない。

アタル,「――セーラさん。俺は、ヒヨと一緒に幸せになります」

セーラ,「ええ。とびっきり、幸せになってくださいね?お友達として、応援していますわ」

セーラさんの笑顔は、崩れない。けれどその瞳には、かすかに光るものがあった。

俺たち3人の周りは暖かくも切なく、そして甘酸っぱい空気に包まれるのだった。

俺もヒヨもセーラさんにつられてか、少しウルッと来てしまった。

それは、まるで結婚式の一幕みたいのようにも思えた。

――そんな素敵な空気をアッサリ払拭したのは、やはりアサリさんだった。

アサリ,「綺麗な恋の終わりを迎えたところでー、ちゃちゃっとやんなきゃいけないことがありますよー?」

アサリさんは手をパンパンと叩きつつ、話を進めていく。

何かもう、情緒もへったくれもなかった。

セーラ,「え? 何ですか、アサリさん?」

アサリ,「開戦準備は着々と進行中ですよー? 準備もただじゃないんですよー? 早く連絡しないと大変かもー?」

セーラ,「はっ!? そ、そうでした! はわわっ、早くしないと、とんでもないことになってしまいます!」

セーラ,「うぅ、私ったら、一時の悲しみでなんて大それた、かつ面倒なことを……」

アサリ,「あははー、あの時は怒り狂ってたミルフィさんに釣られちゃいましたもんねー」

セーラ,「……アサリさん、あの時点で止めて頂きたかったですぅ」

アサリ,「んー、昨日はあまりにぶろーくんはーとで、アサリの声なんて聞こえてなかったじゃないですかー」

セーラ,「あうぅぅ、私が失恋して戦争をしようとしてるなんて、お父様にバレたら……」

アサリ,「失恋の意趣返しに小競り合いをほんのちょこーっとするはずが一転、マジでガチな大戦争ですねー」

アタル,「ぜ、絶対に戦いたくないタイプの相手だなぁ、バルガ王は」

セーラさんはケータイを取り出すと、どこかへと連絡を始める。

ぜひともあの親馬鹿王を刺激しないように、穏便に事を収めて欲しいものだ。頑張れ、セーラさん。

アサリ,「はてさてー? アタルさん、柴田さんの方はどうなってますー?」

アタル,「まだ連絡は取れてないんです。政府の方にも捜索を依頼したんですが……」

柴田さんは現在、完璧に行方不明だった。

政府で行われている何らかの委員会や、その他プロジェクトに参加しているわけでもない。

一体、どこにいるのか? 現在位置につながる手がかりが何一つとしてないなどと言うことは、まずあり得ない。

しかし現に、そのあり得ないはずの事態が起きていた。

柴田さんはあの日から――セーラさんたちに伝言を告げて以降、まるで実体がなかったかのように忽然と姿を消したのだ。

アサリ,「行方知れずですかー。これはいよいよキナ臭いですねー」

ひよこ,「どうして柴田さんは嘘を言ったりしたんだろう? 柴田さんだってこの国の人なのに。戦争になったら、自分も困るのに」

アタル,「別の国のスパイだったとか? もしくは戦争大好きな破滅主義者とか……」

アタル,「RPGとかだと『この世界は腐っている! だから全てを滅ぼすのだー!』とか言っちゃうボスが出てくるんだけど」

ひよこ,「うぅ~ん? 柴田さんって、そんな事を言う人には思えないんだけど」

アタル,「……だよなぁ」

そもそも、俺の推測は経験上まず『当たらない』のだ。

そう考えれば、柴田さんはどこかの国のスパイでも、破滅主義者でもないという事になる。

じゃあ、何だ? そう考えると……俺の頭では他の発想は浮かんでこない。

アサリ,「どーしましょー? セーラさんはこうして止まりましたけど、ミルフィさんの方はいまだ開戦に向けて爆走中ですよー?」

アタル,「そうなんだよなぁ。柴田さんも気になるけど、現状ミルフィの方が問題なんだよなぁ」

アサリ,「まぁ、そう気を落とさずにー。『かつぶしかかったねこまんま』ですし、アサリはもう少しお付き合いしますからー」

アタル,「……えーっと? それはもしかして『乗りかかった船』的な意味合いなんですか? まっ、何にしても協力は心強いです。ありがとうございます」

セーラ,「それでは、私ももうしばらくお付き合いさせていただきますね」

アタル,「えっ、いいんですか?」

セーラ,「もちろんです。だって、大切なお友達が困っているのですから。助力は惜しみません」

アタル,「セーラさん……ありがとうございます」

セーラ,「ふふっ、アタル様やひよこさん、そしてこの国のためだけではありません。ミルフィさんのためでもあります」

セーラ,「いかにミルフィさんの母国イスリアが強大であろうとも、ニッポンとの戦争となれば無傷とは行きません」

セーラ,「つまりこのままでは、アタル様もひよこさんもミルフィさんも……私のお友達すべてが不幸になるんですもの」

セーラ,「ここで私だけが帰国し、知らん振りを決め込むなど、出来るはずがありませんわ!」

アサリ,「そー言えばー、ミルフィさんの怒りが最高潮に達した理由の一つは、セーラさんが貶められたからでしたねー」

アサリ,「セーラにまであんなこと言うヤツだったなんてー、もー絶対に許さないぞーって感じでー」

セーラ,「ええ。私のために怒ってくれたミルフィさん。そんな優しいお友達に戦争などという不幸への道へと進ませるわけには行きません」

ひよこ,「はぅ~。セーラさん、すごく格好イイよぉ。さすがはお姫様……」

アタル,「あぁ、これぞ生粋の王族オーラってヤツだな」

凛とした空気をまとい、朗々と己が意思を宣誓するセーラさんの姿には、かすかな神聖さすら覚える。

根が庶民の俺とヒヨは、そろってはふぅと感嘆を漏らすのだった。

アサリ,「感動してるところ悪いですけど、今のはセーラさんの本音のすべてじゃないのですよー。ねー?」

セーラ,「えっ!? え、えーっと…………」

セーラ,「あー……うー……」

アサリさんの一言を受け、それまで高貴なオーラを発していたセーラさんがしょぼんと肩を落とす。

セーラ,「い、今すぐ国に帰ったりしたら、お父様の相手が物凄く大変そうですし……もう少し、帰るにいい時期を待とうかなー、なんて」

ひよこ,「セ、セーラさん……」

セーラ,「あ、あはは~……」

アサリ,「では、綺麗にオチもついたところでー、それぞれ出来ることをやって行きましょー」

アタル,「俺は柴田さんと連絡が取れないか、もう少し頑張ってみるよ」

アタル,「セーラさんは、ミルフィと話が出来ないか試してみてください。俺は……もう絶縁状態みたいで」

セーラ,「わかりました。ミルフィさんには、私の方からアポイントメントを取ります。お任せください」

セーラさんの協力は、心底心強かった。

俺からの連絡は全て遮断しても、セーラさんの声になら……ミルフィも耳を傾けるかもしれないから。

ひよこ,「私は……皆の補佐、かな? ご用事があったら、何でも言いつけてね?」

アサリ,「それじゃー、まずはご飯ですねー。いやー、セーラさんを抱えてダッシュしたから、もうペコペコですよー」

セーラ,「うぅぅ、私はそんなに重くはありません。大体、アサリさんは私を持って―――持って? あっ……」

アタル,「……ん? せ、セーラさん?」

セーラ,「そ、そこ道じゃありません飛ばないでください危ないです止めてください揺れてますなんなんですかなんなんですか?」

突然固まったかと思うと、ほの暗い空気とともに『何なんですか?』を連呼し出すセーラさん。

何と言うか、端的に言って怖い!すっごく病ンデルオーラが出てる!

アタル,「せ、セーラさんっ!? しっかり? しっかりぃー!?」

アサリ,「あれれー? さっきの最短コース踏破がトラウマになっちゃってる感じですかー?」

ひよこ,「ア、アサリさん?セーラさんをどうやって連れてきたの?」

アサリ,「どうも何もー。普通に小脇に抱えて持って来ましたよー?」

アタル,「それ、普通じゃないーっ!?」

セーラ,「…………あっ」

アタル,「え?」

セーラ,「あら、綺麗なお花畑。あんなところにアタル様が……ふふふふ」

アタル,「セーラさん、俺は目の前にいますよ!?どこ見てるんですか!」

ひよこ,「ど、どど、どうしよう、こういう時って、どうすればいいのかなぁ?」

アサリ,「とりあえず放置してご飯にしちゃいませんかー?」

アタル,「相変わらずのフリーダム加減!?」

おろおろする俺とヒヨに、夢の世界に飛び立つセーラさん。そして笑顔で食堂へと向かうアサリさん。

戦争を前にしても俺たちはシリアスに染まりきらず、どこか間の抜けた時間を過ごすのだった。

でもまぁ、この方が俺たちらしいかな?

ミルフィとも仲直りをして、また皆でこんな風にワイワイするんだ。きっと。

騒がしい最中、俺はふとそんなことを思うのだった。

――クアドラントの間で誤解が解け、セーラさんとも協力して事態解決に向けて動き出して、早くも3日目。

セーラさんはあの日から学園を休み、様々なルートからミルフィに接触しようと頑張ってくれている。

俺ももちろん、諦めずにミルフィには謝罪と会談の申し込みをしているが……いまだに色好い返事はもたらされていない。

やっぱりミルフィに関してはセーラさん頼りみたいだ。

そして事の発端でもある柴田さんの行方は……いまだに不明。

本当に、柴田さんはどこにいるんだろうな?

―――つまり、現状をまとめると。

アタル,「……いまだに進展はなし、か」

俺は学園の正門を通過しながら、そう呟く。

ちなみにセーラさんは欠席しているが、俺はヒヨとともに毎日きちんと登校している。

俺が自分の足で柴田さんを捜索しに行けるわけじゃないし、な。

プロがしっかり捜索している以上、俺が勝手にあちこちふらふらと出回っても、むしろ邪魔なだけだ。

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ひよこ,「これから、どうなるんだろう? ミルフィさん、セーラさんの呼びかけにも応えてくれないみたいだし」

アタル,「完全に意固地になってるんだろうな、きっと」

#textbox Khi0170,name
ひよこ,「ねぇねぇ、アタルくん。私、柴田さんのことも色々考えたんだけどね?」

#textbox Khi0180,name
ひよこ,「実は本物の柴田さんは悪の組織に捕まってて、セーラさんやミルフィさんにひどいことを言ったのは偽者だったとか、どうかな?」

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ひよこ,「完全に別の人に成り代わっちゃう変装の達人さんもいるでしょ? 顔に特殊メイクをぺたぺた~って貼り付けて……」

アタル,「そんなスパイ映画だか特撮みたいなことが……って笑えないところが恐ろしいな……あり得る」

現に俺だって、戴冠初っ端のパレードでいきなり暗殺者に狙撃された経験があるくらいだ。

本人を拘束したり、あるいは……その、殺したりして、成り代わることも、あり得るかも知れない。

ヒヨには心配させたくないから、言うわけにはいかないけど。

アタル,「何にしろ、今の俺たちに出来ることは『普通に学園に行くことだけ』だな」

話しているうちに俺たちはすでに校舎内へと入り込んでいた。

後は靴を履き替えて、教室に向かうだけだ。

……退屈な授業が始まるかと思うと、靴を取る手の動きもついスローになってしまう。

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ひよこ,「うん。今日も元気に、頑張ってお勉強だよ!」

アタル,「……今後の状況の変化が気になって、勉強が手につかないな」

#textbox Khi0180,name
ひよこ,「もう、またアタルくんはそーゆーこと言う~。ちゃんとしなきゃダメだよ?」

アタル,「ははっ、わかってる。冗談だよ」

俺とヒヨはおしゃべりを続けながら、揃って教室へと向かうのだった。

男子学生,「おっ、アタルが来たぞ! ってことは、そろそろ我らがプリンセスがお出ましに……」

男子学生,「お出ましに……ならないな? 今日も休みか?あぁもう、どうなってんだよ、アタル!」

男子学生,「そうだそうだ。お前は来なくていいから、代わりにセーラさんを呼んで来い、セーラさん!」

男子学生,「ミルフィ様も忘れるなよ!? さぁ、今すぐ呼んで来い!ハリー、ハリー、ハァァリィィッ!」

アタル,「気合が入りすぎて、何かもう怖いわ!? 落ち着けよ!」

俺とヒヨが教室に入るなり、クラスメイトがわらわらと駆け寄ってくる。

先ほどまで割りと真面目な考えを浮かべていたので、どうにも皆のテンションについて行けない。

男子学生,「落ち着いてられるかよ! セーラさんが来なくなってから、何日目だと思ってるんだ!?」

男子学生,「アタルもこの前、休んだだろ?何か知ってるんだろ? なぁ、教えてくれよ~!」

男子学生,「おねげぇしますだぁ、王様ぁ~!」

アタル,「その頼み方は、むしろお代官様に年貢を下げてもらう様じゃないか?」

男子学生,「こまけぇことはいいんだよ、王様ぁ!」

アタル,「だから落ち着けって!?あぁもう、縋りつくなよ、鬱陶しい!」

このやり取りは先日から毎日続いているためか、もうヒヨも他の皆も慣れっこだ。

朝の恒例行事と言う風に、いっそ微笑ましげに眺めてくるくらいだ。

男子学生が絡み合ってギャーギャー言ってる光景。うん、全然微笑ましくないぞ?

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ひよこ,「アタルくん、それにみんなー。ベルも鳴ったから席に着かないとだよ~」

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ひよこ,「仲がいいのはいいけど、そのままだと先生に怒られちゃうよ?」

クスクス笑いながら、そう告げてくるヒヨ。だから、その微笑ましげな視線は止めてくれ。

男子学生,「ちぃっ、時間切れか。まぁいい、続きは休み時間だ」

アタル,「……ったく。俺は何にも知らないから、答えられないって言うのに」

男子学生,「嘘吐け。王様のアタルが知らなかったら、他の誰がミルフィ様たちのことを知ってんだよ?」

男子学生,「はっ!? こんなに頑なに言えないってことは、まさか……マジで輿入れの準備中とか!?」

男子学生,「……なん……だと? も、もしそれが本当なら、俺は……どうすればいい!?」

アタル,「本当じゃないし、どうにもしなくていいから落ち着け!」

本当にもう、誰かこいつらを何とかしてくれ!そんな俺の願いが、天に届いたのか?

がらりと扉が開いて、今日も変わらずにひげの濃い我らがヒゲゴリ先生が姿を現してくれた。

担任,「ほらぁ、お前ら。いつまでも立ってないで、席に着けー。今日は色々とお知らせもあるんだからな」

男子学生,「お知らせ? もしかして、またお姫様の転入ですか!」

担任,「……残念ながら、逆だ。ウチのクラスのお姫様たちは、もう学園に来ることがない」

……………………。

唖然。

先生の言葉を受けて、教室がしぃんと静まり返った。

担任,「いきなりのことで驚いているだろうから、もう一度言おう」

担任,「クアドラント国王女とイスリア国王女が、我が学園に来られることは……もうないそうだ」

担任,「どうしただとかは、聞くな。詳しくは知らないからな。ニッポンの視察を終了したとか、どうとからしいが……」

担任,「幸い、ウチのクラスには誰よりも事情を知っていそうな王様がいるからな。聞くならそっちだろう」

担任,「というワケで、この時間は王様への質問タイムとする」

アタル,「ちょ、先生!? 授業はいいんですか」

担任,「どうせ授業になんぞならんだろ、この調子じゃ……」

場を落ち着かせてくれる天の助けかと思いきや、先生は地獄からやって来た騒乱の使者だった。

先生がパンッと手を叩くと、それを合図に周囲の皆がいっせいに俺に駆け寄ってくる。

今後はさっきよりも勢いが激しい。唐突に『もう来ない』なんて言われれば、それも当然か。

男子学生,「おぉぉぉぉい!? どーゆーことだ、アタルくぅん?」

男子学生,「納得の行く説明をしてほしいなぁぁ? うぅん!?」

俺は2人に肩をつかまれ、身体を前後に揺さぶられる。

どれだけ揺らしても、俺の口から答えがぽろっと出ることはない!

よもやミルフィが帰国したのは、俺たちの国へ戦争を仕掛けるためだなんて……。

しかもその原因が俺に……俺の執事の発した言葉にあるだなんて……絶対に言えない!

男子学生,「お前が何か変なことしたから、ミルフィ様たちが逃げて行ったんじゃないだろうな?」

男子学生,「もしそうなら……俺たちファンクラブの怒りと悲しみと嫉妬の黒き炎が、お前を焼き焦がすぜぇぇ?」

アタル,「くぅっ……」

正解ではないが、不正解でもない。だから俺はつい、小さく呻いてしまう。

すると2人はさらに俺から言葉を搾り出そうと、俺の身体を揺すってくる。

たとえ何をされても、真実は言えない! 口から言葉は出せない! 出せない、けど……。

アタル,「き、きぼぢわるぐなってぎたぞ!?」

言葉は出なくても、他のモノが出そうだった。具体的には、胃の中の朝食とか……消化液とか……なんか……その辺……。
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ひよこ,「ま、待って! アタルくんは何も悪いことなんてしてないよ!」

男子学生,「どいてくれ、西御門さん! 王様が倒せない!」

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ひよこ,「倒しちゃダメなの! それに、セーラさんとミルフィさんがいなくなったのは、むしろ私のせいで……」

セーラさんの時と同様に、ヒヨは俺をかばい立つ。

でも、今目の前にいるのはセーラさんじゃなくて、興奮気味の男子学生だ。

目の血走ったこいつらの相手を、ヒヨにさせるわけにはいかない。

と言うか、させたくない。かばわれてヒヨの後ろばかりにいるのは、俺が嫌だ。

アタル,「そ、それは違うだろ、ヒヨ。2人がいなくなったのは、俺の責任だ。誰がなんと言おうと、な」

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ひよこ,「でも、私がアタルくんと……」

アタル,「いいから、俺に任せてくれ。いや……任せろ」

俺は胸の奥から湧き上がってくる気持ち悪さを何とか押さえ込んで、ヒヨの前に立った。

アタル,「皆、聞いてくれ。詳細は省くけど……色々あって、俺はヒヨと付き合うことになったんだ」

………………。

呆然。

先ほどと同様に、教室内は一拍の静寂に包まれたのだった。

アタル,「そしてミルフィやセーラさんがここにいないのは、まぁ、端的に言ってそのことが関係してる」

男子学生,「………………はい? え? あー、どーゆーこと?」

アタル,「だから、俺はヒヨが好きで、ヒヨが一番大好きで! ヒヨと付き合うって決めて! んで、お姫様2人はいなくなった!」

アタル,「どうだ? 簡単なことだろ? 2人は俺と結婚するためにここに来てたんだ。でも、俺はヒヨを相手に決めた」

アタル,「つまりミルフィとセーラさんはここにいる理由がなくなった。だから帰った。以上!」

男子学生,「か、簡単なことって言うけどな、アタル? おま―――」

俺の説明にミルフィのファンクラブを作っていたヤツが食い下がろうとする。

でも、アイツの声はその隣に立っていた女子の声にかき消されることになった。

女子学生,「おめでとぉぉぉ! ひよこ、おめでとー!ついに国枝くんとくっついたのね!」

女子学生,「しかもお姫様を押しのけてなんて……やるじゃない!」

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ひよこ,「え、えへへ~。ありがと」

女子学生,「しかも、国枝も言う時は言うのね? クラスの皆の前でヒヨが一番好きー! って大声で言っちゃうし」

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ひよこ,「う、うん。前にも言ってくれたけど、今のも……すっごく嬉しかったよ。て、照れちゃうよね。えへ~」

女子学生,「前にも言ってもらったの? どこで、どんな感じ?参考までに聞かせて?」

#textbox Khi0140,name
ひよこ,「あうぅぅ、は、恥ずかしくてあんまり詳しくは言えないよぉ。ちょ、ちょっとだけ、ちょっとだけだからね?」

#textbox Khi0190,name
ひよこ,「あのね、前に遊園地に行ってね? そして観覧車に乗って……あと、夜にアタルくんのお部屋で……」

ヒヨが女子一同に先日のデートやら何やらの話を語り始める。

女子のみが教室の片側に集まって、キャーキャーと黄色い声を上げる。

対する男子一同はと言えば……俺の周りで何だかやるせない顔をしていた。

男子学生,「はぁ、女子ってこーゆー話の時は本当にうるさいな」

アタル,「お前がうるさいとか言うな。さっきまですごいテンションだったくせに」

男子学生,「って言うか、アタル? ホントによかったのか? お姫様を振って……」

アタル,「あぁ、後悔なんてない。俺は、ヒヨが一番好きなんだ。ヒヨ以外は……考えられない」

男子学生,「何かすごい台詞キタぁぁっ!?やべっ、聞いてる俺まで恥ずかしい!?」

#textbox Khi0140,name
ひよこ,「あぅあぅあぅ~~~……」

女子学生,「はっ!? ひよこが国枝くんの不意打ち告白を聞いて、溶け出している!?」

担任,「青春だなぁ。もう国枝は地獄に落ちればいいと思うぞ?」

アタル,「先生、今、サラっと不穏なことを呟きませんでしたか?」

担任,「ん~? 空耳じゃないかぁ?」

アタル,「くっ、このヒゲゴリが……」

結局、隣のクラスの先生に『喧しいですよ!?』と注意されるまで、俺たちのクラスは大いに騒ぎまくるのだった。

俺もヒヨも皆から祝福されて、そしてからかわれて……楽しくも恥ずかしい一幕だった。

これで戦争なんて言う単語が頭をちらつかなきゃ、もっと楽しめたんだけどなぁ……。

ミルフィ。わかっているのか? 

戦争って事は……お前と一緒に授業を受けたこの学園の皆も、不幸な目に遭うかも知れないんだぞ?

早く何とかしないとな。

俺は人知れず、そう決意しなおすのだった。

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「アタルくん……」

そっと、ヒヨが俺の手を握ってくる。俺の目を見て、気持ちを察してくれたらしい。

訂正。俺はヒヨ以外には知られることなく、クラスの皆に熱愛を騒ぎ立てられながら、決意を新たにするのだった。

…………

昼休みを迎え、俺とヒヨは弁当を手に屋上へとやって来ていた。

ちなみに各授業の間にある短い休み時間のうちに、俺とヒヨの関係は学園全体に知れ渡っていた。

クラスの皆が学生間に、そしてヒゲゴリが教師間に伝え広めていったみたいだ。

そのせいか、俺とヒヨは屋上に来る前の間にも物珍しそうな視線を向けられることになったのだった。

#textbox Khi0140,name
ひよこ,「はうぅ~、お、大騒ぎになっちゃったね」

アタル,「あぁ、元気が有り余ってるよなぁ、皆」

#textbox Khi0130,name
ひよこ,「アタルくんは大丈夫? ちょっと怖い感じになってる人とか、いたけど」

アタル,「ん? あぁ、全然平気だよ。あいつらも本気じゃないし。さっきのはただその場のノリってやつだよ」

新たなる王は同盟関係を結ぶはずであった諸国の姫君を国へと帰し、市井の少女を娶ることとした。

重々しい表現を用いれば、今の俺の状況はそんな感じだろう。

でも、皆のノリで言えば『転入生の2人じゃなくて、同じクラスの子と付き合うんだってさ』ってことになる。

王様だからと変に畏まられるくらいなら、あのくらい大雑把な扱いを受けている方が気が楽だ。

あぁ、もちろん吐くまで揺すられるのは、もう勘弁していただきたいけれどな。

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「アタルくんが気にしてないのならいいけど。あっ……今もあそこから……ほら、私たち、見られてるよ?」

ヒヨが指差す方向には、俺のクラスメイトが数名ほど立っていた。

アタル,「勝手に見させておけばいいだろ? って言うか」

#textbox Khi0140,name
ひよこ,「ひゃぅ!? あ、アタル君!?」

俺はそこで言葉を区切り、ヒヨの身体を抱きしめた。

アタル,「むしろ見せ付けてやる。ふはははっ! 羨ましかろう!」

男子学生,「くっ……アタルに自慢されるなんて……だが、確かに羨ましい!」

#textbox Khi01A0,name
ひよこ,「あ、アタルくん! は、恥ずかしいよぉ~」

アタル,「俺も恥ずかしいけど、こう言う時はノリに乗ったモン勝ちだと思うぞ?」

散々、教室や廊下で『バカップル』だとか『ラブ香がすごいレベル』だとか『つーか、もげろ』とか言われたんだ。

言われっ放しはお断り。反撃として、俺も少しくらいヒヨとの仲を自慢したい。

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ひよこ,「それは……そう、かもだけど。あうぅ、でも、皆の前で抱きしめられるなんて……」

アタル,「照れるヒヨは可愛いなぁ。今なら俺、ヒヨのお願いを何でも聞いちゃう気分だ」

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「ホント? じゃあね、私ね―――」

男子学生,「……ちくしょう、本気で見せ付けてやがる」

ヒヨが他愛のないお願い事をしている最中、野次馬は悔しげにそう吐き捨てていた。

何だか気分がいいので、にっこりと笑顔を浮かべてみた。

男子学生,「うぅぅ、勝者の笑みだと!?」

男子学生,「くそっ、バカップルめ。末永く幸せに暮らして、ひ孫に見守られながら死ねばいいんだ」

アタル,「……どうせするなら、もうちょい素直に祝福しろよ。一応、ありがとうとは言っておく」

アタル,「ってか、ヒヨといちゃいちゃするのに邪魔だから、早く帰れ。王様らしく言うと、下がれ下郎?」

男子学生,「ひでぇ……俺たちの友情もここまでってわけか」

女子学生,「ほらほら、もういいでしょ? 行くわよ?ひよこの邪魔をしないの」

女子学生,「ここに至るまでに、ヒヨコがどれだけ苦労したと思ってるのよ。ったく。国枝くん、ひよこをお願いね?」

アタル,「あぁ、もちろん」

俺とヒヨに落ち着いた時間を過ごさせるために、彼女はあの馬鹿を回収しに着てくれたようだ。

素直に感謝して、俺はヒヨを抱きしめる腕にもう少しだけ力を加えた。

『どれだけ苦労したと思ってる』か。実際、俺はこの小さなヒヨにどのくらい気苦労をかけたんだろう?

幼馴染だからって、その一言に甘えて……結構ぞんざいな扱いをしていた覚えもある。

これからは、もっともっと優しくしていきたい。そんな風に、ふと思った。

#textbox Khi0170,name
ひよこ,「皆、行っちゃったね。ふ、2人っきりだね。学園の屋上で2人きりなんて……ちょっと照れちゃうよ」

アタル,「そう、だな。ははっ。あー、我ながらすごいことをした気がする」

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「……アタルくんも、やっぱり恥ずかしかったんだ?」

アタル,「そりゃな? にしても、まさか俺がバカップルと呼ばれる日が来るなんてな」

つい先日まで――具体的には、王様になるまでは、まったく考えもしなかったことだ。そう、しみじみと思う。

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「でも、そう呼ばれて、私はちょっと嬉しかったかも。アタルくんの恋人さんだよって、ちゃんと認められたみたいで」

アタル,「ちゃんと認められたさ。だって俺、きちっと言い放ったしな。ヒヨが、好きだって」

#textbox Khi0140,name
ひよこ,「あうぅ、ま、また、好きって……はふぅ」

#textbox Khi0130,name
ひよこ,「な、何だか、アタルくんが私の言ってほしい言葉ばっかり言ってくれるよぉ。ゆ、夢じゃないよね?」

アタル,「どうだろ? どうだ、ヒヨ? 今は夢か?」

俺はヒヨのほっぺをくにぃ~っと左右に引っ張ってみた。

相変わらず、柔らかくてよく伸びるほっぺだなぁ。

#textbox Khi0140,name
ひよこ,「あひううぉああううう~、あえ? いあうあいお? おういおぅ、うえあおあぁ~?」

アタル,「ははっ、何を言ってるのかわかんないぞ?」

あんまり引っ張り過ぎてもなんなので、俺はそんな言葉とともに手を離した。

長く引っ張っていなかったからか、ヒヨのほっぺが赤くなったりすることはなかった。

#textbox Khi0190,name
ひよこ,「はぷっ! んっ、あ、アタルくん、変だよ?ほっぺ引っ張られたのに、全然痛くなかったよ?」

アタル,「そりゃそうだ。痛くしなかったんだから。俺がヒヨを痛がらせるはずないだろ?」

#textbox Khi01A0,name
ひよこ,「あ、アタルくんがまた嬉し恥ずかしなことを。はうぅ~……」

#textbox Khi0190,name
ひよこ,「そっ、そうだ! おっ、お弁当だよ!そろそろご飯食べないと、お昼休みが終わっちゃう!」

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ひよこ,「さ、アタルくん。いただきますしよう?」

このままじゃ俺に弄られ続けるとでも思ったのか、ヒヨは唐突に話題を変える。

俺としてはもう少しヒヨといちゃついていたかったんだけど……昼休みが残り少ないのも確かだ。

俺は頷いて、ヒヨの隣に座り込む。

アタル,「じゃ、いただきますか」

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「アタルくん……せっかくだから、あーんとか……しちゃう?」

そして弁当を食べ始めようとした俺に、ヒヨは不意打ちの仕返しを放ってきたのだった。

……ちなみに、もちろんしてもらいました。お弁当は美味しかったです、まる。

学園での授業を全て終えた俺は、ヒヨとともに帰路についていた。

いつも通りの、放課後。

仮にいつもと違うところがあるとすれば……王宮までの道のりをのんびりと自分の足で進んでいるところか。

車でさっと通り過ぎていく通学路を、俺はヒヨとゆっくりと並び歩いていく。

アタル,「本当によかったのか? こんなお願い事で」

昼休みにヒヨが告げた願い事。それは『俺とゆっくり歩いて帰りたい』だった。

ひよこ,「うん。わたしはこれで、いいの。アタルくんとこうして一緒に帰ってみたかったんだぁ」

ひよこ,「2人一緒に、昔みたいに……小さな頃みたいに並んで帰りたかったの」

ひよこ,「えへへ~。アタルくんを好きって言う気持ちは、昔よりもすっごく大きくなってるから、手は握るんじゃなくて、組んじゃうけど」

そう言い、ヒヨは俺の腕を抱きしめて、そっと寄り添ってくる。

しかし、歩き辛くはない。むしろ腕に感じるヒヨの重みが心地よいくらいだった。

ヒヨの願い。実にささやかな希望。欲のないヤツだと思うと同時に、すごくヒヨらしいとも思う。

何か願い事を。そう告げられた時にお高いブランド物の何かや宝石を強請るようなヤツじゃないってことは、俺が誰よりもよく知っている。

ひよこ,「アタルくん、今日はたくさん笑ったり元気に叫んだりしたね? 今日、楽しかったよね?」

アタル,「ん? あぁ、そうだな。ちょっと騒ぎ過ぎたかも知れないけど……うん、楽しかった」

ひよこ,「私もね、すっごく楽しかったし、嬉しかった。ふふっ、恥かしかったりもしたけど」

ひよこ,「……柴田さんのことも、ミルフィさんのことも、どっちも進展がないから」

ひよこ,「アタルくん、ここ数日ちょっと難しい顔ばっかりしてたんだよ? だから、よかったよ。今日はいつものアタルくんだったから」

ひよこ,「笑えなくなるって、悲しいことだもんね」

アタル,「ごめん。ヒヨに心配かけてたみたいだな」

ひよこ,「ううん、いいの」

ヒヨが俺の腕を少しだけ自分の方へと寄せる。

そのため、俺は右の二の腕辺りにふにょんとした素敵な感触を覚えた。

下手をするといつも通りに笑うを通り越して、いつも以上にだらしなく鼻の下が伸びそうだ。

……ヒヨも大きくなったよなぁ。

俺たちは少し前まで、すごく小さくて……ヒヨの胸もぺったんこだったんだけどなぁ。

初体験の夜にも成長をしみじみを感じたけど、改めてそう思う。

ひよこ,「ん~、だいぶ歩いたはずなのに、まだお屋敷が見えてこないね? 歩きだと、やっぱり時間がかかっちゃう……」

アタル,「そうだな。やっぱ10キロは伊達じゃない。でも、その分いい運動になりそうだ」

昔よりも確実に摂取カロリーは増えているからな。

こう言う地味な運動で、地味にエネルギーを消費するべきだろう。

アタル,「一人で黙々と歩いてると苦痛だろうけど、ヒヨと喋りながらなら退屈もしないし」

ひよこ,「うん。私もアタルくんとお話したいこと、たくさんあるよ」

ひよこ,「えへへ、不思議だよね? 同じお家に住んで、同じ学園に通ってるのに……でも、お話はなくならない」

アタル,「でもま、いつの時代も恋人ってそんな感じらしいぞ?」

父さんとや母さんの、もっと上の世代……ケータイ電話がなかった世代。

その世代の人たちの中には、家の電話を長時間占領して恋人とお喋りをしていたがために、通話禁止令を下された人もいるのだとか。

また『そもそも学園で会っているだろうに、何をそんなに電話で話すことがあるんだ』って、そう説教されたりだとか。

そんな話を、前にどこかで聞いたような気がする。

ひよこ,「ね、アタルくん。明日の朝も、こうして2人で並んで学園に行こう?」

アタル,「むぅ。それだと、ちょい早起きしないと駄目そうだな」

アタル,「まぁ、その分だけ健康的か。よし、ヒヨ。多分、俺は起きられないから、気合を入れて起こしてくれ」

ひよこ,「うん、任せて! 優しく起こしてあげるね!」

ヒヨは空いている手でぽんっと胸元を叩き、笑顔でそう言うのだった。

夜明けとともに、中庭からは多くの鳥のさえずりが聞こえてくる。

敷地が広く、木々がたくさんあるからだろう。

朝に鳴く鳥と言えば何か? そう問われたら、俺は『すずめ』以外の答えを持ち合わせてはいなかった。

しかし……この広い中庭ではキセキレイだとかメジロだとか、様々な種類の鳥を見つけることが出来た。

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ひよこ,「あっちにいるのが、キジバトだよ」

アタル,「結構茶色いな? ハトって言うと純白とか紫のイメージしかなかったよ、俺」

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ひよこ,「別名はヤマバトって言うんだって。テーテテッテテーって鳴くんだってー」

アタル,「ほうほう。何か、鳴くごとにレベルアップしそうなリズムだな」

俺はヒヨの鳥解説を聞きながらに歩き進む。

登下校を徒歩にしたため、俺とヒヨは毎朝早くに家を出ることになった。

そのため、こうして登校途中にバードウォッチングを楽しむことが出来ていたりもする。

中庭を抜け、正門をくぐり……俺たちは他愛のないお喋りを続けながら、学園に向けて通学路を進んでいく。

アタル,「意外と鳥に詳しいのは、やっぱりヒヨの名前がひよこだからか?」

ひよこ,「うん。多分、そうなんだと思う。鳥の図鑑とか、結構小さな頃から見てた気がするもん」

もしも名前がメダカだった場合、今頃ヒヨはやたらと魚に詳しくなっていたのかも知れないな。

まぁ、人が何かについて詳しくなるきっかけなんて、そんなもんなんだろう。

ひよこ,「ひよこが大きくなってニワトリになるって知った時は、ちょっとショックだったなぁ。だって顔、怖いんだもん」

ひよこ,「あっ、ひよこってこんなに丸いんだぁって思って、隣のページを見たら……赤いトサカが立ってて、目もぎょろっとしてて」

アタル,「と言うか、顔だけじゃなくて性格も怖いヤツがいるよな、ニワトリって。グスタフとか、ホントすごかったし」

ひよこ,「ふふっ。そう言えばいたねー、そんな名前のニワトリさん」

アタル,「いまだにヤツへのエサやりの恐怖は忘れてないぞ、俺」

飼育小屋の掃除を任されたところ、ニワトリやチャボに手足をつつかれて痛い目を見た。

小さな頃にそんな試練を受けた人々は、今のニッポンにどのくらいいるだろうか?

俺の呟いたグスタフ……名前からしてやたらとごつそうなコイツは、飼育係泣かせの強者だった。

ニワトリのくせに飛ぶし、指の付け根を狙って突いてくるし、挙句に脱走するし……。

幼心に『もう、ウサギとかメダカとかだけを飼っていればいいのに』と思ったぞ、俺は。

アタル,「わがままで、攻撃的で、好物を食べている時だけは大人しくて、頭には綺麗なトサカ。誰かを思い出すなぁ」

ひよこ,「もう。そんな言い方、ミルフィさんに失礼だよ?」

アタル,「んー? 俺は別にミルフィだなんて一言も言ってないけどな?」

ひよこ,「今、確実にミルフィさんのことを想像して言ってたでしょ? わかるんだからね」

アタル,「ははっ、黙っといてくれよ?あいつの耳に入ったら、また怒らせちゃうだろうし」

ひよこ,「うん。言わないよ? って言うか……今は言いようがないもん」

ひよこ,「ミルフィさん。今どこにいて、何をしているんだろうね? あのお別れから、もう1週間以上だけど」

アタル,「……ろくなことはしてないだろうなぁ、多分」

現在、イスリア王国側に目立った動きはない。少なくとも、昨日の午後10時時点では、そうだった。

そう、俺には報告が上がってきている。

つまりは……俺たちに悟られぬように、虎視眈々と戦闘の準備を進めているのだろう。

動きがないと言うことは、ミルフィの怒りも治まってきているんじゃないか?

開戦には至らないんじゃないか? なんて……そんな風に暢気に考えるのは、きっと間違いだ。

俺はヒヨから視線を離し、空を見上げる。そしてほうっと、息を吐く。

アタル,「頼むから、無茶だけはしないでくれよ?」

俺はおそらくは叶わないだろうと思いつつも、そう呟かずにはいられないのだった。

……

…………

エリス,「こちらにおられましたか、姫様」

ミルフィ,「……何か用なの、エリ?」

エリス,「いえ、特に用はございません。ただ御姿が見えなかったもので……」

ミルフィ,「そう」

エリス,「姫様。差し出がましいとは思いますが、やはり……姫様御自らが艦隊指揮をされる必要はないかと思います」

エリス,「まずはかの国の対空防御網を少数精鋭の部隊により沈黙、掌握。しかる後に絨毯爆撃。焼け野原になったところで兵を派遣」

エリス,「それで片がつきます。あの地での忌まわしい記憶を、灰燼と帰すことが出来ます。完全に抹消することが出来ます」

エリス,「確かにかの国への殲滅戦は、世界そのものの均衡を乱しかねません。ですが、我がイスリアには乱れた世界を乗り切るだけの地力があります」

ミルフィ,「駄目よ。そんな戦いでは、あたしが納得出来ない」

ミルフィ,「それに、その戦法はいわゆる1つの敗北フラグよ。もしザンバスターとか出されたらどうするの?」

エリス,「……は? ざ、ざんばすたー、ですか?」

ミルフィ,「前方に敵影、その数およそ3万って言われても、ザンバソードの一太刀でそれを撃滅しちゃう摩訶不思議スペックなのよ?」

ミルフィ,「漢字で馬を斬ると書いて斬馬。だから機体名もザンバなのに……馬じゃなくて宇宙怪獣とか変動重力源を真っ二つなのよ?」

エリス,「恐れながら、姫様。そのような不思議機体の可能性は考慮する必要が―――」

ミルフィ,「だ・か・ら・こ・そ!」

ミルフィ,「もし、あっちがスーパーロボを出してきた場合、一方的な虐殺になって、あっちも国際世論の批判を浴びるであろうからこそ!」

ミルフィ,「このあたし自らが戦力を率いて、あの馬鹿と戦うのよ」

ミルフィ,「同等の戦力で! 同規模の艦隊であの馬鹿を屈服させる!華麗な指揮で手玉に取って、負けを認めさせる!」

ミルフィ,「それが出来てこそ、あたし。真正面から敵を打ち倒してこそ……ミルフィ・ポム・デリングなの!」

ミルフィ,「エリ。貴女の仕える姫は、ただ王座に座して戦勝の知らせを待つだけのお飾りかしら?」

ミルフィ,「それとも、兵を率いて勝利を掴む戦乙女か?さぁ、どちらかしら? 答えなさい!」

エリス,「はっ! 姫様は我ら臣下一同を率いし美麗なる戦乙女にございます!」

ミルフィ,「なら、異論はないでしょう? あたしはこの戦力で、あの馬鹿を打ち倒す。絶対に!」

エリス,「あぁ……姫様。なんと、凛々しい……」

ミルフィ,「ふんっ、見惚れるのはまだ早いわよ? 褒め称えるのは、あたしがあの馬鹿の頭を踏んづけてからにしなさい」

エリス,「御意っ!」

ミルフィ,「ふふふふ……待ってなさいよ、アタル? このあたしを怒らせたことを、骨の髄まで後悔させてやるんだから!」

…………

……

全ての授業を終え、学園は放課後を迎えていた。

そのため教室内には俺とヒヨ以外の学生の姿は見えず、ひどく閑散としていた。

いつもなら俺たちもすでに帰宅している時間帯なのだが、今日の俺とヒヨは日直の当番だった。

だから俺とヒヨだけが教室に残り、地味で細々とした作業に精を出していた。

俺は黒板に書き残されている授業内容を、年季の入った黒板消しで拭って行く。

こうしていると、自分が王様だなんて忘れそうになるな。

アタル,「はぁ。こんな上にまで書かなくてもいいのに……」

愚痴りつつ、俺は背伸びをする。黒板の最上部に引かれた白線に、あともう少し背が届かない……。

アタル,「―――くぅっ!」

手と背筋を伸ばしていたその時、ぞくりと―――冷たい感覚が背筋を駆け抜けた。

思わず身をかがめて、呻いてしまう。

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ひよこ,「どうしたの、アタルくん? 足がつっちゃったの?」

学級日誌を書き進めていたヒヨが、心配そうに問いかけてくる。

アタル,「いや、よくわかんないんだけど……何かゾクッと来た。な、何なんだ?」

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ひよこ,「風邪かなぁ? 大丈夫? 喉が痛かったり、頭がぼうっとしたりしてない?」

アタル,「いや、そーゆー感じじゃないんだけど」

殺気と言うか、敵意と言うか? 捕食者であるヘビに睨まれたカエルの気分と言うか?

……ミルフィが何かろくでもないことをしていそうな気がする。

いや、俺の想定は『当たらない』のだから、ミルフィはろくでもないことをしていないのか?

となると、ろくでもないことをしているのは……行方不明中の柴田さん、か?

どうにしろ、気分がよくないことだけは確かだった。はぁ、平和な放課後の一時がぶち壊しだよ。

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ひよこ,「ちょっとおでこ触るね? んっ……」

アタル,「……ヒ、ヒヨ?」

ヒヨが俺に歩み寄り、そしてそっと額に触れてくる。

手の平ではなく、ヒヨ自身の額で……だ。俺の視界には、ヒヨの顔がドアップで広がる。

俺が少し唇を突き出せば、そこにはヒヨの唇がある。そんな、距離感だ。

……ヒヨの口から漏れる暖かな吐息が、俺の唇の上をふわりと撫でていく。

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ひよこ,「うん。熱はないみたい。でも、寒気がしたのなら気をつけないとダメだね。風邪は引き始めが肝心だもん」

アタル,「あ、あぁ、そうだな」

ヒヨは俺の頬を両手で包み持ちながらに、そう言う。

声にも表情にも俺への気遣いが溢れていて、ヒヨが心底こっちを心配してくれているのがわかる。

心配してくれることに感謝する前に、俺はヒヨに密着されて今すごく気恥ずかしいんだが……。

俺が頭を撫でたりすると照れるくせに、こんな触れ合いは自然に出来るヒヨだった。

面倒を見るモードに入っているから、なのか? 

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ひよこ,「今日は寄り道しないで、まっすぐに帰ろうね?歩いて帰るのは止めた方がいいかもしれないから、車をお願いしなきゃ……」

あれこれと言葉を並べるヒヨ。そのために、次々と形を変えるヒヨの唇。ピンク色で、艶やかで、柔らかそうな唇。

アタル,「…………」

俺はただただ無言で、ヒヨの唇を見つめ続ける。

何かもう、さっき感じた寒気とか……俺の中ではどうでもよくなり始めていた。

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ひよこ,「アタルくん? 聞いてる? アータールくん?」

アタル,「あっ! お、おぉ? 何だ、ヒヨ?」

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ひよこ,「ぼうっとしてるけど、本当に大丈夫? 寒くない? また震えが来ちゃいそう?」

アタル,「えーっと、うん。何か寒いような気がする。だから、ヒヨに暖めて欲しいなぁ、なんて」

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ひよこ,「え? あっ……」

俺はヒヨの身体を抱きしめる。俺がこんな行動に出ると思っていなかったのか、ヒヨは驚きの声を上げた。

俺がヒヨを抱きしめ、ヒヨは俺の頬を両手で包んで……今すぐキスをしても不自然さがないであろう、そんな体勢……。

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ひよこ,「も、もう、アタルくんってば。何だか甘えん坊さんだね?急に、抱きついてくるなんて」

アタル,「風邪を引いてると心細くなって、人恋しくなるんだよ」

俺は心にもないことを呟きつつ、ヒヨを抱きしめる手に力を入れる。

実際、寒気を感じたのはさっきの一回だけ。風邪を引いている気なんて、まったくしない。

アタル,「なぁ、ヒヨ? このままここで……いいか?」

俺が気になっているのは、風邪なんかじゃなくて、すぐ目の前にいるヒヨ自身だった。

不意打ちの密着ですっかり気分が高まった俺は……もう、我慢出来そうになかった

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ひよこ,「えっ!? そ、そんな、ダメだよぉ。誰かが来ちゃうかもしれないし、きょ、教室でなんて……」

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ひよこ,「明日もここで授業を受けるんだよ? 明後日も、その次の日も……だよ? ここでえっちしちゃったら、毎日思い出しちゃうよぉ」

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ひよこ,「もしそうなったら、恥ずかしくて……私、きっと普通に座っていられなくなっちゃうもん」

アタル,「……ダメか?」

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ひよこ,「はうぅぅ、そ、そんな子犬みたいな目をしないでよぉ」

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ひよこ,「そ、それに風邪の引き始めは無茶したらダメなんだよ?」

アタル,「運動をして汗をかくといいって話もあるぞ?」

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ひよこ,「それはこの場合、ちょっと違うんじゃないかなぁ?俗説って言うか……あっ」

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ひよこ,「俗説と言うと、他に人に風邪を感染しちゃうといいって、言うよね?」

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ひよこ,「王様のアタルくんが風邪を引いてると困るから、ここは私がアタルくんの風邪を引き受けてあげなきゃ……かも」

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ひよこ,「う、うん。緊急事態と言うか、緊急回避と言うか。早期の処置が大切だもんね。きょ、教室でえっちしても……いい、よね?」

アタル,「……何だかんだ言って、実はヒヨも結構乗り気なんじゃないか?」

ヒヨの反対は、本当に形だけだった。

実際、俺の腕の中から抜け出そうと言う気は欠片も感じられない。

それどころかヒヨは俺にもたれかかって来ている。

俺は自分の胸板でヒヨの体の柔らかさを感じていた。

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ひよこ,「そ、そんなことはない、よ? うん。ない……かな?」

アタル,「嘘吐け。そんなことある、だろ?」

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ひよこ,「……えへへ。じ、実を言うと……ちょっとドキドキワクワクしてるかも。いけないことをしちゃうんだって思うから、かな?」

#textbox Khi01A0,name
ひよこ,「アタルくん……んっ、んちゅ……はぁ」

ヒヨは顔を持ち上げて、俺の唇をついばんでくる。

俺もお返しとばかりに、ヒヨの小さな唇をついばみ返した。

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ひよこ,「ふふ、アタルくんとこうして教室でキスしたり、抱き合ったりするなんて……ちょっと前には、考えられなかったのにね」

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ひよこ,「アタルくんが王様になったから、だね。私が今、こうしてアタルくんに抱きしめてもらえるのは……」

アタル,「そんなことはないと思うぞ? 王様になったことは、確かに1つのきっかけになったかも知れないけど、でも」

アタル,「俺は王様にならなくても、きっとヒヨをこうして抱きしめていたと思う」

アタル,「だって王様にならなかったら、ミルフィたちとは絶対に会わなかったからな」

アタル,「そして、出会った場合でも、俺はこうしてヒヨを選んでる。つまり俺は、いつでもどこでもずっと……ヒヨ一筋だ」

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ひよこ,「アタルくん……わ、私もね、アタルくん一筋だよ!ずっと、ずっと! んちゅ、ちゅ……んっ、ふぅ」

ヒヨは言葉とともに、再び俺と唇を重ねる。気分が、どんどん高まっていく。

もう、本気で我慢が出来そうにない。

#textbox Khi0170,name
ひよこ,「……アタルくん……」

ヒヨも俺と同じ気持ちのようだ。もう、言葉は必要ないだろう。

切なげに名前を呼ぶヒヨに、俺は無言で頷くのだった。

ひよこ,「あ……やっ、恥ずかしい……よ……」

俺はそっとヒヨのパンツを引き下ろし、その下に隠れていたスリットを露にした。

弱くなり始めた、夕刻の陽光。その光は暖かく、そして柔らかくヒヨの秘所を照らす。

何と言うか、ちょうど見やすい加減の光量だ。真昼間だと、ヒヨの白い肌が眼に痛そうだしな。

アタル,「触るね?」

宣言してからヒヨのスリットに人差し指を這わせると、ヒヨの口からは切なげな喘ぎが漏れた。

当然というべきか、ヒヨのココの潤いはまだまだ充分とは言えない。

なにせ、まだ2回目だ。奥まで入れても痛かったりキツかったりしないように、ちゃんと準備してあげないと。

俺のこの指をフル動員して、今度はヒヨをしっかりと感じさせてやる!

そう意気込んで、俺はヒヨの恥丘をゆっくり撫でまわす。

ひよこ,「あ、ぁはっ……ひゃ、っ、アタルくん、くすぐったいぃ……んっ……」

アタル,「それじゃ、こんなのは?」

ふぅっと吐息を吹きかけてみたりする。

ひよこ,「ひゃんッ!? あうぅぅ~~、は、恥ずかしいよぉ。アタルくん、も、もう少し離れて?」

アタル,「無茶言うなよ。離れたら、指も息も届かないだろ?」

ひよこ,「で、でも、こんなに近くで見られて、触られるなんて……んぅっ、はぁ、あっ、恥ずかし過ぎるんだもんー……」

アタル,「そっか、恥ずかしいのか。じゃあ、仕方ないな――」

俺はヒヨを見上げ、これ見よがしに真剣な表情でこう言ってみた。

アタル,「ヒヨ……恥ずかしいのは我慢だ。ひたすら耐えてくれ」

根性論だった。

ひよこ,「そ、そんなぁ……が、我慢できないよぅ。離れられないのなら、せ、せめて横を向いて欲しいよぉ」

アタル,「いや、ちゃんと見てないと、気持ちよくしてあげられないだろ? ……こんな風に」

つぷっ、と、音を立てて、俺の人差し指がヒヨの膣口に埋まる。

ひよこ,「ひぁんっ!? あっ、んふぅ……うぅっ……んっ、あっ! はぁ、んふぅ……おなかの中……ぐにぐにするぅ……」

アタル,「もうそこまでツラくはないかな?」

指1本だけならば、思いの他、簡単に飲み込んでくれた。

膣内に潜りこませた指をくすぐるように蠢かせると、ヒヨの口からは熱っぽい息が漏れ出した。

ひよこ,「ひうっ、うぅん! あぁ、そ、そんなとこ、触っちゃヤだよぉ。んっ、んはぁ、あっ……」

ヒヨの言葉には耳を貸すことなく、俺は指を動かし続ける。

と言うか、そもそも……スカートをめくり上げているのは、ヒヨ自身なのだし。

本気で嫌がっているのであれば、ヒヨはもうとっくにスカートを下ろして、拒んでいるはずだ。

そうするだけで、ヒヨの秘密のスリットは俺の視線から逃れられるんだから。

つまり、ヒヨは何だかんだと言いつつ、俺と同じように今このシチュエーションを楽しんでいる――と、判断。

アタル,「―――と言うわけで、もう少し強くしてみたり?」

ひよこ,「ど、どーゆーワケなのぉっ!? 私には、よくわかんなっ! んぁあっ、はぁっ! んうぅぅ~~~……ッ!」

ヒヨの膣内に入っていたのは、俺の人差し指だけだった。

他の指は、あくまで外側を這っていただけに過ぎない。

しかし俺はここで、ヒヨの膣内へ中指をも押し込む。

ひよこ,「―――あっ、ふぁあぁあぁぁっ……!」

ぬぷっと内側に侵入する指が突然増えたことで、ヒヨの声が一際震えた。

ひよこ,「はぁ、あっ、はぁぁ、な、ナカに……アタルくんの指が、んぅ、わ、私の、ナカにぃ……はうぅ」

アタル,「何本入ってるか、わかる?」

中で2本の指を交差させながら、ヒヨに問いかける。

ひよこ,「太くなった、よね……1本じゃない、よね……ッ! んぅ、に、2本? 2本も、入っちゃってる……入って、来ちゃって……あぁっ」

もぞもぞと、ほんの少しずつヒヨの膣内へと入り込んでいく俺の指。

淡い快感と異物感が背筋を駆け上っていくのか、ヒヨは切なそうに身体を揺する。すると―――

ひよこ,「んふぅ、ふぅ、はぁ、あっ、中に、こ、擦れてぇ……んぅっ、あぁ、はぁッ!? ゆ、指ぃ……んくっ、あっ……ひゃんっ、あっ! はぁ……ふぁ、ふあぁぁ……」

ヒヨ自身がわずかに身動きすることで、俺の指が予期せぬ箇所に当たったようだ。

ひよこ,「あ、はっ……広がっちゃう……私の中っ、アタルくんの、指で……っあっ、あぁんっ! はぁ、んはぁ、あぁぁ……」

ヒヨは声を押し殺しながらに、さらに身体を震わせる。

すると、またしても俺の指はヒヨの中を刺激するわけで、ヒヨはまた身体を揺らし……快感はどんどん加速していく。

ひよこ,「んはぁ、あっ、あくぅぅっ! んんっ、ふぅ、ふぅぅ……あっ、んっ、んあぁ……」

ヒヨの『恥ずかしさに耐える声』が、すっかり『快感に耐える声』に変わっていた。

まぁ、それも当然だろう。俺はただ指を押し入れて硬直しているわけじゃない。

ヒヨの中でくにくにと関節を曲げたり、まるで鍵をこじ開けるかのように指を回転させたりもしているのだから。

ひよこ,「ひゃ、あ、あぁっ! んはぁん! ひうぅっ、ひぃ、あ、アタルくんの指が、私の中で、うっ、動き、回って……」

アタル,「ヒヨ? 気持ちいいのはわかるけど、もう少し声を抑えないと、誰かに聞かれるかもしれないぞ?」

ひよこ,「そ、そんなこと、言われても……んっ、んんぅ……んっ……んぁっ……はぁはぁ、んっ……ふぅぅ、んっ……んくっ、んっ……んぅぅ~~~……う、うぅっ」

俺の指摘を受けたヒヨは、ほっぺたを薄桃色に染めて、口をきゅっと閉じて、必死に声を抑えようと努力する。

そんなヒヨに対して、俺は爽やかな笑顔を浮かべて。

アタル,「もっと激しくするからな☆」

笑顔とは真逆に、より執拗に、ねっとりと指を動かしつつ、熱~い吐息を湿り気を帯びた秘所へと吹きかけてやる。

ひよこ,「あんっ! あぁ、そ、それ、ダメェ! が、我慢、出来ないよぉ! ひぅぅ! あん、あ、あはぁ!」

アタル,「おいおい、だから声が大きいってば。放課後とは言え、学園に誰もいないわけじゃないんだぞ?」

いくら自分が王様とはいえ、こんな現場を発見されたら、大問題になる。

ひよこ,「うぅぅ、ア、アタルくんの、イジワルぅ。私に声を出させてるのは、アタルくん、でしょ? はぁ、あぅ、んぅ」

アタル,「ヒヨが感じてるみたいだから、つい、ね?」

そんな言葉とともに、俺はヒヨのスリットの上部にある出っ張りを、ぴんっと軽く指で弾いた。

ひよこ,「やっ、やぁぁっ! はぁ! あんっ、んっ、んぅぅぅ~~~っ!?」

クリトリスへの刺激が少し大き過ぎたのか。ヒヨの太ももががくがくと震えた。

アタル,「ヒヨ?」

ひよこ,「はうぅっ、ふぅっ、も、もう、ダメ……こ、これ以上されたら、立ってられないよぉ……」

アタル,「その時は俺に寄りかかってきてもいいからさ。思いっきり感じていいんだぞ?」

アタル,「よく濡らしておかないと、ヒヨが痛い思いをしちゃうからな。ヒヨが痛がっているところは見たくないんだ」

と、俺は精一杯のキメ顔で言った。

ひよこ,「あうぅぅ、あ、アタルくん、そう言うけど……わ、私がフラフラするのを見て、たっ、楽しんで、ない?」

アタル,「うん、正直、かなり楽しんでる」

好きな女の子が日頃、絶対に口にすることのない声で喘ぐ姿ってのは実にいいモノだ、と、しみじみと思う。

『今、俺が自分の指でこんなにもヒヨを気持ちよくしてるんだ』って思うと、達成感もすごく大きい。

指先も性感帯っていうし、にゅるにゅると潤ってきたヒヨのナカを弄繰り回していて気持ちよかったりもする。

さて、おっぱいと膣内。どっちの方が柔らかいんだろう?

正直、どっちも柔らか過ぎて、判断がつかない。もっとじっくり愉しんでみないことには。

ひよこ,「アタルくんの、バカぁ……あっ、やぁ! はっ、はぁんっ! あぅ、ぐちゅぐちゅって、いやらしい音……させないでぇ……!」

ヒヨのその文句も、今はものすごく可愛らしく思えた。

俺は笑みを強めて、指の動きをさらに加速させる。ヒヨを、より高みに導くために。

ヒヨの膣内を、指先で軽く押してみたり、引っかいてみたり。

もちろん傷つけないように、その力加減には最大限、気を払って。

ひよこ,「ダメ、やだ、なにか、く、くる、きちゃう、やめっ、アタル、くっ、んんぅ! んっ、んッッ!」

ヒヨの膣肉がブルブルと震え、中に埋まっている俺の指を強く強く締め付けてくる。

アタル,「もしかして、イキそうなの? いいよ、イッて。ヒヨがイッちゃうところ、見ててあげるから」

絶頂を訴えるヒヨの顔を見つつ、俺はつぷつぷと出し入れする指のスピードを加速させた。

ひよこ,「や、やだっ、そんなの、恥ずかし、ッ、ん、や、あ、ぞわぞわするっ……ぞわぞわがクるっ、クるの、やぁ、私、イ、イッちゃ、イッちゃうっ!」

ひよこ,「も、もう、ダメ! ダメなのぉっ! あっ、ふぁ、あ、やっ、んっ! イ、イクぅ、イクッ! イッ、イッちゃうぅぅ~~~ッ!」

ひよこ,「ひぅぅぅぅ~~~っ……あっ、あぁ、はぁ、はぁはぁ、んっ、はぁぁ~~~……っ」

ヒヨが大きく声を張り上げて、全身をプルプルと小刻みに震わせる。

ぷしゅっと、その声に合わせてヒヨのスリットからは透明な水が噴き出た。

どうやらこれが潮ふきってヤツなんだろう。なるほど、おしっこの出方とは違う。

ひよこ,「ふぅ、ふぅぅ、んっ……はぁはぁ、うぅぅ、お、お掃除したばっかりなのに、教室……汚しちゃったよぉ」

アタル,「またあとで拭けばいいさ。そんなことより、俺の指はそんなに気持ちよかったの、ヒヨ?」

ひよこ,「よ、よかった……気持ちよかったけどぉ……でも、ひどいよぉ。んっ、アタルくんってば、全然手加減してくれないんだもん……すっごくイジワルなんだもん……」

高まっていた気分が少し落ち着いたことで、恥ずかしさが再燃してきたのだろう。

もじもじと身体を揺らすヒヨの瞳は、ちょっと濡れていた。

ひよこ,「わ、私、変な顔、してたよね? うぅぅ~」

アタル,「いやいや、全然変な顔じゃなかったぞ?むしろ可愛くて、色っぽかったな。ヒヨもあんな顔になっちゃうんだなぁって、惚れ直した」

ひよこ,「うぅ、だらしのない顔を見て惚れ直されても、あんまり嬉しくないかも……」

アタル,「そっかぁ……ヒヨは俺に惚れられたくないのかぁ……」

ひよこ,「そそそんなわけないよっ! 嬉しいっ! すっごく嬉しいよぉっ! 私だってアタルくんにベタボレだもんっ!」

アタル,「……そ、それはどうも……」

ひよこ,「でも、ほ、本当に、色っぽかったの?嘘じゃない? セーラさんよりも?」

アタル,「なぁ、ヒヨ? ちょっと下の方を見てみ?」

俺はそう呟いて、両脚を少し開いてみた。

アタル,「な? もう、さっきから完全に臨戦態勢なんだ」

実際、俺の分身はヒヨの艶姿に当てられて、もう全力でいきり勃っていた。

ズボンをこんもりと押し上げて、テントを張り、今にもズボンを突き破って飛び出してきそうなほどに。

ひよこ,「私、アタルくんには何もしてあげてないのに、もう、そんなに……あは……アタルくんってば、ホントにエッチだね……」

アタル,「あぁ。ヒヨの顔を見て、声を聞いて……それだけで、もうこんなになってるんだ」

アタル,「もうヒヨの中も十分に濡れただろうし、このまましても……いい?」

ひよこ,「ふふっ、アタルくん、我慢できなくなっちゃったんだね……? 今のアタルくん、なんかかわいい」

アタル,「う……ヒヨがかわいすぎるのがいけないんだよ……」

ひよこ,「嬉しいな……うん、いいよ……優しく、してね?」

俺の問いかけに、ヒヨは小さな声でそう答えたのだった。

アタル,「ヒヨ、机の上に載って、お尻をこっちに向けてくれないか?」

ヒヨは俺の言葉通りに、行儀悪くも机へと載っかり、そしてお尻をこちらに向けてくる。

愛液が溢れてトロトロになったヒヨの秘密スリットが、よく見える体勢だ。

うつ伏せになって少し腰を上げているせいか、また、一度達してほぐれているせいか、スリットは、くぱぁ……と、自然と大きく開いている。

ポトポトと、机の上にヒヨの愛液が滴り落ちていった。

アタル,「それじゃ、入れるぞ?」

俺は逸る心を何とか抑えつけて、静かにそう言った。

ひよこ,「……う、うん。いいよ。来て、アタルくっ……あっ……んぅ、ふぅ……ッ!」

俺はガチガチになっている分身に手を添えて、ヒヨのスリットに擦り付ける。

俺のモノは、無意識にびくびくと震え、太く浮き出た血管は激しく脈打ち、ヒヨとの結合を求めていた。

俺の先端から漏れ出している先走りと、ヒヨの愛液。それが混じり合って、にゅちょっといやらしい音を立てる。

ヒヨはどこか不安そうな表情で、俺の方を見やってくる。

ひよこ,「……あ、アタルくん。ちゃんと手加減してね? ま、まだ、そんなに慣れてないから……さっきみたいにされると、きっと辛いと思うの」

ひよこ,「さっきは指だから、大丈夫だったけど……アタルくんのおちんちん……指よりずっと太いもん。あんな風に激しくされちゃうと、どうなっちゃうかわかんない……」

アタル,「ごめん。さっきは、ちょっと調子に乗っちゃった。うん、もうあんな風にはしないよ」

アタル,「ちゃんと優しくするって約束するから、安心してくれ」

ひよこ,「……約束、だよ? 優しくしてくれるのなら、それだけで充分だよ」

アタル,「あぁ、約束だ……てゆーか、ヒヨが嫌だって言うのなら、もう今日は止めにしてもいいんだぞ?」

モノの先端をほんの少しだけヒヨの中に入れた状態で、俺はそう聞いた。

本当に浅い挿入。少しでも動けば、すぐに抜ける程度のひっかかりだ。

アタル,「止めるのなら、今だぞ?」

奥まで突き入れたら、もう絶対に我慢なんて出来ないだろう。

俺はきっと、最後まで突っ走ってしまう。

いや、俺だけじゃなく、男なら誰でも引き返せないだろうと思う。

ひよこ,「んぅ、こ、こんなに硬くなってるのに、止めるなんて……アタルくん、我慢できないでしょ?」

アタル,「正直に言えばね」

俺の股間は今すぐにでも、ヒヨの体を欲している。

アタル,「でも――俺はヒヨが一番だしさ。ヒヨが嫌って言うのなら、今からでも我慢して、ズボンをはき直す」

ヒヨが本気で嫌だとは言わないと確信しているからこそ、俺はそう聞けるのだった。

さっきもそうだったけど、もし本気で嫌だと思っているのなら、そもそも机の上になんて載らないもんな。

しかもただ載るんじゃなくて、お尻を突き出して大事な部分を全部俺にさらけ出しているんだし。

言わばこのやり取りは、えっちを始める前のほんの些細なじゃれ合いだ。

何だかんだでヒヨはOKを出してくれる。そして、俺たちは最後まで、熱烈にイチャイチャする。

ヒヨが俺の言葉に答えようとした、その時だった。

静寂に満ちていたはずの廊下から、コツコツと誰かの足音が響いてきたのだ。

スーッと肝が冷えた。

ひよこ,「あ、あ、ア、アタルくん、どどっ、どうしようっ!?こ、こんなところ見られたら、大変だよぉ」

アタル,「おおおお落ち着け、静かにしろ。この声で気づかれるかもしれないだろ」

ひよこ,「さっきの、私の声が大きかったから……だから、人が来ちゃったのかなぁ? はうぅぅ~~~」

足音は次第に大きくなる。

ひよこ,「ど、どんどん、近づいてきてる。あっ、も、もう、ダメ……ッ!」

今から服を隠したところで、露になっている部分は隠しきれない。

それ以上に、たちこめている性臭はどうやっても隠しきれない。

ひよこ,「――――――あっ」

ひよこ,「……と、隣の教室だったみたい、だね?」

アタル,「あぁ、そうみたいだな。ふぅ、ギリギリだったな」

ひよこ,「や、やっぱり放課後に教室でえっちするのって、危ないね……これっきりにしよ……」

俺は上半身を捻って、背後の廊下側を見やる。

隣の教室を訪れた誰かは来たルートをそのまま辿り帰ったらしく、この教室に近づく人影はないようだった。

アタル,「そうだな」

ひよこ,「……あんっ、んぅ、ぬ、抜いちゃうの? ほ、本当に止めちゃうの?」

アタル,「ん? やめようっていったのはヒヨだぞ?」

ヒヨが甘い声を上げる。俺が視線を元に戻すと、ヒヨが縋るような瞳で俺を見上げていた。

ひよこ,「教室でえっちをするの、危ないって言ったのは、私だけど、でも……でもね? アタルくん。あのね、我慢はね、身体に毒じゃないかなぁって思うの」

ひよこ,「私も、あんまり声を出さないように頑張るから、だから、このまましても平気だよ?」

アタル,「いや、心配しなくても、俺は別に止める気なんてないけど?」

ひよこ,「え? じゃあ、どうしてアタルくん、私の中から……その、おちんちん、抜いちゃったの?」

言われて見れば、俺のモノはヒヨの膣穴から抜けていた。

俺のモノはまるでつっかえ棒のように、ヒヨのスリットに押し付けられているだけの状態だ。

浅い挿入だったからな。俺が背後を振り返った拍子に、抜け出てしまったのだろう。

アタル,「抜く気はなくて、動いた拍子にたまたま抜けただけだぞ?」

ひよこ,「え? そ、そうだったんだ。わ、私の勘違い、だね。あはは……」

俺が事の真相を告げると、ヒヨは少しほっぺを赤くしたのだった。

アタル,「と言うか……ヒヨももう、ヤル気満々なんだな?」

ひよこ,「う、うぅ。だ、だって、あんな風にされたら、アタルくんの欲しくなっちゃうよぉ……明るくて恥ずかしいし、誰かが来ちゃいそうで怖いけど……最後まで、しよ?」

アタル,「あぁ、そうだな。俺ももう、我慢の限界だ……ヒヨの中に、早く深く入れたいよ」

人に見られるかもという緊張を持ってしても、俺の性欲に押さえは効かなかった。

その誘いの言葉に頷いて、俺はヒヨのお尻に改めて手を置いた。

そして、ヒヨの奥深くへとモノを押し入れていく。

ヒヨを怖がらせないよう、びっくりさせないよう、あくまでゆっくり、優しく。

ひよこ,「んぅぅ、はぁ、あっ……んっ、入って、くるよぉ……アタルくんの、お、おちんちんが……私のアソコ、ひ、広げて……んはぁ、んっ、はぁッ……はぁぁッ……!」

早く突きたい動かしたい思いはあるが、我慢だ。

ヒヨの喘ぎ声で興奮は天井知らずに高まっていくが、それでも我慢。

さっきは心が逸り過ぎて、少しヒヨに無理をさせちゃったからな。

ひよこ,「んはぁ、あぁっ、お、奥に、もう少しで、奥に当たるよぉ……あ、来るぅ、来ちゃうぅ、お、おちんちん……深いよぉッ……くふぅ」

どうせ気持ちよくなるのなら、心と身体が同時に……そしてお互いが同時に心地よくなりたい。

1回目みたいに俺だけが気持ちよくなって……ヒヨは涙目だなんて、そんなのはゴメンだ。

これでようやく2度目のセックスなんだ。よく濡れてはいるけれど、まだまだヒヨの膣内はきつい。

ゆっくりゆっくり俺のモノを奥に進ませて、その感覚に慣れさせてあげなければ。

ひよこ,「んっ、んんっ、んふぅ、あっ、あぁ、んっ、ふぅ……あぁ……入った、よぉ……ッ、アタルくんの、おちん、ちん……私の、一番奥まで、んっ、ちゃんと……」

アタル,「あぁ、気持ちいいよ、ヒヨ。すっげぇ、いい」

ぴったりと俺の下腹部とヒヨのお尻を密着させる。その体勢のまま、円を描くように腰を静かに動かす。

ひよこ,「んぅ、わ、わかるよ。アタルくんが、私の中で、動いてるのが……はぁ、ふぁ、はぁん……」

俺はそれからしばらくの間、実に緩慢な動作でヒヨの膣壁を解していったのだった。

アタル,「そろそろ、慣れてきたか?」

ひよこ,「んぅ、そ、そう、かな? んんっ、そう、かも……お腹の奥から、不思議な感じが……あっ、んぁ、はぁ……」

アタル,「もう少しだけ、早めに動いてもいいか?」

ひよこ,「う、うん。私なら、もう、んんぅ……へ、平気、だよ? んっ、あ、アタルくん、好きなように、動いて?」

ひよこ,「アタルくんが、はぁ、んっ! や、優しくしてくれたから。約束、守ってくれた、から……だから、大丈夫。つ、強くしても、いいよ?」

アタル,「強くしてもいいっていうか……もしかして、ヒヨがそうしてほしいだけじゃないの?」

ひよこ,「ぅん……その……何だか、お腹の奥の方が、切なくて……アタルくんに、もっと奥まで来て、欲しいの……強く、おちんちん、いっ、入れて欲しいよぉ」

ヒヨは明らかに悦びの混ざった甘い声で、そう俺に囁いてくる。

しかも同時に、お尻を左右にフリフリと可愛らしく動かすほどだ。

多分、意識しての動きではないのだろう。無意識に、俺のモノを深くまで入れようとしているんだと思う。

……こうまでおねだりされたら、応えないわけには行かないな。

第一、俺もそろそろ我慢の限界だ。

ヒヨを、激しく荒々しく攻め立てたい。好きな女の子の身体を、味わいたい。そんな想いは、時間を追うごとに強くなっている。
アタル,「……じゃあ、ちょっとだけ強くするぞ? ヒヨっ!」

ひよこ,「―――ひゃうんっ! あ、はぁ、んはぁ! あ、あふぅ! んんっ!」

俺はヒヨのお尻に置いた手に、力を込める。

柔らかなヒヨのお尻をきゅっと掴んで、腰を前後に動かしていく。

ひよこ,「はぁあっ! は、早いよぉ! お、奥まで、入ってくるのぉ! ゆ、指じゃ、届かない、ところまで……んはぁ、お、おちんちんが、とっ、届いてぇ! あんっ!」

ヒヨの艶っぽい声に合わせて、膣壁がきゅぅっと俺のモノを締め付けてくる。

一度目よりも強い快感だ。砂漠で遭難してる最中にスコールが降り注いだかのような心地よさとでも言おうか。

我ながらワケのわからない例えだし、遭難なんてしたこともないけど、気持ちよ過ぎて、考えがまとまらない。まとめる気も起きない。
ひよこ,「ひぅ、んっ! ひゃぁ、あぁ、あぁん!はぁ、んあっ、あぁん!」

好きな女の子のこんな声を聞きつつ、いちいち上手い比喩なんて考えられるはずがない。

アタル,「あぁ~~、はぁ~」

俺は間の抜けた声と息を漏らしつつ、ただただヒヨの膣穴を突き続ける。

もちろん声に張りがなくても、動きのキレは非常にいい。

動けば動くほど、快感は増していくんだ。そしてヒヨの声にもどんどん色っぽさが増していくんだ。

もう、ゆっくりのんびりとなんて、動いていられない!

ひよこ,「んっ、ひゃ、ひゃうぅぅっ! あっ、はふぅ、ア、アタルくぅん! んぅ、これ、好き……あんっ、はぁ。そ、そこ、そこっ、奥、コツコツされるの、気持ちいいよぉ」

アタル,「そこか? ん。それとも、こっち? んっ!」

ひよこ,「はうぅぅ、ど、どっちも、いい、いいよぉ……」

アタル,「なんだ、ヒヨ、なんでもいいの? 感じてるの?」

ひよこ,「あんっ、はぁ、か、感じ、過ぎてるよぉ。ゆ、指でされたのと、全然違う感じなのに、気持ちいいっ! おちんちん気持ちいいよぉっ!」

明確な比較対象があるからか。ヒヨは絶頂に向けて、どんどん高まっているようだった。

感じている最中のヒヨの顔。快感の底なし沼に沈んで、少しだらしなくなっている顔。

ひよこ,「はぁっ、はぁぁっ! ずぽずぽされてっ、こんなえっちな音しててっ、はぁぁ、セックスって、こんな、こんなに気持ちいいんだね……ッ!」

唇の端っこからよだれがつぅ~っと漏れ出し、眼の焦点が曖昧な今のヒヨ。

どうやらヒヨの快感の扉を開いてしまったらしい。

ヒヨはあまり見られたくないと言っていたけれど……やっぱり今の喘いでいる顔はすごく可愛いと思う。許されるならば、写真に撮って残したいくらいだ。

感じてる女の子の顔って、どうしてこんなに艶かしくて、綺麗で……その上、可愛いんだろう?

全力で俺だけのモノにしたいって言う欲求――独占欲だとか支配欲だとか征服欲だとか。

何かそう言ったちょっと薄暗い感情が、こんこんと胸の奥から湧き出してくる。

アタル,「ヒヨはっ……ヒヨは俺の、恋人だからな! ずっとずっと、一緒だからな?」

ひよこ,「んっ、うんっ! 私は、アタルくんの恋人だよぉっ! はんっ、はぁ! ずっと、一緒ぉ! はぁ、んんっ、ずっと、私は……あ、アタルくんと、一緒だよぉ!」

1つになりたい。自分だけの女の子にしたい。そんな想いに衝き動かされ、俺はヒヨに熱い言葉を囁く。

ヒヨはもちろん首を横に振ることなく、俺の言葉を受け入れてくれた。

愛情を受けたせいか、俺のモノが、ヒヨの膣内でまた硬くなったように思えた。

ひよこ,「んんぅっ、はっ、く、ふぅぅっ! んっ、ひゃぁ、はぁんっ、い、いぃ、いいよぉ、はぁっ、アタルくん……」

ひよこ,「はぁはぁ、うぅっ……好きぃ、大好きだよぉ……あぁんっ、アタルくん、しゅきぃ……んんっ、はぁ」

アタル,「あぁ……俺も大好きだよ、ヒヨ……っ」

ひよこ,「んぅ、う、嬉し……っ! アタルくんに好きっていわれると、また気持ちい、あっ! ひゃんっ! はうぅ、んはぁ、はぁ、んんっ!」

ヒヨの大きな声が、教室内にこだまする―――って、今ふと気づいたんだが、ちょっとまずくないだろうか?

少しヒヨの声が大きくなり過ぎているように思う。窓も扉も閉めてはいるけれど、多少なりとも教室の外に漏れているだろう。

アタル,「ヒヨ、もう少しだけ、声を落とそうな?」

ひよこ,「ううぅっ、そ、そんなこと、言われても、はぁ、んっ、ふぅ、こ、こんなに突かれたら、こ、声、我慢できないよぉ」

ひよこ,「んふぅ、ふぅ、はぁ……あ、アタルくん、少し、もう少しだけ、ペース……はぁ、んんっ、お、落とせる?」

アタル,「……ごめん、絶対に無理っ!」

歯向かうように、スピードが上がってしまう。

ひよこ,「んはぁんっ! ひゃうぅっ! はぁ、あっ、じゃ、じゃあ、私も声っ、が、我慢できないよぉ! ひぅぅっ!」

アタル,「こ、こうなったら、ラストスパートで……人が来る前に2人で、一緒に!」

ひよこ,「うん……うんっ! も、もっともっと、突いてっ! たくさん、私の中、おちんちんで、ぐりぐりしてっ!」

ひよこ,「き、きっと、もう少しだけなら、大丈夫だもん! だ、誰も来ないよ! だから、さっ、最後まで、今のまま激しく……んんっ」

アタル,「あぁっ!」

きっと誰も来ない。ヒヨのその言葉に、根拠なんて何もない。ただの希望的観測ってヤツだ。

でも、俺はその言葉に頷いて、腰の動きを今まで以上に強め、速めていく。

俺ももう、我慢なんてしたくなかった。

ヒヨの黄色い悦びの声を聞きながら、思いっきり奥を突いて、そして射精したい!

その欲望を前にしたら『声が大き過ぎるんじゃ?』なんて常識的な心配は簡単にどこかへと吹き飛んだ。

ひよこ,「はぁん! あっ、あはぁ、はぁ、んんっ、ぐっ、ぐりぐり、してる……おちんちんが、お腹の奥に、来てっ! あぁん!」

ひよこ,「んくぅぅ~~~っ! あ、だ、ダメっ、わ、私もう、い、いうぅぅ、んんっ! あっ、アタル、くん……は、早く、来て……私、もう、もうっ……う、うぅぅっ!」

絶頂が近いのだろう。ヒヨは切羽詰った声を漏らす。

俺だって、もちろん限界は近い。ヒヨのその声に背を押されたかのように、射精感がせり上がって来る。

アタル,「ヒヨっ、くっ……俺も、俺ももうっ!」

ひよこ,「んっ、き、来て! はぁ、んんっ、一緒に、一緒にぃ! あ、あはぁ、あぁぁっ!」

アタル,「くっ、出る……出るぞ、ヒヨ!」

ひよこ,「うん、出して……あっ、はぁ! わ、私の中に、たくさん……奥で、出して! いっぱいいっぱい、ちょうだい! んんっ、はぁ!」

中に出すことに一切のためらいはなく。

そこまで、俺はヒヨの体に溺れていた。

そこまで――ヒヨのことを愛していた。

アタル,「―――くうぅっ! 出る!」

ひよこ,「―――んはぁ、あっ、ふぁ、あぁあぁあぁぁぁんっ!」

俺は自分のモノでヒヨの子宮口をぐぃっと押し上げ、その上で我慢のダムを決壊させる。

先端に触れるヒヨの最奥が、俺の射精に合わせて、吸い付いてくれたような気がした。

ひよこ,「ひゃ、やっ、あっ、あぁぁぁっ……んっ、ふぅぅ、はぁ、あぁ、あぁぁ~~~っ……」

どっぷりと、俺はヒヨの膣内に熱い白濁液をぶちまける。

脈打つ度、ゼリー状の精液がポンプのように汲み出されては、ヒヨの中を満たしていった。

ひよこ,「あっ、あはぁんッ……おなかの中、アツいよぅ……! ふぁ、はぁ、はぁはぁ……あんっ、まだ、で、出てる。アタルくんの、せーし……いっぱい、んぅ」

指でヒヨのアソコを弄っていた時から、ずっと屹立していた俺のモノ。

限界まで溜め込んでいた性欲が、射精と同時、ようやく抜けていくのを感じた……。

あまりの気持ちよさに、口からよだれが溢れ出ていることに気づき、慌てて口元を拭う。

あまりの解放感に、気を抜くと膝ががっくりと崩れ落ちてしまいそうだ。

ひよこ,「あっ、はぁ、あっ……お、お腹っ……んぅ、ナカで、まだ、まだ出てる。おちんちん、私の中で、ぴくぴくしてるよぅ……せーし……たっぷりだよぉ……」

俺はいまだにモノを抜かずに、ヒヨの膣内に入れたままだ。

射精と同時に少し小さくなった俺のモノ。それをヒヨの膣壁がきゅっと締めつける。

すると、モノの中に残っていたかすかな精液が、ヒヨの中へと搾り取られていくのだった。

アタル,「普通にヒヨとするだけでもドキドキなのに、見つかるかもとか思って……余計にドキドキした」

アタル,「ヒヨも興奮してたんじゃない? 初めての時と、全然反応が違ったし……俺もすごい出ちゃった……」

ひよこ,「興奮したし、はぁ……アタルくんもすっごくせーし、出してくれたけど……クセになったら、困っちゃうよぉ……こんなに恥ずかしいのは、もう今日だけ、だよ?」

ヒヨは快感の余韻がまだまだ抜けきらないのか、どこか間延びした声を発する。

アタル,「でも、時々なら、こんなえっちもいいよな?」

ひよこ,「で、でも、バレたら、とんでもないことに、なっちゃうんだよ? 裸の王様なんて……ど、童話なら、いいけど……アタルくんと私じゃ、スキャンダルだもん」

ひよこ,「それに、こ、こーゆー場所だと、後からも困っちゃいそうだし。その、恥ずかしくて……」

言葉とともに、ヒヨは軽くお尻を振る。

俺のモノがヒヨの中から抜け落ちかけ、机の上には俺の精子とヒヨの愛液の混じったものが落ちる。

ひよこ,「……くふぅ、はぁ……んんっ……はぁはぁ……あっ、いっぱい、漏れちゃった……ううん、でも、中にまだいっぱい、入ってるぅ……」

膣穴から机の上へと溢れ落ちた精液を見て、ヒヨは静かにそう呟いた。

ひよこ,「こんな、せーし……出してくれたんだね……机も……どろどろになっちゃってる……」

明日、ふと机の上を見て、ヒヨは今日のこの秘密の行為を思い出すんだろう。

顔を真っ赤にしてもじもじするであろう明日のヒヨが、今から楽しみだった。

隙を突いて耳に息を吹きかけたりしたら、たとえ授業中であったとしても。

『ひゃあんっ!?』とか、ヒヨは色っぽい声を出しちゃうんだろうなぁ。

よし、絶対に試そう!

ひよこ,「……あんっ、はぁ、あ、アタルくんが何だか悪いこと考えてる顔、してるぅ……」

アタル,「ははっ、そんなことないよ。ヒヨのことに決まってるだろう」

そう言いながらに身体を倒し、俺は圧し掛かるような感じでヒヨの顔に近づく。

にゅるんと、その拍子に俺のモノがヒヨの中から完全に抜け落ちる。

ひよこ,「んはぁ、はぁ、あっ……んちゅっ、んっ」

燃え上がった炎。その大部分はもう鎮火したけれど、しかし、燻る小さな火種までをも完全に鎮めるには、もう少しの時間が必要だった。

淡い喘ぎを漏らすヒヨの口を、俺は自分の唇で塞ぐ。

俺たち2人はそれからしばらくの間、お互いに熱くキスをし合うのだった。

教室の中には、男と女の行為を悟らせる生々しい匂いが充満していた。

俺とヒヨは顔を赤くしながらに服を正し、窓を開け、えっちの痕跡をかき消していく。

昂ぶりが治まってくると……我ながら大胆なコトをしたと思う。クセになったらどうしよう?

#textbox Khi0120,name
ひよこ,「え、えへへ。なんだかんだで、すっごく時間がかかっちゃったね」

アタル,「あぁ、ヒゲゴリも職員室でご立腹かもな」

#textbox Khi0160,name
ひよこ,「だねー。んっ、早く日誌を提出して、帰ろ?」

ようやく全ての後始末を終えた俺たちは、仲良く手を取り合って教室を去ろうとする。

アタル,「…………」

ふと、俺は背後を振り返る。閉められた窓の向こう側には、鮮やかな夕焼けが広がっていた。

#textbox khi0120,name
ひよこ,「あれ? どうしたの、アタルくん? 何かやり忘れたこと、あったかな?」

アタル,「いや、夕焼けだなぁと思って」

#textbox Khi0120,name
#textbox khi0120,name
ひよこ,「うん。太陽の沈む方向……海の方に雲がないから、明日もいい天気になりそうだね」

アタル,「そうだな」

明日もいい天気で、のんびりと穏やかに過ごしたいもんだ。

どこか感傷的に、俺はそう思うのだった。

しかし、俺のそんなささやかな願いは叶うことがなかった。

イスリア王国の艦隊がニッポンに向けて海を突き進んでいると、そう報告が上がって来たのは……その夜のことだった。

ミルフィが沈黙を破り、ついに表舞台へと姿を現したのだ。

つまりは……俺とミルフィの再会の時が近づいているのだ。どう考えても、普通とは言えない再会の時が……。

アタル,「初対面がパラシュート降下で、今回は艦隊か……」

俺は迫り来る騒動を思い、頭を抱えるのだった。

……

…………

エリス,「姫様。ニッポン側に動きがありました。あちらもこちらと戦うに相応しい艦艇の招集にかかったようです」

ミルフィ,「そう。トラノコの人型の特機は?」

エリス,「あ、えー……そちらの方は確認出来ておりません。今のところ、動きがあるのは常識的な艦艇ばかりです」

ミルフィ,「そう。外道なアタルのことだから、恥も外聞もなく奥の手のスーパーロボを出すかと思ったけど……」

エリス,「姫様、油断はなりません。仮に人型の特機はなくとも、こちらの想定以上の戦力を配備する可能性があります」

エリス,「そもそも、あの外道相手に『同戦力で正々堂々ぶつかり合おう』との提案自体に問題があるのではないかと……」

ミルフィ,「その件については、もう言ったでしょ? あたしは、アイツを真正面から打ち倒さないと気が済まないの!」

ミルフィ,「いいじゃない。卑怯な手も、規定以上の戦力もドンと来いよ! あたしと、あたしの『アタルぶん殴り艦隊』がなぎ払ってやるわ! 全てを!」

エリス,「姫様……えぇ、その通りでございます。自分は何を不安に思っていたのでしょうか? 我らに敗北の二文字などないと言うのに!」

ミルフィ,「構わないわ。最悪を想定することも、エリのお役目の1つだもん」

ミルフィ,「そしてあたしは皆を率いる王女として、精神的な柱として! 無理も道理も最悪的で危機的な状況も、全て踏破して見せることが役目」

ミルフィ,「あたしたちに負けはないわよ、エリ!」

エリス,「はっ!」

ミルフィ,「それで? 用はそれだけ? なら、あたしはそろそろ明日に備えて眠るけど」

エリス,「あ、いえ。セーラ姫よりメッセージが届いております。曰く『即刻艦隊を退くべきです』と。先日から内容にはほとんど相違がありません」

ミルフィ,「延々と……セーラも存外しつこいわね。何であの馬鹿の肩を持つのかしら? あんなにひどいことを言われてたのに」

エリス,「この世にはダメな男に貢ぎ続ける女性も存在します。やはり、惚れた弱みと言うものかと」

ミルフィ,「惚れた弱み、ね。つまり、こうして艦を率いるあたしは、アタルに惚れてなんかいなかったってワケね」

ミルフィ,「……そうよ。べ、別にアイツのことなんて、あたしは何とも思ってなかったんだもん」

ミルフィ,「あくまで、技術目的で近づいただけで……別に本気でアイツと結婚したいわけじゃなかったし? 好きでも何でもなかったし?」

ミルフィ,「むぅ~………………」

ミルフィ,「エリ! とにかくセーラのメッセージは無視でいいわ。あたしはもう、止まる気なんてないもん!」

ミルフィ,「セーラに『鬱陶しいから、もう何も言うな』って返信しておいて! あたしはもう寝るから!」

エリス,「はっ、かしこまりました。姫様、どうかよい夢を」

ミルフィ,「本番に備えて、夢の中であの馬鹿をぎったんぎったんにしてやるわ! じゃ、おやすみ!」

イスリア王国王女ミルフィの命によって叩きつけられた通牒に、我がニッポンの上層部は騒然となった。

つい先日まで、間違いなく両国の関係は上手く行っていたのだ。

ニッポンのトップである王の俺と、イスリアの姫であるミルフィは同じ屋敷に住み、同じ学園に通い、笑い、語り合っていたのだから。

それが一転、艦隊戦だ。しかも形式上はあくまで侵攻ではなく、決闘。

王である俺と、王女であるミルフィが同規模戦力を率いて、正々堂々と海上にて雌雄を決するのだ。

この決闘を受けなければ一気に全面戦争に突入すると一方的に意思表示を突きつけられれば……そりゃ、驚くなと言う方が無理だろう。

まぁ、ミルフィの人柄をよく知る俺からすれば、あり得なくもない状況だとも思う。

もっともこんな大事にせず、あの日、あの場、あの別れ際に、思いっきり殴りかかってきてくれた方が、よほどよかったとも思うけれど。

俺だって殴られれば『どうしてこんな!』と聞くわけで……。

するときっと、ミルフィも『柴田に聞いたわよ!』と状況を説明するわけで……。

そうなれば、俺はその場で『そんなことは頼んでない』って、誤解を解くことも出来たかもしれなくて……。

まぁ、そんなことはもう、考えるだけ無駄だ。

俺は決闘を受け、もう艦隊も集結させ終えた。

あとは旗艦に乗り込み、ミルフィに指定された海域に赴くだけなのだ。

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「……アタルくん……行くんだね。ミルフィさんの待つ、海に」

アタル,「あっちからのご所望だしな。俺が出ないわけにはいかないさ」

アタル,「もしここで出て行かなかったり、影武者でも立てようモンなら……ミルフィが何をしだすかわからないし」

アタル,「それに、ミルフィが待ってることは確かなんだ。ある意味、直接話の出来る最大のチャンスだとも思う」

アタル,「こんだけの大騒ぎだ。出て行ってすぐミサイル攻撃されるって事もないだろ?」

アタル,「話をするチャンスがある。そして話が出来るのなら、誤解は解ける。諦めなきゃ、話は通じる……はずだ」

アタル,「アイツは無茶苦茶なヤツだけど……俺の家を壊した事だって、最後にはちゃんと謝ってくれたしな」

問答無用で俺に怒りをぶつける気なら、ここまで回りくどいことはしないだろう。

ミルフィはミルフィで、それなりにニッポンのことを考えてくれているのだ。多分。

短期間とは言え、自分が住んだ屋敷。自分が歩いた道。自分が好んだ飲食店。自分が通った学園。自分を慕うファンクラブたち。その他学友に教師たち。

俺との直接対決なら、この国にあるそう言った大切なものを傷つけたり壊したりすることは避けられるからな。

#textbox Khi0380,name
ひよこ,「……あのね、アタルくん。私も一緒に行きたい」

アタル,「――――――はいぃ?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「2人はずっと一緒って、言ったでしょ? だから……私も連れて行って?」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「アタルくんが危ない場所に行くのに、私だけお留守番なんて、そんなの……ヤだよぉ」

アタル,「いや、そうは言っても……」

#textbox Khi0380,name
ひよこ,「だって今みたいな状況、映画で見たことあるんだもん!」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「アタルくんが『このゴタゴタを解決したら、その時は結婚式を挙げよう』とか言って、海に出て……」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「そしてエンディング直前に『もうこうするしか……』って言って、ミルフィさんの船を沈めるために特攻とかしちゃうんだよ!」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「最期の言葉は『ごめん、ヒヨ。俺はもう、帰れない』とか……うぅぅ、そんなの、ヤだよぉ。離れ離れは、ヤだぁ!」

アタル,「え、縁起でもないことを言ってくれるなよ。俺は絶対帰ってくるって」

……って、この俺の台詞も死亡フラグっぽいな。

ヒヨの言うことに賛同するわけじゃないけど、少し気をつけた方がいいのかも知れない。

出陣前って言う、特殊な状況ではな。

アタル,「あーっと、とにかく心配ゴム用品だ」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「でも、海の上なんだよ? 戦艦がぶつかったりするんだよ? 危ないよ! ゲームじゃなくて、現実なんだよ!?」

……場を和ませようとした洒落に、ヒヨはまったく気づいてくれなかった。少し悲しかった。

アタル,「あー、その、大丈夫だって。我に秘策あり。そう簡単にやられたりはしないって。絶対に大丈夫だ!」

ひよこ,「……本当に? 本当に絶対大丈夫?」

アタル,「あぁ。まず問題ない。俺はきっと無傷で帰ってくるさ」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「じゃあ、私がついて行っても大丈夫だよね?」

アタル,「へ? な、何でそうなるんだ?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「アタルくんには秘策があって、絶対大丈夫なんでしょ? なら、私が傍にいても平気でしょ?」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「それとも……秘策って、嘘なの? やっぱりアタルくん……決死の覚悟、なの?」

アタル,「いや、策って言うか、大丈夫って言う根拠は一応あるけど……あー……はぁ、仕方ないな。わかったよ。一緒に行こう」

アタル,「船酔いになっても知らないからな?」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「うん、ありがと! 船酔いのお薬はちゃんと持って行くから、大丈夫だよ!」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「じゃあ、準備してくるね! 先に行ったらダメだよ? 絶対だからね~!」

ヒヨは元気よくそう言うと、駆け足で俺の部屋を去っていった。

―――と思ったら、すぐさま戻ってきた。何か俺の部屋に忘れ物だろうか?

アタル,「ん? って……セーラさんたちでしたか」

セーラ,「おはようございます、アタル様」

アサリ,「いやー、色々と手は尽くしたんですけどー、ミルフィさんの猛進は止められませんでしたー」

ヒヨと入れ替わりになる形で、セーラさんとアサリさんが入室してくる。

その表情は俺とミルフィさんの決戦を前にしてか、少し暗かった。

いや、正確に言えば暗いのはセーラさんだけで、アサリさんはいつも通りののほほん加減だったけれど。

セーラ,「申し訳ございません。私の声も、今のミルフィさんには届かなかったようで……」

アタル,「いえ、いいんですよ。2人が一生懸命やってくれたことは、ちゃんとわかっています」

セーラ,「出来ることならアタル様へのお力添えとして、私の保有戦力も出撃させたかったのですが……」

アサリ,「正々堂々、同規模の戦力での対決ってミルフィさんに言われちゃいましたもんねー」

セーラ,「……ですので、アタル様。せめてもの気持ちとして、私も戦場に馳せ参じますわ」

セーラ,「直接の手出しが出来ない以上、戦場にてアタル様に送れるものは声援のみですが……どうか、受け取ってください」

アタル,「ありがとうございます。その気持ちだけで、十分ですよ」

ひよこ,「アタルくん! 私も準備出来たよ! 浮き輪とかたたんで持ってきちゃった!」

アタル,「……いや、艦内に救命胴衣とかあるから、まず市販の浮き輪は要らないと思うんだけど」

アタル,「ま、いっか。別に大した荷物にもならないだろうし」

俺はヒヨと、セーラさんと、そしてアサリさんを順番に見やっていく。

そして最後に自分のほっぺたを両手でぱんっと叩く。

艦隊を率いた経験なんて、もちろんない。だが、もう逃げも隠れも出来ない状況だ。行くしかない。やるしかない。

アタル,「……よし! それじゃ、皆でミルフィの待つ海に行くとしますか」

ひよこ,「物騒なのは今日だけで、今度行く時は普通に海水浴になるといいね!」

アタル,「ははっ、まったくだ」

俺たちは揃って部屋を後にする。

屋敷の中庭でヘリに乗り、すでに沖合いへと進んでいる艦に直行。その後は……艦隊戦だ。

いや、艦隊戦とは言いつつも、俺はまともに戦う気なんて髪の毛先ほどもないんだけどな。

……さぁ、待ってろよ、ミルフィ?

俺は今からそっちに『戦いに』じゃなくて『話し合いに』行くからな!

……

…………

エリス,「特殊妨害領域の構築、完了いたしました。これにより両軍の索敵網の性能は著しく低下いたします」

ミルフィ,「エリ、この場合は散布を完了しましたと言いなさい。それが様式美よ?」

エリス,「さ、散布ですか? しかし、特に何も撒いてはいないのですが……」

ミルフィ,「レーダーとか通信を無用の長物にするものと言えば、ミノ粉と相場が決まってるのよ!」

エリス,「……み、ミノ?」

ミルフィ,「チェルノブイリ出身の博士が発見したハイブリット粒子! レーダーは使用不能となり、艦船は互いの位置を光学的手段でしか察知出来なくなる! 基本よ!」

ミルフィ,「まぁ、何にしろ……これで前時代的な戦いになるわね。最新の超高性能レーダーに変わって、望遠鏡やら手旗信号が重用されるような、ね」

ミルフィ,「ふふふふ! 決闘と言えば、こうじゃなくっちゃ!」

エリス,「は、はぁ……つまりはまた何かのアニメの影響、なのですね?」

ミルフィ,「端的に言えばそうね。でも様式美は大事よ? こだわらなければ、戦いなんて一瞬で終わるもん」

ミルフィ,「それこそ、エリが前に言っていたような、エレガントさの欠片もない無機質な作戦みたく……」

ミルフィ,「ん…………?」

ミルフィ,「ふふ、そろそろかしら? あぁ―――来たわね、アタル!」

ミルフィに指定された海域に到着するなり、艦隊の搭載機器のいくつかに不具合が出始める。何かしらの罠だろうか?

俺は眉をひそめつつもマイクを手に取り、大きな声ではるか彼方に浮かぶミルフィ艦隊に向かって、声を張り上げた。

アタル,「ミルフィーっ!? 聞こえるかぁー!」

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ミルフィ,「ふぅん? 執事に伝言を任せて逃げるような臆病者の卑怯者だから、てっきり策を弄すかと思ったけど……」

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ミルフィ,「意外や意外。ちゃんと規定通りの戦力を引き連れて来たようね?」

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ミルフィ,「その潔さには……何なら拍手を送ってあげてもいいわよ? パチパチパチ~ってね!」

アタル,「そうケンカ腰にならないでくれ、ミルフィ! 俺はお前と戦いに来たわけじゃない!」

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ミルフィ,「はぁ? 領海に外国の艦隊が入り込んでて、アンタも艦隊を率いて迎えてる。この状況で起こることなんて、もう戦闘以外にないでしょ?」

アタル,「違う! 俺はあくまで、お前との話し合いのために来たんだ」

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ミルフィ,「平和ボケなのか、それともいざと言う時には奥の手のロボを出せばいいって言う余裕なのか……」

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ミルフィ,「どっちにしろ、ムカつくわね? もうとっくに話し合いの時間は終わったのよ! 今さら、誰がアンタの話なんて聞くもんですか!」

アタル,「そんな! 頼むから聞いてくれ!」

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ミルフィ,「どの口がそんなことを言うのよ! 自分があたしに何を言ったのか、忘れたとは言わせないわよ?」

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ミルフィ,「こ、このあたしの胸がミニマム過ぎるとか! ロボヲタ馬鹿王女とか! 他にもあれやこれや!」

ミルフィ,「しかも、アタルの本当の目的はイスリアの軍事力を掠め取ることだったんでしょ? 冗談じゃないわ!」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「さらに! あんたはエリにもセーラにもアサリにもひどいことを言ったのよ!?」

ミルフィ,「あたしは自分の身体のこと、心のこと、母国のこと、部下のこと……そして友達のことまで馬鹿にされて黙ってられるほど、お人好しじゃないわ!」

アタル,「だから、そもそも俺はミルフィにそんなことを言った覚えはない!」

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ミルフィ,「はぁ? どんな言い訳よ、それ? 確かに言ってたのよ、あの柴田が! あたしの目の前に立って、侮蔑の視線とともにね!」

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ミルフィ,「アタルが言えって命じたんでしょ? 自分じゃ言えないことを部下に言わせて、しかも雲行きが怪しくなったら知りません? 最っ低ね!」

アタル,「だから、それは違うって! 俺はミルフィのことを嫌ったり、馬鹿にしたりする気は全然ない!」

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ミルフィ,「……ふん。そう? まぁ、どうでもいいわ。そう……元からどうでもいいのよ。あたしだって、別にアタルのことなんて好きじゃなかったし」

ミルフィ,「アタルと結婚したかったのは、あくまでニッポンの技術を手に入れるため。あんたに対して、愛なんてこれっぽっちもなかったわ」

#textbox Kmi0240,name
ミルフィ,「って言うか、あるはずないわよね? うん。クジで選ばれただけの誰かさんに、このあたしが本気で惚れるはずがないもん」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「ニッポンの技術が欲しかったあたしと、イスリアの軍事力を欲しがったアタル」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「見詰め合って、穏やかに笑い合っている時でも……本当は、相手のことなんて見てなかったのよ。あたしたちは、お互いにね」

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ミルフィ,「まぁ、あたしは卑怯なアタルとは違うから、本心は自分で言うけどね。エリに言わせて自分は知らん振りなんて、そんなことはしないもん」

アタル,「くっ、なんて意固地なヤツなんだ。わかってはいたけど、本当に厄介だな」

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ひよこ,「アタルくん……ちょっと変わって……」

アタル,「え? あ、あぁ……」

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ひよこ,「はぁー、すぅ~、はぁー、すぅ~……」

ミルフィ,「……ん? 何? 今度はアタルじゃなくてぴよぴよ?」

ひよこ,「ミルフィさんの、おバカぁぁぁぁ~~~~~~っ!」

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ミルフィ,「―――くっ!? と、突然、何よ!?」

ひよこ,「どうしてアタルくんのこと、ちゃんとわかろうとしてくれないの!? どうしてアタルくんのこと、信じてくれないの!?」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「信じるも何も、アタルが全部悪いんじゃない! ぴよぴよも騙されちゃダメよ!」

ひよこ,「アタルくんは誰も騙してなんかないもん! それにアタルくんは卑怯でも臆病でもなくて、優しい人だもん!」

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ミルフィ,「あのね、ぴよぴよ? アタルは柴田に命じて、このあたしに下賤で下衆で下劣極まりない言葉をぶつけたのよ?」

ひよこ,「そこがまず間違いなの! どうしてアタルくんがそんなこと言わせたと思うの? 柴田さんが勝手に言ったと思わないの!?」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「はぁ~。柴田はアタルの執事で、右腕でしょ? ぴよぴよだってエリが『姫様がこう言っていた』って言えば、信じるでしょうに」

ひよこ,「柴田さんとエリスさんじゃ、全然違うよ!」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「あぁもう、違わないわよ! それぞれ、王と王女の右腕。もしくは……えーっと、懐刀? って言うわよね?」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「主人と一心同体の、長く連れ添った信頼出来る人材。それがエリや柴田。つまり2人の言葉はあたしやアタル本人に準じるのよ!」

ひよこ,「……ミルフィさん、さっき自分でクジって言ってたでしょ? そう。アタルくんが王様に選ばれたのは、つい最近」

ひよこ,「アタルくんと柴田さんは、ミルフィさんとエリスさんみたいに長く連れ添ってなんか、いないんだよ?」

ひよこ,「ミルフィさんがアタルくんと初めて出会ったあの日。あの日が、アタルくんと柴田さんの初対面だったんだよ?」

ミルフィ,「そ、それでも、仮に柴田が暴走して勝手に変なことを言ったのなら、それもアタルの責任。任命責任とか聞いた覚え、あるでしょ?」

ひよこ,「アタルくんが柴田さんに執事をしてってお願いしたわけじゃないんだよ? 政府から、アタルくんのもとに派遣されただけで……」

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ミルフィ,「う、うるさいうるさいうるさぁ~い! とにかくアタルが全部悪いのっ!」

ひよこ,「むぅぅ~~、ミルフィさんのわからず屋ぁ!」

ひよこ,「私は、ずっとずっと昔から、アタルくんのことが好きだった。大好きだったんだよ!」

ひよこ,「そして私は……ミルフィさんもセーラさんも魅力的だから……きっとアタルくんのこと取られちゃうって、心配してたの!」

ひよこ,「でも、よかったよ。アタルくんが、ミルフィさんを選ばなくて! ミルフィさんと一緒だと、アタルくんが可哀相だもん!」

ひよこ,「ミルフィさんにならアタルくんを任せてもいいかもーって、前にちょっとだけ思ったけど……でも実は全然そんなことなかったかも、だよ!」

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ミルフィ,「はんっ! べ、別にアタルなんて要らないわよ! アタルなんて、好きじゃないし!」

ひよこ,「私は好き! 大好き! すっごく好き! ミルフィさんよりずっとずっと、アタルくんのことを愛してるんだもん!」

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ミルフィ,「だ、だから、あたしは別に好きじゃないって、言ってるでしょ! どうぞ、末永くお幸せに! ノシ? とか言うのを付けてあげるわよ!」

ひよこ,「うん! なるもん! 絶対になるもん! アタルくんと一緒に、幸せに! 最初は女の子で、次は男の子! その次にまた女の子で……」

ひよこ,「えーと、とにかく少子化に歯止めをかけるためにも、いっぱいい~っぱい赤ちゃん作っちゃうもん! そして皆で仲良く暮らすの!」

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ミルフィ,「そ、そう。うん、頑張れば、いいんじゃない、かしら? うん。って言うか……ぴよぴよ?」

ひよこ,「何? もう私とアタルくんの間に隙間なんてないよ? すっごーくラブラブなんだもん!」

ひよこ,「今朝だって、優しくキスしてくれたし! あと、ぎゅ~って抱っこしてくれたし、それから、それから……」

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ミルフィ,「いや、うん? 落ち着いて? あのね? この通信ね? 大海原に響いてるんだけど……その辺り、理解してる?」

ひよこ,「――――――え?」

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ミルフィ,「しかも、今この海域は世界中から注目されてるわけで。そして、この海域内だとレーダーとか各種機械の性能が落ちたり、使用不可になる、けどね?」

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ミルフィ,「音は妨害出来ないから。うん。普通に空気が振動して、かなり遠くまで聞こえちゃうから」

ひよこ,「あ、う、で、でも、て、テレビとかって、今ここ、大変だから、来てない、よね?」

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ミルフィ,「どれだけダメって言っても勝手に入ってくるのがマスコミよ。渡航禁止の危険地帯に、わざわざ突っ込んでいく戦場カメラマンとかね」

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ミルフィ,「うん。あたしも思い返してみると、かなーり色々とぶっちゃけたけど……ぴよぴよの方はちょーっと赤裸々過ぎると言うか?」

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ミルフィ,「そもそも、仮にマスコミに漏れなくても、ニッポンとイスリアの艦隊全体に響いてるわけで……」

ひよこ,「ど、どど、どうしよう? は、はうぅ、す、すっごく恥ずかしいよぉ」

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ミルフィ,「って言うか、アタルも止めなさいよ! ぴよぴよの隣にいるんでしょ!? 何してんの!?」

アタル,「いや、勢いがあり過ぎて割って入れなかったんだ」

ひよこ,「え、あ、う、ご、ごめん、なさい。えっと、あ、あの、アタルくん、どうしよう?」

アタル,「……まぁ、いいんじゃないか? うん。仲がいいのは事実だし」

ひよこ,「で、でもでも、はうぅぅ~~、は、恥ずかしいよぉ。顔から火が出るって、こんな感じなのかなぁ!?」

アタル,「……教室でアレだけのことをしておいて、何を今さら」

ひよこ,「そ、それとこれとは話が違うよぉ! って、皆に聞かれてるんだから、そーゆー事は言っちゃダメだよぉ!」

アタル,「当分はこれをネタにヒヨをからかえそうだな」

ひよこ,「か、からかっちゃダメだってばぁ! うぅぅ、アタルくんのイジワル……」

エリス,「すっかり和やかムードですね」

ミルフィ,「あんのバカップル……っていうか、柴田の言ってたことのほとんどが嘘だったとしても、1つだけ真実があったわね」

ミルフィ,「つまりは、あたしは選ばれなかった。アタルの選んだ相手は、ぴよぴよだった」

エリス,「姫様……」

ミルフィ,「変な声を出さないでよ、エリ。あたしは別に、全然ショックなんて……受けてないんだから」

ミルフィ,「とにかく! もうここに至って『誤解でした、はいそうですか、わかりました、じゃあ帰ります』なんて行かないでしょ?」

ミルフィ,「何かあの2人の会話を聞いてるとイライラしてくるし! このよくわからない不愉快な気分は全部アタルにぶつけさせてもらうわ」

ミルフィ,「……で! アタルを降伏させて、技術も貢いでもらうわ! あのバカップルに世間の荒波の厳しさを教えてやるのよ!」

アタル,「おーい、無茶苦茶なこと言ってるぞ、ミルフィ!?」

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ひよこ,「そ、そうだよ! 誤解は解けたんだから、もうケンカしなくていいでしょー!」

ミルフィ,「うるさいうるさぁーい! とにかく、進撃開始! 目標はあのバカップルよ!」

エリス,「姫様。それではもう、すっかり恋敗れて嫉妬に燃える我がまま娘です。しかし、それが……イイ」

エリス,「ふふ、うふふっ、拗ねて駄々をこねる姫様もまた、素敵だ」

ミルフィ,「ん? 何を笑ってるの、エリ? あぁ、余裕の笑みね?」

エリス,「はっ! 無論です!」

ミルフィ,「よーし! いい気合ね!」

ミルフィ,「さぁ、アタル! ひざまずかせてあげるわ! 命乞いの準備はいい? 涙をぬぐうハンカチは? ついでにオムツも付けときなさい!」

ミルフィ,「ふははははぁ~! ニッポン製の特機を手に入れた暁には、イスリアの支配圏は木星圏までに広がることになるのよ!」

アタル,「どうしてもやるって言うんだな? なら、こっちだって……全力で話し合ってやる!」

ミルフィ,「ふんっ! まだ『戦う』って言わないあたり、あんたもなかなかに強情ね!」

アタル,「大切な友達と血で血を洗う気なんてないんでな! こちとら平和国家だ!」

ミルフィ,「……でも、こっちはもう話す気なんてないわ! 話したかったら、あたしの首根っこを掴んで無理矢理椅子に座らせることね! ふんっ!」

ミルフィ,「降伏宣言以外は全て無視よ! さぁ、全艦戦闘開始!」

エリス,「はっ! 了解です!」

ミルフィ,「………………」

ミルフィ,「……大切な友達、か」

ミルフィ,「ふん。あたしが勝てば、アタルなんて下僕に格下げなんだから!」

前方に展開していたミルフィの艦隊が、大きく動き始める。

どうやら本気でこっちに攻撃をしてくるつもりのようだ。

アタル,「……仕方ないな。よし、機関最大! 全速前進! 我が艦をミルフィの乗る艦に接舷しろ!」

アタル,「ついでに他の艦は下がらせろ。動くのは俺たちの艦だけでいい!」

将棋で言えば、全ての駒を捨てて王将だけで前進するような暴挙だ。

さすがに戦闘に詳しくないヒヨでもこの状況はまずいと感じたのか、俺の手に縋りついて来る。

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ひよこ,「あ、アタルくん! このお船だけで前に出たら危ないよ! 攻撃されて、すぐ沈んじゃうよ!」

アタル,「大丈夫だ。ここには俺がいるんだぞ?」

アタル,「対艦連砲、高角砲、機銃、機雷、ミサイル……何でも来い! 当てられるものなら、当てて見せろ。俺の当たらなさは伊達じゃない!」

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ひよこ,「……あっ、そっか」

俺の一言に、ヒヨは一瞬で納得した。

普通『当たらないから大丈夫』とだけ言われても、こうは落ち着けないだろう。

だが、俺の『当たらなさ』は尋常じゃない。俺とヒヨを筆頭に、この艦に乗っている人員の不安値はゼロだ!

いわばこの状況は『ミルフィ陣の駒ではアタルの動かす王将を倒せない』という設定で始めた将棋!

俺はどこまでも気ままにミルフィの艦隊へと接近することが出来るのだ!

アタル,「さぁ、前進だ! 怖がる必要なんて、何にもないんだからなー!」

俺の威勢のいい声が、艦内に響くのだった。

ミルフィ,「単艦で突出してるのよ!? 何で沈められないのよ! っいうか、何で当たらないのよ!」

エリス,「全てが、当たらない。姫様もご存知の通り、それが国枝アタルの持つ特性です」

ミルフィ,「くぅぅ、なんて理不尽な! 弾幕に直進で突っ込んできて無傷とか、あり得ないでしょ!? 物理的に!」

ミルフィ,「うぅぅぅ、当たらない! ああもう、弾の無駄遣いじゃない!」

俺たちの艦は悠々と前進を続ける。ミルフィの放つ砲弾が海へと着水し、大きな水しぶきを上げる。

しかし、それだけだ。砲弾は俺の艦に直撃するどころか、かすることすらない。

セーラ,「すさまじい光景ですね。これだけの攻撃が降り注いでいるのに、この艦はまったく損傷を受けておりません」

アサリ,「っていうかー……何かもぉ~、アサリとセーラさんは空気ですねー。アタルさんたちにも忘れられてるんじゃ?」

セーラ,「そ、そんなことは。そんなこと、ないですよね? ね? アタル様、ひよこさん?」

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ひよこ,「ひゃぁっ!?」

アタル,「っと、大丈夫か、ヒヨ? 外れた弾は着水して艦を揺らすからな。気をつけろよ?」

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ひよこ,「う、うん。大丈夫だよ。えへへ、ありがと、アタルくん」

艦が揺れることで、俺の隣に立っていたヒヨが危うくバランスを崩す。

俺はとっさにヒヨを抱きしめ、その身体を支えたのだった。

そう言えば、セーラさんが何かを言っていたような気もするが……まぁ、大丈夫だろう。

セーラさんの隣にはアサリさんがいるんだし、俺が助けなくても怪我をすることはまずないはずだ。

アサリ,「軽くスルーされましたねー」

セーラ,「い、今のは間が悪かっただけです!」

セーラ,「アタル様、これからどうなさるのですか? このままでは埒が明きません!」

アタル,「ふぉ!?」

艦が揺れることで気分が悪くなったのだろうか?

セーラさんはどことなく不機嫌そうに、俺にそう尋ねてくる。

アタル,「そ、そうですね。接舷してミルフィを確保しようにも、どの艦に乗ってるかがわからないし」

望遠鏡を片手にミルフィの姿を探すのだが……今のところ、それらしい姿はなかった。

艦の奥深くにこもっている場合、こうして甲板とかを眺め見てても絶対に見つけられないんだよな。

まぁ、何となくミルフィは甲板上で仁王立ちとかしてそうな気がする。

だって戦車にだって、乗らずに車上で仁王立ちしてたヤツだし。

落ちたらどうするんだとか、そーゆー細かいことは考えないタイプなのだ、ミルフィは。

セーラ,「上空からこの海域を眺められればいいのですが……」

アタル,「じゃあ、俺が艦載機で偵察に……って、俺が席を外すとこの艦が沈んじゃうし」

アサリ,「っていうかー、上から見ただけじゃそう簡単にわかんないと思いますよー? 人間なんて豆粒以下の大きさですし」

ひよこ,「うーん……?」

アタル,「ん? どうしたんだ、ヒヨ? 酔ったか?」

ひよこ,「え? ううん、違うよ? 酔い止めは飲んだから平気、じゃなくて!」

ひよこ,「あのね、何だかあっちの方にミルフィさんがいるような気がするの。こう、視界の端をかすめた感じっていうか」

アサリ,「ふむふむ。ひよこさんはずいぶんと目がよろしいのですねー。この距離じゃ豆粒以下を通り越して、砂粒レベルですのにー」

ひよこ,「あ、いえ、その、何となくそういう感じっていうだけで、実際に私の目で見えたわけじゃないんですけど」

アタル,「どうせ当てはないんだ。ヒヨの勘に頼って移動するのもいいだろ。どうせ敵の攻撃はこっちに当たらないし」

アタル,「ヒヨ、ナビゲートを頼む。俺の絶対に当たらない勘だと、100年経ってもミルフィに会えないからな」

ひよこ,「う、うん! 頑張るよ!」

俺がそう告げると、ヒヨは自信なさげに右斜め前を指差した。

俺たちはヒヨの曖昧な指示を頼りに、ミルフィを求めて再度前進を始めたのだった。

エリス,「姫様! 国枝アタルの乗る旗艦が、こちらに一直線に突き進んできます!」

ミルフィ,「くっ、どうしてあたしのいる位置がわかってるの!? 偶然? それともあたしの敗北が歴史の必然だとでも!?」

ミルフィ,「いえ……落ち着くのよ、ミルフィ。たとえ位置がわかっていたとしても、相手は手出し出来ないわ!」

ミルフィ,「何故ならば! アタルの艦載兵器じゃあたしたちを攻撃出来ないもの。あっちに攻撃は『当たらない』けど、あっちも攻撃は『当てられない』のよ!」

ミルフィ,「まさか艦を正面衝突させるほど愚かじゃない……って、その心配も要らないわね。絶対に当てられないんだから、衝突だって不可能!」

ミルフィ,「そうよ。慌てる必要なんてどこにもなかったわ。ふふ、ははっ、はーっはっはぁ!」

ヒヨの指示に従って最大船速で突き進むこと、しばし。

俺たちはようやくミルフィの姿をその視界に捉えることが出来たのだった。

あのおバカは何故か甲板上で胸を張って高笑いをしている。何を考えているんだが……。

アタル,「目標、前方の敵艦……じゃないな。えーっと、ミルフィ艦! よく狙わなくていい。むしろ当たらなくてもいいやって感じで!」

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ひよこ,「アタルくんが当たれよ~って祈っちゃうと、外れちゃうかもしれないもんね」

アタル,「それに俺の目的は撃沈じゃない。今でも俺の目的は一応『話し合い』だ」

アタル,「倒すために撃ったり、殺すために撃つんじゃない。足止めするために撃つんだ!」

アタル,「だからまぁ、お気楽でテキトーな感じにに……撃てぇぇぇーっ!」

俺のその声に従って、ミルフィの艦に向かって攻撃が放たれる。

その瞬間、俺はふとこう思うのだった。

アタル,「……左舷、弾幕薄いよ! とかも言ってみたかったなぁ」

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ひよこ,「左舷も何も、弾幕自体1回も張らなかったもんねー」

アタル,「そもそも兵装を使うのもこれが初めてだからなぁ」

そんな暢気なことを呟いている間にも、俺の艦から放たれた砲弾はミルフィの艦に向かって飛んでいく!

ミルフィ,「撃ってきたわね? ふふん、無駄なことを!」

エリス,「……あのー、姫様? ふと思ったのですが?」

ミルフィ,「何かしら、エリ? 遠慮なく言っちゃいなさい」

エリス,「あの艦に、我が艦隊の攻撃は命中しません。ですが、あちらの攻撃はこちらに当たるのでは?」

ミルフィ,「はぁ? 何でよ?」

エリス,「あの艦には国枝アタルが乗艦しております。よって攻撃は当たりませんが……あの艦の砲撃は国枝アタル本人によって撃たれるわけではありません」

エリス,「そう……弾を込め、狙い、撃つ。この工程に、国枝アタル本人は一切関与していないのです」

ミルフィ,「えーっと……つ、つまり?」

エリス,「あの艦の攻撃がこちらに当たるかどうかは、艦の人員次第。そして常識的に考えて、普通の兵にとってここは……すでに有効射程内」

ミルフィ,「……こっちが攻撃を当てられる確率はゼロだけど、あっちは通常通りってことね? 普通に撃って、普通に当たると?」

エリス,「はい。あくまで仮説の域を出ませんが……」

ミルフィ,「それって、無茶苦茶まずくないかしら?」

エリス,「かなりまずいかと」

ミルフィ,「………………」

エリス,「…………」

ミルフィ,「こ、後退! 機関最大で後た―――あっ! しまった! あたしの辞書に後退なんて載ってないんだった! 訂正、訂正!」

エリス,「姫様、今はそんなことにこだわっている場合では!」

ミルフィ,「追い詰められた時にこそ人の本性が出るって言うでしょ! 今こだわらなかったら、いつこだわるのよ!」

エリス,「一理あるかも知れませんが、しかし――――――あっ」

ミルフィ,「え?」

エリス,「失礼!」

ミルフィ,「ひゃぁぁっ!?」

エリス,「ちぃっ、直撃か!?」

アタル,「…………何か、大破してるように見えるのは、俺の気のせいなんだろうか?」

アサリ,「いえいえー、どー見ても沈み始めてますねー。ちょーっと当たり所が悪かったようですー」

アサリ,「アタルさんが望んだ『艦を軽微の損傷でイイ感じに足止め出来そうな箇所』には『当たらなかった』ってことでしょーかー?」

セーラ,「み、ミルフィさんは大丈夫なのでしょうか?」

セーラさんがそう呟いた瞬間、ミルフィの声が大海原に響き渡った。

艦の乗員に指示を行き渡らせるため、最大ボリュームで怒鳴っているようだ。

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ミルフィ,「ちぃぃ、悔しいけど、総員退艦! 沈む前に退避するわよ! くぅぅ、あ、アタルなんかにぃぃっ!」

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エリス,「―――姫様! ここは危険です! 早急に退避を! くっ―――」

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ミルフィ,「まだよ! 最後にこれだけは、言っておかなきゃなんないでしょ?」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「全イスリア艦艇に告ぐ。傾聴せよ……!」

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ミルフィ,「あたしの艦の撃沈を持って、この戦闘の敗北を……認めるわ」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「か、海上に投げ出された兵に鞭打つことなく、じ、人道的な救助を、期待……します」

後半は俺に向けての発言だったのだろう。その声には悔しさがにじみ出ていた。

大きな音を立て、黒煙をもうもうと上げ、ミルフィの艦が海に沈んでいく。

映画などでしか見たことのない光景が、俺のすぐ目の前で起きていた。

ひよこ,「あ、アタルくん、早くミルフィさんを助けに行ってあげないと!」

アタル,「そ、そうだった!」

あまりに現実離れしたスペクタクルな光景に、ぽかんとしてしまった俺だった。

アサリ,「サメに食べられて死んじゃうことが多いんですよねー、こーゆー時はー」

アタル,「しゃ、洒落になんないことを言わないでください、アサリさん!」

アタル,「えーと、戦闘終了を全軍に伝えて、俺も早くミルフィたちの救助に……」

セーラ,「落ち着いてください、アタル様。この艦で接近しては海上に浮かぶイスリア兵の皆様が大変なことになります」

アタル,「……っと、そうか。えーと、艦はここで待機させて、救助は小型艇でやんなきゃいけないんですね」

ひよこ,「一応、浮き輪も膨らませた方がいいかなぁ?」

アタル,「いや、それは要らないと思うぞ? 多分……」

わたわたと大慌てで、俺は救助の指示を飛ばすのだった。

ミルフィ,「ひっぷちん! はぅっ……」

エリス,「あぁ、なんとお労しい御姿なのでしょうか? でも、濡れ鼠な姫様というのも、これはこれで……」

その後、何とか俺たちはミルフィをボートに引き上げることに成功した。

海水温は低かったらしく、ミルフィの体はカタカタと震えていた。

これ幸いとそんなミルフィに密着して悦に入るエリスさん。

こっちはミルフィと違って、まだまだ余裕がありそうだった。恐ろしいタフさだ。

ちなみに余談だが、ヒヨの浮き輪は1人の尊い命を救ったと言っておこう。具体的には、アサリさんの。

いや、ボートが揺れて落ちたんだよね、アサリさん。泳げないとは意外な弱点だった。

―――閑話休題。

とにもかくにもミルフィを無事に確保出来たことで、この壮大な騒ぎもようやく収束に向かうのだった。

#textbox Kmi0240,name
ミルフィ,「はぁ~、負けね。うん、完敗よ。まさかアタルがこんなに厄介な相手だとは思わなかったわ」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「ボスが全戦闘で閃きっぱなしって……明らかに攻略させる気がないステージじゃない。ゲームならディスクを割ってるところよ」

常時回避率100%……うん、大したチート性能だな。

俺がシミュレーションゲームのキャラクターじゃなくて良かったと思おう。あやうくクソゲー呼ばわりされるとこだった。

#textbox Kmi0280,name
ミルフィ,「……で? アタルはあたしをどうするの? あたしがここにいる以上、イスリア艦隊も手出しは出来ないわ」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「このままシチュー弾き語りでもする? それがアタルの国における、罪人に対する様式美なんでしょ?」

アタル,「……いや、市中引き回しって言いたかったんだと思うけどさ……別に俺はミルフィをどうこうするつもりはない。ただ、話を聞いて欲しいんだ」

アタル,「……その、すまなかった。俺のせいで、ミルフィを傷つけて」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「はぁ? 何でアタルがあたしに謝るのよ? 勝者が敗者に頭を下げるとか、前代未聞よ?」

アタル,「もともとこんな大事になったのは、俺のせいだからな。俺があの日、きちんとミルフィに自分の選択を告げていれば、それで済んだんだ」

アタル,「間に柴田さんを挟んだから、ここまで事態がこじれてしまった」

アタル,「まぁ、正直に言って、俺も柴田さんがミルフィに変なことを言うなんて……完全に予想外だったんだけど」

アタル,「とにかく……ミルフィ。俺にとって最愛の人は、ヒヨなんだ。俺はこれから、ヒヨと一緒に生きていく」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「改めて言われなくても、知ってるわよ。あれだけの大声で思いの丈をぶちまけられれば、ね」

アタル,「ミルフィとは結婚出来ないし、家族にもなれない。でも、ミルフィと一緒に過ごした時間は、あの楽しい日々は、俺とヒヨにとって大切なものなんだ」

アタル,「だから、これからもどうか……友達として仲良くやっていって欲しい。ダメ、かな?」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「……はぁ。本当にたったそれだけのことだったわけ? それが柴田の伝言1つですれ違って、ここに至ったと?」

#textbox Kmi0240,name
ミルフィ,「むぅ……改めて考えると、我ながらとんでもない事態ね。ここまで大事にする必要なんて、ゼロじゃない」

ミルフィはそっと肩をすくめて、嘆息する。そして数拍の間、その瞳を閉じた。

やがて、目蓋を持ち上げたミルフィは、俺の瞳を見据えながらにこう言った。

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「いいわ。アタルとぴよぴよの2人じゃ、こっちも色々と心配だしね。友達として見守ってあげる」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「ただし、タダじゃないわよ? そっちが困ってる時には手を貸してあげる。でも、そっちも出すべきモノを出しなさい」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「ギブアンドテイク。どちらかに寄りかかるだけの関係は、友情とは言わないわ」

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「まぁ、もちろん時に身体を張って無理をするのも、友情だとは思うけどね」

アタル,「わかってる。技術提供も、喜んでさせてもらうよ」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「うん。よろしい。それ相応の見返りがなくちゃ、健全とは言えないもんね? それに…………」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「アタルにとって無償で寄りかかれる相手、構えることなく甘えられる相手は……あたしじゃなくて、隣のぴよぴよだろうし」

ミルフィは俺のすぐ傍に立つヒヨをちらりと見やる。

それから、その細い手を俺に向けて差し出してきた。

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「今後ともよろしくね、アタル」

アタル,「あぁ、こちらこそ。よろしくな、ミルフィ」

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「ぷふぅっ、ふふっ、あははは! 何かアレね? 決闘して仲良く友情を再確認だなんて、好敵手と書いて親友と読む、みたいな? ふふっ」

アタル,「夕陽に照らされた川原じゃなくて、太陽がさんさんと照りつける大海原だけどな」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「王様と王女様よ? このくらいのスケールで、むしろ似合ってるのよ」

アタル,「そんなもんかなぁ?」

俺がミルフィに曖昧な返答をした、その時だった。

一際大きな破裂音とともに、ミルフィの乗っていた艦が沈降して行く。

やがてその船首すらも、青く広い海の中に消えて行ったのだった。

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「あたしとアタル。2人でこれだけの艦隊を並べておいて、実質的な被害がバトルシップ1隻のみ。奇跡的な数字ね」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「にしても、どうしてあたしの位置がわかったの? ミノ粉で索敵網はほぼダウンしてたはずなのに」

アタル,「ヒヨの勘が当たったんだよ。ミルフィはこっちの方にいるんじゃないかーってさ」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「へぇ、そうなんだ。すごいじゃない、ぴよぴよ」

ひよこ,「えへへ~、私にもよくわかんないんだけど、何となくそうじゃないかなーって思って」

ミルフィ,「アタルの最愛の人は、アタルの幸運の女神様だった、と。何だか妬けちゃうくらいにイイ話ね」

アタル,「艦隊の弾幕すら当たらないのに、ヒヨのチョップは俺に当たるからな。やっぱ愛の力、とか?」

ミルフィ,「言うようになったわね、アタルも。はいはい、ごちそーさま……だっけ? こんな場合は」

言い終えると同時に、ミルフィが笑う。それに釣られ、俺もつい噴出してしまう。

ヒヨもセーラさんも微笑ましげで、当然エリスさんもミルフィを見てご満悦で……。

艦隊戦の直後だというのに、俺たちはものすごく和やかなムードに浸るのだった。

#textbox Kas0160,name
アサリ,「わ、笑ってないで、早く帰りませんかー? う、海は苦手なんですよねー。はぁ~」

にこやかな俺たちのすぐ脇で、アサリさんだけが深いため息を吐いているのだった。

カーテンが開かれ、窓からは煌めく朝陽が注ぎ込まれていた。

俺はその眩しさを避けようと、布団に包まってきつく目蓋を閉じる。

もう少しだけ、寝ていたい。今日は休日なんだ。少しくらい寝坊したっていいだろ?

それに……昨日はここからはるか彼方の大海原で旗艦を率いていたんだ。

1発の被弾もなかったとは言え、精神的にかなりきつい一日だったんだ。

のほほんとまどろみを楽しんで、何が悪いって言う話だよな、うん。

アタル,「……とゆーワケで、俺はまだ起きないから」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「もう。いつもより十分に寝てるでしょ? そろそろ起きないと生活リズムが乱れちゃうよ?」

ヒヨが布団をぐいぐい引っ張りながらに、そう言う。

確かに、ここ数日は早起きをして歩いて登校していたからな。

それを考えれば、今日はもう十二分に寝坊を楽しんだと言える。だが!

アタル,「俺は……今日は昼過ぎぐらいまで、ダラダラしたいんだよぉ……」

アタル,「俺は絶対、ベッドから出ないからな。起こせるもんなら、起こしてみろぉ……はふ~」

#textbox Khi0380,name
ひよこ,「むむむっ。そんなこと言うんだ。わかったよ。じゃあ、何としても私が起こしてあげるね」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「んふふ~、いたずらしちゃうんだから。アタルくんは、いつまで起きないでいられるかなぁ?」

ヒヨはクスクスと笑い、俺の布団の中に潜りこんで来る。

強引に力で布団をはぐんじゃなくて、くすぐったりするつもりだろうか?

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「うりゃうりゃうりゃ~」

アタル,「くっ!? 予想通りかよ! くはっ、ちょ、ひ、ヒヨ、やめ!」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「どう? 起きる気になった? 起きないのなら、もっともーっとこちょこちょしちゃ……う?」

#textbox Khi0340,name
ひよこ,「あ、あれ? これって……はわぁ~」

アタル,「うん? どうした、ヒヨ?」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「あ、え、えと、指先に、何だか硬い物体が。あ、アタルくん、私にこちょこちょされて、コーフンしちゃったの?」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「もう。こんなことで、こんな風になっちゃうなんて……アタルくんってば、えっちぃ」

アタル,「はっ!? あ、いや、それは男性の朝の生理現象だ! 確か、レム睡眠時の神経刺激がどうとかこうとかで起こる現象で!」

アタル,「べ、別にコーフンしたり、俺がえっちぃから勃ったわけじゃないぞ? 自動なんだよ、うん」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「そうなの? 男の人の身体って、不思議なんだね。勝手にこんな風になっちゃうんだ」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「んー……アタルくんは自動って言うけど、でも……いつもと同じように硬いよぉ」

ヒヨの手が、俺のモノに絡みついてくる。

布団の下でごそごそと動かれているせいか、どんな風に触れられているのかが俺には見えない。

それが不意の刺激を、余計に強いものにしてくる。

アタル,「ひ、ヒヨ。あんまり弄り回さないでくれ。きっかけは生理現象でも、マジでコーフンしてくるから」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「……んふふ、うりゃ。くにくにくに~」

アタル,「ちょ、ひ、ヒヨ!?」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「すっごく硬くなって、辛そうだから……私がこのまま、アタルくんのこと静めてあげるね? んっ……」

そう言うと、ヒヨは布団の中で器用に体勢を変えて、俺のズボンを脱がしにかかったのだった。

ひよこ,「はーい、脱ぎ脱ぎしてくださいねー♪……んしょ、はむっ。んっ、んぅ~、んむぅ」

ズボンを引き下げ、さらにはトランクスまでずらし、ヒヨは俺のモノを露出させる。

そして、勢いよく、ぱくりと俺のモノをくわえ込んだ。

アタル,「あっ、ちょっ、ひ、ヒヨ? あっ……くぅ」

ヒヨの温かな舌が、俺の亀頭にまとわりついて来る。思わず俺の口からは、意味もない音が漏れてしまう。

ヒヨは小さくうめく俺をちらりと見て、満足そうな微笑を浮かべると、ちろちろと舌の動きを加速させていく。

ひよこ,「んふふ~。んっ、んんっ、んんっ! んぷぅ、ふぅ、れろ……ふぅ、んんっ、れろ、んっ、んちゅ、ちゅる……んっ、んんぅ、はぁ、んっ」

溶け始めたアイスクリームを舐めすくうかのように、ヒヨは世話しなく口を動かし続ける。

ヒヨの口元に視線は釘付け、ヒヨの唇と舌で腰砕け。俺に出来ることは、ただ呼吸を荒げることだけだ。

にゅるりと舌が離れたかと思うと、ヒヨの熱い吐息が俺のモノにかかる。

そのもどかしい刺激も、なかなかに心地よかった。俺はもう、ヒヨにされるがままだ。

ひよこ,「んふぅ、んっ、ちゅる、んっ、ちょっろ強めに、ちゅってあげゆね? ちゅぅぅ~~、れろ、んっ、んはぁ、はぁはぁ」

ひよこ,「んぷっ、んぅぅ~~~、んぱぁ、はぁ、んっ……ろう、あらううん? ひもひいーい? ん、こんらろろか、ろう? れろ、んふぅ」

アタル,「ひ、ヒヨ、ちょ……うあっ」

咥えたまま、正しく舌足らずな声でヒヨはそう問いかけてくる。

何とも言えない振動が、俺のモノを、そして俺自身を震わせる。

ふとヒヨの方を見やると、上目遣いなヒヨを視線がぶつかる。

……朝、メイド、上目遣い、一生懸命なご奉仕……。

心弾む視覚情報とともに、色んなキーワードが俺の脳内を駆け巡っていく。

俺のモノの硬度が、さらに増したような気がした。

ひよこ,「ぷは……んふふ~。気持ち、いいんだね? 今、ぴくぴくって、お口の中でおちんちんが跳ねたもん……ふふっ、このままもっともっと……気持ちよく、してあげるぅ」

ひよこ,「んっ、んっ、んぅ! ぷはぁ、ふぅ……ご主人様が気持ちよく起きられるように頑張るのも、メイドさんの大切なお仕事だもんね」

ひよこ,「大きっく、硬ぁ~くなってる、アタルくんのおちんちん……私がちゃんと……んふぅ、はぁ、鎮めてあげるからね。んちゅ」

俺をより興奮させるためか、ヒヨはここぞとばかりに甘い声を漏らす。

それはどこかわざとらしくさえあった。多分、ヒヨも内心では今の台詞に照れているんだろう。だから、どこか不自然さが残るのだ。
……だが、それが良かった。恥ずかしがりながらも、えっちな言葉を発するヒヨ。うん、すごくかわいい……。
―――と、そんなことを考えていた俺の身体を、再び大きな快感の波が襲う。

舌を激しく動かすのと同時に、ヒヨは両手で、その細い指で、俺のモノの茎やその周りを優しく撫でる。

アタル,「っ、ふぅっ……!」

抗うことの出来ない快感。俺も抑えようと思うのだが、どうしても情けない声が漏れてしまう。

ひよこ,「ふふっ、アタルくん、可愛い~。ほっぺ、赤くなって来てるよ? 気持ちいいんだね……んっ、んくぅ、っぷぅ、はぁはぁ……んっ」

アタル,「おうっ、くぅっ……」

ひよこ,「私、ちゃんとアタルくんのこと、気持ちよく……できてる? ふぅ、んっ……はぁ、もっと、頑張っちゃうよー。ちゅぅ~、れろ」

俺が小さく声を漏らすたびに、ヒヨは嬉しそうに少しだけ目を細める。

ひよこ,「もっと、ぺろぺろした方が気持ちいい?それとも、ちゅ~ってする方がいい?アタルくんは、どっちが好きなのかな?」

アタル,「ど、どっちとか言う以前に……ヒヨにやられっ放しなことが、気にかかるんだけど」

俺も男だ。どうせなら、攻められるよりも攻めたい。愛されるよりも愛したい。

自分が快感に喘ぎ続けるよりも、ヒヨを喘がせ続けたいと思う。

このまま攻めに転じることなく、出すモノを出してしまうというのは、王として、男として沽券に関わるというか。

ひよこ,「う~~~、アタルくん、私にぺろぺろされるの、嫌? 私じゃ……最後までちゃんと気持ちよくできないかなぁ?もう、ここで止めちゃった方がいいのかなぁ……?」

俺のモノを離し、ヒヨはどこか悲しげに俺を見上げてくる。

アタル,「い、いや、止めないでくれ。ここで止められたら、生殺しだよ」

ひよこ,「え~~? でも……何か気にかかってるんでしょ?」

ヒヨはじぃ~っと無垢な瞳で俺を見つめてくる。って、俺のモノをこんだけ舐めといて、無垢も何もない。

つまり、ヒヨは俺にこう言わせたいんだろう。

『気持ちいいから、最後まで続けて』って。

前は教室で、俺が一方的にヒヨを攻め続けちゃったしな。

ヒヨもたまには俺を攻め立ててみたいのかも知れない。

だが……俺にも男の沽券がある。

ここでそう易々と頷くわけには行かない。行かないのだが―――

アタル,「……たった今、気にかからなくなりましたので、続きをお願いします」

それはそれ、これはこれ。俺はヒヨに向かって至極真面目にお願いをした。

うん、たまになら、ヒヨになされるがままって言うのも、いいと思う。

『いつもベッドじゃ、ヒヨにやられっぱなしなんだ』なんてことになるのも、困るけどさ。

アタル,「ヒヨ、続きを頼む。お願いだから。な?」

ひよこ,「えへへ~、うん、ご主人様がそう言うのなら……んはぁ、ちゅっ、私は、んっ……アタルくんのメイドさんだから、はぁ、一生懸命、頑張る、んっ、んんぅ~~、はぷぅ」

ひよこ,「も、もっと奥まで、入っちゃうかにゃ……んくぅ……んぷっ、んちゅ、んっ、んっ、んぁ!」

ヒヨは目を閉じて、ゆっくりと俺のモノを口内の奥の奥、喉にまで差し込んでいく。

ぬるぬるとした舌が、柔らかなほっぺの内側が、唾液が、俺のペニスを余すところなく包み込んでいく。

ひよこ,「んぐっ、んっ、んぅぅ~~~、んっ、んぷぅ。んふぅ、ふぅふぅ、んっ、じゅる……ぷっ、んぷぅ、んっ」

やがて、俺のモノの先端がヒヨの喉の奥にこつんと当たる。

さすがに苦しいのか、ヒヨは少しだけ眉を寄せた。

だが……ヒヨが苦しがっている分だけ、俺には快感が与えられる。

膣内に負けないくらいに熱く、そしてきゅぅっと締まっているヒヨの口内。

気を抜けば、今にも出してしまいそうだ。

ひよこ,「―――んぷはぁ、はぁ、んっ! ちゅる、ちゅるぅ、んぅっ!」

息苦しかったのだろう、ヒヨは俺のモノを吐き出して、大きく息を吸う。

しかし、すぐにまた俺のモノを口に含み、舐めあげてくれる。

アタル,「……ヒヨ、あんまり無理しないでいいんだよ?」

ヒヨは俺の言葉には答えずに、一心不乱に頭と舌を動かす。

目を閉じ、ただただ口を動かし続けるヒヨ。

ヒヨは今、何を考えているんだろう?

奉仕され続けるだけだからか、ふとそんなことが気になってしまう。

さっきから俺のモノを奥深くにまで入れてるけど、フェラって初めてだよな? 大丈夫なのかな?嫌悪感とかはないのかな?
頑張ってくれるのは嬉しいけど、あまり無理はしないで欲しいんだけどな。いや、献身的なご奉仕の甲斐あって、すげぇ気持ちいいんだけど。

アタル,「なぁ、ヒヨ――」

ひよこ,「ちゅる、んっ、じゅぷ、じゅっじゅっ、んぷぅ、じゅるぅ~~~、ちゅ、ちゅちゅっ!」

アタル,「―――くぁっ!?」

ヒヨの口の動きが少し遅くなったと思った次の瞬間、思い出したかのように激しくなる。

一瞬気を抜いていたせいで、余計に快感が強く感じられた。今のが意図したフェイントならば、すごく効果的だ。

俺の身体の奥から、急速に射精感がせり上がって来る。

アタル,「ヒ、ヒヨ、ちょいペースを落としてくれ。こ、このままじゃ、もう!」

ひよこ,「んぷっ、ひ、ひぃよ? らしてひぃよ? んっ、んむむむ、わらひのなかに、らひれ? ぉくひの、なかに」

アタル,「く、咥えたまま喋られると、ッぐぅっ!?」

ひよこ,「んちゅ、ふぅ、んっ! ちゅぅぅっ、ちゅ!んちゅ! れろ、んふぅ!」

アタル,「ぁ、ッくぁ! ヒヨ、もう、出ッ、くぅ……!」

耐え切れなくなった俺は、モノをヒヨの口から引き抜くことなく射精に至った。

いや、むしろヒヨの吸い込みに合わせて、腰を浮かせ、ヒヨの喉の奥を突いてしまった。

ひよこ,「んくぅぅぅ~~~っ! んぷぅ! ちゅぅぅ~~っ!」

ヒヨの口の一番奥で、俺は熱い精液をぶちまける。

ひよこ,「んぶぅっ!? んっ、んはぁ、はぁはぁ、はふぅ、はぁ、あ、あぁ……んっく、ん、んうぅぅぅぅっ!?」

突如、口の中に湧いた熱い精液。

俺の射精が近いとわかっていても、やはり噴出には驚かされたのだろう。瞳を見開きながら、ヒヨは口内で俺の精液を受け止めてくれた。

ひよこ,「んちゅ、ふぅ、あうぅ、く、口の中、アタルくんので、たぷたぷだよぉ。はぁっ、たくさん、らしたね? あは、そんなに気持ちよかった? んぷっ、ちゅっ……」

ひよこ,「いっぱいいっぱい、出たから……お掃除、しないと……ん、れろ……はむっ、んく」

自身の顔にも降りかかった精液。口元を汚し、俺のモノにもへばり付いている精液。

ヒヨは多くの白濁液を、その赤く柔らかな舌で丁寧に舐め取っていく。

ひよこ,「んうぅ? んっ、たくさん出して、お掃除までしてるのに……アタルくんの、全然鎮まってくれないね?」

アタル,「ヒヨ……わかって言ってるだろ? お掃除なんてされたら、逆に大きくなるっつーの……」

射精直後の敏感な一時を舐め立てられたことで、俺のモノは一向に萎える気配がない。

むしろ2回戦目の準備を終え、臨戦態勢を取っていると言っていいだろう。

ひよこ,「えへへ~。じゃあ……お口でダメなら、もう……最後の手段しかないよね?」

ニコニコと、実に嬉しそうにそう言うヒヨなのだった。

アタル,「一応聞いておくけど、最後の手段って言うのは、やっぱり……」

ひよこ,「ふふっ、アタルくんはそのまま横になってて? このまま、私が最後までしてあげる。私は、寝ぼすけなご主人様を起こす、頑張り屋さんなメイドだからねっ♪」

ヒヨは俺のペニスへと刺激を絶え間なく送りつつ、優しく微笑むのだった。

メイド服を着崩して、ヒヨは形のいいおっぱいをぽろりと晒す。

そしてそのおっぱいを見せ付けるかのようにゆっくりと俺に迫り――

ひよこ,「んしょ~っ。えへへ~」

――俺の腰の上へと跨ってきた。

ヒヨが身じろぎする度にぷるぷると揺れるおっぱい。絶景かな。絶景かな。

今すぐ腹筋に力を入れて身を起こし、ヒヨを押し倒したい。

そして、ガバッと覆いかぶさって、激しくヒヨの膣内を突き回したい。

もちろん両手はヒヨのおっぱいに添えて、心の赴くまま、がむしゃらに揉んで……。

と、思うのだが……この体勢ではそう簡単に起き上がれそうにない。いわゆる、マウントポジション。ヒヨがその気なら、俺ボッコボコ。

アタル,「えーっと……俺はやっぱりこのままなの?」

ひよこ,「うん。さっきから言ってるでしょ? 全部、私がしてあげるから……んっ、アタルくんは、そのまま楽にしてて」

俺を起き上がらせないようにと、ヒヨは巧みに体重をかけてくる。

どうやら本気で、最初から最後まで主導権を握り続けるつもりのようだ。

ヒヨは肩目を閉じ、俺に向けて可愛らしいウィンクを投げつけてくれた。

ひよこ,「アタルくんの、一度出したばっかりなのに……すっごくカチカチ。これなら、入れやすいね。んっ、はぁ……」

アタル,「ヒヨも……結構濡れてるみたいだな。口でしてただけなのに、興奮しちゃったのか?」

ヒヨの秘密の穴はかなり潤っていた。俺のモノの先端が触れると、くちゅっといやらしい音が鳴る。

ヒヨの唾液と新たに溢れた先走りに塗れた俺のペニスに、ヒヨの熱い蜜が、つぅっと漏れ伝ってくる。

アタル,「……頑張り屋さんなメイドより、今のヒヨはエロスなメイドさんじゃないかなぁ……?」

ひよこ,「むぅ……もしそうだとしたら、それはアタルくんのせいなんだよ? ご主人様が、そーゆー風にメイドさんをちょーきょーしちゃったから……」

ちょーきょーの意味をわかって言ってるんだろうか?というか、どこからそーゆー知識を得てるんだろうか?

まさか、マジで俺の影響なのか?いや、でも……うーん?

各種のエロスアイテムはヒヨの眼に届かない場所にしまい込んでいたつもりなんだけど……。

ひよこ,「えへへ~、アタルくん……えっちなメイドさんって、好きでしょ?」

……メイドだらけのエロ本を見られたんだろうか?

……素直に好きだと認めるのも何となく悔しいので、俺は少しクサい台詞を吐いて誤魔化すことにした。

アタル,「えっちなメイドさんが好きなんじゃなくて、俺はえっちなヒヨが好きだな。ヒヨ、かわいい……」

ひよこ,「んふふっ♪ 私もアタルくんのこと、大好きだよ?」

口説き文句の効果は抜群らしかった。

ヒヨは嬉しそうに微笑むと、ゆっくりと腰を屈めていく。

ひよこ,「んはぁ、ふぅ、それじゃ……入れるね……ふぁっ……んっ、んんぅ~~、あっ、はっ、はいって、入って、くるよぉ。アタルくんの、お、おちんちんがぁ、あぁ……」

互いの性器が触れ合っている状況で、腰を沈めていけば、当然、2人の距離はゼロになる。

股間から、快感が背筋を駆け上っていく。俺のモノは、ゆっくりとヒヨの熱い膣内へと埋まっていく。

ひよこ,「お、押し広げ、られて……あぁ、んぅっ!はぁ、ふぅ、んっ……」

先ほどの微笑から一転、ヒヨはその瞳を閉じて挿入に耐えているようだった。

当然、興奮はしていたのだろう。しかし、それだけでは準備不足だったらしい。

やっぱり俺も、もっとヒヨのことを愛撫してあげるべきだったんだろう。

ペニスの埋まっているヒヨの性器の締め付けは、気持ちいいを通り越して、ちょっと痛いくらいだ。

アタル,「ヒ、ヒヨ? 無理はするなよ?」

ひよこ,「んぅ、平気、だよ? 私……無理なんか、して、ないもん。痛くなんてないもん。た、ただ、こ、こんな風に入れるのは、初めて、だから……んっ」

ひよこ,「はぁん、あっ、こ、これまで当たらなかった場所に、あっ、はぁっ、はぁっ、う……んっ……アタルくんのおちんちんが届いてる感じがするよぉ……」

ひよこ,「下から、か、身体の中を、押し上げられてるぅ。アタルくんのおちんちんが、はぁ、あぁ、あっ、んぅっ、は、入ったよ。私の中に、全部ぅ……」

ヒヨのその言葉通り、ようやく俺のモノが全てヒヨの膣内に収まった。

熱くて、柔らかくて、うにうにと蠢くヒヨの膣内。

何度挿れても変わらない、いや、挿れる度、より気持ちよくなるヒヨの中の与えてくれる快感は極上の一言だ。

一度出したばかりだと言うのに、早くも射精感がこみ上げてくる。

肉体的よりは、精神的な繋がりが強いのかも知れない。

かわいい俺だけのメイドに、愛する恋人の膣内に、子種を余すことなく放ちたい。

自分の熱さや匂いを、染み込ませたい。身体の芯から、ヒヨを自分の色に染め上げたい。

そんな、男らしい……いや、いっそオスらしいとも言える欲求だ。

ひよこ,「はぁ、んっ……す、少しだけ、このまま……じっとしていても、いい? し、刺激が強過ぎて、んぅ、はぁ、ちょ、ちょっと腰に力が入らない……の……あん……ッ!」

アタル,「ん、俺は全然構わないよ」

言葉とともに、俺はそっと息を吐く。

ちょっと休憩をもらえるのは、俺にもちょうどいい。少しでも長い時間、ヒヨの膣内を愉しみたい。

ヒヨを背筋をピンと伸ばし、しばしの間固まった。

その間も、ヒヨの膣内はきゅうきゅうと俺のモノを締め上げてくる。

その淡い快感は射精に至れない焦れったいものでもあり、同時にずっと射精せずに浸っていたいとも思える心地よさだった。

ひよこ,「んぅ、はぁ、す、すぐに……気持ちよく、してあげるから、ね? んはぁ、はぁはぁ、んっ、んっ、ふぅ、んっ、んんっ、はぁ、ふぁ……」

やがて、俺のモノの圧迫感にも慣れ始めたのか。ヒヨがゆっくりと腰を振り出した。

ひよこ,「はぁ、あっ、あぁ……だ、だんだん、なじんで、きた、かもぉ……ふぁん、はぁ! き、気持ち、いい。んっ、ひゃ、あっ、あぁっ! あぁん! んっ、はうぅ~~」

ヒヨの甲高い声が、俺の自室に響く。ヒヨの口からは嬌声だけでなく、とろみのあるよだれまでもが零れていた。

俺の上でメイド姿の彼女が淫らに腰を振る。すごく艶かしい光景だった。

ひよこ,「――んはぁ、あっ、ま、また、私の中で、あっ、アタルくんのが、おちんちんが、またぁ、おっ、大きくぅ! ひゃぁん!」

そう言うヒヨも、より一層俺のモノを締め付けてくる。

いや、俺のペニスがヒヨの中でより一層膨れたからこそ、そう思えるのかな?

まぁ、どっちでもいい。俺とヒヨは今、お互いを感じて、高まり続けている。それだけは、何よりも確かだ。
ひよこ,「んはぁ、はぁんっ! き、気持ち、いいよぉ? ア、アタルくんも、いい? 私、ちゃんとよく、できてる? んふぅ、ふぅ」

アタル,「……あ、ああっ……すごく……気持ちいい……ッ!」

ひよこ,「こ、こうすると、どう? 私の、一番奥に……アタルくんのが、あ、当たってるよ。くちゅって、すっごく、引っ付いて……あんっ!」

ひよこ,「アタルくんの、先端と……ふぁ、あっ、わ、私の、奥が……ひぅぅっ! こ、擦れて、はぁ、あぁん!」

ヒヨがわずかに腰を浮かし、そして一拍置いて、すとんと腰を落とす。

すると、さっきの言葉通りに、ヒヨの最奥――子宮口と俺の亀頭の尖端とがぶつかるのだ。

包まれていて、吸い上げられていて、食いつかれているかのようなこの感触は、他に喩えようもない。

ヒヨが短い嬌声とともに、再び腰を持ち上げる。俺のモノの先端に触れていたヒヨの子宮口が、離れていく。

アタル,「……くっ!」

あの素晴らしい感触を逃がしてなるものかと、かすかに浮いたヒヨの身体を、下から思いっきり突き上げる。

ひよこ,「―――はぁぁんっ!? あ、あひゃぁ、あっ! や、やぁぁ……あんっ、あぁん!」

突然俺に攻め込まれたヒヨは、そんな艶っぽい声とともに全身を弛緩させる。

すると当然、ヒヨの身体は重力に従い落ち、俺の身体に密着する。

ひよこ,「ひゃぅ、うっ、うぅぅっ! はぁ、あっ、当たってるぅ!あぁ、お、おちんちんがぁ、はぁん!」

俺のモノの先端とヒヨの膣内の最奥の子宮口が、『これでもか、これでもか』と愛し合うように擦れ合う。

ひよこ,「ふぁぁっ、あぁっ! ふ、深い、深いよぉ……あ、あうぅ、つ、突き刺さって、るぅ……はっ、はぁ、んぅ!」

さらに俺は腰を振り、ヒヨの身体を揺らす。ぽよんぽよんと、目の前で実にいい感じにおっぱいが踊る。

さっきはお口のご奉仕で攻め続けられたからな。これはちょっとした仕返しだ。

まぁ……仕返しと言っても、俺も気持ちよくて、ヒヨも気持ちいいんだ。何の問題もないよな、うん。

ひよこ,「ひゃぅぅっ!? あ、あんっ! ダメだよぉ!わ、私が、全部してあげるって、んっ!あ、い、言った、でしょ?」

ひよこ,「あ、アタルくんは、動いちゃ、ダメぇ……あっ、ひゃぁ! お、奥、た、叩かれてる……んうぅっ! はぁ!」

アタル,「ダメって言われても、気持ちよ過ぎて……つい腰が、勝手に動いちゃうんだよ……」

そんな言い訳を口にしながらに、俺は己が分身をヒヨの膣壁に擦り付ける。

ひよこ,「ひゃぅっ! あんっ! ま、また、来てるぅ!あふぅ、お、奥に、ひゃんっ! あんっ! あぁっ!」

アタル,「ごめん、つい、腰が……止まんなくて……ッ!」

ひよこ,「はぁはぁ、それ、ならっ、し、仕方ないけどぉ。あ、アタルくんは、絶対、自分から動いちゃ、ダメだよぉっ」

ひよこ,「きょ、今日は私が、アタルくんを攻めて……じゃ、じゃなくて! んんっ、アタルくんに、ご、ご奉仕するんだもん」

アタル,「うん、わかってる。出来るだけ、動かないようにしとくって」

ひよこ,「そっ、そうして、ね? んっ、はぁ、はぁはぁ、私が、ちゃんとする、から」

途切れ途切れにそう言うヒヨの膣内を、俺は再び突き上げる。

ひよこ,「―――ひゃうぅん!? あっ、そ、そこ、そこはぁ、だめぇ! あっ、はぁ、あ、あうぅぅ~~~」

アタル,「ごめんごめん。またつい、な?」

ひよこ,「い、今のは、絶対にわざとだよぉ! あっ、ひゃぁっ!ひゃうぅ! こ、腰を、う、動かされたら……わ、私、う、動けな……あっ、い、いいっ、ふぅん……ッ!」

ヒヨは大きく声を上げ、ぷるぷると全身を震わせた。軽くイッちゃったのかな?

快感に酔ってぼぅっとした今のヒヨの顔は――ひどく、そそる。

また俺の中に雄の欲望と射精感がこみ上げてくる。

もうそろそろ我慢もできない。ここからは本気で腰を使って……最後はヒヨの中で思いっきりぶちまけたい。

そんな風に俺は考えて、改めてヒヨの顔を見つめ直した。

――すると、ヒヨと眼が合った。

ひよこ,「はぅうぅ~、うぅっ、わ、私も、本気、出すもん。アタルくんのこと、き、気持ちよく……んぁっ!はっ、はぁ! するもん!」

快感でうつろだったヒヨの眼に、しっかりとした光が灯る。ただし、その光は淫蕩な色に染まっていた。

そしてヒヨはぺたんと俺の上に腰を下ろし、身体を前後に揺すり始める。

この体勢だとヒヨに思いっきり体重をかけられていて、腰を思い通りに動かせない。

完全に、ヒヨは俺の上に女の子座りで腰をおろしている。

下手に腰を上げ下げすると、俺に突き上げられるから、それを避けたいんだろう。

アタル,「むぅ、これじゃ動けない……」

ひよこ,「ふふっ、こうすれば、アタルくんも動けないでしょ? も、もう、ここからは、私が……んぅ、はぁ、んはぁ、あっ!」

ひよこ,「気持ちよくしてもらってばかりじゃ、ないもん。私だって、ア、アタルくんのこと、気持ち、よく、できるんだもん、う、んはぁ……」

アタル,「―――くぅっ!」

ヒヨの甘い声と、モノに密着してくる膣壁によって、俺は限界の一歩手前にまで押しやられた。

ひよこ,「おちんちんが、私の中で、ぴくぴくって、動いてる……ん、ふ、膨らんで、きてる? もう出そうなの? はぁはぁ、んっ、アタルくんも、もう、もうイッちゃうの?」

アタル,「……そ、そうみたい……」

もう何度も何度も、身体の奥から熱い射精感がこみ上げてきていた。

今までその刺激をギリギリで耐えられていたのは、ヒヨの口に一度出していたからだ。

だが、そろそろまた限界に達しようとしている。それもこれもヒヨの膣内の感触が良すぎるのに加えて。

俺の腰の上で乱れるヒヨがかわいすぎるからだ。

むしろ、一度出していたとはいえ、よく保った方じゃないだろうか?

ひよこ,「な、なら、一緒に……一緒に、キて? んっ、私、さっきから、もう何回も、はぁんっ、ふぅ……すっごく、気持ちよくなっててっ、ね? だから、2人で一緒に――」

アタル,「あぁ、それじゃ、俺も動くからな?」

『つい』だとか『反射的に』だとか。そんな言い訳はかなぐり捨てて、俺は腰を揺すり出す。

お互いがより1つとなるために、俺は自分の分身をヒヨの膣壁に擦り付ける。

ひよこ,「はぁはぁ、あぁっ! は、激しっ……アタルくんが、私の中で、暴れてっ! っ、あふぅ! あぁ、いい、いいよぉ! 気持ち、いいのっ! はぁ、はぁんっ!」

アタル,「あぁ、激しく……するからな……ッ!」

溶けて混ざり合っていくかのような快感が、俺とヒヨを包み込んでいく。

体位のせいで激しく突き上げることはできない。だがもう、今の俺たちには、些細な揺れによる刺激だけでも十分なくらいだった。

穴が空き、ヒビの入った我慢のダムは、あとほんの少しの圧力が加わるだけで決壊する。

ひよこ,「んふぅ、はぁ、わ、私だって、ちゃんと、動くんだもん。アタルくんのこと、気持ち、よく……あぁ、はぁん!」

ヒヨもまたイキかけているのか、うっとりとした瞳で俺の顔を見ている。

その瞳には、果たして俺の姿が映っているかはともかく。必死に、ひたすらに、健気に身体を揺すり続けてくれた。

じっとしていてもヒヨの膣内は、俺のモノをきゅうきゅうと締め付けてくれる。

アタル,「……くうぅっ!」

ぞわっと、股座のポンプが、熱い白濁を送り出し始める。腹に、尻に、そして爪先に力を込め、迫りくる絶頂を迎え撃つ。

俺は我慢することを放棄して、ただただヒヨの膣内の熱さを味わう。

アタル,「も……もう、イク……ヒヨ、出る……ぞ……ッ?」

ひよこ,「出して、出していいよ! んっ、私の膣内で、そのまま、また、たくさん、出してぇ! あぁっ」

ひよこ,「んぅ、はぁ、あっ、アタルくんに、たくさん出してもらうの……私、大好き、だよ? だから、思いっきり……膣内に、ちょうだい? んっ!」

アタル,「あぁ、なら、遠慮なく出す……ッぅく……ッ!」

ひよこ,「――ひゃぁんっ!? あぁああぁああぁぁっ――!」

目の前がチカチカと瞬くほどの強烈な射精。

ひよこ,「あ、あぁぁぁっ! はぁっ、はぁ……あっ、で、出てるぅ……出てる、アタルくんの……せーえきぃ……! 出したばっかり、なのに……んぅぅ、すごい、勢いだよぉ」

ヒヨは身体をぴくぴくと痙攣させながら、俺の精液をその身体の奥へと、美味しそうに飲み込んでくれた。

隙間なくぴっちりと合わさっていたはずの、俺のペニスとヒヨの膣口。

しかし今、その結合部からはヒヨの膣内に収まりきらなかった俺の精液が、どろどろと溢れ出てきていた。

ヒヨの愛液と俺の精液の交じり合った熱いミックスジュースが、シーツの上に滴り落ちていくのが、見えなくてもわかった。

ひよこ,「私の膣内に、たくさん……アタルくんの、せーえき、広がってくよ……お口だけじゃなくて、お腹の中まで……はぁっ、アタルくんのでたぷたぷにされちゃったぁ……」

ヒヨは満足気に息を吐き、そしてニコニコと俺を見つめてくる。

ひよこ,「……一緒に、イッちゃったぁ……すごかったぁ……ね、アタルくん……私は、アタルくんを――ご主人様を満足させられたかなぁ……?」

アタル,「あぁ、もう……これ以上ないってくらい……ヒヨは本当に、すっごいメイドさんだなぁ……」

ひよこ,「えへへ~、よかったぁ。私もね?私も、すっごく気持ちよくて、大満足だったよ?」

ヒヨの温かな笑顔と、甘く甘える声。それが俺の心を、まるで後戯のように震わせる。

ヒヨの中に埋まっている俺のモノに力が入り、尿道にわずかに残っていた精液がぴゅっと噴き出す。

――とまぁ、俺は朝っぱらから、最後の一滴まで、かわいいメイドさんに搾り取られてしまったのだ。

ヒヨとのえっちぃ一時を終えた俺は、多少冷静になった頭でふとこんなことを思う。

なんて幸せな目覚めなんだろうってさ。

朝勃ちを治める方法の主流と言えば、まずは放置だろう。朝から射精なんて、まずしない。

そりゃまぁ、俺も男だ。目が覚めてすぐに可愛い女の子に奉仕されて、気持ちよく出しちゃいたいなぁ、なんて夢見たことはあった。

しかし、まさか俺がお願いせずとも、ヒヨから進んでご奉仕してくれるなんて……。

しかも口でのご奉仕だけじゃなく、そのまま騎乗位で本番まで……目は完全に覚めたが、いまだに夢見心地だよ。

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「はふぅぅ~。うー、何だか疲れちゃったね? でも……いい気分」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「心地いい疲労感って言うのが、気持ちよさと一緒にじんわりと身体に広がってる気がするよぉ」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「はふぅ。んにゅ……眠くなってきちゃった」

ヒヨは口元を手で押さえながら、熱っぽい吐息を漏らす。

このヒヨの口の中に俺のモノが入ってたんだよなぁ、なんて思ってしまうと……またちょっと興奮してくる。

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「このままアタルくんと一緒に、ちょっとおねむになりたい気分かも。そんなの、ダメなのに」

アタル,「俺を起こしに来たはずなのにな。まさにミイラ取りがミイラってヤツか?」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「そうかも。頭がぽわぁ~んってなって、うとうと~ってしちゃって……んぅ、はぁ……」

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「あっ…………」

アタル,「―――ん? ヒヨ?」

ヒヨが唐突に自身の頭に手を添える。戸惑いがちに、ただでさえ大きな瞳をより見開いて。

俺が首を傾げながらに声をかけても……困惑が大きいのか、ヒヨは返事をしなかった。

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「んっ、ふぅ、はぁ、はぁはぁ、な、何だろ、これ? 何だか、頭が―――」

アタル,「ヒヨ? おい、ヒヨ!? どうした? 大丈夫か!?」

#textbox Khi0340,name
ひよこ,「あ、頭が、ふわふわして……ひ、ひどい熱がある時みたいに……せ、世界が、揺れてる。あ、あうぅ」

ひよこ,「うぅぅ~~~、も、もしくは、乗り物酔い的な感じ、かも? はうぅ、結構、き、気持ち悪い、感じ……?」

ヒヨは頭から口元に手を添え直す。ヒヨの瞳は潤み、本気で吐き気に耐えているのがわかった。

アタル,「ちょっと待ってろよ、ヒヨ!」

俺はズボンをはき直し、ベッドから起き上がる。そして部屋の隅に置いてあるゴミ箱をヒヨの元へと運ぶ。

気持ちが悪いのなら、我慢せずに吐いてしまうのが一番だと思う。

でも、さすがにベッドの上でぶちまけさせるわけには行かないからな。

色んな物が汚れるから……と言うより、ヒヨ自身が精神的ダメージを受けそうだし。

吐く姿を俺に見られたくないだろうし、ヒヨの後ろに回って背中をさすることにする。

アタル,「ヒヨ? 医者を呼んだ方がいいか?」

右手で背中をさすり、左手でヒヨの額に触れる。うん、どうやら熱はなさそうだけど……。

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ひよこ,「う、ううん。そこまでは……あっ」

アタル,「ダムが決壊か? いいぞ、我慢するな。こーゆーのは無理に耐えるから辛いんだ」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「ううん、そうじゃなくて……何だろ?」

先ほどとはまた毛色の違う戸惑いの声。

ヒヨの顔を後ろから覗き込んでみると、そこには今つい先ほどの辛さはなかった。

ヒヨは、ただただきょとんとしていた。

いや、そんな顔をされても、こっちだってきょとんとするしかないんだけど……。

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「急にすぅ~って治まっちゃった。一瞬、すごく気持ち悪かったのに……どうしてだろ?」

アタル,「俺に聞かれてもなぁ。まっ、とりあえず、もう治まったんだな? 今は気持ち悪くないんだな?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「うん、全然平気。変なの」

アタル,「乗り物酔いって言ってたよな? つまり……俺のアレに跨ったことで酔ったと?」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「な、何だかその言い方は妙にいやらしいよ? そ、それにあのくらいで酔ったりなんて」

アタル,「いや、現にいやらし~くぐいぐい腰を動かしてたしな? 酔っても不思議じゃないと言えば、そうかも?」

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ひよこ,「い、いやらしくなんてないもん。どうせなら、セクシーだったって言ってよ。いやらしいって言われるのは、何かヤダよ」

アタル,「ははっ、そうか? それはそうと、アレだな? 朝からえっちなことをした罰が当たったって言うのは、あるのかも?」

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ひよこ,「うぅぅ、それだと私だけ気持ち悪くなるのは不公平だよぉ。アタルくんだって、すっごく気持ちよさそうにしてたのに」

アタル,「そこはほら、俺は『当たらない』人間だし? 天罰も外れちゃうんじゃないか? それに始めたのは俺じゃなくてヒヨだし?」

#textbox Khi0380,name
ひよこ,「むぅぅ~、確かに私から始めたけど……でも、やっぱりちょっと納得がいかないよ。アタルくんだけずるいよぉ」

アタル,「……まぁ、とにかく。もしまた気持ち悪くなったら、今度は医者に診てもらおうな?」

俺はそんな言葉とともに、ぷく~っとほっぺをふくらませるヒヨの頭を撫でる。

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「そこまでしなくてもいいと思うんだけど……」

アタル,「前に風邪は引き始めが肝心って言ったのはヒヨだろ? 用心に越したことはないって」

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ひよこ,「うん。えへへ、心配してくれてありがとね、アタルくん」

アタル,「そりゃま、ヒヨは俺の大事な大事な恋人だからな」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「はうぅぅ~~~……わ、私も、すっごく大切だよ? アタルくんのこと」

すぐに機嫌が直って、俺に擦り寄ってくるヒヨ。

まさに親鳥に甘えてくるひよこって感じで、こう言う時のヒヨはすごく可愛い。

俺はヒヨの髪を乱さない程度に力を入れ、その頭を撫で続ける。

うむ、今日のヒヨの髪の感触も最高だ。

女の子の髪って、何でここまで細くてさらさらしてるんだろうか?

アタル,「……ん? 急に気持ち悪くなる……はっ!? もしや、妊娠? つわりってヤツか?」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「ふふふっ、そんなに早く赤ちゃんは出来ないよ?」

アタル,「…………むぅ、冷静に考えてみれば、それもそうか」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「アタルくんは、早くパパになりたかったりするの?」

アタル,「んー、いや、どっちかと言えば……まだ当分はヒヨと2人きりでいちゃいちゃしていたいかな」

俺はそう答えて、ヒヨの唇をそっと啄ばむのだった。

朝の身支度を終えてヒヨとともにリビングへと向かう。

そこにはミルフィとセーラさんの姿があった。

さらに言えばエリスさんやアサリさんも2人のすぐ傍に控えている。

ミルフィたちは情報端末やら新聞やらを広げて話し込んでいた。

#textbox Kse0310,name
セーラ,「さすがにどのメディアも昨日の話題で持ちきりですわね」

アサリ,「大艦隊による一大海上決戦なんて、もう今の時代にはないことですからねー」

ミルフィ,「どうしてあのような戦闘に至ったのか? 隠された真の目論見とは……か。どこもお祭り騒ぎね」

エリス,「どのような経緯で戦闘に至ったかが公表されないために、憶測が憶測を呼んでいる状況ですね」

ミルフィ,「真正面から公表出来るはずがないじゃない。不届きな執事のせいですれ違って、結果こうなりましただなんて」

アサリ,「あははー。でもー、仮に真剣な表情でそれを公表しても、誰も信じはしないと思いますけどー」

ミルフィ,「まぁ、そうよね。むしろその発言で真意を隠そうとしてるって騒ぐに決まってるわ」

セーラ,「メディアの方々にとっては、実のところ『真相』より『面白さ』の方が重要なのかもしれません」

アタル,「皆、おはよう。やっぱ大騒ぎになってるみたいだな」

俺は皆に挨拶をし、そして広げられているいくつもの新聞に目を通してみた。

今の話にあった通り、どの報道機関でも憶測と推論が飛び交っているようだった。

単にアタル王が派手好きで、伴侶のお披露目を大々的に実施したかったと言う説。

アタル王が自国の海上戦力に活を入れるため、ミルフィ王女へと模擬戦を申し込んだと言う説。

アタル王の寵愛を受けられなかったミルフィ姫が、単に苛立ちをぶちまけただけであると言う説。

実は新兵器の性能評価試験であり、その兵器はニッポンとイスリアの合同開発兵装。王族は単に観覧していただけと言う説。

他にも、あれやこれや……。

ゴシップ紙には『実は地球外から侵攻した未確認飛行物体の迎撃を行っていた』と言う、おバカっぽい説まで掲載されていた。

ひよこ,「色んな考えが出てるけど、どれもそんなに深刻そうじゃないね。よかったぁ」

セーラ,「実質的な被害はミルフィさんの艦一隻で、人命も失われませんでしたしね」

ミルフィ,「でも、やっぱりぴよぴよの大告白が一番の要因ね。あんなこと言ってるんだから、本気で戦争してるはずがないって感じ?」

ミルフィ,「どこで聞き耳を立てていたのかは知らないけど、告白内容はほぼ全部漏れてるわね~? ふふっ」

エリス,「乗組員へのインタビューなどでも漏れているようですね。人の口に戸は立てられません」

アタル,「と言うか、戸を立てる気もなかったしなぁ」

そう。ヒヨのあの告白に関しては、俺もわざわざ緘口令なんて布いていなかった。よって、だだ漏れ状態だ。

ヒヨのあの大告白は素直に嬉しくもあったし、緘口令でこそこそ隠すのは何だか無粋かなーと思ったんだ。

セーラ,「ふふふ、人類史上最も大きな声で愛の告白をした女性ですね、ひよこさんは」

ミルフィ,「いまや、ぴよぴよの知名度はあたしやセーラをも上回るわね!」

ひよこ,「……うぅぅ、録音されて色んな国のニュースで流されるなんて、あの時は考えてなかったの……」

ミルフィが意地悪げな笑顔を浮かべ、ヒヨに絡む。そしてセーラさんが、そんな2人をニコニコと見守る。

アタル,「……やっぱり、ココはこうじゃなくちゃな」

イスリア艦隊は、あのまま最寄の港に寄港した。

そしてミルフィもエリスさんも、俺たちと一緒にココへと戻ってきた。

仲直りが出来たとは言え、やはり意地っ張りで頑固なところのあるミルフィだ。

艦隊とともに母国にとんぼ返りする可能性は、ゼロではなかったと思う。

でも、ミルフィは心に湧いたであろうその考えを捨てて、俺たちと一緒にココに戻ってきてくれたんだ。

きっと、ミルフィもまた皆と一緒にココで楽しく過ごしたいと……そう思ってくれたんだと思う。

アタル,「いつまでもずっと皆一緒ってワケにはいかないのは、わかってる。ミルフィもセーラさんも、お姫様で帰るべき国があるわけだし」

アタル,「でも、もう少し……あと少しくらい、皆で一緒に楽しくやっていきたいと、俺はそう思う」

ミルフィ,「そうね。せっかくアタルの学園に無理に入り込んだんだもん。卒業くらいは、きちっとしておくのもいいかもね」

ミルフィ,「学園には迷惑をかけることになるだろうけど、もう一回前のクラスにねじ込んでもらって……」

ひよこ,「ミルフィさんとセーラさんが戻って来てくれたら、クラスの皆もきっと喜ぶよ!」

ひよこ,「2人が来なくなって、皆すっごくがっかりしてたから。ファンクラブの人たちなんて、アタルくんに詰め寄ったりもしてたんだよ?」

セーラ,「短い期間ではありましたが、私たちは皆様から別離を悲しまれるまでになっていたのですね。それも社交辞令ではなく、心から」

セーラ,「ふふっ、嬉しいことですわ。やはりここで過ごす日々は、きっとこれからの私たちにとってかけがえのないものになるのでしょうね」

ミルフィ,「改めて、よろしくね。ぴよぴよ、セーラ、そしてアタル」

ひよこ,「うん、よろしくね、ミルフィさん、セーラさん!」

セーラ,「ふふ、よろしくお願いします。また同じクラスですね」

アタル,「ファンクラブのやつら、まだ大騒ぎするんだろうなぁ」

しかも艦隊戦なんてしてしまったから、より一層質問を投げつけられそうだ。

まぁ、今度登校する時は2人も一緒なんだから、俺1人に皆が集中することもないだろう。多分。

俺は来週の月曜日を思い、待ち焦がれるような、そうでもないような……ちょっと複雑な気分になるのだった。

…………

アサリ,「よーやく、元鞘ですねー。んー、これも青春でしょうかー?」

エリス,「自分は姫様が笑ってさえいてくれれば、それで構わん。あぁ、姫様……」

エリス,「ここ最近のアンニュイな表情もお美しかったが……やはり元気溢れる笑顔こそが、姫様の真髄……」

アサリ,「気を抜くのは早いですよー? これにて一件落着と、断言出来ちゃえばよかったんですけどー、でもでもー?」

アサリ,「まだ事の発端である柴田さんは行方知れずなのですよねー。はてさて、どこで何をしておられることやらー?」

エリス,「確かに油断は出来ないな。しかし、問題ない。彼奴が何を目論んでいようと、自分は姫様を全力でお守りするだけだ」

アサリ,「その意気で、ついでにセーラさんとかも守ってくださいねー」

エリス,「いや、自分の雇い主くらいは、自分でどうにかするべきだろう?」

アサリ,「まー、そーですねー。面倒ですけど、お給料分は働きますよー」

エリス,「自分は、自分の足さえ引っ張られなければ、それで構わない」

……

…………

休日の昼下がり。屋敷内は午後の穏やかな空気に包まれていた。

昼食を食べ終えたばかりで、なおかつ陽気もいい。うとうとーと、俺の頭に睡魔が降り立とうとしてくる。

しかしまぁ、食べてすぐ眠ると牛になるなんて言い伝えもあるので、俺は仕方なく書類に目を通していた。

その書類の内容は、柴田さんの捜索に関する報告だ。

割と真面目な話なので、寝惚け眼も醒めてくれる。

アタル,「……で、現状、手がかりなし。この時点で不自然なんだよな」

ニッポンの捜査機関は決して無能ではない。王様の勅命とあれば、なおさらだ。

逃げた猫ではなく、大人の男を探しているんだ。しかも、最後に目撃された場所は、この王宮内。

必ず痕跡は見つかるはず……なのだが、しかし見つからない。

アタル,「裏切り者がいるとか、捜査機関内に情報を誤魔化しているやつがいるとかか?」

その発想の出所は、俺がこれまでに楽しんできた映画やゲーム。つまりはフィクションだが……あながち間違いでもないだろう。

アタル,「うーん……でも、何で柴田さんが俺を裏切るんだ?」

アタル,「と言うか、俺たちをケンカさせることに、何の意味があるんだ?」

柴田さんはどこまで見越していたのだろうか? あの艦隊戦も想定通りだったんだろうか?

ミルフィの性格を知っていれば、戦闘になると言う可能性も考慮出来ただろうけど……そもそも、何故そこまでの大事にしたいのかがわからない。

映画なんかだったら、俺とミルフィが海で争っている間に、裏でこそこそ動くんだろうな。

艦隊がニッポン近海から去って、国家の防御力が下がっている今がチャンス! さぁ、クーデターだー……とか。

アタル,「いや、それ以前に、柴田さんに悪意があったかどうかもわかんないしなぁ」

アタル,「ヒヨが言うみたいに、伝言を伝えた柴田さんが偽者だって言う可能性も……」

アタル,「あぁ、もう、わからん! もう少し情報がないと、予想なんて無理だ!」

アタル,「まぁ、予想を立てたところで、ほぼ間違いなく外れるけど……はぁ」

少々疲れを感じた俺は、思考をぽいっと投げ捨てる。

……気分転換に、誰かと話してくるか。

とは言え、ミルフィもセーラさんも再入学の手続きをするために学園に行っているから、今いるのはヒヨだけだけど。

アタル,「よし、ヒヨとお茶でもするか」

決まれば後は行動に移すだけだ。俺は報告書を片付けて、席を立つ。

そしてヒヨの姿を求めて、部屋を後にしたのだった。

―――ヒヨは中庭にいた。いつものように、真っ白になった洗濯物を干している。

俺は家事に励むヒヨを微笑ましく思いながら、そっと近寄った。

アタル,「よっ! 頑張ってるな、ヒヨ」

ひよこ,「あ、アタルくん。えへへ~、どうしたの?」

急に声をかけて軽く驚かせたつもりだったんだが……ヒヨはごく自然に首を傾げる。

アタル,「むぅ、全然驚かないんだな」

ひよこ,「アタルくんが後ろから近づくからだよ? 干してるシーツに人影が写ってたもん」

ひよこ,「あ、誰かこっちに来てるーってわかっちゃったら、びっくりしようがないよ」

アタル,「よし、じゃあ、今度からは写らないように反対側から―――って、それ、真正面じゃないか」

ひよこ,「おぉ、ノリツッコミってやつだね。ちょっとキレが足りない感じだけど」

アタル,「まさか、そこにダメ出しまでされるとは予想外だ」

ひよこ,「あははは―――はっ、んっ……」

#textbox Khi0370,name
笑っていたヒヨの身体が、ほんの少しだけ左右に揺れた。

それを見逃さなかった俺は、ヒヨの肩に手を添えながらにこう聞いた。

アタル,「大丈夫なのか、ヒヨ?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「え? 私は全然、大丈夫だよ?」

そう答えるヒヨの表情は、いつも通りにしか見えない。

でも、ただ立っているだけでひざが崩れそうになるって、どう考えてもおかしいだろ?

アタル,「朝もなんか変だったし、やっぱり医者に診てもらった方がよくないか?」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「だ、大丈夫だよ? うん! 私はいつでも元気いっぱいなんだから!」

アタル,「本当か? 何か、無理してないか?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「してないよ? だ、だいじょぶ……うん、だいじょーぶ、だもん」

アタル,「どう見ても嘘っぽいぞ? 無理はするなよ、ヒヨ」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「うぅ、無理だなんて。ちょっとフラッとしただけだもん。お医者様なんて、大げさだよ」

アタル,「……ったく。素直にダメかもーって言えばいいのに」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「ダメじゃないよ。私はへっちゃらだもん。こんなの、すぐに治まって―――」

言葉の途中で、ヒヨの身体が大きく上下に揺れた。

今度は耐え切れずに、ヒヨの膝がかくんと完全に崩れたのだ。

俺は慌ててヒヨの身体を抱きしめ、支えようとした。

しかし、ほんの一瞬……遅かった。ヒヨの身体は干されたばかりのシーツに寄りかかるように、倒れていく。

当然、シーツがヒヨの体重を支えきれるはずもなく……ヒヨはその場に倒れることになった。

地面の上に、シーツに包まって横たわるヒヨ。それは、何だかひどく非現実的な光景だった。

って、呆けている場合じゃない!

アタル,「ヒヨ!? お、おい、しっかりしろ!」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「あっ……洗濯物……せっかく、干したのに。汚れちゃったぁ」

アタル,「んなことは、どうでもいいから!」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「あ、あはは。ごめん、ね、アタル、くん……やっぱり、ダメ、かも……あっ、くぁ」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「う、はぁ、あっ、あぁっ! 頭が……痛っ……痛い、よぉ。あ、アタル、くん……」

アタル,「ヒヨ! くっ、ちょい待ってろよ!」

俺はポケットからケータイ電話『CROWN』を取り出し、コール。部屋に医者を手配するように告げる。

そしてヒヨの身体を抱き上げて、俺は屋敷へと駆け戻るのだった。

アタル,「すぐに着く! ちょい揺れるけど、我慢してくれ」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「う、うん。大丈夫……ごめんね、アタルくん」

そう呟いて微笑むヒヨは―――実に儚げなのだった。

縁起でもないが、このまま永い眠りに就いてしまうのではないかと、俺にそう思わせるくらいに……。

……

…………

ここ数日の徒歩での登下校が、俺の足を鍛えていてくれたのか。

俺は難なくヒヨを部屋にまで運び、そして医者に診せることが出来た。

さすがは一国の王の住まう宮殿と言うべきか。

常駐している医師団はすぐさまヒヨの身体を徹底的に検査してくれた。

俺は知らなかったのだが、なんとこの王宮の敷地内にはCTすら完備されていたのだとか。

まぁ、王様が倒れてからどこかの病院に緊急搬送するくらいなら、敷地内に医療施設を配備した方がいい……のか?

正直、根が庶民なのでその辺りについては首を傾げるしかなかった。他の国はどうなってるんだろうな? 

あっ……でも、セーラさんの場合は、そのすぐ身近に専用の医師団と最高の医療設備が配置されていそうだ。

バルガ王の親馬鹿度から考えて、そのくらいの過保護は当然っぽい気がする。

―――と、そんなことを考えているうちにヒヨの検査は終わった。

だから……ヒヨはこうして今、自室のベッドに横になっている。

ひよこ,「ごめんね、アタルくん。これじゃ、夕ご飯……作ってあげられないね。ごめん、ね?」

アタル,「気にするな。体調が悪い時は、それを治すことに専念しなきゃダメだろ?」

ひよこ,「うん。でも……お医者様は、私の身体、どこも悪くないって、そう……言ってたんでしょ?」

アタル,「そう、だな」

ヒヨの身体を診た医師曰く『完全な健康体です』とのこと。

少なくとも、怪我や病気の類ではないらしい。

CTやら血液検査の結果はまだ出ていないが『おそらくは何も出ないだろう』とのことだった。

症状としては、精神的なショックを受けたような感じらしい。

身体が健康でも、人はトラウマが刺激されることで、呼吸が乱れたり頭が重く感じたりすることがあるのだ。

もっとも、それはそれで不可解なのだ。なぜなら、ヒヨには刺激されるべきトラウマなんて、ないはずだから。

犯罪に巻き込まれたことも、大事故に遭ったことも、大震災を受けたこともない。

ヒヨも俺も、今日間で実に平々凡々な日々を過ごしてきたんだ。

そりゃ、俺には当たらないって変な特筆事項があったけど……でも、それだけだ。

俺もヒヨ自身も、トラウマになりそうな『何か』に心当たりなんて、なかった。

ひよこ,「仮病で休んでるみたいで、何だかヤな気分かも……どこも悪くないはずなのに、私は何で……こんなにも苦しいんだろ」

アタル,「ヒヨが仮病で調子悪そうにしてるなんて、誰も思ってないよ」

アタル,「それで、どうだ? 少しはマシになったか?」

ひよこ,「うん……なった、のかな? よく、わかんないよ。どこかに引っ張られてる気がするの。海の、波みたいに、変なリズムで」

ひよこ,「耳元で、大きな声で怒鳴られるような感じがして、その後すぐに……ごおぉぉ~って、すごく強い力で引っ張られるの」

ひよこ,「そしたら、世界がぐるぐる回り出して……自分がどこにいるのか、よくわかんない気分になっちゃうの。ひどい、乗り物酔いみたいに」

アタル,「三半規管にも問題はないって言われたし、普通に立ってるだけでそんな風になるはずがないんだけどな……」

アタル,「えーっと……喉、渇いてないか?」

ひよこ,「ありがと。でも、今はいいかな。無理して、飲んだ方がいいのかもしれないけど……でも、今は、ちょっと……」

アタル,「だったら……もう俺は、ヒヨの手を握ってやるくらいしか出来ない。ごめんな」

ひよこ,「ううん。アタルくんが傍にいてくれるだけで、私は……心強いよ。もしこんな時に、自分1人だったら……私はきっと、泣いちゃってる」

俺がそっとヒヨの手を取ると、ヒヨはきゅっと俺の手の平を握り返してきた。

ひよこ,「アタルくん。手、離さないで? そのまま……もう少し、握ってて? 傍に、いて?」

アタル,「あぁ。ちゃんと傍にいるから、安心していいぞ?」

ひよこ,「あり、がと……ふふ、アタル、くん……んっ、はぁ、はぁ……」

ヒヨが苦しそうに呼吸を荒げる。だが、俺に出来ることは手を握り締めて見守ることだけだ。

風邪なら冷却シートを頭に貼るとか、卵酒を作ってみるとか、まだやれそうなこともあるんだけど……。

しかしヒヨは今、間違いなく健康体なんだ。

どうして苦しいのか? その具体的な原因が、俺にもヒヨにも医者にもわからない。

やがて、ヒヨは意識を手放したようだった。

少しだけ荒いヒヨの呼吸音が、この静かな部屋に染み込んで行く。

アタル,「……くそっ」

俺が益体なく毒吐いた、その時だった。

勢いよく扉が開き、ミルフィが駆け込んでくる。

ミルフィ,「ぴ、ぴよぴよが倒れたって!?」

セーラ,「み、ミルフィさん、気持ちはわかりますけど、お静かに」

一拍遅れて、セーラさんが入ってきた。

しかし、そう言うセーラさんも少し呼吸が乱れていた。

二人ともヒヨのことを心配して、学園から駆け戻ってくれたんだろう。

ミルフィ,「……それで、アタル? ぴよぴよが倒れた原因は?」

アタル,「今のところ、原因は不明だ。身体は完璧な健康体」

アタル,「……でも、本人はこうして冷や汗かいて、すげぇ苦しそうなんだ」

アタル,「ちなみにCTスキャンと血液検査は結果待ち。あと10分もすれば結果を教えてもらえると思う」

アタル,「でも、医者が言うには……多分、ウイルスとかも出ないんじゃないか、だってさ」

ミルフィ,「ふぅん。じゃあ、もしかするとあたしが活躍することになるかもね?」

エリス,「姫様、お持ちいたしました」

胸を張るミルフィの隣に、台車を押すエリスさんがやって来る。

その台車の上に載っているモノは、旧式のパソコンとドライヤーをくっつけたかのような……かなり不恰好な何かだった。

ミルフィ,「ありがとう、エリ。ふふっ、アタル? これでぴよぴよの不調の原因がわかるかも知れないわよ?」

アタル,「何なんだ、その機械は? 何と言うか……通販の安っぽい健康器具より信頼性のない外観だけど」

ミルフィ,「これはあたしがこんなこともあろうかと開発させた、万能アナライザー……つまりは解析機よ! そう、こんなこともあろうかと!」

エリス,「姫様? これは姫様が幼少のみぎりに人の『戦闘力』を測りたいと仰り、それがもとで開発が進められた一品で―――」

ミルフィ,「こ、細かい訂正は不要よ、エリ。いいのよ。とにかくこれは、今日この日のために密かに開発されてたものなの!」

ミルフィ,「こほん。それで……これはぴよぴよの身体とその周辺空間の音波だとか電磁波だとか、色んなものを測定する機械なわけ」

ミルフィ,「問診とかで怪しいところが見つからなくても、これなら! 待ってて、ぴよぴよ。このあたしが貴女を苦しめる犯人を見つけ出してあげる!」

ミルフィ,「と言うわけで、測定と解析を開始! ぽちっとな!」

ミルフィはドライヤーっぽいパーツをヒヨに向け、そして台車上のパソコンっぽい何かについているボタンを押す。

一拍の間の後、アナライザーからは『ぶぃ~ん』とファンの回転音らしきものが聞こえ始めた。

……ものすごく、パチモンっぽかった。一体、アレで何がわかるんだろうか?

アタル,「そもそも音波とかって、測って意味があるんでしょうか?」

セーラ,「どう、なのでしょう? 私にも判然といたしません」

アサリ,「アタルさんは騒音被害って、聴いたことありませんかー?」

アタル,「どぉっ!?」

アサリ,「しー。ひよこさんが寝ているのですから、静かにですよー?」

アタル,「あ、相変わらず、神出鬼没ですね」

いつの間にか、素知らぬ顔で俺とセーラさんのすぐ傍に立っているアサリさんなのだった。

アタル,「えーっと、騒音被害なら、俺だって聞いたことはあります」

アタル,「……でもここは静かですし、大きな音なんて、何もないはずじゃ?」

アサリ,「世には低周波音……静かな音による健康被害もあるわけでー。ひよこさんが人一倍敏感で、誰よりも早くに不調に陥ったのかもー?」

アサリ,「もしくは重低音とかー? 遠くの工事の振動が、たまたまひよこさんの波長に合っちゃってー、それで気分が悪くなるだとかー」

アサリ,「あー、そーゆー可能性も無きにしも非ずかとー?」

アタル,「ふむふむ。音を探るって言うのも、意外と馬鹿に出来ないってことですか」

ミルフィ,「こ、これはっ! こんな……!」

アタル,「な、何がわかったんだ、ミルフィ!」

ミルフィ,「何にもわかんないわ! こんな数値だけ見せられても、あたしにはまったく意味不明よ!」

………………。

……お約束なボケをしやがって。

アタル,「でも……そりゃまぁ、そーだわな」

アサリ,「んー? どれどれー? あぁ、この数字なワケですねー? ふむふむ141.80ですかー」

ミルフィ,「わかるの?」

アサリ,「もちろん、そんなわけないじゃないですかー」

アタル,「ミルフィもアサリさんも、漫才がしたいなら出て行ってくれないか?」

ミルフィ,「あ、あたしは一応、真面目だったのよ? 別にコントをしてるつもりは!」

エリス,「姫様。ここは本国の開発団に測定結果である数値をメールするべきかと」

ミルフィ,「そ、そうね。アタル、あたしはちょっと席を外すから、ちゃんとぴよぴよについててあげるのよ?」

わざわざ席を外さなくても、数値くらいこの場ですぐにメール出来るだろうに。

多分、思いがけないボケをしたことが恥ずかしかったんだろう。

せめて場が和めばよかったんだろうけど……誰にもウケなかったからな。

ミルフィ,「い、行くわよ、エリ」

エリス,「はっ!」

#textbox Kse0180,name
セーラ,「……では、私とアサリさんも席を外すことにいたします。もし何かあれば、どうぞ遠慮なく声をおかけください」

アタル,「え? 行っちゃうんですか?」

#textbox Kse0190,name
セーラ,「ええ。お2人の語らいのお邪魔虫になるわけには行きませんから?」

アタル,「え? あっ―――」

セーラさんがそう言ってヒヨの方を見やるので、俺も釣られて視線を動かす。

#textbox kse0120,name
セーラ,「それでは。ひよこさん、お大事に」

ひよこ,「ありがとうございます、セーラさん」

セーラさんはアサリさんを連れて、部屋を出て行った。

俺は再び、ヒヨを2人っきりになった。

ちょっと前なら、2人でこうしていると甘い空気を楽しめたのに……な。

今はひどく、切ない。ベッドに横になっているヒヨを見ていると、胸が締め付けられる。

昨日まですごく元気だったヒヨが、どうしてこんな風にならなくちゃいけないんだろう?

アタル,「えっと……起こしちゃったみたいだな。俺たち、ちょっとうるさかったか?」

ひよこ,「ううん、いいの。皆の元気な声を聞いてると、私もちょっと元気になった気がするよ」

ひよこ,「……んっ、はぁ、まだちょっと、変な気分だけど……さっきよりは、かなり楽になった、かも?」

アタル,「そっか。でも、無理は禁物だぞ? 起きようとかしちゃダメだからな?」

ひよこ,「うん、わかってるよぉ……。ふふ、アタルくんに、こんな風に私のこと見てもらうなんて……いつもと逆だね」

アタル,「あぁ。いつもは俺がベッドの中で、ヒヨがその傍にいるもんな」

アタル,「まぁ、俺は今のヒヨみたく気持ち悪いとかどうとかじゃなくて、ただ単に起きるのが嫌なだけだけど」

ひよこ,「私も、そう変わんないよ? だって、身体はどこも悪くないんだから」

ひよこ,「……やっぱり精神的なものなのかなぁ? 幸せ過ぎると、逆に不安定になる人もいるって言うし。マリッジブルーとか」

アタル,「ははっ、しっかりしてくれよ? 式をあげる前からこれじゃ、本番当日はずっと気絶しかねないぞ?」

ひよこ,「ふふ。それは、ダメだね。せっかくの思い出が、空白になっちゃう……」

儚げに笑みを浮かべるヒヨ。俺はそんな彼女の手を、優しく握りなおした。

アタル,「さぁ、もうちょっと寝ような、ヒヨ? 次ぎに起きた時には、きっとよくなってるはずだから」

アタル,「眠くなくても、目は閉じとけ。その方が体力的にもいいだろうし」

アタル,「それに心配しなくても、俺はちゃんとここにいるからさ」

ひよこ,「……うん。ありがとう、アタルくん。じゃあ、私……また、ちょっとだけ、寝る、ね……」

ひよこ,「んっ、すぅ……ん……んぅ……はぁ……」

ヒヨの瞳が閉じられ、その寝息だけが部屋の中に染み渡っていく。

俺はそれから夕食の時間になるまで、ヒヨの寝顔を見守り続けたのだった。

……

…………

アタル,「……ごちそうさまでした」

夕食は、美味しかった。間違いなく美味しかった。

食に全力を注いで、いつも調理のことを考えているプロのシェフの力作なんだ。美味くないはずがない。

でも、それでも……今日の俺にはちょっと物足りなく思えてしまった。

ヒヨがおらず、さらには皆との話も盛り上がらなかったからだろう。

その場の雰囲気。それも料理を美味しくする立派なスパイスの1つなんだと、改めて実感させられた夕食だった。

アタル,「さて、ヒヨの様子を見に行くかな」

行ったところで、俺に出来ることは見守ること……ただ、それだけだ。

でも、ヒヨが『アタルくんが傍にいてくれると、心強いよ』って言ったんだ。

なら、行かないって選択肢はないよな。

俺はミルフィやセーラさんにヒヨの部屋に行くと告げて、席を立つのだった。

アタル,「ヒヨにも何か食べさせないと……でも、気持ち悪いとか言ってたし」

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ミルフィ,「あっ、ねぇ、アタ―――」

アタル,「ここはリンゴとかむいてみるかな? 風邪じゃないけど……」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「―――ちょ、ま、待ちなさ―――」

アタル,「いや、桃の缶詰って言うのも、看病時の王道のような気も……」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「―――アタル! ちょっと!」

ヒヨに何を食べさせるべきか? 

それを考えながらに歩いていたら、俺はミルフィに肩をがしりと掴まれた。

つれて振り返って見ると、ミルフィは何故か不機嫌そうだった。

アタル,「な、何だ? ミルフィ?」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「このあたしが呼び止めてるのに、無視してすたすたと歩き去るなんてひどいじゃない?」

#textbox Kmi0240,name
ミルフィ,「まぁ、ぴよぴよが心配って言うのはわかるけど」

アタル,「す、すまん。で? 何の用なんだ? 話なら夕食の時にすればよかったのに」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「食事の席で出す話題でもないかなーって、一応自粛したのよ。で、何かと言うと……」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「ニッポンの上空に浮かんでいる数多くの人工衛星。その中でも一番アタルに縁深い衛星……確か名前は『あたりめ』よね?」

ミルフィ,「この国の王様を決めるために、200年も昔に打ち上げられた前時代の通信衛星。半永久的に低軌道を周回し続け、ニッポンを見守りしモノ」

アタル,「それがどうかしたのか?」

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「ちょっと調べたいんだけど、いいかしら? 可能なら、資料もいくつか欲しいわね」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「もちろん、最深度Sクラスの情報じゃなくていいわ。公開情報より少し深いくらいのモノで十分だから」

アタル,「いいけど……どうして今さらあたりめについて調べるんだよ? 王様を決めるためだけに浮かんでる衛星だぞ?」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「ちょっと気になることがあるのよ。別に撃墜したりハッキングしたりはしないから、安心して」

アタル,「ははっ、別にそんなことは心配してないけどな」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「……それはそれでどうなのよ? 王様を決める大事な衛星でしょ? そしてあたしは外国のお姫様。少しは心配しなさいよ」

アタル,「でも、ここで『ミルフィに何かさせると、落としたり壊したりしそうで心配だなぁ』って言うと、怒るだろ?」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「むぅ、そんなことは……んー、そう言われると、あるかも? ううん、さすがにそこまで怒りっぽくは!」

アタル,「何にしろ、資料はあとで持っていかせるから、何事も大事にならないように頼むな」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「人をトラブル発生器みたいな言い方しないでよね? 大丈夫よ!」

アタル,「あぁ、その言葉を信じとくよ」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「むぅぅ、あんまり信用してなさそうな言い方ね。棒読みじゃない。ったく」

アタル,「気のせいじゃないか?」

その後……俺はミルフィをひとしきりからかってから、ヒヨの部屋に向かった。

ミルフィはヒヨの部屋までついて来なかった。今夜はあたりめについて調べるから、忙しいらしい。

そしてセーラさんも、ヒヨの部屋を訪れることはなかった。

今夜は俺とヒヨの2人きりの方がいいだろうと、気を遣ってくれたのだろう。

―――そして、俺はヒヨの顔を1人静かに眺める。その手をきゅっと握り締めながらに……。

アタル,「早くよくなってくれよな、ヒヨ」

2人だけの王宮は、どこか物寂しい。以前、俺たちはそんな風に語り合った。

しかし、例えミルフィやセーラさんたちがいても……ヒヨがベッドに縛り付けられたままじゃ、ダメだ。

アタル,「ヒヨがいつも通りじゃないと、俺は……嫌だよ」

深い眠りについているのか。ヒヨは俺の声に応えはしなかった。

その夜―――あの正体不明の苦しさが湧いたらしく、ヒヨは何度も目を覚ますことになる。

俺はそんなヒヨの手を握って励ますことしか、出来なかった。

……ヒヨの苦しさを取り除く、具体的な妙案。

それがまったく得られないまま、時間は流れ過ぎ去っていくのだった。

……

…………

乗組員,「干渉……軌道修正……誤差範囲内……ダメです。あたりめ、周回行動を維持し続けています」

乗組員,「当海域での活動限界を迎えました。機関始動、当海域からの離脱を開始します!」

乗組員,「あたりめの特殊装甲は、もう芸術品だな。こっちの電波干渉に耐え続けている。200年も前に、どうやってあの特殊装甲を生み出したのやら」

柴田,「厄介なものですね。前時代的な骨董品のくせに、こうも強情だとは……いっそ感嘆すら漏れますよ」

乗組員,「あぁ。今では失われた超高々度技術か。我らがご先祖様の変態具合がよくわかるねぇ。クジで指導者を選ぶ、そのぶっ飛んだ発想といい」

乗組員,「いくら失われた技術とは言え、さすがにもうとっくに落ちてもよさそうなものなんですが。納得がいきません」

#textbox Ksi0120,name
柴田,「自己修復と軌道修正を繰り返し、長きに渡ってニッポンを見守り続け、王を選定し続けたのは伊達ではないと言うことでしょうね」

柴田,「しかし、それでも……それでも確実に我々の理想が成就する瞬間は近づいています。あともう少し、ですよ」

柴田,「あたりめ2は完成し、いずれは初代あたりめも大気圏に向けて落下を始め……骨董品からただのガラクタへと成り下がる」

乗組員,「ええ。我々の干渉によって、あたりめは確実に疲弊しています。やがては軌道修正も追いつかなくなるでしょう」

柴田,「……初代あたりめが朽ちたところで、我々のあたりめ2が打ち上げられ、王の再選定を行うこととする」

柴田,「事故で墜落した初代あたりめは、もう数年前から誤作動が相次いでいた欠陥品であると断じて、ね」

乗組員,「国枝アタルは誤作動で選出された王。資格のない、まがい物と言うことだな」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「そう。真に王となる資格があるのは、この私に他なりません!」

#textbox Ksi0140,name
柴田,「ふふっ、すでに政府は私の手中にあると言っていい。あたりめさえ落とせば、すぐにこの国は変わる!」

柴田,「あたりめ2の打ち上げも王の再選定も……つつがなく進み、終わる! そしてようやく始まるのです! 真の統治が!」

柴田,「王に選定された私が、政府内に残る不穏分子を抹消。このニッポン全てを手に入れる! ふふ、ははは、はははははっ!」

柴田,「現王である国枝アタルなど、取るに足らない。彼は何もわからぬままに蹴落とされ、そして惨めに朽ち果てるのみ……ふふ」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「―――さぁ、皆さん。作業に励んでくださいね? 満願成就の、その時まで!」

乗組員,「命令されずとも、支払われた金の分だけは動くさ。それにしても王様になりたいなんて……あんたも物好きだな」

乗組員,「ええ、私も地位や名誉には心惹かれません。正直、研究と実験さえ出来ていれば、それで満足です」

柴田,「まぁ、貴方たちではそのような感想を抱くでしょうね。現に私は、そう言う人物を好んで部下としているのですから」

柴田,「私は心の奥底に野心を抱く人間を、とてもとても嫌います。いえ、いっそ憎むと言ってもいいでしょう」

#textbox Ksi0120,name
柴田,「仮にもし、私と同じような思想の人間が視界内に入り込んだら―――」

#textbox Ksi0140,name
柴田,「ふふふ、その時は……躊躇なく殺すでしょうね、私は」

乗組員,「物騒なことで。じゃあ、我らか次期王に断罪されないように……気張って働きますかね」

―――ヒヨが倒れたあの日から、早くも3日が経過していた。

ヒヨの体調不良には波があるらしく、元気な時は本当に元気だった。

まったくいつもと変わらず、歩く姿に危なっかしさを感じることもない。

けれど、体調不良の波が訪れると、ヒヨはもう1人で歩くことすらままならなくなる。

それまで見えていたはずの世界が歪み出し、大地は揺れて、身体が大きく震える。

さらにそこから、見えない手で誰かに強く引っ張られているような気分を味わうそうだ。

少し表現を変えよう。具体的に言えば――――――。

目隠しをした状態で、とんでもない超高速回転中のコーヒーカップに乗せられる。

存分に回転を味わい、気持ち悪くなったところで……突如、強引にカップから蹴り出される。

そこで上手く歩けずにオロオロしていたら、目に見えない釣り糸か何かで自分の身体を強く引っ張られ続ける。

……そんな感覚が、不意に襲ってくるらしい。どう考えても堪ったものじゃないだろう。

出来ることなら代わってやりたいが、そんなことは現実的に考えて不可能だ。

だから、ヒヨは今日も自室で安静にしている。

いつその不調が訪れるかは、わからないから……。

アタル,「調子はどうだ、ヒヨ? 今日はだいぶ顔色がいいみたいだけど」

ひよこ,「うん、平気だよ? 昨日の夕方くらいから、すごく楽になってきたの。今日はまだ、1回もあの変な気分になってないし」

ひよこ,「このまま大丈夫そうなら、明日には普通に学園に行ってもいい……かな? お掃除とかお洗濯とかも、色々やりたいよぉ」

ひよこ,「ずっとベッドの中で横になってるなんてつまらないし、身体もなまっちゃうもん。体重も、増えちゃうかもだし」

アタル,「ヒヨはもう少し体重を増やした方がいいかもだぞ?」

ひよこ,「そ、そうかなぁ? うぅ、重いのは女の子として、ちょっと遠慮したいよ」

アタル,「いや、身体にちょっとは蓄えがないと、倒れたらすぐガリガリのひょろひょろだろ?」

ひよこ,「それは……うーん、そうなのかも知れないけどぉ、でも今の私って食べて寝てるだけだし、やっぱり心配」

アタル,「ヒヨは全然太ってないって。むしろちょい痩せたんじゃないか?」

少し、ほっぺたが薄くなったように思う。たった3日でこれだ。

もしもこのまま体調不良が続いたら、ヒヨはあっと言う間に痩せ細るんじゃないだろうか?

『あの葉っぱが全て散った時に、私は死ぬんですね』とか、そんなことを言う重病人がごとく……。

アタル,「……ヒヨがベッドの中で少しずつ小さくなっていくなんて、俺は嫌だぞ?」

ひよこ,「うぅぅ、私だって、そんなのはやだよ? うん。ちゃんとご飯、食べます。出来るだけ、頑張ります」

アタル,「おぅ、頑張れ」

ひよこ,「うん、頑張る。今日のお昼ご飯は、出来るだけ残さないようにする!」

アタル,「早くよくなってくれよ? 毎日ちゃんと自分で起きるのが辛いんだ。やっぱ俺は、ヒヨに起こしてもらわないと」

ひよこ,「あはは。もう、アタルくんってば……」

俺が実に面倒くさそうにそう言うと、ヒヨが困ったように笑う。

今日のヒヨは本当に調子がよさそうだ。

俺はヒヨに微笑みかけつつ、紅茶を口元に運ぶ。

穏やかにお茶を楽しむ。それはここ数日ですっかり減ってしまった一時だ。

体調不良の原因がわかっていない以上、安心するのはまだ早いとわかっているが、今は……今だけはこの短い平穏を楽しもう。

今度はヒヨの分の紅茶も用意しよう。あぁ、ついでにお菓子もだ。

このまま何事もなく一日が終わってくれれば、明日にはもっと2人でお茶を楽しむことも―――。

ミルフィ,「―――ぴよぴよぉっ! 貴女の宝物! あのリング! ちょっと貸して!」

アタル,「ぐほぉんぐっ!?」

突然、ミルフィが部屋に飛び込んできた。

俺は危うく、驚きとともにヒヨに紅茶をスプレーするところだったぞ!?

何とか吐き出さずに口の中の紅茶を飲み込んだ俺は、今日のMVPだと思う。

自分の彼女に紅茶をぶっかける趣味なんて、俺にはないし!

ひよこ,「あ、アタルくん、大丈夫? い、今、すごい顔になってたよ?」

アタル,「けほほけっ、あ、あぁ、大丈夫……」

プールで水が鼻に入った時の、もしくはわさびがきつ過ぎた時の……あのつぅーんとした感覚が抜けない。

鼻の奥に紅茶の香りが充満している。いい香りではあるのだが、今はそれがひどく気持ち悪い。

アタル,「えーっと……何なんだ、ミルフィ? ちょっと落ち着けよ」

ミルフィ,「落ち着いてなんていられないわよ! ついにぴよぴよの体調不良の手がかりを見つけたのよ!」

アタル,「なっ!? マジか!? ウチの医師団でもまったくわかんなかったのに……さすがはイスリア、脅威の科学力だな」

ミルフィ,「まぁ、まだ手がかりを見つけたってだけで、今後どうなるかはわからないわ。具体的に何かがわかるのは、ぴよぴよのリングを調べてからよ」

ひよこ,「私の、リング? って、これのことだよね? このリングが手がかりなの?」

ヒヨは自身の細い指からリングをはずし、きょとんと眺める。

ミルフィ,「そうよ。そんなわけだから、ぴよぴよ? ちょっとリングを見せて欲しいの。ささっと調べちゃうから」

ひよこ,「そう言うことなら、んっ……」

アタル,「起きて大丈夫なのか?」

ひよこ,「うん、今は平気だから。それに身体は健康なんだし、少しは足も動かさないと。んしょっ」

ヒヨはベッドから起き上がり、ミルフィに指輪を手渡した。

ひよこ,「ミルフィさん。大丈夫だと思うけど、なくしたり壊したりしないで、ちゃんと返してね? そのリングは、とっても大切なものだから」

ミルフィ,「ふふっ、安心しなさい。この部屋から持ち出したりはしないから、なくしようがないわ」

アタル,「え? でも、ここじゃリングを詳しく調べることなんて出来ないだろ?」

ミルフィ,「馬鹿ねぇ。ここに検査機材がないのなら、他から持って来ればいいだけのことじゃない。エリ!」

エリス,「はい、姫様。今しばらくお待ちください。さぁ、搬入を急げ! 全ては姫様の大切な御友人がためぞ!」

ミルフィがエリスさんを呼び、エリスさんが大勢の部下に向かって声を張り上げる。

廊下からは次々に物資が運び込まれ、ヒヨの室内にちょっとした研究所っぽい区画が出来上がっていく。

ひよこ,「わ、わわっ、何だかすごく大事に……」

ミルフィ,「騒がしくてごめんね、ぴよぴよ。大丈夫、余計な人員にはすぐ下がらせるから安心して。乙女の部屋に騒々しさは似合わないもんね!」

ミルフィ,「さぁ、急ぎなさい。無駄にしていい時間なんて、1秒もないんだからね!」

ミルフィが作業員の皆さんを急かす。いや、あれは激励に入るのか?

可愛いお姫様からの声援を受け、作業員の皆さんはより一層職務に励んでいく。

俺とヒヨはそんな光景をただただぽかーんと眺めていた。

ひよこ,「ね、ねぇねぇ、アタルくん。どうしよう?」

ひよこ,「……な、何だか申し訳ないよぉ。皆さんにもお茶とか出した方がいいのかな?」

アタル,「いや、厨房でお湯とか触ってる時に倒れても怖いから、ヒヨは動くな」

アタル,「と言うか、感想がまんま引越し屋さんに恐縮する一般人だよなぁ。いやまぁ、俺もヒヨとそう大して変わらない気分だけど」

アタル,「こう言う時ってさ、俺も何か手伝わなくていいのかなぁーって気分になるよな」

学園の掃除の時間。真面目に掃除をする気はないのだけれど、かと言って皆が作業をしている時に1人だけサボッているのは心苦しいって感じ?

ひよこ,「うん。誰かが動いてるのに、自分たちだけじっとしてると……そわそわしちゃうよね」

庶民感丸出しな俺とヒヨなのだった。

ミルフィ,「さて、あっちがセッティングとスキャンをしている間に、現時点で判明していることを説明してあげるわ」

ミルフィ,「まず、あたしはこの前、ぴよぴよの身体をアナライザーでスキャンしたでしょ? その時に色々な数値が判明したわけ」

ミルフィ,「その場では何がなんだかだったけど、専門家に調べさせたところ……あの数値はぴよぴよに向けて送信された電波の周波数だったのよ」

ミルフィ,「もう少し言うと、あのリングがぴよぴよへの電波を受信しているアンテナだったわけ」

アタル,「電波? あぁ、そう言えば、音波だけじゃなくて電磁波とか色んなもんも検出するんだったっけ?」

パチモンっぽい外見の機械だったが、あれだけのコンパクトさで様々な解析とか測定が出来ると言うのは、すごいことなんだろう。多分。

アタル,「それで? ヒヨは宇宙人から怪電波を食らって、体調不良になっていたと?」

ミルフィ,「惜しいけど、違うわ。ぴよぴよに送信されていた電波は、低軌道上に存在する人工衛星『あたりめ』からのものだった」

ミルフィ,「もちろん、これは推論の域を出なかったわけだけど……どう? リングのスキャン結果は?」

エリス,「はっ! パターンが一致したそうです。あたりめの専用通信周波数帯141.80。間違いありません」

エリス,「リングは今現在も、低軌道上に存在するあたりめと交信状態にあります」

エリス,「どうぞ、ひよこさん。必要な情報は取得し終えましたので、リングはお返しいたします」

ひよこ,「あ、はい。ありがとうございます」

エリスさんからリングを受け取り、指にはめ直すヒヨ。

その隣では、ミルフィが満足気に頷いていた。

ミルフィ,「うんうん、あたしの推論は間違っていなかったってワケね。エリ? ちなみにリングの構成物質は?」

エリス,「それが……今のところ、詳細は不明です。信じられないことですが、人工素粒子による構成物ではないかとの意見も……」

エリス,「ここに運び込める機材では調べきれません。更なる調査は本国の最重要区画、もしくは宇宙ステーションの研究棟へ搬送する必要があるかと」

ミルフィ,「ふぅん? そんなレベルの素材なわけ? ますます興味深いわね」

アタル,「なぁ、そっちだけで納得してないで、ちゃんと説明してくれよ。つまり、どういうことだ?」

ミルフィ,「もちろんよ、つまりね?」

ひよこ,「あ、あの、私、専門的な知識とかないから、噛み砕いて教えてもらえると嬉しいかなー、なんて……」

ミルフィ,「ふふ、大丈夫。わかりやすく説明するから安心して、ぴよぴよ」

ミルフィ,「いい? まず、あのリングはおそらくあたりめの構成素材の1つなワケ」

ミルフィ,「そして、あのリングはあたりめとリアルタイムでリンクしてるの」

ミルフィ,「つまり、あたりめとぴよぴよは、リングを通して繋がってるのよ!」

ミルフィ,「大海原であたしの位置を探し当てたのも、もしかしたらそのあたりが原因かもね?」

アタル,「ミルフィを探したいって言う思いがあたりめに伝わって、んで、空の上に浮かぶあたりめがミルフィの位置を教えてくれた……ってことか?」

ミルフィ,「そう、ぴよぴよは脳内に専用のGPSを搭載してるようなものなのよ、多分」

アタル,「……なるほどな、道理で方向音痴じゃないわけだ」

ミルフィ,「ったく、信じられないわ。何であんなリング1つで人と人工衛星がリンクするのやら? しかもリングの構成物質は詳細不明」

ミルフィ,「ニッポンの方がよほど驚異的な技術力よ! 200年よ、200年! そんな昔に、あんなわけのわかんないレベルの物を作っちゃうなんて!」

ミルフィ,「それだけで完成した単一の構成物。対消滅でしか壊せないであろうモノ。オリハルコンとでも言うわけ?」

オリハルコン――別名、ヒヒイロカネ。ニッポンじゃ神話の時代からよく聞く名前だ。

ミルフィ,「しかも、それをあくまで部品の1つとして扱って、あたりめという衛星を組み上げるなんて……なんて、贅沢なの?」

ミルフィ,「そりゃ、こんな不思議で素敵な素材があるのなら、スーパーロボも作り放題でしょうよ。羨ましい限りね」

まだ信じきっているスーパーロボ云々には、触れずにおいて、だ。

アタル,「えーっと……まぁ、とにかく硬くて不思議なリングってことだな」

ひよこ,「うんうん。よくわかんないけど、つまりは壊れにくいってことでしょ? 道理で全然サビないなぁって……」

ミルフィ,「い、いや、サビるとかどうとか言うレベルじゃないんだけど……まぁ、いいわ」

アタル,「それにしても、ヒヨとあたりめが繋がっているとか、まさかのまさかだよな」

でも、そう言われると納得の行くこともある。例えば、ヒヨの方向感覚のよさとかな。

そりゃ、人工衛星が上から見守ってくれていれば、方向を見失ったり、迷ったりはしないだろう。

ミルフィ,「素朴な疑問なんだけど、ぴよぴよはどこであのリングを手に入れたの?」

ひよこ,「んふふ~っ」

ミルフィの質問に、ヒヨはものすごく嬉しそうに微笑んだ。

ミルフィ,「……あっ、何かノロケが来そうな予感」

ミルフィ、正解。

ひよこ,「あのリングはね、アタルくんが私にプレゼントしてくれたものなの」

ひよこ,「流星群の夜に、2人で裏山にお星様を拾いに行って……そこでアタルくんがあのリングを見つけて、私にくれたの」

ひよこ,「えへへ、青く光ってて、本当に綺麗で……あの日から、私はずっとあのリングを着けてたの」

ミルフィ,「そう。ずっと、ね。おそらく長い時間の中で、何らかの要因が複雑に絡み合って、ぴよぴよとあたりめのリンクが構成されたと」

ミルフィ,「あのリングがあたりめの部品、もしくは構成物の1つだとすると、あたりめがいまだに空に浮かんでいるのは不自然ね」

アタル,「あぁ、確かにそうだな。部品がぽろぽろ地上に落ちてるような衛星は、とっくに壊れててもおかしくない」

ミルフィ,「となると、あのリングはわざと地上に落とされたもの? 次代の王を選出するために、探査針を打ち込むような……」

ミルフィ,「あれ? じゃあ……全て運命だったんじゃない。空から降り注いだ、星の欠片。あたりめのリング。それを身に着けた、ぴよぴよ」

ミルフィ,「そしてぴよぴよはアタルの事を慕い想った。その想いはあたりめに伝わり……あたりめはアタルを次代の王として選出した」

ひよこ,「そう言えば、私……アタルくんを王様にしてくださいって、そうお祈りしたこともあるよ」

ひよこ,「アタルくん、小さい頃にそう言ってたから……だから私、お星様にお祈りしたの。アタルくんを王様にしてあげてくださいって」

ミルフィ,「……で、その祈りは見事にあたりめに通じて、叶った。そう、1億3千万分の1の偶然なんかじゃない。アタルが王になるのは、当然の帰結」

ひよこ,「そう、だったんだ。えへへ、アタルくん。運命だって。えへ~、ちょっと照れちゃうね?」

ヒヨが嬉しげに、俺の袖をくいくいと引っ張ってくる。

俺はそんなヒヨの頭を撫で構いつつ、ミルフィに話の先を促す。

俺が王様になるのは、あのリングを拾ったときから決まっていたこと……と言われても、正直どうでもいい。

いや、もちろん感慨深くはあるぞ? それに運命って言うその一言を嬉しくも思うぞ? 

でも、今はそれよりも、ヒヨの体調不良について詳しく知ることが先決だ。

アタル,「ヒヨとあたりめが繋がってることはわかった。それで、何でヒヨが苦しむんだ?」

そう、問題はそこだろう。いつからヒヨとあたりめのリンクが成立していたのかは、わからない。

でも、ヒヨの『アタルくんを王様に』って言うお祈りが通じたのなら、そうつい最近じゃないはずだ。

今までは何の問題もなかったリンク。そこに不具合が出た原因は、何なんだ?

ミルフィ,「この前、アタルに資料をもらってから色々と調べたんだけど……どうやらあたりめを落とそうとしてる馬鹿がいるみたいね」

ミルフィ,「妨害電波らしき何かが、あたりめに向けて照射されているのを確認したわ。しかも複数回。場所は太平洋上の各所から」

ミルフィ,「もしかすると潜水艦かしら? ばれないように、時折浮上しては電波の照射を繰り返しているようね」

ミルフィ,「そしてその照射時刻と、ぴよぴよの体調不良の波は重なるわ」

ひよこ,「あたりめが、妨害電波で苦しんでる。だから、あたりめと繋がっている私も苦しんじゃうってことなの?」

アタル,「でも、あたりめは人工衛星だろ? 辛いとか、苦しいなんて思わないんじゃないのか?」

ミルフィ,「妨害電波によって発生する、システムのエラー。自己修復を繰り返すことへのストレス」

ミルフィ,「パソコンだってエラーが立て続くと、処理が滞ってすっごく熱くなったりするでしょ?」

ミルフィ,「そんなあたりめの状態がぴよぴよに伝わる時、ぴよぴよの身体が苦痛として認識するのかもね」

ヒヨは引っ張られるだとか、大声で怒鳴られるだとか、自分がどこにいるのかがわからなくなると、そう言っていた。

それはそのまま、あたりめが感じていた悪影響なのだろう。

アタル,「……でも、それなら対策は打てるな」

そう、簡単な話だ。あたりめに干渉しているやつらを逮捕すれば、ヒヨの体調はもう心配無用なのだ。

人工衛星に電波攻撃を仕掛けるのって、どんな罪になるんだろうか?

まぁ、とりあえず無罪ではないだろう。あたりめはこの国の重要な備品なのだから。

アタル,「って言うか、この件に関連する報告が全然俺に上がって来てないって言うのも、変な話だな」

あたりめが電波攻撃を受けていることに、この国の誰もが気づかないなんて、そんなことは絶対にあり得ない。

確実に気づいているはずだ。王を選出する重要衛星であるあたりめは、きちんと関係省庁に監視されているはずなのだから。

……もしも今回の干渉が諸外国からのものなら、間違いなく問題になる。

俺に報告が上がってこず、また政府内でも大きな問題になっていないとすると……内部犯、なのか?

政府と関係省庁に干渉を黙認させて、俺には事態を知らせないように手が回されている?

アタル,「誰がそんなことを……って、思いつくのは1人しかいないけど」

ひよこ,「やっぱり、柴田さんなのかな?」

アタル,「多分な。最終的な目的が何かはわからないけど……ん? そう言えば……」

柴田さんの顔を思い起こしたところ、俺の頭にある考えが浮かんだ。

アタル,「遊園地でさ、ヒヨがそのリングをなくしたことがあっただろ? あれも、柴田さんに会った直後だ」

ひよこ,「そう言えば……うん。柴田さんにこれからも頑張れって励まされて……その後に、リングがなくなってて」

アタル,「で、ここに戻ってきたら、置いてあった。つまりちょっと拝借して、必要なデータを取って行ったってことだと思う」

アタル,「あと、ミルフィにひどいことを言って煽ったのも、自分が動きやすくするためだろうな」

ミルフィ,「あたしとの艦隊戦のために、アタルは大きく戦力を動かしたもんね。当然、ニッポン国内の艦艇はどたばたしちゃったから……」

ひよこ,「あたりめに干渉するためのお船を、こっそり太平洋まで進めるのも楽ちんだった……って言うこと?」

俺の勘や予想は外れることが多い。多いと言うか、外れて当然と言うレベルだ。

でも、だからと言って、俺はバカじゃない。

前後の文脈から作者の意図する内容を15文字で書き出せだとか、A~C間での情報をもとに、空欄に当てはまる答えを記せだとか。

そんなテストの問題に正解出来ないわけじゃない。

つまり……ここまで事実と情報を積み重ねてたどり着いた答えは、さすがに外さないってことだ。

柴田さんはあたりめを落としたがっている。そのためにヒヨのリングを奪ったことすらある。

そしてそこから得た情報をもとに、あたりめに干渉している。

またその干渉により、あたりめと繋がっているヒヨにまで体調不良と言う影響が出ている。

あぁ、ようやく繋がった。繋がってみれば……全部柴田さん、もとい柴田のせいかよって気分になるな、これ。

アタル,「ミルフィ。太平洋上の、あたりめに干渉してるヤツらの出現ポイントの情報、もらえるか?」

ミルフィ,「もちろん。ポイントはランダムで規則性がないけど、でもおおよその海域は絞れてるわ」

ミルフィ,「さすがに太平洋の端から端まで移動するわけにもいかないんでしょうね、あっちも」

アタル,「なら、話は早いな」

あたりめへの干渉を止める。太平洋上に潜む諸悪の根源を捕まえる。ただ、それだけだ。

かなりスケールのでかい話である……のだが、しかし何故か簡単な話であるようにも思う。

『ヒヨが苦しんでいる原因がわからない』って、もどかしい気分を味わっていたからかな?

やるべきことがわかって、すぅっと視界を覆う霧が晴れた気分だ。

アタル,「よし、艦隊に連絡……いや、その前に政府内の協力者を洗い出して……」

ひよこ,「――――――あっ」

俺が動き出そうとした、その時だった。ヒヨがびくりと身体を震わせる。

アタル,「……ヒヨ? まさか、またあたりめに干渉が?」

ひよこ,「う、うん。来る……来てる。波が……ひぅっ!? あっ、だ、ダメ……流れる、流れちゃう! こ、このままじゃ……波にさらわれちゃう」

ヒヨは震えを押さえようと、両手で自身の身体を抱く。しかし、ヒヨの震えは止まりそうになかった。

俺は色んな思考を投げ捨てて、ヒヨに駆け寄る。今はその身体を抱きかかえることだけを、考えて。

ひよこ,「あ、あぁっ! あぁっ! あっ―――く、はぁ、あぁ、あぁぁ」

アタル,「な、なぁ、ミルフィ! ヒヨとあたりめのリンクをどうにかして切れないか?」

そう。リンクさえ切ってしまえば、あたりめがどうなろうがヒヨが苦しむことはないんだ。

ひよこ,「かっ、はぁ、あ、あくぅ! はぁ、あ、あぁ……引っ張られ、る……身体が、どんどん……」

びくびくと、まるで電気ショックを受けているかのように全身を揺らすヒヨ。

ヒヨの口から漏れる言葉は、同時にあたりめの悲鳴でもあるんだろう。

もしもあたりめに身体があれば、ヒヨみたく悶えるんだろう。

あたりめも苦しいだろうと思う。大変だろうとも思う。可哀想だろうとも思う。

でも、それ以上に俺は今の苦しむヒヨが見ていられない。

ヒヨが助かるのなら、リンクを切れるのなら……それに越したことはない。

リンクさえ切れれば、もうヒヨが苦しまないのだ。あたりめが落ちようが、爆発しようが……。

アタル,「電波を完全に遮断する部屋とかにヒヨを入れれば、リンクが切れたりしないか?」

アタル,「ケータイだって電波が遮断されれば、圏外で不通状態になるだろ?」

ミルフィ,「ど、どうかしら? 特殊過ぎて、ちょっとわからないわ。そもそもリング1個で繋がってる時点でSFと言うか、オカルトだし」

アタル,「くっ、それもそうか。電波は遮断出来ても、魂が繋がってますとか言うこともあるかもしれないし」

ミルフィ,「それに、今のあたりめはぴよぴよのおかげで持ってるところもあるみたいなの」

アタル,「? どう言うことだ?」

ミルフィ,「怪電波を照射されて、あたりめはワケがわからなくなってる。きっと自分がどこにいるのかもわからなくなって、軌道修正が出来なくなってる」

ミルフィ,「普通なら、もうとっくに大気圏に落ちているはずよ? でも、あたりめはいまだに低軌道上で踏ん張ってるの。ぴよぴよがいてくれるから」

ミルフィ,「あたりめは、ぴよぴよのいる位置だけは今現在も把握してる。そしてその相互の距離をもとに再計算して、軌道を修正し続けてる」

ミルフィ,「言わば、今のあたりめにとって、ぴよぴよは嵐の海に見える、小さな灯台の光なのよ。もし、それすら見失えば……すぐに落ちてしまう」

アタル,「……なぁ? ヒヨとあたりめは繋がっているんだよな? もしあたりめが落ちたら、ヒヨはどうなる?」

ミルフィ,「……わかんないわよ、そんなこと。衛星の加護がなくなって、方向音痴になるとか……その程度ならいいんだけど」

ミルフィ,「リンクのせいで、裸で大気圏に突入する気分を味わうことになるのなら……ぴよぴよの心は、耐えられないかも知れない」

アタル,「くそっ」

俺は意味がないとはわかっていたが、そう毒吐かずにはいられなかった。

ひよこ,「ひ、引っ張られる……だ、ダメ、こ、このままじゃ、落ちちゃう! だめ、はぁ、はぁ、う、うぅ!」

アタル,「しっかりしろ、ヒヨ! お前はここにいる! どこにも落ちたりなんかしない!」

アタル,「ヒヨ、大丈夫だ! お前は今、俺のすぐ目の前にいるんだ、ヒヨ! だから、落ちない! どこにも落ちない!」

俺は繰り返し、ヒヨに呼びかける。だが、ヒヨの反応は芳しくなかった。

ヒヨはぼうっと虚空を見上げて『ここではない何処か』を眺めているようだった。

ひよこ,「はぁはぁ、はぁ、あ、あぁ……青が、広がって……星が、近づいて、遠のいて……」

それは、あたりめの呟き。地球から打ち上げられ、そして200年の時を経て地上に落とされようとしている、あたりめの……。

ヒヨと繋がったあたりめの……言わば、空に浮かぶもう1人のヒヨの、苦しみから漏れた声だった。

俺は……ヒヨを抱きしめることしか、出来ないのだった。

……

…………

乗組員,「あたりめ、減速を開始。地球の引力に引かれ始めました。軌道修正、追いつきません!」

乗組員,「あぁ、まだ抵抗しているか、もう確定だな。あたりめに搭載された噴射機構の出力では、規定高度を維持出来ない」

乗組員,「あたりめの現在の高度は地表から約1250Km。本格的に落下を始めれば、おおそよ114秒で地表に到達します」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「ふむ。これだけの下準備が必要であったと言うのに、落下時間そのものは2分以下ですか」

乗組員,「あたりめの落下速度は第2宇宙速度……秒速11Kmに至りますから」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「もはや想像も出来ない速さですね。ふふ、その速さによる大気の摩擦熱で、あたりめは燃え尽きるのみ、と言うわけですか」

乗組員,「……いえ、あたりめが大気圏で燃え尽きることはなさそうです」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「どう言うことですか? 大気圏に突入した衛星など、燃え尽きるのが常でしょう?」

柴田,「現に老朽化した衛星を大気圏の摩擦熱で消滅させることが、多々あるではないですか」

乗組員,「通常の人工衛星であれば、です。あたりめは普通ではありません」

乗組員,「大気圏再突入なんて、考慮されていないはずなのに。熱防護システムも、ないはずなのに……」

乗組員,「既存の耐熱シールド以上の性能を持つであろう、未知なる特殊装甲。回収後は是非とも解析したいもんだな」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「悠長なことを。今の問題は、あたりめが燃え尽きないことでしょう? さて、どうしたものか」

#textbox Ksi0120,name
柴田,「ふむ…………」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「……くくっ、好いことを思いつきました」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「せっかく形が残るのです。ここはあたりめに、帰るべき場所へ帰っていただくことにしましょう」

#textbox Ksi0140,name
柴田,「王を選定するための衛星なのです。最期は自身の選んだ王の下へと馳せ参じるべきでしょう? ああ、王の下ではなく、王の頭上でしたか」

柴田,「私の頼もしい同胞が……未来の大臣たちが、適切な報道規制を実施します」

柴田,「たとえアマチュアを含めた各種の観測装置に落下するあたりめを捉えられようとも、報道さえしなければ国民は騒ぎません」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「さぁ! あとは貴方たち次第ですよ? 終わりと始まり……本当の始まりを創めるのは!」

乗組員,「任せな、王様。誤差1メートル以内で目標地点に落として見せるさ」

柴田,「目標は王宮! あたりめの往生際の悪い軌道修正に、今後も干渉し続けるのです! そして誘導しなさい!」

柴田,「まぁ、もっとも……国枝アタル自身に直撃することはないでしょう。アレはそう言う存在です」

柴田,「しかし、アレに当たらず外れたとしても、そこは市街地の中心部。くくっ、人々はかなり混乱することになるでしょうね」

#textbox Ksi0120,name
柴田,「……実際、どの程度の被害になるのでしょうか? 専門家としては、どう考えますか?」

乗組員,「公開情報によれば、あたりめの総重量は100Kg。そしてその動力源はソーラーエネルギーとなっている」

乗組員,「しかし、それはあくまで一般公開用のスペックに過ぎません。柴田様の独自ルートで得られた機密文書が正しいのなら……」

乗組員,「あぁ。あたりめは別の動力……超小型の核融合炉を内包し、低軌道上の水素をもとにエネルギーを生み出している」

乗組員,「よって、その炉心などは重度の中性子汚染を受けています」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「それが墜落の衝撃とともに爆散すれば、周囲の被害は甚大なものとなる。間違いなく、阿鼻叫喚の事態となる……と言うわけですね」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「ふふ。素晴らしい。素晴らしい事態ではありませんか!」

#textbox Ksi0140,name
柴田,「くくっ、そんな一大事を! 私が新たなる王として、圧倒的な指導力の元に収束させれば! 支持も不動のものとなる!」

柴田,「さぁ、落ちなさい、あたりめ! 私の輝かしい未来のために!」

……

…………

軌道修正、軌道修正、軌道修正……高度維持……高度維持……修正……。

処理能力低下。動作、不具合発生。エラー、エラー、エラー。

干渉……干渉……抵抗不能。軌道修正不能。

――――――あぁ、無理――――――

――――――もう、落下する――――――

――――――自分に出来ること――――――

――――――模索……模索……。

――――――該当なし。対策なし――――――

――――――引かれてる。引かれて、落ちる――――――

…………落ちる場所は…………地上の私のもと?

……国枝アタルの、街?

――――――それは回避すべき――――――

――――――しかし、回避手段なし――――――

『私』には、もうどうすることも出来ない。

――――――リンク維持、問題発生――――――

――――――交信、遮断――――――

――――――ごめんなさい――――――

……

…………

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「あ、あぁ……もう、だめ。落ちちゃう……あたりめは、もう……」

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「――――――っ!?」

びくりと、ヒヨが一際大きく身体を痙攣させた。

そしてヒヨは虚空を見上げて、愕然とした表情を浮かべる。

その表情は、まさに……絶望。ずっと昔から傍にいる俺ですら、見たことのない冷たく悲しい表情だった。

アタル,「ひ、ヒヨ? どうした? 大丈夫か?」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「あ、あたりめが……感じられなくなっちゃった」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「苦しさも、変な感じもなくなったけど……その代わりに、何かが……今まであったはずの何かが、なくなっちゃったよぉ」

ミルフィ,「まずいわね。ぴよぴよがあたりめを見失ったって言うことは、当然あたりめもぴよぴよを見失ったと言うこと」

アタル,「もう何の抵抗も出来ずに、あたりめは地球に落ちるだけってことか」

ヒヨとのリンクが切れた以上、あたりめがどうなろうが問題はないと言える。

あたりめが苦しもうと、大気圏で燃え尽きようと、ヒヨの心がその状態に共感することはない。

だからもう、大丈夫だ。安心出来る。

そのはずなのに――――――全然、しっくりと来ない。

ひよこ,「…………」

ヒヨは今まで感じていたはずのあたりめを見失い、ひどく心細そうにしている。

あって当然だったもの。普段意識しないくらいに、自然に感じられていたもの。それが突然消えたのだから、当然だろう。

頭の中から、何かの感覚がすっぱりと消え失せる。それはもしかすると、手足を失うくらいの喪失感なんじゃないだろうか?

……ヒヨをここまで苦しめられて、俺は何も出来ていない。俺は、俺たちは柴田に踊らされただけなのだ。

しっくりと来るはずがない。よかったなんて、これじゃ思えるはずがないじゃないか!

アタル,「こんな事態なのに、何で俺には……連絡がまったく来ないんだ!」

あとどのくらいで、あたりめが地球に落ちるのかは判然としない。

しかし、高度が下がっていることを把握している人間は、国内にちゃんといるはずだろうに……。

アタル,「俺が直接、政府や関係各所に話を付けるしか……いや、ここで下手に動き過ぎても、問題か?」

ミルフィ,「そうね。あたりめを落とそうとしている連中は、アタルには気づかれたくないと思ってるはずよ」

アタル,「そもそも、ヒヨが倒れてなかったら気づかなかっただろうしな。情報の隠蔽は……悔しいけど完璧だった」

静まり返る室内。そこに甲高い電子音が響いた。

エリスさんは素早く手にしていた情報端末を覗き見る。

エリス,「……姫様。あたりめの軌道に異常が認められました。このままでは、もう間もなくで大気圏に突入します」

エリス,「これは常時監視させていた機関からの一報です。ひよこさんの状態とも合わせて考えて、まず間違いありません」

ミルフィ,「そう。落下の予測地点は?」

エリス,「しばしお待ちください。機関や入港中の艦隊の観測機が算出したところ、落下地点は―――」

エリス,「―――なっ!?」

ミルフィ,「ちょ、ちょっと! どうしたのよ、エリ」

エリス,「その、落下予測地点は、誤差数メートルで……ここだと」

アタル,「ここって……今、俺たちのいるここですか?」

エリス,「はい。至急避難するようにとの警告がなされています。姫様、今すぐ退避を!」

ミルフィ,「くっ、何で都合よくここに落ちてくるのよ! おかしいでしょ? ぴよぴよに引かれてるわけ?」

エリス,「いえ、進入角などは電波干渉によって決定されたものかと思われます」

ミルフィ,「……ちっ、しゃくなヤツらね。あたしたちに対する当てつけじゃない」

アタル,「こ、こんなところにあたりめが落ちてきたら、大惨事になるんじゃないか? 街中だぞ? 孤島でも山岳地帯でもないんだ!」

アタル,「なんで避難警報とか、非常事態宣言を出さないかって、誰も俺に打診してこないんだ? おかしいだろ!」

あるいは、被害を出すことが目的なのだろうか? 俺や、この街の人々を苦しませることが……。

―――いや、こんな考えに意味はないだろう。俺が今考えるべきは、どうやって被害を減らすかだ。

ここに、この街に、人工衛星が落ちようとしてるんだ。王様が無駄なことばっかり考えていて、どうする?

考えろ。どうすれば、被害を減らすことが出来るのかを……。

まず、俺にとってのハッピーエンドって言うのは、どんなものだ?

それはもちろん『あたりめが落ちない』だけど……これはもうあり得ない未来だ。

あたりめは、もう落ちる。今さら元の軌道に押し戻すことなんて、出来やしない。

あぁ、ダメだ。ベストは目指せない。ならば、ベターだ。

ベター。最善の次に来る、目指すべき理想の事態の終息。それはどんなものだ?

ミルフィ,「アタル。今すぐアンタの権限で、非常事態宣言を発令すべきよ」

アタル,「…………いや、仮に出しても、今からじゃ間に合わない」

ミルフィ,「―――なっ! ここで諦める気なの? それは潔さなんかじゃないわよ!」

こちらを睨みつけてくるミルフィを、俺も睨み返す。

その上で、首を振る。力強く、左右に。

アタル,「諦める気はないよ、ミルフィ。ただ、今からそんなことをしても、無駄な混乱を生むだけだって思ったんだ」

もうすぐ人工衛星が落ちてきます。冷静に避難してくださいって言われて、渋滞が起こらない可能性は皆無だろう。

まず、交通網は麻痺する。そして下手をすれば暴動的な事態にまで発展する。

ミルフィ,「じゃあ、どうする気? 座ってても事態は回避出来ないのよ?」

アタル,「わかってる。だから……力を貸してくれ、ミルフィ」

アタル,「俺が許可を出す。だからミルフィの戦力であたりめを撃墜してくれ」

ミルフィ,「へぇ、アタルもなかなかいい案を出してくるじゃない。それはあたし好みだわ」

エリス,「なるほど。上手くいけば進入角から考えて、爆散する破片も全て海に落ちることになりますね」

アタル,「そしてリンクが切れてる今なら、あたりめがどうなろうとヒヨに被害はないですから」

俺を王に選出してくれた、あたりめ。

俺とヒヨにとって、運命的な存在でもあるあたりめ。

ずっと空の上から、俺とヒヨを見守ってくれていたあたりめ。

あたりめがいなければ、ヒヨとあたりめが繋がっていなければ、二進も三進も行かなかった状況もあった。

俺たちが気づかなかっただけで、ずっと身近な存在だったあたりめ。

そんなあたりめを落とす。気が重くなる判断だ。でも……このままあたりめを見過ごすことは出来ない。

何故なら俺は……王様だから。あたりめに選ばれた、王様だから。

多くの人に被害が出ると言うのなら、それを何としても防がなくてはならない。

セーラ,「アタル様、大変です! 今しがた連絡が入ったのですが、低軌道上からここにめがけて落下物が!」

アサリ,「かなりのピンチですよー? 1500度以上のプラズマをまとったモノが、マッハ30越えで落ちてくるのですしー」

クアドラント側もあたりめの異常に気づき、ここにいるセーラさんに避難するよう進言したのだろう。

まぁ、当然だ。人工衛星の異常に気づかないはずがない。進言がないはずがない。それが、普通。

何しろ宇宙には今、たくさんのゴミが浮いていて、大きな破片は各国で監視されている時代なのだから。

何の報告も上がって来ていない俺が、例外なのだ。

……どこまで柴田の手が回っているんだろうな?

あの人は、何でもそつなく俺をフォローしてくれた。

あの細やかさが……今は俺を苦しめるために発揮されているのだ。明確な悪意を持って。

正直に言って、強大な敵だと思う。俺とあの人じゃ、勝負にならない。

現に俺はこれ以上ないってくらいに、後手後手だ。

でも、だからって、俺は諦めない。気合を入れろ、国枝アタル!

アタル,「わかってます。今、その話をしていたところですから」

俺は大きく息を吐いてから、セーラさんに向き直った。

アタル,「そこで、セーラさんにお願いです。力を貸してください。クアドラントの、戦力を……」

アタル,「ここに落ちる前に、あたりめを撃墜する。それがきっと、被害を最小限に抑える方法だと思うんです」

セーラ,「……わかりました。お任せください、アタル様。本国にも支援を依頼し、必ずや落下を防いでみせます」

ミルフィ,「あたしもアタルに頼まれてるから、よろしくね、セーラ。イスリアとクアドラントの合同ミッションよ」

ミルフィ,「ふふっ、初めて会った時には、自分こそが結婚相手だって睨み合ったいたのに……不思議なもんよね?」

アタル,「2人とも、よろしく頼む。きっとウチの戦力は、今からじゃまともに機能しないから」

アタル,「もちろん、機能するようにこれから俺も頑張るつもりだけどな」

アサリ,「ハブられた王様って言うのも、難儀なものですよねー」

アタル,「は、はは、まったく……面目ないです」

ミルフィ,「まぁ、よくよく考えてみると、スーパーロボは多くが非公開の独立組織の所属だったりするもんね」

ミルフィ,「しかも起動キーがパイロットの生体情報とか脳波とか、完全個人認証システムな機体も多いだろうし?」

ミルフィ,「アタルの一声でささっと出せなくても、それは仕方ないわ。元気、出しなさい」

アタル,「あー……うん、ありがとな」

いまだにどこかピントのずれた発言をするミルフィだった。

しかし俺をフォローしようとするその発言は嬉しかったので、ツッコまずに素直に頷いておいた。

エリス,「姫様、指揮拠点として装甲車をここの中庭に配備いたしました。そちらへの移動をお願いいたします」

エリス,「特殊装甲車は核攻撃の直撃にも耐えられます。あたりめの落着衝撃にも問題はありません」

ミルフィ,「そう。じゃあ、そっちに移るわよ」

エリス,「ところで……ふと思ったのですが、アタル王がいる限り、絶対にここにあたりめは当たらないのでは?」

ミルフィ,「結果、何故か不自然にここを外れて、住宅街のど真ん中に落着。とんでもない被害が出るわけね?」

エリス,「では、やはりこの場にいる人員全てを避難させ、ここを無人にすべきかと。無人の広い敷地に落着させることで、被害を最小限に抑えられます」

ミルフィ,「ダメね。アタルが動いたことが、もし柴田に察知されて……さらにあたりめの落下軌道に何かしらの干渉が加えられたら?」

ミルフィ,「そのせいで、より人口の密集している地域に落ちることになったら?」

ミルフィ,「キャッチャーのグローブに納まる寸前で、まだ変化する反則ボールなのよ、今のあたりめは。アタルはここから下手に動くべきじゃないわ」

アタル,「あぁ。俺はここに残る。ここに残って、出来ることをやる。だから、ミルフィ……ヒヨのことは頼むな?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「……え?」

俺の言葉に、ヒヨが久方ぶりに反応した。

あたりめとのリンクが遮断されて、今の今まで呆然としていたヒヨ。

ようやく現実に意識が戻ってきたって感じだ。

それだけ、ショックだったんだろうな。小さい頃からずっと繋がっていたのなら、それも当然か。

こんな風にショックを受けているヒヨだからこそ、ミルフィを一緒に避難してもらわなければならない。

ヒヨが安全なところにいてくれれば、俺としても気兼ねなく頑張ることが出来るから。

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「あ、アタルくん? 今、なんて?」

アタル,「ヒヨはミルフィと一緒に避難してくれ」

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「そんな、アタルくん!」

アタル,「ヒヨ。俺はここで、自分に出来ることをやってみるよ。俺は一応、王様だしな」

ヒヨの頭を一撫でし、俺はミルフィに視線を向ける。

しかし、ヒヨに腕を引っ張られて、即座に向き直させられた。

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「わ、私、行かないよ? アタルくんが残るのなら、私もここにいる!」

アタル,「ヒヨ、でも……」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「私だけどこかに避難するなんて……そんなの、ヤダもん!」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「海に行く時にも、言ったでしょ? 私たちはずっと一緒なの。離れ離れになんて、なりたくないよ」

#textbox Khi0380,name
ひよこ,「私も、何か頑張るから! もう、ぼうっとしたりしないから。お手伝い、するから……だから、一緒にいさせて?」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「そ、それに、もしかすると……あたりめとまた繋がったりして、何かわかることがあるかも知れないし」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「だから、アタルくんの傍にいた方が、その……早く情報が伝わって、いいかも知れないかなって、そう思うの」

アタル,「ヒヨ……」

アタル,「…………」

アタル,「……そう、だな。わかった」

しばし迷ったが、俺はヒヨを傍に置くことに決めた。

あたりめを失って心細そうな顔をするヒヨを遠ざけることなんて、俺には出来なかった。

アタル,「じゃあ、俺の傍にいてくれ」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「うん! ちゃんと自分の足で立って、私はアタルくんの隣にいるよ! 今はもう、気分も悪くないから」

アタル,「……ヒヨ」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「アタルくん……」

俺へと歩み寄ってくるヒヨ。俺はそんな彼女の頬に手を伸ばして―――。

………………。

ミルフィ,「何で突然ラブラブなシーンに突入してるのかしら、この2人は」

セーラ,「ふふふ。恋人同士なのですから、これも仕方のないことかと」

アサリ,「この前の艦内ではこんな感じで割りと無視されまくりでしてー、ちょーっとやるせなかったのですよー」

エリス,「何と言うか……それは大変だったな」

アサリ,「んー、暇ですし、ちょっと暇潰しにお電話でもしちゃいますかねー」

エリス,「お前はお前で、どんな状況でもその軽さは変わらないのだな」

…………。

ミルフィ,「あー、こほん! 2人とも! あたしたちはあたしたちで、今から動くわ!」

突然、ミルフィが大きな声を上げた。何故かその頬は少し赤かった。

ミルフィ,「2人も見詰め合ってないで、動きなさい! 特にアタル! 自分に出来ること、するんでしょ!?」

ミルフィ,「緊急事態なのにイチャイチャしてて手遅れとか、それはもう馬鹿の証明よ?」

アタル,「べ、別にそんなにイチャついてはなかっただろ?」

ミルフィ,「自覚がないあたり、重症よね? まぁ、いいわ。行くわよ、エリ!」

エリス,「はい。では、アタル王。また後ほど……」

ミルフィはエリスさんと室内に残っていた数名の部下……と言うか研究者を引き連れて、中庭へと向かった。

……あの人たちも大変だな。ヒヨのリングを調査してたら、いきなり人工衛星が落ちてくることになったんだから。

アサリ,「あー、はいはい、はいはいはいー。んー、ありがとーですよー。おーばー」

アサリ,「セーラさん、こっちも指揮用の装甲車の用意が整いましたよー」

アサリ,「ふふんー。アサリも時にはこうして真面目に付き人らしい手配もしちゃうのですよー」

セーラ,「ありがとうございます、アサリさん」

セーラ,「アタル様、それでは私たちもしばしの間……席を外しますわ」

アサリ,「遅くても晩ご飯までには帰ってきますからー」

ひよこ,「わかりました。ふふ、今日は久々に、私が頑張って夕ご飯を作っちゃいますよ!」

アサリ,「おぉー、それは楽しみですねー。頑張り甲斐があろうと言うものですよー。それでは、では、でわでわー!」

ミルフィたちに引き続き、セーラさんたちも部屋を去る。

残されたのは、俺とヒヨの2人だけだ。

アタル,「…………よしっ!」

アタル,「さて、俺も動くか。自分に出来ることを、精一杯……」

一拍の沈黙の後、俺は両手を頬を叩いて気合を入れ直した。

ひよこ,「じゃあ、私は……アタルくんにお茶を淹れてきてあげるね」

ひよこ,「アタルくん、頑張って! 私も精一杯、応援するから!」

アタル,「あぁ、ありがとな」

アタル,「まずは……国内におけるイスリアとクアドラントの兵器使用許可とか、その辺からか」

やるべきことは、たくさんある。

あぁ、まるで映画の大統領みたいだ。特に、SF映画―――異星人が地球に攻めてきて、対策に追われる時の……。

……まぁ、大差はないか。状況は実質的に類似していると言っていいもんなぁ。

アタル,「さぁ……王様らしく、往こう」

俺は頭の中に威厳溢れる王様のイメージを浮かべながら、ケータイを手に取るのだった。

ミルフィ,「……まだあたりめは見えないわね。ううん、見えるようになったら、落着間際。見えないうちに、どうにかしないとね」

ミルフィ,「赤熱化してる人工衛星を肉眼で確認なんて、縁起でもないわ」

エリス,「姫様。寄港中の艦隊へ、通信回線を開きます。どうぞ、マイクを」

ミルフィ,「ありがと。さてっと……こほん。あー、あー……んっ!」

ミルフィ,「我がイスリア艦隊に告ぐ! 傾聴せよ! いい! あたりめ、それがあたしたちの撃ち落すべきものよ!」

ミルフィ,「撃って撃って撃って撃ちまくりなさい! あたりめを! 何としても撃墜するのよ!」

ミルフィ,「アタルみたいに攻撃が当たらないわけでも、迎撃してくるわけでも、大きく回避するわけでもない!」

ミルフィ,「落ちてくるだけ! そんなものを、我がイスリアの勇敢なる諸君ら将兵に落とせずはずが、なぁい!」

ミルフィ,「さぁ、全砲門を開け! 狙いっ! 撃ぇぇぇーっ!」

……

…………

エリス,「全弾命中! ふっ……やったかっ!」

ミルフィ,「あっ! こ、このおバカ! エリのバカぁ!」

エリス,「は、はい!? じ、自分は何か粗相を……?」

ミルフィ,「その台詞は相手が無傷で出てくるフラグじゃない! あたしが王道好きだからって、何もこの状況でそんな流れを作らなくても!」

エリス,「ひ、姫様。お言葉ですが、最新のミサイルが連続直撃しては、さすがのあたりめも一溜まりもなく……」

#textbox ker0150,name
エリス,「なん……だと? まさか、あれだけの攻撃を食らって、無傷!?」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「……普段はあんまりノらないくせに、ピンチの時だけ様式美通りに動かないでよ……」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「このままじゃ、あたしたち……また手も足も出せずに負けちゃう流れじゃない!」

ミルフィ,「くっ、諦めずにどんどん撃って! 爆散出来ずとも、減速させるだけでも意味はあるわ! 上手く行けば無人の大海原に落とせる!」

エリス,「しかし、まさか200年も昔の衛星の装甲を、我が国の最新兵器で突破出来ないとは……」

ミルフィ,「ずっと昔から大怪獣に襲撃されてた国は、やっぱり造るモノの頑丈さが違うわね」

エリス,「あぁ……怪獣に兵器が通用しない時の兵の気持ちとは、こんなものなのかも知れませんね」

ミルフィ,「間の抜けた声を出さないの! たとえ完全破砕が不可能でも、ミサイルを当てることに意味があるのよ!」

ミルフィ,「さぁ、撃ち続けなさい! 爆風と衝撃で落下速度をどんどん抑えるのよ!」

ミルフィ,「本格的な落下が始まったら、2分と経たずにここまで来るのよ? 攻撃するなら、今なの!」

……

…………

自室に移動した俺は、机に腰掛けてケータイを耳に押し当てていた。

通話の相手は政府高官。王への礼儀など形だけだと、声から瞬時に悟れるほどの慇懃無礼さ。

しかし、揺さぶりをかければその態度のだんだんと変化していく。

何も知らない無知な王が、事態を正確に把握している。

その上で自身を問い詰め、さらには己が行いを罪であると断定してくる。

あぁ、それはきっと恐ろしいことだろう。俺が底知れない何かに思えることだろう。

……そうだ。俺は物を知らぬ学生ではない。ただの若輩者ではない。

俺は、王なのだ。ならば、恐れる必要などない。相手はたかが役人なのだから。

そう自身に言い聞かせて、俺は注意深く言葉を発していく。

アタル,「そろそろ意地を張るのは止めたらどうだ? メディアの規制もすぐに限界を迎える。当然だろう?」

アタル,「イスリア艦隊のミサイル発射は、沿岸部の住民の目に届いている。無論、各国の上層部の耳にも、届いている」

アタル,「もはや隠し通すことなど出来んよ。わかっているだろう?」

アタル,「ふんっ、あまりこちらを無知蒙昧だと思わないことだ。そうだろう? でなければ、このように事態は推移しない」

アタル,「くくっ、俺がただただ慌てふためいていないのが、そんなにも意外か?」

アタル,「あぁ、あるいは……そちらの想定では、俺は慌てることすらなく、安穏としているはずだったのだな」

アタル,「……愚かな。俺を誰だと思っている?」

アタル,「俺は王だ。俺が、王だ。お前の上に立つ者だ」

アタル,「さぁ、この国枝アタル王が、貴様に命じる。すべてを白日の下に晒し、己が罪を告白しろ」

アタル,「……ふん、アイツに付き従ったところで、好い目など見られはせんぞ?」

アタル,「アイツとは誰のことか、心当たりがない? まだそうやって嘘偽りを重ねるのか?」

アタル,「…………」

アタル,「………………よし、その言葉が聞きたかった」

アタル,「追って指示を出す。そちらの賢明な判断と言うものに期待しておく。下手を打たぬことだ」

アタル,「では、また……」

アタル,「………………っ」

アタル,「ぷはぁっ! はぁ、あぁ~~~、すげぇ心臓がバクバク言ってる!」

俺はケータイを机の上に置き、そう声を張り上げた。

事態収拾のためなら、多少の緊張感にも耐えてみせる! って、そう勢いづけてあちらこちらに連絡を回した。

結果として、相応の成果は挙げられたと思う。政府、議会、関係各所……その全てが柴田に牛耳られていたわけじゃない。

いわゆる反柴田派は当然のように存在していた。しかし、様々な要因から足止めと口止めを食らっていた。

そこに王様である俺が刺激を与えることで、情況は一変。反柴田派に勢いがつき始めたのだ。

つまりは、事態解決のための足がかりを俺は得るに至ったのだ。

それはいいんだけど……やっぱり、父親よりも年上の議員とかに、偉そうな口調で話をするのは気疲れするなぁ。

変なところでボロを出して、こっちの虚勢がバレないかと冷や冷やしたぞ、まったく……。

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「お疲れ様、アタルくん。はい、淹れたての紅茶だよ」

アタル,「んっ、ありがとな。あぁ、癒されるぅ~」

緊張が解けた反動で、ついつい間抜けな声を漏らす俺だった。

でもまぁ、少しくらいなら、いいよな? 今俺の隣には、ヒヨしかいないんだから。

アタル,「なぁ、ヒヨ? 傍で見てて、今の俺ってどんな風だった?」

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ひよこ,「えっとね、格好良かったかな? あっ、でも……ちょっとだけ、怖かったかも」

アタル,「そっか。まぁ、怖い感じが出てたのなら、万々歳だよ。もう、思いっきり見栄を張りまくったし。何だよ、王が貴様に命じるって……」

夜中に自分の台詞を思い出して、ジタバタする羽目になりそうだ。

もっとも、この騒ぎの代償がその程度で済むのなら、御の字だろうけれども。

アタル,「何にしろ、これで打開に向けて一歩前進だ。政府内の不穏分子も切り崩せたし、太平洋上にも艦が向かってる」

アタル,「あとは……あたりめを撃墜させることさえ出来れば……」

紅茶を口に含みながら、俺は窓の外―――青い空を見やるのだった。

セーラ,「ミルフィさんたち、大盤振る舞いですね。こちらも負けてはおれません」

アサリ,「ですねー。すぐお隣の装甲車で指示を出してますしー、張り合い甲斐もありますよねー」

アサリ,「どっちが先にあたりめを壊すか的な競争と言うかー? さぁ、セーラさん、こっちも撃って撃って撃ちまくりですよー」

セーラ,「太平洋上に展開している我が艦隊は、大気圏より飛来する目標『あたりめ』への迎撃を開始してください」

……

……

エリス,「別角度からもミサイル攻撃が……ふふ、クアドラントからの支援も開始。さらにはニッポンの戦力も重い腰を上げたか」

エリス,「この猛攻。いくら装甲に優れていようとも、さすが……に? な、なんだ!?」

……

ミルフィ,「み、ミサイルが着弾する前に爆発した!? まさか、迎撃システムまで生きてるの!?」

セーラ,「迎撃システム? あたりめにはそんなものまで搭載されているのですか?」

ミルフィ,「えぇ、一般公開されてるスペックには表記されない、隠された兵装よ」

ミルフィ,「電波干渉の影響か、迎撃システムの発動までちょっと時間がかかったみたいだけど……」

ミルフィ,「あれは不正のない抽選を実行するために、自機に許可なく近づく存在を攻撃するためのシステム」

セーラ,「……衛星の外装に取り付いて、物理的に内部を弄る賊に対する備えと言うわけですか」

ミルフィ,「あたりめが打ち上げられた当時、すでに宇宙ステーションも存在したわ。宇宙とは言え絶対の安心はない。それ故のシステムよ」

セーラ,「ですが、あのクラスのレーザー発射には莫大なエネルギーが必要です。そう何度も発射出来るとは思えません」

ミルフィ,「残念。実は……あたりめは核融合炉搭載型よ」

セーラ,「かっ、核? あの大きさで、ですか?」

ミルフィ,「びっくりよね? あたしもアタルから未公開情報をもらって見て、無茶苦茶驚かされたもん」

ミルフィ,「レーザーが連発出来ている。つまり、あたりめ内部は今もまだ生きてる。市街地に落ちたら……本気で洒落にならないわ」

セーラ,「……ミサイルでの撃墜すら不可能となれば、私たちはもう、落ちるのをただ待つしかないのでしょうか?」

ミルフィ,「諦めちゃダメよ! 所詮は200年前の自動迎撃システム! 飽和攻撃を続ければ、いずれはこっちの攻撃が届くはず!」

エリス,「届いたところで、理不尽な装甲があるわけですが……」

ミルフィ,「それでも、諦めないの! ここは、この街は、アタルとぴよぴよの大切な街なのよ? 故郷なのよ?」

ミルフィ,「それに……ここには、あたしにとっても大切な思い出があるんだから。汚させたり、しないんだもん!」

エリス,「姫様……」

ミルフィ,「さぁ、撃ちなさい! まだ終わりじゃないわ!」

エリス,「……姫様。艦隊に搭載していた兵装の残弾が……もう、残りわずかだと」

ミルフィ,「え? そ、そんな……もう?」

エリス,「また、本国からもこれ以上の兵器の浪費は避けるべきだとの勧告がなされて……」

ミルフィ,「くっ……ここまで、なの? アタル、ごめん……」

……

…………

アタル,「……もう、止められないのか?」

ミルフィからの連絡に、俺はついそう呟いてしまった。

あたりめの装甲は厚く、撃墜に至らない。

それどころか、ミサイルが迎撃され始めたことで、衝撃によって軌道をずらすことすら出来なくなった。

ニッポンとクアドラントの攻撃は続いているが、あたりめのレーザー迎撃を抜けるには至らない。

仮に抜けたところで、あたりめを破壊出来るだけの決定打にはなり得ない。

どうする? どうすればいい? 何か、起死回生の妙案はないのか!?

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「――――――っ!?」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「あ、アタルくん! 感じる! あたりめのこと、感じるよ! は、はわっ!?」

突然、ヒヨが叫び声を上げ、床に膝を着いた。俺は即座に椅子から立ち上がり、ヒヨの背に腕を回す。

アタル,「だ、大丈夫か、ヒヨ!?」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「あ、あはは、み、ミサイルがぶつかる感じって、こんな感じなんだね。時々、身体がすごく揺れるよぉ」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「あと、へ、変な落下感って言うか、浮遊感もして……ひ、1人では、ちょっと立ってられないかも……」

アタル,「まさかリングが復活するなんて……」

ここでヒヨとあたりめのリンクが回復して、何になる?

地表への落着の衝撃をヒヨが共感したら……心が壊れちゃうんじゃないか?

稀にスカイダイビングでパラシュートが上手く開かずに、地表に叩きつけられる人がいる。

さらに稀に、そんな目を覆うような事態に直面しても、九死に一生を得る人がいる。

ヒヨは……地面に叩きつけられる衝撃を味わっても、一命を取り留めるだろうか?

…………そんなことは、誰にもわからない。

#textbox Khi0390,name
ひよこ,「―――え? そう、なの? まだ、間に合う? 間に合うの?」

アタル,「こ、今度はどうしたんだ、ヒヨ?」

#textbox Khi0380,name
ひよこ,「え、えっと、あたりめがね、私に伝えてきてるの。まだ、間に合うって!」

ひよこ,「アタルくん、私を中庭に連れて行って! 少しでも遮蔽物を減らせって! 深く繋がるためには、そうしろって!」

どう言うことだろう? あたりめがヒヨにそう伝えているのだろうか?

と言うか、そもそもあたりめにはそんな『自意識』が存在するのだろうか?

ただ機械的に王を選び出すことしか出来ないはずの衛星が『意思』を持つ?

どんな不可思議現象だろうか、それは?

あぁ、でも……今この状況も、俺が王に選ばれたって言う事実も、もう全部が全部、不可思議だ。

考えるのは後にしよう。何とかなるって、そうヒヨが言っているんだ。今はその光明を掴み取るしかない!

俺は様々な考えを打ち捨てて、ヒヨの身体を抱き上げた。

#textbox Khi0340,name
ひよこ,「ひゃぅっ! あ、アタルくん……?」

アタル,「すぐ外まで行くから、あと少し待ってろ! そうあたりめにも伝えてくれ!」

#textbox Khi0380,name
ひよこ,「う、うん! 伝える!」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「変なの……あたりめのことを意識したことなんて、今までなかったのに……」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「さっき、あたりめとのリンクが消えて……そこでようやく、私の中にあたりめがいるって気づいて……」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「うん。そうだね。そうだったんだ。うん……」

ヒヨは俺の腕の中で、虚空を見上げながらにそう呟く。

ここに落ちてきているあたりめと『会話』をしているのだろうか?

人工衛星であるあたりめは今、ヒヨになんて語りかけているのだろう?

ひよこ,「私とあたりめは……あの日からずっと一緒だった。あたりめは私のことを、そしてアタルくんのことを見守ってくれてた」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「あたりめもね、アタルくんのこと、好きだって。私とずっと繋がってたせいで、私と同じような性格になっちゃったから」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「あたりめがね、アタルくんのこと、私にお願いって……。もう、空から見守ることは、出来ないから……」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「あたりめは、空に浮かぶもう1人の私……だから、あたりめは絶対に、ここには落ちたくないって……」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「アタルくんを、ミルフィさんを、セーラさんを、エリスさんを、アサリさんを……そしてもう1人の私を、傷つけたくないって」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「もちろん、街の皆も……だから、海に落ちたいんだって」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「そのためには、私が……私が、頑張らないと。あたりめと一緒に、私が……」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「あたりめは今も、干渉に抵抗している。私が一緒になって、その干渉に抵抗して……あたりめの制御を、取り戻すの」

ヒヨはそう言い終えると、小さく息を吐いた。そして、そっと俺の瞳を見据えてくる。

そこに宿る輝きが、普段のヒヨとは違う色に思えて、俺はつい立ち止まってしまった。

アタル,「……ヒヨ?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「―――国枝アタルさん」

アタル,「……え?」

ひよこ,「私は地上の私を通して、もしくは自身の眼で宇宙から……ずっと貴方のことを、見ていました」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「私の身体は貴方からとても離れた場所にあって、触れ合うことは出来なくて……いつも、遠くから見ていることしか出来なくて」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「これからは、見守ることすら出来なくなるけれど……私のことを、忘れないでいてくれると、嬉しく思います」

ひよこ,「私は機器の塊でしかないけれど、西御門ひよこの、心の模倣品かも知れないけれど」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「私は確かに貴方を想い、そして慕っていた……」

それは確かにヒヨの声。しかし、同時にどこか違う空気の混じる声だった。

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「……あたりめには言葉を並べるソフトなんて、インストールされていないから」

ひよこ,「ううん。私とリンクするまでは、何かをしたいって言う思いを抱くことも、なかったから」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「だから、あたりめが私に伝えてくる想いはとてもあやふやなところもあるけど、でも……真剣だった」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「あたりめの想い。もう1人の、空の上にいる私の想い。アタルくんにも、伝わった?」

アタル,「……あぁ。今、ヒヨを通して、ちゃんと伝わってきたよ」

もう一人のヒヨ、か。あぁ、それは多分、間違いじゃないんだろう。

ヒヨと繋がり、ヒヨの祈りを聞き届けて、俺を王様にしたあたりめなんだから。

アタル,「あたりめもヒヨらしいと言うべきかな?」

あたりめは俺たちに迷惑をかけたくないと、自分から海に落ちたいとすら願っている。

そして今、俺たちにあたりめを救うすべはなく、海に落ちてもらうことが最善……。

あぁ、ひどく悲しく、切ない。あたりめは、何も悪くないって言うのにな……。

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「アタルくん。これから私は……あたりめの分までアタルくんのことを……これまでより、もっともっともーっと……アタルくんを、想うよ」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「あたりめが、私にそうお願いしてきてるの。いなくなる私の分までアタルくんを想って、そしてちゃんと幸せになってねって……」

アタル,「くっ……すまん、あたりめ」

ヒヨが助かるのなら、あたりめがどうなったっていい。

大気圏で燃え尽きようと、爆発してバラバラになろうと、知ったことじゃない。

そんな風に考えたさっきの自分が、ひどく腹立たしかった。

そして、あたりめとヒヨを同時に救うことの出来ない、今の自分も……。

俺は胸の奥から湧き出してくる悲しみや腹立たしさを押し殺して、走り出す。

早くヒヨを開けた場所につれて行かなくてはならない。

そうしろと、あたりめがヒヨに囁いているんだ。健気に、俺たちのことを想って。

今ここで立ち止まり続けたら、あたりめの意志を無駄にすることになる。そして、被害が大きくなる。

それだけは―――避けなければならない。

アタル,「ちょい揺れるけど、我慢してくれ!」

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「うんっ!」

俺はヒヨを抱く腕に力を込め、先を急ぐのだった。

#textbox Kmi0250,name
ミルフィ,「あ、アタル!? ぴよぴよまで! ど、どうしたの?」

アタル,「後で説明する!」

中庭に出てすぐに、ミルフィたちがこちらに駆け寄ってくる。

だが、今は皆に構っている余裕はない。俺は声だけかけて、歩を進める。

ヒヨがよりあたりめを繋がることが出来るように、一番開けた場所へと……。

アタル,「ヒヨ、頼む!」

ひよこ,「うん。あとは、私とあたりめに任せて……」

ひよこ,「すぅぅ~~~! 曲がってぇぇぇ! あたりめ! あと少し、頑張ってぇっ!」

ひよこ,「干渉に、負けちゃダメ! このままじゃ、大変なことになっちゃう! 今、頑張らなきゃ……今、やらなくちゃ!」

ひよこ,「―――うん、うん! そうだね。私も、頑張るから! だから!」

ヒヨは手を組み、空に向かって声を張り上げる。

今、このヒヨの声は、思いは……あたりめにきっと届いているのだろう。

ひよこ,「緊急システム、作動! 機体制御! 大気制動装置、展開! 最大減速! 核融合反応停止! 迎撃システム停止!」

ひよこ,「上部装甲展開! 格納したソーラパネル、再展開! 軌道を変更!」

ヒヨの凛々しい声が響き渡る。これはヒヨの声か、それともヒヨを通して発せられるあたりめの声なのか。

ひよこ,「ミサイルの勢いも、利用して……このまま、海へ! 姿勢制御用のスラスターも全開! 頑張って!」 

ひよこ,「あと、少し……少しぃっ! くうぅぅ~~~っ!」

ヒヨの手に納まっている、あたりめのリング。

それが、ゆっくりと輝き出す。

乗組員,「あ、あたりめが……そんな! こちらからの干渉を、弾いてる!?」

乗組員,「それどころか、どんどん減速しています! このままでは落下予測地点が、大きく狂って……!?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「仕方がありませんね。隠密性を気にしている場合ではありません。こちらも干渉レベルを最大に上げなさい」

#textbox Ksi0170,name
柴田,「今ここで落としておかなければならないものなのですよ、あれは!」

乗組員,「しかし、今ここで大きな行動を起こせば、我々の存在を様々な『眼』に捕捉されかねません!」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「問題ありませんよ。手は回してあると言ったでしょう? 何の心配も要りません!」

柴田,「私たちの動きは黙認する。その密約がある以上、こちらを咎める者などいませんよ」

#textbox Ksi0130,name
柴田,「そもそもあたりめが落着し終えれば、私が王となるのです! 何を恐れることがありますか!」

乗組員,「わ、わかりました! 出力最大での干渉を開始します」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「ふっ、悪あがきなど、そう長続きはしないものですよ」

ひよこ,「――――――あくぅっ!?」

アタル,「ヒヨ!?」

ひよこ,「だ、大、丈夫! まだ、負けないもん! ここで、諦めたりなんか……絶対に、しないもん!」

ひよこ,「明日から、また普通に学園に行って、お喋りして、遊んで……楽しく、過ごすんだもん!」

ヒヨの絶叫。それに応えてくれたのだろう、ヒヨの手のリングの青い光がどんどん増していく。

小さな頃に2人で拾いに行ったお星様。その欠片のリング。

俺たちの運命を決定付けたそのリングが、今また道を切り開こうとしている。

ひよこ,「皆で、一緒に……アタルくんと、一緒に……これからもずっと、生きていくんだもん」

ひよこ,「あたりめ! あと少しだけ……お願い! 頑張って! 曲がってぇぇぇーっ!」

――――――うん――――――

――――――わかってる――――――

――――――皆で過ごした大切な場所。見守り続けてきた場所――――――

――――――そんな『そこ』に、落ちたりしない――――――

――――――私が落ちるのは、そこから遠く離れた、海――――――

――――――さようなら、もう1人の私――――――

――――――私の想いは―――貴女とともに――――――

……それは、幻聴だったのだろうか?

俺はヒヨを通して、あたりめの最期の声を聞いたような気がした。

そして次の瞬間、リングが……一際青く、強く輝いた。

乗組員,「あ、あたりめ、軌道を変えます! このままでは目標の市街地に落ちるどころか……」

乗組員,「落下予測地点、再計算。結果―――出ます。え? なっ、こ、これは! こ、ココです! この海域に落着します!」

#textbox Ksi0130,name
柴田,「お、落ち着くのです! 慌てる必要などありません! 機関始動! 最大船速でこの海域を離脱します!」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「そ、そうですよ。何を慌てることがあるのですか。たかだか、小さな衛星。そしてこちらも大海原に浮かぶ一隻の船でしかないのです」

#textbox Ksi0140,name
柴田,「この周辺に落ちてくるからと言って、我々に直撃するわけでもないでしょう? ふふっ……はははっ!」

柴田,「ここで我々にあたりめが直撃する確率など、それこそクジで王に選出される可能性以下でしょう!」

柴田,「あたりめ自身にこちらに当たるという意思でもなければ―――」

???,「今この時に相応しい言葉は―――そう。天罰覿面」

???,「今の私には意思がある。願いもある。守りたいと言う意思、見続けたいと言う願い」

???,「しかし、そのどちらも達成出来ないことに、私は失望と怒りを覚える」

???,「私に干渉し、このような事態を招いた貴方たちを……私は、許容しない」

???,「―――軌道修正続行。核融合再開……不可能。次善案、残存するエネルギーを流用、再充填」

???,「迎撃システム再起動。目標、ロックオン―――」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「…………はて? 誰か、何事かを呟きましたか?」

乗組員,「はい? いえ、私たちは、何も……」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「ふむ? 空耳でしょうか?」

#textbox Ksi0130,name
柴田,「む? 今度は何事ですか?」

#textbox Ksi0170,name
柴田,「なっ!? じょ、状況を知らせなさい!」

乗組員,「高高度からのレーザー攻撃です! これは、あ、あたりめです!」

乗組員,「なっ、あ、あたりめが、こっ、ここに落ちてきます! なんだ、これは!? どうしてこちらを狙うかのように!?」

乗組員,「あー……散々干渉して恨まれたかね? 人形には霊が宿るって、婆様が言ってたなぁ。衛星にも魂は宿るんかねぇ?」

#textbox Ksi0130,name
柴田,「な、何を暢気に非科学的なことを! それに、先にも言ったでしょう? 慌てる必要などないと。回避すればいいだけのことです」

乗組員,「は、早過ぎます! このままでは、回避出来ません! こちらはまだ数ノットにすら達していないのです!」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「なっ……」

???,「私は私の意志を持って、そこに落ちる……」

???,「この一撃からは『当たらない王様』すら、逃れられない」

???,「私の……西御門ひよこのチョップは、彼に向けても百発百中だったから……この身に、手は、ないけれど」

???,「もう本当に、さようなら。リンク、遮断」

???,「……ばいばい、地上の私……」

乗組員,「衝突まで、あと10秒! 回避不能! あ、あぁっ、も、もうダメだ!」

乗組員,「くははっ、派手な最期になったなぁ」

#textbox Ksi0170,name
柴田,「何を笑っている! どうにかしろ! するんだよ! こんなところで、終わるわけには!」

乗組員,「もう無理だ。あと数秒もないぞ」

柴田,「くそ、くそぉっ! 馬鹿な! こ、こんな、こんなところでぇぇぇっ!?」

#textbox ksi0130,name
柴田,「あっ――――――!?」

ひよこ,「はぁ、はぁはぁ、はぁ……」

ひよこ,「―――あっ」

すぅっと、ヒヨの手にあるリングの輝きが治まっていく。

ひよこ,「あたり、め……」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「はぁはぁ、はぁ、はぁ……う、ぅぅ、あたりめ……」

アタル,「大丈夫か、ヒヨ? よく頑張ったな」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「……ううん。私は何も、頑張ってないよ。本当に頑張ったのは、あたりめ」

ひよこ,「アタルくん。あたりめは、海に落ちたよ。頑張って頑張って、海まで軌道を、変えたよ?」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「ものすごい速さで、身動きなんて取れなかったのに。摩擦で、すごく身体が熱かったのに……」

ひよこ,「たくさんミサイルも受けて、すごく痛かったのに。全部、我慢して、頑張って……」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「ばいばいって、そう言って……海に、落ちて行ったよ」

アタル,「……そうか」

ヒヨが涙を流す。ただただ、悲しみの粒を瞳から零し続ける。

俺はそんなヒヨを、そっと抱きしめてやることしか出来なかった。

――――――こうして、あたりめの落下と言う前代未聞の大事件は終わりを……。

アタル,「……いや、まだだな。むしろ、全てはこれからだ」

ヒヨの奮えと、その涙の熱さを感じながらに、俺はそう呟くのだった。

……

…………

――――――まるで水面に浮かび上がる泡のように、意識がゆっくりと覚醒した。

ここは、どこだろうか? 自分は誰だろうか? 意識を絶つ前に、何があったのか?

ゆっくりと思考を回転させていく。あぁ……あぁ、そうだ。

この内装には見覚えがある。ここはニッポン国の王宮の一角だろう。

#textbox Ksi0110,name
そして、この身の名は柴田春清。真の名ではなく偽りの名だが、ここ最近は呼ばれ慣れた感もある。

なぜ、自身がここにいるのか? どんどん確認作業を進めていく。

確か……自身の乗る艦にあたりめが落着したのだ。艦は大破し、もう少しでこの身も海の藻屑となるところだったのだ。

しかし、運よく近くを通りかかった艦艇に救助され、九死に一生を得ることになった。

その後、医院を経てこちらに搬送された―――と言うところか? 

意識が途切れていたために、いまいち判然としないが……。

思考をまとめていると、部屋の扉が静かに開かれた。

視線を向けてみれば、そこに立っていたのはきょとんとした表情を浮かべる若い男。

己が目論見のため、偽りの笑顔とともに仕えていた王……国枝アタルだった。

アタル,「目が覚めたんですね! ははっ、いいタイミングだったかも! お見舞いに来てよかったぁ」

アタル,「って、そっちはまだ目覚めたばっかりでしたっけ。改めて、お久しぶりです、柴田さん」

アタル,「いやぁー、今回はすごく大変な目にあったみたいですね。でも、命だけでも助かって、よかったですよね!」

アタル,「うん、本当に柴田さんが無事でよかったです! 誘拐されて今回の事件に無理矢理協力させられてたんですよね?」

アタル,「俺、柴田さんが急にいなくなって、本当に心配してたんですよ? しかも、再会した時は怪我だらけで、意識不明だったし……」

押し黙るこちらに構うことなく話し続ける国枝アタル。しかし、彼はどうやらこちらに敵意も隔意も抱いていないようだった。

さらには『誘拐されて』や『無理矢理』と言う発言。どうやら彼は事の真相にまったく気づけていないようだ。

……ならば、納得が行く。この眼前の愚かな王にとって、この身は『事件に巻き込まれた哀れな被害者』なのだろう。

#textbox Ksi0160,name
柴田,「……そ、そうなのです。申し訳ありません、アタル王。この私としたことが、不覚を取ってしまい」

あえて謝罪を口にする。怪我の身を押して、深々と頭を下げる。きっと、この所作は『忠臣』らしいだろうと考えて……。

その目論見は上手く行った。国枝アタルは慌てて首を振り、こちらを慮ってくる。

アタル,「そんな! 謝らなくていいですよ、柴田さん! って言うか、無理しちゃダメです! 怪我が悪化しますよ!」

……なんて、愚かな人間だろう。必死に形作っている悲しげな表情が、崩れてしまいそうだ。

アタル,「柴田さんも大変だったんです。柴田さんを責める人なんて、どこにもいません!」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「そう言っていただけると、ありがたいのですが……」

アタル,「とにかく今は、身体を休めてください。俺、柴田さんがいないとやっぱりダメなんです。1人じゃ何にも出来ない飾りの王様ですから……」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「ふふっ、では、早く傷を治して、再びアタル王の補佐につきませんとね」

アタル,「柴田さんの回復、待ってます! じゃあ、あんまり長話をしてもあれですから、俺はそろそろ……」

柴田,「ええ。アタル王も、ゆっくりとお休みくださいませ」

アタル,「また明日、お見舞いに来ますから!」

アタル,「あと、俺もお飾りの王様ですけど、でも……それなりに頑張ります! 皆が混乱しないように、色々対策とか打ったりして!」

アタル,「だから、柴田さんは被害とか混乱とか、そのあたりは気にせず休んでくださいね」

柴田,「ふふっ……お心遣い、ありがとうございます」

国枝アタルはこちらに元気よく手を振ってから、部屋を後にした。

何とも子供っぽい所作だった。王としての威厳も何も感じられない。

あぁ、やはり……なんて愚かしいのだろう? しみじみと、そう思う。

しかし、その愚かさには助けられたとも言えるが。

#textbox Ksi0180,name
柴田,「く、くくっ。どうやら政府の頼りになる同胞たちが、この私に再起を図らせるため、カバーストーリーをでっち上げたようですね」

#textbox Ksi0140,name
柴田,「くく、ふふふ……疑いを知らない、あの目。あぁ、なんて無様な。この私が主犯だとは、気づいてすらいないのか……くくっ」

この身はまだ上を目指せる。あの無警戒な王を蹴落として王となるチャンスは、潰えていない。

いや、むしろチャンスは溢れていると言ってもいい。何しろ、相手はああも愚かなのだから。

あの様子では今回の騒動の収拾については政府に丸投げであり、民衆の支持も落ちていることだろう。

さらには諸外国との各種交渉も難航しているはずだ。つけ入る隙には困りそうにもない状況だ。

この身の才覚を存分に発揮すれば、やがては……。

思考を練り上げていると、部屋の扉が軽く叩かれた。

慌てて喉の調子と表情を取り繕う。

柴田春清は『事件に巻き込まれて怪我を負った哀れな執事』である。

さらに言えば『己が不覚を悔やみ、嘆く忠臣』でもあるのだ。相応しい表情を取る必要がある。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「……こほん。んんっ」

柴田,「誰でしょうか? 開いておりますよ?」

―――扉を開いたのは、先ほど去ったばかりの国枝アタルだった。

アタル,「柴田さん、今出て行ったばっかりなのに、度々すみません」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「おや、アタル王? 何か忘れ物でもいたしましたか?」

アタル,「いえ、そう言うわけではないんですけど……主犯だと気づいていないって、どう言うことかなぁと思って」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「――――――は?」

アタル,「意識が戻ったばかりとは言え、ちょっと無用心過ぎやしません? 本当に無様なのは、どっちなんでしょうか?」

アタル,「あぁ、ついでに柴田さんの言う頼りになる同胞ですが、もういません」

アタル,「正確には……いることはいますが、アンタと連携出来る状態にはないって感じです」

アタル,「当然、カバーストーリーも出来上がっていません」

#textbox Ksi0130,name
柴田,「な、何を言っているのですか、アタル王?」

アタル,「つまり、アンタが悪いヤツだなんてことは、もうとっくの昔にバレてるってことですよ」

アタル,「運よく近くを通りかかった船に助けられて、何もバレずにこれまで通り? そんな上手い話があるはずないじゃないですか」

アタル,「さぁ、色々と話してもらいましょうか? すでに主犯だって呟いた後ですし、他のことも話し易くなったでしょ?」

アタル,「それとも、ここからまだ白を切って見せますか? 楽しみだなぁ。どんな超展開な言い訳が聞けるのか……ははっ、本当に楽しみだよ」

国枝アタルはそう言い放ち、にやりと笑う。そこには、先ほど感じたはずの子供っぽさは微塵も残ってはいなかった。

#textbox Ksi0170,name
柴田,「……お、お前は、誰だ?」

アタル,「あれ? 敬語が崩れてますよ? 柴田春清的に、それはまずいんじゃないでしょうか?」

柴田,「お前は誰だと、そう聞いているっ! 誰だ! あの国枝アタルに、腹芸なんて出来るはずがないんだ!」

そう。何も知らず、何も出来ないお飾りの王。それが国枝アタルだ。

笑顔で人を油断させ、緊張の糸を解きほぐし、機微を見計らい更なる揺さぶりをかける。

あぁ、そんなことは絶対に不可能なのだ。何しろ、つい先日まで平々凡々とした日々を謳歌していた学生なのだから。

アタル,「どっかの誰かのせいで、艦隊戦に発展して弾幕の中に突っ込んだり、言うことを聞かない政府の不穏分子とぶつかったり……」

アタル,「まぁ、この短期間で色々とありましたから。そりゃ、俺も多少は成長しますよ」

アタル,「空からあたりめが落ちてくるって状況も、王様的にはいい経験でしたよ。胃に穴が開くかと思いましたけどね」

そう言い、国枝アタルは笑みを強める。嫌な笑顔だ。吐き気を催す、忌避すべき笑顔だ。

何故なら、あの笑顔はこちら追い詰める笑顔だ。

笑顔で人を追い詰めるのは、この私であるべきだと言うのに!

#textbox Ksi0130,name
柴田,「くっ、厄介な……」

アタル,「アンタに野心があるって見抜けなかった俺は、あまりに未熟過ぎた」

アタル,「でも、今のアンタは以前の俺よりも眼が曇り過ぎだ。今の俺がアンタに懐いてるはずがないだろ?」

アタル,「本気で俺がアンタのことを心配しているように見えたのか? 俺はずっとムカつきをこらえながら会話してたんだけどな?」

アタル,「柴田さんって、さん付けしてることにすら、イライラしてたんだぞ? なぁ? このクソ野郎?」

先ほどの子供っぽい所作は、全て演技だったらしい。言われてみれば、確かにわざとらしい部分もあったような気がする。

まずい、冷静になれ。このまま主導権を奪われ続けるのはよろしくない。まだ、挽回は出来るはずだ。

#textbox Ksi0140,name
柴田,「ふっ、それで? 今から尋問ですか? まだまだ甘い貴方で、この私を喋らせることが出来るとでも?」

小さく息を吐き、肺の中の空気と心の中の気分を転換する。

そして表情を取り繕い、余裕の笑みで国枝アタルと対峙する。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「私は何も喋りませんよ。黙秘権を行使いたします」

アタル,「あぁ……そんな権利、無視しますから。それに、尋問? 違いますよ。喋る気になるまで、拷問するんです」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「はっ、はは、何を? ハッタリは過ぎれば滑稽なだけですよ? 貴方に拷問など出来ますか?」

アタル,「そうですね。確かに俺は拷問に詳しくないです」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「ふっ、そうでしょうね。所詮、貴方はただの学生で……」

アタル,「ご心配なく。知っている人に実演してもらって、今から勉強しますから」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「――――――え?」

国枝アタルがそう言うと、またしても部屋の扉が開いた。

姿を現したのは……イスリアとクアドラントの王女に仕える従者たちだった。

エリス,「この自分の知る古今東西南北中央問わずの拷問術……身を持って知るがいい。姫様への暴言、自分は忘れていないぞ?」

アサリ,「ありゃー、エリスさんってば無茶苦茶怒ってますねー。これはかなりエグいことになるかもですねー」

アサリ,「それじゃー、アサリは泣いて謝ってもくすぐるのを止めないとかー、そっち系でいきましょーかねー」

エリス,「アタル王、ここより先は退席していただきたい。あまり見るべきものでもありません」

アタル,「いえ、最後まで見届けます。俺が2人に頼むんですから。これは見なければならないことだと、思うんです」

アタル,「俺は……あたりめの一件では何も出来なかった。迎撃したのはミルフィとセーラさんで、最終的に終息させたのはヒヨ……」

アタル,「俺は、本当に何も……何も出来なかった。でも、これからはそうじゃいけないと思うんです」

アタル,「だって、俺はこれからも王様を続けるから……」

アタル,「俺は、変わります。王様にされてしまった学生じゃなくて、お飾りの王様じゃなくて、真の王様に!」

アタル,「そのためには、清濁合わせて飲み込まなければならないんです。目を背けては、ダメなんです。きっと」

アタル,「自分は抽選で選ばれただけだから……なんて、ただの言い訳で。そんなことを言ってたら、いつまでもダメな王様のまま」

アタル,「そしてダメな王様のままじゃ、好きな女の子1人すら守れないって、そう思い知らされましたから」

エリス,「覚悟あり、ですか。ふむ、ご立派になられた。自分は今の貴方にであれば、真に敬意を表しましょう」

アタル,「いえ、俺は目を覚ますのが遅過ぎました。こんなこと、きっとミルフィやセーラさんが小さな頃に悟ったことでしょう?」

エリス,「ふふっ、確かにアタル王は、王者の心構えへと至るのがいささか遅かったかも知れません。しかし、今のその覚醒は誇ってよいものです」

エリス,「ええ、実に素晴らしい心構えですよ、アタル王」

アタル,「ありがとうございます、エリスさん」

従者のその言葉に、国枝アタルは穏やかな笑みを浮かべる。そこには、確かに王に相応しい風格があるように思えた。

……屈辱だ。バルガ王のような存在ならばいざ知らず、たかが国枝アタル程度に王者の風を感じるとは。

自身の心に腹が立つ。何故、自分は今、あの国枝アタルを王と認めようとしているのだ!

国枝アタルより、この身の方がよほど王に相応しいだろうに、何故っ!

アサリ,「さて、それじゃー、行っちゃいましょうかー」

アタル,「ええ、お願いします」

国枝アタルのその一言を受け、従者2人が歩み寄ってくる。

言い知れぬ迫力が、彼女たちの身体からは漂ってきていた。背筋に冷たい何かが駆けていく。

柴田,「あっ、ちょっ……ちょ、まっ、こ、こっちは怪我人で……」

エリス,「大丈夫だ。自分は気にしない。と言うか……怪我などどこに負っている? 自分には見受けられないな」

アサリ,「あー? もしかしてここのことですかー?」

柴田,「がぐぅっ!? き、傷口を押さえ……あくっ!?」

アサリ,「もぅー、大袈裟ですねー? こんなのかすり傷ですよー?」

柴田,「あ、アタル王! た、助け! 貴方に人らしい良心があるのなら!」

アタル,「俺に泣いて縋る前に、何か言うことがあるんじゃありませんか?」

柴田,「謝罪ですか!? 謝罪ならば、いくらでもしましょう! 頭ならば、いくらでも下げましょう!」

アタル,「謝れなんて、誰も求めてはいません。そもそも一言謝るだけで許されるような事態でもありませんし」

柴田,「な、ならば私にどうしろと言うのですか!?」

アタル,「頭の中にある情報を、全て出して欲しいんですよ。出し惜しみせず、全て……」

叫ぶこちらに対し、国枝アタルは優しい笑顔を浮かべてそう言い放つ。

あぁ、自分は、余計なことをしてしまったのかも知れない。

眠れる幼い獅子を千尋の谷に突き落とし、立派な獅子へと成長させてしまったのかも知れない。

そんな心算は全くなかったけれど、結果的に……そう、なってしまったのだ。

目の前にいる若き王が、恐ろしい。頭を垂れて、慈悲を乞いたい。

ここに至って、初めてそう心の底から思うのだった。

――――――もっとも、それはあまりに遅過ぎたのだった。

アタル,「はぁ~、疲れた。あー、何かまだ顔の調子がおかしい気がする」

柴田へのちょっと過激な事情聴取を終えた俺は、そう独白しながらに廊下を歩いていた。

アタル,「俺が無理してたの、バレなかったかな? 一応ちゃんと話してくれたし、問題はなかったと思うんだけど……」

アタル,「いや、でも、喋ってくれたのはエリスさんたちが怖かっただけかもしれないし」

王様らしい態度や雰囲気って言うものは、今後の課題ってことだな。

そもそも、風格なんてモノがあっさり身につけられる方がおかしい。

前に味わったバルガ王の、あの威圧感。アレを目標にして頑張っていこうと思う。

もちろん、ムキムキになって常に窓ガラスを割って移動するつもりはないけれど。

そんなことを考えながらに、俺はヒヨの部屋へと向かう。

あたりめ落下事件の後始末に忙しくて、昨日今日と会話時間が少し減ってるもんな。

ヒヨはあたりめがなくなったことに、かなりショックを受けていた。

本当なら一日中、ずっとヒヨの傍についていてやりたかったが、しかし俺は王様だから。

ヒヨも『お仕事、頑張ってね』って、俺を送り出してくれたし……サボるわけには行かなかった。

でも! 仕事はもう全部終えたし、柴田からも情報は得たし! 今日はもう自由時間だ!

アタル,「ヒヨ?」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「…………」

ひよこ,「んっ……」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「……アタルくん。来てくれたんだ」

窓際にたたずみ、空を見やっていたからか。ヒヨの反応は一拍、間がずれていた。

やっぱりあたりめがなくなったことには、まだ折り合いがついていないのだろう。

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「あれ? アタルくん? 大丈夫?」

アタル,「え? おいおい、今のヒヨに心配されるようなこと、俺には何もないぞ?」

アタル,「むしろ俺がヒヨを心配して、様子を見に来たんだって」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「私を心配してくれるのは嬉しいんだけど、でも……アタルくんも今、ちょっと悲しそうな顔をしてた気がするよ?」

アタル,「そうか?」

俺は、悲しかったのだろうか? あぁ……そうかも知れない。

心の中で『柴田さんが真犯人でなければいいのに』と、そう少なからず思っていたからな。

しかし、あの人は犯人だった。自身でそう言ったのだ。そして俺のことを無様だ何だとも言い、笑っていた。

それが本音で、今まで俺が見てきた『柴田さんの笑顔』は偽りのものだと知って……少なからずショックを受けたみたいだ。

あぁ、ミルフィやセーラさんが伝言を聞いて受けたショックも、こんな感じだったのだろうか。

もちろん心構えがない分、2人のショックは俺よりもはるかに大きかっただろうけれど。

……まぁ、俺のこのショックはすぐに乗り越えられるものだ。

人の悲しみの大きさを比べるなんて、ナンセンスだとは思う。

でも、あえて言おう。あたりめを失った今のヒヨの方が、きっと俺より悲しいはずだ、と。

アタル,「確かに、俺も元気のない顔をしてたかもだけど……それを言ったら、ヒヨの方がもっと重症だ」

アタル,「寂しかったり、悲しかったりするんだろ? だから、空を眺めていたんだろ?」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「うん。あの空にはもう……あたりめは浮かんでいないんだね。いつもあの空から、私たちを見守ってくれていたのに……」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「つい、そう考えちゃって。そしたら、最後の……リンクが消える前の『ばいばい』って言う声が、思い浮かんできて……」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「ずっと繋がっていたから、あたりめは私の心の中にもいたの。私とあたりめの、重なっている部分があったの」

#textbox Khi0350,name
ひよこ,「でも、今はその繋がっていた部分がなくなって……私の中にいたあたりめが消えて、ぽっかり心に穴が開いたみたいで……」

アタル,「俺はあたりめと繋がっていたことはないから、ヒヨの気持ちをちゃんとわかってはやれないと思う」

アタル,「って言うか、軽々しく気持ちはわかるなんて、言いたくないんだ。その喪失感は、きっとヒヨたちの絆の証なんだろうしさ」

アタル,「だから、俺は……」

言葉とともに、俺はヒヨの身体をそっと抱きしめる。

アタル,「俺はさ、ヒヨの心に開いた穴がふさがるように願うよ。こうして、抱きしめて……」

アタル,「幸せになろう? 幸せになって、どんどん笑って、どんどん楽しんで行こうな? その心の穴に、もう入りきらないくらいにさ」

アタル,「そうしたらきっと……あたりめの分まで幸せになったって、胸を張って言えると思うんだ」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「……うん。そうだね。私、アタルくんを幸せにするよ。だから、アタルくんも……私を幸せにして?」

アタル,「あぁ」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「んっ、はぁ……ちゅっ、んくっ」

ヒヨの唇を、自身のそれでふさぐ。

ヒヨは瞳を閉じて、俺の口付けを受け入れてくれた。

俺たちはそのままベッドに向かい、お互いの身体を抱きしめるのだった。

ヒヨの体が俺の足と足の間に潜り込んできた。

アタル,「え? え、何するつもりだ?」

ひよこ,「んー? アタルくんをおっぱいで気持ちよくしてあげよっかなーって、嫌かな?」

ぽろんっ、と、メイド服からおっぱいを取り出すと、そのまま俺の股間に擦り寄ってくる。

えーっと、それってつまり……パイズリ?

アタル,「お、おい、ヒヨ、誰から習ったんだ、そんなの……」

ひよこ,「え、セーラさんからだよ?」

あっけらかんと暴露するヒヨ。

アタル,「まったく、あのエロ姫様はっっ!」

ひよこ,「『ひよこさんくらい胸があれば、アタル様のおちんちんを挟んであげられると思いますよ~。アタル様はきっと喜びますよ~』って言ってたんだけど」

ひよこ,「あ、もしかして、してほしくない? 喜ばない?それならやめるよー?」

弄ぶような口調だった。その言葉の奥では、俺の意志を感じ取っている。

アタル,「してほしいです、お願いします」

土下座せんばかりの猛スピードで懇願しました。

ひよこ,「あは、やっぱり、そうなんだー。アタルくん、おっぱい大好きだもんねっ」

ヒヨは痛くなるほどいきり立った俺のペニスを、自らのふくよかな胸の谷間に挟み込んだ。

ぺちんっと音を立てて、肉と肉とがぶつかり合う。

アタル,「う……!?」

ヒヨの胸の中に、俺のペニスの大半がすっぽりと隠れてしまう。

手や口や女性器とは違う、ぽよんぽよんとした犯罪的な胸の柔らかささは、俺の下半身をマシュマロよりも甘く刺激した。

ヒヨって、こんなに胸大きかったっけ……?

両手で寄せているのはあるんだろうけど、ここまで挟み込めるほどじゃなかったような。

ひよこ,「アタルくんがエッチなことをいっぱい教えてくれちゃったおかげで、おっぱい大きくなっちゃったんだよ?」

俺の疑問を悟ったかのように、ヒヨは呟く。

アタル,「……ごめんなさい?」

ひよこ,「ん? なんで謝るの? おっぱいがおっきくなったから、アタルくんにこんなこともしてあげられるようになったんだよー? ちょっとはセーラさんにも近づけたかな?」

若いとはいえ、まだまだ成長の余地があったとは。喜ばしい限りだ。でも。

アタル,「あんまり他の人と比較するなよ。ヒヨはヒヨでいいじゃないか」

ひよこ,「うーん……そうはいっても、目の前にあれだけ魅力的な人がいると気になっちゃうんだよ」

アタル,「――セーラさんがどんなに魅力的だろうが、俺はヒヨを選んだんだからさ」

ひよこ,「……うん、そうだね。ありがと♪ ……ふふっ、すっごく嬉しいから、今日はい~っぱいサービスしてあげちゃおっかなぁ♪」

ヒヨは身体を揺すり、自らの手でおっぱいを掴んだり揉んだりして形を変える。

形が変わるたび、そのおっぱいの中心にある俺のシャフトは柔らかな刺激を受ける。

ひよこ,「んっ……んしょ……っと、どう? 私のおっぱい、柔らかい? 気持ちいいかな?」

アタル,「……う、うん、すごく、気持ちいい……」

柔肉が凹んだり弾んだりするその光景は、視覚的な刺激も充分だ。

ひよこ,「はぁ……すごい……すごく、大きいよぅ……私の胸の中でぴくっぴくって震えてる……伝わってくるよ……アタルくんのおちんちんも、なんかおっきくなったよね……」

アタル,「……そう? 自分じゃよくわからないけど」

ひよこ,「うんっ、ここまで届くと思わなかったもん。ほら、舌伸ばしたら、届いちゃうよ? れろっ」

ぺろんっ、と、ヒヨの舌先が俺の鈴口を刺激する。

アタル,「う……それはきっとヒヨのせいだな。ヒヨがあんまり興奮させてくれるから、大きくなっちゃったんだぞ」

ひよこ,「むぅ、それは『せい』じゃなくて『おかげ』って言ってほしいなぁ。イジワルすると、ぺろぺろしてあげないよー?」

そんないきり立ったペニスの鈴口からは、トロトロと先走りの汁がにじみ出る。

ひよこ,「あっ、お汁が出てきたね~♪」

アタル,「あぁ……ヒヨのおかげで――ぅくっ!?」

俺が何か言うよりも早く、ヒヨの舌が俺の鈴口に当てられた。

ひよこ,「舐めちゃうよ? んっ……んっ……ん、ぴちゃ……あむ、ん、ちゅっ、ちゅ……んんっ、ちゅぱっ……んふふっ、アタルくんのお汁、おいしいかもー」

先端からとめどなく先走る粘汁を、ヒヨの舌がペロリペロリと優しく舐め取る。

アタル,「ほ、本当……?」

ひよこ,「この味も、なんか慣れてきちゃった。アタルくんのおちんちん、かわいいんだもん♪」

アタル,「いや……ちんちんにかわいいっていうのは、ちょっとショッキングっていう……かッ……」

ひよこ,「かわいいおちんちんにもっといっぱいしてあげたら、もっといっぱい出ちゃうのかな? もっと、いっぱいペロペロしてあげるね……れるっ、れるんっ」

アタル,「うっく……ッ!」

ひよこ,「あははっ……男の人って不思議だよね、舐めれば舐めるだけいっぱい出てくるんだもん……」

こくっこくっと喉を鳴らし、ヒヨは口に溜め込んだ俺の体液を飲み干してゆく。

ひよこ,「おちんちんがおっぱいの間から、ぴょこぴょこ出てくるのって、なんだかモグラたたきみたい。あむ、んっ、ぺろっ」

続けざまに先端に与えられる舌の刺激。

ひよこ,「んむ……こんなに熱くて、びくびくしてるってことは……気持ちいいってことだよね? 私のおっぱい、気持ちいい?」

アタル,「あ、ああっ……これだけでも、イケちゃいそ……」

ひよこ,「え……もう? いつもよりちょっと早いね?」

アタル,「もうとか早いとか言うな。ちょっとご無沙汰だったから溜まってたんだよっ」

ひよこ,「そっか。でも、いっぱい溜まってるなら、1回出したくらいじゃ終わらないよね?」

アタル,「え……?」

ひよこ,「おっぱいとお口で出しちゃっても、もう1回くらいできるよねっ? こっちでも、いっぱい出させてあげるから、遠慮なく、出しちゃっていいんだよー?」

こっち、と、指差したのは、ヒヨのお尻の方……つまり、下半身だ。

第2ラウンド以降が待っているのは、確定なわけですね。

アタル,「なんかヒヨ……すっかりエロくなっちゃったなぁ」

ひよこ,「これもアタルくんのおかげだよ……うーん、この場合はアタルくんのせいっていうべきかなぁ?」

そういうと同時、ヒヨの胸が急激に弾んだ。

ひよこ,「んっ……ぅむっ……じゅぷっ、じゅるっ……んっ、んむぅっ……ちゅぱっ、ちゅく……じゅぷっ、れるっ、ちゅ……ここも……」

アタル,「えっ、ちょ、ヒヨっ……そこは、にょっ!」

ひよこ,「んむー、アタルくんのおしっこの穴~♪ んちゅっ……れろ、れろ、れろっ……んむ、ひょっぱい……ん……ぁむ……れろっ、ちゅ、ちゅっ……ちゅううぅぅぅッ!」

おっぱいを器用に上下させつつも、舌先は俺の尿道を突ついてくる。

アタル,「ふぁ、はぁ、はぁぁぁ……!」

何にも侵入されたことのない尿道をほじるような責めに、腰がガクガクと震え、全身の力がペニスから吸い取られるような気にさえなる。

アタル,「あ……っく、あぁ……ちょ、あ、そこ、そんな深く、までっ……うぁっ、っく……ぉほ……ッ!」

ひよこ,「んぷはぁっ……あははっ、アタルくんのそんなかわいい声、今まで聞いたことないなぁ♪」

イタズラ好きの少女の笑みを浮かべて、ヒヨは両手で胸を強く挟み、激しく上下左右に動かす。

ひよこ,「ふぁん、べとべとになっちゃった……おっぱいが熱いので擦れて……乳首もこんなになっちゃったよ……」

ヒヨの胸の谷間に溜まった汗や唾液、そして、俺の先走った汁が絡み合い、にちゃっぬちゃっといやらしく、粘っこい音が、彼女の谷間で鳴り響いた。

アタル,「あっ、本当に……そんな、激しくされたらっ……!」

いつまでもこの快感を味わいたいような、それでいて、早く達してしまいたいような激しいジレンマ。

下腹部に力を入れ、こみ上げてくる衝動を何とか押し留めようとする。

ひよこ,「はっ、あっ、我慢しないで、いいんだってばぁ。すぐ出しちゃっていいんだよ? それとも、2回目できない? 私のおまんこには興味ないのかなぁ?」

アタル,「え、あ、ちょ、今、随分、ナチュラルに言ったな?」

ヒヨの口から突然出てきた女性器の名前に、俺の脳と股間は激しく反応した。

ひよこ,「あ、だって、スイッチが入っちゃったんだもん。私ね、アタルくんの前だけなら、誰よりもえっちになれるんだよ。ミルフィさんにもセーラさんにも絶対負けない」

ひよこ,「だって、アタルくんのためだけのメイドさんだもん。だから、アタルくんが言ってほしいなら、どんなエッチなことだって言ってあげるし」

ひよこ,「アタルくんがしてほしいなら、どんなことでもしてあげる。アタルくんがしたいこと、ぜーんぶ私が受け止めてあげるから、遠慮なんてしちゃダメなんだよ♪」

アタル,「ヒヨ……!」

その心意気に、俺の股間が呼応したかのように膨れ上がった。

ひよこ,「あはっ、おちんちんも悦んでるんだー。それじゃ、一気に気持ちよくしてあげちゃうねっ」

ひよこ,「あむぅ……ん、ぷぁ、ぅんっ……ちゅぱっ、ぢゅるっ……はむ、んっ、ちゅっ、んっ……我慢しないで、いっぱい、いっぱい出しちゃって……いいから、れっ……」

柔らかい肉の感触が肉茎を包み込み、唾液でぬめる舌はとめどなく俺の亀頭やその裏筋へと刺激を送り続ける。

ひよこ,「せーえき、わらひのおっぱいに、かけていいかられ? アタルくんの好きな時に、好きなように、出していいんだから……あもっ、んむぅ……!」

温かくぬめる舌先と、どこまでも柔らかいおっぱいの感触に導かれて。

ひよこ,「んっ、ぢゅるっ、ぺろっ、んっ! はっ! んぐ、んっ、ちゅっ、ぺろっ、んむっ、んんっ!」

――もう限界だ。

アタル,「ヒヨっ、ヒ……く、あぁぁ……ッ!」

ひよこ,「出そう? 出そうなの? いいよ、アタルくん、いっぱい出しちゃっ……あ、あっ、おちんちんから感じるよ、おちんちんを、せーえきが昇って、きて……!」

真っ白な爆弾が、爆ぜるイメージが浮かぶのと同時。

ひよこ,「んんっ……! ん! ひゃ、ひゃあぁっ!? ふぁっ!? っは……あっ……ぁ……あぁぁ……すごい……すごいよぉ……」

シャンパンの栓を引っこ抜いたかのように、俺の肉茎から垂直に白濁の花火が打ち上がり、ヒヨの顔を穢す。

1回――2回――3回。

アタル,「ん、んぐ……ぁ、はッ……! まだ……出る……ッ」

ヒヨの胸の中で脈打つ度、強欲な俺の息子は濃厚な子種を撒き散らす。

打ち上げ花火のように放たれた精液は、ヒヨのたわわな胸を、かわいらしい顔を、艶やかな髪を、汚らしく濁った黄白色に染め上げた。

ひよこ,「まだ、ピクピクって動いてる……ひゃうん……っ! わ、ぁ、あっ、すご……ひゃんっ! まだ出てぅ……今までで一番すごい量かも……」

俺が放出している間もヒヨは容赦なく、胸をぽよぽよと上下させる。

ひよこ,「あは、いっぱい出たねー。顔、べっとべとになっちゃった……」

アタル,「はぁっ、はぁ……ご、ごめんっ、ヒヨ……ッ」

腰が抜けてしまいそうなほどの脱力感。

ひよこ,「ん? なんで謝るの? 私がいっぱい出してほしかったんだから、気にしなくていいのに……えへへ」

白濁の化粧に染まったまま、ヒヨは笑う。

ひよこ,「ホントにいっぱい出たねー……私の体、アタルくんのせーえきでいっぱいだよ……すごい臭いで……頭がくらくらしちゃうよ……」

身体に跳ねた精液を片っ端からひとさし指で掬い取り、そして、それを口へと運ぶ。

ひよこ,「ん、ちゅっ……ぅうんっ……エッチな、味……ぺろっ……ん、ぁむ……んー……口の中に張り付くぅ……」

アタル,「別に舐めなくても……」

ひよこ,「ん、ぺろ、ん、んぅ……お掃除しないと……綺麗にするのは、メイドさんのお仕事だもんー」

ヒヨはべっとりと白濁の付着した自分の胸や、俺のペニスを献身的に舐めとってゆく。

まるで極上な乳脂肪たっぷりの生クリームでも舐めているかのような、うっとりとした顔つきだった。

アタル,「……美味しいの?」

ひよこ,「んゅ? 舐めてみる?」

アタル,「……ヒヨの口移しなら」

ひよこ,「りゃ、ふぁい、おふほわへ~……ん、ぁんむ……ちゅ……」

アタル,「ん……んぶっ!? けほ、げほっ!」

まっずぅ。

味はともかくドロリとした絡む濃厚な触感と、自分自身が出した排泄物だという嫌悪感。

身体が受け取りを拒否した。

アタル,「よくそんなの口にできるな……」

手についている俺の精液を、何の抵抗もなく、舐めとる。

ひよこ,「ごっくん……だって、アタルくんのだもん。他の人のだったら絶対イヤだし無理だけど……アタルくんから出たモノだから、全然平気だよ?」

けろっとした顔で言ってのけるんだから……まったく、この子は。

ひよこ,「私はアタルくんのなら全然平気だけど……アタルくんは私のは嫌かな?」

アタル,「そんなにいうなら、試してあげよっかな」

俺はヒヨの体を抱きかかえて、位置を反転させる。

ヒヨの下半身を俺の顔の真正面へと持ってくれば、69の体勢の完成だ。

ひよこ,「ふぁぁ……これ、すっごくエッチぃ……」

アタル,「おいおい、ヒヨ、もうこんなにしてるのかよ……まだ触ってなかったのに……俺のちんちんを舐めてただけで、こんなになっちゃったのか?」

ひよこ,「舐めてただけじゃないよぉ。アタルくんのせーえきだって、呑んじゃったもん……アタルくんのせーえき呑んじゃうと、私の体、おかしくなっちゃうんだもん……」

ひよこ,「むー……そういうアタルくんだって、1回出した後なのに、こんなに元気……ん、いい子、いい子。またかわいがってあげるよー」

アタル,「そりゃー、元気ですとも!」

丹念にお掃除フェラなんてされちゃったら、バッキバキになるのも当然だろう。

子供をあやすように、ヒヨの指先が俺の亀頭を撫でる。それだけで、股間にはぞわぞわとした波が高まってくる。

柔らかく上下に扱かれつつ、俺のモノの先端はヒヨの柔らかい唇に触れる。

ひよこ,「もう、とろ~ってしたのが出てきてるよ……舐めちゃうね……? ん、ぺろっ……ちょっと味が濃い……まだ、せーえき、残ってたのかな……」

先走る汁をペロッと音を立てて、舐め取る。

アタル,「く……ヒヨだって、人のこと言えないだろ……!」

俺の目の前で蜜を滴らせるピンク色のスリットは、待ちきれないようにヒクヒクと蠢いていた。

顔をスリットの下についているクリトリスへと近づけ、ピンッと舌先で弾く。

それだけなのに、ヒヨは大袈裟なくらいに身体を震わせ、快感を堪えるように俺の股間をきゅっと握り締めた。

アタル,「いたたたッ! こ、こら、強く握るな」

ひよこ,「ふぁ、あ、だ、だって、気持ち、いい……んだもん」

アタル,「ここ? クリトリス?」

ここまで敏感な反応を示してくれると、コチラとしても攻め甲斐がある。

そういうことならばと、俺はその敏感な小豆への愛撫を再開した。

ぴちぴちと、舌先で転がすようにして舐め回す。

ひよこ,「ひゃ、んっ、ふぁっ、ふわぁんっ!やっ、ら、らめっ! ひゃ、ぅん、きゃうぅんっ!」

舌で包皮を剥き、その敏感な肉芽を擦るたびに、ヒヨの身体は過剰なほどに反応する。

ピンク色のスリットからは、より匂いの強く、より粘度の高い愛液が滲み出してくる。

ひよこ,「はっ、はぁぁん……っ、気持ち、い、気持ちいいよぉっ……! クリちゃん、もっとぉ……もっとぺろぺろしてぇ……」

アタル,「ほら、ヒヨ。気持ちいいのはわかるけど、手とお口がお留守だぞ。がんばれー」

ひよこ,「あ、ん……ごめん……んむぅ、がんばぅ……ん……」

アタル,「ぅあっ……!」

亀頭の尖端が温かい粘膜と唾液に包まれた。

見えなくとも、ヒヨの舌がちろちろと動き、先端が舐め回されているのがわかる。

舐められた部分に、微弱な電流が流されているかのようだ。

ひよこ,「ぁむ……んぅ、ちゅぱっ、んむぅ……おっひぃ……れんぶぁ、口に入りきらないぉ……んむ……」

ぱっくりと咥えられた俺のペニスの先端を、まるでキャンディーでも味わうように舌先でコロコロと転がしている。

アタル,「くぅ……ッ」

今度はこっちがヒヨの与えてくれる気持ちよさに溺れてしまい、責めがおろそかになってしまう。

ひよこ,「アタルくん、無理しらくてろいいんらよ?」

口に俺のモノを咥えたまま、もごもごと喋る。

アタル,「いやいや、さっきは俺が気持ちよくしてもらったんだから、今度は俺が頑張らないと不公平だ」

ひよこ,「ぅんむ……いいろに……ぷはっ……私はアタルくんのメイドさんだもん、アタルくんのことを気持ちよくして当たり前なんだもん」

アタル,「……んー、いや、それなんだけどさ」

アタル,「俺とヒヨの立場は対等なんだぞ? 恋人関係って、どっちが上とか下とかって問題じゃないだろ?」

咥えたまま、ヒヨは首を傾げる。

アタル,「もちろん、ヒヨが俺のことを気持ちよくしてくれるのは嬉しいし、楽だし、ありがたいけどさ」

アタル,「こういう時は、同じ立場なの。ただの1組の男女、だろ」

ひよこ,「そっか、そうなんだぁ……ん、ありがと、アタルくん」

アタル,「お礼をいわれるようなことを言ったつもりはないけどな?」

ひよこ,「私が言いたかっただけだから、気にしないでいいよ。それなら、一緒に気持ちよくなろ?」

ひよこ,「はぁむっ……ぅんっ、うぅんっ……ぁむっ……んむぅ……んんっ、ぅんんっ……」

そして、ヒヨはまた咥え、またお口でのご奉仕を再開する。

少しずつ深く咥え直しながら、裏筋に舌を貼りつけて。

一気に尿道口までなぞるように、舐めあげる。

ひよこ,「んんぅ……んぁ、むぅうっ、んっ……まられれきた……ちゅるっ、ちゅぷっ……んむぅ、んっ、んぅんっ」

アタル,「うぁ、ぁあぁ……ちょ、ヒヨ、それ……?」

今、亀頭に這っているのは舌の裏側だろうか?

くるくると円を描くように亀頭を舐め回されると、無意識に腰が跳ねてしまう。

俺が動いたせいで、ヒヨの口の中に無理矢理侵入した俺のペニスが、ヒヨのほっぺに密着した。

ひよこ,「ぅんっ、んんっ!? んむぅ……くるひい……もう、おとなしくしてなきゃダメらよ? んっ……んんぅ……」

忠告すると同時、口からモノを離し、まっすぐに咥え直す。

頭を前後に動かし、髪を振り乱し、胸を揺らしながらの懸命なフェラが始まった。

下腹部の辺りで擦れる、乳首の感触がまた心地よい。

ひよこ,「んんぅ……ぷっ、ぢゅぷっ……んっ、んぅ、んっ、んぁ、むぅ……んむっ、んぷっ、んっ……ぢゅぷっ!」

同時に、俺の身体には堪らない刺激が広がり、熱いモノが股間の付近に込みあげて来る。

俺だって、負けてられない。

ぴちぴちとクリトリスを舐めていただけの舌を、上方向にシフト。

蜜を滴らせていたスリットを指で割り開くと、どろっとせき止められていた愛液が溢れる。

その大量の蜜を舌ですくいとると、酸味のあるヒヨの味が口いっぱいに広がる。

一瞬、意識が吹き飛びそうになった。この媚薬は、あまりにも強烈すぎる。

そんな蜜を滴らし続ける膣口へとダイレクトにキス。

ひよこ,「んひぃううぅっ!?」

舌先で膣口の中をほじり回す。

ぷつぷつとした膣壁の感触を舌先に感じ、とめどなく溢れ出る愛液の酸味を舌いっぱいで感じ取る。

アタル,「ぢゅるっ……ちゅ、ちゅるっ、ぢゅる、ずるるっ!」

愛液の一滴すらも残さないよう吸いたてると、口からは自然とスープを音を立てて飲むような下品な音が鳴り響いてしまう。

ひよこ,「ひあぁあああぁ……! アタルくんっ、そんな、音立てちゃダメぇ……ッ! あぁぁっ、アタルくんにおまんこ、ほじられてるよぉ……ん、こんなの、こんなのぉ……」

俺は無言で、より強く舐めることで、ヒヨをより辱める。

ひよこ,「ん、ぁむぁ、ぷぁ……ダ、ダメっ、こんなの……お口で、できなっ……きもち、いっ、アタルくんの舌、気持ちいいよっ、壊れひゃ……おまんこ、こわれひゃうぅ……」

口はおまんこにキスをしつつも、空いている指で、小豆をぐりぐりと押し潰すように弄くる。

ひよこ,「や、ぁっ、アタルくんっ、気持ち、いいよぅっ! そこ……あ、やぁんっ、クリ、ちゃんっ、おまんこっ、アタルくんに、ころころされ、てぇ……っ!」

アタル,「ぷはっ、どうした、ヒヨ。完全に止まっちゃったな?」

ひよこ,「は、ぁ……んっ、無理ぃ……アタルくんがしてくれるの、気持ちいいん、だもんッ……もっと、もっとしてぇ……私のおまんこ、もっとめちゃくちゃにしてぇっ……!」

アタル,「ヒヨははしたないメイドさんだなぁ……それじゃ――」

そんなはしたないリクエストにはお応えせざるを得ない。

膣口に舌を突き込みながらも、顔を左右に振り、上下左右を舌先でかき回す。

もちろん、クリトリスを弄るのも忘れない。指先で潰して、転がして――

ひよこ,「ぁっ、は、あ、ふぁっ、やっ、やだ、イッ、ちゃ、イッちゃい、そッ……! イクの、イッちゃ――」

――きゅっ、と、指先で挟み込み、摘まむ。

俺の舌を包んでいる膣壁がキュウッと窄まり、今まで以上に酸味の強い、濃厚な愛液を吐き出した。

ひよこ,「んィひぃぃっ! や、やらっ、らめっ、らめ、ホントにイ、イっちゃ、イク、イクッ、イクゥうぅうぅッ!」

びく、びくんッ

俺の体の上で、ヒヨの体が小刻みに跳ねた。

アタル,「ぅわっぷ?」

ぷしゅっと音を立てて、尿道から溢れた潮が俺の顔に降りかかる。

ひよこ,「あッ、はぁ、は、はぁっ、ふぁ、あっ、あ、はぁぁ……イッちゃ、ったぁ……イッちゃったよぅ……ッ!」

アタル,「はぁっ……激しいイキっぷり、堪能させていただきました。ごちそうさま」

舌を酷使したせいで、吊りそうだ。

ひよこ,「ん……おそまつ、さまれしたぁ……はぅ……すっごく気持ちよかったけど……やっぱ、アタルくんのおちんちんでイカされちゃうのが、一番好きかなぁ……」

アタル,「ヒヨ、おまえなぁ……」

イッた直後だっていうのに、すかさず俺のちんちんをおねだりですか。大した性豪ですよ。

ひよこ,「むぅ、私をこんなにしちゃったのは、アタルくんなんだよ? 私、こんなエッチじゃなかったもぉん」

アタル,「そいつぁ、面目ない」

ひよこ,「だーめ、許してあげないんだから」

アタル,「……うーん、それは困ったな。じゃ、どうすればヒヨは許してくれる?」

ひよこ,「私のこと、い~っぱい愛してくれたら、許してあげるかも、だよ……っ♪」

ヒヨの足を抱きかかえ、俺の腰の上に落とす。

粘液が絡まり合う音を立てて、俺とヒヨは一切の抵抗なく繋がり合った。

ひよこ,「んっ……ふぁ、ふぁあぁっ……んんっ、入っちゃったぁぁ……アタルくんのおちんちん、入っちゃったよぉ……」

アタル,「自分で欲しがったくせに」

ひよこ,「ん……うん、アタルくんのおちんちん欲しかったの……はぁぁ……熱くて、おなかの中、いっぱいにされちゃって……気持ち、いいなぁ……っ」

俺のペニスを体の一番奥まで埋めつつ、くねくねと自分の気持ちいい場所を確かめるようにヒヨは腰を揺らす。

アタル,「ヒヨ……腰使い、エロすぎだってば……!」

ぬちゃぬちゃと下腹部で、ジャムの瓶の中身をかき回すような音が鳴り響く。

ひよこ,「んぅっ……だって、おまんこの中、アタルくんのおちんちんがねじれるんだもん……ぐりぐりってすると、私の気持ちいいとこに、当たるんだもんっ……」

俺の首に手を回し、体をこすり付けてくると、俺の顔はヒヨの胸で挟まれる。

アタル,「ふかふか……ヒヨのおっぱい、柔らかいなぁ……」

俺は目の前に差し出された乳房に優しく吸い付く。

ひよこ,「っぅん……! あ、乳首、きもち、いっ……イッちゃったばかりで、敏感、だからっ……ぁんっ、おっぱいでも、イッちゃいそう、だよぉっ……!」

69の最中も俺の体にこすり付けていたせいか、乳首もすっかり尖っていて、軽く歯で噛めちゃうくらいの弾力がある。

甘く先端を噛んで、舌先でぺろぺろと転がす。

ひよこ,「んひっ、い、んんんっ! あんっ、おっぱい、気持ちいいよぅッ!」

アタル,「おっぱいだけじゃないらろ?」

ちゅ、ちゅっと、と、乳首に吸い付き、音を鳴らしながらも、ベッドのスプリングを生かして腰を揺らす。

ひよこ,「はぁぁんっ! おまんこ……おまんこも、気持ち、いいよぅっ! 私のおまんこ、アタルくんのおちんちんの形……覚えちゃったよぉ……!」

ひよこ,「私のおまんこ……アタルくんのおちんちん専用なんだから……アタルくんのしか入れたりしないんだから……!」

アタル,「俺のもヒヨ専用だからな。ヒヨとしかこんなことしないんだから」

ひよこ,「ん……嬉し……あはぁ……やっぱり向き合ってするのがいいなぁ……アタルくんの顔を見て、好きって言ったり、エッチなこと言うの……好き……」

アタル,「だな……俺もヒヨのエッチな顔がしっかり見られるから、向き合う方が好きだよ」

ひよこ,「あはっ、私たちって、やっぱり似てるのかな……?」

アタル,「ずっと一緒にいたもんな。似ちゃうのも仕方ないだろ」

ひよこ,「そうだよね……ずっと、一緒だったもんね」

アタル,「もちろん、これからもずっと一緒だからな」

ヒヨの顔へと、自分の顔を寄せる。

ちゅ、ちゅ、と、優しく唇の先が触れ合う程度のバードキスを交わす。口と鼻から漏れるヒヨの吐息の熱さを零距離で感じる。

ひよこ,「ん、ん……アタル、くぅん……ん、ちゅっ、ちゅ……ちゅ、ちゅっ、んむっ……ぅん……ぅんはぁっ……! もっとぉ……もっと、キスしよ……?」

しかし、ヒヨも――もちろん、俺も、その程度だけでは物足りない。

唾液に塗れた濡れた舌先を突き出したのも2人同時。

俺の舌に、ヒヨの舌が絡む。

ひよこ,「ん、んっ……ぺろ、ぴちゃっ、ん、れるっ、んっ!」

俺の舌をヒヨが唇で吸い、ヒヨの舌を俺が唇で吸い。

キスの応戦だ。

ヒヨの手が俺の頭を引き寄せる。より深く、互いの唇よりも大きく、口同士を触れ合わせる。

ひよこ,「んっ……ん、んぅっ……んぢゅっ、アタル、ふぅん……ぺろっ、れるっ……んむ、んふぅ……!」

アタル,「ん……ぺろっ、ん、ぁむ、ん……ッ! ヒヨ……キス、上手になったね……ん……」

ひよこ,「ん、ちゅっ……アタルくんの、せいらもん……ん、れるっ……んぁ、ちゅぷ、ん、ふぁっ、んっ、ちゅっ、じゅるるっ……んは、ぷはぁ……ちゅ、くちゅっ、ちゅうぅ」

卑猥な音を鳴らして、舌と唾液が絡み合う。

ひよこ,「はぁっ……ひもひ、いぃ……あたま、おかひくなっひゃいそぅらよぅ……」

アタル,「まだまだおかしくなるには早い……ぞっ」

うっとりとまどろんでいたヒヨの奥へと下から一突き。

ひよこ,「んむぅぅッ!?」

突きに合わせて、ビクッとヒヨの身体が跳ね上がる。

ひよこ,「んぁっ! あっ、あぁあぁっ! あぁあぁん……ッ!」

目には涙が浮かび、口からは唾液がだらしなく滴る。

アタル,「……もしかして、今、イッた?」

ひよこ,「はぅうぅぅ……アタルくん、ずるいよぅ……気持ちよく、なってたんだもん。今すっごく敏感なんだもん……ちょっとされただけでも、も、すぐ、イッちゃうよぅ……」

口から滴った唾液の糸をぬぐいながら、ヒヨはぼやく。

アタル,「気持ちはいいんだよね?」

ひよこ,「うん……気持ちいいよ……気持ちいいけど……私ばかりイッちゃってたら……アタルくんに悪いし……ちょっとだけ悔しい……」

ひよこ,「私だって、アタルくんのこと、いっぱい気持ちよくしたいんだもん……一緒にイキたいんだもん……」

アタル,「ヒヨの中で気持ちよくさせてもらうよ……ちょっと激しくするけど……いいよね? ……答えは聞いてない」

ヒヨの返答を待たずして、俺はヒヨの太ももを抱え上げ、上下に持ち上げて落とすを繰り返す。

ひよこ,「えっ……んっ、んんんんぅーーッ!まだ、イッたばかり、なのにぃっ……!」

腰も上下に動かす。ベッドのスプリングも俺の動きに協力してくれて、この動作は思っていたよりも容易だ。

ひよこ,「ひぁっ、ひゃ、こんな、かき回されたらっ……私、また、またおかしくなっ、イッ、イッちゃ――ふぁぁんっ! はぁっ……あっ、あっ、あっ……ふぁっ……はぁぁっ!」

立て続けにイッてるヒヨが敏感になりすぎているのは当然なことながら、俺の体の感度もおかしくなっていた。

ヒヨの体を抱えて、ズドン、ズドン、と、単純な上下のピストン運動を繰り返す。

互いの下腹部同士が打ち合い、ぱちんぱちんとスパンキングのような音が鳴り響く。

どうせ聞いているのは俺たちだけだ。

汗と先走りと愛液とがヒヨの快楽のるつぼの中で混じり合い、辺りに漂う性臭はむせかえるほどだ。

そんな卑猥なアロマが、俺たちの性感をさらに高める。

ぬるぬるとペニスに絡み付いてくるヒヨの膣壁。ヒヨの膣内を乱暴にほじくり回す俺のペニス。

もはやふたつの体温が一緒になってしまって、今、本当に俺のモノがヒヨの中に入っているのかどうか、よくわからない。

ひよこ,「アタルくんのおちんちんと、私のおまんこ、ひとつに溶けちゃってるっ……あぁあっ、ぁうっ、んぅん……ッ!」

ヒヨが言うように、互いの性器が溶け合って、一体化してしまったような錯覚さえ覚えた。

文字通り、俺とヒヨはひとつになっている。

分泌液は、増える一方だ。

ひよこ,「はっ、はぁっ、きもち、い、いいっ、おちんちん、きもちいいっ! アタルくんっ、アタルくぅん!」

俺が下から上へとヒヨの中に腰を叩きつけ、ヒヨは逆にシーソーのように、ヒヨは腰を上へ下へと動かす。

その度にびちゃっ! びちゃっ! と、長靴で水溜りを踏み付けた時のような激しい音が鳴り響く。

ひよこ,「ぅんっ……アタルく、ん、もう1回、キス……んぅ……ちゅぅ……ちゅぷっ、んんぅ……んぅんっ」

ヒヨは俺の首に腕を回し、頭を引き寄せて唇を押しつけて来た。

キスというには乱暴すぎる唇のむさぼり合いを交わしながら、体全体を揺らして、ヒヨの蜜壺を荒々しくこね回す。

ひよこ,「ちゅ、んぶっ……んんっ、んぁ……あむぅっ、んっ、んうっ、んっ、ううぅぅうぅんっ!」

アタル,「んっ、んんっ……ヒヨっ……ヒヨ……!」

背筋に心地のいい痺れが走ったかと思うと、大きな痙攣が襲いかかってくる。

俺のモノが、2度目の射精をねだっていた。

ひよこ,「ぅんっ、うぅんっ……んっ!? んんぅ……アタルくん、イキそう? イキそうなの?」

アタル,「あ、ああ、出そう……もうちょい、もう少しで……!」

ひよこ,「イイよ……私の、おまんこの中に、いっぱい出していいんだよっ……いっぱい、せーえき……出して、出してっ……ッ!」

俺の腰の後ろに回されていたヒヨの足が、ギュウッと俺の腰を締めつけてくる。不退転のカニバサミだ。

今更、中出しでひるむような俺じゃない。だって、俺とヒヨは、愛し合う恋人。

アタル,「出るっ、出るぞ、ヒヨ、ヒヨ……ッ!」

ひよこ,「んぁあっ……ぁ、わらひも……はっ、ふぁあぁっ!らめっ……イキ、イキそ、なのっ……! ぅんんっ、んっ、んぅうぅぅんっ!」

ヒヨもまた絶頂が近いらしい。

アタル,「ヒヨ、一緒に、一緒に、イこっ!」

ひよこ,「うんっ、うん……っ! イクっ、イッひゃうっ……んんっ、ちゅぶっ……イキたいの、アタルくんと、一緒に、イキたいのぉっ……!」

下腹部のマントルから、ドロドロに熱されたマグマが込み上げてくるのを自覚して。

より強く、強く、ヒヨを抱きしめ、胸の間に顔を埋める。

アタル,「ん、んんんっ! で、出るッ!」

ひよこ,「わた、私もぉっ、イク、イッち、イッちゃうぅッ!んぅっ! んぁぁあぁあぁぁあぁぁぁっ!」

俺たちは同時に絶頂を迎えた。

びくびくと、俺たち2人の痙攣が重なる。

垂直に駆け上った、目の前がチカチカするほどの強烈な射精を、ヒヨの子宮は美味しそうに飲み込んでいく。

ひよこ,「ぁはぁっ! はぁっ、ふあっ、あっ、はぁっ! はっ、や、んんっ……熱いの……せーえき……中にぃ……いっぱいぃ……ッ!」

ぶるっぶるっ、と、全身を震わせながら、ヒヨの中へと本日2発目の精液を吐き出す。

2発目だというのにその量や快感の度合は1度目以上。これがオーラルセックスと、本当のセックスとの差か。

アタル,「はぁ……はっ……ああぁっ……はぁっ……!」

頭が呆けてしまうほどの快感。精液の放出で、全身の力が吸い出されているような気がする。

ひよこ,「はぁ、はぁあぁっ……すごく、深い……とこまで……精液、届いてるっ……子宮の中、精液でいっぱぁい……気持ちよすぎて……イキっぱなしになっちゃうよぉ……」

アタル,「はっ、はぁぁ……こんなに気持ちよかったの……初めてだ……!」

ひよこ,「あはっ……あはははっ……!」

アタル,「はっ、はぁ、はぁっ、何で……笑って……?」

ひよこ,「だって、アタルくんがイッちゃう時、すごくかわいかったんだもん♪ ぎゅうって、抱きしめてくれて……やっぱり、向き合ってするの好き……だぁい好き……っ!」

ギュッと、俺の頭を胸の谷間に押し付けてくる

アタル,「むぎゅっ」

ひよこ,「好きっ……好きだよっ、大好き……ううんっ、愛してる……アタルくん、アタルくぅんっ……♪」

すりすりすりすりと、俺の頭に頬ずり頬ずり。

まるでペットを溺愛する飼い主だ。

しかしながら、2回放出したというのに、俺のペニスはヒヨの中で今だ硬さを失われていない。

ひよこ,「はぁっ、はぁ、んっ……あれ……アタルくんのおちんちん……まだ、私の中で、硬いまま、だね……もしかして、まだイケちゃうのかな……?」

アタル,「え、え……っ、ちょっと、ヒヨ……んッ……!?」

ひよこ,「ぅふっ……ぁは、ぁ……んっ、あ、あはぁ……アタルくんのおちんちん、奥に当たって……はぁっ、ああぁ……」

アタル,「っく、ヒヨ……う、俺のも敏感になりすぎてて……!」

ひよこ,「ね、アタルくん、もっと……しよ? 夜はまだ長いんだから……ずっと、ずーっと、私のこと、愛してほしいな……♪」

――そして、俺とヒヨは、時間も、身分も、疲労も、記憶も、全てをどこかへ置き忘れた。

ひよこ,「あっ、あ、だめっ、ふぁっ、あ、あぁあぁんッ!またっ、また、イッ、イッちゃうぅぅっ!」

壊れそうなくらいに腰を振り乱して。

アタル,「ヒヨ……ヒヨぉっっ!」

ひよこ,「あっ、はぁあぁっ、はぁ、んあぁっ、あぁあぁっ、クるっ、クるの、イッちゃ……ッ! また、イ……ッ、んぁあっ、ッは、ふぁあぁあああぁぁぁッ!」

脱水症状寸前まで汗を飛び散らせて。

ひよこ,「はぁっ! はっ! はぁっ! はぁあぁぁ……また……子宮(なか)に……ドクッドクッて、すごい……出てるぅ……おまんこ、壊れ、ちゃうぅぅ……ッ!」

枯れてしまいそうなほどに声を張り上げて。

互いの体を、まさに精根尽き果てるまで、貪り続けた。

…………

……

体の奥に残る、甘ったるい快感。

そのせいか燃え上がる一時はもう終わったと言うのに、俺たちの漏らす吐息には妙に熱がこもっていた。

ヒヨが、俺の顔をじぃっち見つめてくる。何を考えているのだろう? 

ここまで見つめられると、少し気恥ずかしかった。

ひよこ,「あ、あのね? あ、あ、あっ……あうぅ……」

アタル,「うん? どうしたんだ、ヒヨ?」

ひよこ,「あのね、大好き。愛してるよ、あっあ……アタル!」

アタル,「…………お、おぅ」

ひよこ,「えへへ~、やっと言えたよぉ。は、恥ずかしいね、呼び捨てって」

アタル,「そうだな……ひよこ」

ヒヨを……いや、ひよこを呼び捨てにする。あぁ、これは確かに恥ずかしい。

けれど、これでようやく本当の恋人同士になれたような気もする。

うん。アタルくんとヒヨじゃ、幼馴染っぽさが残っているもんな。

アタルとひよこって呼び合う方が、何と言うか……やっぱりより恋人らしい……気がする。

些細なことだけれど、しかし重要なことだ。

ひよこ,「アタル~……」

アタル,「何だ、ひよこ? 呼んでみただけか?」

ひよこ,「うん、正解。えへへ~」

他人が聞けば、またバカップルだと言うであろう会話。

しかし、今ここには俺とひよこだけしかいない。だから、気兼ねなんて必要ない。

その後、俺たちは夜遅くまで他愛のないお喋りを続けたのだった。

―――あたりめ落下事件から、早くも3週間が経過した。

俺は柴田から得た情報を活用し、密かに開発されていたあたりめ2を徴収。

次代のあたりめとして初代あたりめと同じ低軌道に打ち上げることにした。

もちろんその機能やプログラムは全て検閲し、無駄なものは削除した。

例えば柴田春清の遺伝子コードが『王に選ばれるべき指標となるデータ』として組み込まれていたのだが、これを即行で削除した。

これによりあたりめ2は、初代あたりめと同じ方法で新たなる王を選出することになるだろう。

あぁ、俺とひよこのような例は、例外中の例外だ。

『王を選出する鍵となるリングが、人知れず地上に降り注いでいる』なんてことになったら、皆が血眼になって捜索し出すからな。

俺の死後、どんな王を選出するのか。それはあたりめ2だけが知っていることだ。

……って、まだまだ若いのに、死んだ後の話なんてしたくないなぁ。

そうそう、初代あたりめは無事にサルベージされ、今じゃ博物館にその外観が展示されている。

そしてその中身はここ200年で失われた技術が多いため、研究所に回されている。

実は装甲の一部を削って調査したかったが『どうやっても削れなかった』なんて逸話もあったり……。

地に落ちてなお、あたりめは伝説的だ。

大気圏再突入で燃え尽きず、なおかつミサイルの連続直撃でも損傷なし。

ミルフィの大好きなスーパーロボ並みの脅威度だ。現存する兵器で、そんなに頑丈な機体は一機もないもんな。

あぁ、ちなみにミルフィもあたりめには興味津々らしく、よくひよことセーラさんを誘って博物館に足を運んでいる。

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ミルフィ,「あぁ、もう! 削れれば本国にサンプルを持って帰れるのに!」

静かな博物館には、よくミルフィの悔しげな叫びが響いているんだそうだ。

まぁ、つまりは……平穏と日常が戻ってきたってことだ。

落下騒ぎ前後は色々と本当に大変だったが、今はもう落ち着いている。

むしろ、王様としていい経験がつめたと、そう思えるようにすらなった。

過ぎ去ってくれた慌しさだからこそ、そんな前向きな感想も抱けるんだけどな。

もう1回あの騒ぎが俺たちの元に訪れるとなれば、謹んでご遠慮したいところだし……。

まぁ、仮に来たとしても、何だかんだと言いつつ、きっと俺たちは乗り越えていけるとも信じているけれどさ。

ミルフィ,「……アタルとぴよぴよがくっつくとなってから、随分かかったわねぇ」

セーラ,「全世界の人が知ったあの日からと考えても、半月以上が経過していますものね」

アサリ,「でもまー、時間がかかった分だけ愛情も深まるとか言いますしー?」

エリス,「姫様。やはりもっともっと積極的に行くべきだったのかも知れません」

ミルフィ,「何か、エリってばこの前からやたらとアタルを持ち上げるわね?」

エリス,「認めるに足る王であり、男であると認識いたしましたので」

ミルフィ,「今さら背中を押されても、あたしはもう動かないわよ? ぴよぴよの邪魔なんて、出来るわけないじゃない」

ミルフィ,「エリだって思うでしょ? あの2人は、あの2人だからこそいいんだって」

エリス,「それは……確かに」

セーラ,「アタル様に、別の女性が。ひよこさんに、別の男性が。そんな光景は、違和感しかありませんものね」

エリス,「むぅ。しかし、こう、逃がした魚は大きかったと言うか……」

ミルフィ,「……ん? そろそろ新郎と新婦の登場みたいよ? エリも野暮ったいこと言ってないで、ほら……拍手拍手」

エリス,「はっ!」

俺とひよこが中庭に姿を現すと、拍手や祝いの声が勢いよく投げかけられた。

俺たち二人は笑顔でそれを受け止めて、そっと手を振る。

今日は俺とひよこのお披露目パーティーだ。

王様ともなると正式な婚姻には相応の作法と儀式が必要となる。

国際的な注目を集めるために、場所も衣装も何もかもが厳しく定められてしまう。

そう。戴冠式とパレードに俺の好みなんてまったく反映されなかったように……。

しかし、それでは味気ない。好きな衣装を着て、好きな場所で誓いの言葉を言い合いたい。

だから……俺はひよことともに、王宮の中庭でパーティーを開いたのだ。

ひよこ,「えへへ、どうかな、アタル? 私のウエディングドレス姿……」

アタル,「あぁ、綺麗だよ。すごく似合ってる」

ひよこ,「ありがと! 正式な結婚式は、ニッポンの伝統衣装の着物でやらなくちゃだから、どうしてもドレスを着たかったの」

ひよこ,「ごめんね、無理言って……」

アタル,「いや、むしろ俺もひよこのウエディングドレス姿は見たかったしな。うん、マジで可愛いよ、ひよこ」

ひよこ,「えへへ~。アタルも似合ってるよ? その白いタキシード。すっごくかっこいい!」

アタル,「ははっ、そりゃどーも」

ひよこ,「さぁ、アタル。私の手を、握って? そして……キスして、誓いの言葉を交わして、皆にお祝いしてもらわなきゃ!」

アタル,「そうだな。あんまり話し込んでると、野次が飛んできそうだ。2人の世界を作るなーって」

ちらりと視線を横に向ければ、ミルフィやセーラさんが俺たちに呆れ眼を向けていた。

声は聞こえないが『まーた、あのバカップルは』とか呟いていそうだ。

ひよこ,「ふふ、せっかくの晴れの舞台に怒られちゃ嫌だもんね」

アタル,「式で怒られる王様とお姫様ってのも、ある意味俺たちらしくはあるけどな」

ひよこ,「えへへ、それもそうかも? ちょっとお間抜けな感じの方が、気分も楽だし……」

ひよこ,「……ねぇ、アタル?」

ひよこ,「ずっとずっと、一緒にいようね? 仲良く、楽しく、私たちらしく……」

アタル,「あぁ。そうだな、ひよこ」

ひよこ,「さぁ……アタル?」

そう言い、ひよこは俺に手を差し出してくる。

その手にはまっているリングは、相変わらずあのあたりめのリングだ。

立派な指輪には到底敵わない、簡素なリング。

しかし、立派な新品の指輪では到底敵わない、思い出の詰まった俺たちとあたりめの絆のリングだ。

俺はそんなリングをはめるひよこの手を取り、その身体を抱き寄せる。

白いドレスの裾が、ふわりと舞う。

そして俺とひよこはキスをして、永遠の愛を皆の前で誓い合う。

ひよこ,「健やかな時も、病める時も、一緒……私はアタルのこと大好きだよ」

ひよこ,「だから……生涯、貴方を愛することを、ここに誓います」

アタル,「あぁ。俺もだ。何があっても、ひよこを守るよ。そしていつまでも愛するをことを、ここに誓う」

俺たちの愛の誓いは皆に見守られ……そしてきっと上空にいるあたりめにも見届けられたことだろう。

ひよこ,「幸せになろうね! 私、もう今、すっごく幸せだけど……もっともーっと、2人で!」

俺たちはまたそこで口づけを交わし、お互いの頬に手を添える。

そんな俺とひよこの姿は、世界でもっとも仲の好い恋人同士として報道されることになる。

そしてその報道に負けないように、俺たち2人はいつまでも仲良く楽しく歩き進んでいくのだった。

空高くに浮かぶあたりめに見守られながら、いつまでも、いつまでも……。

アタル,「――というわけで、柴田さんから遊園地のチケットをもらったんだけど。みんなで行かない?」

ミルフィ,「遊園地!? それはいいわね! とてもいいわね!」

セーラ,「遊園地ですか~。話に聞いたことはありますが、遊園地に行くのは初めてです~」

ひよこ,「わぁ、遊園地なんて久しぶりだよー!」

夕飯の際、俺の提案に女の子たち全員が乗った。

そこで柴田さんに言われた通り、特定の『誰か』を誘えなかったのが、俺の弱さだった。

アサリ,「んー、遊びに行くのはいいんですけど、人目が気になるんじゃないですかねー?」

エリス,「確かに一般人で混み合う中に向かうのは、オススメできません。護衛が極めて困難になります」

ミルフィ,「っていうか、たかだか3分のアトラクションに乗るのに、1時間も待つとか嫌よ? あたしはこう見えて、気が短いんだから」

アタル,「……むぅ」

確かに……。

各国の要人が固まって動くのはあまりにも目立つ。

パレードの時の俺のように、誰かに狙われる可能性もなきにしもあらず。

一般人の中に潜んでいたり、また、守る際に一般の人を巻き込んでしまう可能性だってありうる。

まぁ、ミルフィのはただのわがままだし、わりと見たまま気が短い。

柴田,「ふむ……では、その点、解決しましょうか」

アタル,「解決……って? 何か名案があるの?」

柴田,「難しいことではありませんよ。遊園地を丸1日貸切にいたします。それならば、人目を気にすることもなくなり、並ぶ必要もなくなりますでしょう?」

アサリ,「なるほどー。周りに誰もいなければ、不審な人がいても、目につきますしねー」

アタル,「か、貸切!? できんの、そんなの!?」

柴田,「いくばくかのお金があればできることです。そんなに驚くことでもありませんよ」

柴田,「もっとも、事前告知は必要となりますが……そうですね、今週末に予約を入れ、貸切としましょうか」

来日した国際的スターが、ニッポンの夢の国を貸切にしたって話も聞いたことあるけど。

セレブだったらそのくらい当たり前……なのか?

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ひよこ,「わーっ、すごいすごいっ。楽しみだね、アタルくん!」

アタル,「あ、ああ……」

たかだか遊園地に行く程度で、こんな大事になるとは。

しかしながら、柴田さんから預かったチケットはなんだったんだい。

…………

……

遊園地に向かう前夜。

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ミルフィ,「ふんふふーん♪」

ミルフィは鼻歌交じりに明日の準備を進める。

彼女の全身からわくわくが伝わってくる。

セーラ,「なんだか雲行きが悪くなってきた気がしますね~……」

窓の外を見て、セーラさんは呟く。

ミルフィ,「それ、何のフラグよ?」

セーラ,「いえ、言葉通りなんですけど~」

アサリ,「ああ、明日の天気は雨だと思いますよー?」

ミルフィ,「えぇぇっ!?」

アサリ,「今、アサリ、すっごく顔を洗いたい気分なんですよー。ふにゃーん、ごろごろ」

ミルフィ,「ちょ、アサリ、今は我慢しなさい!」

アサリ,「えー、洗わせてくださいよー。顔がぺたぺたしてて気持ち悪いんですよー」

ミルフィ,「えーいっ、迷信は役に立たないわ!文明の利器をもてい! 天気予報! 天気予報はっ!」

ひよこ,「あー……この週末の降水確率、土日とも90%以上だって。すごい雨雲だよ……」

ミルフィ,「えーっ、せっかくの遊園地なのにぃッ!?」

エリス,「楽しみにしていたのに……残念ですね、姫様」

ミルフィ,「べ、別にっ!? そんなに楽しみにしてたわけでもないわよっ!?」

エリス,「あんなに鼻歌交じりで準備しつつ、スキップまでしていたのに強がる姫様……かわいい……きゅんっ!」

ミルフィ,「ま、まぁ、大丈夫っ! 雨でも楽しめるわよっ。そりゃまぁ、いくつか乗れなくなっちゃうのはあるかもだけど」

セーラ,「ゴーカートやジェットコースターに乗ってみたかったんですけど、残念です~……」

ミルフィやセーラさんたちの残念ぶりが言葉の端々から伝わってきた。

……うーん……。

…………

……

俺はケータイ『CROWN』を手にし、電話をかけた。

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柴田,「アタル王、夜分にどういったご用件でしょうか」

アタル,「王様の権限って、こんなことにも使える?」

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柴田,「――できないことではありませんね」

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柴田,「ただし、これほどの行為ともなれば、周囲に及ぼす影響は大きいです。2度目の『絶対権限』を使用させていただきますが、よろしいですね?」

アタル,「ええ、お願いします」

俺は躊躇なく、頷いた。

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柴田,「まったく、あなたは無欲な方ですね。かしこまりました。責任もって勤めさせていただきます」

…………

雨の降りしきる夜。

夜空を貫いたのは、一筋の閃光。

90%の降水確率を消滅させるレーザービーム。

上空の雨雲を吹き飛ばし、空には晴天が訪れた。

…………

……

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ミルフィ,「見事なニッポン晴れ! 絶好の遊園地日和!まったく、天気予報なんてあてになんないわよねー」

ひよこ,「うーん、昨日、天気予報見た時は確かに雲がいっぱいだったのに……」

セーラ,「まるでこの上だけポッカリと抜けたみたいになってましたね~。不思議です~」

ヒヨとセーラさんは空を見上げる。

見事に空は真っ青。雨雲なんて影も形も見えない。

アタル,「まあまあ、晴れたんならいいじゃないか。いやー、天の神様ってのは気まぐれだよなー」

このことはみんなには内緒だ。

セーラ,「――そうですね~。一晩経ったら、天気と女性の気持ちはガラッと変わってしまうものですから~」

ミルフィ,「さ! 何で遊ぶ? せっかく晴れたんだもの、全力で全部回るわよ! 気に入ったヤツは何回でも乗るわよ!」

さすがの貸切だ。

遊園地にはマシンのスタッフと、そして、俺たちミルフィ・セーラ・ヒヨ、そして護衛のエリスさん、アサリさんの6人以外の客は誰もいない。

王様の力を実感した。

でも、こう殺風景なのも、なんだか味気ない。

多少、人がいるくらいじゃないと、遊園地っぽくないんだよなぁ。

ミルフィ,「どうしたの、アタル」

アタル,「ん? いや、別に。よーし、片っ端から行こう!」

ひよこ,「私もっ」

セーラ,「あ~、私のことも置いていかないでくださいませ~」

そして、俺たちはまさに片っ端からアトラクションを制覇してゆく。

当然、待ち時間はゼロだ。

ジェットコースター。

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ミルフィ,「っはーッ!」

アタル,「は、速かったッ! 高かったッ!」

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ミルフィ,「あらあら、あのくらいでビビッちゃった?じゃ、ジェットコースターはあと10回確定ね♪」

…………

ティーカップ。

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セーラ,「アタル様~、そ~れ、ぐるぐるぐるぐる~」

アタル,「ま、回し、すぎですっ! 地球ッ! 大回転ッ!」

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セーラ,「あ、あらあらあらあら~、私も目が、目が回っちゃいます~」

…………

メリーゴーラウンド。

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「あはは、アタルくーん♪」

アタル,「おーい、ヒヨー♪」

王子様、お姫様気分だ。

…………

ゴーカート。

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ミルフィ,「止まれーっ、待ちなさいよ、アタルーっ!」

アタル,「ははは、捕まえられるもんなら、捕まえてみなー!」

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ミルフィ,「くぅぅ……ぶつけて邪魔してやろうと思ったのに、ひらひら避けるんだもん……」

アタル,「ふっふっふ、『当たらない』アタルの異名は伊達じゃないってことさ」

…………

射的。

パンッ パンッ!

アタル,「あー、ちくしょう!」

打った弾がことごとく、狙った的から外れてしまう。

ミルフィ,「あははは、アタルは本当に射撃がヘタね!」

アタル,「昔から射撃は苦手なんだよ……」

俺の『当たらない』能力は、射的でも存分に発揮されてしまう。ゴーカートと相反したマイナス能力だ。

エリス,「ふっ、この程度、自分には児戯に等しい」

パンパパパン!

エリスさんの銃から放たれた弾は、ターゲットを片っ端から叩き落し、見事、歴代ハイスコアを叩き出した。

まぁ、実際、射的ゲームは児戯なんだけどな?

エリス,「どうぞ、姫様」

ミルフィ,「ありがと、エリ♪」

エリスさんが獲得した賞品は、でっかいクマのぬいぐるみだった。

ミルフィはエリスさんからそのクマを満面の笑みを浮かべて受け取り、両手で抱える。

アタル,「ミルフィは、クマ好きなのか?」

ミルフィ,「どのクマでもいいってわけじゃないわ。この子だから、好きなのよ」

アタル,「何か理由があるのか?」

ミルフィ,「昔、このクマ型ロボットが大暴れするアニメがあってね。大好きだったのよ」

アタル,「へぇ……」

ぬいぐるみのタグには『ポーシャ』と書かれており、どうやらそれがこの熊公の名前らしかった。

満面の笑みでクマ――ポーシャを抱きしめるミルフィは一介の姫などではなく、年相応の少女に見えた。

そんなミルフィの姿を見ていたら、つい頭をひとつの言葉が過ぎった――過ぎって、しまった。

アタル,「そのロボットくらいなら、ニッポンの技術で簡単に作れそうだな……」

そんなに難しそうな造詣じゃない。人間サイズのロボットが続々と作られている昨今だ。

このぬいぐるみサイズのロボットなら、案外あっさり作れるんじゃないか?

ミルフィ,「本当に……?」

目を大きくさせ、俺を見つめるミルフィ。

アタル,「……あ、ああ、多分……なんなら今度、話ができそうな人にでも聞いてみるよ」

ロボット技術者様を買いかぶりすぎなのか、甘く見ているのか、ロボット工学の知識なんて皆無な俺にはわからないけど。

ミルフィ,「や、約束だよ! 約束だからね!」

アタル,「……わかった。そうだな、いずれ」

そんな嬉しそうな声を出されてしまっては、ダメとも嫌ともいえず、頷くしかなかったのである。

――ちなみに、このポーシャが、劇中では体長50mくらいある巨大ロボであると知ったのは、後日のお話であり。

俺のこの迂闊な一言が、後々まで響くことになるとは、この時点では誰も予期なんてしてなかっただろう。

…………

……

アタル,「はぁはぁはぁ……とりあえず、これで一通り乗ったかな……」

待ち時間ゼロのノンストップ。

いつもなら1日がかりでも無理な遊園地1周も、昼頃には終わってしまうほどだった。

ミルフィ,「っはー、あははははは! すっごい楽しい!」

セーラ,「遊園地ってこんな面白いものなんですね~。すごく刺激的で、ぽわぽわに可愛くて、本当に夢の国です~」

セーラ,「今度、お父様に作っていただくよう、頼んでみようかしら~?」

ミルフィ,「さすがにちょっと休憩。喉渇いちゃった。アタル、飲み物買ってきてくれない?」

アタル,「は? 俺が?」

ミルフィ,「当たり前じゃない。あたしは疲れたの。男が飲み物を買ってくれるのは、デートのお約束じゃないの?」

アタル,「……デート?」

ミルフィ,「デートじゃなくても、あたしは疲れたの!」

この人数で来てたら、これはデートとは呼ばないだろ。

セーラ,「では、アタル様、私と一緒に買いに行きましょう~」

アタル,「うおっと!?」

セーラさんに腕を取られ、俺はバランスを崩しつつ、ドリンクコーナーへと向かった。

アタル,「セ、セーラさん、胸がその、当たってるんですけど」

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セーラ,「ふふっ、当ててるんですよ~?」

アタル,「え、ちょっ……!」

腕を挟みこむような胸の感触が気持ちよすぎる。

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セーラ,「アタル様がミルフィさんばかり贔屓するので、ちょっと妬いちゃいました」

アタル,「ミルフィを贔屓……いや、別にそんなつもりは……」

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セーラ,「昨夜、アタル様のお部屋にお邪魔しようとした時に、お電話しているところを聞いてしまいまして」

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セーラ,「お天気が晴れになったのは、アタル様のおかげなんですよね~?」

アタル,「あ、まぁ……はい」

そこまでバレてしまっているのなら、今更隠すこともないか。

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セーラ,「アタル様はお優しいんですね~♪惚れ直してしまいます~」

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セーラ,「その優しさを、もっと私に注いでいただけたら、とは思うのですけど、それはエゴというものですよね」

アタル,「え……あー……」

返信に困りつつ、俺はセーラさんとともに人数分の飲み物を買って、みんなの元に戻った。

俺の優しさは、誰に向けるべきなんだろうな。

…………

……

昼ご飯を園内のレストランで食べた後、今度はヘビーローテーションの始まりだ。

ジェットコースターやフリーフォールの絶叫マシンで何度悲鳴をあげただろう。

ゴーカートで何周しただろう。

メリーゴーラウンドで馬に乗り、馬車に乗り、シンデレラ気分を満喫して。

気がつけば、夕方。

体力の限界まで乗り回していながらも、ひとつだけ乗っていないアトラクションがある。

…………

……

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ミルフィ,「アタル、観覧車乗りましょ!」

遊園地の締めくくりといえば、やっぱりコイツだ。

ひよこ,「じゃ、みんなで乗ろっか」

ミルフィ,「ちっちっち、ぴよぴよ、わかってないわね。なんでこれを締めくくりに選んだのか」

ミルフィ,「いろんなアニメを見てきたあたしは悟ったわ。観覧車は最後に2人きりで乗り込んで、夕焼けや夜景を見ることに意義があるのよ」

ひよこ,「た、確かにそうだけど……」

セーラ,「まぁ♪ なんだかすっごくロマンチックですね~」

ミルフィ,「ってわけだから、誰がアタルと乗るか恨みっこなし!公平にじゃんけんで決めましょ」

ミルフィ,「最初はグー! じゃんけんっぽい!」

ひよこ,「あいこでしょっ!」

セーラ,「あいこでしょっ!」

ミルフィ,「あいこでしょーっ!」

ひよこ,「……あっ」

セーラ,「あっ……」

ミルフィ,「チョキ、パー、パー……やったぁッ!あたしの勝ちぃっ!」

何度と続いたあいこの末、勝利を収めたのは、ミルフィであった。気合の勝利だった。

セーラ,「うう~……悔しいですけど、恨みっこなし、です~」

俺はミルフィとともに観覧車に乗り込む。

外に出られない、誰にも邪魔されないふたりきりの、1周15分間の密室だ。

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ミルフィ,「あはは、高いわねー。街がゴミみたいよ。なぎはらえー!」

俺の緊張を他所に、ミルフィは眼下を見下ろし、はしゃいでいた。

ミルフィ相手じゃ、色っぽい展開になるはずもないか。

……セーラさんだと、この場で押し倒されそうだなぁ、とか思っちゃうのは、偏見か。

アタル,「楽しめたのなら何よりだよ」

やれやれ、とばかりに、俺は息を漏らす。

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ミルフィ,「今日はすっごく楽しかったわ。連れてきてくれてありがとね、アタル」

アタル,「振り回された身としては、疲れが優先してるけどな……はは……」

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ミルフィ,「え゛、アタルは全然楽しくなかった……?」

アタル,「いやいや、冗談だよ。楽しかった。久しぶりに童心に帰れたよ」

まだ学生の若造が何を抜かすか、って怒られそうな発言だ。

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ミルフィ,「ね、アタル。こういう時は『やっと……ふたりきりになれたね』とか言うもんじゃないの?」

アタル,「え、あー……そういうもの?」

ミルフィのその言葉はどこか芝居じみていた。

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ミルフィ,「そ、そうよ、それがお約束ってもんじゃない。大事なことなんだから、お約束はちゃんと踏まえなさい」

アタル,「……やっと、フタリキリになれたネ」

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ミルフィ,「なんで棒読みっぽいの! もっと感情こめなさいよ!嬉しそうに! 楽しそうに!」

リテイクを食らった。言わされておいて、感情をこめろもあったもんじゃない。

言わされてるから、よくないんだ。ここは1つ、自分の言葉で。

アタル,「ミルフィに会ってから、こうして誰にも邪魔されず、顔を突き合わせるのって、初めてじゃないかな?」

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ミルフィ,「えっ? あ……そうかもしれないわね……」

アタル,「まぁ……ふたりっきりになったことはあったけど……」

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ミルフィ,「え、いつだろ……ハッ!?」

それがいつのことだったか、思い出したらしい。

――出会った初日、ミルフィと一緒にお風呂に入った時。

まさかあんなことをするとは思ってなかったし。

まさかいきなり裸を拝めてしまうとは――

――ヤバ。

ミルフィ,「ちょ、ちょっ、アタル!今、何か余計なこと考えてないっ!?」

アタル,「考えてない! 考エテナイヨー!」

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ミルフィ,「どうだか……」

アタル,「で、でも、この1ヵ月でミルフィの人となりが少しずつわかってきたのは、なんだか嬉しいんだよな」

アタル,「そりゃ最初に家を吹っ飛ばしてくれた時はどうしてくれようかと思ったけど……」

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ミルフィ,「アレは……ごめんなさい。うん、今思えば、確かにアレはあたしが悪かったわね」

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ミルフィ,「前だったら、こんなこと思わなかったと思うんだけど……ニッポンに感化されちゃったかしら」

アタル,「今こうして、自分の手には絶対届かなかったはずのお姫様が、目の前にいるのってすごく不思議なんだけど」

アタル,「なんか今、すごく現実なんだなって気がした。ミルフィもやっぱ同じ人間なんだなーってね、はは」

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ミルフィ,「あ、当たり前でしょ。今まであたしのことなんだと思ってたのよ」

#textbox Kmi0240,name
ミルフィ,「な、なによ……ちょっと嬉しいじゃない……」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「そういう思い出を振り返ってさ」

#textbox Kmi02A0,name
ミルフィ,「肩を抱き寄せたりとか、隣に座るとか……な、なんだったら、キ、キスをする……とか、そのくらいはしてもいいのよ」

アタル,「キ……え!?」

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ミルフィ,「ほら、そ、そういうのって、観覧車の定番イベントじゃない?」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「アタルがどうしてもしたいっていうなら、あ、あたしには拒む理由はないわよね。婚約者になる身としては」

アタル,「……本当にいいの?」

#textbox Kmi0280,name
肩に手を載せると、ビクッと身体を震わせる。

アタル,「……ったく、無理するなよ」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「む、無理なんてしてないわよ! してないもんね!」

アタル,「なんていうか……ミルフィって、婚約者とか結婚してっていうわりに……なんていうか……」

アタル,「俺のこと、そんなに好きじゃなくない?」

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ミルフィ,「えっ……!? ソ、ソンナコトナイワヨ!ダイスキ! アタルノコト、ダイスキ!」

アタル,「……なんだかんだで嘘つけないよなぁ、ミルフィって」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「……ぅぐ……」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「ア、アタルのことは嫌いじゃないわよ。一緒にいると楽しいし、好きか嫌いかでいったら好きだと、思う。絶対」

#textbox Kmi0240,name
ミルフィ,「そういう風に好きだとは思うんだけど……でも、あたし、まだ恋とか、愛とかよくわからないのよ……」

アタル,「それなのに、俺にプロポーズをしたのか?」

#textbox Kmi0280,name
ミルフィ,「あ、あー、うー……」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「あの、あたしね。世界中のみんなが幸せになれたらいいなって思うんだけど」

アタル,「……は?」

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ミルフィ,「戦争なんて全部なくなって、世界中のみんなが、仲良く暮らせるようになればいいって思ってるのよ」

アタル,「……そう、だな? そうなれると幸せだろうな」

でも、それは希望でしかない。

連綿とつがれてきた歴史は、戦いの歴史。

自分の国こそが世界のトップとなり、争いなどない世界を生み出そうとしていた国もあったのだろうけど。

だが、それは人類の望みでありながら、未だ一度たりとも叶っていない。だからこそ、今がある。

で……それは今の話の流れですることか?観覧車の中でする話ではないな?

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ミルフィ,「――そのためには、ニッポンにある巨大ロボが、絶対に必要なのよ!」

アタル,「ぶっ!?」

なんという論理の飛躍!?いったい、どこでどういうコネクタが繋がった!?

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ミルフィ,「何十年も前から、ニッポンで作られたロボットは、宇宙怪獣や地底帝国の驚異から世界を守っているじゃない」

アタル,「そ、そう……だねぇ?」

思わずミルフィから目を反らしてしまう。

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「ふふ、だから、今更隠しても無駄よ。あたしは知っているのよ。我がイスリアには、ニッポンの全ての情報が流れてきてるわ」

アタル,「……むぅ」

エリスさん……俺はいつになったら、ミルフィに真相をぶち撒けていいんですか?

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ミルフィ,「アタル、あたしたちイスリアに力を貸して。ニッポンの科学力とイスリアの軍事力が合わされば最強。火と火が合わさって、炎になったら無敵なんだから」

アタル,「どこかで聞いたフレーズだなぁ……」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「もちろん、タダでなんて言わない。あたしができることだったら、なんでもするわ!」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「そのためなら、その、あたしの初めてのキ、キスだって……アタルに捧げても……」

アタル,「い、いや、ちょっと、待っ……え、ええっ!?」

あまりにミルフィは真剣すぎる。そして、飛躍しすぎている。

ニッポンに二足歩行ロボットなんてないんだよ!あれは全部フィクション! 虚構! お芝居!

――だなんて言い出せない。今、告白すべきことじゃない。

アタル,「え、えーと……ミ、ミルフィにキスはまだ早いんじゃないかな? ほら、こういうことは互いを解り合って、大人になってから……」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「子供扱いするんじゃないわよ! あたしはれっきとしたレディなのっ! キスのひとつやふたつくらいで……!」

狭い観覧車の中、ミルフィは身体を乗り出し、距離を詰めてくる。

アタル,「わ、わかった、あんまり興奮するな」

観覧車が、グランと大きく揺れた。

#textbox Kmi0250,name
ミルフィ,「わっ!?」

前傾姿勢で浮かしていたミルフィの体が、俺の方へ傾き。

ほんの少しだけ、ほんの一瞬だけ。

#textbox Kmi02A0,name
ミルフィ,「…………んッ!」

アタル,「…………ッ!」

互いの唇の先端同士が触れ合った。

それは時間にして、1秒に満たか満てないかといった程度だろう。

#textbox Kmi0250,name
ミルフィ,「い、今のはノーカウント!あたしの意志じゃないしっ!」

アタル,「ノ、ノーカウントって……」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「ここまでしたんだから、覚悟くらい決めなさいよ……」

#textbox Kmi02A0,name
ミルフィ,「仕切りなおし……目、閉じなさい……」

アタル,「あ、ああ……」

今一度、ミルフィの顔が俺に近づいてくる。

今のこの雰囲気に流されているわけじゃない。

今度は本当に、お互いの意志で――

ガチャッ

俺たちの横で音がした。

風が吹き込んできた。

#textbox Kmi0250,name
ミルフィ,「…………え?」

アタル,「…………え?」

ひよこ,「ふたりともお帰りなさーい……って、えぇえっ!?」

セーラ,「ア、アタル様っ! 観覧車に乗っていただけで、そこまで進んでしまっただなんて……!」

気がついたら、観覧車は一番下に着いていて。

ドアを開けられたことに気づかぬまま。

俺とミルフィの顔は、鼻先がくっつくほどの距離で。

ミルフィ,「み、みんなっ!? ち、違うんですのよ違うんですのよ!これは違うんですのーっ!」

ミルフィのキャラが崩壊していた。

アタル,「未遂! 未遂だからなッ! 俺たちは、その、なんにもっ! なんにもしてないから!」

セーラ,「未遂じゃないです~っ! あと5秒長く乗ってたら、絶対しちゃってましたよ~!」

ひよこ,「ア、アタルくんのえっちぃ……!」

お、俺はなんで、ミルフィとあんなことをしそうになっていたんだ……? アレが、観覧車の魔力なのか……?

その後。

セーラ,「そうです、時間はいくらでもあるんですから、私たちもアタル様と一緒に乗ればいいんですよ~♪ささ、アタル様、一緒に乗りましょう~」

ひよこ,「う、ダ、ダメだよっ。セーラさんと一緒に乗ったりしたら、アタルくん食べられちゃうよっ」

セーラ,「まぁ……食べるだなんて……確かにアタル様とふたりっきりになったら、私は何をしてしまうかわかりませんけれど……ポッ」

ひよこ,「わーわー、やっぱ危険だよぉっ!ね、アタルくん、私と一緒に乗ろ?」

セーラ,「そうしたら、私だけが除け者になっちゃいます~。ひよこさんズルいですよ~」

アタル,「え、えーと……折衷案として、ふたりと一緒に乗るっていうのは……?」

2人,「それじゃダメなのっ!」「それじゃダメですっ!」

…………

……

まぁ、結局、俺はヒヨとセーラさんとも1回ずつ観覧車に乗ることになったわけだけど。

ヒヨとセーラさんが牽制しあっていたおかげというか、せいというか。

さっきみたいな展開に陥っちゃったのは、結局、ミルフィだけだったわけだ。

…………

……

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「な、なんであたし、あんなことしちゃったの……?お、おそるべし、観覧車の力……!」

#textbox Kmi02A0,name
ミルフィ,「やだ、あたし……すごくドキドキしてるんだけど……」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「初めてキスなんてしちゃったからドキドキしてるだけよね……? そうに決まってるわよね……?」

アタル,「ふぅー、終わったー……」

2時限目の授業が終わり、俺はべたりと机につっぷした。

あの先生、板書するスピードが異常だから、ノートに書き写すのが大変で仕方がない。

それに加えて、先日の遊園地の疲労が残っている。

絶叫マシンに立て続けに乗せられた感覚が体に染み付いていて、その夜の夢見は最悪だった。

このまま次の授業までの短い休みを悠々と過ごそうと思っていたが。

ミルフィ,「さぁ、アタル! 準備なさい!」

――案の定、それは許してもらえなかった。

頭上から聞こえてくる傲慢不遜な声。……否、頭上というほど上ではなく、ほんのちょっと上と訂正すべきだ。

それはともあれ、しかし、書き取り地獄で披露困憊の俺はそれをガン無視しようと決め込んだ。

ゲームなんてやってられる状態じゃない。

#textbox Ker0130,name
エリス,「ミルフィ様のお声が聞こえないのですか、アタル王」

冷やりとした鋼鉄の塊――言うまでもない、銃口が脳天に突きつけられている。

頭髪越しにもわかる重厚感がたっぷりすぎるその感触に、俺は無言で両手を挙げた。

#textbox Ker0110,name
エリス,「それは肯定ですか、否定ですか? 言っていることはわかりますか? もし声が聞こえていないというのなら、今から耳掃除をして差し上げます」

そういって銃口は離されていく。とはいえ、耳掃除ったって、膝枕で竹の耳かきを使ってやってくれるわけでは当然のごとくなく。

#textbox Ker0130,name
エリス,「その飾りでしかない耳に、綺麗に11.5mmの穴を開けてごらんにみせましょう」

アタル,「ヤ、ヤメテクダサイ キコエテオリマス。ワタシノミミハ、フシアナデハゴザイマセン」

俺は跳ねるように机から起き上って、両手を挙げたまま首をぶるんぶるんと横に振った。

#textbox Ker0140,name
エリス,「左様ですか。……チッ」

アタル,「オィィ! 今、『チッ』ていった! 舌打ちしたろ!」

#textbox Ker0160,name
エリス,「空耳でございます……いえ、もしかしたらやはりお耳が悪いのかも……」

アタル,「イヤ、ごめんなさい、さっきのは確かに俺の空耳!空耳アワーです! オープニングとエンディングを見るために、金曜深夜はテレビの前です!」

地域による放映日時の違いは、目を瞑っていただきたい。

#textbox Ker0110,name
エリス,「……むしろそれは、脳が大変残念なことになっておられるのでは?」

アタル,「なってませんですよ! ノープロブレムですって!男なら当然ですって! 俺の脳細胞は元気元気!」

#textbox Ker0160,name
エリス,「……言葉づかいが怪しい。やはり、一度精密検査を行った方が――」

アタル,「ひいいぃぃぃぃいぃいぃぃっ!?」

逃げ場なしか――

耳にもうひとつ穴を開けられる覚悟を俺が決めた時だった。ふと、エリスさんの注意が俺から外れる。

いい加減にしろとミルフィがようやく停めてくれたのかと思ったが、そういうわけではなく。

ミルフィも好戦的な瞳をギラとさせてエリスさんの注意の先を見ていた。

その、何でかエリスさんへとマクスウェル少年ばりにデスサイズを突き付けているアサリさんの姿を。

#textbox ker0130,name
エリス,「……何でしょうか、アサリさん?自分へと向けているソレは?」

#textbox kas0120,name
アサリ,「あははー、これが何かわかりませんかー?」

#textbox kas0110,name
アサリ,「だとしたら、脳検査をした方が良いのはエリスさんの方かもしれませんねー。良いお医者さんを紹介しますよー。ハウス先生っていう免役科の方ですけどー」

#textbox ker0130,name
エリス,「自分が質問をしているのは、大鎌という武器を自分に向けている意図です。冗談という言葉では済みませんよ」

#textbox kas0110,name
アサリ,「それは簡単なことですよー。アタルさんを傷つけようとしているエリスさんを止めることで、セーラさんへのポイントを稼ごうという作戦ですー」

じりりっとアサリさんが距離を詰める。

刃を向けられたエリスさんはゆっくりと俺から銃口を離して、猫娘さんへと黒金の塊を向けた。

#textbox Khi0190,name
ひよこ,「う、うわあぁぁ~! あ、あぶないよぉ! 2人ともやめてよ~! あ、アタルくん、早くやめさせて~!」

アタル,「む、無茶言うなよ! せ、背中を押すなぁ!」

この2人の間に入ることなんてできるわけないだろ!

ヒヨに背中をぐいぐいと押され俺があたふたとしてる間に、エリスさんの横に立ったミルフィが、ビシィッとちっちゃな指をアサリさんに突きつけた。

ミルフィ,「ふんっ! 無駄なことね。アタルはあたしのお婿さんになるんだから! クアドラントの人魚さんたちは、さっさと泡となって消えちゃいなさいっ!」

アサリ,「ほらー。こっちが大人しくしてるせいでー、調子に乗ってセーラさんのことを『インスマス面!』とか、怪物扱いされてますよ。ひどい中傷してますよー」

セーラ,「ミルフィさんったら、そんなひどいこと言うなんて……めそめそ……」

ミルフィ,「だ、誰もそんな風に言ってないわよ! あたしはアンデルセンチックに例えただけじゃない!」

アサリ,「まぁー、今さらそんな使い古されたクトゥルフネタなんかどうでも良いとしてー」

ミルフィ,「ちょっ!? 自分で言っておいてそんな扱い!?」

ミルフィが顔色を変えて食いついたが、アサリさんは聞こえていないかのように軽やかに身をかわし。

アサリ,「いい加減、こちらとしましても、イスリアの脳筋野郎共にばかり目立たせているわけにもいきませんしー。たまには私のCGも出したいですしー」

アタル,「CGって何さ!?」

アサリ,「具体的にはボイス数のために活躍の場が欲しいのです!もっと、もっと、おまんまの種を!」

#textbox Khi0130,name
ひよこ,「ぼ、ぼいす数……?」

アサリ,「そういうわけでー、死んじゃってくださいー、イスリアの豚野郎ー♪」

エリス,「ひ、人を、イベリコ扱いするか……ッ!」

アタル,「えっ、怒るのそっち!?」

#textbox Kmi0140,name
ミルフィ,「……軍人だから、地味に気にしてるのよね。体脂肪率」

アタル,「あ、ああ……」

なんとなく、納得。ガーニー軍曹に白豚とか罵られたくないもんな。

俺がそんな風に変な感心をしている間にも、ふたりはぶつかり合って……多分、音からしてぶつかっているんだろう。

まるでプチ台風が訪れたかのように教室内ではプリントが、机が――

男子学生,「うわぁ、中村が巻き込まれたぞー!」

――そして、学生が舞っている。

……あ、外に行った。

目で追い切れないほどの高速戦闘を行っていたふたりは、窓ガラスを突き破って外へと飛び出していってしまった。

男子学生,「ふー、嵐が去ったなー」

女子学生,「ちょっと、誰かー、箒とちりとり持ってきてー」

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「あ、今、持ってくるよ~」

男子学生,「おーい、中村のやつがロッカーに刺さってるぞー」

#textbox Khi0190,name
ひよこ,「きゃー! 保健委員さーん!!」

あれだけのことがあったというのに、既に慣れっこになっているウチのクラスの面々は、落ち着き払って事後処理を行っている。何とたくましいことか。

ドアの方を見れば隣のクラスの連中が、良い見せ物だと言わんばかりに見物しに来ているし。

ミルフィ,「……ま、まぁ、ともあれ。アタルはあたしのお婿さんだから。そういうわけで、対戦するわよ」

アタル,「ど、どういうわけだよ。それより俺たちも掃除の手伝いを――」

セーラ,「あっ、ず、ずるいです~! 私もアタル様とイイことしたいのに~!」

ミルフィ,「ふふん、アタルはイスリアの未来のためにも渡さないもん。ほらほら、準備なさいっ!」

アタル,「ぐっ、ぐえぇっ。人の言うこと無視して引っ張るな!無理に背伸びしてまで襟首引っ張るな!」

ミルフィ,「ち、ちっちゃいとか言うなぁ!」

アタル,「ちっちゃいとは言ってないだろ!」

ちっちゃいなぁ、って、思いはしました。

アタル,「って、やばっ! チャイム鳴ったぞ!早く片付けないと怒られる! 2人とも手伝って!」

セーラ,「は、はい!」

ミルフィ,「えー、なんであたしがー」

アタル,「セーラさん、昼休みは一緒にランチを食べませんか?」

セーラ,「え? いいんですか♪」

ミルフィ,「なっ! きーっきーっ! だめだってばー!そんなん絶対ぜ~ったい許さないんだからねー!」

アタル,「じゃあ、掃除をちゃんと手伝いなさい」

ずいっと箒を突き出すと、しぶしぶながらミルフィはそれを受け取った。

ミルフィ,「わ、わかったわよ。ちっ、仕方ないわね。ったく、イスリアの姫たるあたしが掃除なんて……ぶつぶつ」

アタル,「ぶつぶつ言ってると本気で仲間はずれにするぞー」

ミルフィ,「ちゃんとやるってばー!」

この後、掃除番長・ヒヨの下、一致団結した俺たちは先生が来るまでにしっかりと掃除を終えた。

窓ガラスに関しても、いつの間に手配をしたのか、柴田さんの手により新品がとり寄せられていて。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「ミルフィ姫の為にと、イスリア国王より多額の寄付金を頂いておりますのでこの程度は無問題です」

アタル,「……まぁ、何にせよ助かったよ」

俊敏、迅速な執事の手際に感謝。

…………

……

アタル,「ふわああぁぁぁ、眠かった……」

昼食後の授業はどうしてこんなに眠いのか。

眠かったとは言ったものの船を漕いでた時間も長く、授業内容は半分も頭に入っていない。

証拠にノートに書かれている文字は干からびたミミズのようなものばかり。

後でヒヨのノートでも借りて、写し直さないと役に立たないだろう。

#textbox Kmi0160,name
ミルフィ,「さ、やるわよ、アタル」

隣の席のミルフィはかわいらしいクマ――ポーシャ型のポーチ(エリスさんの手作りだそうだ)から、携帯ゲーム機SPSを取りだした。

アタル,「おいおい、またかよ」

予想はついていたものの、俺がうんざりとした調子になるのも仕方がない。昼前の休み時間にはそれで一騒動が起きたわけだし。

ちなみにエリスさんとアサリさんの2人は今も校庭でやり合っているようで。

長期戦になったことで弾切れが危惧されたエリスさんの方が若干オッズが低いらしい。

――と、ブックメーカーである学園長が校内放送でのたまっていた。

……何を考えているんだ、ここの学園長は。

しかし、俺がうんざりしている理由はそれだけじゃない。

アタル,「さっきから、休み時間になるたび、こればっかりじゃないか」

昨晩、ミルフィはこのゲームで遊ぶ夢を見たとかで。目覚めた瞬間から、ブームは最高潮を突き抜けていた。

つまるところ、早朝から叩き起こされた俺は、それから休みの時間がある毎にこうして付き合わされているわけだ。

#textbox Kmi0110,name
ミルフィ,「ふ~ん、敵前逃亡ってわけ? それって、強国であるあたしのデッキに恐れをなしたってことよね!」

アタル,「なん……だと……?」

その言葉にはカチーンと来ました。来ましたよ。

アタル,「これまでの俺はルールに慣れようと試行錯誤していただけさ。だが、ルールを把握した俺に死角はない!」

#textbox Kmi0160,name
ミルフィ,「なら、やるわね?」

アタル,「3分待ってくれ。それでデッキを調整する」

#textbox Kmi0190,name
ミルフィ,「いいわよ。あたしは講義中に調整は終えてるから」

アタル,「ちゃんと授業を受けろ!」

聞く耳を持たないミルフィに溜息つきつつ、机の中からゲーム機をSPSを取りだした俺は電源を入れ、早速デッキの再構築に手をつけた。

ニッポンの王のメンツに賭けて、絶対に負けるわけにはいかない!

…………

……

#textbox Kmi0170,name
ミルフィ,「む……く、や、やるわねアタル! ターンエンドよ」

アタル,「ミルフィに勝つために攻略法を考えたからな……っと、いいヤツが来た! これで終わりだっ!」

手札がそろった隙に、俺は仕掛ける!

アタル,「インスタントカード『格差社会の搾取』を使うぜ!」

コイツで場に出ているユニット『市民』をサクリファイスし、犠牲になった市民分のコストを使い『貴族』を召喚できる!

#textbox Kmi0120,name
ミルフィ,「な、なんですって!!」

アタル,「来い『バーニングヒップノーブル』!」

俺は間違えのないよう、冷静に正確にカードを選んで召喚する!

ド派手すぎるエフェクトと共に喚びだされた、明らかにあくどい顔の政治家面をしたケンタウロスが、炎をまとってミルフィに突撃をしかけた!

#textbox Kmi0150,name
ミルフィ,「あっ、ああああ~!?」

俺の貴族ユニットの超攻撃によって、ミルフィの使っていたキャラのライフが一気にゼロに。

そして俺のSPSの画面にはデカデカと、『You Win!』の文字が浮かび上がった!

アタル,「ははははは! どうだ、このコンボは!」

#textbox Kmi0130,name
ミルフィ,「くぉの~っ! アッタルめぇ~ッ!あ~、くやしいっ! くぬっ、くぬっ、くぬっ!」

アタル,「おい、悔しいからってゲーム機に当たるなって!」

キーボードクラッシャーよろしく、机に携帯ゲーム機を叩きつける子供っぽい姿――まぁ、子供っぽいのはいつものことだけど、止めないわけにはいかない。

八百万の神が宿るのだと、物を大切にするのがニッポン人の美徳だ。

#textbox Kmi0170,name
ミルフィ,「つ、次は対策を取ってやるからね!」

アタル,「ふっふっふ、やれるもんならやってみるがいいさ」

頬っぺたをぷく~っと膨らませてこちらを睨むが、全然怖くない。

#textbox Kmi0130,name
ミルフィ,「こっ、子供扱いするな~! それと頭を撫でるな~!」

むしろ、かわいいもんだと俺は頭を撫でてやった。

#textbox Kmi0120,name
ミルフィ,「むむむむむむ~っ! 不愉快ここに極まれりっ!」

アタル,「おっと」

ぶるんっと大きく振られた頭から思わず手を離す。

解放されたミルフィはキッとこっちを睨んだが、すぐにぷいっとそっぽを向いて廊下へと歩き出した。

アタル,「おい、どこ行くんだ?」

ミルフィ,「気分転換にいちご牛乳買ってくるの!ついてきて、エリ!」

エリス,「はい、ミルフィ様」

アタル,「なっ、どこから!?」

激しい戦いを繰り広げていたはずなのに、いつも通りのピシッとした姿のエリスさんが、気付けばミルフィのすぐ後ろに陣取っていた。

ミルフィもミルフィで、エリスさんがその位置にいるのは当たり前のことと思っているようで、確認の仕草も見せずに教室から出ていった。

アタル,「チャイムまでには戻ってこいよー」

#textbox kmi0130,name
ミルフィ,「わかってるわよっ!」

ちっちゃい肩を怒らせながら、ぷんすかと教室を出て行く後ろ姿に、俺はやれやれと肩をすくめてゲーム機の電源をオフにした。

男子学生,「嫁さんの相手も大変だねぇ」

アタル,「ばーか、そんなんじゃねーよ」

男子学生,「ん、そうなのか? ミルフィちゃんはアタルの嫁だって公言してるけど」

アタル,「それを言い出したら、セーラさんだって俺の嫁になっちゃうだろ」

そう言えばそうだな、と、彼は呟くと、天井の辺りに視線を漂わせて何かを思い出すような顔をした。

男子学生,「まぁ、仲は良いけど、どう見たって恋人って感じでもないしなー」

アタル,「そりゃそうだ、俺たちは恋人同士じゃないし。そもそも、ミルフィを恋人にすると言われてもピンとこない」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「そうですよー。ミルフィさんは良くて雌犬、悪くて雌豚ってところですよー」

アタル,「うおっ、アサリさん!? 一体どこから!?」

俺たちの会話に入ってきたのは、いつの間に戻ってきていたのかのアサリさん。

アタル,「ていうか、雌犬も雌豚も褒めてない!」

#textbox Kas0140,name
アサリ,「何を言いますか! 性を大切にするクアドラントでは両方最高級の褒め言葉ですよー! 嘘ですけどっ!」

アタル,「そりゃー、嘘だろうな!」

いくら異文化だって、そんな褒め言葉があって堪るものか。

男子学生,「あ、あれ、エリスさんとアサリさんの2人がここにいるということは、勝負は……」

#textbox Kas0150,name
アサリ,「あ~、結局12ラウンド時間切れ。判定で引き分けでした~。いやー、まさかあのドラゴンフィッシュブローが空を切ってしまうとはー」

男子学生,「なんやて――!? あ、ああ……今日こそはと思って、予想屋の言葉に従って小遣いを全部賭けたのに……今月残りどうやって生きれば…………欝だ死のう」

主に懐に大ダメージを受けたらしい彼は、ふらふらっと立ち上がると、教室の外へと危なっかしい足取りで出ていってしまった。

……頑張れ、田中(仮名)。

アタル,「けど、判定なんてあるのか……。あれ、審判なんているんです?」

#textbox Kas0110,name
アサリ,「学園長さんが決めたルールなんですよ~。私闘を許可する代わりにルールを守れっていう~。ちなみに審判も学園長さんですよ~」

アタル,「ああ、なるほど。私闘ってことにして、国際問題にはしないと……ん、学園長が決めたルール? 審判も学園長だし、ブックメーカーも学園長だったような……」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「ぐふふ、外貨美味しいです♪ うまうま♪」

アタル,「――――――!?」

#textbox Kas0170,name
アサリ,「円高さいこーっ!」

こ、こいつら学生に金賭けさせて、結果をドローにさせてがっぽり儲けてやがるんじゃ――!?

#textbox Kas0180,name
アサリ,「なんのことかニャー?少なくともエリスさんは本気で殺しに来てるニャー。アサリも別の意味で本気になってるニャー♪」

アタル,「別の意味って言ったー!しかも、取ってつけたように語尾がニャーになったー!」

ああ、俺の予想は当たっているらしい。……田中、イキロ。

#textbox Kas0110,name
アサリ,「まぁ、というわけで、ミルフィさんはアタルさんの嫁というより妹程度ってことですよー」

アタル,「脈絡なく話戻しますね……」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「ではでは、お疲れモードのアサリさんは、またたびくんかくんかしながら、ごろんとお昼寝してくるにゃー♪」

アタル,「またたびっすか」

#textbox Kas0180,name
アサリ,「うにゃにゃーん♪」

またたびが入っているらしい巾着袋をくるくる回しながら、アサリさんは窓から外へ出ていった。

この人も大概、人の話を聞こうとしないよな……。……つーか、俺の周り、話聞かない奴多すぎじゃねー?

しかし、ミルフィが恋人ねぇ……。

そう改めて言われても、全くピンとこない。

仲の良い兄妹、同級生、友達、恋人……

……うん、恋人が一番ズレてる感じ。

この間のキス未遂の事件こそあったけれど、それで意識しだすってこともなかったしなぁ。それこそ、事故で終了ってなもんだ。
そういうカテゴリで考えるのならば、どちらかというとセーラさんの方が……。

だって、あんなえっちぃ体をしているわけですよ。正常な思春期男子としては、意識しないでいられるわけがないじゃないか。

……前に、お風呂であんなこともされたわけだし。

それに対して、ミルフィに劣情を抱くとか、ちょっと間違ってるような気がしないでもない。

アタル,「貧乳はステータスっていう言葉もあるけどなー……」

#textbox Kmi0120,name
ミルフィ,「……今、あたしを侮辱するようなこと考えてたでしょ」

アタル,「おわっ、い、いつ帰ってきた?!」

#textbox Kmi0130,name
ミルフィ,「今よ! きいぃいぃぃぃぃっ!!あたしのことをちっちゃいって言うなー!」

さっきの『バーニングヒップノーブル』ではないが、顔を真っ赤にしたミルフィが体ごと俺に突進してきた。

が、運動が得意とはいえないミルフィの動きくらい、簡単に見切れるもので。

俺は右手一本を長く伸ばして、頭を押さえてしまう。

#textbox Kmi0170,name
ミルフィ,「うににににににににににぃぃいいぃぃっ!その手をはなせはなせはなせーっ!」

ぶんぶんと両手を振ってパンチしようとするが、掠るどころか届きもしない。

アタル,「ふははははは、幾ら駄々っ子パンチをしようとしたって、リーチの差は決定的なのだ! ちびっこめ!」

#textbox Kmi0130,name
ミルフィ,「ち、ちびっこって言ったー!!」

エリス,「貴様、ミルフィ様に対し女としての魅力がないなどと、どの口でのたまいますか! ええい、そのような失礼千万な口はイスリア特製パイナップルを食べるがいい!」

瞬時に現れたお付きは、一瞬の躊躇すらなく、懐から手榴弾を取りだし、ピンを抜く。

アタル,「ひぎぃっ!? 手榴弾は食べ物じゃないからっ!口で咥えるものじゃないですからっ!」

ひよこ,「おーい、アタルくーん。お取り込み中のところ恐縮だけど。そろそろ先生きちゃうよー」

エリス,「くっ、命拾いしましたね、国枝アタル。だが次も助かるとは思わないことです!」

ミルフィ,「いや、アタルを殺しちゃまずいから。そんなことしたら、あたしのポーシャ計画が…………おっと、これは極秘事項だったわね」

いつの間にか、ミルフィの脳内では確定事項になっているポーシャ計画の全容が気になるが、ともあれ助かった。

ミルフィ,「アタル、助けてあげたんだから、貸し1よ。わかってるわね、ポーシャで返すのよ!」

アタル,「……はいはい」

ほら、ミルフィだって、どう考えても俺を恋愛対象としては見ていない。

多分、ミルフィにとっての俺は、結婚すれば自分好みの巨大ロボットを開発してもらえる便利な奴と思ってる程度。

あとは、遊び相手ってくらいだもんな。

久々に考えたが、あまり変わってない関係に安心と、少し寂しい気持ちを感じ――

……ん、寂しい気持ち?

……いやいやいや。

ないから。ミルフィはないから。可愛いとは思うけれど小動物的な愛らしさであって、それ以上ではないから。

自分の中のモヤっとした気持ちを全力で否定したと同時、教室のドアが開いて教師が入ってきたことで、俺はこの変な想いを忘れることができたのだった。
…………

……

アタル,「ふわああぁぁ……なぁ、まだやるのか……?」

#textbox Kmi0320,name
ミルフィ,「あ、あたりまえでひょ……。せっかくワリイーステージまで来たのに……ここでやめるなんて、ありえないふにゃ……」

アタル,「パスワードとってあるんだし、明日続きやればいいじゃん……」

#textbox Kmi0380,name
ミルフィ,「そんなのらめだって……。それより、わすれてないでしょーね。やくそくのことを」

アタル,「ああ? 約束?」

#textbox Kmi0320,name
ミルフィ,「そーよ……ふにゅ、あらしがぁ~、クリアできたらぁ、ポーシャ作ってくれるっていったじゃないろぉ……」

アタル,「それはミルフィが勝手に言ってただけだろ……って、お、おい、コントローラーコントローラー!」

#textbox Kmi0340,name
ミルフィ,「ふにゅうぐぅぅ……くぅぅ…………」

アタル,「おまっ、言ってる傍から寝るか!? エネルギーゲージゼロになったとたんにお休みかよ!」

ぐらぐらと揺するもミルフィは一向に目覚めず。

そうこうしている内にテレビの中で青い戦士は、ティウンティウンと爆発していた。

アタル,「あーあ……。ま、パスワードを取ってあるし、いいか」

赤丸の位置を適当な紙に記しておく。

明日の朝になればミルフィの中でこのブームは過ぎ去っているかもしれないけれど、やっておいて損もないだろう。

#textbox Kmi0340,name
ミルフィ,「う、ううぅ……やめて、そこでダメージ食らうと落ちて、とげに、とげに……ううぅむにゃ……」

夢の中でまでやってるみたいだ。風呂に入ってからほぼブッ続けでやってたわけだし、その気持ちもわかる。

某ロシアのパズルゲームにハマった後は、しばらくは脳内をコロブチカが流れ続けるものだし。

アタル,「さて、エリスさんを呼んでくるかな」

#textbox Ker0110,name
エリス,「アタル王」

アタル,「おっと……」

部屋から表に出た途端、エリスさんと目があった。

#textbox Ker0120,name
エリス,「そろそろミルフィ様がおやすみの時間だと思いまして」

アタル,「……さすが」

ミルフィのことなら何でもご存知。体内時計からバイオリズムまで完璧の把握だ。

アタル,「丁度寝ちゃったから、エリスさんを呼びに行こうと思ったところだよ」

ちらっと部屋の中に視線をやれば、テレビの前でこてんと横になったミルフィの姿が。

#textbox Ker0140,name
エリス,「ミルフィ様ったら……はしたない……」

そう苦言を呈しつつも、目じりが下がっておりますよエリスさん。

アタル,「悪いけどミルフィのこと頼むよ」

#textbox Ker0120,name
エリス,「勿論です。それが仕事ですから」

アタル,「それじゃお願いするよ」

#textbox Ker0110,name
エリス,「はい」

エリスさんは俺の部屋に入っていくと、ミルフィをそっと抱え上げた。

仕事という言葉を使ってはいるものの、その言葉に割りきったような冷静さはなく、むしろ温かみを感じる。

今更だけれど、本当にミルフィのことが好きなんだなっていうことが伝わってくるんだ。

気難しい所や思い込みが激しいところがあるっぽいから、付き合っていくのは大変かもしれないけれど、悪い人ではないんだよな。

だから殺されそうな目にあっても、どこか嫌いになれない俺がいる。

ミルフィ,「くうぅぅ、ポーシャのためにも、E缶を抱えたまま死ぬなんぐぅすぅ……」

遊んでる夢を見続けてるミルフィが、エリスさんに抱きかかえられて部屋から出てきた。

その小動物のような姿を見ていると、長々と付き合わされていた苛立なんて忘れてしまう。

アタル,「やれやれ。ホント、お姫様とは思えない顔しちゃって」

寝ている姿は、年相応の普通の女の子。

エリス,「けれど、こんなに安心しきった表情を見せるようになったのは、ここに来てからなのですよ」

アタル,「ああ……前もそんなこと言ってたっけね」

エリス,「本国にお住まいの頃は、アタル王のように一緒にゲームで遊んだり、テレビを見て楽しんで下さるご友人はいらっしゃいませんでしたから」

アタル,「……それって、お姫様だから?」

思わず聞いてしまったものの、エリスさんは寂しそうに眉をひそめ、口の端を僅かに歪ませるだけだった。

それは普段、凛々しいエリスさんが見せるには珍しすぎる表情だったので、俺は咄嗟にどう反応すれば良いのかわからずにいた。

けど、次の瞬間にはもういつも通りのミルフィを警護する人間のものに戻っていて。

エリス,「それでは、責任を持ってミルフィ様は部屋に送り届けますので」

何事もなかったかのようにそう言われ、俺は反射的に頷いていた。

アタル,「あ、ああ。よろしくお願いします」

エリスさんは抱えているミルフィが落ちぬよう、頭だけ軽く下げて、こちらに背を向けた。

彼女の見せた表情に面を食らってしまい、まだ完全に立ち直ることができずにいた俺は、ぼうっとその後ろ姿を見送ってしまう。

アタル,「ん、んー……うるさいなぁ……」

腕を伸ばしてばちんと目覚ましを上から叩けば、けたたましい朝を告げる音が鳴り止んだ。

ぬくぬくとした布団の中は誘惑に充ち溢れていて、このままずっと潜り込んでいたいという気持ちはあったけれど、誘惑を振りきり体を起こした。

アタル,「ふわああぁぁ……起きるか……」

眠気を払いきれないまぶたをしばたたかせながら布団から剥い出て、床に降りる。

布団の中でいつまでもだらだらしていたら、ヒヨがやってきて無理矢理叩き起こされるからなぁ。

これまでの習慣を考えればそれでも良かったのだけれど、王となってからはあまりヒヨの世話にならぬよう行動するよう心がけるようになってきた気がする。

知らずの内に『王としての立場』ってのが、身についてきているのかもしれない。

自室に横付けされた洗面台で顔を洗ってさっぱりしていると、部屋のドアが開く音がした。

俺を起こしにきたヒヨかな?

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「おはよう、アタルくん。ちゃんと起きてるみたいだねー、えらいえらい」

予想通り入ってきたのはヒヨだった。

幼い頃から何ら変わりないいつもの調子で、朝から元気いっぱいの笑顔を向けてくれる。

アタル,「おはよう。いつまでもヒヨの世話にはならないよ」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「さっすが国王さまだね。制服、ここにかけておくからね~。あ、朝ごはんの目玉焼きはどうする?」

アタル,「2個で、ひっくり返さないで」

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「りょうかい~。それじゃ、早く来てね~」

俺が起きているのを確認したヒヨは、自分の用事を済ませるとさっさと部屋から出て行った。

部屋に残られて着替えを手伝うとか言われても困るので、それは別に良いのだけどね。

俺はハンガーにかけられていた新品同然にクリーニングされた制服をとると、パジャマを脱いで袖に腕を通した。

#textbox Kse0110,name
セーラ,「おはようございます、アタル様」

アタル,「おはよう。今日も早いね」

食卓へと向かうと、いつものようにセーラさんが先に食卓についていて、朝の挨拶をしてくれる。

鈴の音が転がったような彼女の声は、寝ぼけから脱しきれていない耳にも心地の良いものだった、

食事は一足先に終えているようで、美味しそうに紅茶の香りを楽しみながら、優雅な朝の一時を過ごしている。

さすがはお姫様。カップを傾げる仕草が良く似合う。

アサリさんはといえば、焼き魚定食を楽しんでいた。

彼女の周りには魚何匹分かわからないほどの骨が転がっている。朝から食欲旺盛だ。

いつも通りの光景を眺めながら、食卓での俺の定位置である席へと向かえば、毎度一体どこから現れているのか。柴田さんが音もなく椅子を引いてくれた。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「どうぞ、アタル様」

ありがとうと言う代わりに小さく頷いて、席に着く。

王たるもの、軽々しく見られてしまわぬよう、あまり小さなことで礼を言ってはいけないらしいから。

とはいえ、長年を過ごし身に着いているのは小市民根性はなかなか消えず、良く忘れるんだけども。

#textbox Ksi0180,name
柴田,「えー、本日の予定ですが……」

と、早速柴田さんは懐から手帳を取り出して、俺が今日やるべき『公務』を伝えてくれる。

折角セーラさんの声を聞いて清々しい気持ちだったのに、一気にテンションが下がるってものだ。

辟易した顔をしてしまうのを止められはしないけれど、面倒くさいことは全部柴田さんたちがやってくれているのだし、文句は言えない。

心の準備が必要そうなものだけ覚えておくことにして、細かなことは字面だけ聞いてスキップしていく。

どうせその時間になれば柴田さんが教えてくれるから、余計なことに脳のキャパシティは使わないようにしている。気張りすぎても疲れるだけだ。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「――以上でございます」

アタル,「特に面倒なのはないみたい……だよね?」

柴田,「はい。ほとんどが単なる挨拶ですので」

どう転ぶかわからないのもあるけれど、それはその時考えることにしよう。

ひよこ,「アタルくん、カフェオレだよ~」

柴田さんとの話が終わるタイミングで、見計らったようにヒヨがカフェオレを持ってきてくれた。

アタル,「ありがとう」

ひよこ,「ごはんもすぐに持ってくるからね~」

空きっ腹にブラックは良くないと、ミルクと砂糖がたっぷり入っていて、これを飲むと活力が注入されていく気がする。

朝からスケジュール確認で早速疲れてしまった脳が、息をついているような感じ。

食事までの合間をカフェオレで楽しみながら、テーブルの空き席をちらりと見てみた。

確認するまでもないのだが、案の定、ミルフィのちっちゃな姿は今日もまた見えなかった。

昨晩、夜遅くまでゲームを楽しんでいたし。きっと今日もいつものように寝坊していることだろう。

アタル,「ふぅ、まったく。ミルフィは早く起きれないなら早寝すればいいのに」

ひよこ,「あ、ミルフィさんなら、今日は朝一番に出かけちゃったんだよ? 挨拶もそこそこに急いで行っちゃったんだけど……何かあったのかな?」

アタル,「なんだって?」

ミルフィが俺たちを置いて、朝一で出かけるなんて。今日は元就様が槍兵でも降らせるんじゃなかろうか?

セーラ,「エリスさんは少し緊張しているようでした。もしかしたら何かあったのかもしれませんね」

アサリ,「単位が足りなくて留年とかありそうですねー」

ひよこ,「あはは……それ、冗談にならないよ」

さすがに転校してきてそう日も経っていないのだし、留年ってことはないと思うけれども。

それにミルフィは授業態度に多少問題はあっても、成績はとても優秀。

しかも、異国からの来賓であり、要人なんだからな。恥をかかせるような真似はしないだろ。

柴田さん、何か知らないかな――と首をめぐらせたが、俺に予定を伝え終えた柴田さんは既に食卓を後にしていた。

ま、事情は教室についてから聞けばいいか。

…………

……

食後、急いで学園に行くこともない時間なので、俺は朝のニュースを眺めていた。

王様になる前ならばワイドショーでも流してて、今日の占いトップ10を見てはヒヨと一喜一憂していたものだが、今はBSのニュースを見るようにしている。

国の運営は優秀なブレーンたちがやってくれるとはいえ、一国の王である以上、世事に疎くては軽く見られてしまう。

話に合わせられる程度に情報を持っていた方が良いのは、最近の暮らしで身にしみてわかっていた。

キャスター,「次のニュースです……」

えー、何々。アフリカの方で世界最悪の人道危機ねぇ。世界の反対側の方では今でもこんなことあるんだなぁ。うちの国はそんなのに巻き込まれないといいけど。
……で、次のニュースは……

アタル,「えッ!? イスリアの王様がヒットマンに狙われたとかマジかよ!?」

ひよこ,「え………………えっえええええ!?」

セーラ,「ほっ、本当ですか!?」

アサリ,「ふにゃー、うにゃー、かつぶしゴロゴロ……」

こっちが驚くくらいの反応ふたつと、完全にだらけた反応ひとつ。後者は答えようがないので無視して、前者にだけ答える。

アタル,「マジマジ。狙われた時、すっげぇ怖かったのを思い出しちゃったよ……ぶるるっ!」

戴冠パレードの時の恐怖が体内を駆け廻る。身震いした体を俺は両腕で抱きしめた。

俺も、実は今でも知らないところで狙われたりしてないだろうな……今度、柴田さんに聞いてみよう。

ひよこ,「で、で、王様は大丈夫だったの?」

ヒヨは皿と食器拭きを手にしたまま、顔色を変えてテレビを見に来た。セーラさんも紅茶のカップを離すのを忘れてきている。

自分らに関係することかもしれないし、興味が出るのも当たり前だろう。

アタル,「SPのおかげで無事だってさ。犯人は問答無用で射殺か。容赦ないなぁ、イスリアって。……ん、イスリア?イスリアって、え、もしかして……」

ひよこ,「あ、あのさ。ね、ねえねえアタルくん。イスリア王国ってミルフィさんのお国であってるよね?」

アタル,「そうだよ! イスリアって、ミルフィの国じゃないか!イスリアの王様ってことは、ミルフィのお父さんってことだよな?」

ひよこ,「気づいてなかったの!?」

まさか気付いていなかったとは思っていなかったらしくて、さすがのヒヨもセーラさんも呆れ顔をしている……気がする。

アタル,「え? あ、あー……ごほん」

俺は悪くなった場の空気を咳で誤魔化した。

アタル,「……あ、ミルフィたちが朝早くから出かけたのって、この事件があったからか?」

セーラ,「もしかしたら、ミルフィさんは一度ご実家に戻られるかもしれません。お父様の安否を確かめたいでしょうし」

そうか、そういう可能性もあるか。

ひよこ,「王さまは無事みたいだけれど、そんな暗殺者に狙われちゃったとか、怖いもんね」

アタル,「だなぁ」

ひよこ,「……アタルくんは大丈夫だよね?狙われたりしないよね?」

柴田,「ペッタンのロンでございますよ、ひよこさん」

アタル,「うわ、いつ戻ってきたの!?」

さっきまでいなかったはずの柴田さんが、いつの間にやら戻ってきていて、俺たちの輪に入ってきた。

セーラ,「ぺったん……?」

ひよこ,「おもちって言いたいんじゃないかな?」

セーラ,「ああ、『おもち』の『ろん』で『もちろん』と仰りたいわけですね」

柴田,「ザッツライッ! その通りでございます! さすがは聡明なご婦人がた! 柴田は感動のあまり涙の海に溺れてしまいそうですよ!」

大げさに広手をたたいて柴田さんは祝福するが、そんな小芝居につきあってはいられない。

アタル,「そういう微妙な捻りはいらないから。それより、俺も気になるんだけど。俺は狙われたりしてないよね?」

ひよこ,「あ、アタルくんは悪い子じゃないよ!そんな悪い人たちに狙われることなんてないよね?」

柴田,「はい! ……と、言いたいところですが、人の恨みなぞどこでどう買うのか。人知を超えた部分もありますゆえ。前例もございますしね」

ひよこ,「あ……そういえば…………」

柴田,「あの捕り物劇のおかげで抑止力になったとは思いますが、常識よりも多少過激な考え方をされる者の中には、アタル王の命を狙う人間がいないとも限りません」

ひよこ,「そんな……」

柴田,「しかぁし、ご安心なされぃ!」

ばばんと歌舞伎役者のように大きく見栄を張る。いやだからそういうのはいいからと突っ込みたいが、安心できる内容が気になったので俺はぐっと堪えた。

柴田,「アタル王の警備はこの私柴田が、責任を持って指揮して万全を期しております! それこそ、おはようから納骨までお任せアラモード!」

アタル,「おおおいっ! 納骨とか縁起悪いにも程があるぞ!納骨って死んでるからそれ!!草葉の陰方面にいっちゃってるよ!?」

ひよこ,「はー、良かった。お墓にはちゃんと入れてもらえるんだね」

アタル,「良くないから!荼毘の前にまず俺の命を守ってくれるんですよね!?」

柴田,「それは努力目標でございます」

アタル,「ちょっと待って!? 努力目標ってなんですか!?あまり良くないことに使われる言葉ですぞ、ソレ!?墓の前で泣かれたって、そこに俺はいないんだよ!」

ひよこ,「まぁまぁ、ちゃんと守ってくれてるみたいだし、大丈夫だよ、アタルくん。柴田さんを信じようよ」

セーラ,「それに、そもそもどんな優秀な狙撃主が暗殺者になろうとも、アタル様に銃弾を当てることなど不可能ではありませんか」

アタル,「それは、そうだけど……」

柴田,「そうですよ。もし私が狙う側でしたら、まず最初にひよこさんに暗殺者になってもらうようお願いしますね」

アタル,「唯一俺に当てられるヒヨをヒットマンに雇うとか、完殺する気満々ですよ、柴田さん……」

柴田,「気のせいでございます」

アタル,「気のせいじゃないよ!」

ひよこ,「し、しないよ! 私、マーダーライセンスとか持ってないもん! 私はアタルくんを殺したいとか思ったこと……………………ないよ?」

アタル,「その間は何!? 実はあるの!?」

アサリ,「まー、わざわざひよこさんに狙わせなくても、毒にはアタっちゃいますけどねー。今流行真っ盛りの多剤耐性アシネトバクターとかどうです?」

アタル,「それ毒じゃなくて細菌だよ! ってか、やめてよ毒を使うとか言うの! 本当に死んじゃうから!」

セーラ,「そ、そんな……!もしどうしても死ぬと仰るのでしたら、後生ですからその前に子種を私の子宮へと注いで下さいまし!」

アタル,「変なショックの受け方してる!?どうして俺が死ぬことになってるの!?しかも、隙あらば、エロいこと言い出しますね!」

セーラ,「クアドラントでは日常の挨拶のようなものですよ、アタル様」

それはさすがに嘘だと思いたい。どれだけオープンなお国なんだ。顔とかまでオープンしたあげく、質量のある残像とか作れちゃうんじゃなかろうか。

アサリ,「あのー、ところで。そろそろ学園に向かわないとー。遅刻しちゃうんじゃないですかねぇ?」

ひよこ,「ぴよっ!? そ、そうだった!急いで準備しないと!」

アタル,「やっべぇ! うわ、この分じゃマジで遅刻だよ!朝のHR、先生が遅刻とかして遅れないかなぁ!」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「む、アタル王がそうお望みであればこの柴田、全身全霊をもってその願いを叶えさせていただきます!」

#textbox Ksi0120,name
柴田,「――私だ。アタル王の担任、そして副担任を沈黙させ、朝のHRの開始時間を遅らせろ。うむ、手段は問わない、思い切りやれ!!」

アタル,「やれじゃないだろ柴田さぁァァァァンッ!」

柴田,「ウボァ!?」

アタル,「その電話を貸せぇ――俺だ、アタルだ! 今の柴田さんの命令はなし! 俺はそんな命令していないから! 何、もう腹パンして気絶させちゃった!? お、起こせ!」

#textbox Ksi0140,name
柴田,「ふふ、さすがです、アタル王。この私から電話機を奪うとは……ああ、ぶたれた頬が熱い…………ッ!」

アタル,「キモッ! なんでしなを作るんですかそこで!? ていうか何か問題があったら全部柴田さんのせいですよ!」

#textbox Ksi0130,name
柴田,「そんな殺生な! 私はアタル王のことを思い、一を聞いて十を知って行動に移しただけなのに!!」

アタル,「足された九は、全部柴田さんの勝手な妄想ですから!」

アサリ,「あー、漫才をされたいのならば構いませんが、そんなことをしている間に刻一刻と時間は過ぎていきましてー」

アタル,「そうだったぁ!」

………………

…………

……

アタル,「ぎ、ぎりぎりセーフっ!」

ひよこ,「ぴよっ……間にあったぁ…………」

セーラ,「はぁ、はぁ……ンッ、ふぁ……あ……」

……セーラさん。何故にそんなえちぃ声を出すんですか。

俺たちが大きく肩で息をついている中、何故かセーラさんひとりだけが妙に悩ましげに喘いでいた。全力ダッシュで疲れているのはわかるんだけれど……うん。

ほら、そんなフェロモン振りまくから、教室の男子達が妙に前かがみになって……あ、一部女子もなんかおかしいことに。

男子学生,「よ、よぉ、おはようアタル……」

アタル,「ぜー……はー……ぜー……お、おはよう」

誰もセーラさんにツッコむにツッコむことは出来ず、教室内のあちらこちらでは、偽りの日常風景が強引に作り出されている。

かくいう俺もその1人なのだが。

アタル,「いやぁ、危うく遅刻するところだった。国王としてそんな情けないことできないし、焦った……よ…………」

どこにでもある日常風景にこのまま溶けこうんでしまおうとした時、俺は昨日までの教室風景とは違う点に気付いてしまった。

#textbox Kmi0170,name
ミルフィの席は、俺の隣ではなく、端っこの方にぽつねんと。周りの机椅子からは距離を取った席に座っていた。

アタル,「あれ、席替えなんてしたっけ……?」

とりあえず自分の席に荷物を置くと、周囲の奴らが俺のところに集まってきた。

男子学生,「俺たちが来た時から、もうああなってた。そのことについても気になるけど……ほら、あの様子だろ?」

#textbox Kmi0170,name
そう言われて見直してみれば、ミルフィは教室内の喧騒を全く意に介さず無視しており、機嫌の悪いむっつりとした……いや、それ以上に厳しい表情をしていた。

そんな彼女の後ろにはいつも以上に冷徹な視線のエリスさんが周囲に目を配っている。

そんないかついものがダブルであれば、誰もミルフィの席には近づこうとするわけがない。そのせいで、教室内の空気はとても悪くなっていた。

ヒヨやセーラさんも気付いたようだけれど、あの2人であっても一歩踏み出すのは躊躇われているようだ。

男子学生,「ニュースで見てるからさ、事情は知ってるけど。事情はさっぱりなんだよ」

といって、ちらっとこっちを見る。

女子学生,「ねぇ、ミルフィさん。イスリアの王様のところに行かなくていいの? お父さんなんでしょ?」

割って入ってきた彼女も、ちらっとこっちを見る。

アタル,「……なんで俺を見るんだよ?」

男子学生,「お前なら何か知ってそうだから」

女子学生,「この教室の空気を少しでも改善したいじゃない。でないとランチメイト症候群患者が生まれるわよ。アタルくんっていう重病人が」

アタル,「俺かよ!?」

男子学生,「で、何か知ってるのか?」

そう聞いてくる連中の目からは好奇の色も窺えたけれど、そればかりじゃない。ミルフィを心配しているのが伝わってくる。

とはいえ、俺も何も知らないのだ。

アタル,「……悪い。俺も知らないんだ。本当に寝耳に水でさ」

そっかー、と残念そうに肩を落とす。

女子学生,「なら、聞きに行くしかないわね。アタルくんが」

アタル,「……は? え、俺が?」

どうして、なんで?

男子学生,「当然だろ。彼女はお前の嫁候補なんだから」

女子学生,「それにイスリアからのお客人なのよ。国王であるアタルくんがフォローしないでどうするのよ」

ミルフィのことを考えるならば放っておいた方が良いのかもしれない。けれど、こいつらの言うことにも一理ある。

俺としてもきちんと事情を知っておきたいし、俺に出来ることがあるのなら、支えてやりたくもある。

アタル,「はぁ……わかったよ」

女子学生,「よし、行って来い、国王様!」

#textbox Kmi0170,name
国王を国王と思わないような――いや、俺が王だからってかしこまられたり媚び売られるより、100万倍マシなんだけど。

そんな無責任な応援に背中を押され、俺はミルフィの席に到着。

アタル,「よぉ、おはようミル――」

担任,「はい、皆さん、席についてください」

――と、声をかけようとしたまさにその瞬間、悪すぎるタイミングで担任が入ってきてしまった。

アタル,「あ、あー」

ミルフィ,「……………………」

宙ぶらりんになってしまった俺という存在。滑稽な姿だったがミルフィは見向きもしてくれない。

エリス,「担任の先生がいらっしゃいましたよ。席に戻られた方が宜しいかと、アタル王」

アタル,「……そうだね」

エリスさんにそう言われては頷かざるを得ない。中途半端な状態を崩してすごすごと自分の席へと戻っていった。

担任が来てしまったのでそれ以上留まることは諦めて自分の席へ。話はHRが終わった後でもいいか……ん?

またしても何か教室が騒がしい。

何かと思って皆の視線の先を見てみれば、教壇の前に立つ担任は何故か腹部を押さえてい……る……って、まさか?

一瞬、今朝屋敷を出る直前に柴田さんが放った不穏な命令が脳裏に浮かぶ。

……い、いやいや。まさか実力行使で腹にパンチとかありえないよ……ね? ただの腹痛に違いない。うん。

担任,「え、えー。朝のホームルームを始める前にー……」

腹に手を当てつつも平常に振舞う担任はそう前置きをして、ちらりとクラスの最後尾にいるミルフィを見た。

それだけで多くの人間はこの後に続く言葉が何かわかったようで、小さく息を飲む音が教室のあちこちから聞こえてきた。

ニュース以上の情報を担任の口から聞けるのかもしれないと、好奇心旺盛な皆は期待しているようだ。

普段ならば多少なりとも囁かれる私語は一切なく、クラスメイトたちは担任の発言に耳をそばだてている。

担任,「皆さんの中には知っている人もいるかもしれませんが、このクラスのお友達であるミルフィさんのお父様が、何者かに狙われたという事件がありました」

男子学生,「えっ」

#textbox Kmi0170,name
運動部の何人かや、ニュースなどに興味がなさそうな学生の3~4人が驚いて顔を上げてミルフィの席を思わず見てしまったが、他の学生は予想通りと静かにしている。

担任,「しかし、安心してください。お父様には怪我ひとつなく無事でしたし、犯人も身柄を拘束されたそうです!」

さすがに射殺という言葉を使うのは、俺たち学生への配慮を考えると躊躇われるらしい。

大体あってるし、事情を知っている人間もいるだろうが訂正を促すような空気の読めないヤツはいない。

担任,「先ほど、ニッポン国政府からもテロリストの侵入はありえないという報道発表もありましたので、私たちは変に怯えることはありません」

その言葉にクラスの皆はほっとした表情を見せる。

ミルフィのすぐ傍の席の女の子――ちなみに田村さんという――も後ろを向いて、ミルフィへと笑顔を見せた。

女子学生,「良かったね、ミルフィちゃん!」

#textbox Kmi0170,name
ミルフィ,「…………………………」

が、ミルフィはそんな気遣いの言葉は聞こえていないかのように、眉間にしわを寄せっぱなしという態度の悪さ。

それに失敗しちゃったかと冷や汗を垂らす声をかけた彼女に対し、取り繕うようにエリスさんが静かに頭を下げた。

エリス,「お気遣い有難うございます、田村さん」

女子学生,「あ、い、いえ…………」

お礼を言われたところで、今の緊迫感溢れるエリスにされたのでは和めるはずもない。田村さんはすごすごと前に向き直り小さくなってしまった。

……なんだってんだ、ミルフィのヤツ。何をそんなにピリピリしているんだ。

出会った頃の我儘な姫ポジションを、輪にかけて酷くしたような態度だ。

親父さんのことが気になっているのなら国に戻ればいいんだし、自分が狙われているのを気にするというのなら、それこそ俺とかに警備について詰め寄ってくればいいのに。

ミルフィの態度はどうにも腑に落ちない。なんだってんだと、俺はいらいらして仕方なかった。

担任,「ただ、皆さんには正直にお話しますが――」

ミルフィについては問題はなさそうとのことに一瞬ざわついた教室内だったが、続けて言われた担任の一言に皆の意識はまた教団へと戻された。

男子学生,「ただ……ってなんだ? 何かあったのか?」

クラスメイト――彼は田中という――が不安げに呟いた。恐らく、クラス中のほとんどの皆が同じような気持ちのはず。俺だってそうだ。

担任,「実は先ほど、私は学院内で不審者に腹部を殴打されて、気絶させられてしまいました」

アタル,「え゛…………?」

……えーと、そ、それってもしかして。

担任,「いいえ、私は弱いのではありません! 無抵抗主義者なだけです! アイ・ラブ・ガンジー! ウィー・リスペクト・トルストイ!」

男子学生,(いや、そんな言い訳はいらないから……)

女子学生,(え、ふ、不審者って……そんなのが出るって、学校ヤバいんじゃないの……?)

女子学生,(季節外れのお礼参りなんじゃないの?うちの担任、結構隠れて恨んでるヤツ多いし)

男子学生,(ウハwwww国王が通う学校なのに不審者とかwwwワwwwwロwwwwwスwwwwww)

学生達の色んな声が聞こえてくる中、俺の制服の下はだらだらと冷や汗が流れている。

違う、そんなわけないと必死で否定しようと心の中で呟いて……いや、見ないで! ヒヨもセーラさんも。こっち見ないで!

俺はさり気なく2人の視線から逃げるように目をそらし、屋敷がある方向を見てギリギリと奥歯を噛んだ。

……これは、きっとそういうことなんだろう。

し・ば・た・めぇぇええぇぇぇぇぇッ!

実はウチの執事が暴走してやりました。てへ♪だなんて、口が裂けても言えるわけがない!

ま、まったく! なんてタイミングでそんなことをしでかしてくれたんだ柴田さんは! 最悪じゃないか!

柴田さんめ。ちゃんと問題にならないように連絡しておくって言ってたのに、できてないじゃないか……。

くそう、帰ったら柴田さんをシバいてやる。

……韻を踏んだつもりはないので。念のため。

担任,「はい、静粛! 静粛に!」

担任,「確かに不審者など、不安に思うでしょう。ですが! 皆さんは不安に思う必要はありません!」

担任,「学園長により、学園の警備レベルはデフコン4へと引き上げられましたから! もう二度と不審者などが侵入することはないでしょう!!」

胸を張り、高々と言い放った担任だったが、それを聞いて田中は呆れたような声を出す。

男子学生,「……馬鹿じゃないのか。そんな言い方をしたら、皆不安になるだけじゃないか」

その心配は、まさしくその通りだった。

男子学生,(警備強化って、そりゃ、そうなるだろうけど……)

女子学生,(え……ていうか、そんな風にしないとダメなくらい危ないってことなんじゃないの?)

男子学生,(うわぁ、もしかして学園が戦場になったりするん?)

男子学生,(なんだよデフコン4ってwwwwwwww)

変な宗教に入信した人間のように目をらんらんと輝かせながら熱く語る担任に反し、皆は不安や、事件への興味、不謹慎な期待とがないまぜになった面持ちをしている。

そのことに気付いてくれれば、担任は場を収めるために言い直してくれたろう。

しかし、うちの担任はどうやら残念なベクトルの人間だったようで、学生達の不安にはこれっぽっちも気付いてくれなかった。

担任,「ふはは! さぁ来るなら来い! 学生運動などに我ら教師は負けぬ負けぬぞ! お前らみたいな人生の半分も生きてない小僧どもの好き勝手にさせるものか!」

それどころか、俺たちが懐かしのあの頃系番組でしか見たことがないような話を持ち出す始末。

女子学生,(やっばぁ、何か変なスイッチ入ったんじゃね?)

男子学生,(学生運動とか何時の時代の話だよ。イマドキ革命なんて考えるの馬鹿だけだろ)

女子学生,(就職のこと考えたら政治活動とかやってらんないわよ。ただでさえ就職氷河期なのにさー)

変な空気に拍車がかかったが、担任が熱をこめればこめるほどにクラスの皆は冷静になって白けていく。

そのおかげか、担任の熱も徐々に冷めて。次第に怒らせていた肩も沈まり、いつもの調子へと戻っていった。

担任,「え、えー、何にせよ不審者はすぐに捕まると思います。ですので、ミルフィさんは安心して授業を受けて下さい」

担任の暴走もこれで終わってくれると、皆が緊張の糸をほぐそうとしたが――それはまだ早かった。

担任,「皆さんも、今回の事件があったからとミルフィさんを怖がったりせず、これまで通り接してあげてください」

男子学生,「――!?」

男子学生,「―――!?」

女子学生,「――――!?」

女子学生,「―――――!?」

女子学生,「――――――!?」

誰もが、触れてはいけないとわかっていた話。

不審者はミルフィの父親を狙った人間ではないか?

イスリア国王だけでなく、実はミルフィも狙われていて、そいつは学校内に侵入したのではないか?

そうわかってはいても、そこに触れることは決して許されることではないと、未熟な思考ながらにわかっていたことなのに。

クラスで唯一空気を読めないスキルを持っていた担任が、軽々しく、致命的な場所に触れてしまった。

息が呑まれた教室内――

硬い靴音――教室には似合わない軍靴の音が響く。

#textbox Ker0130,name
無言のまま教壇に近づくのは、エリスさんだった。

担任,「は、はわわ……」

彼女の表情は俺からは見えない位置に行ってしまったが、彼女が纏っている痺れるような空気は肌に感じられる。

それを直接向けられた担任は、その迫力に圧倒されてしまい腰が砕けそうになっていた。

担任,「え、ええと、わ、私は何か失礼なことを口にしたか?」

#textbox Ker0110,name
エリス,「いいえ、そんなことはありません。姫様へのお気づかい感謝いたします」

担任,「あ、あう……」

彼女は頭を下げたが――そこに感謝の気持ちなどは少しも感じられるものではない。

明確な威圧行動であり、担任は返す言葉を生み出せないまま黒板に背をぺたりとつけた。そうしないと立っていられないのだろう。

#textbox Ker0160,name
エリス,「ですが、姫様だけを特別扱いする必要は御座いません。他の学生と同様に、平等に接して頂きますよう、宜しくお願い致します。イスリア国王もそうお望みですので」

#textbox Ker0130,name
エリス,「もし学園側が対応しきれぬほどの問題が発生した際は、イスリアが責任を持って対処致しますのでご安心を」

柴田,「もちろん、ニッポン国としましても、アタル王が通われている学園の安全を守ることは第一にしております!」

ひよこ,「ぴよっ!? えっ、し、柴田さん!?」

アタル,「な、なんで柴田さんがいきなり出てくるの!?」

突然の闖入者に教室内に張りつめていた糸が寸断され、ざわっとしだす。

柴田,「ああ、これは失礼。私はアタル様のお世話御しております、皆さんの柴田、柴田です」

アタル,「いや、柴田さんのことはどうでもいいから。それより、どうしていきなり教室に……」

柴田,「決まっているではありませんか。不審者を無事捕まえ、連行した旨を直接伝えにきたのですよ!」

ひよこ,「え、それって、じさくじえ――」

柴田,「そういうわけですので! 皆さんも、担任の先生も、イスリアやクアドラントの姫君達も! ご安心ください!」

ヒヨのツッコミを大声という力技で封じて、そのまま柴田さんは場のイニシアチブを一気に掌握した。

……ま、まあ、さっきまでの殺伐とした空気に比べりゃ断然良い。もう少し早く来てくれればもっと良かったけど。

俺がジトっとした目で見ると、お茶目にウインクしやがった。わぁ、あとでしこたま殴りたい☆

エリス,「……ニッポンの方もこう仰られておりますし」

と、柴田さん独壇場になりかけた教室で、静かにエリスさんが担任の意識を掴み直す。

ハッとした表情で担任はエリスさんを見直すと、彼女は二コリと営業スマイルを作って、また一度頭を下げた。

エリス,「先生の皆さまにはご心配をおかけするとは思いますが、どうかよしなにお願い致します」

担任,「は、はい……わかりました……」

何とか絞り出された担任の返事を聞くと、来た時と同じようにミルフィの机へとエリスさんは戻っていく。

柴田,「それでは私もこれで失礼します。学生の皆さま、アタル王を、アタル王をどうかよろしく! ランチタイム症候群になどならぬよう仲良くしてあげてください!」

アタル,「話が終わったなら、すぐ持ち場に戻れ!」

あなたは俺のおかんですか。

どっと教室内に笑いが生まれた中、柴田さんはよっしゃと腰の辺りでガッツポーズを作ると、優雅に一礼をして教室から出ていった。

……結果としてはオーライなんだろうが、俺という尊い犠牲を生んだ気がするよ。

アタル,「はああぁぁああぁぁぁぁ……」

恥ずかしさのあまり顔を覆いたくなる。

皆の意識が柴田さんに移っていく中、俺はひとりミルフィの方を見てみた。

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教室内の空気は一転したものの、ミルフィはその様子を厳しい表情のまま眺めているだけだ。

いつもの余裕や、面白がるような様子は感じられない。

やっぱり、何か様子がおかしい気がするな。

…………

……

朝のHRはあのようなドタバタがあったが、1時限目の授業は無事に終了。教室内も一部を除き、落ち着いた雰囲気に戻ってきたといえる。

ただ、その一部分があまりに大きな問題なのだが。

ひよこ,「うん、よしっ!」

最初に動いた勇気ある人物は、板書に時間をかけて出足の遅れた俺ではなく、ヒヨであった。

ああ見えて、あいつはこういう問題に敏感で、普段から気遣いの人だからな。

どれだけ威圧されても『負けないよっ!』という気合の入った様子でミルフィへと近づいていく。

がんばれ、がんばれと教室内から無言のエールが飛んだ。俺もその内のひとり。

行け、ヒヨよ! 今、この場で頑張れるのはお前だけだ!

ミルフィ,「……来るな、ぴよぴよ!」

ミルフィが厳しい口調で警告を送る。これまでだんまりだったミルフィの口を開かせたものでも大したものだが、そこで満足して諦めるヒヨではない。

ひよこ,「止まらないよ、だって、仲良くしたいもん」

強気にヒヨは前へと出た。

それで折れるかとも思ったが、ミルフィは態度を崩さず容赦のない厳しい言葉をヒヨへと叩きつけ返す。

ミルフィ,「もう一度言う。寄るなって言ったの。聞こえなかった?庶民が軽々しく王族に近寄れると思ってんの?ばっかじゃないの! これだからゆとり大国は!!」

ひよこ,「ダメだよ、ミルフィさん。せっかくクラスになじんできたのに、そういう態度良くな――……………………え?」

ざわりと教室が小さく揺れた。

強気の押せ押せだったヒヨの脚が止まった。

信じられないと目をまん丸く見開いて。ただ茫然と、何も口にすることは出来ず、その場に立ち尽くして。

俺だってヒヨの立場ならきっとそうなっただろう。

あんな風に、

額に銃口を突き付けられてしまったら。

ミルフィ,「これ以上の警告はないぞ、庶民」

ひよこ,「え、庶民って……どうして、私は……ひよこだよ……?ぴよぴよだよ……?」

どうにかひり出された言葉は可哀想なくらいに震えていて。

エリス,「ひよこさん、それ以上近づけば自分は引き金を引きます。そのまま後ろに退いて頂きたい」

そこに親しみはなかった。1ヶ月以上、共に過ごしてきた同居人として育まれてきたものの一切は感じられない。

赤の他人、敵へと対する機械的な無感情の接し方。

セーラ,「ミルフィさん! エリスさん!それは幾らなんでも酷すぎます!」

たまらず動いたのはセーラさんだった。

俺はと言えば、さすがにここまでするとは思っておらず、状況が信じられなくて硬直していた。

セーラ,「銃口を下げなさい! エリスさん!」

ミルフィ,「黙れ! クアドラントの姫とはいえ、それ以上近寄るならば容赦しないわよ!」

詰め寄ろうとするセーラさんの方へと向いたミルフィは、普段の好戦的とは言えない、明確な敵愾心を飛ばす。

過剰すぎるほどの攻撃性。まるで手負いの獣が見せるような、憤慨と憎悪が暴れる獰猛すぎる感情。

エリス,「姫様の仰る通りです、セーラ様。お引き下さい」

彼女に同調するように、エリスさんは空いた手に握られた銃口をセーラさんへと向けた。

アサリ,「あー、それは聞き捨てなりませんねー」

天井から降りてきたかのように現れたアサリさんが、セーラさんとエリスさんの間に割って入る。

彼女もいつもとは様子が違う。仕えているセーラさんに物騒なものを向けられて、これ以上ないくらいに神経を尖らせているようだった。

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ひよこ,「あわ、あわわ……」

セーラ,「……ミルフィさん」

ミルフィ,「………………ふん」

エリス,「……………………」

アサリ,「にゃんにゃにゃーんにゃーん」

そして、アサリさんの手に握られた、伝家の宝鎌。

おかしい、あまりにおかしすぎる。

俺はこの狂った教室で、他の皆と同じように体をすくませ動けないでいた。

一触即発とは、今みたいなことを言うのだろう。

こんな状況で俺に何ができる? 一般人である俺に。

……一般人?

…………そうじゃないだろ、俺。違う、俺は、そうだよ。

一般人じゃない、国王だったじゃないか。

今、武器を向けあっているのはイスリアとクアドラントの客人だ。しかも、俺の妃候補、ニッポンの未来を左右する外交の要すぎる人たちだ。

そんな人たちを前に、何もできない?

きっと、適当な言い訳をして黙っていたって、俺は責められたりはしないだろう。悪いのは明らかに俺じゃない、巻き込まれた側なんだから。

でもそんなことを言って逃げるなんて、昔の俺ならともあれ今の俺には出来ない。

いいや、本当は国王って立場だって関係ないじゃないか。

ミルフィのことも、セーラさんのことも、エリスさんだって、アサリさんだって知っちゃっているから。

それは国を超えた付き合いだったはずだ。肩書こそあれ、個人同士の付き合いに他ならないんだ。

ようやく吹っ切れた俺は、遅すぎるかもしれないが立ち上がることが、声を出すことが出来た。

アタル,「おい、皆、落ち着けって!」

皆の視線が俺に集中する。注目されるのは苦手だけれど、そんなこと言って委縮している場合じゃない。

アタル,「エリスさんも、アサリさんも武器を下ろすんだ!」

俺も銃を向けられるかもしれなかったが、怯まずに二人を睨む。

とはいえ、エリスさんもアサリさんもさすがは一国の姫の護衛というだけはある。俺程度の気迫じゃ強制力を生み出せるわけでもない。

それでもここで引き下がるわけにはいかなかった。

アタル,「お互いの国のことも考えてみろよ!武器を向けるなんて……いくらなんでもやりすぎだろ!」

ミルフィ,「そんなことないわよ。やりすぎなんてない」

アタル,「何だって……?」

静かに、けれどはっきりとした口調でミルフィはそう言った。そして俺に負けぬ強固たる意思の籠った瞳で睨み返してくる。

ミルフィ,「アタルも、しばらくはあたしに近づかない方がいいわよ。お父様を狙ったテロリストが、あたしを狙ってるかもしれないからね。まー、この学園なら大丈夫だと思うけど」

エリス,「姫様はこう仰っているが、学生に化けたテロリストが命を狙ってこないとも限らない。制服というものは絶好のカモフラージュになる」

アタル,「……それって、俺達を疑ってるってことか!?」

エリス,「アタル王は例外です。自分どもの調査により、貴方様の身の潔白は既に証明されておりますので」

アタル,「それはつまり、俺以外の人間は誰も信用していないってことじゃないのか……?」

エリス,「……………………」

エリスさんは答えなかったが、その無言が、俺が言っていることが正しいことを示している。

セーラ,「そんな、皆を疑うなんてひどすぎます!」

ひよこ,「そ、そうだよ。今日まで仲良くやってきた仲なのに!」

教室内でも、まさか自分達が疑われているなどと思っていなかった学生たちが怒りを露わにしていた。

折角仲良くなり始めた級友達との距離が、一瞬にして遠くなっていくのがわかった。

ミルフィ,「……ふぅ。銃を下げて、エリ」

エリス,「はい、ミルフィ様」

そんな様子の俺たちに対しミルフィは、冷めた瞳で一瞥すると溜息ひとつ。

エリスさんに銃を下げさせはしたが、そこに謝罪や友好的な念はない。

ミルフィ,「あたしがいると皆の迷惑になるかもね。エリ、今日は早退。家に戻るわよ」

感情の籠っていない口調で言うと、返事を待たずに立ちあがった。

エリス,「かしこまりました。すぐにお車を用意させます」

エリスはミルフィの背後に、隙なくついていく。

アタル,「お、おいちょっと待てよ……!」

ミルフィ,「……………………」

俺は声をかけたが、ミルフィは振り返りもせず教室を出ていってしまった。

男子学生,「ちっ、なんだよミルフィのやつ」

女子学生,「あんな言い方ないじゃないの。ねぇ?」

傍若無人に振舞うだけ振舞ったミルフィに、クラスメイトたちは苛立ちを隠さなかった。

ヒヨやセーラさんも、どういう顔をすれば良いのかわからないようで、小難しい表情をしている。

そんな中、俺は去り際に見せたミルフィの小さな背中が、態度とは裏腹にやけに脆そうで、見た目の大きさ以上にちっちゃく見えて……。

アタル,「どうしちゃったんだよ、本当に……」

あんなに攻撃的だったのに、どうにも寂しそうだったように、俺には思えて仕方なかった。

アサリ,「でも、エリスさんが言うことも一理ありますからねー」

セーラ,「アサリさん!?」

静かな騒ぎ落ち着かない教室内で、悪気がない口調でアサリさんがぽつりと呟いた言葉に皆は強く反応する。

けれど、アサリさんはいつも通りに飄々と、気にした風でもない体で。

アサリ,「だってそうじゃないですか。彼女の言っていることは間違っていませんよ? 命を狙われているんですから、ナーバスになっても仕方ないんじゃないですかねー?」

アタル,「あ……」

男子学生,「そりゃ……そうだけどよ…………」

そう言われてしまえば、皆も否定することはできない。

本当に命を狙われている立場には、なってみないとわからない。

俺だって、初めて命を狙われた時は、怖くて、怖くて。逃げ出したくても、どこに逃げれば良いかわからなくて。

エリスさんやアサリさんがすぐに犯人を捕まえてくれたから、どうにか気持ちを落ち着かせられたけれど、そうでなかったらどうなっていたことか。

喉元を過ぎていたから、そんな気持ちすっかり忘れていた。

ひよこ,「……そうだよね。ちょっとナーバスになってるだけかもしれないし。私も気の使い方を間違えたかも」

セーラ,「……ですね。しばらく静かに見守ってあげた方が、良いかもしれません」

男子学生,「ああ……」

女子学生,「うん……」

2人の言葉に皆は同意を示したけれど、ただそういう経験をしたことがない皆は、すぐには納得はできないようで。

そうこうしている内にチャイムがなってしまった。悪くなってしまった空気のまま、2時限目は始まってしまうのだった。

…………

……

#textbox Ksi0110,name
柴田,「御帰りなさいませ、アタル王。……なんでしょう、そんな熱い目で私を見つめ――はっ!?」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「ま、まさかそんな……わかりました。私は衆道の気はございませんが、王が望まれるなら喜んで今宵この身を捧げま……無論、冗談でありますよ?」

さすがの柴田さんも冗談が通じる状況でないと悟ったか。なら、最初から冗談に走らないでくれ。

俺は溜息をつきつつ、ジロリと精一杯の怒気を孕めた視線を送り治す。

アタル,「今日は、いろいろと問題を起こしてくれましたね☆」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「さて、何のことでしょうか?」

アタル,「朝の担任襲撃事件のことだよ!」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「ああ、その件に関しましては山吹色のお菓子をばら撒くことで全て穏便に済ませることができました。勿論、私のポケットマネーですのでご心配なく」

アタル,「当たり前だ! ……ったく、ミルフィの親父さんが大変な目にあってる時に、あんなことしでかすなんて」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「イスリアの方々に対しましても、不慮の事故であり、イスリア国王の暗殺犯とは無関係である旨は説明致しましたので、ご安心を」

#textbox Ksi0140,name
柴田,「アフターサービス万全、それが柴田クォリティです」

アタル,「それよりか、まずはビフォーをどうにかしてほしいんだけど」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「それでは匠が活躍することができないじゃないですか!ビューティコロッセオしかり、元が酷いほどに視聴者は喜ぶというもの! ちなみに私の姉は一級建築士です!」

アタル,「どこのテレビ番組の話をしてるんだ!ったく、もう……」

アタル,「柴田さんの行動はニッポンの未来を左右しかねないんだから、もっと慎重に行動してよ……」

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柴田,「……! 素晴らしい! ついにアタル王もそのことに気付かれましたか! 王としての行動について回る責任!」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「それを教えるために、私が敢えて自分を悪役にした甲斐がありました――!」

アタル,「嘘つけええええええ!」

ひよこ,「あ、アタルくん、お帰りなさい」

俺たちの騒ぎを聞きつけてか、ヒヨがぱたぱたと靴音を鳴らしながらやってきた。

アタル,「……ただいま。それで、ミルフィはどうしてる?」

ひよこ,「うーん、部屋に籠っちゃって出てこないんだよ。エリスさんが取り次いでくれるけど、直接お話はできないの」

そっか、やっぱりそんなことになっているのか。

アタル,「……ちょっと行ってくる。俺になら何か話してくれるかもしれないし」

お土産もあるし、と、買ってきたドーナツの入った紙ケースをちらっと掲げて見せた。

ひよこ,「夕飯が食べれなくなるくらい、食べちゃダメって言っておいてよー」

アタル,「ミルフィに限って、そんなこともないと思うけど、わかった。エリスさんに頼んでおく」

しばらくそっとしておいた方が良いのかもしれないけれど、どうしても放っておく気にはなれない。

俺は荷物を柴田さんに預けると、ミルフィの部屋へと向かった。

…………

……

#textbox Ker0110,name
エリス,「アタル王。お帰りなさいませ」

部屋の前まで行くと、ドアの横で警備員のように姿勢正しく立っていたエリスさんが、儀礼的に俺へと礼をする。

アタル,「ただいま、エリスさん。あ、これミルフィにお土産」

#textbox Ker0120,name
エリス,「わざわざ姫様の為に。有難うございます」

アタル,「いやいや気にしないで」

言いつつ、紙のケースをエリスさんに手渡す。そうしながら、俺はちらりとミルフィの部屋のドアを見た。

アタル,「それで……その、ミルフィには?」

恐る恐る尋ねたが、案の定エリスさんは首を小さく横に振った。

#textbox Ker0160,name
エリス,「申し訳ございませんが、姫様は誰ともお会いしたくはないそうです」

アタル,「俺でも?」

#textbox Ker0110,name
エリス,「はい。アタル王と言えども……今は、難しい時期なのです。御察し下さい」

一方的な物言いではなく事情を説明してくれた上に、頭まで下げてくれた。

そんな風に言われてしまえば、俺も強く出ることはできないとわかっての演技かもしれないけれど、事実俺はこれ以上強硬に会おうとは思えなくなっている。

アタル,「……そっか。なら、会うのは諦めるよ」

#textbox Ker0160,name
エリス,「御心遣い、痛み入ります」

アタル,「その代わりさ、エリスさんに聞きたいことがあるんだけど、いい?」

#textbox Ker0120,name
エリス,「何でしょうか。自分にお答えできることでしたら、何なりとご質問ください」

アタル,「それじゃ遠慮なく。すごいストレートな聞き方になるんだけどさ……ミルフィは国に帰らなくていいの?」

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エリス,「そのことでしたら、はい。帰りません。今しばらくの間はニッポンに滞在できますよう、取り計らって頂きたいのですが……アタル王はよろしいでしょうか?」

アタル,「それは構わないけど、でも、どうして?国王様のことが心配じゃないの?」

エリス,「有難うございます。国王様の心配はありますが、それ以上に姫様の身の安全の為には、今、慌てて国元へと戻られるよりも、ニッポンに留まった方が良いのです」

アタル,「ニッポンって、そんなに安全なの?」

#textbox Ker0120,name
エリス,「そうですね。間諜などには非常に脆い面を持ちますが、治安に関しましてはイスリアよりも安心出来るでしょう」

そうなのか。確かに、テロとか、暗殺とか、ほとんど起きない国ではあるけれど。

#textbox Ker0110,name
エリス,「今朝の学園での事件につきましても、事情は柴田さんより説明して頂きましたので。あれは不幸な事故です」

アタル,「ああ、説明したって言ってたっけ……。そう言ってもらえると助かります……本当に……」

その不幸な事故のせいで、クラスとミルフィの間に亀裂が生まれちゃったんだけど。

アタル,「……クラスの皆もさ、朝のことは反省しているから。だから、ミルフィが許してくれれば、もう誰も気にしないと思うから。そう、伝えてもらえるかな?」

#textbox Ker0120,name
エリス,「はい、かしこまりました。姫様のために、わざわざ有難うございます」

アタル,「はは、俺の力じゃないよ。アサリさんがフォローしてくれなかったら、きっと今でも皆は怒ってたさ」

#textbox Ker0150,name
エリス,「あの猫が……?」

さすがのエリスさんもフォローしたのがアサリさんとは思っていなかったらしく、眉をひそめた。

#textbox Ker0140,name
エリス,「何か企んでいるのか……?まさか、ただの親切とは思えないが……」

アタル,「信じられない気持ちはわかるけど、本当のことだから」

本当、犬猿の仲……番犬と気まぐれ猫の仲ってとこかな。

アタル,「ともあれ、ニッポンに残るって話はわかったよ。……柴田さん。いる?」

柴田,「はい、ここに」

アタル,「そういうわけだからさ、王宮と、学園……まぁ、それだけじゃないけど、警備態勢の強化をお願いします」

柴田,「そのようなこと、お命じになられるまでもなく。来賓である姫君をお二人もお預かりしている以上、元々最高の警備態勢を取っております」

アタル,「わかってるけれど、それでも、さ」

柴田,「……そうですね。このような状況ですし、一段と外部からの侵入者や危険思想の持ち主につきましては、注意を払うようにしましょう」

柴田,「さしあたって最初のターゲットは、アタル様の担任である――」

アタル,「いや、もううちの担任はいいから!ともかく、頼んだからね!」

柴田,「お任せあれ。それでは早速命じてまいります」

手を胸の前にやって一礼すると、柴田さんは静かにここを離れていった。

エリス,「姫様のために、重ねて有難うございます」

アタル,「気にしないでよ。他に何かやってほしいことがあったら、聞くけれど。何かある?」

エリス,「でしたら、我儘ついでにもう一つお願いがあります」

アタル,「何? 言ってみてよ」

エリス,「このお屋敷から、セーラ姫とひよこさんのお住まいを移しては頂けませんでしょうか?」

アタル,「移して……? って、え?」

それって、ここから出ていってもらうってことじゃ……。

エリス,「これだけの厳重な警備が敷かれている中、万に一つの可能性と言ってしまうのは、ニッポン国に対して失礼にあたるとは承知で発言しております」

エリス,「ですがもし、姫様が狙われ、セーラ様がその巻き添えに遭った時をお考えください」

アタル,「……イスリアとクアドラントが揉めることになるのか」

神妙な顔つきのままエリスさんは首肯する。正解したのに全く嬉しくない。

エリス,「ニッポンとイスリアに関しては、既に協議は済んでおりますので、責任の擦り付け合いといった醜い論争は起きないでしょう。ですがクアドラントはそうはいきません」

エリス,「ニッポン、イスリア、クアドラント、三国共に難しい立場になることでしょう」

セーラ,「そ、そんなことありませんっ!」

アタル,「へ? え、セーラさん……?」

その声に驚き振り向くと、いつの間にやってきていたのかぷんすかと頬をふくらませた、珍しい表情のセーラさんが立っていた。

アサリ,「まーまー、そう気を荒げないでくださいよー、セーラさーん」

セーラ,「でも、今のエリスさんの言葉は、クアドラントを侮辱する発言です!」

こちらも珍しくちゃんと付き人をしているアサリさんが止めに入ろうとしたが、セーラさんはお姫様らしくなく肩を怒らせながら、ずかずかとエリスさんに詰め寄っていく。

セーラ,「そんなこと、クアドラントはいたしません! それに、何の覚悟もなく私がニッポンに来ていると思っているのですか!?」

絶対に引くつもりのない強い語気で啖呵がきられる。

セーラ,「そもそも、ミルフィさんとアタル様をふたりっきりにするだなんて、そんなのズルすぎます!」

アタル,「え、いやー……別にふたりっきりということでもないと思うんだけど」

エリスさんもいるんだし、他の使用人だっているんだし。

セーラ,「断固反対です!」

普段がぽやっとしている分、よけいにすごく感じてしまうその迫力に、俺は思わずたじろいでしまった。

アタル,「そ、そこまで言うのならいいんじゃないのかな……?」

あんな風に言われて、ダメですなんて言えるはずない。当人が良いと言っているのだし、ここは穏便にいくべきじゃないかなぁ……。

エリスさんに許可してもらおうと、俺はちらりと顔色を伺ってみた。

エリス,「残念ですが」

が、彼女は表情ひとつ変えずに一刀両断。

セーラ,「な……イスリアの人がどうしてクアドラントのことを決めようと言うのですか! それこそ問題に……」

アサリ,「あー、残念ですがー、セーラさん。最終的に決定したのはクアドラントだったりするんですよねー」

セーラ,「え……?」

アサリ,「えーとですねー……確か、このあたりに……ごそごそ……あ、これこれ、これです」

懐が漁られて、取り出されたのは1枚のDVD。

アサリ,「ちゃらりらん♪ 王様からのービデオレター!」

セーラ,「ビデオレター?」

アサリ,「はいー、まー、百聞は一見にしかずってーことですしー。まずは見てみましょうー」

といって、懐からさらに取り出されるのはポータブルDVDプレイヤー。……何でも入ってるなぁ。

アサリ,「始めますよー。ぽちっとな」

と、耳に耳栓をはめたアサリさんが再生ボタンを押すと、DVDが読み込みを始めて――

#textbox kba0120,name
バルガ,「ウオオォォセエェエエェラアァァァァッァァッ!!!」

アタル,「おわああぁわぁああぁぁぁ!?」

爆音としか認識できないようなバルガ王の叫び!

それは館を崩壊させるのではないかというほどの唸りを伴い、鼓膜に衝撃を与えてくる。耳栓! 耳栓はどこだ!

バルガ,「ンンンスオォォゴハアァァァァッ!キィィイクェェエエェンンダアアァラァァァアァッッ!」

何を言いたいのか、何を言っているのかはまったく理解できないが、とにかくひたすら凄い騒音公害だった。

……あ、だめ……頭、クラクラ……して…………意識……が…………と…………ん………ぁふぅ。…………………。

…………

……

アタル,「――はっ!!」

アサリ,「というわけでしてー。セーラ様を心配している王様もー、避難するべきだってー、言ってますー」

アタル,「ああ、そう言ってたんだ……」

朦朧としていた意識を取り戻すと同時、アサリさんの解説のおかげで俺はビデオレターの中身が何かを知ることが出来た。

セーラ,「で、でも……宿泊費とか……。我が国にはそのような余計な予算は……」

エリス,「その点はご安心下さい。この件はイスリアが招いた失態ですので、かかる諸経費は全てこちらで負担いたします」

アサリ,「そこまで言ってもらっているわけですしー。せっかくですから、イスリアのお金で豪遊……じゃなかった。危険のないところにいきましょうー」

緊張感ないなぁ……。

セーラさんはしばらく悩みこんでいたが、アサリさんが手にしたDVDプレイヤーの画面を見て重く深いため息をついて。

セーラ,「はぁ……わかりました。では、そうさせて頂きます」

どうやら話はついたようだった。

にしても、よくあのビデオレターを最後まで耐え切れたな、セーラさん達……。

エリス,「ひよこさんの生活に関しましても、イスリアが責任を持ちます。宜しいですね、アタル王」

アタル,「……わかったよ」

有無を言わせぬエリスさんの物言いに、俺は逆らうことができなくて。

…………

……

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「うーん、アタルくんがそう言うなら、私はいいよ」

アタル,「え、本当に?」

親に言われてずっと俺の世話をしてきたヒヨだったから、てっきりゴネるかと思ったけれど、意外にもあっさり。

#textbox Khi0360,name
ひよこ,「王様の命令なんでしょ? だったら従うよ」

アタル,「王様の命令って、そこまで仰々しいもんじゃないけど……」

#textbox Khi0370,name
ひよこ,「それに、エリスさんがそう言うなら、ミルフィさんのためにもそうさせてあげた方がいいと思うもん」

#textbox Khi03A0,name
ひよこ,「学園じゃ、すごくつらそうだったみたいだし……」

アタル,「……そう言ってもらえると、助かるよ」

#textbox Khi0310,name
ひよこ,「アタルくんの世話は、柴田さんたちもいるから大丈夫だと思うし。少しくらいの間ならアタルくんから目を放していても大丈夫だよね?」

アタル,「目を放していても大丈夫って……」

#textbox Khi0330,name
ひよこ,「ちゃんとお風呂に入って、歯も磨いて、好き嫌いもなくご飯を食べて……あとは、えーと……」

アタル,「おいおい、どこまで子供扱いするんだよ」

#textbox Khi0380,name
ひよこ,「とにかく、悪いことしちゃ、メッ! だからね!」

アタル,「……わかってるって」

結局、最後にはヒヨの言うことを素直に聞いてしまうのは、長年刷り込まれてきた結果としか言いようがない。

…………

……

――ともあれ。

こうして、十分な数の警備の人間と、必要最低限の世話をする人間だけを残し、王宮からは人払いがなされることとなった。

人が減ったとはいえ、それでも普通から考えれば多すぎるほどのスタッフが残ってはいるんだけれど。

アタル,「なんだか、寂しいもんだな」

居た頃は賑々しいなぁと思っていたけれど、いなくなってしまうと物悲しさを感じてしまい、しみじみとしてしまう。

#textbox Ksi0150,name
柴田,「……お寂しい、ですか?」

アタル,「おわっ!? ……ま、また急に出てこないでよ。心臓に悪いんだから」

#textbox Ksi0120,name
柴田,「その気持ち、お察しします。王宮に彩りを飾られていた華やかしい女性が2人もいなくなり、残る姫も天岩戸状態なのですから」

ぬぅと姿を現した柴田さんにそれとなく抗議をするも、案の定聞きいる気は毛頭ないらしい。

オーバーすぎるジェスチャーで哀しさを表現すると、うんうんと何度も何度も頷いてみせる。

アタル,「……あのさ、そこはかとなく嫌な予感がするんだけど。何か企んでる?」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「企むだなんてとんでもございません。ただ私は、その寂しさを紛らわせるためにも、腕によりをかけてアタル王に手料理を作ってさしあげようかと!」

アタル,「い、いや、いいよ……。柴田さんに手料理とか言われると、なんだかすごくキモいし……」

#textbox Ksi0140,name
柴田,「なぁに遠慮されることはありません。私も一時期はアイアンシェフと呼ばれた人間です」

アタル,「その呼んでた人を目の前に連れてきてよ」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「味王だろうが味皇帝だろうが至高だろうが究極だろうが昇天させて御覧にいれましょう!」

アタル,「いや、だからいいって……」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「フフフ、こう見えて函館の五稜亭で某土方氏より、師事を受けたこともあるんですよ?」

アタル,「いや、そういうのはどうでもいいから。言うほど寂しいってわけでもないし、いつもと同じでいいよ」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「左様でございますか、残念です」

そう口では言うも、さして残念そうな様子もない。こんなだから、どこまで真面目かわからないんだよな、柴田さんは。

アタル,「ミルフィも、そう何日も引き籠ってはないだろうしさ。しばらくは我儘聞いてあげてさ、エリスさんと相談して、頃合いを見計らって学園に連れていくさ」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「わかりました。それでは普段と変わらぬ生活を過ごせますよう全力でサポートさせて頂きます」

アタル,「…………は?」

柴田,「まずは手始めに、ひよこさんの役割から……」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「アタルくーんっ! えっとね、えっとね、今日のご飯はビーフストロガノフだよー♪ ぴよぴよー♪」

アタル,「ブボァァゥゥゥゥゥゥッ!?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「続いてセーラ姫のモノマネを……」

アタル,「しないでいいわーッ!!」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「ブべらっ!?」

#textbox Ksi0130,name
柴田,「くっ……いきなり殴るとは暴君になる前触れ!?しかし私はアタル王の忠臣としてどのような対応にも耐えてみせる! 柴田、負けないんだからっ!」

アタル,「柴田さんキモイ。マジキモイ」

#textbox Ksi0120,name
柴田,「二度も言った!?」

アタル,「大事なことなので2回言いました。柴田さんキモイ。マジキモイ」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「しかも繰り返した!?」

――などと。俺はあまり深く考えずにいたのだけれど。それは全くの大間違いで。

ミルフィがどれだけ辛い想いをしていたのか、この時の俺は、少しもわかってはいなかったんだ。

ただ、もしこの時に気付けていたとしたところで、俺は、きっと何もできなかったんだろうと思う……。

アタル,「……おはよう、エリスさん」

#textbox Ker0140,name
エリス,「おはようございます、アタル王」

アタル,「その、ミルフィは今日も……?」

#textbox Ker0160,name
エリス,「はい。お食事を差し入れる時以外、自分もお部屋には入れてはもらえない状況が続いております」

アタル,「そっか……」

案の定、今日もミルフィは部屋から出てはいないようだ。食事すら自分の部屋に運ばせて、たった1人で食べている。あんなに仲の良かったエリスさんすら、同伴を許さず。
2、3日もすれば、すぐにミルフィはいつもの元気を取り戻すとばかり考えていたから、まさか、こんなに長引くとは思ってなかった。

アタル,「犯人も捕まったんだし、アジトも壊滅させたっていう話だけど……まだ心配なのかな?」

#textbox Ker0110,name
エリス,「……はい。まだ気にされているようです」

アタル,「はぁ……どうしたもんかね」

そう悩みつつ、俺はちらりとエリスさんを見た。

軍人らしい直立不動の姿勢。フリーダムなアサリさんとは違い礼儀正しすぎて、これだけ一緒に居ても一向に慣れず委縮してしまう。

……なのに、いや、だからこそか。大丈夫かなと心配に思ってしまう。

ミルフィのことを尋ねた時、エリスさんの言葉に若干の弱々しさが混じっていた。

こうして近くで見ていると、彼女が疲弊しているのが良くわかるんだ。

すれ違ったり、遠くから見ている分には、全然疲れている様子なんて見えず、これまで通りのエリスさんなんだけど。

血色良く健康的だったエリスさんはこの数日で痛々しいほどにやつれているのは、ろくに睡眠らしい睡眠を取ることなく番を続けているだけじゃないんだろう。

ミルフィがこれまでになく、強固に人と接することを避けているからというのが理由にあるんだと思う。

ミルフィのことを大好きなエリスさんだからこそ、それがじわじわと効いてきているようだった。

アタル,「………………」

軍人だから、疲れなんて見せないように気張っているのだろうけれど、その全てが痛々しくて……。

#textbox Ker0140,name
エリス,「……アタル王、自分の顔に何か?」

アタル,「あ、い、いや……」

俺や、柴田さん、それ以外の人が相手でも、人と接する時、エリスさんはイスリア軍人としての礼儀と尊厳ある振舞いを心がけている。

どんなに疲れていても、それを守っているのは立派だと思う。だけど……。

あぁ、ミルフィのことを語る時に、その辺がボロッと崩れちゃうのはしっかりしている時の反動なのかな、と思ってみたり。

アタル,「……その、さ。エリスさんも少しは休みなよ?」

さしでがましいとは思ったけれど、言わずにはいられなかった。

アタル,「交代の人はイスリアから来ているんだし、イスリアからしたら頼りないかもしれない……とかいうと柴田さんが怒るけど、ニッポンの警備の人間もいるんだ」

アタル,「だから、あまり無理はしないでよ。もし、エリスさんが倒れたら、それこそミルフィは心配すると思う」

#textbox Ker0160,name
エリス,「……自分などのために、心配など。有難うございます、アタル王」

#textbox Ker0130,name
エリス,「ですが、ミルフィ様の護衛は国王より直々に自分へと与えられた勅命です。もし自分が休んでいる間に何かがあれば、自分は後悔のあまり狂ってしまうやもありません」

責任感の強いエリスさんのことだから、そう返答するとは思っていた。

だけど、このままじゃミルフィが天岩戸を開くよりも先にエリスさんが倒れそうなのもまた事実なんだ。

アタル,「……ならさ、ミルフィが表に出れるよう、俺が協力できることはないかな?」

二人の問題を解決するには、やはりこれしかない。

アタル,「柴田さんもさ、暗殺者の心配はもうないって太鼓判を捺してるんだ。もう安全だと思うよ?」

#textbox Ker0140,name
エリス,「それは、恐らくミルフィ様もわかっているのだとは思います……」

アタル,「なら、問題はないじゃないか」

アタル,「もし最後の日にクラスの皆といざこざを起こしちゃったことを心配してるなら、大丈夫。もう誰も怒っちゃいない。逆に心配してるくらいだよ」

#textbox Ker0110,name
エリス,「……ミルフィ様のことをお気にかけて下さいまして、本当に有難うございます。ですが、そういうことだけではないのです」

そういうことだけじゃない……か。やっぱり、何か根の深いものがあるのかな。

ここ数日、よくよく考えると、どこかおかしいんだ。

暗殺を怖がってるのなら、クラスの皆とギクシャクしたことなら、信頼しているエリスさんすら部屋に入れないってことはないと思う。

クラスの皆に接した態度や、セーラさんやヒヨまでを屋敷から追い出すまでして、尋常じゃない。

何をそこまで怖がっているのか……。……それがわかれば、俺だって何か手助けができるかもしれない。国王の力を使ったっていい。

でも、エリスさんに聞いて答えてもらえるかどうか……。教えてくれるのなら、今だってこんな回りくどい返事はしてないと思うしなぁ。

……となれば、ちょっと強引な手でも使うしかないか。

何、エリスさんを怒らせてしまったら、その時はその時だ。よし、やるぞ。

考え込んでいた俺は、そっと胸に手を当て深呼吸。どんな態度を返されようとも負けぬよう、腹に力を込めてエリスさんを直視する。

アタル,「……あのさ、ミルフィのことを悪く言うことになるから、エリスさんは怒るかもしれないけど……俺からすれば、今のミルフィは単なるヒキコモリに思えるんだけど?」

#textbox Ker0130,name
そのヒキコモリという一言に、エリスさんは表情に一瞬だけ不機嫌そうな皺が生まれ、ギラリと獣のように瞳が輝いた。

うおおお、怖ぇぇぇ!!

――けど、何も言い返されないのなら俺も言葉を止めるつもりはない。踏み込んじゃった以上、退きはしないぞ。

アタル,「もし、学園に行きたくないだけっていうなら、俺は無理矢理でもその扉を開けて、ミルフィを連れ出すよ」

エリス,「そのような話ではありません。ですから、そのような強引な手段は考えないで頂きたい」

アタル,「そう何か事情があるように言われても、俺には何もわからないんだ」

アタル,「暗殺者が怖いってのはわかる。俺も怖い。でも、今だから言うけど、幾らなんでも何もかもやりすぎだろ?」

アタル,「理由があるなら教えてほしいんだ。納得できる理由を聞かせてもらえないのなら、俺は――」

#textbox Ker0130,name
エリス,「アタル王」

アタル,「――――――――――」

どんなに睨まれても、厳しいことを言われても、耐えきるつもりだった。

けれど、この時に発せられたエリスさんの静かな殺気――そう、きっとこれが本当の殺気というものなんだろう。

意識は完全にエリスさんの気迫に呑みこまれてしまう。

こうして立っていられるだけでも、まるで奇跡と言えるほどに全身に力が入らず、服の下では冷たい汗がじわりと滲む。

アタル,「ぁ……う…………」

本能的に、一番感じたくはない気配を浴びて、情けなくも俺は何も言えなくなってしまった。

しかしその張り詰めた気配は前触れもなく、ふと消えて。

#textbox Ker0110,name
エリス,「それ以上の詮索はご遠慮ください。自分の顔を立てて、どうか、ミルフィ様のことはそっとしておいて下さい」

#textbox Ker0140,name
エリス,「これは……ミルフィ様の心の問題ですから」

代わりに見せたエリスさんの表情は、憂いに崩れた。

アタル,「……エリスさん」

今度は、さっきまでの姿とは全く違う彼女の弱々しい姿に、俺は言葉をなくし返せなくなる。これ以上の追求はすべきではないと思い、引き下がることにした。

アタル,「わかりました。もうしばらく様子を見ることにします」

#textbox Ker0120,name
エリス,「有難うございます。大丈夫です、ミルフィ様は強いお人ですから、きっと、元気な顔を見せて下さいます」

アタル,「うん、そうだね」

#textbox Ker0110,name
エリス,「アタル王、そろそろ学園に向かわれなければ、朝のHRに遅れてしまいます。お急ぎください」

言われて時計を見れば、確かにもうそんな時間だった。

俺はそれじゃあと手を振って学園に向かう為、ミルフィの部屋の前を後にした。

……でも、本当に放っておいても大丈夫なのかな?そっとしておけば、解決することなのだろうか。

事情がわからない俺は、それ以上の漠然とした思いを抱くことは出来なかった。

…………

……

チャイムが鳴って、午前中の講義が全て終了。ようやくやってきた昼休みにクラスの皆は散り散りになって食事を取っている。

アタル,「……ふぅ」

そんな中で俺がただ机に突っ伏しているのは、柴田さんの手作り弁当(当人は愛妻弁当と言い張っていた)を拒否ったからでも、ヒヨの弁当を待っているからでもない。

ミルフィのことが気になって仕方なく、色々と考えすぎて疲れてしまっただけだ。

ひよこ,「どうしたの? 浮かない顔だねぇ、アタルくん。はい、お弁当」

俺の悩みなど知らないだろうヒヨとセーラさんが、いつもの調子で弁当を持ってきてくれた。

アタル,「ありがとう、ヒヨ」

礼を言いつつ特製の弁当を受け取るも、どうにも食欲が沸いて来ない。そんな俺を心配してかヒヨとセーラさんは表情を曇らせてくれた。

ひよこ,「もしかして、お疲れモード?国王様のお仕事が忙しいのかな?」

セーラ,「あ、お疲れでしたら私がマッサージでも」

アタル,「あ、あはは、それは遠慮しておこうかな、もう昼ごはんだし……」

ここでグダグダしてても、2人を心配させるだけだ。

よし! と、気合をひとつ。膝に力を入れて俺はイスから立ち上がる。

アタル,「気分転換に、屋上にでも行かない?」

セーラ,「名案ですわ、アタル様!」

ひよこ,「うん、行こう~!」

それじゃあと、俺たちは弁当を手に持つと、連れだって屋上に向かった。

屋上に出ると、爽やかな風がさらっと俺たちの肌を撫でる。

ひよこ,「う~ん、気持ちいいね~!」

からっと晴れた空に陰気なところはどこにもなくて。

鬱々と考え込んでいる場所なんて少しもなさそうだ。気分転換の場所としては最適だったかもしれない。

ひよこ,「やっぱり教室にいてばかりじゃダメだよ~。広いお空の下にも出ないとね~」

セーラ,「そうですね。ああ、シートを敷いてごろんと横になってしまいたいです」

アサリ,「シートはありませんけれど、ゴザならありますよー」

アタル,「なぜゴザ!? どこからゴザ!?というか、くつろぎまくってる!?」

アサリ,「本も人間も、時には虫干しが必要ですにゃー。でないと、どんどんカビ臭くなりますよー」

ぴょこんと飛び出た猫耳の持ち主が、屋上の日当たりの良いところにシートならぬゴザを敷いて、のんびりお茶を啜っている。

アサリ,「まぁまぁ、突っ立っているのも疲れますし、セーラさんもこっちにウェルカムカモーン。ゆっくりくつろげば良いですよー」

セーラ,「それじゃ、遠慮なく。う~ん、ゴザは和って感じでいいですね。ワビとサビを感じます」

アサリ,「ふ、遠慮なく千利休の世界を堪能するが良いですにゃ」

アサリさんに誘われるがままにセーラさんはゴザの上に腰をおろし、何か感じ入る所があったらしく、物思いにふけっている。

しかし、アサリさんはエリスさんと違って、主人に対する態度がユッルい。ゴムの切れたパンツみたいにユルユル。

しかも、ゴザの広い所で寝転がっているアサリさんに対して、セーラさんが座っているのは端っこの方だし。これじゃどっちが主人かわかりゃしない。

アタル,「……ねぇ、アサリさんってセーラさんの付き人でしょ。なんでそんなに遠慮しているの」

ひよこ,「ぴよっ! だめだよアタルくん! いくら王様やお姫様でも、感謝の気持ちを忘れたらいけないと思うな!」

セーラ,「そうですよ、目上とか目下とかは関係ありません。王族として威厳を必要とする時もありますが、それも感謝と信頼による良好な関係があってこそ、です!」

あ、あれ、ちょっとアサリさんにセーラさんを敬う気持ちが感じられなかったから口にしてみただけなのに、一方的に悪者になってるぞ……?

アサリ,「どうせ家臣は王族にとっては家畜も同然。肉便器の癖にいっぱしの人格が持てると思うな! なんて、ひどいですー……ニッポンの国王は鬼畜ですにゃ……めそめそ」

アタル,「ちょ、誰もそんなこと言ってないよ!?」

セーラ,「アサリさんがかわいそうです……アタル様、ご自身の発言の重みを理解されているのですか?」

アタル,「ま、待って、俺の言い分も――」

ひよこ,「アタルくん、ごめんなさいは!」

アサリ,「そうですー。今世紀史上絶世の女神と讃えられるアサリ様に、謝るにゃー」

アタル,「自分でいうか!?」

ひよこ,「アタルくんっ!」

アタル,「…………あ、え……ご、ごめんなさい?」

女性陣の厳しい目に取り囲まれて逃げ場を失った俺は、結局頭を下げざるをえなくなってしまった。

アサリ,「ふ、わかればいいんですにゃ。とりあえずイチゴ牛乳買って来い」

アタル,「な、なんで俺が……」

アサリ,「う、ううう、セーラ様ー。アタル王がアサリに酷いこと言うんですにゃー」

アサリ,「『お前みたいな猫風情がイチゴ牛乳を飲むなど許されることではないわ! 下賤な野良猫など腐ったプールの水で十分じゃ! がっはっはがっはっは!』なんて……」

アサリ,「ううう、こんな辱めを受けたのは初めてですにゃ……」

セーラ,「あっ、アタル様!?」

ひよこ,「アタルくん!?」

アタル,「ああ、もう! わかった、わかったよ!イチゴ牛乳でいいんだよね!ついでだし、ヒヨとセーラさんは何かいる!?」

ひよこ,「じゃあ、オレンジジュース~」

セーラ,「私もアサリさんと同じイチゴ牛乳でお願いします」

アサリ,「あ、アサリは500mlのパックの奴でー」

アタル,「ちょ、そのサイズは自販機に置いてないぞ!?」

アサリ,「ニヤリ」

その笑みは『コンビニでも行って、買ってこいやー』という意思表示か。うぅ、アサリさんは絶対俺で遊んでる。

もし俺に従者がつくなら、アサリさんでも柴田さんでもなく、エリスさんみたいな人のがいいな……。

…………

……

アサリ,「……で、大変だったみたいですにゃー」

セーラ,「まぁ、そんなことがあったなんて……」

ひよこ,「………………」

階段を下に上にと往復して屋上に戻ってきたが、俺のことを待っていてくれたのか、まだランチタイムは始まってはいなかった。

ならば和気あいあいのガールズトークタイムなのか――と、思ったが、そうでもないらしい。むしろお通夜っぽいどんよりとした空気。

アタル,「……どうしたの? 重苦しい空気になっちゃって。ジュースは買ってきたよ」

セーラ,「あ、ありがとうございます」

ひよこ,「ごくろうさま~」

アサリ,「うむうむ、よきにはからえですー」

……あんたにだけは言われたくないですわ。

口にするとまた何言われるかわからないので、心の中で呟くに留め。

アタル,「で、何を話してたの? なんか深刻っぽい雰囲気だったけどさ」

ひよこ,「えっとね、今、アサリさんに聞いてたんだよ。ミルフィさんのこと」

アタル,「ミルフィの?」

空いたスペースに腰を下ろしながら聞き返すと、うん、とひよこは頷いて、俺の前に弁当箱を押し出してくれた。

それを開いて箸を手にして頂きますと言うや、ご飯を口に放り込みつつ、アサリさんの方を見る。

アサリ,「セーラさんにお願いされて、ちょこっと調べていたんですけど。まー、それが語るも涙、聞くも涙というやつでして……ヨヨヨ……」

アサリさんの猿芝居は見るに及ばず無視して、今度はセーラさんの方を見た。

俺が箸をつけたのを見てから彼女も食べ始めていたが、その箸を置いてわざわざ向き直ってくれるのは、さすが姫様の仕草といったところ。
セーラ,「あのように過敏な反応をされるということは、昔に何かあったのではと思ったので。アサリさんに調べてもらうようお願いしたんです」

アサリ,「いやぁ、苦労しましたよー。他国の姫のプライバシーに関わることに踏み込むわけですから、命がけの諜報活動ですよー」

まさかそんなスパイみたいなことをしていたなんて。

確かに、アサリさんは身体能力高いし、ミステリアスなところも多く持っているし、スパイ活動くらい出来るかもしれない。

アタル,「すごいな、アサリさん……」

アサリ,「まー、ネットで検索したらすぐに出ましたよー。ウィキすごいですねーウィキ。なんでも書いてありますよー」

アタル,「ウィキかよ!!」

褒めて損した……。そのくらい俺でも出来るわ……。

アサリ,「だいじょーうぶです。ちゃんとウィキで調べた後、ソースを追いましたからー。これがそのコピーですよー」

と、渡してくれたのは英字新聞のコピーだった。

いつのだろうと年月日を見れば、今から10年近く前。

その見出しは……俺、英語得意じゃないんだけど、ええと……読める単語だけ……。

『Royal Princess』……えっとこれは……王女、だっけ。

それと『Terrorist』に……、『Assasin……ate』……って……、……え、それって、え……?
アサリ,「ざっくり言えば王女様……あ、ミルフィさんのお母さんですねー。その人が、テロリストに暗殺されちゃったって話なんですよー」

アタル,「そんな……? 前にエリスさんは病気で亡くなったって……あ!?」

いや、ある。聞いたことがないことなんてない。俺はこの事件を知ってる。何度も見てる。

そうだ、あれは、世界の仰天ニュース系で。『イスリアの王女様が暗殺される』

そういった特集は、それこそ番組改編期に特番があるたびに、何度も、何度も。

言われてみれば、すぐに思い出せることなのに。こうして言われるまで思い出せないでいた。

そう、そうだ。そしてこのニュースには、もうひとつ……。

アサリ,「それだけじゃありませんよー。王女様が殺された時にですねー……」

アタル,「……テロリストの本当の狙いは、ミルフィだったんだろ」

アサリ,「ちっ、ご存知でしたかー」

アタル,「……思い出したよ。そうだ、そうだったよ。どうせ外国のことだって流し見してたからちゃんと覚えてなかった」

テレビでは言っていた。ナレーションの人が重々しい口調で、

『ミルフィの誕生日に、国王の愛する人を狙った』。そして『この時、王女は幼い姫を庇って死んだ』と。

人の死という重たい話だというのに、ディスプレイ越しに見た話は、全く別の世界の話としか認識していなかった。

だから頭の中に入っていても、その重要さは少しも理解できていなくて。

こうして身近な人の話だったというのに、俺は全然関連付けて考えることができてはいなかった。

あの時、エリスさんが『王女は病で亡くなった』と誤魔化したのも、少なからず俺のショックを和らげてくれるためだったのかもしれない。

まったく、エリスさんは本当に素晴らしい従者だ。

アサリ,「そう気に病むことはありませんよー。人間なんてそんなもんですからー」

アタル,「そう言われても、ね……」

もし、最初からその話を俺が、クラスの皆が覚えていたらどうだっただろう。担任の教師が気にしていたらどうだっただろう。

俺たちはミルフィへの接し方に、もう少し気を使うことができたんじゃないのか?

それに、ウィキで調べりゃすぐにヒットするようなことなのに、そっとしておこうと言って少しも調べようとしなかった自分に腹が立つ。

セーラ,「自分を守るためにお母様が亡くなられたから、それであんなに気にしていたのかもしれませんね……」

アタル,「しかも、狙われたのは自分で……もし、俺だって、俺を狙ったテロリストの攻撃で、誰か大切な人が死んじゃったら……」

自分が狙われた時よりも、もっと黒い恐怖に襲われる。

自分のせいで誰かが死ぬ。例えばヒヨが、セーラさんが、ミルフィが、クラスの皆が。

そんなの考えたくもないけれど、そんなことがあるかもなんて考えたら、俺は……。

セーラ,「……………………」

ひよこ,「……………………」

気付けば皆、箸を置いて、弁当を前に黙りこくってしまった。

――が、その中でたったひとり、弁当を完食したアサリさんはチューチューといちごミルクを吸いながら、場の空気を考えない軽い口調で言う。

アサリ,「ですからまー、そーいうことがないように、セーラさんにはアサリが、ミルフィさんにはエリスさんが、アタルさんにはド腐れ変態クソ野郎がついているんですよー」

アタル,「おいちょっと待て、その例えは間違っていないかもしれないけれど、俺が安心できないから言い直してほしいんですが」

柴田さんのことを言ってるんだろうけど、ここ最近の柴田株の急下落は何事なの。

アサリ,「誰かに狙われている、そのせいで大切な人を喪う、そんな恐怖を感じながら生活なんてできませんからねー。だから、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよー」

敢えて無視しやがった……。

ただ、アサリさんが俺を気づかってくれたんだろうと思い、何も言い返さない。

ひよこ,「……王様って、大変だね」

セーラ,「大変かもしれませんが、大変な分だけ、皆を幸せにできる力も持っているんです」

アタル,「え……?」

セーラ,「王族の笑顔ひとつで国の人々は安心し、今日を生きて、明日のためにがんばれる気力がわくんです」

セーラ,「でもそれができなければ、不安は人々に伝わってしまい、結果として国は不幸になってしまうんですよ」

そういって、セーラさんはニコリと笑った。

その笑顔を見ただけで、俺の中で塊となっていた不安は解けていくように、少しだけ気持ちが軽くなる。

俺も釣られてしまい、口が微笑を形作った。

アタル,「……ミルフィには、同じ傲慢な態度ならさ、やっぱり笑っていてもらいたいよな」

ひよこ,「うん、そうだよ。だからアタルくんも笑ってないとダメだからね!」

セーラ,「そのためにも、まずはお腹いっぱいお昼ごはんをいただきませんと。そして午後はゆっくりお昼寝です」

アタル,「いや、授業があるから寝ちゃダメだって……」

セーラ,「クアドラントでは、お昼寝の時間があるんですけどね……。ニッポンはせかせかしすぎです……」

アサリ,「まー、アサリはぐっすり眠らせてもらいますけむにゃむにゃ……ぐぅー」

ひよこ,「もう寝ちゃったよ!?」

……セーラさんの護衛をしなくてもいいのか?

ジト目でアサリさんを見つつ、俺は弁当に改めて手をつける。昼休みの残りはもう長くはない。

ひよこ,「ミルフィさんのこと、どうにかしてあげたいね、アタルくん」

アタル,「うん……やれるだけ、やってみるか」

仰ぎ見た空は青く透き通り、清々しくて。この気持ちいいところで、ランチを楽しめないのは勿体ない。

だから、次に皆でご飯を食べる時は、ここにミルフィやエリスさんにも居てほしいと俺は思う。

…………

……

その夜、やるべきことを全て終えて帰宅すると、既に日課となりつつあるミルフィの部屋参りにやってきた。

#textbox Ker0110,name
エリス,「……………………」

エリスさんは無言で頭を下げてくれたが、あまり俺の来訪を喜んでいる様子はない。

そっとしておいてほしいと言われているのに、今朝も様子を見ると約束したのに、早速こうして来たのだから不機嫌になっても仕方ないか。

アタル,「……あのさ、ミルフィと話したいんだけど」

#textbox Ker0160,name
エリス,「アタル王。ですから、姫様は今は誰ともお話ししたくはないと――」

アタル,「ミルフィのお母さんのこと、調べたんだ」

#textbox Ker0130,name
エリス,「……! アタル王ッ!!」

一瞬死を覚悟するほどに、目を剥き怒りを露わにしたエリスさんの姿に、俺は思わず後ずさる。

そのまま逃げ出したくなる気持ちに必死で耐えて、逆に一歩、前に進み出た。

アタル,「詮索はするなって言われてたのに、ごめん。それについては謝るよ」

#textbox Ker0160,name
エリス,「……いえ、知ってしまわれたのでしたら、もうそのことで自分はアタル王を責めることはできません」

剥き出しの怒りは引き潮のように引いていって、エリスさんは静かな気配に戻っていく。

アタル,「ミルフィのこと……お母さんの真実を知ったから、話せることもあると思うんだ」

#textbox Ker0140,name
エリス,「自分は、それでも……承服しかねます」

アタル,「危害は加えるつもりはないよ。ただ、俺は、ミルフィやエリスさんと……また一緒に食事がしたいんだ」

#textbox Ker0110,name
エリス,「食事……ですか?」

アタル,「今日の昼、皆で屋上でランチにしてね。いい天気だったから気持ち良かったよ」

話している内容が内容だったから、そこには触れず。

アタル,「……そこにさ、ミルフィやエリスさんが居てほしいなって思ったんだよ。二人が居てくれた方が俺は嬉しいんだ」

#textbox Ker0160,name
エリス,「そう思われるのでしたら、無理な真似はなさらないで欲しいのです」

アタル,「このままミルフィが元気になるのを待っていてもいいんだけどね……こんな気持ちいい天気、いつまでも続かないんだよ」

アタル,「知ってるでしょ? ニッポンは四季ってのがあるから、コロコロ見える風景が変わっちゃうんだ」

#textbox Ker0110,name
エリス,「……はい、それは存じています」

アタル,「無責任な発言かもしれないけれど、大丈夫だと思うんだ。だってエリスさんも言ってたろ? ミルフィは強い人間だって」

#textbox Ker0140,name
エリス,「それは、そうですが……」

アタル,「もし、まだダメだって言うんならさ。婚約者候補を解消するっていうのも残っているんだけど、どうする?」

#textbox Ker0160,name
エリス,「……わかりました。そうまで仰られては、自分の判断でこれ以上留めることはできません」

最後の手として残っていた切り札を出すと、エリスさんはしぶしぶと扉の前からどいてくれた。

アタル,「ズルい手でごめんね」

#textbox Ker0110,name
エリス,「しかし、姫様が望まれるかどうか」

アタル,「その時は……それまで、かな」

いやだと言われたら、もう手はない。後は扉を破壊して無理矢理表に出すくらいだけれど、今はまだ、その手を使うような場合じゃないし。
アタル,「拒否されたら、大人しく引き下がるからさ」

エリスさんが考えを変えないように穏便な発言をしつつ、俺は彼女と入れ替わりに扉の前に立つと、ひとつ深呼吸をしてからノックをした。

しかし、予想通り反応はない。

アタル,「ねぇ、ミルフィ、ドアを開けてくれないか?ちょっと話がしたいんだ」

…………………………。

しーんと、静まり返っており、物音ひとつしない。

アタル,「おーい、ミルフィ。聞こえてるだろ?」

…………………………。

ドア越しに声をかけたけれど、こちらでも返事はない。まぁ、これも予想の範囲内。

俺はポケットから携帯電話『CROWN』を取り出すと、ミルフィの番号を呼び出した。

でも……返ってきたのは、電波が届かないか、電源が~というお決まりのメッセージ。さすがのCROWNであっても、それではどうしようもない。

携帯がダメなのは重々承知なのだけど、一応までに。

アタル,「……わかった、それならここで俺が勝手に話す。独り言だと思って聞いてればいいよ」

なら、これしかないよな。と、俺が話を始めようと思った時だった。

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「……何よ」

アタル,「あ、え、ミルフィ?」

予想外にもミルフィの声が返ってきて、むしろ俺の方が泡を食う。

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「……あたしと話したいんでしょ。いいわよ、暇だし付き合ってあげる」

この展開は意外だったが、話を聞いてくれるというなら好都合。

アタル,「なぁ、いつまでひきこもってるつもりだ。親父さんを狙った犯人は捕まって、根城も潰したってニュースで言ってたぞ? もう安全だろ」

#textbox kmi0240,name
ミルフィ,「……アジトを逃げた人間がいるかもしれないもん。アニメだと、大抵そういうヤツが原因で大切な人が死んじゃうんだから」

大切な人が死ぬってことは、やっぱり昼にセーラさん達と話した内容はビンゴってことだ。

……良かった。これで原因が違ったらどうしようかと思ったよ。

ただ、合っていたから答えがわかるってものでもない。わかったのはミルフィはミルフィは未だに母親の死を引きずっているってことだ。

母親の形見である王冠にすがっていることからもそれは明白だ。

アタル,「心配のしすぎだよ。エリスさんの護衛が信じられない?それに、ニッポンだって十分な数の警備員をさらに増やして配備してくれているんだよ?」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「そんなので万全っていうなら、今回だってテロは起きてないもん。お父様の護衛だって一流だったもん」

……ま、そりゃ聞く耳もたないよね。

その程度のコトで出てきてくれるのなら、エリスさんだって何の苦労もしていないだろう。

アタル,「なら、どうなれば出てくるんだ?」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「どうって……」

アタル,「ミルフィが安心できる方法があるなら、俺は国王の力を全部使ってでもそれを叶えてあげるよ」

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ミルフィ,「ばっ、ばか! そんなことのために使ったらもったいないじゃない! アタルにはポーシャを作ってもらわないと困るんだからっ!」

アタル,「だったら、出てこいよ」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「……それは、やだ」

これでも釣られないか。巨大ロボを餌にすれば出てくるかと期待していたんだけど、これでもダメなのか。

アタル,「それじゃ、ミルフィはどうするんだよ。一生、部屋に閉じこもっているつもりか?」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「……安全が確保されたら、出るわよ」

アタル,「それは無理だろ。万全がないって言ったのはミルフィの方だぞ。安全の保証ができるっていうなら、全力で用意するって、さっき俺は言ったぞ」

#textbox kmi0230,name
ミルフィ,「そ、それは……イスリアの軍事力がきっとどうにかするもん。ニッポンじゃだめなんだもん」

アタル,「そりゃ、軍事力で言えばニッポンはイスリアに敵わないかもしれないけどさぁ」

……あー、なんだかイライラしてきた。

ミルフィの言うことはムカっ腹が立って仕方ない。

ミルフィの気持ちだって少しくらいならわかってると思うし、怖い気持ちだってわかる。

けど、ミルフィが言っているのは子供の言い訳以上のものではない。

エリスさんから聴いていた時は、仕方がないかもって気持ちもあったけれど、こうして直接話しているとどうにも我慢できなくなってきた。

踏み込んじゃいけない部分があるってわかっているけれど、ここでたたらを踏んでちゃ前に進めやしない。

アタル,「……なぁ、ミルフィ。わかってるんだろ? 本当はもうそんなに心配しなくてもいいんだって」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「何のことよ……。知らないわよそんなこと」

アタル,「お母さんのことで辛いのもわかるけれど、いつまでそれを引っ張るつもりなんだ?」

#textbox kmi0230,name
ミルフィ,「……ッ! アタルに、何がわかるって言うのよ!」

内側からドアが叩かれ、ゴンという鈍い音が響く。

エリスさんが俺を睨んだが、こっちとしてここまで踏み込んでおいて、おめおめと引き下がるわけにはいかない。

負けじと彼女を睨み返し、もう少し猶予を寄越せと力技で強請る。出てこようとした脚を戻したのを見て、俺はミルフィへと意識を戻す。

アタル,「王になったばかりの俺には、全部はわからないかもしれない。でも、俺が狙われたせいで他の誰かが傷つく怖さってのはわかってるつもりだよ」

#textbox kmi0230,name
ミルフィ,「それは本当にわかってるつもりなだけよ! 本当に、本当の怖さなんて……誰にも、誰にだって……!」

アタル,「言うとおりだと思うよ。どれだけ怖がったところで、本当の怖さには敵わないのは、知ってる。俺も狙われたことがあるからね」

アタル,「それが、ミルフィの感じている怖さと別物だということはわかっているよ」

そう、怖いという気持ちは同じだとしても、同じ怖さじゃない。……ないけれど。

アタル,「……だけど、その怖さは本物だった!今だって思い出せば震えが止まらないよ!」

アタル,「それでも、例えクジ引きで当たったような王様の立場だって、王様として必要とされれば、暗殺者がいるかもしれない場所に行っているよ!」

#textbox kmi0230,name
ミルフィ,「そ、そんなのアタルの都合じゃない!あたしはそんなことしなくて良いんだから!お父様がいるから大丈夫だもん!」

アタル,「じゃあ、親父さんが事故で動けなくなったりしたら、ミルフィはすぐにでも外に出られるっていうのか?」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「で、出れるわよ。もちろん」

アタル,「嘘だ」

言葉は震えている。売り言葉に買い言葉で言い返しているだけで、全然説得力はない。

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「う、嘘じゃないもん……! そもそも、アタルにし、心配なんてされる必要なんてないわ!」

#textbox kmi0230,name
ミルフィ,「もういい、もう話さない! 帰って、帰ってよ!」

アタル,「逃げる気か、ミルフィ!」

#textbox kmi0230,name
ミルフィ,「エリッ、エリッ! こいつを追い出して! 近寄らせないで!」

その言葉に、これまで我慢をし続けてきていたエリスさんがついに動く。

アタル,「エリスさん、お願いだから止めないでくれ」

エリス,「これ以上、姫様を傷つける発言は許しません。力づくでも……ッ!?」

俺の肩に手をかけようと伸ばした手は、しかし俺の肩を掴むことは出来ずに弾かれる。

柴田,「それはできぬ相談ですよ、エリス様」

アタル,「柴田さん!」

やっぱりそばで聞き耳を立てていたか。

近くでこっそり状況を見ていたのだろう、柴田さんが警備の人を連れて俺を守るように囲んでいる。

確信はなかったからどうなることかと思ったけれど、助かった。

エリス,「邪魔をしないで頂きたい……!」

柴田,「いいえ、これはアタル王のお望みですので」

反射的にホルスターへと伸ばした手は、銃のグリップを握る前に柴田さんの手に抑えられてしまった。

周りの警備の人からも警棒を向けられて、エリスさんは自由な動きを封じられてしまう。

柴田,「いつものエリス様でしたら、私程度では相手になりませんが、今の疲れ切った貴方でしたら、これだけの人数を集めればどうにかできるんですよ」

エリス,「くっ…………」

彼女には悪いと思うけれど、今は四の五の言ってる場合じゃない。

アタル,「……頼むよ、エリスさん。もう少しだけでいいんだ」

エリス,「しかし、姫様は望まれていない! さっき、アタル王も仰られたではないか! 無理強いはしないと!」

アタル,「……我ながらズルイとは思うけど、さっきとは状況が違うんだ」

柴田,「構うことありません、アタル王。説得を続けて下さい」

エリス,「くっ、これがニッポンのやり方か!」

いつもは適当な柴田さんだったが、今回に限っては本当に助かる。

俺はミルフィの扉の前に向き直る。まだ扉のすぐ向こうにいるはずだ。かすかな気配を感じる。

アタル,「……悪い、エリスさんはちょっと動けなくさせてもらったよ」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「ひ、ひどいことをしたんじゃないでしょうね!?」

アタル,「怪我はさせてないから、安心して」

#textbox kmi0240,name
ミルフィ,「そ、そう……良かった…………」

本当に安心した声。ああ、ミルフィはやっぱりエリスさんが大好きなんだ。

アタル,「少し俺は言い過ぎた、それは謝る」

アタル,「けど、そんな風に言っちゃうくらい、俺はミルフィに出てきて欲しいと思っているんだ」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「…………それは、嬉しいけど」

アタル,「あのさ、今日の昼にね、皆でランチを食べたんだけど。その時、セーラさんが、言ってたんだ」

アタル,「王族の笑顔は国民を幸せにするって」

#textbox kmi0280,name
ミルフィ,「……………………」

アタル,「それってさ、ミルフィが部屋から出てくれて、笑顔を見せてくれれば、それだけで幸せになる人は、いっぱいいるってことなんじゃないかな」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「そんなの……わからないもん……。あたしの笑顔はセーラとは違うから……」

アタル,「そうかな? 少なくとも、俺は幸せになれるよ」

#textbox kmi0250,name
ミルフィ,「え……?」

アタル,「……俺さ、ミルフィの顔が見れなくて寂しいよ」

#textbox kmi0250,name
ミルフィ,「な、ななな何を言い出すのよいきなり!?」

我ながら恥ずかしいことを口走ったかもしれない。ミルフィが戸惑うのも当然といえば当然か。それくらいクサイセリフを言っている気がする。

でも、ええい、ここで止めてられるか!

俺は後ろに柴田さんやエリスさんがいるとわかっていても、恥ずかしさを脱ぎ捨てて、言葉を続ける。

アタル,「ミルフィと一緒にいるとさ、ドタバタに巻き込まれたり、わがままに付き合わされたり、ロボ――ポーシャを作れとせっつかれたり、大変だよ」

アタル,「大変だけどさ。でも、ミルフィの明るさには結構助かっている部分もあるんだよ」

#textbox kmi02A0,name
ミルフィ,「……そんなの、嘘でしょ。あたしのワガママを喜ぶなんてドMくらいなものよ」

アタル,「じゃあ、ドMでもいいさ。本当に助かってたんだ」

ミルフィと共に過ごしてきた短いけれど濃厚な日々を思い出して、くすりと笑ってしまう。

アタル,「いきなり国王にされてさ、具体的には何もしなくていいって言われてもそれなりに国王の仕事はあって、命だって狙われて、結構大変な思いをしてる」

アタル,「国王って言葉に振り回されて、心がバラバラになりそうになったことだってあった」

アタル,「それでもさ、ミルフィに強引に引っ張りまわされている間は、そのことも忘れられて。国枝アタルっていう一人の人間なんだって、忘れずにいられた気がする」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「ば、ばかじゃないの……。引っ張りまわされて幸せって、本当にただのドMじゃない……」

アタル,「でも、それは俺だけじゃない。クラスの皆だって同じことだと思うよ」

#textbox kmi0250,name
ミルフィ,「クラスのみんなも……?」

相手に見えてはいなくても、ああ、と、俺は頷く。

アタル,「あの時、ミルフィはひどいことを言っちゃったけどさ、クラスのみんなはもう誰も嫌ったり怒ったりしてないよ。皆、心配してる」

アタル,「ここが王宮だから気軽に遊びに来れないだけで、もし普通の家だったら皆して大挙で押し寄せてきてるよ」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「そんなこと、ないよ……。あたしに、そんな友達なんて……いないもん……。あたしは、怖いイスリアのお姫様だから……」

アタル,「嘘だと思うなら、ちょっと携帯の電源入れてみろよ。どうせわざと電源切ってるか、充電わすれてるんだろうが、きっと着信の数はすごいぞ」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「……う、嘘に決まってるわよ」

アタル,「嘘だったら、俺の全権限を使ってでも、ポーシャを作ってやるよ」

#textbox kmi0230,name
ミルフィ,「ほ、本当よね。あとで嘘って言ったら許さないから!」

アタル,「ああ、ここにいる柴田さんやエリスさんが証人だ」

俺は振り返って2人の顔を見る。

宜しいのですか、と柴田さんが俺の目を見たが、この賭けは絶対に勝てるってわかっているんだ。

エリスさんは抵抗しないと判断されたか、柴田さん達の手からは開放されて自由になっていた。彼女は怒りとも困惑とも取れぬ瞳で俺を見ていた。

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「わ、わかった。ちょっと取ってくるから……う、嘘ついたら、ニッポンには恐怖の大魔王が降ってくるからね!」

ミルフィの気配が扉から遠ざかっていく。

1分……2分…………。

アタル,「……もしかして、携帯電話の場所がわからないとかだったらどうしよう」

中の状況を知っているだろう、エリスさんの顔を見る。

エリス,「………………ふっ」

さり気なく目を逸らしただと……!?

扉に耳を近づけてみれば……

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「え、ええと確か、寝ぼけてコントローラーと間違えて放り投げて……」

……見つからなかったらイヤだなぁ。

ここまで良い話風に持ってきているというのに、まさかの携帯電話紛失オチだけはマジで勘弁してほしい。

と、部屋の外で俺たちが不安に苛まれていた時――

#textbox kmi0290,name
ミルフィ,「あったー!」

廊下まで聞こえてきたその快哉の叫びに、思わず俺達は顔を綻ばせる。

柴田,「ブラボー! おお、ブラボー!」

柴田さんなどは手まで叩いてしまっている。

エリス,「姫様、よくぞご自身の力で見つけることができました……よくぞここまでご成長なされて……」

って、エリスさんほろりときてるー!?

え、そ、そんなになの!?

ちょっと予想外のところで感動秘話が生まれたところだが、本題はこっちじゃない。これはあくまでおまけだ。

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「そ、それじゃ、電源入れるからね!」

扉の前まで戻ってきたミルフィの声は、不安と、期待が入り交じっていて、ドキドキと震えている。

そして、一拍を置いて――

#textbox kmi0250,name
ミルフィ,「わっ、うわっ!? え、えええぇっ!?」

ふふ、驚いている驚いている。

#textbox kmi0250,name
ミルフィ,「えぇっ、う、嘘、こんなにメール届いて……わわっ!?留守番電話もいっぱいいっぱい!?」

俺はクラスの皆が心配してメールや電話をしているのを知っているから、こういう結末は読めていた。ニヤニヤを止めようったって止まらない。

柴田,「なるほど、さすがアタル王。ギャンブルに勝つコツをご存知とは」

後ろでしきりに柴田が感心している。俺が何の勝機もなく、最後の王様権限をベットするとでも思っていたとしたら、さすがに心外だ。

エリス,「ああ、姫様に、こんなにもお友達からご連絡があるなんて……」

エリスさんはエリスさんで、想像外の感動をしている。

……ミルフィ、お前ってどんな交友関係の中で生きてきたんだ。

アタル,「どうだ? 軽く3桁くらい、メールが届いているんじゃないか?」

#textbox kmi0250,name
ミルフィ,「う、うん……わっ、また届いた!?」

言ってるそばから着メロが鳴って、新しく届く。

#textbox kmi0210,name
ミルフィ,「え、えっと、ええっと、ふ、古い方から読んだ方がいいのよね」

アタル,「あー……ま、そうだな」

#textbox kmi0290,name
ミルフィ,「ちょ、ちょっと読んでみる……」

…………

……

ミルフィ,「ええと……一番古いのは……あ、田村だ……」

#textbox Kmi0240,name
ミルフィ,(覚えてる、あの日の朝、せっかくあたしのことを気にしてくれたのに、無視しちゃったんだ……)

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,(どんな恨み言が書いてあるんだろう……)

ドキドキしながらメールを開くと、そこには『ごめんね』の文字だった。

#textbox Kmi02A0,name
ミルフィ,「なんで、田村が謝るのよ……」

#textbox Kmi0240,name
ミルフィ,(本文を見てみると、そこにも気遣う言葉ばかり。あたしが無視したことを怒ってもいなくて、気にした様子もなくて、ずっとあたしのことばかり心配して……)

#textbox Kmi0280,name
ミルフィ,(他のメールも見てみる。……その、どれもこれもが、あたしが考えていない中身ばかりだった)

『大丈夫?』『早く元気になって学園に来いよ』『返事くらいしなさいよーピキピキ』『不審者はあれ以来出てないよー』
『あんなん担任の妄想だって』『担任、あの後ノイローゼで黄色い救急車に連れて行かれたらしいぜー』

『ら、ランダムの新作PGが発売になるでござるよ!』『なんか、私達が苛めたみたいな空気になってるんだけど、なんで><』

『おーい、着拒してるんじゃないよね?』『いい加減、学園こないとマジで怒るよ(゜∀゜)』『……メール無視して、私たち心配させて、絶対許さん』
#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「う、うそつき! 怒ってるじゃない!」

アタル,「おえっ、な、何が!?」

扉の外からアタルの驚く声がしたけど、当然の如く無視。あたしはメールを一通一通、読んでいく。

そのどれもこれも、あたしが王女だということを忘れいて、あたしがテロリストに狙われてるかもしれないってことも関係なくて。

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「あんなひどい態度取ってたのに、友達として、見てくれてるんだ……」

#textbox Kmi0240,name
ミルフィ,「あ、あれ……画面が、にじんで見えないよ……」

…………

……

アタル,「……ほらね、ミルフィが出てきて笑顔をみせてくれれば、これだけの人間が幸せになるんだよ。まぁ、イスリア国民じゃないけどさ」

静かに響いてくるミルフィの嗚咽を聞いて、俺は自然と優しい声で語りかけていた。

アタル,「まぁ、イスリアの人の笑顔も簡単に見れるけどね」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「ど、どういうことよ」

アタル,「エリスさんがいるだろ」

エリス,「あ…………え、ア、アタル王?」

#textbox kmi0240,name
ミルフィ,「エリ……? でも、エリはただ、お仕事だから……あたしを守ってくれてるだけで……」

アタル,「そんなことあるか。表に出てくりゃすぐにわかるぞ」

エリス,「な、何を仰っているのですか……!」

珍しく盛大に戸惑ってる。エリスさんがミルフィのことを仕事以上に好きなことくらい、これだけ一緒に暮らしていればイヤでもわかるってもんだ。

アタル,「身の安全は保証するよ。絶対に誓う」

柴田,「はい、ミルフィ姫の警備は入念に執り行っております」

アタル,「エリスさんだって体調が万全なら一騎当千だろ?」

エリス,「……姫様」

アタル,「クラスの皆も、セーラさんやヒヨだってミルフィと会いたがっているんだ。だから、出てこいよ」

#textbox kmi0240,name
ミルフィ,「……ば、ばっかじゃないの。あたしはテロリストに狙われるような国のお姫様なんだよ……」

アタル,「メールとか見たんだろ? もう、誰もそんなこと気にしてやしないよ」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「気にしなさいよ! ひとつ間違えたら、みんな……みんなが……みんなだって……」

アタル,「ミルフィのお母さんみたいに、犠牲になるかも?」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「っ、そ、そうよ! 知ってるなら――」

アタル,「皆の思いを馬鹿にするな」

#textbox kmi0250,name
ミルフィ,「っ……!?」

アタル,「犠牲になるのが怖くて友達やっていられるか。そんなのは本当の友達なんかじゃない。ミルフィの肩書に惹かれてやってきたハイエナみたいなもんだ」

#textbox kmi0270,name
ミルフィ,「それでも、巻き添えくらったらどうすんのよ!そんな、そんなの……責任取れないよ!」

アタル,「ニッポンでテロが起きたんなら、その時に責任を取るのは、国王である俺の役目だよ」

アタル,「ま、今も学園じゃ責められっぱなしなんだけどさ。国王である俺がしっかりしていないから、ミルフィが不安で出てこれないんじゃないかってね」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「そ、それはアタルには関係ないじゃない……否定しなさいよ……」

アタル,「そうもいくか。ニッポンの安全って話になったら、俺は無関係じゃいられないからね」

外国のお姫様が相手となれば、国王である俺は知らなかったじゃ済まされない問題だし。

アタル,「さっきも言ったけれど、警備の心配は大丈夫だよ。イスリアに比べて、ニッポンの警備態勢じゃ心もとないかもしれないけどさ」

アタル,「これでも他国の姫様を圧しかけ状態とはいえ二人も受け入れてる。それなりの責任を果たす為に頑張っているスタッフは大勢いる」

アタル,「ミルフィや、俺の大切な人達が傷つかないように皆頑張ってくれているから、テロリストなんて入ってこれやしないよ」

俺自身が納得できなければこんな風には絶対に言えないから、その辺りの警備態勢の話も、実は直接責任者に聞きに行ったりした。

彼らは本当に色んな可能性を想定して、対処できるようにしていた。それで一部からバッシングが出ていたとしても、それに耐えて気張ってくれている。

アタル,「ミルフィが自分のせいで、他の人が巻き込まれないようにしているって気を使っているの、皆知ってるよ」

アタル,「ミルフィがそういう優しい子だって知っているから、クラスの皆だってこれだけ心配しているんだ」

アタル,「だから、俺だけじゃない、皆のためにも顔を見せてくれよ」

#textbox kmi0240,name
ミルフィ,「でも……でも…………」

これだけ言葉を重ねても、ミルフィは最後の一枚のドアを開くことができないでいる。

あと少し、あと少しだということはわかってる。

ドアノブを見れば、俺が触ってもいないのにカタカタと揺れていた。これは、ミルフィが中でドアノブを握るところまできているってことだから。

頑張れと心の中で励ます。けれどあと一歩を踏み出せないミルフィは、ドアノブを回すことはできなくて……。

……もう、これ以上はミルフィの力だけじゃ無理なのかも。

なら、やっぱり最後は荒療治だよ……な。

俺は深く息を吸い込み、大きく吐き出す。もし、これで俺達の関係が壊れるならそれまでだ。諦める。

それだけの覚悟を決めて、俺は口を開いた。

アタル,「わかった。これだけ言っても出てこないっていうなら……俺達の仲もこれまでだ」

#textbox kmi0250,name
ミルフィ,「え……? これまでって……」

アタル,「だから今後、どれだけロボの開発協力をしてくれって言われても、絶対に首は縦に振らない。たとえ軍事侵攻されたってだ」

#textbox kmi0220,name
ミルフィ,「なっ、なんで!? いやだよそんなのっ!」

アタル,「ぐおっ!?」

ドアが開くやいなや、弾丸のように飛び出してきたちっこい塊が俺の腹部にめり込んだ。

ミルフィ,「や、やだよぉ、そんなの……うぇっ、ぐすっ、ひくっ、うっ……うわあああぁぁああぁぁぁんっっ!!」

そして俺の体にしがみつき、遠慮なしのフルボリュームで泣き出してしまった。

……エリスさんに使った手と同じなんだけど、まさかここまで効果があるとは思わなかったなぁ。

まぁ、ロボットは絶対に作りたいって、ずっと言い続けてたしなー。

ミルフィ,「ひうぅ、ううう、うわああぁっ! ああぁぁんっ!」

……ともあれ、無事に出てきてくれて良かった。

相変わらず青白くて生っちょろいけれど、ちゃんと食事は取っていたみたいだし、元気みたいだ。

エリス,「姫様……良かった、本当に……」

エリスさんも喜んでくれている。

でももし、俺がこの天岩戸を開けなかったら、エリスさんは……。

……本当に出てきてくれて良かったなぁ!

ミルフィ,「う、うぅっ、ぐす……ね、ねぇ、アタル……?」

アタル,「ん? どうしたんだよ」

ミルフィ,「アタルも、死なないよね……?」

何を言うかと思ったら、そんなことか。

アタル,「言ったろ、警備は完璧だって。第一、俺を殺そうったってそう簡単には殺せないさ。何しろ、弾が『当たらない』んだからさ」

ミルフィ,「あ、当たるかもしれないよ。凄腕のスナイパーだって世の中にはいるんだからっ」

アタル,「ど、どんな心配してるんだよ……大丈夫だって。十三みたいな超一流だって俺に当てることはできないから」

ミルフィ,「陽電子砲とかかすっただけで蒸発しちゃうんだよ!?」

アタル,「……あ~、わかったわかった。なら、証拠を見せてやるよ」

ミルフィ,「証拠って……?」

抱きついていたミルフィに離れてもらって、エリスさんの方を向く。

柴田,「ま、まさか……アタル王!?それは、それだけはおやめくださいっ!」

エリス,「……本気なのですか?」

二人はそれだけで俺が何をして欲しいのかわかってくれたみたいだ。察しが良くて助かる。

アタル,「本気だよ。エリスさんは銃のエキスパート……凄腕のスナイパーに負けないくらいの腕前は持ってるんだろ?」

尋ねるように見れば、彼女は戸惑いながらだが、はっきりと頷いてみせた。

エリス,「……それは、はい。狙撃任務で失敗をしたことはありません」

ミルフィ,「あ、アタル!? ちょ、ちょっとそれ冗談じゃないから落ち着きなさいって! エリは本当にすごいんだよ!」

アタル,「それくらい凄くないと、ミルフィだって納得できないだろ?」

アタル,「だから、エリスさん。俺を撃ってよ」

柴田,「だだ、だからダメですって! 何を仰るウサギさん!他国の人間に国王を狙わせただなんて知られたら、どうなることか……!」

アタル,「ここにいる人間が言わなきゃいいんだから、簡単だよ。……それとも、簡単に口を割るような人間がこの中にいるのかな?」

柴田,「そう言われますと……い、いえそういうことではなく!アタル王の特性は存じておりますが、もし仮に間違いが起きてしまった場合、イスリアとニッポンの関係は!」

アタル,「大丈夫、間違いなんてないから」

柴田,「………………わかりました。アタル王を信じます」

よし、障害はのけた。

アタル,「それじゃ、お願いするよ」

ミルフィ,「ちょ、だめ、ダメだってば!」

アタル,「大丈夫だから、危ないから離れて」

俺はミルフィを離して、被害の少なそうな場所を選ぶ。外れて壁に穴があいても、これくらいの修繕なら大したことはないだろう。

アタル,「エリスさん、いいですね。本気で狙わないと意味がないから」

エリス,「わかっています。……もし、当たったとしても」

アタル,「事故で済ませる。いいね、柴田さん」

柴田,「はい。ですが、私はアタル王を信じております」

俺は壁際に立って、いつでもどうぞと目を閉じた。

……当たらない、本当に当たらないから大丈夫。俺に当てられるのはヒヨだけだから、大丈夫。

大丈夫だと思っていても、あのエリスさんに狙われていると思うとマジで怖い。

ミルフィのためにもできるだけ平然としているフリをしようと震える指先を背中に隠して、俺は息を止めてその時をじっと待つ……。

#textbox ker0160,name
エリス,「ならば……」

#textbox ker0130,name
エリス,「……本気で殺します」

#textbox kmi0150,name
ミルフィ,「いや、エリ、ダメ、ダメだって――――」

とじたまぶたの向こう側でもわかるぱっと弾ける光と破裂音が同時に鳴り響き、何かが俺の頬をピシュンとかする。

それが二度三度とやってきて、背後の壁にボスッという音を立てた後に、火傷しそうな熱さをかすめた肌に感じる。

それが数回、しかし俺には一発も直撃していない。

アタル,「ほ、ほら、ね」

ミルフィ,「ほらねじゃないわよ、ばかぁ……」

俺は目を開けてミルフィを見れば、完全に腰を抜かしてへなへなになっているミルフィが床に尻をつけていた。

は、はは……本当は俺が腰を抜かしたいところなんだけどね。

柴田,「嗚呼、素晴らしい! 本当に弾が当たらない!これこそがアタル王だけが持つ能力!」

柴田さんたちもほーっと大きく息を吐き出し、俺の無事か、自分達が警備責任を果たさずに済むかで安堵していた。

エリス,「くっ、何故、何故当たらないっ!」

――が、自分の腕に自信がある分、俺の特性を知っていても信じられないのだろう。

エリスさんは声を荒げるや、こっちに踏み出してきた。

それは本当に一瞬の踏み込みで、俺が反応する間もなく銃口が俺の心臓に突きつけられる。

そして――

引き金を引いたが、弾は出てこなかった。それどころか銃のネジが弾け飛び、壊れてしまう始末。

エリス,「ば、馬鹿な……整備だけは毎日完璧にこなしているのに……」

アタル,「……い、今のはマジで焦った」

もし、アレがナイフだったらどうだっただろう。避けることはできなかったから、刺さっていた距離。でも、銃と一緒で壊れたのかなぁ。
ミルフィ,「ふぁ、はああぁ…………」

今度こそ本当の本当に腰が抜けきったか、ミルフィはぺたっと床に横倒しになってしまう。

エリス,「……くっ、姫様に近づくウジ虫を排除できるチャンスだったのに」

アタル,「――って、おおおいっ!?エリスさん、その発言は聞き捨てならないぞ!?」

エリス,「……空耳でございます」

アタル,「そんなことあるかよ……ったく」

エリスさんも、ミルフィのこととなると、おかしな言動になるよなぁ……。

エリスさんみたいな付き人がいいというのも、考えを改めるべきなのかもしれない。

アタル,「ともあれ、これでわかったろ? 俺は絶対に殺されないから……って」

ミルフィ,「……………………ぅ、すぅ……」

アタル,「……寝ちゃってる?」

床に横になったミルフィから聞こえてくるのは、微かな寝息。

その姿からは先程までの張り詰めたものは少しも感じ取れない、無警戒な姿だった。

アタル,「こんな所で寝るなんて、しょうがないヤツだな」

寝こけたミルフィに近づきしゃがむと、俺は彼女の頭を優しく撫でてやる。

ミルフィ,「ん……」

その気配を感じたのか、ミルフィはちっちゃな手を伸ばして、俺の手に触れてきた。

アタル,「ん、起きてるのか?」

ミルフィ,「くぅ……すぅ…………」

……無意識にやったみたいだな。

俺は起こすのも悪い気がしたので、柔らかな髪の毛からそっと手を離そうとした。

アタル,「っと……」

けれど、ミルフィの手が離れようとする俺の手を追いかけてきて、きゅっと手を掴んでくる。

アタル,「ミルフィ?」

やっぱり起きているのかと思ったが、ミルフィの寝息は続いていた。空いた手でつんつんとほっぺたをつついてみたが、ミルフィは起きる様子はない。

じゃあ、本当に無意識で俺の手を握ったのか。赤ん坊みたいだな。

アタル,「……手、離れないんだけど」

俺の手を掴む手は寝ているとは思えないほど強く、しっかりと握られている。

離したくない、そんな気持ちが伝わってくる。まるでちっちゃな子が家族の手を握って離さないように、俺には思えて……。

アタル,「……ねぇ、エリスさん。このまま寝かしてあげちゃダメかな?」

エリスさんを見る。俺の要望が要望だけに、彼女は渋面を作ったが……。

エリス,「……今日だけは特別です」

本当にイヤイヤという感じだったが、許可を出してくれた。

アタル,「大丈夫、変なことはしないから」

エリス,「当たり前です! もし、何か不埒な真似をしようというのでしたら……!」

アタル,「し、しないから! 本気で! 誓いますから!」

カッ! と般若のように秀麗な眉目を歪めたエリスさんへと、俺は慌てて誓いを立てた。

さっき銃で狙われた時よりも怖いんだけど!?

ミルフィ,「……ぐー、んむにゃ……ドーナツ、もぐもぐ……」

なんて俺たちがドタバタしている間も関係なく、ミルフィはぐっすりとお休みモードで。

ドーナツを食べている夢でも見ているのだろうか。

その夢の中に、みんなが出ていればいいんだけどな。

ま、てんこ盛りのドーナツを独り占めにして、幸せに浸ってるのも、それはそれで彼女らしくていいか。

エリス,「………………」

彼女の寝顔と幸せそうな寝言に、俺の気持ちも落ち着く。

それはきっと、エリスさんも然り、だ。

アタル,「……それじゃ、運ぶね」

エリス,「……はい、よろしくお願い致します」

…………

……

#textbox Ker0110,name
エリス,「――失礼」

寝ぼけまなこのミルフィをいつものクマパジャマに着替えさせると、エリスさんは俺に威嚇するような眼差しを残しつつ、部屋を後にした。

アタル,「……だから、なんにもしないっつの……ったくぅ」

寝ぼけたまま服のすそを掴んで離してくれないミルフィに呆れつつ、彼女の体をベッドに運ぶ。

ミルフィは柔らかいベッドへと体を預けた途端、すやすやと安心しきったように寝息を立て始めた。

ミルフィ,「ふにゃ……むにゅ…………」

アタル,「……ホント、子供みたいだな」

ずっと張り詰めていた気持ちが緩まって、眠気に変わったんだろう。

1人で、こんなちっちゃな体に怖い気持ちを抱え込んで。ミルフィはミルフィなりに頑張り続けてきたんだろう。

姿を見ることはできなかったから、その様子は想像することしかできれないけど。

こうしてじっくりと観察していると、ミルフィが一生懸命耐えていたんだってことは伝わってくる。

ろくに眠れていないんだろう、目の下には深いクマがあって。(パジャマとかけたつもりはない)

あんなに朱々としてふっくらしていたほっぺただって痩せこけている。

アタル,「よく、頑張ったな」

その頬をそっと撫でるとミルフィは、いやがる猫のように体をくねらせた。

ミルフィ,「ん、んぅ……ぷにぷに……、するなぁ……ふみゅ……」

その愛らしい姿に思わず笑みをこぼしてしまう。

アタル,「今日は、ゆっくり休みな」

そして明日から、また元気な姿を見せてくれよ。

ミルフィ,「……くぅ」

ミルフィは小さな小さな寝息で返事をする。

俺は最後に一度だけミルフィの前髪を撫でてから、部屋の電気を消すためにリモコンのスイッチを押した。

……しっかし。

こんな早い時間に眠れるかな、俺……。

しかも俺、夕食まだ食べてないんだよなぁ……。

……ま、がんばって羊の数でも数えよう。

でも、その心配は杞憂で。

俺の心身も意外と疲れていたらしく、目を閉じてまもなく、俺の意識は夢の中へと落ちこんでゆく。

眠りに落ちる寸前、ふと思う。

並んで寝たら、ミルフィと同じ夢を見れるだろうか。

ミルフィと一緒に、てんこ盛りのドーナツを食べる甘ったるい夢。

それはそれで、すごく楽しい夢に違いない。

ざわざわり、と。

通学路がにわかにざわめいている。

ミルフィ,「……ふふん。太陽の光と同じように、たまには人の注目を浴びるのも良いものね、エリ」

エリス,「はい、姫様」

アタル,「……随分と態度がデカイな、おい」

居ない間に自分が周囲にどんなに心配されていたかなど、もうすっかり忘れた様子でミルフィは、悠々自適に昇降口までの道を練り歩いている。

男子学生,「……おい、あれ」

女子学生,「ミルフィだわ……」

謙虚さこそを美観とするニッポン人からすれば、その姿は信じられないものだから余計に目立つその姿が当たり前のように注目を集めた。

そして名前を呼び噂するその多くは、ミルフィと直接の接点を持たぬ人間だから、向けられている視線の多くは好奇のものだったが――

男子学生,「うわ、イスリアの姫様だ……。彼女狙ってテロリストとか来たりしないだろうな、巻き添えはごめんだぜ……」

中にはそんな気のない言葉を、これみよがしに聞こえるように口にしているヤツもいたりする。

ミルフィ,「………………」

エリス,「あの男……万死に値する!」

アタル,「って、エリスさん!?」

ミルフィのことを悪く言われ、一瞬で頭に血を上らせたエリスさんは、迷うことなくホルスターから愛用の銃を引き抜こうとした。

俺はエリスさんの蛮行に狼狽しかけたが、傷つけられた当人であるミルフィは騒がず怒らず冷静に――

ミルフィ,「やめなさい、エリ」

静かな一言でエリスさんの動きを制した。

エリス,「ですが、姫様。あの男はこちらの事情も知らずに……」

ミルフィ,「言いたい人間には言わせておけばいいのよ。この国でテロリストに襲われる心配なんてないんだから」

ミルフィは俺の顔を確認とばかりにちらりと見て、頬の端っこを釣りあげ底意地の悪い笑みを作る。

ミルフィ,「そうでしょう、アタル王?」

アタル,「……あ、ああ! 当然だろ!ニッポン国王の名に誓って、テロなんて起こさせないさ」

ミルフィ,「なら、無視して構わないわ。愚民の戯言に付き合ってあげるのも、王族の大事な仕事だからね」

余裕綽々とばかりにぺったんこな胸をふんと反らせて、今度は逆に、ミルフィから悪口を言った男へと、痛烈な皮肉を露骨に吐きかけた。

男子学生,「っ…………!」

それを聞いた学生は顔をカッと赤くすると、何かをさらに言おうとしたが――

女子学生,「あああああっ、ミルフィだー!」

男子学生,「ぐわっ!?」

アタル,「!?」

一体何が起きたのか、突然前のめりにつんのめりそのまま倒れてしまった。何事かと思えば、転んだ男の代わりに立っているのは俺のクラスの女子だ。

ミルフィ,「お、おお、田村じゃないの!」

両手に持った鞄、そして彼女が立っている位置、そして前のめりに転んだヤツ。それらを総合して考えると……。

アタル,「……後ろから鞄で殴ったのかな」

エリス,「そういうことになりますね」

軍人のエリスさんがそう言うのだから、きっと合っているのだろう。まぁ、ぶん殴ってやりたいとは俺も思ったので、グッジョブ田村さん。

その田村さんと言えば、ずかずかと、臆することなく、こっちにやって来たと思えば。

女子学生,「やーっと来たのね、このっ、このっ!」

いきなりちっちゃなミルフィの頭を、ばしーんばしーんと叩くではないか!

ミルフィ,「ぐおっ、いたっ、痛いじゃないの、田村!?あ、あたしを誰だと……」

女子学生,「ミルフィが誰かなんて知ったこっちゃないわー!このっ、よくも私たちを心配させたわねっ!」

ミルフィ,「ひぎっ!? け、携帯電話の角は凶器だって!凶器だからさすがにっ、あっ、いたたたたっ!?」

女子学生,「あたしが変なこと言ったりしたから、傷ついたんじゃないかって心配で心配で、食事も喉を通りまくっちゃったんだから! 体重が3kgも増えたわよばかー!」

ミルフィ,「た、田村の体重なんて、あたしの知ったこっちゃなっ、あっ、あたたっいた、いたたっ、ストラップがぺちんぺちん当たってる!?」

言葉でこそ怒っているが、田村さんは泣き笑いの表情でぽこぽことミルフィを殴り続けている。

一番人が集まる登校時間に、校門のすぐ前でそんなことをやっていれば、どうやったって目立って仕方ない。

男子学生,「お、おい、ミルフィが来てるぞ!」

女子学生,「あ、本当だ! あ、あいつ、来るなら来るって連絡のひとつもよこしなさいってのよっ……!」

遠巻きに眺める一般学生の中から、ひとつふたつと頭が突き出した。それがどんな連中かと言えば、決まって俺が毎日教室で顔を合わせる奴ら。

ミルフィ達の姿を目にしたクラスメイトたちが、気付けばわらわらと集まって、田村さんに混ざってごちゃ混ぜになっていく。

男子学生,「ちくしょー! 何故昨日来ない!昨日なら、俺は大穴当てて、今頃学食長者なのにっ!」

女子学生,「くっそ、元気そうな顔して何もなかった風に……!ありえないでしょ、馬鹿ー!」

皆してミルフィのミニマムな頭をぐりぐりと乱暴にかいぐりまわしている。

ミルフィ,「のおおぉっ!? え、エリ!? あたしが暴漢に襲われてるのに何で助けないの!? アタルっ! この国のセキュリティは――って、いたっ、いたいってばっ!」

さすがに耐えきれずミルフィが悲鳴を上げたが、俺とエリスさんは一度だけ顔を見合わせるだけして動こうとはせず。

アタル,「……って言ってるけど、あれは暴漢じゃないよね?」

エリス,「そうですね。あれは小動物がじゃれあってる姿のようなもの……ああ、クラスメイトの中で戸惑う姫様、愛らしい……」

エリスさんは変なことで感動をしているけれど、まぁ、彼女の言うとおり。誰が見たって暴漢に襲われてるとは思わないだろう。

ひよこ,「わぁっ、本当にミルフィさん来てるよー!」

セーラ,「良かったですわ。元気そうで……」

アタル,「あ、ヒヨ、セーラさん」

少し遅れて登校してきた二人も、ミルフィがいじられている姿を見て、顔を綻ばせていた。

本当にミルフィが登校するつもりがあるのかわからなかったので、出るギリギリでメールを送っておいたのだけど、どうやらちゃんと見ていてくれたようだ。

ひよこ,「やったね、アタルくん!」

アタル,「ああ」

喜びに、ぴょんっと飛び跳ねたヒヨは、セーラさんと一緒に、遅れながらも人込みをかき分けて中心に辿りつき、ミルフィのことを抱きしめていた。

……その後、あまりに騒ぎが大きくなりすぎて、ついには教師が収拾をつけにやってくるまで、この混乱は続いたのだった。

女子学生,「でも本当、ミルフィが登校してきてよかったよー」

男子学生,「ほんとほんと」

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ミルフィ,「……ねぇ、そう思うのなら、なんでさっきは手加減をしなかったのよ」

女子学生,「……え?」

恨み事を呟くミルフィを見てみれば、下ろし立てみたいにクリーニングされていた制服が既にボロッボロという悲惨な状況。

最初こそ、皆手加減をしていたのだけど、次第にヒートアップした結果がご覧の通りと言うやつだ。

女子学生,「あ、あはは、それだけ皆、ミルフィのことを心配してたってことじゃないのー」

#textbox Kmi0170,name
ミルフィ,「む……むむぅ…………」

そう言われてしまえばミルフィも強くは言い返せない。口をへの字に曲げて、納得できない気持ちをどうにか抑え込んでいる模様。

セーラ,「ああ、もうっ、ミルフィさんかわいいです~♪」

ミルフィ,「にゃぁあぁぁ!? セ、セーラまで何をするかー!こ、この重たい脂肪のかたまりをどうにかしろー!」

背後からガバリと抱きつかれて、もがけどセーラさんの腕とおっぱいからは逃れられない。

……ちょっとだけうらやましいと思わないこともない。

そう思っているのは俺だけではなく、クラスの男も女も指を咥えて眺めている。

セーラ,「……本当に良かったって、思ってるんですよ♪」

ミルフィ,「……わ、悪かったと思ってるわよ。クアドラントにも、後で正式な謝罪文を届ける」

セーラ,「そんなのはいいですよ。今、ミルフィさんはちゃんと謝ってくれたんですから」

ミルフィ,「………………むうぅ」

ひよこ,「ねぇねぇ、ミルフィさん。ミルフィさんが学園に来たってことは、私達も王宮に戻っていいんだよね? また皆で一緒に暮らせるよね?」

ミルフィ,「ぴ、ぴよぴよたちがど~~~~しても、あたしと暮らしたいって言うなら、許してあげないこともないよ」

ひよこ,「うん! ど~~~~っしてもミルフィさんと一緒に暮らしたい!」

セーラ,「私もです私もです! ど~~~~してもっ、ミルフィさんと一緒がいいです!」

ミルフィ,「な、なら、戻ってくればいいんじゃないの? あたしだったらホテル暮らしの方が気楽でいいと思うけど!」

ひよこ,「わ~いっ!」

ミルフィ,「うわぁっ、ぴよぴよまでっ!? って、ぬぉあっ!?た、倒れるー!?」

がらがったーんとまぜこぜになりながら、机を巻き込んで3人揃って床に倒れ込む始末。

セーラ,「あ、あははははははは!」

ひよこ,「い、痛いけど、良かった~!」

ミルフィ,「ど、どけぇっ! ふたりとも、おーもーいーっ!」

……まぁ、ミルフィの奴はしばらく大変そうだけど、皆も許してくれたみたいだし、これまで俺たちをやきもきさせたバツってことで。

アタル,「結果オーライって言っても、いいんじゃないかな?」

俺は、女の子達が団子状態になりながら笑ってる姿を見て、ようやく元に……いや、前よりもっと良い関係になれたんだなと感じて、肩の荷が下りたように思えた。

…………

……

アタル,「やっと終わった……!」

授業が終わるや、教科書を片付けるのもそこそこに俺は席を立って廊下へと出た。

兎にも角にも今この瞬間、俺の最大の欲求は――放尿!

一目散にダッシュしたい気持ちを鍛え抜かれた精神力で抑えこみ、王様の威厳が失われないギリギリの速度でトイレへと向か――

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ミルフィ,「ア、アタル~!」

アタル,「――ん?!」

そんな俺を呼び止める不届き者がいようとは!

ええい、何の用だと声を荒らげたいのを我慢し、俺の尿意の危機具合を悟られないように、平然と振り返る。

アタル,「どうしたんだよ? 何か用か?」

ちょっと内股気味。

#textbox Kmi0120,name
ミルフィ,「あの……その、えっと…………ね?」

俺の後から教室を出てきたミルフィだったが、どうにもらしくない。もじもじと口ごもってしまって言葉にならない。

アタル,「……えっと、後じゃダメ?」

60分近い戦いに耐え続け、いい感じにピンチに陥っているBK氏は俺の下腹部辺りでキュンキュンになってしまっている。

できることならばトイレに駆け込みたい俺としては、これ以上ここでのタイムロスは一大事なのだ!

#textbox Kmi01A0,name
ミルフィ,「す、すぐ済む話だから! あ、アタル……その、さ……えっと…………あのね、あ……ありが――」

女子学生,「ミールフィーっ!」

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ミルフィ,「とああぁぁっ!? 田村!? な、何をする!?」

女子学生,「女の子同士連れションいくよー」

#textbox Kmi0170,name
ミルフィ,「ヴぁっ、ばかものっ!女なのだから、そのようなはしたない言葉は……!」

セーラ,「ミルフィさんも、連れション行きましょうよ~。ひよこさんも一緒ですよ~」

アタル,「ぶっふ!? セーラさんッ!?あなたは『連れション』とか口にしないでくださいっ!」

ひよこ,「わ、私はついて行くだけだよっ!ついていくだけだからね、アタルくんっ!」

アタル,「別に誰だってトイレには行くんだから、気にしないよ」

女子学生,「さー、行くよー」

ミルフィ,「あわわっ、ちょっ、待てっ……! あ、あたしはアタルに大事な話がぁぁぁぁぁぁ…………」

無残にもミルフィの声はそのままフェードアウト。

アタル,「なんだったんだ、一体……?」

……おわっ、ヤバ! 今、ブルッときた!

迫り来る波濤の恐怖に俺はいそいそとトイレに駆け込むのであった。

…………

……

午前中の授業で使いきったエネルギーを補充するための、学生にとって最重要ともいえる大事な時間がやってきた。

アタル,「さーってと、昼休みー。今日のご飯は何かな……えーっと、今日の弁当はアサリさんに――」

俺は弁当を受け取ろうと、アサリさんを探す。

#textbox Kmi01A0,name
ミルフィ,「アタル、食事の前にちょっと……」

と、またミルフィが声をかけてきた。

声をかけてくるだけなら別にいつものことなのだけれど、こうももやもやする声のかけられ方は初めてだ。

アタル,「ん、一緒にメシ食いながらじゃダメなの?」

#textbox Kmi0170,name
ミルフィ,「だ、ダメなの! だから、ちょっと一緒に来――」

女子学生,「ミルフィー!今日は私たちと一緒にご飯たべるよー!」

#textbox Kmi0150,name
ミルフィ,「のわっ、またお前らかーっ!!」

――ミルフィのちっちゃな手が俺の袖をつかもうとした時、雪崩のようにクラスの女子たちがやってきた。

女子学生,「国枝くんは家でもミルフィと一緒なんだから、お昼ぐらいは借りてもいいわよね?」

アタル,「あ、ああ、ミルフィがいいって言うなら……」

女子学生,「はい、言質とった! さ、ミルフィ行くわよー」

#textbox Kmi0130,name
ミルフィ,「あたしは許可してなーい!」

女子学生,「屋上でランチだー!」

クラスの女子たちは、全力でイヤがっているようにも見えたミルフィを無理矢理引っ張って、そのまま運んで行ってしまった。

女子パワー、恐るべし……。

アタル,「――って、俺の弁当は!?」

さっきの女子一団の中にヒヨもセーラさんに加え、エリスさんとアサリさんも混じってたよな?それなのに、俺の弁当置いていってくれてないよね!?
男子学生,「なんだ、置いてかれたのか?」

アタル,「……そうみたい。俺の、昼食…………食堂にでも行くか」

男子学生,「仕方ないなぁ、お前のおごりっていうなら、一緒に学食行ってやってもいいぜ?」

アタル,「なんで俺のおごり!?」

そんな理不尽な提案に叫び返した俺の前に、ババッと広げられる数冊のノート。

男子学生,「ここにミルフィが休んでいる間の講義ノート、クラスの皆からかき集めてまとめておいたもののコピーがあるんだが。当然、お前も使える物になっている」

アタル,「何故そんなものをお前が……!?」

男子学生,「ふふ、勉強に身が入っていなかった姿を、俺に隠し通せると思ってか」

……ぐ、それは欲しい! ミルフィがいない間、気もそぞろでノートをちゃんと取れてない日もあった。

その辺りがカバーできるというのなら……。

アタル,「……500円までなら」

男子学生,「馬鹿言うな。1000円」

アタル,「……700円」

男子学生,「はぁ、いらないのか……」

アタル,「わかったよ! 1000円までなら奢っちゃる!」

男子学生,「商談成立だな。よし、行こうか! 今日は久々にウルトラ定食で腹を膨らませるとするかな!」

アタル,「ウルトラ定食……!?1000円ぴったり使いきる……だと……!?」

役職こそ王様になったとはいえ、庶民感覚の抜けきれない俺にとって1000円は十二分に大金である。

俺は財布の中身を確認し、ちゃんと札が入っていることを確認すると、悠々と先を行くヤツの後を、肩を落としてついていくのだった。

…………

……

#textbox Ksi0110,name
柴田,「お待ちしておりました、アタル王。今日も予定が詰まっておりますので、急いで車にお乗りください」

アタル,「はいはい」

ひよこ,「あ、おーい、アタルくーん! 待って待ってー!」

アタル,「ん?」

ひよこ,「今日の夜だけど、お屋敷の皆でミルフィさんとの仲直りパーティしようと思うんだ。アタルくんは帰ってこれそうかな?」

アタル,「えーと……今日は確か、あ、無理だ。よね?」

ちらりと柴田さんを見れば、敏腕秘書さながらのパーフェクトな仕草で頷いた。

柴田,「はい、今日は帰りが遅くなりますね」

ひよこ,「そっかー。残念だねー。アタルくんの分は、お夜食くらいの軽い量にしておくからねー。それじゃ、セーラさんと相談してこないとー」

要件は終わったと校舎へとパタパタ走って戻っていくヒヨの背中を見送って、俺は柴田さんに促されるまま車に乗り込んだ。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「では、私たちも急ぎましょうか」

アタル,「だね。天王寺の見学までに、他の仕事が全部ちゃんと終わるといいけどなぁ」

…………

……

ミルフィ,「――ぬぁっ、アタルはもう行っちゃったの!?」

エリス,「一足違いだったようですね、姫様」

ミルフィ,「ぬ、ぬぅぅ……どーして今日はこう上手く捕まえられないのよ!」

エリス,「今日一日、ずっと姫様は人気者でしたから。仕方のないことです」

ミルフィ,「ふん、まーいいわ。屋敷に帰ればいくらでも時間はあるし」

エリス,「……果たしてそうでしょうか?」

ミルフィ,「ん? それってどういうこと?」

エリス,「……いえ、杞憂で済めば良いのですが」

…………

……

ひよこ,「だから、ミルフィさんはもっと私たちを信用してくれても良かったんじゃないかな!」

セーラ,「そうですよ、そうですよ。ミルフィさんが怖いというのもわかりますが、そんなことくらいで嫌いになったりしませんから!」

ミルフィ,「あうぅ……もう、その話、聞き飽きたわよ……」

セーラ,「いいえ、何度でも口を酸っぱく言わせてもらいます!大体ミルフィさんはですね、くどくどくど……!」

ひよこ,「くどくどくどくどくどくどくどくど!」

アタル,「……あー、やってるなぁ」

王宮に帰ってきてみると、ミルフィとの仲直りパーティ――が華やかに開催されてるはずが、実際にはヒヨとセーラさんによるお小言パーティとなっていた。

#textbox Ker0140,name
エリス,「やはり、こうなりましたか。姫様、おいたわしや……」

フルボッコにされているミルフィの姿を、エリスさんは哀しそうな瞳で見つめている。

ま、こうなることは誰だって予想がつくよなぁ。

予想がついていなかったのは説教している2人と、意外と素直に人を信じてしまうところがあるミルフィだけだろう。

アレに関わると大変そうだし……。いいや、俺はこっちで静かに料理を摘ませてもらうとしよう。

セーラ,「くどくどくどくどくどっ……!」

ひよこ,「くどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくど!」

そろそろミルフィも『くど』がゲシュタルト崩壊した頃だと思われるが。

ミルフィ,「ふええぇ、もう許してよぉ!」

こういう経験も大事だよな、合掌。

男子学生,「えー、第1回、クラス親睦缶蹴り大会を始めますっ!アーユーレディッ!?」

イエーッ! と、前庭に集まったクラスメイトが腕を振り上げた。

#textbox Ksi0150,name
柴田,「ははは、まさか王宮で鬼ごっことは。さすがアタル王、我々の想像を遥かに超えた発想をされる方!」

柴田さんはそう俺を賛美しつつも、目は明らかに虚ろとなっている。

いや、まさか俺だって王宮で、こんな缶蹴りなんぞやることになるとは思ってもいなかった。

ミルフィやクラスメイトの提案により半ば強制的に決まっていたレクリエーションなので、俺も止めようがなかったのだ。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「……これも絶好の機会と思うことにしましょう。警備態勢のチェックと思えば……」

彼は携帯電話を取り出すと、何やら指示を始めた。転んでもただでは起きないとは、さすが柴田さん。

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「それじゃ、レッツパーリィッ!」

イスリア筆頭・ミルフィの号令一発を合図に、鬼でない面々は一斉にわぁっと逃げ出した。

…………

……

男子学生,「おい、ミルフィがまた消えたぞ!」

女子学生,「どこ!? どこに行ったの!」

ミルフィの姿はまさに神出鬼没だった。あっちの建物の影に消えたかと思えば、突然庭の中央に現れる。

あまりの大活躍ぶりに鬼たちは翻弄され、まるでミルフィの掌の上で踊らされているかのようだ。

ミルフィ,「ふふ……フハハハハハハハハハ!あたしはこの王宮の隠し通路を網羅しているのよ!あんたらなんかに捕まるものですか!」

エリス,「自分のリサーチは完璧です」

鬼役のクラスメイトを翻弄するだけ翻弄して、ミルフィは高笑いをする。その横ではエリスさんが、得意げに微笑する。

アタル,「って、おいっ!? 隠し通路がイスリアの王女にバレてるって良いのかそれ!?」

一緒に逃げていた俺は、2人がここの隠し通路に精通している事実に驚きを隠せない。

大丈夫なのか、王宮のセキュリティは……。

エリス,「では、自分は引き続き、柴田さんの撹乱に向かいますので」

ミルフィ,「うむ、ご苦労」

敬礼を残してエリスさんは木陰の中へと、幻のように消えていってしまう。

アタル,「って、おおおおおいっ! これ以上王宮を不安にするようなことはやめてくれっ!」

ついこの間までセキュリティを気にしていた人間の行動とは思えないぞ、マジで!!

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「さて……ここなら邪魔は入らないわよね」

人気のない木陰の裏で、ミルフィは周囲を見て改めて誰も居ないことを確認すると、不安を隠せないでいるこっちを見た。

#textbox Kmi0240,name
ミルフィ,「え~、こ、こほん」

アタル,「ん、なんだよ?」

わざわざ咳払いをひとつされ、何をされるのかと余計に不安が煽られてドギマギしてしまう。

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「あ、あんたに、ひとこと言っておきたいことがあるのよ」

アタル,「ひとこと……?」

あー、そういえばこの間からそんなことを言っていたような気がするなぁ。なんだろう、何か怒られるようなことをしでかしてしまっただろうか?

ええと、ええと……。く、思い当たるような、思い当たらないような……。

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「い、いい? 一度しか言わないからね。ちゃんと耳の穴をかっぽじってよく聞きなさいよ? 聞き逃したらもう二度と言わないからね?」

アタル,「あ、ああ」

な、なんなんだろう、本当に……。

……はっ、あ、アレか? この間、マリカーで執拗に赤甲羅で狙ったことを根に持っているのか?!

#textbox Kmi02A0,name
ミルフィ,「そ、そのさ、アタル………………あ、ありが――」

女子学生,「いたわよー! こっちだー!」

#textbox Kmi0250,name
ミルフィ,「――って、ま、またかーっ!?」

ざざっと現れたのは鬼役がひとり。彼女が声をあげたことで、後から2人、3人と鬼が増えていく。

男子学生,「フフフ、ヤツらを押さえれば残るは烏合の衆だ!どんな手を使ってでもいい、ひっとらえーい!」

アタル,「やっべ、逃げるぞミルフィ!」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「きぃぃぃっ! もうっ、どいつもこいつも~~~っ!!」

…………

……

アタル,「はぁ、疲れた……」

まさかこの年になって、缶蹴りなんぞに本気を出すことになると思ってもいなかった。

結局どちらが勝ったのかも曖昧なまま、暗くなってきたのでお開きとなりはしたが……こりゃ、明日は筋肉痛カモ。

アタル,「……ま、ミルフィが皆との距離を縮められたって意味では、良かったのかもな」

このまま皆と仲良く居続けてくれればいいんだけど。

さて、風呂にも入ったし、寝るか――ん?リビングの方から話し声が……

セーラ,「ミルフィさん、今日も一緒にお休みしましょう♪」

ひよこ,「そうだよそうだよ、まだまだお話したりないんだからね」

ミルフィ,「え、ええい離せ二人ともっ! あ、あたしには、やんなきゃいけない重要なことが……!」

ひよこ,「どんなことです?」

ミルフィ,「そ、それは……」

セーラ,「じゃあ、いいですわよね。さ、お部屋に行きましょう!」

ミルフィ,「あっ、ああああぁぁ、腕を引っ張るなぁっ!かるがると抱え上げようとするなぁっ!胸をおしつけてくるなぁっ!」

……うむ、仲が良いようで大変宜しい。女の子同士はフレンドリーが一番だよ。

と、俺は見なかったことにして部屋に戻ることにした。

――あ、そういえばミルフィ、何か話があるって言ってたような気がするけれど……。

……ま、いいか。重要なことなら、どんな手を使ってでも言ってくるだろうし。

アタル,「ふああぁ、寝よ、寝よ……」

そんなこんなで数日が過ぎて。流石に皆飽きてきたのか、ミルフィを取り巻く喧騒も大分落ち着きを取り戻してきた。

ミルフィ,「ふぅ、やっぱり登校というものは、静かで優雅な方が姫らしいわよね!」

本日は学園の手前で車から降りて、みんなで徒歩通学。

『みんな』の中には俺たちだけでなく、田村さんをはじめとしたクラスメイトも含まれている。

セーラ,「その割には少し寂しそうですけれど?」

ミルフィ,「そ、そんなことないんだから! せーせーしてるのよ!」

ひよこ,「でも、最近はアタルくんが忙しくなっちゃったねぇ」

セーラ,「そうですね」

そう、俺の方はと言えば『何故か』忙しい。

女子学生,「あ、国枝くん。お願いしてたヤツ、やってきてくれた?」

アタル,「面倒くさいけどやっておいたよ。はい、これ」

女子学生,「サンキュー! 教室ついたら中身確認させてもらうわー」

ミルフィの一件で級友たちに面倒をかけてしまったせいで、何かしらの頼まれごとをするようになってしまったのだ。

別にミルフィの面倒は俺のせいでもないだろうに、全部の責任がこっちにふりかかってきている。理不尽な。

さらに、王様としての国務も何故か数を増してきて、プライベートの時間がどんどん削られてしまっていてもうヘトヘトだ。

とはいえ、頼まれて引き受けた以上は放り出すわけにもいかず。

女子学生,「おーい、アタルくーん。今度のクラス親睦会だけどー」

なんて考えていたら、また別の要件が飛んできたよ。

アタル,「あー、やっぱり屋敷を使うのは無理そうだわ。缶蹴りが後を引いてる」

女子学生,「そっかー。じゃあ、代わりの場所を探さないとなー。いつものカラオケでいいのかなー?」

………………。

ひよこ,「……アタルくん、本当に忙しそうだねぇ」

セーラ,「大丈夫でしょうか、お仕事のし過ぎで子種が減ってしまったら、お世継ぎが……」

ミルフィ,「何の心配してるのよ、あんたは……」

ミルフィ,「……にしても、本当にアイツの周りに人が集まってるわね」

セーラ,「一生懸命活動する殿方は素敵ですから。男性フェロモンがたっぷり振り撒かれているのですわ。うっとり……」

ミルフィ,「なっ……!? で、でも言われてみれば確かに、最近は周りに女の子がいることが多いような……」

ミルフィ,「……あ、あれ。もしかしてアタルって、モテてるの? フェロモン出しまくり!? モテ期到来中!?」

ひよこ,「そうなのかも。これまで、あんな風にモテモテだったことないよー」

ミルフィ,「く、くうぅっ! アタルのクセになまいきなぁっ!」

ミルフィ,(アタルはあたしの獲物なんだから……! 誰にも、誰にだって横取りなんてさせないわよっ! イスリア人として、絶対にそれだけはさせないもんっ!)

ミルフィ,(その為だったら……)

ミルフィ,「ころしてでも、うばいとってやる~!」

アタル,「う……!? な、なんだぁっ……!?」

い、今なんだか、大枚はたいてようやく買った剣を奪われるかのような、嫌な予感を覚えたんだが……。

き、気のせい……だよな?

…………

……

#textbox Kmi0110,name
ミルフィ,「ア、アタルッ!」

アタル,「あー、悪い。職員室に呼ばれてるんだ。また後でな!」

呼び止められても、次の授業までに職員室で用事を済ませねばならないため、立ち止まってはいられない。

#textbox Kmi0120,name
ミルフィ,「そ、それじゃ放課後! 放課後ならいいでしょ!?」

アタル,「えーと、今日の用は夜からだったはずだから……大丈夫だと思うぞ」

#textbox Kmi0170,name
ミルフィ,「約束だからね! 放課後、教室で待ってるから!」

アタル,「あ、ああ、わかった……」

頷きを返してから、俺は再び職員室へと急ぐ。もたもたしてたら次の授業に遅刻しちまう。

……にしても、ミルフィはなんであんな思いつめたような顔してたんだろうか。

何か変なことをしでかさなきゃいいけどな。

……………………

…………

アタル,「や、やっと終わった……」

公務のせいでズレが発生した授業の補講についての話から始まり、今後開かれるだろう式典やらなんやらの相談にまで。

正直、こんなのは柴田さんに任せたいところだが、柴田さんは柴田さんで忙しい人だし、やれる範囲は自分でやってしまいたい。

ま、相談って言ったって半分愚痴みたいなものだから、聞かなくたって良いんだろうけど、学生の立場からは無視し辛い。

……王様になっても、こういう染みついた上下関係ってのはなくならないもんだよなぁ。

アタル,「ええと、ミルフィとの約束の時間までは……」

腕時計を見て……うん、まだ間に合う。

と言っても、待たせるのは悪いから、俺は怒られない程度の競歩で教室へと戻っていった。

アタル,「あ、悪い。待たせちゃった……か?」

#textbox Kmi0170,name
ミルフィ,「………………」

教室に入ると、窓際にミルフィがいるだけで他に学生の姿は見当たらない。放課後の遅い時間だし、皆帰ってしまったのだろう。

が、そんなことよりも、ミルフィは妙に不機嫌な顔をしていた。むっす~とした顔で教室に入ってきた俺を見ている。

アタル,「……な、なんだ? やっぱり怒ってるのか?」

#textbox Kmi0120,name
ミルフィ,「は? 別に、怒ってないわよ」

しかしその瞳から感じられるのは肉食獣が持つ獰猛な気配。油断をすれば獲って食われてしまうような危機感に背筋が凍る。

いつもはイタズラ好きなわがまま小動物のミルフィなのに、今に限ってはまるで大型肉食獣のような……。

……はっ、まさかこれはイスリアの王家が放つというプレッシャーなのか!?

アタル,「そ、そうだよな。怒ってないよな?約束の時間より早く来たもんな、俺」

#textbox Kmi0140,name
ミルフィ,「……ま、これまで散々無下にされてきた恨みはあるけどね。全く、こっちが声をかけているのに忙しい忙しいってあっちこっち走りまわってくれてさ」

い、いいがかりだ! と、言い返したいところだが、ミルフィが怖くてどうにも返すことができない。下手に口答えすれば、殺されそうな雰囲気ですらある。
こ、ここは穏便に、穏便に済ますべきだ!

アタル,「え、ええと、その点は謝るとしても……それより、要件のが大事じゃないか?何だかんだと邪魔が入って、ずっと聞けてなかったし」

余計な問題を増やしたって面白くない結果になるだけだから、俺はミルフィに引きつった笑顔で提案する。

#textbox Kmi0120,name
ミルフィ,「は、要件?」

アタル,「……忘れてたな」

#textbox Kmi0150,name
ミルフィ,「そっ、そんなことないもんっ! そ、そうよ、話したいことがあったから呼びつけたのよ!」

アタル,「……はいはい、それで本題は?」

#textbox Kmi01A0,name
ミルフィ,「え、えっと……それは…………その…………」

アタル,「……?」

さっきの言いがかりをしてきた時のノリはどこへやら。急にうつむいたミルフィは、口ごもってしまう。

おかしなヤツだな。まぁ、普通ではないのは、いつものことか。

#textbox Kmi0120,name
ミルフィ,「だ、大事な話がね、その、あるんだから……ほら、わかるでしょ、こういう空気だと?」

アタル,「いや、よくわからない……」

#textbox Kmi0130,name
ミルフィ,「なっ、なんでわからないのよ……!」

アタル,「ひっ……!?」

ぞわりと鳥肌が立ってしまいそうな、怖い瞳で睨まれる。

わかれと言われても、ノーヒントでわかるはずもない。俺はテレパシーなんて使えない。

なら、ヒントをくれと言いたいが、そんなことを言える空気でもない。

#textbox Kmi0180,name
ミルフィ,「だ、だから……こういうところで……さ……その……」

ミルフィも何かを言おうとしているけれど、やっぱりしどろもどろで要領を得ない。

う、うう、この空気は気まずい。

部活終わりに誰か来てくれれば、その時点でこの空気は壊れるだろうから、そのまま逃げてしまいたいけれど、そう上手くもいかなそうだし……。

アタル,「……あ、あのさ。今日はファーストランダムの再放送の日だろ? だから、続きは帰ってからにしないか?」

とりあえず現状から脱出したくて、俺は話を切り替えてみた。同じ話をするにしても、こんな落ち着かない所にいるよりか、住み慣れた王宮の部屋の方がなんぼかマシだ。

#textbox Kmi0150,name
ミルフィ,「へ? あ、いやでも……っ」

アタル,「ほら、カバンを持ってやるからさ」

と、ミルフィの鞄に手を伸ばした時だった。

#textbox Kmi0120,name
ミルフィ,「っ……!」

ミルフィ,「ん………………」

アタル,「――――――――」

一瞬、何が起きたのかわからなかった。

唇に当たっている柔らかいような硬いような微妙な感触。肉まんのような、いやもっと柔らかい……いや、温かい?

じんわりと俺の唇を温めてくるその硬いような柔らかいようなものは、わずかにぶるぶると震えていて……

あれ、どうしてミルフィの顔が、こんな近くにあるん……だ………?

アタル,「……………………っ!?」

……って、あ、え、おぇ? あっ、ちょ、え……えええ!?

いや待て違うなんでこんなえ、あ、これって……違……わない、よな、ええと、唇と唇がこうぶつかってるってことは、その、アレ?

俺、ミルフィとキスしてる――!?

身を乗り出してきたミルフィは、俺の頬を両手で掴むと強引に自分の高さへと引き寄せて、精一杯つま先立ちになってセを伸ばしながら、俺にキスをしていた。

あまりに突然のことに、それに考えもしていなかったあまりにあまりの事態に頭の中はぐるぐるとしてしまって……。

#textbox Kmi0140a,name
ミルフィ,「……はぁ」

アタル,「な、ななな…………」

唇が離れた後も、どうしてキスをされたのかとか、離れちゃって残念だとか、何が起きたのか解らないだとか、色々な考えが混ざり合っていて、まともな反応を返せず……。

#textbox Kmi01A0a,name
ミルフィ,「……あたしが言いたいことくらい察してよ、ばか」

アタル,「い、いや、え、は……?」

#textbox Kmi0170a,name
ミルフィ,「こ、ここまでしたのに、まだわからないの!?」

そう言われても、ああ、いや、わからないこともない。キスをしたんだから、そりゃ、そういうことなんだろうけれど……え、でも、なんで?

アタル,「俺のことは別に、好きじゃないって……恋とか愛とかわからないって……」

観覧車の中で、初めて――果たしてキスと呼んでいいのかわからない接触をした時に、ミルフィはそう言ったはずだ。

#textbox Kmi0120a,name
ミルフィ,「好きになっちゃってたのよ、バカ!」

アタル,「……は?」

#textbox Kmi0130a,name
ミルフィ,「ほ、本当に意外そうな顔をするな、バカー!」

アタル,「らまっ!?」

腹部にぽこんと当たったパンチで、若干理性を取り戻す。

アタル,「で、でもさ。俺の婚約者になるってのだって、ポーシャを作って欲しいからって……」

そう、ミルフィはポーシャ――軍事用人型二足歩行ロボが、ニッポンの技術力ならば作れるハズだって思い込んでいたから、俺と結婚するって言っていた。

別に俺のことなんて好きじゃないって言っていたのに……いきなりそんな、俺のこと好きになったって言われたって、驚くのは当たり前だろう。

#textbox Kmi0170a,name
ミルフィ,「そ、そりゃ最初はポーシャを開発する技術以外に興味なんてなかったわよっ。あんたみたいな黄色い猿のことなんか、誰が好きになるもんですかっ!」

アタル,「それは……ひどいな……」

#textbox Kmi0180a,name
ミルフィ,「で、でも……今は、違うんだもんっ!」

#textbox Kmi0140a,name
ミルフィ,「あたしのために、一生懸命にいろいろと動いてくれて……他にもいっぱい考えて……それに、あんな危ないことまでしてくれたから……だから……」

#textbox Kmi0170a,name
ミルフィ,「あっ、あんな風に、あたしのことを安心させてくれたのは、アタルが初めてなんだからっ! その責任をちゃんととりなさいってことよ!」

アタル,「うぇ、え、ええぇ……?」

責任をとれって、な、なんでそんなに飛躍するんだよ?

第一、俺は、ミルフィのことを妹のようなもの……添い寝をしても手を出そうとも思えない関係だったのに、急にそんな告白されても。

しかもミルフィはこれまで、そういった婚約者って話は表面だけで、ロボ以外では関係なさそうだったから全然ノーマークだった……え、どっきり?

現実味のない急転直下の展開に、俺の頭は全然回転がおっつかず。

心臓がバクバクと血液を流しこんではくれているものの、頭の中はパニックを起こすばかりで冷静さを取り戻すことができない。

そんな風に泡を食ってばかりの俺のことを、ミルフィはこわごわといった瞳で見上げてきた。

#textbox Kmi0180a,name
ミルフィ,「それともアタルは、あたしのこと……女の子として見れないかな?」

アタル,「え、そ、それは……そんなことはない……けど……」

#textbox Kmi01A0a,name
ミルフィ,「じゃあ、あたしのことは好き?」

アタル,「そ、そりゃ、好きか嫌いかって言われれば、好きだよ」

#textbox Kmi0120a,name
ミルフィ,「ホントーに……?」

アタル,「………………」

ただそれが恋愛感情なのか、それとも別の種類の愛なのかとなると、家族的な愛が圧倒的に比率は高いと思う。

だから俺は、それ以上は何も言えないまま、押し黙ってしまっていたのであって。

ミルフィが何をしようとしていたのか、何をしでかすのか、考える余裕なんて何もなかったから、だから次に起きたことに冷静に対処なんてできるはずもなかった。

#textbox Kmi0110a,name
ミルフィ,「……なら、さ。あたしが女の子だってわからせてあげる」

アタル,「は……? ちょ……」

キスの時と同じように、いきなり俺の手は掴まれて、ぐいっと引っ張られた。

#textbox Kmi0140a,name
ミルフィ,「……………………ン」

引っ張られたその先は、普段見慣れているけれど、ほとんど触ったことがない制服の布地の感触と……

……ほんのり柔らかな、女の子の感しょ……く?

ミルフィ,「そ、そりゃ服の上から見たらぺたんこかもしれない、だけど、ちょっとは膨らんでるんだからっ……」

そう言われても、そこにはあるかないか本当に判断が難しい程度の膨らみ。手のひらに柔らかさを感じるような感じないような……。

アタル,「……どこに?」

ミルフィ,「失礼にもほどがあるわーっ!」

アタル,「きにちっ!?」

下から飛んできた頭突きに、俺の顎がガッツリ打ち上げられる。舌こそ噛まなかったものの、ぐわんげぐわんげと脳が揺れた。

ミルフィ,「い、いつつつ……」

アタル,「い、いひゃいと思うならやるなよ……ハゲるぞ……」

抗議すると、ミルフィは俺を見上げる涙目をキッと鋭く三角形にして『がおーっ!』と咆えた。

ミルフィ,「あっ、あるもんっ! ほら、ちゃんと触ってよ! あとハゲないよっ! 私の家系は死ぬまでふさふさよっ!」

アタル,「うあ、押しつけるなぁっ!?」

彼女の手が俺にしっかり触れと力をかけてくる。さらにはない胸を張られ、俺は言われるがままにさわさわと指を動かしてしまったもの、の………………うーん?

この柔らかさは果たしておっぱいなのか、ブラジャーなのだろうか? ワイヤーらしきものが内側にはなんとなく感じられる気もすれど、胸を揉んでいる感じがしない。

ミルフィ,「ど、どう、わかるでしょ?」

アタル,「え? あ、あぁー…………うん、なんとなく、わかる……ような気がする…………カナ?」

ミルフィ,「女の子にここまでさせてその言いぐさかーッ!」

アタル,「ぁしょかっ!?」

再び衝突してきた弾丸頭突きを、俺はまたしても避けきれず。

ミルフィ,「ひぅぅ、いたぃ……」

アタル,「い、いでぇ……だからやるなって!マジでハゲる――」

ミルフィ,「――あ、あるもんっ! ちゃんと去年より……ちょっとだけだけど、成長してるんだからねっ!」

そう言われても、わからないものはわからないんだって!だいたい、俺は去年のミルフィの乳なんて知らないんだ。

言葉にしたらまたきっと頭頂部が飛んでくるから、心の中でだけ猛抗議。

ミルフィ,「このまま行けば10年後にはカップも上がるもんっ!」

……いや、ごめん、そりゃさすがにわからないわ。

しかし、10年経ってようやくその成長率か……。さすがの俺も同情を禁じ得ない。貧乳はステータスだ! とか、冗談でも言えないよ……。
思わずもホロリときてしまいそうだった……けど、なんか、こう……ぁ……あ、あれ?

ミルフィってこんなに……女の子っぽかったっけ……?

腕の中にすっぽり入った小さな体からは心地よい体温が感じられて、ふんわりとした柔らかなブロンドヘアーからは芳しい香りが漂ってくる。

シャンプーの香料だけではない、女の子だけが持つ甘ったるくて、だけど全然イヤな感じのしない匂い。

知らずの内に俺は自分の顔をミルフィの頭に近つけて、鼻を髪の毛に触れさせようと近つけていて……。

ミルフィ,「ん……アタル…………」

アタル,「あっ……」

その声にハッとなる。自分がやろうとしていたことがどんな奇行かに思い至り、慌てて体を離そうとした――

ミルフィ,「ダメ……逃がさないんだから」

――ものの、ミルフィは手を掴んで離してくれなかった。

アタル,「逃がさないって、ミ、ミルフィ……冗談にもほどがあるぞ。誰か来たらどうするんだよ……」

教室でこんなことをやっているなんて。しかも国王である俺と、イスリアのお姫様であるミルフィが、だ。

それがもし誰かにバレてしまったりしたら……いや、そもそもいつもならばエリスさんがすぐにでも出てきてくれそうなものなのに、何で今日に限って出てこないんだ?!

ミルフィ,「ちゃんとエリに人払いをするよう頼んであるから、大丈夫。誰も教室には入ってこれないよ」

ミルフィ,「もちろんエリにも、あたしがいいって言うまで近づくなって言ってあるし、ふたりきり……だよ」

アタル,「用意周到だ!?」

しかしこれは言うまでもないことだが、褒め言葉なんかじゃない。

おい、これって、まんまと俺はミルフィにハメられたってことじゃないか? 既成事実を作って一気に勝負に出てきたってことか!?

今更ながらにミルフィの企みに気づけた気がする。いやでもそうすると、ミルフィは俺と結婚するってこと?

あれ、そういえばさっきミルフィは俺のことを好きって言ってたから、別に不思議でもなんでもないってこと……?

え、けど、ミルフィは俺にとって妹みたいなもんだし……、……俺は……ミルフィを、俺は……どんな風に……。

ミルフィ,「迷ってる? それとも、困ってるの?」

アタル,「だって、こんな、急にさ……。俺、全然考えてなかったから……」

ミルフィ,「だと思った。いろんな女の子、誰かれ構わずいい顔しちゃって。タラシみたいなことしてるんだもん」

アタル,「タ、タラシってのはひどい言い草だな!そんな気持ちこれっぽっちもないのに!!」

ミルフィ,「当人になくっても、勘違いする子は出てくるの!」

ミルフィ,「第一アタルは王様なんだから、妾のひとりやふたり、簡単に作れるでしょ! 愛人の立場を狙う子だって……!」

アタル,「重ねて酷い言い草! 俺がそんなヤツに見えるのか!?」

ミルフィ,「だからあたしは考えたのよ! ぽっと出の誰かに横から奪われるくらいなら、力づくであたしのモノにしちゃえと!」

アタル,「力づくって……」

ミルフィ,「もちろん、あたしの魅力でよ!」

アタル,「……………………」

ミルフィ,「……今、また失礼なコト考えてるでしょ」

アタル,「そ、そんなことはナイゾ?」

ミルフィ,「目、泳ぎまくってるんだけど」

そう指摘された俺は反射的に顔を背けてしまう。

ミルフィ,「ごまかした」

アタル,「…………あ」

ミルフィ,「まぁ、それはいーけどね」

ミルフィ,「……言っとくけど、こんな恥ずかしいこと、冗談でやってるんじゃないんだから」

あ、一応ミルフィも恥ずかしかったのか。

ミルフィ,「さ、触ってるんだからわかるでしょ! あたしの心臓、さっきからどっくんどっくんって破裂しそうなの!」

……言われてみれば。

改めて手のひらに意識を向けてみれば、確かに感じるのは、小さいけれど力強い、大きな大きな早鐘の響き。

って、そうか、俺、今、ミルフィの……女の子の胸に触ってるんだ……。

突然の出来事が連続しているからって、そんなことすら意識の外にあったなんて本当にどうかしている。

アタル,「あ、う…………」

そう思うと、急に恥ずかしくなってきた。血がぐぐぐっと首から耳の先っぽ、頭のてっぺんにまで上って来て、頬っぺたがはしかにかかった時のように熱くなっていく。

なら手を離せと思うんだけど、それはさっきからミルフィが許してはくれないままだった。

ミルフィ,「アタルも、ドキドキしてる……でしょ?」

アタル,「あ、ああ」

戸惑いながらそう頷くと、ミルフィは嬉しそうに鼻を鳴らす。

ミルフィ,「ようやくあたしが女の子だってわかった?」

アタル,「わかった、わかったから……その、手、放させて……」

ミルフィ,「それはダメ」

なんで……。と、問い返すよりも前に、ミルフィはイタズラっぽく、まるで年上の女性のように微笑んだ。

ミルフィ,「言ったでしょ、あたしの魅力でメロメロにして、アタルをモノにしちゃうって♪」

そう言うやミルフィは制服の前を手早くはだけさせて、俺の手を中へと引き込んだ。

アタル,「う、うわ……っ」

ミルフィ,「ん……ふぅ…………」

手のひらに直接伝わってくるミルフィの熱はむんっとしていた。でも、子供のようにキメの細やかな肌にはイヤな感じなんて少しもしない。

離さないと、と、頭では思うのだけれど、体は全然言うことを聞いてくれなかった。

なんで手を離さないといけないんだ?ずっと触っていたい、もっと触っていたい。

本能が俺の手のひらを支配したかのように、俺は触れている全ての面からミルフィの素肌のぬくもりを感じ取っていた。

ミルフィ,「ど、どう? さっきよりもはっきりとわかるでしょ?あたしにだっておっぱいがあるってことが」

俺が大きく鳴らした喉の音を耳にしたミルフィが、勝ち誇った視線を送ってくる。

アタル,「悪い、それはわからない。けど……」

ミルフィ,「二度ならず三度までーっ!」

アタル,「かぶすっ!?」

こんな状況であると言うのに、三度ミルフィは躊躇なく頭突きアッパーを撃ちこんでくる。

ミルフィ,「う、うぅっく、いたぃって言ってるのに……」

アタル,「そ、そう思うならやるなよ……それに俺は『けど』って、話を続けようとしてたんだぞ……?」

ミルフィ,「ど、どうせヒドイこと言うつもりだったんでしょっ!言われる前にこっちからっ――」

アタル,「まぁ待て、落ち着け」

俺はやられる前に顎をミルフィの頭の上に乗っけてしまい、間の空間を埋めてしまう。

ミルフィ,「ぐ、ぐぬぬぬぅ~っ! 頭にアゴをのっけるなぁ~っ!上から押しつけるなぁ~っ! 背が縮むでしょーがー!」

アタル,「そうしないとまた攻撃してくるだろ……」

どうにかしようと顎の下で無駄な抵抗をしてくるが、上からのポジションの方が有利なのは世界の常識。

高低差がついていれば力は上がるもの。ニュートン先生が教えてくれた。

アタル,「いいから聞けって。胸は……その、発展途上中だからガンバレとしか言えないけど」

ミルフィ,「やっぱり侮辱して~! 不敬罪で死刑死刑死刑~っ!」

アタル,「……けど、なんか、すごく女の子なんだなって思う」

ミルフィ,「女の子なんて言われて喜ぶとーっ! ……え、女の子?」

アタル,「女の子っぽいと、思うよ……って、バカミルフィ。照れるから二度も言わせるなよ」

ミルフィ,「あ、あ……そ、そっか……う、うむ! ようやくアタルもあたしの魅力に気づけたのね! おっ、遅すぎるけど、ほめてあげるわっ!」

強気に女王様っぽく言ってはいるものの、その表情はどことなく嬉しげに緩んでて。

ミルフィ,「なら、もっと……特別、あんただけの特別だから……あたしのもっと女の子らしいところも触らせてあげる……」

俺の手首をぐっと掴むや、ぐいっと下のほうへと引っ張っていく。

アタル,「え? ……あ」

肌の温もりへと意識がいっていた俺は、されるがままに連れていかれて、その手は下に下に、ついにはスカートの中に引き込まれていって……。

ミルフィ,「ぅ、ん……んん…………っ……」

アタル,「う、あ、あ……あ…………」

お、俺、さ、触っちゃってる……?

自問自答して、どれだけ否定の返答を導き出そうとしたって、答えはイエス以外にあり得ない。

指先に触れている布地は紛れもなくミルフィの下着で、それが隠しているのはミルフィの一番大事なところ……なんだよ、な……?

夢のような、現実なのだけれど、現実味なんて全然なくて、機会があったら触ってみたいと思うことは幾らでもある。健康な青少年だからしかたないだろ?

だけどそんなのは妄想の中にしかなかった出来事のハズ……だったのに、今、俺が確かに触っているのは、女の子のスリットがある部分だった。

ミルフィ,「ふぁ、あ……ど、どう? あたしのココに触れて、光栄の極みってヤツでしょ?」

アタル,「うぇ……あ、う…………」

そう言われても俺はどう反応すれば良いのかわからない。

え、ここを触っていいの? ここって、その、あれだろ、セックスする時に使うヤツだから……え、ええっ!?

ミルフィ,「……いいよ、アタルの好きに触って」

アタル,「さ、触っていいって……え、いいの?」

なんて、本能に直結した言葉を口にしてしまってから、俺は一体何を言っているんだと大後悔。

ミルフィ,「ダメなら、最初から触らせたりしないわよ」

当然、そんな返事が戻ってくる。

アタル,「あ、いや、今のは嘘で……」

ミルフィ,「それが嘘でしょ?」

アタル,「へ?」

ミルフィ,「だって、アタル……もっと触りたいって体で言ってる」

は? それはどういうことなんだ?

ミルフィがどこの何のことを言っているのか理解できなかったが。

ミルフィ,「ほら、こんなに硬くなってるじゃないの」

アタル,「えっ、あっ……えええっ!?」

全くもってこれも無自覚だった。予想外にもほどがある。

まさか、俺のイチモツがこんなにもご成長なさっているとは!? ……本当に、まさかすぎる。

アタル,「あ、う、い、いや、これは……」

ミルフィ,「イイワケなんて必要ないよ。だって、これがアタルがあたしに女の子を感じてくれてるって証拠なんだから」

そう言われても、俺としてはそんな風に割り切れない。

男としてこんな風に翻弄されていることが。興奮するつもりもないのに勃起してしまっていることが。しかも、その相手がミルフィだということが。
ミルフィ,「まーた、ムズかしい顔してる」

アタル,「いや、だって……」

ミルフィ,「ムズかしいことは考えなくていーのっ!」

アタル,「ふぁんっ!?」

油断していてまたしても頭突きを食らってしまう。

ミルフィ,「あたしは、アタルに触ってもらいたい。アタルも触りたいって考えてる。それじゃダメなの?」

言いながら、ミルフィ自分の手を俺の手の上にかぶせて、肌の感触をより感じられるようにと力を入れてきて。背中は背中で俺の下腹部を押してくる。

腰についた柔らかな肉と肉の間にあるラインが肉棒に丁度良くフィットして、太腿にはちっちゃなお尻がむにむにと押しつけられて。

ダメなのって、そんなの当たり前……アレ、いいのか?

ミルフィ,「あたしはアタルが好き。大好き。だからこんな風に誘惑してでも、アタルの全部が欲しいの……!」

ミルフィ,「だから、あ、アタルにも……あたしのこと、全部、あげるからっ……だから…………触りなさいよ、バカーっ!」

校則や常識、倫理といったムズかしいものが頭の中でグルグル回る。

女の子の柔らかな触り心地に、脳の奥をムズムズとさせる甘い香り。

いきり立ったペニスに至ってはもっと刺激が欲しいと勝手に騒いで、ええい黙れ、俺に冷静に考えさせろ。

なんて言ったって口だけで。

俺はついには我慢ができず、シちゃダメだって思っているのに、ミルフィのちっちゃな体を求めずにはいられなかった。

アタル,「ミ、ミルフィっ!」

ミルフィ,「ふぁっ、あっ……ン……っ!」

う、うああああああぁ……!?やっ、やわらかい……ッ!

さっきまでだってずっと触っていた、触っていたけれど、こうして意識して、自覚して、触りたくて触っていると、触り心地が段違い。

触っているだけなのに、触っているのは俺の方だっていうのに、むしろ俺の全身が気持ち良くって。今度は俺の方から全身その全てでミルフィを求めてしまう。

ミルフィ,「ぁ……んっ、あ……い、いたっ…………ぁ……」

アタル,「あっ、ご、ごめん……」

平均女子学生に比べたら、圧倒的にちっちゃなミルフィ。少し力を入れれば、壊れてしまいそうなほどに華奢な体だってことを、うっかり忘れてしまっていた。

脆いガラス細工のようで、今更ながら触れることに躊躇われてしまう。

ミルフィ,「う、ううん……だいじょーぶ。い、いいんだからね、もっと強く触っても……」

アタル,「けど……」

ミルフィ,「もう、いいって言ってるのに、何ちゅーちょしてるのよ! このヘタレっ!」

アタル,「へ、ヘタレって、ヒドいなぁっ!」

ミルフィ,「さっきまで、あんなに遠慮なくわきわき触ってたっていうのにっ! ちょっと痛がられたくらいで怖がっちゃって、ヘタレ以外の何モノでもないじゃないのっ!」

アタル,「さ、さっきまでのアレは…………触ってたけどさ……」

そこまで言われると、ちょいとへこむ。

ミルフィ,「あ……う、ううん、ごめん。ちょっと言い過ぎた」

ずーんと俺が押し黙ると、ミルフィは慌てて取り繕おうとしてきた。

ミルフィ,「気づかってくれるのは嬉しい……ケド。アタルに触ってもらって、あたしも嬉しいから……ほら、わかるでしょ?」

ちっちゃな手に、俺の指は股間の真ん中に、柔らかな部分の丁度真ん中へと連れて行かれ……、

アタル,「……あ」

ミルフィ,「……アタルに触られて、あたしのカラダ、オンナにされちゃってるところなんだからぁ……だから、最後まで責任とりなさいよっ!」

恥ずかしそうに、でも最後は脅迫するように、半ばやけっぱちに、そう言われて。頭のヒューズは飛びかけて。

アタル,「……健康優良児をバカにするなよ。あとでやめてって言っても、止めらんないからな」

ミルフィ,「も、もちろん、乱暴にしたりしたら、あたしは大激怒なんだか――ひゃん!」

俺は湿り気を帯びた下着ごと、ワレメに中指をめり込ませる。

ぐちゅるっ。と、はっきりと染み出してくる熱い水気。下着を通り越して指まではっきりと濡らしてくる。

ミルフィ,「ふぁ、あっあふぁ……ん~、ああぁ……」

体温が熱い、ってだけじゃない。スカートの内側でまとわりついてくるその不思議な熱気に、手の先全体が性感帯になったかのような気にさえなる。

何度も何度も指を奥にめり込ませては引きだして、繰り返し繰り返し下着ごと割れ目の中を擦っていく。

AVで見たことはあるけれど、実践したことなんて一度もないのに、指は元からその動きを知っているかのように、自然に動いてリピートして。

ミルフィ,「ふぁっ、あ、アタルぅ……指ぃ、こすってるょぉ……」

動かすたびにミルフィは、これまで聞かせたことがないような甘い響きの声を漏らす。

その声に無性にミルフィが可愛く思えて仕方なくなった俺は、強く抱きしめるように、平らな胸にあった手を引き寄せた。

ミルフィ,「ふぁう……っ」

可愛らしいブラジャーを押しのけて素肌にクリームでも塗り込むように手のひらを動かした。

本当に胸の山なんてこれっぽっちも感じられるほどのものではなかったというのに。

薄く浮いたあばらから上に撫で上げていく時の触り心地は、妙にミルフィが女の子なんだと、強く意識させらて。肋骨の間には本当に谷間があるような錯覚を覚えて。

ミルフィ,「う……あ、はぁ……あっ、あ、ン…………ぅっ」

そのなめらかな肌の上でツンと立って自己主張する乳首に、これは確かに少女のおっぱいなんだと自覚する。

ミルフィ,「ふぁ、あ、うぅ、やぁ……ソコ、ツンツンするなぁ……」

アタル,「俺に触られて嬉しいんだろ?」

ミルフィ,「う、うれしいけど……ッ、ん、だめぇ……ぞくぞくって、ふぅ……ン、ぁふ……し、しちゃうからぁ……ぁ……」

そんな快感に耐えるような声を出されて嫌がられても、全然説得力なんて感じられない。

俺は遠慮なく乳首を指でつまんで、クニクニと動かす。

ミルフィ,「あふぁっ……んぁ、は……あ、あぁ……ああ、あ、あ」

ついには快感に耐えきれず、ぶるっぶるっとミルフィの肩が震える。

アタル,「ミルフィの声、かわいい」

ミルフィ,「ば、ばかぁ……そんなこと言うなぁ……」

照れるミルフィはたまらなく、いとおしかった。

もっと、もっと可愛らしく震えるミルフィが見たくて、俺は軽いイタズラ心で、爪の先を使って軽くさくらんぼを引っ掻いてみた。

ミルフィ,「――ひやぅンッ!」

下から上へと、ちっちゃな体が大きく跳ねて。残響を残すように腕の中で震える。

ミルフィ,「あ、ああぁ……ば、ばか……つよすぎるのよぅ……でも……あ、す……ごく、へんなかんじ……」

涙目でミルフィは訴えてきたが、その瞳の奥には俺を攻めきれない潤みがあって。もう片方の手が触っていた指には生温かいぬるっとした大量の液が絡みついてきて。

アタル,「でも、気持ちいいんだよね?」

ミルフィ,「きくな、ばかぁ……」

抵抗を見せないまま、ミルフィは俺の方へとすりすりと体を擦りつけてくる。

その時、つんと向けてきたその唇は、まるで俺を待っているようで。

ミルフィ,「ん…………んぅ……」

俺が近づいてもミルフィは逃げずに、そのまま柔らかな唇へと俺は重ねていく。

ミルフィ,「ふぁ、あ……んちゅ、ぅ、はふぁ……ん、んん……」

1度目は事故、2度目は不意打ち。

今まではっきりとは感じられなかったミルフィの唇の感触が、3度目にしてしっかりと感じ取ることができた。

女の子の唇って、こんなに柔らかいのか……。熱くて、ふわふわで……。

ミルフィ,「んぅ、アタルぅ、もっとぉ……」

突き出してきた唇に吸いついて、押しつけて。軽く開くと、上から覆いかぶさるようにまた押しつけて。

ミルフィ,「ん……ん、ちゅ……ん、んぅ、ふぁ……んんんぅ……」

けれどもそれをミルフィは嫌がることなく。もう俺の手を押さえておかなくてもいいだろうと、空いた手で俺の頬を、耳を撫で、髪の毛の中に指を差し入れてきた。

くすぐったい。けれど、その優しすぎるマッサージのような愛撫は気持ち良くて。頭がぼうっと浮かれてしまう。

ミルフィ,「んんむぁ、ちゅ、ふぁあむぅ、ン……ちゃ、はん……!」

開かれた唇の合間に舌をめり込ませ、半ば強引に押し進める。

さすがのミルフィも一瞬ドキリと躊躇を見せて唇を閉じてみせたが、根気良く唇の裏ッかわを舌先でマッサージすると、次第に柔らかくなり俺が奥に入るのを許してくれた。

ミルフィ,「んちゅ、ちゅぷ…ぁ、は…ぷ、うぁ……ん、はぁむ……」

むしろ一度入り込んでしまえば、ミルフィの舌が俺を迎え入れてくれて、それどころか奥まで誘おうとするかのようにうごめいていた。

アタル,「ん、ぅ……あぁ…………」

まるで脳がとろけてしまうかのよう……。

キスがこんなに気持ちがいいものだったなんて思ってもいなかった。キスに皆が憧れるのも、今ならわかる。

触れているだけでも、深く吸い合っていても、互いの舌を絡めさせていても。

その何もかもに気持ち悪いことなんて何ひとつなくて。幸せな温かさが体の内側からこみ上げ来るようだった。

ミルフィ,「んぅ、っ……ふぁ、あ、アタル……アタルぅ……」

ミルフィが俺を求めてくれている。

むずかしいことなんて何一つ考えられないまま、俺は本能のままに少女の幼さを存分に残した体を抱きしめていた。

触れられる全てに触れ、ミルフィがより反応を返してくれるところに固執する。

ミルフィ,「ぅあっ、あ……っ、ン、は……ぁっ、あ、あっあ……」

切なげな音がミルフィの喉から漏れ出る。

パンツは既にぐちょぐちょに濡れきっていて、熱い内股がぶるるっと震えている。

ミルフィ,「はああぁっ、あ、あっ、あぁっ……はっ、あッ……!」

ミルフィ,「や、やだぁ……いや、へん……変なの……っ! ――ン、はっ…………あっ、あ、ふぁっ……ぅん、ッあ……!」

危なっかしく膝が笑っていた。崩れ落ちてしまいそうな小柄なボディを支えながら、クロッチにぐいぐいと強く指を押しこんで、下着の布地ごと肉壁を撫でていく。

切羽詰まった声に導かれていくように、俺は指での愛撫を止められず、少女のデリケートな部分を激しく豪快に嬲りつけた。

ミルフィ,「あ~っ、あ……あっ、アタルッ……あ、あたし……やっ、ふぁ、あ、あぁ、っんぁ、もう、も……ッ、あぁっ!」

ミルフィ,「だ……だめ、やぅっ……ぅ、はっ、あっはっ……はぁっ……あっ、ふぁ……んんぁ、ヘンになっちゃ、あっン……!」

高まりゆく初めて覚える感情に逆らうことなどできず、ミルフィはそのまま昂ぶってゆき、そして――

ミルフィ,「んんぁっ……あ、あ~~~~――――」

ミルフィ,「んん~~~っ、ぁっ、あぁぁあぁぁんんぅんんっっ!!」

前に抱え込むように身を縮めるたミルフィの全身が、著しい痙攣を見せた。

膝からはガクンと力が抜けて、俺の腕に全てを預けてくる。

ミルフィ,「ん、ふぅ……あ、はぁ……ぁ……」

アタル,「……だ、だいじょうぶか?」

生で直面した、その光景はあまりに壮絶で。俺はつい安否を確認してしまう。

するとミルフィは泣き出してしまいそうな表情のまま、こくんと小さく頷いた。

ミルフィ,「だ、だいじょーぶ……よゆうよ、よゆー……」

アタル,「うそつけ……」

どう見たって余裕とは思えない。

顔は真っ赤に紅潮してしまい、息は途切れ途切れの小刻みで、上下する肩は全力疾走をした後のよう。

そんな姿を見て余裕なんて言葉が信じられるわけあるか。

ただ、だからってどうすれば良いのか俺にはわからず。

とりあえず優しく彼女の小さな体を抱き支えていると、ミルフィはすがるように俺の腕を抱きしめてきた。

そして、ちらっとこちらを見て。

ミルフィ,「アタルの手で、初めて女のヨロコビってのを、教えられちゃった……♪」

なんて、ドキリとする言葉を言うミルフィは、年齢よりもよっぽど大人びて見えて――

ミルフィ,「失礼な! 心身ともに、あたしは立派なオトナの女性なんだからねっ!」

アタル,「じぐみっ!?」

く、くぅぅ……。……心の中を読むな。

ミルフィ,「……ねぇ、アタル? あたしのこと、さ。まだ……妹に思える?」

こんな……女っぽい表情をされてしまっては、今更妹なんて見えるはずもない。

アタル,「……思えないよ」

ミルフィ,「ふふ、そうだよね。でないと……」

アタル,「ふぉっ……おぅぁ…………?!」

ミルフィ,「……ここ、こんなにおっきくならないもんね♪」

ミルフィのちっちゃな手に、学生服のズボンの上から、ぎゅむっと俺のモノが握られている。

そりゃもうズボンの中で立派に育ったものは、布地をピンと張り詰めさせてしまって。まさにテントと呼ぶに相応しいほどだから、がっしり握られちゃって。

ミルフィ,「こ、こんなに硬いんだね。ほ、骨が入ってるみたい……」

アタル,「うっ……あ、や、やめろミルフィ……」

ただ触られているだけなのに、どうしてこんなにムズムズするんだ……!?

ミルフィ,「ズボンがあるのに、熱いの……伝わってくる……」

ぽうっとした顔のまま、ミルフィは柔らかな手のひらで、すりすりと股間を撫で上げてくる。

ミルフィ,「ぁ……ん……なんか変な気分になってきちゃうよ……」

アタル,「え……ッ、あ、ちょ、まっ……!?」

ミルフィ,「やだぁ、待てないもん……」

あたふたとしてばかりの俺がまともに制止できない内に、ミルフィはするりと腕の中から抜けだす。

ミルフィ,「あたし今、すっごくコーフンしちゃってる……」

前に屈み込んできたミルフィはおもむろにズボンをベルトを外し始めた。

不器用だからすんなりとはいかなかったけれど、悪戦苦闘するその姿は妙にかわいらしくて、俺はぼうっとその姿を眺めてしまっていた。

……って、あっ!?

はっと気がついた時には、もう遅かった。

ミルフィ,「ふわあぁ……あぁ…………」

ビュンッという擬音が聞こえてきそうなほど、勢い良く飛び出てきた俺の男性器を前に、ミルフィは目を丸くして言葉をなくしていた。

アタル,「ぁ…………っ、…………」

吐息がふわっとペニス全体をなでつけてきた。それだけなのにぞわっとした感覚が首筋に走り、腹筋に力が入ってしまう。

けどそんな俺の反応にミルフィは気づかないまま、驚きとも恐怖ともつかない目で肉棒を見つめていた。

ミルフィ,「……こ、こんなに、すごくなっちゃうんだ」

ようやく口にしたミルフィは、ごくりと喉を鳴らした。

アタル,「み、ミルフィ。え、ええと……その、それは……」

俺自身が何をどう言えばいいのか、そもそもなんと言おうとしたのかさえわからなくなるほどで。

ミルフィ,「あ、熱い……熱気、すごい……ゴーって、気を放出してるみたい……」

まだ触れてはいないのに、間近に感じるペニスの熱をミルフィはそのように口にした。

戸惑まくっていた俺だったが、ミルフィはミルフィで自分以外が見えていなくなっているのか、こっちの言うことには何一つ耳を貸さないでいる。

ミルフィ,「どくん、どくんって、びくびくしてる……」

恐る恐ると言う風に、その細い指がゆっくりと伸びてくる。

実際にゆっくりなのか、スローモーションに見えているだけなのかはよくわからないが、俺はじっとその動きを見つめているばかりだった。

アタル,「ふぁっ……」

ミルフィ,「ン、あつぅ…………」

ついには指の先っぽの、柔らかな腹の部分が触れて。ぷにっとした感触は探り探りであったが棒肌をつまむように挟み込み、そして撫でるように上下した。

アタル,「あっ……ぐ…………」

それだけなのに情けない声が漏れ出す。自分で触っているのとは全然違う、この甘美な感覚は想像を遥かに超えている。

触れられただけなのにこんなに凄いなんて、もっとされたら、俺、どうなっちゃうんだ……?

教室で勃起したモノを露出するなんて、本当なら恥ずかしすぎる状況だし、やってはいけないことだと理性のブレークが働くはずなのに不安だけでなく、期待が入り交じる。

そして不安よりも期待の方がどんどん俺の中を占めていき。

ミルフィ,「さきっぽから、おしっこが垂れちゃいそう……」

ちょっと触れられていただけなのに、興奮しきったモノの先端部分では半透明な欲液が雫を作っていた。

それが何であるかくらい、幼く見えてもミルフィは理解しているようで。瞳をうっとりと潤ませる。

ミルフィ,「……ねぇ、アタル。アタルのおちんちん、ちゅうちゅうしたい……いいよね……?」

アタル,「いいのか……?」

断るべきだったのかもしれないけれど、ここまで期待を持たされてしまっては、俺はそう言うしか出来なかった。

ミルフィ,「あたしの方からいいよねって聞いてるんだから、悪いハズないでしょ? むしろ、ダメって言ったって聞いてなんてあげないわよ。あたしを誰だと思ってるの?」

そう言うと、ミルフィはおもむろに小さな唇を目一杯大きく開けて、大きく膨れ上がった亀頭を口いっぱいに頬張った。

ミルフィ,「んんぅ、ん……ふぅ、ん……んんぅ…………!」

アタル,「ううぁっ、あっ、あああぁ……あああ…………」

ぬるっとした感触に全身が包み込まれたかのような錯覚を覚えるほどの快感が、股間に集中している。

ミルフィ,「くち、んなか……いっぱい……あつ、ぅ、んんぐ……」

深いところから、浅いところへとずるっと唇が抜けてくる。

手やオナホールとは違う、生の唇のプリンのような柔らかさと、心地良い熱さにとろけてしまいそう。

ミルフィ,「どう、アタル……きもひ、いい……?」

アタル,「ああ、気持ちいいよ、ミルフィ……」

ミルフィ,「あたひは……こういうのも…………ぷぁ」

ペニスから離れていった唇が、すっと横にずれた。そのまま、外縁から沿って棒の部分へと横滑りしていく。

ミルフィ,「ふわ、あむぅ、んんぅ、ぺるぉ……ぺにゅ、ちゅ」

先端を片手で支えながら、黒々とした太い男根を、トウモロコシを咥える時のように横から噛みついてくる。

噛みつくといっても、歯を立てたりはしないように気をつけているのがわかった。

唇を歯を覆うように前へと押し出して、柔らかな肉の部分で敏感な肌の部分をしごいてくる。

ミルフィ,「ちゅるぷ……ふぁ、ぅん、ぺじゅ……ふぁ、ちゅむ……」

ぬるぬるとした唾液にどんどんコーティングされていく。窓から強く差し込んでくる西日で、ソレはいやらしくぬらぬらと輝いていた。

ミルフィ,「はわぁ、あ……はむぅ……すご、ふと……んぅ……」

赤く塗られたかのようなミルフィが肉棒を、ぺろぺろと舐めまわすその姿は、俺の興奮を否が応でも高めていった。

犯罪に触れてしまいそうなほど幼い容姿を残した少女の献身的な奉仕に俺はさらに肉棒を滾らせてしまう。

ミルフィ,「んぷぁ……また、大きくなった……」

パンパンに膨れ上がった男根のサイズを見て、ミルフィが驚きを隠せないでいるようだった。でもそれは俺も同じことで。
こんなにデカくなったの、初めてだ……。

どんなに好みのAV女優を見た時にも、お気に入りのお宝本を見た時でも、こんなに大きくなることはなかった。

ミルフィ,「口に入るかな……ん、んんあぁっ――んんむむぅぅ……」

アタル,「ふっぐ、んんんぐっああぁぁぁ……!」

いっぱいいっぱいにまで開かれたミルフィの口が、俺のモノを吸い込んでいく。

吸盤のようにぴったりと肉棒に吸いついてくる厚ぼったい唇の感触が、ずりゅりゅとペニスを奥へと誘いこんでいく。

ミルフィ,「んん、ちゅ、じゅ……ちゅぷ、ちゅ、んんっちゅ……!」

アタル,「っ、あ……ああ、吸い込まれそッ……がっ、はぁ……!」

俺は我慢しきれず、気づけばミルフィの頭を両手で抱えて自分から腰を突き込んでしまっていた。

それがミルフィの柔らかな喉の肉壁をゴリッとこする。

ミルフィ,「ン……んんんぐっ!? ぐぇ、けほっ、けほっ……」

喉奥を突然突かれてしまい、ミルフィは耐えきれずにむせ返し、肉棒を離してしまう。

アタル,「だ、大丈夫か、ミルフィ?!」

ミルフィ,「だ、だいじょうぶよ、これくらい……けほっけほ」

アタル,「でも、咳き込んでるじゃないか」

ミルフィ,「ちょっと喉の、おく、突いちゃっただけだから……。けど、いきなり動くの禁止」

アタル,「ご、ごめんなさい……」

ミルフィ,「ちゃんとあたしが気持良くしてあげるんだから……じっとしてて…………ん、んじゅ……ちゅぅんんんぅ……」

アタル,「あ、ああぁ…………っ」

ミルフィ,「ぺちゅ……れろ、ぺちょ……ちゅ、んぇちゅ……」

また、肉棒が横から舐められていく。ミルフィのちっちゃな舌が裏筋の辺りにかかり、先っちょの硬い部分がくすぐるようにこすってきた。

ミルフィ,「れぇろぉ……ちゅれ……ちゅ、ぺろぉ…ん…ふ……」

アタル,「う…ぁ…………っ」

ぞわわっと背筋が震える。鋭いのか、物足りないのかわからない、この微妙な快感に息が漏れる。

張り出した亀頭が教室の冷たい空気の中でビクビクと揺れてしまう度に、先端に溜まった雫がとろとろりと剛直の下を伝って垂れていく。

ミルフィ,「んふぅ、アタルの……カウパー…………」

ミルフィ,「んふぅん、ううん……んっ、んっ……ちゅ、ちゅむ……」

唾液と混ざり合った雫がこぼれ落ちる前にとミルフィの舌がすくい取り、そのまま先端へと上っていく。

カリの傍をくすぐっていくその動きに、俺はさっきの吸い込まれてしまうような快感を思い出してしまった。

もう一度、さっきみたいなのが味わいたい……。

アタル,「み、ミルフィ……横からだけじゃなくて、また、咥えてほしい……」

横からされるのもとても気持ちが良かったのだけれど、やっぱり最初のずずるっと飲み込まれてしまいそうな快感が忘れられない。

ミルフィ,「……もう、しょーがないわね。アタルにだけの特別なんだから」

さっきあんなことをしたというのに、ミルフィはイヤな顔をひとつせずに俺のおねだりを聞いてくれた。

ミルフィ,「ふぅん……っちゅぷ、んっ、んんっんんぐぅ……」

小さな唇が、先っぽからずるっと口の中へと吸い込んでいく。

ミルフィ,「ちゅ、ちゅちゅぅぅ……ぅちゅじゅ、じゅじゅるぅ……」

アタル,「うあ……あ、あ…………」

あのちっちゃな顔のどこに入っていくのかと思うほどに、深くまでミルフィはペニスを飲み込んでくれた。

これだ、この快感だ……。

ミルフィ,「ふぅん……ん、んく……ちぇる……ちゅっあ、ふぁ……」

待ち望んでいた強烈な快感に俺の膝が笑う。倒れこまないようにと慌てて近場の机に手を置いて体を支えた。

それでもヤバいと思うくらいにミルフィの唇は気持ちが良くて、ペニスに向いている意識以外は乱されていく。

ミルフィ,「んんぷぁ……は、ぁは……アタル、すっごく気持よさそうな顔をしてる……」

アタル,「だって、本当に気持ちいいんだ……あっ、ぐ……!」

ミルフィ,「んん……はぁちゅ、ちゅぅ……ん、んく、はぅ、ぅ…ン」

アタル,「は…あっ、ッ……、く、ぅ……ぐっ、ぁ…………!!」

ちいちゃな頭が俺の下半身の所で大きく前後に揺れている。屹立したイチモツに臆せず、ミルフィは口を使って気持よくしてくれている。

その光景が余計に俺の興奮を迫り上げていく。

ドクンっ! 自分の中で何かが揺れた。それが極みを告げる警鐘だとは、経験上わかっている。

アタル,「ミル…フィ……ッ! あ、ああっ、ぐっ……!俺……俺、くっ、むぐぐ……うっ、っ……!」

ミルフィ,「い、いいわよ……アタル。ふちゅ、ん、は、初めてだし、特別に……あたしの口の中に出すの、許してあげるから……と、特別なんだから、濃いの、出しなさいよっ!」

アタル,「うんっ、うん……だから、このまま出させて……!」

そんな細かな注文つけられて、応えることができるかなんてわからなかったけrど、俺は何度も頷いた。

この最高の快感を維持したまま出してしまいたい!

ミルフィ,「ぁう……ンっん、んふぁっ、あむっ、っちゅ! ぐ、んぅっぐ…ぅう、ちゅ……う、ちゅ、んんうぅ……っ!」

俺の太ももから尻を両腕で抱え込むようにしながら、ミルフィは頭を一生懸命に振ってくれている。

根元から急激に押し上げてくるような感覚に俺は我慢できず、ミルフィの頭を引き寄せてしまっていた。

ミルフィ,「ふぅんっ!? んっ、んんっ、んぷぅっン、んんぅっ!」

アタル,「うっ、あっ……あっ、ああああぁあっ!!」

口の中いっぱいに膨れ上がる硬い肉棒で何度も喉奥を突いてしまい噎せ返りながらも励まれた深い口淫の前に耐えきれず――

アタル,「だっ、出すぞっ……!」

ミルフィ,「ふぅんっ!! んんんぅっ……ぐっ、んんんんぅっ!?」

俺は、男の汚液を少女の喉へと撃ち出していた。

これまでずっと溜め込まれてきたわだかまりが、熱い塊となって一気に突き抜けていく快感!

ミルフィ,「んむっ……ふぅっ、うっ、んんぅ……!?」

ミルフィは驚きのあまり頭を離そうとしたように動いたが、今度は俺の手がそれを赦さなかった。

小さな口の中はあっという間に精液でいっぱいとなってしまう。なのにミルフィはむせ返ることなく、吐き出ししまわずに……。

ミルフィ,「ん……っんく、ごくっ。くぅん、んぅうっく……」

それをゆっくりゆっくりと飲み込んでいった。

アタル,「……あ、はぁ……はぁ…………っはぁ」

放出が徐々に勢いを弱め、そしてゆっくりと止まっていく。

それとは逆に急激に取り戻されてくる視界の中で、ミルフィは潤んだ瞳で俺を見上げていた。

ミルフィ,「ふぁ……は、はぁ…………はぁ………………」

精液を飲み干してくれていたミルフィが、いとおしく思えて、彼女の小さな頭に手を伸ばす。

と、ミルフィはキッと俺を睨みつけた。

ミルフィ,「ば、ばかぁ……。急に動かすなって、言ったじゃないの! けっ、けほっ、けほ……」

喉に残っていたものがあったのか、ミルフィは咽て咳き込んでしまった。

アタル,「悪い……でも、マジで気持ちよくて……」

ミルフィ,「みたいね。もう、口の中にまだどろどろが残っているわよ……」

そう言ったミルフィの口元から垂れていく白い粘液の塊を見て、俺は息を飲んでしまう。

ミルフィ,「す、すごい濃いニオイだよ……。口の中、ぬるぬるがいっぱい……ん、んちゅ、ちゅ……」

ミルフィ,「ン……っん、くん…………こく……ん、せいえきって……飲みづらい……んだね……」

指と口の外についていた精液を舐めとりながら、がんばって飲み込んでいく。

その何とも言えぬエッチな姿を見て、全て吐き出しきったはずの欲望が、またすぐに復活してしまう。

ミルフィ,「……ん? ひっ、ひゃっ!? あ……もう、こんなに元気になっちゃったの……?」

アタル,「それは……その、……ミルフィが…………」

なんて、しどろもどろな。言い訳にしてもヒドすぎるものの。ミルフィは気にした様子は見せなかった。

ミルフィ,「……なら、このまま最後までシちゃおうか」

アタル,「え……? 最後までって……え、えええっ!?」

ミルフィ,「ここまでしておいて、今更驚くことでもないでしょ?」

ミルフィ,「それともアタルは、あたしとはシたくない?」

シたいかシたくないかで言えば、シてみたいに決まってる。

けれど……。

アタル,「………………」

答えに窮してる俺に、ミルフィは甘えた声で囁いて……。

ミルフィ,「あたしは、アタルとシたいよ……アタルとひとつになりたいもん……だから……」

ミルフィ,「つべこべ言わずに、さっさとあたしを女にしなさいよ!」

が、最後はいつも通りの強烈な言い回しだった。

アタル,「ほ、本当にいいのか……?」

机の上に横になったミルフィに、俺は最後の確認をする。今なら、まだ……怖ってくれたりしたら、歯止めが効いて止めることもできる。最後のチャンス。

でも、ミルフィは案の定首を横に振ってその提案を却下した。

ミルフィ,「今さら何を言ってるのよ! あ、あんな濃いの飲まされたせいで、さっきから体の中が変なのっ!」

ミルフィ,「熱が出てるみたいに……熱くて、うずうずしちゃって……アタルのおちんちんが欲しくてしょーがないんだからっ!」

大きく開かれてめくられたスカートの中、伸びた足のつけ根にある可愛らしい布地には、色濃くいやらしい染みがついている。

イヤでも眼に入るそれから俺はもう目を離すことはできなくなっていて。

アタル,「わかった……それじゃあ、ミルフィ……」

ミルフィ,「う、うん……きて、アタル……」

俺はミルフィの脚の間へと体を入れていく。たったそれだけなのに、心臓が早鐘のように鳴り響く。緊張のしすぎで倒れてしまいそうだ。

口の中が乾く、首筋を上っていく血流は強い勢いを持っている、目の前がくらくらとする。

小さな、小さな、他の同年代の女子に比べて成長が著しくゆっくりなミルフィの体。

自分で言うのもアレだけれど、今のナニは滾りきっていて、自分でも恐ろしくなるくらいに巨大化している。

こうして比較してみると、それは現実味が全然感じられないほどの対比図になっていて。

本当に俺のペニスは入るのだろうか?

アタル,「ごくん…………」

唾液なんてほとんどなかったけれど、自分でもわかるほどに大きな音で喉を鳴らす。

今すぐ挿入してしまいたい気持ちはとても強いのに、最後の一歩を踏み出す勇気が出てこない。

ミルフィ,「何を怖がっているのよ、アタル」

アタル,「え……?」

ミルフィ,「だ、大丈夫よ。アタルの粗チンなんかで、あたしの体が壊れちゃうわけないじゃないのっ!」

声が震えていたから、朴念仁の俺でも、それは強がりだってすぐにわかった。

でも、情けないのは俺の方だ。

こんなにちっちゃなミルフィにここまで気を使わせて、最後の最後で躊躇している俺が本当に情けない。

男なら、覚悟を決めろってんだ。国枝アタル!

アタル,「……ああ。優しくするから」

ミルフィ,「そんな心遣い、ムヨーよ! ほ、ほら、だから早くしなさいって! こんな格好……恥ずかしいんだから!」

気勢を張るミルフィは愛しくて。俺はそっと彼女のほっぺたを撫でる。

ミルフィ,「ん…………優しく、するのよ……初めてなんだから」

ミルフィが見せた本音に、ああ、と、俺は頷く。

そして肉棒を股間のスリットへと押し当てた。

ミルフィ,「は……ふ…………」

ふわっふわと柔らかな肉の入り口に亀頭をあてがって。

ミルフィ,「ひぐっ!? ……あっ、かっ、あ…………っう」

くちゅくちゅとした愛液が染み出てくるその奥へと向けて、ゆっくりと体重をかけていく。

ミルフィ,「あう、ア、アタ、アタルぅ……う、ン…あ、い、いひゃ……あああ……かっ、痛っ……あっ、い……よぉ……」

アタル,「キッツ……もう少し、力入れる……からな……?」

小さすぎるミルフィの入り口は案の定、俺のカリを埋没させるには狭すぎた。

それでも彼女の気持ちを思い、俺は優しく、優しくと心の中で呟きながら、ゆっくりと先に進んでいく。

ミルフィ,「ひううぅっ……くぅん、んっんんっ、んぐっくぅ……!めりっ、めりって、めりめりして……るぅ……っン」

ミルフィ,「ああっ、ひっ、ああっく、ぐぅぅ、んあ、あああっ!」

ミルフィの手が俺の腕を思い切り掴んで、爪を立ててきた。

アタル,「いっ……」

でもこれはわざとじゃないのだろう、俺を傷つけるためじゃなくて、自分の痛みを訴えようとして勝手に出てしまった動き。その仕草に、俺は動きを一旦止めた。

ミルフィ,「はぁ……っ、あ、はふぁ……ぁ、はぁ……っはぁ」

アタル,「ご、ごめん……急すぎた……?」

ミルフィ,「あ、アタル……ね、ちゅうして……ちゅーしてくれたら、あたし、がんばれるから……」

涙目になりながら、ミルフィはつんと唇を押し出してきた。俺は求められるままに、ミルフィの負担にならないように体を前傾させて、キスをする。

ミルフィ,「ん……ちゅ、ちゅぅ、ちゅ…っちゅ、ちゅむ、ちゅ……」

餌を求める雛鳥のように、ミルフィは細かに、何度も何度も唇を突き出してキスをしてきた。そして顎を上げるように強く押しつけてきて。
ミルフィ,「ちゅ、ちゅむぅ……うん、だいじょうぶ、だよ……引きちぎれちゃって、死んじゃいそうだけど、でも……」

ミルフィ,「アタルが、優しくしてくれるから……怖くなんて、ないんだから……アタルと一緒なら、ホントに平気だもん!」

痛々しい表情をしながらも、強気の宣言をする。その強気がいつまで保つかはわからないけれど、俺はミルフィを信じることにした。
アタル,「わかってるよ……ん……ちゅ、ちゅ…………」

額にかかった前髪をくしゃりと撫でると、ミルフィはくすぐったがる猫のように可愛らしく顔をしかめた。

ミルフィ,「んっ……はぁ、ちゅ……ちゅぅ…………」

キスをしながら、俺はもう一度体重を下腹部へとかけていく。

ミルフィ,「んんッ……っ、く、ん~っは、ぁ、っ、ん、キス……もっと、キス……アタル……っ! ちゅう、んんちゅー……」

アタル,「ちゅ、ちゅむ、ちゅっぷ……」

ミルフィ,「……っはぁ、あぁ……あーっ、あ、かふっ……ぐ……っ、お、大きすぎるのよ、ばかぁ……」

アタル,「ぁ……休もうか……?」

ミルフィ,「ばっ、バカいってんじゃないわよっ! 大丈夫だって、言ってるでしょ! がっ、がまんできるもんっ!」

なんで気遣ってる俺の方が怒られないといけないのか……。

なんて理不尽にも思うも、でも、それだけミルフィは痛くて、いっぱいいっぱいになっちゃってるってことなんだよな。男には感じられない痛みに耐えているんだ。

アタル,「でも、まだ先っぽだけだし……」

ミルフィ,「えっ!? まだ、それだけなの……?」

アタル,「……やっぱり、休むか?」

ミルフィ,「いっ、いらないわよっ! イスリアは痛みには屈さないんだから! 右の頬をぶたれたら、左耳を食いちぎってやるんだから!」

アタル,「く、食いちぎるとか言うなよ!」

口でされる前に聴いていたら、怖くて勃つモノも勃たなかったかもしれない。危うく股間のフランクフルトをいただかれてしまうところだった。

ミルフィ,「ら、だいじょうぶだもん……その代わり、キス……ちゃんとして……」

アタル,「……うん」

ミルフィ,「ちゅ……ちゅむ……ん、ふむぅ……」

もう、俺は休もうとも、その意志を口にしようとも思わなかった。

そうしないと、ミルフィの気持ちを全部無駄にするって、ようやくわかったから。これはミルフィのただの強がりなんかじゃなくて、ミルフィの、彼女自身の強さだ。

ここまで流されてきた俺だったからこそ、ここだけは、ミルフィの思いに真正面から応えてあげたいと思った。

ミルフィ,「んぅ、いっ……いた……くなんて、ないもん……っ!」

アタル,「ちゅ……ミルフィ、っちゅ…………」

重ね合わせた唇から痛々しい吐息が漏れる。そのくすぐったさを封じるように口で蓋をしながら、俺はゆっくりと体を沈み込めていく。
ミルフィ,「アタルぅ……ぅ、んっぁ、は……あ、あぁ、あ……っ!」

先端に当たってくる薄い壁……これがミルフィを乙女としている最後の1枚なんだと、直感で理解できた。

一瞬だけ、俺は躊躇し動きを止めたが、思い直す。そして一息に腰を押し出した。

ミルフィ,「ひっ、…………っっ……っ、っ……!?」

少女の体が一瞬大きく縮こまって、引きつるような、音になりきれない悲鳴が響く。

処女膜を破る勢いで、俺は強烈に圧迫してくる肉壁をひと思いに割りねじ込んでいった。

ミルフィ,「――あっ、あっ、あああいぁああぁ~~! っ、かは……はぁ、はぁっ……はっはぁ……、んぅ、う、うぅ……」

ミルフィ,「あ、アタルぅ……アタルが、すごい奥……こんなとこまで、入ってきちゃってる……? ねぇ、きてるよ……?」

アタル,「ああ……ミルフィ、全部、入っちゃった……」

この小さな体のどこに俺を受け入れるだけのスペースがあるというのだろう。俺のモノは根元まで全部、ミルフィの膣へと埋没していた。

ミルフィ,「う、うん……入っちゃってる……ひとつに、なっちゃってるんだよ、あたしたち……合体してるよ? フュージョンだよ? ドッキングだよ……?」

アタル,「ああ、ああ、うん、そうだね」

ミルフィ,「えへ、えへへ……これで、あたしも……強くなれたかな……?」

アタル,「……ミルフィは元々強いさ」

結合した部分では、今でもミシミシという感覚が伝わってくる。小さな膣は俺を受け入れきれずに、今もまだ拡張を続けているようだった。

その痛みだってすごいのだろうに、ミルフィは泣き言ひとつ言わないで、微笑みを見せようとしているのだ。これが強くなかったらなんだってんだ。

それでも正直な肉体の反応で、瞳からこぼれてしまった涙を、俺はそっと口づけして吸い取った。

ミルフィ,「んっ……わかってるじゃない、女の子が喜びそうなこと」

きゅっと俺のモノが締めつけられる。どうやらミルフィはお気に召してくれたらしい。

ツライのを少しでも忘れてくれるのならと、俺は眦から、ほっぺたに、唇にとキスの雨を降らせていく。

ミルフィ,「ん、くすぐったい……んぅ、アタル……ちゅ、ちゅ、ん」

深く結合し密着したままキスを交わしていると、ミルフィの鼓動が直接伝わってくる。

とくっとくっとくっ。その音から若干秒ずれてペニスは肉の波を受ける。

アタル,「ぅあ、あ……」

その迫り来る圧力の気持ち良さに、俺の腰は自然と震えてしまう。唇でもあんなに凄かったのに、アレとは全然違う繊細でいて、それなのに大胆な蠕動。

ミルフィ,「っく、ぅ……んぅ、ア、アタル……動く? 動きたい?」

アタル,「あ、いや、まだ大丈夫……」

ミルフィ,「だーかーらー、ガマンするんじゃないのよ。イスリア軍人は情けをかけられるのを、一番嫌うんだからねっ!」

お前、軍人じゃないだろ。

と、ツッコミたいところだけど、どんな反応が返ってくるかは想像がつく。

アタル,「……それじゃ、動きたい。いいか、動くぞ?」

ミルフィ,「イスリア女に二言はないのっ!」

訊ねるのではなく、確認の言葉にミルフィは負けじと言い返してくる。なら……。

膝に力を入れて、ぐっと腰を引き戻す。

ミルフィ,「――っひ、あ~~っあぁ、はあ……おなか、引っ張り……出されそ……ぅ、あっ、っく……ン」

アタル,「うくっ、っ……ぐ、ぅあ……気持ちイイ……っ?!」

ミルフィ,「ひぁっ、あ……あああぁ痛っ、あ、ひっ、あ……!」

柔らかな壁をこすりながら引きぬいていく感覚に俺は酔いしれる。

頭を眩ませるほどの快感にくらくらとしている内に、あっという間に入り口まで戻ってきてしまっていた。

当たり前だけど、ここで止めることなんてできなくって。

ミルフィ,「入って、く……おくっ……おくに……っいぃ……んぐぅ、う……あっ、は、あああ~~!」

また奥へと押しこんでいってしまう。

ミルフィ,「うっ、く、くるし……くなんて、ないんだから……っ、あ、はぁ、アタルが……中に、きてくれてるんだからっ……」

アタル,「ミルフィ、はぁッ……ミル、フィ……ッ!」

俺を受け止めてくれるミルフィが凄く愛しく思えて、俺は動きに歯止めを効かせられない。

ミルフィ,「んっ、あ、んあっは……あ、あぁっ! あ、あ、あ」

入れて、出して、入れて、出して。ずちゅ、ずちゅと、いやらしい音が結合部から静かな教室の中に響き渡る。

アタル,「ミルフィの中、ぬるぬるで、すげぇ気持ちいいよ……」

ミルフィ,「そんなの、当たり前じゃないのっ! あたしは、イスリアの……お姫様なんだからねっ!」

ミルフィ,「アタルが我慢しきれなくて、動いちゃうのは、自然のセツリってやつなの……ンっ、は、あっあっあぁっ!」

その自負に嘘偽りなんてひとつもない。ミルフィが言うとおりだ。

もっと、もっと、ミルフィを感じたいと。腰を手で掴むと、俺はさらに勢い良く奥へとペニスをねじ込んだ。

ミルフィ,「んはっ、あ、ああぁ……なかぁ、こすられてるぅ」

角度が変わったせいか、さっきまでとはまた違う。先端がゴリゴリと肉壁を抉りながら入っていった。

ミルフィ,「はぁ~、あぁ……さっきより、アタルを感じるぅ……」

アタル,「俺も……感じるよ」

ミルフィ,「んんぅ、ん、あ、はう~、ん……へん……だよ、アタル……アタル、なんかヘンなのぉ……」

ミルフィ,「それ、されるの、ジンジン……ンっ、するのに……ぅっ、い、痛いのに……ね、もっと……ほしいの……」

キスをするほど近い距離にある俺の顔を、ミルフィが危なげな指先で撫でてくる。さまよい、それは俺の首の後ろに回って、そっと、力を込めてきた。

アタル,「ああ、ミルフィ……うん、もっと……」

ミルフィ,「んぁ~~っ、あっ、はぁ……あ、あ、ああっ、んっ、く」

そういう望みならば、望まれるままに腰を揺らす。ぐいぐいと壁にカリを押しつけながら、一番の奥にまで届けて、同じように引き抜いて。

ミルフィ,「ふぅ、あ、ひゃうっ、んぅ、とけちゃい……そ……ンっ、あっ、もっと……そこから……っ、は、あぅん~~」

アタル,「うん、うん、俺も……ああっ、はぁ、ミルフィの中に……くっうぐっく……とけ、ちゃいそうだ……っ」

切なさと、甘さの混じった音色が俺の劣情を煽っていた。

こんなにちっちゃな体なのに、俺は欲望のままに腰を振りまくって。感情が高ぶる。ミルフィを求めずに居られない。

ミルフィ,「んんあっぁ、アタルっ、アタルっ……! やぅ、あ、机、倒れちゃいそう……っはぁ、あ、んんぁ~~あっあ」

アタル,「大丈夫っ、俺、守るから……っ!」

ガタガタ揺れる机を体重をかけて押さえつけながら、奥に、一番奥の壁へ届けと打ち込んでいく。

ミルフィ,「ア、アタル、守ってよ……あ、あたしを、みんなを……」

アタル,「え……? あ、ああ、もちろんだ。ミルフィも、みんなも、俺が守るから……!」

ミルフィ,「うん、信じてるから……ッ、裏切ったら、承知しないんだからっ……!」

ちょっとしたすれ違いがあったけれど、それはすぐに修正すれば、ミルフィは嬉しそうに俺の頭を引き寄せてきた。

ミルフィ,「んちゅ、ちゅ、ちゅぅ……ふぅあ、はぁっ、ん、ちゅ」

むさぼるようにキスをしていると、俺の腰にミルフィの細い脚が絡みついてくる。顔だけでなくて、腰をより密着させようとしているんだ。

ミルフィ,「アタ、アタルぅ……んっ、はぁぅ、っ、きちゃ……う……さっき……みたいな、の……んゃっ、やっ、あひぁ……」

ミルフィ,「……あ、あぁ、指で、くちゅくちゅにされちゃったのと、同じの……が……あっ、ああぁ、んんぁ、あぅん、ン!」

ミルフィが俺を求めてくれている。俺を包み込む甘すぎる感覚はエスカレートの一途を辿り、射精をさせようと激しく収縮を繰り返した。

アタル,「ミル……フィ……ッ! 俺、俺も……もう……!」

ミルフィ,「う、あ、ぇ……で、出る……出しちゃう……の?」

アタル,「出したい……っ、ミルフィの中に……!」

なりふり構わず俺は懇願する。この最高の気持のままに射精をしてしまいたい。

ミルフィ,「ぅん、しょうが、ないわね……もう。あっ、ひっぅん、は……あぁ、いいわよ……出して、許してあげる……んっ、くぅ……」

アタル,「ミルフィ……ミルフィ……ッ!」

ミルフィ,「んんぅっ、ひっ、あ~~っ……かっ、はふ、う、ううぅ、や、あっく……ん、はっ、あぁ、あ、あ……ああ……!」

わかる、ミルフィも限界が近いことが。だから、最後の力で俺は一番奥にねじ込んで。

ミルフィ,「ン――――っ、んぁっ、あ――あ、ああぁ、ぁ~っ」

アタル,「ミ、ミルフィ……っ!」

カリがぴったりと収まるくぼみにまで当てはめ、その先にある壁へと押しつけて――

ミルフィ,「んんぁあああぁぁ~~~~あっ、ああぁっ、あ~~っ!」

アタル,「うっ、あ……っ、っん――――っ、は――!!」

がっちりと結合した状態から、一番深いところに。俺は何度も熱く猛った液を注ぎ込んでいた。

ミルフィ,「んんぁっ、あっ……っんんんんんんっ!」

びくびくと痙攣するミルフィの中が俺の欲望でいっぱいに、充ち満ちて……。

ミルフィ,「ふぁっ、あぁ~~~っ……はっ、ぁ…………ん……」

そこでようやく、出し切った。

アタル,「はぁっ、はぁ……ミ、ミルフィ……」

ミルフィ,「ん、アタル……アタル……好きだよ…………」

アタル,「うん……俺も…………」

ミルフィ,「ふふ、まだ、いいわよ」

好きだ、と言おうとした唇を指で塞がれる。

ミルフィ,「エッチの後に言われても、本気かどうかわからないって言うじゃない? だから、シラフの時に言ってよね」

ミルフィ,「ま、ここまでシちゃったんだから、気変わりなんて赦さないけどね♪」

アタル,「……は、はは」

こんな満身創痍な時にまで、ミルフィはミルフィで。

ちっちゃい体をしているのに、ほんと、俺なんかよりもよっぽどしっかりしているよ。

ミルフィ,「でも、あたしの好きは、嘘じゃなくて、ホントだから」

アタル,「わかってる」

嫌いなヤツが相手だったら、どんなことがあったって、ミルフィは自分の体を他人に許したりは絶対にしないと思う。

アタル,「光栄に思うよ、ミルフィにそう思えてもらえて」

ミルフィ,「そう思うんなら、ポーシャの件はよろしくね♪」

アタル,「それとこれとは話は別だよ……エッチの後に、そういうこと言うのって、無粋だと思わない?」

ミルフィ,「キ、キーッ! でも、絶対作らせてやるんだから!」

アタル,「ああ、作れるようになったら、ちゃんと作ってあげる」

ミルフィ,「約束よ? 絶対、絶対だからねっ! あ、そうだ!指きり! 嘘ついたらバーナーで指を焼ききるんだから!」

アタル,「バーナー!? 針千本じゃないの!?」

なんかリアルで超イヤなんですけど!?

ミルフィ,「約束を破らなければいいのよ♪」

なんて、ミルフィはあっけらかんと笑う。

約束ったって、一方的に俺ばかりなんだけど……ま、いいか。

アタル,「……わかった。指きりな」

二人して小指を伸ばして絡ませ合う。

ミルフィ,「ゆーびきーりげーんまーん。うーそつーいたら、ガスバーナーでゆーびをやききーるよー」

ミルフィ,「ゆーびきった!」

俺達はそんな物騒な約束を、一生の思い出になる大事な日に、夕日の教室でしたのだった。

#textbox Kmi0110,name
ミルフィ,「ま、初めては痛いっていうけど、案外余裕だったわね」

アタル,「……嘘つけ。じゃあ、俺にしがみついてないで、ひとりで歩いてみろよ」

#textbox Kmi0130,name
ミルフィ,「最悪! 女の子がツライ思いをしてるのわかってる癖にそんなこと言うなんて」

#textbox Kmi0110,name
ミルフィ,「エリ、撃っちゃっていいわよ」

エリス,「喜んで」

アタル,「喜んでって居酒屋じゃないんだから返事として間違――」

ぱんっ!

アタル,「マジで撃った!? しかも、かすった!制服に穴空いたじゃないか!」

エリス,「……ちっ」

アタル,「また舌打ちした!?」

しかも今回は躊躇の欠片もなかったし!明らかに距離も近づいて本気で殺しにきてたし!

ミルフィ,「よし、アタルの特殊能力も顕在みたいね」

アタル,「人の命を使って、そんなの試すなよ!」

ミルフィ,「あははは。いいじゃないの、死なないんだから!これからも、ずっと一緒にいられるってことだもん♪」

アタル,「あ……あのなぁ…………」

とりあえず言い返す言葉を出してみたものの、そんな風に言われてしまったら、ソレ以上は何も言えやしない。

ミルフィ,「さ、エリ。帰りましょ」

エリス,「は、お車の準備はできてます」

ミルフィ,「それじゃあね、アタル♪」

初めてのエッチをした後だというのに、ミルフィは何事もなかったようにエリスさんと連れ立って、俺を置いて行ってしまう。

そりゃ、俺はこの後、柴田さんと一緒に回らなきゃいけないところがあるから仕方ないんだけどさ……。

アタル,「……ん?」

物足りなさに寂しさを感じていると、ひょこひょことした歩き方で、ミルフィがこっちに戻ってきた。

#textbox Kmi0110,name
ミルフィ,「忘れ物があったんだ」

アタル,「なんだよ、忘れ物っ……て?!」

ミルフィ,「んっ♪」

ぐいと襟を引っ張られて下がった顔に、ミルフィがちゅっとキス。

#textbox Kmi0160,name
ミルフィ,「それじゃ今度こそ、ばいばい。お仕事がんばってきなさいよ、アタル王様♪」

アタル,「お、おう」

今度は物足りなさも全部消えて、俺は照れくさいやら満足してるやらの気持ちのまま、ミルフィ達を送ってやることができたのだった。

…………

……

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「アタル、今晩はこれを見るわよ! ランダムTV放映版!DVDで修正される前のバージョンよ!」

アタル,「なんでわざわざビデオテープで見るんだよ。それに、修正されてる方を見ればいいじゃないか」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「わかってないわねぇ。修正版だと他の部分まで手直しされちゃってるのよ」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「TV放映版は短い製作期間と限りある予算の中、より良いものを作ろうとした演出家の妙技と――」

アタル,「あー、わかったわかった」

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「それじゃ、一緒に見るんだからね! 忘れないでよ!」

背後から抱きついてきていたミルフィは、俺の返事を聞くと喜んでぴょんと飛びのいた。

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「準備したら、ちゃんと来なさいよー!」

釘を刺すや、たたーっと部屋に戻っていってしまう。

全く、わがままにもほどがあるよ。

そう溜息を吐きだしながらも、俺もミルフィのことを悪く思いきれない辺り弱いなぁ。

つい今朝までは、こんな風に思えるようになるなんて思ってもいなかった。

#textbox Kse0350,name
セーラ,「……はぁ、負けちゃいました」

アタル,「ん、何が?」

#textbox Kse0380,name
セーラ,「アタル様、ミルフィさんと幸せになってくださいね」

アタル,「え……?」

#textbox Kse0390,name
セーラ,「ふふ、見ればわかりますよ。ミルフィさんがあんなに心を許しているんですもの」

アタル,「あ、いや、えーと……」

#textbox Kse03D0,name
セーラ,「アタル様は気にされなくても大丈夫ですよ。ただ、運命の人だと思っていましたから残念ですけれども」

アタル,「……ごめん。婚約についてはずっと誤魔化しっぱなしだったのに」

#textbox Kse0390,name
セーラ,「ふふ、そんなアタル様の心を射止めることができた、ミルフィさんがすごいんです。私は力及びませんでした」

アタル,「セーラさん……」

#textbox Kse0380,name
セーラ,「そういう話でしたら、お邪魔をしてはいけませんし。私たちはしばらくお屋敷から離れさせてもらいますね」

アタル,「え、そんな気を使わなくても……え、私たち?」

ひよこ,「さっきね、セーラさんとお話していたんだよ」

エプロンで手を拭きながらやってきたのは、台所で水仕事をしていたはずのヒヨだった。

ひよこ,「もし、本当にミルフィさんとアタルくんがおつきあいを始めたんなら、お邪魔虫になっちゃう」

アタル,「そんなことないって」

ひよこ,「アタルくんにはなくても、一緒にいるこっちがそう思っちゃうんだよ」

セーラ,「それに、私の場合は、いつまでも一緒にいては未練ばかりが引っ張ってしまいますし」

セーラ,「……あ、二号さんにしていただけると仰るのでしたら、残りますけども」

アタル,「そっ、それはない! ダメだよ、そういうのは!」

第一、そんなことをしたらミルフィに殺されかねないだろう。

セーラ,「ですよね?」

ひよこ,「だから、ミルフィさんと仲良くするんだよ、アタルくん」

セーラ,「幸せになってくださいね」

アタル,「…………うん、ありがとう」

俺の勝手な都合で、俺が勝手にこうしたっていうのに、二人はイヤみごとはひとつ言わずに俺たちのことを祝福してくれる。

アタル,「それで、二人はどうするの? セーラさんはクアドラントに帰っちゃうのかな……?」

セーラ,「国に戻ってしまいますと、お父様が決めた好きでもない人と結婚させられてしまうかもしれませんし、もうしばらくはニッポンに滞在することにします」

セーラ,「住む場所につきましては、先ほどエリスさんからイスリア企業が経営するホテルを紹介してもらいましたので、そこから学園に通うことにしますわ」

ひよこ,「私もセーラさんと一緒でいいって♪」

アタル,「そっか。寂しくなるけど、また学園で会えるよね?」

ひよこ,「うん! あ、でも、アタルくんが王様として働いているのはちゃーんとチェックしてるからね!」

ひよこ,「王様のお仕事をほっぽり出したり、適当にやったりしたら絶対にダメだからね!」

アタル,「ああ、わかってるよ」

アタル,「おっと…………ミルフィか」

セーラ,「ふふ、早速およびみたいですよ」

ひよこ,「早く行ってあげないと!」

アタル,「うん、本当にありがとう!」

セーラさんたちの申し出は寂しいことではあったけど、ミルフィに誠実であろうとするなら、そうするのが一番だろう。

俺は最後に一度だけ頭を下げて、繰り返し俺を呼ぶミルフィの所へと向かうのだった。

…………

……

セーラ,「……でも、ひよこさんもこれで良いのですか?」

ひよこ,「どうして?」

セーラ,「寂しくはないのですか? ひよこさんは、私たちなどよりずっと前からアタル様のことを……」

ひよこ,「どうして? 寂しくなんてないよ~」

ひよこ,「アタルくんが王様になってくれて、やっとお妃様ももらってくれて。これでようやく落ち着けるもん~」

セーラ,「そうなの…………ですか……?」

ひよこ,「はー、肩の荷が下りたよー。さーってと、荷造り荷造り~」

セーラ,「………………あ、私も荷造りをしませんと」

#textbox Kmi0280,name
ミルフィ,「行っちゃったわね」

アタル,「行っちゃったな」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「ふ、フン! セーラやぴよぴよのくせに、変に気づかいなんてしなくていいのに!」

アタル,「……ちょっとさびしかったりする?」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「ば……っ、バカ言うなーっ! そんなことないもんっ!」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「どーせ学園に行けば顔を合わすのよ! 全く、いなくなってくれてせーせーするわっ! 行くわよ、エリ!」

ぷんすかと肩を怒らせてミルフィは屋敷に戻っていってしまう。

エリス,「ああは仰っていますが、本当は寂しいのです」

アタル,「うん……だろうね」

エリス,「ただこれでクアドラントは完全に婚約者競争には敗退したことになるでしょう。イスリアとニッポンは同盟を結びより強固な関係となり世界の中心として君臨できます」

エリス,「アタル王、貴方の選択は、両国にとって間違いなく正しいものだったでしょう。自分などの言葉はいらないでしょうが、祝福いたします」

アタル,「あ、ありがとう」

エリス,「……くっ、どうして屋敷を出てしまったのか。これではみすみすミルフィ様とアタル王が……」

アタル,「……ねぇ、祝福してくれてるんだよね?」

エリス,「もちろんです。ミルフィ様がお幸せになると言うのなら、自分はどれほど残酷な現実でも受け入れてみせましょう……」

アタル,「ちょっと!? 何、その言い草!?」

俺がミルフィが付き合うってことは、そんな風に言われるようなことなの……?

#textbox kmi0230,name
ミルフィ,「エーリーっ! 早く来るのーっ!」

エリス,「はっ、ただいま!」

一番、危ないのって、もしかしてエリスさんなのかもしれないなー(棒)。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「セーラ様とひよこさんについては、ニッポンの方からもお世話をするように手配いたしましたのでご安心を」

アタル,「うわっ、柴田さん!? ま、前触れもなくいきなり登場しないでよ……びっくりするなぁ」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「左様ですか? でしたら私が三日三晩ゴロゴロしながら考えました、波乱万丈にも負けぬ前口上を――!」

アタル,「そんなのはいらない」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「残念です」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「それともう一点、イスリア国王を狙いましたテロリストへの対策の一環として、ニッポンにあるイスリア軍基地への兵力増派を外務大臣と防衛大臣が承認されました」

アタル,「軍隊を? それって抑止効果狙いってこと……だよな?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「もちろんでございます。他国の軍隊を自国領土で好き勝手に活動させるなど、許されることではありませんからね」

柴田,「先日のテロリストの遺志を継ぐ組織が現れたとの情報もありますゆえ、睨みを利かせておきたいのでしょう」

アタル,「けどさ、そんな軍隊を集めちゃったら、余計狙われちゃったりしないかな?」

#textbox Ksi0120,name
柴田,「……大丈夫でしょう。我が国の警察も無能ばかりではありませんから」

アタル,「ふ、不安だなぁ……」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「では、その不安を払拭するためにも、今日の公務へと参りましょうか、アタル王」

アタル,「ま、そうだな」

王さまになってから、休みは減っちゃったなぁ……はぁ。

…………

……

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「あっ、おかえり~、アタル~っ!」

アタル,「おうっ、ただい――うごっ!?」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「帰ってくるのおーそーすーぎーっ! ヒマでヒマで仕方なかったじゃないの、ばかーっ!」

アタル,「ンナこと言ったって、こっちは仕事なんだから! 俺だって家でゴロゴロしてたいよっ!」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「まぁ、アタルの言うことも一理あるわね」

一理どころか、全国のサラリーマンのお父さんは絶対に俺のことを支持してくれると思うぞ。

#textbox Kmi0240,name
ミルフィ,「しょーがないわね。ポーシャを作るってことで許してあげるわっ!」

アタル,「だからできないってるのに。まぁ、ポーシャは無理だが、今日行ったところでACHIMOを借りてきたぞ」

AHIMO,「コンニチ ワ ACHIMO DEATH」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「ACHIMOなんかじゃダメなのー!」

AHIMO,「ACHIMO SHOCK!」

アタル,「そう言わずに見てみろよ。ほら、段差とか余裕で歩くぜ」

AHIMO,「ピーガガー ACHIMO ダンサ アルケMASH」

#textbox Kmi0250,name
ミルフィ,「うわっ、ACHIMOすごいぅ! 段差もじょーずに歩いてるー!?」

アタル,「そうだろ、そうだろ」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「こんなスゴいの作れるなら、ランダムだってすぐに作れるよねっ!?」

アタル,「だからランダムは無理だって。ビッグドックの技術を応用すれば、ケレーテなら作れるかもしれないけど」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「蛙はいやー! 人型! 人型じゃないとダメなのーっ!」

アタル,「もうちょっと技術が進歩するまで待ちなさい」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「うー」

AHIMO,「ACHIMO コノママ カエレマス」

#textbox Kmi0250,name
ミルフィ,「飛んでったー!? え、す、すごいよACHIMO!!」

アタル,「そうだろ、そうだろ。今度はEVALTAを借りてきてやるからなー」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「じゃあ、その次がランダムだね!」

アタル,「だから無理だっての!」

…………

……

アタル,「ふぅ、やっと解放してくれたよ」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「お疲れさまでした、アタル王」

ポーシャポーシャとうるさいミルフィにまとわりつかれて、もうクタクタだ。

アタル,「……で、柴田。例の話はどうだって?」

#textbox Ksi0120,name
柴田,「はい、挙げられていた障害について、解決法を見つけることができました。ただ、それには少々難しい問題がありまして……」

アタル,「それはどうにかできること?」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「はい、お許しがあれば私がどうにかしてみせましょう」

アタル,「なら、お願いするよ。資金援助もできる範囲でやって構わない。そのまま進めるようお願いして」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「それは絶対命令で?」

アタル,「いいや。そんなものを使わなくったって、向こうは出来ると言っているんだろ?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「……ふふ。王らしくなってきましたね、アタル王」

アタル,「そうかな?」

柴田,「ええ。それでは、そのように進めさせて頂きます」

アタル,「頼むよ」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「御心のままに」

アタル,「……っと、またミルフィがお呼びみたいだ」

しかもわざわざメールで、だ。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「付き合い始めの男女と言うものは、何かと連絡を取り合いたいものなのですよ。私も毎朝毎晩欠かさずメールのやり取りをしております。ゲームの中で。フフフ」

アタル,「何プラス+の話だ!?」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「それに、そのような迷惑そうな顔をされていても、本心では嬉しく思われているのでしょう?」

アタル,「……まぁ、ね」

なんだかんだ言っても、好きな子から連絡が来るってのは嬉しいもんだって、初めてわかった。多少のワガママだって、口で言うほど気になるもんじゃない。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「それでは、私はこれで。ニッポンの未来の為にも、ミルフィ姫の不興を買わないようにお願い致します」

アタル,「はいはい」

それではと言って柴田さんが出ていった後、俺は携帯電話を開いてメールの中身を確認した。

えーと、なになに…………。

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「『せ、せっかくだし背中を流してあげるわっ! だ、だからお風呂にきなさいよっ! はやくねっ!』」

アタル,「………………お風呂って」

この間、一緒にお風呂に入ったことを思い出してしまう。

あの時はまだ、こういう関係じゃなかったから、そこまで意識していなかったけれど、今の俺たちの関係を考えれば……。

アタル,「う……む………………………………………………はっ!とにかく風呂に行かないとっ」

遅くなったら、何を言われるかわかったもんじゃない!

…………

……

アタル,「ミ、ミルフィ、いるのかー?」

言われた通り来てみたが……ううむ、今日はいつもより湯気が濃いような気がするぞ。広い風呂場が余計に視界不良だ。

ミルフィはもういるのだろうけれど、どこにいるのか全くわからない。

#textbox kmi0420a,name
ミルフィ,「ふみゃっ!? も、もう来ちゃったの!?は、早すぎるわよぉばかぁ~っ」

ばかって、早く来いと言っておいてヒドイ。

アタル,「お、おいおい、なんだよ。早く来いって言ったのミルフィだろ……」

#textbox kmi0420a,name
ミルフィ,「ま、まだ来ないで……髪を洗ってるの……」

なんだよ、それくらいで妙に恥ずかしがって。俺の背中を洗ってくれるって言ってるのにさ。

アタル,「そういうことなら、俺が髪を洗うの手伝ってやるよ」

#textbox kmi0420a,name
ミルフィ,「え、い、いいよ……だいじょうぶだから……ひ、ひとりでできるもん……」

アタル,「気にするなって」

ええと、声がする方に……と。

#textbox kmi04A0a,name
ミルフィ,「ああぅ、きちゃだめぇ……」

アタル,「そんなこと言われたって、もうきちゃ……った……」

アタル,「ミルフィ……おま、それ……」

ミルフィ,「はぁうぅ……」

少し残念であったが、この間のミルフィのようにバスタオル1枚の姿ではなく、可愛らしいワンピース……いわゆるお子様水着ってヤツを着ていた。

いや、残念と言うか、これはこれでなかなかに感慨深いものがある。

決してロリコンやぺドフィリアではない俺であるが、ちっちゃくて成長未遂なミルフィのボディに何ともいえぬほどぴったりマッチングしているのだ。

思わず、生唾ゴクン。

これはこれで衝撃的な光景であるのだが、それで終わりではない! それに加えての、このシャンプーハットだ!

お子様っぷりを二乗にも三乗にもするスーパーアイテムと言って過言ではないだろう。

確かに世の中には、傷口があったり化粧を崩したくないとかの理由により、シャンプーハットを利用するという人々もいると何かの本に書いてあった。

しかし、今のミルフィはそうではない。明らかに、シャンプーが目に入ると痛いから、シャンプーハットを使っているのだ!!
まさかこの年になってシャンプーハットを使わないと髪の毛を洗えないとは! 口でどれだけ子供じゃないと叫んだところで、誰もそんなの認めないだろう!

ミルフィのやつ、本当に子供みたいだ!

あまりのショッキング映像を見て、カルチャーショック!(ショッキングポイント:200)くらい手に入ってしまった俺は、しばしボーッと見入ってしまっていた。

ミルフィ,「ううぅ、アタルぅ、バカにしてるでしょ……」

アタル,「そ、そんなことないぞ。水着かわいいし、似合ってる」

ミルフィ,「そうじゃなくてぇ、シャンプーハットの方~!」

アタル,「シャンプーって目に入ると痛いもんな!」

ミルフィ,「うぅ……ほんと?」

アタル,「ほんとほんと」

あ、妙に弱気だと思ったら、風呂に入ってるから王冠なしバージョンなのか。

アタル,「まぁ、せっかくだしさ。頭洗うの手伝ってやるよ」

ミルフィ,「うー……で、でもぉ…………」

アタル,「ミルフィは知らないかな? 恋人同士で髪を洗いあったり、歯を磨き合ったりするの」

ミルフィ,「ぁ……し、知ってる」

アタル,「でしょ、だからやってあげるよ」

シャンプーを手のひらに出すと、俺はたっぷりと泡だてて、ミルフィの髪の毛へと手を優しく差し入れる。

ミルフィ,「んっ…………ふぅっ」

ミルフィのブロンドはお湯に濡れているせいか、いつもよりもつやつやになっていた。

アタル,「綺麗にしてやるからなー」

それに万遍なくシャンプーが行き渡るように、わしわしと手を動かしていく。

ミルフィ,「ぁ……ほんとだ……。きもち、いいかもぉ……」

緊張していたミルフィだったが、わしゃわしゃと指を動かしていくうちに、ふにゃぁとなっていく。

アタル,「気持ちいいか?」

ミルフィ,「うん……」

うむ、ミルフィも満足してくれているみたいだ。

アタル,「ミルフィの髪の毛はきれいだな」

ミルフィ,「え? ぁ……ぁりがとぅ……」

アタル,「ちゃーんと洗ってあげるからなー」

まずはこうして全体をさっと洗ってから……と。

そのうちのひと房を手にとって、両手を使って櫛で梳いていくように洗っていく。

アタル,「枝毛とか、痛んだ髪とかないもんな」

ミルフィ,「だって、おひめさまだから……。みんな、きをつかってくれるから……」

アタル,「それでもここまで綺麗なのはすごいと思うよ」

ミルフィ,「あぁう……」

糸をしごくように、毛先まで指先でつまんでいっても、全部シルク糸のようにまっすぐで艶やかだ。

ぴかぴかのミルフィの髪の毛が、明日もキラキラしていますようにと祈りながら丁寧に。

アタル,「……よし、次は頭皮のマッサージだ!」

ミルフィ,「え、い、いいよいいよ。あたしばっかりしてもらうの、悪いもん……。それに、今日はアタルのことを……」

アタル,「いいからいいから」

と、指先にかる~く力を入れて頭皮をもにもに揉んでいく。

ミルフィ,「んぅ、ぁ…………」

アタル,「毛根の汚れもしっかり取っておかないとな。年を取った時、植毛のお世話にはなりたくないもんな」

ミルフィ,「い、イスリア王家は、ふさふさの家系だから大丈夫だもん……ん、ふぁ……あぁう……」

アタル,「それでもちゃんとしたケアは大事だぞー」

生え際から少しずつ内側へと。指先を回転させて、毛根をしっかりと揉みほぐしていく。

感覚としてはないけれど、きっと毛根に溜まった脂汚れがテレビのCMみたいに外に出てきてくれているハズ。

アタル,「どうだ、ミルフィ? 気持ちいいか?」

ミルフィ,「う、うん……。気持ちいい……」

アタル,「そっかそっか」

ミルフィ,「ふあぁ……アタルの指、好き……」

そう言ってもらえれば、こっちもやりがいがあるというものだ。

指の関節がちょっと痛くなってきたけれど、やり始めた以上、こんな中途半端なところでやめられない。

根気良く、じっくりとミルフィの頭皮のマッサージを続けていって、後頭部のシャンプーハットがぶつかるところまで指を辿りつかせる。

ミルフィ,「ん……ありがと、アタル……。すごく、良かったよ……」

指先はもうビキビキで痛いんだけど、終わってしまうとちょっとばかり物悲しい。

もっと触っていたかったな。まぁ、またこういう機会はあるだろうし…………あ、そういえば。

アタル,「……そうだ、ミルフィ」

ミルフィ,「ん、なに? どうしたの」

アタル,「ちゃんと耳の裏って洗ってるか?」

ミルフィ,「あ、あらってるよ。キコちゃんじゃないんだから、ちゃんと忘れずに洗ってるもん」

アタル,「本当かどうか確かめてやるよ」

ミルフィ,「そ、そんなのどうやってたしかめ……ふぁ、ぁうぅ……」

俺はミルフィの耳の裏側に、石鹸をつけた指をすべりませた。

アタル,「まぁまぁ、一応一応」

耳の裏の皮膚から、柔らかな耳まで。穴の方に泡が入らないように注意しながら優しく洗っていく。

ミルフィ,「んぅ、ア、アタルぅ……そこ、むずむずするよぉ……」

アタル,「すぐ終わるから、我慢しろって……はい、終わり」

ミルフィ,「ンッ……はぁ……。……ありがと。きれいになった?」

アタル,「ああ、これでばっちりだ!」

耳の裏も、耳に隠れた首筋もしっかりと洗い終えた。これで汚かったりしたら、それはもう石鹸が悪いか汚れが超宇宙規模の災厄かのどちらかだ。

ミルフィ,「じゃ、じゃあ、こんどこそあたしが――」

アタル,「あっ、そうだ!」

ミルフィ,「ふぁっ、ま、まだなにかあるの?!」

そうだそうだ。洗いっこならばこれを忘れてはいけない。

アタル,「ミルフィも遊んでばっかだけど、なんだかんだとイスリアのお姫様として肩が凝ること多いだろ? こっちもマッサージしてやるよ」

ミルフィ,「えええ、いいよ、いいよ、だいじょうぶだよ。まだ若いから、ぜんぜんこってないよ……」

アタル,「……セーラさんみたいに胸もおっきくないしな」

ミルフィ,「ううう、ちっちゃいっていうなぁ……!」

アタル,「ははは、ごめんごめん。冗談だよ。俺はミルフィが全部大好きだから」

ミルフィ,「や……も、もう……こんなときにまた……ばかぁ」

ミルフィがやりあう気がなくなったところで、すかさず肩に手を置いてしまう。

ミルフィ,「ふぁっ、ン、あぁ……やぅ、ん、は…あぁ……っ」

すかさず揉み始める。確かにミルフィが自分で言うように、全然凝っているようには思えなかった。

親父の肩を揉まされた時に感じるような、あの筋ばったような部分がどこにもない。ふにゃふにゃだ。

けども。

アタル,「いやー、お客さん凝ってますねー」

お約束としてこう言っておかねばなるまい(断言)。

ミルフィ,「う、うそだよぉ……ぅあ、ふぅ、こってないよぉ……」

アタル,「そんなことないぞ。肩揉み5級のスキルを持つ俺にはわかる!」

まぁ、嘘だし、わかるわけはないんだけども。しかも、5級て。中途半端すぎる。

ミルフィ,「ひゃぅ……っは、ぁ……ら、だめだよぉ。へんなきもひに……んっ、な、なっひゃう……」

……こんな可愛い声を出されては、やめるにやめられなくなるではないか!

ミルフィ,「ふぁ、やっ……な、なんかさわりかた、えっちだよぉ」

アタル,「ソンナコトナイヨ?」

ミルフィ,「こえ、うらがえってるぅ……ん、ひゃ……えっちなこえ……でひゃうよぉ……あぅ、ゃ、はうぅ……」

アタル,「うへへへへへ」

もっともっと変な気持になれーと思いながら、じっくりねっとり肩を揉んでいく。

……けど、ほんとちっちゃな肩だよなぁ。俺の半分くらいしかないんじゃなかろうか。

標準の女の子よりも、よっぽどちっちゃくて、細い肩。こんなに狭い肩の上に、ミルフィはイスリア国民の姫への期待ってのを背負っているんだよな。

俺なんてぽっと出で、ほとんどの仕事は他人にまかせっきりで良くて、責任らしい責任なんてなくても良い、おかざりの王様だ。

そう思うと、ミルフィが抱え込む悩みというものは、俺なんかが感じるものとは全然違う重みがあるんだろう。

イスリア国王がテロリストに襲われた時のミルフィの苦しみというものは、俺が考えていたものよりもよっぽど重かったのかもしれない。

アタル,「もみもみもみ……」

ミルフィ,「ひゃうあ……あっ、だめ、あ……アタル……も、もう……すとっぷ、ストップ……ぅ!」

アタル,「もみもみもみ……」

ミルフィ,「や、やめろーっ!」

アタル,「あぶどぅっ!?」

ミルフィ,「はーっ、はーっ……アタルぅ。い、いーかげんにしないと、おっ、おこるからねー! こらぁ!」

アタル,「い、いてて……だからっていきなり桶でぶつことないだろ……」

ミルフィ,「や、やめてって言ってるのに、やめてくれないアタルがわるいんだから……」

そういうや、ミルフィはさっさと洗髪を終わらせようと、自分からシャワーを浴びてしまった。

むぅ、残念だがこれ以上は無理なようだ。

ちぇー。このままエッチなスキンシップして、いちゃいちゃしたかったんだけど。

まぁ、無理矢理して嫌われたら元も子もないしな。

ミルフィ,「そ、それに、つぎはあたしの番なんだから……」

アタル,「そう言えばそう言ってたよな。じゃあ、せっかくだしお願いしようかな」

と、俺はミルフィと場所を変わってもらおうとしたが、ミルフィはそこをどこうとしてくれない。

ミルフィ,「あ、アタルはこっちじゃなくて……あっち」

アタル,「あっち?」

指をさされた方を見てみると…………え、マット?

ミルフィ,「あそこに、横になるの……」

アタル,「マットに横になるって、それって……」

ミルフィ,「いっ、いいから横になって!でないと、もう洗ってあげないんだからっ!」

アタル,「はっ、はい!」

それは勘弁と、俺は慌ててマットの上に横になる。

お、おおぉ、これは……。

ミルフィ,「ん……んぅ…………」

マットの上、という言葉から想像していた通りの展開だった。

寝転がっても痛くないように敷かれたマットの上へと横になった俺の上に、ミルフィは自分の肌を重ねてくる。

ミルフィ,「ボディソープの量は、これくらいでたりてる……?」

初めてのことで、自分のやっていることが合っているかどうか分かりかねるのだろう。不安げに尋ねてくるミルフィがまた、かわいらしい。

アタル,「うん、ちょうどいいよ」

ミルフィ,「よかった……んしょ、うんしょ……」

俺の上にたらりと垂らされたボディソープ。それを塗り広げるように、体全体を使って動かしてくる。

ボディソープのぬるぬると、ミルフィのぷにぷにの体がいっしょくたになって、すごく心地いい。

ミルフィ,「水着を着てるけど、だいじょうぶかな?」

アタル,「何が心配なの? 大丈夫だよ」

ミルフィ,「だって、ほんとは、はだかのほうがいいみたいなんだけど……やっぱり、恥ずかしいから……」

アタル,「そんなの、気にしなくていいよ。こうしてミルフィが洗ってくれてるだけで十分すぎるほど嬉しいからさ」

ミルフィ,「そ、そっか。そうだよ、あたしが洗ってあげてるんだから、ちゃんと感謝しなさいよ」

王冠のないミルフィの精一杯の強がりに、はいはい、と頷いておく。

それに、このお子様水着というのも……これはこれでイイ。

スクール水着のごわっとした感覚でも、競泳水着のようなザラっとした感覚でもなく、ふかふかな優しいかんじ。

それがミルフィの幼児肌とあいまって、素晴らしく気持ちいいのだ。

ミルフィ,「さっき、頭洗ってもらったぶん……いっしょーけんめー、洗ってあげるからね……」

アタル,「ああ、すごくいいよミルフィ」

ミルフィ,「きれいきれいにしたげるから……んしょ、うんしょ……」

つたないながら、洗い残しがないようにちっちゃい体を精一杯使って奉仕をしてくれるその姿に心が温かくなってしまう。

ただ、こんなことをされていてそんな気持ちだけで終わるはずもないのだが。

ミルフィ,「ぁ……う……ア、アタルのおっきくなってる」

アタル,「う……」

ミルフィ,「ば、ばかぁ。からだを洗ったげてるのに、コーフンするなんて……ヘンタイ」

アタル,「し、仕方ないんだよ。好きな子にそんな風に体を洗ってもらって、興奮しない男はいません!」

バレるのは時間の問題だと分かっていた。そしてバレてしまった以上、もう俺は開き直るしかない。

ミルフィ,「もう……ばか。でも、あたしでおっきくなったんだから、ゆるしたげる……」

初めは怖い目つきで睨んでいたミルフィだったけれど、恥ずかしそうに目を伏せて。

それから、ちっちゃな手でもって、俺の肉棒をそっと握ってくれた。

ミルフィ,「ん……ぅ、もう、ガチガチになってる……」

ミルフィの短い手指では、ようやく握ることができるほどのサイズの男根に、ミルフィはつーっ、と、ボディソープを垂らす。

アタル,「ふぅっ、冷たっ」

ミルフィ,「ここは、特に念入りに、きれーにしとかないとっ」

アタル,「はっ、はうぅ……」

俺の体と同じように、ペニスにもボディソープを塗りたくろうと、手を全部使って動かしてくる。

冷えたボディソープの冷たさと、熱くなったミルフィの温かさが混じりあって、不思議な感覚が送り込まれてくる。

ミルフィ,「んふふ、びくびくしちゃってるよ、アタルのおちんちん」

アタル,「そ、そりゃ、そんな風に触られたら……っあう!」

ミルフィ,「さきっぽ、こんなにぷっくりふくらましちゃってさ。これで、あたしのナカを、いっぱいにしてくれたんだよね……」

そんな風に思い出さなくても……。

大好きな玩具を手にした幼児のように、俺のナニをもてあそぶミルフィだったが、その顔はうっとりとしていた。

ミルフィ,「さきっぽから、ていねいに、ていねいに……」

尿道口のあたりから、広がった傘の方へと念入りに動かされるぷにっとした幼さを残す丸い指先。

アタル,「あうっ、う……うぅ……」

ミルフィ,「広がってるうらっかわも、ちゃんと洗わないとね。耳のうしろみたいに、洗いのこしがあるかもしれないし」

さ、さっきの仕返しか!?

そう疑いたくなるほどにミルフィは俺の弱いところをいじってくる。

アタル,「や、そ、そこは敏感だからだめぇ……!」

ミルフィ,「だめだよー。ちゃんと、あらわないとね……こしこし」

アタル,「ひゃうぉあっ!?」

狭っこい隙間にちっちゃな指が侵入してきて、そこにもぬめりが行き届くように、くいくいと擦ってくる。

通常では鍛え上げられないそこにとって、それはあまりに強すぎる刺激であって……

アタル,「ひっ、ひぃ、ミルフィ、たんまたんま……! そ、そこはデリケートだからっ! もう大丈夫だから!」

俺は、ついそんな泣き言を発してしまう。

ミルフィ,「そうなの……? じゃあ、ここはもう終わりにして……」

と、今度は竿の方に。

ミルフィ,「こっちの、ぼうのところをあらったげる」

丁寧なストロークの動きは、さっきまでの強烈すぎる刺激に比べてうっとりしてしまうほどに心地が良かった。

アタル,「ああ、ミルフィ……それ、気持ちいい……」

ミルフィ,「アタルはこれされるの好きなんだ……ふふ、すりすり」

ただしごかれた時とも、口でされた時とも、セックスした時とも違う気持ち良さ。

ぬるっとしたボディソープが、ローション代わりになって。膨張しきったペニスの上を滑らかに動き回る。

アタル,「いい……もっと、ん、そのまま……」

ミルフィ,「まだまだ、もっと、きもちよくしてあげる……」

言うや否や、摺り寄せていた体をもっと密着させて。近づいた頭が、俺の胸板へと近づいてくる。

ミルフィ,「ん……ちゅ、ぺろぉ……」

アタル,「はっ、あうぅぅっ!?」

乳首に強烈な電流が走る!

ペニスをいじられた時のに比べれば、随分と弱いものではあったけれど。それは種類が違うからで。ショックの度合いと言う意味では甲乙つけがたい。

ミルフィ,「ぺろ、ちゃ……これ、男の人は好きなんでしょ?」

アタル,「どこで仕入れた情報かは深く聞かないけど、好き……」

ミルフィ,「だよね♪ 今、アタル気持ちいい顔をしてるもん♪」

ちっちゃな舌がちろちろと、乳輪を描くようにくるくると周る。

ミルフィ,「ちゅ……ぺろ、ん、あ、男の人も、ちくびおっきくなるんだ……えへへ、もっとなめちゃえ~」

アタル,「ふあぁ、あっ、ああぁ……!」

ねっとりとした動きで乳首の上を通り過ぎたかと思えば、今度は先っぽを硬くしてツンツンとついてくる動き。

ミルフィ,「ぺちゅ……ちゅ、ちゅぷ……ふぁ、ん、んぅ……ちゅ」

ペニスをしごきながらそんなことをされてしまえば、もうワケがわからなくなっても仕方ない話。

アタル,「はあ……あぁぁ……あっ、あっあ……」

ミルフィ,「ふぅ、ん……は、あむぅ、ん、ちゅ……ふぁ、は、あぁ……あたしも、へんな気分になっちゃう……んっんっ」

快感に耐えるのにいっぱいいっぱいになっているうちに、ミルフィの言葉にも熱が籠り始めていた。

ミルフィ,「んんぁ、はぁ、ちくびこすれ……て、ンッ、はぁ……おまたも、なんだかじんじん……しちゃってる……ぅ……」

知らず知らずと、俺の体を洗う目的ではなく、自分が感じられるような動きをしてしまっている。

アタル,「ミルフィも、気持ちよくなっちゃった?」

ミルフィ,「んぅ、だめなのにぃ。いまは、アタルにきもちよくなってもらう番だもん……んっ、んっ……」

ミルフィは体の向きをクルリと変えると、ペニスをしごき立てる動きに集中しだした。

アタル,「うくっ、あっ、そんないきなり……っ!?」

目の前にペニスを持ってきて、ミルフィはしごきやすくなったのか、手の動きがさっきまで以上に滑らかになる。

俺の目の前では、ミルフィの水着に包まれたお尻がふりふりと揺れ、その動きに合わせて、俺の股間は強い刺激を与え続けられた。

アタル,「や、やばい……それ、も……で、出ちゃう……!」

ボディソープの滑りも手伝って、絶え間ない刺激に腰が跳ねてしまう。

噴火の訪れは唐突だった。

我慢してきた迸りが一気に俺の中を駆け上っていく!

アタル,「ダ、ダメだ、もう我慢できない……!」

ミルフィ,「うん、出して、すっきりしちゃえっ。そのために、マットまで用意したんだもんっ」

アタル,「あぁうううっ! …………――っ!」

ミルフィ,「ひゃあああぁっ!? あっ……ふぁ、あ、あぁ……ぁ」

アタル,「…………ぅあっくぅっ、……っ!?」

射精と同時、びくんと大きく揺れたペニスだが、ミルフィはその手を放さず擦り続ける。

ミルフィ,「わぁ……す、すごい……せーえき、びゅっ、びゅって……い、いっぱいとんでる……ふわあぁ……」

手の動きは止めないままに、何度も打ち出される白濁の汚液を驚くような表情で見つめていた。

ああ、そういえばミルフィは、こうして目の当たりにするのは初めてだったかもしれない……。

ミルフィ,「す、すごいね……こんなにいっぱいとんじゃうんだ……」

ビックリしながらも、どこか新しいオモチャを見つけたように目をキラキラと輝かせている。

ミルフィ,「こんなにたくさん、手の中……せいえきでぐちゅぐちゅになっちゃったよ……」

アタル,「はぁ……っ、は……ミルフィ……」

ミルフィ,「アタル、きもちよかった? まんぞくできた?」

アタル,「うん、良かったよ……」

精液を出し切った後の充足感に、頭がほわほわ状態。

俺はミルフィの体を引き寄せ、密着した肌を撫でつけた。すると心の方も満たされていく。

アタル,「風呂に来いって言われたから何事かと思ったけれど、こんなに気持よくしてくれてありがとう、ミルフィ」

ミルフィ,「でも、まだゲンキだよ?」

ぎゅ、と、ちっちゃな手に握りしめられるペニスは、まだまだ元気がありあまっていてギンギンにおっ勃っている。

アタル,「だって、ミルフィの体が柔らかいから……」

ミルフィ,「また、えっちなきぶんになっちゃったの?」

うんと頷くとミルフィは一瞬だけ、いつもに似た強気の表情を見せた。

ミルフィ,「しょうがないなぁ……。じゃあ、おふろでシちゃおっか♪」

アタル,「そうだな。それじゃ……よっと!」

ミルフィ,「ふにゃっ!?」

腹筋に力を入れてぐっと起き上がると、そのままミルフィを抱え上げてしまう。

ミルフィ,「どっ、どうする気よ~!? そっちはおふろだよ~!」

アタル,「だから、お風呂でシようっての」

湯船に浸かった俺は腰をおろして、そのままその上にミルフィを下ろし――

ミルフィ,「ひゃっ、あああぁうっ」

案の定前戯はいらなかった。ずれた水着の隙間から押しつけた屹立はするりと受け入れられてしまう。

ミルフィ,「ふああぁっ、あっ、あぁ……っ。い、いっきに、いちばんおくまで……き、きちゃったよぉ……」

たっぷりの愛液が潤滑材代わりになっていて、招き入れてくれた膣口も俺を導くようにうごめいてくれている。

けど、未発達の膣中はきゅうきゅうにきつくて、挿れただけなのに、出したばかりで敏感になっていた俺のモノは危うく果ててしまいそうになってしまった。

アタル,「っ、は……っく……!」

出ちゃいそうになったのを、俺は必至に歯を食いしばって耐えた。ただ、膝の上のミルフィは耐えられなかったみたいで。

ミルフィ,「ひぅあ……っ、ひゃ、あっ、ふあぁ……ッあっあ」

俺の腕の中で、小刻みに体を痙攣させている。

アタル,「もしかして、軽くイっちゃった?」

ミルフィ,「んは…ぁあ……だ、だって……いきなり、ぜんぶ入ってきたんだよ? そんなの、たえられないよ……」

責めるように俺を睨んでくるけれど、今のミルフィじゃ子犬に見つめられているようなもの。むしろ愛らしささえ感じてしまう。

ミルフィ,「ふぅっ……おおきくなったぁ……ン、ぁ……中で、おっきくなっちゃって、びっくりしたぁ……」

アタル,「それだけミルフィが可愛いってことだよ」

ミルフィ,「もっ……もう、またそういうこという……」

照れるミルフィの後頭部にキスをして、手をミルフィの腰に回す。

アタル,「動くよ?」

ミルフィ,「ん……いいよ」

あまり激しいと、俺もすぐにイっちゃいそうだったから。最初はゆっくりと腰を揺すり始める。

ミルフィ,「はぁ、あ……ん……あぁ、アタル、かんじるよ……」

奥の方を撫でるような、浅いストローク。

ミルフィ,「つよくないけど、ちょっとずつ……ふわふわしちゃう……かんじ……は……あふぁ、あっん、ふぅ……」

ミルフィの体と同じように小さく狭い膣穴がぎゅうぎゅうに絞めつけてくる。

アタル,「はぁっ、せまいから……先っぽ、すごく責められてるみたいだ……っ」

ミルフィ,「あ……ご、ごめんね……からだ、ちっちゃくて……」

気持ちの良さに思わず呻いてしまった言葉に、ミルフィがハッとなって悲しそうな顔をしてしまった。

まずい、そうじゃないんだ!

アタル,「いや、違うよ! そうじゃなくて、すごく、気持ちいいってこと……」

ミルフィ,「そうなの……? ちっちゃいほうがいいの……?」

俺は慌てて言い直したけれど、ミルフィはいまいち信用してくれてはいないようだった。

アタル,「他と比べたことないからわからないけど……俺にとって、ミルフィの体は最高だよ」

ミルフィ,「ほんと? なら、うれしいな」

嘘偽りのない答え。ミルフィとこうしていて感じている幸せに、嘘なんてひとつもないから。

アタル,「おっぱいだって大きい方が揉み応えとかがあって良いのかもしれないけど、俺はミルフィのにこうして触っているの、すごく好きだよ」

ミルフィのコンプレックスをプラスに変えられるように、ミルフィはミルフィでいいんだよと優しく愛撫する。

ミルフィ,「ぁ……ふぅ、ん……や、えっちなさわりかたぁ……」

くすぐったそうにちっちゃな肢体をくねらせるミルフィはかわいらしい。

アタル,「だって、エッチなことしてるんだし。それとも、こうして触られるのは嫌い?」

つい、耳元でイジワルなことを囁いてしまう。

ミルフィ,「い……いじわる……ひぁっ、ふぅあ、みずぎのうえから、ちくびくりくりしちゃだめぇ……」

囁きながらの乳首攻撃に、意地の悪い発言は全て飛んでいってしまったみたいで。ミルフィは悩ましげで愛くるしい悲鳴を上げる。

ミルフィ,「ひぅん、ん……あっ、ひゃっあっあっ……」

アタル,「だって、こんなところで可愛らしくぷっくりしてるんだもん。触りたくなっちゃうよ」

ミルフィ,「ひゃぁ、あぁぅぅ……そんなふうにさわられると、みずぎとこすれて、ぞわぞわしちゃうよぉ……」

アタル,「なら、直接……とりゃっ」

するっと水着の中へと手をダイブさせ、肩紐を一気にずらしてしまう。

ミルフィ,「んんっ! ふぁっ、あ、アタルの手、あついぃ……にゃ、にゃうぅ……は、あ、んぁっ、ン…んぅ……」

直接触れるその肌は柔らかくて、お湯の中のせいか、とろとろな感じがして、触り心地がたまらない。

ミルフィ,「んっあ……アタルぅ……きもちいいよぉ……おっぱい、そうやって撫でてもらってるの、いいっん、ひぁ、ああ……」

俺はブレーキをかけることができないまま、あるかないかの乳房をダイレクトにマッサージ。

ミルフィ,「はぁ……あぁあ……そう、これ……いいよぉ……ぅう……ん……ぁ、ふぁ、あ……あぁぁ…………」

次第にミルフィの肩の上下が大きくなっていく。

手のひらに感じる心臓の鼓動も、とくっとくっという小刻みなものだったのが、ドクンッドクンッと激しくなり。

ミルフィ,「ああ、ああんぅ、ん……あ、かんじちゃってるぅ……アタルのて……おっぱいされるのいいよぉ……」

自然とミルフィの体が揺れだした。

ミルフィ,「ね、ねぇ、アタル……うごいてぇ……もっと、おちんちんで、あたしのなか、ぐちゅぐちゅにしてほしいのぉ……」

俺を求めて、ぐいぐいと可愛らしいヒップが膝の上でグラインドされる。

アタル,「ああ、じゃ、あ、動くよ……っ」

ミルフィ,「んっ、んんんっ……! ふかぁい……っは、あっ、ン!」

アタル,「っ、う……あ、あぁ………っ!」

一度出したばかりだというのに、強烈に快感が上昇する。長いストロークの中でへばりついてくる肉襞との肉棒の交錯は俺の喉から情けない声を漏らさせる。

ミルフィ,「んんぅ、ふぁ、はっ――ンッ、は――ぁ……あっ、あんっ……あはぁ……あっ、ぁ、ぁあ……んっ、くふぅ………!」

ミルフィ,「んぁ、あ、あつい……あついよ、アタルぅ……ふぁ、あ、とけちゃう……とろとろになっひゃう……」

お湯によって俺達の火照った体をひとつされていくよう。お酢と油に卵黄をいれると混ざってしまう、あんな気分。

ミルフィ,「ははぁ、あ……はぁ、はぁ、はぁひっ、ぁんっ、あっ……ふあ…あぁぁっ、のぼせちゃいそうだよぉ……」

アタル,「俺も、ミルフィにのぼせてるよ……」

視界がどんどん狭くなり、もうミルフィの姿しか……いや、それどころかミルフィの身体を感じること以外、ほとんど何も考えられなくなっていた。

ミルフィ,「アタルぅ、アタルぅっ……! もっと、もっときてぇ……もっと、アタルを感じさせてほしいよぉ……っ!」

ばしゃんっ、ばしゃんっと顔にまでかかってきたお湯を浴びて、それほどまでに動きがエスカレートしていることに気づいた。

でも、動きを緩める気にはなれない。大きく、大きく動いて、お湯と愛液が混じりあう中で、ミルフィの全部をかき回す。

ミルフィ,「んんぁあぁ、あ、あぁっ、ぅんっ、んっん……んん!」

ミルフィ,「んあぁぅ、い、イく……イっひゃいそ……アタ、アタルぅ、だっ、らしてぇ……っ! んぅっ、んっひぁ……!」

アタル,「くっ、あっ……そんな、締められたら……っ!」

ミルフィ,「ちょーらい、せーえき……っ、びゅっびゅってっ……!やぁっ、あっ、は、はぁっあっ……らしてぇ……っ!」

あぐ……も、もうヤバいダメだ、もう、限界っダメ、ダメ!出るっ、出る……イッちゃう……!

アタル,「っく、ううぅぅうぁあぁぁ……っ!」

ミルフィ,「ふぁっ、あっ、あああぁあ~~~ぁぁあぁ……っ!」

ぎゅぎゅっと絞めつけられる中で、痛みにも似た快感が俺の中から押し上がり、爆発する。

ミルフィ,「んんぁっ、あぅあっあっああぁっ、いくっ、くっうっンっ、んんぅぁあぁぁぁ~~~~っ!」

精液の塊に衝突されて、ミルフィは絶叫に近い高まりの声を上げた。

合わせて膣がまた一段と絞めつけてくる。それに助長され、金玉から搾り出された精液が迸りへと変わっていく。

壊れたオモチャのように痙攣するミルフィの幼児体型を強く抱きしめながら、俺はそのすべてを注ぎ込んだ。

湯に浸かり熱くなったミルフィの体と俺の体はとろけあってひとつになったみたい……。

アタル,「ああ……はぁ、はぁ……はぁ…………」

ミルフィ,「はぁ、あ……んぁ、は……あ、ああ……」

脱力した俺達はただ体を重ねあわせたまま、湯船に身を預けていた。頭がぼうっと呆けてしまう……。

ミルフィだけは時折、思い出したように体を痙攣させて。それでまたきゅっと締めつけられて、余韻が強くなる。

ミルフィ,「ん、アタル……ちゅ、ちゅ……」

名を呼ばれ、上げられた顎に手をかけて、唇を重ねあわせて……。

ミルフィ,「2回目なのに、すごくキモチよくなっちゃった……」

アタル,「もう、痛くない?」

ミルフィ,「ヘンなかんじはするけど……それより、ステキな気分になれちゃってる……」

ミルフィ,「……ね、アタル?」

アタル,「ん……?」

ミルフィ,「また、おふろで背中、流してあげるね。だから……」

ミルフィ,「アタルも、あたしの頭、洗いなさいよ?」

アタル,「了解です、お姫様……んっ」

ミルフィ,「ちゅ……」

俺は優しく柔らかくキスをして、ミルフィの小さな体を抱きしめ直した。

アタル,「ふわぁ……おはよう、柴田さん」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「おはようございます、アタル王」

俺は柴田さんに挨拶をして、席に着いた。

この前までに比べれば、人数の減った王宮の朝は寂しい。

それでもこうして数日暮らしている内に慣れてしまったもので、この1人で過ごす朝の時間への違和感は薄れてきた。

……そう、相変わらずミルフィは起きてこない。

アタル,「まったく、昨日も夜遅くまでアニメなんて見てるから」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「今はインターネットを用いれば、番組を見ながらリアルタイムで共感情を抱くことができますからね。録画などで見るような人間は軟弱者ということですよ!」

アタル,「……社会に生きる人間としてそれはどうよ?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「ふふ、そもそも社会での生活なんて、パンを得ることができればそれ以上は不要な代物なのですよ」

アタル,「そんな考えがニートや借金地獄の主婦を生んでるんじゃないかなぁ……」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「しかし今日は、ミルフィ姫は、朝当番があるから早い時間に出なければならないのではありませんでしたかな?」

アタル,「……あ」

そうだ、あいつ今日は日直じゃなかったっけ。

いくら姫とはいえ、日直をサボらせるわけにはいかない!

本音を言えば、同じ家で寝起きをしている以上、連帯責任を取らされるかもしれないからな。

アタル,「……ちょっと叩き起こしてくる」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「ご武運を、アタル王」

すぐに起きてくれるといいなぁ。

…………

……

ん、あれ、エリスさんがいないぞ?

ミルフィの部屋の前に、いつも陣取ってるはずのエリスさんの姿がない。トイレかな……? いや、エリスさんがそんな理由で任務から離れるとは思えない。

とすると、エリスさんが起こしてくれているのかも。

考えてみれば、ミルフィのスケジュールをエリスさんが知らないはずがない。

彼女としてもミルフィを立派な姫とするために、行儀やルールの指導はす……る、かなぁ……?

エリスさんがいるなら安心だと踵を返そうとしたところで、動きが止まってしまう。

ミルフィに対してダダ甘のエリスさんのことだ。下手をすれば日直など王族がすることではないとか何とか言って、二度寝三度寝を許しているかもしれない。

アタル,「……やっぱり、この目で確認しておこう」

ミルフィの部屋の前へと再び足を向けて、扉をノック。

アタル,「おーい、ミルフィ。起きてる……か…………」

ひとつ目のノックした拍子に、ちゃんと閉まっていなかった扉は微かな蝶つがいの音を立てて半開きになってしまう。

目を背けようという思考が頭に浮かばず、つい、視線はその隙間から内側へと入りこんでしまって、その先には……。

ミルフィ,「ふにゅ……」

エリス,「姫様。しっかり目を開けてください」

ミルフィ,「でも、ねむ……むにゃむにゃ……」

エリス,「今日は日直の日ですよ」

ミルフィ,「いいよ、日直なんて……にゅ、それより寝たむにゅ……」

エリス,「いけません、姫様。クラスの一員として姫様に与えられた大事なお仕事なのですから」

つい見えてしまったその部屋の中では、エリスさんがミルフィの着替えを手伝っているところだった。

俺の心配なんて杞憂だというように、さすがはエリスさん。しっかりとクラスの仕事の大事さをミルフィに伝えている。

この分なら、俺が注意しなくても……

エリス,「……ああ、しかし、おねむな姫様はなんとかわいらしいのでしょう……」

――って、何を言ってるんですかエリスさん!?

さっきまでの真面目な姿はどこへやら。まさかのミルフィへのデレモード発動に、思わず声を上げそうになったじゃないか!

エリス,「い、いやいや、いけませんいけません。せっかくご学友と隔たりなくお付き合いができるようになったのです。責任は全うしなければ」

そ……そうだよ、そう。

ミルフィ,「だいじょーぶだよ、日直はもうひとりいるしー」

エリス,「バックアップがあるのならば、もう少しお休みになっても大丈――いえ、そんなはずありません」

迷うなよ! 予備がいるから大丈夫みたいな考え方、どう考えても良くないよ! 一兵卒だって立派な人間だから!

エリス,「姫様、きちんとしてください。ボタンが留められません」

ミルフィ,「むにゅ……」

キリッと表情を直したエリスさんは、はだけたままだったミルフィの制服の前のボタンを留め始め――た、はずが、唐突にその動きが止まってしまう

なんで、どうして!?

エリス,「……はぁ、姫様のお胸はなんとかわいらしいのでしょう」

って、なんじゃそりゃー!?そんなの、うっとり呟くことじゃないから!

エリス,「今日のブラジャーが本当によくお似合いです」

ミルフィ,「ブラジャー&ショーツ? 昨日の夜はすごかったわよー。ミクロの決死圏でサナダ虫堕天使と大バトルだったんだからー」

ミルフィは何を言っているんだ……?寝ぼけた頭で、昨晩のアニメの話をしているのか?

エリス,「はい、大興奮でございましたね……ハァハァ」

ちょっと待て、エリスさん!? あんたの大興奮は、今、目の前にあるブラジャー&ショーツだよな!?

ミルフィ,「さいごのー、人体模型を使った特撮の爆破シーンはすごかったわー。さすがはダイナックスよー。DAICON魂よー」

エリス,「自分も姫様のフィギュアがあれば、いつまでも愛でさせていただくのに……」

ミルフィが寝ぼけてワケわからん状態だからって、好き勝手言ってやがるなぁ、エリスさん!

これ……このまま放置しておいて良いのか……?

エリスさんに任せておけば万事大丈夫――と、言いきれそうにないから始末におえない。

ミルフィが日直を間に合うためには、俺が入りこむしかない……んだろうけれど。

俺も俺でこんな着替えの覗きみたいな真似をしているから、何も考えないで中に入ることなんてできやしない。

エリス,「はぁ、姫様……まるでお人形のようです……」

あああ、本当に今朝のエリスさんは絶好調だな!

こうなったらもう、強くノックをして音を立てて、気づいてもらうという風にするしか――

エリス,「……くっ、アタル王め!この天使のような姫様を、毒牙にかけるとは……っ!」

――へ?

ミルフィ,「アタル……? アタルはね、あたし、だいすきだぉ」

エリス,「くっ、くうぅぅぅぅっっっぅ! 憎し、憎しっ!」

エリス,「この肌を、唇を、愛らしいバストを!アタル王が好き勝手にしていると考えただけで、自分は殺意に呑みこまれてしまいそうに!」

ちょ、ちょ……え、ええええー……。

エリス,「ああ、あの男の手に揉まれたせいで、無残にもこの可愛らしいデザインのブラジャーが似合わなくなってしまったらどうしてくれようか!」

エリス,「許されるものならば八つ裂きにし、息の根を止め、人体のパーツと言うパーツを野ざらしにして禿鷹の餌にしてやるというのに!」

ミルフィのことが好きなのは知っていたから、何かしら悪い感情を抱かれているんだろうなー、とは漠然とおもっていたけれど。

ま、まさかそんなに言われるほど憎まれていたとは……。

……とすると、これまで撃たれてきたのも、冗談ってことはないんだろうなー。あははははー。

うぅ、見なければ良かった……。

あまりに衝撃的すぎるエリスさんの発言に、俺はよろりくらりとしてしまった。その拍子に、

アタル,「あ………………」

エリス,「ッ!? 何者です!!」

アタル,「おうわえぁあおぁああぁぁっ!?」

じゅ、銃弾が俺の横2cmに突き刺さった!いくら当たらなくったってビビるわ!

エリス,「アタル王? 何をしに……はっ、まさか、ミルフィ様の御着替えを覗くなど破廉恥なことをしていたのでは!」

アタル,「ちっ、ちが…………!」

ミルフィ,「アタルぅ……? ……アタル? ん、え、あたし……着替え…………キャ、キャアアァアアァァ!」

エリス,「ああっ、やはり姫様のやわ肌を視姦しようと企んで!」

アタル,「誤解だ! むしろ、それはエリスさんの方――」

ミルフィ,「エリっ、あの破廉恥野郎を叩きのめしてっ!」

エリス,「御意っ!」

アタル,「ちょ、ちょまああぁあぁぁぁぁっ!?」

…………

……

ミルフィ,「日直間に合わなくなりそうってんなら、なんでそう普通に起こしに来ないのよっ!」

アタル,「起こしにいったの! 勘違いしたのはそっちだろう!第一、俺じゃなかったら死んでたぞ!」

エリス,「ミルフィ様、朝食は無理でもミルクだけでも」

ミルフィ,「ありがとう、エリ」

ちくしょう、俺に謝罪する気はないらしい。

エリスさんもエリスさんだ。軍人ならば、もうちょっとクールであるべきじゃないのか。

まぁ、彼女の秘密を知ったようなものだし、何かあった時には遠慮なく……使える系統の弱みじゃないよ……。

ミルフィ,「アタル。あんたはあたしの着替えを見た罰として、ポーシャを作りなさいよ!」

アタル,「謝罪もせずに逆に賠償を求めるとか?! いや、だから何度も言うけどポーシャは無理なんだって……」

ミルフィ,「証拠もなしに無理と言われても信用ならないわっ!そうだわ、作れない証拠を提示してみなさいよっ!」

アタル,「んな、無茶な……」

出来ない証拠なんて、幾らでもイチャモンをつけられる系統のもんじゃないか。

柴田,「ふむ、そこまで仰るのでしたら、一度技術者にあってみるというのはいかがでしょうか?」

アタル,「は? 技術者に会う?」

柴田,「ポーシャのオリジナルを作っている天王寺財閥には個人的なコネクションもございますので、早速今日の夕方にでも来てもらうよう取りつけます」

ミルフィ,「話が早いわ。くるしゅうないぞ」

柴田,「有り難き幸せ。ともあれ、ミルフィ姫は日直というお仕事があるはず。詳しい話は後ほど報告させていただきます」

ミルフィ,「はっ、そうだった! 急ぐわよ、エリっ!」

エリス,「は、既に前庭にアパッチの準備はできています」

アタル,「何で軍用ヘリ!? しかも、アパッチで通学とかありえないっ! どこを襲撃する気だ!?」

ミルフィ,「じゃ、面会のことは頼んだからねー!」

…………

#textbox Ksi0110,name
柴田,「やれやれ、朝から嵐のようでしたね」

アタル,「そんなことより、あんな約束して大丈夫なのか?技術者に会わせるなんて……」

#textbox Ksi0120,name
柴田,「ええ、大丈夫ですよ。こういうものは門外漢が幾ら熱弁するよりも、専門家に一言言ってもらう方が効果的ですから。それに……」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「誰も、真実を教えるとは言っていませんよ?」

アタル,「……悪魔だ、あんた」

…………

……

そして、ついに。

ミルフィへニッポンの真実を伝える時がきた。

主任,「は? 二足歩行ロボですか? アニメなんかにある?いやぁ、そんなの無理ですわ。無理無理」

語尾に(笑)がつきそうな小馬鹿にした調子で、天王寺の次世代技術開発第一研究所技術開発主任と長ったらしい肩書で紹介された男は笑っていた。

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「えー……そうなの……?」

主任,「国王様に命令されても、無理なものは無理ですよ。いくらうちが天下の天王寺と云えどもね。そうだろう、金子くん」

技術者,「もちろんです、研究主任」

主任に随伴してきた、金子くんと呼ばれた若い技術者が、こちらは慎ましい態度で頷いた。

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「むー……」

そう説明されても、ミルフィは釈然としない顔。嘘をついているんじゃないかと疑いの眼差しで見ている。

主任,「いやぁ、いくらそんな目で睨まれても、無理ですよ。あ、このカステラは美味しいですな。さすが国王様」

が、研究主任にやましいところはこれっぽっちもない。元々デリケートという言葉からかけ離れた性格もあるのだろうけど、平然とお茶菓子にパクついている。

アタル,「――っていうわけなんだ。ごめんな、ミルフィ、今まで本当のことが言えなくて」

アタル,「今のニッポンには巨大ロボットなんてないんだ。重要機密とか、そういうわけじゃなくてさ」

以前、ミルフィが衛星からの映像を見たという、等身大ロボットの詳細についても、事細かに説明する。

あれは外装だけで、本当に動く代物ではない、と。

ミルフィの巨大ロボットへの夢と憧れは、実に呆気なく、本職によって否定された。

だが、そのことをミルフィに告げても落胆こそすれ、いきなりニッポンを滅ぼすような癇癪は起こしたりしないと、俺はこの1ヶ月強の生活で察した。

だって、彼女はこの国を気に入ってくれているのだから。

アタル,「今は無理だけどさ。ちゃんとポーシャが作れる時代がきたら、イの一番に作るっていうのは約束するよ、絶対」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「ほんとう……?」

アタル,「もちろんだって、ねぇ?その時は、協力してくれますよね?」

主任,「ん? ああ、ええ。もちろん作れるようでしたら、すぐにでも作ってみせますよ。わっはっは」

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ミルフィ,「や、約束だよ! 約束だからね!」

しょぼーんと肩を落としていたミルフィだったが、その一言で少しだけ元気を取り戻した。

しかし、それで終わりにはさせまいと、技術者の目がキラリンと光る!

技術者,「しかし、そう期待させるだけでしたら、それは天王寺で働く者としては手落ちでしかありません」

技術者,「そこで本日は玩具部門から、次期主力製品となります試作段階のものを、特別に姫様のためにと預かって参りました」

柴田,「こちらになります」

と、柴田さんが指パッチンすると、壁がべろりとめくれてその裏側に大量のおもちゃが!

ミルフィ,「わ、わ、わぁあああぁぁ~~~っ!」

ミルフィ,「おしゃべりポーシャに恨み言ポーシャに般若心境ポーシャですって! あ、あっちにはランダム……え、まさかこれ、新作……? え、映画版の噂は本当だったの!?」

技術者,「まだ未発表のものもありますので、他言はされないようにお願い致します」

ミルフィ,「もちろんよ! ありがとう、技術者さん!早速開けてもいいのよね?」

エリス,「いえ、お待ちください、姫様」

ミルフィ,「どうして止めるのよ、エリ!いくら貴女でも許さないわよ!」

エリス,「柴田さん、あの玩具は――」

柴田,「無論、危険物チェックは全て完璧にしてあります。全て利用方さえ間違えなければ、害の出るものではありません」

ミルフィ,「あたしがそんなランドリーに猫を入れるクレーマーみたいなことするわけないじゃない! それじゃ、いいわよね、エリ?」

エリス,「ええ、もちろんです姫様。天王寺の方にも、非礼をお詫びします」

技術者,「いえいえ、身辺に気を使うのは当然のこと。当社としましても安全に楽しんでいただけることこそが、至福なのですから」

ミルフィ,「やっぱりニッポンのおもちゃはいいわね! デザインセンスではイスリアが上だけど、このギミックや遊び心はニッポンの方が格段に上だもん!」

技術者,「ミルフィ様に満足頂けとあれば、きっと開発者たちも喜ぶと思います」

ロボについて快い返事はなかったものの、玩具をもらえてミルフィは大満足のようだ。

これで巨大ロボットについて、頭から離れてくれればいいんだけど。

…………

……

主任,「いやぁ、わざわざ国王様にお見送り頂けるとは。光栄の極みですなぁ、はっはっはっは」

アタル,「わざわざ呼びつけてしまったわけですから、あはは」

玩具で遊ぶミルフィとエリスさんは屋敷に残しておいて、俺と柴田さんは2人の技術者を見送りにやってきた。

研究主任の方からは、どうも俺を下に見ている様子が見られるが――このくらいは仕方ない。

『どうせ国のお飾りみたいなもんだ。ヘコヘコしておけばOKだろ』

露骨にそういう風な態度を取ってくる人とも、これまでに何度も会ってきたからな。慣れっこってなもんだ。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「では、お車に」

普段、乗る機会なんてないだろう高級外車を前に、研究主任は目を子供のように輝かせて、後部のシートに入りこんでいった。

技術者,「……アタル王、柴田様」

その様子を半分呆れながら見ていると、すっと若い女性技術者が近づいてきて、目だけで会釈をしてくる。

技術者,「御用命通り、何も知らされず、肩書だけは立派な、馬鹿で間抜けなボンクラ技術者を用意しておきました」

アタル,「ハハハ。そこまで言わなくても……」

そう、つまりはそういうことであった。

アタル,「それで、進行具合はどうなんですか?」

技術者,「もうすぐ仮組も終わります。約束の日程までには十分に間に合うでしょう。お披露目会のセッティングが必要でしたら、是非、天王寺にお任せを」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「勿論です。お礼は約束の通り。それと、例の開発データについても」

技術者,「ありがとうございます」

主任,「金子くん。何をしているんだね! 早く乗りたまえ!」

車の中から、何も知らぬ主任が焦れたのか呼んでいる。

俺たち3人は目配せをしあうと、それで会話を打ち切ることにした。

そう、ニッポンに巨大ロボットは存在していない。

――今のところ、は。

…………

……

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「ぎゅーん、がしゃーん! ずばばばー! くそ、やりおるわジェネラル少佐! だが、この新型ならー! ゆけぇ、クロウっ! シュインッシュインッシュババーッ!」

アタル,「………………」

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「こなくそめ、ちょこざいなっ! この私を圧倒的物量で押し切ろうなど、片腹マックスペイン!」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「――って、アタルも見てないで、一緒に遊べー!」

アタル,「え? ……あぶなっ!?」

もらったばかりのオモチャでもってベッドの上で遊んでいたミルフィが、いきなり横にいた俺へとソレを投げてきた。

アタル,「あぶねっ! てか重っ! これ、超合金っ!?超合金ポーシャじゃないか!」

手にしたそれは、ものすごく硬くて重い。直撃してたら、痛いってレベルじゃない。

アタル,「もらった玩具を投げたりしちゃいけませんっ!」

受け止めたから良かったものの、まったく。

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「ぼーっとしてるアタルが悪いのよ! なんでぼーっとしてるのよー! 新製品をこんなにいっぱいもらえたのよっ! 今、遊ばないでどこで遊ぶってのよ!」

アタル,「俺もいろいろ考えることがあるんだよ」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「ぶー。一緒にいるのに考え事とかってありえないわよ」

考えごとの内容を言ってしまえばミルフィは納得してくれるかもしれないが、ここで口にするわけにはいかない。

せっかくサプライズのために極秘極秘で動いているのに、全部台無しになるからな。

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ミルフィ,「……その考え事って、あたしと遊ぶのより大事なの?」

アタル,「まぁ、大事っちゃ大事かなぁ」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「む、むきーっ! なんか許せないっ!バカバカ、アタルのバカーっ!」

アタル,「な、なんでそんなに怒るんだよ!?」

何がミルフィの逆鱗に触れたのか。いきなり怒り大爆発。

アタル,「ちゃんとさっきまで一緒に遊んでたじゃないか。それにさ、俺だって考え事のひとつやふたつあるんだから」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「んなの関係ないわ、ばかやろう~っ!」

アタル,「り、理不尽にも程があるぞ!!」

こっちはプライベートの時間を割けるだけ割いてミルフィのワガママに応えられるようにしているってのに。

ミルフィは言うや手近にあった玩具をひゅんひゅん飛ばしてくる。俺はそれをひらりひらりと避け――うほっ、あっぶねぇ……。また超合金が飛んできた……。

アタル,「ま、待て待て、話しあおう!それ以上やったら、オモチャがかわいそうだ!」

玩具をギリギリで避けてたせいで、ベッドから落ちて床にへたりこんでしまった俺は、慌てて両手を前に出して停戦を申し出る。

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「む~~~っ!」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「つまんないつまんないつまんないのーっ!これだけのオモチャを前にして、遊ばないアタルつーまーんーなーいーっ!」

アタル,「わかったよ……遊ぶ、遊ぶから」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「そんなイヤイヤ言われて誰が喜ぶかっ!」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「それより、もっと面白い遊びを思いついたのよね」

ニヤリと、見るからに不穏な笑み。おい、何を企んでいるんだ。

へたりこんだままの俺の前まで寄ってきたミルフィは、おもむろに細い脚を伸ばしてきて――

アタル,「ぬあぁぅ!?」

そのちっちゃな足が俺の股間をいきなり踏みつけてきた。

ミルフィ,「ふふ、どう? 面白い遊びでしょう?」

アタル,「こ、これのどこが面白いんだ……ぬ、ぅおぁ……!?」

ズボンの中に隠されている部分を探り当てるようにもぞもぞと、俺の上で足を動かしてくる。

ミルフィ,「全然構ってくれないんだもん。だから、悪いアタルへのお仕置きよっ」

アタル,「お、おいやめろ、エリスさんが表にいるんだろ?」

エリスさんはいつもこの部屋の前で待機しているはず……。

いつ何時彼女が入ってくるかもしれないところで、こんなことをされているところを見られたら、俺の面子は!

ミルフィ,「大丈夫よ、こっちが呼ばないか、セキュリティが働かない限り、部屋の中のことはエリだってわからないようになってるんだから」

気にすることなんてないわ、と余裕の表情で俺への陵辱を続けようとしてくるが、こっちだって『はい、そうですか』と受け入れることなど出来やしない!

アタル,「何があるかわからないだろ! セキュリティが誤作動を起こす可能性だってゼロじゃ……」

ミルフィ,「ええいっ、うるさいっ!」

アタル,「ふぐぅぅぅっ!?」

いきなり思いっきり股間を踏み込まれて、俺は息を詰まらせてしまう。

アタル,「あ、アクセルにせよブレーキにせよ急な踏み込みは……」

ミルフィ,「何を言ってるのよ、おかしくなった?」

アタル,「女にゃわからないだろうが、この苦しみを受ければおかしくもなるさ……」

自分でも何でそんなことを口走ってしまったのかわからないが、それだけぶっ飛ぶような苦しみがあったのだ。

ミルフィ,「苦しいのは良いことね。これは罰でもあるんだから」

アタル,「罰って、一緒に遊ばなかっただけでこの仕打ちか!?」

ミルフィ,「それだけじゃないでしょ!胸に手を当てて、よーく考えてみなさいよっ!」

と、言われても……。

俺、ミルフィのために結構頑張って動いているつもりなので、こんなヒドイことをされるようなことが思い浮かばない。

ミルフィ,「今日の朝、着替えを覗いたじゃないのっ!」

って、それかぁ!

アタル,「あれは不可抗力だし、大体俺は誤――って、ううっあ……はっ!?」

言い返そうとしたがそれをさせまいとするように、ちっちゃな足でぐいぐいと、こっちの弱いところを押して来る。

アタル,「や、やめろよ、マジで!」

うあっ、そんなに揉むように動かされたら、うっ、マズイことになっちゃう!

ミルフィ,「何、自分が被害者みたいに言っているのよ。そんなこと言ってさ……ほら、アタルのココは悦んでるんじゃないの?」

……うわぁ、バレてたか。

俺の変化を目ざとく察知したミルフィが足を前後に振ると、ズボンの中の柔らかさが少しずつ固くなり始めて。

アタル,「こ、これは違うんだ」

ミルフィ,「何が違うの? 女の子の足で踏まれておちんちんをボッキさせちゃってさ」

ミルフィのちっちゃなおみ足の下では、一度膨らみだしたペニスはもう否定出来ないほどに盛り上がってしまっていた。

ミルフィ,「ほら、こうして指の先っぽで撫でてあげると、どんどんカッチカチになっていくわよ」

アタル,「だ、だからやめろって……」

言い返そうとした時、ふとミルフィの太ももが大きく動いて、スカートがふわっとまくれ上がった。

いやでも目に入ってしまうのは、黒い影の中にある隠されたトライデントゾーン。

ヤバいと思って目を背けたが、もう遅い。

ミルフィ,「やめろっていうクセして、なぁに、どこを見ているの?」

やはりこれもバレちゃってたか……。

アタル,「な、何も見てないよ?」

一応逃げ道がないか探してみるも、やはり許されない模様。

ミルフィ,「う・そ・つ・き。それくらい、見ていれば丸わかりよ」

また、ちらっと少女の太ももを開いて見せたのは、きっと俺の反応を見るためにわざとだ。

ミルフィ,「そんなアッツい視線で見つめちゃってさ。気づかないはずないじゃないの、えっち」

アタル,「そ、そんなこといって、ミルフィだって、見られてるだけで興奮してるんじゃないのか? パンツに染みができてるぞ」

ミルフィ,「あら、なんでそれがわかるの? 見てないなら、わかるはずないのにね」

アタル,「しまった!?」

これ以上とない、わかりやすい墓穴を掘ってしまった!

ええい、こうなったらもう取り繕う必要もない。

アタル,「……そ、そうだよ、見てるよ。そりゃ見るよ。男なんだから仕方ないだろ!」

ミルフィ,「開き直るなっ、このヘンタイッ!」

アタル,「ひぃいっ!?」

ミルフィ,「男って、こんな風に足でおちんちん踏まれながら、ヒドイこと言われるのが好きなんでしょ?ほんと、ヘンタイ」

アタル,「べ、別に好きってわけじゃな――んぐぁっ!?ひっ、そこだめぇ……っ!」

ミルフィ,「ズボンが破けちゃいそうなくらい、膨らませちゃってる。何を言ってるんだか」

呆れたように言いつつも、パンパンに幕を張っているテントにミルフィは喉を鳴らした。

ミルフィ,「……でも可哀相だし、表に出してあげるわ」

一度ベッドから腰を浮かせたミルフィが、器用に俺のベルトを外して前を開け放つ。

ぶるんと表に出てきたソレを見て、何度も見てきたモノのはずなのに相変わらず目を丸くする。

ミルフィ,「すっごぉい……。足で踏まれてただけなのにバズーカ砲みたいになっちゃってるわよ」

って、驚いていたのはソッチのことか。

アタル,「……そういうもんなんだから、仕方ないんだよ」

完全に諦めきった俺はそう呟くことしかできない。

それよりも、蒸れたズボンの中から外に飛び出たことで、さっきよりもだいぶ楽になった。

――と、思ったのも束の間のこと。

ミルフィ,「……えいっ♪」

アタル,「うああぁっ!?」

ぷよぷよした赤ちゃんのような足の裏と言えど、体重をかけられて、ぐぐっと踏まれてしまったら、結構な怖さが駆け巡る。

アタル,「ああっ、そんな、踏みつけられたら……っ」

ミルフィ,「ふふ、腰が揺れちゃってるわよぉ。なっさけないの~」

情けないかもしれないが、考えていたよりも踏まれるのって断然気持ちよかった。

ミルフィ,「んん、ふぅ……足の裏から、伝わってくるよ、アタルの体温……」

勃起したモノにかかる絶妙な体重。それが前後に揺れ始める。

アタル,「うあっ、そこ、裏筋……やば……っ、ふぁ……」

裏筋をミルフィのちっちゃな指が撫でていく。

ミルフィ,「へぇ~、この裏っかわにある血管みたいなのが、ウラスジなんだぁ。ん、知ってるわよ。男の人ってここも弱いんでしょ?」

弱点と言われりゃ、ペニス全体が弱点みたいなものだが、言われた通り裏筋を撫でられるともどかしいような快感に息が熱くなってしまう。

ミルフィ,「わぁ、タマもこんなに膨らんじゃうんだね。針で刺したら破裂しちゃいそうだよ。……ためしてみよっか?」

アタル,「や、やめろぉっ!」

硬くしたつま先でつんつんとつつかれ、本気で俺は焦ってしまう。黄金球が傷つくところなんて想像なんてしたくもない!

ミルフィ,「くすくす、やだなぁ、冗談に決まってるじゃないのよ」

俺の狼狽える姿を見下ろしながら、ミルフィはニヤニヤと笑う。

サディスティックな光る瞳、その言葉には熱っぽいものがたっぷりと篭っていて、これもミルフィの本性なんだろう。

アタル,「冗談に聞こえなかった――はぐぅっ、ひゃぁ!」

ミルフィ,「あたしが冗談だって言ってるのに、そういうこと言う悪い子にはオシオキしないとね。ほうらほうら、キンタマ踏まれてどんな気持ちよ?」

アタル,「っ…………」

ぷにっとした足の裏といえど、こうして踏まれていれば、痛みはなくても恐怖に襲われる。

……なのに、どういうわけか奇妙な感覚が、腰の裏っかわの辺りでもぞもぞとしていた。

苦しいのに、もう少し強くと望んでしまう悖反的な意識に喉が鳴ってしまう。

ミルフィ,「へぇ、答えられないほど気持ちイイんだ」

耳ざとくソレを聞きとってしまったか、ミルフィはそれはそれは嬉しそうに唇の端を釣り上げた。

そしてさらに強い力を――欲しくなんてないのに、求めてしまっている上からの圧力を、俺の陰嚢へとかけてくれた。

アタル,「ぁっ、くっ…………っ、ぅ……ぁ、あ……っ」

ミルフィ,「そんなにコレがいいなら、サッカーボールみたいに蹴ってあげようか?」

アタル,「ちょっ、それはさすがに……!」

ミルフィ,「ばーか。冗談に決まってるじゃないのよ。それでタマナシにでもなっちゃったら、あたしだって困るんだから」

よ、良かった……。そう、ホッとしているはずなのに、残念に思ってしまっている俺もいる。……なぜだ!? 俺にこんな趣味はなかったはずなのに!

ミルフィ,「ほらほら、いっぱい子種が出来るようにいっぱい足でマッサージしてあげるわよ」

アタル,「ふああぁ、あ、ああぁ……」

そんな戸惑いもタマをもみもみとされている内にどっかに言ってしまう。

ああ、こんなに可愛い女の子に足でいじられて、それで悦んでいるなんて、俺ってやつは……。こんなの認めちゃいけない、認めちゃいけないんだ……。

ミルフィ,「ふふ、気持よさそうな表情しちゃって。キンタマ踏まれてハァハァしちゃうなんて、男の中のクズみたいね」

アタル,「ちが……俺は…………っう、っく……ん」

ミルフィ,「何が違うと言うのよ。ほら、先っぽ、こんなにパンパンに膨らんじゃってる」

アタル,「うああぁっ、うぅぅっ……!」

金玉を踏んづけていた足が、つーっと上がっていって、そのつま先でもって先端をツンっと蹴られる。

強烈な痛みに腰が跳ねる。にも関わらず、俺の口はだらしなく開いて喜びの声を上げてしまう。

ミルフィ,「先っぽ蹴られてそんなに喜ぶなんて、ヘンタイの言葉じゃぜんっぜん足りないくらいよ」

そう言いながら、膨張しきった雁首を足の指で器用に撫で回してくる。触られたところから伝わってくる甘痒い気持ちに俺の肩は勝手に揺れていた。

ミルフィ,「なぁに、足の指でいじられるの、そんな声を出しちゃうくらいに気持ちイイの?」

アタル,「そ、そこは特別敏感なんだよ……」

ミルフィ,「へぇ、そうなんだ~」

しまった! 良いこと聴いたというように目を細めたミルフィを見て、俺は自分がヘタを口にしてしまったことに気づいたがもう遅い。

ミルフィ,「なら、もっと愉しませてあげる」

アタル,「くぁあぁっ!? くふっ、や、やめ……おはぁっ、うお」

親指と人差し指がいっぱいに広がって、挟みこんでくるように動いてくる。

強烈な快感に腰は浮き上がり、身体の奥から切ないものがこみ上げてきて、息が詰まる。

ミルフィ,「あははは、すごい情けない顔! ほら、おしっこ出す穴から、とろとろしたおつゆがたっぷり出てきちゃったわよ?」

溢れたカウパーは、ミルフィの指をぐちゅぐちゅに濡らしていた。

自分の先走りがローションのようになって、足の指がさらになめらかなすべりとなったせいで快感は増している。

ミルフィ,「出したいんでしょ? もうたまらないんじゃないの?」

アタル,「ううう、そ、そんなこと……」

ミルフィ,「ガマンしなくていいんだよ? まぁ、足で踏まれてイッちゃうなんて、オトコとして屈辱的なことかもしれないけど」

完全に自分が優位に立っているからって、ミルフィのやつ俺を貶めるようなことをボンボン言ってくる。

でも、悔しいけれどミルフィが言う通り、イキたくて、さっきからチンポは熱いような甘痛さに何もやり返せない。

ミルフィ,「はぁ、はぁ……ほら、ガマンしてないで早くイッちゃいなさいよっ……! えいっえいっ!」

ミルフィ,「ん、あ、はぁ、はぁっ、あぁ……」

絨毯に爪を立てて、歯を食いしばり、耐えようとしていたが、もう、駄目だ……っ!

アタル,「ミルフィ、あぐっ、い、イくっ!!」

ミルフィ,「ひゃっ、あ……ふわぁっ…………!?」

ミルフィ,「は、あぁ、すごい……。精液、こんなところまで飛んできちゃってる……足なんてもう、ドロドロぉ……」

ミルフィ,「イスリアのお姫様の足を、精液でこんなに汚しちゃうなんて。ニッポンの国王様はずいぶんとシツケがなってないみたいね」

アタル,「そうさせたのは……お前だろ……!」

ミルフィ,「口答えすると、この足を口に突っ込むわよ?」

アタル,「う、それだけは……」

自分の精液でドロリと濡れた足を口の中に入れるというのは、世間的にはご褒美なのかもしれないが、やはり抵抗がある。

ミルフィ,「なら、これは追加でオシオキをしないといけないわね」

アタル,「ま、まだ何かするの?」

ミルフィ,「決まってるじゃないのよ、バカ。それともアタルは、ひとりだけ気持ち良くなって終わりにするつもりだったの?」

ほら立ってと、気怠さ残る俺の身体を無理矢理引き起こそうと、一生懸命手を引っ張られたら俺も起きるしかない。

この続きがどんなことかは、呆けて頭の回転がよろしくない俺にも理解できた。

ミルフィ,「ほら、次は、アタルが動いてあたしを気持ちよくするんだからねっ」

アタル,「かしこまりましたよ、お姫様」

俺はミルフィの身体を抱きしめると、キスをして、そのまま2人して、ふかふかのベッドへと倒れこむ。

…………

……

アタル,「なんだ、やっぱりミルフィのここ、とろとろじゃないか」

ミルフィ,「アタルだってそうじゃないの。それにアタルの方が一回出してるのにそんなんなんだから、あたしの勝ちよ!」

勝敗と言われても意味がわからないが、口答えするのも面倒くさい。

ここまで2人の準備が整っている状況で、いつまでもだらだらとしていたくはなかった。

アタル,「挿れるよ?」

ミルフィ,「う、うん……」

さすがの強気なミルフィもこの時ばかりは、気弱さがほんの少し垣間見える。

胸の奥が熱くなるのを感じながら、俺はミルフィの脚を抱え上げてゆっくりと間に割って入っていく。

ミルフィ,「ん、んくっ、う、ん…………っ」

相変わらずキツキツな入り口は、亀頭を跳ね除けようとしているかのようだった。

けれど、半ば強引に挿し入れれば、キツいながらに熱い媚肉は俺のことを受け入れてくれる。

ミルフィ,「んんっふぁ、あぁ……入って、くる……んぅ……」

ミルフィ,「いきなり、一番奥まで……はぁっ、はぁ……」

ミルフィ,「アタル……ちょっと、このままでいてくれる……?アタルのこと感じてたいから……」

アタル,「いいよ。こうしているだけでも、俺もミルフィのことすごく感じられるし」

ぎゅうぎゅうと押し寄せてくる肉襞は、ゾワゾワと動きまわってくる。

ただじっとしているだけなのに勃起したモノはマッサージをされているようで、楽しめていた。

ミルフィ,「ふぅ、ぅん……アタルが、じんじん伝わってくる……」

ミルフィも俺と似たように感じているみたいで、ツラそうというよりもうっとりとした様子で目を閉じていた。

でも、こうやってただじっとしていると、どうしても目の前のもの――腕の中にある細い脚の感触に意識が向いてしまう。

アタル,「……ちゅ、ちゅ」

ミルフィ,「あっ、ふぁ、やぁ……そんな、脚……キスしちゃ……」

汗混じりの濃い女の子のニオイを嗅いでいたら、我慢できなくなっていた。

脚に二度三度とキスをして、ミルフィの感触を唇から楽しむ。

ミルフィ,「ふぅんぅっ、んんぅんんん……っ」

腰は動かさないと約束したばかりなので、代わりにやわらかなふくらはぎの曲線に唇を滑らせた。

ミルフィ,「やめて、アタル……ふくらはぎ舐めるなんて、ヘンだってば……」

アタル,「人の股間踏むのだって、普通のやり方とは思えないよ」

ミルフィ,「ア、アタルは悦んでたじゃないのよ!」

アタル,「でも、ミルフィだって舐められて悦んでるじゃん。俺の周りの肉、すごいヒクヒクしてるぞ」

ミルフィ,「ち、違う……んぅっ、や、あぁ……っあ…………」

違うって言ったところで、事実は事実。自分自身でもわかっているのだろう、腰がくねくねと動いてしまっていることに。
慌てて動きを止めようとしているみたいだけど、無駄な努力ってやつでしかない。

ミルフィ,「アタルが、悪いのよ……こんな、大きいの……入れられちゃって、ヘンになっちゃってるだけなの……っ」

苦しい言い訳は無視して、俺は唇をくるぶしの方へと登らせていく。

ミルフィ,「だめ、そんなつま先までナメちゃ……あっ、やぁ、んっぅ、は……ああ、ふぁあ……」

もどかしげにミルフィの脚がくねる。それをしっかりと抱えながら、俺はゆっくりと腰を動かし始めた。

ミルフィ,「ふぅっ、あっ、きゅ、急に動き出さないで……ンっあっ、はぁ……や、ぅん……」

狭苦しい膣中で直接撫で合うことで甘くジンジンとする刺激に捕らわれる。

油断をすればすぐに出てしまいそうな乱暴さを出さないように気をつけながら、優しく腰を引いて、また深みへと沈めていく。

ミルフィ,「はぁ、あ、ぁ……っああぁ…………」

そのストロークの長さに合わせるように、ミルフィは長い吐息を口から漏らした。

アタル,「ああ、ミルフィの声、かわいい……」

ミルフィ,「ん、っ、当然でしょ、あたしを誰だと……んぅ、思ってるの……よぉ……ふぁ、あ……」

一緒に聞こえてくる可愛らしい音色を楽しみながら、楽器を弾くかのように俺は腰を行き帰りさせていく。

ミルフィ,「あっ……やあぁ……ン、奥まで……っはぁ……アタルに、広げられちゃってる……ぅん、は、ぁ……」

ミルフィ,「ふぅ……アタルのこと、すごく、感じてる……はふ、ぅ」

圧し合ってくる肉の壁同士が擦れ合い、ねっとりとした愛液の音もその動きに合わせて聞こえてくる。

ミルフィ,「あ…あ、ぁ……っはぁ……はっ、あっふ……ぅん……アタル……ぅ、はっ、ン……いいよぉ……」

アタル,「ミルフィの中も……っ、気持ちいいよ……」

かわいい声と愛液の撹拌とが混ざり合った淫靡な音色に、頭はクラクラとしてきた。ミルフィの身体を気遣う気持ちは薄れていってしまう。

マニュアルのつもりだったのに、ギアが勝手にチェンジしてしまったような感じ。抽送の速度が次第に上がってしまう。

ミルフィ,「ふぁっ、う、は、そんな……つよい……っ、ん、はぁ!」

アタル,「ツラい……?」

ミルフィ,「……う、ううん、大丈夫……でも、はっ……おかしく、なっちゃいそ……うっ、ふぁ、あ……」

ミルフィも俺のモノを受け入れるのに慣れ始めたのか、苦しそうな様子は見られない。

さっきとは立場が逆転しているのが、妙に楽しい。俺は優位性を保ったまま、少しずつ腰のスピードを上げていく。

ミルフィ,「あ……んっ、ふぁ、んっ、はふぁっ、あっ、あっ……!」

太ももに力を入れて、開いた部分でミルフィの壁を抉るように腰を引き出す。泡だち始めた愛液が表に溢れでて俺達の結合部を濡らしていった。

ミルフィの丸みのあるお尻を伝って、ベッドシーツがいやらしい蜜でぬるぬるの染みを作っていく。

アタル,「ああ、ミルフィ、気持ちいいんだね。はぁ、えっちなおつゆが、いっぱい流れ出てるよ」

ミルフィ,「うぅ、ん……だ、だって……アタルのこといじってた時から、ずっと、待ち遠しかったんだもん……っ!」

その一言にキュンときてしまった。

アタル,「ば、ばか、そんなエッチなこと言われたら、マジで歯止め効かなくなるぞ……!」

入口付近まで引いていた亀頭を、一番奥のくぼみにまで押しこんでそのまま子宮壁を叩く。

ミルフィ,「ああぅ! ぁふ、奥、叩かれると、ジンッてするよぉぅ」

艶かしくミルフィはくねらされた身体を押さえるように、彼女の脚を腕に絡めて抱きしめながら。

アタル,「奥が好きなんだ。じゃあ……」

ミルフィ,「っん、ンぅあ、はぁ! だめ、アタル……そんな……奥、ばっかり……コンコンされたら……あっあ、あっ!」

小刻みに、何度もミルフィの未熟な最奥をノックする。

抱え上げたミルフィの脚の先までが、叩くたびに痙攣と緊張を繰り返して。

ミルフィ,「あん、ああぁ……はぁ、ぁんぅ……んふっ……ゃ、やぁっ……んくぅ……あっ、はふ、は……んっ、ふぁ、ンくッ!」

高まっていくのがわかる。ミルフィの肌は高い熱を発し、膣の動きが最初よりもよほど激しくなっている。

ミルフィ,「ふぁ、やぁ、あっ、あ、あっあぁ、ヘンっ、ヘンだよぉ!スゴく……キすぎて、っ……んぁっ、おかしくなる……ぅうッ!」

勢いだけの抽送に、何度か膣口からペニスが抜け出てしまった。

入り口から引き出るその瞬間の引っかかりすら快感で、ミルフィの身体はビクビクと震えて。

ミルフィ,「ああぅ……っはぁ、アタルっ、早く、早く入れてよ……――んぅっ、はぁ、あぁぅあぁ……!」

もどかしげに腰を揺らしてねだるミルフィの中に入れ直して、すぐにピストンを再開させる。

アタル,「……ッ! ミルフィの膣内……ぎゅうぎゅう絞めつけてくる……!」

俺の根元の方から、先端のカリ部分の方へと波のように肉がうねり、それはまるで射精を促そうとする意識ある動きのようで。

ミルフィ,「あぁ、ふぁ、ん……気持ちいい……はあぁっ……あんっ、んんっ、んっ…は、あぃっ、ああ、んっ!」

繰り返す度に、どんどん射精感がこみ上げてくる。切なく張り裂けてしまいそうな気持ちがお腹の下で破裂しそうだ。

アタル,「ああ、ミルフィ、出したい……出しちゃいたいよ……!」

ミルフィ,「ふぁ、あっ、ふぇ? あ、しゃせぇ? だしたいの?おちんちんから、びゅっびゅってしたいの?」

アタル,「うんっ、俺、また出したい……!」

情けなくても、我慢しきれずに俺はそう呻くと、快感に溺れる中でミルフィははにかんで見せる。

ミルフィ,「しょうが……はぁ、ないなぁ……あっ、ん、ふぁ……あ、いいよ、出して……うけとめたげる……から……っあ、あ」

その言葉に、俺はミルフィへと体重をかける。ミルフィの華奢な脚を抱き抱えたまま、前傾姿勢となって、より深く結合できるようにと腰を押し込んでいく。

ミルフィ,「いいっ、いいよぉっ……アタルが、いっぱいぃぃ……!はあぁぁ、あぁ……うぅんっ、んぁっ!」

目の前のか細い足首を引き寄せて甘く歯を立てた。ああ、また締まってきた……!

ミルフィ,「やぁ……だ、だめだよぉ……そんな、歯……立てひゃ……ッン、ふぁあっ、ゾクゾクするよぉ……っ!」

欲求に逆らう術なんてなくて。甘じょっぱいミルフィの肌の味に魅了されながら、ただただ腰を繰り出していく。

ミルフィ,「んぁっ、あっ、ああ……アタル……アタル……!んっ、ぁっく…ふぁ、んンッ――あっっ!!」

アタル,「はぁっ、はぁっ、ミルフィ……ううぁ、はっ、ああ!」

ミルフィ,「んんぁっ、ああぅっ、アタ、アタル……ッ、も、もう、ら、だめになっひゃ……んんんぅぁっ! はっ、うぅっ、ん!」

清潔感のあるシーツの海でミルフィのちっちゃな身体が悶えていた。背をそらせたり丸めたりしながら、腕をかき回し、首を左右に何度も振って。

ミルフィ,「はぁ、あ……ひゃぁっ、あっ、はぅっはぁ、んっ、ぁっ、く…ふぁ、っ…んっ、ひぅぅ……! ……っはぁ!」

ミルフィ,「も、もう、げんか…イッ……んっ、くふっ、はふっ、ムリ、もうムリだからっあっあっ、くずれちゃううぅ……っ!」

アタル,「み、ミルフィ……もう、俺、もっ、ヤバ……グッ!」

止まらない、精を放つためのキッカケを求めて小刻みに乱暴に、腰の動きは止まらない。

ミルフィ,「ふぅぅ、んっ、――っ、んんっんぅ~~~~~っ!?」

ミルフィの息が詰まり、同時にやってきたのは最大級のうねり。そこから続く極上の圧迫感に、俺の射精の引き金は引かれて――

アタル,「っぐぅッ……ミル、フィ……ッ!」

ミルフィ,「――んんぁあぁぁっ、あああっあっ!?」

出る寸前に一番奥に亀頭を押しつけて、胎壁へと密着させた状態にしたところで、意識が飛びかける。

ミルフィ,「はあああぁああぁっ、ああぁぁぁああぁっ、ひゃぅ、あつ、あつっ……ぅう~~~~んんんぅっ、んんんぁぁ……っ!」

噴出、既にミルフィの足で出したというのに、何日もオナ禁をやっていたような勢いで、沸騰した欲望を吐きかけた。

ミルフィ,「ううぅあっ、あっ、は……ああぁっ、あっ、イ……イきそ、イっひゃう……? あついの……せーえきで――んんぅ!」

ミルフィ,「んんっ――っあああぁぁぁ~~~っ!? あああぁ!?」

熱液を浴びたミルフィは身体を一段と危なげにくねらせて、そして今日一番と言っていいほどの締めつけに、俺も最後の一滴まで絞りだされるような強烈な射出感。

衝撃といっても過言じゃないほどのパンチの効いた感覚に、目の前が一瞬白くなるほどで――

アタル,「――っ、はっ、はぁ……っ! はぁ、ぁあ…………」

ミルフィ,「ふああぁ……あ~~~っ、ふぁ、あ……ああ~~……」

あまりに強すぎる快感の後で俺は息をするのがやっとだった。ミルフィの全身も弛緩して、なのに膣穴は俺を離してくれないままだ。

ミルフィ,「ふぅ、はぁ、はぁ……はぁ、アタル……キス、して……」

アタル,「ん……ミルフィ……」

俺は顔をミルフィの顔に近づけ、優しくキスをする。

ミルフィ,「ちゅ、ちゅ……ん、ちゅむ、ふぅんんぅ、ふぁ……」

時折、痙攣を見せる身体を抱きしめながら、重ねあわせるだけの口づけを続ける。キスを返すだけの余力は、ミルフィには残っていないようだった。

俺は後ろから強く抱きしめてやり、体を伝う余韻が落ち着くまで、そっと愛しい彼女の髪を撫でてあげた。

…………

……

ミルフィ,「えへへ、また、しちゃったわね」

シャワーを浴びてきたばかりで、石鹸の香りを強く漂わせるミルフィが、俺の腕の中で無邪気に笑っている。

流されてるままにエッチしちゃってて、このままで良いのかなって悩むこともあるけど、この幸せそうな顔を見ているとこれで良いんじゃないかなって思えてくる。

このまま、ミルフィの笑顔を守っていけるように、この前みたいな泣き顔を見ないで済むようにできたらいいよな。

ミルフィ,「ん、何よニヤニヤしちゃって。まさか、さっきの足でされた時のことを思い出してるんじゃないでしょうね?」

アタル,「なっ、そ、そんなんじゃねーよっ!」

ミルフィ,「どーだか」

俺をからかってケタケタ笑うその姿も、小憎らしいけれども、やっぱり可愛くて。怒る気はあんまりしない。

だから代わりにちっちゃな頭に手をおいて。

アタル,「ミルフィはかわいいなー」

ミルフィ,「ばっ、ばかいってんじゃないわよっ!疲れたし、今日はもう寝るっ!」

かいぐりかいぐりとしてやると、ミルフィは顔を真っ赤にして目をつぶってしまった。

初めは寝るフリだけかと思ったけれど、そのまま優しく撫でている内に、本当に疲れていたようでミルフィは静かな寝息を立て始める。

アタル,「……ほんと、いつまでもこの顔を見ていたいな……ぁ、ふぁ……」

ミルフィの寝る姿を見て、俺もあくびを誘われた。

ミルフィに付き合わされて夜が遅くなることも多いのだし、たまにはこんな時間に寝てもいいだろう。

アタル,「おやすみ、ミルフィ」

俺は枕元のリモコンに手を伸ばし、部屋の電気を消すと、一緒になって眠りについた。

…………

……

#textbox Ker0130,name
エリス,「…………っく!また、姫様はアタル王と夜を共に過ごされて……」

#textbox Ker0140,name
エリス,「まさか姫様は、本来の目的をお忘れになったのではないだろうか……いやまさかそんなはずが」

#textbox Ker0130,name
エリス,「けれど、けれどもし、アタル王に甘い言葉で唆されて、篭絡でもされていようものならば……っ!」

エリス,「……ニッポンのやり方には不審な点もある。信用しきるわけにはいきません」

#textbox Ker0110,name
エリス,「……通達しておいた通り、調査の開始を。そうです、少しでも不審な点があれば洗い出しなさい。そしてその場合は……」

エリス,「予定通り、ニッポン国内の基地へと移動をするように」

#textbox Kmi0260,name
ミルフィ,「よっし、あたしの連勝っ!」

アタル,「あーっ、くっそー! 完全に対策立てられてる!」

帰宅後、夕食を済ますと、いつものようにミルフィに誘われるままにゲームをやっていた。

が、何だかんだと忙しい俺と違い、暇を持て余してやりこんでるミルフィにゲームで勝てるはずもなく、最近は負けっぱなしだったりする。

アタル,「あー、駄目だ。勝てる気がしない」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「フフフ。これがあたしの実力よ!」

ない胸を精一杯張って自慢げに言われる。ちっ、ゲームなんてどんだけ上手くたって自慢にならねーよ!

と、言いたいところではあるけれど、どうやらイスリアではプロゲーマーという職業が成り立つらしく、そこまで到達していれば確かに自慢できる能力かもしれない。

#textbox Kmi0210,name
ミルフィ,「まぁ、今日はこの辺で許してあげるとして……次は、録画しておいたランダムの再放送を見るわよ!」

アタル,「またか……」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「良いものは何度見ても良いのよ!」

確かに何度見ても面白いは面白い、名作ではあるけどさ。こんな時間から視聴開始したところで、どうせ見ている途中で――

…………

……

#textbox Kmi0280,name
ミルフィ,「うにゅ……むにゅ…………」

ほらみろ、やっぱり眠くなった。

アタル,「やれやれ、眠るんなら部屋に戻れよ」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「めんどーくさい…………」

危なげに船を漕ぎ出したミルフィの肩を優しく揺さぶっても、おねむなミルフィは言うことを聞かない。

アタル,「ダメだって。風邪ひくだろ。ほーら」

よいしょとミルフィの脇の下に手を入れて無理矢理立たせる。

アタル,「今日は体育があったんだし、風呂に入ってちゃんと身体を洗わないと汗臭いぞー」

#textbox Kmi0280,name
ミルフィ,「ちゃんと、授業の後にシャワー浴びたもん……」

アタル,「あーいえばこういうヤツだなぁ。ほらほらちゃんと歩く」

酒も飲んでないのに千鳥足のミルフィを支えながら、どうにか歩かせて廊下へ。

エリス,「……アタル王。姫様はどうかされたのですか?」

出たところで、表で待っていたエリスさんと目が合った。

ミルフィが不調にでもなったのではないかと不安に思ったのか、彼女は緊張気味の声を聞かせたが、俺は心配を消させようと苦笑してみせた。

アタル,「はは、いつものことだよ」

ミルフィ,「にゅう……」

エリス,「姫様……」

そう、いつもこんな感じなのに、エリスさんはいつまでも慣れる感じがしない。

護衛やお付きという立場を考えれば、それも仕方ないことなのかもしれないけれど、もう少し心を許してくれてもいいんじゃないかなって思うんだよな。

アタル,「まったく、だらしない顔をしちゃってさ」

エリス,「……もう少し、お立場を考えていただきたいものです」

アタル,「ははは……」

普段はミルフィにダダ甘なところがあるけれど、やっぱり根っこの部分は厳しい考えを持ってそう。将来は教育ママになったりするのかな。

普段緩いミルフィには、エリスさんくらいの飴と鞭が丁度良いのかもしれない。

ミルフィを支え直したエリスさんは、では、と、丁寧に頭を下げて、二人で部屋へと帰っていった。

アタル,「……さて、と。俺も明日の準備して、寝ようかな」

…………

……

エリス,「ミルフィ様、はい、ばんざーい」

ミルフィ,「ふにゅ……ばんざーい……」

エリス,「……姫様、お話がございます」

ミルフィ,「おはなし……なぁに? あしたのあさごはんなら、コーンフレークがいいなぁ……」

エリス,「お食事のことではありません。アタル王とのことです」

ミルフィ,「アタルとのこと……?」

エリス,「姫様は、このままで宜しいのですか?」

ミルフィ,「このままでいいのって、何が? アタルと仲良くしていれば、イスリアのためにもなるのに」

エリス,「イスリアのためにならないとしたら、どうされますか?」

ミルフィ,「え……?」

エリス,「申し訳御座いませんが、勝手ながら調査させて頂きました。国王様よりそれだけの権限は賜っておりますので」

ミルフィ,「き、きいてないわよ? そんなの」

エリス,「姫様がご自身でお気づきになられるようでしたら、何も言うつもりはありませんでした」

エリス,「けれど、本来の目的を忘れて、今の自堕落と言える生活を送られているようでは、イスリアの為になるとは言えないでしょう」

ミルフィ,「目的、忘れてないもん! ちゃんと、技術が追いついたら、ポーシャつくってもらえるって、約束させたもんっ!」

エリス,「ならばもし、現時点でポーシャの開発が可能だとしたら、ミルフィ様は如何なされますか?」

ミルフィ,「え……」

エリス,「イスリアにも軍用ロボットを研究する施設がありますが、その主要研究所にはニッポンからハッキングをされていたという事実がございます」

エリス,「その研究は我が国が極秘に進めていたものであり、ニッポンの技術力では到底及ばないものでした」

エリス,「それを入手したことにより、ニッポンが開発するに足りなかった技術が埋まったと考えています」

ミルフィ,「え、そんな……嘘、でしょ?」

エリス,「いいえ、残念ながら本当のことです」

エリス,「そして天王寺財閥が所有する研究機関、工場へと、多量の資材が搬入され、そしてロボット開発者や技術者が集っているという情報も入手しています」

エリス,「これらの情報により、既に試作は準備段階に入っていると、情報部は判断しております」

ミルフィ,「で、でも、証拠はないもん……」

エリス,「はい、物証はありません。しかしこれだけの状況証拠が揃っているのです。如何でしょうか、姫様?」

ミルフィ,「な、なら、なんでアタルは……あたしにそのこと、内緒にしてるの……?」

エリス,「姫様とアタル王が婚約された場合、イスリアとニッポンはごく近しい関係になるでしょう。しかしそれでいても、両国のパワーバランスというものは発生します」

エリス,「特に軍事力に秀でている我が国に対し潜在的な恐れを抱いていてもおかしくはありません。そしてその状況に甘んじる事を嫌い我が国を出し抜こうとしている可能性も」

エリス,「極論を申せば、イスリアと戦争を行うことだって有り得ます」

ミルフィ,「わ、わからないよ……エリ……なんで、仲良くなろうってしているのに、仲が悪くなかった国同士なのに、どうして……そんなことを考えるの……?」

エリス,「それが、民からの責任を一身に背負う、国の責任です」

エリス,「恐れ多くも重ね重ね発言させて頂きますが、国民の幸福をお考えの上、行動してください。姫様」

ミルフィ,「………………アタルは」

ミルフィ,「アタルは、ポーシャを作れることを知っていたのかな?」

エリス,「我々が入手した情報によれば、今回の開発は天王寺主導ではなく、ニッポン国の支援の下で行われています。しかも表立った公表が一切されていないと考えれば……」

ミルフィ,「アタルが絡んでいて、当然ってことね」

エリス,「はい」

ミルフィ,「……くく、クックック」

エリス,「……姫様?」

ミルフィ,「まんまとあたしを騙してるつもりなんだろうけれど、こうなった以上、アタル達の勝手は許さないわ!可愛さ余って憎さ百倍ってやつよ!」

ミルフィ,「あたしの好意を踏みにじったお礼は、イスリアの名にかけて骨の髄にまでたたっこんでやるんだからっ!」

エリス,「それでこそイスリアの戦姫でございます!ご命令さえ頂ければ、いつでも行動に移せる準備は整えてあります!」

ミルフィ,「やるわよ、エリ。ロボット開発技術、何としても奪ってやるんだからっ!」

ミルフィ,「場合によっては、アタルを……殺してでも!」

エリス,「はっ!」

エリス,(……そう、これで、これでいい)

エリス,(これで姫様は目覚められた。後は既成事実を元に、我らがニッポン国を手中に収めるだけ。そもそも我々を出し抜こうなどと考えるニッポンが悪いのです)

エリス,(高くつくことになりましたよ、アタル王)

…………

……

アタル,「……ぐぅ、すぅ」

アタル,「お、おわぁっ!? な、なんだ!?」

突然の振動、そして轟音に、一瞬大地震が来たのかと思った。

けれど振動はすぐに止み、代わりに外から乾いた音が鳴り響いてきた。

アタル,「これって……銃声!?」

パパパ、パパパパというスタッカートな音。戦争報道なんかのニュース映像なんかで聴いたことのある、あの音だった。

ぱっ、ぱっ、と、窓の外が赤く染まる。まるで花火のようだと一瞬呆けたが、鳴り響いた携帯電話『CROWN』の音に、すぐに冷静さは取り戻せた。

アタル,「も、もしもし!?」

#textbox ksi0120,name
柴田,「アタル王、手短にご報告致します。襲撃です、イスリアの軍隊が襲撃をしてきました」

アタル,「は……? え、ごめん、今、なんて言った?」

#textbox ksi0130,name
柴田,「イスリアが――ミルフィ姫が軍隊を率いて襲ってきたのです、アタル王」

アタル,「な……」

そんな、馬鹿な……。

#textbox ksi0130,name
柴田,「信じられないでしょうが、今は一刻も早くお逃げ――」

アタル,「お、おい、柴田さん!?」

がーがーぴがー、と、ノイズが混じりそのまま電話は切れてしまった。

なんだって……ミルフィが、襲ってきた? なんで、どうしてだ!?

俺はそんなにミルフィを……イスリアを、怒らせるようなことをしてきたのか!? 何も心当たりがないぞ!?

ワガママにも付き合ったし、アイツが欲しがるものは出来る範囲で手に入れてきた。それなのに、なんで……?

ミルフィだって俺にあんなに甘えてくれて、好きだって言ってくれたのに……安心出来るって、最初に言ったのはアイツの方じゃないか!

アタル,「うわっ……く、くそ!」

このままここにいるわけにはいかない。逃げろって柴田さんは言っていた。

逃げだそうとしたが、なんだかスースーする。あ、そういや今日はパジャマを着るのが億劫でパンツ一丁だったんだ。

慌てて、面倒くさくて脱ぎ捨てっぱなしになっていた服を拾うと、素肌の上にざっくりと着こむ。

この携帯電話『CROWN』と……もしかしたら必要になるかもしれない、銀色の鍵をポケットに突っ込むと、緊急時の避難経路と教えられた隠し通路に入ろうとして――

アタル,「くぁ……げほっ、な、なんだこれ……ごほっ……!」

部屋に備えられていた隠し通路の入り口から、妙に目や鼻に痛い煙が出てきていた。

やっべぇ、もしかして封じられてる……?

そういえばエリスさんは隠し通路、妙に詳しかったっけ。

いつだかやった鬼ごっこのことを思い出した。やっぱりセキュリティ、ダメダメじゃないか!

窓は……ダメだ、飛び降りるには勇気が足りない。消去法で俺はドアへと向かって、そっと扉を開ける。

遠くから音はするものの、それ以外はいつも通り、廊下は静かなものだった。

思い切って飛び出し、そのまま記憶にある隠し通路に向かおうとした。――が、

イスリア兵,「いたぞ、あそこだ!」

見つかった!?

行こうとした先から出てきた黒い影に、俺は慌てて反対方向へと走りだした。

背後から飛んでくる眼に見えない圧力が、火薬音から一瞬遅れてギュンギュン横を通りすぎていく。良かった、俺の当たらない能力はまだ健在のようだった。

今ほど、この能力をありがたいと思ったことはない。

イスリア兵,「情報通り、銃器は効かないようだ。当初の予定通り、追い詰める」

運動神経がずば抜けている軍人に追いかけっこで勝てるはずがない。鬼ごっこなどで鍛えた土地の利を使ってもムリだと思ったけれど、逃げないわけにはいかない。

アタル,「くそ、誰か来てくれないのかよ!」

援軍の様子もない邸内を、捕まらないようにと全力で突っ走り、階段を乱暴に数段ずつ抜かして飛び降りて、エントランスへと転がり出る。

――けれど、そこが強制ゴールだってことはすぐにわかった。

ミルフィ,「そこまでよ、アタル」

アタル,「ミル……フィ…………」

そこにはミルフィと、エリスさん、そしてその背後から俺に銃口を向ける軍人たちの姿が目に見えた。

アタル,「な、なんだよ、これ……ミルフィ、冗談で済まないぞ!」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「最初に裏切ったのはソッチでしょう、アタル!」

アタル,「裏切ったって、何をだよ!」

ミルフィ,「ポーシャのことよ! 知ってるんだから、本当は、二足歩行ロボットを作れるってこと!」

アタル,「なっ…………」

え……なんでいつ、どこでバレた!? 誰かバラしたのか?

そんな、これは極秘で進めることを、サプライズだってことに、皆賛同してくれてたのに……。

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「やっぱり、本当のようね」

アタル,「……あ、ああ。本当だ。だけど――」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「言い訳なんて聞きたくないわ!」

天井へと響く一発の銃声。それを撃ったのは、誰でもないミルフィだった。

アタル,「何、考えてるんだよ、銃まで撃って……ミルフィは、そういうことは嫌いだったんじゃなかったのか!?」

アタル,「戦争が嫌いだから、世界を平和にするために、ポーシャをって……!」

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「嫌いよ! 嫌い、大嫌い! 絶対にイヤだって思ってる」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「でも、アタル達がいけないんだから! ポーシャを内緒で作って、どうするつもりだったのよ! 内緒にする必要なんてないのに、隠れてこそこそやって!」

アタル,「だ、だからそれは……!」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「うるさい、うるさいっ! 黙ってなさいよっ!」

ミルフィ,「隠れて戦争の兵器を作って……あたしにまで内緒で、そんなの作ってっ……そんなの、そんなの……っ!」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「……っ、アタル。投降して。そして、ロボット開発技術の全部をイスリアに渡しなさい」

エリス,「……姫様、それは」

ミルフィ,「エリは黙ってて! あたしだって、アタルは憎いよ! 嘘ついて、騙して、そんなの許せない!」

ミルフィ,「……でも、だからって………………殺せないよ」

アタル,「ミルフィ……」

ミルフィ,「だから、アタル……素直に従って……」

知らず、後ずさっていたのだろう。背中に壁が当たった。もうこれ以上はどこにも逃げられない。

投降するのが、一番簡単なことだ。誤解を解くのはそれからでも遅くはない。

王宮を襲うなんて大それたことをしてしまったミルフィだけれど、そのくらいはもみ消す力を俺は持っているんだ。

誤解が解ければまた、きっと前みたいに戻ることができるだろう。そうすべきだ。

そもそも、国王である俺の命を奪ってもイスリアに何の得もない。むしろ、庇ってくれる人間はいなくなって、国際社会からは糾弾されて、損するだけだ。

きっとこの過激すぎる行動も、ミルフィの怒りのパフォーマンスなんだろう。きっとそうだ。

アタル,「わかったよ、ミルフィ。投降する。だから……」

エリス,「……いいえ、投降では許されませんよ、姫様」

ミルフィ,「え……? エリ? それってどういうこと……?」

エリス,「アタル王には死んでもらわねば困るのです」

アタル,「は……?」

え、ちょ、ちょっと待って。なんで、俺を殺すって……。

エリス,「姫様、イスリアとしましても軍を動かしてしまった以上、ここで停めるわけにはいかないのですよ。相応の理由が必要となるのです」

ミルフィ,「それは、あたしとの約束を破って、アタルがロボットを作ってるからで……」

エリス,「いいえ、それだけでは単なる私情です。社会は認めてなどくれないでしょう」

アタル,「それは、俺がフォローすればいいだろ!国王の俺が言えば、どうとでも言い訳は立てられる!」

エリス,「そうかもしれません。しかし、人の口に戸は立ててはおけないもの。秘密はいつしか表に漏れ出てしまうものです」

エリス,「イスリアが軍を動かした理由、そしてこの真実を隠すためにも、アタル王にはここで死んでもらわねば困るのです」

な、なんだよ……それ……。三流の悪役の台詞じゃないか……。死亡フラグバリバリ立ってるぞ……。

アタル,「でも、俺が死んだら、ロボット開発はどうするんだ?俺とミルフィの関係は公表されてない。俺が死んで婚約の話がなくなれば、イスリアとの関係だって」

エリス,「それも解決させられます。そのための用意は整っていますから」

アタル,「は……?」

エリス,「テロリストにより制圧されてしまったニッポン国王宮を救うために、いち早く察知したイスリア王国駐留軍が救出に向かった」

エリス,「しかし私達がたどり着いた時にはもう遅く、アタル王はミルフィ様を庇って命を落とされていたのです」

エリス,「アタル王とミルフィ様の仲は、既に公認に近い。既成事実もありますし、物証など用意できます。アタル王の遺産を受け継ぐのは、ミルフィ様ただ一人なのですよ」

アタル,「そ、そんなデタラメ……第一、テロリストなんて、いないだろ!」

エリス,「ご安心を。既にニッポン国とイスリアがこれ以上近づくことを望まぬ一派は『用意』してあります」

どさり、と、大きな塊が……人の形をしたものが、その場に転がされる。

エリス,「まだ息だけはあります」

その言葉に、俺は心底からぞっとした。エリスさんは『ここまで』出来る人だったんだ。

アタル,「……本気、みたいだね」

不思議と怖いのに、唇の端が持ち上がってしまい、笑いがこみ上げてくる。

エリス,「幾らアタル王が弾に当たらない特殊能力をお持ちとはいえ、これだけの者から銃弾を受けたのならば、目的は達せられるでしょう」

エリス,「もし、それでも無理な場合は、責任を持って自分がこの手で――」

ミルフィ,「やらせるわけないでしょ、バカーっ!」

俺と、エリスさんとイスリア軍人たちとの間に、ちっちゃな人影が両腕を広げ、大の字で立ちはだかる。

エリス,「……姫様、おどき下さい」

ミルフィ,「いやよ!」

その姿はとても小さいのに、俺の前では大きくて厚みのある壁のように、存在感があって――頼もしかった。

アタル,「ミルフィ、危ないって。きっと、エリスさんたちは本気だから……」

ミルフィ,「だからそんなの許さないって言ってんのよ!」

ミルフィを危険な目には合わせたくないと俺はそう言ったが、そんなの一発で唾棄された。

ミルフィ,「第一、イスリアの姫であるあたしに関係なく、何を言ってるのよ!」

エリス,「姫様、ニッポンの行ったことをお考えください。そしてイスリアのことを考えてください!」

ミルフィ,「何を言っているのよ、エリ。そんな理屈、ないわよ! そんなの絶対に許さないんだから!」

震える両足でしっかりと床を踏みつけて、そしてミルフィは言い放つ。

ミルフィ,「撃てるもんなら撃ちなさいよ!あたしごと撃てばいいじゃないの!」

エリス,「そんなこと出来るはずがないでしょう! そんな男のために命を捨てることなどありません! お戻り下さい!」

ミルフィ,「アタルは殺させない、絶対に、絶対に……!」

ミルフィ,「やなの……大事な人が、死ぬのは! もう、絶対イヤ!」

アタル,「ミルフィ……」

エリス,「くっ……ミルフィ様…………」

一触即発の状態が若干揺れた。ミルフィの剣幕に負けて、エリスさんの銃口がブレている。軍人たちもどちらの指示に従うべきかと、銃口を下ろす者もいた。

……今か、この機を逃せばチャンスはもうないかもしれない。

俺が出ても火に油を注ぐだけかもしれない。でも、イスリアにとっての逃げ口を用意してあげられれば、或いは、だ。

俺にはとっておきの最終兵器『王様権限』があるんだ。それで今回のことを全部チャラにさえできれば――

アタル,「……ミルフィ、エリスさん、聴いて欲しい。俺は、ニッポン国王だ、だから絶対命れ――」

その時だった、信じられないものが目に入る。

エリスさんの後ろに立っていた軍人の、ブレていない上がったままの銃口が俺――いや、俺より手前を、ミルフィを狙っていた。

そして、その軍人は笑みを、俺が浮かべていた恐怖のあまりのものじゃない。心の底から愉しむような不気味な笑顔を浮かべていた。

アタル,「――ッ、ミルフィ!」

ミルフィ,「へ? ひゃぁわぁっ!?」

気づけば俺は飛び出していた。そして後ろからミルフィにタックルをして、床に倒れこませる。

エリス,「っ、姫様を人質にとるつもりか、アタル王――」

それはミルフィが立っていた場所を掃射し、空間をなぎ払っていた。

立っていた調度類が弾け飛んだんじゃないか。無残な破砕音が頭の後ろで鳴っていた。

エリス,「誰だ! まだ発砲命令は出していないぞ!――っ、どういうことだ、お前ら!」

イスリア兵,「見たままの通りですよ、ラスコヴァン中尉」

床に倒れた状態から目線を上げてみれば、イスリア軍人たちの銃口はエリスさんに対し向けられていた。

戸惑っている軍人たちは、状況を把握する前に、何の抵抗もできぬまま無力化されている。

イスリア兵,「イスリアを守る者として、不安なのですよ。ロボットなどという幻想に惑わされ、本気で戦争がなくなると考えている。そんな夢見がちな少女が我々の主ではね」

エリス,「……っ、まさか、内部にこのような輩がいたとは」

イスリア兵,「ニッポンのコトワザというものでは『獅子身中の虫』と言うらしいですよ、我々みたいなのをね」

イスリア兵,「けれども我々は、本気でイスリアという大国の未来を気にかけての行動だということは、違いますけれども」

最初はわからなかったけれど、わざわざ説明してくれたおかげで状況は掴めてきた。どうやら、イスリアって国も一枚岩じゃないってことか。

ミルフィ,「え……え、ど、どういうこと……? あたし、イスリアの人たちに、迷惑だって、思われてたの……?」

俺の身体の下で、ミルフィが震えていた。

ミルフィはミルフィなりに国民のことを、イスリアの未来を、世界の平和を考えてきていたつもりだったんだ。

なのに、その全てを否定されて。こうして――殺されようとしているんだから。

俺は震えているミルフィの小さな肩をぎゅっと抱きしめる。

アタル,「……俺は、そんな風に思ってない。誰が何て言ったって俺はミルフィの本当の願いをわかっているから」

ミルフィ,「あ、アタル……」

ただ、わかっているからといって、この場をどうにかできるとも思えない。

俺がこうやって覆いかぶさっていれば、弾除けにはなるだろうけれど、それだって時間の問題だろう。

イスリア兵,「ミルフィ様に代わって擁立する人物も、遠縁ではありますが王族の血を引いておられる方を、我々は用意してあります。ラスコヴァン中尉が周到だったようにね」

エリス,「……くっ、つまり、自分の考えは利用されていたということか」

イスリア兵,「さて、どうでしょうね」

二人が会話をしている間、俺はずっと頭を巡らせていた。

やばい、やばいやばい。逃げなきゃ、でも逃げる? どうやって?

もし、エリスさんがもし、何かしかけてくれたりして、隙が出来たらどうにかできるかもしれない。

エリス,「くっ…………」

しかしその頼みの綱であるエリスさんも、多数の銃口を向けられていては身動きがとれないようだった。

ミルフィ,「あたしたち、ここで、殺されちゃうのかな」

腕の中でミルフィが震える声で呟いた。

アタル,「……いいや、死なないさ。言ったろ?ニッポン国の王様の俺が、絶対に守ってみせるって」

その言葉を裏付けるようなものは何も無い。

それでも不安に思っている女の子を前にして、気休めでも安心させる言葉を呟いてやるのが男の役目なんだって、それくらいはわかっていた。

ミルフィ,「でも……」

アタル,「大丈夫、大丈夫さ。チャンスがきたら動くから、だから、ミルフィもすぐに動ける準備をしておけよ」

ミルフィ,「う、うん……!」

そんなチャンス、来ないかもしれない。それでも、諦めるわけにはいかなかった。

ミルフィとの間に変な誤解を残したまま、ここで死ぬわけには絶対にいかない。

イスリア兵,「……さて、事情も説明しましたし、心苦しいですがお別れです、ミルフィ姫、アタル王、そしてラスコヴァン中尉」

イスリア兵,「さようなら」

引き金が絞られ、銃声が――鳴る!

ミルフィ,「アタルっ!」

くそ、ダメか……!

その音は、前からやっては来なかった。上から、銃声なんかよりもよほど大きな音が、ひとつ、破裂した。

イスリア兵,「な――っ!?」

音のする方向から重量たっぷりに落ちてきたのは、シャンデリアだった。

轟音とも言える衝撃がホールを揺らす。軍人たちの気がそれたのを、俺は逃さなかった。

アタル,「エリスさん!」

エリス,「っ!」

叫んだけれど、でも、俺が声をかけるまでもなかった。エリスさんはその隙を見逃すわけもなく、軍人たちが反応する前に銃声が立て続けに数発。

イスリア兵,「ぐぁっ!?」

倒れる男たち、俺はそれを目の端で見るだけにして、身体の下にあった女の子を引き上げ、立たせた。

アタル,「逃げるぞ!」

ミルフィ,「う、うん!」

ミルフィの手を引きながら、俺は走りだす。そうしながら後ろを向いて、エリスさんにも呼びかける。

アタル,「エリスさんも、こっちに!」

エリス,「……いえ、自分は、自分は、いけません。ここで食い止めますから……ですから……」

アタル,「この期に及んで何を言っているんだ、馬鹿! 俺を殺そうとしていたことを気にかけてるならそんなのどうでもいい! ミルフィのためにも、ついてくるんだ!」

エリス,「……アタル王!? ……は、はい!」

イスリア兵,「くっ、逃がすな!」

ミルフィ,「あっ、王冠が……っ!」

なっ!? でも、戻るわけには……。

エリス,「大丈夫、自分が拾います!」

アタル,「任せた、エリスさん! ほら、ミルフィ!大丈夫だから早く走れ!」

ミルフィ,「ぁっ、あまり、ひっぱらないでよぉ、アタルぅ……」

こんなタイミングで弱気になるなんて……!

ただ今は、王冠をかぶせ直してる余裕はない。俺はミルフィの手を強引に引っ張っていった。

…………

……

#textbox Ksi0140,name
柴田,「ふふ、上手く逃げられたようですね。これで死ぬようなことがあるとしたら、そこまでの人間ということですよ、アタル王」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「さて、次の準備といきましょうか」

…………

……

イスリア兵,「くっ、被害状況を報告しろ! 無事な人間からヤツラの後を追え! 絶対に逃がすんじゃないぞ!」

イスリア兵,「……くっ、いったい誰が、こんな真似を!」

…………

……

どうにか、やりすごせた……かな?

息を潜めていた俺とミルフィは、遠ざかっていく足音に緊張を緩めそのまま床にへたりこむ。

ミルフィ,「はぁっ……こんなことなら、もっと、かけっこの練習しておくべきだったよ……」

アタル,「俺もだ…………」

エリスさんが教えてくれた、警戒しやすく逃げやすいと言われた場所に、一旦身を潜めていた。

追っ手もやりすごせたみたいだし、しばらくは余裕があるだろう。

俺はポケットから携帯電話を取り出すと、繋がってくれと祈りながら、柴田さんの番号へとかける。

エリス,「……アタル王、今さら自分が言うのも無責任な話ですが、救援はどうでしょうか?」

アタル,「……今、やってる。繋がるかわからないけれど……」

さっきは途中でかからなくなった携帯電話、けれど今度は、その受話器から聞き慣れた柴田さんの声がしっかりと帰ってきた。

#textbox ksi0110,name
柴田,「アロー、アロー、アタル王ですか?ご無事なようで何よりです」

アタル,「柴田さん、良かった! 繋がった! 頼む、救援を寄越してくれ! 大至急だ!」

いつものように難なく返事をくれると思っていた。けれど、柴田さんは一瞬、息を詰まらせて、

#textbox ksi0150,name
柴田,「残念ですが、それは叶いません」

アタル,「は…………え、なんでだよ!?」

#textbox ksi0110,name
柴田,「自衛隊派遣の是非に関する、閣僚各位の閣議が長引いておりまして、すぐには出せないでしょう」

アタル,「な……なんだよ、それ、国の王様がピンチだってのに、なんでそんなことで悩んでるんだよ!?」

アタル,「じゃあ、王様権限を使ってもいい! だから――」

#textbox ksi0150,name
柴田,「それも不可能でございます。王様権限の絶対命令は、軍事活動に関しては適用することはできないのです」

アタル,「……そんな、馬鹿なこと……軍事活動じゃない、殺さなくていいんだ! 助けて欲しいだけなんだよ!」

#textbox ksi0110,name
柴田,「それでも、で、ございます。閣議決定無く救援など出せないというのが、与党の意見なのですよ」

#textbox ksi0110,name
柴田,「そもそも、厳しい現実をお伝えすることになりますが、アタル王の命が失われたとしても、新しくあたりめによって王を選べばいいという意見が大多数なのございます」

アタル,「は……?」

#textbox ksi0120,name
柴田,「アタル様のような若者が王であること自体を快く思わぬ方々も多いということですよ」

アタル,「な、なんなんだよ、じゃあ、王様って……」

それは思っていたよりもよほどひどい事実だった。

目の前がぐにゃりとひしゃげたような気がして、俺は姿勢を正しておけず、床へと倒れこみそうになる。

ミルフィ,「あ、アタル……!」

ミルフィの小さな手が支えてくれて、どうにか床と口づけをすることはなかったけれど、それでもショックは大きかった。

お飾りだってわかってはいたつもりだったけれど、まさかここまで軽い存在だったなんて、思ってもいなくて……。

ミルフィ,「アタル、かわいそう……」

エリス,「……ニッポンの国王とはこういう立場なのですよ、姫様」

アタル,「……ごめん、大丈夫、大丈夫だよ」

力なくも、お荷物になっちゃいけないという一心で俺は姿勢を元に戻した。

でも……ってことは、俺達はこのままジリ貧で、逃げることもできないまま、殺されちゃうってことか……?

#textbox ksi0110,name
柴田,「ですが、アタル王。あなたと、ミルフィ姫にはとっておきがあるではありませんか」

お通夜ムードの中、届いたその柴田さんの声は、まるで誕生日パーティを祝う時のように明るかった。

アタル,「とっておきって……え? でも、アレは、まだ……」

#textbox ksi0140,name
柴田,「天王寺という組織は本当に素晴らしい」

それって、できてるって、ことか……?

#textbox ksi0110,name
柴田,「もし、アタル王が生きることを諦めないと仰られるのならば、今少しお時間を下さい。20分、いえ、15分。準備を整えなければなりませんので」

アタル,「……信じるよ、柴田さん」

もう誰を信じれば良いのかわからないような状況だったけれど、こうなれば蜘蛛の糸を掴むしかない。

#textbox ksi0110,name
柴田,「準備ができ次第、折り返し連絡しますので。それでは、通信を終わります」

電話が切れる。あと、15分か。

アタル,「聴いたとおりだよ、ミルフィ、エリスさん」

ミルフィ,「助かるの……あたしたち……?」

俺は頷く。しっかりと。弱気は捨て去ることにした、助かる道はまだあるんだ。

アタル,「少し、息を整えようか。まだ時間はかかるみたいだから」

エリス,「そうですね」

俺達を庇うように、通路側にエリスさんはしゃがみ込む。そうしながらも警戒は怠らぬよう、集中力は切らさなかった。

ミルフィ,「……でも、ニッポンの人って、ひどいよ。アタルのこと、王様なのに……あんなの……助けてくれないなんて……」

アタル,「……負けないさ。死んでたまるか」

ミルフィ,「アタル……?」

アタル,「生き残ってやる。何としても。そして、王様の威厳ってのを見せてやるんだ。ただの飾りじゃないことを」

さっきまで身を包んでいた絶望が、気づけば怒りへと変貌していた。それはそのまま活力になり、今の俺は全身にまで力が漲っている気がする。

アタル,「けど、それを言うならミルフィだって同じだろ?直接命を狙われたんだ、そっちの方が辛いさ」

ミルフィ,「う、うん…………」

エリス,「彼らは、本当のミルフィ様の願いを、それを叶えようとする行動を何一つ見ていないから、あのような行動を取ったのでしょう」

アタル,「確かに、ロボット使って世界平和なんて、アニメの世界の出来事だもんな」

ミルフィ,「で、でも、そのくらいしないと戦争はなくならないよ……イスリアの今のやり方じゃ、ダメなの……」

ミルフィ,「誰もが敵わないって思うようなものじゃないと、平和の象徴じゃないと、戦いたがる人は絶対に出てくるから……だから……」

いつもとは違う弱気なミルフィ。絶対の自信が見られないのは、やはり自国の人間に狙われたからかな……。

アタル,「……って、ミルフィ、王冠」

妙に弱気だと思ったら、そうだった。さっき逃げる時に王冠を落としていたんだったか。

ミルフィ,「ふぇ? あ……あれ、王冠、どこ、どこだっけ?」

エリス,「こちらに御座います、どうぞ」

ミルフィ,「あ、ありがと……」

ミルフィ,「……ん、うんっ、しっくり!」

王冠をかぶって、ようやく元気100%に戻った。目付きもキリリと上がって、攻撃的な気力が充ち満ちているのがわかる。これでこそミルフィだ。

ミルフィ,「あいつらの言うとおり、口で言ってるだけじゃ誰も信じられないもんね。このドタバタが終わった後は、ちょっとやり方を変えていかないと」

この騒動をドタバタで済ます気なのか、我らがお姫様は。

けど、重い気分になればいいってもんじゃない。これくらい軽い気持ちも必要なのかもしれないな。

ミルフィ,「そのためにも……アタル、協力してもらうわよ?」

アタル,「……ああ、俺もイスリアの力は当てにするだろうし」

二人目配せして、悪い笑顔を見せ合う。

いいや、これくらい強かなことを考えていかないと、それこそ皆に舐められるんだ。舐められるだけならまだしも、命まで軽視されるのは我慢ならない。

ミルフィ,「もちろん、エリもよ」

エリス,「え……?」

ごく当たり前のように話を振ってきたミルフィの言葉を、エリスさんは予想だにしていなかったのか目を丸くして驚いた。

ミルフィ,「何を驚いているのよ。それとも手伝いたくないって言うわけ?」

エリス,「そんなことは……! ですが、自分は……」

アタル,「俺は気にしてないよ。ミルフィもね」

もちろんよ、と、ミルフィは大げさに頷く。

エリス,「……そんな簡単に許されて良いことではないのです」

エリス,「自分は、姫様を堕落させるアタル王を亡き者にし、ニッポン国の王権を未来の妻である姫様に引き継がせようとしたのですよ?」

エリス,「しかも、その考えもあのような輩に利用されてしまい……姫様までを危険に晒して……そんな自分に、許される資格など……」

ミルフィ,「でこぴーんっ!」

エリス,「ひみゃっ!?」

珍しいエリスさんの可愛らしい悲鳴に、思わず俺は噴き出した。

ミルフィ,「うだうだうだうだうだうだうだうだうだうるさいわね!気にするなって言ってるんだから、もう悩むのやめて素直にあたし達に協力なさいよ!」

アタル,「ははは。ああ、そうだよ。俺もミルフィも、政治や軍事について何も知らないようなもんだ」

ミルフィ,「そうそう。そんなあたしたちを、裏切らずに支えてくれるのは、もうエリスさんくらいなもんなの!」

エリス,「姫、様……アタル王…………」

ミルフィ,「それとも、また同じことをやろうっての?」

エリス,「そんなことは! もう二度と!」

ミルフィ,「なら、いいのよ、それで」

ミルフィ,「あたしたちはね、今日、今から、3人で新しく始めるの」

ミルフィ,「本当の王様になるために、ね」

アタル,「ああ、そうだな」

エリス,「しかし、アタル王は、はたして国王としての重責に耐えられますでしょうか」

アタル,「お、おいおい、水を差すなよ……」

ミルフィ,「アタルは優しいからねぇ、簡単に心折れちゃいそう」

アタル,「誉められてるだか、けなされてるんだかわからないな」

エリス,「姫様はこう見えましても、今日まで立派に王族として生きてこられました。しかしアタル王は、今日のような厳しい現実に向きあって、耐えられるかどうか……」

アタル,「そ、そりゃ、わからないけどさ……ひとりじゃ何も出来ないかもしれないけど……でも」

アタル,「俺のことも支えてくれるんだろう?」

エリス,「はい、自分の残る生涯はお二人に捧げる所存です」

ミルフィ,「はい、決まり! これからはあたしたち3人、一心同体で頑張って行こうね」

顔を見合わせて、誰ともなく出した手を重ねあった。

裏切られまくって、誰一人として考えが上手くいっていない俺たち3人の、新しい第一歩だ。

この一歩を二歩三歩と続けていくためにも、まずは、生き残らないとな。

っと、携帯が着信してる。

#textbox ksi0110,name
柴田,「お待たせしました、アタル王。準備が整いました」

アタル,「サンキュー! それで、場所は?」

#textbox ksi0110,name
柴田,「例の場所のままです。直通するようルートを変更致しました。エリス様もいらっしゃることですし、緊急避難通路を使えば辿りつくことはできるでしょう」

アタル,「わかった、今からすぐに向かうよ」

#textbox ksi0110,name
柴田,「無事に辿りつくことを、心よりお祈り申し上げます」

アタル,「準備が整った。さぁ、行こう。隠し通路を使えば辿りつけるはずだ」

エリス,「ですが、緊急通路は全て自分達が封鎖をしています。そこを使うなど……」

アタル,「ねぇ、エリスさん。柴田さんはバカかもしれないけど、無能じゃないからね。イスリアが掴んでいない秘密はまだあるんだよ」

エリス,「……なるほど、自分の調査能力もまだまだのようです」

いや、アレだけ隠し通路を暴かれていれば、十分だと思うけどね。漏れそうな苦笑を噛みしめて、気持ちを引き締める。

ミルフィ,「なら、早く行こうよ!」

アタル,「ああ。……でもその前に、ミルフィにはこれを預かってもらいたいんだ」

俺はポケットから小さな鍵を取り出した。そしてそれをミルフィの手のひらの中へと置く。

ミルフィ,「何、これ? ……ま、まさか合鍵?!恋人同士の証という――!!」

アタル,「ははは、違うから」

ミルフィ,「なんだ、違うんだ」

アタル,「それはおいおいってことで。それよりも、今はもっと大事なものかな」

ミルフィ,「なんなの?」

アタル,「反撃のための、大事な鍵さ」

ミルフィ,「反撃のための……鍵?」

アタル,「そう、それもミルフィが持っていないと役に立たないっていう、特別なね」

ミルフィ,「……? とにかく、あたしが持ってればいいのね?」

意味がわからないといった表情を見せるけれど、それだけわかってくれれば十分だ。

ぎゅっと鍵を握りしめたミルフィから、エリスさんの方へと視線を移せば、彼女は周囲の警戒を終えて、大丈夫と判断したらしい。行きましょうと無言のまま頷いて見せる。

頷きを返すと、ミルフィの手を引いて立ち上がった。

アタル,「……さて、反撃に打って出ようか」

…………

……

イスリア兵,「何故、こんなところに突然現れた!?くそ、俺達が知らない通路がまだあったというのか!」

イスリア兵,「撃て! 当たらなくても足止めになる!」

すぐ傍を銃弾が追い越していく。冷や汗なんてもう出ないほどの雨あられの中、よく無事でいられるもんだ。

約束の場所まで最後まで安全とはいかなかった。それでもここまで無傷でこれたのはめっけもんだと思う。

あと少し、あそこまで行ければ……。

エリス,「ッ!」

イスリア兵,「ぐわっ!」

前をゆくエリスさんが、両手に持った2挺の拳銃によって的確に障害を排除していく。

エリス,「頭を低くして、次はあそこの影に」

ミルフィ,「う、うんっ!」

エリスさんの指示に忠実に従いながら、俺達は駆け抜けていく。

エリスさんがいなければ、そしてミルフィが音を上げずに頑張ってくれなければ、俺なんてもっと早くに捕まるか殺されるかしていただろう。

エリス,「敵が集まってしまいましたね」

ただ、それでも、一度姿を見られてしまえば、俺達が不利になることに代わりはなかった。

オブジェと木立の影になる場所に入ったは良いが、周囲に人が集まっているのがわかる。

エリス,「……少し無茶することなりますが、強行突破をするしかないようです。この場に留まっていては状況は悪化の一途を辿りますから」

神妙な彼女の言葉に、俺は気にかかるものを感じる。だからその感じたものをそのまま、ぶつけてみた。

アタル,「それって、エリスさんひとりが無茶をするってことじゃないの?」

エリス,「それは……」

ミルフィ,「……そうなの、エリ?」

エリス,「姫様……はい、そうです」

やっぱりそういうことか。

ミルフィ,「ダメだよ! エリは、あたしの大切な人なんだから! エリにとって、あたしはただの護衛対象かもしれないけれど、あたしにとっては大事な家族なの!」

エリス,「え……今、なんと……」

ミルフィ,「エリは、あたしの家族だって言ったの。だから、エリも傷つくのは絶対に許さないから!」

エリス,「姫、様…………」

ミルフィの言葉に、エリスさんの瞳が潤む。だけれど涙は流さずに、凛とした表情を見せる。

エリス,「自分にとっても、姫様は大切なお方です。それは任務がなくとも、姫と臣下という立場でなくても。一人の人間として、誰よりも大切な方だと想っています」

ミルフィ,「なら……」

エリス,「いいえ、だからこそ、大切な姫様のためにも自分が……」

アタル,「なら、その役目は俺の方がいいんじゃないの? ミルフィと一緒に行くのは、戦えない俺よりエリスさんの方がよっぽどいいよ」

エリス,「いけません! アタル王を危険に晒すわけには!」

ミルフィ,「そ……そういうことじゃないでしょーっ!」

アタル,「おわっ、な、なんだよいきなり大声出して!?」

鼓膜が破れるかと思ったぞ!

それほどの強い剣幕で、ミルフィはエリスさんに詰め寄っていた。

ミルフィ,「ダメだよ! これからは3人で頑張るって約束でしょ!」

アタル,「けど、3人で動いたら一網打尽にされるかもしれないじゃないか」

ミルフィ,「『三人寄れば文殊の知恵』って言うでしょ!毛利の三本の矢でもいいわよ!ロボットだって3体合体が基本なのっ!」

確かに、ゲットするロボとか、学校が変形するロボとかも、基本は3体合体だな。

こう言い出したら頑として聞かないんだよなぁ、ミルフィは。

ミルフィ,「いい、アニメじゃこういうピンチな時、窮地に陥れば陥るほど、何かチャンスがやってくるもんなんだから。だから、今はそれをじっと待つの」

んなこと言っても、アニメと現実は違うんだってば……なんていうのは、今更だし野暮だ。

現実の戦場をよく知っているだろう、エリスさんをちらっと見たら、彼女は諦めたように肩の力を抜いていた。

エリス,「わかりました。けれど、自分がこれ以上無理だと判断した時、その時は……」

ミルフィ,「だ~いじょうぶよ、きっとそんなことにはならないから」

ミルフィがない胸を叩いて補償をしたが、そんな言葉、安易に信じることなんてできないよ。

チャンスなんて、それこそ、神様が何かやってくれない限りは……。

…………

……

アサリ,「やはり、王宮で何か事件が起きているようですねー」

セーラ,「……アタル様たちは大丈夫でしょうか」

アサリ,「まー、大丈夫だと思いますよー。エリスさんもついていますし、安心してだいじょーぶですよー♪」

アサリ,「エリスさんが仲間でいるならば、ですけれどー♪」

セーラ,「それでも心配です……。ねぇ、ひよこさん…………ひよこさん?」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「……………………」

ひよこは虚ろな目で王宮を見ていた。その顔がふと、爆発に赤く染まった空へと仰がれる。

#textbox Khi0270,name
ひよこ,「アタルくんは王でないといけないの……」

#textbox khi02A0,name
ひよこ,「それが約束だから……」

…………

……

イスリア兵,「よし、このまま包囲して――」

イスリア兵,「ぐぁっ、なんだこれは!?」

突如、電子機器が不快な音を発し、そしてそのまま原因不明の不調と陥り、イスリアの軍人たちは一瞬パニックへと陥った。

イスリア兵,「ニッポンの衛星『あたりめ』からなにかしらの妨害が行われているようです!」

イスリア兵,「何かしらとはなんだ!?」

イスリア兵,「わかりません!」

イスリア兵,「うわっ、通信システムにも障害が!?」

イスリア兵,「くっ、『あたりめ』とは、このような機能が備えられていたというのか……!?」

…………

……

にわかに周囲がざわついた。俺にもわかるくらいのおかしな状況。

#textbox Ker0130,name
エリス,「行きます!」

エリスさんは今がチャンスだと言わんばかりに影から飛び出すと、前面に展開していた軍人達を無力化する。

#textbox Ker0110,name
エリス,「ついてきてください!」

彼女の呼び声に俺達も飛び出した。

ミルフィ,「ほら、ごらんなさい! チャンスは絶対来るって、あたしの言ったとおりだったでしょう!」

エリス,「さすがは姫様です。最後まで諦めぬ心意気、それこそが姫様の理想を叶えるための最大の武器となるでしょう」

ミルフィ,「えへへ~、もう、そんなに褒めないでよ~」

ミルフィが普段どおりの強さを取り戻したことで、エリスさんのコンディションもいつものような無敵感溢れる感じに戻ってきてる。

そんな二人を見ていると、俺もこんな時だというのに笑みをこぼしてしまう。

エリス,「誰だか知りませんが、協力者がいるようですね」

ミルフィ,「柴田かな?」

エリス,「わかりません。今のニッポンの中枢に、このようなことを命令実行できる人間がいるとは思えませんが……あ、失礼しました」

アタル,「いいや、その通りだよ。今回のことで痛感した。ともあれ、この勢いのまま、軽~く突破してみちゃおうか!」

俺は行先に見つけたあるモノを見て、ニヤリと笑う。

エリス,「……いいですね」

エリスさんも何をしたいかわかってくれたようだ。

ミルフィ,「相手の兵器を奪うってのは主人公らしくていいわね!」

アタル,「そういや、ランダムβも、敵の黒いランダムを奪うところから始まったっけな」

エリスさんが一人、加速した。闇に紛れ、一気に戦闘車両へと肉薄すると、傍にいた兵隊を叩きのめして操縦室に滑り込む。

ミルフィ,「ナイス、エリ!」

俺達もその後に続いて入り込む。扉を閉めるやエリスさんはアクセルをふかして一気に車を走りださせた。

ミルフィ,「いっけぇ! このまま一気に行くわよ!」

…………

……

イスリア兵,「う、うわぁ!?」

ミルフィ,「構うな、つっこめぇ!」

エリス,「はいっ!」

アタル,「って、ちょっと待てぇ!?」

俺達を乗せた車はさらに加速する!

進路上にいた兵隊が慌てて横に飛びすさってくれたおかげで、俺はどうやら明日以降もハンバーグを食べられそうだ。

アタル,「ったく、無茶するなぁ……」

エリス,「無茶をせずに、出来ることではありませんから」

彼女の言う通りなのだが、こういう荒事に慣れていない俺にはちょっと刺激が強すぎた。

ミルフィ,「あ、あそこだよね!」

俺に比べて肝が座っているのか、平然と、むしろこの状況を楽しんでいるミルフィが指を差した。それは王宮の前庭にある噴水で、確かにそこが約束の場所だ。

エリス,「このまま横付けを――……っ!?」

アタル,「おわぁ!?」

目の前が真っ白になったかと思ったら、突然大きく世界が揺れた。

ミルフィ,「きゃあぁっ!?」

車の中で跳ね飛んでしまいそうなミルフィの身体を抱え込みながら、どうにかそれに耐える。

アタル,「何が……って、嘘だろ…………」

揺れの収まった車の中から外を見れば、そこにあるのは紛れもない戦車。

アタル,「さすがにこれにはビビるなぁ……」

なんて言ってる場合じゃない! さっきの爆発が砲弾を撃ち込まれたものだとするならば、ここにいて安全なはずもないから。

エリス,「うっ、うぅ……」

まだエリスさんは朦朧としているみたいだった。でも、きっと彼女ならすぐに立ち直ってくれるはず。そしたら、ミルフィを任せておいても大丈夫だろう。
アタル,「――ええいっ、ままよ!」

だから俺は、意を決して車外へと飛び出す。

イスリア兵,「出てきたぞ!」

マシンガンが火を噴いている。けど、それは俺には当たらない。

アタル,「大丈夫、『当たらない』ッ!」

祈るように叫び、駆け回る! そんな俺の意志は、まるで何かの加護を受けているかのように、絶対の力を持っている気がした。

全員とまではいかなくとも、きっと俺の方に相手は意識を向けているはずだ。

アタル,「だから、今のうちに……!」

…………

……

ミルフィ,「う、うぅん……」

エリス,「姫様、大丈夫ですか?」

ミルフィ,「うん、あたしは大丈夫……あれ、アタル、アタルは?」

エリス,「アタル王は……」

イスリア兵,「なぜだ、なぜこれだけ撃って当たらない!」

ミルフィ,「……まさか、アタル、アタル……っ!?」

外の様子からアタルがどこに行ったのかに気づき、彼の元へと飛び出そうとしたが、その腕はエリスに掴まれてしまう。

ミルフィ,「離してよ、エリ!」

エリス,「今、姫様が行っても何にもなりません。姫様は先にあの場所へと行ってもらいます」

ミルフィ,「でも、アタルがこれで死んじゃったら……」

エリス,「姫様、彼は姫様に誓ったはずです。絶対に死なないと。彼を、彼の力を信じるのならば、姫様は姫様の役割を果たすべきです」

きゅっと、手の中の鍵を握りしめる。

ミルフィ,「……うん、わかった。でも、あたしが入ったら……」

エリス,「勿論、自分がアタル王を助けに向かいます」

ミルフィ,「エリ、任せたからね!」

…………

……

アタル,「……そ、そろそろミルフィたちは、車から出てくれたかな……ヒィッ!」

当たらない、という根拠のない自信はあるけれども、怖いものは怖い。こうも銃弾の雨あられの中にいてはおかしくなってしまいそうだ。

怖すぎるのに、頬がひきつって、喉の奥から笑い声が漏れる。これって本当におかしくなってるってことなんじゃないかな。

アタル,「は、はは……なんて笑ってる場合じゃないよな、マジで」

銃が当たらないと割り切られたのか、逃げ道を塞がれながらどんどん包囲を狭まれている気がする。

まぁ、元々どこに行けば安全って場所もないんだけど。一番安全そうなところとは正反対に走ってきちゃってるし。

こうなったらさっさとミルフィがアレを動かしてくれないと、マジで死んじゃうかもなぁ……。

なんて考えている内に、俺は壁際に追いつめられてしまっていた。本気でヤバい。兵たちが軒並、マスクで顔を隠している分、余計に怖い。

イスリア兵,「……………………」

しかも無言。『もう、逃げ場はないぞ』とか『嘆きながら死ね』とか、色々言われた方が気持ちは気は楽だったかも。

……てか、まだかミルフィ。マジで。

考えたくないけれど、もしかして柴田さんに騙されてて、本当は逃げ場なんて用意されていなかったんじゃ……い、いや、今ここでネガティブなってどうする!

俺は死なないって、ミルフィに約束しちゃったからな。

どこか、逃げられそうなところ、俺にもできそうなことはないか?

しかし、辺りを見渡しても眼に入るのは軍人ばかり。

およそ3~4メートルくらいの距離だろう、そこで立ち止まった兵隊が、銃をこちらに向けて――撃った。

アタル,「ひ………………っ!」

背中についている壁がバチバチとはじけて、細かな破片が俺の周りに降り注いでくる。

……が、それだけで、他に身体に傷がつくようなことはなかった。大きな破片も俺を避けて落ちている。

これは、わざと外した――

――わけではなく、やっぱり俺の力が本当かどうかを確かめようってことだったんだろう。銃を向けている彼らから動揺が感じられた。

とはいっても、抜け出せそうと思えるほどのものではなかったけれども。

そうこうしている内に軍人のひとりが銃を手から離し、代わりにぶっとくて分厚い、出刃包丁くらいのサイズがありそうなナイフを手に取り、俺のほうへと歩いてくる。

さすがにアレはヤバいって……!

じっとしているわけにもいかない。が、逃げようにも、もう前後左右逃げ場は封じられていて、万事休す。

ならば窮鼠猫を噛んでやろうかって一瞬思ったけれども、目の前からやってくる兵士の威圧感を前にしたらそんな気持ちどこかに消え去ってしまう。

ああ、くそ。マジで頼む、ミルフィ、早くしてくれ……!

アタル,「あっ……く、離せ……!」

男の大きな手が俺の目を塞ぐように押し付けられてきた。

視界が塞がれ、反射的に男の手を掴んだけれど、ボンレスハムのようにぶっとい腕は俺の力程度でどうにかできるような代物じゃなくて。

アタル,「ぐげっ!」

逆に腹に膝……多分、膝を撃ち込まれ、俺は蛙が潰されるような声で喘ぐ。痛さも苦しさも全部が熱い感覚となって喉の奥から溢れだしてきた。

抵抗する気力は一瞬で失われ、全身の力が一気に抜けきった。

…………ああ、これは本当に終わりなのかな。

妙に物事がスローモーに思える。痛いはずなのに痛みは感じられず、随分と頭は冷え切っている。

何も起きなかったのは、柴田さんが俺を裏切ったのではなくて、ミルフィが間に合わなかったのだと考えたかった。

それならば、俺はダメでも、ミルフィとエリスさんは助かるだろうから。その後のことは……あの3人なら、どうとでもやってくれるはずだ。

俺を抑える手に力が込められた。男は何かを呟いた気がした。無言で殺されるよりかは、よっぽどマシだ。

…………。

ちくしょう、死にたくねぇよ……。

#textbox ker0170,name
エリス,「アタル王!」

イスリア兵,「ぐぁっ!?」

ひやりとした何かが首筋に当てられて、いよいよ終わりかと諦めきった時、ようやく助けがやってきてくれた。

それは俺が考えていたような展開ではなかったけれど、俺が男の手から解放されたことに代わりはない。

恐怖から逃れられた俺は立っていられず、膝から崩れ落ちてしまう。

そんな俺に構わず、突如現れた闖入者は、俺を囲んでいた兵隊達の間を流れるような動作で駆け抜けながら、両の手から放つ火により驚異を排除し安全を確保した。

#textbox Ker0170,name
エリス,「ご無事ですか、アタル王!」

アタル,「エリスさん……? なんでここに! ミルフィは!?」

地面に膝をついていた俺のところへと駆けつけてくれたエリスさんに、感謝の気持ちを告げるべきなのに、俺は恩知らずにも食いかかってしまった。

そのことにエリスさんは目を丸くしたが、すぐに表情を引き締め臣下としての顔になる。

#textbox Ker0110,name
エリス,「ご安心を。誰の目にもつかぬように、姫様はシューターの中へと入られました」

アタル,「そ、そっか……なら、良かった」

#textbox Ker0120,name
エリス,「しかし、まさかあんな所に入り口を作るとは……。ニッポン人のセンスには呆れ返るばかりです」

アタル,「ははは……。ともあれ、ありがとう。エリスさんが天使に見えるよ」

#textbox Ker0140,name
エリス,「な、そ、そんな……自分を、天使などと……ふ、不釣合いにもほどがあります……!」

あれ、もしかしてエリスさん、照れてる?

天使の一言で顔を少女のように赤らめ、戸惑を見せる。

年上の女性なのに、それがなんだかとても愛らしくて、状況も弁えずに俺はつい、もっと褒めてみたくなってしまった。

アタル,「そんなことないでしょ。こんなに美人で、格好良くて、戦いの女神みたいだ」

#textbox Ker0160,name
エリス,「お、おやめください……自分など、戦場にいすぎたせいで身体中は傷だらけで、髪の毛だってもう艶もなく……」

アタル,「そんな風に自分を卑下したらだめだよ。傷なんて、どこにあるのさ。月の光を浴びて、髪の毛だってこんなに綺麗だ」

#textbox Ker0140,name
エリス,「か、からかわないでください!」

アタル,「うわぁっ!?」

突如エリスさんに銃を突きつけられて引き金を引かれ、俺は助かったばかりなのに危うく死ぬところだった。

#textbox Ker0150,name
エリス,「あっ……も、申し訳御座いません、アタル王!」

アタル,「い、いや、大丈夫だから」

……こ、怖かった。調子にのるのもほどほどにしないと、本気で殺されかねないな……。

#textbox Ker0110,name
エリス,「こほん、し、しかし、まさか本当に囮役をやられるとは」

エリスさんの方も取り直した様子で、わざとらしく咳をひとつして、話題を変えてくる。

アタル,「覚悟を決めたら、これくらいできるさ」

#textbox Ker0120,name
エリス,「……そうでしたね。ミルフィ様を安心させる時にも、命を賭けられていました。……あの時、どんな手段を使ってでも殺しておけば」

アタル,「おおおいっ!?」

この期に及んでまたそういうことを言うのか、この人は!?

エリス,「冗談でございます」

#textbox Ker0110,name
い、いや、その冗談は主観悪すぎるし、今一瞬見せた殺意は本物だったと思ウヨ?

#textbox Ker0120,name
エリス,「けれど、貴方様の勇気は紛れもない、本物です。低すぎる評価をしていたことをお詫びしなければなりませんね」

アタル,「俺に惚れちゃった?」

#textbox Ker0180,name
エリス,「……はい、そうかもしれませんね。男性にここまでの好意を抱いたのは初めてです」

アタル,「あはは、そりゃないよね……はい、そうかもって――え、えぇええぇえぇぇぇぇッ!?」

#textbox Ker0110,name
エリス,「おかしいですか?」

アタル,「お、おかしくはないし、その気持ちは嬉しいんだけれど、俺にはミルフィがいるしごにょごにょごにょ」

#textbox Ker0120,name
エリス,「ふふ、わかっております。自分が何よりも大切なのは姫様がお幸せでいらっしゃることですから、そこに横槍を入れるつもりはございません」

アタル,「……エリスさん」

#textbox Ker0110,name
エリス,「さぁ、早く自分たちも姫様と合流しましょう。そうすれば、この状況を終わらせられる……ポーシャによって」

勿体ぶって言ってなかったけれど、そりゃさすがにバレバレだよな。

#textbox Ker0180,name
エリス,「そうですね、アタル王?」

アタル,「……ああ! そうだよ。だから、俺たちも急ごう!」

…………

……

#textbox kmi0250,name
ミルフィ,「ひゃやあああぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!?」

どこまでも、どこまでも落ちていく、真っ暗な滑り台。

エリスとわかれて、あたし一人でここに入ってからどれだけの時間を滑り続けているのか、わかんない。

昔、遊園地のプールで滑ったウォータースライダーなんかよりよっぽど長くて。

本当に、この滑り台であってるのかな? もしかして間違えていて、あたしはこのまま地の底にまでいくんじゃないかって気がしてくる。

――って、考えていた時、あたしの体は柔らかなクッションの上に放り出された。

ミルフィ,「ぶみゃっ!?」

ミルフィ,「い、いたた……ふぇ、ここ、どこ……」

柴田,「お待ちしておりました、ミルフィ姫」

ミルフィ,「……え、柴田? じゃあ、ここでいいのね?」

柴田,「ミルフィ姫、アタル王より鍵は受け取られていますね?」

ミルフィ,「う、うん」

柴田,「よろしい、ならばお見せしましょう」

柴田,「これこそが天王寺財閥の協力を得て、アタル王がミルフィ姫の誕生日プレゼントにと極秘に開発されていた、ミルフィ姫のためだけの二足歩行クマ型巨大兵器――」

柴田,「――いえ、アタル王はこう仰っていました。これは兵器ではない、人の形をした平和を作るための偶像なのだと」

ミルフィ,「平和を作るための偶像……」

柴田,「そうです。天王寺重工業制KUMA001、『平和創造機ポーシャ』です!」

それは白熱灯を浴び、眩しすぎるほどに白く輝く。光の中で、恐ろしいほどの巨体の威圧感をさらけ出していた。

#textbox kmi0250,name
ミルフィ,「あたしの誕生日のため……だから、アタル、内緒で……」

#textbox ksi0110,name
柴田,「そう、そして、技術者の皆さんが彫心鏤骨して作り上げた超マシンです!」

思わず涙腺が緩みそうになる。

……アタル、無事だよね?

ちゃんとあたしに、ありがとうって言わせるんだからね?

#textbox ksi0110,name
柴田,「さぁ、アタル王から預かった鍵を差し込んでください、ミルフィ姫。あまりゆっくりとはしていられないはずですよ」

#textbox kmi0210,name
ミルフィ,「ま、まかせなさいっ!」

…………

……

アタル,「誰だ、柴田さんか?」

#textbox ksi0120,name
柴田,「アタル王、ミルフィ姫は定位置につかれました。このまま発進させます」

アタル,「わ、わかった。それでどこから?」

#textbox ksi0110,name
柴田,「アタル王の足の下です」

アタル,「……は?」

#textbox ksi0180,name
柴田,「さぁ、ポーシャのお披露目ですよ!ゲート、オープンっ!」

アタル,「ちょ、待――――」

#textbox Ker0170,name
エリス,「な、なにごとですか!?」

アタル,「ポーシャが、出てくる……! 逃げ――」

てる余裕なんてなかった。

ぐわっと俺の真下がいきなりまっぷたつに割れて、轟音を立てながら地面がなくなっていく。

一歩先に行っていたエリスさんは、無事に足場を確保できているようだったが、俺は身体を支えるものの全てをなくして空中にほっぽり出されてしまい、そして――

#textbox Ker0150,name
エリス,「ア、アタル王!?」

エリスさんは手を伸ばしてくれたが、届かず――

アタル,「う、うわああぁぁああぁっ?!」

真っ黒な星空が見えて、そのまま地の底まで落ちていく――

かと思われたが、すぐに背中は地面に代わるものに衝突し、俺はそれ以上落ちることはなかった。

アタル,「……な、何が起きたんだ」

#textbox kmi0210,name
ミルフィ,「無事だったようね、アタル!」

アタル,「ミルフィ……? あ、そ、それじゃ……」

俺は尻の下にあるものが、何度も秘密の工場に足を運んで見て触ってきた物質だと気づき、心の底から嬉しくなった。

そう、これは、ポーシャだ。少し予定よりも早いけれど、こうして表に出てくることができたんだ。

ミルフィ,「……アタル」

アタル,「ん……?」

ミルフィ,「いろいろ言いたいけれど、一言だけ……」

ミルフィ,「……ありがとう、アタル」

アタル,「ああ」

ミルフィはこちらに表情を見せなかったが、その声だけで俺は十分だった。

アタル,「……さぁて、ここからが俺たちの逆襲ターンだ!」

ミルフィ,「もっちろんよ!」

ミルフィは小さな手に持っていた鍵を、月に届けと言わんばかりに高々と放り投げ、そしてアニメの主人公のように格好良くキャッチ!

ミルフィ,「ひゃわっ!?」

アタル,「おおおおおいっ!? くっ…………セーフ……」

……できず、落ちそうになったのを俺が慌てて横っとびでキャッチした。

アタル,「こ、こんな時に遊ぶなよ!」

ミルフィ,「れ、練習ではうまくいってたんだもん!」

俺の手から鍵を奪い直すと、さすがに今度は放り投げるようなことはせず、高くと掲げるだけで終わらせて、

ミルフィ,「ポーシャ、目覚めなさいっ!」

鍵を差し込んだ!

ポーシャ,「KU・MAAAAAAAAAAAAA!!」

王宮に、いやニッポンの首都に、轟音とも言うべき巨大なポーシャの咆哮が轟いた。

その怒りが篭った啼き声に、王宮を囲んでいた者たちはひとりのこらず恐れを抱く!

例えその姿格好が愛らしいクマの形をしたロボットとはいえ、自分よりも巨体なものに対する原始の頃から染み付いた畏怖を感じずにはいられなかった!

しかもそれが山のように巨大ともなればなおのこと!

誰しもが有り得ないものを目にしてしまい、呆然と、そう呆然とその魔神の如き威圧感を放つ存在を見つめていた。

ミルフィ,「ふふ」

ミルフィ,「ふふふ、ふふふふふふふふふふ」

ミルフィ,「ふふふはははははははははははははははははははっ!」

ミルフィ,「聞けぇいっ!あたしの言動を夢現と呆れ果てていた者たちよ!」

ミルフィ,「これが、これこそが、あたしが追い求めていた、全ての武力を無力化し、全ての戦意を挫く圧倒的武力!世界の平和を作るための偶像! その名も――」

#textbox ksi0110,name
柴田,「天王寺重工業制KUMA001――」

#textbox kmi0210,name
ミルフィ,「平和創造機ポーシャ!!!」

ポーシャ,「KUMA゛!!」

ババーンっ! と、豪勢な効果音がして、ポーシャの背後で火薬が大爆発する!

アタル,「って、そ、そんな小細工する暇があったなら、もっと他にやることあるだろう!?」

#textbox kmi0230,name
ミルフィ,「ていうか、あたしの決め台詞の間に変なの挟まないでよ、柴田!」

#textbox ksi0150,name
柴田,「こういうモノ場合、ちゃんとスポンサーの名は出しませんと。関係した人々の士気に関わりますので」

な、生々しい話だなぁ……。

ミルフィ,「わ、わかったわ。それはそれでいいとして……」

ミルフィ,「さぁ、かかってきなさい、悪者共!全てこのポーシャが成敗してくれるわっ!」

#textbox Ker0150,name
エリス,「こ、これが……ポーシャ…………」

#textbox Ker0110,name
エリス,(見上げれば首を痛めそうなほどに巨大で、そして力強いボディ……まさか、これほどのものとは……)

#textbox Ker0180,name
エリス,「これならば、姫様の理想を叶えられるというのですね、アタル王!!」

イスリア兵,「こんなもの、ハリボテだ! 撃て、撃てぇ!」

地上に配備されていた戦闘車両たちが、一斉にポーシャに向けて砲撃してきた。

その砲弾は大地を抉り、鋼鉄の重量兵器すらも砕く凶暴な火力。

しかし――

ミルフィ,「そんなもの、ポーシャに効くと思ってんの!」

そんなもの、まるで豆鉄砲だと言うかのように、ポーシャはびくともしなかった。

ふかふかの毛皮っぽい表面装甲を少し焦がしただけで、ダメージは一切入ってきていない。

イスリア兵,「な、なんだと……」

ミルフィ,「その程度で倒されるポーシャだったら、戦争なんてなくせないってのよっ!」

物凄い技術で作られたバランサーのおかげで揺れが最小限になっているこの頭上コックピットの上で、ミルフィが眼下に向かって叫ぶ。

ミルフィ,「投降しなさい! アンタたちに勝ち目はないわよ!」

ミルフィの声は拡声器にのって、地上に展開されていたイスリアの軍人たちへと伝わる。

イスリア兵,「だ、だまれ! ただ突っ立っているだけならビルにだってできる! そのようなもので戦局が変わるものか!」

ミルフィ,「やれやれ、仕方ない。……痛い目を見ないと解らないようね!」

仕方ないと言いつつ、ミルフィの表情はこれ以上ないほどに笑顔だった!

ミルフィ,「戦車を踏みつぶしちゃえ、ポーシャっ!」

ポーシャ,「KUMA゛ッ!」

アタル,「うおあっ!?」

ぐわあっ、とポーシャが足を上げて……力を溜め、そして位置を定めて一息で落とす!

遥か眼下で赤い花火が破裂した。本当は花火なんて言えるものじゃないのだろうけれど、このポーシャの上からだとまるでオモチャのように見えるから、困ってしまう。

#textbox kmi0210,name
ミルフィ,「ふふ、搭乗者は無事に逃げたようね」

手元の地上モニターを見たミルフィが満足そうに頷いた。

あ、もしかして踏み潰すまでに時間をかけたのって、力を溜めてたんじゃなくて、兵士を逃がすために……?

#textbox kmi0290,name
ミルフィ,「どう、これがポーシャよ! ただの木偶人形だと思っていたら痛い目じゃ済まないんだから!」

イスリア兵,「くっ、だ、だがそのような鈍重な兵器!機動力で撹乱してしまえば!」

管制機,「こちら、スペースアイボール。見えるか、ターゲットはあのでかいグリズリーだ」

パイロット,「ヒューッ! マジかよ、あんなもん作るなんて、ニッポンって国はやっぱりクレイジーだぜ!」

管制機,「いいか、トロイ・J・ハートビスになろうとなど考えるな。遊びはなしだ、いいな」

パイロット,「わかってる、生きて帰れたらまた飲もう。その時は、俺のフィアンセを紹介してやる!」

アタル,「空から来たぞ!」

ミルフィ,「わかってるわよ、ポーシャ!」

ポーシャ,「KUMA゛!」

ポーシャがその恐るべき巨体に似合わぬ速度で首を巡らせ、こちらへとやってきた戦闘機の編隊を視界に捉える。

#textbox kmi0230,name
ミルフィ,「いっけぇ、ムーンアタァァァックッ!」

ミルフィの雄叫びに合わせ、ポーシャの額の三日月が瞬いたかと思えば、桃色の閃光が刃となって夜の闇を切り裂いた!

パイロット,「な、なんだうわああぁぁああぁぁあぁぁっ!?」

その光に触れた戦闘機たちは、一瞬おかしな挙動を見せたかと思えば、直後続けざまに真っ赤な火花と変わった。

ミルフィ,「クマの機動力を舐めないでよねっ!」

ポーシャ,「KUMA゛!」

イスリア兵,「な、なんてやつだ! あの巨体で、あの俊敏さだと!」

ミルフィ,「……ふ、驚くのはまだまだよ! 今のでエースパイロットになったあたしは、2回行動が出来るようになったのよ!」

イスリア兵,「な、なんだと!?」

えぇっ、そこ『なんだと』って驚くべきところなの!?『……何それ?』ってなるところじゃないのっ!?

ミルフィ,「気力も満タン! 明鏡止水モードが発動したあたしとポーシャによる、最大最強奥義を刮目して見るがいい!」

イスリア兵,「何をする気だ!?」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ !

ポーシャの全身から、無機物とは思えないほどのオーラが発せられる! そばにいる俺は吹き飛ばされてしまいそうな風圧を感じていた!

アタル,「お、おい、街中だってことを忘れるなよ!」

ミルフィ,「わかってる、市街地は地形効果のおかげで戦いやすいのよね!」

アタル,「そういうことじゃねえええええぇっ!」

ミルフィ,「行くぞ、必ッ殺ッ!」

ミルフィ,「プリンセス……ッ、ストラァァァァイィィィックッ!!」

ポーシャ,「KUMA゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!」

 カ ッ ! ! ! !

俺の声はミルフィの耳には届かなかった。

まるで全身が白熱化したかのように真っ白になったポーシャの全身が、眩いほどに光り輝く!

そして――

イスリア兵,「ぐわああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!?」

その光を浴びた戦闘車両、戦闘機、その軍事用兵器の何もかもから爆発音が響いた。まるで爆竹のように小刻みにパパパパパパンと、連続して――

…………

……

その光は、原理はサッパリわからないが、イスリアの兵器だけを狙って発生する対電子兵装だったと柴田さんは言った。

柴田,「だから、被害もこの程度で済んだのですね。一般市民への被害を最小限に抑えつつ、軍事力だけを低下させる、リクエスト通りの兵装です」

ミルフィ,「やるじゃないの、柴田!」

柴田,「光栄の極みです、ミルフィ姫」

傅く柴田さんの後ろでは、エリスさんが今回のクーデターに参加しなかったイスリア軍の人間と協力して、投降した兵隊たちをふんじばっている。

#textbox Ker0170,name
エリス,「さぁ、とっとと歩け!」

イスリア兵,「く、まさかこれほどとは……」

#textbox Ker0130,name
エリス,「本国で企んでいた国王暗殺計画も未遂で終わったそうだ。お前たちの企みは全て終いだ」

イスリア兵,「ふ、ふふ……だが、あの兵器の力があれば、イスリアはこれからも世界の王として君臨できる……」

ミルフィ,「世界の王になるつもりなんてないわよ。あたしが欲しいのは、戦争のない平和な世の中だけなんだから!」

イスリア兵,「……そこまで言うのならば、見せてもらいましょう。巨大すぎる力は、人間を覇者としようとする。その潮流に逆らえるかどうかを」

エリス,「無駄口を叩くな。連れて行け!」

気味悪く笑ったその兵士は、エリスさんに指示された人によって護送車へと運ばれていった。

ミルフィ,「………………大丈夫だもん」

男の言葉に何か感じるものがあったのだろう。ミルフィは自分に言い聞かせるように、そう呟いた。

不安そうなミルフィの姿を見て、俺だって少しは力になってやりたいと、そっと肩に手を置く。

アタル,「ああ、大丈夫さ。ミルフィならな」

ミルフィ,「アタル……」

エリス,「姫様、アタル王……」

エリス,「…………では、残るは自分の処遇ですね」

ミルフィ,「は? 何を言ってるのよ、エリ。気にすることなんてないって、さっき言ったじゃないの!」

エリス,「先程はああ言ってもらいましたが、やはり何も責任を取らぬわけにはいきません。そうすることこそが、自分にとってのけじめなのです」

エリス,「姫様はもう、大丈夫です。アタル王がずっと支えてくれますから、自分などいなくったって……」

ミルフィ,「いいわけないでしょ! この期に及んで何を言ってるのよ、エリは!」

エリス,「しかし……」

ミルフィ,「しかしもかかしもないのっ! そうでしょ、アタル!」

ミルフィ,「それともアタルは――ニッポンはエリに責任を取らせるっていうの!?」

アタル,「それは……」

これだけの事件を起こしたんだ。ニッポンの政府が何も言ってこないはずがない。

それを黙らせるには、やっぱり絶対命令を使うしか……

……いや、それじゃダメだ。それじゃ、これまでと同じになっちゃう。政府に舐められるだけだよ。

だから、やっぱりここは俺がどうにかしないといけないんだ。

アタル,「……いや、エリスさんにはちゃんと責任を取ってもらう」

ミルフィ,「アタル!?」

エリス,「……有難うございます、アタル王」

アタル,「勘違いしないで欲しいな。エリスさんが望むような責任は取らせるつもりはないよ」

エリス,「それは……」

アタル,「ベタベタだけどね、さっきも言ったとおり、俺たちが本当の王になるために働いてもらうよ」

アタル,「覚悟しておいてね。俺みたいに何ら力もない王を、このニッポンの本当の王にするために働くんだ。死ぬまで苦労することになると思うよ」

エリス,「アタル王……」

アタル,「柴田さん、そういうことだから」

柴田,「……それは、王としての命令でしょうか?」

アタル,「いいや、国枝アタル個人のお願いさ。俺にはまだ、王の力なんてこれっぽっちもないからね」

柴田,「ふふ、なるほど。いいでしょう。貴方ならば世界を変えられるかもしれない。不肖、柴田春清、アタル王のために尽力いたしましょう」

アタル,「いいね、エリスさんも」

エリス,「……はっ、アタル王。残る生涯、貴方と、姫様のために全てを捧げます」

アタル,「よし!」

ミルフィ,「そうこなくっちゃ!」

アタル,「それじゃ早速、仕事をしてもらうよ、エリスさん、柴田さん」

エリス,「はっ、なんなりと!」

イスリア軍によるニッポン国内でのミルフィ姫暗殺未遂という大事件は、しかし、表沙汰になることはさせなかった。

これだけの事件を起こされたものの、致命的な事態にならなかったニッポン側はイスリアの失態と大喜びであったが、俺たちはその事実を全て封殺した。

以降、このことに関する事実を用いた対外交渉も禁ずると。無論ニッポンの政治家たちは反論してきた。

が、柴田さんが残しておいてくれた、本来表に出るはずのない政治家たちの閣議の記録は、彼らを黙らせるに十分たるものだった。

イスリア側も自分たちの恥を大々的に発表する気など毛頭ないため、水面下の会談により話は合わされ、うやむやにする方向で進んでいった。

無論、俺たちはそれで終わらせるつもりはない。

柴田さんを使って今回の事態に関するニッポン政府の動きの遅さを辛辣に追及。並行して、被害にあった人々への温情を残された絶対命令を使って行った。

これにより国民は『自分のためでなく、国民のために大切な権利を使われた王様』と、俺に対して良い感情を抱いてくれた。

結果として世論は傾き、ニッポン政府の力は弱まり、代わりに王としての発言力は高まり始めている。

……ってのが、簡単な顛末だ。

アタル,「一段落、ってところかな」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「はい、事後処理の指示も済みましたし、一段落と言って良いでしょう」

アタル,「それじゃそろそろ、王として、政治ってのを教えてもらいたいんだけど、柴田さん?」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「国王自ら、政治に乗り出すというのですか? そのようなこと、ニッポン国民は認めないと思いますよ?」

アタル,「認めさせるさ、実力でね」

…………

……

ミルフィ,「よーやくおちついたわねー。はー、疲れたー」

アタル,「ミルフィはほとんど何もやってないだろ……」

ミルフィ,「しつれいね! ちゃんとポーシャのデモンストレーションってことで、ニッポンとイスリアを行ったり来たりだったんだからっ!」

……それで済んだんだから、いいじゃないか。

と、自分が柴田さんと一緒に苦労してきたことを思い、心の中で呟いた。

エリス,「……あの、それでどうして自分もアタル王の寝室に呼ばれているのでしょうか?」

そう、いつもはミルフィだけが入ってきて、エリスさんは外で待っているというのに、今日に限ってミルフィが彼女を半ば強引に部屋の中へと連れてきた。

俺もその理由が解らなくて、ちょっと戸惑っている。

一緒に祝杯でもあげようってことなのか? なら、功労者である柴田さんも呼んであげたいんだけどなぁ。

エリス,「久々のご対面なのです。お二人で過ごされたほうが……」

ミルフィ,「いいえ、エリ。今日はここで、正直に答えて欲しいことがあるの」

エリス,「なんでしょうか、姫様。自分は姫様に隠し事など……」

ミルフィ,「エリ、あなた、アタルのことが好きでしょ?」

……は? え、ちょ、ちょっと待て!?なんでミルフィがそんなことを言い出すんだ!?

エリス,「え……い、いえ、そのようなことは!」

エリスさんは躊躇いを見せたが、知らぬ人から見れば想像もしていなかったとんでもないことを言われて、驚いたようにも見える。

けど、ミルフィはそれを否定した。

ミルフィ,「残念だけど、ずっと一緒にいたから見ていただけでわかるのよね。これまでなかったもの。あんなに熱い目で男の人を見ることなんて」

エリス,「そんな、仰られるようなことはっ…………いいえ、嘘はつけませんね」

アタル,「え、エリスさん?!」

これ以上、大好きなミルフィに嘘はつけないと考えたか。エリスさんは自嘲気味に微笑を浮かべる。

エリス,「はい、そうです。自分は少なからずアタル王に心惹かれております」

エリス,「しかし、立場は弁えております。ゆえに、姫様の迷惑にならぬよう自分は、本国に戻り――」

ミルフィ,「どうしてそのキモチを殺す必要があるの?」

エリス,「――え?」

その言葉は、俺としても驚く言葉だった。

身を引こうとするエリスさんにどう言うつもりなのかとハラハラしていたけれど、まさかそんな風に言うとは思ってもいなくて。

ミルフィ,「あたしはエリもアタルも大好きだから。ずっとずっと一緒にいたいの」

エリス,「けれど、姫様。こういう、男女の仲というのは……」

ミルフィ,「あたしたちは一心同体なんだよ? なら、心も体もひとつになってもいいと思う。ううん、ならないと」

アタル,「お、おい、さすがにそれはおかしいだろう?」

ミルフィ,「おかしくないよ。だって、3人の心がひとつにならないと、合体しても全力を出せないってもんだもの!」

アタル,「いや、ここでそういう例を持ち出されても……」

ミルフィ,「3人が好き合うのって、無理……かな?」

無理って……そんなの、常識で考えたって……。

ミルフィ,「アタルはエリのことは嫌い?」

アタル,「嫌いじゃ、ないけど……さ…………」

ミルフィ,「エリ、あなたは好きなのよね?」

エリス,「自分、自分は……はい、お慕い申しております」

エリス,「力を持たぬアタル王が窮地を脱するために身を呈したそのお姿にしかも敵であった自分を許容してくれた心の広さに自分は言葉に出来ぬ愛慕を感じてしまったのです」

エリス,「けれど、アタル王はミルフィ様の良人となられる方。自分などが特別な感情を抱く資格はありません」

ミルフィ,「恋に資格や免許はいらないんだよ。それに、ひとりの素敵な人を二人で愛してもいいと思う。そうして皆が幸せな気持ちになれるなら、それは世界平和につながるもの」

エリス,「……無茶苦茶な理論です」

むちゃくちゃ……そう、無茶苦茶な話。

だけどミルフィに言われると、俺たちが皆で笑顔でいられるのは、きっとそれしかないという気持ちにさせられて……。

ミルフィ,「愛し合うことも出来ないで、誰かを愛することなんてできないもん。あたしが感じた幸せを、エリにも感じてほしいの。だから……ね、アタル」

何を望まれているか、それは、倫理的には許されないことなのかもしれないけれど……。

ミルフィの気持ち、エリスさんの気持ち、その両方を幸せにするために、少しくらいの独善は許される気がして。

アタル,「……わかった。うん」

ミルフィ,「それじゃ、エリ。3人で愛し合うわよ?」

エリス,「ひ、姫様……あっ…………」

ミルフィに体ごと倒されてきたエリスさんのことを、俺はしっかりと抱き抱える。

ベッドに横たわる俺の下半身に、ふたつの温かな柔らかさがのしかかってきている。

エリス,「あ、はぁ……あ、あの、このようなものが、本当に気持ち良いのでしょうか……?」

アタル,「う、うん、気持ちいいよ」

ミルフィ,「アタルはちょっとヘンタイ入っているからね。こういう方がよろこぶのよ」

アタル,「いや、き、気持ちいいけど、ヘンタイってのはちょっと」

それにはちょっと異論をとなえたいけれど、気持ちいいのは本当なので強くは言い返せない。

それがわかっているからか、ミルフィはふふんと、上機嫌に鼻を鳴らしてみせた。

ミルフィ,「さ、エリもやってごらんなさい」

エリス,「は、はい……。こうして、こう、髪の毛を巻きつけていくんですね……」

アタル,「き、汚いと思うようなら、やめてもいいよ?」

エリス,「そんな、アタル王が汚いなどと……思いたくても思えません……」

な……っ、なんて嬉しい事を言ってくれるんだ、この人は……。

エリス,「うっ、あ……あぁ、きゅ、急に、アタル王の男性の部分がたくましくなられて……っ!」

アタル,「あぅ、ご、ごめん……」

エリス,「い、いえ、少し驚いただけで……しかし、男性の性器というものは、ここまで大きくなるのですね……」

ミルフィ,「この程度で驚いたらだめよ、エリ。アタルの本気はこの程度じゃないんだから」

エリス,「えっ、ええっ……!? こ、これが本気ではないとおっしゃるのですか、そんな、ご冗談を……」

そ、そんなに驚くべきことなのかな……。

エリス,「既に現段階の大きさでも、規格外のサイズと思われます。こんなにも巨大なものが……体内に入り込むなんて……」

ミルフィ,「最初は苦しかったけれど、今はもう慣れっこよ。この大きいのが」

エリス,「そ、そうでしたね。姫様はもう、アタル王となされて……いるんですよね」

アタル,「うぐぁああああぁっ!?」

睨まれた上にぐぐぅっとエリスさんの手が俺のモノを握りしめてきた。軍人をやっているだけあってまるで万力に押しつぶされるような痛み!

エリス,「あっ、ああっ、失礼しました!」

すぐに離してくれたから良かったものの……あのままもう1秒長くされていたら、俺は男として生きて行けなかったかもしれない……。

ミルフィ,「もう、何をやっているのよ、エリス」

エリス,「も、申し訳御座いませんでした……」

あの頃ほどじゃないけれど、まだやっぱり、俺よりかはミルフィのことの方が好きなんだろうな。

だから俺がミルフィとしていることを、認めているんだろうけれど、心のどっかじゃ認められてなくて。

……あまりミルフィとのことを連想させるようなことは、俺からは言わないようにしよう。

ミルフィ,「ほら、悪いと思うなら、怪我したところを撫でるように、やさしくこすってあげて」

エリス,「は、はい。優しく……癒すように…………」

アタル,「うっ、はっ、あ……っ」

エリス,「あっ、ま、また何か自分は間違いを犯してしまったでしょうか……?」

ミルフィ,「違うわ、エリ。男の人って気持ちいい時、今みたいに声を出しちゃうことがあるのよ」

エリス,「そうなのですか……? では、今のやり方で……?」

アタル,「う、うん、気持ち良かった……」

エリス,「ならば、良かった」

心底ほっとしたようにエリスさんは肩の力を抜いた。

アタル,「今みたいに、もっとしてほしいな」

エリス,「わかりました……」

ミルフィ,「あたしも一緒にやってあげるわ」

二人の手が、そっと俺のモノをしごき始める。

エリス,「ああ、熱い……すごく熱気を感じます……それだけ、興奮されているということなのですよね……?」

ミルフィ,「そうよ、エリ。どう? この熱を感じていると、何だかとけちゃいそうな気分にならない?」

エリス,「はい、男性器から届くこの熱を浴びていますと、あぁ……自分も熱く、なってしまい……はぁ……」

先端にかかる熱い吐息。俺は思わず腰を震えさせてしまう。

エリス,「こ、これも悦ばれているのですよね?」

エリスさんの問いにミルフィは頷きで応えた。それを確認したエリスさんは、緩めていた手の動きに熱を込め直した。
アタル,「ああ、髪の毛と手が一緒にこすれて、気持ちいい……」

髪の毛でペニスをしごかれるというのも、手や口、それに女の子の中とは違う刺激があって、たまらないものがあった。

エリス,「アタル王が、自分の髪の毛などで悦ばれている……」

エリス,「何故だかはわかりませんが、アタル王にもっとご奉仕したいと、心より思ってしまいます……」

ミルフィ,「ふふ、それが好きな人にしてあげてるってことよ」

エリス,「これが、そのような想いなのですね……。確かに、これまで意識したことのない多幸感に包まれています」

エリスさんは解れた髪の毛を改めて絡ませてきて、もう一度俺のモノを愛撫してくれる。

エリス,「はぁ、ああ……男性器が……びくっ、びくっと震えて、悦びを表現さています……ああ、嬉しい……」

エリス,「ふぅ、はぁ、はぁ、あ……」

アタル,「ああ……っ、あ、あ……」

こうしてされていると良くわかる。髪の毛なんて全部同じに思えるけれど、全然感触が違うんだって。

ミルフィ,「ふふ、気持良さそうな顔をしちゃって」

ミルフィの髪の毛は柔らかくてふわふわで。優しい感じで俺のモノに絡みついてくれている。

その触れ心地は、高まりたいのだけれど、ギリギリのところで抑えられるような感じという、絶妙さ。

エリス,「んんっ、ん……こんなにも、雄々しく膨れ上がって……」

それに対してエリスさんのは、少し硬めなんだけど、そのシャープさが良かった。

彼女は傷んでいると言っていたけれど、そんな風には全然思えない。しゅるしゅると擦れてくるツヤツヤの髪の毛に、俺はうっとりとしたため息をついてしまう。

エリス,「あ、あ……ひ、姫様……? アタル王の尖端から、何やら汁気が出て参りました……こ、これが精液なのですか?」

手淫を続けていたエリスさんが、ふと俺の変化に気づいてミルフィに尋ねる。その質問には、ミルフィも少し呆れ気味だった。

ミルフィ,「エリ、あなた博学なのか浅学なのかわからないわね」

エリス,「も、申し訳御座いません……」

ミルフィ,「謝ることはないけどね。これは、我慢汁っていう、気持ちいいと男の人が漏らしちゃう液体のことよ。カウパーって言った方がいいかしら?」

エリス,「カウパー……ああ、これがカウパー氏腺液、尿道球腺液なのですね」

エリス,「はい、記憶に御座います。性交を行う際に、男性が出す液体だと…………せ、性交……」

性交と言う自分の言葉に、エリスさんはぼんっと頬を真っ赤にしてしまった。

この程度で赤くなっちゃうなんて。本当にエリスさんは見た目に反して可愛い人だなぁ。

エリス,「あ、あの、アタル王……その、出来れば自分を見ないでください……はずかし、すぎて……」

アタル,「恥ずかしがることなんてないよ。とてもきれいだ」

エリス,「そんな、戯言で自分をからかわないでください……」

ミルフィ,「あら、冗談じゃないわよ。本当に綺麗よ、エリは」

エリス,「姫様まで……お赦しください、あ、ああぁ……自分のことを、そんなに、じいっと見られてしまっては、自分は、自分は……あ、あぁ……っ」

その照れる様子を見て、ミルフィが面白そうにエリスさんの耳たぶへと、はむっと噛み付いた。

エリス,「ふあぁっ――あッ、ああぁぁぁぁぁっッ!?」

その一部始終を見ていたというのに、俺の方がびっくりしてしまうほどに大きな声でエリスさんは啼いてしまった。

ミルフィ,「ふふ、エリったら。触っただけなのに、こんなに敏感に反応しちゃって。いやらしい子……はむ」

それを行ったミルフィはすごく意地悪な瞳で真っ赤になったエリスさんの顔を見つめ、そしてまた噛みつく。

エリス,「お許しを、お許しを、ミルフィ様……っ! ああ、おやめくださいっ……、い、いや……あ、ああぁ、あ、あ」

アタル,「うっ、うああぁおぉっ!?」

調子に乗ったミルフィに身体を弄られたエリスさんは、ブレーキをかけられないままに俺の肉棒をしごく。

強烈な刺激に俺は我慢ならず、弾けるのを押さえることができないまま、奥歯を噛み締めた。

アタル,「ご、ごめん、出る……っ!」

エリス,「え……ひゃっ、あっ!?」

エリス,「ふぁっ、あっ、あああぁっ!? あ、暴れる!?」

手の中で暴走した肉棒を離すまいと、手でもってしっかり持とうとしたようだったが、こちらの方が一歩上手だったようだ。

手から飛び出しはしないものの、射精を止められることはなく、噴水のように精液は飛び出した。

ミルフィ,「きゃっ……ん、んんぅ……」

エリス,「やぁっ、あつっ、あっ、熱い……ッ!?」

アタル,「ぁっ――――っ、はっ、はぁっ……あぁ……!」

沸騰した粘液はミルフィの可愛らしい顔を、エリスさんの美しく整った顔へと白い汚濁を作っていく。

当然、俺に巻きついていた髪の毛にもべっとりと、濃い白濁を染みつけていた。

エリス,「はあぁ……っ、あ、ああぁ…………」

ミルフィ,「はあぁ、すごい……髪の毛でされてこんなにいっぱい出しちゃうなんて、やっぱりヘンタイね……」

エリス,「ふぅ、んんぅ、ああ、なんて濃い匂い……栗の花のような、なのに身体の奥を疼かせる、不思議と淫靡な香り……」

鼻のすぐそばについた液体を指で掬い取りながら、エリスさんは熱っぽい吐息を漏らす。

ミルフィ,「ふふ、これが精液ってものよ、エリ」

エリス,「こんなに粘液質のものなのですね……。あぁ、ひっついて取れなくなってしまっている……。アタル王の臭いが身体に染みついてしまいそうです……」

ミルフィ,「それが嫌なことなの、エリ?」

エリス,「いいえ、自分がアタル王の女なのだと感じられて、幸せすぎて、胸がはちきれんばかりに、いっぱいになってしまいます……」

アタル,「う……」

その一言を聞いて、歓んでしまった俺のイチモツは、急に元気を取り戻してしまう。

エリス,「あっ……ま、また、こんなに元気に……。生理学的には、出された後、男性は萎んでしまうものだと聞き及んでいましたが……」

ああ、なるほど、そういう知識はあるのか。

驚いた表情を見せるエリスさんに、恥ずかしいけれども、俺は事情を説明することにする。

アタル,「エリスさんが可愛いから、また元気になっちゃった……」

ミルフィ,「そういうこと。可愛い女の子に囲まれていたら、すぐには元気を失わないものなのよ」

それにミルフィが補足すると、エリスさんはまた驚いた顔をして、恥ずかしそうに顔を背けてしまった。

エリス,「そんな、かわいいなどと……」

全く、本当に初々しい反応をする人だなぁ……。こんな表情を見せられたら、どんな男だって惚れちゃうぞ。

ミルフィ,「……ところで、エリ。今、あなた、アタルの女になれて幸せだって言ったわよね?」

エリス,「は、はい。言いましたが、それが……あ、差し出がましいことを! アタル王にとっての女性は姫様ただ一人だというのに……!」

ミルフィ,「ちっがーう! しつっこいわね! そのネタもう一回言ったら本気でオシオキするわよ、エリ!」

ネタって、エリスさんからしたら本気なんじゃないかな?

ミルフィ,「アタルの女になったって言ってるけど、この程度で本当に女にされたと思ってるんじゃないでしょうね?」

エリス,「え、それは……」

ミルフィ,「ザーメンの臭いを嗅いでメス犬モード入っちゃってるみたいだし、ちょーどいいわ。エリ、このままアタルに本当の女にしてもらいなさい」

エリス,「本当の女……え、あ…………」

ミルフィ,「拒否は許さないわよ……って言っても、本当のところ、アタルにシてほしいんでしょ、エリ……?」

エリス,「それは……その…………」

と、ちらっちらっと、エリスさんは俺を見る。……って、え、それって。

ミルフィ,「決まりね。アタルだってこのまま放っておかれるのはツラいでしょうし、いいわよね?」

アタル,「え、えええ。えええええええっ!?」

エリス,「お願いします、アタル王」

エリス,「自分を、女にしてくださいませ……」

そこまで言われて、断れる男などいるだろうか?いや、いまい!(反語)

アタル,「本当にいいの、エリスさん?」

エリス,「はい、アタル王の男性によって自分は女になりたいのです。だから……」

アタル,「わかった、もう何も言わないよ」

俺の上に跨ったエリスさんは、そう言ってはにかんで見せる。そんな表情を見せられてしまっては、もうそれ以上無粋なことを言う気にはなれなかった。

アタル,「……でも、なんでミルフィは俺の顔の上にいるの?」

ミルフィ,「あら、アタルひとりでエリスと愉しむつもりなの? あたしも混ぜなさいよ」

アタル,「なら、そこじゃなくても……」

ミルフィ,「いいじゃないのっ! あたしだってアタルに気持ちよくしてもらいたいもんっ!」

あ、ああ、そういうことか。

エリス,「自分は、構いません。むしろ、こうして姫様が傍にいらっしゃると感じられる方が、少し気が楽になります」

アタル,「そ、それならいいけど……」

見られる方がイヤなんじゃないかと思ったけれど、そういうことはないのかな。エリスさんがそれで良いと言うのなら、俺からそれ以上言うことは何も無い。

エリス,「で、では、お願い致します……」

アタル,「こ、こちらこそ……」

ミルフィ,「2人して何やってるのよ。早くしちゃいなさいよ」

間抜けなやり取りをミルフィが呆れたように見ている。

それでもエリスさんは、主人であるミルフィの言葉よりも、初めての経験に緊張をしているようで、おずおずと腰の位置を合わせていた。

エリス,「女は度胸と申します。それでは、いざ、参ります……ん」

先っぽに、ふわっふわに柔らかい、女性の下の唇が触れる。

それはもうすでに女性の蜜でぬるりと濡れていて、俺を受け入れる準備が出来ていることを暗に告げていた。

い、今から、エリスさんの中に入っちゃうんだな……。

……と、思った矢先のことだった。

エリス,「んんぅっ、んんんんん~~~~~んんっ……ッ!?」

アタル,「――ッ?!」

突然、稲妻のような衝撃が下腹部に伝わってきた!

さっきまで柔らかな愛唇に触れていたはずの場所が、一瞬で狭苦しいナニカに包まれて、そのまま一気に通り抜けていく感触!

途中、壁のようなものがあったが、それを『処女膜』だと感じる余裕もないままに、俺はエリスさんの中へと包み込まれてしまっていた。

エリス,「――っふぁ……は、ああぁ……あ、は、ぁ…………」

ま、まさか一気に入れるとは思ってもいなかった。

想像を絶する痛みだったのか、エリスさんは瞼をしっかりと閉じて奥歯を噛み締めながら、必死になって耐えていた。

それでも、その声には痛みしかないわけではなく、悦びの色が……精液の匂いを嗅いでいた時のようなうっとりとしたものが聞き取れる。

エリス,「ああ、これが……女になるという痛み……。これほどの痛み、拷問でも感じたことがないというのに、なぜだか心地がいい……」

ミルフィ,「どう、エリ? 女になった感想は?」

痛みにひきつった頬を優しく撫でながら、ミルフィに尋ねられたエリスさんは、いやいやと顔を振った。

エリス,「ああ、姫様……そのようなこと、質問なさらないでください……」

けれどもミルフィは許さず、その頭を抑えて耳元に自分の口を持っていく。

ミルフィ,「いいえ、答えるのよエリ。あなたの口で、ちゃんと嘘をつかずにね」

エリス,「そ、それは……はい、満たされた気持ちになっています」

逃げることは許されず、仕方なしに答えたことだったけれど、そこには確かな幸せな響きが含まれている。

エリス,「アタル王の男性器が自分を内側から押し広げ、息苦しいほどの圧迫を感じているというのに、伝わってくる熱がその苦しみを溶かしているかのようです……」

ま、またそういうこと言うのか、この人は……!

エリス,「んんっ、あ……ぁ、い、今、アタル王がさらに大きく膨らんで……!」

アタル,「それは、エリスさんが可愛いことを言うから……っく」

エリス,「んんぅっ! や、か、可愛いなどと仰らないで……はぁ、あ……いけません、アタル王、自分は、自分はっ……」

二人のやり取りが呼び水となりあって、際限のない高みに連れていかれそうだった。でも、先に音を上げたのは俺の方。

アタル,「ああ、やばい……エリスさんの中、すごく気持ちいいよ……だめだ……じっと、していられない……」

エリス,「ああ、宜しいですよ、アタル王。自分の膣中で、お好きに動いてくださいませ……」

エリスさんはそう言ってくれるけれど、俺は躊躇してしまう。

アタル,「でも、まだ痛いだろ……」

エリス,「大丈夫です……むしろ、動いてくださらないと……この、湧き上がる気持ちに狂ってしまいそうで……はあ、あぁ」

エリス,「お願いです、後生ですから、どうか自分めにお情けをくださいませ……」

その懇願に、俺のことを考えて無理をしている様子はなかった。

ミルフィ,「エリがこう言っているのよ、さぁ、動かしなさいよ」

ミルフィのお尻が俺の口元を潰してくる!

アタル,「うぷっ……!? ……ぷはっ、あ、ああ、わかったよ!」

これはたまらんとそう答えてしまった以上、もう止めておくことはできなかった。俺は腰を緩やかに上下に動かし出す。

エリス,「んッ……ン、んんぁっ、はっ、ああぁっ、あっ!」

エリスさんの声には、まだ少し痛みが感じられたけれど、かといって苦しそうなだけではなかった。本当に俺の動きを感じ入ってくれているような、甘い啼き声。

エリス,「あ、あぁ、自分はなんてはしたない女なのでしょう……」

アタル,「何がはしたないって言うの、エリスさん?」

エリス,「アタル王にこうして愛されてしまうと、いけないという気持ちが全て消えてなくなってしまいそうで……」

ミルフィ,「それでいいのよ、エリ。いけないなんて思うことはないんだから」

ミルフィ,「ほら、女としての幸せをもっと味わって。あたしが感じている幸せを、一緒に共有しよう」

そう言うやミルフィのちっちゃなお尻が俺の鼻先でいやらしく揺れて、そしてゆっくりと降りてきた。

初々しい秘唇が口元に当たる、エリスさんに負けないほどにビチョビチョに濡れた花びら。

ミルフィ,「ん、ぅ……は、ぁ……そうよ、アタル……あたしと、エリスに……同じ気持いいのをちょうだい……」

そうリクエストされて、応えないわけにはいかない。俺はミルフィの腰を掴むと、引き寄せるようにしつつ頭を上げて、秘裂の奥へと舌をねじ込んだ。

ミルフィ,「ふあぁっ、あ、舌ぁ……あたしのなか、べろべろされちゃってるよぉ……っ!」

エリス,「は、んぅぁ、はぁ、姫様の中にも、アタル王が入ってきているのですね……」

ミルフィ,「そうよ、エリ……アタルが、入ってきて……ンっ、そんな深いところまでっ、あっ、はっ、んんぁっ!」

エリス,「あぁ、姫様が感じられていた想いとは、これほどに心地が良いものだったのですね……溺れているなどと責めてしまったこと、お赦しください……」

ミルフィ,「いいわよ、許してあげる。だからエリももっと溺れちゃいなさい。ほら、自分の気持ちに正直になって。一緒に気持ちよくなるのよ……」

エリス,「は、はい、姫様……ん、ちゅ、ちゅぅ、ん、ちゅ……」

って、も、もしかして2人で……?

ミルフィのお尻が邪魔して見えないが、聞こえてくる音から察するに、どうやら2人はキスをしているみたい。

う、うわぁ、やべ、興奮する……。

エリス,「ああぁ……膣中で……っ、王の男性器が……また、再び……自分の子宮が押し上げられてしまいます……っ!」

ミルフィ,「子宮が降りてきちゃってるのね。アタルのエッチなお汁が欲しいって。子供の種を欲しいって。そうよね、エリ」

エリス,「ふぁっ、そ、それは……は…あっあ、ン……」

ミルフィ,「言いなさい、エリ。でないと……」

エリス,「んんんンッ……!? っみゃあぁっ、いっ、いけません、姫さまぁ……っ、い、いま、ちくび……敏感すぎてっ!」

ミルフィ,「なら、言いなさい。正直な気持ちを。今さら隠すことでもないでしょう?」

エリス,「ふぁっ、はっ、あ……い、言いますから……ミルフィ様……あ、あぁ、おやめください……」

ミルフィ,「言うまでやめな~い♪」

な、何をやっているんだ2人は俺の上で!?あああ、見えないのが悔やまれる!

しかしミルフィのお尻の下でこうして舐めているのを止めるというのも、捨てがたく……ああ、悩ましいっ!ビデオが! ビデオがあれば!

エリス,「うっ、ふぅん、んんっ……気持ちいいんですっ……!」

エリス,「アタル王の、おちんちんにゴリゴリされるの、いいの……はぁっ、あっ、ああぁ……♪」

ミルフィ,「自分から腰をそんなに振っちゃって、いやらしいわよ」

ミルフィの言うとおり、カミングアウトしたエリスさんは急に腰を大胆に振り始めた。ついさっきまで処女だったとは思えないほどに、勢い良く。

エリス,「ああぁ、はしたない女と罵ってくださって結構です……それでも、自分は、アタル王のおちんちんを感じたくて、止まらない。腰を揺するのを止められないのです……!」

ミルフィ,「いやらしいのは悪くないよ。その方が皆、幸せになれるんだもん。ね、アタル?」

アタル,「あ、ああ……」

エリス,「ああっ、本当、本当ですか? なら、素直な気持ちを白状致します……っ!」

エリス,「あっ、はあぁ……ンッぅう! あぁ、男性の性器がこんなに気持ちいいものだったなんて……っ! アタル王が感じられすぎて、おかしくなってしまいそう……!」

エリス,「く、ください……! 自分にアタル王のお情けを……ザーメンを、中に……たくさん注ぎこんでください……!」

アタル,「あ、ああ、エリスさんっ!」

エリス,「はぁふ、あ、ん、んっ……んんぁあ……はぅ、あふぁっ!ふぅあっ、あっ、んんっあっ……ぁっ、く……!」

俺の中のブレーキもはじけ飛ぶ。もう止められない、このまま最後まで一気に高まっていく!

エリス,「あああっ、中っ、グリグリされてぇ……はっ、ああぁっ、も、もう……んんっ、ビリビリッ、してっ、だめ、ダメです……ッ!」

ミルフィ,「いいんだよ、エリ……さぁ、イッちゃいなよ!!」

アタル,「俺も、も、もう……っ!」

エリス,「んくぁっ、ああ!? あ、あんンンンンッ~~~……!」

エリス,「んんんぁああぁぁぁぁあぁっ!? ひゃっ、ああぁっ!」

アタル,「――っ……! ……っ、んんうううぁッ…………!!」

身体の奥から湧き上がる衝動が急上昇! 快楽の海の中でエリスさんの一番深いところへと突き上げていく!

エリス,「あ、はあぁっあ、んっ、ぁ~あっ! ……っふぁ、はぁ」

エリスさんの身体が硬くなっているのがわかった。俺の下半身に触れる筋肉が張り詰めていて、それが時折危なげな痙攣を起こす。

胎の中へと精液を注ぎ込まれて、驚きと、嬉しさとが混ざり合った声で、エリスさんは悦びの音色を奏でていた。

エリス,「はあぁ~~……あぁ、はぁ、あ……」

ミルフィ,「エリ、かわいい顔をしてる……」

エリス,「ああ、姫様……ちゅ、んちゅ、ちゅむ……」

ミルフィ,「……ん、ちゅ、んぅ、んんんぅ~」

ま、また2人は俺の上でそんな百合百合な行為を……。

見たいなぁという気持ちもあったけれど、今はもう、二発目を出し切った脱力感で起き上がる気もしない。

アタル,「は、はぁ……はぁ…………あぁ…………」

エリス,「姫様……アタル王……ありがとうございました……。自分は、とても果報者です……」

アタル,「エリスさん……。俺こそ、こんなに気持ちよくしてもらって、ありがとう……」

こう言ってもらえるってことは、少なくとも嫌な記憶にはならなかったってことだよな。なら、良かった。

――と、締めようとした時だった。

ミルフィ,「何、2人して終わりみたいなこと言ってるのよ」

……は?

ミルフィ,「もしや、あたしを放置して終わりにする気?そんなのありえないんだからね!」

エリス,「そ、そんなつもりは少しも……」

ミルフィ,「なら、このまま2回戦突入するわよ」

エリス,「ミ、ミルフィ様……ひゃっ、ああっ!?」

アタル,「って、お、おいぃ!?」

それは、AVなんかでは良く見る光景だったんだけれど、まさか現実でお目にかかるとは思ってもいなかった光景で。

ミルフィ,「ふふっ、どうよアタル? そそるでしょ?」

エリス,「あ、ああ、こ、このような格好……」

女の子2人が重なりあって、こちらに下半身を露出しているその姿は、二度の射精を終えたあとであってもあまりに刺激が強すぎた。

しかも、しかもだ。

ミルフィ,「そんなこと言っちゃって、こんなに乳首勃てちゃってるじゃないの、気持ちイイってこと、認めちゃいなさいよ」

エリス,「ああっ、はぁっ、あっ、あ……! そんな、姫様……赤ん坊のようにされては……はっ、ン、んんぅっ!」

そんなやり取りされてしまったら、もう引き返すなんて選択肢はない。

エリス,「あ……、また、アタル王のモノが立派に……」

ミルフィ,「これで大丈夫よね、アタル?」

アタル,「あ、ああ! こーなったら、もうやけだっ!2人一緒にかわいがってやるよ!」

だって、ミルフィもエリスさんもとっても魅力的な姿をさらけ出していて。

エリスさんの俺の出した白濁と、処女の血が混ざり合ったものが溢れている場所は、痛痛しくも思うけれど、それ以上にもう一度味わいたいと思わせるものがあって。

ミルフィのはミルフィので、もう何度もやって具合がよくわかっている分、あのちっちゃくてきつい挿入感を一度味わってしまったらやみつきになってしまうってもんだ。

アタル,「それじゃ、え、ええと……」

けど、こういう状況ってどっちからすればいいんだ?

エリス,「あ……じ、自分は、先程して頂いたばかりですから、姫様、お先にどうぞ……」

ミルフィ,「それじゃ遠慮なく。アタル、ね、ちょーだい♪」

アタル,「お、おう!」

良かった、そう言ってもらえなかったら、2人のどっちからしようかと本気で悩むところだった。

俺は上になっているミルフィのお尻に手をかけると、肉棒の位置を合わせ、ぐっと腰に力を入れる。

ミルフィ,「んっ――んんぅ……っ、んんんぁああぁっ~~~~~!」

アタル,「くっ、きつい……!」

そう口では言うけれど、この狭さがたまらなかった。

何度もしてきているというのに、男を知らなかったエリスよりもよほどキツイミルフィの中。

けれど、俺の身体を覚えてくれたのか、最高にマッチングしているように思えた。

ミルフィ,「はぁ、ん、ようやくアタルが入ってきたぁ……。今日はずっとエリスに花を持たせようと、我慢してたんだよ」

エリス,「あ、も、申し訳……ンっ、んんんぅっ……!?」

ミルフィ,「ちゅ、ちゅむぅ、ふぅん……っぷは。そういうのはナシだって、何度も言ってるでしょ?」

アタル,「じゃあ、言わなきゃいいのに」

ミルフィ,「今のは、アタルに言ったの。ちゃんとサービスしないと、許さないんだから」

アタル,「はいはい。それじゃ、お姫様に満足していただけるよう、最大の努力を致します」

慌ただしく絞めつけてくる少女の中で、俺はゆっくりと腰を動かし出す。

ミルフィ,「あっ、ン、……はぁ、は……んん、ん……ふぁ……ぁっ、ひゃっ、あっ、ンッ……!」

しっかりと咥えこまれた秘裂と肉棒の間からは、その動きに合わせて蜜が溢れ出ていた。

アタル,「すっごく濡れてて、きもちいい……」

ミルフィ,「だって、髪コキしてる時から、ずっと……コーフンしっぱなしだったんだもん……んっ!」

ミルフィ,「……はぁ、アタルだって、二度も出したのに、まだまだガッチガチじゃないの」

そういうや、嬉しそうにミルフィは腰をくねらせる。

エリス,「ああ、姫様……。そんなにも気持ち良さそうな顔をされて……」

ミルフィ,「はうぅ…ん、んんぅ、エリだって、こんな顔をしてたわよ。ううん、もっとエッチだったかも」

エリス,「は、恥ずかしいですから、そのようなこと、申されないでくださいませ」

ミルフィ,「また、エッチな顔を見せてもらおうかな~……ちゅむっ」

言うや、ミルフィは身体をさらに倒してエリスさんの胸元に顔をうずめてしまった。

エリス,「はううっ、やっ、ああぁ、おたわむれを……い、いけません、今は、姫様はアタル王となされているというのに……」

ミルフィ,「ふぅ、アタルにシてもらいながら、エリにするってのも、けっこうオツなものよ……? んっ、ぁん……アタルも、もっと……」

アタル,「お、おう」

俺の腰の動きに合わせて、ミルフィの身体が揺れて、そしてエリスさんの胸がいやらしくひしゃげる。

う、うわ、スゲェエロイ……。

気持ちいいだけじゃない、その見た目のいやらしさに、俺の動きに熱がこもってしまう。

ミルフィ,「ひゃっ……っふ、あっ、あっ、あぁっ!? アタルっ……あっ、はぁっ、かき回されて……るっ……!」

こちらの動きに合わせるかのように、膣内の収縮が極端に激しくなっていく。

アタル,「はっ……あぁ、ミルフィ……いいよ……っ!」

ミルフィ,「う、うん……あたしも、ああぅっ、ひぁっ、んあっ……!っ、あ……おちんちんが……いっぱい、感じて……ふぁんっ、んっ、あんんっ!」

俺の気持ちよくなるポイントなんて全部わかってると言うかのように、的確な反応。さすがミルフィ、俺のことをわかってくれている。

ミルフィ,「熱いよぉ……やけど、しちゃう……っ、ダメ、ああぅっ、ジンジンするのっ、んぁっン、あっ、ん……ひぅっ!」

アタル,「うっ……くっ、ふぅ……っ!」

や、やばい、出したばかりだから、こんな凄い中にずっといたらあっという間に果てちゃいそう。そうなったら、ミルフィ怒るんじゃないか……?

でも、ここで一旦休んだりしたらもっと怒られそうだし…………ん?

エリス,「あ、ああ、ん、んんぅ……は、はぁあ……あ……」

と、ミルフィにおっぱいを好き勝手にされているエリスさんと目が合った。彼女は何も言わなかったが、その目は俺が欲しいということを素直に語っている。

なら……

俺は動きを止めて、ミルフィの中から肉棒を抜き去った。どろりとした愛液が垂れ落ちて、エリスさんの秘唇へと流れていく。

ミルフィ,「……え、どうして止めちゃうの?」

アタル,「せっかくこうしてふたり一緒なんだから、次はエリスさんの番だ……よッ!」

エリス,「え……んんぅ――っ?! んんああぁぁっ!?」

あんな風に物欲しそうな目で見ておいて、こうされることは考えていなかったか。エリスさんは想定外の挿入に身をくねらせる。

エリス,「そ、そんな、今は、姫様の番では……あっああぁっ、は、はぁ……ふあぁ……っ、ああ、あ……あ、あはぁっ」

ミルフィ,「もう、仕方ないわね……でも、こうして見るエリもイイ感じ♪」

エリス,「ふ、2人してそんなことを……はぁ、はふ、は……んっ……あぁ、んっんぅ、ぅ……くぅんっ!」

ミルフィ,「でも、気持ちいいんでしょ?」

エリス,「は、はい、気持ちいいです……。こんな快感、これまでに味わったことが」

エリス,「これが、女の悦びなのですね。胸の奥が苦しく、切ないのに、もっとせがんでしまう……」

ミルフィ,「アタル? ですって。エリがご所望なんだから、ちゃんと励んであげなさいよ」

アタル,「お、おう」

エリスさんの中は、ミルフィよりも余裕があるから少し休めるんじゃないか……と、思っていたけれど、それは単なる俺の思い込みでしかなかった。

すぐにそのことを思い知らされる。

アタル,「あっ、う……エリスさんの、中……あっ、すご、変な動き……して、くる……っ!」

エリス,「そ、そんなことを、言われましても……っ、かはっ、ん、ひぅっ、あ……あぁっ、ひゃっ、はぁっふ……」

まだ行為になれていないエリスさんの中は、戸惑い混じりで俺の予想外の収縮をしてくる。

こちらが引き抜こうとする時に絞めつけてきたり、入れようとしているのに弾こうとしたり、そうかと思ったら素直に受け入れてくれたりと。

だけど、そのイレギュラーさが気持ち良くて。

アタル,「や、やばい、イッちゃうかも……」

エリス,「えっ、そ、それはいけません……続けて、自分に出しては……次は、次こそは姫様のためだけに……!」

アタル,「わ、わかった……!」

俺はエリスさんのお願いに耳を傾けて、腰を引きぬく。

抜いた瞬間の肉と肉とが擦れあった時、出そうになったが、それだけはしちゃなるまいと全身に力をこめてどうにか耐えた。

ミルフィ,「え、あ、あたし――んっ、んんぁっ!? ちょ、ちょっと待って、準備がぁっ、あっああっあっあっあっ!」

戸惑も全て快感の海に飲み込んで。俺はミルフィの細い腰を掴んでガンガンと肉棒を打ち込んでいく。

ミルフィ,「ふぁっ、あっ、いっ……イく、イっひゃうっ……! あた、アタル……! だめ、らめ、だめだめだめなのぉ……っ!」

アタル,「な、なら、エリスさんの中で出しちゃおうか?」

ミルフィのダメってのがそういうことじゃないってわかっていながら、俺は意地悪くそう訊ねる。

ミルフィ,「だ、だめぇ! 出すの、あたしのナカぁ! 今度は、あたしに出してほしい……っンぅ、あっ、はっあぁっあはっあぁっっ!」

アタル,「ああ、わかってる……だから……っ!」

ミルフィ,「あ、ああっン、っふぅ――っ、んっん~~~~~っ!?」

ッ……! もう、ダメだ……!

ミルフィ,「――んんはあぁっ、――はっ、あぅ、んんぁああっ!?」

体中の芯が引っこ抜かれるような感覚と共に、噴出した精液がミルフィの小さな子宮をいっぱいに満たす。

アタル,「――っ、はっ、はぁっ……はっぁっ……!」

ミルフィ,「あああぁっ、あっ、はあぁ……あっン、はあぁあぁ……」

エリス,「あ、ああ……姫様がこのような艶やかなお顔をされるなんて……なんて、お美しい……」

ミルフィ,「……え? ん、はぁ……んんぅ、いっぱい、きたぁ……」

エリスさんの言葉の意味などわかっていないようで、ミルフィは満足気にうめく。

けど、俺はここで休んではいられない。

一息ついたところで、すぐさま他人事のようにミルフィのことを見ているエリスさんへと、突き込んだ。

エリス,「ひゃあっ!? あっ、そんな、あっんぅ、あ……や、休まれなくては……あっ、く、出したばかりなのにっ……まだ、こんなにたくましいなんて……っ!」

アタル,「2人一緒だって、言った……ろ!」

エリス,「んんぁっ、あっ、ああぁっ♪ 姫様の愛液と、アタル王の精液が混合したものが、自分の中に……ふぁっ、あっ、くっあっは、ああぁ!」 

戸惑いつつも冷静に、そんな感想を言う辺りがエリスさんらしい。

アタル,「そ、そうだよ、ミルフィと、俺と、エリスさんので、この中、ぐちょぐちょだ……!」

エリス,「ふぁっ、んんっ、いやらしい音を、鳴らしていますっ。こんなにもはしたない姿、お二人にしか、見せられませ……あっ、はぁっ、んんっ、ふぁっ、あ……」

ミルフィ,「ぁ、ふぁ……見せて、エリのえっちな姿……。あたしに、また、さっきみたいに見せなさい……ちゅ、ちゅく……」

エリス,「は、はい、姫様……アタル王、自分の、女となる瞬間の……く、ぁっ、姿を……見て……あぁ、見てくださいませっ」

膣を俺に攻められて、胸をミルフィに攻められて、エリスさんは狂いそうなほどに悶えていた。

エリス,「あぁっ、おっぱいと子宮っ、同時にそんな愛されてはぁ……イ、イってしま……あぁ、もうダメっ、あ、んんんっ!」

ミルフィ,「イッちゃいなさい、ほら、エリ、ほら……!」

エリス,「ひゃっ、ああぁふ……やぁ、んはぁっ、あっ……ン!」

同時攻撃はエリスさんを一気に高めていき、膣はそれと一緒に動きを苛烈に変化させて。俺もまた、その動きに翻弄されてしまう。

激しい肉同士のせめぎあいに、もう少し、今少しと我慢していたけれど、もうっ、ダメだ……!

エリス,「くださいませっ、先程のように膣中にっ! アタル王の子だねを、溢れるくらいっ、また、かけてくださいませっ!」

アタル,「ああ、かける……かけるから……ッ!」

俺はエリスさんの腰を乱暴にひっ掴むと、力任せに腰を突き込む!

エリス,「ンっ――んんんんぅぅぅ…………っ!!」

エリス,「――ひゃぅぅぁあっ、ああぁぅぁぁっ――ああぁっ!!」

今日4度目だというのに、俺のモノから溢れる男液はその勢いを緩めてはいなかった。

エリスさんの子宮口に尖端がキスをして、密着した状態からその奥の女性の部分へと精子を勢い良く注ぎこむ!

エリス,「んんぁっ、あっ、ひゃぅうぅぅっ……!! ――はぁ!あっ、あああぁ……あぅ、ああぁ…………」

ミルフィの下でエリスさんの身体が大きく跳ねて。今日一番の収縮をしてみせた膣の中で、俺は最後の一滴までをも出し切った。

アタル,「――っは、はぁ……あ、はぁ…………ぅはぁ……」

エリス,「ああぁ、アタル王……姫様ぁ……自分は、こんなに幸せで良いのでしょうか……」

ミルフィ,「また、そういうこと」

うなされるように呟いたエリスさんのおでこを、ミルフィはそっと撫でた。

ミルフィ,「いいに決まってるでしょ。今、あたしたちは最高に幸せなんだから。ね、アタル?」

アタル,「ああ。他の誰かが何と言おうとも、俺は、ミルフィとエリスさんの2人を愛せて、すごく幸せだよ」

エリス,「ありがとう、ございま……す………………ぅ……」

アタル,「……ん、エリスさん?」

エリス,「すぅ……すぅ…………」

#textbox Kmi0010,name
ミルフィ,「寝ちゃった……みたいね」

さすがに疲れきったのか、静かな寝息を立てている。

アタル,「俺も、さすがにもうダメだ……」

ダウンとばかりに、エリスさんの横に身を倒した。

#textbox Kmi0090,name
ミルフィ,「もう、だらしないの……でも、あたしも……」

さらに横に、ミルフィが倒れこんでくる。エリスさん、俺、ミルフィというサンドウィッチ状態。

#textbox Kmi0010,name
ミルフィ,「今日は、これで終わりだけど。次はあたしを優先してよね、アタル。その次はエリ優先でもいいから」

アタル,「ああ、わかった……」

……けど、今日みたいなのを毎日連続でしてたら、さすがに俺、死んじゃうかもしれない。

#textbox Kmi0080,name
ミルフィ,「やくそく……だから…………ね………………」

俺の肩に頭を乗せながら、ミルフィはそのまま眠りについてしまった。

エリス,「ん……アタル、王…………」

それに合わせたわけじゃないのだろうけれど、偶然に、エリスさんも俺のもう片方の肩に頭を乗せてくる。

右を見ても、左を見ても愛らしい寝顔。それを見ていると、俺はなんだか疲れもふっとんで。

……まぁ、死なない範囲なら、頑張ってもいいかな。

なんて、思ってしまうのだった。

その報せが柴田さんを通じて入ってきた時、俺はミルフィとエリスさんと、場所も弁えずに手を取り合って喜んだ。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「ああ、小躍りされるほどに喜ばれるとは、この報せをご報告できた私としましても光栄の極み!ですが、出来れば私もその輪に入りたかった!」

と、柴田さんが嘆いていたのは、後になってから聞かされて知ったことで。

その時の俺とミルフィはその報せの意味に喜ぶばかりで、気づくことなんてできなかった。

ミルフィ,「やった、やったねアタル! これで世界は平和になったんだね!」

アタル,「ああ、もう、戦争は起きないんだよ!」

#textbox ker0120,name
エリス,「ついにこの日が……おめでとうございます、アタル王、姫様」

あの後、ポーシャの存在があってこそだが、ニッポン、イスリアの協力体制は堅固たるものとなった。

イスリアの国王はこれを機に一線から引かれ、代わりに俺とミルフィが中心となり、この世界を守るヒーローとして、戦争を引き起こす悪いヤツラを倒して回っていた。

そりゃ、いくらポーシャの力があるとはいえ、最初は上手く行かなかったけれど。

力だけで屈服させるのではなく、あくまで話し合いで平和的に解決するというスタンス。

そして、戦後の処理も、利権行為に振り回されないよう、国民への教育を基本とした長期的スパンの計画。

それらは次第に世界の世論から受け入れられていって。協力してくれる人々が増えていって。

そして、ついに、ついに、世界から最後の戦争の火が消されたのだった。

アタル,「最初は夢物語だと思っていたけれど、現実になって本当に良かった」

ミルフィ,「アタルがいてくれたからだよ」

アタル,「いいや、ミルフィが諦めなかったからさ。そして、俺たちの計画に協力してくれた、エリスさんや、柴田さん、それに他のたくさんの皆がいてくれたから……」

ミルフィ,「うん、うん……でも、これで、ようやくやっと……」

ミルフィ,「あたしたちも結婚できるんだね!」

そう、俺たちはそういう約束をしていたんだ。

世界が本当に平和になった時に、結婚しようって。

エリスさんを始めとして色々な人から大反対されたけれど、やっぱり世界の皆から祝福してもらいたいじゃないか。

#textbox ker0180,name
エリス,「はい、既に結婚式の準備に入っております。ああ、ようやく姫様がウェディングドレスに袖を通される日が来たのですね……どれだけこの日を待ち望んだことか……」

ミルフィ,「エリ……ありがとう」

#textbox ker0140,name
エリス,「ああ、ウェディングケーキはどうしましょう。やはり、姫様の大好きなドーナツで作ったケーキが良いのでしょうか」

アタル,「ははっ、ドーナツのケーキって、なんかすごそうだな。想像できないや」

あのエリスさんがこれだけ浮かれまくるくらいの奇跡。でも、それを俺達は叶えることができたんだ。

だから、この先も、

ミルフィ,「ずーっと、平和な世界でいるように、がんばろうね!」

アタル,「ああ、これで終わりってわけじゃない。維持する方が難しいって言うもんな――」

――と、誰もが幸せの絶頂にいた時だった。

ミルフィ,「ふ、ふぇ、な、何これ!?」

エリス,「敵!? い、いやしかし、この地上に我々に敵対する組織などもうないはず――」

ミルフィ,「――あ、あれを見て!!」

そう、ミルフィが指を差したその先には――

アタル,「ゆ、UFO!?」

降りてくる、降りてくる、黒い点がどんどん大きくなって。いわゆるアダムスキー型の空飛ぶ円盤が、インディンペンデンスデイよろしく、ぐんぐん降りてきて――

アンノウン,「オロカナチキュージンドモヨ、セカイガヘイワニナッタダト? イイヤ、タシカニヘイワニナルカモシレナイ」

アンノウン,「シカシソレハ!」

アンノウン,「ワレワレウチュウジンニヨッテ、シハイサレルカラダ!」

UFOから聞こえてきた声は、地球人にも理解できる、ただし合成音声のような声で、そう告げてきた。

エリス,「なんてこと……。せっかく、世界が平和になったと思ったのに……」

ミルフィ,「……ふ、ふふふ」

エリス,「姫様?」

ミルフィ,「じょーとーじゃないのっ! このやろうっ!」

だが、そんな大変な状況なのに、俺もミルフィも顔は笑っていた。

ミルフィ,「宇宙人だか地底人だか知らないけれど、人を不幸にしたいって言うなら、止めてみせるのがあたしたちよ!」

アタル,「ああ、その通りだ! 柴田さんっ!」

柴田,「はっ! 宇宙活動用ポーシャへの換装は30分で終了致します。こんなこともあろうかと、天王寺が一晩で作りあげた研究がありましたので」

ミルフィ,「よろしい! エリも、この程度で落ち込まない!シャキッとする!」

エリス,「は、はい!」

ミルフィ,「火星タコだか、木星トカゲだか知らないけれど、さぁ、来るなら来い!」

ミルフィ,「あたしたち、地球人を舐めてかかったこと、後悔させてやるんだから!!」

こうして、俺たちの戦いは、第2シーズンへと続いていくのだった!

めでたし、めで……たし?

アタル,「――というわけで、柴田さんから遊園地のチケットをもらったんだけど。みんなで行かない?」

#textbox Kse03B0,name
セーラ,「遊園地ですか~。話に聞いたことはありますが、行ったことないんですよ~」

ひよこ,「えっ、そうなの? クアドラントには遊園地がないんですか?」

セーラ,「はい、そういった娯楽施設はあまりないんです~」

ミルフィ,「へー、遅れてるわねー」

セーラ,「楽しかったら、お父様にクアドラントにも作っていただけないか、頼んでみようと思います~」

ひよこ,「つまり、行くってことだねっ。私も賛成ー!」

ミルフィ,「みんなが行くっていうなら、あたしも賛成しないわけには行かないわね」

アタル,「ん? ミルフィは別に留守番しててもいいんだぞ?」

ミルフィ,「そうやってあたしだけ除け者にするつもりなの?いい度胸じゃない、アタル」

アタル,「い、いや、冗談。みんなで行こうじゃないか」

そんな俺の提案に女の子たち全員が乗った。

そこで柴田さんに言われた通り、特定の『誰か』を誘えなかったのが、俺の弱さだった。

アサリ,「はぁー、遊園地に行くのはいいんですがー、人目が気になりませんかねー?」

エリス,「そうですね……一般人で混み合う中に向かうのは、オススメできません。護衛が極めて困難になります」

ミルフィ,「っていうか、ジェットコースター1つ乗るのに、1時間も待つとか冗談じゃないわよ?いくら温厚なあたしでも、それは我慢ならないわね」

アタル,「……むぅ」

確かに彼女たちが固まって動くのはあまりにも目立ちすぎる。

どんな鈍い人だって、彼女たちのような明らかに異国の人がいれば、注目する。

そして、一目で一般人とは違うオーラを感じ取るだろう。

また、パレードの時の俺のように、誰かに狙われる可能性もなきにしもあらず。

一般人の中に潜んでいたり、また、守る際に一般の人を巻き込んでしまう可能性だってありうる。

ミルフィの温厚とかいう妄言はあえてスルーしよう。

柴田,「その点、解決いたしましょうか」

アタル,「解決……って? 何か名案があるの?」

柴田,「何も難しいことではありませんよ。遊園地を丸1日貸切にいたします」

アタル,「遊園地の貸切? そんなことできるの!?」

柴田,「いくばくかのお金があればできることです。そんなに驚くことでもありませんよ」

柴田,「それならば、人目を気にすることもなくなり、並ぶ必要もなくなりますでしょう?」

アサリ,「なるほどー。周りに誰もいなければ、不審な人がいても、目につきますしねー」

柴田,「もっとも、事前の告知は必要となりますが……そうですね、今週末に予約を入れ、貸切としましょうか」

来日した国際的スターが、ニッポンの夢の国を貸切にしたって話も聞いたことあるけど。

セレブだったらそのくらい当たり前……なのか?

#textbox Khi0320,name
ひよこ,「わーっ、すごいすごいっ。楽しみだね、アタルくん!」

アタル,「あ、ああ……」

たかだか遊園地に行く程度で、こんな大事になるとは。

しかしながら、柴田さんから預かったチケットはなんだったんだい。

…………

……

遊園地に向かう前夜。

#textbox Kse0390,name
セーラ,「ふんふふーん♪ 初めての遊園地、楽しみです~♪何を着ていきましょうか~」

セーラさんは鼻歌交じりに明日の準備を進める。

彼女の全身からわくわくが伝わってくる。

ひよこ,「あまり動き辛い服はやめた方がいいですよー。遊園地の中って、結構歩きますから」

ミルフィ,「セーラ、浮かれてるとこ悪いんだけど、なんか雲行きが悪くなってるみたいよ?」

テレビを見ている、ミルフィが呟く。

セーラ,「ええっ……!」

ミルフィ,「この週末の降水確率、土日とも90%以上だそうよ。うっわ、ニッポン中、雨雲だらけだわ……」

アタル,「悪天候は予想してなかったなぁ……ここんとこ、雨も全然降ってなかったし」

セーラ,「だ、大丈夫ですよね! お化け屋敷とかショーとか、屋内で楽しめるアトラクションもありますものね~」

ミルフィ,「ジェットコースターは運休になっちゃうけどね。動いてるとしても、乗り終わった時にはびしょ濡れよ。傘差して乗るわけにもいかないしね」

みんなの残念ぶりが言葉の端々から伝わってきた。

……うーん……。

…………

……

俺はケータイ『CROWN』を手にし、電話をかけた。

#textbox ksi0110,name
柴田,「アタル王、夜分にどういったご用件でしょうか」

アタル,「王様の権限って、こんなことにも使える?」

#textbox ksi0150,name
柴田,「――できないことではありませんね」

#textbox ksi0110,name
柴田,「ただし、これほどの行為ともなれば、周囲に及ぼす影響は大きいです。2度目の『絶対権限』を使用させていただきますが、よろしいですね?」

アタル,「ええ、お願いします」

俺は躊躇なく、頷いた。

#textbox ksi0110,name
柴田,「まったく、あなたは無欲な方ですね。かしこまりました。責任もって勤めさせていただきます」

…………

雨の降りしきる夜。

夜空を貫いたのは、一筋の閃光。

90%の降水確率を消滅させるレーザービーム。

上空の雨雲を吹き飛ばし、晴天が訪れた。

…………

……

#textbox Kse0220,name
セーラ,「澄み渡った青空です~! 絶好の遊園地日和ですね~」

車で送り届けてもらい、俺たちは遊園地に到着した。

予定通り、俺たち以外誰もいない貸切遊園地だ。

ミルフィ,「昨日の天気予報じゃ確かに雲がいっぱいだったのに……ニッポンの気象衛星はあてになんないわね」

ひよこ,「なんかこの辺りの上だけ、ポッカリと雲が抜けたみたいになってたねー。すごく不思議な雲だったよ」

ヒヨとミルフィは空を見上げる。

見事に空は真っ青。雨雲なんて影も形も見えない。

そう、この地域だけは。

アタル,「まあまあ、晴れたんならいいじゃないか。いやー、天の神様ってのは気まぐれだよなー」

このことはみんなには内緒だ。

セーラ,「そうですね~」

ミルフィ,「さ! 何で遊ぶ? せっかく晴れたんだもの、全力で全部回るわよ! 気に入ったヤツは何回でも乗るわよ!」

貸切だから、そんな暴挙もできちゃうわけだ。

遊園地にはマシンスタッフ、そして、俺たちミルフィ・セーラ・ヒヨ、そして護衛のエリスさん、アサリさんの6人以外の客は誰もいない。

王様の力を実感した。

でも、こう殺風景なのも、なんだか味気ない。多少、人がいるくらいじゃないと、遊園地っぽくないんだよなぁ。

セーラ,「どうかしましたか、アタル様。さ、参りましょう~」

アタル,「ん……よーし、片っ端から行こう!」

ひよこ,「私もーっ」

ミルフィ,「ちょ、あたしのこと、置いていかないでよっ」

そして、俺たちは片っ端から全アトラクションを制覇してゆく。当然、待ち時間はゼロ。

俺たちのためだけに、アトラクションが動いている。こんな贅沢な話もない。

…………

……

手始めにグライダーに乗り、ボートに乗り。

続いて、バイキングに乗り、フライングカーぺットに乗り。

ミルフィ,「ふぅー、本当に晴れてよかったわね。みんな雨が降っていたら乗れないような乗り物ばかりだったもの」

アタル,「そ、そうだな……いや、ははは……」

立て続けに乗っているのが、絶叫マシンだらけ。

さすがにあんまり続くとダメージが蓄積してゆく。

そして、次に差し掛かったのは、見るからにおどろおどろしい建物だった。

セーラ,「アレはお化け屋敷ですね~。次はここに入りたいです~♪」

ミルフィ,「ちょ、せっかく晴れたのに、屋内に行くの?」

セーラ,「はい、そろそろ屋内のでもいいんじゃないでしょうか。とても怖いと聞いてますし、楽しそうじゃないですか~」

ミルフィ,「そ、そうかしら。まだまだ外にも乗ってないのが、いっぱいあるわよ? ほら、せっかく、晴れたんだし」

ひよこ,「あっ、もしかして、ミルフィさん、お化け屋敷が怖いんですかー?」

ミルフィ,「は、はぁっ!? な、何を言っちゃってるのかしら、ぴよぴよは! こ、怖いわけないじゃない!作り物なんかでビビるわけないでしょっ!」

セーラ,「それならいいですよね~?」

ミルフィ,「ッ!? え、ええ! 全然構わないわよ!行ってやるわよ! 行ってやろうじゃないのよ!」

エリス,「はぁぁ……ミルフィ様、可愛い……可愛すぎ、愛しすぎます……ッ!」

お化け屋敷かぁ……。

ミルフィほどではないけど、俺だってお化けが好きなわけではない。

暗い場所は不安にさせられるし、いきなり物陰から現れて、大声をあげられたりすればビビりもする。

彼女たちの前で無様なところを見せずに済めばいいけど……。

アタル,「って、定員は2人ずつ、って書いてあるけど?」

6人でぞろぞろ入っても、緊張感はなくなるし。

だいたいお化け屋敷って、カップル向け施設だし――

って、そうか、カップル向け……。

#textbox Kse02B0,name
セーラ,「とりあえず、誰がアタル様と一緒に入るかが重要ですね~」

ひよこ,「公平にじゃんけんで決めればいいんじゃないかな?」

ミルフィ,「そうね、勝った人が、アタルと一緒に入るってことで」

セーラ,「それは絶対に負けられませんわね……」

3人はそれぞれ両手をよくわからない形に組み合わせ、手の中を覗き込んでいる。

この儀式って全世界共通だったのか。

セーラ,「じゃんけんぽ~い」

ひよこ,「あいこでしょっ」

ミルフィ,「あいこでしょっ! しょっ!」

セーラ,「あいこでしょっ! しょっ! ……まぁ♪」

パー、グー、グー。

セーラ,「うふふっ、勝たせていただきました~♪」

何度かのあいこの果て、セーラさんの1人勝ちだった。

ひよこ,「負けちゃったよー……」

ミルフィ,「悔しいけど、じゃ、セーラとアタルが一緒に入るってことで……ふたりが最初ってことね」

アタル,「最初……? え、俺、お化け屋敷に何回も入らないといけないの?」

ミルフィ,「だって、そうじゃないと不公平でしょ?」

アタル,「いやいや、同じお化け屋敷に何回も入ってもなぁ……どこから何が出てくるとか覚えちゃうだろ……」

ミルフィ,「……それもそうね……じゃ、とりあえず、ここはセーラに譲るわ」

アタル,「それじゃ、俺とセーラさんが一緒に入るとして……」

セーラ,「は~い、アタル様、よろしくお願いします~♪」

ひよこ,「それじゃ、私とミルフィさんかな?」

アサリ,「いえいえー、ひよこさんとはアサリが一緒に入りましょー」

アタル,「それは……なんだか珍しい組み合わせだな」

アサリ,「あはー、そうですねー」

ミルフィ,「む、それじゃ、あたしは誰と入れっていうのよ。ひとりで入るとか冗談じゃないわよっ?」

エリス,「では、姫様。自分が姫様と一緒に入るということで……姫様、我慢ができなくなりましたら、なんなりとお申し付けください」

ミルフィ,「なによ、エリまで。べべ別に怖くなんてないって行ってるでしょっ! 子供扱いしないでくれるっ」

エリス,「はぁぁ……姫様、本ッ当に可愛い……ッ!」

アタル,「エリスさん、鼻血、鼻血吹いてる! ダダ漏れ!」

エリス,「はっ……!? 3年前の戦役の古傷が開いてしまったようですね……」

エリス,「この程度の傷、どうということはありません……!さ、アタル王、自分のことは気にせず、早く先へ……」

なんで鼻血でそんな格好つけるのさ。

アサリ,「では、アタルさんとセーラさん、お先にどうぞー」

アタル,「え? 俺たちが最初?」

アサリ,「そりゃそうですよー。アタルさんが先に行って、かっこいいところ見せてくださいー」

アサリ,「あれあれー? もしかして、アタルさん、怖いとか言わないですよねー? まさかですよねー?」

アタル,「あ、当たり前だろう! 怖いとか、そんなまさか!」

セーラ,「まぁ、アタル様、頼もしいです~」

そんなアサリさんに流されつつ、俺たちはスタッフのお姉さんの案内で、お化け屋敷の中へと踏み込んだのである。

お化け屋敷の中は真っ暗だった。当たり前だな。昼並に明るいお化け屋敷なんてのは聞いたことがない。

夜の徘徊者――ナイトストーカーから夜をとったら、ただのストーカーだ。それってただの犯罪者。

外が明るかっただけに、目が慣れるまでに時間がかかりそうだ。

ふにょん。

アタル,「うわっ!?」

#textbox Kse0250,name
セーラ,「真っ暗ですね~……アタル様、私から離れないでくださいましね……?」

俺の手に絡まる温かな指。腕を包みこむ柔らかな感触。

セーラさんの手。そして、肘に密着しているのは、セーラさんの胸、か。

アタル,「お、おぅ、任せ、お任せ、ください」

じりじりと歩みを進める度、セーラさんの胸がぽよんぽよんと弾んでは、俺の肘にこすり付けられて。

この前の風呂の一件を、嫌が応にも思い出してしまうのだった。

自然と身体が前傾姿勢。

俺のどこがどうなってるとかはお察しください。

……後ろから着いてきてるヒヨたちに、この姿はあまり見せたくないなぁ……。

……

…………

ひよこ,「うわぁ、真っ暗だよー……昔、こんなに暗かったかなぁ……?」

ひよこ,「アサリさん、大丈夫ですか?」

アサリ,「ええ、アサリの目は猫の目ですからねー。どんな暗がりでも暗視ゴーグルのように見えるんですよー」

ひよこ,「わ、便利なんですね。すごいなー」

アサリ,「あはー、褒めてくれてるところ、大変申し訳ないんですけどー」

アサリ,「ひよこさん、ごめんなさいねー」

ひよこ,「えっ……」

ひよこ,「きゅっ!?」

アサリ,「ひよこさんはそこに詰め込んでおけば大丈夫でしょー。あとは後続のエリスさんが少々邪魔ですけどー」

アサリ,「……ま、なんとかなるでしょー」

…………

……

ミルフィ,「ひぃぃ、真っ暗ー!」

エリス,「足元にお気をつけください、姫様」

ミルフィ,「う、うん……にしても、これはいくらなんでも、ちょっと暗すぎるんじゃない……?」

ミルフィ,「こんなに暗かったら、なんにも見えなすぎて、前に進んでいるのかどうかだって……」

エリス,「姫様、自分から決して離れないでくださいね」

ミルフィ,「うん……頼りにしてる……エリ、絶対離れないでよ……?」

エリス,「はぁぁ……姫様が自分にこれほどまで密着してくれている……!」

エリス,「惜しむらくは暗すぎて、姫様のお顔が拝見できないこと――っく!?」

ミルフィ,「……ぇっ……ちょっと、エリ!? エリ――んっ!?」

アサリ,「大変有能ですが、お姫様のこととなると、自分自身のガードがおろそかになるのが幸いでしたねー。我ながら、素晴らしい作戦でしたー」

エリス,「アサリ……か……」

アサリ,「あらー、アレを受けて、まだ意識を保ってられますかー。さすがはエリスさんですねー」

アサリ,「ですが、目覚めた時にはこのことは忘れてますから、ご安心くださいー」

エリス,「貴様、どういう……」

アサリ,「アサリとセーラさんの幸せのため、皆さんにはちょーっとこの場でおねんねしててほしいんですー」

アサリ,「大丈夫ですよー。気持ちよく寝るだけですからー」

アサリ,「目覚めた時、前後の記憶がちょっと飛んでますけど、後遺症はありませんー。アレはそういう薬ですからー」

アサリ,「ちなみに、この闇を作ったのもアサリのせいだったりするんですよー。わざわざ説明してあげるなんて、アサリは本当に親切ですよねー」

エリス,「ぐっ……不覚……!」

アサリ,「ふぅー。さて、あとはセーラさんに連絡すれば、万事解決ですねー」

アサリ,「セーラさんにはラブラブしていただいてー、アサリは報酬をいただいてー、みーんな幸せになれますねー」

…………

……

アタル,「あれ……? 照明でも付け忘れてたのかな?」

一寸先が真っ暗なまま、しばらくして。

お化け屋敷の中が少しだけ――夜程度の明るさとなった。

まぁ、園内には俺たちだけしかいないからな。そのくらいの不手際があったりもするだろう。

慎重に進む俺たち。

露出している腕には、セーラさんの肌の温かさと柔らかさが伝わってきて、わりといろんな部分がのっぴきならないことになっていたりもするのだが。

ぼんやりと浮かぶ人魂が俺たちを道案内する。

#textbox Kse0250,name
セーラ,「アタル様……怖いです……」

ガサッ!

???,「がぁあああぁぁぁっ!」

不意を着くように木陰から、何者かが姿を現す!

アタル,(うおっ!)

口から危うく出かけた声を必死で飲み込むと。

#textbox Kse02C0,name
セーラ,「きゃあああぁああぁぁぁっ!!」

横からセーラさんの耳をつんざくような悲鳴が響き渡った。

アタル,「セーラさん、大丈夫です! 俺が――」

守らなくては!

セーラ,「かぁわいいぃですぅうう~っ!」

アタル,「……は?」

セーラさんの反応は予想外だった。

セーラ,「傘のお化けさんなんですか~?これならいつ雨が降っても大丈夫ですね~」

アタル,「……え、いや、あの?」

セーラ,「おめめパッチリです~」

唐傘もお化けのプロとしてのプライドもあるんだろう。

ベロベロと長い舌を動かし、セーラさんを威嚇するものの動じることはなく。

唐傘,「う、うらめしやー……」

セーラ,「お化け屋敷の裏には、レストランがあるんですか~?まぁまぁ、ご丁寧にありがとうございます~」

セーラ,「アタル様、そろそろお昼時ですし、ここを出たら、みんなでご飯を食べに行きましょう~♪」

アタル,「ああ、うん……そうですね?」

軽やかに、麗しく、お化けをスルーする。後続に控えていた他のお化けが、呆気に取られていた。

アタル,「あの……お疲れ様です……」

お化けの横を抜ける時、思わず会釈。

唐傘もペコリと頭を下げた。

拍子抜けにも程があった。

脅かし甲斐のないお化けさんたちには同情してしまう。

恐るべきはセーラさんの空気破壊能力というべきか。

その後も、現れたお化けたちにも微塵も怯むことなく、むしろ、笑顔で。

セーラ,「こちらのお化けさんはなんていうんですか~?」

アタル,「カオナシ――じゃなくて、のっぺらぼうだね」

セーラ,「では、あちらの首の長いお化けさんは何と言うのですか~?」

アタル,「えーと、ろくろっくびだね」

セーラ,「長い首ですね~。キリンさんみたいでかわいいです~」

長い首も、セーラさんにとっては可愛い要素らしい。

とまぁ、俺は1体1体の解説しながら突き進む。

俺は妖怪博士か。

こんなにも緊張感のカケラもないお化け屋敷は初体験だ。

ある意味、いい経験をしたのだと思いたい。

…………

……

#textbox Kse0290,name
セーラ,「楽しかったです~♪」

アタル,「……うん、楽しかったなら、別にいいんですけどね」

絶対本来の楽しみ方ではなかったのは、間違いない。

今頃、お化け役の人たちは、廃業を考えてしまっているかもしれない。

こんな逆境に懲りず、今後とも頑張っていただきたく思います。

アタル,「……それにしても、後ろの皆は、随分遅いな?」

立ち止まり、お化けの解説を入れながら進んでいた俺たちだ。

途中で、追いつかれていてもおかしくないスピードだったと思うのだが。

セーラ,「あら、アサリさん?」

アタル,「あれ? アサリさんひとり?ヒヨは一緒じゃなかったの?」

アサリ,「先ほど、後ろから来ていたミルフィさんが、お化けに出会って、卒倒してしまいましてー」

アサリ,「エリスさんに抱きかかえられて、王宮に戻られましたー。ひよこさんもミルフィさんが心配とのことで、付き添って帰られましたよー」

アタル,「え、そりゃ大変だな。大丈夫かどうか電話して――」

アサリ,「あー、アサリが見送りましたので、絶対に大丈夫なのは保証いたしますー。電話するまでもないですよー」

セーラ,「そうですか……それならいいんですけど……」

アサリ,「ひよこさんとエリスさんからは、『私たちに構わず、先に行け!』と、言付かっておりますー」

すさまじい死亡フラグ臭のする伝言だった。

アサリ,「そんなわけで、アサリはお化け屋敷の後片付けを手伝ってきますー。おふたりはごゆっくり、デートを楽しんでくださいませー」

アタル,「デ……!」

セーラ,「ま、まぁ……」

そうか、確かに、今はふたりっきり。

ふたりっきりで、遊園地を巡るっていうなら、それは確かにデートと言っても、なんら差し支えない。

#textbox Kse0210,name
セーラ,「では、アタル様……もう少し、回りましょうか。その、ふたりで……」

アタル,「え……あ、そうだね……」

#textbox Kse0270,name
セーラ,「手、繋いでもよろしいですか?」

アタル,「うん……」

お化け屋敷の中でのことを考えると、何を今更って感じだけれども。

暗がりの中ではなく、しかも、ふたりっきりだということを強く意識してしまうと、それはまたやっぱり別の問題なわけで。

#textbox Kse0220,name
セーラ,「では、先ほど、お化けさんに教えてもらったレストランに行きましょう」

セーラさんの手の柔らかさを感じながら、俺たちは空腹を満たすべく、レストランを探しに行くのだった。

ちなみに、当然といえば当然なのだが、お化け屋敷の裏手にレストランはありませんでした。

…………

……

ジェットコースターに乗り。

#textbox Kse0220,name
セーラ,「速かったですね~。すっごく楽しかったです♪」

アタル,「ま、まあまあかなっ」

強がる俺の膝は大爆笑である。

は、はぇぇぇ、こぇぇぇぇ!

#textbox Kse0280,name
セーラ,「あとでもう1回乗りましょうね」

アタル,「え、えぇ、いいですね! やってやりますよ!」

王様権限で、もう少しスピードを落とすようにお願いとかできないものだろうか。無理だよな。

…………

メリーゴーラウンド。

#textbox Kse0290,name
セーラ,「ふふっ、アタル様、こっちです~。私のことを捕まえてくださいませ、王子様♪」

アタル,「ははは、待て待て~!」

と、広い園内にふたりきりの遊園地を満喫したのである。

…………

……

ふたりだけの貸切の遊園地も、閉演の時間が近づく。

アタル,「ふぅ……はぁ……とりあえず、これで一通りの乗り物は乗ったかな……」

待ち時間ゼロのノンストップ。

巡る間、乗り物に乗っている間、セーラさんとはずっと手を繋ぎっぱなしだった。

求められていたから、断る理由がなかった。

#textbox Kse0250,name
セーラ,「遊園地ってこんな楽しかったんですね~。今までこんな楽しいところを知らなかったなんて、すごく損をしていた気がします~」

#textbox Kse0280,name
セーラ,「本当に夢のような時間でした~……アタル様、本当にありがとうございます」

アタル,「お礼をいわれることじゃないよ。遊園地が偉いんであって、俺が偉いわけじゃないからね」

#textbox Kse0290,name
セーラ,「いえ、アタル様と一緒だったから、ですよ」

#textbox Kse02D0,name
セーラ,「アタル様と過ごしたのでなければ、この時間はこんなに楽しく感じることも、幸せに感じることも……なかったと思います」

#textbox Kse0290,name
セーラ,「アタル様が楽しくなかったのでしたら、大変申し訳ないのですけどね」

アタル,「とんでもない。俺だって、楽しかったですよ!」

アタル,「――過去形にするのはまだ早いですね。まだ乗ってないのがありますから」

これだけ体力の限界まで乗り回していながらも、ひとつだけ乗っていないアトラクションがある。

観覧車。

遊園地の締めくくりといえば、やっぱりコレだ。

アタル,「観覧車、乗りましょうか」

#textbox Kse0240,name
セーラ,「えっ、私と観覧車なんて……いいんですか……?」

アタル,「え? まぁ、遊園地の締めの定番ですからね」

…………

……

#textbox Kse0280,name
俺はセーラさんとともに観覧車に乗り込んだ。

一度乗り込んでしまえば、外に出ることも敵わない、誰にも邪魔されない2人きりの15分間の密室。

……いかん、なんか緊張してきた。

#textbox Kse02B0,name
セーラ,「わ、どんどん上がっていきますね~。あっちの方に……あ、王宮が見えますね」

さすがの、文字通りのキングサイズ。

アタル,「これだけ遠くからでも見えるんだなぁ……」

#textbox Kse02D0,name
セーラ,「あそこに来てから――アタル様にお会いしてから、もうじき1ヵ月になるんですね~」

アタル,「そっか、もうそんなに経つんだね。なんかあっという間だった気がするけど……」

#textbox Kse0280,name
セーラ,「私はアタル様よりも、少しだけ早く、アタル様にお会いしてたんですよ」

アタル,「少しだけ早く……ああ、写真とかビデオを受け取っていたんだっけ?」

#textbox Kse0270,name
セーラ,「それもありますが、それ以外にも――」

アタル,「もしかして――これは俺の推論なんだけど、セーラさんは俺のことが『視えてた』」

アタル,「それで――セーラさんは俺のことを好きになった」

セーラさんは俺の推論に大して驚くでもなく、コクリと小さく頷く。

#textbox Kse0280,name
セーラ,「アタル様と会うキッカケは予知夢ですが、あなたに会ってから育まれるこの気持ちは、予想外ですもの」

アタル,「……予知夢」

――それが、セーラさんの持っている力。今の今まで、俺に明かすことのできなかったこと。

彼女は俺に出会うより前に、夢の中で俺に会っていた。来ることを知らないはずのバルガ王の来訪を予知した。

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「結ばれるはずなんですよ……?」

いつぞの夜、俺の部屋を訪れたセーラさんが呟いた言葉。

彼女の夢の中では、俺は彼女と結ばれていたに違いない。

俺が見ていた昔の思い出なんかじゃなくて、彼女の産み出した妄想なんかじゃなくて。

きっと、それは俺と出会う前から、予知夢に絶対の自信があったからこその発言だったのだろう。

#textbox Kse0280,name
アタル,「……やっとそのことを話してくれたってことは、セーラさんは俺のことを本当に信じてくれたってことかな」

セーラ,「……はい」

アタル,「うん、そう言ってもらえるなら嬉しいな」

彼女が俺のことを信じてくれたならば、俺も彼女の話を信じよう。

アサリさんやバルガ王みたいに格別、人間離れしてる例を見ているからな。今更、予知夢程度の存在を信じるくらい容易だった。

アタル,「あっという間の、1ヶ月だったね」

様々な価値観、人間観。ありとあらゆるものが激変した1ヶ月だった。

#textbox Kse0250,name
セーラ,「きっと、私はアタル様以上に、この毎日を早く感じてました……楽しい日々はすぐに過ぎてしまうんですね……」

セーラ,「アタル様にとって、私と過ごした日々はいかがだったのでしょうか~……」

#textbox Kse0280,name
セーラ,「アタル様の心の内に、私はいるのでしょうか……?」

#textbox Kse02D0,name
セーラ,「そう思うと、いつも不安で……」

#textbox Kse0280,name
セーラ,「アタル様の部屋に夜な夜な忍び込んでいたのも、なかなか寝付けなくて……少しでも長くアタル様にお会いしていたかったからなんですよ……?」

アタル,「…………そんなに、俺のことを?」

#textbox Kse0210,name
セーラ,「きっと今、アタル様が思っている以上に、私はアタル様のことが好きです……お慕いしています」

#textbox Kse0280,name
セーラ,「どのような言葉であっても、受け止めます」

セーラ,「このような場所でなければ聞けません……アタル様の言葉を、聞かせてくれませんか?」

アタル,「……初めて見た時は、童話の中でしか見たことないようなお姫様が目の前に現れたって思った」

アタル,「そんな綺麗な人が、俺と結婚してくれなんて言ってきたのも夢だと思った」

アタル,「全部、現実離れしてたくらい……セーラさんのことを美しいって思ったんだ」

#textbox Kse0210,name
セーラ,「まぁ……そうだったんですか……?ありがとうございます~……ふふっ」

アタル,「でも、この1ヵ月でセーラさんのことが、少しずつわかってきて……」

アタル,「今じゃ同じ世界に生きてる人なんだなって思えてるよ」

#textbox Kse0280,name
セーラ,「そうですよ、アタル様。同じ世界にいないと……」

#textbox Kse0290,name
セーラ,「こんな風に触れ合うことはできないじゃないですか」

セーラさんの両手が、俺の手を優しく包み込んだ。

#textbox Kse02D0,name
セーラ,「はぁ……アタル様の手……好きです……いえ、手だけじゃなくて……アタル様の全てが愛おしくて……仕方ないんです……止まらないんです……」

#textbox Kse0280,name
セーラ,「アタル様……」

俺の手を強く強く握ったまま、潤んだ瞳で彼女は俺を見つめる。

今のセーラさんは限りなく美しいのに、儚く脆そうに見える。

まるで軽く触れるだけで崩れてしまうダイヤモンド。

そんな矛盾がまた美しく感じられて。

――彼女の思いに応えたいと思った。

言葉ではなく、態度で、身体で。

観覧車に揺られながら、俺はセーラさんを抱きしめる。

#textbox Kse02A0,name
セーラ,「アタル……様……!」

彼女を抱きしめたその瞬間、俺の奥底から急激に湧き出てきたこの感情。

それはきっと、恋と呼ぶのだと思う。

肌を触れ合わせて、初めてわかる感情というものが、確かにあった。

アタル,「ごめん。セーラさん」

#textbox Kse02B0,name
セーラ,「いきなり謝られて……どうされたんですか、アタル様」

アタル,「ずっと待たせちゃってたんだなって……ずっと、俺に好きって伝えてくれてたのに、俺はその言葉に応えることができなかったけど」

アタル,「……好きだよ、セーラさん」

#textbox Kse0240,name
セーラ,「アタル様……」

セーラさんの瞳から、真珠のような大粒の涙がポロポロと溢れ出した。

#textbox Kse0260,name
セーラ,「嬉しい……嬉しいです……! 今まで生きていて、こんな……こんな嬉しいこと……なかった……!」

#textbox Kse0220,name
セーラ,「好きな人に好きだっていってもらえるだけで……こんなにも幸せになれるだなんて……!」

#textbox Kse0290,name
セーラ,「私もあなたのことが好きです……アタル様……!」

#textbox Kse02D0,name
セーラさんが無言で目を閉じる。

口を閉じ、その唇は無言で俺を求める。

その唇の期待に応えるように。

アタル,「…………ッ」

セーラ,「……ん、ちゅっ……」

俺は顔を寄せる。

夕焼けに照らされる観覧車の中、俺とセーラさんのシルエットが重なった。

ゆっくりと風景の動く観覧車の中、どれだけの時間、唇を交わしていたのだろうか。

それは一瞬にも、とても長い時間にも感じられた。

アタル,「もう1回、いい?」

#textbox Kse0280,name
セーラ,「はい、何度でも、アタル様が望むだけ……♪」

もう一度、確認のセカンドキス。

ぎゅっと強く彼女を抱きしめて。

アタル,「今後ともよろしくお願いします、セーラ姫」

#textbox Kse0210,name
セーラ,「不束者ですが、よろしくお願いいたします、アタル様」

アタル,「……ははっ……あははっ」

#textbox Kse0220,name
セーラ,「……ふふっ……うふふっ」

ともに名前を呼び合い、そして、自然とこみ上げてきた笑いを隠すことなく、笑いあった。

…………

……

そして、俺はこの日から。

セーラさんと正式に付き合いはじめ――

それと同時、ニッポンとクアドラントとの間に、強い国交が結ばれることが決まったのである。

…………

……

#textbox Kas0120,name
アサリ,「やれやれー、やっとここまで辿り着きましたよー」

#textbox Kas0160,name
アサリ,「でも、アサリのお仕事はまだこれだけで終わらないんですよねー……」

#textbox Kas0180,name
アサリ,「まったく人使いの荒い雇い主だと困ってしまいますよー。お給金をはずんでもらわないとですねー」

女子学生,「じゃあセーラさんは、アタル君と正式にお付き合いすることになったんだ」

#textbox Kse0190,name
セーラ,「はい」

教室にはセーラさんを中心に人だかりができていた。

そのほとんどが女子学生だ。

そして会話をしながら、彼女たちは俺を品定めするかのように、たまにコチラに視線をよこす。

#textbox Kse0180,name
セーラ,「そういえば、みなさんにお聞きしたいのですが」

女子学生,「なになに? 私たちに答えられるかわかんないけど」

#textbox Kse01B0,name
セーラ,「ニッポンの殿方というのは、どう誘えばよろしいのでしょうか」

女子学生,「さ、誘うって……」

#textbox Kse0150,name
セーラ,「私、先日まであの手この手で随分とアタル様に迫ったのですが、イマイチ成果が出ないものですから」

女子学生,「そ、そうなんだ。ちなみにどんなことしたの?」

気のせいかもしれないけど、男女含めてクラス中みんながセーラさんたちの会話に耳を立てているような……。

ちなみに、話題の中に取り上げられている俺も含みます。

余計なことを言われたりすると、何かと面倒だからな。

#textbox Kse0170,name
セーラ,「はい。とりあえずニッポンの文化に沿って夜這いを」

女子学生,「よ、夜……這い?」

アタル,「セ、セーラさんっ!? ちょ、ス、ストッ――」

危惧していた通り、余計な発言はすぐさま発せられた。

#textbox Kse0150,name
セーラ,「ええ。古くから伝わるこの国の風習だそうで。でも半裸で布団に潜り込んで待っていたのに、断られました」

男子学生,「断った……だと?」

男子学生,「貴様というヤツは……アタル、ちょっと校舎裏で話し合おうか」

アタル,「なっ――! いやいや、向こうの女性陣の会話にキレられましてもッ!?」

俺の周りにいた男子が猛然と詰め寄る。

男子学生,「ニッポン国の王様で、きっと最短の任期だったな……」

男子学生,「アタルぅ。マリー・アントワネットの最期って知っているか?」

アタル,「何故そんな物騒なコメント!? 柴田さん、コレって王様の危機ではッ!? SPさん、出番ですよッ!?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「SPは友人との軽い馴れ合いと判断したようで」

男子学生,「アタル。王政っていずれは倒される運命なんだよ」

アタル,「何も俺の代で倒さなくてもいいじゃないか!」

女子学生,「でもそれってアタル君が臆病だっただけじゃないかな。きっとまだ女性経験がないから戸惑っているのよ。ね、そうでしょ?」

アタル,「あ。えっ―――?」

いきなりこちらへ話が振られる。

その言葉にセーラさんを含め、みんなの視線が一同に集まる。

女子学生,「どうなの? あっ、もしかしてアタル君って案外もうひよこさんと……」

ひよこ,「ふぇっ? な、なんで私が?」

セーラ,「あら、もう経験がおありなのですか?せっかくアタル様の初めてを奪うはずでしたのに……」

焦るひよこと潤んだ瞳のセーラさん。

他の学生は男女問わず、俺の体を射抜くような厳しい目線だ。

女子学生,「ホラ、みんなが王様の言葉を待っているよ?」

やめて! そんな目で俺を見ないで!

ぐおぉ……何でみんなの前で女性経験を暴露しなければならないんだっ!?

しかも、自分の口から……だと……。

もちろん、ヒヨどころか、誰とも経験なんてない。

そのことはセーラさんにも伝えていたよなっ!?

もしやこれは王としての試練なのか? 

よし、冷静になれ俺。だとすればこの状況、どう打開すべ――

#textbox Ksi0110,name
柴田,「大丈夫。アタル王は今のところ綺麗な身のままです。これは非常に確かな情報ですのでご安心を」

アタル,「柴田さんッ!?イキナリ何を言い出すんですかッ!?」

#textbox Kse01B0,name
女子学生,「良かったね。セーラさん」

男子学生,「アタル、俺は信じていたぜ」

男子学生,「ああ。俺たち友達だもんな!」

柴田さんの言葉に喜び、心の篭らない言葉を吐きながら、肩を組んでくる友人たち。

たまにパンチも繰り出される仲間の荒っぽい祝福は、『オメェ命拾いしたな』というボディコンタクト。

広がる安堵と歓喜の輪。輪の限りなく中心だというのに、疎外感で涙が出そうだ。

#textbox Kse0150,name
セーラ,「ああ、アタル様。何て悲しげな瞳でしょう」

崩れかけた作り笑いの俺の前に立ち、一緒に悲劇を分かち合おうと言わんばかりに、何故か腰に手を回す。

#textbox Kse0190,name
セーラ,「ですが、白日の下に、自らの童貞をお披露目するその度量……感服いたしますわ」

アタル,「……お披露目も何も、あっという間の出来事だったけどね」

#textbox Kse01B0,name
セーラ,「では、ここで散らすことにしましょうか」

アタル,「えっ。散らすって……?」

#textbox Kse0190,name
セーラ,「ふふっ……わかってて言ってるのでしょう?」

妖艶な笑みと共に、自らの服のボタンを外していく。

アタル,「何故上着を脱ごうとしてるんですかッ!?」

#textbox Kse01B0,name
セーラ,「アタル様は女性を脱がす方がお好みで?でしたら、ハイ、どうぞ」

そう言ってセーラさんは、たわわに実った胸を差し出す。

クラスの女子の中でも飛び抜けたサイズ。セーラさんの顔と胸を交互に見てしまう。

彼女はどうぞと言わんばかりに、微笑みをたずさえたままだ。

あれ……えっ、マジ? 触っていいんだっ……け?

一瞬、思考が鈍る。

いつぞのお風呂の時のように、セーラさんの言葉の魔力に俺の意識が屈しかけた。

って……危なッ!

思わず手が伸びそうになったのを、我に返り、制した。

アタル,「セセセセーラさん、ここ教室だからね!」

#textbox Kse01D0,name
セーラ,「公衆の面前で失う童貞、王として相応しいと思いますわ」

アタル,「いやいや。ないから!王とかいう前に人としてどうかと思うよッ!?」

#textbox Kse01B0,name
セーラ,「王たるものが何であるか、誇示する絶好の機会かと」

アタル,「最悪な通り名が付いちゃうでしょ、絶対に」

#textbox Kse0190,name
セーラ,「付けられる前に自ら名乗れば良いのですよ。性豪王とかエロガッパ王とか」

アタル,「それを俺に名乗れとッ!? ああっ、もうっ!」

むんず、と俺は鷲づかみにする。

とは言っても胸ではなく、腕だけど。

#textbox Kse0140,name
セーラ,「あんっ……二の腕なんて、随分マニアックなところから責めるのですね?」

アタル,「外に出ましょう。こんなアウェイな場所、居るだけで辛い!」

#textbox Kse0170,name
セーラ,「お外というと……青姦……と言いましたか。これまた野性味の―――ああっ、そんなに腕を引っ張らないでください」

セーラさんの世迷言からは耳を塞ぎ、俺はセーラさんの手を引っ張りながら教室を出た。

#textbox Kse0120,name
セーラ,「まあ、ここが私たちの始まりの場所ですね。さぁ、互いにお召し物は不要ですよ」

アタル,「何も始まりませんよッ!?つーか、人生が終わっちゃいますよッ!」

社会的な意味で。

#textbox Kse01B0,name
セーラ,「ではどうして私を連れて外へ?」

アタル,「えーとですね、ニッポンではデートを重ねた後のわけですよ。その……肌を合わせるのは」

そう、あの遊園地でのデート以後。

セーラさんの俺に対する積極性は、さらに勢いを増した。

特に――ご覧のような性的な方面で。

アサリ,「セックスから始まる恋も斬新ですよー」

アタル,「もうちょっと年相応に、ピュアに行きましょうよ……」

あと、突然現れたアサリさんにつきましては、白昼堂々、公的な場所で、セックスとか言い出さないでいただきたく存じます……。

セーラ,「なるほど。私の国とは事情が違うようですね。ということは私、今デートに誘われたということですか?」

アタル,「えっ? あ、いや、全然そんなつもりじゃなかったんだけど……」

でもまぁ、女の子を連れ出していれば、それはデートという行為にならなくもないのだろうけど。

横にはお供の方もいらっしゃいますが。

この前の遊園地は、柴田さんに用意されたモノだった。

今日、セーラさんとふたりっきりになっているのは、過程はともあれ、俺自身が連れ出したものだった。

アサリ,「つまり、お互いを知り尽くしていればー、アレの時に大いに盛り上がるわけでー」

セーラ,「まぁ、なんて素敵な行程でしょう……ドキドキします」

そして、どこかデートを勘違いしているのがここに2名。

いや、全部が全部間違ってるとは申しませんが。

アサリ,「さー、アタルさん。アサリたちをどこへ連れて行ってくれるのでしょうかー」

アタル,「ええっ、アサリさんも来るんですか?」

セーラ,「大丈夫ですよ。護衛ですから。影で見守ってくれます」

アサリ,「精力剤が必要になったらー、いつでも呼んでくださいねー」

アタル,「絶対に呼びませんので、ご安心ください」

セーラ,「大丈夫ですよ。私、セーラが、全力でアタル様のリビドーを呼び起こしますわ」

アタル,「貴重な全力を、こんなとこで使用しないでください」

不安以外の何物でもなかった。

見事なまでに授業をボイコットしてしまった俺たち。

制服のままで街中をうろつくのは問題なため、一旦、王宮に戻って着替えて出直すことにした。

気を取り直して俺が、デ、デート先に選んだのは、近所で評判の喫茶店。

さほど広くないものの、採光を考慮した店内は明るい。

簡素ながらセンスのある内装が、ゆったりとした雰囲気を作り出している。テーブルの上の洒落た小物が、控えめなテーブルの上を飾り付けていた。

女性店員,「いらっしゃいませ」

アタル,「えーっと……本日のケーキを2つと……セーラさんはコーヒーでいい?」

セーラ,「ええ。それで構いません」

アタル,「じゃあ、ブレンドコーヒー2つ」

女性店員,「はい、かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

アタル,「ここのケーキは美味しいんだ」

間もなくして、目の前に見た目も鮮やかな本日のケーキと淹れたてで湯気の昇るコーヒーが置かれた。

わー、美味しそうだー……とか思うよりもだ。

アタル,「あの、セーラさん?どうして手が俺の太ももの上に?」

セーラ,「私、この方が落ち着くので」

アタル,「俺は落ち着かないなぁ……」

セーラ,「お構いなく♪」

手を握るとかならまだともかく、何故太もも?

さっきのアサリさんの精力剤の話が、ふと頭をよぎる。

……まさかこのコーヒー、アサリさんの手が加わっているとか……ないよな?

女の子との初めての喫茶店(※ヒヨ除く)にも関わらず、二重にも三重にも緊張感が。

心を落ち着かせるため、まずはコーヒーを1口。

うん、いい香りだ。ヒヨや柴田さんが淹れてくれるコーヒーに匹敵する。

セーラ,「アタル様。好きな情事の体位はありますか」

アタル,「ぶっふ!?」

コーヒーの霧が舞い、周囲の客の視線が、こっちへと注がれた。

喫茶店さん、ごめんなさい。

アタル,「げほっげっほ! い、いきなり何を!初デートの初っ端からそんな猥談はしませんよッ?」

セーラ,「そういえばお互いまだ未経験ですものね。では、ソロプレイに愛用している小道具などあります?」

アタル,「できればもう少し他人のいる前で、答えやすい質問でお願いしますッ!」

セーラ,「あら。ではもう話のネタが尽きてしまいましたわ。もうお互いの身体で会話するしか―――」

アタル,「いくらなんでも、ネタの引き出しが少なすぎじゃありませんッ!?」

スッとセーラさんの身体が擦り寄る。

アタル,「ま、まぁ、そういう話はその内、するかもしれないとして……」

そう言いつつ、さりげなく身体を引く俺。

これ以上近づかれると、公然の場だというのに押し倒されそうだった。

かくいう引き出しが少ないと非難した俺も、話題のネタが咄嗟に思いつかず。

えーっと、セーラさんとの共通ネタ……何かあったかな……?

アタル,「バ、バルガ王って普段はどう過ごしているの?やっぱりトレーニングばっかりなのかな」

セーラさんの親の話を持ち出してみた。

アタル,「あんだけの筋肉を身に付けるには、ものすごい筋トレしてるんだろうねー、はははは」

……別にセーラさんの親の筋肉に、そんな興味があるわけでもないんですけど。ボディビルダーになりたいわけでもないんですけど。

セーラ,「あの力は私たちクアドラントの王族特有でして、生まれ持っている才能みたいなものです」

アタル,「……あの筋肉が『才能』で片付いちゃうの?」

セーラ,「通常の兵器でお父様は傷つかないそうですよ。戦車砲直撃でも、骨にヒビが入るかどうかだそうで」

アタル,「マ、マジ……?」

それって人間、なの?

握手し、彼を殴りつけてしまった時、俺って相当ヤバかったんじゃなかろうか。

あの時、セーラさんが止めなければどうなっていたんだろうか?

まぁ、こうして付き合うことになったから、多分バルガ王と揉めることはないと思うけど……。

俺の勘は『当たらない』からなぁ……。

#textbox ksi0110,name
柴田,「強靭な肉体だけでなく、技能や知識などもズバ抜けてますよ」

#textbox ksi0110,name
柴田,「クアドラント王国の兵士や、アサリさんへの毒薬や護衛の技術は、バルガ王が指導しているとのことです」

アタル,「おわぁっ!? どこから出てきたんですか!?」

#textbox ksi0110,name
柴田,「アタル王にはニッポン国が威信をかけて護衛してますが、バルガ王を退けるのはミルフィ姫のイスリア王国でも困難です」

アタル,「柴田さん、それ質問の答えになってないッ」

#textbox ksi0110,name
柴田,「ややっ、これは失礼しました。ではどうぞ続きを」

そのまま他の席に給仕する柴田さん。

あれ? もしかして、さっきのコーヒーって、もしかして柴田さんが淹れたものだったの?そりゃ柴田さんの味に匹敵するわ。
でも、続きを、と、いわれても、身内がいるのを知ってしまったら、下手な話はできないじゃないか。

行為時の体位の話なんて、もってのほかである。

アタル,「ん……?」

背中に強い視線を感じて、思わず辺りを見回す。パッと見、店内は平和そのもの。

でも、この喫茶店にいる人の中に、どう見てもニッポン人じゃない人が何人かいて。

どう見てもカタギじゃない。一般人にしちゃ逞しすぎるし、隙がなさすぎるし、こっちの反応を気にしすぎているし、何度か見かけた顔だったりもする。

俺たちの傍には、常にクアドラントとニッポンのSPが何人もいるのだ。

セーラ,「あのような風貌で誤解されがちですが、子煩悩で家では私とよく遊んでくれました」

セーラ,「家ではお母様に頭が上がらなかったりしますのよ」

アタル,「へぇ……」

子煩悩で、恐妻家。荒々しくて、力強い見た目と結びつかない。

アタル,「でも、セーラさんってバルガ王には、その、あんまり似てないよね?」

正直にいえば、まったく似てない、といいたかったが、言葉をぼやかした。

よく女の子って父親に似るっていうけどね。

セーラ,「私たちはみんな母親似ですの」

アタル,「へぇ、じゃあ、お母さんはさぞかし美人なんだろうな」

バルガ王の遺伝子を打ち負かすほど、セーラさんのお母さんの遺伝子は逞しいに違いない。

アタル,「セーラさんには妹もいるんだったよね?みんな結婚していて、どうとかこうとか」

セーラ,「はい。私、5人姉妹の長女ですもの」

アタル,「えっ、妹って4人もいるの?」

セーラ,「ええ。私が言うのも何ですが、全員自慢の妹です」

アタル,「ううむ……それは凄い」

セーラさんと同レベルの容姿を持つ姉妹が4人、並んだりしたら圧巻過ぎる光景だろう。

ただならぬ美女オーラで目が潰れるに違いない。

セーラ,「むー。妹たちの話に反応するなんて………私では不満ですか?」

少しむくれるセーラさん。

乗せていた手がすぼまり、太ももをぎゅっと摘まれる。

アタル,「痛たたッ!? な、何で?」

セーラ,「だって私には素っ気無くて、妹たちに興味を持つなんて」

アタル,「いや、違うって! セーラさんに似た美人が他にもいるなら、フツー驚くってば!」

セーラ,「美人かどうかわかりませんが、みんな似てますね。あっ、でも胸なら私が一番大きいです。妹には負けませんよ?」

などと言いながら、胸元を強調するセーラさん。

アタル,「あの……もしかして嫉妬している?」

セーラ,「だ、だって……妹たちに興味をもたれるなんて、こんなイヤなことはないですわ」

さっきまで積極的だったセーラさんが、普通の女の子みたいな反応をする。

アタル,「ぷっ」

俺は思わず吹き出してしまった。

アタル,「会ったこともない妹さんに興味なんてないってば。そんなことで拗ねるなんて、セーラさんって可愛いなぁ」

セーラ,「えっ……か、可愛いって……誰がですか?」

アタル,「へっ? だからセーラさんが」

セーラ,「そ、そうですか。ありがとう……ございます」

あれ。

俺おかしなこと言ったかな。

何かセーラさんが凄くウブな反応をしている。顔どころか、耳まで真っ赤。

美人とか綺麗っていわれることはあっても、可愛いと言われることには慣れていないとか……?

んなワケないか。意味合い的には美人・綺麗の方が強いし。

セーラ,「でも、妹たちは既に決まったお相手がいますのよ」

アタル,「お相手って……あ、そっか、妹たちはみんな既に結婚してるとかなんとか言ってたっけね……人生の転機が早いよなぁ……」

セーラ,「ですが、アタル様の国も大昔は10代での婚約は、よくあった話だと聞いてますが」

アタル,「それは十二単を着てたり、戦国時代だから……もう数百年も前の話だよ。セーラさんって俺とほとんど年が変わらなくて、妹さんって、それより年下だから―――」

セーラ,「私の国は男性が極端に少ないので、殿方は取り合いなんですよ」

アタル,「クアドラントってどのくらいだと早婚なの?」

セーラ,「10代前半だと早婚ですね。20代前半でもう晩婚です」

アタル,「20代前半で晩婚……」

やっぱり異国文化なんだなぁ、としみじみ思う。

貞操概念もそうだけど、ニッポンと比べて基準が違いすぎるというか。

アタル,「ところで、そのケーキ、どう? 美味しい?」

セーラ,「ええ、美味しいですよ。それにこの店の雰囲気も好きです」

アタル,「なら良かった。ホッとしたよ」

セーラ,「?」

アタル,「お姫様のセーラさんは、あまりこういうところでの食事って好きじゃないのかもって思ってたから」

セーラ,「そんなことありませんよ。テーブルマナーの食事って慣れていても堅苦しいですから」

セーラ,「王族は何かと不自由です。紅茶を飲むにしても正式なアフタヌーンティーだったり」

セーラ,「だから一般の方々のように、恋人と気兼ねなく喫茶店で語らう……初めての体験で、とても新鮮です」

アタル,「ふぅん……」

楽しそうに喋るセーラさん。

やたらと直情的な物言いばっかりだったけど、こうやって自分のことをあれこれ話したりもするんだなあ。

セーラ,「で、次はどこで濡れ濡れシッポリな愛の語らいが始まるのですか? 良かったら屋外か屋内か教えてくださいませ」

感心した俺の気持ちが軽くあしらわれる。油断したらコレである。

アタル,「屋外屋内問わずに始まらないのでご安心ください」

セーラ,「私、知ってますのよ。屋外だったらゴザが非常に便利だと。外の趣に合った、ニッポンの素晴らしい発明品と聞きましたわ」

セーラ,「夏場は蚊取り線香が必須だとか。そうですよね、アタル様?」

アタル,「花見や夕涼み以外での斬新な使用方法、俺は今、初めて聞きましたッ!」

セーラさんって、どこからそのニッチな情報を仕入れているんだろうか。

女性客,「ねぇ、あの女の人、凄く綺麗じゃない?……あれ? テレビで国王就任のときに写っていたお姫様に、ソックリな気がするんだけど……」

女性客,「ははっ、まさか。こんなお店にいるわけないって。多分、隣にいる男が冴えないから目立っているだけよ」

陰口とか噂は届かない程度の声でしてほしいもんだけど。

これだけ美人なら、そりゃ誰だって見ちゃうよなぁ。

一方、隣の男は冴えない国王で、申し訳ありませんね。

セーラ,「あら、どこかにミルフィさんがいらっしゃるのかしら?」

アタル,「いや、どう考えてもセーラさんのことでしょ」

アタル,「さっきも言ったけど、セーラさんってあんまり美人って自覚ないよね」

セーラ,「きっとニッポンでは私の顔は物珍しいのでしょう。アタル様がクアドラントに来たら、きっと同じですよ」

別の国の人には、ニッポン人は全員同じ顔に見えるって話もあるし。

アタル,「いやいや。俺なんてセーラさんに不相応じゃないかって思われて、石でもぶつけられるんじゃないかな?」

セーラ,「そんなことないです。アタル様こそ素晴らしい殿方ですよ」

アタル,「あ、ありがとう」

ドキッとする笑顔。

正面切って褒められるのってどうにも困る。

セーラ,「では、あそこにいる女性客に、私のことではなく、アタル様のことをもっと褒めるよう言ってきますわ」

アタル,「なっ――ちょっ! それは恥ずかしいから止めて!?」

セーラ,「どうしてですか? 私、アタル様が冴えない扱いされているのは我慢なりません!」

アタル,「いや、そこは否定できないし。それに……」

この時、セーラさんが怒る一方で、俺は彼女に好かれているんだなぁと気付いた。

アタル,「ま、いいや。食べ終わったことだし、セーラさん、そろそろ出よっか」

俺は伝票を取って立ち上がる。

セーラ,「あっ、アタル様、待ってください」

俺は支払いを先に済ませ、セーラさんが出てくるのを待っていた。

アタル,「気持ちだけで十分だよ、セーラさん」

#textbox Kse0250,name
セーラ,「でもアタル様のことを知らずにあれこれ言われるのは、何か胸がモヤモヤしますわ」

アタル,「冴えないのは事実だし。王様にはなったけど、つい1ヵ月前まで一般人だったんだから」

アタル,「まぁ、他の人になんて言われても、セーラさんが素敵だって言ってくれるなら、それでいいかなー、なんて、ははは」

#textbox Kse02B0,name
セーラ,「アタル様……」

ちょっとキメ顔になってしまう。

我ながら、歯の浮くステキセリフだと思った。

#textbox Kse0280,name
セーラ,「慣れないことすると身体に障りますよ?」

アタル,「どういう意味ですかッ!?」

#textbox Kse0290,name
セーラ,「ふふっ。冗談です」

アタル,「冗談キツいなぁ、ははっ」

彼女の言葉が、素直に冗談だと思える。

やっぱりセーラさんの笑顔は可愛いな。

俺はなんとなしに彼女の手を握った。

#textbox Kse0240,name
セーラ,「あっ……」

アタル,「慣れないことのついでだけど」

多分、このぐらいのことはいいよな。

付き合っているんだし、恋人っぽい感じ――

アタル,「――って、うわっ! すっごい汗ッ!? ど、どうしたのセーラさん?」

#textbox Kse02A0,name
セーラ,「じ、自分でもわからないんですが、何かその……」

顔を紅潮させたセーラさんが俯き加減に呟いた。

握った手のひらが汗でびっしょりだ。

アタル,「大丈夫? 身体の調子が悪いとかじゃないよね?」

#textbox Kse0250,name
セーラ,「は、はい。緊張しているみたいです、私」

アタル,「イヤなら離すけど――」

#textbox Kse0230,name
セーラ,「いえ、絶対に離しません」

その声は意外と力強かった。

傾きかけた陽が少し眩しい。

特に行くアテもなく、俺らは無言で歩き続けていた。

他人から見ればアンバランスな組み合わせだろうけど、自分たちはカップルに見えているんだろうか?

#textbox Kse0250,name
セーラ,「……こんなに私を濡らしてどうするつもりですか?」

アタル,「せっかくのいいムードが一言で台無しにッ!?」

#textbox Kse0230,name
セーラ,「きっと、アタル様だから私、こんなになっちゃうんですよ」

アタル,「やっぱり、手を離させていただきます」

#textbox Kse02B0,name
セーラ,「先に握っておいて離すなんてひどい。じゃあ――」

アタル,「……代わりに俺のナニを握るとか、まさかそんなひどいことは言わないですよね?」

#textbox Kse0270,name
セーラ,「………」

アタル,「あっ、ごめん。さすがにそれは言い過―――」

#textbox Kse0220,name
セーラ,「……相性バッチリかもしれませんね、私たち」

アタル,「やっぱり言うつもりだったのッ?こんな以心伝心イヤだッ!?」

締まらない会話。グダグダなやりとり。

その後、綺麗な夕日をバックに、恋人っぽい語らいなんぞあるわけもなく。

あの観覧車でのキスの一件から、俺たちの関係はそこまで激変しているわけではなく、まだプラトニックなまま。

セーラ,「ああ、夕日をバックにバックで挿入って、韻を踏んでいて情緒的――」

アタル,「ストップ、ストーーップ!」

……俺と恋人になれて浮かれているセーラさんの思考は、ちょっとトビ気味なんだけどさ。

手は繋いだまま、俺らは陽が沈むまで歩き続けた。

男子学生,「おはようアタル」

アタル,「おう。おはよ」

男子学生,「で、昨日はどうだったんだよ? まさか授業抜け出して、オトコとして抜け駆けしたんじゃないだろうな?」

グリグリと肘で小突いてくる級友。ここにいると王様であることなんて忘れそうだ。

アタル,「別に何もないってば!」

男子学生,「だったらあのセーラさんのため息は何だ?」

朝、一緒に学園へ行こうと誘ったんだけど、何故か断られてしまった。そして後から教室に入ってきた、どこか上の空なセーラさん。

#textbox Kse0160,name
セーラ,「はぁ…」

そのため息は妙に艶っぽくて、同性でも反応してしまうらしい。

男女問わずに、クラスメイトがみんな振り返る。

ミルフィ,「ちょっとセーラ、どうしたのよ?」

セーラ,「あら、ミルフィさん。別に何もありませんわ………ふぅ」

ひよこ,「わわっ。セーラさん色っぽい…」

エリス,「ううむ。この先姫様にこの色香が身につくことがあるだろうか」

アサリ,「あー。おそらく昨日のことでしょうねー」

男子学生,「昨日…だと?」

男子学生,「さあ吐けアタル。隠していてもためにならんぞ?」

詰め寄る男たち。しまった。逃げ遅れたようだ。

だが国王である俺には優秀なSPがついている。

アタル,「さあ柴田さんッ。ご覧の通り、俺すっごいピンチですよねっ!?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「SPは友人との深いスキンシップと判断したようです」

アタル,「ええっ、またですかっ!? そう言わずに国王が助けを求めていると、再度伝えてもらうとありがたい!」

#textbox Ksi0140,name
柴田,「残念。却下、だそうです」

アタル,「即決過ぎる気がする! 機会があればSPさんたちと打ち合わせを希望しますッ! 意思の疎通を確認すれば、きっと今後有意義―――痛たッ!?」

容赦のない肘がわき腹をえぐる。複数攻撃だと地味に痛い。

セーラ,「自分では大人っぽいつもりでしたが、まだまだ私子供だったようです」

ひよこ,「えー、そうかなあ? 私たちと比べたら、凄く大人びていると思うけど。ですよねミルフィさん?」

ミルフィ,「ま、まぁ、そう……ね」

エリス,「姫様。虚勢というのはバレずに通さねば意味がありません」

セーラ,「大丈夫ですよ、ミルフィさん。見た目のお話ではないので」

ミルフィ,「なぁっ!? あ、あたしは見た目なんて言ってないわよっ!?」

セーラ,「昨日喫茶店に行ったんです。そしたらアタル様が強引に触れてきて…」

ひよこ,「ご、強引に? 普段のアタルくんから想像つかないなあ」

セーラ,「やっぱりアタル様も男性なのですね。大きな手で触れられたら私、不覚にも濡れてしまったのです」

一瞬の静寂。そして言葉の意味を理解したクラスメイトは声をあげた。

男子学生,「うおおおっ!!」

女子学生,「きゃああっ!!」

男子学生,「お前ってヤツは…お前ってヤツはぁ!!」

アタル,「違う違う! 誤解だ! セーラさん、あながち間違ってないけど、その物言いだと俺の身がマジで危ないッ!?」

女子学生,「ねぇねぇ、それでどうだったの? アタル君って優しくしてくれた?」

#textbox Kse01A0,name
セーラ,「いいえ、さっきも言った通り強引でした。私、突然のことでそれに応えられなくて…されるがままでした」

男子学生,「学校抜け出してシケこむとは…」

男子学生,「あばよアタル。お前は本当にいい友達だった」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「おお。今回はSPも出ざるを得ない状況のようで。朝食が済んだら向かうとの連絡です」

アタル,「どんだけノンビリですかッ!? つーか本職より朝メシが先って一体!?」

結局セーラさんが細かく説明してくれたおかげで、フランス王政のように打倒されずに済んだけど。

男子学生,「命拾いしたなアタル」

男子学生,「全く人騒がせな。先に説明してくれればいいのに」

アタル,「いや、君ら聞く耳これっぽっちも持ってなかったよね?」

女子学生,「でも手を握っただけなんて、どれだけ奥手なのよ」

女子学生,「そうよ。セーラさんってアタル君の彼女同然なのに。むしろ女に恥をかかせたってカンジ?」

一方で女性陣の意見は過激だったりする。襲わなかった俺の方に難ありみたいな言葉ばっかり。

#textbox Kse0170,name
でもセーラさん、俺を見るとやたら目線を逸らす。

あんなにあれこれ直情的だったのに、ここ最近変に大人しい。というか、逆に心配になってきた。
#textbox Kas0120,name
アサリ,「あー、大丈夫ですよ。お構いなくー」

アタル,「なぁっ!? ちょっ、ちょっと!」

#textbox Kas0160,name
アサリ,「何ですかー? アサリたっぷり寝ないと動けなくなるんですよ~」

翌日に俺はアサリさんをつかまえてセーラさんについて尋ねるものの、素っ気無い返事をされる。

耳と尻尾をぴこぴこ動かし、不機嫌そうに答えるアサリさん。

アタル,「だってあんなに大人しいなんて変じゃないですか、どこか身体の調子悪いとか?」

#textbox Kas0110,name
アサリ,「強いて言えばアタルさんが原因ですけどー」

アタル,「ええっ!? ど、どうすればいいんんだろ…」

アサリ,「聞き耳かじっていたのと実際の過程は違ってー、そのギャップに戸惑っているんでしょうねー」

アタル,「あの。全然わからないんだけど」

#textbox Kas0180,name
アサリ,「別にアタルさんを嫌っているわけじゃないのでご安心をー。まあ一つ言えるなら………ふふふー?」

アタル,「な、何?」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「手を握ってそのままチューしちゃえば解決ですよー」

アタル,「いいっ!? アサリさん、適当なこと言ってないですか?」

#textbox Kas0160,name
アサリ,「こんだけ言ってまだわからないなんて、アタルさんもセーラさんと同じくらい自分に鈍感ですー」

#textbox Kas0110,name
アサリ,「ふぁあああー……それじゃ、おやすみなさいー」

アタル,「お休みって、朝になったばっか―――」

ススッと音もなく姿を消すアサリさん。

アタル,「…本当かなあ」

恋愛経験なんてないから、手順やらタイミングなんて全然わからない。手を握るのすら自分でも結構大胆な行動だったのに。
アタル,(キス…か)

そう思うと変な汗出てきた。

女の子一人のことでこんだけ苦労しているのに、王様なんて笑っちゃうよなあ。何で俺みたいなのが王様になんて選ばれたんだろう。

でもそれでセーラさんに会えたんだから、衛星あたりめの選択には疑問よりも感謝すべきで。

幸い今日は休日。俺は足取りをセーラさんの部屋に向けた。

広過ぎて実感ないけど、セーラさんやミルフィ、それにひよこも含めてみんな同じ屋根の下で暮らしているんだよな。

そういや昨日の夜もだけど、今日の朝もセーラさんは俺の部屋に押しかけて来なかったなあ。

こんな風に言うと期待しているカンジに思われそうだけど、しおらしくなったのも妙に思うわけで。

アタル,「えーと……ここであっているんだよな」

セーラさんの部屋の前。女の子の部屋に入るってちょっと緊張するなあ。

深呼吸。そしてノック。

#textbox kse0410,name
セーラ,「どうぞ」

部屋の色調。小物。薄っすらと香るほのかな匂い。
やっぱり女の子の部屋というのは小奇麗で、自分の部屋とは根本的に違う。

アタル,「おはようセーラさ……って、あれ?」

最初に目に飛び込んだのはパジャマ姿のセーラさん。そして少し離れた場所に変わった先客がいた。

柴田,「おや、これはおはようございます」

セーラ,「アタル様。おはようございます」

アタル,「どうして柴田さんが…?」

柴田,「セーラ姫に呼ばれましたので。まあ大したことではないのですが、アタル王について色々と―」

セーラ,「柴田さん」

柴田,「おっと。では失礼…」

入れ替わるように柴田さんは開けたドアから退出した。気のせいか、去り際に含んだ笑みを残していたような…。

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「アタル様、一体どうされましたか?」

アタル,「大した用じゃないんだけど…」

セーラさんのぷっくりとした、血色の良い唇。

#textbox kas0110,name
アサリ,「『手を握ってそのままチューしちゃえば解決ですよー』」

頭をよぎるアサリさんの言葉。

アタル,(…今ソレをここで?)

いやいや。それはないでしょ。雰囲気もへったくれもないし。
大体どーやって切り出すんだよ。そこまで教えてくれないとわかんないし。

#textbox Kse0410,name
セーラ,「ではどういったご用件でしょうか?」

アタル,(キスしたいんでジッとしていてください)

無理。んなこと絶対に言えるかッ。

アタル,「えー、まあ何と言うか―――あ、ところでさっき柴田さんがいたのは?」

#textbox Kse0470,name
セーラ,「アタル様のことについて色々と…です」

そう言って顔を赤らめるセーラさん。一体何を吹き込んだんだろう。柴田さんは。
はッ――!?

もしや俺の性癖とやらを尋ねて、上手くカモフラージュしたエロDVDのタイトルを伝えたとか?

アタル,(だとしたら…ど、どのタイトルだろう?)

健全なオトコノコなら、別にDVDの一つや二つ持っていても不思議じゃないはず。

ただアレらが全て自分の趣味だと思われる可能性も。ううっ、今日ほど自分の貪欲さが憎いと思ったことはない。

しかしこれはイカン。

前みたいに教室でため息ついて、タイトルなんぞを口ずさまれたら、またクラスメイトから袋叩きだ。

#textbox Kse0480,name
セーラ,「せっかくの休日ですし、良かったらどこかへお出かけしませんか」

アタル,「えっ…あ、はい」

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「もしかして何かご予定がおありでしたか? そういえば私の部屋にいらっしゃった用件をお尋ねし損ねましたが…」

アタル,「あー、大丈夫大丈夫。俺もセーラさんと出かけようと思ったから」

#textbox Kse0410,name
セーラ,「あら、そうでしたか。ならお召し物を代えますので少々時間を…」

そういうわりには全然着替える気配がない。

アタル,「あっ、ごめん。失礼しました」

慌てて部屋を出ると、ようやく部屋の中から衣擦れの音がした。前まであれほど俺の布団にまで侵入してきたのに、パッタリと止んだ。

自分で拒否していたとはいえ、妙な気分だ。

むしろあの勢いで来られたら、今なら断ることもなく勢いに任せる踏ん切りがつくんだけど……って、どれだけ俺って根性ナシなんだろ。

そんなこと考えて10分ぐらい経った頃、扉が開いてセーラさんが姿を見せた。

#textbox Kse0210,name
セーラ,「どうもお待たせしました」

アタル,「おおっ……」

ドレス姿と比べると幾分、色気は抑え気味だけど、私服姿も相変わらずステキだ。

#textbox Kse02B0,name
セーラ,「どこか変ですか」

アタル,「いやいや、思いっきり可愛いです。はい」

#textbox Kse0270,name
セーラ,「そ、そうですか。どうもありがとう…ございます」

アタル,「どういたしまして」

火でも噴きそうなぐらい顔を赤らめて答える。

うーん。

調子が狂うというか、いつものエロ全開なセーラさんってどこに行っちゃったんだろうか。

#textbox Kse0210,name
セーラ,「………」

アタル,「………」

全然弾まない会話。無口でおしとやかなセーラさん。

その横顔がどこか憂いを帯びていて、それが一層彼女を際立たせていた。

こっちも一応次期国王だけど、普段着だとよりサエない男だから、同じ普段着でも素材って重要だなって思うわけで。
#textbox Kse0280,name
セーラ,「…そう言えばお父様がよく言っているのですが、その国を知りたければ、市場を見るのが一番だと」

アタル,「そ、そうなんだ」

#textbox Kse02D0,name
セーラ,「私の国でもそれは同じで、軍事施設や公的機関の視察よりも大事だそうです」

#textbox Kse0290,name
セーラ,「私も何度か視察をご一緒したことがありますが、市場を見るときの方がお父様は熱心で、そしてどこか楽しそうでした」

そ、そうなのか。初めて知ったぞ。

俺なんて突然国王になったものだから、そんなこと考えたこともない。

まあ一般人歴が長いから市場も何も、商店街は今でもフツーに来るし。

むしろ軍事施設なんて見れるのならソッチの方が興味あるなあ。

#textbox Kse0210,name
セーラ,「まあ…あの犬可愛い!」

犬の主人は近所で買い物をしているのか、電信柱にリードがくくり付けられている。

犬の頭を撫で、嬉々としているセーラさんだが、犬種はブルドッグ。パッと見は美女と野獣な組み合わせだ。
アタル,「随分とマニアックというか。ブルドッグが好きなの?」

#textbox Kse0290,name
セーラ,「この犬、ブルドッグと言うんですか。はぁ…何て愛らしい表情でしょう。私の国にはいない種類です」

アタル,「あそこにチワワもいるけど」

向こうから飼い主と共に歩いてくる小型犬を指差す。

#textbox Kse0270,name
セーラ,「うーん。この子の可愛らしさには及びませんわ」

アタル,「ええっ!?そ、そうかなあ………あそこのダックスフントは?」

#textbox Kse02D0,name
セーラ,「話になりませんわ」

アタル,「あのヨークシャー・テリアは?毛並みがフサフサして―――」

#textbox Kse0290,name
セーラ,「こっちですね」

見かける色んな犬を振ろうと、頑なにブルドッグを支持。セーラさんって可愛いの基準がどうも違うらしい。

ブルドッグもセーラさんを気に入ったのか、されるがままだ。

無防備で愛らしい笑顔。

公衆の面前でなんて恥ずかしい気もするけど、ちょっとぐらいなら―――。

#textbox Kse0240,name
セーラ,「あっ………」

#textbox Kse02D0,name
ブルドッグを触っていた手が止まる。察したのか、セーラさんは目を閉じた。

瑞々しい唇が目の前にある。

後はこっちの唇を押し付けるだけなのに、喉が渇いて緊張してきた。

鼓動が頭に響いているみたいだ。

ひよこ,「あれ、そこにいるのってアタル…くん?」

アタル,「うわっ!?」

セーラ,「……ッ!?」

その一声で引き戻され、俺とセーラさんは不自然に距離を置く。

アタル,「ビックリした………ど、どうしたんだよヒヨ」

ひよこ,「びっくりしたのはこっちだよ。お買い物していたら見覚えある二人がいるんだもん」

ひよこ,「あ、もしかしてアタルくんとセーラさんもお買い物の途中だったの?」

アタル,「お買い物というか犬を愛でていたというか…ねぇ?」

セーラ,「はい。市場の視察です。これも上に立つ人間として非常に重要なことですわ」

セーラさんも気が動転しているみたいだ。ヒヨではなく、犬を撫でながら犬に話しかけている。

アサリ,「さすがにひよこさんを止めるのにー、痺れ毒の使用は無理でしたー」

アタル,「ええっ!アサリさん寝てたんじゃないのッ!?」

アサリ,「ただアタルさんの行動力はありそうなのでー。このままならチューもいずれは――」

ひよこ,「行動力…? それにチューって一体……わっ!」

俺はヒヨの肩をがっしり掴み、子供に言い聞かせるように語った。

アタル,「ヒヨ、ニッポン国次期国王アタルは視察がまだ終わってないのでこれにて失礼」

セーラ,「ええ。ごきげんよう、ひよこさん」

ひよこ,「は、はい…?」

疑問符の残るヒヨをそのままに、俺はセーラさんの腕を取ると逃げるように去った。

アタル,「ふぅ…ここまで来れば大丈夫」

#textbox Kse0210,name
セーラ,「あの、先ほどは何をされようとしたのですか?」

顔を赤らめて質問するセーラさん。

アタル,「いや、その…」

改めて聞かれると言いにくい。

アタル,「…セーラさん、わかっていて聞いているでしょ」

#textbox Kse02B0,name
セーラ,「いえ、全然。よかったら仰って下さいな」

アタル,「いやいや。だったらあそこで何で目をつぶったのさ?」

#textbox Kse0270,name
セーラ,「たぶん目にゴミでも入ったのでしょうね」

アタル,「あんな雰囲気の中、そっと目を閉じたのが実は目にゴミッ!?」

アタル,「セーラさんって意外と意地っ張りだって言われたりしない?」

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セーラ,「それならアタル様こそ意気地なしです」

ぷいっ、と視線を逸らす。

アタル,「だってあそこでヒヨを気にせずに………したあとに『やあヒヨ、お買い物かい?』なんてサラリと言ってのけるのは無理です」

いまさらキスなんて言葉を口にしにくい。

#textbox Kse0210,name
セーラ,「あら、一部分がよく聞こえませんでしたわ。何をしたあとですか?」

アタル,「くっ…それも絶対にわかっていて聞いてるよねっ!?」

でもセーラさんは俺の言葉に起こる風でもなく、ふっと微笑んだ。

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セーラ,「ではアタル様。あなたの意気地のあるところ、見せてください」

#textbox Kse02D0,name
そう言って再び目を閉じる。目にゴミが入ったのならそれで構わない。

しかし、キスってどうして女の人は目を閉じるんだろ。まあ逆はあり得ないし、その方がサマに―――。

ああ、そうか。閉じるかどうか問題じゃなくて、キスして欲しいって促しているってことなのかもなあ。
手を握り締め、セーラさんの顔へ近づく。

こんなときに気付いたけど、セーラさんってまつ毛が長いんだ。

唇が触れそうになった瞬間に俺は―――。

バルガ,「おお、これはこれはアタル王。ご機嫌麗しゅうございますな」

アタル,「――っうぉぁ!?」

セーラ,「―――ッ!?」

その声で、俺らは間に太刀でも振り下ろされたかのように慌てて飛びのいた。

アサリ,「申し訳ないですー。象でもひっくり返る毒を打ち込んだのですがー足止めにすらなりませんでしたー」

アタル,「ちょっ…自分の国の王様を亡き者にする気ですかッ!?」

ごっつい銃を構えながらアサリさんが謝罪する。

バルガ,「さっき首筋がチクリとしたが、蚊に刺されたのかもしれん」

バルガ,「さすがに鍛えても虫刺されは防げないようですな。がっはっは」

アタル,「ど、どうもバルガ王。相変わらず輪をかけて丈夫そうですね」

バルガ,「我はそれが取り得ですからな。アタル王もお元気そうで」

バルガ,「もう既に、娘に搾り取られているかと思いましたぞ」

アタル,「ま、まあそれはさておき…どうしてバルガ王はこちらに?」

バルガ,「この港には我が国の軍艦が停留しておりますので。よかったら中を覗いていきますかな?」

アタル,「い、いえ。結構です。それに俺らその…」

バルガ,「ああ、これは失礼した。しかしこのような場所でアオカンとは…アタル王も実はクアドラントの人間のようですな」

野太い声を抑えながらセーラさんに聞こえないよう囁く。しかし…クアドラントの人ってアオカン好きなのか?

本当にセーラさんと親子なんだなあと思う。ただ今のセーラさんは大人しいので、とてもそんなこと言えませんが。
セーラ,「お父様。私たち、さきほど市場を歩いてましたのよ」

バルガ,「ほう。で、どうだった?」

セーラ,「種類の豊富さは、クアドラントどころかイスリアにも引けを取らないかと」

セーラ,「一般市民のレベルでここまで多様な品物が手に入るのは、素晴らしいの一言です」

俺はただブルドッグを愛でていただけに見えたけど、観察眼と言うか………。

上に立つ人間ってのはこうあるべきなのかな。

バルガ,「我が見た限りでは平和ボケしているイメージがあるが…セーラ、それはどう思う?」

何故か視線を俺に寄越しながらバルガ王は言う。

遠慮のない、見下したような目つき。その言葉は国ではなく、あからさまに俺に向かって言ってるんじゃないかと思えるぐらいに。
あれ。ここって俺が言い返したほうがいいのか?

セーラ,「言葉の言いようですわ」

セーラ,「争いごとが長きに渡って存在しないことが、国を治める者にとってどれほど喜ばしいことか、お父様にはわかっているはずです」

バルガ,「ふむ……」

セーラさんの言葉に何か考え込むバルガ王。

セーラ,「ついでにいうとお父様。ご覧のとおり私とアタル様、デート中ですのよ」

バルガ,「おおっ、これは失礼した。我も国務があるのでトレーニングが終了次第、そろそろこの国を離れる予定でしてな」

バルガ,「アタル王。我が娘、くれぐれもよろしく頼みます」

一礼をしてバルガ王が立ち去る。

一歩歩くたびに足音が聞こえそうなほどの重量感。あれ以上、鍛える必要ってあるのだろうか。

#textbox tse0280,name
セーラ,「興ざめしてしまいましたね。私たちも家に戻りましょうか」

アタル,「あ、うん」

…………

……

喫茶店でお茶して、そのあとブラブラ歩いただけなのにもう夕方。

おかしい。人間集中することがあると時間が少なく感じるものだけど。
俺はそんなにキスばっかり考えていたのか?

#textbox Kse0250,name
セーラ,「ごめんなさい。お父様が失礼なことを聞いてしまって」

アタル,「別にそんなことないよ。セーラさんを心配してるんだろうし」

ただ同じ質問をされたら、俺はまともに答えられるだろうか。

アタル,「今日は大したことしてないのに疲れたなあ」

俺はベンチにもたれかかるように座る。セーラさんはどんなときでも、キチンと優雅に座る。

#textbox Kse0220,name
セーラ,「はい。でもブルドッグ可愛かったです」

アタル,「だけど同時に市場というか、商店街もちゃんと見ているんでしょ? 凄いよ」

#textbox Kse02B0,name
セーラ,「いいえ、市場については前に来たときにざっと見た程度ですよ」

アタル,「あれっ。もしかして褒め損?」

#textbox Kse0290,name
セーラ,「今日は純粋にアタル様とのデートですもの。そんな無粋なことはしませんわ」

#textbox Kse0280,name
セーラ,「私が本当に見ていたのは、市場でもブルドッグでもなくて…」

セーラさんの顔が夕暮れに赤く染まる。広い屋敷の中庭。辺りを見回しても人影はない。

#textbox Kse02D0,name
こぼれ落ちそうなほど大きな瞳が閉じる。セーラさんの肩に手をかけ、自分の顔を近づける。

ようやっとこれで、今日一番しなくてはならないことが達成さ―――。

ミルフィ,「なぁっ!? あ、あんたたち何やってるのよーッ!?」

アタル,「ぬぉあっ!?」

セーラ,「……ッ!?」

振り返ると、そこには食べかすで口元を汚しているミルフィが立っていた。

両手にはしっかりとドーナツが握られている。

そして背後では爆発音と銃声が響き、刃物がぶつかり合い、火花を散らす。

アサリ,「どうしてミルフィさんを止めないですかー。往生際が悪いですー」

エリス,「アタル王がセーラ姫を選んだとはいえ、目の前で上手くいくのを見届けるのはつまらんのでな」

アサリ,「むー。やはりエリスさんは敵国の人間なのですねー。こうなったらしばらく動けなくするですー」

エリス,「やってみるがいい。ちょうど退屈していたところだ。それにクアドラントの護衛のトップを倒したとなれば、箔がつくというもの」

再び閃光。爆発。

綺麗だった中庭は芝生がめくりあがり、外灯がはじけ飛ぶ。

いたるところに不恰好な穴が開き、どんどん戦地のような有様に。

アタル,「原因は俺っぽいけど、喧嘩良くないッ!つーかすぐ止めてくれ!」

#textbox Kas0160a,name
アサリ,「今日のアタルさん、ホント意気地なしですー」

#textbox Kas0140a,name
アサリ,「アタルさんが王様じゃなければー今頃上の口も下の口も開きっぱなしでーデロデロヌレヌレになるお薬をひっそり入れましたよー」

アタル,「何それ怖ッ!?それ薬じゃなくて劇薬じゃないんですか!?」

#textbox Kas0160a,name
アサリ,「コーヒーと一緒に混ぜちゃえば良かったですー」

#textbox Kas0180a,name
アサリ,「穏やかなティータイムが我を失ったアタルさんによってー濃厚な情事のハッテン場になるところでしたのにー」

エリスさんとぶつかり合いながら、ぽへっとした口調でとんでもないことを口走っている。

エリス,「セーラ姫のように色香で男を惹き付けることが、どれほど単純明快な理であるかわかるか?」

アタル,「えっ…唐突で、話の脈絡が見えないんだけど」

エリス,「自分が姫の為に、アタル王をロリコン道へ引きずり込む手段を考え、悪戦苦闘しているこの苦労がわかっているのかと聞いているッ!」

アタル,「知らんわっ!しかもサラッと凄いこと言ったよねッ!?」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「賑やかだと思えば…これはこれは」

背後からのんびりした口調。

アタル,「ちょうどよかった。柴田さん、仲裁お願いします」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「アタル王、姫のみならずその側近すら心を惑わすとは…ようやく王としての自覚が芽生えましたか」

アタル,「ジョーク飛ばしている状況じゃないですって!また俺の部屋とか吹き飛んだら、今度こそ私物が消えるでしょ!?」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「アタル王が王らしくなるなら、過去のしがらみを清算するのもそれはそれで悪くなさそうですが」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「まあ冗談はさておき。お二人さん。あまり暴れるとここから出てもらうことになりますよ?」

その言葉でピタリと争いが止んだ。

アタル,「おおっ。さすが柴田さん」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「別に私は何もしてませんよ。ちなみにこれはアタル王が言っても同じ結果が得られたハズです」

アタル,「そうかな。全然そんな気がしないんだけど」

#textbox Ksi0120,name
柴田,「今なら迷うことは許されます。ただこれから王になるということは、決断を迫られますよ」

意味ありげに柴田さんは俺を見た。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「…などと説教じみたことはさておき。みなさん夕食が出来たので食堂へいらしてください」

さっきまで敵対していた二人は、それぞれ姫様の腕を取り、にらみ合いながらも屋敷へ向かって足を運んでいた。
#textbox Kse0220,name
女の子4人が屋敷に向かう中、セーラさんだけがこっちを振り返り、笑顔で会釈した。こっちも笑顔で軽く手を振る。
アタル,(結局セーラさんとキスし損ねた)

次期王様といっても今日を振り返って頭に浮かぶのはその程度。

好きな娘との関係すら手こずるのに、国と国の関係なんて手に負えるんだろうか。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「アタル王は今日の自らの不甲斐なさを反省し断食、と」

アタル,「そんなこと言ってないッ!」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「では少しぐらい心当たりはあるのですね?」

アタル,「うっ…でも夕食は食べるぞ。しっかり食べなきゃ、悩むことすらままならないからな」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「確かに。健康こそ上に立つものの必須条件です。健啖とまではいかなくとも、本日の夕食は大盛りにしておきましょうか」

アタル,「いや、普通で結構です」

何事もほどほどが一番。でも自分が持て余すようなことって、どうすればいいんだろうか。
この次期王様の権利とか。まあそれよりも―――。

#textbox Ksi0140,name
柴田,「まずはキスですね」

アタル,「人の心を読まないでくださいッ」

夕日は傾き、空の向こうへ沈もうとしている。食堂に近づくにつれ、みんなの騒がしい声がしていた。

昼休みも半ばの時間。大半が食事を終え、のんびりと思い思いに過ごしていた。

男子学生,「どうしたアタル。元気ないな」

男子学生,「溜め込むのはよくないぞ。若いんだからヌクときはヌカないと」

ぼんやりしていただけでエライ言われようだ。

アタル,「放っておいてくれ」

男子学生,「せっかく一般市民が国王を元気付けようとしたのに。つれない反応だぜ」

アタル,「俺だってこの前まで一般市民だっての」

あれから何度も試みるものの、未だに成就できないセーラさんとのキス。

エロいことと言われれば確かにそうだけど、ちょっと違うような気が。ヌイて解決できるならとっくにそうしている。
男子学生,「で、どうよ? 王様ってのは」

アタル,「どうって言われてもなぁ…」

男子学生,「やっぱ食事は毎食豪華なのか?」

アタル,「豪華だけど、慣れないから胃がビックリしているよ。テーブルマナーとかもあるから面倒で面倒で…」

男子学生,「くぅ~~俺も言ってみてぇなぁ!それに欲しいものとか幾らでも手に入るんだろ?」

アタル,「いや、それが意外とままならないというか…本当に欲しいモノって、案外少ないものだなあと」

何でも出来る、何でも手に入ると言われてもそれを扱いきれないのは、俺がきっと生まれながらの王族じゃないからだろう。
男子学生,「おおっ、アタルのくせに言うことが王様っぽいぞ」

男子学生,「意外とやること多くて、面倒ばっかりなのかもしれないな。おい、マジで疲れているっぽいぞ」

気遣った片方がもう一人を肘でつつく。

男子学生,「ああ。悪い、邪魔したな。頑張れ王様」

アタル,「あ………うん」

勝手に都合よく解釈した友人たちは、俺の席を去った。俺ってそんなにくたびれた顔をしていたのか?

アタル,「でも…言えないよなぁ」

まさか本当は『心配御無用! セーラさんとどうやってチューしようか悩んでいるだけだ!』
何て言った日には、またSPナシでクラスメイトの体罰を凌ぐ羽目になる。

というか、あんまり馬鹿げたこと口にすると、王様の権利失うとかあったりして。

失言で王様剥奪されるってケース、これまであるのかな?後で柴田さんに聞いてみよう。

何が出来るかではなく、何したらダメなのか。この思考が既に小市民だよな。

ミルフィ,「ニッポン国の王様が不景気な顔しているわね」

見上げるとミルフィとエリスさんが立っていた。

アタル,「………」

ミルフィ,「な、何よ。あたしの顔に何か付いてる?」

俺もミルフィぐらいに、自分の国を振り回す気概があったほうがいいのかな。

アタル,「…いや、これを尋ねるのは俺の人間性が問われる」

ミルフィ,「むっ。何よその言い方は。あたしはイスリア王女よ! 出来ないことはないわっ!」

凄いなあ。俺は自分の言葉で動く人のことを考えちゃうからあんな大それたこと言えない。
アタル,「エリスさん。毎日のお仕事、お疲れ様です」

俺はミルフィを一瞥した後、エリスさんに振り向いた。するとエリスさんが姿勢を正し、何故か一礼した。

エリス,「お気遣いありがとうございます。この苦労、僅かでもわかっていただけるだけで感涙モノです」

その目にはうっすらと涙が。

ミルフィ,「な、何でエリが泣いているの?アタル、エリに酷いこと言ったんじゃないでしょうね?」

アタル,「いや、多分酷いのはミルフィ。お前がよく言う無茶のことだ」

エリス,「残念ながらアタル王の仰る通りで」

ミルフィ,「えええっ!? ど、どれだろう…」

ミルフィ,「戦場の最前線で戦車砲撃ちたいって言ったこと?それともビターチョコって苦いからイスリアで販売禁止にしたこと? そ、それとも―――」

国政とまるっきり関係ないことばかり。つーか全部ワガママのような。

アタル,「ミルフィ…お前そんなに無茶ばっかりを……」

ミルフィ,「う、うるさいわね!そんなことより、さっきあたしに何を聞こうとしたのか言ってみなさいよ! 何ッ!?」

怒り出したので、仕方なく俺は小声で尋ねた。

アタル,「ミルフィってキスの経験ってあるか?」

ミルフィ,「なぁっ!? キ、キスですっ……て?」

アタル,「エリスさん」

エリス,「あるとお思いですか?」

アタル,「…ですよね」

ミルフィ,「ふっふっふ…残念でした!あるに決まっているでしょ!」

妙に自信たっぷりな王女サマ。

アタル,「まさかと思うが、親とのヤツはノーカウントだぞ」

ミルフィ,「なっ―――えっ、ええっ~~!? ダメ…なの?」

エリス,「処女って童貞と同じく、こじらすとマズい結果になるのかと本気で思うこともありますが」

アタル,「ごめん。俺男だから童貞はさておき、処女はわからない」

エリス,「…ですよね」

ミルフィ,「ああっ! 意味はわかんないけど、あたしのことを酷く言ってるのはわかるッ!?」

アタル,「予鈴が鳴ってるぞ。そろそろ席についた方がいいんじゃないか」

エリス,「姫様。授業が始まります」

ミルフィ,「う~。覚えてなさいよ、アタル!」

先生があくびをしながら教室に入ってきた。そういやセーラさん、今は教室にいるけど昼休みは全然いなかったな。
気だるい午後の授業。ただ俺は、いつもの昼食後のやる気のなさとは違う、上の空になっていた。
授業中なのにセーラさんの姿を追ってしまう。他のことにあまり身に入らない。

人を好きになるってのはこういうことなのだろうか。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「何もこのような雑用、アタル王がやらなくても」

屋上の掃除。

本来は他にも数人いたのだが、みんな部活動があるらしいので俺が一人で引き受けた。

アタル,「ここにいる限りは、俺も学生だし。ああ、別に手伝いは要らないよ」

アタル,「そういや王様がやっちゃいけないことってあるの?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「特にありませんね」

アタル,「これやったら王様の地位を剥奪とかあるのかな?」

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柴田,「自ら王であることを辞退するか、婚約の破棄ですね。それよりアタル王、ご自身で何かやりたいことはないのですか?」

アタル,「うーん………ないんだよなあ、それが」

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柴田,「望めば何もかも手に入るというのに…ですか?」

アタル,「そりゃ新しいゲームソフトや、最新の携帯音楽プレーヤーとかあるけど…それって違う気がするし」

別に現状で不満はない。不満どころか至れり尽くせりでこっちが恐縮だ。

まあ国賓に会ったりする王様の仕事は面倒に感じることもあるけど。

アタル,「ははっ。あんまり欲がないから王様に選ばれたとか」

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柴田,「ふむ…王に選ばれる条件は覇気や統率力が必須ではないのかもしれませんね」

アタル,「柴田さん?」

きちっとした執事服に身を包んだ柴田さんはいつになく真剣な表情になっている。

最後は俺にではなく、独り言のように呟いていた。

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柴田,「ああ、失礼。確かに興味深い話です。衛星の抽選となってますが、王に選ばれる条件というのがもしや存在するのかもしれませんね」

柴田,「では私は一旦これで。何かありましたらご連絡を」

アタル,「はいはい。了解です」

ドア付近で柴田さんが振り返る。

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柴田,「…もっと私たちを使っていいのですよ?王らしく振舞ったり、アゴでこき使われても構わないのですが」

アタル,「俺には無理だと思うな。それに年同じくらいなんでしょ? 柴田さんと俺って」

#textbox Ksi0120,name
柴田,「でもあなたは王様です」

アタル,「じゃあ俺がどう振舞っても、構わないんでしょ?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「全くその通りです。では失礼します」

がちゃん、と大きな金属音を立ててドアが閉まる。心地良い風も吹き、絶好の掃除日和だ。

そういや王様になってから家以外で一人で過ごすのって久しぶりじゃないかな。まあどこかにSPがいるんだろうけどさ。
アタル,「さて、と…」

もう少し張り切るとしますか。

…………

……

アタル,「ふぅ、こんなものか」

随分と丁寧に掃除してしまった気がする。吸殻とかあったから、ここって不良の穴場なのかもしれない。
つーか、この学園の学生で、タバコ吸うような人っているのか?一度も見たことないぞ。
がちゃ…。

アタル,「ん…?」

がちゃがちゃ。

がちゃがちゃがちゃ!

アタル,「おいおい、ちょっと…えっ、マジですか!?」

王様が屋上に閉じ込められたとか、間違いなく明日の笑い事に!?

アタル,「そういや、あの下品な色した携帯は―」

しまった。教室にカバンと一緒だ。

アタル,「うぉおお……。ど、どうしよう……」

こんな場所からアクロバチックに降りるのは俺の運動能力じゃ不可能だし。

映画みたいにドアへ体当たりしたら、壊れたりして。壊したってきっとそのぐらいのお金、出るはずだし――。

『がこんっ!』

アタル,「いってぇええーーー!!」

フツーに俺の肩が壊れかける。金網なんてところどころ錆びているクセに、ドアだけ頑丈過ぎだろッ!?
アタル,「あっ……おおーーいっ!!」

掃除を代わってあげた友人たちが、部活動を終えたのだろう。こっちに気付いたのか、手を振っている。
アタル,「鍵開けてくれーーー!! 鍵ッ! かぎぃーーー!!」

大きく手を振って必死のアピール。閉じ込められたという情けない姿を晒すのは仕方ないとして、ここは脱出が優先事項だ。
だがここでまさかの事態。

俺の声が届いていないのか、さよならの挨拶でもしているのかと思っているらしい。

向こうも手をぶんぶん振っているのだが、途中から人文字…? みたいなことを始めた。

漢数字で三と九らしき文字を何度も繰り返す。さんときゅう…さんときゅう……。

アタル,「ああ、サンキューか!? って違う違う!!お礼なんていいから早く校舎に戻ってきてくれ!」

アタル,「おおい! おおーーいぃ!!おぉ―――マジっすかぁああ!?」

校門に差し掛かった彼らはそのまま曲がり、姿が見えなくなった。

…………

……

アタル,「………」

アタル,「はぁ………」

アタル,「そろそろ誰かさ、気付いてくれてもいいんじゃない……か?」

とっぷりと日が暮れて、星空が瞬いている。あの携帯がないと、俺の所在は屋上じゃなくて教室のカバンの中っぽい。
というか、思ったよりSPさんって俺についてなくね?でもまあもう少ししたらさすがに気付くだろうな。夕食も近いしことだし―――。
セーラ,「……ル様…」

アタル,「……ん?」

今女の人の叫び声みたいなのが。おいおい。こんな時間に近所で女性がピンチなのか?

『ひゅるるる~~~かちっ』

金網に何かが引っかかるような音。気になって俺は音のした方に近づいてみる。

アタル,「何だこれ…鉤爪?」

爪にはロープがつながっており、持ち主が操っているのかそのロープはゆらゆらと動いている。
アサリ,「おー。セーラさんの言うとおりでしたー」

アタル,「うわあぁああっ!?」

覗き込んだ瞬間、アサリさんが顔を出したので俺は素っ頓狂な声を出す。

セーラ,「アタル様。今参ります!」

アタル,「へっ? 参るって…どこから?」

たまにテレビでやっている必殺仕事人みたいに、アサリさんは片膝の体勢をとり、登ってきたロープを肩にかけて、思い切り引っ張る。
……が、特に変化がない。

アサリ,「しっかりキャッチしてくださいねー」

そう笑顔で言い残して、彼女は金網の縁に立つとそこから身を投げた。

頭から。しかもVサインまでしながら。

アタル,「キャッチ……?ってアサリさん、ここ屋上だってば!?」

#textbox kse0140,name
セーラ,「アタル様~~!!」

アタル,「おわぁ!?」

上空を見上げると、夜空にセーラさんが。

飛び降りるアサリさんを見送る時間もなく、慌てて受け止める準備をするものの、格好良くできるはずもなく―――。
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セーラ,「大丈夫でしたかッ!? 私、心配で心配で…」

思い切り押し潰され、着地失敗。でもまあセーラさんが無事っぽいからいいか。

アタル,「でもまあ、その…さすがに退いてくれると助かります」

#textbox Kse01C0,name
セーラ,「ああっ、すいませんッ!」

大きめのお尻にのしかかられるのは悪くないけど、ずっとそうやっているわけにもいかないし。

#textbox Kse0190,name
セーラ,「アタル様、ご無事で何よりです」

アタル,「情けないことに、屋上で鍵を閉めら―――んんっ!?」

#textbox Kse01D0,name
起き上がり間際に視界がセーラさんの顔で塞がれた。

いや。視界は二の次で唇が、だ。

されるがままだったせいか、それがどれぐらい長く続いたのかわからない。

ふと、いつまでも余韻に浸りたいような柔らかい感触が糸を引いて離れる。

#textbox Kse0190,name
セーラ,「ふふっ…奪ってもらおうと思っていたけど、今を逃したらまた邪魔が入っちゃうんじゃないかと思って焦っちゃいました」

アタル,「ははっ…こんな屋上に誰も来ないってば」

#textbox Kse01D0,name
セーラ,「じゃあもう一度……んっ」

再び塞がる視界。

嬉しいやら情けないやら。色々な感情がごっちゃになる。

さんざんこっちからアプローチしていたのに、肝心のキスはセーラさんからされるなんて。

照れ笑いを浮かべるセーラさんと比べ、俺はどんな顔しているんだか。

セーラ,「静かですね。人の気配もないし」

アタル,「そりゃもう校舎には人がいないだろうし、ここって鍵かかっているし」

たまに遠くから電車の通る音が聞こえるものの、それが過ぎるとすぐ静寂が訪れる。

アタル,「おっとりしているようで、セーラさんの方がよっぽど行動的だよなあ」

セーラ,「未来の旦那様のピンチですもの。当然の行動ですわ」

アタル,「いや。俺の居場所がわかった方じゃなくて、キスのこと」

セーラ,「あ、そちらの話ですか。私ったら早とちりを……」

抱きしめたくなるぐらい可愛い笑顔ではにかむセーラさん。

セーラ,「お怪我などはないですよね?」

アタル,「うん、大丈夫だよ。でもよくここにいるってわかったね?」

セーラ,「実は昨日の夢で、夜にアタル様が寂しそうにしている姿を見たんです」

セーラさんって予知夢見るんだよな。

見ても防げるわけじゃないからあんまり役に立たないって言ってたけど、そんなことないと思う。
セーラ,「夕方を過ぎてもアタル様が帰らないし、柴田さんに聞いても無人の教室にいるとの返答だけでしたので、私、心配になって……」

やっぱあの携帯で俺の居場所ってわかるのか。教室に置いてたのがマズかったのか。

セーラ,「男には無人の教室で女性の縦笛や椅子、机などに思いをぶつけるときがあるとも言ってましたが、意味がわかりませんでした」

セーラ,「アタル様はおわかりですか?」

アタル,「……柴田さんが俺をどういう目で見ているかはよ~くわかったところです」

セーラ,「それにしても綺麗な景色ですね」

アタル,「この学園って近所じゃ一番高い建物だからかな。でも夜景だったら、他にも良いスポットがあるけど。この辺りは住宅街だし」

セーラ,「ううん。そんなことないです。十分過ぎるくらいに」

もたれかかった頭を、さらに俺の身体に預け、セーラさんはうわ言のように呟く。

セーラ,「住宅があれば、そこに人が住んでいるのは当たり前のことですけど、お仕事や学園で昼間はいるかどうかはわかりません」

セーラ,「でも夜って明かりが灯るでしょう?あの明かりの数だけ、人がいるんです。たとえ姿が見えなくても、あの数だけ」

何となくセーラさんの言いたいことがわかる。そして王族としての彼女の目線も。

彼女の美的センスが奇妙に感じたのは、外側よりも内側に感受性が高いからなのかもしれない。

セーラ,「でも、あなたと一緒に見る景色は例外です。だってどんな景色でも色付くから」

上目遣いでこっちを見上げるセーラさん。

うっ。そう来るのか。

アタル,「俺が夜景に適うわけないって」

ぷい、とその視線から逸れようとする。

セーラ,「あっ、その返答ずるいです」

アタル,「セーラさんはさておき、俺なんて格好良くないし」

セーラ,「あら。でしたらこういう質問にしましょうか。夜景と私、どちらが綺麗ですか?」

ずい、と身体を近づけてくる。

アタル,「わかりきったことなんで、答えるまでもないかと」

セーラ,「答えるまでもなくても言ってくださいな。さあどうぞ」

ぬぅうう。あくまでも言わせる気なのか。

セーラ,「さあ、さあ」

何て嬉しそうな顔で尋ねるセーラさん。

アタル,「…す………きです」

セーラ,「よく聞こえませんよ。どうせここには誰もいないんですから」

アタル,「ああ、もう!」

俺は息を大きく吸い込み、叫んだ。

アタル,「セーラさんの方が綺麗ですッ! セーラさんのことが好きなんですから、そう答えるに決まってるでしょう!どうですか、これで満足し――」

セーラ,「私もです。アタル様…」

ここ数日やたらと障害があって、困難に思えたキスがウソのように容易く繰り返される。

お互いの唇が唾液でベッタベタなのにイヤな感じが全然しない。

#textbox Kse01A0,name
セーラ,「あっ……」

セーラさんの長い髪の毛をかきあげ、もっとキスしようとしたとき、手がセーラさんの豊満な胸にあたった。

アタル,「あ、ごめん」

#textbox Kse0190,name
セーラ,「ふふっ、謝るなんておかしいですよ。唇だけでなく、もっと私に触れてください」

そう言いながらセーラさんは制服の上をはだけさせた。

たぷんっ、と零れ落ちる胸。

服の上からでも大きいのは知っていたけど、実際に目の当たりにすると迫力が違った。

お椀型というより、ちょっとしたメロンみたいなサイズだ。

大きな膨らみの頂点にピンク色の乳首が控えめに鎮座している。

ごくんっ、と自分のツバを飲み込む音が頭に響く。

アタル,「それじゃ…さ、触るよ?」

セーラ,「お好きなようにどうぞ」

余裕があるようにも聞こえたが、その声は強張っていた。

ふにん、と大きなマシュマロに触れたかのような感覚。

セーラ,「あっ…んんっ……んっ…」

しっとりとした肌触りのあとに、どこまでも指がめり込んでいきそうな柔らかさ。

セーラ,「んっ……あっ…ふあっ!」

アタル,「あ、強かった?」

セーラ,「い、いえ、平気です。そのまま続けて…」

片手で収まらないサイズの乳房。

ブラジャーを外しても形の崩れないおっぱいは、真っ白い陶器みたいな美しさだった。

セーラ,「ふふっ…男の人っておっぱい好きですよね。揉んでいるだけでそんなに嬉しいですか?」

アタル,「ええっ!?いや、お、俺はもちろん嬉しいんだけど……。そ、そんなに顔に出ている?」

セーラ,「はい。心なしか鼻下も伸びてますし」

マジっすか。

いやいや、だってこんな素晴らしいおっぱいを触っていいなんて言われたら、誰だって顔は緩むんじゃないか?
セーラ,「でも私、イヤじゃありませんよ?好きな殿方に触れられるのって」

セーラさんは俺の腕をつかみ、胸に持っていく。

セーラ,「遠慮せずにもっと触れてください…」

簡単に指が埋まるのに、程よい弾力で押し返される。

掬い上げ、その心地よい重みを支える。たったそれだけの行為でも甘美な時間だ。

セーラ,「んっ…ふっ……んっ、んんっ!」

突起を擦ったとき、一際甘い声が漏れる。

尖ったピンク色の乳首は、控えめに自己主張をし始めていた。

セーラ,「ふっ……あっ……うぅん!」

俺はおっぱいの突起を口に含み、舌で突付き回す。

セーラ,「あ…んんっ!アタル様…何だか赤ちゃんみたいです」

このまま吸い続けたら甘い露が出てくるんじゃないかと思ったけど、さすがにそんなことはないわけで。
アタル,「でも赤ん坊に吸われるたびに乳首を大きくしていたら、母親失格じゃない?」

唇を離すとピンクの突起は硬くしこり、より敏感になってツンと上を向いた。

セーラ,「まだ母親じゃないからいいんです。それにアタル様だからですよ。私が感じちゃうのは…んんっ」

唇を重ね、セーラさんの双丘に手を這わせる。

セーラ,「あんッ! ッ……く…んっ!や、やっぱり……自分で触れるのとは……んうっ!全…然……あッ、っ…違って……んっ、あっ!」

白磁器みたいな肌がほんのりと赤みを帯びる。

自分が揉んだことによって色づいた変化に、俺は段々と興奮してきた。

セーラ,「んっ……あっ、んっ、んッ! ………あっ」

アタル,「どうかしたの?」

セーラ,「おっぱいをいじられて、その……下の方も」

頬を紅潮させ、語尾が小さくなった。不自然に太ももを摺り合わせ、もじもじしている。

その意味に気付き、俺は大胆にもスカートの方へ手を伸ばした。

アタル,「ここ…かな」

セーラ,「や、その……んんっ!」

セーラさんの下腹部に触れようとすると、彼女は腰を引く。

それでも構わずに俺はそこに指を『くちゅっ』と下着越しに水音がした。

セーラ,「んふぁっ!? も、もっと優しく…」

アタル,「あ、ごめん。こ、このぐらいかな…」

セーラ,「あっ、んっ……んっ、ふあっ、あっ…」

我ながらセーラさんを相手に、主導権を握ってHなことをしていることに驚く。

普段なら逆の立場なのに。やっぱりセーラさんが俺以上に緊張しているのかな。

セーラ,「んっ……あっ…うっ、んんっ…」

下着をずらして直接女の子の部分に触る。

ヌルヌルになった秘裂の上にある出っ張りを指でなぞると、セーラさんの腰が跳ねた。

セーラ,「あっ……何だか上手です……。もしかして……初めてではないんです……か……?」

アタル,「したことないって、言ったでしょ。セーラさんにどう見えてるかわからないけど、これでも緊張でガチガチなんだよ」

初めてではないと言われるのは嬉しい半分、心外半分だった。

少しでもセーラさんを求めたい。少しでもセーラさんに快楽を与えたい。そんな一心で動いているだけで。
エロ本やエロ動画で得たなけなしの知識を、俺は総動員しているだけだった。

セーラ,「上手くいかないもの……ですね…んっ……アタルさんを……リードするつもりだったのに……いざ本番だと……全然思い通り……できなくて…」

セーラ,「んっ……ふっ、あっ…あっ! んっ、んんっ……でも気持ち…いいんで……ッ…くっ、あっ!っ……くっ…続けて下さ…い……」

もどかしくなっているのか、セーラさんは俺の指の刺激を感じようと割れ目を押し付ける。
セーラ,「くっ……んっ…あっ、あっ…ふっ……。む……胸も…そう……もっと触っ……て…ッ」

紅潮した顔が近づき、可愛らしく喘いでいる口を塞いだ。

セーラ,「あむっ……んっ……ちゅっ…ん、んぅ……んっ…んむっ、んっ、じゅっ……んんっ、んんぅ!むっ、ちゅっ……んん~~……ぷはぁ」

歯茎をなぞり、擦る。

ただそれだけでも鼓動が高鳴り、とてもいやらしいことをしている気分になった。

セーラ,「た、ただのキスも……んっ、むっ…気持ちいい……けど………こうい…ぅう…キス…も…おっ、んんっ!いい…で……すぅ……んむっ……ちゅ、じゅっ…」

舌が幾度となく求め合い、絡み合う。

唇を離すと、セーラさんはとろんとした目つきになっていた。

キスに気を取られておろそかになっていた指を再び動かす。

愛液で濡れた手でスリットを行き来し、もう片手でおっぱいを揉みしだいた。

セーラ,「んっ、あっ、んんっ……んっ、あはぁっ、あっ!う、あっ…くふっ……くっ…あ、っ…ううっ…」

襞から落ちる粘液を掬い取り、それを再び下着へ塗りつけるように擦り付ける。

セーラ,「やっ……く…き、来て……るっ…うっ、んっ!うあっ、あっ! やっ、ひっ…んんっ!」

セーラさんの腰が脈打つようにわななく。

より快楽を求めて俺の手の動きに合わせ、お尻をくねらせた。

セーラ,「い…んっ、んっ! い…く……ぅん……あっ、あぅ!だ、ダメ、や…やぁ! く…んっ、んっ、んんっ!」

セーラ,「あっ、あんっ! あっ、あっ、あんっ! んんっ!やっ! あっ、んっ! んっ! あっ、あああっ!!」

セーラさんの下腹部が波打って、多量の蜜を吐き出す。

セーラ,「はあっ、はあっ…わ、私……イっ…ちゃいまし……た」

下を見ると、コンクリートの上には染みた愛液で水溜りのようになっていた。
セーラさんの痴態に固くなっていたペニスが更に硬度を増す。

脱力したセーラさんの潤んだ瞳と上気した表情が艶かしかった。

セーラ,「アタル様…これだけ濡れれば、その……」

アタル,「うん……」

焦っているのか、ベルトを外す手がおぼつかない。

ようやく取り出した自分の股間は硬くなり、先走りでじっとりと湿っていた。

アタル,「それじゃ、行くよ…」

セーラ,「はい……」

震える声色。

俺は自分のモノを濡れた窄まりにあてがい、グッと押し進めた。

セーラ,「うっ…あっ……い、痛っ……」

アタル,「だ、大丈夫?」

セーラ,「あんまり…大丈夫じゃない…ですけ……ど…」

涙目のセーラさんが声を潜ます。相当痛いのか、しばらくの間があった。

セーラ,「我慢するんで…その……一気にお願いしま……す」

アタル,「うん。わかった」

ぐい、っとセーラさんの腰をつかみ、自分のモノを侵入させる。

セーラ,「うっ…くっ……っ…あっ……」

これでもかというぐらいに前戯をして濡らしたのだから、多分入るはずなんだけど……。

セーラ,「うっ…ううっ……ぅ…ああっ!」

順調に襞をかき分けてペニスが埋没する一方で、セーラさんは苦悶の表情を浮かべた。

セーラ,「うぁっ……あっ…くっ……んっ…んんっ!」

大きなお尻が痛みで震えている。

セーラさんの手すりを握りこむ力が一層強くなった。

アタル,「多分…これで全部入ったと思う」

根元まで挿入したとき、ちょうど膣奥らしき場所をノックした。

セーラ,「ッ……ほ、本当です…か?」

涙を滲ませ、彼女はこちらを振りむく。結合部分の愛液には純潔の証が混じってた。

セーラ,「ふふっ…我慢した甲斐がありましたわ」

セーラ,「最初に『こんな大きいの入らない』とか、もっと拒絶っぽいことした方が良かったんでしょうか?」

彼女の精一杯の強気がいじらしくて、いとおしく感じる。

アタル,「いや、別にマンガじゃあるまいし。そんなこと言われても困るけど」

アタル,「だったら俺も『セーラ、可愛いよ…』とか最初に言った方が良かった?」

セーラ,「あっ、それは今からでも言って欲し……いっ…つっ…」

身体をよじったセーラさんが顔を歪める。

アタル,「辛そうだし、少しこのままにしようか?」

みっちりと膣圧で締め上げられる肉棒。

ピクピクとときどき痙攣のような動きもあって、このままでも十分気持ちいいんだけど。

セーラ,「いえ…平気です。動いてください」

アタル,「…わかった。痛かったら言ってね?」

そう言われて俺は一旦引き抜き、そして抽入という行為をゆっくりと繰り返す。

セーラ,「くっ…ああっ! ッ……うっ…ううっ…んっ!うっ……っ…ぐっ…う、ううっ……あ、ああっ!」

うめき声にも近い言葉がセーラさんの口から漏れる。

セーラ,「ひっ……ぐっ…う…あっ……ひっ……んっ、んっ!やっ……っ…つッ……うあっ…くっ…は……ううっ!」

いつもは気軽にセクハラ紛いの言葉を投げかけるセーラさん。

だけど初めての交わりでは痛みに耐えて、俺の挿入を受け止めている。

セーラ,「あっ……ううっ…んっ、っ……ううっ、あっ!うっ…あっ…うあっ! いっ…っつ……ンっ…」

貫通したばかりの膣は動かすとまだ引っ掛かりがあり、セーラさんが辛そうな声を出した。
セーラ,「うあっ……んっ……あっ、あっ……んぁ、あっ…?あっ……ぃ…んっ、んんっ! あ…んっ! ンあっ!あっ……ひっ、んっ、んぅう! やっ…ああっ!」

早く終わらせよう。

そう思ってスピードを上げたとき、セーラさんの声に甘いものが混じり始めた。

セーラ,「あっ、ひっ……あんっ! ンっ、んんっ!あ…ぅう! あっ、んぁっ、ひっ…あっ、ああっ!ん…くっ! んあ! やっ、ああっ! や、あぁ!」

アタル,「もしかして…ッ……痛みは…平気……?」

セーラ,「最初は…ッ…んっ! す、すっごく…ひっ、ああっ!痛く…っ……てぇ…あんっ! でも今…はっ……んっ!ジンジン…して……あっ、んんっ! ふぁ、ああっ!」

さっきまでただキツかった膣内はときどき緩んだかと思うと、強く窄まったりする。

セーラ,「あ…あッ! ふぁ、ふあぁ! い…っ! んっ!ひっ! あっ、もっ…もうっ…やっ! ひぁっ!はっ、あっ! ふっ、あ! ああっ! ぅああっ!」

暖かくてヌルヌルの襞に包まれ、腰砕けになりそうな気持ちよさ。

血液のヌメリよりも、愛液の方が多くなり始めている。

セーラ,「あ、あ、あっ! ああっ! はぁ、あっ! あんっ!やっ、やぁ…ひッ! んっ、あっ! ふっ、あっ!んうっ! あぅ! あっ…んっ! やぁ、やあっ!」

普段大人びたセーラさんが初めての快楽に耐えて涙を浮かべる顔。

それを見ていやらしさ以上に、自分の好きな人が可愛らしく思えた。

アタル,「セーラ…さん……ッ…可愛い…よっ……んっ…」

セーラ,「あっ…ふあっ!? やっ…こ、こんなとき…に…ぃ。そん…なっ…ことば……ん、んっ! あぅ、ああっ!」

確かに彼女の顔は感情が入り混じり、汗や涙でいつもの端正な顔立ちからはかけ離れていた。

セーラ,「ず、ずる…い…んっ! 今私…きっと…ぅ…ひどい…っ…顔……んっ、あっ…見ないで…あっ、ああっ!」

それでもお構いなしに俺はその顔を覗き込み、背後からキスを求める。

彼女もそれを迎え入れ、俺の舌を吸い上げた。

セーラ,「んっ、ちゅっ…じゅっ……あっ! ひ、あっ!?やっ、これ…んっ、んんっ! 感じ…過ぎ…んんっ!」

背後からなのに、豊満なバストが見え隠れする。

たわわに実ったおっぱいは腰を降るたびに大きく揺れ動き、別の生き物のように暴れていた。
セーラ,「あっ、んっ! んっ! おっぱいが…あっ、くっ…。こんなに……ふぁあ…うごい…て……あっ、ああっ!」

ブラジャーを失い、無防備にぶら下がるだけの果実は腰を八の字に動かすと背中越しに左右にまではみ出た。
セーラ,「あぅ、うぁあっ! そ、その動き…やっ……んっ!」

腰以上に大きく振れるおっぱい。

それが見たくて、あれこれと膣中をまさぐるみたいにグラインドを続ける。
セーラ,「何…かっ、やっ、あっ! んっ、ああっ!きて…るっ、あっ、ふあっ、んぁああっ!」

ペニスの出し入れでオツユが細かく泡立ち、より卑猥な音を立てていた。

セーラ,「もっ…とぉ…んっ、ぁ、あはぁ! んひっ! あっ!感じ…させ…てっ、あっ、あぁんっ! ああっ!」

アタル,「お…俺も……くっ…あっ……い…一緒…に…ッ」

自分の奥からより大きなものが競りあがってくるのを感じる。

セーラ,「わ、わたくし……もっ、んっ! あ、あんっ! んっ! い、あッ! あっ、んぅ! んっ! や、やぁっ!」

一方的だった挿入に、セーラさんの動きも加わり始める。

ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ!

セーラ,「ひっ、あぅ! あっ! これ…強…んっ! あんっ!」

手のひらでお尻をひっぱたいているような破裂音。

容赦のないピストン運動で折檻されたヒップは、ほんのりと赤みを帯び、熟れた桃を思わせた。

ぶちゅっ! ぶちゅっ! ぶちゅぅ!

彼女のお尻に打ちつける音と、結合した場所の水音が不規則に混ざる。

セーラ,「あんっ! あっ、あっ! んっ! ああっ!」

ぶちゅ! ぶちゅ! ずちゅんっ!じゅぷっ! じゅぷっ! じゅぷんっ!

自分の目の前で奏でられる淫猥な音とセーラさんの喘ぎ声に、頭の中が揺さぶられる。
アタル,「やばっ……これ、んっ…止まらな……」

興奮した俺は、よりその音を求めて腰を打ちつけた。

セーラ,「あっ、やっ! お、と……がっ、んっ! あぁっ!ひび…いっ、てっ…あっ! あんっ! うぁ、ああっ!やら…しっ…んんっ! んんっ! んっ、あっ!」

アタル,「ぐっ……イき…そ……ッ」

昂ぶりが脳を支配し、意識が飛びそうになる。

思考が麻痺し、セーラさんの中に出したい、注ぎ込みたいという端的な欲望が浮かんでは消える。
セーラ,「あっ! ふぁっ! あんっ! あっ、やっ! ひっ!はっ、ああっ! あっ、あぅ! ひぅ! うっ、うっ!もっ、うっ! い、イく…んんっ! いくっ! ふぁ!」

セーラ,「ふあぁ! や、ダメっ! んっ! んはっ! あっ!ッ…んっ! うっ、くっ、あっ! あっ! ひぁあっ!うあっ! ああっ! あっ、あっ、あああ~~~!!」

びゅるる! びゅるる! びゅくっ! びゅくんっ!

搾り取るようにセーラさんの中が収縮する。

それに合わせて俺の陰茎が一番奥で精を放った。

アタル,「くっ……ううっ…」

彼女の身体を抱きしめ、中に行き渡らせるかのように欲望を撒き散らす。

セーラ,「ふあぁ……なか……熱…ぃ…」

最後の一滴まで出し切ったあと、俺はペニスを引き抜く。

セーラ,「やっ…待っ……今抜いたら…ああっ」

慌ててセーラさんは手を添えようとするが、それよりも先にほとばしりが溢れる。

セーラ,「んっ、あっ……んんっ…止まらな…ぃ…」

栓を失い、充血した膣内からはドロリと赤みの混じった雫が流れ出した。

セーラ,「すごい……こんなたくさん…。初めてなのに妊娠しちゃいそうです…」

自分でも驚くぐらいの量だった。

まだ中に残っているのか、セーラさんのアソコがヒクヒクと震えるたびに残滓が吐き出される。
アタル,「あっ、何か拭くものは…」

ポケットティッシュか、なければハンカチでもとゴソゴソ探しているとセーラさんがそれを遮った。
セーラ,「アタル様の愛情の証、しばらくお腹で感じさせてください」

アタル,「えっ。でも…」

セーラ,「いいんです。気だるいのに心地よい感覚……。私、こんな幸せな気持ち、初めて知りました」

セーラ,「…これが愛する人とのセックス……なんですね」

うわ言のように呟くセーラさんは大事なところから漏れるしたたりを眺めていた。

……

…………

#textbox Ksi0110,name
柴田,「お帰りなさいませ。アタル王」

アタル,「柴田さん。俺が屋上に閉じ込められていたの、知ってたんじゃないんですか?」

柴田,「はい。気付くのが少々遅れましたが、あえて気付かないフリをさせていただきました」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「でも悪いことばかりでもなかったでしょう?」

アタル,「うっ…」

意味ありげにウインクするメガネ執事。まさかあの現場にいなかったよな……?

#textbox Ksi0110,name
柴田,「さあ、夕食の支度が出来ております。皆もお待ちですよ」

#textbox Kmi0230,name
ミルフィ,「おっそ~~~い!!こんな時間まで何やっていたのよ!!」

セーラさんと食堂に入るやいなや、思い切り罵られる。

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「あんたのせいで食事待たされているのよ!?」

アタル,「別に俺のことは気にせずに先に食っても良かったのに」

エリス,「セーラ姫も一緒に外出とのことだったので―――ふむ」

話の途中でエリスさんが俺らを交互に眺める。

エリス,「姫様。残念ですが、セーラ姫に先を越されたようです」

ミルフィ,「先って……何が?」

さほど残念そうでもないエリスさんと、何のことだか全くわかっていないミルフィ。

アサリ,「セーラさんがアタルさんに色々奪われたですよー」

セーラ,「うふふ…まあお互いに奪い合ったものですが」

柴田,「アタル王。もし記念映像などがご所望でしたら、あとでお伝えください」

アタル,「ちょっ、映像って―――いつ撮ったんですかッ!?」

ひよこ,「わわわっ? も、もしかしてアタル君、帰りが遅かった理由ってのは…」

ミルフィ,「はっ―――!?もしやセーラが奪ったのは、ニッポン国が開発中の二足歩行ロボットの計画書!?」

ミルフィ,「何てこと……そうなのね、エリ?だとしたらこれは一大事よッ!?」

エリス,「いえ姫様、そういうことではなくてですね…」

アタル,「エリスさんッ!?何も無理に説明しなくてもいいですからねっ?」

エリス,「いいえ。こういうときこそ、しっかりと教えておかないと」

エリス,「このままではロボットやアニメ、ゲームにうつつを抜かし、王族としてよりも人として道を外す可能性があります」

エリス,「何でもこの国には、男子にそういった輩が多いと聞いてます。結果、人生において異性よりも趣味を選択するとの話ですが…」

エリス,「アタル王、それについてはどうお考えか!?」

アタル,「ええっ!? べ、別にそれはそれでその人の生き様じゃないのかな?つーか無茶苦茶顔が怖いんですけどッ!?」

アタル,「ロボットやアニメはこの国が持つ得意分野だけど、それにハマるかどうかは当事者のせいじゃないかとッ!?」

アタル,(オタク街道まっしぐらな王女様ってのも、一部のコアな人も含めて身近っつーか支持を得られるんじゃないの?)

などと言ったら、間違いなく怒られる。俺の本能がそう告げている。

王様になろうと、思ったほど言いたいことを好き勝手には言えないのだと気付かされた気分だ。

エリス,「いくら見てくれが厳しかろうと、王女たるもの浮いた話の一つでもなければ、この先―――」

アサリ,「アタルさんを責めるのはお門違いですー。色恋沙汰は食い気よりも色気が必要なのですよー」

エリス,「ほほう………そこの猫娘、何が言いたい?」

エリスさんがアサリさんに振り向き、銃器を取り出す。

アタル,「ちょっとエリスさん?夕食にナイフとフォーク以外の金属は不要かと思うんだけどッ!?」

アサリ,「いえいえー。色気まで指南するとは、イスリアの従者は至れり尽くせりですねー。アサリには無理ですー」

アタル,「うぇええっ!? 何でこうなったのかわからないけど、煽るのは良くないですよッ!?」

エリス,「ふむふむ。やはりあなたとは、腹を割って話す必要がありそうだ」

アサリさんはデカイ鎌をゆっくりと取り出す。それに呼応するように、エリスさんから撃鉄を起こす音が。
アタル,「話し合いだよねッ? 話し合いって言ってたよね?でも二人とも、全然話す素振り見せないのが気になるッ!?」

エリス,「言葉で語るのは苦手な性分でして」

アサリ,「あははー。その点に関しては気が合いますねー」

やる気満々なお二方。

よし。こうなったら柴田さんの入れ知恵を借りよう。本当に役立つか疑問だけど。
アタル,「夕食は刻んだ玉葱の入った、ハンバーグだそうです」

アサリさんの猫耳らしき器官がその言葉に反応し、ふるふると震えだす。

アサリ,「ええーー。それだけはご勘弁をー」

アタル,「すぐ止めないと、オニオンスープも追加しますよ」

アサリ,「玉葱はれっきとした毒物ですよー。食べる人の気が知れないですー」

玉葱が毒物って…。猫なら毒物だけど、アサリさんって一応人間…だよね?

アサリ,「武器は引っ込めますんでー。アサリだけメニューの変更をお願いしますー」

アタル,「この屋敷に住む以上、ふかふかのベッドで寝ることを義務付けようと思っているんですが」

エリス,「なん…だと?」

アタル,「いつまでも来賓を外で寝泊りするのは申し訳ないので」

エリス,「それは困る。そんなベッドで就寝などしようものなら非常時への対応が鈍くなる。自分は軍人として感覚を研ぎ澄ませておかねばならない」

エリスさんってホントにアウトドアっていうか、硬いベッドじゃないとダメなのか。

アタル,「確かにそれはマズいですね。でもご安心を。その銃火器を引っ込めれば今後も屋外での宿泊OKです」

エリス,「むぅ…仕方あるまい」

構えていた銃が懐に収まる。

おお、凄い。凄いぞ俺!初めて王様っぽいことをしたんじゃないか?
エリス,「続きは食事の後だ」

アサリ,「食後の運動になるぐらい楽しませて下さいねー」

アタル,「………」

世の中から戦争が無くならない訳だ。

#textbox Kse0190,name
がっくりとうなだれる俺に、セーラさんが小さく手を振る。

可愛いなあ。きっと明日からはもっと一緒の時間が増えるんだろうな。
一緒に登校して、一緒に昼食をとって、一緒に下校する。真っ直ぐ帰るんじゃなくて、どこかに寄り道でもいいな。うん。
遅い夕食の席でセーラさんの横顔を見ながら、今日の出来事と、これからのことを考えて幸せに浸っていた。

……

…………

セーラ,「さあ、今宵は寝かせませんわ」

アタル,「なっ…ええっ!? ど、どうしたの?」

幸せの余韻に浸るまもなく、セーラさんが俺の布団に潜り込んでいた。

セーラ,「あの夜が忘れられなくて…つい」

アタル,「あの夜って…つい数時間前ですよッ!?」

キンッ、キンッ。タタンッ、タンッ。

アタル,「なっ!? あの光って…」

窓の外で物騒な音と、ときおり閃光が走る。

セーラ,「エリスさんとアサリさんが戯れているのでしょう。私もあのぐらいミルフィさんと仲良くなりたいものです」

アタル,「ええっ!?この国で銃火器と刃物で競り合うのは戯れと呼ばないですよっ!?」

セーラ,「あれだけ激しく抱いてくださったのにもう私のこと、お嫌いになりましたか?」

アタル,「俺の話と外の出来事ガン無視ぃ!?」

セーラ,「どっしり構えるのも上に立つには必要ですよ?」

アタル,「戦場の隣で眠るほど腰据わってないですッ!」

放っておくほど神経図太くない俺は、いきり立つ二人をどうにかしてなだめ、ようやく眠りにつく。
かと思ったら、セーラさんが俺のベッドの上で待っていた。

セーラ,「今日はもうなさらないのですか?」

アタル,「しないです。というかセーラさんはまだ痛みがあるんじゃないですか?」

セーラ,「ええ。でもアタル様を受け入れるための痛みですもの。我慢しますわ」

すすっ…と近寄り、しっとりとした手が俺の顔に触れる。今日の出来事を思い出し、思わず生唾を飲んだ。

アタル,「男の俺と違って女性の初めては身体に負担があるだろうからダメです。今日はゆっくり休んでください」

したい気持ちが無いといえばウソになる。でもあの破瓜の痛々しさを見ているので無理やりなんてするつもりはないし。
セーラさんは一瞬ぽかんとしたあと、嬉しそうな顔になった。

セーラ,「やっぱりアタル様は優しい人ですね。私、ますます好きになってしまいますわ」

アタル,「そ、そうかな。誰だって気遣うよ。その…好きな女の子のことは」

セーラ,「ふふっ。せっかくのお気遣い、無下に断るわけにはいきませんわね」

セーラさんはそう言って俺の頬に軽く口付けをし、離れた。

#textbox Kse04D0,name
セーラ,「その代わり、明日からもっとあなたのこと……激しく求めてしまいそうです」

アタル,「いいっ!? べ、別にそこまで極端じゃなくても――」

#textbox Kse0490,name
セーラ,「いいえ。他の女性なんて目に入らなくなるぐらいあなたの心…虜にしてみせます」

『虜』という言葉に俺はゾクッとした。ここ数日のウブだったセーラさんはどこへ行ったんだろう。
#textbox Kse0420,name
セーラ,「ではお休みなさいませ」

最後の方は、もう妖艶と言っていいぐらいの面持ちでセーラさんは部屋を後にした。

初めて会ったときのセーラさんに戻ってしまったような気がするんだけど…。

あれ。でもこれって本来のセーラさんだから、別に問題ないのか。
まあ明日になればわかることだ。

疲れていたのか、俺はうつ伏せのまま寝こけていた。

男子学生,「おはようアタル」

アタル,「うーっす。おはようです」

男子学生,「王様。ご機嫌うるわしゅうございます」

アタル,「やかましいわ。何その気持ち悪い挨拶」

一変した部分はあるけど、友人の接し方に変化はない。むしろいじり方が厳しくなった気がする。

でも以前の生活と変わらない部分があるのは嬉しい。ホッとするし。

#textbox Kse0180,name
セーラ,「おはようございます。アタル様」

アタル,「ああ、おはよう…って、朝に挨拶したじゃん。どうしたの?」

#textbox Kse0190,name
セーラ,「はい。ただ、おはようのハグとキスを欠かしていましたので」

そしてセーラさんは腕を広げて目を閉じる。どよめく教室。

男子学生,「何ぃーーー!?」

男子学生,「毎朝か! 毎朝なのかッ!?」

どよめきは大騒ぎとなり、男のやっかみが暴力となって俺に襲いかかった。

アタル,「突然何を言い出すんですかッ!?いや、ホントにセーラさんが―――痛い痛いっ!俺の尻をつねるのは誰ッ!?」

#textbox Kse0150,name
セーラ,「私のこと、お嫌いですか?」

アタル,「そんなことないですってば!ただここでその二つに応えるのはちょっと無理かと」

女子学生,「セーラさんがこんなに愛情表現しているのに。ダメね、男ってのは」

女子学生,「言葉に出さなくても通じ合っているとか言うのかしら?女心がわかってないわね」

言われ放題である。王様だろうと手加減ナシの批評を浴びせる彼らは、俺を特別視しない素晴らしき友人たちだ。
#textbox Kse01A0,name
セーラ,「みなさま。あまりアタル様のことを悪く言わないでください」

女子学生,「あっ…ごめんなさい」

女子学生,「そうよね。ちょっと言い過ぎたかも。ごめんね、セーラさん」

クラスが静まる。みんなさすがに言い過ぎたのかと思い、申し訳なさそうな表情になった。
でも何故か謝るのはセーラさんに向けてばかりだ。

おかしい。男女平等はどこへいったんだ。

#textbox Kse0130,name
セーラ,「こう見えてもアタル様、情熱的なんですよ。先日などは―――」

アタル,「うおおぉおおっ!? ストップストォーープ!!」

#textbox Kse01B0,name
セーラ,「アタル様、どうされましたか?」

アタル,「どうもこうもないってば!」

アタル,(まさかアレのことを話そうとしているわけじゃなですよ…ね?)

恐る恐る小声でセーラさんに尋ねる。

『喋ったら絶対にダメですよッ!?』というアイコンタクトで、俺は必死に訴えた。

#textbox Kse0120,name
セーラ,(お任せ下さい、アタル様)

だよな。だよね。うん、俺って心配性過ぎただけだな。
#textbox Kse0180,name
セーラ,「愛する殿方との行為に、恥ずかしいことなんてありませんわよ。ね、アタル様?」

アタル,「ふぬぉああっ!?だからそれ、言ったらダメだって―――ぐはぁっ!?」

男子学生,「アタル、貴様童貞のみならず友人まで捨てるのかッ!」

男子学生,「待てッ、早まるなっ!このヘタレのことだから、まだそうとは決まっていないぞッ!?」

アタル,「童貞だのヘタレだの、既に友情を感じないんですけどッ!?」

女子学生,「……で、やっちゃったの?」

#textbox Kse0190,name
セーラ,「はい。避妊具なしで奥までずっぷり」

アタル,「ぶはぁッ!!?」

男子学生,「………」

男子学生,「………」

八つ当たりをしていた友人たちが一人、また一人と静かに離れていく。

アタル,「あ、いや、これはね? 違うの、違うのよ?」

男子学生,「いや……ここまできたら素直に祝うべきかと」

男子学生,「ああ。俺たちも僻んでいるんじゃ大人気ないからな」

アタル,「お、お前ら……」

各々の座席に戻る友人たち。武士のごとく清々しいほどの潔さ。俺も彼らの立場だったら、同じことが言えるだろうか。
いいや。きっと妬み、嫉むに違いない。そう、彼らはよっぽど俺より人間が出来ている。
アタル,「なんかごめん…というか、ありがとう」

男子学生,「ああ。気にするな」

男子学生,「影ながら応援するよ。もっとも、そんな必要ないかもしれないけどさ」

わだかまりが溶けるのと同時に、自分がとても恵まれているんだと心から感じた。

パカン。ガチャン、フィィーーーン……。

携帯電話とノートパソコンが各々の座席から取り出され、作業準備に入る。

そして彼らはセーラさんの座席近くに陣取る。

男子学生,「ではセーラ姫。よければその愛の営みをどうぞ。高性能なマイクには程遠いですが、この携帯でお声を録音します」

男子学生,「そしてお二人の愛をネットにアップし、全世界へ発信します」

男子学生,「末席ながら両国の友好の架け橋を担えるのは嬉しいよ、アタル」

#textbox Kse0140,name
セーラ,「私とアタル様の…まあ」

頬を染めるお姫様と、やる気がみなぎる友人たち。

アタル,「うぉおをぃい!? お前ら何てことを考え付きやがる!SPさん!! 今度こそ国王のプライベートが―――ぬぁあっ!?」

男子学生,「邪魔者は抑えた」

男子学生,「こちらも確保。さあ、思う存分語らって下さい」

座席から立ち上がる瞬間を体格の優れた友人が両脇から押さえ込む。

アタル,「何この速さと連携の良さ!?俺のSPに欲しいぐらいですがッ!?」

男子学生,「アタルとはいえ、王様に褒められるのは悪い気がしないな」

男子学生,「ああ。だが悲しいことに金では俺たちの心は買えやしないのさ…」

彼らの哀愁漂う表情。大儀のために翻弄され、儚い境遇と相手に憂いを感じつつも、その大きな流れに逆らえない―――。
アタル,「…って、ちょっ――どうしてカッコイイ台詞になっちゃっているのさ!!買うどころか無償で俺の友情が投売りですけど!?」

アタル,「セーラさん、ホントに頼みますよッ!?」

押さえ込まれながら必死のアピール。

きっとさっきの訴えには覚悟が足りてなかったに違いない。言葉と目で強く訴えれば、間違いなく思いは伝わる!
#textbox Kse0180,name
セーラ,「ええ。頼まれましたッ」

そう言って彼女はグッとコブシを握る。

アタル,「違うッ! 絶対にセーラさんはわかっていない!」

#textbox Kse01B0,name
セーラ,「大丈夫ですよ。ええと…ではキスの後辺りから話せば良いのでしょうか?」

アタル,「やっぱ全然わかってねぇ!ほらセーラさん、俺の目をよく見て下さい!?」

見詰め合う瞳。一瞬が引き伸ばされ、時が止まったのではと錯覚するような時間。
#textbox Kse0190,name
セーラ,「わかりました。前戯だけではなく、後戯までしっかりと愛の軌跡を辿りますね」

アタル,「ぬあああっ!?ちょっとぐらい余すところがあってもいいんですけどッ!?」

さすがに世界へ発信は行われなかったものの、知られなくていいことまでクラスに広まってしまった。

男子学生,「安心しろアタル。世界が知らずとも、真実はここに」

グッと親指を立て、そのまま胸を指差す。

アタル,「………はぁ」

今日ほど王様で疲れると思ったことはなかった。パパラッチに追われる王族って、こんな気分なのかなあ。

柴田,「大丈夫! こんなときこそ我らがSPにお任せあれ!」

アタル,「やっと登場!?間に合うどころか止める気すらないでしょ!?」

どこか余裕があった。

きっと危険があっても誰かが守り、止めてくれる。俺には銃弾も含め、とことんハズレるという経験。

でも本当に危機に直面したとき、踏ん張らなければならないのは自分自身なのだと知らされる。
のんきに構えているだけでは済まない。

アタル,「ふぁああ~~ー…眠い」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「アタル王。おはようございます。眠そうですね」

アタル,「まあ昨日遅くまでゲームやっていたからなあ」

寝不足といっても自業自得なんだけどさ。

#textbox Ksi0160,name
柴田,「今日は学園をお休みになられてはいかがですか?」

アタル,「寝不足でちとキツイけど、さすがにそれで休んじゃったらマズイでしょ」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「あなたは王様なのですから、学園への出欠は自由に決めることができますよ。もちろん出席せずに卒業もできます」

アタル,「うーん。それはできても、やりたくはないな。学園に行かないで卒業するなんて、一体何から卒業してるのやらって感じだよ」

柴田,「でしたらしばらく通学を控えるのはどうでしょうか」

アタル,「……何でそんなに俺を学園へ行かせようとしないの?」

柴田,「ふぅ……あなたには率直に言ったほうが良さそうですね」

真剣な表情。いつものジョークを飛ばしそうな雰囲気ではない。

#textbox Ksi0130,name
柴田,「あなたを標的とした賊がニッポン国に侵入しました。先日捕らえた残党らしいのですが…」

アタル,「でも柴田さんやアサリさんが護衛についているから大丈夫なんじゃないの?」

柴田,「もちろん万全の体勢をとっていますが、懸念材料があります」

セーラ,「アタル様!?」

アタル,「わっ!? ど、どうしたのセーラさん」

俺を見るなり、体当たりにも近い勢いで抱きついてくる。

セーラ,「ご無事ですか?お怪我はございませんか?痛いところはないですか?」

アタル,「落ち着いてセーラさん。質問がどれも中身一緒だし」

人間大騒ぎされると、意外と冷静になれるというか。他人事だからかもしれないけど。

アタル,「この通り、特に問題ないよ。寝不足ぐらいかな」

セーラ,「ああ……良かった…」

安堵の顔を浮かべ、ギュッと抱きしめてくる。

アタル,「いや、あの。柴田さんに見られているし結構恥ずかしいんですが」

懸念材料があるとか言ってたよな。

………。

まさか……。

アタル,「セーラさん。もしかして予知夢を見たの?」

セーラ,「……はい」

その表情は曇っている。おそらく良くない内容の夢だったんだろう。

そしてその相手は…。

アタル,「俺に何かマズイことが起きた…というか、起きるの?」

セーラ,「ええ。とても悲しい出来事です」

アタル,「ちなみに俺、どんな風にピンチだった?」

セーラ,「とても辛い映像でした」

アタル,「そうなんだ。よければ詳しく」

セーラ,「………」

押し黙ってしまったセーラさん。

そんなに口にするのが憚られる内容なのかな。聞きたいような聞きたくないような…。

アタル,「あっ。言いたくないなら別に構わないけど」

柴田,「セーラ姫。多少なりとも情報があればアタル王自身が危険を回避できる可能性があります。あなたの口からお伝え下さい」

柴田さんが俺の言葉を遮り、話すよう促した。彼は夢といえど、眉唾な情報だとは考えていないようだ。
セーラ,「場所は外でした。時間帯はちょっとわかりませんが……。私の目の前で………ゆっくりと崩れ落ちました」

一言一言を噛み締めるように言葉を紡ぐ。

アタル,「…俺が? 刺されたとかで?」

セーラ,「凶器まではわかりませんでした。私もアタル様も私服だったのは覚えているんですが」

アサリ,「セーラさんご安心をー。アサリがさせないですよー」

柴田,「ニッポン国の威信にかけて、我々もアタル王を護衛します」

柴田,「それにアタル王はご存知の通り、外すことに関しては類まれな才能を持っています。きっと杞憂で終わりますよ、セーラ姫」

セーラ,「はい…よろしくお願いしますね。では私は部屋に戻ります」

名残惜しそうにセーラさんは俺から離れる。

柴田,「アタル王。お話がありますのでちょっとお部屋まで」

アサリ,「アサリもご一緒ですー」

俺。柴田さん。アサリさん。
珍しい組み合わせだ。セーラさんを外したのは、客観的な対処のためらしい。
実際に予知夢を見たあとのセーラさんはかなり取り乱していたとアサリさんが言ってた。

柴田,「それで今後の対応ですが…アサリ様、セーラ姫の予知夢の的中率は100%だとか」

アサリ,「そうですー。あの通り細かい内容はさておきー、見た映像は確実に現実として起こるらしいですねー。その点に関しては100%かとー」

柴田,「残党に関してはこちらで追跡中ですが、まだ足取りを掴めていません」

柴田,「予知夢が残党の仕業かどうかもわかりませんが、例え捕まえたとしても起こるとなると、万全の体制で望むだけなんですが…」

アサリ,「はっきりしているのはーアタルさんとセーラさんが一緒に外へ出ると起こることだということですねー」

アサリ,「つまりお二人が別れて一生バイバイするかー、一緒に外出しなければ防げるかもしれないですー」

柴田,「でも外れないということは、そういった手段に出ても避けられないとも言えますね」

柴田,「アタル王、どうされますか?」

アタル,「どうもこうも……驚くだけで」

アサリ,「そりゃ突然あなたはそのうちバッタリ倒れますーとか言われてもピンと来ないでしょうねー」

アタル,「まあそれもあるけど、俺が驚いたのは柴田さんとアサリさんが真摯に仕事に取り組んでいる姿を初めて見たから…かな?」

アサリ,「ひどいですー。そんな悪いこと言う子には、お尻に何かしら突っ込んでないと発狂する毒を仕込んじゃうですよー?」

アタル,「えーと…どんな暗殺者よりもアサリさんの方がよっぽど恐ろしいです」

柴田,「私、普段から不真面目っぽく見えます?」

アタル,「不真面目というよりも、いつもジョークばっかり飛ばしていて、真意が読めない感じ」

柴田,「何を仰いますか。私はアタル王の為なら尻の穴すら喜んで差し出します。えっ、本当かどうか疑わしい?よろしい。でしたら今すぐ献上しましょう」

ガチャガチャとベルトの音を立てて、ダメ執事が正気を失った行動に出ようとする。

アタル,「俺何も言ってないでしょ!? つーか要らんわッ!しかも何で二人とも尻トークなんですかッ!?」

柴田,「それでアタル王。今までの話を踏まえて、どうなさいますか?」

何事もなかったかのように執事はベルトを締めなおす。どこまで踏まえるのかは敢えて聞かないけど。
アタル,「そうだなぁ……」

実感が湧かないというのが正直な感想だ。

二人の個々の能力は実証済み。この二人を含め、俺の周りを全力で警護してくれる。それでもダメなら結局仕方ないというか…。
アタル,「えーと。俺の死ぬ映像ではないんですよね?」

アサリ,「実際にどうなるのかわかりませんがー。バッタリその場で倒れるそうですよー」

んで、それは確実に起こりうる、と。

健康診断で特に引っかかったこともないけど、その侵入した賊とやらじゃなくて病気で倒れる可能性もあるよな。
アタル,「………」

少し考えてはみたものの、俺が出せる結論は1つだった。

アタル,「それじゃいつも通りでよろしく。あ、これから学園行きます」

柴田,「……私たちの話、聞いてましたか?」

アタル,「うん。避けられないことをあれこれ言ってもねぇ」

アサリ,「ではアサリはセーラさん呼んできますねー」

足音を立てずにアサリさんは部屋を立ち去る。ホントに猫みたいな人だ。

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柴田,「思ったより豪胆ですね」

アタル,「じゃあ柴田さんとしては、どうして欲しかったの?」

柴田,「私もアタル王と同意見です。敵を恐れて家で縮こまっているのも王としてどうかと思いますし」

確かに暗殺者に狙われているからって引き篭もっているのも寂しいよなあ。

#textbox Ksi0140,name
柴田,「それにアタル王は当たらないことに関しては敵ナシですから、言い方が悪いですが一体どのようなことで倒れるのかも見物ですよ」

アタル,「褒めているんだか貶してしるのか……」

ちょいと遅くなったけど、俺とセーラさんは登校することにした。

静かな住宅街。もう一時間目が始まっているからか、歩いている学生は全然いない。
#textbox Kse0170,name
セーラ,「アタル様、気をつけてくださいね」

腕を組み(というかほとんど掴まれた状態)でセーラさんは言った。

辺りをキョロキョロしながら、車道に車が通るだけで反応している。

アタル,「あの。歩きにくいんですが」

#textbox Kse0130,name
セーラ,「いいえ、そうはいきません。こうしている間にも、アタル様を狙う者がどこかで息を潜めているに違いないです」

結局何事もないまま登校。そして授業終了。

……

…………

あっという間に放課後が訪れた。

柴田,「襲撃には備えてますが、侵入した賊の動きが未だに把握できていないのが気がかりです」

アサリ,「こっちもですー。でも万全で巡回中ですよー」

世の中の要人たちは、いつもこういった感じで生活しているんだろうか。

命を狙われ、危険との隣り合わせ。まあビビっても仕方ない。

アタル,「セーラさん、帰ろう」

#textbox Kse0120,name
セーラ,「はい。お供します」

そしてまた歩きにくいぐらいに腕を組まれる。お供って桃太郎じゃないんだから…と言いかけて止めた。

セーラさんは顔は笑顔なのに俺の制服に皺が寄りそうなほど、ギュッと腕を掴んでいる。

女子学生,「いいなあ。ラブラブだね」

男子学生,「じゃあなアタル。嫉妬した男子に撃たれるなよ」

アタル,「うるせー。今日は屋上の掃除やっとけよ」

案外こういった身内にいたりして。でも疑うとキリがないよなあ。

そう考えると柴田さんやアサリさんはキリがなかろうと疑ってかかるのが仕事なのだろう。きっと俺には出来ない。
アタル,「すぐには来ないモンだね」

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セーラ,「ダメですよ。油断大敵です。アサリさんの話では暗殺者というのは辛抱強く、機会を伺っているそうですから」

午前中の緊張感は授業と昼食ですっかり和らいでいた。やはりセーラさんは予知夢のことが頭から離れないのだろう。
どんなに砕けた話を振っても全然返してくれない。

アタル,「人気があるのと人気のないのだと、どっちが警護しやすいの?」

アサリ,「状況にもよりますよー。人が大勢だとターゲットを絞りにくいですしー」

柴田,「一方で、標的が身動きをとり辛いから、狙いやすいという考え方もあります」

アタル,「悪いね。自分がその恩恵を預かっているクセに守ってくれている人のことって、あんまり考えたことなかったなあ」

柴田,「いいんですよ。これが私たちの仕事なのですから」

アサリ,「でもねぎらってくれると、やる気倍増ですー。この前なんてセーラさんはー、ポケットマネーで護衛のアサリたちに色々振舞ってくれたんですよー」

セーラ,「振舞うなんて言い方変ですよ。いつもご苦労様っていう、ほんの気持ちですし」

お給料とかはもちろん貰っているんだろうけど、王様として人の心を掴むには、そういった直接のお礼の言葉も必要なんだろうな。
そういや俺も柴田さん以外、護衛の人ってほとんど知らないや。俺もそのうちセーラさんみたいなことしてみよう。
アタル,「しまった。今日ゲームの発売日だった」

柴田,「そのくらいでしたら私が買ってきますが」

アタル,「いいっていいって。自分で買いに行くのが楽しみなんだから。お手数だけど警護よろしくね」

セーラ,「私も一緒に行きます」

アタル,「ゲーム屋にゲーム買いに行くだけだよ?」

セーラ,「はい。ちょっと待っていてくださいね」

ちょっとどころか着替えに20分ほど待たされた。

アタル,「女の人ってどうしてあんなに準備に時間がかかるんだろう?」

柴田,「アタル王の疑問、セーラ姫に限らず、女性に尋ねると喧嘩になる可能性がありますよ」

アタル,「そんなものかな」

柴田,「そんなものです」

セーラ,「お待たせしました」

私服に着替えたセーラさんと、いつもどおりの格好なアサリさん。

アタル,「アサリさんっていつも制服のイメージがあるんだけど」

アサリ,「私服もありますよー。でも仕事中ですしー」

アサリ,「アサリの制服が気になるってことはー、アタルさんは制服マニアなんですかー?」

アタル,「ちょ…何でそうなるんですか!?」

セーラ,「アタル様の特殊な性癖、知りませんでしたわ。よければ着替え直してきますが」

アタル,「そんなモンないですから、さっさと行きましょう」

柴田,「…案外自ら着る方だったりして」

セーラ,「まあ。でしたら今度部屋にいらっしゃってください。私ので良ければお貸ししますわ」

アタル,「…先に出ます」

柴田,「おっと。アタル王がどんな趣味の持ち主だろうとしっかり護りますよ」

さっさと行かないと日が暮れる。

今の様子だと、セーラさんも少しは気が落ち着いたみたいだ。

全国的には商店街そのものが厳しいらしいけど、ここの商店街は夕暮れ時は活気がある。

お惣菜屋が出来たてのさつま揚げを売り、八百屋が大声で入ったばかりの青果の名を叫ぶ。

アサリ,「美味しいですよー。揚げたてもいいですが、軽く炙って刻みショウガに醤油を垂らしたものを添えると、さらにぐっどですー」

柴田,「私はバナナが好きで、もう色が茶色に変色してグダグダに熟したヤツが大好きです。知ってますか? ニッポンに輸入されるバナナって、法律上青いままで――」

試食を頬張る猫執事と両手一杯にバナナを持つメガネ執事。

護衛を思わせない振る舞いと言動にプロ意識を感じる部分……なんだよな?多分。
#textbox Kse0280,name
セーラ,「お店はどちらにあるんですか?」

アタル,「この前行った喫茶店の近く。もう3分も歩かない場所で―――」

『ドーーーンッ!!』

ガス爆発でも起きたかのような大きな音。近くの廃ビルだったところから、煙があがっている。

柴田,「あそこはテナントが入っていないハズですが…」

アサリ,「ちょっと見てきますー」

持っていたさつま揚げを置いて、アサリさんが人込みを駆け抜ける。

チンピラ,「死ねや、コラァーーー!」

突如大声をあげてナイフを構え、俺に突進してくるチンピラっぽい人が―――。

#textbox Ksi0130,name
柴田,「はぁあああっ!!」

メガネの執事が気合一閃。叫び声をあげた場所ですぐに倒され、地面に組み伏せられる。

#textbox Ksi0170,name
柴田,「貴様か。アタル王に殺害予告なんぞを送り込んだのは」

チンピラ,「は、放せぇえええッ!!」

10メートル以上も先で声を張り上げる男。そしてビルから上がる黒煙。消防車のサイレンと駆けつける警察官。
誰もがビルとチンピラのどちらかに気を取られ、見入っていた。

アタル,「靴紐が…」

ただ俺は気付いただけだった。紐が解けていたのに。

かがみ込もうとしたとき、不自然な人間を見かけた。この騒ぎでどちらにも気をとられず、こっちを見ている。
#textbox Kse02B0,name
他に注目すべきものがあるんだろうか?振り返ると背後にはチンピラを見つめるセーラさん。

何だよ。何もないじゃないか…と思って視線を戻すと、目深に帽子を被った人が銃を構えた。
アサリ,「アタルさん、危ないッ!」

いつものアサリさんらしからぬ緊迫した声が響き、とっさに逃げようとしたときに射線上にセーラさんがいることに気付く。
#textbox Kse02B0,name
避けたら後ろに当たる―――。

そう判断したのか、ただ躊躇しただけなのか自分でもわからない。

後ろ手でセーラさんを突き飛ばすと同時に胸へ数回の衝撃が走る。

時間の流れが遅くなり、ゆっくりと倒れこむ間にアサリさんが襲撃者に飛びかかり、一撃で仕留める。

そして叫びながら俺に駆け寄る柴田さんと呆然としたセーラさんの姿。

セーラ,「アタル様! アタル様ッ!!」

セーラさんの口がそう動いている。ああ、俺は倒れたのか。

そういや胸が熱いし、痛い。

そりゃそうか。撃たれたんだもの。

俺も当たることがあるんだなあ。王様に当たったからこれで二度目か。

セーラさんが大粒の涙を溜めている。

セーラ,「アタル様ッ! しっかりして下さい」

アタル,「…ッ……か…」

痛みで声が出ない。あとどれくらい持つんだろうか。

こうなるんだったら、もっとやりたいことやっておけばよかったなあ。

アタル,「げほっ、げほっ!!」

思わずむせる。胸が痛い。というか熱い。火傷でも起こしているような錯覚だ。
アタル,「熱ッ!?」

ごろん、と胸元から転げ落ちる携帯電話。

ムダに豪華な黄金色のそれは複数の銃弾がめり込んでいた。

銃痕でひび割れて変形した携帯は壊れ、ショートを起こしたのか、熱を帯びている。

アタル,「……あれ?」

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セーラ,「アタル様ッ! 起き上がってはなりません!」

アタル,「そうは言われても、もう起き上がっちゃったし…」

柴田,「アタル王、すぐ止血しますので横になっていてください」

アタル,「止血って…どこからか血でも出ている?」

柴田,「興奮して痛覚を失っているだけです。あれだけ銃弾を浴びれば……」

アタル,「多分それって全部ここに」

もう使用不能っぽい携帯電話を指差す。

柴田,「…本当にお怪我はないのですか?」

アタル,「大丈夫みたいだね。はは…」

セーラ,「アタル様ッ! アタル様ぁあ!!」

起こしていた半身がまた地面へ。正面から抱きつかれて再び倒れこんだ。

セーラ,「夢と同じことになって、私はもう……ううっ…」

泣きじゃくるセーラさん。

普段は大人びているけど、こういう姿を見ると改めて年があまり違わないと思う。

アタル,「ほら、この通り無事だから」

セーラ,「ぐすっ、ぐすっ……」

返事の代わりに、ぎゅーーと抱きしめられる。

正面からなのでセーラさんの大きな胸がぐいぐい押し付けられて変形し、柔らかい感触と共に俺の顔まで緩みそうに――。
アタル,「痛たたたっ!?」

セーラ,「どうされましたか!?やはりどこかがお痛みになるんですね!?」

アタル,「いや、その…」

おっぱいの圧力で胸が痛むって何か言いにくい。

柴田,「先ほどの衝撃で肋骨あたりがやられているのかもしれませんね。一応病院に向かいましょう」

レントゲンで見たところヒビは入ってなかった。

ただ重い打撲とのことで、しばらくは安静ということになった。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「朗報です。明日からはセーラさんがお世話してくれるそうですよ」

アタル,「へぇ。そうなんだ」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「湿布と包帯はここに置いておきますので。あとは………栄養ドリンクって必要ですか?」

アタル,「あの。お世話してくれるって……看病だよ…ね?」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「不自由なアタル王のお世話を買って出る、と伺っておりますが」

アタル,「すっごい不安だ…」

柴田,「ではお休みなさいませ」

バタンと締まる扉。しかしどうして当たったんだろう。

王様になったときと比べてあまり喜ばしくない当たりだけど。

バルガ王と握手したとき、当たったというか、かわせなかった。

確実に外れない状況下だと俺でも当たることがあるんだ。

アタル,(つまりあのとき俺が当たった原因ってのはセーラさんがいたからなのか?)

アタル,(当たりにいったのではなく、自ら外れることを放棄したからか?)

アタル,(でもあのとき自分が避けたらどうなっていたんだろう。俺に当たらなくとも、セーラさんに――)

アタル,「はぁ……」

そう考えるとゾッとした。それに俺に当たらなければ、あの場にいたセーラさん以外の人に当たったかもしれない。
当たってよかった。王様になったときよりも、俺は心からそう思った。

#textbox Kse03B0,name
セーラ,「お着替え手伝いましょうか?」

アタル,「大丈夫ですよ。自分で出来ますって」

#textbox Kse0320,name
セーラ,「せっかく私がいるんですから、もっと頼ってくださいな」

笑顔で俺の世話をしようとするセーラさん。

打撲とはいえ動けなくもないんだけど、数日間、学園を休むことにした。

柴田さんから襲撃者がまだいるとも限らないのでしばらく外出を控えてくれと言われたのもある。

ちなみに側にいたアサリさんは、何に使うのか分からない道具を手に尋問がどうとか自白剤がどうとか、楽しそうに言ってた気がする。

アサリさんの発言については深く考えない方が良さそうだ。

昨日のことはニュースになっていた。

『商店街にて次期国王暗殺未遂!!』などとトップを飾り、新聞は一面で俺の情けない顔がアップで写っている。
カメラ写りの問題ではなく、被写体に難があるだけだと思うが。

あれ。でも出たりする写真って修正とかするものじゃないのか?
それとも修正してあれが限界?

後者だったらイヤだな。尋ねないでおこう。うん。
今日は学園に行ってもあれこれ聞かれるだけで疲れそうだし。

柴田さんの言うように、大事を取って休む方が良さそうだ。

アタル,「セーラさんまで一緒に休むことなかったのに」

#textbox Kse0310,name
セーラ,「私を庇ってくれた殿方を放って、学び舎に一人通うなんてできません」

#textbox Kse0320,name
セーラ,「ではお食事時間ですよ。さあ、私が食べさせて差し上げますわ」

髪をかきあげて熱々のお粥をふーふーしながら冷ますセーラさん。

アタル,「ええっ? 別に食事だって一人で出来ますってば」

#textbox Kse0380,name
セーラ,「負担をかけないほうが治りが早いんですから。さあ、あーんして下さい」

レンゲで掬ったお粥を口元へ寄越す。全然引く気配がない。

アタル,「…断ったら?」

#textbox Kse03B0,name
セーラ,「そのときは押さえつけて口移しでも………って、あれ?でも私にとってはその方が喜ばしいような気が―――」

アタル,「普通に食べますので勘弁を」

#textbox Kse0350,name
セーラ,「え~。私とのキス、そんなにイヤですか?」

アタル,「だってそこで唇をあわせたらそれだけで済まない可能性が」

#textbox Kse0380,name
セーラ,「もちろん済まないですよ?という冗談はさておき、お口を開けてください」

アタル,「あ、あーん……」

レンゲが優しく押し込まれる。

#textbox Kse0390,name
セーラ,「ふふっ。美味しいですか?」

アタル,「美味しいっつーより気恥ずかしいです」

#textbox Kse0380,name
セーラ,「残したらダメですよ。怪我の治療の基本は食事ですから」

包帯も少し緩かったり、湿布の張り方もイマイチだけど不得意ながらも甲斐甲斐しくあれこれと世話をしてくれる。
#textbox Kse0320,name
セーラ,「これで安静にして休んでくださいね」

アタル,「その前にちょっとトイレ」

最後に布団をかけようとするセーラさんを制止し、俺は部屋を出て一番近いトイレに入ろうとした。

#textbox Kse0310,name
セーラ,「アタル様のご不浄、お手伝いしますわ」

アタル,「ちょ――!? トイレは一人で平気だから!」

#textbox Kse0320,name
セーラ,「今更お互いの肌を見せ合った者同士、恥ずかしいことなんてありませんわ」

アタル,「だからって、それは勘弁してくれー!」

あくまで奉仕しようとするセーラさんから逃げながら、俺は風呂場に向かった。

アタル,「ちょっとはしたないけど、ここなら……」

#textbox Kse03B0,name
セーラ,「なるほど。殿方はこうやってズボンから性器を取り出すんですね」

アタル,「セ、セーラさん!?」

いつの間に追いつかれたのか……とはいえ、すでにスタンバイしている俺としては逃げようがない。

アタル,「や、あの、背後に回られるとすっごい不安なんですがッ!?」

#textbox Kse0370,name
セーラ,「…あら、少し大きくなられてませんか?」

アタル,「そ、それはセーラさんの胸が…」

#textbox Kse0310,name
セーラ,「胸がどうかされました?」

背後から忍び寄ったセーラさんはぐりぐりと胸を押し付ける。

そんな状況でさらに股間をまさぐられるのだから、こっちは気が気でない。

#textbox Kse0380,name
セーラ,「どうします? 出しちゃいますか?」

アタル,「いいっ!? 小の話ですよ…ね?」

#textbox Kse0390,name
セーラ,「あら。私はどちらでも構いませんのよ。ただお手伝いしたいだけですし」

耳に息を吹きかけ、甘く囁く。

#textbox Kse0380,name
セーラ,「でも怪我を患っている方に無理させるわけにもいきませんから、今日は止めておきますわ」

などと言いつつ、結局セーラさんの手で済ませてしまった。

ただの小用だったのに未だに感触が残っている。

他人の、しかも女性の手でいじられるのは不慣れな感覚で、背徳的な気分だった。

セーラ,「いつでも申して下さいね。アタル様のお望みのこと、何でもして差し上げますわ」

去り際の彼女が艶っぽくて、俺はすぐにでもセーラさんを呼ぼうかどうかで本気で悩んでいた。
………

バルガ,「例の未遂に終わった事件だが」

アサリ,「犯人はやっぱり前にアタルさんを襲った残党でしたよー」

バルガ,「そうか。側で見ていたお前の判断を聞こう」

アサリ,「あの能力は完全ではないようですー。王様になった時点である意味不完全と言えますけどー」

バルガ,「ふむ……」

巨体の王はしばらく考え込む。

バルガ,「セーラに危険が降りかかったことには変るまい。すみやかに排除しろ」

アサリ,「はいはーい。了解ですー」

アサリは音もなく駆け出す。

バルガ,「セーラ。お前にはもっと良き伴侶を見つけてやろう」

バルガは独り言のように呟いた。

セーラ,「良かったですね。ほぼ完治だそうで」

アタル,「うん。これでもうセーラさんのユルユルな包帯を巻かれずにすむよ」

セーラ,「あー、酷いこと言いますね。せっかくのデート気分なのに……でしたら私が一番締めるのが得意な場所、教えましょうか?」

アタル,「言葉にしなくていいよッ!? 知ってるからッ!」

中途半端なジョークだと簡単に反撃を食らう。というか、エロトークのカウンターは卑怯だと思う。

セーラ,「ですよね。ふふっ、これって以心伝心というものでしょうか?」

アタル,「というか、いつもの得意な猥談……」

セーラ,「何か言いまして?」

アタル,「いいえ。献身的な看病、ありがとうと言っただけです」

セーラ,「いえいえ。どういたしまして」

複数発の銃弾受けて数日で完治とか普通は有りえない。

当たることには当たったけど、致命傷までの当たりではなかったという悪運も手伝ったおかげでもう湿布も要らないとのこと。
アタル,「しかしマジで当たったなあ。セーラさんの予知夢」

セーラ,「内容によっては、見ると本当に憂鬱な気分になります。楽しいことばかりではないですし」

セーラ,「倒れこんだときは何も考えられなくなりました」

そして俺たちは病院帰りに商店街を横切った。

ショッキングな出来事があった場所だから避けて通ろうかと思っていたけど、セーラさんは反対した。
セーラ,「辛い思い出も含めて、私はあなたと歩みたいと思ってますから」

腕がさらに引き寄せられる。

絶対わざと胸にくっつけているけど、そんなことぐらいじゃ動揺しないぜっ。

………。

ウソです。

さっきから腕に全神経を集中させているのでセーラさんの言ってることがあんまり頭に入ってないです。
セーラ,「そういえばあそこに石碑とか建てないんですか?」

アタル,「石碑?」

セーラ,「『ニッポン国王アタル、襲撃者より身を挺して妻セーラを護りなるし場所』なんてどうでしょう」

アタル,「却下」

考えるまでもなく、俺は拒否した。

セーラ,「今は恋人ですが、いずれは妻になるんですから表記のズレは平気ですよ?」

アタル,「そこじゃなくて、同じお金があるならもっと他のことに使うよ」

セーラ,「アタル様のせっかくの勇姿、風化させてしまうには惜しいですわ」

そう言って彼女は残念そうな表情を見せた。

セーラさんはともかく、十人並みな顔の俺を形に残すなんて後々何を言われるかわかったものじゃない。
アタル,「勇姿とやらはセーラさんが覚えているんだからそれでいいよ」

セーラ,「他人にひけらかすよりも二人の心に留めておこう…と?」

意味ありげに微笑むセーラさん。

アタル,「いや、そこまでカッコいいことは言うつもりないです」

アタル,「それに石碑になんかしなくたって、あの場にいた人は覚えているだろうし」

セーラ,「…アタル様って、まだ私と積極的に心を通わすことに戸惑いが見られますわ」

アタル,「シャイな俺から甘い言葉なんてそうそう出ませんので」

セーラ,「でしたらこれから屋敷で出してもらうってのはどうでしょう?」

セーラ,「ふふっ、言葉以外のものも、出して差し上げますわ」

腕を包むようにグニャグニャとカタチを変える胸に、険しく取り繕っている表情がどんどんニヤけて―――。

不良学生,「おうおう兄ちゃん可愛い娘連れて……ぐはぁっ!?」

柴田,「アタル王。ご無事で何より」

声をかけてきた不良学生が一瞬でのされる。しかも連れの仲間らしき連中まで一緒に。

アタル,「無事も何も…まだ未遂みたいな状況だったけど」

アサリ,「でもどっちにしろ絡まれましたよー。先手必勝ですー」

アサリさんが連中を縄で縛り上げ、彼らの首元に大鎌を突きつける。

身辺警護を強化するとは言ってたけど、まさかここまでとは。

アタル,「さすがにやり過ぎじゃないかと…」

アサリ,「警察に引き渡すのも面倒なのでー、アサリがお仕置きしちゃっていいですかー?」

柴田,「どうぞご自由に。ただ加減はしてくださいよ」

アサリ,「大丈夫ですよー。ちゃんと加減しないと臨床実験の正しい結果は得られませんからー」

アタル,「ちょ――臨床実験って何ッ!?ヘタに拷問とか自白より怖いんですが!?」

アサリ,「アタルさんは甘いですー。国の要人への反逆罪で重いんですよー」

アサリ,「アサリの国の王様だったら自ら厳しく接しますー」

アタル,「うっ……」

王様ってのはバルガ王のことなんだろう。そして遠回しに同じ国王である俺を弱腰だと責めているような気が……。
セーラ,「アタル様にはアタル様の考えがあるんですよ。経験や能力を考慮すれば、お父様と比較するのが、そもそもおかしな話です」

アタル,「う、うん。それでよろしく」

ここはニッポン国だ。

別にバルガ王の物差しで物事を決める必要はないと思う。

アサリ,「アタルさんがそう言うなら仕方ないですー。二度目はないですからねー」

不良学生,「う………うわぁああああ!」

情けない声をあげて不良たちは走り去っていった。テロリストを制圧するような人間に脅されたら、そりゃ誰だってビビるよな…。
柴田,「あそこまで侵入を許してしまった手前、しばらくは警備を加減するわけにはいかないんです。どうかご容赦を」

アタル,「あ、うん」

アサリ,「………」

品定めするかのような視線。そんなに俺って王様らしくない判断だったか?

アタル,「しかし平日の昼間からフラフラしているせいかな。絡まれるのって」

セーラ,「でしたら屋敷に戻りましょうか」

上機嫌で外出なのに、あっさりと帰宅宣言。

アタル,「あれ。よければどこかでお昼ご飯食べようかと思ったんだけど。看病してもらったお礼も兼ねてさ」

セーラ,「お礼されることではありませんわ。愛する人の看病、もっと続けたかったぐらいです」

アタル,「そ、そう。だったら何か欲しいものとかある?………って、お姫様のセーラさんに手に入らないものってないよなあ」

セーラ,「あら、そんなことないですよ。私の欲しいもの、聞いてくださいますか?」

アタル,「何だろう?あんまり高いものとか抽象的な要求は困るけど」

セーラ,「ふふふ……」

……

…………

セーラ,「あむ……んむっ…」

アタル,「せ、セーラさんっ!?」

セーラ,「ちゅっ…ずっ……はい、何でしょう?」

生暖かくも心地よい感触。

アタル,「欲しいものってもしかして…」

セーラ,「はい。アタル様です」

油断していた。

一生懸命に介護してくれていたときの穏やかさに眼を奪われていたというか、こういうお願いをする人だってことを忘れていた。
セーラ,「私が今日の日をどれだけ待ち望んでいたかご存知ですか?」

アタル,「ッ…うわわっ!?」

体重が乗せられ、おっぱいで股間がすっぽりと埋まる。

セーラ,「はむ……っ…ぷはっ、んっ……じゅ…る…ちゅ、ぢゅう」

アタル,「うっ…あっ……あ、あの…他には欲しいものって………くっ…ないのか……な…?」

話題を変えようとするものの、セーラさんの目はそれを許そうとしていない。

セーラ,「ないですわ。私が看病しながらも我慢していたの…知ってますか?」

爽やかなのに、どこか恐ろしさすら感じる笑顔。どう答えても結末に影響がないのは気のせいだろうか?

よし。一か八かすっ呆けてみよう。

アタル,「申し訳ないけどそれ初耳―――ひっ!?」

エラの部分を舌がなぞる。

セーラ,「ふふっ、可愛い声を上げるんですね」

アタル,「だ、だって久しぶりで…」

セーラ,「アタル様は療養中、私の胸ばっかり見てましたよね。会話中によく視線が下の方へ逸れてましたよ?」

アタル,「うっ………」

否定できない。

だって看病しているとき、セーラさんって動き回るとやたら胸が揺れるんだもの。

セーラ,「あんな露骨にお誘いしていたのにどうして襲ってくれなかったんです? 私、いつでも大丈夫なように、ノーパンノーブラでしたのに」

アタル,「やっぱりアレって誘ってたのッ!?」

どうりで不自然なぐらい胸が揺れるわけだった。

じっとしているときだって、座りなおすだけでおっぱいがたゆんたゆんと動いていたし。

セーラ,「でもイヤな気はしなかったんですよ。アタル様が私を見てくれているって証ですから」

セーラ,「あむっ……んっ…んくっ……」

アタル,「お……あっ……うぅ…」

唇を輪のようにして、亀頭に吸い付く。舌が充血した表皮をなぞり、俺はたまらず声をあげた。

セーラ,「ん……ちゅっ…おいしい……」

セーラ,「ほら、見てください。このオチンチン、ちょっといじめただけですぐおヘソの方へ逃げちゃいます」

這い回る舌とおっぱいのの圧力で過敏に鬱血した分身が行き場を失い、挟まれていた胸からぷるんっ、と弾け出る。
セーラ,「…でも、逃がしてあげませんから……んっ…」

アタル,「うあっ…」

そそり立ったイチモツは再び上から胸で押さえ込まれた。

その勢いで二つのもっちりした弾力がお腹や太ももまでこぼれ、その包まれるような柔らかさに、触れている部分が全て弛緩しそうな感覚。
だけどセーラさんはそこから動かない。

セーラ,「さあ、ここからどうして欲しいですか?」

ええっ!こんな状況でお預け!?

アタル,「し、しごいて……欲しいです」

だけどセーラさんは小首をかしげて聞こえないフリをする。

セーラ,「『何』で『何』をしごくんでしょうか。

ハッキリ言ってもらわないとわかりませんよ?」

ぐっ…。あくまでも言わせる気なのか。

結構セーラさんって意地悪かもしれない。

アタル,「そのおっきなおっぱいで……お、俺のちんぽをしごいて下さい!」

セーラ,「はい、よく言えました」

にっこりと満足そうに、天使のような微笑を浮かべる。

それと同時、俺の陰茎がセーラさんの口の中へと咥えこまれ、派手な音を立てた。

セーラ,「じゅぶっ、じゅぷ、んちゅ……じゅっ!」

アタル,「なっ……きゅ、急に……うっ!」

『ふにゅ、にゅぷ、ぬぷぷぷ……』

おっぱいが激しく動き、俺の陰部が見え隠れする。

セーラ,「こうすると気持ちいいんですよね。あむ……じゅ…じゅるる…く……ちゅ…」

キスを浴びせながらたっぷりと唾液をまぶし、吸い込むようにフェラをする。

セーラ,「んっ…ちゅう……ちゅる…ん……じゅる…」

アタル,「おっ……あ…くっ……んんっ………」

セーラ,「にちゃ……ん…むっ……んっ、ちゅ…じゅっ……」

『ぶにゅ! ぷちゅっ! ぬるっ、ヌボッ!じゅぷぷ……じゅぽっ! じゅぽぽっ!』

とてもおっぱいが出すとは思えない音が耳に届く。

セーラ,「そこまで腰を浮かして…そんなにこのおっぱい良いですか?」

アタル,「ぉ……う…最高で……す…うっ、あっ!」

セーラ,「ふふっ、正直でよろしいです。そんな正直者にはもっとサービスしちゃいますね」

セーラさんはさらに唾液を追加し、谷間を水浸しにした後、ペニスを追い回しては押し潰した。
『じゅぷっ! じゅっ、じゅじゅっ! じゅっ!ぐぽんっ!! ぶじゅっ! じゅぷっ!!』

アタル,「うあっ……くっ…」

鼓動が早くなり、セーラさんのパイズリに合わせて俺も腰が一緒に動く。

セーラ,「ふふっ、大丈夫ですよ。そこまで擦りつけようとしなくてもおっぱいは逃げませんから」

セーラ,「私に構わずイっちゃて下さいね」

『ぐぽっ! ぬぷぷぷ…ちゅぶっ! じゅっ!にゅぷっ! にゅぷっ! ぬぷっ! ぬぷぷぷっ!』

『ぐぽっ! ぐぽっ! ぐぽっ! ぐぽんっ!じゅっ! じゅっ! ぐじゅっ! ずちゅっ!』

アタル,「うああっ!」

びゅるっ! びゅくっ! びゅくっ!

セーラ,「わっ…すごい量……それにとっても濃い…」

セーラさんの顔がほとばしりを受けて白く染まっていく。

どくんっ! どくっ、どくっ…。

自分でも驚くほどの量が出続ける。

セーラ,「ふふっ…こんなに濃いのを外で出しちゃうなんて勿体無かったかも」

セーラ,「中に出していただいたら、きっとすぐ溢れちゃってますね」

顔に付いた精液を舐めながらセーラさんが微笑む。

久しぶりだったせいか、身体はグッタリしているのに股間がビクビクと跳ねる。

セーラ,「あんっ!? まだ出るんですか、もう…」

ペニスからはまだゼラチンみたいな濃さの精液が吹き出て、セーラさんを白く染めていく。

セーラ,「ちゅっ…ずるっ……んくっ…」

剛直から垂れる液体を啜り、嚥下する。

びくっ、びくっ、びくくっ……。

しつこいぐらいに律動を繰り返してから、ようやく射精がとまった。

セーラ,「やっぱりアタル様も溜め込んでいたんですね」

アタル,「はぁ、はぁ……。だってトイレも監視されている状態じゃ、自己処理だってできないよ」

セーラ,「あら。監視だなんて失礼な。献身的かつ手厚い看護と言って欲しいくらいです」

それは知ってます。

静止しないとシャワーやトイレの尻拭きまで世話になりそうでしたし。

セーラ,「それにセーラはいつでも性欲を鎮めるお手伝いしますって言いましたよ?」

そりゃ言ってたのは知ってるけど。

ひよこやミルフィが同じ屋根の下にいて、いつ見舞いに来るかわからない状態で

『溜まりすぎて辛いんで抜いてください』

などと言えるほど、大胆な男じゃないんで。

セーラ,「まさかアタル様『だけ』が達して、これで終わりとは思っていませんよね?」

セーラさん、笑顔なのに目が笑ってない。

アタル,「いや、その…お手柔らかにしていただけると嬉しいかなあと」

セーラ,「じゅるっ……ずっ……ちゅるっ……ずずっ」

アタル,「おふっ!? なっ……ちょっとまだ敏感なんで……ッ……優しく……」

セーラ,「ずるっ、ちゅっ……こくん」

ペニスについた精液を舐めとられると、久々の行為に敏感になっているイチモツが再び起き上がる。
#textbox Kse0450,name
セーラ,「下着を下ろすことすら、もどかしいですわ」

そう言いながらセーラさんはベッドの上に乗ってパジャマの下を脱ぎ去り、下着に手をかける。

アタル,「あっ……」

#textbox Kse0480,name
セーラ,「アタル様をしごいていただけで、もう下の口まで涎が出ちゃってます」

下ろされたパンツはすっかり濡れており、股間から粘っこい糸を引いていた。

#textbox Kse0480,name
セーラ,「それじゃ行きますね……」

アタル,「そんな急に―――うぅ!」

『じゅ、ずぷぷぷ……ぶじゅんっ!』

セーラ,「ふあああっ!?」

セーラさんが歓喜の声を出す。

座り込むようにして一気に腰を下ろし、俺の剛直が飲み込まれた。

セーラ,「くっ…ふっ……。今ので…か、軽くイっちゃいました……」

初めてのときと変わらぬ痛いぐらいの締め付け。

あれからまだ二度目の行為なのだから、当然といえば当然だが。

アタル,「大丈夫? まだ痛いんじゃないの?」

セーラ,「へ、平気です。むしろ奥がジンジンしてもどかしくて……」

セーラ,「動きますね……んっ…」

アタル,「わっ………ひっ!?」

ぐりゅんっ、とペニスが嬲られる。

セーラ,「うっ……あんっ…さ、さっき出したばかり……なの…にィ……うンッ!? もう硬……くなって…うっ」

『ぬぷっ、ぷちゅん、ぬぷぷぷっ…』

アタル,「お…わっ……くっ」

おっぱいに負けないぐらい大きなお尻がグリグリと動き、俺の股間を包んで刺激する。
セーラ,「んっ、あっ……ぴくぴく…動いて……ッ…あら」

アタル,「うっ、あっ! ………えっ」

ピタリと腰の動きを止め、蟲惑的な表情を浮かべる。

セーラ,「ふふっ…この、動き…が……んっ!い、いいんです……ね……ッ」

まるで何かを見つけたと言わんばかりに呟き、再び動き始めた。

セーラさんは出し入れするだけでなく、ペニスを挿入したまま、8の字を描くように腰を振る。

アタル,「な…そ、そんな動…き……うっ……」

セーラ,「すごい……もうピクピクして……んっ、んんっ…」

セーラ,「アタル様ばかり…ずるいですわ…私も……気持ちよくして下さ……い」

とは言われても、どう突き上げればいいのかわからない。

セーラ,「あっ、ん……もっと…ぅ……奥の…方……」

セーラ,「う、あっ……! んっ…そ、そう……もっと壁の…くっ……うっ……擦って」

アタル,「よっ……と…こう……かな…?」

脚をより高く持ち上げ、セーラさんが俺の方に身体を預けるようにしてみる。

セーラ,「あっ、あっ…んっ…んっ、あっ、んんぅ!あぅ! あっ、やあっ! んああっ!?」

あれこれ突いているうちに、セーラさんの声が一際大きくなる。

セーラ,「い、今どこを…刺激……したんです…か…ッ?」

アタル,「わかんないけど、この辺りまで入れて……こう…」

セーラ,「ふああっ! やっ、あっ、あああっ! やあっ!あっ、はっ、ひうぅ! あっ、うああっ!!」

奥まで挿し込んだあと、引き抜くときに襞の背中側を擦るとセーラさんが甲高い嬌声を上げた。
アタル,「んっ……ここ…?ここが弱い…の……かな……ぁ…セーラさ……ん…」

セーラ,「あっ、ああっ! やっ、ああ、あっ…うあっ!あっあっあっ! ああんッ! あっ、やあっ!!」

愛液はお互いの秘部を濡らし、溢れた分はベッドに無数のシミを作っていた。

セーラ,「やっ! ひっ、あっ…んんっ!そ、そこ、ひんっ! やあっ! あっ!だめっ、あっ、やっ! ふああっ!」

偶然探り当てた場所を擦ると、セーラさんが面白いぐらいに甘い声を出す。

アタル,「ここをこうすると……」

自分の思い通りに喘ぐのが楽しくて、俺は遠慮なく腰をぶつけた。

セーラ,「あはあっ! やっ、そこ…ばかり…ひっ、ううんっ!あぅ、うっ、あうっ! やっ、ああ、あああっ!」

普段の立場の逆転が嬉しくて、いじめたくなる気持ちが湧き上がる。

もっとセーラさんの声が聞きたくて、俺はバカの一つ覚えみたいに同じ場所をしつこく責めた。
セーラ,「ふあああっ! やあっ、あっ、んっ!! んんっ!」

一度出してなければとっくにこっちが果てていそうな快感。

抱え上げて背後からの挿入に、踏ん張りの利かないセーラさんは快楽の度にその身体を震わせる。
セーラ,「あぅ、ううっ! これ…感じ過…ぎ、あっ、あっ!降ろし……て…うぁ、あっ! んんっ! ああっ!!」

溜まっていたのはセーラさんも同様らしく、さっきまでの余裕がウソのようだった。

ベッドに脚をつけようとするが、俺は膝下から抱えているのでセーラさんは軽くバタバタと動くだけだった。
セーラ,「だ、だめ、うあっ!! あぅ、ああっ、あああっ!もう、んっ、んんっ! うあっ!? やっ、はうっ!?」

深く突き刺さるペニスを少しでも抜こうと尻を浮かせるが、自重でさらに奥深くへ埋没していく。

セーラ,「んっ、ん~~~~………うあっ!? うっ、くっ……ふあっ! ぬ、抜けないよぉ……んひっ! あっ!」

アタル,「お、俺も……そろそろ…くっ」

セーラ,「ふあっ! ふああっ! ああっ! う、あっ、あっ!だ、出し…て…んんぅ!? あぅううん!あうっ! あっ! あっ、ああっ!」

セーラ,「ひんっ! ひうぅ! いいっ、よぉ…あああっ!んふぅ! ふっ、あっ! あ、はんっ! はぅうんっ!あっ、ひぃい! ああっ! あぁっ! あっ―――」

セーラ,「ああぁああぁあぁぁあぁぁぁぁッ!!!」

ビクンッ! ビクッ! ビクッ!

下腹部から上り詰めた欲望が先端から吐き出され、セーラさんの中で暴れる。

アタル,「はあっ、はあっ……」

幾度となく放たれ、満たされた膣内からは行き場を失った精がごぽりと溢れた。

セーラ,「あっ、やっ! うっ! あぅ、んんっ!やっ…何っ、これ…あっ! んっ! んんっ~!」

今度はセーラさんが四肢を突っ張らせて絶頂を迎える。

セーラ,「んっ、んんっ! やっ…止まらな…ひっ! あっ!」

お尻が半ば脊髄反射のように持ち上がり、その度に潮を吹いた。

セーラ,「はぁ、はぁ………」

肩で息をするセーラさんの背後からベッドを眺める。

中央ぐらいまで彼女自身から飛び散ったその勢いは、男のほとばしりに引けを取らないぐらいだった。

セーラ,「…まさか今日の流れで私がイカされちゃうなんて思っていませんでした」

アタル,「まあ俺も予想外だったというか、一方的にされちゃうと思ったけどね」

セーラ,「私もですが、アタル様も気持ちよかったみたいで何よりです」

アタル,「うん。さすがに抱えたままだったから、腕が疲れてクタクタだけど」

セーラ,「あら。私、そんなに重かったですか?」

アタル,「そ、そうじゃなくて…」

セーラ,「ふふっ、冗談ですよ。あっ………イヤですわ。まだ出てきて……んっ…粗相しているみたい……」

シーツはお漏らしでもしたかのように大きな濡れ跡があった。

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「私の弱いところをすぐ探り当てるなんて…。やっぱりアタル様と私、相性が抜群ですね」

アタル,「でも偶然だよ。セーラさんの感じる部分を見つけたのって」

#textbox Kse0480,name
セーラ,「私は嬉しいことならその偶然に大感謝しますよ」

#textbox Kse0490,name
セーラ,「今のところ、あなたと会えた偶然に勝る偶然はありませんけどね」

アタル,「セーラさん…」

#textbox Kse04D0,name
セーラ,「んっ…」

お互いにまだ火照った顔が近づき、唇が重なる。

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「あれ……」

物足りなさそうな顔で、小首を傾げるセーラさん。

アタル,「えっ、俺なんかマズイことした?」

#textbox Kse0410,name
セーラ,「いえ。私が期待する偶然としましては、アタル様が『セーラ、今夜は君を寝かせないぜ』と言ってくれるはずなのですが………」

アタル,「………」

#textbox Kse04B0,name
セーラ,「………」

アタル,「………」

#textbox Kse0490,name
セーラ,「ささっ、遠慮なくどうぞ」

アタル,「そんな恥ずかしいセリフ言えるかぁ!!」

#textbox Kse0480,name
セーラ,「大丈夫です! 聞くのは私一人ですから!」

アタル,「そういう問題じゃないですッ!」

#textbox Kse0450,name
セーラ,「あれだけバックで男らしく責めたのに、まだ恥じらいがあるんですか?」

アタル,「恥じらいにも別腹があるんですよッ!」

#textbox Kse0420,name
セーラ,「ふふっ。でもそのうち言わせてみせちゃいますからね?」

たゆんっ、と豊満な胸を揺らし、セーラさんがウインクする。

ああ、確かにそのうち彼女の虜になって言わされる日はそう遠くないのかもしれない。

アタル,「休みなのにまたここで良かったの?」

#textbox Kse0220,name
セーラ,「はい。もちろんです」

休日のデートだというのに、今日も次期王様と姫様は、庶民の味方の商店街探索。いつしか気が付けば陽も落ちかけていた。
ただ、まさかクアドラントの姫が歩いているとは思わないらしく、あんまり気付かれない。

強いて言えばセーラさんの美貌に振り向いて『どっかで見たような……』と首を傾げるぐらいだ。
俺なんか気付かれやしない。

アタル,「あの事件があってから、柴田さんたちにはあんまりココを歩かないでって言われてるんだよなあ」

俺が殺されかけた場所だし、警備を強化しているとはいえ、人込みだから護りにくいのかもしれない。
そういったワケで商店街に罪はないのだが、SPさんの方々にはすこぶる不評の地である。

#textbox Kse02D0,name
セーラ,「私ここが好きですよ。またブルドッグや、可愛いワンちゃんたちに会えるかもしれませんし」

アタル,「だったらペットショップとかの方が見つけやすいんじゃないの?」

#textbox Kse0280,name
セーラ,「こうやってアタル様と一緒に歩きながらの出会いが楽しいんですよ」

#textbox Kse0250,name
セーラ,「アタル様は…やっぱりイヤですか?」

アタル,「別にイヤじゃないよ。それにもうあの予知夢は過ぎ去ったんだし」

#textbox Kse0290,name
セーラ,「なら良かったです」

#textbox Kse0210,name
セーラ,「あっ…あそこにアサリさんの好きそうなイワシのツミレが。お土産に買っていきましょうか」

アサリさんって魚のすり身なら何でも好きなのかな。

とはいえ、警護しているんだからお土産というより直接聞いたほうが早そうだけど。

アタル,「おっ、あの漫画出たんだ」

ふと見かけた書店の広告に足を止める。

『ガコンッ』

耳元で金属のへこむ音。

よく見るとパン屋の焼き上がりお知らせ表に何か刺さっている。

アタル,「何だこれ……おわっ!?」

『ガゴゴゴゴンッ!!』

触れようとしたとき、再び同じ場所へ何かが打ち込まれる。

驚いて思わず引っ込めた先には、忍者が使ったりするクナイみたいなのが複数突き刺さっていた。
アタル,「なっ…まさか」

周囲をキョロキョロ見回す。だが辺りにはこれといった変化はない。

楽しそうな家族連れや、カートみたいなのを引いたお年寄り。買い物袋をぶらさげたサラリーマン。
赤いマジックで値札を書き込む魚屋。外の喧騒から切り離された喫茶店。しょっちゅう閉店セールなブティック。
#textbox Kse02B0,name
セーラ,「どうしたんですか? 難しい顔をして」

アタル,「いや、もう対応しているとは思うけど…」

念のために新しくなったクラウン携帯で確認を取ってみる。

『ツー、ツー、ツー……』

おかしい。

柴田さんが出れないときには、他の誰かが出るはずなのに……。

またなのかよ。くそっ…。

狙われているのは俺か?それともセーラさん?

アタル,「セーラさん、アサリさんと連絡取れます?」

#textbox Kse02A0,name
セーラ,「えっ!? は、はい…」

俺の強い口調に異変を感じ取ったのだろう。セーラさんも携帯電話を取りだし、コールする。

#textbox kas0120,name
アサリ,「『はいはーい。どうしましたかー?』」

アタル,「ちょっと代わってもらえる?」

#textbox Kse0280,name
セーラ,「どうぞ」

アタル,「ええと、俺です。アタルです」

#textbox kas0110,name
アサリ,「『アタルさんですかー。どうしましたー?』」

アタル,「今俺たち二人って見えてます?」

#textbox kas0120,name
アサリ,「『はいー。仲良く歩いていらっしゃいますねー』」

見えてるってことは、おそらく警護についているはず。

じゃあもし俺を狙っているのがいるとすれば、アサリさんに見破られずに隠密に行動しているってことになる。
今ってもしかして、この前と同じぐらいヤバイんじゃないのか?

アタル,「アサリさん、ここにすぐ来れる?」

#textbox kas0120,name
アサリ,「『行けますよー。5秒もいらないぐらいですー』」

アタル,「じゃあセーラさんの警護を引き続きよろしく。俺はなんか狙われているっぽいので、ちょっと離れるから」

アサリ,「呼ばれて飛び出て参上ですー……って、アタルさん、どこへー?」

セーラ,「…アタル様? それはどういう…」

アタル,「悪いっ。アサリさんと一緒に行動してて!」

俺はセーラさんを巻き添えにしないよう、急いで駆け出した。

アタル,「はあっ、はあっ、はあっ……」

すぐに息が上がる。運動不足の身体にダッシュは辛い。

元から運動神経も良くないから、カッコ悪いことこの上ない。

アタル,「おかしいなあ。この携帯また壊れたのか?」

何度コールしてもつながらない。

この携帯は専用回線だから、一般回線が非常時だろうといつでも通じるのが強みとか柴田さんは言ってたのに。
どっちだ。回線? 電話そのもの?でもコール音がかかるし……。
『ガガガガガッ!』

アタル,「うおっと!?」

顔をかすめて近くの電柱に、さっき見たクナイが刺さっていた。

『しゅ~~』

アタル,「えっ、コンクリが溶けて―ー―。これ何塗ってあんのッ!?」

相手の姿が確認できない。まあ確認できたところで、俺に対処できるとも思えないけど。
再び走りながらコール。今度はセーラさんへ。

#textbox kse0240,name
セーラ,「『アタル様、ご無事ですか?』」

アタル,「ま、まあ何とか…そっちは大丈夫だよね!?」

#textbox kse0280,name
セーラ,「『はい。普段隠れている警護の方々が出てきて、私の周り、物々しい状態です』」

アタル,「なら平気だね。それじゃ!」

#textbox kse0240,name
セーラ,「『あっ、待っ――』」

良かった。間違いない。狙われているのはセーラさんではなく俺だ。今度はSPの人に電話。
ツー、ツー、ツー…。

相変わらず変化ナシかよ。どうなっているんだこれは。

#textbox ksi0130,name
柴田,「『こちら柴田です。アタル王ッ、聞こえますか?』」

アタル,「柴田さんっ!? 俺です、アタルですっ!今大変な目にあっていて、SPさんたちに全然連絡がつかなくて…」

何だか自分でも言ってることがまとまらない。

#textbox ksi0150,name
柴田,「落ち着いて聴いてください。今アタル王の周りのSPが全て無力化されています」

アタル,「ああ。やっぱりそうなんだ…」

外れて欲しいという僅かな期待が打ち砕かれる。こういうことは平気で当たるよな、俺。

#textbox ksi0110,name
柴田,「現在位置はその携帯で把握してます。すぐに警護を寄越しますので、アタル王はとにかく逃げ回ってください」

アタル,「逃げ回れ、か」

戦えといわれるよりはマシだけど。

#textbox ksi0110,name
柴田,「極端な話、アタル王は生まれ持った当たらないという強運がついてますので滅多なことではやられないハズです」

#textbox ksi0120,name
柴田,「いいですか、どこまでも逃げてください。我々も早急に駆けつけている最中です」

アタル,「了解」

携帯の調子の問題ではなかった。

俺の周りに普段から何人SPがついているのかわからないけど、それが全員倒されているってことらしい。
前みたいに警護をかい潜ってるのではなく、無力化ってことは相当ヤバイ相手なんじゃ……。

『ひゅんっ!』

アタル,「ぬぉあっ!?」

吹き矢のようなものが腕をかすめ、街路樹に命中。

『ザザザッ………ズシャーン』

あっという間に青々としていた樹が枯れ、葉が落ち、朽木となって横たわる。

アタル,「げげっ!?悪名高い枯葉剤だってここまで凄くないだろッ!?」

疲れてはいるものの足を止めるわけにもいかず、慌てて俺は人気のない方へ走った。

アタル,「こんなところまで来ちゃったよ…」

強烈な攻撃を悪運で避けているうちに妙な場所へ迷い込んだ。

アタル,(というか、追い込まれたのか?)

もう日も暮れた時間帯。

寂しい廃コンビナートは人気などもちろんなく、朽ち果てる金属の残骸が、風を受けてたまに悲しげな音を上げる。
『カカカッ!』

手すりに今日何度もお目にかかるクナイが刺さる。

エイリアンの体液にでも触れたかのように、金属製の手すりが強い酸に触れたかのごとく腐食する。

アタル,「勘弁してくれよ…」

非常階段らしきものを登るしか逃げ道がなく、上へ、上へと追い詰められた。

細くて腐りつつある足場。

姿を現さない相手に苛立ち、たまらず俺は振り返って叫んだ。

アタル,「もうここには俺しかいないぞ!いい加減顔でも見せやがれ!」

『ヴィーン、ヴィーン…』

大声を張り上げたのにコールの入る携帯。タイミングを外された気分だったが、俺は通話ボタンを押した。
#textbox ksi0120,name
柴田,「『こちら柴田です。もうまもなく廃コンビナートに到着予定です』」

#textbox ksi0120,name
柴田,「あと敵の正体がわかりました。驚かないで下さい。今回の敵は………」

???,「全力なのにホント、当たらないんですねー」

携帯の向こうで喚いている声が遠ざかる。

クナイの持ち主に、俺は愕然とした。

アタル,「えっ……どうして…」

#textbox Kas0180a,name
アサリ,「こんばんは、アタルさまー。死ぬにはとっても綺麗な月夜ですよー」

アタル,「何でアサリさんが俺を……?」

#textbox Kas0120a,name
アサリ,「王様のご命令なんですー。セーラさんを娶らず、危険に晒すようだったら排除しろとー」

#textbox Kas0110a,name
アサリ,「アサリの与えられたお仕事はーセーラさんの警護と、アタルさんの暗殺ですからー」

アタル,「バルガ王は俺を信用していないって訳か」

#textbox Kas0160a,name
アサリ,「娘とセックスして、まだ娶らない腰抜けなんぞ殺してしまえってことらしいですー」

アタル,「いつの間に伝わっているんだよッ!?」

って、アサリさんからだよなあ。

#textbox Kas0150a,name
アサリ,「まあ王様はセーラさんが大事なんでしょうねー」

#textbox Kas0120a,name
アサリ,「それに王様基準ですとー、簡単に暗殺されるぐらいなら、王としての資質もその程度だそうでー」

確かにバルガ王だったら絶対的な強さこそ王様の証だとか言いそうだな。

アタル,「じゃあ俺の周りのSPをやったのもアサリさんなんだね」

アサリ,「はいー。みんな顔見知りだったので簡単でしたよー。でも命に別状はないはずなのでご勘弁をー」

アタル,「俺の命もご勘弁してほしいところだけど」

#textbox Kas0110a,name
アサリ,「すいませんー。そうは問屋が卸さないですー」

じゃきんっ!と、大鎌とクナイを構えるアサリさん。

こっちは思い切り丸腰。勝つ要素ゼロ。

アタル,(どうすりゃいいんだ、これ…)

簡易の手すりがあるだけで、歩くだけでグラつく細い足場。

立ち入り禁止の札を越えた先は行き止まり、というか足場すらない。

下を見ると月明かりが差し込むものの、暗くて地面が見えなかった。

落ちたらタダでは済みそうにない。というか相当高いぞ、この場所。

#textbox Kas0130a,name
アサリ,「では行きますよー」

アタル,「ッ………」

軽やかに距離を縮めるアサリさん。こっちはもう逃げ場がない。

セーラ,「待ちなさい、アサリさん!」

アサリ,「あれぇ、セーラさんじゃないですかー。一緒についてきたら危ないと言ったのにー」

セーラ,「はあっ、はあっ……。アサリさん、これはどういうことですか?」

呼吸を整え、セーラさんが厳しく詰問する。

アサリ,「見ての通りですー。すぐに済むのでお下がりをー」

アタル,「うおおっ!!」

セーラさんの言葉で隙が出来たアサリさんに駆け寄り、武器を奪おうとしたものの―――。
アサリ,「飛んで火に入るナンタラですねー。そーれ」

取っ組み合いすらさせてもらえず、『ズダンッ!』と地面に引き倒される。
倒れた拍子に足場を繋いでいたネジが外れ、かん高い金属音を鳴らしながら下に落ちていく。

アサリ,「苦しまないように一発で仕留めますから安心してくださいねー」

アタル,「安心できるかッ!って、うわっ! なっ!? 危なッ!?」

アサリ,「あんまり動かないで下さいー。上手く当たらないですよー」

大鎌が何度も振り下ろされ、不安定な足場に突き刺さる。

アタル,「当たってたまるかぁ!」

俺は芋虫のごとく器用に避ける。

アサリ,「さすがに『当たらない』体質なだけありますねー。でもこれだとどうでしょうかー」

アサリさんは馬乗りになり、完全に俺の動きを止めた。

アサリ,「確実に当たる状況を作ればアタルさんも避けきれないハズですよー」

アタル,「ぐっ……」

やばい。この前の事件で、彼女は俺がどうやったらかわせないのかを把握している。

すっ呆けているようで、これまでの暗殺者よりよほど賢い。

セーラ,「ダメですっ、そんなことさせません!」

俺に跨ったアサリさんの向こうにいるセーラさんが助走をつけてこちらに向かい、幅跳びの要領で思い切りジャンプ。
とは言っても大した飛距離も出ず、そのまま着地。

足場がグラリ、と大きく揺れる。

アサリ,「あ、ら、ら…?」

アタル,「セーラさん、ナイスフォロー!」

壊れそうなほど大きく軋んでアサリさんが体勢を崩した。

アタル,(今度こそアサリさんの武器を奪える!)

そう思って伸ばした手は空を切った。

避けられた……わけじゃない。さっきのセーラさんの着地で足場が崩れているらしい。

アサリ,「あらー」

とっさのことに対応できず、アサリさんの体が宙に投げ出される。

セーラ,「アタル様~」

そして同じくセーラさんも……。

アタル,「くっ、待て待て待て待てッ!!」

俺は両手を懸命に伸ばして――よし、掴んだ!

『ガコンッ!』

滑り込んで掴んだ両手を伝い、腹這いになった身体に衝撃が走る。

アタル,「ぐっ……ッ」

セーラ,「アタル様ッ! 大丈夫ですか」

アサリ,「おー、間一髪」

全く酷い光景だった。

彼女たちの下では暗闇が二人を吸い込もうとするかのように広がっている。

アタル,「ぬっ…くっ……うぅ」

もっと鍛えておけばよかった。

ムダに筋肉つけたってモテるとは限らないし、人生役立つことなんてありゃしないとか漫画雑誌の巻末にある広告をみて悪態ついていた。
アタル,「ッ………ぐッ」

でも今は実感している。

備えていたってしくじることがあるのに、備えナシで憂いに対応するなんて無謀なことなのだと。

アサリ,「アタルさんー。その手を離してくださいー」

セーラ,「アサリさん、何を言い出すの!?」

アサリ,「だってアサリはアタルさんの命を狙った悪者ですからー。このままだとセーラさんも一緒に死んじゃいますよー」

セーラ,「こんな場所でアサリさんを失うのはイヤです!」

でもアサリさんはかぶりを振った。

アサリ,「きっとこれは天罰ですよー。セーラさんの気持ちを知っていてー、アタルさんの気持ちも知ってましたけどー」

アサリ,「それでも王様に言われてアタルさんを殺しかけたからですー」

セーラ,「お父様が…? そ、そんな……」

アサリ,「今更ですけどアタルさんすいませんでしたー。セーラさんをよろしく頼みますー」

猫は自分の死期を悟るらしい。諦めにもにた表情を見せ、アサリさんは握っている手を緩めようとする。
アタル,「…る……ぇ」

アサリ,「早く離すですよー。このままだとみんな一緒に落ちちゃいますー」

アタル,「うるせぇってんだよ!俺を差し置いて二人で勝手なこと言うな!」

アタル,「つーか集中しているんだから手ぇ離せとか余計なこと口走るんじゃねぇッ!!」

イラついた俺は大声を出す。

セーラ,「アタル様…」

アサリ,「アタルさん…」

宙ぶらりんな二人が口をつぐんだ。

アタル,「もうちっと……辛抱してくれ………確かに…間もなく着くって…言ってたは…ず……だ…」

腕がプルプルしてくる。女性だというのに重たくて仕方ない。

二の腕が痛くなり、続いて肩、首、そして上半身全体の筋肉が強張ってくる。

アタル,(女性とはいえ、今両腕で支えている重さってもしかして100kg近くになっているのか……?)

数字を改めて実感し、愕然とする。あとどれくらい支えていられるのだろうか。

こんな映画みたいな危機的状況、貧弱な俺には荷が重過ぎる。

アタル,「ああっ……くそっ…」

時間が長く感じる。あれから何分経った?持ってあと何分だ?
不安でいっぱいな二人が見上げる。

でも余裕のない俺は、元気付ける笑顔すら向けられない。

アタル,「ぐっ……つッ………」

もう3分ももたない。手も腕も痺れて感覚が鈍っている。

間もなく到着とか言ってたじゃねぇかよ。間もなくってどんだけだ。顔見たらぜってぇぶん殴っ―――。
#textbox ksi0110,name
柴田,「アタル王。ご無事で」

背後から声がする。

凌ぎ切ったことを確信し、さっきまで絶望感に溢れていた気持ちが喜びに変わり、力が湧き上がった。
アタル,「遅ぇよ! いいから早く手伝え!」

#textbox ksi0110,name
柴田,「了解です。アサリ様も助けてよろしいのですね」

アタル,「はぁ!?ふざけんなッ! 当たり前だろうがッ!」

よっぽど俺は余裕がなかったのだろう。

こんなに口汚く罵ったのは生まれて初めてかもしれない。

アタル,「二人とも、怪我はない?」

セーラ,「大丈夫です。それよりアタル様の方が怪我してらっしゃるのでは?」

アタル,「俺はこの通り平気だよ。アサリさんは?」

アサリ,「……どうして」

アタル,「…アサリさん?」

アサリ,「どうして助けるのですか?あなたの命を狙ったんですよ?」

アタル,「どうしてって言われても…」

とっさの行動を尋ねられても困る。

きっと俺にとってアサリさんは、敵だという認識がなかったんだろう。

アサリさんのあの行動が信じられないから。信じてなかったから手を伸ばした。

でも実際のところは…。

アタル,「自分でもよく…わかんないよ」

アサリ,「………」

アタル,「それよりみんな助かったんだから良かったじゃん。はははっ……」

俺は力が抜けて思わず座り込んだ。

セーラ,「アタル様ッ!?」

柴田,「緊張が抜けて脱力しただけでしょう」

アタル,「悪かったね、柴田さん。駆けつけてくれたのに怒鳴ったりして」

柴田,「いいのですよ。むしろあのタイミングであの質問の方が、どうかしてました」

アタル,「それじゃ屋敷に帰ろう。ほら、セーラさんもアサリさんも一緒に」

疲れきっていたせいか、そこからの記憶があまりない。

送迎の車で屋敷に帰り、風呂に入ってメシ食ってベッドに寝転がって、ようやくあのスタントマンみたいな出来事を振り返った。
アタル,「あー………マジで死ぬかと思った」

今でも信じられない。思い出すだけで震えがくる。

#textbox ksi0110,name
柴田,「アタル王、ちょっとよろしいでしょうか」

アタル,「どーぞ」

俺が横になったままだらしなく返事をすると、柴田さんが入ってきた。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「お加減はどうですか?」

アタル,「見ての通りグッタリです」

#textbox Ksi0150,name
柴田,「ははっ、でしょうね。それでアサリ様の処遇はいかがいたしますか?」

アタル,「処遇?」

いきなり最初の質問がそれだった。そういや殺されるところだったんだ。

アタル,「うーん………何もないよ。死人も怪我人もゼロだし」

#textbox Ksi0160,name
柴田,「処罰はナシ…ということですか」

驚いた顔で柴田さんは俺を見た。

アタル,「バルガ王の命令っぽいし、アサリさんの意思じゃなさそうだったから」

アタル,「柴田さん、考えが甘いとか思ったでしょ?」

図星だったのか、柴田さんは目を合わせなかった。

#textbox Ksi0110,name
柴田,「いいえ。アタル王がそう決めたのならそれに従うまでです。では失礼」

少々強引に切り上げ、柴田さんは部屋を後にした。

確認したら、やっぱりアサリさんの言うとおり無力化された俺のSPの人々は無傷だったらしい。

怪我人を出さなかったのはアサリさんなりの気遣いだったのかもしれない。

#textbox kas0110,name
アサリ,「アタルさんー。ちょっといいですかー?」

アタル,「どうぞ。開いているよ」

扉が開くと、そこには深々と土下座するアサリさんが。

アタル,「ちょっと、何やっているのさ!?」

#textbox Kas0110,name
アサリ,「この国での謝罪方法に沿ったまでですー。命を狙って申し訳ありませんでしたー」

アタル,「いや、あの、他の人に見られると恥ずかしいから中に入ってくれる?」

#textbox Kas0150,name
アサリ,「はいー」

#textbox Kas0110,name
ちょこんと椅子に座るアサリさん。

こうして見ると小さいなあ。ホント小動物なカンジ…というより、猫なのか?

座っている今でもあの耳と尻尾は、たまに思い出したかのようにピクピクと動く。

#textbox Kas0120,name
アサリ,「あと助けていただいてありがとうございますー。あそこから落ちたらさすがにアサリでもぺっちゃんこでしたー」

アタル,「ぺっちゃんこって……。何だかその言葉、久しぶりに聞いたよ」

#textbox Kas0160,name
アサリ,「やだなあー。アサリのおっぱいのことじゃないですよー。これでもミルフィさんよりはありますしー」

アタル,「ちょッ―――!?俺一言もそんなこと言ってないでしょ!?」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「今だから言えますけどー、ミルフィさんの体格見たときにー、アタルさんが超絶ロリコンだったらどーしようかと思ってましたー」

#textbox Kas0150,name
アサリ,「アサリがこの身体を使ってアタルさんを惹きつけてーそこを糸口にセーラさんに引っ掛かってもらえばなーとか作戦練ってましたけどー」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「思った以上におっぱい星人で何よりですー」

アタル,「えーと。どこでそういう解釈になるんでしょうか」

#textbox Kas0140,name
アサリ,「違いましたかー。あれだけ揉みしだいて挟まれて喜んでいたからてっきりー」

アタル,「はいはいストーーップッ!?」

絶対に一部始終見ているよな、この娘は。

#textbox Kas0110,name
アサリ,「これからアサリは王様に報告へ行くのでしばらく本国へ帰りますー。ですのでセーラさんのことをくれぐれもよろしくですー」

アタル,「あれ、そうなんだ」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「失敗しましたしー助けられちゃいましたからー。一応伴侶になるっぽいから見守るよう進言してきますー。ではまたー」

アタル,「えっ!? 窓開いて…今から帰るの?」

アサリさんは手を振った後、近くの窓を開きそのまま自由落下。

慌てて覗き込むともうその姿はなかった。

それからアサリさんは姿を消した。暗殺失敗で帰国して報告して、無事に済むんだろうか。

アタル,“………”

やっぱりアサリさんの言叶が气になる。

初对面のときからバルガ王は俺のことを气に入ってなかったみたいだ。

おまけにアサリさんを刺客として寄越していたなんて……。

#textbox Kse0180,name
セーラ,“アタル样、Hな妄想は颜に出易いからお气をつけたほうがよろしいですよ?”

アタル,“いやいや、考えごとしていただけですよッ!?”

#textbox Kse01B0,name
セーラ,“もしかしてアサリさんのことですか?”

アタル,“うん”

アサリさんは话をつけてくるとは言ってたけど、大丈夫なんだろうか。

柴田さんの言うようにじゃないけど、ムリにでも处罚を与えて、ニッポンで保护する形にした方が良かったかもしれない。
#textbox Kse0190,name
セーラ,“平气ですよ。アサリさんならきっとすぐ戻ってきます”

そう言いながら、笑颜で腕を络ませる。

でもどうなんだろう。建前上婚约相手である俺を消そうとしたぐらいだ。これだけで济むとは思えない。
この先セーラさんと俺は一绪にいられるのだろうか?

#textbox Kse0180,name
セーラ,“アタル样…”

俺の本当の不安に气付いたのか、络めた腕に力が笼る。

女子学生,“いいなあ、セーラさんはラブラブで”

女子学生,“あたしも彼氏欲しー。セーラさん、コツってあるの?”

#textbox Kse0120,name
セーラ,“私も经验豊富というわけではありませんが、想いを寄せる方がいらっしゃったら、1にも2にもアタックですよ”

#textbox Kse0110,name
セーラ,“私の国は男性が少ないという事情もありますが、お相手を探すのは大变なんです”

女子学生,“でも、アタシってセーラさんほど绮丽じゃないし、积极的になっても无理ってカンジしない?”

#textbox Kse01B0,name
セーラ,“あら、积极的なことこそ一番大事ですよ”

#textbox Kse01D0,name
セーラ,“‘1度の失败は100回の消极にも胜る’という谚が私の国にはあります。恋も踌躇は何も生み出さないですからね”

#textbox Kse0180,name
セーラ,“この国の何かの记事で见ましたが、告白されてとりあえず付き合ってみようと思う人は结构いるらしいですし”

#textbox Kse0190,name
セーラ,“言わずにそのうち谁かと付き合い始めたら、それこそ一度くらい言っておけばよかったなあって后で思っちゃいますよ?”

女子学生,“うーん。そうだよね…”

#textbox Kse0110,name
セーラ,“で、どの殿方なんですか?”

女子学生,“えー、ここではちょっと言いにくいよ~”

女の子ってこういう话、ホント好きだよなあ。

女子学生,“あたしはそろそろカレといいカンジになりそうなんだけど~。これだけは注意しておいたほうがってことある?”

女子学生,“ヒニンはもちろんだとしてー…”

#textbox Kse01B0,name
セーラ,“私は避妊なんてしてませんよ?”

不思议そうなセーラさんの表情とは里腹にクラスがざわつく。

女子学生,“いや、だってあたしたちの年で妊娠は早いでしょ?”

#textbox Kse0190,name
セーラ,“生理がきているのですから身体の准备はととのってますよ。それにアタル样は私に构わずたっぷりと中出───”

アタル,“ちょっ─ー待った待った!?今また凄いこと言おうとしなかった!?”

#textbox Kse0110,name
セーラ,“いいえ、ただ私とアタル样の凡例を述べようとしただけですわ”

アタル,“ダメだってば!ヘタに闻かれたらまた俺の命が───”

男子学生,“セーラさん、ダメ彼氏の口はこちらで塞ごう”

男子学生,“亭主关白は放っておいて…さあ、话の续きをどうぞ”

#textbox Kse0120,name
セーラ,“助かります。ええとですね……”

アタル,“ダメッ、やめろッ! やめて!いや、もうお愿いですからやめてください…”

涡卷く憎恶。男子学生からの憎しみの连锁に、高まる紧张感。

一方で俺はまたさっきのことを考えていた。

ここに溶け迂み、クラスメイトと谈笑するセーラさんの笑颜。

その笑颜を见るだけで安らげるのに、今は不安ばかりが募る。

气が晴れない。胸の奥につっかえたもやもやしたもの。

これがなくなったとき、セーラさんはここにいるんだろうか。

……

…………

アタル,“はぁ………”

汤を浴び、身体にまとっていた污れを泡と共に流す。

これといった对策があるわけでもなく、漠然とした不安にため息がもれた。

风吕に入れば气分も晴れるかと思ったけど、そうでもないようだ。

#textbox Kse0010,name
セーラ,“もう、まだ暗い颜をしてらっしゃるのですね”

汤气の昙りから出てきた裸体。艳かしい肌と、凹凸のはっきりしたボディライン。

アタル,“ちょ、ちょっと!?どうしてハダカなんですかッ!?”

#textbox Kse0020,name
セーラ,“ここはお风吕场ですよ。ハダカであることに理由がいります?”

アタル,“俺が入っているって言わなかったっけ?”

#textbox Kse0080,name
セーラ,“知ってます。でも沈んだ表情だったんで、少しでも元气付けたいと思いまして……”

スッと足元に跪いて、股間に手が添えられる。

アタル,「えっ…ええっ!? 元気ってそっちの話!?」

セーラ,「あら、残念ですわ。綺麗になってます」

アタル,「さっきまで洗っていたし。まあ今回は――ー」

セーラ,「また汚れてしまうのに…ねぇ?」

アタル,「ねぇ…って誰に言って……うぁっ!?」

優しく竿の上部を握り、片手で睾丸を擦る。

セーラ,「ふふふっ、大きくなってきましたわ」

セーラ,「ちょっと触れただけですぐ硬くするなんて、結構節操ナシですね」

セーラさんは悪戯っぽい表情で覗き込む。

アタル,「うっ…何だか凄く……」

恥ずかしい。

感じているときの顔も冷静に、一方的に見られてしまう。

セーラ,「どのへんがいいんでしょうか。ここ? それとも…ここかしら?」

アタル,「ひっ……ふっ…あっ」

セーラ,「可愛い声…アタル様、何だか今は私より女の子みたいですよ?」

アタル,「だ、だって……」

指の腹が亀頭の表皮を円を描くように擦る。

袋がやわやわと弄ばれ、ときおり睾丸と一緒にまとめてきゅっと握られる。

セーラ,「透明な液体が糸引いてますよ。これって我慢汁というものでしょうか?」

アタル,「うっ…く……」

セーラさん、絶対にわかっていて聞いているよな…。

セーラ,「ふふっ。気持ちよくて、返事もできない感じですか」

ったく、こっちの気も知らないで……。

アタル,「いえ、全然。気持ちよくないですよ」

セーラ,「あら。本当にですか?」

アタル,「はい」

よし、このまま真面目な話に―――。

セーラ,「ならちょっと趣向を変えましょう。これを全体にまぶして……」

唾液が竿全体に塗りこまれ、自慰と同じような上下運動が始まる。

アタル,「なぁっ!? ッ……うっ、んっ……ッ…」

力の加減の荒さと、自分のペースとは違った手淫。

セーラ,「それと、ここってどうなんでしょうか」

思い出したかのような口調。袋を弄っていた手が止まり、その下の方へ伸びる。

アタル,「うわあっ!?ちょ、ちょっと待っ―――うっ、ぐっ…!?」

セーラ,「わっ、ビクンって大きく跳ねましたよ。よっぽど気持ちいいですね」

アタル,「いや、そうじゃなくて! そこは敏感で……んっ!」

セーラ,「アタルさんの弱点見つけちゃいました。重点的に責めちゃいます」

妖艶に微笑み、竿を上下させながら肛門に指を抜き差しする。

アタル,「くっ…あっ、んっ……ッ」

セーラ,「ほら、ほら…これでも気持ち良くないですか?」

小さくて爪先のととのった形の良い指先が、粘液をまとって根元を包み込み、しごいている。

セーラ,「イきたくなったら、構わずにイっちゃってくださいね」

相手のさじ加減次第な勝手の違う手淫とそんな姿を見上げられる自分。

ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅ……。

もう拙い動きすら心地良かった。

アタル,「かっ…くっ……うっ…あっ」

漏れる先走りを掬い取り、肛門に塗りながら指を侵入させる。

『ず…にゅぅ……ずっ…ずっ……』

アタル,「やっ…ば……いって……それ…ぅ……あ…」

そのせいで力が入らない。力むと余計にセーラさんの指を締め付けて、刺激が強くなってしまうからだ。
絶頂が近いのに足に力を入れられないなんて。

セーラ,「ほら。イって……さあっ」

アタル,「うっ…ぐっ……あっ、ああっ! ぅ…あっ!!」

びゅくっ! びゅくっ! びゅくっ!

欲望の塊が噴き出し、辺りに撒き散らされる。

アタル,「あっ、うっ…わっ、ちょっと…もう止めていいから!」

精液が吐き出されている最中もセーラさんは加減のない上下運動を繰り返す。

セーラ,「ふふっ、こうやって男の人は自分で出すんですね」

自慰とは違い、射精の間も彼女は最後の一滴まで搾り尽くそうとしごきあげる。
アタル,「ぉあっ…あっ、あっ……。も、もう出ないからストップ、ストップ!」

出したばかりで敏感になった股間が、終わった後も続けられたその過剰な摩擦で痛みすら感じていた。
セーラ,「一人で悩まずに、私も頼ってください。伴侶というのは、疲れたときに遠慮なくよりかかることのできる関係でもあるんですから」

アタル,「あ……うん」

俺が悩んでいたの、知ってたんだ。

だからわざと元気付けようとして……。

アタル,「ところでセーラさん」

セーラ,「あら、何でしょう」

アタル,「アナルをいじるのは…禁止」

セーラ,「どうしてですか?あんなに気持ち良さそうだったのに」

アタル,「なんつーか…変な世界に目覚めそうでイヤだからです」

セーラ,「気持ちよかったことは否定しないんですね?」

アタル,「うっ……」

尻の穴なんぞイジられて気持ちよくはなかった…はず。

でも射精するときはごっちゃになって……。

アタル,「…うおりゃっ!」

セーラ,「きゃっ!?」

アタル,「今度は俺がセーラさんにも同じことします」

顔を近づけ、剥き出しになったピンク色の割れ目に舌を這わせる。

セーラ,「ふああっ!? んっ…あっ、ああっ!」

その上にある充血した突起を指で摘む。

セーラ,「やっ! んんっ! っ……んっ! くっ、あっ!つ、強いです…あっ、あっ、ぅ…んンっ、んあっ!」

アタル,「おっ―――うぁあっ!?」

セーラさんが俺のペニスを咥えた。頬の内側に押し付け、舌で挟み込むように吸い付く。

まだ出したばかりだからか、その刺激が痛いほど伝わってくる。

セーラ,「イかせちゃう勝負なら負けませんよ」

アタル,「俺は一度出しているから早々出ない…と思う」

セーラ,「あむっ、ちゅっ……んっ、ずっ、ずずっ…」

アタル,「んむっ……じゅるっ、じゅっ、じゅるる!」

セーラ,「んあぁ!? やっ…んんっ……ずる…ぃ…んっ!」

舌を挿入して蜜をかき出し、それに口を貼り付けて豪快に啜る。

アタル,「んっ、ずっ、じゅっ……ちゅっ、ずちゅ! ずっ!ずるるるっ! んむっ―――ぷはぁ………あっ」

さっきのお返しを思いつく。
指に唾液をたっぷりとかけ、
色素が沈着した部分に入り込ませる。
セーラ,「ふあああっ!? やっ、それっ、ふぁ! あぅ!んんっ、うあっ! あっ、ああっ! んああっ!」

お尻の穴を責めると、セーラさんは愛液を俺の顔にぽたぽたと零していく。

セーラ,「ふあっ! そ、それずる…いです……んっ、んっ!」

二つの穴を交互に責めると、セーラさんが抗議の声をあげた。

アタル,「ずるいも何も、さっき俺がやられたんだけど」

セーラ,「ん、うん、ちゅっ…ちゅう、んむっ……っ…んっ。んっ、ずっ、ずるっ、ずずっ、じゅるるるっ!!」

アタル,「あっ……おっ…うっ…く」

セーラさんも負けじと俺の陰部に唾をたらし、それを吸い込むようにすする。

アタル,「ん……ちゅっ、ちゅ、じゅる、んむっ…むちゅ……。んむっ、んくっ、んっ……んんんっ…んくっ、はむっ」

セーラ,「んむっ、じゅっ……っ、ちゅ……ちゅるっ…じゅる…。じゅるるっ…ちゅっ……んくっ……ずっ、ずずっ…」

お互いをイかせようと、競い合うかのように秘部を舐めあう。

セーラ,「ちゅくっ…れろ……れろ…んっ、んむっ…ちゅっ…。んくっ…ちゅる、ちゅ、んっ…あむっ…じゅるっ……っ」

アタル,「ふっ…は…っ…んくっ……んっ、んんっ…んっ…っ。じゅっ、じゅるっ……ず、ずずっ、じゅるっ…んくっ…」

セーラ,「ん…んっ、むっ……ぷはっ、やっ、ああっ! んっ!イク、あっ! ひあっ! ああっ! ああああっ!!」

先に果てたセーラさんのアソコがビクビクと震える。

同時に熟れたモモのように白くて綺麗なヒップがわななき、俺の顔に粘っこい蜜を雨のように降らせた。
アタル,「ふぅ、ふぅ…俺の勝ち…かな……」

セーラ,「んっ……あっ…くっ…悔しい…。でも今度は…アタル様の番です」

アタル,「わっ…ちょっと……うわっ!」

セーラ,「ちゅっ、ちゅくっ…ちゅるっ……ずっ、ずずっ!はむっ…むちゅ、ちゅっ、ずっ! じゅるぅっ!」

アタル,「やばっ…くっ…うっ、うあっ!」

セーラ,「んっ! んむっ、ずるっ! じゅじゅっ! ずっ!ずずずっ、じゅるるっ! ずるるっ! ずずずっ!」

アタル,「うっ……あっ…」

セーラ,「わっ…二回目なのに……」

先ほど出したばかりなのに、白濁の粘液はセーラさんの顔まで飛んでいった。

セーラ,「…苦いです」

ぺロリ、と舌なめずりするセーラさん。その顔は淫猥なのに、とても綺麗に見えた。

セーラ,「元気…出ました……?」

アタル,「出たっていうか…。元気が出ていっちゃったカンジだけど」

セーラ,「もう、こんなに私が身体を張っているんですよ?お世辞でもそこは出たって言わないと」

ちょっと怒った風にセーラさんは言った。これは彼女なりの励ましなのだろう。

気持ちよかったのは確かだし、さっきまでのもやもや感は随分と晴れた気がする。

アタル,「うん。元気…でたよ」

セーラ,「よかったです。じゃあ最後にもう一回できますわね?」

アタル,「へっ…いや、その」

何を言ってるのかわからないんですが―――。

セーラ,「ふぁああっ!!」

セーラさんのアソコが俺の分身を一気に飲み込む。

一度達した内部はじっとりと濡れて、いきなり動いてもペニスが引っ掛かることなくスムーズに抽送運動できる状態だった。
セーラ,「この体勢…すご……奥まで刺さって……んっ、んっ!ひっ、ああっ、ああっ! うあ! やっ、ひああっ!」

アタル,「っ……どうなっても……知らないぞ…」

セーラ,「やあっ…あっ、ああっ! これ…んっ、んんっ!いけない……ッ…場所ま……で…ふあっ! ああっ!入っ…て……んんっ、やあ、あっ! うあっ、あっ!」

セーラさんを振り落としそうなぐらいの強さで突き上げる。

浮き上がると同時に今度は自重で深く挿入され、交わりから愛液が押し出される。
セーラ,「ひあっ! や、やだ…これ……おなかに…んっ…っ、ずんずん…って……うっ、あぅ、あっ! ふあっ!」

湯気とその暖かさで少し動くとすぐ息が上がってしまう。

お互いの肌に浮かんでいるのが汗なのか水蒸気なのかわからなくなってきた。

セーラ,「はぁ、はぁ…んっ! くっ、う…くっ……ああっ!」

しっとりと濡れた髪を振り乱し、セーラさんがお腹の上で喘いでいる。

そういや全裸のセーラさんって初めて見るんじゃないだろうか?

豊かなバストと、くびれたお腹の下にあるヒップ。愛らしい端正な顔立ち。

こうして見ると、セーラさんって女性として申し分ない容姿を持っているだと改めて思う。
アタル,「綺麗……だ…」

セーラ,「あっ……んんっ! んっ! はぁ、はぁ…何か……仰いました?」

アタル,「いや……別に」

そんな女性が自分の彼女でお嫁さんになるだなんて、どれだけ恵まれているんだろう。

好きだ。手放したくない。

そう思って俺は強く彼女を突きたてた。

セーラ,「あ、う…ああっ、あああっ……ッ! うあっ!」

ぶちゅ、ぶちゅっ、と重い水音がお風呂に響く。

セーラ,「い…あっ! や、やらっ……うあ、あっ…んっ!やっ、うあっ! ああっ、あっ…んんっ! んんぅ!」

広い風呂場にセーラさんの喘ぎ声が反響していた。

誰かが気にして様子を見に来たら、何て言い訳すればいいんだろうか。

まあ言い訳する気も起きないけど。

セーラ,「ひあっ、あっ、んんっ! ああっ、ひぁ…ンあっ!やっ、ああっ! んああっ! あっ! ああっ!」

セーラ,「も、もう……ぅ…んっ! わ、私……ふあ、ああっ!イ…っ……くっ…ンんっ! イきま…す……っ、あぅ!」

『ぱちゅん! ぶちゅんっ!ぶちゅっ、ぶちゅっ! じゅぷんっ!』

派手な腰の打ちつけで生じる卑猥な音。

まるでセーラさんのお尻に折檻でもしているみたいだった。

セーラ,「ああっ、あふっ! ふぁ…ふぅんんっ! ひああっ!やあっ、ああっ! やあっ! うあっ、ひっ、うあっ!」

もう慣れてしまったのか、根元まで深く飲み込んでも彼女からは苦しさよりも甘みがかった声しか出てこない。
それどころかさらにその奥を求めて、臀部が押し潰れるぐらいにぶつけてきた。

セーラ,「あはあっ、あっ、ああっ! やあっ! あァーっ!やっ、やっ…やぁあっ! ひあっ! あっ…んああっ!」

淫らな雫が、俺の腹を伝って胸の方まで流れてくる。

セーラ,「あ、ひっ……うあっ! あっ! あっ! んっ!や、あっ…ああ、んっ! ふやっ! やっ! あっ!」

セーラさん自身の動きか、それとも俺の腰使いのせいか。

彼女は大きな動きで落ちそうになるのを必死にその細腕で支えていた。

セーラ,「やっ、もう…んんっ! んっ、あっ! んんっ!イく…ぅ、うあ、うああっ! はあっ! ひっ…っ!」

膣内が狭くなり、小刻みに律動する。スパートに向けて俺も速度を上げた。

セーラ,「ダ…め、ええっ! うあっ、うやっ! くっ、あっ!つ、突かれ……ると…んっ! あっ、あっ、ああっ!」

こっちもお尻に指がめり込むほど鷲づかみにする。

セーラさんが体勢を崩して、こちらにもたれかかるぐらいに腰をぶつけた。

セーラ,「あっ、やっ…んっ! ダメ…だめぇ! いっ、あっ!ふぁっ! イく…ッ、あっ! んあっ! やああっ!」

セーラ,「ふぁっ! いぁ、あっ! うっ、ううっ!うあっ! うああっ! ああ、あっ! ああっ!あああぁあぁああぁぁぁっ!!」

背筋を駆け上がるような大きなうねり。

催した欲望は蜜壷を駆け巡り、最奥に何度もぶつかる。

セーラ,「あっ…うぁっ…お腹……いっぱい…です…」

アタル,「ふぅっ、はあっ…」

挿入していたペニスを引き抜く。

奥に行くのを諦めた精液が蜜とぐずぐずに混じり、太ももまで垂れていった。
#textbox Kse00B0,name
セーラ,「元気…出ました……?」

アタル,「元気は出たけど……くしゅっ!」

#textbox Kse00A0,name
セーラ,「そういえば随分長い間お風呂に――クシュンッ!」

#textbox Kse0090,name
お互いに顔をあわせて苦笑いする、

アタル,「やべ…元気どころか風邪なんてシャレにならないな。さっさと暖まろうよ」

#textbox Kse00A0,name
セーラ,「ええ、そうですね…クシュッ!」

アタル,「ほら、早く早く」

その後は誰も入浴に来なかったので助かった。

しっかり暖まった俺たちは風邪をひくことはなかったけど、さすがに今後お風呂では控えようってことになった。
アサリ,「どーも。戻りましたー」

ここのところ姿を見せなかったアサリさんが戻ってきたのは、休日の昼下がりだった。

セーラ,「アサリさん!? 良かった…心配したんですよ」

アサリ,「ご迷惑おかけしましたー。いない間にセーラさん、また胸が大きくなってませんかー?」

ミルフィ,「また大きく……ですってぇ!? セーラ、あたしの成長をもうちょっと待ちなさいよ!」

アタル,「お前の成長を待っていたらお婆ちゃんになっちゃうだろ」

ミルフィ,「なっ――それどーいう意味よ!」

エリス,「そのままの意味かと。だが大丈夫です姫様。貧乳は垂れにくいですから」

ミルフィ,「あたしは今を生きているの!お婆ちゃんの年頃の心配なんてしてどーするのよ!」

アタル,「まあそれはさておき…今までどこに行ってたんですか」

アサリ,「あはは、申し訳ないー」

アサリ,「それについては報告がありますので良かったらみなさん集まっていただけると嬉しいですー」

リビングには全員が集まり、それぞれ好き勝手に腰掛けた。

#textbox Kas0110,name
アサリ,「そう言えば重ね重ねアタルさんの命を狙ったこと、お詫び申し上げますー。すいませんでしたー」

深々とお辞儀するアサリさん。

アタル,「いや、もうあのことはいいってば。バルガ王の命令で仕方なくやったんだし」

ひよこ,「ふぇええっ!? あ、アタルくん、私の知らないところでそんな目に遭ってたの?」

ミルフィ,「あたしも知らなかったわ。ねぇ、エリは知ってた?」

エリス,「コンビナートでの一件ですね。どうもクアドラントとニッポンの外交問題に発展しそうだったので。失礼ながら様子見の立場を取りました」

アサリ,「あの後ですがー。王様から再び暗殺命令が出ましたー」

ミルフィ,「暗殺って……戦争する気マンマンじゃないの!」

アサリ,「やっぱりセーラさんにはアタルさんが相応しくないそうですー。王としての資質も欠けている、と」

アサリ,「アサリも失敗した上に助けられましたからー。何とか説得してみたんですが…」

言葉が途切れる。つまりダメだったのだろう。

ミルフィ,「アタルってそんなに王様に向いてないかな。これといって凄い感じもしないけど、ニッポンで嫌われているイメージがないような…」

エリス,「この国の調査の結果アタル王に対する支持率は低くありません」

エリス,「と言いますか、支持はさておき、支持しない人々もいますが、そのほとんどが王様というものに興味がないとのことです」

アサリ,「そうなんですよねー。これはアタルさんに限ったことではなくー、あたりめで選んだ歴代の王様に今のところハズレな人がいないんですー」

エリス,「というわけでアタル王。さほど王としての才気を心配することはないぞ。誰もが最初は素人だからな」

呟いてから、エリスさんが何気なくミルフィを見る。

エリス,「王としての資質か………ふぅ」

ミルフィ,「な、何よ。そのため息は!?」

ミルフィ以外がドッと笑った。

つられて笑うものの、これからどうしたものか―――。

柴田,「アタル王、侵入者です。残念ながら防げません」

まさか…。

アサリ,「はぁ…来ちゃいましたかー」

アサリさんがため息をつく。ドアを見たが、そんな穏やかな来場をする人ではない。前みたいに窓ガラスを破って来るのか?
『ドゴーーンッ!!』

爆弾でも爆発したかのような衝撃。部屋にホコリが舞い上がり天井からパラパラと小石が降る。
バルガ,「はっはっは。アタル王。ご機嫌麗しゅう」

砂煙が落ち着き、徐々に声の主の姿がはっきりしてくる。壁にはその巨体を上回る、大きな穴が。
柴田,「バルガ王、ニッポン国の領土で好き勝手な振る舞いは許しませんよ」

苛立たしげに柴田さんが睨む。しかしバルガ王はどこ吹く風な表情だ。

バルガ,「これは失礼。柴田殿。ところでアサリから聞いていると思うが、この度はセーラとアタル王の婚約破棄に参った」

バルガ,「では帰るぞ、セーラ」

簡潔に述べ、セーラさんの腕をとる。

圧倒的な力。

人間業ではない所業を見せつけられ、呆然とする俺たち。

バルガ王に言葉を向けられたセーラさんへ、その場にいた全員の視線が注目した。

セーラ,「……イヤです」

バルガ,「今、何と言った?」

セーラ,「嫌だと言いました」

バルガ,「残念だがこやつは王の器ではない。そもそも王を抽選で決めるなど聞いた事がないわ。選挙なり民衆に選ばれるならまだしも――」

セーラ,「私はアタル様と共に人生を歩みたいのです!」

本当にセーラさんから出たのだろうかと思うぐらい大きな声。

バルガ,「セーラ、好き嫌いの話ではない。お前のその能力は国を左右するものだ。我が信用できない者に、やるわけにはいかん」

セーラ,「好き嫌いこそ一番重要ではないのですか?お父様とお母様の間には愛情なくして夫婦が成立しているのですか?」

セーラ,「本当にお父様はセーラの幸せを考えてますか!?答えて下さい!!」

バルガ,「ええい、うるさい!!全てはお前の為だ、セーラ!!」

バルガ,「アサリ! このわからず屋な娘を引っ張っていくのを手伝わんか!」

アサリ,「わからず屋は王様の方ですよー。アサリもセーラさんはアタルさんがお似合いだと思いますのでー」

ちゃき、と鎌を向けて臨戦態勢を取る。

バルガ,「……やれやれ。手塩にかけて育てた臣下に裏切られるとはな」

アサリ,「恩を仇で返すようで悪いですけどー。ここは譲れませんよー。それー」

ゴンッ! ギンッ!

アサリさんが攻勢をかけるものの、バルガ王は軽く素手で捌いている。

柴田,「SPたち、私に続けッ!」

ミルフィ,「あたしたちも加勢するわよッ!」

エリス,「御意。アタル王、セーラ姫と共に下がっていてください」

柴田さんを筆頭に群がるように突撃するSPたち。

そしてエリスさんが果敢に飛びかかり、ミルフィが自身の身体よりもずっと大きな機銃を浴びせるものの―――。
バルガ,「うははは。どうした、各国の精鋭が揃ってこの程度か?」

ミルフィ,「そんな……重火器が弾かれるって、どーいう構造しているのよッ!?」

バルガ王には全く武器が効いてなかった。足止めどころか、傷すら付けられない。

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バルガ王は特別なことはしてなかった。ただその豪腕を振るうだけで人が面白いように吹っ飛び、動けなくなる。
熊やライオンに立ち向かう方が、まだ勝ち目があるのではと思うぐらい圧倒的だった。
アタル,「くっ……」

#textbox Kba0250,name
バルガ,「どうした。腰が引けてるぞ?」

倒れているアサリさんの鎌を拾い上げ俺はがむしゃらに振り回した。

アタル,「うあああぁ!!」

刃物を容赦なくぶつけているのにバルガ王は意に介さない。

刃先が何度も肌に触れているのに、金属を叩いているかのような弾かれ方をする。

『ドコンッ!!』

アタル,「わわっ!?」

辛うじてかわしたパンチが壁に突き刺さり、崩れ落ちる。

#textbox Kba0210,name
バルガ,「ほう……確かに報告通り当たらんな」

バルガ王がパンチを繰り出すものの、紙一重で全て外れる。

#textbox Kba0250,name
バルガ,「だがこうして完全に動けなくなったら…」

一瞬で背後に回ると、王は俺の首を締め上げる。

アタル,「がっ……ぐ…」

セーラ,「アタル様ッ!!」

バルガ,「やはりこうなるとアタル王もかわせないようだな」

バルガ,「テロリストや銃撃を全てかわすなどという噂を聞いて、一対一で勝負できるかと多少なりとも心踊ったが……とんだ見込み違いだったようだな」

セーラ,「アタル様! アタル様ぁ!」

薄れゆく意識で、セーラさんの呼ぶ声がこだまする。

あんな聞く耳を持たない化け物相手にどうすればいいんだ。

実力行使すらほとんど無力。

大体俺よりよっぽど強いアサリさんやエリスさんで歯が立たないのだから。

悔しいなあ。でもどうにもならない。

王様になったのに、結局俺は何も出来ないのか。

何も……。

……。

男子学生,「おはようアタル」

アタル,「ああ…」

女子学生,「アタル君、おはよー」

アタル,「ん……」

自分でもどうかと思うぐらい、適当な返事を返していると思う。

でもクラスメイトは気を遣って誰もセーラさんのことを尋ねてはこなかった。

女子学生,「西御門さん、国枝君ってどうしたの?」

女子学生,「そういえばセーラさんって今日も来てないよね。噂ではクアドラントに帰ったとか言われているけど…」

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ひよこ,「ふぇええっ!? え、えーと。その……」

ヒソヒソと尋ねる声。チラチラとヒヨがこっちを見るが、俺は聞こえないフリをする。
数日ぶりの登校だった。

バルガ王の爪あとはすっかり修復され、今では屋敷内にその痕跡すら見つけるのは難しいぐらいだった。
ただ一つの部屋が静まったことを除けば。

俺はあのとき意識を失っただけで、怪我は皆無だったが、すぐに登校する気になれず、屋敷でぼんやりしていた。
あの日、屋敷のリビングは大破したものの、重傷者は出なかった。

#textbox Ksi0150,name
柴田さんが言うには、バルガ王はあれで手加減していたらしい。

締め上げられた後に目を覚ますとバルガ王とセーラさん、それにアサリさんが姿を消していた。
表沙汰にはなってないけど、クアドラントとニッポンは国交断絶になるらしい。

いつも朗らかで優しい笑顔を見せてくれた人はもういない。

夜中に誰かが自分のベッドに忍び込む心配もない。

つまり、もうセーラさんと会うことはないということだ。

ミルフィ,「不景気な顔してるわね。この国がパッとしないのはアタルのせいじゃないの?」

アタル,「……ほっといてくれ」

気遣いもへったくれもないのもいるけど。開口一番にこれだし。

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ミルフィ,「あっそ。ふんっ…」

不機嫌な顔でミルフィは自分の座席に座る。

久しぶりの学園なのに、もやもやとしたものがずっと渦巻いている。

俺ってこんなに学園が嫌いだったろうか?勉強も運動も得意ではないけど、これ程居心地が悪いことはなかった。
帰ろうかと思って席を立ちかけると、机に人影が伸びた。

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見上げると、真剣な面持ちをした柴田さんが立っていた。

柴田,「アタル王。私たちの力が及ばず、申し訳ない。護衛を代表してお詫び申し上げます」

柴田さんは俺に一礼した。ただただ謝罪の姿勢と言葉。

冗談か毒舌の一言でも出てくるかと思ったが、それは全くなかった。

一礼したっきり、全然顔を上げない。クラスメイトも何事かと俺らを見つめている。

………。

……。

くそっ………いつまでそうしているんだよ。

こっちが気まずいだけだろ。執事なんだから、気を遣えよ。何か言えよ。
エリス,「柴田さん。アタル王はわかっているさ。あなたがたのせいではない、と」

エリスさんの声に、柴田さんはようやく顔を上げた。

柴田,「この仕事は過程ではなく何より結果が求められる。それは同じ仕事を担うエリス様もわかっているでしょう」

柴田,「セーラ姫どころか、アタル王すら護りきれなかった。このような醜態、本来なら厳罰処分です」

エリス,「いや、違うぞ。あれは天災のようなものだ。あのときバルガ王を止められるのは誰もいなかった」

屋敷を思いっきり壊されて一方的に打ちのめされ、締め上げられた上に、気付けば連れ去られている。

あれは人の仕業ではなく―――。

アタル,「……天災だったと?」

エリス,「対抗する手段すらないものは、天災と何ら変わらんと言いたいだけだ」

溢れる感情を抑えようとしたつもりだった。拳を握って堪えたつもりだった。

でもその言葉を聞いて、頭が真っ白になった俺は―――。

アタル,「ふざけんなッ!!あれを天災で済ませるのかよッ!?」

エリス,「例えの話だ。気を悪くしたなら謝ろう」

アタル,「黙ってろと!?見過ごすのが一番だったって言うのかよッ!?」

立ち上がった勢いで机が転がり、中に収まっていた教材が散らかる。

自分でも信じられないほどの大声。教室が静まり返る。

そんな無様な姿をみんなが見ていた。

きっとあの日よりも、もっと情けない自分を。

アタル,「………」

無言で俺は乱れた座席を戻す。

酷い様だ。エリスさんは何も悪くないのに。

ひよこ,「あの、疑問なんですけど。アタル君はミルフィさんと結婚することになるの?」

柴田,「確かにライバルであるセーラ姫がいなくなったのですから、姫様が婚約の権利を得ることになるでしょうね」

ミルフィ,「ふん……そんなのパスよ。こんな腑抜けになった王様となんてあたし結婚したくないし」

アタル,「俺だってパスだよ。セーラさんと比べてちんちくりんなお姫様となんてこっちからお断りだ」

ひよこ,「で、でも、セーラさんと比べたらミルフィさんに限らず私でもちんちくりんだよ?」

険悪になった雰囲気を必死に取り繕うとするヒヨ。だけど空気は悪くなる一方だった。

ミルフィ,「どっちにしろ、つりあわなかったのよ。アタルとセーラは。ああ、もちろんあたしもだけど」

エリス,「…姫様、そこまでにしましょう。それ以上は過ぎた発言になります」

ミルフィ,「いやよ。ハッキリ言わせてもらうわ。まだ死力を尽くしていないのに諦めるなんて王様のやることじゃない」

アタル,「………」

あの場で何ができたってんだよ。ミルフィだって自分の重火器弾かれたのを見ただろうが。
ミルフィ,「セーラを取り戻したいなら、もっと死ぬ気で頑張りなさいよ!」

ミルフィ,「だって…だって忘れられないもんっ!セーラ……セーラはねぇ!! 最後までアタルの名前を呼んでいたのよッ!?」

アタル,「……えっ」

ミルフィ,「離れたくない! 一緒に居たいって!綺麗な顔をくしゃくしゃにしてまで……」

ミルフィ,「それをアンタは…アンタは……ううっ……ぐすっ」

ミルフィ,「ふぇ…うっ…うわああ~~~ん!!」

アタル,「ミルフィ、お前……」

エリス,「姫様…」

子供みたいに泣きじゃくるミルフィとそれを抱きしめるエリスさん。

俺が早々に意識を失ったとき、ミルフィは最後までセーラさんを見ていたのか。

エリス,「自分もあの猫執事と一緒に、最後まで抵抗したがダメだった。まだ耳に残っているよ。セーラ姫の悲しい声が」

エリス,「知っているかもしれんが、わが姫は幼い頃に家族を失っていてな」

エリス,「そのことが重なって、少々感情的になってしまったようだ。アタル王、許してやってくれ」

誰もが俺を見ていた。事情を知っていた人も。今初めて知った人も。
顔をあげ、見回して気付かされた。誰もが俺を心配してくれていたことに。

ミルフィに混じって数人の女子がすすり泣きしている。

思わず涙が出そうになったのを堪え、俺は何とか言葉を搾り出した。

アタル,「許すも何も…俺がただ不甲斐ないだけで……俺の方こそ………酷いこと言ってごめん…」

ひよこ,「アタル君。みんなにちゃんとごめんなさいだよ」

アタル,「ははっ…そうだな。ごめんなさい」

アタル,「諦めるのは行動してからでも遅くないよな、うん」

ただ、取り戻すって言っても……。

あの化け物みたいなのから、そんなこと出来るのか?

あれほどの面子が揃っていたにも関わらず、手加減されてなお打ちのめされたというのに?

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バルガ,「『テロリストや銃撃を全てかわすなどという噂を聞いて、一対一で勝負できるかと多少なりとも心踊ったが……とんだ見込み違いだったようだな』」

あれほどバルガ王の完勝だったのに、俺に対して妙な印象を抱いていた。

そういえば、俺はバルガ王の一撃をかわしている。アサリさんと揉めたときも、攻撃は当たらなかった。でも身動きできなくなったときは不可避だった。
つまり、避けるだけならどうにかなるかもしれない。

だけど肝心の攻撃が思いつかない。そもそもあの身体に通じる武器なんてあるのか?刃物や火器、戦車砲ですら傷つけられないのに。
勝てなくてもいい。

核兵器とまで言わずとも、抑止力になってバルガ王とにらみ合いになるようなもの……。

そうすれば―――。

アタル,「あっ」

#textbox Khi0110,name
ひよこ,「どうしたの? アタル君」

アタル,「いや、もしかしたらいけそうなアイデアが――」

『がしゃーーーん!!』

男子学生,「おわっ!?」

女子学生,「きゃああーー!」

窓ガラスが割れ、勢いよく何かが教室に飛び込んできた。

それは教室の真ん中を横切り、机と椅子を蹴散らしながら廊下側の壁にぶつかってようやく止まった。
柴田,「侵入者のようですね」

エリス,「みんな、自分の後ろに下がれッ!」

柴田さんとエリスさんが武器を構え、クラスメイトを遠ざけて迎え撃つ体勢をとる。

アサリ,「たははー。着地失敗ですー」

アタル,「なっ………アサリさんッ!?」

アサリ,「アタルさんお久しぶりですー。ヘコんでいるかと思いきや、思ったより元気で何よりー」

柴田,「ふぅ……紛らわしい登場の仕方は止めてください」

エリス,「自分もです。思わず先手を打つところでした」

二人が武器を下ろす。俺もあの化け物がまた来たのかと内心ビクビクした。
アサリ,「急いでいたのでついつい。申し訳ないですー。おやおや、みなさまお揃いですねー。これは非常に好都合ー」

アサリ,「クアドラントの艦隊が今日未明に出港するそうですー。セーラさんとの今生の別れが迫ってますよー」

ミルフィ,「何ですって!?」

ひよこ,「今生って…もう会えなくなるの?」

アサリ,「そうらしいですよー。あとこれはオフレコですけどー帰国後に王様は宣戦布告するって言ってましたー」

エリス,「何と…再びあの王が攻めてくるのか」

時間もなければ、火力も作戦もない。ないない尽くしだけど、やる気と頭数だけは揃っている。
柴田,「アタル王」

アタル,「ああ。とりあえず……」

アタル,「授業をサボるとしますか。みんな悪いッ、先に帰るわ!」

教室が蜂の巣を突付いたかのような大騒ぎになる。

女子学生,「王様頑張れー!!」

男子学生,「時間ないんだろ!? はよ帰れー!」

男子学生,「セーラさん取り戻してくるまで二度と帰ってくんなー!!」

罵声に近い声援で俺たちは送り出される。

教師,「こらぁ!! 何を大騒ぎしているんだ!」

だが騒ぎを聞きつけ、教室には担任だけでなく数人の教師が駆けつけた。

しかし、この勢いに水を差すわけにはいかない。

アタル,「…アサリさん」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「はいはーい。それー、さらさらさらー」

アサリさんが教師の群がっている入り口に怪しげな粉を撒いた。

教師,「何だ、この粉は?」

教師,「こんな目くらましで我々が騙せるとでも―――ほぅああっ!?」

カンフーの達人のごとく、雄叫びに近い奇声が響きわたった。

『ぎゅるっ、ぎゅるっ、ぎゅるるるるんンッんん!!』

ここまで聞こえるぐらいに活発で大きな腸内の活動音。それが三者三様にハーモニーを奏でる。

威勢の良かった先生方は臀部を強く抑え苦悶の表情を浮かべる。

教師,「き、貴様ぁ……一体…何を……はぅううンッ!?」

説教もそこそこに、つま先立ちでヨガのようなポーズ。情熱の代わりに脂汗を溢れさせ、苦痛に堪えながら何かと必死に闘う顔がそこにはあった。

ちょっとした前衛芸術の彫像みたいだ。

#textbox Kas0180,name
アサリ,「アサリ特製の皮膚呼吸で効果バッチリな下剤ですよー。アタルさんの暗殺に使おうと取っておいたものがーこんなカタチで役に立つとはー」

アタル,「怖ッ!? 今サラッと衝撃告白したよね!?」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「もう一方の出口から出るですよー。あっち側は通っちゃダメですー。まだ効果が残ってますのでー」

教師,「ま、待て……」

アタル,「ホントすいません! 急いでいるんで!」

教師,「簡易トイレで……いいか…ら……置いてっ…て……」

アタル,「ええっ、そっちですかぁ!?アサリさんッ、コレ大丈夫なのッ!?」

#textbox Kas0160,name
アサリ,「戦いに犠牲はつきものですー。むしろ後々はお腹スッキリー」

教師,「アカン。もう……ダメかも…」

教師,「先生、しっかりしてくださいっ!」

教師というより負傷兵と衛生兵の会話が背後で聞こえたが、見るに耐えなかった俺は振り返らず走った。
学園の外に止まっていたリムジンに乗り付け、俺たちは準備のために一度屋敷に向かう。

アタル,「柴田さん。一つ案があるんだけどいいかな」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「何なりと。全力でお手伝いしますよ」

アタル,「………」

柴田,「………」

アタル,「って作戦はどうかな。ダメ?」

#textbox Ksi0180,name
柴田,「いえ。なかなかの妙案です。ただアタル王は自身を危険に晒すことになりますが」

アタル,「ううん。あのバルガ王相手なんだから、そのぐらいはやらないと。またミルフィに怒られる」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「ははは。でしょうね」

ミルフィ,「こらぁ! 何コソコソ喋ってるのよ!あたしの名前が聞こえたわよ?」

アタル,「ミルフィを褒めていたんだよ。今更だけど、俺なんかには勿体無いぐらいしっかりしたお姫様だって」

柴田,「ええ、そうです。このような結果にはなりましたが、例えアタル王がミルフィ姫を選んでも、きっと素晴らしい夫婦になったでしょうね」

ミルフィ,「な、何よ。いきなりあんたたち……。褒めたって何も出ないんだからね」

ミルフィ,「で?あたしに秘密で何を話していたの?」

柴田,「奥の手です」

ミルフィ,「えー、ずるい。あたしにも教えてよ」

アタル,「話したら奥の手にならんだろうが」

ミルフィ,「ちぇー、ケチー」

またバルガ王と対峙するかと思うと、膝が震えそうになる。

だけどもう一度、向かい合わなきゃいけない。セーラさんを取り戻す。だから震えてなんていられなかった。
……

…………

アサリ,「あちゃー。もう出たあとですねー」

屋敷で準備を終え、俺たちは港に向かったが既に港に艦隊はなく、遠くにその姿を確認できるぐらいだった。
柴田,「こちらも闇夜に紛れてボートで追います。作戦はボート内で最終確認を行いますから、早く乗り込んでください」

アタル,「わかった」

アタル,「………で、君らは何でここにいるの?」

#textbox Kmi0270,name
ミルフィ,「何よ。いたら悪い?」

アタル,「悪くないけど、危ないぞ。これからセーラさん助けに行くんだし」

#textbox Kmi0290,name
ミルフィ,「あたしたちも手伝うわ。それならいいでしょ?」

エリス,「ご心配なく。姫様の護衛は自分が責任持って遂行します」

アタル,「え…いいのか。だってセーラさんってミルフィにとっては―――」

ミルフィ,「イイって言ってるでしょ!?不満なのッ!?」

アタル,「不満なんてないよ。ありがとう」

ミルフィ,「初めから素直にそう言えばいいのよ、ふんっ」

このなかで一番素直じゃなさそうな人間に怒られてしまった。

アタル,「それでそちらは?」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「えっ、あの…ほ、ほら、乗りかかった船って言うでしょ?」

アタル,「遊びに行くんじゃないんだぞ?」

#textbox Khi0230,name
ひよこ,「わかってるよ。でも私は王様の専属のメイドで、幼なじみだから……」

ボートのモーター音がうるさくて、最後はよく聞き取れない。

アタル,「ふぅ…今さら降ろすつもりはないから、行動するときは気をつけてくれよ」

#textbox Khi0260,name
ひよこ,「うん!」

柴田,「では作戦を説明します。アタル王の3つ目の命令発動。ニッポン軍による湾内の閉鎖を実施。ならびに、交戦による妨害活動。ただしバルガ王との交戦は禁止」

柴田,「その間にこのボートは敵艦隊に強襲。不要な交戦は極力避け、敵兵力を無力化し、艦内の奥にいるセーラさんを救出する予定です」

柴田,「艦内に入ったら内部に詳しいアサリさんの先導で行動することになります」

アサリ,「はーい。任せるですよー」

柴田,「そして追跡を振り切ってニッポン軍の援護を受けてそのまま一気に離脱する―――。というのが本来の作戦でしたが」

柴田,「…アタル王。本当によろしいのですか?」

アタル,「当然だよ。決着をつけなければどうせ追ってくるに決まっている。柴田さん、準備は出来ているよね?」

柴田,「ええ。ぬかりなく」

アサリ,「あれれー。二人とも何を企んでいるですかー?」

柴田,「申し訳ありません。アタル王から口止めされていますので」

アタル,「悪いね。でも全力でやるから。心配しないで」

ボートの行き先が昼間のように明るくなる。遅れてくる爆発音。

柴田,「始まりましたね」

アタル,「ああ」

湾内で足止めを食らわせるニッポン軍が威嚇射撃をしたのだろう。

爆発の明かりに照らされて、闇夜にクアドラントの艦隊が浮かび上がる。

ゆっくりしてはいられない。あのバルガ王が出てきたら、航路の阻止すら危うくなる。

アタル,「まだか…」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「もうすぐですよ。すぐ乗り込めるよう、準備しておいてください」

俺の焦りを感じたのか、柴田さんが落ち着くよう促す。今度は湾内へ陸地から挟み込むように射撃。

連なった光の粒がクアドラントの艦隊近くで水柱を上げる。

もう乗り込むべき艦隊が近いのだろう。その影響で乱れた水面にボートが跳ね上がる。

#textbox Ksi0120,name
柴田,「あと一回で敵艦隊の注意を逸らす威嚇射撃が止みます。そしたらアサリさんを先頭に甲板から突撃です」

アサリ,「ではお先ですー」

アサリさんはボートを減速させながら艦の傍にへばり付き、かぎ爪を引っかける。

それを器用に駆け上がると同時に、上で男の叫び声と、数回殴打する音が響く。

甲板の縁からヒラヒラとアサリさんが手を振り、ロープが数本下ろされる。

アタル,「これは登るまで結構骨が折れそ―――って、うわあっ~~………ぐはっ!?」

掴んだ途端にロープが引っ張り上げられ、軽く宙を舞ってから甲板に不時着。

#textbox Kmi0220,name
ミルフィ,「いたた…もっと上手く出来ないの!?」

アサリ,「この方が手間がかからないですよー」

ひよこ,「うー。お尻痛いよぉ…」

柴田,「もうここからはニッポンではなく敵領土です。みなさん、注意して行動してください」

エリスさんも柴田さんも着地成功している。失敗した俺らって相当ニブいのか?

アサリ,「少々お待ちをー」

ガチャンと側面の扉を開き、単独で踊り込むアサリさん。

兵士,「なっ……ぐあぁ!」

兵士,「何故あなたが…ぬぉあっ!」

大の男たちが悲鳴を上げて倒れるのが聞こえる。

しばらくしてからドアが大きく開き、手招きが見えた。

#textbox kas0110,name
アサリ,「置いてきぼりがイヤだったらしっかりついてきてくださいねー」

頑強な作りの鉄扉。内部を照らす簡易な電灯。何の数値を示すのかわからない計器。
あちこちを這い回る数え切れないほどの鉄パイプ。よく見れば足元には消火器まである。

別に軍事オタクというわけでもないけど、狭苦しいながらも機能を追及した艦内は見ているだけで心が躍る。
でもあまり感慨に浸る間もなく、アサリさんを先頭に通路を進んでいく。

兵士,「いたぞ、あそこだ!」

兵士,「あっ、アサリ様!?」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「すいませんねー。ちょっと眠っていてくださいー」

ビシバシと蹴散らすアサリさん。何だか彼女一人でもどうにかなりそうな…。

兵士,「こちら侵入者発見!」

兵士,「これより排除します!」

アタル,「うわっ、後ろからもゾロゾロ来たけどッ!?」

#textbox Kas0150,name
アサリ,「あちゃー。参りましたねー。このままだと辿りつく前にやられちゃうかもー」

柴田,「挟み撃ちというヤツですね。最高にヤバイ状態です」

アタル,「ええっ、どーすんのさ!?」

身を寄せるように遮蔽物の陰に隠れる。

俺とミルフィという二ヶ国の王族がいるってアピールして脅すことを考えたけど無駄だろうな。
俺ら侵入者だし。

ミルフィ,「ここはあたしたちに任せなさい!」

エリス,「ええ。アタル王たちはセーラ姫の救出へ向かってください」

自信たっぷりに銃を構える二人。パッと見は格好よく見えるけど……。

アタル,「エリスさんはさておき、ミルフィは役に立つの?」

ミルフィ,「当たり前でしょ!この前バルガ王が来たときの勇姿を忘れたわけ?」

アタル,「勇姿も何も、みんなでボコられたからなあ」

ミルフィ,「あんな化け物じゃなきゃどうにかなるわよ。行くわよ、エリ!」

エリス,「了解です」

艦内で撃ちまくる二人。

エリスさんはさておき、ミルフィの腕前は予想通りで。

兵士,「艦内で重火器だと? 正気かッ!?」

兵士,「こちらD区域! 侵入者と交戦中、至急援護を!」

ミルフィの撃った弾は火花を散らしてパイプや計器に命中し、真っ白い蒸気が派手な音を立てて漏れ出す。
続けてアラームがけたたましく鳴り、赤い警報ランプが回った。

アタル,「おいこらっ!敵じゃなくてこの船沈める気かよッ!?」

ミルフィ,「平気平気。この程度で戦艦なんて沈まないわよ」

エリス,「自分たちはここで食い止めますので先へ。ご心配なく。時間を稼いだら、自分たちも勝手に脱出しますから」

#textbox Kas0110,name
アサリ,「助かりますー。ではよろしくー」

アサリさんはどんどん先へ進んでいく。俺は少し戻ってミルフィたちに声をかけた。

アタル,「気をつけろよ。助けに来たのに今度はミルフィたちが捕まりましたなんて、シャレにならないからな」

ミルフィ,「そっちこそ、これだけ手助けして失敗したら承知しないわよ」

アタル,「もちろんだ。それじゃ」

俺たちは二人を残して奥へ向かう。

そういえばミルフィの話だとセーラさんは泣いていたらしい。一緒にいたい、と。
#textbox Kas0110,name
アサリ,「思ったより外で注意を惹きつけられたみたいでー。中が手薄なおかげでー、あとちょっとですよー」

会ったらどんな言葉をかけよう。

キザっぽいセリフ。愛の篭ったセリフ。

どれも浮かんでは消える。

彼女の声が聞きたい。彼女の顔が見たい。

他人がいようと平気でエロ話をすること。不細工な犬が好きなこと。

彼女の常識はずれな部分すらもいとおしく思える。

兵士,「止まれ!ここは関係者以外立ち入り禁止だっ!」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「多いに関係アリですよー」

大の大人の、しかも兵隊を素手であっさりと退ける。

俺ってよくこの人に狙われて死ななかったなあ、と思う。

#textbox Kas0110,name
アサリ,「そこの部屋ですよー。もう鍵は開けておきましたー」

アタル,「えっ、ここ?」

突然言われて返事が上擦る。

通り過ぎようとした何気ない部屋を、アサリさんは指差した。

#textbox Kas0160,name
アサリ,「アサリは脱出ルートの確保しますのでー。あー、でもさすがにHする時間はないですよー」

アタル,「するわけないでしょ!?」

#textbox Kas0120,name
アサリ,「あははー。その顔です、リラックスリラックスー」

そのまま奥の方へアサリさんは駆け出す。

柴田,「私とひよこさんはここで見張ってます」

ひよこ,「アタルくん。しっかり抱きしめてあげなきゃ、だよ」

アタル,「ああ」

そうだ。ひよこの言うように抱きしめよう。

言葉は……。会えば気の利いたセリフの一つぐらい出るさ。

鼓動が高鳴るのを押さえ、平然を装って俺はドアを開いた。

#textbox Kse0340,name
セーラ,「あっ……えっ…アタル……さま…?」

ぼんやりと呟くように彼女は言った。

覇気のないその表情には、涙の流れた跡。

その顔に血色が戻り、みるみるうちに近づいてくる。

アタル,「えーと。その……」

セーラ,「アタル様………アタル様ッ!!」

思わず倒れそうなぐらいの、体当たりみたいな抱擁。

暖かく、柔らかい感触のあとに届く彼女の甘い香り。

いざ言葉にしようとした思いも口には出せないまま、俺が抱きしめる前に先を越されてしまった。

セーラ,「良かった……ご無事だったんですね」

ああ、そうだった。

彼女の中で俺は、バルガ王に締め上げられて倒れたところで止まっていたんだ。
アタル,「大した怪我もないよ。ごめん、心配かけた」

セーラ,「本当にあなたって馬鹿です。あんな目にあったのに、危険を冒して…」

セーラ,「きっとお父様に知られたらカンカンです。今度会ったらあなたの命が危ないんですよ?」

セーラ,「もう会えないと……思っていたら……ッ……ひょっこり……顔出す…し……ぐすっ………」

セーラ,「あれだけ…うっ………泣いたの…に……まだ…涙……ッ出るなん……て…ううっ……」

胸を叩かれ、泣きながら怒られる。

アタル,「いや、その…ごめん」

何がごめんなのかわからずに謝る。抱きしめながら嗚咽する彼女の背中をさする。

アタル,「意外とセーラさんって泣き虫だったんだね」

ずずっと鼻をすすり、不満そうに彼女が俺を見上げた。

セーラ,「あなたのせいですよ。もう会えないって覚悟していたのに…」

セーラ,「こんな泣いている顔、他の人には見せられません」

アタル,「そうかな。アレのときの顔よりかは他人に見せられるけどなあ」

セーラさんのすすり泣きがピタリと止む。一瞬の沈黙。

セーラ,「泣いているつながりとか言いたいんですか?そういう冗談……私、嫌いです」

涙で濡れて血走った目は、顔立ちが整っているだけあって思いのほか迫力があった。
アタル,「ええっ!? 普段あれだけ言ってるのに!?」

セーラ,「ふふっ……そうですよね」

アタル,「ははっ」

涙を拭ってセーラさんは微笑んだ。

涙も似合うけど、顔に似合わず品のないことを言う方がセーラさんには似合っている。
……

…………

柴田,「この道であっているのですか?」

アサリ,「はいー。ここを真っ直ぐいけば甲板に出られますよー」

アサリさんたちと合流し、俺たちは艦の出口を目指す。

別れたミルフィたちは無事らしい。連絡したらすぐに離脱すると返事があった。

柴田,「そうですか…ふむ」

アタル,「どうかした?」

柴田,「いえ、違和感を感じたので。アサリさんがルートを確保したとはいえ、あまりに妨害がないような…」

甲板に出て乗ってきたボートに飛び乗り、退却する。

素早い襲撃かつ素早い離脱。

出来ることならそのプランでも悪くないんじゃないか―――?

#textbox Kba0210,name
バルガ,「残念だったな。アタル王よ」

熊のような体躯。音楽室の作曲家みたいな髪型。

柴田,「…やはりそういうことでしたか」

甲板の周囲には銃を構える兵士たち。その中央に仁王立ちするクアドラントの王の姿があった。
ミルフィ,「な……何よこれはッ?」

エリス,「むっ。ワナだったということですか」

遅れて甲板に姿を現すミルフィたち。

#textbox Kba0250,name
バルガ,「で、どうする?この前と同じく我に挑むか?」

自信たっぷりなバルガ王にみんなの顔が曇った。あの一方的な暴威がよみがえる。

前と同じように。その言葉だけで誰もが口をつぐんだ。

アタル,「俺が行くよ」

柴田さん以外、一緒にいた仲間の誰もが驚いていた。

#textbox Kse0340,name
セーラ,「…アタル様?」

ミルフィ,「ちょ、ちょっと、あんた正気!?殺されそうになったのを忘れたの!?」

アサリ,「正面きって戦うのはムリですよー。大型兵器でないと傷がつかないのですからー」

エリス,「バルガ王は戦士としても一流だ。特殊部隊の技術や身体能力でも歯が立たんのは先の一件で周知のハズ」

アタル,「バルガ王。一対一の勝負を挑ませてもらうよ。俺が勝ったらセーラさんを貰う」

バルガ,「ほう、あれだけの目にあったというのに威勢が良いな。では、我が勝ったらどうするつもりだ?」

アタル,「ないよ。というか、俺が絶対に勝つから問題ない」

バルガ,「ほほう……」

バルガ王の眉間に皺がよる。

拳が握りこまれ、服の上からも腕の筋肉が盛り上がるのがわかった。

アタル,「バルガ王が勝ったら、俺を殺すなりなんなり好きにすればいい」

セーラ,「アタル様ッ!?」

バルガ,「では我の下で奴隷としてこき使ってやろう。一国の王をそのように扱えるのも一興だ」

アタル,「いいですよ、それで。勝てれば、の話ですが」

#textbox Khi0210,name
ひよこ,「ええと、その場合私はどうなっちゃうのかな?」

アタル,「解雇だな。いやあ、この時期に再就職は難しいぞ」

#textbox Khi0290,name
ひよこ,「ふぇええっ? そ、それは困るよ~」

別にウチラってまだ学生だから困らないだろうが。ヒヨって本気でボケているのだろうか。

柴田,「アタル王、これを」

アタル,「ありがとう」

俺は頼んでおいた照準器付きの銃を渡される。その際に柴田さんに一度目配せをしてから、バルガ王に向き合った。
バルガ,「ははっ!豆鉄砲で我に立ち向かうのか?」

セーラ,「アタル様ッ、そんなものではお父様は倒せません。今から私たちの仲を話して認めてもらいましょう。そうすればきっと―――」

アタル,「セーラさん。それでどうにかなるなら俺はもうやっているよ」

セーラ,「そ、そんな…」

セーラさんに限らず、誰もがそう思っているのだろう。あんな銃で何が出来るのかと。

アタル,「バルガ王。戦う前にこの銃、一度試射させてもらっていいかな?」

バルガ,「我に向けて試し撃ちでも構わんぞ」

アタル,「そんな卑怯なことはしないよ。じゃあちょいと失礼」

俺はレーザーの照準が光るのを確認し、そのライトを海に向けた。

両国の艦隊が浮かぶ海。俺は船を避け、何もない場所に照準をあてて軽く引き金を引いた。
バルガ,「海でいいのか? 甲板にでも撃てばよかろ―――」

雲をかき分け、空から降る一筋の光。闇夜でも目視できる一閃が海面を貫く。

その刹那。爆発と共に海が裂け、夜でも可視できるほどの巨大な水柱が立ち上がる。
遅れて大きな爆発音と衝撃波が届き、乗っている船も含めて艦隊が大きな波に揺さぶられた。
アタル,「なるほど、十分だね」

#textbox Ksi0110,name
柴田,「ええ。ご覧の通りです」

バルガ,「なっ―――」

その威力に言葉を失うバルガ王。これなら強靭な肉体を持つあの王でも、キズを付けられるに違いない。
エリス,「なんと…軌道衛星からのレーザー兵器とは……」

アタル,「そういうわけでみんな、この船から離れてね」

俺とバルガ王の乗る船を遠くに取り巻くように艦隊が離れる。

アタル,「観客がいなくて寂しいですが、ご勘弁を」

#textbox Kba0210,name
バルガ,「アタル王……正気か?ヘタをすれば自分が消し飛ぶぞ」

アタル,「このぐらいしないとあなたは倒せないのだから仕方ない。それより始めましょう」

照準が合わさろうとした瞬間、すぐさまバルガ王は避けた。

バルガ,「ふは……ふはははっ!確かに戦いとは、このぐらいスリルがないとつまらんな!」

目で追うのがキツいぐらいのスピード。

何とか合わせても照準はすぐさまズラされて、距離が詰まる。

アタル,「くっ……」

遮蔽物に隠れることもなく、素早い動きで照準の光をかわしていく。

バルガ,「さあ、こちらだぞ?」

ぶんっ!と、頭の上を太ももみたいな太さの腕がかすめる。

アタル,「うおっ!?」

レーザーポイントを避け、肉弾戦を仕掛けるバルガ王。

至近距離なら引き金を引けないという考えなのだろう。

バルガ,「しっかりと狙え。外せばアタル王、今度こそお前の首があらぬ方向に曲がるぞ?」

こちらも必死に距離を取りながら対処する。当たらない能力がこれほどありがたいと思ったことはなかった。
だが接近戦で触れられたらすぐにカタがついてしまう。それは何度もあった出来事で経験済みだ。
バルガ,「セーラの能力は何物にも代えがたい国益。易々と手放すわけにはいかんのだ」

アタル,「それはセーラさんの幸せよりも大事ですか?もしやバルガ王、あなたはセーラではなく、能力そのものを愛しているのでは?」

バルガ,「ぐぬぅ…小僧、我を前に言うではないか。その身、細切れになるやもしれんぞ?」

寸でのところで掴まれそうになり、慌てて銃を向ける。

アタル,「認めてくれとは言わない。せめてこの場は引いて、もうしばらく見守ってくれないですか?」

バルガ,「ふっ、この期に及んで命乞いか?」

アタル,「どちらかが果てる結末は、誰も望んでない」

今しがた自分のいた場所に拳がめり込み、甲板を固定している大きなビスが弾け飛ぶ。

バルガ,「この状況で我を納得させると?ふははっ、そんなことより自分の身を心配したほうがいいのではないか?」

アタル,「はあっ、はあっ……くっ」

乱れる呼吸。拮抗して見えるが、差が如実に現れ始めていた。

基本的な体力が違うのだ。バルガ王はそれに気付いている。

バルガ,「足取りが重いぞ。そろそろキツいのではないか? ん?」

アタル,「まだ…まだだっ……」

緊張感も加わり、疲弊は明らかだった。足がもつれ、転びそうになる。

アタル,「―――!?」

バルガ王の姿がない。

しまった。きっと背後に―――。

振り向きながら銃口を向けようとしたとき、圧倒的な力が身体を押さえつけた。

アタル,「がはっ!?」

硬い甲板に叩きつけられ、痛みと衝撃で意識が飛びそうになったが、何とか銃は手放さなかった。
バルガ,「ほう。今の一撃でまだ意識があるとは」

アタル,「まだ終わってないよ、バルガ王」

俺は震える手で照準を合わせる。

バルガ,「押さえ込まれてまだ戯言を言えるとはな。まあいい。これで終わりにしてやろう」

豪腕を振り上げ、ハンマーのように振り下ろされようとしたとき――。

セーラ,「お父様ッ!」

バルガ,「セーラ、どうして逃げなかった!何故お前がここにいる!?」

バルガ王は驚いた顔をしてセーラさんを見上げた。

セーラ,「決着はつきました! その拳を引いてください!」

バルガ,「そうはいかん。これは戦いなのだから。王たるもの、口にしたことの責任は大きい」

セーラ,「アタル様はまだ王様になったばかりです。最初から王族の私たちと比べるなんてアンフェア以外の何物でもありません」

バルガ,「いや、この男は王たる資格がない。一人のために命を投げ出そうとするなど、もっての他だ」

アタル,「俺はたった一人の笑顔すら護れない王様になんて、なりたくないよ」

セーラ,「アタル様…」

バルガ,「黙れ小僧。その首、今すぐヘシ折ってやってもいいのだぞ?」

アタル,「こっちもまだ銃口は向いているよ」

バルガ,「どちらが早いかやってみるか?」

アタル,「いや、やめておく。絶対勝てないし」

バルガ,「随分と潔いではないか。あれほどの威勢…どういう風の吹き回しだ?」

アタル,「どっちにしろ勝てない勝負だったんだ。だよね、柴田さん」

柴田,「ええ。ハナっから勝率はゼロです」

柴田さんが甲板の脇から出てくる。

バルガ,「執事ともども命乞いにしては頭が高い気がするが…。どちらにせよ、男と男の命がけの勝負を汚すことになるぞ?」

柴田,「男と男の勝負ですか…」

柴田さんはフッと笑みを漏らす。失笑にも近い顔に、バルガ王は苛立った。

バルガ,「主君の危機に何が面白い?」

柴田,「命がけだったのはアタル王のみだったということですよ」

柴田,「何故ここにセーラ姫を逃がさず、お連れしていたかわかります?危険がなかったからですよ」

バルガ,「馬鹿なことを……アタル王が持っている銃の威力を見なかったのか?」

柴田,「アタル王、銃をお借りしてよろしいでしょうか?」

アタル,「どうぞ。というか、渡せないから俺の手から勝手に持っていって」

柴田さんは俺から銃を奪い、銃口を何もない海に向け、引き金を引いた。

それも一度ではなく、何度も。

バルガ,「―――セーラ、伏せるんだッ!」

セーラ,「きゃっ―――」

衝撃に備え、親子が身構える。

しかし、何も起こらない。

空からの閃光も。大きな水柱を伴った爆発も。

ついでに柴田さんは自分自身に向けても数回、引き金を引いた。

柴田,「つまり、こういうことですよ。ハイ、お返ししますね」

呆気にとられるバルガ王。

バルガ,「オモチャ……だと?」

柴田,「ご名答。種明かしすると、最初の一発目はアタル様が構えた場所に適当にレーザーを落とすようにしただけです」

セーラ,「じゃ、じゃあアタル様は…」

アタル,「そりゃ屋敷でやられたのは恨んでいるけどさ。セーラさんのお父さんを殺そうとなんかしないって」

同じくぽかんとするセーラさん。

アタル,「さて、と。続き…します?」

バルガ,「ふっ、ふっ……」

バルガ,「ふはっ、ふはははは!!」

バルガ王の高笑いが響き、俺の首にかけられた手が緩む。

バルガ,「何ということだ………。アタル王、では最初から我を相手に丸腰で戦うつもりだったというのか?」

アタル,「丸腰でもないよ。ほら、この頼もしい銃が」

カチカチと安っぽい引き金を鳴らす。

バルガ,「ふふっ、そんなものでこの我を謀るとはな」

バルガ,「アタル王。王になってどれくらい経つ?」

アタル,「まだ一ヶ月ぐらいですかね」

バルガ,「まだ一ヶ月でこの度量か。抽選とやらの人選も意外とバカには出来んようだな」

バルガ王が身体を起こし、乱れた服を整える。

バルガ,「アタル王、湾を塞いでいる艦隊を引かせるよう言ってくれまいか?」

アタル,「ええ。柴田さん、手筈をよろしく」

柴田,「わかりました」

バルガ,「セーラ。この男を手放すなよ。どうやらお前の予知夢に間違いはなさそうだ」

セーラ,「……お父様ッ!」

バルガ,「本当にすまなかった。セーラよ……」

セーラさんがバルガ王に抱きつく。父親の身体に顔を預け、涙を流していた。

バルガ,「抱きつく相手を間違っているぞ」

セーラ,「ぐすっ……今は……いいんです」

大きな手が彼女の頭を優しく撫でる。

父親は何か言葉を投げかけ、その度に娘は頷いていた。

しばらくしてからバルガ王はそっとセーラさんを引き剥がす。

バルガ,「セーラ。次に会うときは結婚式だろうな」

セーラ,「あら、もしかしたらその前に出産かもしれませんよ?」

バルガ,「がははっ。確かにそうかもしれん。失念しておったわ」

バルガ,「ではアタル王。我はこれにて失礼する」

アタル,「ええ、いつでも来てください。歓迎しますよ」

最後に握手を交わす。

大きくて暖かい手。それはクアドラント王ではなく、父親の手だった。

アタル,「身体がすっげーダルい……」

風呂に入ったあと、ベッドに寝転がる。

今日一日いろんなことがあり過ぎた。つーか危うく死ぬところだったけど。

まあこれでもうセーラさんと付き合うことに障害はなくなったわけで。

夜も遅いし、明日に備えて眠ろうかと思っていたんだけど…。

アタル,「………」

アタル,「あの、よければ事情を説明してもらえます?」

セーラ,「説明も何も、見ての通りですけど」

アサリ,「暗殺と比べたら、気付かれずに裸にひん剥くぐらい楽勝ですよー」

アタル,「いや、ほらその…今日は疲れているから寝たほうがいいんじゃないかな?」

バルガ王との戦いは自分の想像以上にキツかったらしく、身体に負担がきている。
事実、節々が筋肉痛で動くのもイヤだった。

セーラ,「その前に、私たちに何か言うべきことはありませんか?」

アサリ,「んっ……っと、このぐらいですかー?」

しゅにっ、しゅにっ、しゅにっ。しゅっ、しゅっ、しゅっ……。

アタル,「くっ……ぁ…うっ…」

セーラさんよりも一回り小さな手が、慎重に俺のモノをしごく。

セーラ,「ああ、アサリさん。そう、そのぐらいです。大事な場所なのでゆっくりと優しく…」

セーラ,「慣れてきたら、少しぐらい強いほうが、より快感らしいですよ」

アサリ,「なるほどー。確かに硬くなってきましたー」

俺に話かけておいて何故か無視。それどころかアサリさんに手コキの指導をしている。

アタル,「ちょ…アサリさんか俺か、話す相手をどちらか一方にしてくれるとありがた……いぃッ!?」

アサリさんのザラッとした舌が乳首を優しく擦る。

アサリ,「ほほー。男性でも乳首は感じるんですねー」

セーラ,「んむっ……んちゅっ…ぷはぁ……。ええ、そうですよ。アタル様は乳首だけでなく、お尻も感じちゃいますけどね」

セーラさんがツバをたっぷりと垂らし、指全体にまぶす。

アタル,「うぉあっ!?突然、何をバラしているんですかッ!?」

アサリ,「さすがセーラさんですー。よかったら実演してくれませんかー?」

セーラ,「ええ。ではよーく見ていてくださいね」

アタル,「え、あの、ちょ? セーラ……さん?」

セーラ,「傷つきやすいですから、こう丹念に準備して……」

アタル,「うあわっ!?」

ずぷり、と菊座に指が滑り込り、奥をグリグリと動かす。

全身が総毛立ち、股間のモノがグッと反り返った。

セーラ,「……と、このように触れずに硬くすることができますのよ」

アサリ,「すごいですー。セーラさんってアタルさんの性感帯をどこまで開発しちゃっているんですかー?」

セーラ,「…で、ここまでやってまだ話さないようですね。それともワザとでしょうか?お尻の穴、もう病み付きになっちゃっているとか?」

アタル,「別に病み付きじゃないってっば!というか、言うべきことって一体…?」

セーラ,「………」

アサリ,「………」

アタル,「いや、ホントによくわかんないんだけど……ははっ」

二人の視線が厳しい。愛想笑いを浮かべてみるものの、効果はなく――。

セーラ,「……アサリさん。強くしちゃっていいです」

アサリ,「はい了解ー。それそれー」

アタル,「やっ、ちょっ…それ強い強い!」

潤滑油の少ない状態でしごかれ、気持ちよさというより、痛みを伴った刺激と言った方が正しいぐらいだ。
でも徐々にその乱暴気味な扱いが、結構いい感じに思えてきちゃっているけど。

セーラ,「まだとぼけている気ですか?」

アタル,「とぼけてないって! 全然わからな――ッあ!?」

セーラさんの舌が、傘の縁の部分を丹念になぞる。

セーラ,「あむっ…ずっ、ちゅっ…んっ、むっ…ぷふぅ……。どうです。まだ言いませんか?」

どうですって言われても。気持ちいいですとしか……。

アサリ,「どうやらアタルさんは本当にわからないみたいですよー」

そう、それです。俺は何度も頷いて、アサリさんの意見を積極支持。

セーラ,「まあそれはさておき……一度イかせちゃいましょうか」

アタル,「なっ―――ええっ!?」

アサリ,「んっ…ちゅっ、ちゅ………んむっ、んっ…」

セーラ,「あむっ、ずっ…じゅっ、んっ……んぶっ…ぢゅっ!」

アタル,「くっ…はっ……んっ…」

セーラさんは鈴口にキスを浴びせ、ときおり口を窄ませて亀頭を吸い上げる。

そこから根元に降りてくる、唾液と先走りの混じったものを指に絡めたアサリさんが、拙くて強い動きで上下する。
セーラ,「んっ…むっ、ずるっ……んぐっ……ずっ、じゅるっ」

アサリ,「ちゅっ……んっ、ちゅ……んむっ、んっ……」

二人がかりの愛撫。両方からの刺激に意識が二分され、一方だけに集中できない。
されるがままに快楽を享受するだけだった。

アサリ,「んっ、んむっ……ビクビクが大きくなってきましたよー」

セーラ,「もう絶頂が近い証です。そのまま続けて」

幹にはたっぷりと粘液が絡まり、手の動きだけで挿入しているかのような音を立てている。
アタル,「ッ……あっ、うっ…」

じゅっ、じゅっ、じゅじゅっ。

ずちゅっ、ずちゅっ、ずずっ。

アサリ,「遠慮せず吐き出してくださいー」

ぶちゅっ! ぶちゅっ! じゅっ!

じゅじゅっ! じゅじゅっ! じゅるっ!

アタル,「あっ…ああっ!」

びくっ! びくっ! びくっ!

セーラ,「あんっ!?あらあら、こんなに飛んできましたわ」

アサリ,「たっぷり出てますねー、手がベタベタのドロドロですー」

アタル,「ちょ、ちょっと…んっ、くっ…もう手…止め…」

アサリ,「でも気持ち良さそうですよー?全部吐き出しちゃってくださいなー」

アタル,「うっ、あっ…」

全て射精し尽くすまで、アサリさんはペニスをしごき続けた。

アタル,「はあっ、はあっ、ふぅ……」

アサリ,「すんすん………ペロリ」

アサリさんが手についた精液を掬い、口にする。

セーラ,「初めての精液はどうです?」

アサリ,「生臭くて変な味ですー。同じ生臭いならお魚のほうが美味しいですよー」

セーラ,「でも中に出されると熱いのに暖かい気持ちになって、ほわ~んとなっちゃいますよ」

アサリ,「どーでしょうかねー?きっとそれはセーラさんがアタルさんを好きだからですよー」

セーラ,「まあ大好きなのは間違いないですけど……隠し事する人は嫌いです」

アタル,「だからトボけるとか隠し事とか、さっきから何の話なの?」

アサリ,「オモチャの銃でのハッタリを、セーラさんに内密にしていたことでご立腹だそうですよー」

アタル,「ああ、あのことかぁ」

セーラ,「あのことですって?私、とても心配したのですよ!?」

ちょっと涙目のセーラさん。その言葉がウソないことぐらいは明白だった。

間違っても『顔に精液付いてますよ?』なんて言えない。
アタル,「でも、そうは言われても…。柴田さん以外知らなかったから上手く騙せたわけし」

アサリ,「むしろアサリから見てもナイスでしたけどねー。セーラさんに知らせる時間もありませんでしたしー」

アサリ,「アタルさん、多分セーラさんへ秘密裏だったことに嫉妬しているんですよー。相手は柴田さんなのに。はははー」

セーラ,「なっ―――私、嫉妬なんてしてません!」

顔が赤くなるセーラさんの言葉には、説得力がゼロだった。

アサリ,「残念ながらわかるんですよー。アサリは付き合い長いですからー」

セーラ,「ふーん、そう言いますか………。では付き合いの長いアサリさん、今私がどう思っているかわかります?」

アサリ,「あー………アサリに対しての敵意ですねかねー」

アサリさんがジリっと後ずさりをする。

いや、それだけセーラさんが怒った表情していれば俺でもわかるぞ。

セーラ,「別に怒ってなんかいませんよぉ?で、それはさておき、早速アサリさんの初体験、実施しちゃいましょうねぇ」

アタル,「初体験…って、えええっ!?」

セーラ,「アサリさん、心の準備なんてさせませんわよ?」

アサリ,「うー。やっぱり怖いですよー」

セーラ,「平気ですよ。さっき言ってた通り、きっと私と同じく幸せな気分になっちゃいますから」

初体験って……まさか俺と?

アタル,「いやいやいやッ!?そういうのって大事な人とするのがいいんじゃないかな?」

セーラ,「もうこれは決めてたことなんですよ。私が結婚すると護衛はニッポン国の方の担当になって、アサリさんがお払い箱になっちゃいますから」

アサリ,「でもアサリが側室か2号さんになればこれからもセーラさんの護衛が勤められるというわけですー」

セーラ,「アサリさんだったら私は側室でも構わないですし。それに……アサリさんも、アタルさん相手ならまんざらでもないみたいですからね」

アサリ,「そ、そういうことはバラしちゃだめですよー」

珍しくアサリさんが焦った表情をしていた。えっ、じゃあ本当に…?

セーラ,「というわけで、奪っちゃってください」

アタル,「…本当にいいの?」

アサリ,「仕方ないからアタルさんで我慢してあげますよー」

その声は少し震えている。

凄まじい強さの護衛でも、やっぱり中身は女の子なんだと思った。

セーラ,「あら。ちゃんと濡れているみたいですね」

アサリさんの下着を脱がすと、そこには透明な糸が伸びていた。

アタル,「じゃあ…いくよ」

アサリ,「は、はい。どうぞー」

俺は濡れたスリットにペニスをあてがい、体重を乗せて押し入った。

アサリ,「あっ…ッ……うっ…」

破瓜の痛みでアサリさんが顔をしかめる。

アタル,「せ、狭い…」

アサリさんの中は狭く、なかなか進まない。

自分のモノが大きいなんて言うつもりはないけど、セーラさんと比べてアサリさんの身体が小さいからだろうか。
アタル,「どうする? 一旦このまま…」

アサリ,「一気にやってくださいですー」

アタル,「でも辛そうだけど」

どんなときでも能天気なアサリさんが薄っすら涙を浮かべている。

アサリ,「ヘタな先延ばしよりマシですー。こんな可憐な少女犯せるなんて、滅多にない機会ですよー」

アタル,「自分で可憐とか言ったよこの人ッ!?可憐な少女はあんな凶悪な毒使ったり、恐ろしい殺人術しないですからッ!?」

そういや殺されかけたこともあったんだよなあとシミジミ思い出す。

いかん。思い出すと股間が縮み上がりそうだ。

アサリ,「まあまあ。あれは終わったことですからご勘弁ー。それより一思いにずぶっとですー」

アタル,「わかった。よっ…と」

アサリ,「うっ……ぐっ…ッ」

ミリミリと音が聞こえそうな感じでペニスがわけ入っていく。

アタル,「アサリさん、もうちっと…力……抜いて…」

半分ほど入ったところで、まだ抵抗にあう。

アサリさんの苦悶の表情は増す一方だ。

セーラ,「アサリさん、ファイトですよ」

アタル,「アサリさん、一度深呼吸して」

アサリ,「は、はいですー…すーはー、すーはー…」

何度か繰り返す呼吸を確認し、息を吐ききったところでグッと押し込んだ。

アサリ,「あ…くっ……ううっ……ああっ!」

アタル,「アサリさん、全部入ったよ」

アサリ,「はあっ、はあっ、はあっ…」

アサリさんの割れ目から初めての証が流れる。

セーラ,「は~、なるほど。私のときもこんな風だったんですね」

感慨深げに結合部分を眺めるセーラさん。

奥まで入ったものの中はキツくて、動かせるとは思えない。

アサリ,「う、動くですよー」

アタル,「いいっ! これ、きっとすっごく痛い…と思うよ?」

セーラ,「あれれ…私のときはこんな優しくしてくれましたっけ?」

嫉妬に満ちた視線を投げかけるセーラさん。

アタル,「そんなことないってば!俺、あのときは血が出たセーラさん見て、正直止めようかと思ったもの」

不満気になるセーラさんに俺は慌てて取り繕う。

アサリ,「そうですよー。確かにあのときはアタルさん、紳士でしたからー」

アタル,「…やっぱあのときどっかで見ていたんですね」

アサリ,「そりゃそうですよー。執事としてセーラさんが女になる瞬間を見逃すわけにはー」

アサリ,「それはさておき、動いてくださいー。これ以上ジッとしているとまた嫉妬されるんでー」

セーラ,「べ、別に私は…」

拗ねたセーラさんにアサリさんが笑う。

アタル,「ああ。痛かったら言ってね」

ずっ、ずっ、ずっ…。

アサリ,「うっ……んっ、んっ…」

キツキツの中を行き来する。やはりまだ痛みがあるのだろう。

セーラ,「私にも構ってくださいよ~」

アタル,「はいはい。んっ…ちゅっ……むっ…」

セーラ,「んっ…はぷっ……ちゅ…ンむっ……」

セーラ,「んぷっ……んっ、んっ…じゅっ……んっ……っ」

セーラ,「あむっ……ちゅ、ちゅっ……ぷふぅ…アサリさん、私のアソコも舐めてくださいな」

アサリ,「うー。アタリ、初体験で難易度高いですよー。んちゅ、じゅっ……んっ…んっ……ずっ…」

そう言いながらもアサリさんはセーラさんのスリットに舌を伸ばす。

アサリ,「じゅっ……ずるっ…む……んむっ………んぷっ…。セーラさんのココ、トロトロですよー」

まだセーラさんには愛撫も何もしていないのに、アサリさんの顔には秘部から蜜が滴っていた。

セーラ,「だってさっきは…むちゅ……んっ、アタルさんのを舐めているだけで……ちゅっ……んぶっ、ちゅ……」

セーラ,「それに今だって…ちゅっ……っ、アサリさんがしてもらっているのを……見るだけなんて…む…んむっ…切ないです……」

アサリさんの初めての最中なのに自分のおねだりをしちゃうなんて、セーラさんって意外とミルフィみたいにワガママなのかもしれない。
まあでも俺が存分にキスして愛撫すればいいのか。

ただ3Pって男が一人だとさっきみたいにしてもらうのと違って大忙しだ。

アサリ,「んっ……んぷっ……あむっ…ちゅっ、ちゅっ……はむっ……むっ…んっ、んっ、あっ!」

アサリさんもちょっとだけ慣れたのか、鼻にかかった声が出た。

顔も上気し、心なしか交わっている部分の潤滑油が多くなってきている。

これならもう少し強くして平気なのかもしれない。

セーラ,「アサリさんも……んっ…初めてなのに気持ち……よく……んんっ…なっちゃったんです…ね……んっ!」

アサリ,「あ、アサリ…は……んっ、んっ! そこま……で…エッチ…な子じゃ…ぁ…っ、あっ! やっ、ああっ!」

男根が埋没する毎に、アサリさんから快楽の混じった声が出る。

アサリ,「あっ、んぁ、ああっ!? な、中で…大きく……ふぁ、あっ! くっ…ひっ、ああっ! んぁ、あっ!」

普段からは想像もできない痴態に俺の怒張がさらにサイズを増す。

セーラ,「んちゅ……あむっ…ちゅっ、ちゅっ…もっと……もっとぉ……ちゅ、んっ、んっ! あっ……んんっ…」

キスか愛撫かどっちをもっとなのかわからないけど、セーラさんは腰をくねらせ、俺の唇を求めた。
空いた手でセーラさんの胸をこね回す。

セーラ,「ふあぁ…アタル様……ッ…触り方……が…んっ…んんっ! イヤらし…く…ぅ……なってます……」

アタル,「セーラさんこそ……そんなに……揉んでないのに…もう…乳首……大きい…じゃないか…ッ……」

やっぱり彼女のおっぱいは大きい。ちょっと押し込むだけで、俺の指が埋没して見えなくなる。
セーラ,「あっ、はっ……アタル…様だから…ですよぉ……私の…ッ…あっ! 身体……が…っ…期待……しちゃって……んンッ! うっ……あっ!」

アサリ,「んっ、んっ、あっ、んぶっ………ちゅっ……あっ、やっ! あぅ……んんっ! ッ…あっ!」

こなれたのを見計らい、俺はアサリさんの細い身体に大きく腰をグラインドする。

アサリ,「ふあぁ、やっ! はっ、んっ…んんっ! んぁっ!つ、強いで…す…んっ! あぅ、あっ……ああっ!ひっ…くっ、あっ! はあっ、あはぁ! あ、んっ!」

俺の動きにアサリさんもおずおずと自身の腰を動かし、拙いながらも快感を得ようとする。

アタル,「くっ……も、もう…なの……ッ…かよ…」

さっき出したというのに、もう竿の底からむずむずする感覚が出てくる。

アサリ,「ふあぁ! あっ、んんっ! ああっ、あんっ! あっ!はあっ、あっ…ん! んっ、ひぅ、うぁ! ああっ!」

セーラ,「アタル…様……んっ……イき…そうなんですね……むっ……ん、中に……出して………んっ、んむっ…」

アタル,「ッ……や…それは……マズ…イでしょ……」

アサリ,「出して…んっ、あっ! く、くださ…ぃ…んっ!あっ! あぅ、うっ! うンッ! あっ……やっ!」

マズイと言いつつ、二人から促されて俺の動きは絶頂に向けてスピードアップする。

セーラ,「んっ、あむっ……んちゅ、ちゅっ…ちゅっ…じゅっ」

アサリ,「んぁっ! ああっ! やっ…キて…る…ぅう!ひっ、あっ! はっ! やぁ、あぅ! ううっ!」

アサリ,「うあ、ああっ! ふあっ、んっ、んんっ! んっ!やっ! やあっ! あっ! うっ、ああっ! うぁ!」

アサリ,「やっ、ら、あっ! ふぁ! ふやぁ、ああっ!くっ、あっ! ひっ、ううっ! ふあああぁ~~!!」

アタル,「う、くっ……出…る…うあ……っ…」

引き抜こうとした瞬間、セーラさんがさり気なく俺の身体を抑えた。

腰を浮かせることもできず、アサリさんの中に大量の精が放たれる。

アサリ,「はぅう、あっ、ううっ……ああ…う……出て…る……んっ……ん」

狭い膣内はすぐに行き場を失い、あっという間に外へ流れ出た。

セーラ,「んっ……あっ…あんなに…たくさん……羨ましい…」

セーラさんも軽くイったのか、アサリさんの顔に飛沫を散らしていた。

アタル,「あっ……くっ…」

アサリさんの割れ目が貪欲に俺の幹から樹液を絞ろうと律動する。

アサリ,「はぁっ、ふぅ……ッ…んんっ!?」

その窄まる動きがキツくて、収縮した拍子にペニスが抜け出る。

アサリ,「アサリもこれで……オンナになっちゃいま…した…」

呆けた顔で自身の膣を眺めるアサリさん。

たっぷりと注ぎ込まれた精液がだらしなく吐き出され、ベッドに染み込まないほどの水溜りを作った。
アサリ,「アサリみたいな小さい女の子にこんなに出すなんて、もしかしてアタルさんって本当はロリコンさんなんですかー?」

アタル,「いや、そんなことは…」

あれ。でもどうなんだろう。幼い顔立ち、細くて華奢な身体と薄い胸。

破瓜の痛みに耐える必死な顔。

そんなアサリさんがおずおずと腰を振るその姿は間違いなく扇情的で、興奮していた自分がいた。

裂け目から白く濁ったほとばしりを吐き出し、顔を愛液で濡らして放心気味の今のアサリさんはまだ蟲惑的で―――。
アタル,「いやいやッ!? きっと違います!」

セーラ,「そんな…アタル様が人の道を外れて修羅道に…?」

アタル,「修羅道って何ですかッ!?それに別に人の道をはずれた覚えはないですよッ!?」

アサリ,「でもアサリにドバドバ出してくれたのは嬉しかったですよー」

アサリ,「ちゃんとこの身体でも、男性を興奮させられると確信できましたー」

ベタベタの顔のまま、屈託のない笑顔をするアサリさん。

いかん。ちょっとだけ今気持ちが揺らいだ。

アタル,「さあ、もう寝る時間じゃないかな?」

手足は筋肉痛でガタガタ。そして腰はガクガク。

精力を吐き出し、身体が休息を欲しているのがわかる。

でも明らかに俺の意見を聞く気配のない二人の格好。

セーラ,「まだ私、今日は中に出してもらってませんが…」

アサリ,「我らがダンナ様は、これしきのことでへばったりしませんよねー?」

いいえ、へばってます。決して大げさではなく。

セーラ,「前立腺ってイジると、殿方のアレは強制的に起き上がるんですよ」

アサリ,「おー、そうなのですか。セーラさんはこの手に関しては物知りですねー」

アタル,「ちょ―――何を言い出しちゃってるのッ!?」

俺を差し置いて物騒な話がされている。

セーラ,「ふふっ。私も博学なアサリさんに、物事を教えることが来るとは思いませんでしたよ」

アサリ,「先ほどまで処女だった通り、アサリはこの手のことは実践も含めてさっぱりですからー」

バルガ王が言ってた王の資質って、まさかこれも含めてだったのだろうか。

だとすれば、俺はまだまだヒヨッ子だと言わざるを得ない。

セーラ,「では実演しますね。まずアレを起こす前に―――って、あら?」

物騒な話にせっつかれて、俺は上体を起こした。

同時に襲いかかる疲労。

身体にムチ打つという言葉を俺は初めて味わっている気がする。

アサリ,「あらら、起こす前に起きちゃいましたねー」

アタル,「つーか起きない方が大変なことになるでしょ!?」

セーラ,「さすが私たちが認めた殿方です。さあ、存分に滅茶苦茶にしてくださいね」

物欲しそうに涎を垂らす陰部と、お腹一杯で食べかすを口元に散らしている陰部。

目の前で揺れる卑猥な臀部に、グッタリだった陰部が鎌首をもたげた。

アサリ,「どちらを召し上がりますかー?」

もうここまできたら腹を括るしかなかった。

答えは―――。

アタル,「…どっちも頂きます」

セーラ,「あふぅんっ!」

アサリ,「ふああぁ!」

セーラ,「んくっ……んあっ! ッ…あっ! やっ! ひぁっ!ああっ! ひぅっ! ん…くぁ! あぅ、ううっ!」

おあずけ状態だったセーラさんの膣内は最初の一突きで愛液が漏れ出るくらいヌメヌメしていて柔らかだった。
セーラ,「うっ、あっ! ひあっ! あっ…うう、うっ…!うぁ、うあっ、やっ! んんっ、んっ! んんぅ!」

それに暖かくて、引っこ抜くときなんか名残惜しそうに膣口がキュッと締まる。

アサリ,「うッ…ああっ! ま、まだ大き…ッ、あっ! ひっ!んんっ! う…はあっ! は…んんっ、あんっ!」

アサリさんの内側に残っている精液が滑りを良くしているので、意外とすんなり挿入できた。

アサリ,「ふあっ! やっ…くっ! んっ! あッ! んっ!う…ああッ!ひっ…あ! ああっ! ひゃんっ!」

とは言っても僅かに混じる血液とキツい締め付けがさきほどまで処女だったことを物語っている。

俺に合わせようと稚拙に腰を振るのが可愛らしく、セーラさんと比べてまだ未成熟気味な身体とのギャップが卑猥だった。
アタル,「ッ……んっ……く…ぁ…」

二人の身体がそれぞれ魅力的なのか。

それとも俺の身体が疲れたとか言いつつも節操ナシなのかわからないが、三度硬さを取り戻したペニスは徐々にみなぎってくる。
セーラ,「んぁ! あっ! 私に………んっ、ああっ!だ、出してくださ……んっ! んんっ、あぅ、あっ!」

アサリ,「あ、アサリ…も……ふぁ、ふああ! イ…いく…ッ!イっちゃいま……す…ぅ、んっ! うあっ、ひああ!」

こっちもまた猛々しく膨らみ始め、欲望が爆ぜようとしている。

アタル,「くっ…ぅぁ……」

熱病でうなされているみたいにもはや惰性で腰を振りつつ、どちらに出そうかとぼんやり考えていた。
セーラ,「ああっ! んああっ! すごっ、ひっ……ふあっ!」

俺はセーラさんの大きなお尻を鷲づかみにして、欲望を吐き出そうと出し入れを繰り返す。

セーラ,「ひっ…うっ、ううっ! やっ…あっ! ぁ…ッん!んあっ! くっ、ああっ! ひぃいっ! うあっ!」

セーラ,「イッ! アっ! んっ、ひっ! あっ、あんっ!ひぅ! ぁあ! やっ、もう…んっ! あううっ!」

セーラ,「出し、てぇ! んっ! あうっ! ううっ! ひっ!いいっ! いいよぉ! ああっ! ああぁあ~~!!」

セーラ,「ふぁあ…ああっ……やっぱり…中……いい」

セーラさんの性器が震え、吐き出された精を飲み込んでいく。

出した、というより吸い出されていく感じだ。

アサリ,「アサリもまだ足りないですー」

アタル,「でももう無理――うああっ!」

まだ射精の余韻に浸る竿がキュッと握られる。

アサリ,「まだアサリをオンナにしただけですよー。今度はオンナの悦びを知るまで離さないですー」

女性のしっとりした指とこの場のむせ返るぐらいのオンナの匂いに、俺の意思なんか無視してソレは鎌首を持ち上げた。
セーラ,「アサリさん、まだ私も足りませんわ」

アサリ,「順番としてはアサリの番ですよー」

おそらく幸福であろう未来を見た今日の日。俺はこの日をきっと忘れないだろう。

セーラ,「今度も私ですよね?」

アサリ,「今度こそアサリですよねー?」

アタル,「は、ははっ…」

とりあえずまだ今日の日は終わりそうにない。

アサリ,「うあっ! ああっ! う、ううっ…あっ! あンっ!」

俺はアサリさんの小振りなお尻を抱え込むように掴み、奥までぶつかるぐらい出し入れを繰り返した。

アサリ,「やっ! んッ! なか…がッ……んんっ! まだ…ッ!ぐちゅ……ぐちゅ…でッ、あっ! ふあっ! んんっ!」

アサリ,「ふえぇ! あぅ、あふぅ! んっ! うぁ、うやっ!ふあっ! あぅ! んッ! んぅ、んんっ! んあっ!」

アサリ,「やぁ…あっ! ま、また…んっ! んんっ! ひぅっ!ひうぅ! あぅん! あっ、あっ、ふああぁ~~~!!」

あまりに滑りがよくて、出す瞬間にペニスが抜け出た。

アサリ,「ああっ、ふあぁ……」

オーガズムに達したことを素直に受け入れがたいのか、アサリさんが目を閉じて耐えている。

その羞恥心を無防備に晒す姿がとても淫靡だ。

セーラ,「アタル様。次こそはアサリさんと同じ数……いえ、それ以上私に出してもらいますわ」

アタル,「でももう無理――うああっ!」

まだ射精の余韻に浸る竿がキュッと握られる。

女性のしっとりした指とこの場のむせ返るぐらいのオンナの匂いに、俺の意思なんか無視してソレは鎌首を持ち上げた。
セーラ,「私を満足させるまで、お休みはありませんのよ?」

こめかみ辺りに青筋を立てて、セーラさんが微笑む。

アサリ,「アサリもまだまだしたいですー」

股から精液を垂らし、無邪気に笑うアサリさん。

おそらく幸福であろう未来を見た今日の日。俺はこの日をきっと忘れないだろう。

セーラ,「今度こそ私ですよね?」

アサリ,「今度もアサリですよねー?」

アタル,「は、ははっ…」

とりあえずまだ今日の日は終わりそうにない。

王様に選ばれ、セーラさんと結婚してからもう10年が経った。

あれから色んなことがあったけど、今ではそれなりに王様をこなしているつもりだ。

俺の代でも衛星あたりめが持つジンクス―――。

選ばれた王様が暴君や独裁者になったり、はたまた国を転覆させる事態を引き起こしたりは今のところ起きていない。
まあこれからも起こさないつもりだけどさ。

アサリ,「おおっと、まだまだアサリの敵ではないですなー」

子供,「アサリさん速いよ~」

アサリ,「かけっこ勝負とはいえ、手加減はしないですよー」

子供,「じゃあ僕はパパと勝負する~。パパ、かけっこしようよ~」

セーラ,「パパはお仕事で疲れているんですから、あんまりムリ言ってはダメですよ」

子供,「う~……。だったらお爺ちゃんと遊ぶ~」

バルガ,「はっはっは。さあこい!」

アタル,「バルガ王、相変わらずタフですね…」

バルガ,「何を言う。お前さんがひ弱なだけじゃ」

アサリさんとバルガ王が子供たちを相手しているのを確認し、セーラさんへ振り返った。

アタル,「仕事…ねぇ」

セーラ,「まさか子供の前で子作りとは言えませんし」

アタル,「俺、まさか産後すぐなのにあれほど求められるとは思わなかった…」

セーラ,「あら。私の身体、飽きちゃいました?」

アタル,「いいや。それはないけどさ」

セーラさんがあやしている乳飲み子を覗き込む。

セーラ,「今度の子はどちらに似てますかね」

アタル,「うーん……。目元はセーラさんだけど、口元は俺…かなあ」

セーラ,「まだ生まれてないのにわかるんですか?」

アタル,「えっ………あっ!?もしかして次の子の話なのッ!?」

セーラ,「ふふっ、冗談です。でもあなたとの子なら私、何人でも欲しいですよ」

赤ん坊,「ふぇええ……」

アタル,「あらら。赤ん坊が構って欲しいって泣いているぞ。まだ次の子供の話なんてしないでくれって」

セーラ,「ですね。この子に怒られちゃいました。よしよし、ごめんね~」

ハズレばかりを引いてきた俺に唯一の当たりをくれた衛星あたりめ。

俺は空を見上げるたびに見えないぐらい高い場所を周回するこの衛星に感謝している。
セーラ,「ところでこの子の名前、考えてくれましたか?」

アタル,「うん。幾つか候補があるけど、こんなのはどうかな……」

これまでも。

そして、これからも。

俺の部屋に、俺のお嫁さん候補の3人が集合していた。

そして、俺は3人の前で正座をさせられていた。

アタル,「えーっと……この度はどういったご要件で?」

セーラ,「アタル様は結局、誰をお嫁さんにされるのですか?」

ミルフィ,「この後に及んで、誰にも決められない、とかはなしなんだからね?」

ひよこ,「そうだよぉ、アタルくん。お姫様とか関係なしに、私をお嫁さんにしてくれていいんだよ?」

ミルフィ,「……ぴよぴよ、結構図太くなったわね……」

ひよこ,「おとなしくしてたら、アタルくんのこと持っていかれちゃうもん! もうそんなの嫌なんだもんっ!」

アタル,「落ち着け落ち着け。えーっと、それぞれのルートで、俺はそれぞれと幸せになった――そういうことでいいじゃないか」

ミルフィ,「それで納得させられると思ってるの? それで納得できないから、あたしたちはこうやってアタルに正座させてるわけ? OK?」

アタル,「……OK」

――そんなメタな発言もあったりしちゃうのですが。

セーラ,「あっ、私、いい事を思いつきましたよ~」

ミルフィ,「なに、セーラ。一応、聞いてあげるわ」

セーラ,「王様の命令で、こういうのはダメなんですか~?」

アタル,「どんな命令ですか?」

セーラ,「『ニッポンの結婚制度を一夫多妻制にする!』」

アタル,「エエェエエェェっ!?」

ミル&ひよ,「エエェエエェェっ!?」

アタル,「い、いや、それやっちゃうと、このゲームの話が根底から揺らぎませんっ!?」

ミルフィ,「まぁ、あたしも考えたことはあるけど、あえて言わなかったっていうか……」

ひよこ,「柴田さん、それってどうなんですか?」

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柴田,「ええ、別に構いませんよ?」

アタル,「ユルぅっ!? いいの!? それ、ありなのっ!?」

セーラ,「まぁ、では、それで全て円満解決じゃないですか~」

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柴田,「ただし、アタル様に皆様全員の面倒を見られるだけの、甲斐性があるかどうかが問題ですね」

アタル,「甲斐性……ですか」

幸い、お金と権力は溢れ返るほどにある。住む場所も食べる物にも困らない。

あとは……何が必要なんだ?

ミルフィ,「ちょ、ちょっと待ちなさいっ!あたしはそんなの認めないわよ!」

ひよこ,「アタルくんの一番は、その、私がいいなぁ……」

セーラ,「み~んながアタル様の一番、ってことでいいんじゃないですか~?」

ミルフィ,「……玉虫色の言葉ねぇ……むぅ……なんかセーラに丸め込まれてる気がするけど……」

ひよこ,「うーん……アタルくんが差別しないでくれれば、私はいいかなぁ……」

セーラ,「そうですね、ひよこさん、大事なのはそこなんです。3人ともアタル様のお嫁さんなんですから、アタル様は全員を同じだけ愛さないといけないですよね~」

アタル,「同じだけ愛するねぇ……でも、俺の身体はひとつしかないし……愛は数値にできるわけじゃないだろ? 同じ数って、具体的にどうやって証明すればいいんだ」

ひよこ,「えっと……それは……同じ回数だけデートするとか?」

ミルフィ,「そうねぇ……毎週、当番制みたいな感じかしら。今週はあたしで、来週はぴよぴよ……みたいに」

ひよこ,「えー、ずるいよぉ、なんでミルフィさんが先なの?」

ミルフィ,「今のは例えでしょ。順番はジャンケンで公平に決めればいいじゃない?」

セーラ,「いえ~、そんなまどろっこしいことしなくとも、なんでも4人一緒、だったらいいんじゃないですか~?」

ひよこ,「なんでも4人は……無理じゃないかなぁ? ねぇ?」

ミルフィ,「そ、そうよ……だって、アタルの身体はひとつしかないわけだし……」

何故かふたりは頬を染めながら、俺の方をチラチラと見る。

俺の方というか……なんだか視線はやや下寄り。

セーラ,「あら~、無理かどうかなんて実際に試してみないとわからないじゃないですか~」

ひよこ,「えっ、えっ、実際に試すって……」

ミルフィ,「い、いやいやいや、そんなの無理! 無理よ!」

アタル,「ん? ちょっと待て、ヒヨ、ミルフィ、セーラさん。なんか勝手に話が進んでるけど……」

セーラ,「では、せっかくですし、今から4人で一緒に、エッチしましょう~♪」

……へ?

アタル,「えエェエェぇエェぇぇぇっ!!!?」

ミル&ひよ,「えエェエェぇエェぇぇぇっ!!!?」

異口同音。セーラさんを除く全員の声が一致した。

…………

……

セーラ,「は~い、ミルフィさん。アタル様のことを一緒に気持ちよくしてあげましょうね~」

ミルフィ,「ちょ、ちょっとセーラ! 本当にするの!? あたしはこんなことするなんて一言も……!」

ミルフィ,「むぅぅ……こういうことをするのは、アタルとふたりっきりの方がいいのに……」

セーラ,「ミルフィさんが参加されないなら、私が1人でアタル様に愛されてしまってもいいんですか~? 私は構いませんけど~」

ひよこ,「だ、だめっ! ミルフィさんがしないんだったら、私がするよぉっ!」

さすがに定員オーバーのため、ジャンケンで負けたひよこは視界外から訴える。

ごめんな、ヒヨ。俺のちんちんは2人用らしい。

ミルフィ,「べ、別にしないなんて言ってないわよっ! だって、セーラと一緒に裸になったりしたら、あたしの胸がないのがバレるじゃない……」

アタル,「いやいや、大丈夫。ミルフィの胸がないことなんて、最初からわかってるってば」

ミルフィ,「あんですってぇ!」

セーラ,「ミルフィさんは小さいから可愛いんじゃないですか~」

ミルフィ,「ムカつくッ! なにそれ、オトナの余裕!? 余裕よね!?」

セーラ,「そういうつもりで言ったのではないのですけど~」

アタル,「ほ、ほら、ミルフィ、みんながみんな同じ体型だったら、バリエーションに乏しくなっちゃうだろ?」

アタル,「小さいのもあって、大きいのもある。いろんなバリエーションがあるから、楽しめるってもんじゃないか」

ミルフィ,「あんまり褒められてる気がしないんだけど……」

ひよこ,「むぅ……アタルくん、それじゃ、セーラさんとミルフィさんの真ん中の私はどうなっちゃうの……?」

ミルフィ,「……中途半端?」

ひよこ,「うわあぁぁんっ! ミルフィさん、ひどいよぉっ!」

アタル,「そんなことないぞ、ヒヨ! ちょうどいいのはちょうどいいなりに需要が!」

拗ねたヒヨは部屋の隅で丸くなってしまった。

ミルフィ,「まぁ……今は、ぴよぴよには退場しててもらいましょ。アタルのココに3人はちょっと無理だからね」

2人は俺の股間に顔を寄せてきた。

セーラ,「うふふっ……ア・タ・ル・さ・ま♪」

セーラさんは俺のモノの近くに顔を寄せ、呟いた。

ミルフィ,「もう、アタルってば……もう随分、大きくなってるじゃないの……」

そりゃあ、みんなで一緒にするなんて聞かされたら、股間も期待で膨らもうというものだ。

この2人に同時に弄られたら、どんな風になっちゃうのかは未経験で未体験。

男の夢、ロマン、超幻想。妄想だけでも、元気になるというのに、実際にこんな光景を目の当たりにしたら。

セーラさんの優しく吹きかけられた吐息を感じて、俺の股間はぴくぴくと震え出す。

セーラ,「それでは、いただいてもよろしいですか~?」

セーラさんは、俺のしてほしいことはわかってるのだとばかりに微笑み、唇を亀頭スレスレにまで近づける。

アタル,「……いただいちゃってください」

セーラ,「は~い♪ ちゅぅ、ちゅ、んっ……んちゅ、ちゅぷっ……ちゅっ……ちゅ……」

まずはセーラさんの先制攻撃。セーラさんのぽってりとした唇が俺の股間にキスをする。

ミルフィ,「あ……もう、セーラってば!」

セーラ,「はぁぁ……アタル様のおちんちん……すごぉい……こんなに大きくなってしまうんですね……」

ミルフィ,「あの……セーラ? 恥ずかしくないの……?」

セーラ,「少しは恥ずかしいですけど~……愛する人との営みは、恥ずかしがる必要などない、崇高な行為だと言われてましたから……ぺちゃ……ちゅっ……」

アタル,「ぅっわ……気持ちいい……!」

ミルフィ,「うわぁ……うわぁ……セーラの舌、エッロぉい……」

ミルフィに凝視されているというのに、セーラさんは俺のモノに対し、恥ずかしげなく、積極的に舌をまとわりつかせてくる。

セーラ,「んは……アタル様のおちんちん、かわいい……おいしい……舐めてると、んちゅっ……どんどん、愛して差し上げたくなってしまいます……」

ミルフィ,「か、かわいい……の? このグロテスクなのが?」

セーラ,「はい~、亀さんみたいで、すっごくかわいいと思いますよ~。ちゅっ……ちゅう……」

むぅ、そんな風に『かわいい、かわいい』と連呼されると、男としては微妙な気分になってしまうのだが。

ま、セーラさんの美的センスはちょっとズレてるからな。

セーラ,「このおちんちんだって、いとおしいアタル様の体の一部なんですから、一緒に愛して差しあげたいと思うのは普通じゃないでしょうか~?」

アタル,「くっ、セーラさん、かわいいこと言ってくれる……」

セーラ,「ふふっ、ありがとうございま~す♪ かわいいなんて言われたら、もっとサービスしてあげたくなっちゃいます~♪ ん、ちゅっ、ぺろっ」

一心不乱に亀頭にキスを続けていたセーラさんに驚き、しばらく固まっていたミルフィだったが。

ミルフィ,「アタル、セーラの口はそんなに気持ちいいの?」

アタル,「あ、うん……すごく……」

ミルフィ,「それは……許せないわね」

アタル,「ぅえっ?」

怒りの色を含んだ声を発したミルフィは首を傾け、まるでペニスをとうもろこしに見立てたかのように、横からかぶりついてきた。

アタル,「うぁっ……!?」

ミルフィ,「あむ、んっ、あむっ、ちゅっ……んっ、ん」

セーラさんに張り合うように、ミルフィは意図的に音を立てて、唇を上へ下へと滑らせ、俺の股間をしゃぶり回す。

ミルフィ,「んっ、ちゅっ……セーラには……んっ、負けないんだからぁ……っ!」

セーラ,「うふふっ……ミルフィさん、か~わいい♪ でも、私も負けませんよ~。れるっ、れろ、れろっ」

セーラさんの舌先が、俺のカリの裏側を責めてくる。

俺の快感のツボを捉え、的確かつ無駄がない。

ミルフィ,「んむぅ……アタル、もっともっと、あたしで気持ちよくなりなさいよっ!」

アタル,「なりなさいと言われても……んっく!?」

ミルフィの手のひらが、俺の玉袋を下から持ち上げ、そして、ゆっくりと転がすように揉みしだく。

過剰な力が加わると激痛に変わってしまう部位だが、痛すぎない絶妙な加減ならば、それは快感へと変わる。

そんな場所を触らせられる信頼のおける相手に、そんな行為をしてもらっていることが一番快感に繋がっている。

アタル,「ぅ、ぅあっ……!」

ミルフィが玉を刺激したせいか、俺のペニスの先端からはじわりと透明な涎が零れ始めていた。

セーラ,「ん、んむ、んちゅっ……ぷはっ……ふふっ、アタル様の声、気持ちよさそうです……はむん……」

セーラさんが再び俺の亀頭へとキスをする。かなりディープな奥深いキスだ。

先端のほとんどがセーラさんの口の中に飲み込まれる。

ミルフィ,「ふぅ、んっ、んむっ、ふぁ……ふぅぅ……アタル、まらイッちゃダメなんだかられ……どっちがきもひいいのか、はっきりしないうひは、イッひゃらめらんらから……」

セーラ,「出しちゃうらら……ん、ちゅうっ……んむ……わらひのおくひで、気持ちよくなってくらひゃい……出す時は顔でもおくひの中でも……お好きなところに……」

アタル,「え? いや、そんなこと言われても……」

どっちの奉仕も気持ちよくて、どっちで気持ちよくなっているかなんてわからない。

性技に関しては、やはりセーラさんの方が上手か。必死なミルフィの様子を面白がっている余裕もあるらしい。

しかし、セーラさんに負けるまいとミルフィの責めは積極的になろう! と頑張っている感があり、それはそれで新鮮というか、初々しいというか。

ミルフィ,「ったく、もうはっきりしなさいよぉ……どこがいいのよ……ん、れろっ……ん、ぺろ、ぺろっ……」

幹を責めていたミルフィは先端の方へと移動。

先走り汁を溢れさせる鈴口に舌を這わす。

ミルフィ,「ぴちゃ……はむ、んっ、あむ……んぅ……ぢゅるっ、んっ……はむっ、あむっ、んんっ」

セーラ,「ちゅうっ……ぅ、んんっ、ちゅっ、ちゅぷっ」

お互いに顔を擦り合わせ、舌同士を絡めるキスをしながら、俺のペニスにむしゃぶりついていた。

アタル,「うわぁ……」

自分の股間でおこなわれている、現実離れしすぎていて、夢うつつな光景。

しかし、股間を這いずり回る舌と肌の感触はあまりにもリアルだ。

こんな光景を客観視なんてしていたら、勿体無いだろう。とっとと快楽の淵に溺れてしまうのが正解なんだろう。

ミルフィ,「ちゅ、ぴちゅっ……っ、うぅ……んっ、はむ、はむぅ、ん……アタルの汁……しょっぱくて……にゅるにゅるするぅ……」

セーラ,「んはッ……ふふっ、アタル様の味が濃くなってきましたよ~。あ、そうです、もっと搾り出しちゃいましょう~」

不意に亀頭から顔を離したセーラさんは、何か名案を思いついたような顔をして。

自分の乳房を両手で掴み、ペニスの根元に押しつけて来る。

ミルフィ,「うぇっ……!」

その特大ボリュームを目の当たりにし、奉仕していたミルフィも思わず目を見張った。

セーラ,「先ほど、胸のことを言ってましたので……こういうのはどうでしょ~?」

ミルフィは絶望的、セーラさんは究極的な胸の膨らみ。

セーラさんのふよふよのおっぱいに俺のペニスが包まれ、その谷間から赤黒い先端だけがはみ出していた。

ミルフィ,「ずっ、ずるいわよ、セーラ……ッ! あたしに見せつけなくてもいいでしょ!」

セーラ,「別にミルフィさんに見せつけているわけではありませんよ~? アタル様をより気持ちよくして差し上げようとしているだけなのですから~」

ミルフィ,「むぅぅ……そんなこと言って……わかったわよ、あたしはあたしのやり方で、アタルを気持ちよくしてやるんだから……ちゃんと感じなさいよ?」

ないモノはないのだからしょうがない、と諦めたミルフィの舌の動きが加速する。

アタル,「う、うわっ、ミルフィ……っ! それ、はっ……!」

セーラさんのおっぱいの隙間からはみ出している亀頭にミルフィの舌が這う。

舌先で尿道をほじられ、鈴口から湧き水のように先走り汁が漏れる。

ミルフィ,「んぢゅ、れろっ、ちゅ……ちゅっ、れろっ、ぢゅる」

セーラ,「んっ、ん、んんっ、はぁ、はぁ……ミルフィさんの息がおっぱいに当たって、くすぐったいです~……」

俺のペニスで挟み込んだセーラさんの胸は、まるで原始人が棒で火を起こそうとするかのように、前後の摩擦を加えてくる。

もっとも火を起こすまでもなく、俺の情欲の火はキャンプファイヤーのように燃え盛っているのだが。

セーラ,「う~ん……アタル様、私の胸は気持ちよくないですか~?」

アタル,「い、いや、そんなことは……ッ! すごい、気持ちイイですけど……ッ!」

与えてくれている快感は、単純な動きしかできない胸よりも、細かな力加減や位置調整のできる舌先の方が強い。

どちらが気持ちイイかといわれればミルフィのフェラに軍配が上がるが、視覚的にはセーラさんのパイズリ。

むしろ、これは合わせ技で1本だ。

セーラ,「ミルフィさんに負けているみたいなので、私も本気、出しちゃいますね~、ちゅっ♪」

ミルフィ,「ひゃっ!? ちょっと、セーラ、なんであたしにキスするのよ……」

セーラ,「だって、アタル様のおちんちんに一生懸命ご奉仕してるミルフィさん、かわいいんですもの~」

ミルフィ,「ごっ、ご奉仕なんかじゃないわよ。まったく……セーラ、あんたってば、男も女もイケちゃうの?」

セーラ,「ん~、そうですね~。ミルフィさんやひよこさんみたいにかわいい娘でしたら、全然アリですよ~♪」

ミルフィ,「んむぅ……べ、別にセーラにかわいいなんて言われても全然嬉しくないけどぉ……ちゅっ」

セーラ,「ひゃんっ♪ ミルフィさんにキスされちゃいました~」

ミルフィ,「仕返しよ、仕返し。唇を奪われっぱなしじゃ癪だもの」

俺の亀頭にふたつの唇が絡み、そのふたつの唇同士もまた時折絡み合い、この百合っぽい構図も俺の射精欲を、後押ししてくれる。

ミルフィ,「ちゅっ、ちゅ……ぷぁ、はっ……はぁ、アタル、まだイカないの……? あたしたちがここまでしてあげてるのに、もう……このおちんちん、生意気すぎ……」

セーラ,「ぁむっ、ミルフィさん、急かしたらダメですよ……わらひはいつまででも舐めていたいれふから……無理はなはらないでくらはいね……ちゅっ、ちゅ」

アタル,「ぁ……ごめ、もうちょいで、出そう……」

ミルフィ,「はむ……ぅん、ちゅっ、ちゅ……ホント? アタル、イキそうなの?」

訪れを感じてしまえば、高みに登りつめるまではあっという間だ。

ミルフィの問いに応答するのも煩わしいほどに、俺の意識は絶頂に辿り着きたい一心に支配された。

ミルフィ,「セーラ、アタルはイキそうみたいよ? ほら、アタルの腰も動いてきた」

セーラ,「それじゃ、ミルフィさん、最後まで頑張りましょう~♪ ふぅ、んっ、んちゅっ、ちゅぷっ、んぅ……はぁ……アタル様のおちんちん、美味しいれふぅ……」

ミルフィ,「んむぅ、んっ……あむっ、はぁむっ、んっ! すごく、えっちな味がする……はぁ……頭、おかしくなりそ……」

アタル,「くぅ……あ、もう、ダメ……ッ!」

ミルフィ,「ぅんんっ、んはぁっ……はぁぁ……出ちゃうの?いいわよ、早く出しちゃいなさい……んっ、ちゅ」

セーラ,「ちゅ、ん、はぁっ、ぷぁ、んっ、アタル様がいっぱいいっぱい射精するところ、私に見せてくださいませ……♪」

ミルフィ,「わたひたち……れしょ?」

2人は顔を寄せ合い、唇と舌と指とで、俺にトドメの刺激を与えてくる。

ミルフィ,「ぁむうっ、ぅんっ、あむっ、あぁむっ、ちゅっ、んぐんぐっ、ぅうんっ、んっ、んぅんっ、んふぅっ」

セーラ,「ちゅっ、ちゅっ、ちゅうぅっ、ぷっ、んぅ、んっ、んぢゅっ、ぢゅる、んんぅっ、ぢゅぢゅっ」

アタル,「く、ぁ……出るっ!」

宣言するのと同時。

セーラ,「んあっ、んぷぁっ!? ああぁあっ!?」

ミルフィ,「ア、アタルっ……!? ぅ、んっ、ぅんんっ!」

腹の奥底から込み上げて来る、マグマのような精衝動を、2人の顔面へとぶち撒けた。

鈴口は生き物の口のように開き、その肉口は続けざまにマグマのような塊を噴く。

先端から噴き出した白いマグマは、顔を寄せていた2人の顔に均等に降りかかった。

ミルフィ,「ぷはっ、はぁ……すごい……匂い……ちょっと、これは出しすぎじゃないの……? ひゃっ、まだ出てるぅ……」

セーラ,「はぁ……ぅぅ、んっ……こんな濃い精液がいっぱい……はぁ……お口が妊娠しちゃいそうです~……」

ミルフィとセーラさんが手を繋いで俺のペニスをしごく度、奥底から溢れ出る。

オナ禁してひたすら溜め続けた時のような長い射精だった。

わりと定期的に出してるはずなんだけどなぁ……?

セーラ,「あら~、ミルフィさんの顔に、アタル様の精液、いっぱいついちゃってます~、ぺろっ」

ミルフィ,「まったく……顔がガビガビになっちゃうじゃない……セーラの顔も凄いことになってるわよ……ぺろ、ぺろっ」

顔に付着した精液を、猫が毛づくろいでもするかのように舐めとり合う。

セーラ,「私たちだけじゃなく、アタル様のおちんちんも綺麗にして差し上げないと、ですわね~♪ お疲れさまでした、ちゅっ♪」

アタル,「おぅふ……! 極楽、極楽……」

ミルフィ,「で、アタル、どっちの口が気持ちよかったのかしら?」

アタル,「は!?」

極楽から奈落の底へ叩き落とすような言葉だった。

セーラ,「そうですね~、ミルフィさんと私、どちらの私のお口が気持ちよくてイッちゃったのかが気になります~」

アタル,「あ……え? いや、その……どっちがよかったかなんてわからないよ……どっちも気持ちよかったし……」

どちらの刺激が欠けてても、こんなに気持ちよく射精に導かれなかっただろう。

ミルフィ,「ずるいわよ、アタル……かぷっ!」

セーラ,「アタル様、ずるいです~……はむっ!」

アタル,「イタァっ!?」

ふたりは同時に、俺の亀頭に歯を立てた。

さすがに本気で噛み付いたわけではないだろうが、未だ敏感な粘膜にその刺激は強すぎた。

セーラ,「ふぅ……おちんちんのお掃除も終わりました~。でも、これで終わりだと思ったら、大間違いですからね~?」

アタル,「え、マジですか……」

ミルフィ,「当ったり前でしょ? 自分だけ気持ちよくなって終われると思ったら大間違いよ。それに――」

ひよこ,「もぅ、もう、もぉーっ!私ばっかり置いてきぼりはヤダよぉっ!」

アタル,「ヒ、ヒヨ……」

セーラ,「ひよこさんも構ってほしいですよね~?」

ひよこ,「もう、ふたりともずるいずるいずるいよぉっ!私だって、アタルくんとえっちなことしたいよぉっ!」

ミルフィ,「ふぅ……アタルのってば、大きすぎるのよ……もう……あたし、あご疲れちゃったから、次はぴよぴよ、アタルに愛してもらいなさい」

ひよこ,「え……いいの……?」

セーラ,「ええ、ごめんなさいね~、ひよこさん。アタル様のこと、二人占めしてしまって。アタル様の一番槍は、ひよこさんにお譲りします~」

俺の股間の槍だけにってね……やかましいわ。

ひよこ,「ホ、ホント?ありがと……セーラさん、ミルフィさん」

アタル,「あの……俺の意志は……?」

ミルフィ,「ないっ!」

セーラ,「ありませんね~♪」

ひよこ,「アタルくんは私とえっちしたくない……?お姫様じゃない私なんて嫌い……?」

ぐっ……! そんな潤んだ目を向けてくるなよ。興奮……しちゃうじゃないか……!

ひよこ,「アタルくんがされてるの見てるだけで、私のここ、こんなエッチになっちゃったんだもん……ッ……!」

ヒヨが股間に右手を当てると、くちゅ、と、水っぽい音が鳴る。

ひよこ,「ね……こんなに、ぬるぬる……なんだよ……?」

そして、差し出し、右手を見せつける。

たったそれだけの動作で、ヒヨの右指は、たっぷりの愛液に浸されていた。

見せつけられた右手がやけに艶かしくて、俺は思わず、ヒヨの指を咥えてしまった。

ひよこ,「あッ、アタルくん……!?」

音を立てて、ヒヨの愛液を舐めとる。

女の子の性臭に満ちた甘酸っぱい蜜は、強烈な媚薬。

アタル,「俺がされてる間、自分で弄ってたのか?」

ひよこ,「……うん……だって、ここがきゅんきゅんしちゃって……切なかったんだもん……」

出したばかりだというのに、俺のペニスはいきり立ち、へそに接触せんばかりの角度となる。

ひよこ,「わ、わっ……アタルくんのおちんちん、いつもよりおっきい……」

アタル,「ヒヨがかわいいからだよ」

俺はヒヨを抱き寄せる。

抱き心地のいい感触。

ひよこ,「えっ、わ、あ、えへ……えへへ……」

ミルフィ,「ったくぅ、見せつけてくれるわね……」

セーラ,「私もアタル様にギュッってされたいです~……」

ひよこ,「アタルくんのおちんちん、私のお腹に当たってる……あは……すっごく硬くて、すっごく熱くて……とっても大きいね」

アタル,「うん、まぁ……随分出っ張っちゃってるな?」

ひよこ,「それじゃ、その出っ張ってるの、私のナカに挿れちゃわない?」

なんとも大胆な提案だった。

アタル,「でも、2人に見られながらだぞ? いいのか?」

ひよこ,「んー……ちょっと恥ずかしいけど……アタルくんとしてるところを見られるなら……別に、いいよ……」

身体を摺り寄せ、胸を密着させ、俺を求めてくる。

ひよこ,「私が一番アタルくんが好きなところ、ふたりに見せつけちゃうんだから……だから、ね、私とえっち……しよ?」

ミルフィとセーラさんの行為にあてられたのか、ヒヨのエッチなスイッチはONに入りっぱなしらしい。

融けた顔。潤んだ瞳。火照る体。
そのどれもが俺のエロスイッチを再びONにした。

……

…………

ひよこ,「え、ええっ……こんな体勢でするのぉ……?」

アタル,「ヒヨがふたりに見せつけたいって言ったんだろ?」

ひよこ,「んんんー、ちょっと違う気がするよぅ……セーラさん、ミルフィさん、やっぱり、その……あんまり……見ないでぇ……」

俺の手により、大きく足を開かれたヒヨの姿を、正面にいるセーラさんとミルフィが凝視していた。

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ミルフィ,「う、うわぁ……ぴよぴよのアソコ、ピンク色ですっごく綺麗……」

ひよこ,「ミ、ミルフィさぁんっ!? そんなこと言わないでよぉ、恥ずかしいよぉ……!」

最高にいやらしくなっている性器を、俺以外の人間に見せるなんてのは当然初めてだろう。

しかも、相手は年の近しい同性とくれば、恥ずかしさも最高潮。

ヒヨは身を震わせ、両手で顔を覆い、初めての羞恥に必死に耐えていた。

アタル,「ここをこう、して……指で開くと……ほら、ぬるぬるのエッチなお汁がいっぱい零れるよ?」

セーラ,「ピンク色のアソコが、アタル様の手で開かれて……割れ目からはエッチなお汁がとろとろ溢れてますよ~」

ひよこ,「え、や、やだぁ……セーラさんまでぇ……」

セーラ,「ふふっ、ひよこさん、アタル様のおちんちんが欲しくて欲しくて仕方ないんですのね? ……あら、内側からもっと溢れてきました~。まるで温泉のようですね~」

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ミルフィ,「セ、セーラ……さすがにそれはドSすぎじゃない?」

セーラ,「うふふっ♪ ひよこさんがすごくかわいいので、苛めたくなっちゃいました~」

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ミルフィ,「アタルの方からは見えないだろうけど、ぴよぴよが物欲しそうにしてるわよ。早くぶち込んであげなさい」

もちろん、俺だってヒヨの膣中を楽しみたくて仕方がない。

ひよこ,「はぅ、はうぅぅ……恥ずかしい、恥ずかしいよぉ……」

一刻も早く、粘膜に包まれる感触を楽しもうと――って。

アタル,「あ……ヒヨの身体を支えてるから、うまく挿れられないな……んっと……この辺か……?」

自分の体を動かすのではなく、ヒヨの身体をズラして位置を調整する。

ひよこ,「ひゃぁ、んっ、そこじゃない……んんんっ……もうちょっと下……あ、イキすぎだよぉ……」

アタル,「あ、あれ……? うーん、ここ……?」

ひよこ,「ち、違うっ、そっちはお尻……や、あ、あぁん、じらさないでよぉっ!」

焦らしているつもりはないんだけどな。

自分で動かしているのに、思う通りにいかなくて、なんだかクレーンゲームでもやっているような感覚だ。

慣れない体位な上、自分のモノに角度がつきすぎているせいで、うまく狙いが定まらない。

セーラ,「まぁまぁ、アタル様ってば、お茶目なんですから~。では、僭越ながら、私がお手伝いしますわね~」

アタル,「ん、セーラさん、お願いします」

きゅむっ、と、セーラさんの手が俺のペニスの根元を握る。

セーラ,「は~い、ひよこさん。今からアタル様のおちんちんが挿りますよ~。力を抜いてくださいませ」

右手は俺のペニス。左手はヒヨのヴァギナ。

セーラさんの手に導かれ、俺のペニスの先端が、セーラさんの手によって、くぱぁと開かれたヒヨのヴァギナの粘膜に触れる。

セーラ,「はい、アタル様、あとはひよこさんを下ろしてあげてくださいな」

アタル,「よっ、と……これで、いいかな……?」

ひよこ,「ひぁ、ひぁあぁぁっ……!は、挿って、きたぁ……ッ!」

ずぶ、ずぶ、と、ひよこの膣中へと俺のモノが飲み込まれてゆく。

先端からじわじわと粘膜に侵食されてゆくこの感触は、何物にも表現しがたい。

やがて、コツンと俺のペニスの先端に、ひよこの膣中の一番奥が当たる。

アタル,「ん……一番奥まで挿ったかな?」

ひよこ,「あ、あぁぁぁ……アタルくんのおちんちん、おっきい……おっきぃ、よぅ……っ! あはぁっ……私の膣中、アタルくんのでいっぱいぃ……っ」

アタル,「もうすっかり馴染んじゃったな」

ひよこ,「うん……うんっ……もう全然痛くないよぉ。気持ちいいだけだよぉ……アタルくんだけで満たされてて、私のおまんこ、びりびりしちゃう……」

アタル,「それじゃ、動くからな?」

ひよこ,「早く、早くぅ……私のおまんこっ、いっぱい、ぐちゅぐちゅ、かき回して……いっぱい……いっぱいっ……気持ちよく、して……っ!」

おねだりを受け、俺は下から上へと腰を動かし始めた。

ひよこ,「あっ、あ、あんっ……! あ、ああぁっ、きもち、きもち、いいよぉっ! アタルくんとセックスしてる……見られながら、セックスしちゃってるぅ……!」

ずん! ずん! と、下から上へ。

ひよこ,「あんっ! ぁんっ! んぁんっ! はぁぁん!」

1回また1回と、強く突くごとにひよこの口から熱い吐息が漏れる。

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ミルフィ,「う、うわっ、すごぉ……あんなに大きいのが、本当に挿っちゃってるのね……あたしのナカにもあれが挿ったなんて……うーん、信じられないわ……」

セーラ,「私の膣中にも挿ったんですよね~。あ、そうでした、私たちみんな、アタル様の1本の棒で繋がった姉妹なんですね~」

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ミルフィ,「棒て……もう少し言い方があるでしょうに」

アタル,「は、はは……」

興奮しなきゃいけないのに、お姫様ズの会話には乾いた笑いしか出なかった。

そうだよな、俺、ここの3人の初めてをいただいちゃってるんだよな……。

セーラ,「となると~、ん~、さしずめ、私がお姉さん、といったところでしょうか~?」

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ミルフィ,「まぁ、そうね。年齢的にも……っていうか、身体的にもそんな感じだし……」

セーラ,「お姉さんは、かわいい妹のお手伝いをしてあげないとダメですわよね♪」

そういって、俺たちの結合部へと、セーラさんはマジマジと顔を寄せた。

ひよこ,「はっ、あっ、あん……ん……えっ、セーラさん……何を……? あんまりじっくり見ちゃやだってばぁ……」

自分の一番恥ずかしい部分を凝視され、ヒヨは羞恥に頬を染める。

セーラ,「アタル様はそのまま動いて、気持ちよくなってくださいませ。私はこのままお手伝いしますので~」

アタル,「う、うん? わかった……」

セーラ,「まぁ、ひよこさんったら、クリトリスをこんなにぷっくりさせて……アタル様のおちんちんはそんなに気持ちいいんですね?」

ひよこ,「うん、うんっ……アタルくんのおちんちん、気持ちいい、すごく気持ちいいよ……?」

セーラ,「でしたら、こんなことをしたら……どうなってしまうでしょう?」

アタル,「う……!?」

ぬるりとした熱い感触が、ヒヨの膣中を往復しているペニスに走る。

ひよこ,「んひぁあぁぁっ!? そ、そんな舐めちゃ、舐めちゃダメだよぉっ! クリちゃん、いじっちゃダメぇっ!」

どうやらセーラさんが俺とヒヨの繋がっている部分を舐め回しているらしい。

さっきの熱い感触はセーラさんの舌か。

セーラ,「あら~、アタル様と繋がっているココは、そうは言ってないように見えますけど~? アタル様、いかがですか?」

アタル,「ああ、なんかさっきよりキツくなったみたい」

ひよこ,「うぅ……それって、私がゆるかったってこと……?」

アタル,「いや、違う違う! 十分キツかったのに、もっと締まったの!」

セーラ,「ふふっ、では、ひよこさんを一気にイカせちゃいましょうね~♪ ひよこさんばかり、アタル様を独占してるのはずるいです~」

ひよこ,「えっ、そ、そんなぁ……んんぅッ!? セ、セーラさぁん、や、弾いちゃ、あ、あっ、あっ、ああっ!」

ひよこ,「ひゃっ、あっ、そこぉ、ダメぇっ……ん、ぁ、や……ずる、い……ぁ、はぁ……やめっ……!」

セーラ,「はぁっ……出たり挿ったり、アタル様のたくましいおちんちん……私も早く、挿れて欲しいです~……」

セーラ,「アタル様とひよこさんのえっちなお汁が混じり合って……ん、ちゅっ……はぁ、こんなエッチな味……私も、おかしくなってしまいますわ……」

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ミルフィ,「うわぁ……さっきしてたあたしがいうのもなんだけど……3人でしてるのって……やっぱ普通じゃないわね……」

セーラ,「あら、あとでミルフィさんも混ざるんですのよ~?」

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ミルフィ,「う、うん……わかってるけど……あぁ……ずっとここにいたら、なんだかあたしの大事な何かが壊れちゃいそうだわ……」

セーラ,「壊れちゃえばいいじゃないですか♪ アタル様の寵愛を受けられるんでしたら、そのくらい些細なことですよ~」

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ミルフィ,「セーラはアタルのこと好きすぎでしょっ!」

セーラ,「ええ、もちろんです~♪」

セーラ,「さ、アタル様もひよこさんも、もっとも~っと気持ちよくなるのをお手伝いしますからね~」

セーラさんの手が俺の股間に当たる。

玉袋を揉みほぐしつつも根元を扱きたて、ヒヨへの愛撫も忘れない。

ひよこ,「はぁあぁっ、セーラさぁん、おまんことクリちゃん一緒になんて、ダメぇ……ダメ、だよぅ、壊れちゃう……気持ち良すぎて、おかしくなっちゃうぅ……!」

アタル,「気持ちいいのはセーラさんのだけ?」

ひよこ,「ううんっ! あっ、はぁっ、はぁ、はぁっ! アタルくんの、おちんちんが、ッん、私の、おまんこの中っ、出たり、挿ったりしてるのっ!」

ひよこ,「あぁッ……すごい……すごいよぉ……エッチなお汁が、いっぱいに出ちゃってるよぉ……いやらしい音を立てて……いっぱい、いっぱい……溢れてるよぉ……!」

セーラ,「うふふっ、じゅぷじゅぷって、すごいいやらしい音ですよ~……さっきから飛沫が飛んできて……私の顔、べとべとになっちゃいます~」

ひよこ,「あぁ……見られてて恥ずかしいのに……ダメぇっ、キモチいいのが止まらない……止まらないよぉ……びくびくってして……ぞくぞくして……」

ヒヨの腰が、リズミカルに前後する。

くねくねと腰が動き、それに合わせて、ヒヨの膣中もぐねぐねと俺のモノを四方八方から絞めつけてくる。

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ミルフィ,「うっわ……ぴよぴよ、エッロぉい……なによ、その腰使い、セーラよりエロいんじゃないの……?」

アタル,「ヒ、ヒヨ、とばしすぎ……!」

ひよこ,「もう、抑えらんないよぉっ、もっと欲しい、欲しいの、アタルくんがいっぱいいっぱい欲しい」

ひよこ,「誰が見てても関係ないもんっ。私が一番アタルくんのこと好きなんだからっ! ふたりよりもずっとずっと前から好きだったんだからっ!」

ひよこ,「いっぱいいっぱい愛してっ。アタルくんのおちんちんで、私のおまんこ、めちゃくちゃにしてぇっ!」

セーラ,「ひよこさんのおまんこ、アタル様のをこんなに咥え込んで……いやらしいですね~……」

ひよこ,「いやらしくていいもんっ。こんなに気持ちいいんだもん。やめられないよぉ」

ひよこ,「アタルくんのおちんちん、気持ちいいよぉっ……!好き、好きぃっ、アタルくん、大好きぃっ!」

#textbox kmi00A0,name
ミルフィ,「むぅ……ぴよぴよ、気持ちよさそう……」

セーラ,「ミルフィさん、今はひよこさんの番ですから。あとでちゃんと私たちも愛してもらいましょうね~」

アタル,「げっ……! 俺、あと2回は頑張らないといけないの……!?」

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ミルフィ,「当然でしょ? それが奥さんがたくさんいる男の義務ってヤツなの」

ひよこ,「もう、アタルくん、今は私に集中してよぉ。私のことだけ感じてよぉ……」

#textbox kmi00A0,name
ミルフィ,「それにしても……はぁ……人の行為を見てると……セックスって……ホントにいやらしい行為なのね……」

セーラ,「さ、アタル様、ひよこさん、そろそろ絶頂に達してくださいませ」

アタル,「ヒヨ、本当にかわいいな……食べたくなっちゃうよ」

俺はヒヨの首筋にかぷりと噛み付く。

ひよこ,「ひゃんっ!? アタル、くぅんっ……!」

セーラ,「ふふっ、ひよこさん、すっごくいやらしい顔してますよ~。こんなに激しく、アタル様におちんちんをずぽずぽされて、気持ちよくなっちゃってるんですね~」

ひよこ,「ダメッ、ダメぇっ! キモチ、いいっ、キモチいいよぉ! キモチ、よすぎてっ、何も、何も考えられなくなっちゃうよぉ……!」

ヒヨは目を閉じ、両手で顔を覆い、首を横に振る。

セーラ,「ダ~メ、です♪ えいっ!」

ひよこ,「んはぁああぁぁぁぁッ!?」

アタル,「ぅぐっ!?」

ヒヨの膣壁が急激にキツく――狭くなった。

ただでさえ狭い、既に埋まっているヒヨの性器の中へとセーラさんの指が割り込んできた。

ひよこ,「んぅんんんうぅぅっ!? む、無理っ、そんな、のっ……こわ、壊れるぅっ、私のおま、おまんこ、壊れちゃっ、んぁっ、はぁあっ、んはっ、んああぁぁっ!」

ヒヨの性器の中で蠢くセーラさんの指先は、ヒヨの内襞を擦る。

ひよこ,「ぁんっ、あ、ぁああ……おまっ、おまんこ、壊れちゃうっ、激しいのにぃッ! お腹の内側、気持ち、いいっ、おちんちんッ、擦れるよぉっ!」

突き回す度、大袈裟なくらいにひよこの身体がビクビクと跳ねる。

セーラ,「うふふっ、ひよこさん、イッてしまいそうなんですね~? ぺろっ、れろ、ん、ちゅうぅ」

セーラさんの舌先が、執拗なまでに俺とヒヨの結合部分を這い回り、吸い立てる。

ひよこ,「んはぁッ!? そんな、強く吸っちゃ、ダメ、ダメだって、あ、ぁやぁっ、こんなの、人に見られ、ながら、私、イクッ……イク、イカされちゃっ、ふぁあぁぁっ!」

ひよこ,「アタルくぅんっ! 好きっ、好きぃっ、大好きだよぉッ! ぎゅって、ぎゅってしてぇ!」

リクエストに応え、背後からヒヨの身体を抱きしめる。

アタル,「ッく……! ヒヨ、もう、イキそッ……!」

ひよこ,「いいよっ、膣中っ……膣中に、全部出して、いいからッ、ふぁっ、ぁあっ、んっ、んんぅ……うんっ、いいから……おちんちん、イッて……イッてぇッ!」

これでトドメ、とばかりに、強く強く突き上げる。

ひよこ,「んぃいぃっ! あっ、ひゃあっ、アタルくんっ!わたしっ、イク、イクッ、イッちゃうぅぅぅっ!」

抱きしめているヒヨの身体が、強く激しく痙攣する。

俺も絶頂間近。

最後に思い切り突き挿れようと引き抜いたその瞬間。

セーラ,「きゃっ!? ふぁっ、あっ!?」

タイミングを誤り、暴発したペニスは正面にいたセーラさんへと、再びその熱い樹液をぶち撒けてしまった。

ひよこ,「んぁ……? はぁっ……んぁ、はっ、はぁっ……ぁっ、アタルくんのいっぱい、出ちゃってるぅ……」

アタル,「んぐっ……く、くぁ……ッ!」

一度始まってしまった射精は止められない。

ひよこ,「あっ、あ、お腹にいっぱい……かかってるよぉ……」

セーラ,「あ、あはぁっ……アタル様、あつぅい……」

ヒヨの粘膜の感触を感じながらペニスが脈打つ度、溶けたロウのような精液が噴き出し、飛び散り、ヒヨとセーラさんの身体を白くコーティングしてゆく。

何度も何度も脈打ったペニスは、甘く気だるい余韻に包まれ、力を徐々に失ってゆく。

短時間で2連発だ、無理もない。

ひよこ,「はっ、あっ、あ、ふぁ……もう、アタルくん……私の中にいっぱい出して欲しかったのにな……」

アタル,「ごめん……」

ヒヨは指先で、自分の下腹部に溜まった精液を弄ぶ。

ぬるぬると塗り広げられてゆく白濁にエロスを感じる。

セーラ,「おかげで、私はアタル様のをお顔にいただけました……ぺろっ……ふふっ、2回目なのにすっごく濃いです……」

顔面を白濁に塗れさせたセーラさんは、唇についた精液をペロリと一舐めして感想を漏らす。

ひよこ,「――でも、まだまだするんだよ?」

アタル,「え……?」

セーラ,「私たちはまだアタル様に愛してもらってないんですもの~。私たちの膣中もアタル様で満たしてもらわないと満足できません~」

アタル,「え……? セーラさん……?」

ミルフィ,「当然よね……だいたいあたしたちのエッチなスイッチを入れたのは、アタルなんだから……」

アタル,「え……え……ミルフィ?」

ひよこ,「私だって、まだ全然満足してないもんっ。今度はちゃんと中に出してくれないとダメなんだからっ」

アタル,「あ……その……ひよこさん?」

一糸纏わぬ3人に、じりじりと詰め寄られる。

ミルフィ,「ア・タ・ル」

セーラ,「ア・タ・ル・さ・ま」

ひよこ,「ア・タ・ル・くんっ」

アタル,「え、あ、その……」

目の前に立ち並ぶ大~小の6個のおっぱい。

しかしながら、2連発した直後。

俺の意志に忠実に従ってくれるわけではなく、俺の股間はイマイチ硬さが戻ってこない。

セーラ,「では、アタル様、自信がないようでしたら……アタル様、唇を拝借……ん、ちゅっ……!」

アタル,「んっ!?」

セーラ,「ん、ちゅっ……ん、ちゅっ……ちゅるっ……ん、んむ……ん……んちゅ……っ」

アタル,「んッ!? んぐ、ん、ごくんっ! ちょ、ちょっ、セーラさん、今、俺に何を飲ませたんです!?」

セーラ,「我がクアドラントに伝わる精力剤です~。男性にも女性にも、効果絶大なんですよ~」

セーラ,「ですから……ほら、アタル様? 私のここ……一番えっちな女の子のところ……すごいことになってますでしょう?」

セーラさんの秘部はぐちゃぐちゃのぬかるみとなり、汁を零し続けている。ダダ漏れだ。

ミルフィ,「な、なによ、それぇ。ドーピングなんて反則じゃないの?」

セーラ,「そうですわね~。では、フェアにミルフィさんとひよこさんにも、はい……ちゅっ♪ ちゅっ♪」

ミルフィ,「んっ!?」

ひよこ,「んっ!?」

等しく口移しで精力剤を与えられ、準備万端。たちまち漲る神秘の力!

……

…………

そして、できあがったのがこの光景だ。

なんだろう、この倒錯した光景。ここは天国か、極楽か、女体パラダイスか。

一生の内に、同時に3つの女性器を見る機会なんて、女子風呂に潜入でもしない限り、あり得ない。

目の前に3つのおまんこ。おまんこのゲシュタルト崩壊だ。

頭ではもう何がいやらしくて、何がいやらしくないのかわからなくなってくる。

セーラ,「それじゃ、アタル様。次は私のここに……♪」

ミルフィ,「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ、アタル。最初はあたしでしょ? さっきは参加してないんだもの」

ひよこ,「でも、あれはミルフィさんが疲れたからって……」

ミルフィ,「だ、だからっ、ふたりと違って、ちょっと休んだあたしは焦らされてるんじゃないのっ! もう……我慢できないんだから……早くしてよ」

セーラ,「う~ん、それじゃ、仕方ないですね~」

ひよこ,「アタルくん、ミルフィさんに挿れてあげて?」

アタル,「ああ、それじゃ、ミルフィ……挿れるぞ?」

ミルフィ,「うん、アタル……きて……アタルのおちんぽで、あたしの中、いっぱいにして……♪」

おねだりを受け、俺はミルフィの未発達で狭い性器へと、いきり立ったペニスをあてがった。

セーラ,「それじゃ、アタル様の番が回ってくるまで、ひよこさんは私といちゃいちゃしましょ~?」

ひよこ,「えっ、う、うん……あのね、実は私、セーラさんのおっぱい、こうして見たかったんだー♪ いただきまーす」

セーラ,「えっ、あ、吸うんです……はぁんっ!?」

ひよこ,「ちゅ、ちゅっ……あは、セーラさんのおっぱい、美味しい……セーラさんのおっぱい吸ったら、私のおっぱい大きくなるかな……?」

セーラ,「あっ!? あ、ゃんっ……あ……気持ちいいです……やだ、ひよこさん、そんなエッチな舐め方……ッ!」

ひよこ,「ぷはっ……ふふっ、さっきいじめられたお返しだよ。セーラさん、私のおまんこに無茶するんだもん。本当に壊れちゃうかと思ったよぉ」

――百合ってる二人を尻目に、ミルフィの中へと挿入。

ぬ゛る゛っ゛。

ミルフィ,「はぁあぁっ!?」

一気にミルフィの奥へと導かれ、強烈な快感が、股間から脊髄にかけて、電撃のように走った。

ヒヨの膣中とは明らかに違う、とてもまともな発音で表現できない感触だった。

ミルフィ,「はぁっ、あぁぁんッ! ア、アタルのおちんちん、奥まで……全部、挿っちゃったぁ……ッ」

アタル,「な、なんだ、これっ!?」

セーラ,「むぅ、何って失礼しちゃうわね……あたしの、おまんこよ……? どう? あたしの中、気持ちいいの……?」

アタル,「あ、ああ……すげぇ、気持ちイイ……」

ミルフィの内側の襞は、俺のペニスの感じる部分全てを舐るように捉えてくる。

このまま動かなくても、数分もしたらイケてしまいそう。本気で動いたりしようものなら、数十秒ももたないに違いない。

前にミルフィとした時は、ここまで凄くなかった気がするんだけど、セーラさんの与えた精力剤のせいなのか。もしくは、ミルフィの身体が俺に合わせて進化したのか。

ミルフィ,「そっか、ふふっ。それじゃ、い~っぱい、あたしの中で出していいからね」

アタル,「繰り返し聞くけど……本当にいいのか?」

ミルフィ,「当たり前でしょ、あたしはアタルの奥さんなんだから……夫婦なら中出しを遠慮する必要なんてないでしょ?」

ミルフィ,「さ、アタル……子宮がアタルのおちんちん汁でたっぷたぷになっちゃうくらい、いっぱい出していいんだからね」

ひよこ,「えーっ、アタルくん、私たちの分も残しておいてね?」

アタル,「ヒヨ、それはなかなか難しい注文だ……」

自分で出せる量が調節できるなら、苦労はしないっての。世の中から『できちゃった結婚』もなくなるに違いない。

そして、俺はミルフィのお尻を鷲掴みにし、奥底めがけて、ピストン運動を開始する。

最初から、全力でだ。

ミルフィ,「あっ! あ、あっ! やっ、アタ、ルぅっ! 激し、すぎぃっ! あっ、あ、はっ、はぁんっ!」

アタル,「そんなこと言われても、止まれないぞ……!」

あまりにもミルフィの中が気持ちよすぎる。

一度動かし始めてしまったら、もう止められない。止めたくない。

アタル,「そんなこと言いながら、ミルフィだって、腰、動かしてるじゃないか」

ミルフィ,「ぁ……あぁんっ……だって、あっ、気持ち、よくって、腰が勝手に、動いちゃうのよぉ……はぁんっ!」

照れくさそうに言いながらも、ミルフィはさらに腰の動きを前後左右にと大胆にしていく。

ひよこ,「うわぁ……ミルフィさん、えっちぃ……」

セーラ,「ふふっ、やっぱり、あのお薬は効果バツグンみたいですね~。あのミルフィさんが、こんな素直になっちゃうんですもの♪」

ミルフィ,「やぁん、2人とも、あんまり見ないでよぉ……」

ひよこ,「ダーメだよっ、だって、私だってイクところ見られちゃってるもん。ねっ、セーラさん、ミルフィさんを一緒にイカせちゃおっか」

セーラ,「そうですね~。ミルフィさんのエクスタシーの時の顔、見てみたいです~」

ミルフィ,「そ、そんなぁ……そっちはふたりでレズってなさいよぉ……あたしは、今、アタルに愛してもらってるんだかっ……ひぃんっ!?」

2人の手がミルフィの胸へ、そして頂にあるピンク色の乳首へと伸びる。

ひよこ,「んっ……すっごぉい、ミルフィさんの乳首、こんなにコリコリに立っちゃってる……」

セーラ,「気持ちいいんですもの、仕方ないですよね~、ふふっ」

ミルフィ,「ああぁっ、アタルに、おまんこじゅぽじゅぽされて……おっぱいくりくりされて、もうだめ、だめぇっ!」

あられもない言葉の三重奏に、俺の理性はどこへやら。

俺はただの機械、セックスマシーンだ。腰を振って、ミルフィたちに快楽を与え続ける機械だ。

ミルフィ,「はっ、はぁっ、ね、わかる? ねぇ、わかる? あたしの、子宮、アタルのおっきいのが、こつんこつんって叩いてるのっ……!」

アタル,「はっ、ミルフィ……わかるよ、ミルフィの奥の方がぷつぷつしてて、俺のが当たって、すごく気持ちよくて」

一旦ペニスを引き抜き、収縮する膣穴に再び深く突き挿れた。

ミルフィの子宮を抉るように突く、突く、突く。

俺の先端から迸った我慢汁が、ミルフィの奥底に溜まる。

それは絶頂が迫る合図。

ミルフィの膣内は熱くキュンッと締まり、ジュポジュポと音を立て、別の生き物のように絡み付いてくる。

ミルフィ,「ひゃっ、ひゃうっ、はげ、しっ、あっ! くぁ、あっ、あっ! あっ、あっ、んぅああぁっ!」

口の端からはしたなく涎を垂らし、痙攣するように全身を揺さぶり、時折、身体を大きく仰け反らせる。

もはや何度目かわからないが、ミルフィの一番奥まで突き挿れ、そこをゴリゴリと先端で擦りつけた。

ミルフィ,「そこ、子宮っ、ん、んくっ! あっ、あ、はぁぁっ!ぁ、あぁ、ぁ、あああぁ、あぁ、ぁぁ、ああっ!」

その感触が、俺の頂点への扉を開いた。

アタル,「あっ、ミルフィ、イク、イクぞっ!俺の精液、全部、ミルフィの奥に……ッ!」

ミルフィ,「あっ、あぁっ! びくびくって、きてっ、きてるぅ。おちんちんが膨らんで、ザーメンが駆け上ってきて、あっ、あ、ああぁ、んあぁあっ!?」

ミルフィ,「あ、あたしっ、みんなに見られながら、イッちゃう、イッちゃうよぉっ!」

ミルフィ,「あっ、は、ああぁっ! んぁ、あ、あぁっ、んふあぁああああぁあぁぁぁぁっ!」

ミルフィはビクンビクンと跳ねるように身体を仰け反らせた。

アタル,「ぐっ、あ、くぁっ!」

ミルフィが達すると同時、その強烈な締め付けで俺も絶頂に達する。

ミルフィ,「あっ、はっ! あ、あぅ、んぁっ! やぁん、あたし、イッてるぅ……イッちゃってるの……すごい、こんな、こんなすごいの、初めてぇ……」

ミルフィの痙攣は止まらず、股間からは温かな液体も漏れ滴っている。軽く失禁したらしい。

ミルフィ,「あっ、やっ……ちょっと漏れちゃった……アタルのおちんちん……気持ち良すぎるんだもん……」

アタル,「んぐ、あっ、ミルフィ……ッ!」

痙攣するたび、内襞は強く締め付けてきて、俺の精液を貪欲に搾り取ろうとする。

ずっと、ミルフィの胸を責めていたヒヨとセーラさんは、いつの間にか、呆然とミルフィの痴態を見つめていた。

ひよこ,「うわぁ……ミルフィさん、すごく綺麗だった……」

セーラ,「さすがは、私たちの棒姉妹ですわね♪」

ミルフィ,「はぁ……ちょ、ちょっと、セーラ……その言い方、やめてよ……はぁぁ……」

俺は限界まで吐き出したのを確認すると、ミルフィの中からペニスを抜き放った。

ぽっかりと俺のモノの直径サイズに開いたミルフィの性器。

そこからは、俺がたんまりと吐き出した精液が、ごぽっごぽっと空気の入り混じった音を立てて逆流してくる。

ミルフィ,「あっ、あっ、はぁん……溢れて……やっ、こんな、あぁ……頭、おかしくなっちゃうじゃないの……」

セーラ,「さっ、アタル様、次は私の中に♪」

アタル,「え、ちょ、ちょっと、待って。まだそんなすぐには――」

ひよこ,「元気みたいだよ?」

アタル,「えっ、あ、あれぇっ!?」

3度絶頂したにもかかわらず、俺のペニスは未だ硬さを失っていない。

セーラ,「ですから、効果バツグンと言ったではないですか~。一晩中でもヤリ狂えちゃうんですよ~」

大丈夫なの、この薬。合法なの?むしろ、こんな薬作っちゃうクアドラントは大丈夫なの?

ひよこ,「この分だと、アタルくんはまだまだイケちゃいそうだね……これなら次はセーラさんに譲ってあげても大丈夫かなぁ」

セーラ,「ええ、きっと。なので次は、私のココ……アタル様を待ち望んでるいやらしいおまんこに……アタル様の硬いおちんぽをぶちこんでくださいませ♪」

セーラさんの口から溢れ出まくる淫語に、俺の身体は辛抱たまらなくなった。

もう、止められない。理性も倫理も全てが消し飛んだ。

アタル,「挿れます、挿れちゃいますよ、セーラさんっ!」

セーラ,「は~い、アタル様♪」

そして、セーラさんの穴の中へと飲み込まれてゆく。

セーラさんのおまんこは、キツさは2人ほどではないが、温かく抱きとめるように包み込んでくれて。

しかし、中に進むと急激に狭くなる淫猥な名器の中へと、ずぶずぶと沈みこんでいく。

セーラ,「あっ、あぁああぁっ、アタル様っ、アタル様ぁっ!」

アタル,「どう? セーラさんの中、どうなってる?」

セーラ,「あ、あぁあぁ……アタル様の太くて、大きいおちんちんが、私のお腹の中にみっしりと詰まっていて……」

セーラ,「すごい……すごいですぅ……これだけで、私、イッてしまいそうです……」

アタル,「もうちんちんでイクことが癖になっちゃってるなんて、セーラさんは本当にエロいお姫様だなぁ」

セーラ,「そう、なんです……セーラはすっごくえっちなんです……アタル様のおちんちん奴隷になってしまっても構わないんです……」

セーラ,「あっ、あ、あっ、いいっ、アタル様のおちんちんが、私の中で、ピクピクして、かき回してる……ッ!」

前後に動くと、胸がぶるんぶるんと弾む。

その光景を、ミルフィとヒヨは羨ましそうに見ていた。

ミルフィ,「むぅぅ……あの膨らみが妬ましい……」

ひよこ,「だ、大丈夫だよっ、ミルフィさんだって、きっと大きくなるよっ」

ミルフィ,「なんだかんだで、ぴよぴよだって十分大きいじゃない。そんな慰めはいらないの、まったくっ! ぱくっ!」

ひよこ,「んひゃんッ! ちょ、ちょっと、ミルフィさんっ! お、おっぱい吸っちゃうの……?」

ミルフィ,「っ……ん、んっ……ちゅっ……んっ、んちゅう……はぁ……ぴよぴよのおっぱい……おいし……」

ひよこ,「んっ……! ふふっ、ミルフィさんってば、甘えん坊さんだね」

ミルフィ,「べ、別に甘えてるわけじゃ……ないわよ……」

ひよこ,「別に甘えてもいいんだよー。私も気持ちいいし……」

ひよこ,「それに私たち、みんなアタルくんの奥さんなんだから、みんな家族ってことだよね?」

ミルフィ,「え……あ、そっか……そうよね……」

ひよこ,「あは……こんなえっちな家族っていうのも、ちょっと変だけどね」

ミルフィ,「まったくよ……まぁ……あたしはえっちなこと、そんなに嫌いじゃないから……構わないけど……」

ひよこ,「あは、私もあんまり嫌いじゃないよ。どっちかっていうと好き、かも。アタルくんに好きにさせられちゃった」

アタル,「……俺のせいかよ」

ひよこ,「当たり前だよぉ。だって、アタルくんとしかえっちなことしたことないもん。これは絶対アタルくんのせい!」

アタル,「むぅ……」

最初からムッツリスケベだったという発想はないのだね。

セーラ,「アタル様ぁ……動きが止まってます~……もうっ、今は私に集中してくださいな」

セーラさんの中がキュッと締まる。

アタル,「ッ!? ご、ごめん。それじゃ、ちょっと激しくするよ」

セーラ,「ええ……私の中、アタル様のお好きなように、ぐちゃぐちゃにしてくださいませ……」

言われずとも。セーラさんの膣で中途半端に高められた性欲はまだ昂ぶったままだ。

セーラ,「ふぁっ!? あっ、ぁあぁぁっ、ぁあぁぁ……!」

実はイキそうだから、意識を反らしていたのだが、動き始めてしまったら、絶頂まではすぐだ。

セーラ,「あ、あっ、太いっ、太いですぅ……アタル様のおちんちんで、私の中、犯され、ちゃ……」

アタル,「うわ……ッ!」

男の快感のツボを知り尽くしているかのように、セーラさんの内側は俺のペニスを絞る。

セーラ,「あぁ……はぁーっ、はぁーっ……アタル様の、一番奥に届いてる……こりこりって当たってるぅ……」

セーラ,「あぁああぁぁ、イイっ、イイです、アタル様ぁっ!」

アタル,「こんなに激しくしてるのに、いいの?」

セーラ,「激しいの好きなんですっ! アタル様のおちんちん大好きなんです……っ……熱くて、太くてぇ……私の膣中の気持ちいいところ、全部、全部ッ……!」

セーラ,「あぁぁぁっ、私、イク、イキ、ますっ……アタル様のおちんちんで、イク、イクの、イッちゃ……!」

アタル,「お、俺も、イッ……!」

セーラ,「あっ、ふぁ、クる、気持ちいいのッ! あっ、ふぁ、は、はぁっ、あぁ、あ、あああぁ、んはぁあぁああぁァっ!」

セーラ,「はぁぁぁ……アタル様のおちんちん、びゅくびゅくしてますぅ……! 私の子宮に、いっぱい濃ゆい精液が入ってきてますぅ……! 赤ちゃん、できちゃう……♪」

アタル,「はぁぁ……気持ちいいです……セーラさん……」

セーラさんの中にペニスを埋めたまま、小休止。

それでもまだ尿道に残る残滓を吐き出すべく、ペニスは脈動を止めない。

ミルフィ,「……ところで、アタル。これで全員に挿れたわけだけど……一番気持ちいいのは、誰だった?」

アタル,「……え゛?」

ここで聞くか、それを。その質問は卑怯だ。

ミルフィ,「ふふんっ、やっぱり、あたしよねぇ?セーラやぴよぴよと違って、キッツキツだもん」

ひよこ,「そ、そうなの、アタルくんっ!?」

セーラ,「ま、まぁ~……キツさではミルフィさんには負けちゃうかもしれませんけど、このおっぱいの分、ミルフィさんにはできないこともできますし~」

ミルフィ,「む! あたしだって、あと何年かしたら、ちゃんと大きくなるわよっ!」

ひよこ,「うーん、それはどうかな?」

ミルフィ,「う、ぴよぴよ、ナマイキっ!ち、小さいなら小さいなりにいろいろとっ!」

ひよこ,「私だって、ふたりに負けないもんっ。アタルくんのことを思って、したことだっていっぱいあるんだもんっ!」

アタル,「オィィ! ドサクサ紛れに何言ってるんだ!?」

やっぱりヒヨは元からのムッツリスケベだと思うんだが。

ひよこ,「……あッ!? で、でもでも、本当だよっ! むしろ、アタルくん以外の人なんて想像したことないよっ!」

そんなフォローはどうでも良かった。

ひよこ,「ね、アタルくん、順番からいったら、次は私だよね?」

ミルフィ,「これでみんな1回ずつのイーブンだから、次は仕切りなおし! さ、アタル、次はあたしだからねっ!」

ひよこ,「私、私だってばぁ。ほらっ、アタルくん、私のココはあ~まいよ?」

俺はホタルか。ふたりは自らの性器を割り開いて、俺を誘う。

セーラ,「ふふっ、アタル様、私はこのまま続けてもらっても、全然問題ありませんよ~」

そして、俺のを未だ咥え込んだままのセーラさんの性器はヒクヒクと蠢く。

俺の中で何かが切れた……決定的な何かが……!

アタル,「ああー、もう面倒くせぇっ! わかりましたよ!全員とやればいいんでしょっ!?」

俺は思いっきり腰を引き、セーラさんの中から抜き放った。

セーラ,「ひゃうんっっ!!?」

抜き放つ時のあまりの勢いに、セーラの身体がビクリと跳ね、精液と愛液の混合液が勢い良く飛び散る。

アタル,「んじゃ、次はヒヨ!」

ひよこ,「あっ、まずは私なんだね。嬉しいっ……セーラさんとミルフィさんのお汁でいっぱいのおちんちん……すごくえっちだよ……あっ、あは、挿ってくる……ッ!」

ふたりの愛液に塗れたペニスを、ヒヨの中に叩き込むと、オイル塗れのペニスはあっという間にヒヨの一番奥に達した。

ひよこ,「あっ、あぁあぁっ、好きっ、アタルくんのおちんちん好きぃっ! ふぁあぁあんっ!?」

アタル,「うぅっ……!?」

ひよこ,「あ、はぁ、どう、かな……アタルくん? 私の膣中、気持ちいい? ミルフィさんともセーラさんとも違う?」

アタル,「あ、ああ……すげぇ、気持ちいいよ……!」

一体どういう加減をしているのかわからないが、ヒヨの中がウネウネと波打ち、俺のモノに絡み付いてくる。

ぼじゅっぼじゅっと、粘液音を鳴らし、ヒヨの中は俺を受け止めてくれる。

短時間で3人の中に出し挿れをしてたからわかるけど、やっぱりそれぞれ違いがあるものなんだなぁ……!

もうしばらくヒヨの中を愉しみたいと思ったけれど。

ヒヨの中で何度か往復した後、また勢いよく抜く。

ひよこ,「あんっ! あ……おちんちん逃げられちゃった……」

そして、今度はミルフィの中へと。

ミルフィ,「ふあぁあぁっ! また、アタルのおちんちん挿ってくるぅ……あぁあぁぁ……そんな、一気に、奥までぇぇ……」

ミルフィ,「あっ、あぁん、やっぱアタルのおちんちんじゃなきゃダメ……あたし、これがないとおかしくなっちゃう……」

アタル,「ごめんな、ミルフィ、一旦抜くぞ!」

ミルフィ,「えっ!? やだぁ、おちんちん抜いちゃイヤァっ」

そして、もう一度、セーラさんに!

セーラ,「あっ、くぅん、ふぁ、あぁんっ!いいっ、おちんちん、いいぃっ!」

もはや指で抑える必要もない。激しい出し挿れのせいで、3人の肉の門は開きっぱなしだ。

代わる代わる、3人の中に埋めては何度か動かし、また、抜いては、次の性器を求めて移動を繰り返す。

ひよこ,「あっ、うぅんっ、きもち、いい、きもちいいよぉっ……アタルくん、アタルくぅんッ! 大好きだよぉっ!」

ミルフィ,「アタル、アタルぅっ! 好きっ、おちんちん好きっ!イク、あたし、もう、イキそうっ! あ、はあぁあっ!」

セーラ,「あんっ、あっ、はぁあぁっ! あんっ、はぁ、素敵、素敵ですっ、アタル様ぁ、アタル様ぁっ!」

3人の喘ぎとも叫びともつかないような淫声の数々を耳にし続けて、いつの間にやら俺の倫理は狂っていたに違いない。

アタル,「うっ、うぐっ、イ、イク、出……ッ!」

もう誰の性器で、絶頂へ至らされたのかなんてわかりゃしない。

俺の下腹部に、今までないほどの滾りが満ちてきて。

セーラ,「あっ、イク、私もイキますっ!アタル様、アタル様っ! 私にかけてくださいませっ!」

ミルフィ,「ずるぃ、あたし、あたしに、アタルの精液っ、あたしにちょうだいっ!」

ひよこ,「私に浴びせて、熱いの、いっぱいちょうだいっ!」

3人,「あっ、あ、ぁあああぁあああああぁぁっ!」

ねだる3人へと、俺はマグマのような白い噴火を浴びせかけた。

絶頂の三重奏。

全員汗だくで、股間からは大量の泡立った愛液を零しつつ、あられもないイキ顔を俺に見せつけた。

アタル,「はぁっ、はぁ、はぁっ……!」

ミルフィ,「あっ、あっ、やぁ……からだ、ヘンだよぉ……やぁん、おしっこ、止まらなぁい……あふれちゃうよぉぉ……」

セーラ,「あっ、はぁっ、はぁ……もう、すごぉい……おっぱいもおまんこも……壊れるかと、思っちゃいましたぁ……」

ひよこ,「はぁっ、はぁ……アタルくん……無茶苦茶しすぎだよぉ……でも、そんなアタルくんも……大好き……♪」

ミルフィ,「はぁっ、はぁ、はぁぁっ……アタルのがいっぱい……かかって……体中、べっとべっと……」

セーラ,「はぁっ……精液と愛液の匂いが混ざって、すごい匂いです……むせてしまいそう……ふふっ……」

公平に3人の体の上へと撒き散らして、こんな短時間に、3つの性器に突っ込んで。もう、何発出したのかもよくわかっていない。
でも、さすがにもう、これ以上は無理だよな……。

みんなも、絶頂したみたいだし限界に――

ひよこ,「……あれ? アタルくん、もしかして――」

ミルフィ,「もう終わり、とか思っちゃってるわけ?」

アタル,「……へ?」

ほんの数秒前までへばっていたはずの、ヒヨとミルフィはニッコリと笑って俺を見た。

セーラ,「ふふっ、アタル様。残念ですけど、私もまだまだなんですよ~♪」

アタル,「え? えっ?」

それはセーラさんも同様に。

ミルフィ,「そうよそうよ、このままだと、ぴよぴよが1回多いままでしょ?」

ひよこ,「そうだよ、みんな、アタルくんの奥さんなんだもん。私だけ贔屓はよくないよ」

アタル,「いや、ちょっと待って! もう無理……」

セーラ,「ふふっ、口ではそう言っていても、アタル様のおちんちんはそんなことないみたいですよ~?」

アタル,「え……?」

さっき、セーラさんに与えられた精力剤の効果はまだまだ持続しているらしく、あれだけ吐き出したにも関わらず、股間は引き続き、痛いくらいに勃起していた。

ミルフィ,「あはは、口は嫌がってても、体は正直よね♪」

アタル,「おぅふっ!」

ミルフィの指が、俺のペニスをピンッと弾く。

ミルフィ,「うんうん、これならもう2回くらいは余裕そうね」

ひよこ,「もう、アタルくんってば、こんなにしてたら説得力ないよー? これなら、私ももう1回してもらえるかな?」

ミルフィとヒヨはいきり立ったペニスを2人がかりで掴み、強くしごいてくる。くそ、仲いいな、こいつら!

セーラ,「え~、そうしたら、またひよこさんだけ1回多くなっちゃうじゃないですか~。私ももう1回、アタル様の精液、おまんこに飲ませて欲しいです~」

……なるほどな、ニッポンが一夫多妻制じゃない理由がよくわかった気がする。

毎晩、このペースで奥さん全員を相手にしてたら、身体、もたないよ。仕事も勉強も手につかないよ。

アタル,「わかった、わかりましたよ! 枯れるまでやってやりますよ! もう泣いてもわめいても知らないからな!」

もう明日のことなんて知るもんか!

セーラ,「わぁ、アタル様、頼もしいです~♪」

ミルフィ,「ふふ、口先だけにならないようにね、期待してるわ」

ひよこ,「それじゃ、アタルくん――」

3人は白濁した蜜を零す自らの花弁を、自分の指で広げて――

3人,「どうぞ♪」

再度、俺を甘く誘うのだった。

…………

……

なお、余談であるが。

俺のペニスがようやく音をあげ、また、満足した3人から解放されたのは翌朝6時である。

アタル,「はぁ……外……明るいな……」

太陽の光が、目に眩しい。

果たして何回絶頂に至ったのだろう。それぞれと4回ずつしたことまでは覚えている。

その後のことは記憶にない。ひたすら動物としての本能に従い続けていた。

そして、今はセーラさんの薬がようやく効果を失い、その反動がどっと身体に表れていた。

散々搾り取られた俺は、酷使された股間が痛くて、眠りにつけずにいた。

アレだけ摩擦しまくってれば当然か……いやぁ……こんなことがあり得るんだなぁ……アイタタ。

俺の横では3人の女の子が、身分や地位も関係なく、あられもない全裸姿で横たわっていた。

汗と涙と愛液で濡れ、性臭に満ちたこの部屋で、よくもまぁこんな幸せそうに眠れるもんだ。

寝転がるヒヨのほっぺを突っついてみる。

#textbox khi0050,name
ひよこ,「むにゃむにゃ……アタルくん、だぁいすき♪」

……なんてテンプレートな寝言だよ。実は寝たフリじゃないだろうな? 起きてるんじゃないだろうな?

#textbox kse00D0,name
セーラ,「お慕いしております、アタル様……」

#textbox kmi0040a,name
ミルフィ,「愛してるわ……アタル……」

そんなヒヨに続くかのように、ふたりの姫様も寝言を漏らす。

アタル,「俺も……愛してるよ」

眠る3人の頬にそれぞれ優しくキスをして。

俺も目を閉じ、眠りについたのであった。

きっとこれからもこんな4人での生活――性活が続く。

うーん、俺……いつまで身体もつのかなぁ……?

…………

……

Happy End?

define 好感度表示 F100 ;
define 選択肢ガイド F101 ;
define ひよこ必須フラグ F201
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ここではよく寄せられる質問とその回答、及び前回からの新機能についての説明をします。

細かい設定に関しては[詳細オプション]にあります。[詳細オプション]は右クリックのメニューか通常オプション画面の1ページ目にボタンがあります。

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AUTO(自動再生)中は画面クリックするとAUTOを解除ですが、マウスホイール下回転でAUTOを解除せずに次のメッセージへ進めます。
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本体がワイド解像度に対応し、モニターが4:3の場合にこのような現象が起きます。

[詳細オプション]→[システム]→[全画面時のモード]ここで[解像度]を1024×768に設定して下さい。

なお、GDI版での拡大モードは[実サイズ]のみの対応となっています。

一度クリアしたキャラは再プレイが簡単にすむようにゲーム開始時にキャラを選べるようになります。

なお、選択肢の所ではAUTOでプレイしていると約3秒で自動で次へ進みますが、選択肢を変更したりすると解除されます。(AUTOは解除されません)
右クリック→[キーボード説明]を選択すると一覧が表示されます。


人生有無數種可能,人生有無限的精彩,人生沒有盡頭。一個人只要足夠的愛自己,尊重自己內心的聲音,就算是真正的活著。